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2021年9月11日 (土) 23:35時点における版
ワイルドカードゲーム(英語: Wild Card Game)は、野球のメジャーリーグベースボール(MLB)におけるポストシーズン試合のひとつ。地区優勝を逃した中で、勝率上位の2球団(ワイルドカード)が、ディビジョンシリーズ進出をかけて1試合で勝敗を決する。2012年のシーズンから導入された。
仕組み
メジャーリーグベースボールの30球団は、15球団ずつがアメリカンリーグとナショナルリーグに分かれ、さらに両リーグとも5球団ずつ東・中・西の3地区に分かれている(右表参照)。各球団は同リーグ同地区との対戦を中心に、レギュラーシーズン162試合を戦う。この結果、各地区で最も勝率が高い球団(計6球団)が地区優勝となる。地区優勝を果たした球団は、無条件で "ディビジョンシリーズ" (地区シリーズ)へ進出する。
地区優勝を逃した各リーグ12球団ずつのうち、地区に関係なく勝率上位2球団ずつがワイルドカードとなる。この2球団が地区シリーズ進出をかけて対戦する1試合が "ワイルドカードゲーム" である。試合の開催地は、レギュラーシーズンの勝率が高いほうの球団(第1ワイルドカード)の本拠地球場となる。勝った球団は地区シリーズに進出し、リーグ最高勝率の球団と対戦することになる。
なおレギュラーシーズン終了時点で、ある地区の首位に同率で複数球団が並びそのいずれかがワイルドカードとなる場合や、ワイルドカード2枠に3球団以上が並んだ場合、第2ワイルドカード1枠に2球団以上が並んだ場合などは、当該球団間でのタイブレーカーがワイルドカードゲームに先立ちレギュラーシーズンの延長として開催される[注 1]。ワイルドカード2枠に2球団が並んだ場合はタイブレーカーを実施せず、レギュラーシーズン中の直接対決の結果で第1ワイルドカードと第2ワイルドカードを決める[注 2]。タイブレーカーが実施される可能性を考慮して、レギュラーシーズン最終戦とワイルドカードの間には1日以上の予備日が設定されている。
なお2020年は新型コロナウィルス対策により公式戦の試合数が60試合と短縮された関係もあり、出場枠を各リーグ8チームずつの16チームに広げることになった。これにより、各地区2位までの6チームと、3位以下の中から勝率の高かった2チームがワイルドカードとしてノミネートされ、それぞれの順位ごとに勝率の高い順番にシード順位を決定する。
- 地区1位の3チームが第1・2・3シード
- 地区2位の3チームが第4・5・6シード
- ワイルドカードノミネートの2チームが第7・8シード
これによりワイルドカードゲームの組み合わせは
- 第1シード(地区1位)対第8シード(ワイルドカード)
- 第2シード(地区1位)対第7シード(ワイルドカード)
- 第3シード(地区1位)対第6シード(地区2位)
- 第4シード(地区2位)対第5シード(地区2位)
となり、各カードにつき3戦2戦先勝方式を行う[1]。また試合会場については、それぞれの対戦カードごとの勝率の高いチーム(すなわち第1-4シードにノミネートされた側の球団)の本拠地での集中開催となる[2]。
導入の背景と意義
MLBでは1994年から東・中・西の3地区制が導入され、これにともなって "ディビジョンシリーズ" (地区シリーズ)およびそこに進出するためのワイルドカード1枠が創設された[注 3]。ポストシーズンは、それまで "リーグチャンピオンシップシリーズ" (リーグ優勝決定シリーズ)→ "ワールドシリーズ" の2段階だったのが、地区シリーズ→リーグ優勝決定シリーズ→ワールドシリーズの3段階になり、進出球団も4から8に倍増した。これらの改革は、レギュラーシーズンの消化試合減少につながって盛り上がりが増し[3]、テレビ放映権料をはじめとする収益の拡大という結果をMLBにもたらした[4]。
しかしその一方で、ワイルドカード制度がもたらす弊害もあった。たとえば、地区内で2球団が優勝争いしていても、ワイルドカードがあるためどちらもポストシーズンに出場できるとなれば、優勝争いが盛り上がらない[5]。また、ワイルドカード球団に対する地区優勝球団へのアドバンテージといえば、地区シリーズおよびリーグ優勝決定シリーズ開幕を本拠地で迎えられることくらいであったため、ワイルドカードが確実に見込まれる場合には地区優勝を狙わず無理をしない球団も出てきた[6]。
2011年までのワイルドカード獲得球団がワールドシリーズで優勝する、いわゆる「下克上 (番狂わせ)」は1997年(フロリダ・マーリンズ)、2002年(アナハイム・エンゼルス)、2003年(マーリンズ)、2004年(ボストン・レッドソックス)、2011年(セントルイス・カージナルス)と、17年間で5回もあった。
ワイルドカードゲームは、こうした状況を解消するために考案されたものである。地区優勝すれば無条件で地区シリーズに進出できるのに対し、ワイルドカードだった場合は一発勝負で負ければそこでシーズン終了となるため、必然的に地区優勝争いが重みを増すことになる[5]。加えてワイルドカード球団は、ワイルドカードゲームにエース投手をつぎ込んで勝ったとしても、地区シリーズではそのエース投手がシリーズ後半まで投げられない状態で、1日多く休養を得た地区優勝球団のエース投手と対戦しなければならなくなり、大きなハンデとなる[5]。
歴代結果
アメリカンリーグ | 開催年 | ナショナルリーグ | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
第2ワイルドカード (ビジター球団) |
スコア | 第1ワイルドカード (ホーム球団) |
第2ワイルドカード (ビジター球団) |
スコア | 第1ワイルドカード (ホーム球団) | |||
ボルチモア・オリオールズ(東) | 5-1 | (西)テキサス・レンジャーズ | 2012 | セントルイス・カージナルス(中) | 6-3 | (東)アトランタ・ブレーブス | ||
タンパベイ・レイズ(東) | 4-0 | (中)クリーブランド・インディアンス | 2013 | シンシナティ・レッズ(中) | 2-6 | (中)ピッツバーグ・パイレーツ | ||
オークランド・アスレチックス(西) | 8-9x | (中)カンザスシティ・ロイヤルズ | 2014 | サンフランシスコ・ジャイアンツ(西) | 8-0 | (中)ピッツバーグ・パイレーツ | ||
ヒューストン・アストロズ(西) | 3-0 | (東)ニューヨーク・ヤンキース | 2015 | シカゴ・カブス(中) | 4-0 | (中)ピッツバーグ・パイレーツ | ||
ボルチモア・オリオールズ(東) | 2-5x | (東)トロント・ブルージェイズ | 2016 | サンフランシスコ・ジャイアンツ(西) | 3-0 | (東)ニューヨーク・メッツ | ||
ミネソタ・ツインズ(中) | 4-8 | (東)ニューヨーク・ヤンキース | 2017 | コロラド・ロッキーズ(西) | 8-11 | (西)アリゾナ・ダイヤモンドバックス | ||
オークランド・アスレチックス(西) | 2-7 | (東)ニューヨーク・ヤンキース | 2018 | コロラド・ロッキーズ(西) | 2-1 | (中)シカゴ・カブス | ||
タンパベイ・レイズ(東) | 5-1 | (西)オークランド・アスレチックス | 2019 | ミルウォーキー・ブルワーズ(中) | 3-4 | (東)ワシントン・ナショナルズ |
- 上記のうち、2014年のジャイアンツ、2019年のナショナルズはワールドシリーズ優勝
関連項目
- ワイルドカード (MLB)
- ナショナルリーグのワイルドカード獲得球団の一覧
- アメリカンリーグのワイルドカード獲得球団の一覧
- プレーイン・ゲーム - トーナメント戦における最初の試合
脚注
注釈
- ^ この事例は2013年のアメリカンリーグで初めて発生した。レギュラーシーズン最終戦を終えた時点で、第2ワイルドカードの1枠に東地区2位のタンパベイ・レイズと西地区2位のテキサス・レンジャーズがともに91勝71敗で並んだ。そのため翌日にワンゲームプレーオフを開催し、勝利したレイズがワイルドカードゲームへの出場権を得た。
- ^ この事例は2012年のアメリカンリーグで初めて発生した。東地区2位のボルチモア・オリオールズと西地区2位のテキサス・レンジャーズがともに93勝69敗で並んだが、直接対決7試合の結果がレンジャーズの5勝2敗だったため、レンジャーズが第1ワイルドカードとしてワイルドカードゲームの本拠地開催権を得た。
- ^ ただし、その年は選手会によるストライキによってシーズンが途中で打ち切られ、ポストシーズンが全試合中止に追い込まれたため、実際の運用は翌1995年から。
出典
- ^ 【MLB】メジャーリーグ、今季のプレーオフ出場枠が16チームに拡大 選手会が合意
- ^ ワールドシリーズはテキサス州アーリントンで開催 76年ぶりの1カ所開催
- ^ 李啓充 「Lee's Baseball Collumn "LAST INNING" シーリグの治世を振り返る」 『月刊スラッガー』2012年2月号、日本スポーツ企画出版社、2011年、雑誌15509-2、90頁。
- ^ 菊地慶剛 「MLBのプレーオフを前に改めて考える、「ワイルドカード」制度が成功した理由。」 『Number Web』、2011年9月20日。2014年1月8日閲覧。
- ^ a b c 出野哲也 「新労使協定でMLBはどう変わる?」 『月刊スラッガー』2012年2月号、日本スポーツ企画出版社、2011年、雑誌15509-2、72-74頁。
- ^ 豊浦彰太郎 「PLAYOFFS SCHEDULE 新制度導入でプレーオフはどう変わる?」 『月刊スラッガー』2012年11月号、日本スポーツ企画出版社、2012年、雑誌15509-11、41頁。