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「トヨタ・G16E-GTS」の版間の差分

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== 開発・製造 ==
== 開発・製造 ==


このエンジンは[[GR (トヨタ自動車)|TOYOTA GAZOO Racing company]]のパワートレイン部門にて[[開発]]が行われた<ref>{{Cite web|url=https://www.autocar.jp/post/692312|title=【開発の重要人物へ聞く】トヨタGRヤリス お手頃ドライバーズカーのベスト AUTOCARアワード2021 後編|publisher=AUTO CAR JAPAN|year=2021-06-22|accessdate=2021-12-15}}</ref>。ベースとなったエンジンはダイナミックフォースエンジンの[[トヨタ・ダイナミックフォースエンジン#M15A型|M15A型]]であり、専用設計としつつも、そのベースエンジンに[[ボアアップ|排気量の拡大]]を施したり、[[ボールベアリング]][[ターボ]]を装着したりするなどして開発された<ref name="Prototype"/>。
このエンジンは[[GR (トヨタ自動車)|TOYOTA GAZOO Racing company]]のパワートレイン部門にて[[開発]]が行われた<ref>{{Cite web|url=https://www.autocar.jp/post/692312|title=【開発の重要人物へ聞く】トヨタGRヤリス お手頃ドライバーズカーのベスト AUTOCARアワード2021 後編|publisher=AUTO CAR JAPAN|year=2021-06-22|accessdate=2021-12-15}}</ref>。ベースとなったエンジンはダイナミックフォースエンジンの[[トヨタ・ダイナミックフォースエンジン#M15A型|M15A型]]であり、GRヤリス専用設計、ゼロベース開発としつつも<ref name="book ref"/>、そのベースエンジンに[[ボアアップ|排気量の拡大]]を施したり、[[ボールベアリング]][[ターボ]]を装着したりするなどして開発された<ref name="Prototype"/>。


=== 開発経緯 ===
[[製造]][[生産]]はトヨタ自動車の下山工場で行われており<ref name="Simoyama factory"/>

当機はWRCのRC2クラスで勝てることをコンセプトにしたGRヤリス専用エンジン(登場当時)として開発が開始された<ref name="book ref"/>。トヨタのエンジン開発チームは開発初期の段階で競技用エンジンの規定や使われ方を調べるべく[[ヨーロッパ]]にわたり徹底的な調査を行なった<ref name="book ref"/>。すると競技用エンジンは4500rpm - 6200rpmの回転域を多用することが判明、加えてヤリスの競合車種を打ち負かすためには1クラス上にも優る動力性能が要求されることも判った<ref name="book ref"/>。また多品種少産を行う下山工場で生産を行うことなども踏まえて、TNGAエンジンからある程度切り離しゼロベース開発を前提としたGRヤリス専用エンジン『'''G16E-GTS型'''』の開発が開始された<ref name="book ref"/>。

開発理念には豊田章男社長が求めた『モータースポーツから量産へ』『競技に耐えられる、ラリーで勝てるエンジン』を目標に掲げた<ref name="book ref"/>。

まず、エンジンレイアウトは開発初期のうちから3気筒エンジンとすることが決定した<ref name="book ref"/>。これは排気干渉を起こさず、4気筒では必須の[[ツインスクロールターボ]]が不要であるレイアウトであったり、排気カムに[[可変バルブ機構|可変動弁機構]]がなくとも中低速のトルクが出しやすいという特性があったり、4気筒と比較しエンジン重量を抑えられるなどの要素からターボエンジンの最適解とエンジン開発チームが判断したためである<ref name="book ref"/>。

エンジンスペックは[[CAE]]を駆使しゼロベースから諸元設定を行った<ref name="book ref"/>。ボアストロークの設定は、出力の最大化を追求しある固定した排気量から6000 rpm時に最適なボア径を算出したところから始まった<ref name="book ref"/>。このときの最適なボア径は87 - 88 mmであったが、車両搭載を考慮しボア径87.5 mmに設定した<ref name="book ref"/>{{Efn|このボア径はA25A型と同じではあるが、結果的なものでありA25A型との関係性はない<ref name="book ref"/>。}}。また、ストローク量は1,600 ccの排気量から逆算を行う形で算出されたが、途中から1,620ccまでが許容範囲であることに気付いた開発陣は許容排気量全てを使い切る方向に舵を切り、最終的に89.7 mmのストローク量に設定した<ref name="book ref"/>。以上のボアストロークから求めた総排気量は許容範囲ギリギリの1,618ccとなった<ref name="book ref"/>。

バルブ径もボアストロークと同じくCAEを用いた開発が行われたが、通常、充填効率を求めると吸気バルブ径が排気バルブ径よりも大きくなるところ、吸気バルブ径と排気バルブ径がかなり近い大きさになっている<ref name="book ref"/>。
{{Main|[[#ヘッド・カムバルブ・インジェクター|#ヘッド・カムバルブ・インジェクターのバルブ径]]}}

ピストンの軽量化は開発陣を最も苦労させた<ref name="book ref"/>。それは3気筒という気筒数が少ないエンジンレイアウトだと重量のアンバランスに繋がり、振動抑制が厳しくなるにもかかわらず、高出力にも耐えられる軽量なピストンを作らなければならないためである<ref name="book ref"/>。これはトヨタ自動車が持つ技術の全てを注ぎ込み、トヨタ自動車の2Lクラスのエンジン(8AR-FTS)と同様の重量に抑えることで解消した<ref name="book ref"/>。具体例を挙げると、トップリングの溝にニレジスト鋼を挿入したり、ピストンピンに[[ダイヤモンドライクカーボン|DLC]]を塗布したり、ピストン表面に強度増強のための[[ショット・ブラスト|ショットブラスト]]を掛ける、スカート部に樹脂コーティングを施しフリクション軽減を行うなどの加工をしている<ref name="book ref"/>。

ターボチャージャーは2Lエンジンサイズの大型でボールベアリング支持のものを採用した<ref name="book ref"/>。ボールベアリング支持にした理由は[[モリゾウ]](豊田章男社長)がテストドライバーとして開発に携わっていた際に「野性味が足りない」というフィードバックを送り、フィードバックを受け取った開発陣がダイレクト感を要すと判断して採用した<ref name="book ref"/>。これにより、無駄な渦の抑制、コンプレッサーホイールのチップクリアランスの最適化、吸気の高効率昇圧が達成された<ref name="book ref"/>。

また、エンジン製造時にも工夫を凝らしており、異物管理を徹底するためにライン内には関係者以外の立入を禁止する、手組みで組立てを行いピストン、ピストンピン、コンロッド重量のずれの許容範囲をトヨタ自動車従来基準の2分の1に設定するなど厳しい品質管理を行っている<ref name="book ref"/>。

=== 製造・生産 ===

[[製造]][[生産]]はトヨタ自動車の下山工場で、シリンダーブロックを始め[[鋳物]]部品の[[鋳造]]はトヨタ自動車の上郷工場で行われており<ref name="book ref"/><ref name="Simoyama factory"/>
、下山工場で「匠」と呼ばれる熟練工が製造した証に「'''''{{Colors|#fff|#000000|&nbsp;G&nbsp;}}{{Colors|#fff|#e60000|&nbsp;R&nbsp;}}''''' '''SIMOYAMA''' '''{{Colors|#fff|#000000|&nbsp;匠&nbsp;}}'''」と書かれた品質証明のエンブレムが貼られている<ref name="Simoyama factory"/>。また、エンジン生産は専用[[ライン]]を使用せず通常の混流生産ラインを用いて行われており、[[不純物]]混入を防止する対策や、高精度に組み上げる[[技術]]などさまざまな工夫をして、レーシングエンジンに近い高精度さながらも通常ラインでの[[量産]]を実現している<ref name="Simoyama factory"/>。
、下山工場で「匠」と呼ばれる熟練工が製造した証に「'''''{{Colors|#fff|#000000|&nbsp;G&nbsp;}}{{Colors|#fff|#e60000|&nbsp;R&nbsp;}}''''' '''SIMOYAMA''' '''{{Colors|#fff|#000000|&nbsp;匠&nbsp;}}'''」と書かれた品質証明のエンブレムが貼られている<ref name="Simoyama factory"/>。また、エンジン生産は専用[[ライン]]を使用せず通常の混流生産ラインを用いて行われており、[[不純物]]混入を防止する対策や、高精度に組み上げる[[技術]]などさまざまな工夫をして、レーシングエンジンに近い高精度さながらも通常ラインでの[[量産]]を実現している<ref name="Simoyama factory"/>。


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=== ヘッド・カムバルブ・インジェクター ===
=== ヘッド・カムバルブ・インジェクター ===


[[シリンダーヘッド]]は軽量化のためにアルミブロックであり<ref name="TOYOTA"/>、冷却水の流れを加速させるためウォータージャケットを2つに分割<ref name="Engine mechanism"/>。吸排気動弁機構は[[DOHC]]を採用し、タイミングチェーンにより駆動する<ref name="Engine mechanism"/>。また、DOHCながら油圧式[[ラッシュアジャスター]]が採用されている<ref name="Engine mechanism"/>{{Efn|DOHCに油圧式ラッシュアジャスターが採用された例として、トヨタが初めて独自開発したDOHCエンジン[[トヨタ・M型エンジン#5M-GEU - 2800cc|5M-GEU]]が挙げられる<ref>{{Cite web|url=https://web.motormagazine.co.jp/_ct/17358908|title=5M-GEU型エンジンに見る、トヨタのDOHC戦略(中編)|publisher=motor magazine|year=2020-04-27|accessdate=2021-12-15}}</ref><ref>{{Cite web|url=https://gazoo.com/car/keyperson/16/07/01/|title=元トヨタソアラ開発主査、岡田稔弘氏に聞く|publisher=GAZOO|year=2016-07-01|accessdate=2021-12-15}}</ref>。}}。
[[シリンダーヘッド]]は軽量化のためにアルミブロックであり<ref name="TOYOTA"/>、冷却水の流れを加速させるためウォータージャケットを2つに分割<ref name="Engine mechanism"/>。吸排気動弁機構は[[DOHC]]を採用し、タイミングチェーンにより駆動する<ref name="Engine mechanism"/><ref name="book ref"/>。また、DOHCながら油圧式[[ラッシュアジャスター]]が採用されている<ref name="Engine mechanism"/><ref>{{Cite web |url=https://www.youtube.com/watch?v=llD0B2Xc9Vg |title=Destruction?! Inside the Brown Toyota GR Yaris engine |publisher=YouTube |date=2021-03-17 |accessdate=2022-02-03}}</ref>
{{Efn|DOHCに油圧式ラッシュアジャスターが採用された例として、トヨタが初めて独自開発したDOHCエンジン[[トヨタ・M型エンジン#5M-GEU - 2800cc|5M-GEU]]が挙げられる<ref>{{Cite web|url=https://web.motormagazine.co.jp/_ct/17358908|title=5M-GEU型エンジンに見る、トヨタのDOHC戦略(中編)|publisher=motor magazine|year=2020-04-27|accessdate=2021-12-15}}</ref><ref>{{Cite web|url=https://gazoo.com/car/keyperson/16/07/01/|title=元トヨタソアラ開発主査、岡田稔弘氏に聞く|publisher=GAZOO|year=2016-07-01|accessdate=2021-12-15}}</ref>。}}。


[[カムシャフト]]は中空組立カムシャフトを採用し、軽量、高レスポンス化を行っている<ref name="TOYOTA"/>。両方のカムシャフトに可変バルブタイミング機構の[[VVT-i]]を装着し、吸気側が70°まで、排気側が41°までの可動範囲でバルブタイミングを制御する<ref name="Engine mechanism"/>。
[[カムシャフト]]はトヨタ自動車が独自に開発した鋼製の中空組立カムシャフトを採用し<ref name="book ref"/>、軽量、高レスポンス化を行っている<ref name="book ref"/><ref name="TOYOTA"/>。両方のカムシャフトに可変バルブタイミング機構の[[VVT-i]]を装着し、吸気側が70°まで、排気側が41°までの可動範囲でバルブタイミングを制御する<ref name="Engine mechanism"/>。


[[タペット|カムキャップ]]は2階建て構造を採用しており、M15A型に比べ2kgの軽量化を達成<ref name="book ref"/>。タイミングチェーンカバーの構造変更{{Efn|M15A型は1枚で構成されているのに対し当機はチェーンカバーを上下2枚に分割した構成である<ref name="book ref"/>。}}も行い同じくM15A型に比べ1kgの軽量化を更に達成している<ref name="book ref"/>。
[[バルブ#レシプロ内燃機関におけるバルブ|バルブ]]関連ではダイナミックフォースエンジンの特徴であるレーザークラッドバルブシートを使用せずバルブシートを工夫して打ち込んでいる<ref name="report"/>。これはダイナミックフォースエンジンと同様に高ダンブルでの高速燃焼を実現しつつも、シートの打ち換え等[[メンテナンス]]や[[カスタマイズ]]、[[チューニング]]での扱いにくさを解消するためである<ref name="report"/>。

[[バルブ#レシプロ内燃機関におけるバルブ|バルブ]]関連ではダイナミックフォースエンジンの特徴であるレーザークラッドバルブシートを使用せずバルブシートを工夫して打ち込んでいる<ref name="report"/>。これはダイナミックフォースエンジンと同様に高ダンブルでの高速燃焼を実現しつつも、シートの打ち換え等[[メンテナンス]]や[[カスタマイズ]]、[[チューニング]]での扱いにくさを解消するためである<ref name="report"/>。バルブ径は[[インテークマニホールド|吸気]]側が32.8 mm、[[エキゾーストマニホールド|排気]]側が32.0 mmと通常では空気を多く取り入れるため吸気側を大きくするのに対し、吸気バルブと排気バルブの大きさが近いものとなっている<ref name="book ref"/>。これは当機がターボエンジンで排気を再利用できるため、排気流量を増やすことを念頭に置いて[[CAE]]設計をした結果である<ref name="book ref"/>{{Efn|ただし、吸気側のバルブにもバルブ径を極力大きくするなどの追求を行ったり、レーザークラッドバルブシートを採用せずともダイナミックフォースエンジンさながらの効率及びダンブル流を実現することを求めたりして偏心バルブシートを圧入する、吸気ポートに機械加工を施し複雑かつストレートな形状を作り出すなどの工夫がされている<ref name="book ref"/>。}}。


[[燃料噴射装置|インジェクター]]は[[燃料噴射装置#マルチポイントインジェクション|ポート噴射]]・[[ガソリン直噴エンジン|直噴]]を併用する「D-4S」のターボ版、「[[トヨタ・D-4|D-4ST]]」を採用している<ref name="Engine mechanism"/>。このインジェクターは、低中回転域に複合噴射を行い、高回転域は直噴のみの噴射になる<ref name="Engine mechanism"/>。また、運転状況に応じて2.4 - 20 [[パスカル (単位)|MPa]]の範囲で噴射圧が制御される<ref name="Engine mechanism"/>。この制御の働きで低中回転域での安定的な運転や高負荷運転時の[[ノッキング]]抑制が可能になる<ref name="Engine mechanism"/>。
[[燃料噴射装置|インジェクター]]は[[燃料噴射装置#マルチポイントインジェクション|ポート噴射]]・[[ガソリン直噴エンジン|直噴]]を併用する「D-4S」のターボ版、「[[トヨタ・D-4|D-4ST]]」を採用している<ref name="Engine mechanism"/>。このインジェクターは、低中回転域に複合噴射を行い、高回転域は直噴のみの噴射になる<ref name="Engine mechanism"/>。また、運転状況に応じて2.4 - 20 [[パスカル (単位)|MPa]]の範囲で噴射圧が制御される<ref name="Engine mechanism"/>。この制御の働きで低中回転域での安定的な運転や高負荷運転時の[[ノッキング]]抑制が可能になる<ref name="Engine mechanism"/>。
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ブロック本体の材質は軽量化の為に[[アルミニウム]]が用いられ<ref name="TOYOTA"/><ref name="Explanation"/>、製造法に[[ダイカスト|アルミダイカスト]]を採用することでエンジン全体での乾燥重量を109 kgに抑えるなどかなりの軽量化を達成している<ref name="Engine mechanism"/><ref name="TOYOTA"/>。ブロックがアルミ製であるため[[シリンダーライナー|鋳鉄ライナー]]が挿入されており、ブロック内側の特殊な粗面と噛合して強く固定されている<ref name="Engine mechanism"/>。この挿入されている[[鋳鉄]]ライナーは高出力を発揮する高負荷回転時の耐久性や[[剛性]]を高める為に肉厚なものを採用している<ref name="Explanation">{{Cite web|url=https://www.webcartop.jp/2020/11/617333/|title=4WDマイスターのレーシングドライバーが乗って触って徹底解説! GRヤリスの「メカ」を斬る|publisher=WEB CARTOP|year=2020-11-21|accessdate=2021-12-15}}</ref>。
ブロック本体の材質は軽量化の為に[[アルミニウム]]が用いられ<ref name="TOYOTA"/><ref name="Explanation"/>、製造法に[[ダイカスト|アルミダイカスト]]を採用することでエンジン全体での乾燥重量を109 kgに抑えるなどかなりの軽量化を達成している<ref name="Engine mechanism"/><ref name="TOYOTA"/>。ブロックがアルミ製であるため[[シリンダーライナー|鋳鉄ライナー]]が挿入されており、ブロック内側の特殊な粗面と噛合して強く固定されている<ref name="Engine mechanism"/>。この挿入されている[[鋳鉄]]ライナーは高出力を発揮する高負荷回転時の耐久性や[[剛性]]を高める為に肉厚なものを採用している<ref name="Explanation">{{Cite web|url=https://www.webcartop.jp/2020/11/617333/|title=4WDマイスターのレーシングドライバーが乗って触って徹底解説! GRヤリスの「メカ」を斬る|publisher=WEB CARTOP|year=2020-11-21|accessdate=2021-12-15}}</ref>。


[[冷却]]は[[水冷エンジン|水冷式]]でウォータージャケットが浅底化、オープンデッキ状になっている{{Efn|シリンダーブロック上端部の水路孔が1つに繋がっている形<ref>{{Cite web|url=https://car.motor-fan.jp/tech/10015121|title=内燃機関超基礎講座 オープンデッキ/クローズドデッキ。シリンダーブロックで何が開いている/閉じている?|publisher=motor-fun|year=2020-06-14|accessdate=2021-12-15}}</ref>。}}。また、[[オイルレベルゲージ]]がブロック内部に作られており[[ブローバイガス]]通路としても機能している<ref name="Engine mechanism"/>。
[[冷却]]は[[水冷エンジン|水冷式]]でウォータージャケットが浅底化、オープンデッキ状になっている{{Efn|シリンダーブロック上端部の水路孔が1つに繋がっている形<ref>{{Cite web|url=https://car.motor-fan.jp/tech/10015121|title=内燃機関超基礎講座 オープンデッキ/クローズドデッキ。シリンダーブロックで何が開いている/閉じている?|publisher=motor-fun|year=2020-06-14|accessdate=2021-12-15}}</ref>。}}。この浅底構造をしたウォータージャケットはトヨタ自動車では初採用であり、同じくトヨタ製3気筒エンジンのM15A型ブロックなどと比較して、ジャケット横の肉を抜けるなど軽量化に大きく影響を与え、それに加えてスポーツ使用下の高燃焼荷重にも耐えられるブロック構造の支持にも貢献している<ref name="book ref">{{Cite book|和書|title=[https://car.motor-fan.jp/tech/10018556 Motor Fan illustrated Volume174 図解特集 直3 vs 直4] |publisher=Motor-Fan |year=2021-03-15 |page=pp46 - 51 |isbn=978-4-7796-4352-1 }}</ref>{{Efn|なお、この浅底ウォータージャケットはウォータージャケット底部に肉厚な部分ができるため鋳巣が出来易くなるという課題があったが、G16E型ブロックを鋳造しているトヨタ自動車の上郷工場でシミュレーションや試行を繰り返し行い鋳造条件の最適化をすることによって解決した<ref name="book ref"/>。}}。また、[[オイルレベルゲージ]]がブロック内部に作られており[[ブローバイガス]]通路としても機能している<ref name="Engine mechanism"/>。


=== ピストン・コンロッド・クランク ===
=== ピストン・コンロッド・クランク ===


[[コネクティングロッド]]は[[鍛造]]品が用いられ、[[クランクシャフト]]は4つの[[回転軸]]と[[錘|バランスウェイト]]から構成される<ref name="Engine mechanism"/>。ピストンとクランクシャフトには高精度な加工が施され徹底的な軽量化、レスポンスの追求がなされている<ref name="TOYOTA"/>。また、ピストンがシリンダー壁に押し付けられないようにクランク軸とピストン軸を10 mmほどずらして横方向の力を軽減している<ref name="Engine mechanism"/>。
[[コネクティングロッド]]は[[鍛造]]品が用いられ、[[クランクシャフト]]は4つの[[回転軸]]と[[錘|バランスウェイト]]から構成される<ref name="Engine mechanism"/>。ピストンとクランクシャフトには高精度な加工が施され徹底的な軽量化、レスポンスの追求がなされている<ref name="book ref"/><ref name="TOYOTA"/>。また、ピストンがシリンダー壁に押し付けられないようにクランク軸とピストン軸を10 mmほどずらして横方向の力を軽減している<ref name="Engine mechanism"/>。


[[ピストン]]はアルミ製のT字の形状をとる<ref name="Engine mechanism"/>。ピストン上部の溝山はニレジスト鋳鉄製で、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)が塗布されている<ref name="Engine mechanism"/>。ピストンスカート部分にはポリマーコーティングが施されている<ref name="Engine mechanism"/>。
[[ピストン]]はアルミ製のT字の形状をとる<ref name="Engine mechanism"/>。ピストン上部の溝山はニレジスト鋳鉄製で、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)が塗布されている<ref name="Engine mechanism"/><ref name="book ref"/>。ピストンスカート部分にはポリマーコーティングが施されている<ref name="Engine mechanism"/><ref name="book ref"/>。


また[[クランクシャフト]]の直下に[[トヨタ・A25A-FKS|A25A-FKS]]型エンジンや[[トヨタ・M20A-FKS|M20A-FKS]]型エンジン、M15A-FKS型エンジンと同様にアイドリング時の振動対策として[[バランスシャフト]]が組み込まれている<ref name="Engine mechanism"/>。
また[[クランクシャフト]]の直下に[[トヨタ・A25A-FKS|A25A-FKS]]型エンジンや[[トヨタ・M20A-FKS|M20A-FKS]]型エンジン、M15A-FKS型エンジンと同様にアイドリング時の振動対策として[[バランスシャフト]]が組み込まれている<ref name="Engine mechanism"/><ref name="book ref"/>。このバランスシャフトはM15A型とは異なる締結構造を用いており高剛性化を行っている<ref name="book ref"/>。


=== ターボ・点火・補機 ===
=== ターボ・点火・補機 ===


フリクション軽減やレスポンスの向上のためターボの[[タービン]]に[[セラミック]][[ボールベアリング]]を採用している<ref name="TOYOTA"/>。
フリクション軽減やレスポンスの向上のためターボの[[タービン]]に[[セラミック]][[ボールベアリング]]を採用している<ref name="book ref"/><ref name="TOYOTA"/>。
[[インタークーラー]]はラリーでのメンテナンス性を考慮して[[空冷]]式である<ref name="Engine mechanism"/>。なお、『RZ“High-performance』には冷却スプレー機能が追加装着されている<ref name="Turbo">{{Cite web|url=https://car.motor-fan.jp/article/10013233|title=ここまでわかったトヨタGRヤリス、新開発の直3DOHCターボG16E-GTS型はなぜ空冷インタークーラーなのか?|publisher=motor-fun|year=2020-01-13|accessdate=2021-12-15}}</ref><ref name="Engine mechanism"/>。また、純正状態でBMEP(正味平均有効圧力)が28.7barも掛かっていて、近年{{Efn|2021年現在から数えた近年}}の国産エンジンとしては異例である<ref name="Turbo"/>。
[[インタークーラー]]はラリーでのメンテナンス性を考慮して[[空冷]]式である<ref name="Engine mechanism"/>。なお、『RZ“High-performance』には冷却スプレー機能が追加装着されている<ref name="Turbo">{{Cite web|url=https://car.motor-fan.jp/article/10013233|title=ここまでわかったトヨタGRヤリス、新開発の直3DOHCターボG16E-GTS型はなぜ空冷インタークーラーなのか?|publisher=motor-fun|year=2020-01-13|accessdate=2021-12-15}}</ref><ref name="Engine mechanism"/>。また、純正状態でBMEP(正味平均有効圧力)が28.7barも掛かっていて、近年{{Efn|2021年現在から数えた近年}}の国産エンジンとしては異例である<ref name="Turbo"/>。


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=== 注釈 ===
=== 注釈 ===
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== 参考文献 ==

*[[モーターファン]]『Motor Fan illustrated Volume174 図解特集 直3 vs 直4』[[三栄 (出版社)|三栄]] ISBN 978-4-7796-4352-1


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==

2022年2月6日 (日) 16:09時点における版

トヨタ・G16E型エンジン > トヨタ・G16E-GTS
トヨタ・G16E-GTS
GRヤリスに搭載されるG16E-GTS
生産拠点 トヨタ自動車下山工場[1]
製造期間 2020年 - 現在
タイプ 直列3気筒DOHC12バルブ[1][2]
排気量 1,618 cc[1][2]
内径x行程 87.5 mm×89.7 mm[1][2]
圧縮比 10.5:1[1][2]
最高出力 272 PS (200 kW) / 6500 rpm[1][2][3]
最大トルク 370 N⋅m (37.7 kgf⋅m) / 3000 – 4600 rpm[1][2][3]
テンプレートを表示

トヨタ・G16E-GTSトヨタ自動車が開発・製造する水冷直列3気筒DOHC12バルブターボガソリンエンジンである[4]。燃料は無鉛プレミアムガソリンを使用する[5]

概要

このエンジンはWRCの制覇を目指すGRヤリスRZ/RC系専用[5][6]に新開発され[7][注釈 1]、「ダイナミックフォース・スポーツエンジン」の初弾となる[8]総排気量1,618 ccの水冷直列3気筒DOHCターボエンジンである[4]。通常のダイナミックフォースエンジンの流れを汲んでいて、ダンブル流(縦の渦流)による高速燃焼、高効率、高い環境性能を意識した[9]設計がなされている[3]GRヤリスRS系に搭載されている1.5 Lの水冷直列3気筒DOHCエンジン「M15A-FKS」型や「M15A-FXE」型と気筒数は同じだが、モータースポーツでの使用を念頭に置いて設計されているため、ボアストロークが通常のダイナミックフォースエンジンと異なりややスクエア寄りのロングストロークである[4][10]

排気量はWRCのホモロゲーションモデルとの繋がりを意識したため1,618 ccとされた[4]。排気量が1,600 ccを僅かに上回る1,618 ccとなったのはラリー走行時の最大性能をrally2の上限排気量である1620 cc以下で発揮できるように設計されたためである[4]

メカニズム点においては、両カムに可変バルブタイミング機構の「VVT-i」を、燃料噴射装置は筒内噴射とポート噴射を使い分ける「D-4ST」を採用し[3]IC付きボールベアリングターボを装着している[3]

名称

G16E-GTS」の名称は、「G16E-」が「G1.6 LのE型」というエンジン型式を示し、「GTS」のうち、「G」が高性能スポーツエンジンであることを、「T」がターボチャージャー装着エンジンであることを、「S」が直噴仕様エンジンであることをそれぞれ示している[11]

系譜

開発・製造

このエンジンはTOYOTA GAZOO Racing companyのパワートレイン部門にて開発が行われた[12]。ベースとなったエンジンはダイナミックフォースエンジンのM15A型であり、GRヤリス専用設計、ゼロベース開発としつつも[13]、そのベースエンジンに排気量の拡大を施したり、ボールベアリングターボを装着したりするなどして開発された[8]

開発経緯

当機はWRCのRC2クラスで勝てることをコンセプトにしたGRヤリス専用エンジン(登場当時)として開発が開始された[13]。トヨタのエンジン開発チームは開発初期の段階で競技用エンジンの規定や使われ方を調べるべくヨーロッパにわたり徹底的な調査を行なった[13]。すると競技用エンジンは4500rpm - 6200rpmの回転域を多用することが判明、加えてヤリスの競合車種を打ち負かすためには1クラス上にも優る動力性能が要求されることも判った[13]。また多品種少産を行う下山工場で生産を行うことなども踏まえて、TNGAエンジンからある程度切り離しゼロベース開発を前提としたGRヤリス専用エンジン『G16E-GTS型』の開発が開始された[13]

開発理念には豊田章男社長が求めた『モータースポーツから量産へ』『競技に耐えられる、ラリーで勝てるエンジン』を目標に掲げた[13]

まず、エンジンレイアウトは開発初期のうちから3気筒エンジンとすることが決定した[13]。これは排気干渉を起こさず、4気筒では必須のツインスクロールターボが不要であるレイアウトであったり、排気カムに可変動弁機構がなくとも中低速のトルクが出しやすいという特性があったり、4気筒と比較しエンジン重量を抑えられるなどの要素からターボエンジンの最適解とエンジン開発チームが判断したためである[13]

エンジンスペックはCAEを駆使しゼロベースから諸元設定を行った[13]。ボアストロークの設定は、出力の最大化を追求しある固定した排気量から6000 rpm時に最適なボア径を算出したところから始まった[13]。このときの最適なボア径は87 - 88 mmであったが、車両搭載を考慮しボア径87.5 mmに設定した[13][注釈 2]。また、ストローク量は1,600 ccの排気量から逆算を行う形で算出されたが、途中から1,620ccまでが許容範囲であることに気付いた開発陣は許容排気量全てを使い切る方向に舵を切り、最終的に89.7 mmのストローク量に設定した[13]。以上のボアストロークから求めた総排気量は許容範囲ギリギリの1,618ccとなった[13]

バルブ径もボアストロークと同じくCAEを用いた開発が行われたが、通常、充填効率を求めると吸気バルブ径が排気バルブ径よりも大きくなるところ、吸気バルブ径と排気バルブ径がかなり近い大きさになっている[13]

ピストンの軽量化は開発陣を最も苦労させた[13]。それは3気筒という気筒数が少ないエンジンレイアウトだと重量のアンバランスに繋がり、振動抑制が厳しくなるにもかかわらず、高出力にも耐えられる軽量なピストンを作らなければならないためである[13]。これはトヨタ自動車が持つ技術の全てを注ぎ込み、トヨタ自動車の2Lクラスのエンジン(8AR-FTS)と同様の重量に抑えることで解消した[13]。具体例を挙げると、トップリングの溝にニレジスト鋼を挿入したり、ピストンピンにDLCを塗布したり、ピストン表面に強度増強のためのショットブラストを掛ける、スカート部に樹脂コーティングを施しフリクション軽減を行うなどの加工をしている[13]

ターボチャージャーは2Lエンジンサイズの大型でボールベアリング支持のものを採用した[13]。ボールベアリング支持にした理由はモリゾウ(豊田章男社長)がテストドライバーとして開発に携わっていた際に「野性味が足りない」というフィードバックを送り、フィードバックを受け取った開発陣がダイレクト感を要すと判断して採用した[13]。これにより、無駄な渦の抑制、コンプレッサーホイールのチップクリアランスの最適化、吸気の高効率昇圧が達成された[13]

また、エンジン製造時にも工夫を凝らしており、異物管理を徹底するためにライン内には関係者以外の立入を禁止する、手組みで組立てを行いピストン、ピストンピン、コンロッド重量のずれの許容範囲をトヨタ自動車従来基準の2分の1に設定するなど厳しい品質管理を行っている[13]

製造・生産

製造生産はトヨタ自動車の下山工場で、シリンダーブロックを始め鋳物部品の鋳造はトヨタ自動車の上郷工場で行われており[13][1] 、下山工場で「匠」と呼ばれる熟練工が製造した証に「 G  R  SIMOYAMA  匠 」と書かれた品質証明のエンブレムが貼られている[1]。また、エンジン生産は専用ラインを使用せず通常の混流生産ラインを用いて行われており、不純物混入を防止する対策や、高精度に組み上げる技術などさまざまな工夫をして、レーシングエンジンに近い高精度さながらも通常ラインでの量産を実現している[1]

性能

乾燥重量は109 kgで、圧縮比が10.5、最高出力272 ps(6500 rpm時)と最大トルク370N・m(3000 - 4600 rpm間)を発生し[2]、1L当たりの馬力は168.11psを発揮する[14]。加えて、純正でBMEPが28.7barほど掛けられ、2020年時点において国産エンジン最大値の26.6barを発揮したスバルEJ20型エンジンをも上回る数値を叩き出している[15]加速、最高時速はGRヤリスに搭載される場合、0 - 100 km/h加速は5.5秒以下、最高時速は230 km/hを実現する[16]。また、このエンジンは初登場時から、世界最高レベルに高出力な3気筒エンジンとして知られている[16]

耐久性・チューニング

エンジン本体、ターボが純正状態のままでECUチューニング[注釈 3]のみの場合、ブースト圧が2.3キロ時に最高出力410 ps / 最大トルク62 kgf・mを絞り出すことができる[17]

また、チューニング用のアフターパーツ開発を手掛ける企業『HKS』によるチューニング、またはチューニングパーツの開発がなされている[18]

HKSによるチューニングパーツ開発は3台のGRヤリス(G16E-GTS型エンジン搭載車)を使用しており、そのうち1台は「HKS レーシング パフォーマー GRヤリス」というサーキット仕様車として、他の2台はストリート仕様としてチューニングされ、G16E-GTS型用チューニングパーツ開発の足掛かりに使用している[18]。このうち、主軸となるチューニングはサーキット仕様車を用いたものであり、エンジンの限界性能を探ることを目的に試行されている[18]

エンジンの限界性能を探るためにHKSの開発陣はエンジン本体をノーマルのままタービン交換を行い、過給圧を2.3キロまで引き上げた[18]。このとき、G16E-GTS型は450 psを出力しており、開発陣は「通常はここまでのパワーアップを行うと何かしらの損傷トラブルが起こる」と想定し、その損傷した部分を強化する部品を開発しようとしていたが、実際は全くの無傷であった[18]

これほどチューニングを施してもエンジンが損傷しなかった理由として開発陣は「市販車とは思えないほど高品質なピストンコンロッドが使用されている」と述べた[18]。このためエンジンを損傷させることが出来ず、HKSの商品開発が進行しないため、現状ではエンジン本体をノーマル状態で使用している[18]。また、純正部品の段階で各部品がかなり軽く開発陣は「アフターパーツメーカーとしては開発が大変」、「アフターパーツメーカー泣かせ」と述べる一方でトヨタ自動車に対し

細部の作り込みや部品を検証していくと、よくトヨタはこんなに軽くクルマを作れたな、この値段で実現したな、と思いますよ!それにチューニングしがいのあるクルマを出してくれてありがとうという気持ちです
GAZOO、【ワクワクが止まらない!GRヤリスの世界】アフターパーツメーカー『HKS』開発最前線!どれだけ追い込んでも“壊れないエンジン”の強度と耐久性に驚愕!

と感嘆のコメントを残した[18]

構造・機構

ヘッド・カムバルブ・インジェクター

シリンダーヘッドは軽量化のためにアルミブロックであり[10]、冷却水の流れを加速させるためウォータージャケットを2つに分割[2]。吸排気動弁機構はDOHCを採用し、タイミングチェーンにより駆動する[2][13]。また、DOHCながら油圧式ラッシュアジャスターが採用されている[2][19] [注釈 4]

カムシャフトはトヨタ自動車が独自に開発した鋼製の中空組立カムシャフトを採用し[13]、軽量、高レスポンス化を行っている[13][10]。両方のカムシャフトに可変バルブタイミング機構のVVT-iを装着し、吸気側が70°まで、排気側が41°までの可動範囲でバルブタイミングを制御する[2]

カムキャップは2階建て構造を採用しており、M15A型に比べ2kgの軽量化を達成[13]。タイミングチェーンカバーの構造変更[注釈 5]も行い同じくM15A型に比べ1kgの軽量化を更に達成している[13]

バルブ関連ではダイナミックフォースエンジンの特徴であるレーザークラッドバルブシートを使用せずバルブシートを工夫して打ち込んでいる[3]。これはダイナミックフォースエンジンと同様に高ダンブルでの高速燃焼を実現しつつも、シートの打ち換え等メンテナンスカスタマイズチューニングでの扱いにくさを解消するためである[3]。バルブ径は吸気側が32.8 mm、排気側が32.0 mmと通常では空気を多く取り入れるため吸気側を大きくするのに対し、吸気バルブと排気バルブの大きさが近いものとなっている[13]。これは当機がターボエンジンで排気を再利用できるため、排気流量を増やすことを念頭に置いてCAE設計をした結果である[13][注釈 6]

インジェクターポート噴射直噴を併用する「D-4S」のターボ版、「D-4ST」を採用している[2]。このインジェクターは、低中回転域に複合噴射を行い、高回転域は直噴のみの噴射になる[2]。また、運転状況に応じて2.4 - 20 MPaの範囲で噴射圧が制御される[2]。この制御の働きで低中回転域での安定的な運転や高負荷運転時のノッキング抑制が可能になる[2]

エンジンブロック

シリンダーブロック排気干渉が少なくターボタービンが効率良く回せる直列3気筒の形状を取る[4][22]気筒内径×行程は87.5 mm×89.7 mm[2]、1気筒当たりの容積は約539.1 ccである[23]

ブロック本体の材質は軽量化の為にアルミニウムが用いられ[10][22]、製造法にアルミダイカストを採用することでエンジン全体での乾燥重量を109 kgに抑えるなどかなりの軽量化を達成している[2][10]。ブロックがアルミ製であるため鋳鉄ライナーが挿入されており、ブロック内側の特殊な粗面と噛合して強く固定されている[2]。この挿入されている鋳鉄ライナーは高出力を発揮する高負荷回転時の耐久性や剛性を高める為に肉厚なものを採用している[22]

冷却水冷式でウォータージャケットが浅底化、オープンデッキ状になっている[注釈 7]。この浅底構造をしたウォータージャケットはトヨタ自動車では初採用であり、同じくトヨタ製3気筒エンジンのM15A型ブロックなどと比較して、ジャケット横の肉を抜けるなど軽量化に大きく影響を与え、それに加えてスポーツ使用下の高燃焼荷重にも耐えられるブロック構造の支持にも貢献している[13][注釈 8]。また、オイルレベルゲージがブロック内部に作られておりブローバイガス通路としても機能している[2]

ピストン・コンロッド・クランク

コネクティングロッド鍛造品が用いられ、クランクシャフトは4つの回転軸バランスウェイトから構成される[2]。ピストンとクランクシャフトには高精度な加工が施され徹底的な軽量化、レスポンスの追求がなされている[13][10]。また、ピストンがシリンダー壁に押し付けられないようにクランク軸とピストン軸を10 mmほどずらして横方向の力を軽減している[2]

ピストンはアルミ製のT字の形状をとる[2]。ピストン上部の溝山はニレジスト鋳鉄製で、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)が塗布されている[2][13]。ピストンスカート部分にはポリマーコーティングが施されている[2][13]

またクランクシャフトの直下にA25A-FKS型エンジンやM20A-FKS型エンジン、M15A-FKS型エンジンと同様にアイドリング時の振動対策としてバランスシャフトが組み込まれている[2][13]。このバランスシャフトはM15A型とは異なる締結構造を用いており高剛性化を行っている[13]

ターボ・点火・補機

フリクション軽減やレスポンスの向上のためターボのタービンセラミックボールベアリングを採用している[13][10]インタークーラーはラリーでのメンテナンス性を考慮して空冷式である[2]。なお、『RZ“High-performance』には冷却スプレー機能が追加装着されている[15][2]。また、純正状態でBMEP(正味平均有効圧力)が28.7barも掛かっていて、近年[注釈 9]の国産エンジンとしては異例である[15]

点火系にはダイレクトイグニッションが採用され、一つの気筒に対し一つのダイレクトイグニッションコイルが備わっている[2]点火プラグにはイリジウム合金製でプラチナコーティングが施されている先端電極を採用[2]。点火順序は1番気筒→2番気筒→3番気筒の順である[2]

空燃比センサー冷寒時排ガス低減を行うために新開発品が採用されている[25]。当機が開発される以前のトヨタ自動車の空燃比センサーは氷点下で数分、25℃の平常気温で10秒ほど始動が出来ない時間があったが、当機の排ガス浄化性能を向上させるためトヨタとデンソーが共同で新開発した空燃比センサーを使用し、始動不可の時間を3 - 5秒ほどに短縮。トヨタの従来型空燃比センサーを搭載するエンジンと比べ一酸化炭素炭化水素を冷寒時は約50%、25℃時は20%削減している[25]

冷却ファンはコントロールユニットの制御で動作し、水温や車速、エンジン回転に応じて無段階的に制御される[2]。また、オイル潤滑装置は一般的な形状をとり、クランクシャフトからチェーンを介して駆動される[2]

その他補機などはM15A型エンジンやA25A型エンジンと同様なものが採用されている[2]

水素仕様

水素カローラ

水素燃料エンジンを搭載したカローラスポーツ富士24時間レースに投入された[26]。このエンジンはカーボンニュートラル内燃機関のままで達成するために試験的に開発され[26]、G16E-GTS型を水素仕様に改造する形で造られている[27]。主にインジェクターと点火プラグが水素用に取り替えられている [27]。この水素G16E-GTSは航続距離燃費面で課題があるため、これからも研究が続けられる[27]

2021年12月現在においては最高出力と燃費性能が大幅に改善され、最高出力は富士レース時の258 ps程と比べ24%向上して300 psを発揮、最大トルクは同じく富士レース時の300 - 308 N・m程と比べ33%向上した390 - 400 N・mを叩き出した[28]。馬力と燃費性能が大幅に向上した大きな要因は水素の噴射、過給圧圧縮圧の改善による燃焼改善である[28]。具体的には異常燃焼の制御、混合気をダンブル流に乗せてより多くの水素を噴射することなどである[28]。また、水素を多く吹いて最高出力と最大トルクを稼いでいるが、リーン燃焼を行い富士レースと同等の燃費を達成している[28]

GRヤリス H2

水素カローラに続き、GRヤリスでも水素仕様のテストレーシングカーが発表された[29]。水素カローラ同様にインジェクターと点火プラグが水素仕様に変更されている[29]

1.4L仕様

2021年11月13日にスーパー耐久に投入するGR86用に開発された合成燃料対応の直列3気筒1.4 Lターボエンジンが発表された[23]。このエンジンはG16E-GTS型のストローク縮小版でありボアストロークが87.5 mm×77.0 mmに設定されている[23]。これは往年の4A-GE型エンジンのストローク量と同じになっている[23]

搭載車種

脚注

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j 3〜400万円のクルマに載るシロモノじゃない! 量産だけど高精度なGRヤリスの「エンジン」の生産に迫る”. WEB CARTOP (2020年). 2021年12月15日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag Toyota engines - G16E-GTS”. TOYOTA-CLUB.NET (2020年10月20日). 2021年12月15日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g 最高出力272PS、新型車「GRヤリス」に搭載された直列3気筒 1.6リッター直噴ターボ G16E-GTS型エンジンについて聞く”. Car Watch (2020年6月30日). 2021年12月15日閲覧。
  4. ^ a b c d e f トヨタGRヤリスのエンジンは化け物レベル!GR4のためだけに仕立てた、その名は「G16E-GTS」”. motor-fun (2020年7月14日). 2021年12月15日閲覧。
  5. ^ a b SPECIFICATIONS トヨタ GRヤリス 主要諸元表” (PDF). TOYOTA. 2021年12月15日閲覧。
  6. ^ GR Yaris RC” (PDF). TOYOTA (2020年). 2022年1月10日閲覧。
  7. ^ トヨタGRヤリス 1.6ℓ直3ターボ G16E-GTS恐るべし。エンジンとの対話がこんなに楽しいクルマはない”. motor-fun (2021年9月26日). 2021年12月15日閲覧。
  8. ^ a b c 【試乗インプレ】トヨタ、「GR ヤリス プロトタイプ」。市販予定、WRCに直結した3気筒 1.6リッターターボのスーパー4WDマシン”. Car Watch. 2021年12月15日閲覧。
  9. ^ 新型「直列4気筒2.5L直噴エンジン」 -Dynamic Force Engine-”. TOYOTA (2016年12月6日). 2021年12月15日閲覧。
  10. ^ a b c d e f g レースに勝つために小型・軽量化を徹底追求した。”. TOYOTA. 2021年12月15日閲覧。
  11. ^ エンジン命名ルールをメーカー毎に紹介”. Motorz (2021年5月11日). 2022年1月5日閲覧。
  12. ^ 【開発の重要人物へ聞く】トヨタGRヤリス お手頃ドライバーズカーのベスト AUTOCARアワード2021 後編”. AUTO CAR JAPAN (2021年6月22日). 2021年12月15日閲覧。
  13. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al am an ao Motor Fan illustrated Volume174 図解特集 直3 vs 直4』Motor-Fan、2021年3月15日、pp46 - 51頁。ISBN 978-4-7796-4352-1 
  14. ^ 100馬力/1Lは常識、排気量あたりの馬力が凄まじいターボエンジンを積んだ車達”. UruCar (2021年11月21日). 2021年12月19日閲覧。
  15. ^ a b c ここまでわかったトヨタGRヤリス、新開発の直3DOHCターボG16E-GTS型はなぜ空冷インタークーラーなのか?”. motor-fun (2020年1月13日). 2021年12月15日閲覧。
  16. ^ a b “トヨタ GR ヤリス、欧州仕様を発表へ…ジュネーブモーターショー2020[中止]”. Response.. (2020年2月28日). https://response.jp/article/2020/02/28/332132.html 2021年12月15日閲覧。 
  17. ^ a b 「エンジン&タービンは純正のまま410馬力に到達!?」GフォースのGRヤリスが速すぎる!”. web option (2021年3月29日). 2022年1月1日閲覧。
  18. ^ a b c d e f g h 【ワクワクが止まらない!GRヤリスの世界】アフターパーツメーカー『HKS』開発最前線!どれだけ追い込んでも“壊れないエンジン”の強度と耐久性に驚愕!”. GAZOO (2021年3月25日). 2022年1月1日閲覧。
  19. ^ Destruction?! Inside the Brown Toyota GR Yaris engine”. YouTube (2021年3月17日). 2022年2月3日閲覧。
  20. ^ 5M-GEU型エンジンに見る、トヨタのDOHC戦略(中編)”. motor magazine (2020年4月27日). 2021年12月15日閲覧。
  21. ^ 元トヨタソアラ開発主査、岡田稔弘氏に聞く”. GAZOO (2016年7月1日). 2021年12月15日閲覧。
  22. ^ a b c 4WDマイスターのレーシングドライバーが乗って触って徹底解説! GRヤリスの「メカ」を斬る”. WEB CARTOP (2020年11月21日). 2021年12月15日閲覧。
  23. ^ a b c d 豊田章男社長がサプライズ発表した新開発3気筒1.4リッターターボは、AE86搭載の4A-G型エンジンと同じ77 mmストロークだった”. Car Watch (2021年11月14日). 2021年12月15日閲覧。
  24. ^ 内燃機関超基礎講座 オープンデッキ/クローズドデッキ。シリンダーブロックで何が開いている/閉じている?”. motor-fun (2020年6月14日). 2021年12月15日閲覧。
  25. ^ a b GRヤリスの怪物エンジン、排ガス低減にも常識打ち破る先進技術”. 日経X-TECH (2021年1月6日). 2022年1月7日閲覧。
  26. ^ a b 日経ビジネス 水素エンジンの世界普及には課題 官民で環境づくりを”. 日経ビジネス (2021年6月9日). 2021年12月15日閲覧。
  27. ^ a b c 水素エンジン搭載「カローラスポーツ」の排気音を聞く 燃費に課題があり富士を10周で水素充填”. Car Watch (2021年4月28日). 2021年12月15日閲覧。
  28. ^ a b c d 誰が予想出来た? トヨタ「水素カローラ」日本の強みで大幅進化! その先にある水素の挑戦はどうなる?”. くるまのニュース (2021年12月2日). 2021年12月18日閲覧。
  29. ^ a b ついに水素エンジン仕様投入!? GRヤリスH2電撃公開&トヨタの本気度は?”. ベストカーWEB (2021年12月11日). 2021年12月15日閲覧。

注釈

  1. ^ なお、このエンジンのベースはM15A型であり、M15A型に排気量拡大を施す、ボールベアリングターボを装着するなど、ベースエンジンを拡張的に進化させる開発により誕生した[8]
  2. ^ このボア径はA25A型と同じではあるが、結果的なものでありA25A型との関係性はない[13]
  3. ^ ここではモーテックのM142型ECUを使用[17]
  4. ^ DOHCに油圧式ラッシュアジャスターが採用された例として、トヨタが初めて独自開発したDOHCエンジン5M-GEUが挙げられる[20][21]
  5. ^ M15A型は1枚で構成されているのに対し当機はチェーンカバーを上下2枚に分割した構成である[13]
  6. ^ ただし、吸気側のバルブにもバルブ径を極力大きくするなどの追求を行ったり、レーザークラッドバルブシートを採用せずともダイナミックフォースエンジンさながらの効率及びダンブル流を実現することを求めたりして偏心バルブシートを圧入する、吸気ポートに機械加工を施し複雑かつストレートな形状を作り出すなどの工夫がされている[13]
  7. ^ シリンダーブロック上端部の水路孔が1つに繋がっている形[24]
  8. ^ なお、この浅底ウォータージャケットはウォータージャケット底部に肉厚な部分ができるため鋳巣が出来易くなるという課題があったが、G16E型ブロックを鋳造しているトヨタ自動車の上郷工場でシミュレーションや試行を繰り返し行い鋳造条件の最適化をすることによって解決した[13]
  9. ^ 2021年現在から数えた近年

参考文献

関連項目

外部リンク