「米田の補題」の版間の差分
I.hidekazu (会話) による ID:82803840 の版を取り消し タグ: 取り消し |
Category Theory in Contextを参考にまともな証明に修正。全射であることは丁寧な議論が必要。一番最後にもう一回id_Aを使うのもポイント |
||
3行目: | 3行目: | ||
==概要== |
==概要== |
||
局所的に小さい(locally small)圏 |
'''C'''を局所的に小さい(locally small)圏とする。すなわち'''C'''の各対象 A, B に対して hom(A, B) は集合であるとする。対象Aを固定するとき、共変hom関手 h<sub>A</sub> = hom(A, -) : '''C''' → '''Set''' は対象Xに対して、集合 hom(A, X) を割り当て、射 f : X → Y に対して写像 hom(A, f) = f∘- : hom(A, X) → hom(A, Y)を割り当てる関手であった。 |
||
さらに、 F : '''C''' → '''Set''' を集合値関手とし、h<sub>A</sub> から F へのすべての自然変換のクラス Nat(h<sub>A</sub>, F) について考える。 |
|||
⚫ | |||
米田の補題の骨子は、射 h<sub>A</sub>(f) = hom(A, f) : hom(A, A) → hom(A, B) の恒等射 1<sub>A</sub> に対する特性 |
|||
: |
:y:Nat(h<sub>A</sub>, F) ≅ F(A) |
||
が存在するというのが米田の補題である。 |
|||
である<ref>[[#大熊(1979)|大熊(1979)]] p.136</ref>。 |
|||
==証明== |
|||
θ は自然変換であるので、対象 A において自然である。 |
|||
θを'''C'''の各対象Xに'''Set'''の射 θ<sub>X</sub>: hom(A, X) → F(X)を割り当てる関数とするとき、θが自然変換であるというのは、'''C'''の任意の射 f : X → Y に対して |
|||
すなわち、各対象 B への各射 f : A → B すべてに対して、自然性条件 |
|||
:θ<sub> |
:θ<sub>Y</sub>∘hom(A, f) = F(f)∘θ<sub>X</sub> |
||
が成り立つことであった。これは'''Set'''の射 hom(A, X) → F(Y) の等式なので、言い換えると任意のhom(A, X)の元 g : A → X において等しい値 |
|||
が成り立つ。両辺を 1<sub>A</sub> に作用させると、 |
|||
: |
:(θ<sub>Y</sub>∘hom(A, f))(g) = (F(f)∘θ<sub>X</sub>)(g) |
||
を持つこととなる。hom関手の定義より、結局θが自然変換であるための必要十分条件は、任意の射 f : X → Y と g : A → X に対して、 |
|||
⚫ | |||
⚫ | |||
となる。したがって、各対象Bについて、 |
|||
が成り立つことである。特に、θが自然変換であるときに g = id<sub>A</sub> を選ぶと、任意の射 f : A → Y に対して、 |
|||
⚫ | |||
⚫ | |||
となる。これは、任意の('''C''' の射かつ '''Set''' の対象の要素である) f ∈ hom(A, B) = h<sub>A</sub>(B) に対して成り立つ。つまり θ<sub>A</sub>(1<sub>A</sub>) は 各コンポーネント θ<sub>B</sub> : h<sub>A</sub>(B) → F(B) を定め、自然変換 θ は要素 θ<sub>A</sub>(1<sub>A</sub>) ∈ F(A) から完全に決定されることがわかる。また明らかに、θ ∈ Nat(h<sub>A</sub>, F) は、対象 A における自然変換のコンポーネント θ<sub>A</sub> の恒等射 1<sub>A</sub> における値 θ<sub>A</sub>(1<sub>A</sub>) ∈ F(A) を定める。 |
|||
であることが分かる。 |
|||
米田写像yを自然変換θに対して |
|||
すなわち、全単射 |
|||
:y |
:y(θ) = θ<sub>A</sub>(id<sub>A</sub>) |
||
で定める。上記のことから、任意の自然変換θと任意の射 f : A → Y に対して、 |
|||
⚫ | |||
:θ<sub>Y</sub>(f) = F(f)(θ<sub>A</sub>(id<sub>A</sub>)) = F(f)(y(θ)) |
|||
であり、yは単射である。 |
|||
全射であることをいうには、任意の a∈F(A) に対して、y(θ) = a となる自然変換θを構成すればよい。θが自然変換であるためには任意の射 f : A → Y に対して、 |
|||
:θ<sub>Y</sub>(f) = F(f)(y(θ)) |
|||
が必要であり、これと y(θ) = a によりθのコンポーネントは |
|||
:θ<sub>Y</sub>(f) = F(f)(a) |
|||
によってすべて決定される。このθが自然変換であることを示す。任意の射 f : X → Y と g : A → X に対して、 |
|||
:θ<sub>Y</sub>(f∘g) |
|||
::=F(f∘g)(a) |
|||
::=F(f)(F(g)(a)) |
|||
::=F(f)(θ<sub>X</sub>(g)) |
|||
となり、自然変換であるための上記の十分条件を満たす。最後に |
|||
:y(θ) = θ<sub>A</sub>(id<sub>A</sub>) = F(id<sub>A</sub>)(a) = a |
|||
となり、y(θ) = a であることが分かる。 |
|||
==圏の完備化== |
==圏の完備化== |
||
58行目: | 74行目: | ||
* {{cite book|和書|author=河田敬義|title=ホモロジー代数I,II|publisher=岩波書店|year=1977|}} |
* {{cite book|和書|author=河田敬義|title=ホモロジー代数I,II|publisher=岩波書店|year=1977|}} |
||
* {{cite book|和書|author=中山 正, 服部 昭|title=復刊 ホモロジー代数学|publisher=共立出版|year=2010|}} |
* {{cite book|和書|author=中山 正, 服部 昭|title=復刊 ホモロジー代数学|publisher=共立出版|year=2010|}} |
||
* {{cite web|title=Category Theory in Context|last=Riehl|first=Emily|url=http://www.math.jhu.edu/~eriehl/context.pdf|accessdate=2021-04-23}} |
|||
== 関連項目 == |
== 関連項目 == |
2021年4月23日 (金) 19:29時点における版
米田の補題(よねだのほだい、英: Yoneda lemma)とは、小さなhom集合をもつ圏 C について、共変hom関手 hom(A, -) : C → Set から集合値関手 F : C → Set への自然変換と、集合である対象 F(A) の要素との間に一対一対応が存在するという定理である。 名称は米田信夫に因む。
概要
Cを局所的に小さい(locally small)圏とする。すなわちCの各対象 A, B に対して hom(A, B) は集合であるとする。対象Aを固定するとき、共変hom関手 hA = hom(A, -) : C → Set は対象Xに対して、集合 hom(A, X) を割り当て、射 f : X → Y に対して写像 hom(A, f) = f∘- : hom(A, X) → hom(A, Y)を割り当てる関手であった。
さらに、 F : C → Set を集合値関手とし、hA から F へのすべての自然変換のクラス Nat(hA, F) について考える。
このとき、米田写像(Yoneda map)と呼ばれる全単射
- y:Nat(hA, F) ≅ F(A)
が存在するというのが米田の補題である。
証明
θをCの各対象XにSetの射 θX: hom(A, X) → F(X)を割り当てる関数とするとき、θが自然変換であるというのは、Cの任意の射 f : X → Y に対して
- θY∘hom(A, f) = F(f)∘θX
が成り立つことであった。これはSetの射 hom(A, X) → F(Y) の等式なので、言い換えると任意のhom(A, X)の元 g : A → X において等しい値
- (θY∘hom(A, f))(g) = (F(f)∘θX)(g)
を持つこととなる。hom関手の定義より、結局θが自然変換であるための必要十分条件は、任意の射 f : X → Y と g : A → X に対して、
- θY(f∘g) = F(f)(θX(g))
が成り立つことである。特に、θが自然変換であるときに g = idA を選ぶと、任意の射 f : A → Y に対して、
- θY(f) = F(f)(θA(idA))
であることが分かる。
米田写像yを自然変換θに対して
- y(θ) = θA(idA)
で定める。上記のことから、任意の自然変換θと任意の射 f : A → Y に対して、
- θY(f) = F(f)(θA(idA)) = F(f)(y(θ))
であり、yは単射である。
全射であることをいうには、任意の a∈F(A) に対して、y(θ) = a となる自然変換θを構成すればよい。θが自然変換であるためには任意の射 f : A → Y に対して、
- θY(f) = F(f)(y(θ))
が必要であり、これと y(θ) = a によりθのコンポーネントは
- θY(f) = F(f)(a)
によってすべて決定される。このθが自然変換であることを示す。任意の射 f : X → Y と g : A → X に対して、
- θY(f∘g)
- =F(f∘g)(a)
- =F(f)(F(g)(a))
- =F(f)(θX(g))
となり、自然変換であるための上記の十分条件を満たす。最後に
- y(θ) = θA(idA) = F(idA)(a) = a
となり、y(θ) = a であることが分かる。
圏の完備化
C を局所的に小さな圏とする。C から関手圏 SetC への関手h(-) : Cop → SetC
- (対象関数) hA = hom(A, -) 共変hom関手
- (射関数) hfop:B→A = hom(A, -) hom(B, -) 共変hom関手間の自然変換
をグロタンディーク関手(Grothendieck functor)hと呼ぶ[1]。
ここで、共変hom関手の間の自然変換について
- y:Nat(hA, hB) ≅ hB(A) = homC(B, A)
が、米田の補題から成り立つ。ここで、関手圏の射が自然変換であったことから
- Nat(hA, hB) = homSetC(hA, hB)
とhom集合で書きなおすことができ、C のhom集合と SetC のhom集合との間に全単射
- homC(B, A) ≅ homSetC(hA, hB)
が存在することがわかる。すなわち、グロタンディーク関手 h は充満忠実である。
脚注
- ^ Encyclopedia of Mathematics : Grothendieck functor ただし、添字の上下はリンク先と便宜上、反対にした。
参考文献
- Bucur, I.; Beleanu, A. (1968). Introduction to the theory of categories and functors
- Freyed, P. (2003) [1964], Abelian Categories p.112-113
- Grothendieck, A. (1958-1960), Technique de descente et théorèmes d'existence en géométrie algébriques. II. Le théorème d'existence en théorie formelle des modules.
- Grothendieck, A. (1960-1961), Techniques de construction en géométrie analytique. IV. Formalisme général des foncteurs représentables
- MacLane, S. (1965), Categorical algebra p.54-55
- MacLane, S. (1971), Categorical algebra and set-theoretic foundations p.237
- MacLane, S. (1998). Categories for the Working Mathematician. Graduate Texts in Mathematics. 5 (2nd ed.). Springer-Verlag. ISBN 0-387-98403-8 邦訳:『圏論の基礎』
- Mitchell, B. (1965). Theory of Categories. Academic Press p.97-99
- Stauffer, H. B. (1971), A relationship between left exact and representable functors
- Stauffer, H. B. (1972), The completion of an abelian category
- 大熊正『圏論(カテゴリー)』槙書店、1979年。
- 河田敬義『ホモロジー代数I,II』岩波書店、1977年。
- 中山 正, 服部 昭『復刊 ホモロジー代数学』共立出版、2010年。
- Riehl, Emily. “Category Theory in Context”. 2021年4月23日閲覧。