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「インパクトファクター」の版間の差分

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'''インパクトファクター'''(Impact Factor; '''IF''')または'''ジャーナルインパクトファクター'''(Journal Impact Factor; JIF)は、[[自然科学]]や[[社会科学]]の[[学術雑誌]]が各分野内で持つ相対的な影響力の大きさを測る[[指標]]の一つである。端的には、その雑誌に掲載された[[論文]]が一年あたりに[[引用]]される回数の[[平均値]]を表す{{sfn|クラリベイト|2018}}。一般にインパクトファクターの値が高いジャーナルは、値が低いジャーナルよりも重要であり、それぞれの分野でより本質的な名声を持っていると見なされる。ひいては、大学教員や研究者の人事評価においても利用されることも多い。一方で、この指標は、ジャーナルの厳密性との相関が全くないなど<ref>{{Cite journal|last=Menke|first=Joe|last2=Roelandse|first2=Martijn|last3=Ozyurt|first3=Burak|last4=Martone|first4=Maryann|last5=Bandrowski|first5=Anita|date=2020-11-20|title=The Rigor and Transparency Index Quality Metric for Assessing Biological and Medical Science Methods|url=https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2589004220308907|journal=iScience|volume=23|issue=11|pages=101698|language=en|doi=10.1016/j.isci.2020.101698|issn=2589-0042}}</ref>、批判も多い。
{{出典の明記|date=2012年9月}}
'''ジャーナルインパクトファクター''' ({{Lang|en|journal impact factor, JIF}}) は、[[自然科学]]や[[社会科学]]の[[学術雑誌]]が各分野内で持つ影響力の大きさを測る[[指標]]の一つであり、その雑誌に掲載された[[論文]]が一年あたりに[[引用]]される回数の[[平均値]]を表す{{sfn|クラリベイト|2018}}。大学教員や研究者の人事評価において近年頻用されているが、批判も多い。


== 概要 ==
== 歴史 ==
[[File:Eugene Garfield HD2007 Richard J. Bolte Sr. Award.TIF|thumb|150px|ユージン・ガーフィールド(2007)]]
[[File:Eugene Garfield HD2007 Richard J. Bolte Sr. Award.TIF|thumb|150px|ユージン・ガーフィールド(2007)]]
インパクトファクターは、[[科学情報研究所]](ISI)の創設者である{{仮リンク|ユージン・ガーフィールド|en|Eugene Garfield}}が考案した。''インパクトファクターは、[[ジャーナルサイテーションレポート]]''(JCR)にリストされているジャーナルについて、1975年から毎年計算されている。インパクトファクターは、特定のフィールド内のさまざまなジャーナルを比較するために使用され、自然科学・社会科学分野の11,500を超える雑誌が対象である(2017年現在)<ref>{{Cite web|title=Every journal has a story to tell|url=https://clarivate.com/products/journal-citation-reports/|website=Journal Citation Reports|publisher=Clarivate Analytics|accessdate=2019-03-15}}</ref>。ISIは1992年に[[トムソン・サイエンティフィック|Thomson Scientific & Healthcare]]に買収され<ref>{{Cite journal|date=July 1992|title=Thomson Corporation acquired ISI|url=http://www.highbeam.com/doc/1G1-12394745.html|journal=[[Online (magazine)|Online]]|accessdate=2012-02-26}}</ref> 、[[トムソンISI]]([[:en:Thomson ISI|Thomson ISI]])となった。2018年、トムソンISIは投資ファンドである''[[オネックス|オネックス・コーポレーション]](''[[:en:Onex Corporation|Onex Corporation]]'')''と''[[ベアリングプライベートエクイティアジア|ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア]](''[[:en:Baring Private Equity Asia|Baring Private Equity Asia]]'')''に売却され<ref>{{Cite web|url=https://www.prnewswire.com/news-releases/acquisition-of-the-thomson-reuters-intellectual-property-and-science-business-by-onex-and-baring-asia-completed-300337402.html|title=Acquisition of the Thomson Reuters Intellectual Property and Science Business by Onex and Baring Asia Completed|accessdate=2021/5/16}}</ref>、[[クラリベイト ・アナリティクス]]([[:en:Clarivate Analytics|Clarivate Analytics]])として現在もJCRの発行を行っている<ref>{{Cite web|url=https://clarivate.com/webofsciencegroup/solutions/journal-citation-reports/|title=Journal Citation Reports|website=Web of Science Group|language=en-US|accessdate=2019-09-14}}</ref>。そのため現在のインパクトファクターは、クラリベイト社の引用文献データベースである[[Web of Science]](WoS)に収録されたデータを元に算出されている。
{{仮リンク|ユージン・ガーフィールド|en|Eugene Garfield}}が考案したもので、現在は毎年[[クラリベイト ・アナリティクス]](旧:[[トムソン・ロイター]] IP & Science 部門、[[トムソン (情報サービス業)|トムソン]]サイエンティフィック、[[Institute for Scientific Information (ISI)]])の引用文献データベース[[Web of Science]]に収録されるデータを元に算出している。対象となる雑誌は、自然科学、社会科学分野の約11000誌(2017年現在)である。その数値は''{{仮リンク|Journal Citation Reports|en|Journal Citation Reports}}'' ({{Lang|en|JCR}}) のデータのひとつとして収録される。


==上位ランキングの雑誌==
[[学者|研究者]]や[[研究機関]]、および雑誌を評価する目的で参照される場面も多々見られるが、あくまでインパクトファクターはWeb of Science Core Collection(以下Web of Science)に収録された特定の[[ジャーナル]]の「平均的な[[論文]]」の被引用回数にすぎない。
*[[ネイチャー|Nature]] - IF 69.504
*[[セル (雑誌)|Cell]] - IF 66.850
*[[サイエンス|Science]] - IF 63.714


== 求め方 ==
== 計算 ==

インパクトファクターはWeb of Scienceの収録雑誌の3年分の[[データ]]を用いて[[計算]]される。たとえばある雑誌の[[2004年]]のインパクトファクターは[[2002年]]と[[2003年]]の論文数、2004年のその雑誌の被引用回数から次のように求める。
=== 定式化 ===
インパクトファクターはWeb of Scienceの収録雑誌の3年分の[[データ]]を用いて[[計算]]される。任意の年における2年間ジャーナルインパクトファクター(two-year journal impact factor)は、そのジャーナルの全出版物について過去2年間に発行された引用数と、そのジャーナルで過去2年間に発行された「引用可能なアイテム(後述)」との比率である<ref name="Web of Science Group 2019">{{Cite web|title=Web of Science Group|website=Web of Science Group|date=2019-08-06|url=https://clarivate.com/webofsciencegroup/essays/impact-factor/|accessdate=2020-07-28}}</ref><ref name="garfield">{{Cite journal|last=Garfield|first=Eugene|date=20 June 1994|title=The Thomson Reuters Impact Factor|url=https://clarivate.com/essays/impact-factor/|publisher=Thomson Reuters}}</ref>。定式化すると、以下の通りである。
<math display="block">\text{IF}_{y} = {\text{Citations}_{y} \over \text{Publications}_{y-1} + \text{Publications}_{y-2} }</math>

=== サンプル例 ===
たとえばある雑誌の[[2004年]]のインパクトファクターは[[2002年]]と[[2003年]]の論文数、2004年のその雑誌の被引用回数から次のように求める。
: A=対象の雑誌が2002年に掲載した論文数
: A=対象の雑誌が2002年に掲載した論文数
: B=対象の雑誌が2003年に掲載した論文数
: B=対象の雑誌が2003年に掲載した論文数
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例えば、この2年間合計で1,000報記事を掲載した雑誌があったとして、それら1,000報の記事が2004年に延べ500回引用されたとしたら、この雑誌の2004年版のインパクトファクターは0.5になる。
例えば、この2年間合計で1,000報記事を掲載した雑誌があったとして、それら1,000報の記事が2004年に延べ500回引用されたとしたら、この雑誌の2004年版のインパクトファクターは0.5になる。


=== 実際の計算例 ===
インパクトファクターは「平均的な論文」の被引用回数を示すものであるため、クラリベイト ・アナリティクス社はある種の記事(ニュースや投書、訂正記事など)は分母から差し引いている。一方、分子となる被引用のデータには全ての[[ドキュメントタイプ]]が含まれる。インパクトファクターの計算根拠はWeb of Scienceの引用データであるが、これらの引用情報は各著者が論文の末尾に記載した参照文献件目録(renferenceやbibliography)がソースとなっている。引用文献のドキュメントタイプをデータ作成者側のクラリベイト ・アナリティクス社は把握することができない。分子と分母のドキュメントタイプが一致しないのはこうした理由による。
具体例としては、例えば2017年の[[ネイチャー]]誌のインパクトファクターは41.577であった<ref name="WoS">{{Cite book|year=2018|chapter=Nature|title=2017 Journal Citation Reports|publisher=[[Thomson Reuters]]|edition=Science|series=[[Web of Science]]}}</ref>:


<math display="block">\text{IF}_{2017} = {\text{Citations}_{2017} \over \text{Publications}_{2016} + \text{Publications}_{2015} } = {74090 \over 880 + 902 } = 41.577</math>これは、平均して、2015年と2016年に発行された論文が2017年にそれぞれ約42件の引用を受けたことを意味している。ここで、2017年のインパクトファクターは2018年に報告されていることに注意が必要である。すなわち、2017年のすべての出版物がインデックス作成機関によって処理されるまで、当該年度のインパクトファクターを計算することはできない。
インパクトファクターはWeb of Scienceに収録される雑誌の3年間のデータを元に算出するものなので、{{要出典範囲|date=2013年8月|新しく採録雑誌となったものについては最初の3年間はインパクトファクターは付与されず、JCRにも収録されない。}}


=== 「引用可能なアイテム」の定義 ===
== 長所 ==
インパクトファクターは「平均的な論文」の被引用回数を示すものである。そのため、「引用」と「出版物(引用可能なアイテム)」をどのように定義するかによって、数字が変わってくる。現在の慣行では、「引用」と「出版物」の両方が、クラリベイト社によって独占的に定義されている。例えば、Web of Science(WoS)データベースでは「出版物」の中には「記事(article)」「総説(review)」「議事録(proceedings paper)」が含まれそれ以外の社説(editorial)、訂正(correction)、ノート(note)、撤回(retraction)、議論(discussion)などの他の記事項目は除外されている<ref>{{Cite journal|last=McVeigh|first=M. E.|last2=Mann|first2=S. J.|year=2009|title=The Journal Impact Factor Denominator|journal=[[JAMA (journal)|JAMA]]|volume=302|issue=10|pages=1107–9|DOI=10.1001/jama.2009.1301|PMID=19738096}}</ref>。登録をすればユーザーはWoSにアクセスし、各ジャーナルにおける引用可能なアイテム数を個別に確認できる。対照的に、引用数はWoSデータベースからではなく、一般の読者がアクセスできない専用のJCRデータベースから抽出される。したがって、一般的に使用される「JCRインパクトファクター」は独自の値であり、クラリベイト社によって定義と計算がなされ、外部ユーザーが検証することはできない<ref>{{Cite journal|last=Hubbard|first=S. C.|last2=McVeigh|first2=M. E.|year=2011|title=Casting a wide net: The Journal Impact Factor numerator|journal=Learned Publishing|volume=24|issue=2|pages=133–137|DOI=10.1087/20110208}}</ref>。一方で、これらの引用情報は各著者が論文の末尾に記載した参照文献件目録(renferenceやbibliography)がソースとなっており、引用文献のドキュメントタイプをデータ作成者側のクラリベイト社は把握することができない{{要出典|date=2021年5月}}。そのため、分子と分母のドキュメントタイプは一致しない{{要出典|date=2021年5月}}。
異なる雑誌の重要度を比較する場合にインパクトファクターを用いるのは有効である。元々インパクトファクターはWeb of Scienceに収録する雑誌を選定する際の社内指標として開発され、図書館の雑誌の選定や、研究者の論文投稿先、出版社の編集方針を決める指針などに用いてもらうことを意図して発表された。したがって自分の書いた論文がより多くの人の目に触れて欲しいと思ったときに、同じ分野の複数の雑誌で各雑誌のインパクトファクターを比較し投稿先を決定することには意味がある。ただし比較を行う場合には同じ分野の中で雑誌同士を比較し、インパクトファクターを分野を超えた絶対的な数値としては用いない、などの注意が必要である。


インパクトファクターはWeb of Scienceに収録される雑誌の3年間のデータを元に算出する。そのため、第1巻第1号からWoSに索引付けされた新しいジャーナルについては、2年間の索引付け後にインパクトファクターを受け取ることになる(この場合、二年前(すなわち発行開始以前)の出版物については、出版数0引用件数0としてインパクトファクターが計算される)。また、第1巻以降の途中の巻号からWoSに索引付けされたジャーナルについては、3年間の索引付けがされるまで、インパクトファクターを取得できない。ただし時折JCRは、部分的な引用データに基づいて、索引付けが2年未満の新しいジャーナルにもインパクトファクターを割り当てることがある<ref>{{Cite web|date=24 June 2013|title=RSC Advances receives its first partial impact factor|url=http://blogs.rsc.org/ra/2013/06/24/rsc-advances-receives-its-first-partial-impact-factor/|website=RSC Advances Blog|accessdate=16 July 2018}}</ref><ref>{{Cite web|website=news.cell.com|url=http://news.cell.com/cellreports/cell-reports/our-first-partial-impact-factor-and-our-continuing-full-story|title=Our first (partial) impact factor and our continuing (full) story|date=30 July 2014|accessdate=21 May 2015|archiveurl=https://web.archive.org/web/20160307195251/http://news.cell.com/cellreports/cell-reports/our-first-partial-impact-factor-and-our-continuing-full-story|archivedate=7 March 2016}}</ref>。年度出版物やその他の不規則な出版物は、特定の年にアイテムを出版しないことがあり、カウントに影響を与える。また、インパクトファクターは2年に限らず、任意の期間で計算することができる。たとえば、JCRには5年間インパクトファクター(five-year impact factor)も含まれている。これは、特定の年のジャーナルへの引用数を、過去5年間にそのジャーナルに掲載された記事の数で割ることで計算される<ref name="newJCR">{{Cite web|url=http://www.thomsonreuters.com/content/press_room/sci/350008|title=JCR with Eigenfactor|accessdate=2009-08-26|archiveurl=https://web.archive.org/web/20100102180714/http://thomsonreuters.com/content/press_room/sci/350008|archivedate=2010-01-02}}</ref><ref>{{Cite web|url=https://apa.org/pubs/journals/5-year-impact-factor.aspx|title=ISI 5-Year Impact Factor|website=APA|accessdate=2017-11-12}}</ref>。
== 誤解 ==
ガーフィールドはインパクトファクターに対する誤解に対して、次のように述べている。
<blockquote>
「私は1955年に最初に雑誌「Science」においてインパクトファクターのアイデアについて言及した。〔中略〕1955年時点では「インパクト」というものがいつの日か大きな論議を巻き起こすものになるとは思い及ばなかった。インパクトファクターは原子力のように有難いようなありがたくないような存在となっている。 誤った方法で乱用されるかもしれないという認識はあったが、その一方で私はインパクトファクターが建設的に用いられることを期待したのである。」<ref>Garfield, E., "[http://garfield.library.upenn.edu/papers/jifchicago2005.pdf The Agony and the Ecstasy - The History and the Meaning of the Journal Impact Factor]"(PDF), presented at the International Congress on Peer Review and Biomedical Publication, Chicago, U.S.A., September 16, 2005, p.1.</ref>
</blockquote>


== 使い方 ==
インパクトファクターは「学術雑誌」の評価指標であって、学術雑誌論文はもとより研究者の評価に用いるものではない。しかし、実際には多くの研究者がインパクトファクターに対する誤解を持っている。「この〔論文〕のインパクトファクターを知りたい」「〔私の〕インパクトファクターはいくつか」といった問いは典型的なインパクトファクターへの無理解を示している。自分の投稿した雑誌のインパクトファクターが、あたかも株価のように上昇することを期待するのもインパクトファクターへの無理解から来るものである。自分の投稿した論文掲載誌のインパクトファクターを足し合わせ業績評価とするのも無意味である。


ジャーナルインパクトファクターは、ジャーナル自体の評価だけではなく、個々の記事や研究者の評価のためにもよく使用される<ref>{{Cite journal|last=McKiernan|first=Erin C|last2=Schimanski|first2=Lesley A|last3=Muñoz Nieves|first3=Carol|last4=Matthias|first4=Lisa|last5=Niles|first5=Meredith T|last6=Alperin|first6=Juan P|date=31 July 2019|title=Use of the Journal Impact Factor in academic review, promotion, and tenure evaluations|journal=eLife|volume=8|DOI=10.7554/eLife.47338|PMID=31364991|PMC=6668985}}</ref>。インパクトファクターのこの使用方法は、Hoeffelによって以下のように要約されている<ref name=":1">{{Cite journal|last=Hoeffel|first=C.|date=1998|title=Journal impact factors|journal=Allergy|volume=53|issue=12|pages=1225|DOI=10.1111/j.1398-9995.1998.tb03848.x|PMID=9930604}}</ref>。<blockquote>インパクトファクターは、記事の品質を測定するための完璧なツールではありませんが、これ以上優れたものはなく、すでに存在しているという利点があるため、科学的評価に適した手法です。経験によれば、各専門分野で最高のジャーナルは、記事を受け入れるのが最も難しいジャーナルであり、これらはインパクトファクターの高いジャーナルです。これらのジャーナルのほとんどは、インパクトファクターが考案されるずっと前から存在していました。インパクトファクターを品質の尺度として使用することは、私たちの専門分野で最高のジャーナルの各分野で私たちが持っている意見とよく一致するため、広く普及しています。…結論として、一流のジャーナルは高レベルの論文を発表しています。したがって、それらのインパクトファクターは高く、逆ではありません。</blockquote>しかしながらインパクトファクターは本来、記事レベルや個人レベルの指標ではなく、ジャーナルレベルの指標であるため、この使用法については議論の余地がある。例えばGarfieldは、Hoeffelに同意しているが<ref>{{Cite journal|last=Garfield|first=Eugene|date=2006|title=The History and Meaning of the Journal Impact Factor|url=http://garfield.library.upenn.edu/papers/jamajif2006.pdf|journal=JAMA|volume=295|issue=1|pages=90–3|bibcode=2006JAMA..295...90G|DOI=10.1001/jama.295.1.90|PMID=16391221}}</ref> 、「単一のジャーナル内の記事ごとに[引用の]幅広いバリエーションがある」ため、「個人の評価における誤用」について警告をしている<ref name="garfield98">{{Cite journal|last=Garfield, Eugene|date=June 1998|title=The Impact Factor and Using It Correctly|url=http://www.garfield.library.upenn.edu/papers/derunfallchirurg_v101(6)p413y1998english.html|journal=Der Unfallchirurg|volume=101|issue=6|pages=413–414|PMID=9677838}}</ref>。ガーフィールドはインパクトファクターに対する誤解に対して、次のように述べている。<blockquote>「私は1955年に最初に雑誌「Science」においてインパクトファクターのアイデアについて言及した。〔中略〕1955年時点では「インパクト」というものがいつの日か大きな論議を巻き起こすものになるとは思い及ばなかった。インパクトファクターは原子力のように有難いようなありがたくないような存在となっている。 誤った方法で乱用されるかもしれないという認識はあったが、その一方で私はインパクトファクターが建設的に用いられることを期待したのである。」<ref>Garfield, E., "[http://garfield.library.upenn.edu/papers/jifchicago2005.pdf The Agony and the Ecstasy - The History and the Meaning of the Journal Impact Factor]"(PDF), presented at the International Congress on Peer Review and Biomedical Publication, Chicago, U.S.A., September 16, 2005, p.1.</ref></blockquote>
しかしこのような著者個人や個々の論文の影響度の評価に対する需要は高い。例えば科学研究に資金を出している人は、研究の生産性を査定するために成果の比較をしたがるだろうが、これらを客観的かつ定量的な指標を使って比較する場合には、インパクトファクターではなく、インパクトファクターの元になっているWeb of Science収録論文の個々の被引用回数と、その被引用回数が所属の分野の中でどういった位置にいるのかというベンチマークとの突合せが必要である(このベンチマーク指標はInCites InCites Benchmarking という別のクラリベイト ・アナリティクス社データベースに収録されている)。また、2010年代になってからは論文レベル・著者レベルの定量化が可能な代替指標として[[Altmetrics]]が提唱されるようになった。


== 評価 ==
インパクトファクターは英文誌にのみ付与され、和文誌にはつかないというのも誤りである。Web of Scienceは言語の種類にかかわらず国際的に優れた一流誌を収録することを[[ポリシー]]としており、収録の基準を満たすものであれば和文誌も収録されているから、当然そうした質の高い和文誌にはインパクトファクターが付与されている。ただし数として英文誌が圧倒的に多いのは事実である。
インパクトファクターの使用に関しては、多くの批判がなされてきた<ref>{{Cite journal|year=2016|title=Time to remodel the journal impact factor|journal=[[Nature (journal)|Nature]]|volume=535|issue=466|pages=466|bibcode=2016Natur.535..466.|DOI=10.1038/535466a|PMID=27466089}}</ref><ref name="EASE">{{Cite web|url=http://www.ease.org.uk/publications/impact-factor-statement|title=European Association of Science Editors (EASE) Statement on Inappropriate Use of Impact Factors|accessdate=2012-07-23}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Callaway|first=Ewen|date=2016|title=Beat it, impact factor! Publishing elite turns against controversial metric|journal=Nature|volume=535|issue=7611|pages=210–211|bibcode=2016Natur.535..210C|DOI=10.1038/nature.2016.20224|PMID=27411614}}</ref><ref name="Brembs 2013">{{Cite journal|last=Brembs|first=Björn|last2=Button|first2=Katherine|last3=Munafò|first3=Marcus|year=2013|title=Deep impact: Unintended consequences of journal rank|journal=Frontiers in Human Neuroscience|volume=7|pages=291|arxiv=1301.3748|bibcode=2013arXiv1301.3748B|DOI=10.3389/fnhum.2013.00291|PMID=23805088|PMC=3690355}}</ref>。2007年の調査では、最も根本的な欠陥は、インパクトファクターが[[正規分布]]にならないデータの[[算術平均|平均]]を示していることであり、これらのデータの[[中央値]]を示すことがより適切であることが示唆された<ref>{{Cite journal|last=Rossner, M.|last2=Van Epps, H.|last3=Hill, E.|date=17 December 2007|title=Show me the data|journal=Journal of Cell Biology|volume=179|issue=6|pages=1091–2|DOI=10.1083/jcb.200711140|PMID=18086910|PMC=2140038}}</ref>。ジャーナルの重要性の尺度としてのインパクトファクターの有効性と、編集者がインパクトファクターを高めるために採用する可能性のあるポリシーの効果(すなわち、論文執筆者と論文読者の不利益)についても、より一般的な議論がある。他の批判は、学者、編集者、その他の利害関係者の行動に対するインパクトファクターの影響に焦点を当てている<ref>{{Cite journal|last=Wesel|first=M. van|year=2016|title=Evaluation by Citation: Trends in Publication Behavior, Evaluation Criteria, and the Strive for High Impact Publications|journal=Science and Engineering Ethics|volume=22|issue=1|pages=199–225|DOI=10.1007/s11948-015-9638-0|PMID=25742806|PMC=4750571}}</ref>。また、より一般的な批判としては、インパクトファクターの強調は[[新自由主義]]政策の学界への悪影響から生じていると主張し、単純にインパクトファクターを科学出版物のより洗練された測定基準に置き換えるだけでなく、研究評価と高等教育における科学的キャリアの不安定さの高まりに関して議論を深めることが必要である、という主張がある<ref>{{Cite web|author=Kansa|first=Eric|title=It's the Neoliberalism, Stupid: Why instrumentalist arguments for Open Access, Open Data, and Open Science are not enough|url=http://blogs.lse.ac.uk/impactofsocialsciences/2014/01/27/its-the-neoliberalism-stupid-kansa/|website=LSE Impact Blog|accessdate=16 July 2018|date=27 January 2014}}</ref><ref name="Cabello">{{Cite journal|last=Cabello|first=F.|last2=Rascón|first2=M.T.|year=2015|title=The Index and the Moon. Mortgaging Scientific Evaluation|url=http://ijoc.org/index.php/ijoc/article/view/3629/1407|journal=International Journal of Communication|volume=9|pages=1880–1887}}</ref>。


=== 重要性の尺度としての妥当性 ===
== 普及と批判 ==
インパクトファクターと引用分析は、一般に分野依存の要因の影響を受けると言われている<ref>{{Cite journal|last=Bornmann|first=L.|last2=Daniel|first2=H. D.|year=2008|title=What do citation counts measure? A review of studies on citing behavior|journal=Journal of Documentation|volume=64|issue=1|pages=45–80|DOI=10.1108/00220410810844150}}</ref>。また分野間だけでなく、同分野の異なる研究領域間でも比較が無効になる可能性もある<ref>{{Cite journal|last=Anauati|first=Maria Victoria|last2=Galiani|first2=Sebastian|last3=Gálvez|first3=Ramiro H.|date=11 November 2014|title=Quantifying the Life Cycle of Scholarly Articles Across Fields of Economic Research|SSRN=2523078}}</ref>。出版後最初の2年間に発生する総引用の割合も、数学および物理科学では1〜3%であるのに対し、生物科学では5〜8%と、分野によって大きく異なっている<ref>{{Cite journal|last=van Nierop, Erjen|year=2009|title=Why Do Statistics Journals Have Low Impact Factors?|journal=Statistica Neerlandica|volume=63|issue=1|pages=52–62|DOI=10.1111/j.1467-9574.2008.00408.x}}</ref>。したがって、インパクトファクターを使用して、分野を超えてジャーナルを比較することは困難である。
現在、研究者や大学教員の人生および生計維持において、発表した論文のインパクトファクターの数字が決定的かつ絶対的な意味を持つケースは数多くある。例えば2016年に行われた[[東京女子医科大学]]の消化器外科講座の教授公募では、2015年に出版した論文のインパクトファクターの合計が15以上であることが公募要件として明記されている<ref>{{Cite web|url=http://www.twmu.ac.jp/upimg/files/shoukakigeka-shoukakan.pdf|title=消化器外科学講座(消化管分野)教授 候補者の公募について 東女医大医教第16240号|accessdate=2019-03-05|publisher=東京女子医科大学 学長 吉岡俊正}}</ref>。2011年に行われた[[福井大学]]の助教の公募では、採用後にインパクトファクターが約10以上の雑誌に論文を出す等の条件を満たせなければ雇用を4年で打ち切ることが明記されている<ref>{{Cite web|url=http://www.jst.go.jp/tenure/koubo/15_fukui_01ja.pdf|title=福井大学 テニュアトラック教員 公募要項|accessdate=2019-03-05|publisher=国立大学法人福井大学}}</ref>。[[九州大学]][[医学部]]の[[中山敬一]]教授は「評価を単純にすることができ、それほど実体と大きなズレがないと思っていますので、基本的に賛成'''<ref>{{Cite web|title=教授からのメッセージ よくある質問3 - 臨床と基礎研究のそれぞれの良さとは|url=http://www.bioreg.kyushu-u.ac.jp/saibou/freq_q.html#p4|website=www.bioreg.kyushu-u.ac.jp|accessdate=2019-03-05|publisher=九州大学 生体防御医学研究所 分子医科学分野}}</ref>'''」「(インパクトファクターが高い)[[セル (雑誌)|Cell]]・[[ネイチャー|Nature]]・[[サイエンス|Science]]以外は論文ではない<ref>{{Cite web|title=教授からのメッセージ よくある質問5 - 科学は競争か?|url=http://www.bioreg.kyushu-u.ac.jp/saibou/freq_q.html#p6|website=www.bioreg.kyushu-u.ac.jp|accessdate=2019-03-05|publisher=九州大学 生体防御医学研究所 分子医科学分野}}</ref>」「(インパクトファクターって気にする必要がありますか? という質問に対して)あるに決まってんだろ!<ref>{{Cite web|title=教授からのメッセージ 「幻の原稿」編 『Q&Aで答える 基礎研究のススメ』|url=http://www.bioreg.kyushu-u.ac.jp/saibou/qanda.html#p5|website=www.bioreg.kyushu-u.ac.jp|accessdate=2019-03-05|publisher=九州大学 生体防御医学研究所 分子医科学分野}}</ref>」という言葉を九州大学のウェブサイトに10年以上記載している。


インパクトファクターは、ジャーナルだけでなくその中の論文を評価するために使用されることがある<ref>{{Cite journal|last=Bohannon, John|year=2016|title=Hate journal impact factors? New study gives you one more reason|journal=[[Science (journal)|Science]]|DOI=10.1126/science.aag0643}}</ref>が、外れ値による影響を大きく受ける。例えば、”A short history of SHELX”というタイトルの論文は、「結晶構造決定の過程でオープンソースであるSHELXプログラム(およびBruker AXSバージョンSHELXTL)を1つ以上利用した際に、汎用的な引用文献として使用できます」という文言があり、実際にこの論文は6,600件以上もの引用を受けた。結果として、この論文を掲載しているジャーナルである''[[Acta Crystallographica|Acta Crystallographica Section A]]のインパクトファクターは劇的に上昇し''、2008年に2.051だったのに対して2009年は49.926となり、''[[ネイチャー]]''(31.434)や[[サイエンス|Science]](28.103)を超えた<ref>{{Cite news|url=http://www.the-scientist.com/blog/display/57500/|title=New impact factors yield surprises|newspaper=The Scientist|date=21 June 2010|last=Grant|first=Bob|accessdate=31 March 2011}}</ref>。一方、''Acta Crystallographica''で2番目に引用されている記事は、''2008年の''引用数は28件のみであった<ref>{{Cite web|author=mmcveigh|date=17 June 2010|title=What does it mean to be #2 in Impact?|url=http://community.thomsonreuters.com/t5/Citation-Impact-Center/What-does-it-mean-to-be-2-in-Impact/ba-p/11386|accessdate=2018-07-16}}</ref>。このような現象が起きうるため、インパクトファクターはジャーナルの指標であり、個々の研究者や機関を評価するために使用すべきではない、という考え方が主流である<ref name="Seglen-BMJ">{{Cite journal|last=Seglen|first=P. O.|year=1997|title=Why the impact factor of journals should not be used for evaluating research|journal=[[BMJ]]|volume=314|issue=7079|pages=498–502|DOI=10.1136/bmj.314.7079.497|PMID=9056804|PMC=2126010}}</ref><ref>{{Cite journal|date=November 2007|title=EASE Statement on Inappropriate Use of Impact Factors|url=http://www.ease.org.uk/publications/impact-factor-statement|publisher=European Association of Science Editors|accessdate=2013-04-13}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Wilsdon|first=James|last2=Allen|first2=Liz|last3=Belfiore|first3=Eleonora|last4=Campbell|first4=Philip|last5=Curry|first5=Stephen|last6=Hill|first6=Steven|last7=Jones|first7=Richard|last8=Kain|first8=Roger|last9=Kerridge|first9=Simon|date=2015|title=The Metric Tide: Report of the Independent Review of the Role of Metrics in Research Assessment and Management|url=http://rgdoi.net/10.13140/RG.2.1.4929.1363|language=en|DOI=10.13140/RG.2.1.4929.1363}}</ref>。
一方、このような人事評価への利用についての批判も存在する。教授選考の指標として適切かどうかが問題となったこともある<ref>{{cite journal|author=高田和彰、内田隆|year=1998|title=歯学部教授選考をめぐって|url=http://home.hiroshima-u.ac.jp/forum/29-7/senkou.html|journal=広大フォーラム|volume=29|issue=7|publisher=[[広島大学]]|accessdate=2015-04-11}}</ref>。まず、ある雑誌の平均的な論文の被引用回数が高いということが、本当にその雑誌の[[品質|質]]や[[価値]]を示しているかどうかは分からない。引用がどういった文脈で行われているか(批判的な引用かそうでないか等)は、データ作成者は判断できない。また、前述の定義の通り、インパクトファクターは学術誌全体の評価を示すものであって個々の論文の評価を示すものではない。ごく一部のスター的な論文が被引用回数を稼ぐことによって雑誌のインパクトファクター値を引き上げることもよく起こりうる。またインパクトファクターはその性質上[[レビュー]]専門雑誌あるいはそれを多く掲載する雑誌で高くなる傾向にある。


インパクトファクターのみに基づいて作成されたジャーナルのランキングは、専門家の調査結果から編集されたものと比較して、中程度の相関関係しかない事が示されている<ref name="serenko">{{Cite journal|last=Serenko|first=A.|last2=Dohan|first2=M.|year=2011|title=Comparing the expert survey and citation impact journal ranking methods: Example from the field of Artificial Intelligence|url=http://www.aserenko.com/papers/JOI_AI_Journal_Ranking_Serenko.pdf|journal=[[Journal of Informetrics]]|volume=5|issue=4|pages=629–648|DOI=10.1016/j.joi.2011.06.002}}</ref>。また、[[科学情報研究所]]の元研究ディレクターであるAECawkellは、インパクトファクターの基礎となる[[Science Citation Index]](SCI)は、「すべての著者が、自分のテーマに関連する以前の研究のみを注意深く引用し、世界中で発行されているあらゆる科学雑誌が網羅されており、かつ経済的制約がない場合において、完全に機能するだろう」 と述べている<ref>{{Cite journal|last=Cawkell, Anthony E.|year=1977|title=Science perceived through the Science Citation Index|journal=Endeavour|volume=1|issue=2|pages=57–62|DOI=10.1016/0160-9327(77)90107-7|PMID=71986}}</ref>。
さらに計算対象についても、直近2年の論文データしか用いないのは短すぎるとの批判がある<ref name="microscope44">{{cite journal|title=インパクトファクターはどこへ行く?|author=[[下山宏]]|journal=顕微鏡|issue=4|volume=44|year=2009|publisher=日本顕微鏡学会|page=239|issn=1349-0958}}</ref>。インパクトファクターの計算に直近2年の論文データを用いるのは、どの分野においても平均的な論文は出版後2年目3年目に最も多く引用され、徐々に引用されなくなっていく傾向があるためである。しかし実際には分野によってはなだらかな山を描きながら息長く引用され続けるものもあり、この場合には直近2年のデータを用いたインパクトファクターでその論文の掲載誌の影響度をはかることは難しい。(この批判に対する回答として、トムソン・ロイター社は2009年、JCRに5年インパクトファクターを新たな指標として追加した。またJCRに10年間の各雑誌の引用データを掲載しており、各人が自由に目的に応じた計算 / 分析を行えるようにした。)


=== インパクトファクターに影響を与る編集方針 ===
インパクトファクターを重視しすぎるあまり、重要な研究成果については、より高いインパクトファクターを求めて国外の著名な論文誌に投稿する研究者もいる。このようなインパクトファクター偏重の姿勢は、その国の論文誌には重要な成果は掲載されないことになり、その国の論文雑誌を衰退させる可能性があるという指摘もある<ref name="microscope44"/>。
ジャーナルはそのインパクトファクターを高めるように、編集方針を修正する事ができる<ref>{{Cite news|title=The Number That's Devouring Science|newspaper=The Chronicle of Higher Education|first=Richard|last=Monastersky|date=14 October 2005|url=http://chronicle.com/free/v52/i08/08a01201.htm}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Arnold|first=Douglas N.|last2=Fowler|first2=Kristine K.|year=2011|title=Nefarious Numbers|journal=[[Notices of the American Mathematical Society]]|volume=58|issue=3|pages=434–437|arxiv=1010.0278|bibcode=2010arXiv1010.0278A}}</ref>。たとえば高IFを目指すジャーナルは、一般的に研究報告よりも引用されやすい[[総説論文]]が全体を占める割合が高い場合がある<ref name="garfield2">{{Cite journal|last=Garfield|first=Eugene|date=20 June 1994|title=The Thomson Reuters Impact Factor|url=https://clarivate.com/essays/impact-factor/|publisher=Thomson Reuters}}</ref>。


また、引用される可能性が低い記事(医学雑誌のケースレポートなど)の掲載を拒否する、あるいは(論文中に要約または[[書誌学|参考文献を]]許可しないことによって、Journal Citation Reportsがそれを「引用可能な項目」と見なさないことを期待して)記事の形態を変更させることで、「引用可能なアイテム」の数(つまりインパクトファクター方程式の分母)を制限しようとする場合がある。アイテムが「引用可能」であるかどうかを調整することによって、300%を超えるインパクトファクターの変動が観察された例もある<ref name="PLoS-editorial">{{Cite journal|last=PLoS Medicine Editors|date=6 June 2006|title=The Impact Factor Game|journal=PLOS Medicine|volume=3|issue=6|pages=e291|DOI=10.1371/journal.pmed.0030291|PMID=16749869|PMC=1475651}}</ref>。一方で、このように引用できないと見なされ、したがってインパクトファクターの計算に組み込まれない項目は、しかしながら実際に引用された場合、(簡単に除外できるにもかかわらず)方程式の分子部分に入れることができる。このような現象は、編集コメントと短いオリジナル記事の違いが必ずしも明白ではないため、実際にどの程度IFへ影響を与えているのか、その効果を評価するのは困難である。たとえば、編集者への手紙には、どちらかのクラスを参照している場合がある。
2015年11月30日に、[[秋篠宮文仁親王]]は、50歳の誕生日に際して行われた記者とのやり取りにおいて、インパクトファクターに関して次のように述べた<ref>[https://archive.is/24fjN 秋篠宮さま、50歳誕生日で質問とご回答<1>] 読売新聞 2015年11月30日</ref>。
{{Quotation|一方、今年もノーベル賞の受賞という大変うれしい知らせが先月ありました。もちろん、ノーベル賞の領域に入らない分野ですばらしい業績を挙げている人も多々おられますので、一つだけ取り上げるのはよくないのかもしれませんけれども、それでもやはり、私たちにとって誠にうれしいニュースでありました。しかも、地道な研究が評価されているということを感じました。ただ、その一方で、今学術の世界でだんだん短期的な成果を求められるようになってきています。例えば論文数ですとか、インパクトファクターの高いところに掲載されるかどうかなどですね。それは非常に大事なことではあっても、それのみで学術・学問が判断されることになると、地道に長い年月かけて行われて、良い成果が出るということがだんだんに無くなってくるのではないかなと、気にかかるときもあります。}}


もう1つの、もうすこしあからさまではない戦略としては、論文の大部分(あるいは少なくとも引用数が多いと予想される論文)を、なるべく暦年の初めに発行することである。これにより、それらの論文は引用を収集するためのより多くの時間を得ることができる。必ずしも悪意のあるものとは限らないが、ジャーナルが同じジャーナル内の記事を引用することで、ジャーナルのインパクトファクターが増加することもある<ref>{{Cite journal|last=Agrawal, A.|year=2005|title=Corruption of Journal Impact Factors|url=http://www.eeb.cornell.edu/agrawal/research/papers/other%20pdfs/agrawal%202005%20tree%20corruption.pdf|journal=[[Trends in Ecology and Evolution]]|volume=20|issue=4|page=157|DOI=10.1016/j.tree.2005.02.002|PMID=16701362}}</ref><ref name="pmid12139549">{{Cite journal|last=Fassoulaki, A.|last2=Papilas, K.|last3=Paraskeva, A.|last4=Patris, K.|year=2002|title=Impact factor bias and proposed adjustments for its determination|journal=[[Acta Anaesthesiologica Scandinavica]]|volume=46|issue=7|pages=902–5|DOI=10.1034/j.1399-6576.2002.460723.x|PMID=12139549}}</ref>。
2016年の[[ノーベル賞]]受賞者である[[大隅良典]]は、[[Ordinary researchers|論文不正問題]]の原因としてインパクトファクターを取り上げた[[NHKスペシャル]]『追跡 東大研究不正~ゆらぐ科学立国ニッポン~(2017年12月10日)』<ref name="inagaki_special">[http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20171210 NHKスペシャル 追跡 東大研究不正 ~ゆらぐ科学立国ニッポン~] NHK 2017年12月10日</ref>のインタビューで次のように述べた。
{{Quotation|今の大学院生の気分からいったら「自分が何やりたいです」じゃない。


編集方針を超えて、インパクトファクターを歪める可能性のある行為をジャーナルは取ることも可能である。たとえば、2007年に、IF0.66の専門誌であった''[[Folia Phoniatrica et Logopaedica]]は''、2005年から2006年までのすべての記事を引用した社説を発表し、その影響でそのジャーナルのインパクトファクターが1.44に増加した<ref>{{Cite journal|last=Schuttea, H. K.|last2=Svec, J. G.|year=2007|title=Reaction of ''Folia Phoniatrica et Logopaedica'' on the Current Trend of Impact Factor Measures|journal=[[Folia Phoniatrica et Logopaedica]]|volume=59|issue=6|pages=281–285|DOI=10.1159/000108334|PMID=17965570}}</ref>。しかしながらこの操作の結果、このジャーナルは2008年および2009年の''Journal Citation Reportsからは除外されてしまった''<ref>{{Cite web|url=http://admin-apps.isiknowledge.com/JCR/static_html/notices/notices.htm|archiveurl=https://web.archive.org/web/20100515192042/http://admin-apps.isiknowledge.com/JCR/static_html/notices/notices.htm|archivedate=2010-05-15|title=Journal Citation Reports – Notices|accessdate=2009-09-24}}</ref>。
何をやったらいい論文が書けるかで選んだり(している)。


[[強制引用]]は、ジャーナルのインパクトファクターを膨らませるために、ジャーナルが記事の公開に同意する前に、編集者が著者に無関係な引用を記事に追加するように強制する慣行である<ref>{{Cite journal|last=McLeod|first=Sam|date=2020-09-25|title=Should authors cite sources suggested by peer reviewers? Six antidotes for handling potentially coercive reviewer citation suggestions|url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/leap.1335|journal=Learned Publishing|volume=34|issue=2|pages=282–286|language=en|DOI=10.1002/leap.1335|ISSN=0953-1513}}</ref>。2012年に発表された調査によると、強制引用は、経済学、社会学、心理学、および複数のビジネス分野で働く5人に1人の研究者によって経験されており、ビジネスやインパクトファクターの低いジャーナルでより一般的である<ref>{{Cite journal|last=Wilhite|first=A. W.|last2=Fong|first2=E. A.|year=2012|title=Coercive Citation in Academic Publishing|journal=Science|volume=335|issue=6068|pages=542–3|bibcode=2012Sci...335..542W|DOI=10.1126/science.1212540|PMID=22301307}}</ref>。主要なビジネスジャーナルの編集者は、慣行を否認するための団結表明などをしている<ref>{{Cite journal|last=Lynch|first=John G.|year=2012|title=Business Journals Combat Coercive Citation|journal=Science|volume=335|issue=6073|pages=1169.1–1169|bibcode=2012Sci...335.1169L|DOI=10.1126/science.335.6073.1169-a|PMID=22403371}}</ref>が、他の分野では強制的な引用の事例が報告されることがある<ref>{{Cite journal|last=Smith|first=Richard|year=1997|title=Journal accused of manipulating impact factor|journal=BMJ|volume=314|issue=7079|pages=463|DOI=10.1136/bmj.314.7079.461d|PMID=9056791|PMC=2125988}}</ref>。
研究不正する人って研究を実際には楽しめていないと思う。


=== インパクトファクターと品質の相関関係 ===
今、大変大きな問題は、若者も研究の楽しさをなかなか知れない。
インパクトファクターは元々、各ジャーナルに掲載された記事の引用数を集計し、図書館員が購読する価値のあるジャーナルを決定するのに役立つメトリックとして設計された。それ以来、インパクトファクターはジャーナルの「品質」と関連付けられるようになり、機関レベルでも研究者や研究者の評価に広く使用されるようになった。したがって、それは研究の実践と行動の舵取りに大きな影響を及ぼすこととなった<ref name="Lariviere 2018">{{Cite journal|last=Gargouri|first=Yassine|last2=Hajjem|first2=Chawki|last3=Lariviere|first3=Vincent|last4=Gingras|first4=Yves|last5=Carr|first5=Les|last6=Brody|first6=Tim|last7=Harnad|first7=Stevan|year=2018|title=The Journal Impact Factor: A Brief History, Critique, and Discussion of Adverse Effects|arxiv=1801.08992|bibcode=2018arXiv180108992L}}</ref><ref name="Curry 2018">{{Cite journal|last=Curry|first=Stephen|year=2018|title=Let's Move beyond the Rhetoric: It's Time to Change How We Judge Research|journal=Nature|volume=554|issue=7691|pages=147|bibcode=2018Natur.554..147C|DOI=10.1038/d41586-018-01642-w|PMID=29420505}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Al-Hoorie|first=Ali H.|last2=Vitta|first2=Joseph P.|date=2019|title=The seven sins of L2 research: A review of 30 journals' statistical quality and their CiteScore, SJR, SNIP, JCR Impact Factors|url=https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1362168818767191|journal=Language Teaching Research|volume=23|issue=6|pages=727–744|language=en|DOI=10.1177/1362168818767191}}</ref>。


すでに2010年頃には、国際的な研究助成機関において、インパクトファクターなどの数値指標を品質の尺度と見なすべきではないと指摘している<ref group="note">{{Cite web|accessdate=2020-05-16|url=https://www.dfg.de/en/service/press/press_releases/2010/pressemitteilung_nr_07/|title="Quality not Quantity" – DFG Adopts Rules to Counter the Flood of Publications in Research}}. DFG Press Release No. 7 (2010)</ref>。実際、インパクトファクターは高度に操作されたメトリックである<ref name="Falagas 2008">{{Cite journal|last=Falagas|first=Matthew E.|last2=Alexiou|first2=Vangelis G.|year=2008|title=The Top-Ten in Journal Impact Factor Manipulation|journal=Archivum Immunologiae et Therapiae Experimentalis|volume=56|issue=4|pages=223–226|DOI=10.1007/s00005-008-0024-5|PMID=18661263}}</ref><ref name="Tort 2012">{{Cite journal|last=Tort|first=Adriano B. L.|last2=Targino|first2=Zé H.|last3=Amaral|first3=Olavo B.|year=2012|title=Rising Publication Delays Inflate Journal Impact Factors|journal=PLOS ONE|volume=7|issue=12|pages=e53374|bibcode=2012PLoSO...753374T|DOI=10.1371/journal.pone.0053374|PMID=23300920|PMC=3534064}}</ref><ref name="Fong 2017">{{Cite journal|last=Fong|first=Eric A.|last2=Wilhite|first2=Allen W.|year=2017|title=Authorship and Citation Manipulation in Academic Research|journal=PLOS ONE|volume=12|issue=12|pages=e0187394|bibcode=2017PLoSO..1287394F|DOI=10.1371/journal.pone.0187394|PMID=29211744|PMC=5718422}}</ref>。元々の目的を超えて継続的に広く使用されている理由の一つは、その研究の質との関係ではなく、むしろその計算方法の単純さに起因していると考えられる<ref name="Adler 2008">{{Cite journal|title=Citation Statistics|journal=A Report from the Joint}}</ref><ref name="Brembs 2018">{{Cite journal|last=Brembs|first=B.|year=2018|title=Prestigious Science Journals Struggle to Reach Even Average Reliability|journal=Frontiers in Human Neuroscience|volume=12|page=37|DOI=10.3389/fnhum.2018.00037|PMID=29515380|PMC=5826185}}</ref><ref name="Lariviere 2009">{{Cite journal|last=Gargouri|first=Yassine|last2=Hajjem|first2=Chawki|last3=Lariviere|first3=Vincent|last4=Gingras|first4=Yves|last5=Carr|first5=Les|last6=Brody|first6=Tim|last7=Harnad|first7=Stevan|year=2009|title=The Impact Factor's Matthew Effect: A Natural Experiment in Bibliometrics|arxiv=0908.3177|bibcode=2009arXiv0908.3177L}}</ref>。
私、今の時代だったら早々とキックアウト(追い出し)されてたろうなと。それは実感として思います。


経験的に、インパクトファクターがジャーナルの一般的なランキング指標であるという誤用は、学術コミュニケーションシステムに多くの悪影響を及ぼしている。例えば、ジャーナルのアウトリーチと個々の論文の質との間の混乱や、社会科学と人文科学の不十分な報道につながっている他、ラテンアメリカ、アフリカ、東南アジアといった地域からの研究成果発表に影響を与えている<ref name="Brembs 20132">{{Cite journal|last=Brembs|first=Björn|last2=Button|first2=Katherine|last3=Munafò|first3=Marcus|year=2013|title=Deep impact: Unintended consequences of journal rank|journal=Frontiers in Human Neuroscience|volume=7|pages=291|arxiv=1301.3748|bibcode=2013arXiv1301.3748B|DOI=10.3389/fnhum.2013.00291|PMID=23805088|PMC=3690355}}</ref>。その他の欠点としては、自国語や地域に関連するトピックに関する研究の疎外、非倫理的なオーサーシップや引用慣行の誘発がある。また、より一般的には、厳密な実験方法や再現性や社会的影響といった本来の研究成果の品質ではなく、出版社の名声に基づく学界での評判重視の傾向の増加が挙げられる。ジャーナルの名声とインパクトファクターを使用して学界で競争体制を構築することは、研究の質に悪影響を与えることが示されている<ref name="Vessuri 2014">{{Cite journal|last=Vessuri|first=Hebe|last2=Guédon|first2=Jean-Claude|last3=Cetto|first3=Ana María|year=2014|title=Excellence or Quality? Impact of the Current Competition Regime on Science and Scientific Publishing in Latin America and Its Implications for Development|url=http://eprints.rclis.org/23682/1/Current-socio-published-non-Sage-format.pdf|journal=Current Sociology|volume=62|issue=5|pages=647–665|DOI=10.1177/0011392113512839}}</ref>。
科学の世界は変なやつもやっぱり内包しながら、面白いことを考えている人たちを大事にする、そういう多様性を認めないといけない。


インパクトファクターはしかしながら、多くの国において、研究を評価するために今でも定期的に使用されている<ref name="Guédon 2008">{{Cite journal|title=Open Access and the Divide between 'Mainstream" and "peripheral|journal=Como Gerir e Qualificar Revistas Científicas|pages=1–25}}</ref><ref name="Alperin 2018">{{Cite journal|last=McKiernan|first=Erin C.|last2=Niles|first2=Meredith T.|last3=Fischman|first3=Gustavo E.|last4=Schimanski|first4=Lesley|last5=Nieves|first5=Carol Muñoz|last6=Alperin|first6=Juan Pablo|year=2019|title=How Significant Are the Public Dimensions of Faculty Work in Review, Promotion, and Tenure Documents?|url=https://hcommons.org/deposits/item/hc:21015/|journal=eLife|volume=8|DOI=10.7554/eLife.42254|PMID=30747708|PMC=6391063}}</ref><ref name="Rossner 2007">{{Cite journal|last=Rossner|first=Mike|last2=Van Epps|first2=Heather|last3=Hill|first3=Emma|year=2007|title=Show Me the Data|journal=The Journal of Cell Biology|volume=179|issue=6|pages=1091–1092|DOI=10.1083/jcb.200711140|PMID=18086910|PMC=2140038}}</ref>。そのメトリックの不透明性と出版社によって交渉されることが多いという事実に関して、多くの未解決の問題が残っているが、これらの整合性の問題は、広範囲にわたる誤用を抑えるのには、ほとんど役に立っていない<ref name="Guédon 2008" /><ref name="Alperin 2018" /><ref name="Rossner 2007" />。
(一億円の私財を投じて作った研究支援財団に関して)研究者の目線でこの人サポートしたらいいねという人たちがサポートできるような財団にしたい。}}

現在、多くの地域の焦点とイニシアチブが、[[ライデン宣言]]<ref group="note">{{Cite web|accessdate=2020-05-16|url=http://www.leidenmanifesto.org/|title=The Leiden Manifesto for Research Metrics}} 2015.</ref>や[[研究評価に関するサンフランシスコ宣言]](The Declaration on Research Assessment; DORA)などの主要文書を含む、代替の研究評価システムを提供および提案している。「プランS」に関する最近の進展は、学術コミュニケーションシステムの根本的な変化とともに、そのようなイニシアチブのより広範な採用と実施を求めている<ref group="note">{{Cite web|accessdate=2020-05-16|url=https://www.coalition-s.org/feedback/|title=Plan S implementation guidelines}}, February 2019.</ref>。したがって、JIFを品質の尺度と結び付ける一般的な単純化の根拠はほとんどなく、2つの継続的な不適切な関連付けは引き続き有害な影響を及ぼている。著者と研究の質の適切な尺度として、研究の卓越性の概念は、透明なワークフローとアクセス可能な研究結果を中心に再構築する必要がある<ref name="Moore 2017">{{Cite journal|last=Moore|first=Samuel|last2=Neylon|first2=Cameron|last3=Paul Eve|first3=Martin|last4=Paul o'Donnell|first4=Daniel|last5=Pattinson|first5=Damian|year=2017|title='Excellence R Us': University Research and the Fetishisation of Excellence|journal=Palgrave Communications|volume=3|DOI=10.1057/palcomms.2016.105}}</ref><ref name="Owen 2012">{{Cite journal|last=Owen|first=R.|last2=MacNaghten|first2=P.|last3=Stilgoe|first3=J.|year=2012|title=Responsible Research and Innovation: From Science in Society to Science for Society, with Society|journal=Science and Public Policy|volume=39|issue=6|pages=751–760|DOI=10.1093/scipol/scs093}}</ref><ref name="Hicks 2015">{{Cite journal|last=Hicks|first=Diana|last2=Wouters|first2=Paul|last3=Waltman|first3=Ludo|last4=De Rijcke|first4=Sarah|last5=Rafols|first5=Ismael|year=2015|title=Bibliometrics: The Leiden Manifesto for Research Metrics|journal=Nature|volume=520|issue=7548|pages=429–431|bibcode=2015Natur.520..429H|DOI=10.1038/520429a|PMID=25903611}}</ref>。

=== インパクトファクターの値の「交渉」 ===
クラリベイト社によるインパクトファクターの正確な計算方法は、一般的に公開されておらず、結果は予測も再現もできない。特に「引用可能」と見なされ分母に含まれる項目によって、結果が大幅に変わる可能性がある<ref>{{Cite journal|last=Adam|first=David|year=2002|title=The counting house|journal=Nature|volume=415|issue=6873|pages=726–729|DOI=10.1038/415726a|PMID=11845174}}</ref>。この悪名高い例の1つは、1988年にFASEB Journalにおいて、掲載された会議要旨(meeting abstracts)が分母に含まれなくなったことである。この変更の結果、ジャーナルのインパクトファクターは1988年の0.24から1989年の18.3へと跳ね上がった<ref>{{Cite journal|last=Baylis|first=Matthew|last2=Gravenor|first2=Michael|last3=Kao|first3=Rowland|date=September 1999|title=Sprucing up one's impact factor|url=https://www.nature.com/articles/43768-c1|journal=Nature|volume=401|issue=6751|pages=322|language=en|DOI=10.1038/43768-c1|ISSN=1476-4687|PMID=10517624}}</ref>。このように出版社は、ジャーナルのインパクトファクターの「精度」を向上させてより高いスコアを取得する方法について、Clarivateと定期的に話し合っていると言われている<ref>{{Cite journal|last=The PLoS Medicine Editors|date=2006-06-06|title=The Impact Factor Game|journal=PLOS Medicine|volume=3|issue=6|pages=e291|DOI=10.1371/journal.pmed.0030291|PMID=16749869|PMC=1475651}}</ref><ref name="Brembs 20133">{{Cite journal|last=Brembs|first=Björn|last2=Button|first2=Katherine|last3=Munafò|first3=Marcus|year=2013|title=Deep impact: Unintended consequences of journal rank|journal=Frontiers in Human Neuroscience|volume=7|pages=291|arxiv=1301.3748|bibcode=2013arXiv1301.3748B|DOI=10.3389/fnhum.2013.00291|PMID=23805088|PMC=3690355}}</ref>。このような交渉によって、例えば5大出版社の1つによる買収といった、雑誌内容や科学とは無関係なイベントの後に、数十のジャーナルのIFスコアが劇的に変化する、というような現象が実際に観察されている<ref>{{Cite web|accessdate=2020-07-14|title=Just how widespread are impact factor negotiations?|url=http://bjoern.brembs.net/2016/01/just-how-widespread-are-impact-factor-negotiations/|date=2016-01-08|author=Björn Brembs|authorlink=Björn Brembs}}</ref>。

=== 分布の歪度 ===
[[ファイル:Journal_impact_factor_Nature_Plos_One.png|サムネイル|440x440ピクセル|ジャーナルのインパクトファクターは、引用数の多いごく少数の論文に大きく影響される。2013〜14年に発行されたほとんどの論文の被引用数は、インパクトファクターによって示される値よりもはるかに少ない。 図中の2つのジャーナル(Nature [青]、PLOS ONE [オレンジ])は、それぞれ、引用数の多いジャーナルと引用数の少ないジャーナルの例を示している。 Natureのインパクトファクターに対しては、引用数の非常に多い少数の論文が大きな影響を与えている。Callaway, 2016を元に作成。 <ref name="Callaway2016">{{Cite journal|last=Callaway|first=E.|date=2016|title=Beat it, impact factor! Publishing elite turns against controversial metric|journal=[[Nature (journal)|Nature]]|volume=535|issue=7611|pages=210–211|bibcode=2016Natur.535..210C|DOI=10.1038/nature.2016.20224|PMID=27411614}}</ref>]]
引用数の分布は非常に歪んでいるため<ref>{{Cite journal|last=Callaway|first=Ewen|date=14 July 2016|title=Beat it, impact factor! Publishing elite turns against controversial metric|journal=Nature|volume=535|issue=7611|pages=210–211|bibcode=2016Natur.535..210C|DOI=10.1038/nature.2016.20224|PMID=27411614}}</ref>、ジャーナル自体の全体的な影響ではなくジャーナル内の記事の典型的な影響を測定するために使用した場合、IF値は誤解を招く可能性がある<ref>{{Cite news|title=Citation Statistics|last=Joint Committee on Quantitative Assessment of Research|publisher=International Mathematical Union|date=12 June 2008|url=http://www.mathunion.org/fileadmin/IMU/Report/CitationStatistics.pdf}}</ref>。例えば、''[[ネイチャー|Nature]]の''2004年インパクトファクターの内90%程度は、その出版物の四半期の一つのみに基づいており、一つの論文が実際に引用された数は、全体の引用の平均数よりもはるかに低い場合がほとんどである<ref>{{Cite journal|date=23 June 2005|title=Not-so-deep impact|journal=Nature|volume=435|issue=7045|pages=1003–1004|DOI=10.1038/4351003b|PMID=15973362}}</ref>。さらに、ジャーナルのインパクトファクターと論文の引用率との関係の強さは、記事がデジタルで利用可能になり始めて以来、着実に減少している<ref>{{Cite journal|last=Lozano|first=George A.|last2=Larivière|first2=Vincent|last3=Gingras|first3=Yves|year=2012|title=The weakening relationship between the impact factor and papers' citations in the digital age|journal=Journal of the American Society for Information Science and Technology|volume=63|issue=11|pages=2140–2145|arxiv=1205.4328|bibcode=2012arXiv1205.4328L|DOI=10.1002/asi.22731}}</ref>。

JIFの批評家は、引用分布のパターンが歪んでいるため、計算に算術平均を使用することには問題があると述べている<ref name="Lariviere 2016">{{Cite journal|last=Larivière|first=Vincent|last2=Kiermer|first2=Véronique|last3=MacCallum|first3=Catriona J.|last4=McNutt|first4=Marcia|last5=Patterson|first5=Mark|last6=Pulverer|first6=Bernd|last7=Swaminathan|first7=Sowmya|last8=Taylor|first8=Stuart|last9=Curry|first9=Stephen|year=2016|title=A Simple Proposal for the Publication of Journal Citation Distributions|DOI=10.1101/062109}}</ref>。IFの代わりに、記事レベルのメトリクスと代替メトリクス([[オルトメトリクス|altmetrics]])は、研究への影響をより有益に測定できる場合がある<ref name="Hicks 20152">{{Cite journal|last=Hicks|first=Diana|last2=Wouters|first2=Paul|last3=Waltman|first3=Ludo|last4=De Rijcke|first4=Sarah|last5=Rafols|first5=Ismael|year=2015|title=Bibliometrics: The Leiden Manifesto for Research Metrics|journal=Nature|volume=520|issue=7548|pages=429–431|bibcode=2015Natur.520..429H|DOI=10.1038/520429a|PMID=25903611}}</ref>。また、[[モントリオール大学]]、[[インペリアル・カレッジ・ロンドン|インペリアルカレッジロンドン]]、[[PLOS]] 、[[eLife]] 、 [[欧州分子生物学機構機関誌|EMBOジャーナル]]、[[王立学会]]、[[ネイチャー|Nature]]、[[サイエンス|Science]]は、インパクトファクターの代替として引用分布メトリックを提案している<ref>{{Cite web|url=http://www.the-scientist.com/?articles.view/articleNo/46495/title/Ditching-Impact-Factors-for-Deeper-Data/|title=Ditching Impact Factors for Deeper Data|website=The Scientist|accessdate=2016-07-29}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Corneliussen|first=Steven T.|date=2016|title=Bad summer for the journal impact factor|journal=[[Physics Today]]|DOI=10.1063/PT.5.8183}}</ref>。

=== 科学者団体からの反応 ===
2007年11月、[[欧州科学編集者協会]](EASE)は、「インパクトファクターは必ずしも信頼できる手段ではない」ため、「ジャーナルインパクトファクターは、単一の論文の評価用ではなく、また研究者や研究プログラムの評価用でもなく、全体の影響を測定および比較するためにおいてのみ、慎重に使用することを推奨する」公式声明を発表した<ref name="EASE2">{{Cite web|url=http://www.ease.org.uk/publications/impact-factor-statement|title=European Association of Science Editors (EASE) Statement on Inappropriate Use of Impact Factors|accessdate=2012-07-23}}</ref>。

2008年7月、[[国際科学評議会]](the International Council for Science; ICSU)の[[科学の実施における自由と責任に関する委員会]](The Committee on Freedom and Responsibility in the conduct of Science; CFRS)は、「出版慣行と指標、および[[査読|研究評価におけるピアレビュー]]の役割に関する声明」を発表し、多くの可能な解決策を提案した。たとえば、各科学者が考慮すべき1年あたりの出版物の制限数を検討したり、1年あたりの出版物の数が多すぎる(たとえば20を超える)ことで科学者にペナルティを科したりする、などの解決策が提唱されている<ref name="test">{{Cite web|url=http://www.icsu.org/publications/cfrs-statements/publication-practices-peer-review/statement-publication-practices-and-indices-and-the-role-of-peer-review-in-research-assessment-july-2008|title=International Council for Science statement|publisher=Icsu.org|date=2014-05-02|accessdate=2014-05-18}}</ref>。

2010年2月、[[ドイツ研究振興協会]](Deutsche Forschungsgemeinschaft)は、「業績に基づく資金配分、博士後期課程の資格、任命、または資金提案のレビューといった、[[h指数]]やインパクトファクターなどの数値指標がますます重要になっているすべての決定において、評価される候補者に関する論文のみを評価し、計量書誌学的情報を評価しない、新しいガイドラインを公開した<ref>{{Cite web|date=23 February 2010|title=Quality not Quantity: DFG Adopts Rules to Counter the Flood of Publications in Research|url=https://www.dfg.de/en/service/press/press_releases/2010/pressemitteilung_nr_07/index.html|publisher=Deutsche Forschungsgemeinschaft|accessdate=2018-07-16}}</ref>。この決定に続き、[[アメリカ国立科学財団|全米科学財団]](米国)と[[研究評価事業(RAE)|研究評価事業]](英国)でも同様の決定がなされている{{要出典|date=March 2010}}。

科学的成果と科学者自身を評価する際のジャーナルインパクトファクターの不適切な使用に対する懸念の高まりに応えて、[[アメリカ細胞生物学会|米国細胞生物学会]]は、学術ジャーナルの編集者と発行者のグループとともに、[[研究評価に関するサンフランシスコ宣言]](DORA)を作成した。2013年5月にリリースされたこのDORAは、数千の個人や数百の機関からの支援を獲得しており<ref name="Cabello3">{{Cite journal|last=Cabello|first=F.|last2=Rascón|first2=M.T.|year=2015|title=The Index and the Moon. Mortgaging Scientific Evaluation|url=http://ijoc.org/index.php/ijoc/article/view/3629/1407|journal=International Journal of Communication|volume=9|pages=1880–1887}}</ref>、その中には2015年3月に支持を表明した[[ヨーロッパ研究大学連盟]](League of European Research Universities; LERU)が含まれている<ref>{{Cite web|date=16 March 2015|title=Not everything that can be counted counts …|publisher=League of European Research Universities|url=http://www.leru.org/index.php/public/news/not-everything-that-can-be-counted-counts-|archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201035305/http://www.leru.org/index.php/public/news/not-everything-that-can-be-counted-counts-|archivedate=2017-12-01|accessdate=2021/5/16}}</ref>。

[[イングランド高等教育助成会議|英国高等教育助成評議会]]は、[[庶民院 (イギリス)|庶民院]][[イギリス下院科学技術委員会|科学技術選択委員会]]に対して、[[研究評価事業(RAE)|研究評価事業]]委員会に、論文発表をしたジャーナルで研究成果の質を評価している疑念を指摘し、ジャーナルではなく各記事の内容の質を評価する義務があることを再考するよう、要請を出した<ref>{{Cite web|url=https://publications.parliament.uk/pa/cm200304/cmselect/cmsctech/399/39912.htm|title=House of Commons – Science and Technology – Tenth Report|accessdate=2008-07-28|date=2004-07-07}}</ref>。

いくつかの出版社やプラットフォームでは、インパクトファクターを表示しないことを選択している。たとえば、出版社のPLOSは、ジャーナルのインパクトファクターをWebサイトに表示していない。インパクトファクターは、学術的な検索エンジンであるMicrosoft Academicにも表示されない。2020年の時点で、[[マイクロソフト|Microsoft]]社のチームは、FAQのページで、[[h指数]]やEI / SCI、およびジャーナルのインパクトファクターは示されていない、と述べている<ref>{{Cite web|title=Microsoft Academic|url=https://academic.microsoft.com/faq?target=ranking7|accessdate=2020-12-15|website=academic.microsoft.com}}</ref>。

=== 日本国内における普及と批判 ===
現在、研究者や大学教員の人生および生計維持において、発表した論文のインパクトファクターの数字が決定的かつ絶対的な意味を持つケースは数多くある。例えば2016年に行われた[[東京女子医科大学]]の消化器外科講座の教授公募では、2015年に出版した論文のインパクトファクターの合計が15以上であることが公募要件として明記されている<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.twmu.ac.jp/upimg/files/shoukakigeka-shoukakan.pdf|title=消化器外科学講座(消化管分野)教授 候補者の公募について 東女医大医教第16240号|accessdate=2019-03-05|publisher=東京女子医科大学 学長 吉岡俊正}}</ref>。2011年に行われた[[福井大学]]の助教の公募では、採用後にインパクトファクターが約10以上の雑誌に論文を出す等の条件を満たせなければ雇用を4年で打ち切ることが明記されている<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.jst.go.jp/tenure/koubo/15_fukui_01ja.pdf|title=福井大学 テニュアトラック教員 公募要項|accessdate=2019-03-05|publisher=国立大学法人福井大学}}</ref>。一方、このような人事評価への利用についての批判も存在する。教授選考の指標として適切かどうかが問題となったこともある<ref>{{cite journal|author=高田和彰、内田隆|year=1998|title=歯学部教授選考をめぐって|url=http://home.hiroshima-u.ac.jp/forum/29-7/senkou.html|journal=広大フォーラム|volume=29|issue=7|publisher=[[広島大学]]|accessdate=2015-04-11}}</ref>。さらに計算対象についても、直近2年の論文データしか用いないのは短すぎるとの批判がある<ref name="microscope44">{{cite journal|title=インパクトファクターはどこへ行く?|author=[[下山宏]]|journal=顕微鏡|issue=4|volume=44|year=2009|publisher=日本顕微鏡学会|page=239|issn=1349-0958}}</ref>。インパクトファクターを重視しすぎるあまり、重要な研究成果についてはより高いインパクトファクターを求めて国外の著名な論文誌に投稿する研究者もおり、結果的にその国の論文誌には重要な成果は掲載されないことになるため、その国の論文雑誌を衰退させる可能性があるという指摘もある<ref name="microscope44" />。

2015年11月30日に、[[秋篠宮文仁親王]]は、50歳の誕生日に際して行われた記者とのやり取りにおいて、インパクトファクターに関して次のように述べた<ref>[https://archive.is/24fjN 秋篠宮さま、50歳誕生日で質問とご回答<1>] 読売新聞 2015年11月30日</ref>。
{{Quotation|一方、今年もノーベル賞の受賞という大変うれしい知らせが先月ありました。もちろん、ノーベル賞の領域に入らない分野ですばらしい業績を挙げている人も多々おられますので、一つだけ取り上げるのはよくないのかもしれませんけれども、それでもやはり、私たちにとって誠にうれしいニュースでありました。しかも、地道な研究が評価されているということを感じました。ただ、その一方で、今学術の世界でだんだん短期的な成果を求められるようになってきています。例えば論文数ですとか、インパクトファクターの高いところに掲載されるかどうかなどですね。それは非常に大事なことではあっても、それのみで学術・学問が判断されることになると、地道に長い年月かけて行われて、良い成果が出るということがだんだんに無くなってくるのではないかなと、気にかかるときもあります。}}

2016年の[[ノーベル賞]]受賞者である[[大隅良典]]は、[[Ordinary researchers|論文不正問題]]の原因としてインパクトファクターを取り上げた[[NHKスペシャル]]『追跡 東大研究不正~ゆらぐ科学立国ニッポン~(2017年12月10日)』<ref name="inagaki_special">[http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20171210 NHKスペシャル 追跡 東大研究不正 ~ゆらぐ科学立国ニッポン~] NHK 2017年12月10日</ref>のインタビューで次のように述べた。
{{Quotation|今の大学院生の気分からいったら「自分が何やりたいです」じゃない。何をやったらいい論文が書けるかで選んだり(している)。研究不正する人って研究を実際には楽しめていないと思う。今、大変大きな問題は、若者も研究の楽しさをなかなか知れない。私、今の時代だったら早々とキックアウト(追い出し)されてたろうなと。それは実感として思います。科学の世界は変なやつもやっぱり内包しながら、面白いことを考えている人たちを大事にする、そういう多様性を認めないといけない。(一億円の私財を投じて作った研究支援財団に関して)研究者の目線でこの人サポートしたらいいねという人たちがサポートできるような財団にしたい。}}


2017年の[[日刊工業新聞]]のインタビュー<ref>{{Cite news|title=ノーベル生理学・医学賞受賞の大隅氏「視野の狭い研究者ほど客観指標に依存する」|url=https://newswitch.jp/p/11497|newspaper=ニュースイッチ|publisher=日刊工業新聞社|date=2017-12-29|accessdate=2019-03-05}}</ref>では次のように述べた。{{Quotation|若手は論文の数や、雑誌のインパクトファクターで研究テーマを選ぶようになってしまった。自分の好奇心ではなく、次のポジションを確保するための研究だ。自分の軸を持てないと研究者が客観指標に依存することになる。だが論文数などで新しい研究を評価できる訳ではない。
2017年の[[日刊工業新聞]]のインタビュー<ref>{{Cite news|title=ノーベル生理学・医学賞受賞の大隅氏「視野の狭い研究者ほど客観指標に依存する」|url=https://newswitch.jp/p/11497|newspaper=ニュースイッチ|publisher=日刊工業新聞社|date=2017-12-29|accessdate=2019-03-05}}</ref>では次のように述べた。{{Quotation|若手は論文の数や、雑誌のインパクトファクターで研究テーマを選ぶようになってしまった。自分の好奇心ではなく、次のポジションを確保するための研究だ。自分の軸を持てないと研究者が客観指標に依存することになる。だが論文数などで新しい研究を評価できる訳ではない。


例えば一流とされる科学雑誌もつまる所、週刊誌の一つだ。センセーショナルな記事を好み、結果として間違った論文も多く掲載される。彼らにとって我々がオートファジーやその関連遺伝子『ATG』のメカニズムを研究していることは当たり前だ。その機構を一つ一つ解明するよりも、ATGが他の生命現象に関与していたり、ATGの関与しないオートファジーがあるという研究の方が驚きをもって紹介される。研究者にとってインパクトファクターの高い雑誌に論文を掲載することが研究の目的になってしまえばそれはもう科学ではないだろう。
例えば一流とされる科学雑誌もつまる所、週刊誌の一つだ。センセーショナルな記事を好み、結果として間違った論文も多く掲載される。彼らにとって我々がオートファジーやその関連遺伝子「ATG」のメカニズムを研究していることは当たり前だ。その機構を一つ一つ解明するよりも、ATGが他の生命現象に関与していたり、ATGの関与しないオートファジーがあるという研究の方が驚きをもって紹介される。研究者にとってインパクトファクターの高い雑誌に論文を掲載することが研究の目的になってしまえばそれはもう科学ではないだろう。


視野の狭い研究者ほど客観指標に依存する。日本の研究者は日々忙しく異分野の論文を読み込む余裕を失っている面もある。だが異分野の研究を評価する能力が低くては、他の研究を追い掛けることはできても、新しい分野を拓いていけるだろうか。研究者は科学全体を見渡す能力を培わないとダメになる。
視野の狭い研究者ほど客観指標に依存する。日本の研究者は日々忙しく異分野の論文を読み込む余裕を失っている面もある。だが異分野の研究を評価する能力が低くては、他の研究を追い掛けることはできても、新しい分野を拓いていけるだろうか。研究者は科学全体を見渡す能力を培わないとダメになる。


本来、一人の研究者が年間に10本も論文を書くことはおかしなことだ。年に本良い論文を出していれば十分良い研究ができている。また科学者は楽しい職業だと示せる人が増えないといけない。}}
本来、一人の研究者が年間に10本も論文を書くことはおかしなことだ。3年に1本良い論文を出していれば十分良い研究ができている。また科学者は楽しい職業だと示せる人が増えないといけない。}}


2018年の[[ノーベル賞]]受賞者である[[本庶佑]]は、2018年12月26日に[[京都大学]]で行われた記者会見において次のように述べた<ref name="honjo">{{youtube|oildPCAURkY|本庶佑さんが京大で会見 SankeiNews 2018年12月26日}}</ref>。
2018年の[[ノーベル賞]]受賞者である[[本庶佑]]は、2018年12月26日に[[京都大学]]で行われた記者会見において次のように述べた<ref name="honjo">{{youtube|oildPCAURkY|本庶佑さんが京大で会見 SankeiNews 2018年12月26日}}</ref>。
{{Quotation|インパクトファクターなるものを作った某社がありまして、これは極めて良くない
{{Quotation|インパクトファクターなるものを作った某社がありまして、これは極めて良くない。トムソンロイター社には直接申し上げたこともあります。論文の中身が分からない人が使うんですね。未だにそれを使われているということは、ほとんどの人が論文の価値を分かっていないということを意味している。こういう習慣をやめなければいけない。}}


2003年に、日本数学会は、「数学の研究業績評価について」という理事会声明を決定した<ref>{{Cite web|和書|url=https://mathsoc.jp/publication/tushin/0803/kaiho83-kenkyu.pdf|title=数学の研究業績評価について|accessdate=2019-11-28|publisher=社団法人 日本数学会 理事会|date=2003|work=「数学通信」第8巻 第3号}}</ref>。その声明の中で、異なる分野の論文を引用数を元に評価することについて次のように述べた。{{Quotation|サッカーの選手と野球の選手の価値をその選手が取った得点で比較するようなものであり、ほとんど意味がない}}
トムソンロイター社には直接申し上げたこともあります


== 関連するインデックス ==
論文の中身が分からない人が使うんですね
同じ組織であるISIによって計算および公開されているいくつかの関連する値には、次のものがある。


* ''引用半減期'':毎年''Journal Citation Reportsで引用''された記事の年齢の中央値。たとえば、2005年のジャーナルの半減期が5の場合、2001年から2005年までの引用は、2005年のそのジャーナルからのすべての引用の半分であり、残りの半分は2001年より前であることを示している<ref>{{Cite web|title=Impact Factor, Immediacy Index, Cited Half-life|url=http://www.bib.slu.se/kurser/sss/skriva/impactfactor/eimpactfactor.html|publisher=Swedish University of Agricultural Sciences|accessdate=30 October 2016|archiveurl=https://web.archive.org/web/20080523091640/http://www.bib.slu.se/kurser/sss/skriva/impactfactor/eimpactfactor.html|archivedate=23 May 2008}}</ref>。
未だにそれを使われているということは、ほとんどの人が論文の価値を分かっていないということを意味している
* ''サブジェクトカテゴリの総インパクトファクター'':サブジェクトカテゴリのすべてのジャーナルへの引用数と、サブジェクトカテゴリのすべてのジャーナルからの記事数を考慮して計算される。
* ''即時性指数'':特定の年にジャーナル内の記事が受け取る引用数を、発行された記事の数で割ったもの。


インパクトファクターと同様に、これらにもいくつかの微妙な違いがある。たとえば、ISIは、特定の記事タイプ(ニュース項目、通信、正誤表など)を分母から除外している<ref name="Elsevier">{{Cite web|title=Bibliometrics (journal measures)|publisher=[[Elsevier]]|url=http://www.elsevier.com/wps/find/editorshome.editors/biblio#immediacy|quote=a measure of the speed at which content in a particular journal is picked up and referred to|accessdate=2012-07-09|archiveurl=https://web.archive.org/web/20120818141048/http://www.elsevier.com/wps/find/editorshome.editors/biblio#immediacy|archivedate=2012-08-18}}</ref><ref name="thomson">{{Cite web|title=Glossary of Thomson Scientific Terminology|publisher=[[Thomson Reuters]]|url=http://ip-science.thomsonreuters.com/support/patents/patinf/terms/#I|accessdate=2012-07-09}}</ref><ref name="JCR-ii">{{Cite web|title=Journal Citation Reports Contents – Immediacy Index|publisher=[[Clarivate Analytics]]|url=http://admin-apps.webofknowledge.com/JCR/help/h_immedindex.htm|format=(online)|quote=The Immediacy Index is the average number of times an article is cited in the year it is published. The journal Immediacy Index indicates how quickly articles in a journal are cited. The aggregate Immediacy Index indicates how quickly articles in a subject category are cited.|accessdate=2012-07-09}}</ref><ref name="McVeighMann2009">{{Cite journal|last=McVeigh|first=Marie E.|last2=Mann|first2=Stephen J.|year=2009|title=The Journal Impact Factor Denominator|journal=JAMA|volume=302|issue=10|pages=1107–9|DOI=10.1001/jama.2009.1301|ISSN=0098-7484|PMID=19738096}}</ref>。
こういう習慣をやめなければいけない}}


== その他の影響の測定 ==
2003年に、日本数学会は、「数学の研究業績評価について」という理事会声明を決定した<ref>{{Cite web|url=https://mathsoc.jp/publication/tushin/0803/kaiho83-kenkyu.pdf|title=数学の研究業績評価について|accessdate=2019-11-28|publisher=社団法人 日本数学会 理事会|date=2003|work=「数学通信」第8巻 第3号}}</ref>。その声明の中で、異なる分野の論文を引用数を元に評価することについて次のように述べた。{{Quotation|サッカーの選手と野球の選手の価値をその選手が取った得点で比較するようなものであり、ほとんど意味がない}}
IF以外のジャーナルレベルのメトリックは、他の組織から公開されている。たとえば、''[[CiteScore]]''は、2016年12月に[[エルゼビア|Elsevier]]によって発売された[[Scopus]]のシリアルタイトルの指標である<ref>{{Cite web|url=https://www.elsevier.com/solutions/scopus/features/metrics|title=Metrics – Features – Scopus – Solutions {{!}} Elsevier|author=Elsevier|website=www.elsevier.com|accessdate=2016-12-09}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Van Noorden|first=Richard|year=2016|title=Controversial impact factor gets a heavyweight rival|journal=Nature|volume=540|issue=7633|pages=325–326|bibcode=2016Natur.540..325V|DOI=10.1038/nature.2016.21131|PMID=27974784}}</ref>。これらの指標はジャーナルにのみ適用されるが、個々の研究者に適用される[[H指数]]などの著者レベルの指標も存在する。さらに、記事レベルのメトリックは、ジャーナルレベルではなく記事レベルで影響力を測定している。他のより一般的な代替メトリックである[[オルトメトリクス|altmetrics]]には、記事の表示、ダウンロード、または[[ソーシャルメディア]]での言及回数なども指標計算に含まれる場合がある。

== 偽物のインパクトファクター ==
さまざまなインパクトファクターの模造物が、特定の企業や個人によって生成されている<ref name="fake">{{Cite journal|year=2015|title=The story of fake impact factor companies and how we detected them|journal=Electronic Physician|volume=7|issue=2|pages=1069–72|DOI=10.14661/2015.1069-1072|PMID=26120416|PMC=4477767}}</ref>。例えば''[[Electronic Physician]]に''掲載された記事によると、Global Impact Factor(GIF)、Citefactor、Universal Impact Factor(UIF)が挙げられる<ref>{{Cite journal|last=Jalalian|first=M|year=2015|title=The story of fake impact factor companies and how we detected them|journal=Electronic Physician|volume=7|issue=2|pages=1069–72|DOI=10.14661/2015.1069-1072|PMID=26120416|PMC=4477767}}</ref>。[[ジェフリー・ビール]]は、そのような誤解を招く指標を’Misleading Metrics’としてリスト化している<ref>[https://scholarlyoa.com/other-pages/misleading-metrics/ Misleading Metrics] {{Webarchive|url=https://web.archive.org/web/20170111172311/https://scholarlyoa.com/other-pages/misleading-metrics/|date=2017-01-11}}</ref>。もう1つの欺瞞的な慣行は、[[Google Scholar]]などの信頼できる情報源(「Googleベースのジャーナルインパクトファクター」など)に基づいている場合でも、JCR以外の[[サイテーションインデックス|引用インデックス]]を使用して記事あたりの平均引用数として計算される「代替インパクトファクター」を報告することである<ref name="XiaSmith2018">{{Cite journal|last=Xia|first=Jingfeng|last2=Smith|first2=Megan P.|year=2018|title=Alternative journal impact factors in open access publishing|journal=Learned Publishing|volume=31|issue=4|pages=403–411|DOI=10.1002/leap.1200|ISSN=0953-1513}}</ref>。

誤ったインパクトファクターは、[[ハゲタカジャーナル]]によってよく使用される<ref>{{Cite web|url=https://scholarlyoa.com/tag/fake-impact-factors/|title=Scholarly Open-Access – Fake impact factors|author=Beall, Jeffrey|archiveurl=https://web.archive.org/web/20160321063637/https://scholarlyoa.com/tag/fake-impact-factors/|archivedate=2016-03-21|accessdate=2021/5/16}}</ref>。コンサルティングジャーナル引用レポートのマスタージャーナルリストは、出版物がジャーナル引用レポートによって索引付けされているかどうかを確認でき<ref>{{Cite web|url=http://ip-science.thomsonreuters.com/mjl/|title=Thomson Reuters Intellectual Property & Science Master Journal List|accessdate=2021/5/16}}</ref>、偽メトリックの使用が考えられるものについては赤色のフラグが立てられている<ref>{{Cite journal|last=Ebrahimzadeh|first=Mohammad H.|date=April 2016|title=Validated Measures of Publication Quality: Guide for Novice Researchers to Choose an Appropriate Journal for Paper Submission|journal=Archives of Bone and Joint Surgery|volume=4|issue=2|pages=94–96|PMID=27200383|PMC=4852052}}</ref>。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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=== 注訳 ===
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== 参考文献 ==-->
=== 出典 ===
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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* [[H指数]]
* [[H指数]]
* [[Altmetrics]]
* [[Altmetrics]]
* [[著者レベルの指標|著者のインパクトファクター]]
* [[引用の影響]]
* [[グッドハートの法則]]
* [[ジャーナロジー]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* {{Cite web
* {{Cite web|和書
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* [http://ip-science.thomsonreuters.jp/resources/essays/ インパクトファクター関連論文]
* [http://ip-science.thomsonreuters.jp/resources/essays/ インパクトファクター関連論文]
* [http://scientific.thomsonreuters.com/imgblast/JCRFullCovlist-2013.pdf Journals in the 2013 release of JCR (和文誌の収録を確認できる)]
* [http://scientific.thomsonreuters.com/imgblast/JCRFullCovlist-2013.pdf Journals in the 2013 release of JCR (和文誌の収録を確認できる)]
* [http://www.aps.org/publications/apsnews/200604/impact.cfm Does the 'Impact Factor' Impact Decisions on Where to Publish?], [[:en:American_Physical_Society|American Physical Society]]. Accessed: 2010-07-10.

* [https://www.scimagojr.com/journalrank.php?wos=false Scimago Journal & Country Rank: Rankings by Scopus and Scimago Lab], [[:en:Scopus_and_Scimago_Lab|Scopus and Scimago Lab]]. Accessed: 2018-10-23.
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*[https://sfdora.org/read/read-the-declaration-japanese/ 研究評価に関するサンフランシスコ宣言]


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2023年10月8日 (日) 07:10時点における最新版

インパクトファクター(Impact Factor; IF)またはジャーナルインパクトファクター(Journal Impact Factor; JIF)は、自然科学社会科学学術雑誌が各分野内で持つ相対的な影響力の大きさを測る指標の一つである。端的には、その雑誌に掲載された論文が一年あたりに引用される回数の平均値を表す[1]。一般にインパクトファクターの値が高いジャーナルは、値が低いジャーナルよりも重要であり、それぞれの分野でより本質的な名声を持っていると見なされる。ひいては、大学教員や研究者の人事評価においても利用されることも多い。一方で、この指標は、ジャーナルの厳密性との相関が全くないなど[2]、批判も多い。

歴史

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ユージン・ガーフィールド(2007)

インパクトファクターは、科学情報研究所(ISI)の創設者であるユージン・ガーフィールド英語版が考案した。インパクトファクターは、ジャーナルサイテーションレポート(JCR)にリストされているジャーナルについて、1975年から毎年計算されている。インパクトファクターは、特定のフィールド内のさまざまなジャーナルを比較するために使用され、自然科学・社会科学分野の11,500を超える雑誌が対象である(2017年現在)[3]。ISIは1992年にThomson Scientific & Healthcareに買収され[4]トムソンISIThomson ISI)となった。2018年、トムソンISIは投資ファンドであるオネックス・コーポレーションOnex Corporationベアリング・プライベート・エクイティ・アジアBaring Private Equity Asiaに売却され[5]クラリベイト ・アナリティクスClarivate Analytics)として現在もJCRの発行を行っている[6]。そのため現在のインパクトファクターは、クラリベイト社の引用文献データベースであるWeb of Science(WoS)に収録されたデータを元に算出されている。

上位ランキングの雑誌

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計算方法

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定式化

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インパクトファクターはWeb of Scienceの収録雑誌の3年分のデータを用いて計算される。任意の年における2年間ジャーナルインパクトファクター(two-year journal impact factor)は、そのジャーナルの全出版物について過去2年間に発行された引用数と、そのジャーナルで過去2年間に発行された「引用可能なアイテム(後述)」との比率である[7][8]。定式化すると、以下の通りである。

サンプル例

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たとえばある雑誌の2004年のインパクトファクターは2002年2003年の論文数、2004年のその雑誌の被引用回数から次のように求める。

A=対象の雑誌が2002年に掲載した論文数
B=対象の雑誌が2003年に掲載した論文数
C=対象の雑誌が2002年,2003年に掲載した論文が、2004年に引用された延べ回数

∴C÷(A+B)=2004年のインパクトファクター

例えば、この2年間合計で1,000報記事を掲載した雑誌があったとして、それら1,000報の記事が2004年に延べ500回引用されたとしたら、この雑誌の2004年版のインパクトファクターは0.5になる。

実際の計算例

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具体例としては、例えば2017年のネイチャー誌のインパクトファクターは41.577であった[9]

これは、平均して、2015年と2016年に発行された論文が2017年にそれぞれ約42件の引用を受けたことを意味している。ここで、2017年のインパクトファクターは2018年に報告されていることに注意が必要である。すなわち、2017年のすべての出版物がインデックス作成機関によって処理されるまで、当該年度のインパクトファクターを計算することはできない。

「引用可能なアイテム」の定義

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インパクトファクターは「平均的な論文」の被引用回数を示すものである。そのため、「引用」と「出版物(引用可能なアイテム)」をどのように定義するかによって、数字が変わってくる。現在の慣行では、「引用」と「出版物」の両方が、クラリベイト社によって独占的に定義されている。例えば、Web of Science(WoS)データベースでは「出版物」の中には「記事(article)」「総説(review)」「議事録(proceedings paper)」が含まれそれ以外の社説(editorial)、訂正(correction)、ノート(note)、撤回(retraction)、議論(discussion)などの他の記事項目は除外されている[10]。登録をすればユーザーはWoSにアクセスし、各ジャーナルにおける引用可能なアイテム数を個別に確認できる。対照的に、引用数はWoSデータベースからではなく、一般の読者がアクセスできない専用のJCRデータベースから抽出される。したがって、一般的に使用される「JCRインパクトファクター」は独自の値であり、クラリベイト社によって定義と計算がなされ、外部ユーザーが検証することはできない[11]。一方で、これらの引用情報は各著者が論文の末尾に記載した参照文献件目録(renferenceやbibliography)がソースとなっており、引用文献のドキュメントタイプをデータ作成者側のクラリベイト社は把握することができない[要出典]。そのため、分子と分母のドキュメントタイプは一致しない[要出典]

インパクトファクターはWeb of Scienceに収録される雑誌の3年間のデータを元に算出する。そのため、第1巻第1号からWoSに索引付けされた新しいジャーナルについては、2年間の索引付け後にインパクトファクターを受け取ることになる(この場合、二年前(すなわち発行開始以前)の出版物については、出版数0引用件数0としてインパクトファクターが計算される)。また、第1巻以降の途中の巻号からWoSに索引付けされたジャーナルについては、3年間の索引付けがされるまで、インパクトファクターを取得できない。ただし時折JCRは、部分的な引用データに基づいて、索引付けが2年未満の新しいジャーナルにもインパクトファクターを割り当てることがある[12][13]。年度出版物やその他の不規則な出版物は、特定の年にアイテムを出版しないことがあり、カウントに影響を与える。また、インパクトファクターは2年に限らず、任意の期間で計算することができる。たとえば、JCRには5年間インパクトファクター(five-year impact factor)も含まれている。これは、特定の年のジャーナルへの引用数を、過去5年間にそのジャーナルに掲載された記事の数で割ることで計算される[14][15]

使い方

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ジャーナルインパクトファクターは、ジャーナル自体の評価だけではなく、個々の記事や研究者の評価のためにもよく使用される[16]。インパクトファクターのこの使用方法は、Hoeffelによって以下のように要約されている[17]

インパクトファクターは、記事の品質を測定するための完璧なツールではありませんが、これ以上優れたものはなく、すでに存在しているという利点があるため、科学的評価に適した手法です。経験によれば、各専門分野で最高のジャーナルは、記事を受け入れるのが最も難しいジャーナルであり、これらはインパクトファクターの高いジャーナルです。これらのジャーナルのほとんどは、インパクトファクターが考案されるずっと前から存在していました。インパクトファクターを品質の尺度として使用することは、私たちの専門分野で最高のジャーナルの各分野で私たちが持っている意見とよく一致するため、広く普及しています。…結論として、一流のジャーナルは高レベルの論文を発表しています。したがって、それらのインパクトファクターは高く、逆ではありません。

しかしながらインパクトファクターは本来、記事レベルや個人レベルの指標ではなく、ジャーナルレベルの指標であるため、この使用法については議論の余地がある。例えばGarfieldは、Hoeffelに同意しているが[18] 、「単一のジャーナル内の記事ごとに[引用の]幅広いバリエーションがある」ため、「個人の評価における誤用」について警告をしている[19]。ガーフィールドはインパクトファクターに対する誤解に対して、次のように述べている。

「私は1955年に最初に雑誌「Science」においてインパクトファクターのアイデアについて言及した。〔中略〕1955年時点では「インパクト」というものがいつの日か大きな論議を巻き起こすものになるとは思い及ばなかった。インパクトファクターは原子力のように有難いようなありがたくないような存在となっている。 誤った方法で乱用されるかもしれないという認識はあったが、その一方で私はインパクトファクターが建設的に用いられることを期待したのである。」[20]

評価

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インパクトファクターの使用に関しては、多くの批判がなされてきた[21][22][23][24]。2007年の調査では、最も根本的な欠陥は、インパクトファクターが正規分布にならないデータの平均を示していることであり、これらのデータの中央値を示すことがより適切であることが示唆された[25]。ジャーナルの重要性の尺度としてのインパクトファクターの有効性と、編集者がインパクトファクターを高めるために採用する可能性のあるポリシーの効果(すなわち、論文執筆者と論文読者の不利益)についても、より一般的な議論がある。他の批判は、学者、編集者、その他の利害関係者の行動に対するインパクトファクターの影響に焦点を当てている[26]。また、より一般的な批判としては、インパクトファクターの強調は新自由主義政策の学界への悪影響から生じていると主張し、単純にインパクトファクターを科学出版物のより洗練された測定基準に置き換えるだけでなく、研究評価と高等教育における科学的キャリアの不安定さの高まりに関して議論を深めることが必要である、という主張がある[27][28]

重要性の尺度としての妥当性

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インパクトファクターと引用分析は、一般に分野依存の要因の影響を受けると言われている[29]。また分野間だけでなく、同分野の異なる研究領域間でも比較が無効になる可能性もある[30]。出版後最初の2年間に発生する総引用の割合も、数学および物理科学では1〜3%であるのに対し、生物科学では5〜8%と、分野によって大きく異なっている[31]。したがって、インパクトファクターを使用して、分野を超えてジャーナルを比較することは困難である。

インパクトファクターは、ジャーナルだけでなくその中の論文を評価するために使用されることがある[32]が、外れ値による影響を大きく受ける。例えば、”A short history of SHELX”というタイトルの論文は、「結晶構造決定の過程でオープンソースであるSHELXプログラム(およびBruker AXSバージョンSHELXTL)を1つ以上利用した際に、汎用的な引用文献として使用できます」という文言があり、実際にこの論文は6,600件以上もの引用を受けた。結果として、この論文を掲載しているジャーナルであるActa Crystallographica Section Aのインパクトファクターは劇的に上昇し、2008年に2.051だったのに対して2009年は49.926となり、ネイチャー(31.434)やScience(28.103)を超えた[33]。一方、Acta Crystallographicaで2番目に引用されている記事は、2008年の引用数は28件のみであった[34]。このような現象が起きうるため、インパクトファクターはジャーナルの指標であり、個々の研究者や機関を評価するために使用すべきではない、という考え方が主流である[35][36][37]

インパクトファクターのみに基づいて作成されたジャーナルのランキングは、専門家の調査結果から編集されたものと比較して、中程度の相関関係しかない事が示されている[38]。また、科学情報研究所の元研究ディレクターであるAECawkellは、インパクトファクターの基礎となるScience Citation Index(SCI)は、「すべての著者が、自分のテーマに関連する以前の研究のみを注意深く引用し、世界中で発行されているあらゆる科学雑誌が網羅されており、かつ経済的制約がない場合において、完全に機能するだろう」 と述べている[39]

インパクトファクターに影響を与る編集方針

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ジャーナルはそのインパクトファクターを高めるように、編集方針を修正する事ができる[40][41]。たとえば高IFを目指すジャーナルは、一般的に研究報告よりも引用されやすい総説論文が全体を占める割合が高い場合がある[42]

また、引用される可能性が低い記事(医学雑誌のケースレポートなど)の掲載を拒否する、あるいは(論文中に要約または参考文献を許可しないことによって、Journal Citation Reportsがそれを「引用可能な項目」と見なさないことを期待して)記事の形態を変更させることで、「引用可能なアイテム」の数(つまりインパクトファクター方程式の分母)を制限しようとする場合がある。アイテムが「引用可能」であるかどうかを調整することによって、300%を超えるインパクトファクターの変動が観察された例もある[43]。一方で、このように引用できないと見なされ、したがってインパクトファクターの計算に組み込まれない項目は、しかしながら実際に引用された場合、(簡単に除外できるにもかかわらず)方程式の分子部分に入れることができる。このような現象は、編集コメントと短いオリジナル記事の違いが必ずしも明白ではないため、実際にどの程度IFへ影響を与えているのか、その効果を評価するのは困難である。たとえば、編集者への手紙には、どちらかのクラスを参照している場合がある。

もう1つの、もうすこしあからさまではない戦略としては、論文の大部分(あるいは少なくとも引用数が多いと予想される論文)を、なるべく暦年の初めに発行することである。これにより、それらの論文は引用を収集するためのより多くの時間を得ることができる。必ずしも悪意のあるものとは限らないが、ジャーナルが同じジャーナル内の記事を引用することで、ジャーナルのインパクトファクターが増加することもある[44][45]

編集方針を超えて、インパクトファクターを歪める可能性のある行為をジャーナルは取ることも可能である。たとえば、2007年に、IF0.66の専門誌であったFolia Phoniatrica et Logopaedica、2005年から2006年までのすべての記事を引用した社説を発表し、その影響でそのジャーナルのインパクトファクターが1.44に増加した[46]。しかしながらこの操作の結果、このジャーナルは2008年および2009年のJournal Citation Reportsからは除外されてしまった[47]

強制引用は、ジャーナルのインパクトファクターを膨らませるために、ジャーナルが記事の公開に同意する前に、編集者が著者に無関係な引用を記事に追加するように強制する慣行である[48]。2012年に発表された調査によると、強制引用は、経済学、社会学、心理学、および複数のビジネス分野で働く5人に1人の研究者によって経験されており、ビジネスやインパクトファクターの低いジャーナルでより一般的である[49]。主要なビジネスジャーナルの編集者は、慣行を否認するための団結表明などをしている[50]が、他の分野では強制的な引用の事例が報告されることがある[51]

インパクトファクターと品質の相関関係

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インパクトファクターは元々、各ジャーナルに掲載された記事の引用数を集計し、図書館員が購読する価値のあるジャーナルを決定するのに役立つメトリックとして設計された。それ以来、インパクトファクターはジャーナルの「品質」と関連付けられるようになり、機関レベルでも研究者や研究者の評価に広く使用されるようになった。したがって、それは研究の実践と行動の舵取りに大きな影響を及ぼすこととなった[52][53][54]

すでに2010年頃には、国際的な研究助成機関において、インパクトファクターなどの数値指標を品質の尺度と見なすべきではないと指摘している[note 1]。実際、インパクトファクターは高度に操作されたメトリックである[55][56][57]。元々の目的を超えて継続的に広く使用されている理由の一つは、その研究の質との関係ではなく、むしろその計算方法の単純さに起因していると考えられる[58][59][60]

経験的に、インパクトファクターがジャーナルの一般的なランキング指標であるという誤用は、学術コミュニケーションシステムに多くの悪影響を及ぼしている。例えば、ジャーナルのアウトリーチと個々の論文の質との間の混乱や、社会科学と人文科学の不十分な報道につながっている他、ラテンアメリカ、アフリカ、東南アジアといった地域からの研究成果発表に影響を与えている[61]。その他の欠点としては、自国語や地域に関連するトピックに関する研究の疎外、非倫理的なオーサーシップや引用慣行の誘発がある。また、より一般的には、厳密な実験方法や再現性や社会的影響といった本来の研究成果の品質ではなく、出版社の名声に基づく学界での評判重視の傾向の増加が挙げられる。ジャーナルの名声とインパクトファクターを使用して学界で競争体制を構築することは、研究の質に悪影響を与えることが示されている[62]

インパクトファクターはしかしながら、多くの国において、研究を評価するために今でも定期的に使用されている[63][64][65]。そのメトリックの不透明性と出版社によって交渉されることが多いという事実に関して、多くの未解決の問題が残っているが、これらの整合性の問題は、広範囲にわたる誤用を抑えるのには、ほとんど役に立っていない[63][64][65]

現在、多くの地域の焦点とイニシアチブが、ライデン宣言[note 2]研究評価に関するサンフランシスコ宣言(The Declaration on Research Assessment; DORA)などの主要文書を含む、代替の研究評価システムを提供および提案している。「プランS」に関する最近の進展は、学術コミュニケーションシステムの根本的な変化とともに、そのようなイニシアチブのより広範な採用と実施を求めている[note 3]。したがって、JIFを品質の尺度と結び付ける一般的な単純化の根拠はほとんどなく、2つの継続的な不適切な関連付けは引き続き有害な影響を及ぼている。著者と研究の質の適切な尺度として、研究の卓越性の概念は、透明なワークフローとアクセス可能な研究結果を中心に再構築する必要がある[66][67][68]

インパクトファクターの値の「交渉」

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クラリベイト社によるインパクトファクターの正確な計算方法は、一般的に公開されておらず、結果は予測も再現もできない。特に「引用可能」と見なされ分母に含まれる項目によって、結果が大幅に変わる可能性がある[69]。この悪名高い例の1つは、1988年にFASEB Journalにおいて、掲載された会議要旨(meeting abstracts)が分母に含まれなくなったことである。この変更の結果、ジャーナルのインパクトファクターは1988年の0.24から1989年の18.3へと跳ね上がった[70]。このように出版社は、ジャーナルのインパクトファクターの「精度」を向上させてより高いスコアを取得する方法について、Clarivateと定期的に話し合っていると言われている[71][72]。このような交渉によって、例えば5大出版社の1つによる買収といった、雑誌内容や科学とは無関係なイベントの後に、数十のジャーナルのIFスコアが劇的に変化する、というような現象が実際に観察されている[73]

分布の歪度

[編集]
ジャーナルのインパクトファクターは、引用数の多いごく少数の論文に大きく影響される。2013〜14年に発行されたほとんどの論文の被引用数は、インパクトファクターによって示される値よりもはるかに少ない。 図中の2つのジャーナル(Nature [青]、PLOS ONE [オレンジ])は、それぞれ、引用数の多いジャーナルと引用数の少ないジャーナルの例を示している。 Natureのインパクトファクターに対しては、引用数の非常に多い少数の論文が大きな影響を与えている。Callaway, 2016を元に作成。 [74]

引用数の分布は非常に歪んでいるため[75]、ジャーナル自体の全体的な影響ではなくジャーナル内の記事の典型的な影響を測定するために使用した場合、IF値は誤解を招く可能性がある[76]。例えば、Nature2004年インパクトファクターの内90%程度は、その出版物の四半期の一つのみに基づいており、一つの論文が実際に引用された数は、全体の引用の平均数よりもはるかに低い場合がほとんどである[77]。さらに、ジャーナルのインパクトファクターと論文の引用率との関係の強さは、記事がデジタルで利用可能になり始めて以来、着実に減少している[78]

JIFの批評家は、引用分布のパターンが歪んでいるため、計算に算術平均を使用することには問題があると述べている[79]。IFの代わりに、記事レベルのメトリクスと代替メトリクス(altmetrics)は、研究への影響をより有益に測定できる場合がある[80]。また、モントリオール大学インペリアルカレッジロンドンPLOSeLifeEMBOジャーナル王立学会NatureScienceは、インパクトファクターの代替として引用分布メトリックを提案している[81][82]

科学者団体からの反応

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2007年11月、欧州科学編集者協会(EASE)は、「インパクトファクターは必ずしも信頼できる手段ではない」ため、「ジャーナルインパクトファクターは、単一の論文の評価用ではなく、また研究者や研究プログラムの評価用でもなく、全体の影響を測定および比較するためにおいてのみ、慎重に使用することを推奨する」公式声明を発表した[83]

2008年7月、国際科学評議会(the International Council for Science; ICSU)の科学の実施における自由と責任に関する委員会(The Committee on Freedom and Responsibility in the conduct of Science; CFRS)は、「出版慣行と指標、および研究評価におけるピアレビューの役割に関する声明」を発表し、多くの可能な解決策を提案した。たとえば、各科学者が考慮すべき1年あたりの出版物の制限数を検討したり、1年あたりの出版物の数が多すぎる(たとえば20を超える)ことで科学者にペナルティを科したりする、などの解決策が提唱されている[84]

2010年2月、ドイツ研究振興協会(Deutsche Forschungsgemeinschaft)は、「業績に基づく資金配分、博士後期課程の資格、任命、または資金提案のレビューといった、h指数やインパクトファクターなどの数値指標がますます重要になっているすべての決定において、評価される候補者に関する論文のみを評価し、計量書誌学的情報を評価しない、新しいガイドラインを公開した[85]。この決定に続き、全米科学財団(米国)と研究評価事業(英国)でも同様の決定がなされている[要出典]

科学的成果と科学者自身を評価する際のジャーナルインパクトファクターの不適切な使用に対する懸念の高まりに応えて、米国細胞生物学会は、学術ジャーナルの編集者と発行者のグループとともに、研究評価に関するサンフランシスコ宣言(DORA)を作成した。2013年5月にリリースされたこのDORAは、数千の個人や数百の機関からの支援を獲得しており[86]、その中には2015年3月に支持を表明したヨーロッパ研究大学連盟(League of European Research Universities; LERU)が含まれている[87]

英国高等教育助成評議会は、庶民院科学技術選択委員会に対して、研究評価事業委員会に、論文発表をしたジャーナルで研究成果の質を評価している疑念を指摘し、ジャーナルではなく各記事の内容の質を評価する義務があることを再考するよう、要請を出した[88]

いくつかの出版社やプラットフォームでは、インパクトファクターを表示しないことを選択している。たとえば、出版社のPLOSは、ジャーナルのインパクトファクターをWebサイトに表示していない。インパクトファクターは、学術的な検索エンジンであるMicrosoft Academicにも表示されない。2020年の時点で、Microsoft社のチームは、FAQのページで、h指数やEI / SCI、およびジャーナルのインパクトファクターは示されていない、と述べている[89]

日本国内における普及と批判

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現在、研究者や大学教員の人生および生計維持において、発表した論文のインパクトファクターの数字が決定的かつ絶対的な意味を持つケースは数多くある。例えば2016年に行われた東京女子医科大学の消化器外科講座の教授公募では、2015年に出版した論文のインパクトファクターの合計が15以上であることが公募要件として明記されている[90]。2011年に行われた福井大学の助教の公募では、採用後にインパクトファクターが約10以上の雑誌に論文を出す等の条件を満たせなければ雇用を4年で打ち切ることが明記されている[91]。一方、このような人事評価への利用についての批判も存在する。教授選考の指標として適切かどうかが問題となったこともある[92]。さらに計算対象についても、直近2年の論文データしか用いないのは短すぎるとの批判がある[93]。インパクトファクターを重視しすぎるあまり、重要な研究成果についてはより高いインパクトファクターを求めて国外の著名な論文誌に投稿する研究者もおり、結果的にその国の論文誌には重要な成果は掲載されないことになるため、その国の論文雑誌を衰退させる可能性があるという指摘もある[93]

2015年11月30日に、秋篠宮文仁親王は、50歳の誕生日に際して行われた記者とのやり取りにおいて、インパクトファクターに関して次のように述べた[94]

一方、今年もノーベル賞の受賞という大変うれしい知らせが先月ありました。もちろん、ノーベル賞の領域に入らない分野ですばらしい業績を挙げている人も多々おられますので、一つだけ取り上げるのはよくないのかもしれませんけれども、それでもやはり、私たちにとって誠にうれしいニュースでありました。しかも、地道な研究が評価されているということを感じました。ただ、その一方で、今学術の世界でだんだん短期的な成果を求められるようになってきています。例えば論文数ですとか、インパクトファクターの高いところに掲載されるかどうかなどですね。それは非常に大事なことではあっても、それのみで学術・学問が判断されることになると、地道に長い年月かけて行われて、良い成果が出るということがだんだんに無くなってくるのではないかなと、気にかかるときもあります。

2016年のノーベル賞受賞者である大隅良典は、論文不正問題の原因としてインパクトファクターを取り上げたNHKスペシャル『追跡 東大研究不正~ゆらぐ科学立国ニッポン~(2017年12月10日)』[95]のインタビューで次のように述べた。

今の大学院生の気分からいったら「自分が何やりたいです」じゃない。何をやったらいい論文が書けるかで選んだり(している)。研究不正する人って研究を実際には楽しめていないと思う。今、大変大きな問題は、若者も研究の楽しさをなかなか知れない。私、今の時代だったら早々とキックアウト(追い出し)されてたろうなと。それは実感として思います。科学の世界は変なやつもやっぱり内包しながら、面白いことを考えている人たちを大事にする、そういう多様性を認めないといけない。(一億円の私財を投じて作った研究支援財団に関して)研究者の目線でこの人サポートしたらいいねという人たちがサポートできるような財団にしたい。

2017年の日刊工業新聞のインタビュー[96]では次のように述べた。

若手は論文の数や、雑誌のインパクトファクターで研究テーマを選ぶようになってしまった。自分の好奇心ではなく、次のポジションを確保するための研究だ。自分の軸を持てないと研究者が客観指標に依存することになる。だが論文数などで新しい研究を評価できる訳ではない。

例えば一流とされる科学雑誌もつまる所、週刊誌の一つだ。センセーショナルな記事を好み、結果として間違った論文も多く掲載される。彼らにとって我々がオートファジーやその関連遺伝子「ATG」のメカニズムを研究していることは当たり前だ。その機構を一つ一つ解明するよりも、ATGが他の生命現象に関与していたり、ATGの関与しないオートファジーがあるという研究の方が驚きをもって紹介される。研究者にとってインパクトファクターの高い雑誌に論文を掲載することが研究の目的になってしまえばそれはもう科学ではないだろう。

視野の狭い研究者ほど客観指標に依存する。日本の研究者は日々忙しく異分野の論文を読み込む余裕を失っている面もある。だが異分野の研究を評価する能力が低くては、他の研究を追い掛けることはできても、新しい分野を拓いていけるだろうか。研究者は科学全体を見渡す能力を培わないとダメになる。

本来、一人の研究者が年間に10本も論文を書くことはおかしなことだ。3年に1本良い論文を出していれば十分良い研究ができている。また科学者は楽しい職業だと示せる人が増えないといけない。

2018年のノーベル賞受賞者である本庶佑は、2018年12月26日に京都大学で行われた記者会見において次のように述べた[97]

インパクトファクターなるものを作った某社がありまして、これは極めて良くない。トムソンロイター社には直接申し上げたこともあります。論文の中身が分からない人が使うんですね。未だにそれを使われているということは、ほとんどの人が論文の価値を分かっていないということを意味している。こういう習慣をやめなければいけない。

2003年に、日本数学会は、「数学の研究業績評価について」という理事会声明を決定した[98]。その声明の中で、異なる分野の論文を引用数を元に評価することについて次のように述べた。

サッカーの選手と野球の選手の価値をその選手が取った得点で比較するようなものであり、ほとんど意味がない

関連するインデックス

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同じ組織であるISIによって計算および公開されているいくつかの関連する値には、次のものがある。

  • 引用半減期:毎年Journal Citation Reportsで引用された記事の年齢の中央値。たとえば、2005年のジャーナルの半減期が5の場合、2001年から2005年までの引用は、2005年のそのジャーナルからのすべての引用の半分であり、残りの半分は2001年より前であることを示している[99]
  • サブジェクトカテゴリの総インパクトファクター:サブジェクトカテゴリのすべてのジャーナルへの引用数と、サブジェクトカテゴリのすべてのジャーナルからの記事数を考慮して計算される。
  • 即時性指数:特定の年にジャーナル内の記事が受け取る引用数を、発行された記事の数で割ったもの。

インパクトファクターと同様に、これらにもいくつかの微妙な違いがある。たとえば、ISIは、特定の記事タイプ(ニュース項目、通信、正誤表など)を分母から除外している[100][101][102][103]

その他の影響の測定

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IF以外のジャーナルレベルのメトリックは、他の組織から公開されている。たとえば、CiteScoreは、2016年12月にElsevierによって発売されたScopusのシリアルタイトルの指標である[104][105]。これらの指標はジャーナルにのみ適用されるが、個々の研究者に適用されるH指数などの著者レベルの指標も存在する。さらに、記事レベルのメトリックは、ジャーナルレベルではなく記事レベルで影響力を測定している。他のより一般的な代替メトリックであるaltmetricsには、記事の表示、ダウンロード、またはソーシャルメディアでの言及回数なども指標計算に含まれる場合がある。

偽物のインパクトファクター

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さまざまなインパクトファクターの模造物が、特定の企業や個人によって生成されている[106]。例えばElectronic Physician掲載された記事によると、Global Impact Factor(GIF)、Citefactor、Universal Impact Factor(UIF)が挙げられる[107]ジェフリー・ビールは、そのような誤解を招く指標を’Misleading Metrics’としてリスト化している[108]。もう1つの欺瞞的な慣行は、Google Scholarなどの信頼できる情報源(「Googleベースのジャーナルインパクトファクター」など)に基づいている場合でも、JCR以外の引用インデックスを使用して記事あたりの平均引用数として計算される「代替インパクトファクター」を報告することである[109]

誤ったインパクトファクターは、ハゲタカジャーナルによってよく使用される[110]。コンサルティングジャーナル引用レポートのマスタージャーナルリストは、出版物がジャーナル引用レポートによって索引付けされているかどうかを確認でき[111]、偽メトリックの使用が考えられるものについては赤色のフラグが立てられている[112]

脚注

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注訳

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関連項目

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外部リンク

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