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「アリノスシジミ」の版間の差分

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{{Expand English|Liphyra brassolis|date=2021-09}}
{{生物分類表
{{生物分類表
| 名称 = アリノスシジミ
| 名称 = アリノスシジミ
| 画像 =[[File:LiphyraBrassolis 701 1.jpg|250px|LiphyraBrassolis_701_1]]
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<!-- | 画像キャプション = ### -->アリノスシジミ(-オス-メス下-オス♂の下側)
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| 省略 = 昆虫綱

| 目 = [[鱗翅目|鱗翅目(チョウ目)]] {{Sname|species|Lepidoptera}}
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| = [[チョウ]](鱗翅目) {{Sname||Lepidoptera}}
| 上科 = [[アゲハチョウ上科]] {{Sname|species|Papilionoidea}}
| 科 = [[アゲハチョウ科]] {{Sname||Papilionoidea}}
| 科 = [[シジミチョウ科]] {{Sname|species|Lycaenidae}}
| 科 = [[シジミチョウ科]] {{Sname||Lycaenidae}}
| 科 = [[アシナガシジミ科]] {{Sname|species|Miletinae}}
| 族 = {{Sname|species|Liphyrini}}{{Sfn|Pierce|Braby|Heath|Lohman|2002}}
| 亜科 = [[アリノスシジミ亜科]] {{Sname||Lycaeninae}}
| 属 = [[アリノスシジミ属]] ''{{Sname||Lycaena}}''
| 属 = {{Snamei|species|Liphyra}}
| 種 = '''アリノスシジミ''' ''L. brassolis''
| 種 = '''アリノスシジミ''' {{Snamei|species|Liphyra brassolis|L. brassolis}}{{Sfn|川上|2001|pp=32-33}}
| 学名 = '''{{Snamei|Liphyra brassolis}}''' <small>{{Harvtxt|Westwood, 1864}}</small>{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}{{Sfn|Swinhoe 1910-1911|pp=250-252}}{{Sfn|Eastwood|Kongnoo|Reinkaw|2010}}
| 学名 =''Liphyra brassolis''
| 英名 =
| シノニム =
* {{Snamei|Sterosis robusta}}{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}{{Sfn|Swinhoe 1910-1911|pp=250-252}}
| 和名 = '''アリノスシジミ'''{{Sfn|川上|2001|pp=32-33}}
| 英名 = [[:w:Moth Butterfly|Moth Butterfly]]{{Sfn|川上|2001|pp=32-33}}{{Sfn|Eastwood|Kongnoo|Reinkaw|2010}}
}}
}}
'''アリノスシジミ'''(学名:Liphyra brassolis)は、東南アジアやオーストラリアに生息しているシジミチョウ。


'''アリノスシジミ'''('''{{Snamei|Liphyra brassolis}}''')は、[[シジミチョウ科]]に属する[[チョウ]]の一[[種 (分類学)|種]]。世界最大のシジミチョウであり、幼虫は[[ツムギアリ]] {{Snamei||Oecophylla smaragdina}} の巣内でアリの幼虫を捕食して育つなど、特異な形態や生態を示す種として知られる。
シジミチョウの最大の種の1つ。世界で最も特殊。幼虫は巣に入り[[ツムギアリ]]の幼虫を捕食して育つ。アリノスシジミの体長は幼虫で30mm程度<ref>{{Cite web|title=【アリノスシジミ】アリの巣に住みつきアリの幼虫を喰らい尽くす極悪幼虫 {{!}} 世界不気味発見|url=http://sekaino-bukimi.com/arinosusijimi/|accessdate=2021-09-12|language=ja}}</ref>。
 


== 分布 ==
== 分布 ==
[[インド]]北部から[[東南アジア]]を経て[[オーストラリア]]北部にいたるまでの広い範囲に[[分布 (生物)|分布]]する{{Sfn|川上|2001|pp=32-33}}{{Sfn|Eastwood|Kongnoo|Reinkaw|2010}}{{Sfn|五十嵐|1985}}{{Sfn|松香|1988}}{{Sfn|Dupont|Zemeitat|Lohman|Pierce|2016}}。[[寄主]]であるツムギアリと同所的に分布すると考えられるが{{Sfn|Eastwood|Kongnoo|Reinkaw|2010}}、採集される機会がすくない種であるため{{Sfn|川上|2001|pp=32-33}}{{Sfn|Eastwood|Kongnoo|Reinkaw|2010}}{{Sfn|五十嵐|1985}}{{Sfn|松香|1988}}、既知の分布域は飛び地状になる傾向がある{{Sfn|Eastwood|Kongnoo|Reinkaw|2010}}。
西オーストラリアの熱帯海岸、ノーザンテリトリー、クイーンズランドを含むインドからフィリピンに分布している。

== 形態 ==
=== 卵 ===
[[卵]]は緑色に白が混じる。円柱状の形状をしており、大きさは異なるが[[ゴイシシジミ|ゴイシシジミ属]] {{Snamei||Taraka (butterfly)|Taraka}} などの卵に似るという{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}{{Sfn|Swinhoe 1910-1911|pp=250-252}}。直径は2mmを超えない{{Sfn|Dupont|Zemeitat|Lohman|Pierce|2016}}。

=== 幼虫 ===
[[幼虫]]はすべての[[:w:instar|齢]]で{{Sfn|Dupont|Zemeitat|Lohman|Pierce|2016}}扁平な楕円形をしており、背面および側面は滑らかで硬い外皮に覆われる。楕円は前方と比べて後方でわずかに広がる{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}{{Sfn|Dupont|Zemeitat|Lohman|Pierce|2016}}。背側には三本の浅い溝と{{日本語版にない記事リンク|気門|en|spiracle}} の列がある{{Sfn|Dupont|Zemeitat|Lohman|Pierce|2016}}。楕円の外周にあたる縁の部分は隆起した後、つよく傾斜しながら下面に続き、体側面を形成する<!-- 変な文かも -->。腹面中央部はへこむ。へこみの内部は外皮と比べて淡色でやわらかく、頭部、[[関節肢|胸脚]]、[[腹脚]]などの構造がある。このやわらかい部位は暗褐色の隆起に縁取られ、ふだんは外に露出しない{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}。体表には特殊化した{{日本語版にない記事リンク|刺毛|en|setae}}とソケットが分布する{{Sfn|Dupont|Zemeitat|Lohman|Pierce|2016}}。[[:w:Insect mouthparts|口器]]は[[食性]]に応じて特殊化しており、[[大顎]]には三本の歯が確認できる{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}。[[触角]]は二節のみで構成される{{Sfn|Dupont|Zemeitat|Lohman|Pierce|2016}}。

=== 蛹 ===
[[蛹]]はシジミチョウ科のものとしては非常に大きく、体長28mm、幅14mm、体高10mmにもなる。基本的な形状自体は一般的なシジミチョウのものとあまり変わらないが{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}、[[蛹化]]の際、終齢幼虫が外皮の内部で蛹化する{{Sfn|川上|2001|pp=32-33}}{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}{{Sfn|五十嵐|1985}}{{Sfn|松香|1988}}{{Sfn|Dodd|1902}}ことによって{{日本語版にない記事リンク|囲蛹殻|en|puparium}} を形成する点で特異である{{Sfn|Dupont|Zemeitat|Lohman|Pierce|2016}}{{Sfn|New|1993}}。囲蛹は背側が膨らみ、[[ゆたんぽ]]のような形状になる{{Sfn|松香|1988}}。また、囲蛹殻内部の蛹は、幼虫の外皮の形状にあわせて腹側がすこしへこむなどの変化が見られる{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}。

=== 成虫 ===
[[成虫]]は[[翅|前翅]]の[[翼幅|開帳]]が70mm{{Sfn|川上|2001|pp=32-33}}{{Sfn|Swinhoe 1910-1911|pp=250-252}}、あるいは80 - 90mmに達し{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}{{Sfn|New|1993}}、世界最大のシジミチョウとして知られる{{Sfn|川上|2001|pp=32-33}}{{Sfn|New|1993}}。胴は太く、その巨大さとあいまって、一見、大きな[[セセリチョウ科]]に似る{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}{{Sfn|五十嵐|1985}}。前翅頂はやや尖り、後翅はゆがんだ洋梨状になる{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}。翅表には黒色の部位とオレンジ色の部位があり{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}{{Sfn|Swinhoe 1910-1911|pp=250-252}}{{Sfn|五十嵐|1985}}、斑紋は[[性的二型|雌雄で異なる]]{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}{{Sfn|Swinhoe 1910-1911|pp=250-252}}。翅裏はくすんだ黄褐色や紫がかった黒褐色で、土{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}あるいは枯れ葉{{Sfn|五十嵐|1985}}のような色彩を呈する。翅の斑紋には地域変異が見られる{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}。成虫の[[口吻]]は小さく退化する{{Sfn|Swinhoe 1910-1911|pp=250-252}}。

== 生態 ==
[[File:Nest of oecophylla smaragdina (weaver ants).jpg|thumb|200px|ツムギアリの巣, [[ラオス]]]]
本種の幼虫は[[ツムギアリ]] {{Snamei||Oecophylla smaragdina|O. smaragdina}} の巣内でアリの幼虫を捕食して生育する{{Sfn|Pierce|Braby|Heath|Lohman|2002}}{{Sfn|川上|2001|pp=32-33}}{{Sfn|Eastwood|Kongnoo|Reinkaw|2010}}{{Sfn|五十嵐|1985}}{{Sfn|松香|1988}}{{Sfn|Dupont|Zemeitat|Lohman|Pierce|2016}}。幼虫は硬い外皮によってアリ成虫からの攻撃を防ぎ、巣内のアリ幼虫を一方的に捕食することができる{{Sfn|Pierce|Braby|Heath|Lohman|2002}}{{Sfn|川上|2001|pp=32-33}}{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}{{Sfn|五十嵐|1985}}{{Sfn|松香|1988}}{{Sfn|Dupont|Zemeitat|Lohman|Pierce|2016}}。体がやわらかく無防備になりやすい[[脱皮]]や[[蛹化]]の際にも、アリ成虫に襲われないための適応が見られる{{Sfn|松香|1988}}。脱皮の場合、幼虫が古い皮からぬけ出す際に皮が下面から左右に割けることで、古い皮と脱皮後の幼虫の区別がつきにくいという{{Sfn|松香|1988}}{{Sfn|Dodd|1902}}。蛹化は前述のように終齢幼虫の外皮の中で行われ、蛹化直後の無防備な蛹はアリ成虫に攻撃されない{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}{{Sfn|川上|2001|pp=32-33}}{{Sfn|五十嵐|1985}}{{Sfn|松香|1988}}。幼虫は大顎を獲物の体に突き刺し{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}、体液を吸い取る{{Sfn|Pierce|Braby|Heath|Lohman|2002}}{{Sfn|松香|1988}}。

成虫は蛹化してから 21 - 25日後に[[羽化]]するという{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}{{Sfn|Dodd|1902}}。蛹から[[羽化]]した成虫は翅を伸ばすためにアリの巣の外に出なければならないが、この際には体を覆う特殊な[[鱗粉]]がアリの攻撃から身を守るために役に立つ{{Sfn|川上|2001|pp=32-33}}{{Sfn|五十嵐|1985}}{{Sfn|松香|1988}}。羽化直後の成虫は、まだ縮まっている翅、脚、触角がきわめて剝がれやすい白い鱗粉に覆われて灰色っぽく見える。また、腹部の下面から側面にかけてには繊維状の濃い灰色の鱗粉が分厚く密に生えており、アリの攻撃はこれらの鱗粉によって防がれ、成虫は無傷で巣の外に出ることができる。無事に巣の外へと出た成虫は植物にぶら下がって翅を伸ばす。翅が伸びきるまでの時間は他の蝶より長く、25-30分かかるという{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}{{Sfn|Dodd|1902}}。

前述のとおり成虫の口吻は退化するため、[[羽化]]した後は餌をとらず、幼虫期に得た栄養のみで活動すると考えられる{{Sfn|New|1993}}。成虫は主として[[薄明薄暮性]]を示すが{{Sfn|Eastwood|Kongnoo|Reinkaw|2010}}{{Sfn|五十嵐|1985}}、日中に飛翔したり{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}{{Sfn|Dodd|1902}}、夜間に人工光源に飛来する例も観察されている{{Sfn|川上|2001|pp=32-33}}。産卵は通常、寄主アリの巣が存在する植物上に行われる{{Sfn|Bingham|1907|pp=448-456}}{{Sfn|松香|1988}}{{Sfn|Dodd|1902}}。卵から孵化した幼虫がいつどのようにアリの巣へ侵入するのかは確かめられていないが{{Sfn|松香|1988}}、初齢幼虫がアリの[[フェロモン]]を追跡することで巣を見つけ、侵入をはたすと考えられている{{Sfn|Pierce|Braby|Heath|Lohman|2002}}。

本種の属する[[シジミチョウ科]]は[[アリ]]と関係のふかい分類群として知られ、[[生活史]]が判明している種のうちおよそ75%がなんらかの形でアリとの関係をもち、科内ではさまざまな程度・様式の{{日本語版にない記事リンク|好蟻性|en|Myrmecophily}}が見られる{{Sfn|Pierce|Braby|Heath|Lohman|2002}}{{Sfn|Dupont|Zemeitat|Lohman|Pierce|2016}}。シジミチョウ科における好蟻性は一般に、おもに化学的信号の媒介によってアリを制御する三種類の好蟻性器官(myrmecophilous organs)、すなわち蜜腺(dorsal nectary organ)、伸縮突起(tentacle organs)、PCOs(Pore cupola organs)によって維持されている{{Sfn|Pierce|Braby|Heath|Lohman|2002}}{{Sfn|Dupont|Zemeitat|Lohman|Pierce|2016}}{{Sfn|JERATTHITIKUL|CHANTARASAWAT|YAGO|HIKIDA|2013}}。しかしながら本種の幼虫は蜜腺および伸縮突起をもたず{{Sfn|Pierce|Braby|Heath|Lohman|2002}}、PCOs の存在も確実には知られていない{{Efn|{{Harvtxt|Dupont|Zemeitat|Lohman|Pierce|2016}} は、本種の幼虫が PCOs(と[[相同]]である可能性の高い孔状の構造)をもっており、機械的な防御手段が未完成である若齢期の間にのみ機能している可能性を指摘している。しかしながら Dupont らは[[腺]]構造を確認できておらず、本種における PCOs の存在はいまだ確実ではないとされる{{Sfn|Dupont|Zemeitat|Lohman|Pierce|2016}}。}}。したがって、本種の幼虫の[[寄生]]的な好蟻性は[[:w:Defense in insects#Mechanical defenses|機械的な防御]]に重きを置くことで成立していると考えられており、シジミチョウ科における好蟻性の進化を考えるうえでも興味深い事例となっている{{Sfn|Pierce|Braby|Heath|Lohman|2002}}{{Sfn|Dupont|Zemeitat|Lohman|Pierce|2016}}。

== 人との関係 ==
特異な昆虫として有名であるが、成虫が採集される機会は少ない{{Sfn|川上|2001|pp=32-33}}{{Sfn|松香|1988}}。[[タイ王国]]のツムギアリを[[食用]]としている地域においては、本種の幼虫が「大きなアリ」または「女王アリ」と認識され、ツムギアリとともに食べられることがあるという。同様の事例は本種が分布する他の地域でも起きている可能性がある{{Sfn|Eastwood|Kongnoo|Reinkaw|2010}}。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist}}
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist|30em}}

== 参考文献 ==
=== 和文 ===
* {{Cite journal
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| authorlink = species:Suguru Igarashi
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| url = https://www.jstage.jst.go.jp/article/yadoriga/1985/123/1985_KJ00006297764/_article/-char/ja/
| ref = harv
}}<!-- 五十嵐|1985 -->

* {{Cite book|和書
| last = 川上
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| ref = harv
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| ref = harv
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| last = JERATTHITIKUL
| authorlink = species:Ekgachai Jeratthitikul
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| first3 = Masaya
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| first4 = Tsutomu
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== 外部リンク ==
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* [http://www.ifoundbutterflies.org/sp/1094/Liphyra-brassolis ''Liphyra brassolis'' Westwood, 1864 – Moth Butterfly - Butterflies of India]
{{Normdaten}}
* [https://www.learnaboutbutterflies.com/Caterpillar%20-%20Liphyra%20brassolis.htm Moth butterfly - Learn About Butterflies]
* [https://www.inaturalist.org/taxa/368786-Liphyra-brassolis ''Liphyra brassolis'' - iNaturalist]


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[[Category:シジミチョウ科]]
[[Category:シジミチョウ科]]

2021年9月28日 (火) 02:00時点における版

アリノスシジミ
上:成虫,
中:成虫,
下:♂成虫裏面
Swinhoe 1910-1911:Plate 701
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: 鱗翅目(チョウ目) Lepidoptera
上科 : アゲハチョウ上科 Papilionoidea
: シジミチョウ科 Lycaenidae
亜科 : アシナガシジミ亜科 Miletinae
: Liphyrini[1]
: Liphyra
: アリノスシジミ L. brassolis[2]
学名
Liphyra brassolis Westwood, 1864[3][4][5]
シノニム
和名
アリノスシジミ[2]
英名
Moth Butterfly[2][5]

アリノスシジミLiphyra brassolis)は、シジミチョウ科に属するチョウの一。世界最大のシジミチョウであり、幼虫はツムギアリ Oecophylla smaragdina の巣内でアリの幼虫を捕食して育つなど、特異な形態や生態を示す種として知られる。

分布

インド北部から東南アジアを経てオーストラリア北部にいたるまでの広い範囲に分布する[2][5][6][7][8]寄主であるツムギアリと同所的に分布すると考えられるが[5]、採集される機会がすくない種であるため[2][5][6][7]、既知の分布域は飛び地状になる傾向がある[5]

形態

は緑色に白が混じる。円柱状の形状をしており、大きさは異なるがゴイシシジミ属 Taraka などの卵に似るという[3][4]。直径は2mmを超えない[8]

幼虫

幼虫はすべての[8]扁平な楕円形をしており、背面および側面は滑らかで硬い外皮に覆われる。楕円は前方と比べて後方でわずかに広がる[3][8]。背側には三本の浅い溝と気門 の列がある[8]。楕円の外周にあたる縁の部分は隆起した後、つよく傾斜しながら下面に続き、体側面を形成する。腹面中央部はへこむ。へこみの内部は外皮と比べて淡色でやわらかく、頭部、胸脚腹脚などの構造がある。このやわらかい部位は暗褐色の隆起に縁取られ、ふだんは外に露出しない[3]。体表には特殊化した刺毛とソケットが分布する[8]口器食性に応じて特殊化しており、大顎には三本の歯が確認できる[3]触角は二節のみで構成される[8]

はシジミチョウ科のものとしては非常に大きく、体長28mm、幅14mm、体高10mmにもなる。基本的な形状自体は一般的なシジミチョウのものとあまり変わらないが[3]蛹化の際、終齢幼虫が外皮の内部で蛹化する[2][3][6][7][9]ことによって囲蛹殻英語: puparium を形成する点で特異である[8][10]。囲蛹は背側が膨らみ、ゆたんぽのような形状になる[7]。また、囲蛹殻内部の蛹は、幼虫の外皮の形状にあわせて腹側がすこしへこむなどの変化が見られる[3]

成虫

成虫前翅開帳が70mm[2][4]、あるいは80 - 90mmに達し[3][10]、世界最大のシジミチョウとして知られる[2][10]。胴は太く、その巨大さとあいまって、一見、大きなセセリチョウ科に似る[3][6]。前翅頂はやや尖り、後翅はゆがんだ洋梨状になる[3]。翅表には黒色の部位とオレンジ色の部位があり[3][4][6]、斑紋は雌雄で異なる[3][4]。翅裏はくすんだ黄褐色や紫がかった黒褐色で、土[3]あるいは枯れ葉[6]のような色彩を呈する。翅の斑紋には地域変異が見られる[3]。成虫の口吻は小さく退化する[4]

生態

ツムギアリの巣, ラオス

本種の幼虫はツムギアリ O. smaragdina の巣内でアリの幼虫を捕食して生育する[1][2][5][6][7][8]。幼虫は硬い外皮によってアリ成虫からの攻撃を防ぎ、巣内のアリ幼虫を一方的に捕食することができる[1][2][3][6][7][8]。体がやわらかく無防備になりやすい脱皮蛹化の際にも、アリ成虫に襲われないための適応が見られる[7]。脱皮の場合、幼虫が古い皮からぬけ出す際に皮が下面から左右に割けることで、古い皮と脱皮後の幼虫の区別がつきにくいという[7][9]。蛹化は前述のように終齢幼虫の外皮の中で行われ、蛹化直後の無防備な蛹はアリ成虫に攻撃されない[3][2][6][7]。幼虫は大顎を獲物の体に突き刺し[3]、体液を吸い取る[1][7]

成虫は蛹化してから 21 - 25日後に羽化するという[3][9]。蛹から羽化した成虫は翅を伸ばすためにアリの巣の外に出なければならないが、この際には体を覆う特殊な鱗粉がアリの攻撃から身を守るために役に立つ[2][6][7]。羽化直後の成虫は、まだ縮まっている翅、脚、触角がきわめて剝がれやすい白い鱗粉に覆われて灰色っぽく見える。また、腹部の下面から側面にかけてには繊維状の濃い灰色の鱗粉が分厚く密に生えており、アリの攻撃はこれらの鱗粉によって防がれ、成虫は無傷で巣の外に出ることができる。無事に巣の外へと出た成虫は植物にぶら下がって翅を伸ばす。翅が伸びきるまでの時間は他の蝶より長く、25-30分かかるという[3][9]

前述のとおり成虫の口吻は退化するため、羽化した後は餌をとらず、幼虫期に得た栄養のみで活動すると考えられる[10]。成虫は主として薄明薄暮性を示すが[5][6]、日中に飛翔したり[3][9]、夜間に人工光源に飛来する例も観察されている[2]。産卵は通常、寄主アリの巣が存在する植物上に行われる[3][7][9]。卵から孵化した幼虫がいつどのようにアリの巣へ侵入するのかは確かめられていないが[7]、初齢幼虫がアリのフェロモンを追跡することで巣を見つけ、侵入をはたすと考えられている[1]

本種の属するシジミチョウ科アリと関係のふかい分類群として知られ、生活史が判明している種のうちおよそ75%がなんらかの形でアリとの関係をもち、科内ではさまざまな程度・様式の好蟻性英語: Myrmecophilyが見られる[1][8]。シジミチョウ科における好蟻性は一般に、おもに化学的信号の媒介によってアリを制御する三種類の好蟻性器官(myrmecophilous organs)、すなわち蜜腺(dorsal nectary organ)、伸縮突起(tentacle organs)、PCOs(Pore cupola organs)によって維持されている[1][8][11]。しかしながら本種の幼虫は蜜腺および伸縮突起をもたず[1]、PCOs の存在も確実には知られていない[注釈 1]。したがって、本種の幼虫の寄生的な好蟻性は機械的な防御に重きを置くことで成立していると考えられており、シジミチョウ科における好蟻性の進化を考えるうえでも興味深い事例となっている[1][8]

人との関係

特異な昆虫として有名であるが、成虫が採集される機会は少ない[2][7]タイ王国のツムギアリを食用としている地域においては、本種の幼虫が「大きなアリ」または「女王アリ」と認識され、ツムギアリとともに食べられることがあるという。同様の事例は本種が分布する他の地域でも起きている可能性がある[5]

脚注

注釈

  1. ^ Dupont et al. (2016) は、本種の幼虫が PCOs(と相同である可能性の高い孔状の構造)をもっており、機械的な防御手段が未完成である若齢期の間にのみ機能している可能性を指摘している。しかしながら Dupont らは構造を確認できておらず、本種における PCOs の存在はいまだ確実ではないとされる[8]

出典

  1. ^ a b c d e f g h i Pierce et al. 2002.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n 川上 2001, pp. 32–33.
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w Bingham 1907, pp. 448–456.
  4. ^ a b c d e f g Swinhoe 1910-1911, pp. 250–252.
  5. ^ a b c d e f g h i Eastwood, Kongnoo & Reinkaw 2010.
  6. ^ a b c d e f g h i j k 五十嵐 1985.
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n 松香 1988.
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m n Dupont et al. 2016.
  9. ^ a b c d e f Dodd 1902.
  10. ^ a b c d New 1993.
  11. ^ JERATTHITIKUL et al. 2013.

参考文献

和文

  • 川上, 洋一『世界珍虫図鑑』上田, 恭一郎(監修)、人類文化社〈オリクテロプス博物館シリーズ〉、2001年。 

英文

  • Dodd, F.P. (1902). “CONTRIBUTION TO THE LIFE-HISTORY OF LIPHYRA BRASSOLIS, Westw.”. The Entomologist 35 (469): 153-156, 184-188. ISSN 0013-8878. https://www.biodiversitylibrary.org/page/11419583#page/169/mode/1up. 

外部リンク