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「球根」の版間の差分

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{{Otheruses||[[THE YELLOW MONKEY]]のシングル|球根 (曲)}}
{{Otheruses||[[THE YELLOW MONKEY]]のシングル|球根 (曲)}}
[[File:Tulipa fringed - burgundy lace - bulbs.jpg|thumb|'''1'''. [[チューリップ]] ([[ユリ科]]) の球根(鱗茎)とその断面]]
[[File:ARS red onion.jpg|thumb|食用球根の代表であるタマネギ(紫色品種)]]
'''球根'''(きゅうこん)とは、[[多年草]]が生育不適期を過ごすために、[[根]]や[[地下茎]]などに養分を蓄積して形成された貯蔵繁殖器官の総称である。生育不適期に他の部分が枯れても休眠状態となって残り、好環境になると再び地上部や根を生じる。おもに[[観賞植物]]の[[園芸]]において使われる用語であり、[[植物形態学]]的には[[塊根]]、[[根茎]]、[[球茎]]、[[塊茎]]、[[鱗茎]]などさまざまな器官を含む。特に観賞植物の園芸分野では、球根をもつ植物は'''球根植物'''や'''球根類'''とよばれる。
{{-}}
== 定義 ==
'''球根'''とは、[[多年草]]が[[根]]や[[地下茎]]などに養分を蓄積して肥大化した器官である<ref name="NHK出版">{{cite book|author=平城好明|year=1984|chapter=太るのが一番 球根類|editor=日本放送協会|title=これだけは知っておきたい 園芸の知識|series=別冊NHK[[趣味の園芸]]|publisher=NHK出版|isbn=978-4-14-645713-3|pages=16–17}}</ref><ref name="大久保1995">{{Cite journal |和書|author=大久保敬 |year=1995 |title=生物コーナー 球根の休眠 植物の生活環をどうとらえるか |naid=10004973043|journal=化学と生物 |volume=33 |issue=9 |pages=582–584 |doi=10.1271/kagakutoseibutsu1962.33.582 }}</ref><ref name="コトバンク_球根">{{Cite Kotobank|word=球根|encyclopedia=改訂新版 世界大百科事典|accessdate=2024-07-22}}</ref>。寒暑や乾燥など生育不適な時期に他の部分が枯れても、球根が休眠状態で残り、環境条件が好転すると茎葉や根を生じて成長・繁殖を行う<ref name="土橋2019">{{cite book|author=土橋豊|year=2019|chapter=球根|editor=|title=最新園芸・植物用語集|publisher=淡交社|isbn=978-4473042668|page=81–83}}</ref><ref name="尾崎2012">{{cite book|author=尾崎行生|year=2012|chapter=地下器官の発達|editor=鈴木正彦|title=園芸学の基礎|publisher=農山漁村文化協会|isbn=978-4540111051|pages=38–44}}</ref><ref name="山根2020">{{cite book|author=山根健次|year=2020|chapter=花き/宿根草,球根類の特性|editor=荻原勲|title=図説 園芸学 第2版|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254410402|pages=136–144}}</ref>。これを利用して、園芸では植物の繁殖に使われる。また、球根をもつ植物は、'''球根植物'''または'''球根類'''とよばれる<ref name="土橋2019" /><ref name="コトバンク_球根類">{{Cite Kotobank|word=球根類|encyclopedia=日本大百科全書(ニッポニカ)|accessdate=2024-07-26}}</ref>。特に[[観賞植物]]の[[園芸]]において使われる用語であり、野菜園芸などでは、[[サトイモ]]([[サトイモ科]])のように明らかに球根に相当する構造をもつ植物でもふつう球根植物とはよばれず、またその構造もしばしば「[[いも]]」や「種いも」とよばれる<ref name="土橋2019" /><ref name="青葉1981">{{cite book|author=青葉高|year=1981|chapter=タネとタネイモ|editor=|title=野菜: 在来品種の系譜|publisher=法政大学出版局|isbn=978-4588204319|pages=40–42}}</ref><ref name="養賢堂2004芋">{{Cite book|author=|translator=|year=2004|chapter=イモ類|editor=山崎耕宇, 久保祐雄, 西尾敏彦, 石原邦|title=新編 農学大事典|publisher=養賢堂|isbn=978-4-8425-0354-7|pages=475–482}}</ref><ref name="コトバンク_いも">{{Cite Kotobank|word=いも|encyclopedia=日本大百科全書(ニッポニカ)|accessdate=2024-08-02}}</ref>。また球根をもつ観賞植物であっても、[[サギソウ]]([[ラン科]])や[[リアトリス]]([[キク科]])、[[キキョウ]]([[キキョウ科]])などは慣習的に球根植物とはよばれないことが多い<ref name="土橋2019" />。


== 構造 ==
'''球根'''(きゅうこん)とは、[[宿根草]]のうち、根、茎、葉などの特定の部分に[[養分]]がたまって変形・肥大化してできた貯蔵器官<ref name="chishiki">『これだけは知っておきたい園芸の知識』 16頁。</ref><ref name="kyuumin">{{Cite journal |和書|author=大久保敬 |title=生物コーナー 球根の休眠 植物の生活環をどうとらえるか |url=https://doi.org/10.1271/kagakutoseibutsu1962.33.582 |accessdate=2020-02-19|naid=10004973043|journal=化学と生物 |volume=33 |issue=9 |date=1995 |doi=10.1271/kagakutoseibutsu1962.33.582 |publisher=日本農芸化学会}}</ref>。[[園芸]]や[[農学]]分野で用いられる[[用語]]である。
球根とよばれるものの中には、[[根]]に由来するものや[[地下茎]]に由来するものがあり、植物形態学的には以下のように分けられる。


{{multiple image
== 球根の分類 ==
| total_width = 800
球根は以下の6種類の総称であるが、狭義には鱗茎だけをさす。[[根#さまざまな根|塊根]]と[[担根体]]以外の4種は[[植物学]]的には[[地下茎]]である。
| align = center
| caption_align = left
| image1 = Scilla siberica alba bulbs.jpg
| caption1 = '''2a'''. [[シベリアツルボ]]([[キジカクシ科]])の球根(鱗茎)
| image2 = Crocus chrysanthus - dorothy.jpg
| caption2 = '''2b'''. [[クロッカス]] ([[アヤメ科]]) の球根(球茎)
| image3 = Cyclamen purpurascens tuber.JPG
| caption3 = '''2c'''. [[シクラメン]] ([[サクラソウ科]]) の球根(塊茎)
| image4 = Iris rhizomes J1.jpg
| caption4 = '''2d'''. [[アヤメ属]] ([[アヤメ科]]) の球根(根茎)
| image5 = Dahlia 'Rosy Wings' Tubers 2014 - 14977238953.jpg
| caption5 = '''2e'''. [[ダリア]] ([[キク科]]) の球根(塊根)
}}


;鱗茎(りんけい
;[[鱗茎]]<span style="font-weight:400;">(りんけい、[[:en:Bulb|bulb]])(図2a)</span>
:短い[[地下茎]]を中軸とし、周囲に肉質の[[葉]](鱗茎葉; bulb leaf)が多数密生しているものは'''鱗茎'''とよばれる<ref name="土橋2019" /><ref name="コトバンク_球根" /><ref name="生物学辞典5_鱗茎">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=鱗茎|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=1473}}</ref><ref name="清水2001地下茎">{{cite book|author=清水建美|year=2001|chapter=地下茎|editor=|title=図説 植物用語事典|publisher=八坂書房|isbn=978-4896944792|pages=204–208}}</ref><ref name="原1994地下茎">{{cite book|author=原襄|year=1994|chapter=地下茎|editor=|title=植物形態学|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254170863|pages=30–31}}</ref>。鱗茎の主体は茎ではなく、葉(鱗茎葉)である。[[チューリップ]]([[ユリ科]])や[[ダッチアイリス]]([[アヤメ科]])、[[ムスカリ]]、[[ヒヤシンス]]([[キジカクシ科]])、[[アマリリス]]、[[スイセン]]、[[タマネギ]]([[ヒガンバナ科]])の鱗茎では、鱗茎葉が重なり合い、最外層が薄皮で覆われている<ref name="土橋2019" /><ref name="山根2020" />。このような鱗茎は'''層状鱗茎'''または有皮鱗茎(tunicated bulb)とよばれる<ref name="土橋2019" />。一方、[[ユリ属]]([[ユリ科]])の鱗茎では鱗片状のはがれやすい鱗茎葉が瓦状に重なっており、'''鱗状鱗茎'''または無皮鱗茎(non-tunicated bulb)とよばれる<ref name="土橋2019" /><ref name="NHK出版" />。[[ラン科]]において、地下茎ではなく地上茎の一部が肥大したものは、[[偽鱗茎]](仮鱗茎、pseudobulb; 偽球茎、擬球茎、偽球、pseudocorm)とよばれ<ref name="清水2001地下茎" />、単にバルブとよばれることも多いが<ref name="沖田1982">{{cite book|author=沖田好弘|year=1982|chapter=|editor=|title=野生らん (カラーブックス 585)|publisher=保育社|isbn=978-4586505852|pages=111–112}}</ref><ref name="大場2010">{{cite book|author=大場良一 (監修)|year=2010|chapter=|editor=|title=失敗しない洋ラン入門|publisher=主婦の友社|isbn=978-4072751510|page=8}}</ref>、bulb(鱗茎)とは異なり茎自体が肥大したものであり、むしろ下記の球茎や根茎に似ている<ref name="熊沢1979偽球茎">{{cite book|author=熊沢正夫|year=1979|chapter=ラン科の偽球茎|editor=|title=植物器官学|publisher=裳華房|isbn=978-4785358068|pages=155−156}}</ref>。園芸においては株分けなどに用いられる。
:[[タマネギ]]のように、[[短縮茎]]に葉(鱗葉)が重なり合い層状になっているもので、他には、[[ヒガンバナ]]、[[チューリップ]]、[[ヒヤシンス]]、[[ニンニク]]、[[ラッキョウ]]などがある。[[ユリ]]のように、爪状のはがれやすい[[肥厚]]化した[[鱗葉]]が[[瓦]]状に重なったものは'''鱗状鱗茎'''(うろこじょうりんけい)という<ref name="chishiki"/>。食用のいわゆる[[ユリ根]]は通常鱗茎に含まれる。また、[[ラン科|ラン]]の仲間には[[偽鱗茎]]と呼ばれる構造をもつものがあるが、これは構造的には塊茎に近い。
;球茎(きゅうけい
;[[球茎]]<span style="font-weight:400;">(きゅうけい、[[:en:Corm|corm]])(図2b)</span>
:主軸の基部に形成され、球形や卵形に肥大した地下茎は'''球茎'''とよばれる<ref name="土橋2019" /><ref name="コトバンク_球根" /><ref name="清水2001地下茎" /><ref name="原1994地下茎" /><ref name="生物学辞典5_球茎">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=球茎|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=309}}</ref><ref name="コトバンク_球茎">{{Cite Kotobank|word=球茎|encyclopedia=|accessdate=2024-07-25}}</ref>。単一の[[芽]]をもつ<ref name="寺林2013">{{cite journal|author=寺林進|year=2013|title=生薬の基原, 特に薬用部位および基原植物の学名について|journal=日本東洋医学雑誌|volume=64|pages=67-77|doi=10.3937/kampomed.64.67}}</ref>。ふつう複数の節・節間が明瞭であり、また各節に薄皮がつき、球茎全体を覆っている<ref name="土橋2019" /><ref name="吉田2018">{{cite journal|author=吉田宗弘|year=2018|title=日本人とイモ|journal=食生活研究会誌|volume=38|pages=|url=http://ku-food-lab.com/wp/wp-content/uploads/2019/07/2774f33ed7e947fb03c1d40880e92a23.pdf}}</ref>。[[観賞植物]]としては[[グラジオラス]]、[[クロッカス]]、[[フリージア]]、[[アヤメ]](いずれも[[アヤメ科]])など、[[野菜]]では[[サトイモ]]、[[コンニャク]]([[サトイモ科]])などが球茎を形成する<ref name="土橋2019" /><ref name="NHK出版" />。
:茎自身が肥大化して球状になったもので、[[葉鞘]]が[[乾燥]]した薄皮で包まれているもの。[[クロッカス]]、[[グラジオラス]]、[[フリージア]]、[[アヤメ]]、[[サトイモ]]、[[コンニャク]]など<ref name="chishiki"/>。
;[[塊茎]]<span style="font-weight:400;">(かいけい、[[:en:Tuber|tuber]], [[:en:Stem tuber|stem tuber]])(図2c)</span>
;{{Anchors|塊茎}}塊茎(かいけい)
:根茎に側生または頂生し、球形などに肥大し薄皮に包まれていない地下茎は、'''塊茎'''とよばれる<ref name="土橋2019" /><ref name="コトバンク_球根" /><ref name="清水2001地下茎" /><ref name="原1994地下茎" /><ref name="生物学辞典5_塊茎">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=塊茎|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=179}}</ref>。ふつう複数の[[芽]]をもつ<ref name="寺林2013" />。[[観賞植物]]では[[アネモネ]]([[キンポウゲ科]])、[[シクラメン]]([[サクラソウ科]])、[[球根ベゴニア]]([[シュウカイドウ科]])、[[グロキシニア]]([[イワタバコ科]])、[[カラジウム]]([[サトイモ科]])、[[野菜]]では[[ジャガイモ]]([[ナス科]])、[[キクイモ]]([[キク科]])などが塊茎を形成する<ref name="土橋2019" /><ref name="コトバンク_ジャガイモ">{{Cite Kotobank|word=ジャガイモ|encyclopedia=改訂新版 世界大百科事典 |accessdate=2024-07-25}}</ref><ref name="コトバンク_キクイモ">{{Cite Kotobank|word=キクイモ|encyclopedia=改訂新版 世界大百科事典 |accessdate=2024-07-25}}</ref>。[[サンダーソニア]]や[[グロリオサ]]([[イヌサフラン科]])は、二又状で先端に芽をつける特殊な塊茎を形成する<ref name="山根2020" />。[[ヤマノイモ]]など[[ヤムイモ]]([[ヤマノイモ科]])の「イモ」は基本的には塊茎であるが、全面に根を生じるなど典型的な塊茎とは異なる特徴をもつため、「担根体」ともよばれる<ref name="土橋2019" /><ref name="寺林2013" /><ref name="熊沢1979担根体">{{cite book|author=熊沢正夫|year=1979|chapter=担根体|editor=|title=植物器官学|publisher=裳華房|isbn=978-4785358068|pages=166−171}}</ref>。ただし、この構造は[[ヒカゲノカズラ綱]]の[[イワヒバ属]]や[[ミズニラ属]]に見られる[[担根体]] (rhizophore) とは全く異なる構造である<ref name="生物学辞典5_担根体">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=担根体|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=883}}</ref>。
:短縮した地下茎自身が肥大化し[[球体|球]]状になったもので、薄皮で包まれていないもの。[[シクラメン]]、[[アネモネ]]、[[ベゴニア]]、[[チョロギ]]、[[ジャガイモ]]など<ref name="chishiki"/>。
;[[根茎]]<span style="font-weight:400;">(こんけい、[[:en:Rhizome|rhizome]] ライゾーム<ref name="大久保1995" />、root stock)(図2d)</span>
;根茎(こんけい)
:上記の鱗茎、球茎、塊茎のような特殊化が見られない地下茎は、'''根茎'''とよばれる<ref name="土橋2019" /><ref name="清水2001地下茎" /><ref name="原1994地下茎" />。地中を水平または垂直に伸び、球状にはならず、全体的に肥大している<ref name="土橋2019" /><ref name="清水2001地下茎" />。[[観賞植物]]では[[カンナ (植物)|カンナ]]([[カンナ科]])、[[ジャーマンアイリス]]([[アヤメ科]])など、[[野菜]]では[[ハス]]([[レンコン]])、[[ショウガ]]などが根茎を形成する<ref name="土橋2019" /><ref name="大久保1995" /><ref name="NHK出版" />。鱗片葉が多数形成されて細長い松かさ状になったものは、尾状地下茎 (scaly rhizome) とよばれ、[[アキメネス属]] ({{Snamei||Achimenes}}) など[[イワタバコ科]]に見られる<ref name="土橋2019" />。また根茎の節間が膨れて全体が念珠状になったものは念珠茎や念珠状地下茎 (ringed stem) とよばれ、[[リボングラス]]([[イネ科]])や[[チョロギ]]([[シソ科]])に見られる<ref name="土橋2019" />。念珠茎は塊茎に分類されることもある<ref name="清水2001地下茎" /><ref name="NHK出版" />。
:[[水平]]方向に伸びた地下茎が肥大化したもの。ライゾームともいう<ref name="kyuumin" />。[[カンナ (植物)|カンナ]]、[[ハス]]([[レンコン]])、[[ショウガ]]など<ref name="kyuumin" /><ref name="chishiki2">『これだけは知っておきたい園芸の知識』 17頁。</ref>。
;[[塊根]]<span style="font-weight:400;">(かいこん、[[:en:Root tuber|tuberous root, root tuber]])(図2e)</span>
;[[根#さまざまな根|塊根]](かいこん)
:根の一部が肥大化したものは、'''塊根'''とよばれる<ref name="土橋2019" /><ref name="大久保1995" /><ref name="清水2001根の分類">{{cite book|author=清水建美|year=2001|chapter=根の分類|editor=|title=図説 植物用語事典|publisher=八坂書房|isbn=978-4896944792|pages=236–246}}</ref><ref name="生物学辞典5_塊根">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=塊根|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=180}}</ref>。[[観賞植物]]では[[ダリア]]([[キク科]])、[[ラナンキュラス]]([[キンポウゲ科]])など、[[野菜]]では[[サツマイモ]]([[ヒルガオ科]])、[[キャッサバ]]([[トウダイグサ科]])などがある<ref name="大久保1995" /><ref name="NHK出版" />。
:根の部分が肥大化したもの<ref name="kyuumin" />。[[ダリア]]、[[サツマイモ]]、[[キャッサバ]]など<ref name="kyuumin" /><ref>『これだけは知っておきたい 園芸の知識』 16-17頁。</ref>。
;[[担根体]](たんこんたい)
:根でも茎でもない、[[ヤマノイモ属]]に特有の[[器官]]。[[ヤマノイモ]]、[[ナガイモ]]などの[[ヤムイモ]]類。


== 木子 ==
== 植え付け時期による分類 ==
[[File:Oxalis inaequalis 1DS-II 2-3419.jpg|thumb|'''3'''. {{Snamei||Oxalis inaequalis}} ([[カタバミ科]]) の小鱗茎]]
球根は、植え付け時期により、春植え、夏植え、秋植えに分類される<ref name="chishiki2"/>。
園芸分野において、[[地下茎]]に形成された小さな球根は、'''木子'''{{efn2|name="木子"|「もくし」と読んで「木の実」を意味することもある<ref name="コトバンク_木子">{{Cite Kotobank|word=木子|encyclopedia=普及版 字通|accessdate=2024-07-25}}</ref>。}}(きご)と総称される<ref name="土橋2019" /><ref name="コトバンク_むかご">{{Cite Kotobank|word=むかご|encyclopedia=世界大百科事典(旧版)|accessdate=2024-07-25}}</ref><ref name="山根2020" />。木子の中には、[[ユリ属]]([[ユリ科]])において地下茎の葉腋に形成される'''小鱗茎'''(bulbil; 図3)や、[[グラジオラス]]([[アヤメ科]])において球茎の子球(下記参照)基部につくられる'''小球茎'''(small cormel)などがある<ref name="土橋2019" /><ref name="山根2020" />。
;春植え球根
{{-}}
:春分のころから5月上旬に植え付けるもの。主に熱帯地方の原産で、寒さによわく、降霜で地上部がかれる。ダリア、グラジオラス、カンナ、[[チューベローズ]]など。このほかに、室内栽培専用の[[グロキシニア]]、[[球根ベゴニア]]、[[カラディウム]]、アキメネスなどがある<ref name="chishiki2"/>。

== 更新 ==
[[File:Tulpen Tochterzwiebeln (2).jpg|thumb|120px|'''4'''. 複数の子球を形成した[[チューリップ]]]]
球根の中には、植えつけ時の球根('''母球''')がやがて消耗して新たな球根('''子球''')が形成されるもの(図4)と、母球が更新されずに維持されるものがあり、前者を'''更新型'''、後者を'''非更新型'''という<ref name="土橋2019" /><ref name="熊沢1979地中茎">{{cite book|author=熊沢正夫|year=1979|chapter=地中茎の異形|editor=|title=植物器官学|publisher=裳華房|isbn=978-4785358068|pages=144−148}}</ref><ref name="山上1998">{{Cite web|和書|author=山上睦|date=1998|url=http://www.ies.or.jp/publicity_j/mini_hyakka/37/mini37.html|title=ジャガイモは根っこか、それとも茎か?|website=環境研ミニ百科 37|publisher=環境科学技術研究所|accessdate=2024-07-25}}</ref>。[[チューリップ]]([[ユリ科]])や[[ムスカリ]]([[キジカクシ科]])、[[ダッチアイリス]]([[アヤメ科]])、[[ニンニク]]([[ヒガンバナ科]])の[[鱗茎]]、[[アネモネ]]([[キンポウゲ科]])や[[カラジウム]]([[サトイモ科]])、[[グロリオサ]]([[イヌサフラン科]])、[[ジャガイモ]]([[ナス科]])の塊茎は更新型であり、[[ヒアシンス]]([[キジカクシ科]])や[[スイセン]]、[[アマリリス]]、[[タマネギ]]([[ヒガンバナ科]])の鱗茎、[[シクラメン]]([[サクラソウ科]])や[[グロキシニア]]([[イワタバコ科]])、[[球根ベゴニア]]([[シュウカイドウ科]])の塊茎は非更新型である<ref name="土橋2019" /><ref name="山上1998" /><ref name="山根2020" />。

栽培の場合、自然に母球から別れた、または人為的に母球から切り離した子球を利用し、このことを'''分球'''という<ref name="土橋2019c" /><ref name="コトバンク_球根" />。母球と子球は遺伝的に同一であり、分球は株分けに相当する<ref name="土橋2019c" />。子球に木子(上記参照)が付随している場合は、そのまま子球についたままで植えつけることで、次期にはこの木子が大きくなって繁殖に使える<ref name="土橋2019c" />。[[ヒアシンス]]や[[アマリリス]]では、母球に切り込みを入れるノッチング (notching)、えぐりとるスクーピング (scooping)、穴を開けるコーリング (coring) によって、人為的に子球を発生させることもある<ref name="コトバンク_球根" /><ref name="山根2020" />。
{{-}}

== 植えつけ時期 ==
[[File:Keukenhof, tulips (32698588523).jpg|thumb|200px|'''5'''. [[チューリップ]] ([[ユリ科]]) の栽培]]
球根は、植えつけ時期により、春植え、夏植え、秋植えに分類される<ref name="NHK出版" /><ref name="土橋2019b">{{cite book|author=土橋豊|year=2019|chapter=球根植物|editor=|title=最新園芸・植物用語集|publisher=淡交社|isbn=978-4473042668|pages=54–56}}</ref><ref name="コメリ">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.komeri.com/contents/howto/html/02250.html|title=球根の基礎知識|website=|publisher=コメリ|accessdate=2024-07-26}}</ref>。

;春植え球根<span style="font-weight:400;">(春植球根<ref name="コトバンク_球根" />)</span>
:春分のころから5月上旬に植えつけるもの。主に熱帯地方原産であり、寒さに弱く、降霜すると地上部が枯れる。[[ダリア]]([[キク科]])、[[グラジオラス]]([[アヤメ科]])、[[チューベローズ]]([[キジカクシ科]])、[[アマリリス]]([[ヒガンバナ科]])、[[カンナ (植物)|カンナ]]([[カンナ科]])などがあり、また室内栽培専用の[[グロキシニア]]、[[アキメネス]]([[イワタバコ科]])、[[球根ベゴニア]]([[シュウカイドウ科]])、[[カラジウム]]([[サトイモ科]])なども春植え球根である<ref name="NHK出版" /><ref name="土橋2019b" /><ref name="コメリ" />。
;夏植え球根
;夏植え球根
:秋植え秋咲き球根ともいう。しばしば秋植え球根にふくめられる。8月下旬から秋分のころに植えけ、晩秋から初冬に開花するもの。リコリス(彼岸花属)、ステルンベルギア、コルチカム、[[サフラン]]など<ref name="chishiki2"/>。
:秋植え秋咲き球根ともいう。しばしば秋植え球根にふくめられる<ref name="土橋2019b" />。8月下旬から秋分のころに植えけ、晩秋から初冬に開花するもの。[[ステルンベルギア]](ヒガンバナ科)[[イヌサフラン]]([[イヌサフラン科]])、[[サフラン]](アヤメ科)など<ref name="NHK出版" /><ref name="コメリ" />。
;秋植え球根<span style="font-weight:400;">(秋植球根<ref name="コトバンク_球根" />)</span>
;秋植え球根
:10月から11月に植えけ、冬の寒さに感応して、[[花芽分化]]、花芽の伸長、茎葉の伸長がなわれて、翌年の春から初夏にかけて開花するもの。[[耐寒性種]]に[[チューリップ]]、[[ヒヤシンス]]、[[クロッカス]]、[[ムス]]、[[ダッチアイリス]]、[[アネモネ]][[シラー属|シラー]]など<ref name="chishiki2"/>。[[半耐寒性種]][[ラナンキュラス]]、[[フリージア]]、[[イキシア]]、[[バビアナ]]、[[スパラキシス]]などがある。
:10月から11月に植えけ、冬の寒さに感応して、[[花芽]]分化、茎葉の伸長が、翌年の春から初夏にかけて開花するもの。耐寒性種に[[チューリップ]](図5)、[[ユリ]]([[ユリ科]])、[[ヒヤシンス]]、[[カリ]]、[[シラー属|シラー]](キジクシ科)、[[クロッカス]]、[[ダッチアイリス]](アヤメ科)、[[スイセン]](ヒガンバナ科)、[[アネモネ]][[キンポウゲ科]]などがあり、半耐寒性種に[[フリージア]]、[[イキシア]]、[[バビアナ]]、[[スパラキシス]](アヤメ科)、[[ラナンキュラス]](キンポウゲ科)などがある<ref name="NHK出版" /><ref name="土橋2019b" /><ref name="コメリ" />

== 球根繁殖 ==
[[File:Landgoed Beeckestijn bollen van de Rembrandt-tulp gaan weer de grond in. Willem Veenendaal intrueert vrijwilligers in de tuin. NL-HlmNHA 54050222.JPG|thumb|'''5'''. 球根の植えつけ]]
球根によって植物を増やすことを、'''球根繁殖'''という<ref name="土橋2019c">{{cite book|author=土橋豊|year=2019|chapter=球根繁殖|editor=|title=最新園芸・植物用語集|publisher=淡交社|isbn=978-4473042668|pages=208–209}}</ref>。球根の植えつけでは、一般的に地植えにおいて深さは球根の高さの2–3倍、間隔も球根の直径の2–3倍とされる<ref name="土橋2019c" />。植えつけ前に、殺菌・殺虫剤で消毒することもある<ref name="コメリ" />。また、[[ヒアシンス]]([[キジカクシ科]])や[[クロッカス]]([[アヤメ科]])などでは、土を使わずに水だけで栽培することがあり、[[水栽培]]とよばれる<ref name="コトバンク_水栽培">{{Cite Kotobank|word=水栽培|encyclopedia=日本大百科全書(ニッポニカ)|accessdate=2024-07-26}}</ref>。

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==脚注==
==脚注==
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=== 出典 ===
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==参考文献==
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|author=平城好明
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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2024年11月23日 (土) 08:08時点における最新版

1. チューリップ (ユリ科) の球根(鱗茎)とその断面

球根(きゅうこん)とは、多年草が生育不適期を過ごすために、地下茎などに養分を蓄積して形成された貯蔵繁殖器官の総称である。生育不適期に他の部分が枯れても休眠状態となって残り、好環境になると再び地上部や根を生じる。おもに観賞植物園芸において使われる用語であり、植物形態学的には塊根根茎球茎塊茎鱗茎などさまざまな器官を含む。特に観賞植物の園芸分野では、球根をもつ植物は球根植物球根類とよばれる。

定義

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球根とは、多年草地下茎などに養分を蓄積して肥大化した器官である[1][2][3]。寒暑や乾燥など生育不適な時期に他の部分が枯れても、球根が休眠状態で残り、環境条件が好転すると茎葉や根を生じて成長・繁殖を行う[4][5][6]。これを利用して、園芸では植物の繁殖に使われる。また、球根をもつ植物は、球根植物または球根類とよばれる[4][7]。特に観賞植物園芸において使われる用語であり、野菜園芸などでは、サトイモサトイモ科)のように明らかに球根に相当する構造をもつ植物でもふつう球根植物とはよばれず、またその構造もしばしば「いも」や「種いも」とよばれる[4][8][9][10]。また球根をもつ観賞植物であっても、サギソウラン科)やリアトリスキク科)、キキョウキキョウ科)などは慣習的に球根植物とはよばれないことが多い[4]

構造

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球根とよばれるものの中には、に由来するものや地下茎に由来するものがあり、植物形態学的には以下のように分けられる。

2a. シベリアツルボキジカクシ科)の球根(鱗茎)
2b. クロッカス (アヤメ科) の球根(球茎)
2c. シクラメン (サクラソウ科) の球根(塊茎)
2d. アヤメ属 (アヤメ科) の球根(根茎)
2e. ダリア (キク科) の球根(塊根)
鱗茎(りんけい、bulb)(図2a)
短い地下茎を中軸とし、周囲に肉質の(鱗茎葉; bulb leaf)が多数密生しているものは鱗茎とよばれる[4][3][11][12][13]。鱗茎の主体は茎ではなく、葉(鱗茎葉)である。チューリップユリ科)やダッチアイリスアヤメ科)、ムスカリヒヤシンスキジカクシ科)、アマリリススイセンタマネギヒガンバナ科)の鱗茎では、鱗茎葉が重なり合い、最外層が薄皮で覆われている[4][6]。このような鱗茎は層状鱗茎または有皮鱗茎(tunicated bulb)とよばれる[4]。一方、ユリ属ユリ科)の鱗茎では鱗片状のはがれやすい鱗茎葉が瓦状に重なっており、鱗状鱗茎または無皮鱗茎(non-tunicated bulb)とよばれる[4][1]ラン科において、地下茎ではなく地上茎の一部が肥大したものは、偽鱗茎(仮鱗茎、pseudobulb; 偽球茎、擬球茎、偽球、pseudocorm)とよばれ[12]、単にバルブとよばれることも多いが[14][15]、bulb(鱗茎)とは異なり茎自体が肥大したものであり、むしろ下記の球茎や根茎に似ている[16]。園芸においては株分けなどに用いられる。
球茎(きゅうけい、corm)(図2b)
主軸の基部に形成され、球形や卵形に肥大した地下茎は球茎とよばれる[4][3][12][13][17][18]。単一のをもつ[19]。ふつう複数の節・節間が明瞭であり、また各節に薄皮がつき、球茎全体を覆っている[4][20]観賞植物としてはグラジオラスクロッカスフリージアアヤメ(いずれもアヤメ科)など、野菜ではサトイモコンニャクサトイモ科)などが球茎を形成する[4][1]
塊茎(かいけい、tuber, stem tuber)(図2c)
根茎に側生または頂生し、球形などに肥大し薄皮に包まれていない地下茎は、塊茎とよばれる[4][3][12][13][21]。ふつう複数のをもつ[19]観賞植物ではアネモネキンポウゲ科)、シクラメンサクラソウ科)、球根ベゴニアシュウカイドウ科)、グロキシニアイワタバコ科)、カラジウムサトイモ科)、野菜ではジャガイモナス科)、キクイモキク科)などが塊茎を形成する[4][22][23]サンダーソニアグロリオサイヌサフラン科)は、二又状で先端に芽をつける特殊な塊茎を形成する[6]ヤマノイモなどヤムイモヤマノイモ科)の「イモ」は基本的には塊茎であるが、全面に根を生じるなど典型的な塊茎とは異なる特徴をもつため、「担根体」ともよばれる[4][19][24]。ただし、この構造はヒカゲノカズラ綱イワヒバ属ミズニラ属に見られる担根体 (rhizophore) とは全く異なる構造である[25]
根茎(こんけい、rhizome ライゾーム[2]、root stock)(図2d)
上記の鱗茎、球茎、塊茎のような特殊化が見られない地下茎は、根茎とよばれる[4][12][13]。地中を水平または垂直に伸び、球状にはならず、全体的に肥大している[4][12]観賞植物ではカンナカンナ科)、ジャーマンアイリスアヤメ科)など、野菜ではハスレンコン)、ショウガなどが根茎を形成する[4][2][1]。鱗片葉が多数形成されて細長い松かさ状になったものは、尾状地下茎 (scaly rhizome) とよばれ、アキメネス属 (Achimenes) などイワタバコ科に見られる[4]。また根茎の節間が膨れて全体が念珠状になったものは念珠茎や念珠状地下茎 (ringed stem) とよばれ、リボングラスイネ科)やチョロギシソ科)に見られる[4]。念珠茎は塊茎に分類されることもある[12][1]
塊根(かいこん、tuberous root, root tuber)(図2e)
根の一部が肥大化したものは、塊根とよばれる[4][2][26][27]観賞植物ではダリアキク科)、ラナンキュラスキンポウゲ科)など、野菜ではサツマイモヒルガオ科)、キャッサバトウダイグサ科)などがある[2][1]

木子

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3. Oxalis inaequalis (カタバミ科) の小鱗茎

園芸分野において、地下茎に形成された小さな球根は、木子[注 1](きご)と総称される[4][29][6]。木子の中には、ユリ属ユリ科)において地下茎の葉腋に形成される小鱗茎(bulbil; 図3)や、グラジオラスアヤメ科)において球茎の子球(下記参照)基部につくられる小球茎(small cormel)などがある[4][6]

更新

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4. 複数の子球を形成したチューリップ

球根の中には、植えつけ時の球根(母球)がやがて消耗して新たな球根(子球)が形成されるもの(図4)と、母球が更新されずに維持されるものがあり、前者を更新型、後者を非更新型という[4][30][31]チューリップユリ科)やムスカリキジカクシ科)、ダッチアイリスアヤメ科)、ニンニクヒガンバナ科)の鱗茎アネモネキンポウゲ科)やカラジウムサトイモ科)、グロリオサイヌサフラン科)、ジャガイモナス科)の塊茎は更新型であり、ヒアシンスキジカクシ科)やスイセンアマリリスタマネギヒガンバナ科)の鱗茎、シクラメンサクラソウ科)やグロキシニアイワタバコ科)、球根ベゴニアシュウカイドウ科)の塊茎は非更新型である[4][31][6]

栽培の場合、自然に母球から別れた、または人為的に母球から切り離した子球を利用し、このことを分球という[32][3]。母球と子球は遺伝的に同一であり、分球は株分けに相当する[32]。子球に木子(上記参照)が付随している場合は、そのまま子球についたままで植えつけることで、次期にはこの木子が大きくなって繁殖に使える[32]ヒアシンスアマリリスでは、母球に切り込みを入れるノッチング (notching)、えぐりとるスクーピング (scooping)、穴を開けるコーリング (coring) によって、人為的に子球を発生させることもある[3][6]

植えつけ時期

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5. チューリップ (ユリ科) の栽培

球根は、植えつけ時期により、春植え、夏植え、秋植えに分類される[1][33][34]

春植え球根(春植球根[3]
春分のころから5月上旬に植えつけるもの。主に熱帯地方原産であり、寒さに弱く、降霜すると地上部が枯れる。ダリアキク科)、グラジオラスアヤメ科)、チューベローズキジカクシ科)、アマリリスヒガンバナ科)、カンナカンナ科)などがあり、また室内栽培専用のグロキシニアアキメネスイワタバコ科)、球根ベゴニアシュウカイドウ科)、カラジウムサトイモ科)なども春植え球根である[1][33][34]
夏植え球根
秋植え秋咲き球根ともいう。しばしば秋植え球根にふくめられる[33]。8月下旬から秋分のころに植えつけ、晩秋から初冬に開花するもの。ステルンベルギア(ヒガンバナ科)、イヌサフランイヌサフラン科)、サフラン(アヤメ科)など[1][34]
秋植え球根(秋植球根[3]
10月から11月に植えつけ、冬の寒さに感応して、花芽分化、茎葉の伸長が起こり、翌年の春から初夏にかけて開花するもの。耐寒性種にチューリップ(図5)、ユリユリ科)、ヒヤシンスムスカリシラー(キジカクシ科)、クロッカスダッチアイリス(アヤメ科)、スイセン(ヒガンバナ科)、アネモネキンポウゲ科)などがあり、半耐寒性種にフリージアイキシアバビアナスパラキシス(アヤメ科)、ラナンキュラス(キンポウゲ科)などがある[1][33][34]

球根繁殖

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5. 球根の植えつけ

球根によって植物を増やすことを、球根繁殖という[32]。球根の植えつけでは、一般的に地植えにおいて深さは球根の高さの2–3倍、間隔も球根の直径の2–3倍とされる[32]。植えつけ前に、殺菌・殺虫剤で消毒することもある[34]。また、ヒアシンスキジカクシ科)やクロッカスアヤメ科)などでは、土を使わずに水だけで栽培することがあり、水栽培とよばれる[35]

球根には休眠期があり、種子と同様に保存でき、また種子よりも大きいため扱いが簡便である[32]。一般的な種子とは異なり、球根は親植物のクローンであるため、親植物と同じ形質を維持できる[32]

球根植物の生育が終わった後には、ふつう球根を掘り上げて次期の植えつけまで貯蔵する[3]。春植え球根は凍らないように保温して、秋植え球根は涼しい場所で乾燥しておく[3]

球根植物は、ふつう一定以上の大きさになって花熟に達しなければ開花できない[6]。その環境条件は種によって異なる[6]チューリップでは夏の高温によって花芽分化が始まり、秋の中温で花芽形成が完了、冬の低温によって花芽の成熟が進み、春の中温で開花する[6]。チューリップの開花は、ジベレリンベンジルアデニンの滴下処理によって促進される[6]フリージアの球根は高温で休眠が打破されて栄養成長を開始し、花熟に達した後に低温で花芽分化が誘導され、中温で開花する[6]ダッチアイリスの球根は、乾燥状態での低温処理が春化作用を示す[6]。ダッチアイリスやフリージアは、くん煙処理またはエチレン処理によって休眠打破・開花促進される[6]

脚注

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注釈

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  1. ^ 「もくし」と読んで「木の実」を意味することもある[28]

出典

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関連項目

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