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「ウィシュマさん死亡事件」の版間の差分

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== 死亡までの経緯 ==
== 死亡までの経緯 ==
=== 日本入国 ===
=== 日本入国 ===
ウィシュマ・サンダマリは、2017年6月29日に留学の[[在留資格]]で日本に入国し、在留期間は1年3か月(2018年9月29日まで)だった。<ref name=":4" />。千葉県内の[[日本語学校]]に入学するも、2017年12月頃にアルバイトで知り合ったスリランカ人男性と交際することとなり、アルバイトの掛け持ちをし、特に2018年2月からは、アルバイトの掛け持ちの疲れで学校を休みがちになった。
ウィシュマ・サンダマリは、2017年6月29日に留学の[[在留資格]]で日本に入国し、在留期間は1年3か月(2018年9月29日まで)だった。<ref name=":4" />。千葉県内の[[日本語学校]]に入学するも、2017年12月頃にアルバイトで知り合ったスリランカ人男性と交際することとなり、アルバイトの掛け持ちをし、特に2018年2月からは、アルバイトの掛け持ちの疲れで学校を休みがちになった。同年4月以降、上記スリランカ人男性(以下「同居人」)と静岡県内で同居し、自動車部品工場で働いていた。同年4月下旬以降は学校からの電話連絡にも応じず、同年5月以降は授業に一切出席しなかった。<ref name=":5" /><ref name=":4" />。また、母国からの仕送りが途絶えたことで学費の支払いも滞り<ref name=":9" /><ref name=":5" />、同年6月25日に除籍処分を受けて[[不法滞在]]の状態になった<ref name=":4" />。報告書には、学費は2017年7月に1年分は納入されていたと学校に確認できたと記載があるため、学費不足が学業放棄の主な理由とは考えにくい。不法残留になった後、ウィシュマと同居人は「偽造在留カード」を入手して二人共これを使っていた。引き続き日本国内で働きたいと考え、在留期限の8日前である同年9月21日に、「同居人と来日前から交際しており本国で同居人が地下組織の関係者とトラブルになり、集団で脅迫・暴行を受けたため、来日した」等の虚偽を含む情報に基づく難民認定申請を行った。同年9月以降は、静岡県内の弁当工場で働いていた。難民認定申請内容は迫害事由に該当せず、2019年1月22日に在留期間更新が不許可となり、不法残留となった。しかるにウィシュマ・サンダマリは、入管当局への出頭をせず、入国警備官も連絡が取れず、所在不明となった。2020年8月19日、「恋人に家を追い出され、仕事もないのでスリランカに帰国したい」と交番に駆け込むも、不法残留のため[[名古屋出入国在留管理局]]に収容された。この点、同居人は「ウィシュマの出頭の二日前頃、「もう一度やり直してほしい。一緒にスリランカに帰ってほしい。」と言われた。既に日本人女性と交際していたため、断ると、ウィシュマは怒り出しケンカになったが、ウィシュマに答えを2日ほど待ってほしいと伝えると、ケンカが終わった。私がウィシュマを追い出したことはなく、ウィシュマは、家を出ていった当日朝も、仕事に出かける私を見送っており、特におかしな様子はなかった。殴る蹴るの暴力を一方的に振るったことはなかった」旨供述している。<ref name=":4">{{Cite news|title=スリランカ人女性の死が投げかける入管施設の“長期収容”問題|newspaper=[[NHK]]|date=2021-05-25|url=https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210525/k10013042051000.html|access-date=2022-05-16|archive-url=https://web.archive.org/web/20220516064657/https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210525/k10013042051000.html|archive-date=2022-05-16}}</ref>。入管は彼女が[[ドメスティックバイオレンス|DV]]被害者との主張をしていたことを認識していたが、それに取り合わず収容したことは「DV被害者本人の意志に配慮しながら、[[人道]]上適切に対応しなければならない」「DV被害者が配偶者からの暴力に起因して旅券を所持していない時は、在留資格を交付する」などの内規に反していた疑いがある<ref>{{Cite news|title=ウィシュマさんのDV被害 入管取り合わず 保護定めた通知違反か|newspaper=[[東京新聞]]|date=2021-07-10|url=https://www.tokyo-np.co.jp/article/115908|access-date=2022-05-17|archive-date=2022-05-17|archive-url=https://web.archive.org/web/20220517065526/https://www.tokyo-np.co.jp/article/115908}}</ref>。ただし、当該DV被害の訴えに疑問を呈する有識者も複数おり、DV被害の真偽の確認検討を行わなかったことは反省すべき点であるが、退去強制処分の見直しや特別扱いをすべき案件ではないと報告されている。


=== 学業放棄 ===
'''<big>送還に向けた取組状況等</big>'''
同年4月以降、上記スリランカ人男性(以下「同居人」)と静岡県内で同居し、自動車部品工場で働いていた。同年4月下旬以降は学校からの電話連絡にも応じず、同年5月以降は授業に一切出席しなかった。<ref name=":5" /><ref name=":4" />。また、母国からの仕送りが途絶えたことで学費の支払いも滞り<ref name=":9" /><ref name=":5" />、同年6月25日に除籍処分を受けて[[不法滞在]]の状態になった<ref name=":4" />。報告書には、学費は2017年7月に1年分は納入されていたと学校に確認できたと記載があるため、学費不足が学業放棄の主な理由とは考えにくい。


=== 偽造在留カード ===
収容開始当初にはウィシュマはスリランカへの帰国を希望する旨述べていた。名古屋局はウィシュマの承諾を得て、臨時の帰国便に搭乗させて送還することとし、登場希望者リストに搭載するなどした。ウィシュマが飛行機と帰国後の隔離施設の代金20万円を工面することが困難だったため、同居者がウィシュマの母親に3回電話をかけて助けを求め、ウィシュマの妹達にも連絡先を伝えるよう頼んだが、母親は断り、妹達からも連絡はなかった。国費での送還は隔離施設の支払い手続きに時間がかかる状況だった。そこで名古屋局は、在京スリランカ大使館にローンの利用や無料施設利用の要請を行ったが、ローンは存在せず無料施設は空いていないと返答を得た。名古屋局は、ウィシュマの家族に隔離施設の利用代金の工面を求めるため、2020年12月15日、家族の所在調査と連絡先の確認を依頼した。ところが、ウィシュマは、同月中旬頃、帰国意思を撤回して在留希望に転じた。同月21日「もう帰国したくなくなった。私は今までとても辛い生活を送ってきた。日本で交際していたスリランカ人の恋人には殴られ続け、母や妹からは連絡を絶たれた。スリランカ人なんか嫌いだ。」旨を述べた。
不法残留になった後、ウィシュマと同居人は「偽造在留カード」を入手して二人共これを使っていた。


=== 虚偽難民認定申請と不出頭 ===
'''<big>支援者</big>'''
引き続き日本国内で働きたいと考え、在留期限の8日前である同年9月21日に、「同居人と来日前から交際しており本国で同居人が地下組織の関係者とトラブルになり、集団で脅迫・暴行を受けたため、来日した」等の虚偽を含む情報に基づく難民認定申請を行った。同年9月以降は、静岡県内の弁当工場で働いていた。難民認定申請内容は迫害事由に該当せず、2019年1月22日に在留期間更新が不許可となり、不法残留となった。しかるにウィシュマ・サンダマリは、入管当局への出頭をせず、入国警備官も連絡が取れず、所在不明となった。

=== 現行犯逮捕と収容 ===
2020年8月19日、「恋人に家を追い出され、仕事もないのでスリランカに帰国したい」と静岡県内の交番に駆け込むも、不法残留のため現行犯逮捕され、[[名古屋出入国在留管理局]]に収容された。この点、同居人は「ウィシュマの出頭の二日前頃、「もう一度やり直してほしい。一緒にスリランカに帰ってほしい。」と言われた。既に日本人女性と交際していたため、断ると、ウィシュマは怒り出しケンカになったが、ウィシュマに答えを2日ほど待ってほしいと伝えると、ケンカが終わった。私がウィシュマを追い出したことはなく、ウィシュマは、家を出ていった当日朝も、仕事に出かける私を見送っており、特におかしな様子はなかった。殴る蹴るの暴力を一方的に振るったことはなかった」旨供述している。<ref name=":4">{{Cite news|title=スリランカ人女性の死が投げかける入管施設の“長期収容”問題|newspaper=[[NHK]]|date=2021-05-25|url=https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210525/k10013042051000.html|access-date=2022-05-16|archive-url=https://web.archive.org/web/20220516064657/https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210525/k10013042051000.html|archive-date=2022-05-16}}</ref>。入管は彼女が[[ドメスティックバイオレンス|DV]]被害者との主張をしていたことを認識していたが、それに取り合わず収容したことは「DV被害者本人の意志に配慮しながら、[[人道]]上適切に対応しなければならない」「DV被害者が配偶者からの暴力に起因して旅券を所持していない時は、在留資格を交付する」などの内規に反していた疑いがある<ref>{{Cite news|title=ウィシュマさんのDV被害 入管取り合わず 保護定めた通知違反か|newspaper=[[東京新聞]]|date=2021-07-10|url=https://www.tokyo-np.co.jp/article/115908|access-date=2022-05-17|archive-date=2022-05-17|archive-url=https://web.archive.org/web/20220517065526/https://www.tokyo-np.co.jp/article/115908}}</ref>。ただし、当該DV被害の訴えに疑問を呈する有識者も複数おり、DV被害の真偽の確認検討を行わなかったことは反省すべき点であるが、退去強制処分の見直しや特別扱いをすべき案件ではないと報告されている。

=== '''<big>送還に向けた取組状況等</big>''' ===
収容開始当初にはウィシュマはスリランカへの帰国を希望する旨述べていた。名古屋局はウィシュマの承諾を得て、臨時の帰国便に搭乗させて送還することとし、登場希望者リストに搭載するなどした。ウィシュマが飛行機と帰国後の隔離施設の代金20万円を工面することが困難だったため、同居者がウィシュマの母親に3回電話をかけて助けを求め、ウィシュマの妹達にも連絡先を伝えるよう頼んだが、母親は断り、妹達からも連絡はなかった。国費での送還は隔離施設の支払い手続きに時間がかかる状況だった。そこで名古屋局は、在京スリランカ大使館にローンの利用や無料施設利用の要請を行ったが、ローンは存在せず無料施設は空いていないと返答を得た。名古屋局は、ウィシュマの家族に隔離施設の利用代金の工面を求めるため、2020年12月15日、家族の所在調査と連絡先の確認を依頼した。ところが、ウィシュマは、同月中旬頃、帰国意思を撤回して在留希望に転じた。同月21日「もう帰国したくなくなった。私は今までとても辛い生活を送ってきた。日本で交際していたスリランカ人の恋人には殴られ続け、母や妹からは連絡を絶たれた。スリランカ人なんか嫌いだ。」旨を述べた。


=== '''<big>支援者</big>''' ===
帰国意思撤回に関連するやりとりが以下の通りある。
帰国意思撤回に関連するやりとりが以下の通りある。



2022年12月8日 (木) 10:44時点における版

ウィシュマさん死亡事件
名古屋出入国在留管理局。ここの収容所で被収容者が死亡した。
場所 日本の旗 日本 名古屋市港区
日付 2021年3月6日
死亡者 1名
被害者 ラスナヤケ・リヤナゲ・ウィシュマ・サンダマリ(スリランカ国籍女性)
民事訴訟 被害者遺族が国家賠償訴訟提起
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ウィシュマさん死亡事件(うぃしゅまさんしぼうじけん)は、2021年令和3年)3月6日名古屋出入国在留管理局に収容中のスリランカ国籍の女性、ラスナヤケ・リヤナゲ・ウィシュマ・サンダマリ[1][2][3]1987年12月5日[4] - 2021年3月6日)が死亡した事件である。彼女は、自身の体調不良を訴え続けていたにもかかわらず、適切な治療を施されないまま亡くなったため、出入国在留管理庁の体制そのものが問題視される事態となった[5]ウィシュマさん死亡問題[6]ウィシュマさん名古屋入管死亡事件[7]、単にスリランカ人女性死亡事件[8]などとも報じられる。

死亡までの経緯

日本入国

ウィシュマ・サンダマリは、2017年6月29日に留学の在留資格で日本に入国し、在留期間は1年3か月(2018年9月29日まで)だった。[9]。千葉県内の日本語学校に入学するも、2017年12月頃にアルバイトで知り合ったスリランカ人男性と交際することとなり、アルバイトの掛け持ちをし、特に2018年2月からは、アルバイトの掛け持ちの疲れで学校を休みがちになった。

学業放棄

同年4月以降、上記スリランカ人男性(以下「同居人」)と静岡県内で同居し、自動車部品工場で働いていた。同年4月下旬以降は学校からの電話連絡にも応じず、同年5月以降は授業に一切出席しなかった。[10][9]。また、母国からの仕送りが途絶えたことで学費の支払いも滞り[1][10]、同年6月25日に除籍処分を受けて不法滞在の状態になった[9]。報告書には、学費は2017年7月に1年分は納入されていたと学校に確認できたと記載があるため、学費不足が学業放棄の主な理由とは考えにくい。

偽造在留カード

不法残留になった後、ウィシュマと同居人は「偽造在留カード」を入手して二人共これを使っていた。

虚偽難民認定申請と不出頭

引き続き日本国内で働きたいと考え、在留期限の8日前である同年9月21日に、「同居人と来日前から交際しており本国で同居人が地下組織の関係者とトラブルになり、集団で脅迫・暴行を受けたため、来日した」等の虚偽を含む情報に基づく難民認定申請を行った。同年9月以降は、静岡県内の弁当工場で働いていた。難民認定申請内容は迫害事由に該当せず、2019年1月22日に在留期間更新が不許可となり、不法残留となった。しかるにウィシュマ・サンダマリは、入管当局への出頭をせず、入国警備官も連絡が取れず、所在不明となった。

現行犯逮捕と収容

2020年8月19日、「恋人に家を追い出され、仕事もないのでスリランカに帰国したい」と静岡県内の交番に駆け込むも、不法残留のため現行犯逮捕され、名古屋出入国在留管理局に収容された。この点、同居人は「ウィシュマの出頭の二日前頃、「もう一度やり直してほしい。一緒にスリランカに帰ってほしい。」と言われた。既に日本人女性と交際していたため、断ると、ウィシュマは怒り出しケンカになったが、ウィシュマに答えを2日ほど待ってほしいと伝えると、ケンカが終わった。私がウィシュマを追い出したことはなく、ウィシュマは、家を出ていった当日朝も、仕事に出かける私を見送っており、特におかしな様子はなかった。殴る蹴るの暴力を一方的に振るったことはなかった」旨供述している。[9]。入管は彼女がDV被害者との主張をしていたことを認識していたが、それに取り合わず収容したことは「DV被害者本人の意志に配慮しながら、人道上適切に対応しなければならない」「DV被害者が配偶者からの暴力に起因して旅券を所持していない時は、在留資格を交付する」などの内規に反していた疑いがある[11]。ただし、当該DV被害の訴えに疑問を呈する有識者も複数おり、DV被害の真偽の確認検討を行わなかったことは反省すべき点であるが、退去強制処分の見直しや特別扱いをすべき案件ではないと報告されている。

送還に向けた取組状況等

収容開始当初にはウィシュマはスリランカへの帰国を希望する旨述べていた。名古屋局はウィシュマの承諾を得て、臨時の帰国便に搭乗させて送還することとし、登場希望者リストに搭載するなどした。ウィシュマが飛行機と帰国後の隔離施設の代金20万円を工面することが困難だったため、同居者がウィシュマの母親に3回電話をかけて助けを求め、ウィシュマの妹達にも連絡先を伝えるよう頼んだが、母親は断り、妹達からも連絡はなかった。国費での送還は隔離施設の支払い手続きに時間がかかる状況だった。そこで名古屋局は、在京スリランカ大使館にローンの利用や無料施設利用の要請を行ったが、ローンは存在せず無料施設は空いていないと返答を得た。名古屋局は、ウィシュマの家族に隔離施設の利用代金の工面を求めるため、2020年12月15日、家族の所在調査と連絡先の確認を依頼した。ところが、ウィシュマは、同月中旬頃、帰国意思を撤回して在留希望に転じた。同月21日「もう帰国したくなくなった。私は今までとても辛い生活を送ってきた。日本で交際していたスリランカ人の恋人には殴られ続け、母や妹からは連絡を絶たれた。スリランカ人なんか嫌いだ。」旨を述べた。

支援者

帰国意思撤回に関連するやりとりが以下の通りある。

12月16日に支援者S1が「日本で生活したいなら支援するので仮放免申請等を行ったらどうか。」と助言。

12月18日に支援者S1が、仮放免申請のために、申請書をもらって記入するよう依頼した。支援者S2が「仮放免申請するから、私の家に住んでね。」等のべた。

その他、支援者が「病気になれば仮放免される」旨のそそのかしを行ったことを伺わせる記録が存在する。

収容中

2021年1月頃から彼女に体調の悪化が見られ始めた[10]。嘔吐を繰り返し、体重が急激に減少した[10]。このことから、仮放免の許可を申請したが、1度目は不許可、2度目は可否そのものが判断されなかった[10]。同年2月には、外部の病院での診察を受け、点滴の投与等の処置が必要と判断されたにもかかわらず、入管は内服薬を処方するに過ぎなかった[10]

同年3月6日、入管職員の呼びかけに応じなかったため、病院に搬送され死亡が確認された[10]。33歳の若さだった[10]出入国在留管理庁は「病死」と結論付けたうえで、「複数の要因が影響した可能性があり,具体的機序の特定は困難」と報告している[12]

死後

入管による調査

2021年5月、遺族が訪日し、出入国在留管理庁に対して死の真相を明らかにするよう要望。同月17日に名古屋入管を訪れ本件についての説明を求めたが、「出入国在留管理局は疑問に何も答えてくれません。姉が亡くなった責任を逃れようとしています。真相がわかるまで国に帰れません」と明確な回答が得られなかった怒りをあらわにした[9]

8月10日、出入国在留管理庁が、この問題の調査結果を取りまとめた報告書を公表した[13]。また同日、当時の名古屋入管局長と次長を訓告、警備監理官ら2人を厳重注意の処分にした[14]。遺族はこの最終報告書に対して「死因も分からない。姉は体調が悪かったのに、なぜ(一時的に収容を解く)仮放免を許可しなかったのかも分からない。」と批判した[15]

同月12日、上川陽子法相と佐々木聖子入管庁長官が本件について遺族に謝罪した[16]。同日、ウィシュマを映していた入管内の監視カメラ映像が遺族に開示され[16][17]、2人の妹は、入管職員が姉(ウィシュマ)を「動物のように扱っていた[17]」「入管職員が姉を殺した。一時的に入院させて病気を治す環境はあったはず[17]」、「入管は人の道を外れている[16]」「職員は姉が迷惑で面倒な人間と思っているようだった[16]」などと述べ号泣した[17][16]。また、12月24日、衆議院参議院法務委員会にも公開された[18]。この映像を見た階猛議員は「職員に悪意はないかもしれないが、やっていることは拷問に他ならない」と述べた[18]

また、入管職員が、カフェオレを上手く飲めずに鼻から吹き出したウィシュマに対し「鼻から牛乳や」[8]、3月5日、脱力し明確に意思を示せないウィシュマに「アロンアルファ? 」と聞き返す[19]、翌日(死亡当日)の朝、抗精神薬を飲んでぐったりしていたウィシュマに「ねえ、薬きまってる?」などの発言を行っていたことが明らかになった[8][20]。当該職員は「フレンドリーに接したいとの思いから」と説明したが[21]、入管庁による調査報告書は「人権意識に欠ける不適切な発言[22]」としている。東京新聞は「死に際の収容者をばかにするような職員の発言。上川陽子法相が繰り返してきた『入管は大切な命を預かる施設』という説明とはかけ離れている」と評価した[21]

遺族・支援者による刑事告訴・告発

遺族による殺人容疑での刑事告訴

11月、遺族が、体調不良を訴えるウィシュマに適切な医療を提供せず収容を継続したのは、管理局の局長(当時)など少なくとも7人が、ウィシュマについて「死亡してもかまわないと考えていたからだ」などとして[23]、管理局の局長や担当職員を殺人容疑の刑事告訴に踏み切った[24][注 1]が、2022年6月、名古屋地方検察庁は不起訴とした[23]次席検事は「死因の特定に至らず、不作為による殺人や殺意を認める証拠がなかった」と説明した[25]。不起訴とされたのはあわせて13人で[23]保護責任者遺棄致死罪業務上過失致死罪の適用も検討されたが、職員の行為と死亡との因果関係を認めることができなかったという[25]

名古屋市の男性による刑事告発

名古屋市の男性(大学教員[26]、支援者[25])による、入管職員に対する殺人と保護責任者遺棄致死傷容疑の刑事告発について同様の理由で不起訴となった[23][25][26]

遺族による国家賠償請求訴訟

2022年3月4日、遺族(ここではウィシュマの母、2人の妹[27])がウィシュマが亡くなったのは、名古屋入管が必要な治療を怠ったためだとして、国に約1億5600万円の損害賠償を求め、名古屋地方裁判所に提訴した[28]。6月8日に第1回口頭弁論が開かれ、遺族側は、入管が違法な収容を続けたと主張し「姉は見殺しにされた。日本政府には謝ってほしい[27]」などと述べた[27][29]

ウィシュマが書いた手紙の書籍化

ウィシュマとの面会や手紙のやり取りを続けていた、彼女の支援者でシンガーソングライターの眞野明美[注 2]が、収容中のウィシュマから送られてきた手紙を書籍化した[31]。眞野は「書籍化で、より多くの人にウィシュマのことを知ってもらい、入管の諸問題を考えてほしい」と述べた[31]。9月25日には、名古屋市を訪れたウィシュマの妹に試作品を眞野が手渡した[31][32]。受け取った妹は「姉のように亡くなる人が2度と出ないように、多くの人にこの本を読んでほしい」と述べた[32]

抗議活動

抗議デモ

ウィシュマが亡くなって1年、全国各地で、被入管収容者の処遇改善などを求めるデモが行われた[33]。JR静岡駅前では約20人が、抗議のプラカードとともにウィシュマに黙とうをささげた[34]

抗議団体

事件発覚後、複数の外国人支援団体からなる全国ネットワーク「ウィシュマさんの死亡事件の真相究明を求める学生・市民の会」が、その後「入管の民族差別・人権侵害と闘う全国市民連合」が結成され、入管に対し、事件の真相究明と人権侵害の停止などを求めている[35]

入管法改正案をめぐる動き

難民認定申請を却下された外国人の本国送還を容易にし、入管当局の権限を強化する出入国管理及び難民認定法改正案が事件前から存在したが[36]、事件発覚後、連日学生らによる抗議活動が行われ、「入管法改悪反対」などのシュプレヒコールが掲げられた[37]。これら世論の反発を受けて2021年5月、第204回国会での入管法改正案の成立を断念した[36]。また、第208回国会への改正案再提出を見送った[38]

日本国外の反応

スリランカ

ウィシュマの死は、週刊新聞シルミナ[39]等スリランカ国内でも報じられた[40]

アメリカ合衆国

アメリカ国務省は、2021年7月1日に「2021年人身売買報告書」を公表し、ウィシュマの遺族の弁護士を務める指宿昭一人身売買と闘う「ヒーロー」の一人に選出した[41][42][43]。翌月20日、東京で「弁護士指宿昭一『人身取引と闘うヒーロー』受賞記念集会」が開かれ、そこでウィシュマの妹の一人は以下のように述べた[41][44]

仏教の偉大なる尊師であるお釈迦様がこのように教えてくださった言葉があります。『憎しみは憎しみで消えず。憎しみは愛することによってなくなる』。この貴重な言葉を大切に思い、姉であるウィシュマ・サンダマリの命を粗末に扱った方々にも、もう二度とほかの誰かに同じようなことをしないでほしいとお願い申しあげます[41]

脚注

注釈

  1. ^ 同種の事件が発生した場合、通常は業務上過失致死罪、故意に行ったと認められる場合でも傷害致死罪の適用にとどまる。
  2. ^ ウィシュマの仮放免が認められた場合には、彼女を自宅に受け入れることを決めていた[30]

出典

  1. ^ a b “SOS聞き入れられず…名古屋入管で亡くなった33歳スリランカ人女性 「助けてあげたかった」支援者の無念”. 東京新聞. (2021年4月7日). オリジナルの2022年5月16日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220516064344/https://www.tokyo-np.co.jp/article/96348 2022年5月16日閲覧。 
  2. ^ スリランカ女性死亡で法要、愛知”. ロイター. 共同通信社. (2021年4月24日) 
  3. ^ 救急で肺炎疑い 診断時期に疑念 スリランカ人女性死亡”. 沖縄タイムス. (2021年5月16日) 
  4. ^ 入管で死亡のスリランカ人女性の遺族 誕生日に冥福祈る 愛知”. 日本放送協会 (2021年12月5日). 2021年12月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年7月6日閲覧。
  5. ^ 「病院お願い」信じなかった入管職員 孤独な衰弱死、その最後の記録”. 朝日新聞デジタル. (2022年4月22日) 
  6. ^ “ウィシュマさん死亡問題 名古屋入管の監視カメラ映像を公開 衆院法務委”. FNNプライムオンライン. (2021年12月24日). オリジナルの2022年5月20日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220520124625/https://www.fnn.jp/articles/-/290096 2022年5月20日閲覧。 
  7. ^ (05/10) ウィシュマさん名古屋入管死亡事件”. 国際基督教大学社会科学研究所(SSRI). 2022年5月19日閲覧。
  8. ^ a b c 北原斗紀彦 (2021年8月29日). “スリランカ人女性死亡事件に見る「入管の闇」の深さ【コメントライナー】”. 時事ドットコム. オリジナルの2022年5月20日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220520132959/https://www.jiji.com/jc/article?k=2021082700756&g=soc 2022年5月20日閲覧。 
  9. ^ a b c d e “スリランカ人女性の死が投げかける入管施設の“長期収容”問題”. NHK. (2021年5月25日). オリジナルの2022年5月16日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220516064657/https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210525/k10013042051000.html 2022年5月16日閲覧。 
  10. ^ a b c d e f g h “暴力に耐えかね交番へ…入管からの「仮放免」求めた外国人女性の死が問う”難民鎖国ニッポン“の問題”. 東海テレビ. (2021年6月21日). https://www.tokai-tv.com/newsone/corner/20210618srilankawoman-nyukan.html 2022年5月23日閲覧。 
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  12. ^ 出入国在留管理庁調査チーム 2021, p. 66.
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参考文献

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  • 眞野明美 著、関口威人 編『ウィシュマさんを知っていますか? 名古屋入管収容場から届いた手紙』風媒社、2021年10月27日。ISBN 978-4-8331-1140-9 
  • 志葉玲『難民鎖国ニッポン ウィシュマさん事件と入管の闇』かもがわ出版、2022年2月14日。ISBN 978-4-7803-1208-9 

外部リンク