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「岩澤理論」の版間の差分

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{{math|Z{{sub|p}}}} 拡大: 岩澤理論に対する伊原康隆の印象を追記しました。
(3人の利用者による、間の7版が非表示)
1行目: 1行目:
[[数論]]における'''岩澤理論'''(いわさわりろん、<em lang="en">Iwasawa theory</em>)は、[[岩澤健吉]]が[[円分体]]の理論の一部として提唱し、[[バリー・メイザー]]や[[ラルフ・グリーンバーグ]]、[[クリストファー・スキナー]]らによって洗練・確立された、(無限次元拡大の)[[ガロア群]]の[[イデアル類群]]における[[表現論]]である。
[[数論]]における'''岩澤理論'''(いわさわりろん、{{Lang-en-short|Iwasawa theory}})は、[[岩澤健吉]]が[[円分体]]の理論の一部として提唱し、[[バリー・メイザー]]や[[ラルフ・グリーンバーグ]]、[[クリストファー・スキナー]]らによって洗練・確立された、(無限次元拡大の)[[ガロア群]]の[[イデアル類群]]における[[表現論]]である。


== '''Z'''<sub>''p''</sub>-拡大 ==
== {{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}} 拡大 ==
{{Cquote|
岩澤が端緒としたのは、代数的数論において '''Z'''<sub>''p''</sub> 拡大と呼ばれる。
編:ヤコビ多様体との類似が出発点でないとすると
そのガロア群が[[p進数| ''p''-進整数環]]の加法群 '''Z'''<sub>''p''</sub> と同型となるような体の塔([[体の拡大|拡大]]列)の存在性である。このガロア群は理論中しばしば &Gamma; と書かれ、([[アーベル群]]ではあるが)乗法的に記される。このような群は、(そのガロア群が本質的に[[射有限群]]であるような)無限次元代数拡大のガロア群の部分群として得られる。この群 &Gamma; それ自身は、ある素数 ''p'' を固定したときの、加法群 '''Z'''/''p''<sup>''n''</sup>'''Z''' (''n'' = 1, 2, ...) たちが自然な射影によって成す逆系の[[射影極限|逆極限]]('''Z''' の射有限完備化)である。これはまた、[[ポントリャーギン双対]]を考えれば、任意の ''p'' の冪に対する 1 の冪根全体が成す[[円周群]]の離散部分群の双対として得られるコンパクト群が &Gamma; であるとも述べられる。
{{math|''p''<sup>''n''</sup>}}
分体を全ての {{mvar|n}} について考察すると良いと云う事実にはどの様にして気付かれたのでしょうか.


岩澤:それはこういう事(円分体論)をちょっとやってみれば, 誰でも自然に考える事だと思います.(注:そうですか?)
== 円分拡大の数論 ==
|20px||岩澤健吉|{{harvnb|岩澤健吉先生のお話しを伺った120分|p=370}}
最初の重要な例は、[[1の冪根|1 の原始 ''p'' 乗根]] &zeta; を添加する拡大 ''K'' = '''Q'''(&zeta;) である。''K''<sub>''n''</sub> を 1 の原始 ''p''<sup>''n''+1</sup>乗根の生成する ''K'' の(したがってとくに '''C''' 内の)部分体として、体の塔 ''K''<sub>''n''</sub> (''n'' = 1, 2, ...) の和集合(合成体)を ''L'' と置く。このとき、体の拡大 ''L''/''K'' のガロア群は &Gamma; に同型である。これは、拡大 ''K''<sub>''n''</sub>/''K'' のガロア群が '''Z'''/''p''<sup>''n''</sup>'''Z''' であることによる。
}}
{{quotebox|align=right|width=30%|
quote=...岩沢理論の雰囲気は(私には)’滝の上には虹がかかる’といったものだと感じられます.(滝 ↔ {{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}} 拡大)
|source={{Cite journal|和書| doi = 10.11429/sugaku1947.45.372| volume = 45| issue = 4| page = 375| author = 伊原康隆| authorlink = 伊原康隆| title = ‘フェルマ,ニュートン,ワイルス’| journal = 数学| date = 1993}}
}}
[[File:Zp-extension.svg|thumb|{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}} 拡大の図]]


岩澤理論では、[[有限次拡大|有限次]][[代数体]]の
ここから、ガロア群 &Gamma; 上の興味深い加群を取り出すことができる。岩澤は ''K''<sub>''n''</sub> のイデアル類群と、その[[シローの定理|シロー ''p'' 部分群]] ''I''<sub>''n''</sub> (''p''-部分)を考えた。このとき[[ノルム (体論)|ノルム写像]]
: ''I''<sub>''m''</sub> &rarr; ''I''<sub>''n''</sub>
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
'''拡大'''({{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}-extension)というものを考える。[[素数]]
(ここで ''m'' > ''n'')を考えれば逆系が得られ、その逆極限を ''I'' として &Gamma; を ''I'' に作用させることができる。その作用を記述することに意味があるのである。
{{mvar|p}}
と有限次代数体
{{mvar|F}}
に対して、[[体の拡大]]
{{math|''F''{{sub|∞}}/''F''}}
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
'''拡大'''であるとは、これが[[ガロア拡大]]であって、その[[ガロア群]]
{{math|Gal(''F''{{sub|∞}}/''F'')}}
[[P進数|{{mvar|p}} 進整数環]]
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
の[[加法群]]と[[位相群]]として[[同型]]であることをいう{{
Sfn|岩澤理論|2003|loc=藤井「岩澤類数公式」§1
}}。{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大のガロア群は
{{math|Γ {{Coloneqq}} Gal(''F''{{sub|∞}}/''F'')}}
と書かれ、[[アーベル群]]ではあるが乗法的に記される。{{mvar|n}} を非負[[整数]]としたとき、{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
には
{{math|''p''{{sup|''n''}}}}
の倍数たちからなる有限[[部分群の指数|指数]]の開[[部分群]]があるので、{{math|Γ}}
にもそのような部分群がある。これは
{{math|Γ}}
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
の同型の取り方によらない。この部分群を
{{math|Γ{{sub|''n''}}}}
と書く{{Efn|
{{harvtxt|Greenberg|2001}} の記法。文献によっては本稿で
{{math|Γ/Γ{{sub|''n''}}}} と書くものを
{{math|Γ{{sub|''n''}}}} と書いている。{{harvtxt|岩澤理論|2003}} の青木「岩澤主予想のEuler系による証明」など。
}}。{{math|Γ{{sub|''n''}}}}
にガロア対応する
{{math|''F''{{sub|∞}}}}
の[[部分体]]を
{{math|''F''{{sub|''n''}}}}
と書き、{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大
{{math|''F''{{sub|∞}}/''F''}}
の'''第 {{mvar|n}} 層'''({{mvar|n}}-th layer)という{{Sfn|藤井|2015|p=22}}。これは
{{math|''F''{{sub|∞}}/''F''}}
の[[中間体]]で、{{mvar|F}}
{{math|''p''{{sup|''n''}}}}
次である唯一のものであり{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=藤井「岩澤類数公式」§1}}、{{mvar|F}} 上の[[巡回拡大]]である{{Sfn|Greenberg|2001|p=335}}。{{math|''F''{{sub|''n''}}}}
たちは体の塔([[体の拡大|拡大]]列)


: <math>
また、以下のような量的な記述ができる: ''p'' を素数とし、''K''<sub>''n''</sub> を塔とする ''K'' の '''Z'''<sub>''p''</sub> 拡大 ''L'' に対し、''K''<sub>''n''</sub> のイデアル類群の ''p''-部分 ''I''<sub>''n''</sub>(これは有限 [[p群]]だから位数は ''p'' の冪である)の位数の ''p'' の冪指数を ''e''<sub>''n''</sub> とするとき、適当な正の数 &mu;, &lambda; と実数 &nu; および十分大きな ''n'' をとれば
F = F_0 \subset F_1 \subset \cdots F_n \subset \cdots \subset F_{\infty} = \cup_n F_n
:<math>e_n=\mu p^n+\lambda n+\nu</math>
</math>
という形に表すことができる。


を構成する。代数体
ここでの動機というのは、''K'' のイデアル類群の ''p'' 部分こそが[[フェルマーの最終定理]]の直接証明における主要な障害となっている、ということが[[エルンスト・クンマー|クンマー]]によって既に特定されていたということによるものである。岩澤の独自性は、「無限大に飛ばす」という新しい着想にあった。
{{mvar|F}}
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大を与えることと、このような
{{math|''F''{{sub|''n''}}}}
の拡大列を与えることは同値である{{Sfn|Coates|1977|p=275}}。実際、このような拡大列が与えられれば、{{math|''F''{{sub|''n''}}}} のガロア群は加法群
{{math|'''Z'''/''p''<sup>''n''</sup>'''Z'''}}
と同型であり、{{math|''F''{{sub|∞}}}}
のガロア群(無限次代数拡大のガロア群なので[[射有限群]]){{math|Γ}}
はこれらが自然な射影によって成す逆系の[[射影極限|逆極限]]('''Z''' の射有限完備化)、つまり
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
である。これはまた、[[ポントリャーギン双対]]を考えれば、任意の {{mvar|p}} の冪に対する 1 の冪根全体が成す[[円周群]]の離散部分群の双対として得られるコンパクト群が {{math|Γ}} であるとも述べられる。


{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
事実として、''I'' は[[群環]] '''Z'''<sub>''p''</sub>[&Gamma;] 上の加群であり、またこの群環は二次の[[正則局所環]]と呼ばれる(その上の加群のそれほど粗くない分類が非常に容易であるという意味で)素性の良い環である。
拡大の基本的な例は'''円分''' {{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}} '''拡大'''(cyclotomic
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}-extension)である。自然数
{{mvar|n}}
に対して
{{math|ζ{{sub|''n''}}}}
で[[1の冪根|1の原始 {{mvar|''n''}} 乗根]]を表すものとする。例えば[[複素数体]]の中で考え、{{math|ζ{{sub|''n''}} {{Coloneqq}} exp(2π''i''/''n'')}}
とする。奇素数 {{mvar|p}} に対して、有理数体に1の原始
{{math|''p''{{sup|''n''}}}}
乗根をすべて添加した体、つまり
{{math|'''Q'''(ζ{{sub|''p''{{sup|''n''}}}})}}
の[[合成体]]
{{math|∪{{sub|''n'' ≧ 0}} '''Q'''(ζ{{sub|''p''{{sup|''n''}}}})}}
{{math|'''Q'''(ζ{{sub|''p''}})}}
上の
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大である{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=藤井「岩澤類数公式」§1}}。また、この合成体を有理数体
{{math|'''Q'''}}
上の拡大体とみると、これはガロア拡大で、そのガロア群
{{math|Gal(∪{{sub|''n'' ≧ 0}} '''Q'''(ζ{{sub|''p''{{sup|''n''}}}})/'''Q''')}}
{{math|Gal('''Q'''(ζ{{sub|''p''}})/'''Q''')×'''Z'''{{sub|''p''}}}}
と同型であるので、これの部分体で {{math|'''Q'''}} 上の
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大であるものが存在する{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=藤井「岩澤類数公式」§1}}。これを
{{math|'''Q'''{{subsup||∞|cyc}}}}
と書き、有理数体の円分
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大という。任意の有限次代数体
{{mvar|F}}
に対して[[合成体]]
{{math|''F'''''Q'''{{subsup||∞|cyc}}}}
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大になる。これを
{{mvar|F}}
の円分
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大という{{Sfn|田谷・福田|2002|p=293}}。円分
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大の存在から、任意の代数体に対して少なくとも1つは
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大が存在することがわかる。

代数体
{{mvar|F}}
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大は一般に無限に存在しうる。{{mvar|F}}
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大すべての合成を
{{math|{{tilde|''F''}}}}
とすると

: <math>
\mathrm{Gal}(\tilde{F}/F) \cong \mathbb{Z}_p^d
</math>

が成り立つことが知られている{{Sfn|Greenberg|2001|p=340}}。ここで {{mvar|d}} は
{{math|''r''{{sub|2}} + 1 ≤ ''d'' ≤ [''F'' : '''Q''']}}
を満たすある整数、{{math|''r''{{sub|2}}}}
{{mvar|F}}
の複素[[素点]]の個数である。このことから、{{mvar|F}} が[[総実体]]でなければ無限に多くの
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大が存在することがわかる{{Sfn|Greenberg|2001|p=340}}。ここに出てきた定数 {{mvar|d}} が、実は
{{math|1=''d'' = ''r''{{sub|2}} + 1}}
であろうというのが{{仮リンク|レオポルト予想|en|Leopoldt's conjecture}}である{{Sfn|Greenberg|2001|p=341}}。レオポルト予想は、有理数体の[[アーベル拡大]]体や[[虚二次体]]のアーベル拡大体については正しいことが知られている{{Sfn|Greenberg|2001|p=341}}。

円分
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大ではない
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大の例としては、虚二次体の'''反円分''' {{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}} '''拡大'''(anti-cyclotomic
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}-extension)というものがあげられる{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=松野「岩澤理論の楕円曲線の数論への応用」§2.1}}。{{mvar|p}}
を5以上の素数{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=松野「岩澤理論の楕円曲線の数論への応用」§2冒頭}}、{{mvar|K}}
を虚二次体とする。{{mvar|K}}
{{math|''r''{{sub|2}}}}
は1で
{{math|[''F'' : '''Q''']}}
は2であるから、この場合はレオポルト予想が自明に成立する。したがって
{{mvar|K}}
にはガロア群が
{{math|'''Z'''{{subsup||''p''|2}}}}
と同型になる唯一の拡大体
{{math|{{subsup|''K''|∞|(2)}}}}
が存在する。{{math|Gal({{subsup|''K''|∞|(2)}}/''K'')}}
には[[複素共役]]が作用しており、複素共役が±1倍で作用する部分群を
{{math|Γ{{sup|±}}}}
とすると、{{math|Gal({{subsup|''K''|∞|(2)}}/''K'')}}
{{math|Γ{{sup|±}}}}
の直積に分解できる。{{math|Γ{{sup|+}}}}
の固定体
{{math|{{subsup|''K''|∞|&minus;}}}}
は円分的ではない
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}} 拡大
になっている。これを反円分
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大という。

== イデアル類群と岩澤類数公式 ==

{{mvar|p}}
を素数、{{math|''F''{{sub|∞}}/''F''}}
を有限次代数体
{{mvar|F}}
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大とする。第 {{mvar|n}} 層
{{math|''F''{{sub|''n''}}}}
の[[イデアル類群]]
{{math|Cl(''F''{{sub|''n''}})}}
の[[シローの定理|シロー {{mvar|p}} 部分群]]({{mvar|p}} 部分){{Efn|
これを '''{{mvar|p}} 成分'''と呼ぶこともある{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=栗原「岩澤主予想の保型形式による証明」§0}}。
}}を
{{math|''A''{{sub|''n''}}}}
とする。ここでの動機というのは、{{math|1=''F'' = '''Q'''(ζ{{sub|''p''}})}} のとき、そのイデアル類群の {{mvar|p}} 部分こそが[[フェルマーの最終定理]]の直接証明における主要な障害となっている、ということが[[エルンスト・クンマー|クンマー]]によって既に特定されていたということによるものである。{{math|''A''{{sub|''n''}}}}
は有限 [[p群|{{mvar|p}} 群]] なのでその[[位数 (群論)|位数]]
{{math|#''A''{{sub|''n''}}}}
はある整数
{{math|''e''{{sub|''n''}}}}
を用いて
{{math|1=#''A''{{sub|''n''}} = ''p''{{sup|''e''{{sub|''n''}}}}}}
と書ける。岩澤は、ある3つの整数 {{math|μ, λ, ν}}(最初の2つは非負整数)が存在して、{{mvar|n}} が十分大きいとき

: <math>e_n=\mu p^n+\lambda n+\nu</math>

が成り立つことを示した{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=藤井「岩澤類数公式」§1}}。これを'''岩澤類数公式'''(Iwasawa class number formula)といい、この公式に現れる3つの数を'''岩澤不変量'''(Iwasawa invariant)という。3つのうちどれか1つを指し示したいときは、例えば'''岩澤 {{math|λ}} 不変量'''などという{{Sfn|田谷・福田|2002|p=294}}。

=== 証明と岩澤代数 ===

次の仮定のもとで証明の概略を見る{{Sfn|Greenberg|2001|p=336}}。

: (*) 素数 {{mvar|p}} の上にある {{mvar|F}} の素イデアルは唯一つで、さらにその素イデアルは {{math|''F''{{sub|∞}}/''F''}} で[[分岐 (数学)|完全分岐]]する

証明は、まずイデアル類群の極限をとることからはじまる。2つの正整数
{{math|''m'' ≦ ''n''}}
があったとき、代数体の有限次拡大
{{math|''F''{{sub|''n''}}/''F''{{sub|''m''}}}}
の[[ノルム (体論)|ノルム写像]]からイデアル類群の準同型
{{math|''A''{{sub|''m''}} ← ''A''{{sub|''n''}}}}
ができる{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=伊藤「有限生成 {{math|Λ}} 加群の 構造定理」§1}}。これによる逆極限
{{math|{{underset|←|lim}} ''A''{{sub|''n''}}}}
{{math|''X''}}
と書き、{{math|''F''{{sub|∞}}/''F''}}
の'''岩澤加群'''という{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=藤井「岩澤類数公式」§2.2|ps=. {{harvtxt|NSW|2020}} では岩澤代数 {{math|Λ}} に対する任意のコンパクト {{math|Λ}} 加群を岩澤加群と呼んでおり、定義は著者によって異なる。
}}。岩澤の独自性は、「無限大に飛ばす」という新しい着想にあった。

岩澤加群
{{math|''X''}}
がわかれば
{{math|''A''{{sub|''n''}}}}
もわかる。実際、{{math|1=Γ=Gal(''F''{{sub|∞}}/''F'')}}
の元
{{math|γ{{sub|0}}}}
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
の乗法単位元1に対応する元(位相的生成元といっても同じこと)とすると
{{math|1=''A''{{sub|''n''}} = ''X''/(γ{{subsup||0|''p''{{sup|''n''}}}} &minus; 1)''X''}}
が成り立つことがわかる{{Sfn|Greenberg|2001|p=337}}{{Efn|
ここで仮定(*)を使う。この仮定がない場合にはもっと複雑になる。{{harvtxt|岩澤理論|2003|loc=藤井「岩澤類数公式」}} の命題2.3及び系2.1参照。また、このことの証明には[[類体論]]によりイデアル類群が[[ヒルベルト類体]]のガロア群と同型であることも使う。
}}。

岩澤加群
{{math|''X''}}
の構造は、これを'''完備群環'''上の加群とみることによって調べられる。{{math|''A''{{sub|''n''}}}}
は有限 {{mvar|p}} 群なので自然に
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
の元の乗算が定義でき、またガロア群
{{math|Γ/Γ{{sub|''n''}}}}
が作用しているので、その極限の
{{mvar|X}}
には完備群環
{{math|1=Λ {{Coloneqq}} '''Z'''{{sub|''p''}}⟦Γ⟧ = {{underset|←|lim}} '''Z'''{{sub|''p''}}[Γ/Γ{{sub|''n''}}]}}
の作用が定義できる{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=伊藤「有限生成Λ加群の構造定理」§1}}。この環
{{math|Λ}}
は、実は
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
係数の形式的べき級数環
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}⟦T⟧}}
{{math|T + 1 ↔ γ{{sub|0}}}}
によって同型であることが示される(位相的生成元の取り方に依存するので、標準的ではない){{Sfn|岩澤理論|2003|loc=伊藤「有限生成Λ加群の構造定理」定理1.3}}。{{math|Λ}} や
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}⟦T⟧}}
は'''{{仮リンク|岩澤代数|en|Iwasawa algebra}}'''と呼ばれている{{Sfn|NSW|2020|p=291}}。岩澤代数は岩澤理論において中心的な役割を演ずる。例えば、岩澤主予想と呼ばれる予想は
{{math|Λ}}
のある2つのイデアルが等しいという予想である。

岩澤加群
{{math|''X''}}
は岩澤代数
{{math|1=Λ ≃ '''Z'''{{sub|''p''}}⟦T⟧}}
上の加群であることがわかった。さらに有限生成であることが示される{{Sfn|Greenberg|2001|p=337}}。{{math|Λ}}
は2次元の[[正則局所環]]とよばれる(その上の加群のそれほど粗くない分類が非常に容易であるという意味で)素性の良い環であるので、その有限生成加群には構造定理がある{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=伊藤「有限生成Λ加群の構造定理」§2.3}}。これを使うことにより、{{mvar|X}} は次の形の加群

: <math>
\textstyle
{
\Lambda^r \oplus \prod_i \Lambda/(p^{m_i}) \oplus \prod_j \Lambda/(f_j(T)^{n_j})
}
</math>

と'''擬同型'''(pseudo-isomorphism)であること、つまり有限群による違いを除いてこれと同型であることが示される。{{mvar|r}} はイデアル類群の有限性から0である{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=藤井「岩澤類数公式」定理2.2}}。

このようにして得られた岩澤加群
{{mvar|X}}
の表示と
{{math|1=''A''{{sub|''n''}} = ''X''/(γ{{subsup||0|''p''{{sup|''n''}}}} &minus; 1)''X''}}
を使うことにより
{{math|''A''{{sub|''n''}}}}
の個数を
{{math|''m''{{sub|''i''}}}}
{{math|''f''{{sub|''j''}}}}
で表すことができる。そして {{math|μ}} と {{math|λ}} を

: <math>
\begin{array}{ccl}
\mu & = & \textstyle{ \sum_i m_i } \\
\lambda & = & \textstyle{ \sum_j n_j \mathrm{deg} f_j }
\end{array}
</math>

で定義すると岩澤類数公式が成り立つことがわかる{{Sfn|Greenberg|2001|p=338}}。以上が証明の概略である。

なお、すべての
{{math|''p''{{sup|''m''{{sub|''i''}}}}}}
{{math|''f''{{sub|''j''}}(''T''){{sup|''n''{{sub|''j''}}}}}}
を乗じて得られる多項式

: <math>
\textstyle
{
\mathrm{char}_\Lambda(X)
:=
\prod_i p^{m_i} \prod_j f_j(T)^{n_j}
}
</math>

を岩澤加群
{{mvar|X}}
の'''特性多項式'''(characteristic polynomial)といい、これによって生成される
{{math|Λ}}
のイデアルを'''特性イデアル'''(characteristic ideal)という{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=伊藤「有限生成Λ加群の構造定理」§2.3}}。{{math|char{{sub|Λ}}(''X'')}}
で特性イデアルの方を表すこともある。特性多項式は任意の有限生成 torsion
{{math|Λ}}
加群
{{mvar|M}}
に対して定義され、同様に
{{math|char{{sub|Λ}}(''M'')}}
という記号で書かれる。岩澤不変量の {{math|λ}} は特性多項式
{{math|char{{sub|Λ}}(''X'')}}
の次数であり、{{math|μ}} は特性多項式を割り切る最大
{{mvar|p}}
べきの指数である。岩澤主予想は
{{math|Λ}}
のある2つのイデアルが等しいという予想であるが、そのイデアルのうちの一つが、簡単にいうとこの特性イデアルである。

=== 固有空間への分解 ===

代数体
{{mvar|F}}
に複素共役や
{{math|Gal(''F''/'''Q''')}}
が作用している場合には、その作用でイデアル類群を固有空間(eigenspace){{Sfn|Coates|1977|p=282}}に分解することができ、分解したものたちに対して同様の公式が得られる。

まず複素共役の場合を見る{{Sfn|田谷・福田|2002|p=295}}。{{mvar|F}} を[[CM体]]、{{mvar|p}} を奇素数、{{math|''F''{{sub|∞}}/''F''}}
を円分
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大とする。このとき、{{math|''F''{{sub|''n''}}}} のイデアル類群のシロー {{mvar|p}} 部分群
{{math|''A''{{sub|''n''}}}}
には自然に複素共役が作用し、複素共役が±1倍で作用する部分空間
{{math|''A''{{subsup||''n''|±}}}}
の直和
{{math|1=''A''{{sub|''n''}} = ''A''{{subsup||''n''|+}} ⊕ ''A''{{subsup||''n''|&minus;}}}}
に分解できる。{{math|''A''{{subsup||''n''|+}}}}
を'''プラス部分'''(+-part){{Sfn|岩澤理論|2003|loc=山本「Stickelberger元」冒頭}}、{{math|''A''{{subsup||''n''|&minus;}}}}
を'''マイナス部分'''(&minus;-part)という。それぞれの部分空間に対して岩澤類数公式が成り立ち、対応する
{{math|λ}}
{{math|μ}}
をそれぞれ
{{math|λ{{sup|±}}}}
{{math|μ{{sup|±}}}}
とすると、{{math|''F''{{sub|∞}}/''F''}} の
{{math|λ}}
{{math|μ}}
{{math|1=λ = λ{{sup|+}} + λ{{sup|&minus;}}}},
{{math|1=μ = μ{{sup|+}} + μ{{sup|&minus;}}}}
と分解できる。同様の方法で岩澤加群
{{math|''X''}}
{{math|''X'' {{sup|±}}}}
に分解したとき、{{math|''X'' {{sup|+}}}}
{{mvar|F}}
の最大実部分体
{{math|''F''{{sup| +}}}}
の円分
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大の岩澤加群と同型になるので、プラス部分は実部分の寄与、マイナス部分は全体と実部分の差と考えられる。マイナス部分の {{math|λ}} については、'''木田の公式'''と呼ばれる[[リーマン・フルヴィッツの公式]]の類似が成り立つことが知られている{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=岡野「非可換岩澤理論の高次 λ-不変量について」§1}}{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=八森「代数体と函数体の類似」§6}}。

典型的なCM体は奇素数 {{mvar|p}} についての
{{mvar|p}} 分体
{{math|1=''F'' = '''Q'''(ζ{{sub|''p''}})}}
である{{Sfn|Washington|1997|p={{Google books quote|id=27zkBwAAQBAJ|page=39|39}}}}。これの最大実部分体の類数は {{mvar|p}} で割れないという予想を{{仮リンク|ヴァンディバー予想|en|Vandiver conjecture}}という{{Sfn|Washington|1997|p={{Google books quote|id=27zkBwAAQBAJ|page=78|78}}}}。もしこれが正しければ、{{math|1='''Q'''(ζ{{sub|''p''{{sup|''n''}}}})}}
の最大実部分体の類数も {{mvar|p}} で割れないので
{{math|''A''{{subsup||''n''|+}}}}
は0ということになる{{Sfn|Washington|1997|p={{Google books quote|id=27zkBwAAQBAJ|page=196|196}}}}。

次に、{{math|Gal(''F''/'''Q''')}}
でイデアル類群が分解される様子を見るため、典型的な例として
{{math|1=''F'' = '''Q'''(ζ{{sub|''p''}})}}
{{math|1=''F''{{sub|∞}} = ∪{{sub|''n'' ≧ 0}} '''Q'''(ζ{{sub|''p''{{sup|''n'' + 1}}}})}}
の場合を考える({{mvar|p}} は奇素数とする){{Sfn|Iwasawa|1958|pp=773-775|ps=. この論文に出てくるガロア群を適宜イデアル類群に置き換えて読む。}}。{{math|1=Δ = Gal(''F''/'''Q''')}}
と置き、{{math|ω: Δ → '''Z'''{{subsup||''p''|×}}}}
{{math|Δ}}
の任意の元
{{math|σ}}
に対して
{{math|1=ζ{{subsup||''p''|σ}} = ζ{{subsup||''p''|ω(σ)}}}}
が成り立つ唯一の準同型とする。{{math|Δ}}
{{math|''F''{{sub|''n''}}}}
のイデアル類群の {{mvar|p}} 成分
{{math|''A''{{sub|''n''}}}}
に自然に作用し
{{math|1=''A''{{sub|''n''}} = ⊕{{subsup||''k'' {{=}} 0|''p'' &minus; 2}} ''A''{{subsup||''n''|(''i'')}}}}
と分解できる。ここで
{{math|''A''{{subsup||''n''|(''i'')}}}}
{{math|1=σ''a'' = ω{{sup|''i''}}(σ)''a''}}
が成り立つ
{{math|''A''{{sub|''n''}}}}
の元たちからなる部分群である。これを '''{{math|ω{{sup|''i''}}}} 成分'''({{math|ω{{sup|''i''}}}}-part)という。{{math|ω{{sup|''i''}}}} 成分に対しても岩澤類数公式が成り立ち、これらの成分に対する岩澤不変量を
{{math|λ{{sup|(''i'')}}}},
{{math|μ{{sup|(''i'')}}}},
{{math|ν{{sup|(''i'')}}}}
とすると
{{math|''F''{{sub|∞}}/''F''}}
の岩澤不変量は
{{math|1=λ = {{sum|''i''|}} λ{{sup|(''i'')}}}}
などと分解できる。偶数の {{mvar|i}} に対する
{{math|ω{{sup|''i''}}}}
成分は
{{math|''A''{{sup|+}}}}
に含まれるので、ヴァンディバー予想が正しければこの成分は0である。部分的な結果として、[[栗原将人]]によって
{{math|''A''{{subsup||0|''p'' &minus; 3}}}}
は0であることが証明されている{{Sfn|藤井|2015|p=50}}。岩澤主予想は、奇数の {{mvar|i}} に対する
{{math|ω{{sup|''i''}}}}
成分に関する予想である。なお、このような分解はもっと一般の状況でも可能であるが、
{{math|Δ}} の指標の値が必ずしも
{{math|'''Z'''{{subsup||''p''|×}}}}
に入らないので、係数拡大が必要となる{{Sfn|Washington|1997|p={{Google books quote|id=27zkBwAAQBAJ|page=291|291}}}}。

=== 岩澤不変量 ===

岩澤不変量の
{{math|λ}}
{{math|μ}}
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}} }}
拡大
{{math|''F''{{sub|∞}}/''F''}}
に対して定まるので
{{math|λ(''F''{{sub|∞}}/''F'')}},
{{math|μ(''F''{{sub|∞}}/''F'')}}
などと書かれる{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=藤井「岩澤類数公式」§1}}。また、代数体
{{mvar|F}}
と素数
{{mvar|p}}
に対して
{{mvar|F}}
の円分
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}} }}
拡大
{{math|''F''{{sub|∞}}}}
は一意に定まるので、このときは
{{math|λ(''F''{{sub|∞}}/''F'')}}
{{math|λ{{sub|''p''}}(''F'')}}
と書いたりする{{Sfn|田谷・福田|2002|p=294}}。例えば
{{math|1=λ{{sub|3}}('''Q'''({{sqrt|&minus;239}})) = 6}}
などが知られている{{Sfn|田谷・福田|2002|p=301}}。

{{mvar|λ}} はイデアル類群の元の位数の増加を示すものであり、{{mvar|μ}} は {{mvar|p}} ランクの増加を示すものである{{Sfn|藤井|2015|p=36}}{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=藤井「岩澤類数公式」§4}}。

岩澤不変量にはまだ分からないことが多い{{Sfn|Greenberg|2001|p=339}}。次のような予想が立てられている。

: '''岩澤 {{math|μ}} 予想''' 円分 {{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}} 拡大 {{math|''F''{{sub|∞}}/''F''}} に対しては {{math|1=μ(''F''{{sub|∞}}/''F'') = 0}} であろう{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=藤井「岩澤類数公式」§4.2}}。

この予想は一般には未解決であるが、{{mvar|F}}
がアーベル体{{Efn|
有理数体のアーベル拡大体のこと。[[クロネッカー・ウェーバーの定理]]より、円分体の部分体と同義。
}}の場合は正しいことが証明されている({{仮リンク|フェレロ・ワシントンの定理|en|Ferrero–Washington theorem}}){{Sfn|岩澤理論|2003|loc=藤井「岩澤類数公式」§4.2}}。

: '''{{仮リンク|グリーンバーグ予想|en|Greenberg's conjectures}}''' 総実代数体 {{mvar|F}} の円分 {{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}} 拡大 {{math|''F''{{sub|∞}}/''F''}} に対しては {{math|1=λ(''F''{{sub|∞}}/''F'') = μ(''F''{{sub|∞}}/''F'') = 0}} であろう{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=藤井「岩澤類数公式」§4.2}}。

知られていることとしては次のようなことがある{{Sfn|Greenberg|2001|p=339}}。

* 代数体 {{mvar|F}} の類数が {{mvar|p}} で割り切れず、{{mvar|p}} の上にある {{mvar|F}} の素イデアルが一つしかないならば、任意の {{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}} 拡大 {{math|''F''{{sub|∞}}/''F''}} に対して {{math|1=λ = μ = ν = 0}} である。

* 素数 {{mvar|p}} が {{math|''F''/'''Q'''}} で完全分解し、{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}} 拡大 {{math|''F''{{sub|∞}}/''F''}} において {{mvar|p}} の上にある {{mvar|F}} の素点がすべて分岐するならば {{math|λ(''F''{{sub|∞}}/''F'') ≧ ''r''{{sub|2}}}} である。ここで {{math|''r''{{sub|2}}}} は {{mvar|F}} の複素素点の個数。

=== 特性多項式の具体例 ===

{{mvar|F}}
がアーベル体であれば、その円分
{{math|'''Z'''{{sub|''p''}}}}
拡大の岩澤加群のマイナス部分の特性多項式はスティッケルバーガー元を用いて具体的に構成できる{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=福田「岩澤による p-進 L-函数の構成の応用 (I)」§2}}。さらに
{{mvar|F}}
が虚二次体であればプラス部分は自明なので{{Sfn|田谷・福田|2002|p=299}}、マイナス部分の特性多項式が全体の特性多項式である。例えば、{{math|1=''p'' = 3}} で {{math|1=''F'' = '''Q'''({{sqrt|&minus;239}})}} の場合は

: {{math|1=''f''&thinsp;(''T'') ≡ ''T''{{sup| 6}} + 1284''T''{{sup| 5}} + 1404''T''{{sup| 4}} + 672''T''{{sup| 3}} + 1764''T''{{sup| 2}} + 1128''T'' (mod 3{{sup|7}})}}

である{{Sfn|岩澤理論|2003|loc=福田「岩澤による p-進 L-函数の構成の応用 (I)」§2, 例2.6}}。特性多項式は
{{mvar|p}}
進数係数の多項式なので、{{math|mod 3{{sup|7}}}} までの近似で表示している。


== 岩澤主予想 ==
== 岩澤主予想 ==
{{main|岩澤理論の主予想}}
{{main|岩澤理論の主予想}}
草創期の1950年代から理論の構築は絶えず続けられ、この加群の理論と[[久保田富雄|久保田]]やレオポルド (Leopoldt) が1960年代に考案した[[p-進L-函数| ''p''-進 L 関数]]の理論の間の基本的考察が提示された。''p'' 進 L 関数は、[[ベルヌーイ数]]から始めて補間法を用いて定義される、ディリクレの L 関数の ''p''-進の類似物である。最終的に、クンマーによる[[正則素数]]に関する結果から世紀を隔てて、フェルマーの最終定理の前進する見通しが立ったことが明らかとなった。
草創期の1950年代から理論の構築は絶えず続けられ、この加群の理論と[[久保田富雄|久保田]]やレオポルド (Leopoldt) が1960年代に考案した [[p-進L-函数|{{mvar|p}} {{mvar|L}} 関数]]の理論の間の基本的考察が提示された。{{mvar|p}}{{mvar|L}} 関数は、[[ベルヌーイ数]]から始めて補間法を用いて定義される、ディリクレの {{mvar|L}} 関数の {{mvar|p}} 進の類似物である。最終的に、クンマーによる[[正則素数]]に関する結果から世紀を隔てて、フェルマーの最終定理の前進する見通しが立ったことが明らかとなった。


'''岩澤主予想'''(Main conjecture of Iwasawa theory)は、(加群の理論と補間法の)二種類の方法で定義される ''p''-進 L 関数は(それが定義可能な限りは)一致するはずであるという形で定式化された。この予想は結果としては、[[バリー・メイザー]] (Barry Mazur) と[[アンドリュー・ワイルズ]]によって[[有理数|有理数体]] '''Q''' の場合に、またやはりワイルズによって任意の[[総実数体]]の場合に証明された。
'''岩澤主予想'''({{Lang-en-short|Main conjecture of Iwasawa theory}})は、(加群の理論と補間法の)二種類の方法で定義される {{mvar|p}} {{mvar|L}} 関数は(それが定義可能な限りは)一致するはずであるという形で定式化された。この予想は結果としては、[[バリー・メイザー]] と[[アンドリュー・ワイルズ]]によって[[有理数|有理数体]] '''Q''' の場合に、またやはりワイルズによって任意の[[総実数体]]の場合に証明された。


== 逸話 ==
== 逸話 ==
*岩澤理論はワイルズによるフェルマーの最終定理の解決に決定的貢献。(証明が1回否定された後、岩澤理論を使って証明できた{{要出典|date=2018年8月}}
*岩澤理論はワイルズによる[[フェルマーの最終定理]]の解決に貢献している。(証明発表後に致命的な誤り見つかった後、岩澤理論と[[コリヴァギン=フラッハ法]]を使って修正することができた{{Sfn|シン|2006|p=415}}。)


== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{notelist}}
=== 出典 ===
{{reflist|2}}


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
* {{citation | first1=J. | last1=Coates | authorlink1=ジョン・ヘンリー・コーツ | first2=R. | last2=Sujatha | authorlink2=ラムドライ・スジャータ | title=Cyclotomic Fields and Zeta Values | series=Springer Monographs in Mathematics | publisher=[[Springer-Verlag]] | year=2006 | isbn=3-540-33068-2 | zbl=1100.11002 }}
* {{citation | first1=J. | last1=Coates | authorlink1=ジョン・ヘンリー・コーツ | first2=R. | last2=Sujatha | authorlink2=ラムドライ・スジャータ | title=Cyclotomic Fields and Zeta Values | series=Springer Monographs in Mathematics | publisher=[[Springer-Verlag]] | year=2006 | isbn=3-540-33068-2 | zbl=1100.11002 }}
* {{Cite book| publisher = Academic Press| last = Coates| first = John| chapter = {{mvar|p}}-adic {{mvar|L}}-functions and Iwasawa’s theory| date = 1977| chapterurl = https://www.repository.cam.ac.uk/handle/1810/324552 | ref = harv }}
*{{Citation | last1=Greenberg | first1=Ralph | author1-link=ラルフ・グリーンバーグ | editor1-last=Miyake | editor1-first=Katsuya | editor1-link=三宅克哉 | title=Class field theory---its centenary and prospect (Tokyo, 1998) | url=https://www.math.washington.edu/~greenber/iwhi.ps | publisher=Math. Soc. Japan | location=Tokyo | series=Adv. Stud. Pure Math. | isbn=978-4-931469-11-2 | mr=1846466 | year=2001 | volume=30 | chapter=Iwasawa theory---past and present | pages=335–385 | zbl=0998.11054 }}
*{{Citation | last1=Greenberg | first1=Ralph | author1-link=ラルフ・グリーンバーグ | editor1-last=Miyake | editor1-first=Katsuya | editor1-link=三宅克哉 | title=Class field theory---its centenary and prospect (Tokyo, 1998) | publisher=Math. Soc. Japan | location=Tokyo | series=Adv. Stud. Pure Math. | isbn=978-4-931469-11-2 | mr=1846466 | year=2001 | volume=30 | chapter=Iwasawa theory---past and present | pages=335–385 | zbl=0998.11054 | doi = 10.2969/aspm/03010335 | url = https://projecteuclid.org/ebooks/advanced-studies-in-pure-mathematics/Class-Field-Theory--Its-Centenary-and-Prospect/chapter/Iwasawa-Theory--Past-and-Present/10.2969/aspm/03010335 | ref = harv }}
*{{Citation | last1=Iwasawa | first1=Kenkichi | authorlink=岩澤健吉 | title=On Γ-extensions of algebraic number fields | doi=10.1090/S0002-9904-1959-10317-7 | mr=0124316 | year=1959 | journal=Bulletin of the American Mathematical Society | volume=65 | issue=4 | pages=183–226| zbl=0089.02402 | issn=0002-9904 }}
*{{Citation | last1=Iwasawa | first1=Kenkichi | authorlink=岩澤健吉 | title=On Γ-extensions of algebraic number fields | doi=10.1090/S0002-9904-1959-10317-7 | mr=0124316 | year=1959 | journal=Bulletin of the American Mathematical Society | volume=65 | issue=4 | pages=183–226| zbl=0089.02402 | issn=0002-9904 }}
* {{Cite journal| doi = 10.2307/2372782| issn = 0002-9327| volume = 80| issue = 3| pages = 773–783| last = Iwasawa| first = Kenkichi| title = On Some Invariants of Cyclotomic Fields| journal = American Journal of Mathematics| date = 1958| url = https://www.jstor.org/stable/2372782| jstor = 2372782 | ref = harv}}
*{{Citation | last1=Kato | first1=Kazuya | author1-link=加藤和也 | editor1-last=Sanz-Solé | editor1-first=Marta | editor1-link=マルタ・サンス・ソーレ | editor2-last=Soria | editor2-first=Javier | editor3-last=Varona | editor3-first=Juan Luis | editor4-last=Verdera | editor4-first=Joan | title=International Congress of Mathematicians. Vol. I | url=http://www.icm2006.org/proceedings/Vol_I/18.pdf | publisher=Eur. Math. Soc., Zürich | isbn=978-3-03719-022-7 | doi=10.4171/022-1/14 | mr=2334196 | year=2007 | chapter=Iwasawa theory and generalizations | pages=335–357}}
*{{Citation | last1=Kato | first1=Kazuya | author1-link=加藤和也 | editor1-last=Sanz-Solé | editor1-first=Marta | editor1-link=マルタ・サンス・ソーレ | editor2-last=Soria | editor2-first=Javier | editor3-last=Varona | editor3-first=Juan Luis | editor4-last=Verdera | editor4-first=Joan | title=International Congress of Mathematicians. Vol. I | url=http://www.icm2006.org/proceedings/Vol_I/18.pdf | publisher=Eur. Math. Soc., Zürich | isbn=978-3-03719-022-7 | doi=10.4171/022-1/14 | mr=2334196 | year=2007 | chapter=Iwasawa theory and generalizations | pages=335–357}}
* {{Citation | last1=Lang | first1=Serge | author1-link=サージ・ラング | title=Cyclotomic fields I and II | url=https://books.google.com/books?isbn=0-387-96671-4 | publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin, New York | edition=Combined 2nd | series=Graduate Texts in Mathematics | isbn=978-0-387-96671-7 | year=1990 | volume=121 | zbl=0704.11038 | others=With an appendix by [[カール・ルービン|Karl Rubin]] }}
* {{Citation | last1=Lang | first1=Serge | author1-link=サージ・ラング | title=Cyclotomic fields I and II | url={{Google books|AFTmBwAAQBAJ|plainurl=yes}} | publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin, New York | edition=Combined 2nd | series=Graduate Texts in Mathematics | isbn=978-1-4612-0987-4 | year=1990 | volume=121 | zbl=0704.11038 | others=With an appendix by [[カール・ルービン|Karl Rubin]] | ref = harv }}
*{{Citation | last1=Mazur | first1=Barry | author1-link=バリー・メイザー | last2=Wiles | first2=Andrew | author2-link=アンドリュー・ワイルズ | title=Class fields of abelian extensions of '''Q''' | doi=10.1007/BF01388599 | mr=742853 | year=1984 | journal=Inventiones Mathematicae | issn=0020-9910 | volume=76 | issue=2 | pages=179–330 | zbl=0545.12005 }}
*{{Citation | last1=Mazur | first1=Barry | author1-link=バリー・メイザー | last2=Wiles | first2=Andrew | author2-link=アンドリュー・ワイルズ | title=Class fields of abelian extensions of '''Q''' | doi=10.1007/BF01388599 | mr=742853 | year=1984 | journal=Inventiones Mathematicae | issn=0020-9910 | volume=76 | issue=2 | pages=179–330 | zbl=0545.12005 }}
*{{Citation| last1=Neukirch | first1=Jürgen| last2=Schmidt | first2=Alexander | last3=Wingberg | first3=Kay| title=Cohomology of Number Fields | chapter=| publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin| series=''Grundlehren der Mathematischen Wissenschaften''| volume=323 | year=2008 | page=| isbn=978-3-540-37888-4 |mr=2392026 | zbl= 1136.11001 | edition=2nd}}
*{{Citation| last1=Neukirch | first1=Jürgen| last2=Schmidt | first2=Alexander | last3=Wingberg | first3=Kay| title=Cohomology of Number Fields | publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin| series=''Grundlehren der Mathematischen Wissenschaften''| volume=323 | year=2008 | page=| isbn=978-3-540-37888-4 |mr=2392026 | zbl= 1136.11001 | edition=2nd}}
** {{Cite book|
|first1 = Jürgen
|last1 = Neukirch
|first2 = Alexander
|last2 = Schmidt
|first3 = Kay
|last3 = Wingberg
|year = 2020
|title = Cohomology of Number Fields (Version 2.3, May 2020)
|url = https://www.mathi.uni-heidelberg.de/~schmidt/NSW2e/index.html
|ref = {{SfnRef|NSW|2020}}
|others = (オンライン版)
}}
*{{Citation | last1=Rubin | first1=Karl | title=The ‘main conjectures’ of Iwasawa theory for imaginary quadratic fields | doi=10.1007/BF01239508 | year=1991 | journal=Inventiones Mathematicae | issn=0020-9910 | volume=103 | issue=1 | pages=25–68 | zbl=0737.11030 }}
*{{Citation | last1=Rubin | first1=Karl | title=The ‘main conjectures’ of Iwasawa theory for imaginary quadratic fields | doi=10.1007/BF01239508 | year=1991 | journal=Inventiones Mathematicae | issn=0020-9910 | volume=103 | issue=1 | pages=25–68 | zbl=0737.11030 }}
*{{citation| last=Skinner| first=Chris| last2=Urban| first2=Éric| title=The Iwasawa main conjectures for GL<sub>2</sub>| year=2010| url=http://www.math.columbia.edu/%7Eurban/eurp/MC.pdf| page=219}}
*{{citation| last=Skinner| first=Chris| last2=Urban| first2=Éric| title=The Iwasawa main conjectures for GL<sub>2</sub>| year=2010| url=http://www.math.columbia.edu/%7Eurban/eurp/MC.pdf| page=219}}
*{{Citation | last1=Washington | first1=Lawrence C. | title=Introduction to cyclotomic fields | url=https://books.google.com/books?isbn=0-387-94762-0 | publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin, New York | edition=2nd | series=Graduate Texts in Mathematics | isbn=978-0-387-94762-4 | year=1997 | volume=83}}
*{{Citation | last1=Washington | first1=Lawrence C. | title=Introduction to cyclotomic fields | url={{Google books|27zkBwAAQBAJ|plainurl=yes}} | publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin, New York | edition=2nd | series=Graduate Texts in Mathematics | isbn=9781461219347 | year=1997 | volume=83 | ref = harv }}
* {{Citation | last=Wiles | first=Andrew | author-link=アンドリュー・ワイルズ | year = 1990 | title = The Iwasawa Conjecture for Totally Real Fields | journal = Annals of Mathematics | volume = 131 | issue = 3 | pages = 493–540 | doi = 10.2307/1971468 | publisher = Annals of Mathematics | zbl=0719.11071 }}
* {{Citation | last=Wiles | first=Andrew | author-link=アンドリュー・ワイルズ | year = 1990 | title = The Iwasawa Conjecture for Totally Real Fields | journal = Annals of Mathematics | volume = 131 | issue = 3 | pages = 493–540 | doi = 10.2307/1971468 | publisher = Annals of Mathematics | zbl=0719.11071 }}
* {{Cite book|和書
|title=2003年度整数論サマースクール報告集「岩澤理論」
|year=2003
|url=http://www.sci.u-toyama.ac.jp/~iwao/SS2003/Bin/Reports/ss2003report-all-articles.pdf
|ncid = BA66287840
|ref = {{SfnRef|岩澤理論|2003}}
}}
* {{Cite journal|和書
| doi = 10.11429/sugaku1947.45.366
| volume = 45| issue = 4| pages = 366–372
| author = 数学編集部
| title = 岩澤健吉先生のお話しを伺った120分
| journal = 数学
| year = 1993
| month=10
| publisher=[[岩波書店]]
| ref = {{SfnRef|岩澤健吉先生のお話しを伺った120分}} }}
* {{Cite journal|和書
| doi = 10.11540/jsiamt.12.4_293
| volume = 12
| issue = 4
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| author1 = 田谷久雄
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* {{Citation|和書
| author = 藤井俊
| contribution= 可換拡大の岩澤理論の代数的側面について
| title= [https://edu.tsuda.ac.jp/~t-hara/ss2014/proceedings.html 非可換岩澤理論]
| url = https://drive.google.com/file/d/1XnU452qfn8N1i1uop4sacnqSZELsv0Ut/view
| ncid = BB21054224
| format= PDF
| year=2015
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* {{Citation|和書
| title=フェルマーの最終定理
| author=[[サイモン・シン]]
| year=2006
|month=6|translator=青木薫| publisher=[[新潮社]]
| isbn=4-10-215971-1
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}}


== 関連文献 ==
== 関連文献 ==
46行目: 615行目:
*{{Cite book|和書|author=落合理|authorlink=落合理|date=2014-09-10|title=岩澤理論とその展望|volume=(上)|series=岩波数学叢書|publisher=岩波書店|isbn=978-4-00-029821-6|ref={{Harvid|落合|2014}}}}
*{{Cite book|和書|author=落合理|authorlink=落合理|date=2014-09-10|title=岩澤理論とその展望|volume=(上)|series=岩波数学叢書|publisher=岩波書店|isbn=978-4-00-029821-6|ref={{Harvid|落合|2014}}}}
*{{Cite book|和書|author=落合理|date=2016-08-24|title=岩澤理論とその展望|volume=(下)|series=岩波数学叢書|publisher=岩波書店|isbn=978-4-00-029822-3|ref={{Harvid|落合|2016}}}}
*{{Cite book|和書|author=落合理|date=2016-08-24|title=岩澤理論とその展望|volume=(下)|series=岩波数学叢書|publisher=岩波書店|isbn=978-4-00-029822-3|ref={{Harvid|落合|2016}}}}
*{{Cite journal|和書|author=数学編集部|year=1993|month=10|title=岩沢健吉先生のお話しを伺った120分|journal=数学|volume=45|issue=4|pages=366-372|publisher=岩波書店|ref={{harvid|数学編集部|1993}}}}
*{{Cite book|和書|author=福田隆|date=2019-01|title=重点解説 岩澤理論- 理論から計算まで -|series=SGCライブラリ145|publisher=[[サイエンス社]]||ref={{Harvid|福田|2019}}}}
*{{Cite book|和書|author=福田隆|date=2019-01|title=重点解説 岩澤理論- 理論から計算まで -|series=SGCライブラリ145|publisher=[[サイエンス社]]||ref={{Harvid|福田|2019}}}}


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2022年9月28日 (水) 13:35時点における版

数論における岩澤理論(いわさわりろん、: Iwasawa theory)は、岩澤健吉円分体の理論の一部として提唱し、バリー・メイザーラルフ・グリーンバーグクリストファー・スキナーらによって洗練・確立された、(無限次元拡大の)ガロア群イデアル類群における表現論である。

Zp 拡大

編:ヤコビ多様体との類似が出発点でないとすると pn 分体を全ての n について考察すると良いと云う事実にはどの様にして気付かれたのでしょうか.

岩澤:それはこういう事(円分体論)をちょっとやってみれば, 誰でも自然に考える事だと思います.(注:そうですか?)

—岩澤健吉(岩澤健吉先生のお話しを伺った120分, p. 370 より)

...岩沢理論の雰囲気は(私には)’滝の上には虹がかかる’といったものだと感じられます.(滝 ↔ Zp 拡大)
伊原康隆「‘フェルマ,ニュートン,ワイルス’」『数学』第45巻第4号、1993年、375頁、doi:10.11429/sugaku1947.45.372 
Zp 拡大の図

岩澤理論では、有限次代数体Zp 拡大Zp-extension)というものを考える。素数 p と有限次代数体 F に対して、体の拡大 F/FZp 拡大であるとは、これがガロア拡大であって、そのガロア群 Gal(F/F)p 進整数環 Zp加法群位相群として同型であることをいう[1]Zp 拡大のガロア群は Γ ≔ Gal(F/F) と書かれ、アーベル群ではあるが乗法的に記される。n を非負整数としたとき、Zp には pn の倍数たちからなる有限指数の開部分群があるので、Γ にもそのような部分群がある。これは ΓZp の同型の取り方によらない。この部分群を Γn と書く[注釈 1]Γn にガロア対応する F部分体Fn と書き、Zp 拡大 F/Fnn-th layer)という[2]。これは F/F中間体で、Fpn 次である唯一のものであり[1]F 上の巡回拡大である[3]Fn たちは体の塔(拡大列)

を構成する。代数体 FZp 拡大を与えることと、このような Fn の拡大列を与えることは同値である[4]。実際、このような拡大列が与えられれば、Fn のガロア群は加法群 Z/pnZ と同型であり、F のガロア群(無限次代数拡大のガロア群なので射有限群Γ はこれらが自然な射影によって成す逆系の逆極限Z の射有限完備化)、つまり Zp である。これはまた、ポントリャーギン双対を考えれば、任意の p の冪に対する 1 の冪根全体が成す円周群の離散部分群の双対として得られるコンパクト群が Γ であるとも述べられる。

Zp 拡大の基本的な例は円分 Zp 拡大(cyclotomic Zp-extension)である。自然数 n に対して ζn1の原始 n 乗根を表すものとする。例えば複素数体の中で考え、ζn ≔ exp(2πi/n) とする。奇素数 p に対して、有理数体に1の原始 pn 乗根をすべて添加した体、つまり Qpn)合成体 n ≧ 0 Qpn)Qp) 上の Zp 拡大である[1]。また、この合成体を有理数体 Q 上の拡大体とみると、これはガロア拡大で、そのガロア群 Gal(∪n ≧ 0 Qpn)/Q)Gal(Qp)/QZp と同型であるので、これの部分体で Q 上の Zp 拡大であるものが存在する[1]。これを Qcyc
 
と書き、有理数体の円分 Zp 拡大という。任意の有限次代数体 F に対して合成体 FQcyc
 
Zp 拡大になる。これを F の円分 Zp 拡大という[5]。円分 Zp 拡大の存在から、任意の代数体に対して少なくとも1つは Zp 拡大が存在することがわかる。

代数体 FZp 拡大は一般に無限に存在しうる。FZp 拡大すべての合成を ~F とすると

が成り立つことが知られている[6]。ここで dr2 + 1 ≤ d ≤ [F : Q] を満たすある整数、r2F の複素素点の個数である。このことから、F総実体でなければ無限に多くの Zp 拡大が存在することがわかる[6]。ここに出てきた定数 d が、実は d = r2 + 1 であろうというのがレオポルト予想英語版である[7]。レオポルト予想は、有理数体のアーベル拡大体や虚二次体のアーベル拡大体については正しいことが知られている[7]

円分 Zp 拡大ではない Zp 拡大の例としては、虚二次体の反円分 Zp 拡大(anti-cyclotomic Zp-extension)というものがあげられる[8]p を5以上の素数[9]K を虚二次体とする。Kr2 は1で [F : Q] は2であるから、この場合はレオポルト予想が自明に成立する。したがって K にはガロア群が Z2
p
 
と同型になる唯一の拡大体 K (2)
 
が存在する。Gal(K (2)
 
/K)
には複素共役が作用しており、複素共役が±1倍で作用する部分群を Γ± とすると、Gal(K (2)
 
/K)
Γ± の直積に分解できる。Γ+ の固定体 K 
 
は円分的ではない Zp 拡大 になっている。これを反円分 Zp 拡大という。

イデアル類群と岩澤類数公式

p を素数、F/F を有限次代数体 FZp 拡大とする。第 nFnイデアル類群 Cl(Fn)シロー p 部分群p 部分)[注釈 2]An とする。ここでの動機というのは、F = Qp) のとき、そのイデアル類群の p 部分こそがフェルマーの最終定理の直接証明における主要な障害となっている、ということがクンマーによって既に特定されていたということによるものである。An は有限 p なのでその位数 #An はある整数 en を用いて #An = pen と書ける。岩澤は、ある3つの整数 μ, λ, ν(最初の2つは非負整数)が存在して、n が十分大きいとき

が成り立つことを示した[1]。これを岩澤類数公式(Iwasawa class number formula)といい、この公式に現れる3つの数を岩澤不変量(Iwasawa invariant)という。3つのうちどれか1つを指し示したいときは、例えば岩澤 λ 不変量などという[11]

証明と岩澤代数

次の仮定のもとで証明の概略を見る[12]

(*) 素数 p の上にある F の素イデアルは唯一つで、さらにその素イデアルは F/F完全分岐する

証明は、まずイデアル類群の極限をとることからはじまる。2つの正整数 mn があったとき、代数体の有限次拡大 Fn/Fmノルム写像からイデアル類群の準同型 AmAn ができる[13]。これによる逆極限 lim AnX と書き、F/F岩澤加群という[14]。岩澤の独自性は、「無限大に飛ばす」という新しい着想にあった。

岩澤加群 X がわかれば An もわかる。実際、Γ=Gal(F/F) の元 γ0Zp の乗法単位元1に対応する元(位相的生成元といっても同じこと)とすると An = X/(γpn
0
 
− 1)X
が成り立つことがわかる[15][注釈 3]

岩澤加群 X の構造は、これを完備群環上の加群とみることによって調べられる。An は有限 p 群なので自然に Zp の元の乗算が定義でき、またガロア群 Γ/Γn が作用しているので、その極限の X には完備群環 Λ ≔ Zp⟦Γ⟧ = lim Zp[Γ/Γn] の作用が定義できる[16]。この環 Λ は、実は Zp 係数の形式的べき級数環 Zp⟦T⟧T + 1 ↔ γ0 によって同型であることが示される(位相的生成元の取り方に依存するので、標準的ではない)[17]ΛZp⟦T⟧岩澤代数英語版と呼ばれている[18]。岩澤代数は岩澤理論において中心的な役割を演ずる。例えば、岩澤主予想と呼ばれる予想は Λ のある2つのイデアルが等しいという予想である。

岩澤加群 X は岩澤代数 Λ ≃ Zp⟦T⟧ 上の加群であることがわかった。さらに有限生成であることが示される[15]Λ は2次元の正則局所環とよばれる(その上の加群のそれほど粗くない分類が非常に容易であるという意味で)素性の良い環であるので、その有限生成加群には構造定理がある[19]。これを使うことにより、X は次の形の加群

擬同型(pseudo-isomorphism)であること、つまり有限群による違いを除いてこれと同型であることが示される。r はイデアル類群の有限性から0である[20]

このようにして得られた岩澤加群 X の表示と An = X/(γpn
0
 
− 1)X
を使うことにより An の個数を mifj で表すことができる。そして μλ

で定義すると岩澤類数公式が成り立つことがわかる[21]。以上が証明の概略である。

なお、すべての pmifj(T)nj を乗じて得られる多項式

を岩澤加群 X特性多項式(characteristic polynomial)といい、これによって生成される Λ のイデアルを特性イデアル(characteristic ideal)という[19]charΛ(X) で特性イデアルの方を表すこともある。特性多項式は任意の有限生成 torsion Λ 加群 M に対して定義され、同様に charΛ(M) という記号で書かれる。岩澤不変量の λ は特性多項式 charΛ(X) の次数であり、μ は特性多項式を割り切る最大 p べきの指数である。岩澤主予想は Λ のある2つのイデアルが等しいという予想であるが、そのイデアルのうちの一つが、簡単にいうとこの特性イデアルである。

固有空間への分解

代数体 F に複素共役や Gal(F/Q) が作用している場合には、その作用でイデアル類群を固有空間(eigenspace)[22]に分解することができ、分解したものたちに対して同様の公式が得られる。

まず複素共役の場合を見る[23]FCM体p を奇素数、F/F を円分 Zp 拡大とする。このとき、Fn のイデアル類群のシロー p 部分群 An には自然に複素共役が作用し、複素共役が±1倍で作用する部分空間 A±
n
 
の直和 An = A+
n
 
A
n
 
に分解できる。A+
n
 
プラス部分(+-part)[24]A
n
 
マイナス部分(−-part)という。それぞれの部分空間に対して岩澤類数公式が成り立ち、対応する λμ をそれぞれ λ±μ± とすると、F/Fλμλ = λ+ + λ, μ = μ+ + μ と分解できる。同様の方法で岩澤加群 XX ± に分解したとき、X +F の最大実部分体 F + の円分 Zp 拡大の岩澤加群と同型になるので、プラス部分は実部分の寄与、マイナス部分は全体と実部分の差と考えられる。マイナス部分の λ については、木田の公式と呼ばれるリーマン・フルヴィッツの公式の類似が成り立つことが知られている[25][26]

典型的なCM体は奇素数 p についての p 分体 F = Qp) である[27]。これの最大実部分体の類数は p で割れないという予想をヴァンディバー予想英語版という[28]。もしこれが正しければ、Qpn) の最大実部分体の類数も p で割れないので A+
n
 
は0ということになる[29]

次に、Gal(F/Q) でイデアル類群が分解される様子を見るため、典型的な例として F = Qp)F = ∪n ≧ 0 Qpn + 1) の場合を考える(p は奇素数とする)[30]Δ = Gal(F/Q) と置き、ω: Δ → Z×
p
 
Δ の任意の元 σ に対して ζσ
p
 
= ζω(σ)
p
 
が成り立つ唯一の準同型とする。ΔFn のイデアル類群の p 成分 An に自然に作用し An = ⊕p − 2
k = 0
 
A(i)
n
 
と分解できる。ここで A(i)
n
 
σa = ωi(σ)a が成り立つ An の元たちからなる部分群である。これを ωi 成分ωi-part)という。ωi 成分に対しても岩澤類数公式が成り立ち、これらの成分に対する岩澤不変量を λ(i), μ(i), ν(i) とすると F/F の岩澤不変量は λ = ∑
i
λ(i)
などと分解できる。偶数の i に対する ωi 成分は A+ に含まれるので、ヴァンディバー予想が正しければこの成分は0である。部分的な結果として、栗原将人によって Ap − 3
0
 
は0であることが証明されている[31]。岩澤主予想は、奇数の i に対する ωi 成分に関する予想である。なお、このような分解はもっと一般の状況でも可能であるが、 Δ の指標の値が必ずしも Z×
p
 
に入らないので、係数拡大が必要となる[32]

岩澤不変量

岩澤不変量の λμZp 拡大 F/F に対して定まるので λ(F/F), μ(F/F) などと書かれる[1]。また、代数体 F と素数 p に対して F の円分 Zp 拡大 F は一意に定まるので、このときは λ(F/F)λp(F) と書いたりする[11]。例えば λ3(Q(−239)) = 6 などが知られている[33]

λ はイデアル類群の元の位数の増加を示すものであり、μp ランクの増加を示すものである[34][35]

岩澤不変量にはまだ分からないことが多い[36]。次のような予想が立てられている。

岩澤 μ 予想 円分 Zp 拡大 F/F に対しては μ(F/F) = 0 であろう[37]

この予想は一般には未解決であるが、F がアーベル体[注釈 4]の場合は正しいことが証明されている(フェレロ・ワシントンの定理英語版[37]

グリーンバーグ予想英語版 総実代数体 F の円分 Zp 拡大 F/F に対しては λ(F/F) = μ(F/F) = 0 であろう[37]

知られていることとしては次のようなことがある[36]

  • 代数体 F の類数が p で割り切れず、p の上にある F の素イデアルが一つしかないならば、任意の Zp 拡大 F/F に対して λ = μ = ν = 0 である。
  • 素数 pF/Q で完全分解し、Zp 拡大 F/F において p の上にある F の素点がすべて分岐するならば λ(F/F) ≧ r2 である。ここで r2F の複素素点の個数。

特性多項式の具体例

F がアーベル体であれば、その円分 Zp 拡大の岩澤加群のマイナス部分の特性多項式はスティッケルバーガー元を用いて具体的に構成できる[38]。さらに F が虚二次体であればプラス部分は自明なので[39]、マイナス部分の特性多項式が全体の特性多項式である。例えば、p = 3F = Q(−239) の場合は

f (T) ≡ T 6 + 1284T 5 + 1404T 4 + 672T 3 + 1764T 2 + 1128T (mod 37)

である[40]。特性多項式は p 進数係数の多項式なので、mod 37 までの近似で表示している。

岩澤主予想

草創期の1950年代から理論の構築は絶えず続けられ、この加群の理論と久保田やレオポルド (Leopoldt) が1960年代に考案した pL 関数の理論の間の基本的考察が提示された。pL 関数は、ベルヌーイ数から始めて補間法を用いて定義される、ディリクレの L 関数の p 進の類似物である。最終的に、クンマーによる正則素数に関する結果から世紀を隔てて、フェルマーの最終定理の前進する見通しが立ったことが明らかとなった。

岩澤主予想: Main conjecture of Iwasawa theory)は、(加群の理論と補間法の)二種類の方法で定義される pL 関数は(それが定義可能な限りは)一致するはずであるという形で定式化された。この予想は結果としては、バリー・メイザーアンドリュー・ワイルズによって有理数体 Q の場合に、またやはりワイルズによって任意の総実数体の場合に証明された。

逸話


脚注

注釈

  1. ^ Greenberg (2001) の記法。文献によっては本稿で Γ/Γn と書くものを Γn と書いている。岩澤理論 (2003) の青木「岩澤主予想のEuler系による証明」など。
  2. ^ これを p 成分と呼ぶこともある[10]
  3. ^ ここで仮定(*)を使う。この仮定がない場合にはもっと複雑になる。岩澤理論 (2003, 藤井「岩澤類数公式」) の命題2.3及び系2.1参照。また、このことの証明には類体論によりイデアル類群がヒルベルト類体のガロア群と同型であることも使う。
  4. ^ 有理数体のアーベル拡大体のこと。クロネッカー・ウェーバーの定理より、円分体の部分体と同義。

出典

  1. ^ a b c d e f 岩澤理論 2003, 藤井「岩澤類数公式」§1.
  2. ^ 藤井 2015, p. 22.
  3. ^ Greenberg 2001, p. 335.
  4. ^ Coates 1977, p. 275.
  5. ^ 田谷・福田 2002, p. 293.
  6. ^ a b Greenberg 2001, p. 340.
  7. ^ a b Greenberg 2001, p. 341.
  8. ^ 岩澤理論 2003, 松野「岩澤理論の楕円曲線の数論への応用」§2.1.
  9. ^ 岩澤理論 2003, 松野「岩澤理論の楕円曲線の数論への応用」§2冒頭.
  10. ^ 岩澤理論 2003, 栗原「岩澤主予想の保型形式による証明」§0.
  11. ^ a b 田谷・福田 2002, p. 294.
  12. ^ Greenberg 2001, p. 336.
  13. ^ 岩澤理論 2003, 伊藤「有限生成 Λ 加群の 構造定理」§1.
  14. ^ 岩澤理論 2003, 藤井「岩澤類数公式」§2.2. NSW (2020) では岩澤代数 Λ に対する任意のコンパクト Λ 加群を岩澤加群と呼んでおり、定義は著者によって異なる。
  15. ^ a b Greenberg 2001, p. 337.
  16. ^ 岩澤理論 2003, 伊藤「有限生成Λ加群の構造定理」§1.
  17. ^ 岩澤理論 2003, 伊藤「有限生成Λ加群の構造定理」定理1.3.
  18. ^ NSW 2020, p. 291.
  19. ^ a b 岩澤理論 2003, 伊藤「有限生成Λ加群の構造定理」§2.3.
  20. ^ 岩澤理論 2003, 藤井「岩澤類数公式」定理2.2.
  21. ^ Greenberg 2001, p. 338.
  22. ^ Coates 1977, p. 282.
  23. ^ 田谷・福田 2002, p. 295.
  24. ^ 岩澤理論 2003, 山本「Stickelberger元」冒頭.
  25. ^ 岩澤理論 2003, 岡野「非可換岩澤理論の高次 λ-不変量について」§1.
  26. ^ 岩澤理論 2003, 八森「代数体と函数体の類似」§6.
  27. ^ Washington 1997, p. 39.
  28. ^ Washington 1997, p. 78.
  29. ^ Washington 1997, p. 196.
  30. ^ Iwasawa 1958, pp. 773–775. この論文に出てくるガロア群を適宜イデアル類群に置き換えて読む。
  31. ^ 藤井 2015, p. 50.
  32. ^ Washington 1997, p. 291.
  33. ^ 田谷・福田 2002, p. 301.
  34. ^ 藤井 2015, p. 36.
  35. ^ 岩澤理論 2003, 藤井「岩澤類数公式」§4.
  36. ^ a b Greenberg 2001, p. 339.
  37. ^ a b c 岩澤理論 2003, 藤井「岩澤類数公式」§4.2.
  38. ^ 岩澤理論 2003, 福田「岩澤による p-進 L-函数の構成の応用 (I)」§2.
  39. ^ 田谷・福田 2002, p. 299.
  40. ^ 岩澤理論 2003, 福田「岩澤による p-進 L-函数の構成の応用 (I)」§2, 例2.6.
  41. ^ シン 2006, p. 415.

参考文献

関連文献

  • 岩沢健吉「代数体と函数体とのある類似について」『数学』第15巻第2号、岩波書店、1963年10月、65-67頁。 
  • 落合理『岩澤理論とその展望』 (上)、岩波書店〈岩波数学叢書〉、2014年9月10日。ISBN 978-4-00-029821-6 
  • 落合理『岩澤理論とその展望』 (下)、岩波書店〈岩波数学叢書〉、2016年8月24日。ISBN 978-4-00-029822-3 
  • 福田隆『重点解説 岩澤理論- 理論から計算まで -』サイエンス社〈SGCライブラリ145〉、2019年1月。 

外部リンク