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「白鳥の湖」の版間の差分

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{{Infobox バレエ
{| style="float:right;"
| 名称 = 白鳥の湖
|-
| 原語名称 = {{unicode|Лебединое озеро}}
|[[ファイル:Russia stamp Swan Lake 1993 25r.jpg|200px|thumb|『白鳥の湖』をデザインしたロシアの郵便切手]]
| 箱サイズ = 290px
|[[ファイル:Swanlake014.jpg|220px|thumb|『白鳥の湖』の一場面。中央は[[ニーナ・アナニアシヴィリ]]。]]
| 画像 = Devon Carney and Marie Christine Mouis - Swan Lake (26388722480).jpg
|}
| 左寄せ =
{{External media
| 説明 = 『白鳥の湖』オデットと王子の[[パ・ド・ドゥ]]
| width = 310px
| pxl =
| topic = 全曲を試聴する
| 版 = プティパ=イワノフ版
| audio1 = [https://www.youtube.com/watch?v=9rJoB7y6Ncs Tchaikovsky:Swan Lake] - キーロフ・バレエ(現・[[マリインスキー・バレエ]])による舞踊《音楽演奏に関する具体的記述無し》。[[:en:Warner Classics|Warner Classics]]公式YouTube。
| 構成 = 3幕4場
| 振付 = [[マリウス・プティパ|M・プティパ]]、[[レフ・イワノフ|L・イワノフ]]
| 作曲 = [[ピョートル・チャイコフスキー|P・チャイコフスキー]]
| 編曲 = [[リッカルド・ドリゴ|R・ドリゴ]]
| 台本 = V・ベギチェフ、V・ゲリツェル([[モデスト・チャイコフスキー|M・チャイコフスキー]]改訂)
| 美術・衣装=
| 美術 = M・I・ボチャーロフ、H・レヴォット{{Sfn|デブラ・クレイン、ジュディス・マックレル|2010|p=378}}
| 衣装 =
| 設定 =
| 初演 = [[1895年]]1月15日<br />([[ユリウス暦|ロシア旧暦]]1月27日)<br />[[マリインスキー劇場]]
| 初演会場 =
| 初演バレエ団=
| 主な初演者= <small>【オデット/オディール】</small>[[ピエリーナ・レニャーニ|P・レニャーニ]]<br><small>【王子】</small>[[パーヴェル・ゲルト|P・ゲルト]]
| 分類 =
}}
}}

{{External media
{{External media
| width = 310px
| width = 300px
| topic = 抜粋を試聴する
| topic = '''バレエ『白鳥の湖』全幕'''
| audio1 = [https://www.youtube.com/watch?v=9rJoB7y6Ncs バレエ『白鳥の湖』(全幕)]<br />([[マリインスキー・バレエ|キーロフ・バレエ]]出演、{{仮リンク|コンスタンチン・セルゲエフ|label=K・セルゲエフ|en|Konstantin Sergeyev}}他改訂振付、[[ヴィクトル・フェドートフ|V・フェドートフ]]指揮、[[マリインスキー劇場管弦楽団]]演奏)<br />
| audio1 = [https://www.youtube.com/watch?v=7_od6m2j5JM Tchaikovsky:Swan Lake]{{refnest|group="注"|YouTube内当該動画掲載ページ内に記載されている[[キャプション]](英語)によると、この演奏が行われた公演は子供向けに開催されたもので、演奏自体は[[ナレーション]]を伴う形で行われた《[[ナレーター]]は地元オランダの女優、[[:en:Hadewych Minis|ハデヴィック・ミニス(Hadewych Minis)]]が務めた》。当該動画は、ナレーション部分は省き、音楽演奏部分のみ抜粋して制作されている。なお、ナレーション付で当作品が演奏されたケースとしては、[[ナクソス (レコードレーベル)|ナクソス]]から[[スロヴァキア放送交響楽団]]の演奏によるものでリリースされているのが確認できるほか、日本国内でも[[東京シティ・バレエ団]]が2018年5月に同団が活動本拠としている[[江東区]]内で開いた公演に於いて実施している《東京シティ・バレエ団のケースでは、ナレーションのみならず[[台詞]]も入れていた》<ref>{{Cite web |url=http://ml.naxos.jp/album/8.557174 |title=チャイコフスキー:バレエ音楽「白鳥の湖」(子供のためのナレーション入り) |website=ナクソス・ミュージック・ライブラリー |publisher=ナクソス・ジャパン |accessdate=2018-10-09}}</ref><ref>{{Cite web |date=2018-05-27 |url=http://www.tokyocityballet.org/schedule/schedule_000356.html |title=”セリフ付き”バレエ「白鳥の湖」 |work=SCHEDULE |publisher=東京シティ・バレエ団 |accessdate=2018-10-09}}</ref><ref>{{Cite news |title=50周年を迎えた東京シティ・バレエ団の「バレエ・フォー・エヴリワン」の精神と芸術性~東京シティ・バレエ団バレエ・コンサート「ティアラ バレエ デイズ」「みにくい白鳥(アヒル)の子」/「CITY BALLET SALON vol.7」 |newspaper=CLASSICA JAPAN |date=2018-09-10 |author=結城美穂子(エディター/音楽・舞踊ライター) |url=https://www.classica-jp.com/event/5119/ |accessdate=2018-10-09}}</ref>。}} - バス・ウィーヘルス([[:nl:Bas Wiegers|Bas Wiegers]])指揮[[:en:Noord Nederlands Orkest|北オランダ交響楽団(Noord Nederlands Orkest)]]による演奏。[[オランダ公共放送|AVROTROS Klassiek]]公式YouTube。
{{仮リンク|ワーナー・クラシックス|en|Warner Classics}}公式YouTubeより
}}
}}
{{Portal クラシック音楽}}
『'''白鳥の湖'''』(はくちょうのみずうみ、 {{lang-ru|Лебединое озеро}})[[作品番号|作品]]20(組曲版は 作品20a)は、[[ピョートル・チャイコフスキー]]によって作曲された[[バレエ音楽]]、およびそれを用いたクラシック[[バレエ]]作品。『[[眠れる森の美女 (チャイコフスキー)|眠れる森の美女]]』、『[[くるみ割り人形]]』と共に3大バレエと言われる。日本では当初、『'''白鳥湖'''(はくちょうこ)』と呼ばれ、今でも内々の会話では略称で「はくちょうこ」と呼ぶバレエ団も少なくない<ref group="注">『白鳥の湖』という呼称を最初に使ったのは、小牧正英といわれる。</ref><ref>[http://www.esashi.com/komaki2.html 日本バレエ史の伝説【小牧正英】] 2011年5月5日閲覧。</ref>。


『'''白鳥の湖'''』(はくちょうのみずうみ、 {{lang-ru-short|''Лебединое озеро''}}, {{lang-fr-short|''Le Lac des cygnes''}}, {{lang-en-short|''Swan Lake''}})は、[[ピョートル・チャイコフスキー]]が作曲した[[バレエ音楽]]([[作品番号|作品]]20)、およびそれを用いた[[バレエ]]作品である{{Sfn|音楽之友社|1993|p=62}}。
== 概要 ==
=== 初演 ===
* [[1877年]][[3月4日]] モスクワ・[[ボリショイ劇場]]バレエ団が初演
* 振付:{{仮リンク|ヴェンツェル・ライジンガー|en|Julius_Reisinger}}
* 台本:ウラジミール・ペギチェフ、ワシリー・ゲルツァー


本作は、チャイコフスキーが初めて発表したバレエ音楽である<ref name="初作曲" group="注釈" />。1877年に[[モスクワ]]の[[ボリショイ劇場]]で初演された際はあまり評価が得られなかったが、チャイコフスキーの没後、[[振付師|振付家]]の[[マリウス・プティパ]]と[[レフ・イワノフ]]が大幅な改訂を行い、1895年に[[サンクトペテルブルク]]の[[マリインスキー劇場]]で蘇演した{{Sfn|デブラ・クレイン、ジュディス・マックレル|2010|p=378}}。現在上演されている『白鳥の湖』のほとんどは、プティパ=イワノフ版を元としている{{Sfn|デブラ・クレイン、ジュディス・マックレル|2010|p=378}}。
=== 蘇演 ===
* [[1895年]][[1月15日]] サンクトペテルブルク・[[マリインスキー劇場]]バレエ団が蘇演
* 振付:[[マリウス・プティパ]]、[[レフ・イワノフ]]
* 台本:モデスト・チャイコフスキー


本作は、[[ドイツ]]を舞台に、[[悪魔]]の[[呪い]]で[[白鳥]]に姿を変えられた王女オデットと、王子ジークフリートとの悲恋を描いた物語である{{Sfn|森田稔|1999|p=301}}{{Sfn|小倉重夫|1997|p=255}}。[[バレエ#クラシック・バレエ|クラシック・バレエ]]を代表する作品の一つであり、同じくチャイコフスキーが作曲した『[[眠れる森の美女 (チャイコフスキー)|眠れる森の美女]]』『[[くるみ割り人形]]』と共に「3大バレエ」とも呼ばれている{{Sfn|ダンスマガジン編集部|1999|p=34}}。
=== 日本初演 ===
* [[1946年]][[8月9日]] [[帝国劇場]]にて[[東京バレエ団 (第1期)|東京バレエ団]]が日本初演
* 振付:[[小牧正英]]


==上演史==
=== 楽器編成 ===
===創作の背景===
[[ピッコロ]]、[[フルート]]2、[[オーボエ]]2、[[クラリネット]]2、[[ファゴット]]2、[[ホルン]]4、[[コルネット]]2、[[トランペット]]2、[[トロンボーン]]3、[[チューバ]]、[[ティンパニ]](4個)、[[バスドラム|大太鼓]]、[[スネアドラム|小太鼓]]、[[タンブリン]]、[[シンバル]]、[[カスタネット]]、[[タムタム]]、[[トライアングル]]、[[グロッケンシュピール]]、[[ハープ]]、[[弦五部]]
[[File:Swanlakedecor.jpg|right|thumb|220px|初演版の舞台デザイン]]
[[1875年]]の春、チャイコフスキーは、[[ボリショイ劇場]]から[[バレエ音楽]]『白鳥の湖』の作曲を依頼された{{Sfn|森田稔|1999|p=95}}。当時のバレエ音楽は、バレエ専門の作曲家が手掛ける職人的な仕事であり、[[オペラ]]や[[交響曲]]に比べて芸術的価値が低いとみなされていた{{Sfn|森田稔|1999|p=7}}{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=12}}。チャイコフスキーはすでにオペラや交響曲の分野で成功を収めていたが、以前からバレエ音楽に興味を持っていたこともあり、作曲を承諾した{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=12}}。チャイコフスキーは友人の[[ニコライ・リムスキー=コルサコフ|リムスキー=コルサコフ]]に宛てた手紙で、「この仕事を引き受けたのは一つにはお金のためと、もう一つは長い間この種の音楽を書いてみたかったからだ」と書いている{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=12}}。


『白鳥の湖』の創作過程については不明な点が多いが、台本は、ボリショイ劇場の管理部長であったウラジミール・ベギチェフと、[[バレエダンサー|ダンサー]]であったワシリー・ゲリツェルが手掛けたとされる{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=12}}{{Sfn|森田稔|1999|pp=98-100}}。また、チャイコフスキーは作曲に当たり、振付家の{{仮リンク|ウェンツェル・レイジンゲル|en|Julius Reisinger}}と打ち合わせを行っていたと推測される{{Sfn|森田稔|1999|pp=102-103}}。チャイコフスキーは1875年の夏に作曲を始め、翌1876年の春に完成させた{{Sfn|森田稔|1999|p=109}}。
=== 演奏時間 ===
全曲版は約2時間半(各55分、30分、45分、20分、23分)、組曲版は約23分。


===初演(1877年・レイジンゲル版)===
== 作品の背景 ==
[[File:Swanlakesobechshanskaya.jpg|right|150px|thumb|初演者の一人であるA・ソベシチャンスカヤ]]
[[1877年]]3月4日([[ユリウス暦|ロシア旧暦]]2月20日)、ボリショイ劇場において、レイジンゲル振付による4幕のバレエ『白鳥の湖』が初演された{{Sfn|渡辺真弓|2014|pp=12-13}}。 主演のオデット役(オディール役との[[一人二役]])はダブルキャストで、初日から3回はペラゲーヤ・カルパコワが、4回目はアンナ・ソベシチャンスカヤが演じた<ref name="二役" group="注釈" />{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=15}}{{Sfn|森瑠依子|2017}}。この公演は、振付・舞台美術・ダンサー・指揮者などの水準が低かったことや、従来のバレエ音楽とは異なるチャイコフスキーの高度な楽曲が観客に理解されなかったことから、不成功に終わったというのが通説である{{Sfn|小倉重夫|1997|pp=255-256}}。しかし、完全な失敗だったという説には疑問が呈されており、実際には観客の評判は賛否両論であったこと、初演以降も繰り返し上演されており一定の人気を集めていたこと、などが指摘されている{{Sfn|渡辺真弓|2014|pp=15-16}}。

レイジンゲル版『白鳥の湖』は41回上演されたが、[[1883年]]1月の上演を最後にボリショイ劇場のレパートリーから外されてしまった{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=16}}。その背景には、当時のボリショイ劇場で経費や人員の削減が進められていたという事情があると考えられている{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=16}}。その後、[[1888年]]に[[プラハ]]で第2幕の抜粋上演が行われるなど、再演の試みはあったものの、本格的な全幕復活上演は、後述するプティパ=イワノフ版まで待たなければならなかった{{Sfn|森田稔|1999|pp=139-141}}。

なお、初演版に関しては、オディールが踊る「黒鳥の[[パ・ド・ドゥ#グラン・パ・ド・ドゥ|グラン・パ・ド・ドゥ]]」の追加曲にまつわるエピソードが有名である{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=15}}。第2キャストとして主演したソベシチャンスカヤは、自分の見せ場を増やすため、[[レオン・ミンクス]]に追加の楽曲を作らせたが、そのことを知ったチャイコフスキーは猛反対し、自ら作った新曲を挿入した{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=15}}。この曲は上演後しばらく忘れられていたが、1953年に再発見され、{{仮リンク|ウラジーミル・ブルメイステル|en|Vladimir Bourmeister}}による新演出版『白鳥の湖』で一部が用いられたほか、[[ジョージ・バランシン]]の『[[チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ]]』(1960年)で全曲が使用された{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=15}}。

===蘇演(1895年・プティパ=イワノフ版)===
[[File:Swanlakepreograjenskaya.jpg|right|220px|thumb|蘇演版のオデットと白鳥たち(1895年)]]
[[File:Swanlakelegnani.jpg|right|thumb|120px|蘇演版に主演した[[ピエリーナ・レニャーニ|P・レニャーニ]]]]
1890年代初頭、[[サンクトペテルブルク]]の[[マリインスキー劇場]]では、劇場支配人の{{仮リンク|イワン・フセヴォロジスキー|en|Ivan Vsevolozhsky}}主導の下、チャイコフスキー作曲のバレエ『[[眠れる森の美女 (チャイコフスキー)|眠れる森の美女]]』(1890年)と『[[くるみ割り人形]]』(1892年)が相次いで制作されていた{{Sfn|渡辺真弓|2014|pp=16-17}}。フセヴォロジスキーはこの間、あるいはそれ以前から『白鳥の湖』の再演を計画していたが、[[1893年]]10月に[[チャイコフスキーの死|チャイコフスキーが急逝]]する{{Sfn|渡辺真弓|2014|pp=16-17}}。そこで急遽、翌1894年2月のチャイコフスキー追悼演奏会において、『白鳥の湖』第2幕の湖畔の場面が抜粋上演されることになった{{Sfn|小倉重夫|1997|p=256}}。振付はマリインスキー劇場の副バレエマスターであった[[レフ・イワノフ]]、オデット役は[[ピエリーナ・レニャーニ]]、王子ジークフリート役は[[パーヴェル・ゲルト]]が務めた{{Sfn|デブラ・クレイン、ジュディス・マックレル|2010|p=378}}{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=17}}。この公演が好評を博したことから、全幕蘇演に向けた準備が開始された{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=17}}。

蘇演にあたっては、台本・振付・音楽の大幅な改訂が行われた。台本の改訂経緯は複雑であるが、まずチャイコフスキーの弟である[[モデスト・チャイコフスキー|モデスト]]が改訂を行い、さらにフセヴォロジスキーの意見に基づく修正が加えられたと考えられている{{Sfn|森田稔|1999|pp=267-272}}。この過程で、全体の構成が4幕から3幕に変更され、初演時の第1幕・第2幕は、第1幕の第1場・第2場となった{{Sfn|森田稔|1999|p=269}}。また内容面では、全体的に物語を簡素化し、王子ジークフリートの性格をより好ましいものにするなどの改変が行われた{{Sfn|森田稔|1999|p=267}}。結末の展開も大きく変更された。初演では王子がオデットの命を奪い、2人は[[洪水]]で流されるという結末であったのに対し、改訂後は、オデットが自ら死を選んで王子も後を追い、2人の犠牲によって悪魔が滅びるという筋書きになった{{Sfn|森田稔|1999|pp=267-272}}{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=20}}。

振付は、抜粋上演の振付を担当したイワノフと、彼の師でマリインスキー劇場の首席バレエマスターであった[[マリウス・プティパ]]が分担して行った{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=20}}{{Sfn|ダンスマガジン編集部|1999|p=28}}。具体的な分担は、第1幕第1場の宴の場面はプティパ、第1幕第2場の湖畔の場面はイワノフ、第2幕の舞踏会の場面はプティパ(ただしナポリとハンガリーの踊りのみイワノフ)、第3幕の湖畔の場面はプティパの原案を元にイワノフ、というものであった{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=20}}。

音楽は[[リッカルド・ドリゴ]]が、原曲の一部削除や曲順の入れ替え、チャイコフスキーの別の楽曲の挿入などにより全面的に改訂し、実際の上演に当たってはさらに改変が加えられた{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=20}}{{Sfn|森田稔|1999|pp=273-275}}。この改訂により原曲の4分の1ほどが削除され、チャイコフスキーが緻密に組み立てた音楽的構成は崩れてしまったが、一方で舞踊劇としての構成は改善され、踊りの見せ場が全体にバランスよく配置された{{Sfn|森田稔|1999|pp=278-282}}。

[[1895年]]1月15日(ロシア旧暦1月27日)、マリインスキー劇場において『白鳥の湖』全幕蘇演が行われた{{Sfn|渡辺真弓|2014|pp=19-20}}。主演は、前年の抜粋上演時と同じくレニャーニとゲルトが務め、この公演はチケットが完売するほどの評判となった{{Sfn|デブラ・クレイン、ジュディス・マックレル|2010|p=378}}{{Sfn|森田稔|1999|p=282}}。

===改訂演出===
1895年の蘇演以降、多くの[[振付師|振付家]]が『白鳥の湖』の改訂版を創作している。その多くはプティパ=イワノフ版を元にしているが、細かい筋書きや構成は演出によって異なる。以下、代表的な改訂演出とその特徴を挙げる(括弧内は初演年および初演バレエ団)。

*'''{{仮リンク|アレクサンドル・ゴルスキー|label=A・ゴルスキー|en|Alexander Alexeyevich Gorsky}}版(1901年・1912年・1920年・1922年、[[ボリショイ劇場#ボリショイ・バレエ|ボリショイ・バレエ]]{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=21}})'''ボリショイ劇場のバレエマスターであったゴルスキーは、4回にわたり本作の改訂版を発表したが、中でも特徴的なのは[[1920年]]版である。この版では、『白鳥の湖』の上演史上初めて[[ハッピーエンド]]を採用し、終幕で悪魔を倒したオデットと王子が、命を落とさず現世で結ばれるという展開をとった{{Sfn|赤尾雄人|2010|pp=214-216}}{{Sfn|ダンスマガジン|2008|p=52}}。その背景には、[[ロシア内戦|内戦]]が続いていた当時の[[ソ連]]社会において、[[勧善懲悪]]の物語が求められていたことがある{{Sfn|赤尾雄人|2010|pp=214-216}}。他にも、[[宮廷]]の場面に[[宮廷道化師|道化]]を登場させたり、従来[[一人二役]]であったオデットとオディールを別々のダンサーに踊らせたりといった新たな演出が試みられた{{Sfn|赤尾雄人|2010|pp=214-216}}。ただし、この版には守旧派からの批判が多かったため、[[1922年]]版ではオデットとオディールは再び一人二役となり、終幕も悲劇的なものに戻された{{Sfn|赤尾雄人|2010|pp=214-216}}。しかし、[[1937年]]に{{仮リンク|アサフ・メッセレル|en|Asaf Messerer}}がゴルスキー版を改訂した際は、再びハッピーエンドが採用された{{Sfn|赤尾雄人|2010|pp=214-216}}。

*'''{{仮リンク|ニコライ・セルゲエフ|label=N・セルゲエフ|en|Nicholas Sergeyev}}版([[1934年]]、[[ロイヤル・バレエ団|ヴィック・ウェルズ・バレエ]])'''マリインスキー劇場の舞台監督であったセルゲエフは、[[ロシア革命]]後に亡命した際、プティパ=イワノフ版の『白鳥の湖』を含む[[振付師#振付の記録・舞踊譜|舞踊譜]]を持ち出しており、それを元にヴィック・ウェルズ・バレエ(現在の英国ロイヤル・バレエ団)に本作を振り付けた{{Sfn|渡辺真弓|2014|pp=25-26}}。この作品は、[[西ヨーロッパ]]初の『白鳥の湖』全幕上演となった{{Sfn|渡辺真弓|2014|pp=25-26}}。その後、ロイヤル・バレエ団では、セルゲエフ版を元に、[[ニネット・ド・ヴァロア]]、[[フレデリック・アシュトン]]、{{仮リンク|アンソニー・ダウエル|en|Anthony Dowell}}らによる改訂が重ねられた{{Sfn|渡辺真弓|2014|pp=25-26}}。

*'''{{仮リンク|コンスタンチン・セルゲエフ|label=K・セルゲエフ|en|Konstantin Sergeyev}}版([[1950年]]、[[マリインスキー・バレエ|キーロフ・バレエ]])'''プティパ=イワノフ版を初演したマリインスキー劇場では、幾度か本作の改訂が行われたが、その中で最も長く演じられてきたのがセルゲエフ版である{{Sfn|渡辺真弓|2014|pp=22-24}}{{Sfn|野崎韶夫|1993|p=174}}。プティパ=イワノフ版の雰囲気を守りつつも、リアリズム的な演出を取り入れたことが特徴であり、結末は、王子と悪魔の[[一騎討ち]]により、悪魔が羽根をもがれて死ぬというものになっている{{Sfn|ダンスマガジン編集部|1998|p=125}}。

*'''{{仮リンク|ウラジーミル・ブルメイステル|label=V・ブルメイステル|en|Vladimir Bourmeister}}版([[1953年]]、スタニスラフスキーおよびネミロヴィチ=ダンチェンコ劇場モスクワ・アカデミー音楽劇場バレエ(現・モスクワ音楽劇場バレエ){{Sfn|渡辺真弓|2014|p=24}})'''この版の特徴は、楽曲の構成をできる限り1877年の初演版に近づけたことである{{Sfn|赤尾雄人|2010|pp=256-259}}。たとえば「黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ」では、プティパ=イワノフ版とは異なり、初演時にソベシチャンスカヤのために作られた追加楽曲が使用された(ただし、オディールの[[ヴァリアシオン (バレエ)|ヴァリアシオン]]とコーダは、原曲の「パ・ド・シス」より最後の2曲が用いられている){{Sfn|赤尾雄人|2010|pp=256-259}}。全体の構成はプロローグ・エピローグ付き全4幕であり、プロローグで悪魔がオデットに呪いをかける場面が演じられることで、物語の発端が理解しやすくなっている{{Sfn|赤尾雄人|2010|pp=256-259}}。また、エピローグでは悪魔が滅び、オデットが人間に戻る様子が演じられる{{Sfn|赤尾雄人|2010|pp=256-259}}。

[[File:Wiener Staatsoper Schwanensee Szene Akt4.jpg|right|250px|thumb|[[ルドルフ・ヌレエフ|ヌレエフ]]版の上演(2004年)]]
[[ソ連]]では、ゴルスキー=メッセレル版以降、善が悪を滅ぼすハッピーエンドの演出が多く生まれたが、西ヨーロッパでは、オデットと王子の死で終わる悲劇的な演出が主流となった{{Sfn|渡辺真弓|2015|p=43}}。[[ドイツ]]の[[シュトゥットガルト・バレエ団]]で初演された[[ジョン・クランコ]]版(1963年)や、その影響を受けた[[ルドルフ・ヌレエフ]]版(1964年)などが代表的である{{Sfn|渡辺真弓|2015|p=43}}。

また、初演版から踏襲されてきた物語設定を大きく変更し、現代的に再解釈した演出もある。王子ジークフリートを[[ルートヴィヒ2世 (バイエルン王)|バイエルン王ルードヴィヒ2世]]に重ね合わせた[[ジョン・ノイマイヤー]]版(1976年)、男性ダンサーが白鳥を演じた[[白鳥の湖 (マシュー・ボーン)|マシュー・ボーン版]](1995年)、[[英国王室]]の[[ダイアナ (プリンセス・オブ・ウェールズ)|ダイアナ元妃]]をオデットのモデルとした{{仮リンク|グレアム・マーフィ|en|Graeme Murphy}}版(2002年)などが挙げられる{{Sfn|ダンスマガジン|2008|pp=50-53}}<ref>{{Cite web |url=https://www.nbs.or.jp/stages/0707_australian/swan_top.html# |title=オーストラリア・バレエ団 2007年日本公演「白鳥の湖」 |website=[[日本舞台芸術振興会]] |accessdate=2021-04-22}}</ref>。

===日本での上演===
日本における『白鳥の湖』全幕初演は、[[1946年]]8月9日から同月30日まで、[[帝国劇場]]にて[[東京バレエ団 (第1期)|東京バレエ団]]が行った公演である{{Sfn|小野幸惠|2013|pp=10-11,141}}。その後も、本作は国内外のバレエ団によって頻繁に上演されている<ref name="上演回数" group="注釈" />。日本で手掛けられた本作の改訂演出には、[[清水哲太郎]]版『[[新・白鳥の湖]]』(1994年)や、[[熊川哲也]]版(2003年)などがある{{Sfn|ダンスマガジン|2008|pp=50-53}}<ref>{{Cite web|url=http://ebravo.jp/archives/25028|title=稲盛財団が4800名を松山バレエ団「新・白鳥の湖」に無料招待|publisher=[[ぶらあぼ]]|date=2016-02-24|accessdate=2021-04-22}}</ref>。なお、本作は日本で当初『白鳥湖(はくちょうこ)』と呼ばれており、今でも内々の会話では「はくちょうこ」と呼ぶバレエ団も少なくない{{要出典|date=2021年5月|}}。

==物語==
===原作===
『白鳥の湖』は、[[悪魔]]の[[呪い]]によって[[白鳥]]に姿を変えられた王女の物語であるが、直接の原作にあたる作品は明らかでない{{Sfn|森田稔|1999|p=98}}<ref name="西岡" group="注釈" />。創作の経緯については諸説あるが、最も一般的な説は、特定の原作はなく、既存の様々な作品を混ぜ合わせて物語を作り上げたというものである{{Sfn|森田稔|1999|p=98}}。その一つは、ドイツの作家{{仮リンク|ヨハン・カール・アウグスト・ムゼーウス|en|Johann Karl August Musäus}}が、世界中に見られる[[羽衣伝説|白鳥処女説話]]を題材として書いた『奪われたヴェール』である{{Sfn|森田稔|1999|p=98}}{{Sfn|鈴木晶|1994|pp=171-172}}。他にも本作に影響を与えたと考えられる作品としては、[[フランソワ・オーベール]]のオペラ『{{仮リンク|妖精の湖|en|Le lac des fées}}』や、『[[ジゼル]]』『[[ドナウの娘]]』などの[[バレエ#ロマンティック・バレエ|ロマンティック・バレエ]]の作品群が挙げられる{{Sfn|森田稔|1999|p=98}}。

創作経緯に関するその他の仮説としては、[[リヒャルト・ワーグナー|ワーグナー]]のオペラ『[[タンホイザー]]』や『[[ローエングリン]]』の影響を受けているという説や、チャイコフスキーが1871年に親戚の子供向けに創作した家庭演劇が原型になっているという説がある{{Sfn|森田稔|1999|pp=99-100}}。ただし後者は、根拠とされているチャイコフスキーの姪の回想が曖昧であることなどから、真偽は疑わしい{{Sfn|森田稔|1999|pp=96-97}}。

===主な登場人物===
{| style="float:right;"
{| style="float:right;"
|-
|-
|[[File:Musaeus.jpg|thumb|right|120px|ヨハン・カール・アウグス・ムゼーウス]]
|[[File:V sharipova.jpg|right|thumb|130px|オデット]]
|[[File:Richard Wagner (ca 1871), fotogravyr av Franz Hanfstaengl.jpg|thumb|right|120px|リヒャト・ワグナー]]
|[[File:Natalia Matsak LO1.jpg|right|thumb|130px|オディー(左)とジクフリト(右)]]
|}
|}
*オデット - 悪魔の呪いによって白鳥に姿を変えられた王女。
ドイツの作家[[ヨハン・カール・アウグスト・ムゼーウス]]による童話『奪われたヴェール』を元に構想が練られ、[[1875年]]、ボリショイ劇場の依頼により作曲。[[1876年]]に完成した。バレエが作られたのは[[ロシア]]だが、物語の舞台は『[[くるみ割り人形]]』と同じく[[ドイツ]]である。
*ジークフリート - オデットと恋に落ちる王子。
*ロットバルト - オデットに呪いをかけた悪魔。
*オディール - ロットバルトの娘。オデット役のダンサーが二役で演じる。

===あらすじ===
演出によって物語の展開に相違があるが、あらすじは概ね次のような内容である{{Sfn|ダンスマガジン|2008|pp=50-53}}{{Sfn|長野由紀|2003|p=246}}{{Sfn|長野由紀|2020|pp=24-25}}。
====第1幕第1場====
ドイツのとある王宮の前庭。王子ジークフリートの成人を祝う宴が開かれており、王子の友人たちが祝福の踊りを踊っている。そこに王子の母親が現れ、明日行われる舞踏会で花嫁を選ぶよう命じる。まだ結婚したくない王子は憂鬱な気分になる。やがて日が暮れると、白鳥の群れが空を飛んでいくのが見え、王子は白鳥狩りをしようと[[湖]]へ向かう。
====第1幕第2場====
[[File:Jezioro łabędzie (2) w choreografii Krzysztofa Pastora, Polski Balet Narodowy, fot. Ewa Krasucka TW-ON.jpg|right|250px|thumb|第1幕第2場 湖畔での[[パ・ド・ドゥ]]]]
静かな湖のほとり。弓を構えている王子の目の前で、1羽の白鳥が岸辺に上がり、美しい娘に変身する。王子の姿に気づいた娘は驚き、怯えるが、やがて身の上話を始める。娘の名はオデットといい、とある国の王女だったが、侍女たちと共に悪魔ロットバルトから呪いをかけられてしまった。そのために昼は白鳥の姿となり、夜だけ人間の姿に戻るのである。この呪いを解くただ一つの方法は、まだ誰にも愛を誓ったことのない男が、オデットに愛を捧げることである。2人は惹かれ合い、王子は自分が愛を誓おうと申し出るが、夜明けとともにオデットたちは白鳥の姿に戻り、飛び去って行く。
====第2幕====
[[File:SWAN LAKE 2nd Act Photo Vladimir Zenzinov.tif|right|250px|thumb|第2幕 舞踏会に現れたオディール(中央)]]
王宮の舞踏会場。ジークフリートの花嫁候補が様々な国から訪れるが、王子は彼女たちには目もくれず、オデットのことを思い続けている。そこへ、客人に変装した悪魔ロットバルトとその娘オディールが現れる。オディールは悪魔の魔法によって、オデットと瓜二つの姿になっている。オディールをオデットと思い込んだ王子は、その場で結婚の誓いを立ててしまう。その途端、ロットバルトたちは正体を現し、広間の窓に映る悲しげなオデットの姿を示しながら、王子をあざ笑って去っていく。王子は自分の過ちを悔い、急いでオデットのもとへ向かう。
====第3幕====
再び湖のほとり。侍女たちのもとへ戻ったオデットは、王子の誓いが破られたことを告げる。後を追ってきた王子はオデットに赦しを請う。オデットは王子を赦し、2人は湖に身を投げる。2人の愛の力を前にした悪魔は滅び、恋人たちの魂は永遠に結ばれる。

===演出による違い===
上記は3幕4場構成の場合のあらすじであるが、4幕構成で上演される場合は、第1幕第1場・第2場がそれぞれ第1幕・第2幕となる。また、物語の結末は演出によって様々である。上記のあらすじは、オデットと王子が命を落とすものの死後の世界で結ばれる、というものであるが、2人が湖に沈んで終わる悲劇的な結末や、悪魔を倒した2人が現世で結ばれるというハッピーエンドもある{{Sfn|渡辺真弓|2015|p=43}}。

==作品の特徴==
本作の特徴の一つは、主演[[バレリーナ]]が[[一人二役]]をこなすことであり、清楚な白鳥オデットと、王子を誘惑する妖艶な黒鳥オディールという、対照的な役柄の演じ分けが見どころとされている{{Sfn|長野由紀|2020|pp=24-25}}{{Sfn|ダンスマガジン|2008|p=53}}。オディールが「黒鳥の[[パ・ド・ドゥ#グラン・パ・ド・ドゥ|グラン・パ・ド・ドゥ]]」のクライマックスで披露する32回転の[[バレエ用語の一覧#フェッテ|フェッテ]]は、1895年の蘇演版に主演した[[ピエリーナ・レニャーニ]]が取り入れたものであり、女性ダンサーの高度なテクニックの見せ場として有名である{{Sfn|ダンスマガジン編集部|1998|p=122}}{{Sfn|長野由紀|2003|pp=263-264}}。

また、オデットと王子が出会う湖畔の場面(第1幕第2場)は、主役2人の[[パ・ド・ドゥ]]に加え、刻々とフォーメーションを変えていく白鳥たちの[[コール・ド・バレエ|群舞]]の美しさが高く評価されている{{Sfn|渡辺真弓|2014|p=21}}{{Sfn|長野由紀|2020|pp=24-25}}。この場面の振付はプティパ=イワノフ版の影響が強く残っており、新演出が試みられる際にも大きな変更が加えられることは稀である{{Sfn|長野由紀|2020|pp=24-25}}。

==楽曲==
{{External media
| width = 310px
| topic = '''オーケストラによる演奏(抜粋版)'''
| audio1 = [https://www.youtube.com/watch?v=7_od6m2j5JM 『白鳥の湖』(抜粋演奏)]<ref name="演奏抜粋版" group="注釈" /><br />
({{仮リンク|バス・ウィーヘルス|label=B・ウィーヘルス|nl|Bas Wiegers}}指揮、{{仮リンク|北オランダ交響楽団|en|Noord Nederlands Orkest}}による演奏)<br />
[[オランダ公共放送]]公式YouTubeより
}}

===楽器編成===
[[ピッコロ]]、[[フルート]]2、[[オーボエ]]2、[[クラリネット]]2、[[ファゴット]]2、[[ホルン]]4、[[コルネット]]2、[[トランペット]]4、[[トロンボーン]]3、[[チューバ]]、[[ティンパニ]]、[[バスドラム|大太鼓]]、[[スネアドラム|小太鼓]]、[[タンブリン]]、[[シンバル]]、[[カスタネット]]、[[タムタム]]、[[トライアングル]]、[[グロッケンシュピール]]、[[ハープ]]、[[弦五部]]{{Sfn|音楽之友社|1993|p=62}}

===作品構成===
{{Listen | header =『白鳥の湖』より
| filename = Tchaikovsky Swan Lake Op.20 No.2.Waltz.ogg | title = 第2曲 ワルツ
| filename2 = Tchaikovsky - Swan Lake Op.20 - Act II Pt.1.ogg | title2 = 第10曲 情景
| filename3 = Tchaikovsky Swan Lake Op.20 No.13. Danses des cygnes IV.ogg | title3 = 第13曲 Ⅳ 小さな白鳥たちの踊り
| filename4 = Tchaikovsky Swan Lake Op.20 No.13. Danses des cygnes V.ogg | title4 = 第13曲 Ⅴ パ・ダクシオン
| filename5 = Tchaikovsky Swan Lake Op.20 No.20. Hungarian Dance-Czardas.ogg | title5 = 第20曲 ハンガリーの踊り(チャールダーシュ)
| image =
}}
[[File:Labudovo jezero, Balet SNP-a, foto M. Polzović.jpg|right|thumb|250px|小さな白鳥たちの踊り(4羽の白鳥の踊り)]]

以下の楽曲構成は、チャイコフスキーの全集版スコア(1957年)に基づく{{Sfn|森田稔|1999|pp=ⅹ-ⅻ}}。演奏時間は約2時間25分(第1幕約40分、第2幕約40分、第3幕約40分、第4幕約25分)である{{Sfn|音楽之友社|1993|p=62}}。

ただし、1895年のバレエ蘇演にあたって楽曲に大幅な改変が加えられたため、現在上演されているバレエの楽曲構成は、以下のオリジナル版とは異なる場合がほとんどである。蘇演時の変更点は多数あるが、例えば、第1幕の「[[パ・ド・ドゥ]](第5曲)」を第3幕の舞踏会の場面に移動させ「黒鳥のパ・ド・ドゥ」としたこと、第2幕の「白鳥たちの踊り(第13曲)」の曲順を入れ替えたこと、第3幕から「パ・ド・シス(第19曲)」等を削除したこと、などが挙げられる{{Sfn|森田稔|1999|pp=273-275}}。

:序奏
;第1幕
:1 情景
:2 ワルツ
:3 情景
:4 パ・ド・トロワ(Ⅰ イントラーダ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ コーダ)
:5 パ・ド・ドゥ(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ コーダ)
:6 パ・ダクシオン
:7 シュジェ
:8 酒杯の踊り
:9 フィナーレ
;第2幕
:10 情景
:11 情景
:12 情景
:13 白鳥たちの踊り(Ⅰ、Ⅱ オデット・ソロ、Ⅲ 白鳥たちの踊り、Ⅳ、Ⅴ パ・ダクシオン、Ⅵ 全員の踊り、Ⅶ コーダ)
:14 情景
;第3幕
:15
:16 コール・ド・バレエと小人たちの踊り
:17 情景。客たちの退場とワルツ
:18 情景
:19 パ・ド・シス(Ⅰ イントラーダ、Ⅱ~Ⅵ [[ヴァリアシオン (バレエ)|ヴァリアシオン]]1~5、Ⅶ コーダ)
:20 [[ハンガリー]]の踊り、[[チャールダーシュ|チャルダーシュ]]
:21 [[スペイン]]の踊り
:22 [[ナポリ]]の踊り
:23 [[マズルカ]]
:24 情景
;第4幕
:25 間奏曲
:26 情景
:27 小さな白鳥たちの踊り
:28 情景
:29 フィナーレの情景
;第3幕への付加曲
:パ・ド・ドゥ(Ⅰ イントロダクション、Ⅱ ヴァリアシオン1、Ⅲ ヴァリアシオン2、Ⅳ コーダ)
:ロシアの踊り

===編曲版===
{{External media
| width = 310px
| topic = '''組曲『白鳥の湖』'''
| audio1 = [https://www.youtube.com/watch?v=wZaboVf5jdI 組曲『白鳥の湖』(全曲)] - L・ホンジョン(林憲政)指揮、コリアン・シンフォニー・オーケストラによる演奏。コリアン・シンフォニー・オーケストラ公式YouTube。
| audio2 = [https://www.youtube.com/watch?v=viYJdkB_z9k 組曲『白鳥の湖』(全曲)] - I・ルス指揮、アジア・フィルハーモニー管弦楽団による演奏。Busan Maru International Music Festival公式YouTube。
| audio3 = [https://www.youtube.com/watch?v=-tzvebu6U08 組曲『白鳥の湖』(全曲)] - Sylwia Anna Janiak指揮、Symphony Orchestra of the Feliks Nowowiejski Music School in Gdanskによる演奏。Akademia Filmu i Telewizji (映像制作者)公式YouTube。
| audio4 = [https://www.youtube.com/watch?v=V9L6_3AiF2Q 第2曲「ワルツ」] - D・ミクルスキ指揮、[[タイ・フィルハーモニック管弦楽団]]による演奏。指揮者自身の公式YouTube。
| audio5 = [https://www.youtube.com/watch?v=GEEpLhlFYnU 第2曲「ワルツ」] - N・クラウゼ指揮、ONE Symphony Orchestraによる演奏。指揮者自身の公式YouTube。
}}
本作は、演奏会用[[組曲]]([[作品番号|作品]]20a)としても演奏される。1882年、チャイコフスキーは楽譜出版社の[[ユルゲンソン (出版社)|ユルゲンソン]]に宛てた手紙で、『白鳥の湖』の組曲を作りたいという意思を表明しているが、その後の経緯については資料が残されていない{{Sfn|小松佑子|2017|p=225}}。今日演奏されている組曲は以下の6曲から成るが、指揮者によって曲目が多少変更されることもある{{Sfn|音楽之友社|1993|p=67}}。
# 情景(第10曲)
# ワルツ(第2曲)
# 小さな白鳥たちの踊り(第13曲Ⅳ)
# パ・ダクシオン(第13曲Ⅴ)
# ハンガリーの踊り、チャールダーシュ(第20曲)
# フィナーレの情景(第29曲・一部削除)


また[[クロード・ドビュッシー]]は、若い頃に、チャイコフスキーの[[パトロン]]であった[[ナジェジダ・フォン・メック]]のお抱え[[ピアニスト]]を務めていたが、1880年に夫人の指示で『白鳥の湖』の一部をピアノ[[連弾]]用に編曲し、ユルゲンソンから出版している{{Sfn|森田稔|1999|p=143}}。
チャイコフスキーにとって初めてのバレエ音楽であるが、初演当時は踊り手、振付師、指揮者に恵まれず、評価を得られなかった。それでもしばらくは再演されていたが、衣装・舞台装置の破損などからいつしかお蔵入りとなり、その後作曲者の書斎に埋もれていた。しかし、プティパとその弟子イワノフによって改造がなされ、チャイコフスキーの没後2年目の[[1895年]]に蘇演された。


===ワーグナーからの影響===
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{| class="wikitable" style="float:right; margin-left:1.5em; width:20em; text-align:center"
{| class="wikitable" style="float:right; margin-left:1.5em; width:20em; text-align:center"
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<span style="font-size:small">[[リヒャルト・ワーグナー|ワーグナー]]『[[ローエングリン]]』第1幕第3場より<ref>{{Cite book|author=[[リヒャルト・ワーグナー|Richard Wagner]] (comp.), [[:en:Theodor Uhlig|Theodor Uhlig]] (arr.)|title=Lohengrin (Piano Reduction)|publisher=[[ブライトコプフ・ウント・ヘルテル|Breitkopf & Härtel]]|page=41}}1852年頃。('''[https://imslp.org/wiki/File:PMLP03617-RWagner_Lohengrin,_WWV_75_vs_fe.pdf Online version]''' at [[国際楽譜ライブラリープロジェクト|IMSLP]], retrieved on 2018-10-09)</ref><br />(禁問の動機)</span>
<span style="font-size:small">[[リヒャルト・ワーグナー|ワーグナー]]『[[ローエングリン]]』第1幕第3場より<ref>{{Cite book|author=[[リヒャルト・ワーグナー|Richard Wagner]] (comp.), [[:en:Theodor Uhlig|Theodor Uhlig]] (arr.)|title=Lohengrin (Piano Reduction)|publisher=[[ブライトコプフ・ウント・ヘルテル|Breitkopf & Härtel]]|page=41}}1852年頃。([https://imslp.org/wiki/File:PMLP03617-RWagner_Lohengrin,_WWV_75_vs_fe.pdf Online version] at [[国際楽譜ライブラリープロジェクト|IMSLP]], retrieved on 2018-10-09)</ref>(禁問の動機)</span>
<br />
<br />
<score %sound="1"%>{
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<span style="font-size:small">『白鳥の湖』第2幕第10曲『情景』より<ref>{{Cite book|author=[[ピョートル・チャイコフスキー|Pyotr Tchaikovsky]]|chapter={{fr|Acte II No.10 - Scène}}|title={{fr|Le Lac des cygnes}}|year=1895|publisher=[[ユルゲンソン (出版社)|P. Jurgenson]]|pages=223-224}} ('''[https://imslp.org/wiki/File:Swan_Lake_-_No._10.pdf Online version]''' at IMSLP, retrieved on 2018-10-09)</ref><br />(白鳥のテーマ)</span><br />
<span style="font-size:small">『白鳥の湖』第2幕第10曲『情景』より<ref>{{Cite book|author=[[ピョートル・チャイコフスキー|Pyotr Tchaikovsky]]|chapter={{fr|Acte II No.10 - Scène}}|title={{fr|Le Lac des cygnes}}|year=1895|publisher=[[ユルゲンソン (出版社)|P. Jurgenson]]|pages=223-224}} ([https://imslp.org/wiki/File:Swan_Lake_-_No._10.pdf Online version] at IMSLP, retrieved on 2018-10-09)</ref><br />(白鳥のテーマ)</span><br />
<score %sound="1"%>{
<score %sound="1"%>{
#(set-default-paper-size "a7")
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82行目: 242行目:
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|}</div>
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本作品には[[リヒャルト・ワーグナー|ワーグナー]]の[[オペラ]]『[[ローエングリン]]』([[1850年]]初演)からの影響が指摘されている<ref name="Jacobs">{{Cite book|author=[[:en:Laura Jacobs|Laura Jacobs]] |url=https://books.google.co.jp/books?id=HqZEj7G2kZMC&pg=PA64&dq=lohengrin&hl=ja#v=onepage&q=lohengrin |title=Landscape With Moving Figures: A Decade on Dance |publisher=Dance and Movement Press, [[:en:Rosen Publishing|Rosen Publishing Group]] |date=2006-09-30 |ISBN=978-1597910019 |page=64 |accessdate=2018-10-09}}</ref><ref name="Hurley">{{Cite book|chapter=Opening the door to a fairy-tale world: Tchaikovsky's ballet music |author=Thérèse Hurley |editor=Marion Kant (Ed.) |title=The Cambridge Companion to Ballet |url=https://books.google.co.jp/books?id=9U7tO1u6nU4C&pg=PA166&dq=lohengrin&hl=ja#v=onepage&q=lohengrin |publisher=[[ケンブリッジ大学出版局|Cambridge University Press]] |date=2007-06-07 |page=166 |accessdate=2018-10-09 |isbn=978-0521539869}}</ref><ref name="Tarasti">{{Cite book|author=[[:en:Eero Tarasti|Eero Tarasti]] |title=Semiotics of Classical Music: How Mozart, Brahms and Wagner Talk to Us |isbn=9781614511540 |publisher=[[:en:Walter de Gruyter|De Gruyter Mouton]] |date=2012-09-14 |page=193 |url=https://books.google.co.jp/books?id=UhnqQ8bE4c0C&pg=PA193&dq=%22swan+lake%22+lohengrin+motif&f=false |accessdate=2019-03-11}}</ref>。両作品で白鳥が象徴的な意味を持つこと<ref name="Jacobs" />、『ローエングリン』の第1幕第3場で現れる「禁問の動機」と『白鳥の湖』の「白鳥のテーマ」との類似性<ref name="Hurley" /><ref name="Tarasti" />図の譜例と試聴用サウンドファイル参照)、そしてチャイコフスキーがワーグナー作品の中で『ローエングリン』を特に高く評価していたこと<ref name="Jacobs" />が根拠として挙げられている。
本作品には[[リヒャルト・ワーグナー|ワーグナー]]の[[オペラ]]『[[ローエングリン]]』からの影響が指摘されている<ref name="Jacobs">{{Cite book|author=[[:en:Laura Jacobs|Laura Jacobs]] |url=https://books.google.co.jp/books?id=HqZEj7G2kZMC&pg=PA64&dq=lohengrin&hl=ja#v=onepage&q=lohengrin |title=Landscape With Moving Figures: A Decade on Dance |publisher=Dance and Movement Press, [[:en:Rosen Publishing|Rosen Publishing Group]] |date=2006-09-30 |ISBN=978-1597910019 |page=64 |accessdate=2018-10-09}}</ref><ref name="Hurley">{{Cite book|chapter=Opening the door to a fairy-tale world: Tchaikovsky's ballet music |author=Thérèse Hurley |editor=Marion Kant (Ed.) |title=The Cambridge Companion to Ballet |url=https://books.google.co.jp/books?id=9U7tO1u6nU4C&pg=PA166&dq=lohengrin&hl=ja#v=onepage&q=lohengrin |publisher=[[ケンブリッジ大学出版局]] |date=2007-06-07 |page=166 |accessdate=2018-10-09 |isbn=978-0521539869}}</ref><ref name="Tarasti">{{Cite book|author=[[:en:Eero Tarasti|Eero Tarasti]] |title=Semiotics of Classical Music: How Mozart, Brahms and Wagner Talk to Us |isbn=9781614511540 |publisher=[[:en:Walter de Gruyter|De Gruyter Mouton]] |date=2012-09-14 |page=193 |url=https://books.google.co.jp/books?id=UhnqQ8bE4c0C&pg=PA193&dq=%22swan+lake%22+lohengrin+motif&f=false |accessdate=2019-03-11}}</ref>。両作品で白鳥が象徴的な意味を持つこと、『ローエングリン』の第1幕第3場で現れる「禁問の動機」と『白鳥の湖』の「白鳥のテーマ」との類似性(図の譜例参照)、そしてチャイコフスキーがワーグナー作品の中で『ローエングリン』を特に高く評価していたことが根拠として挙げられている<ref name="Jacobs" /><ref name="Hurley" /><ref name="Tarasti" />


== あらすじ ==
==関連項目==
* [[ブラック・スワン (映画)]] - 『白鳥の湖』を題材としたサスペンス映画。
[[File:Swanlake001.jpg|thumb|right|200px|オデット(白鳥)役を演じるゼナイダ・ヤノウスキー《左側;[[ロイヤル・バレエ団|英国ロイヤル・バレエ団]]》]]
* [[SWAN (漫画)]] - [[有吉京子]]によるバレエ漫画。
おおまかには以下に示すとおり。ただし、振付家や使用する版([[#たくさんの版|後記]]参照)によって異なることが多く、また下記のうち序奏部は省かれることも多く、更にラストもハッピーエンドとなるか悲劇で終わるか等、さまざまである。
* [[世界名作童話 白鳥の湖]] - 1981年に公開されたアニメ映画。
* [[カンパニー (小説)]] - 『白鳥の湖』の上演を目指すバレエ団を舞台とした小説。
* [[龍ケ崎市駅]] - 『白鳥の湖』を[[発車メロディ]]に使用している[[茨城県]]内の駅。


=== 序奏 ===
==脚注==
===注釈===
オデットが花畑で花を摘んでいると悪魔ロットバルトが現れ[[ハクチョウ|白鳥]]に変えてしまう。
{{Reflist|group="注釈"|refs=
<ref name="初作曲" group="注釈">チャイコフスキーが初めて取り組んだバレエ音楽は、1870年にボリショイ劇場から依頼を受けた『[[シンデレラ]]』であるが、何らかの理由で作曲を中断している。したがって、実際に完成し、発表されたバレエ音楽は『白鳥の湖』が最初である(森田稔 1999, pp. 95-96)。</ref>


<ref name="二役" group="注釈">初演時のポスターの配役表では、オディール役のダンサー名は「***」とだけ記載されており、名前が明示されていない。しかし、当時は二役を踊る人をこのように記載する習慣があったことから、オデットとオディールは初演時から一人二役であったと考えられる(森田稔 1999, pp. 129-130)。</ref>
=== 第1幕 ===
:王宮の前庭
今日はジークフリート王子の21歳の誕生日。お城の前庭には王子の友人が集まり祝福の踊りを踊っている。そこへ王子の母(王妃又は女王)が現われ、明日の王宮の舞踏会で花嫁を選ぶように言われる。まだ結婚したくない王子は物思いにふけり、友人達と共に白鳥が住む湖へ狩りに向かう。


<ref name="上演回数" group="注釈" >。1946年から2019年までに日本国内で本作が全幕上演された回数は2057回に上り、他の演目の上演回数を大きく上回る({{Cite web|url=https://ballet-archive.tosei-showa-music.ac.jp/stages |title=Performances 公演記録を探す |website=バレエアーカイブ |publisher=[[昭和音楽大学]] |accessdate=2021-4-22}})。</ref>
=== 第2幕 ===
:静かな湖のほとり
白鳥たちが泳いでいるところへ月の光が出ると、たちまち娘たちの姿に変わっていった。その中でひときわ美しいオデット姫に王子は惹きつけられる。彼女は夜だけ人間の姿に戻ることができ、この呪いを解くただ一つの方法は、まだ誰も愛したことのない男性に愛を誓ってもらうこと。それを知った王子は明日の舞踏会に来るようオデットに言う。


<ref name="西岡" group="注釈">本作の「白鳥」のモデルとなった鳥については、[[ハクチョウ]]ではなく[[ツル]]であるという説がある。[[音楽学者]]の[[西岡信雄]]は、「ハクチョウはダンスを踊ることはできない。白鳥のモデルは求愛のダンスを踊るツルであり、[[タンチョウ]]が存在する日本と違って白いツルがいなかったヨーロッパだったので、ツルのダンスにハクチョウの白いイメージをあわせたのではないか」と述べ、実際にツルの求愛のダンスと本作のダンスの刻むリズムが同じであるとの研究成果を発表している({{Cite news |和書|title=白鳥の湖、モデルはツル |newspaper=[[日本経済新聞]] |date=2003-5-19 }})。</ref>
=== 第3幕 ===
:王宮の舞踏会
世界各国の踊りが繰り広げられているところへ、悪魔が魔法を使ってオデットに似せた、娘オディールが現われる。王子はオデットとの違いに気づかず、彼女を花嫁として選ぶ。その様子を見ていたオデットは、王子の偽りを白鳥達に伝えるため湖へ走り去る。悪魔に騙されたことに気づいた王子は嘆き、急いでオデットのもとへ向かう。


<ref name="演奏抜粋版" group="注釈">当該動画に付記された説明文によれば、この演奏は子供向けに[[ナレーション]]を伴う形で行われたが、当該動画は演奏部分のみを抜粋して制作されている。なお、『白鳥の湖』のナレーション付き演奏は、[[スロヴァキア放送交響楽団]]によるものが[[ナクソス (レコードレーベル)|ナクソス]]からリリースされている({{Cite web |url=http://ml.naxos.jp/album/8.557174 |title=チャイコフスキー:バレエ音楽「白鳥の湖」(子供のためのナレーション入り)|publisher=ナクソス・ジャパン |accessdate=2018-10-09}})。また、日本国内では、[[東京シティ・バレエ団]]が2018年5月にナレーション・[[台詞]]付きの公演を行っている({{Cite web |date=2018-05-27 |url=http://www.tokyocityballet.org/schedule/schedule_000356.html |title=”セリフ付き”バレエ「白鳥の湖」 |publisher=東京シティ・バレエ団 |accessdate=2018-10-09}})。</ref>
=== 第4幕 ===
:もとの湖のほとり
破られた愛の誓いを嘆くオデットに王子は許しを請う。そこへ現われた悪魔に王子はかなわぬまでもと跳びかかった。激しい戦いの末、王子は悪魔を討ち破るが、白鳥たちの呪いは解けない。絶望した王子とオデットは湖に身を投げて来世で結ばれる。

メッセレル版以降、オデットの呪いが解けてハッピーエンドで終わる演出も出てきたが、原典とは異なる。

== 主要曲 ==
{| style="float:right;"
|-
|{{Listen | header = バレエ『白鳥の湖』より
| filename = Tchaikovsky - Swan Lake Op.20 - Act I Intro.ogg | title = Act I Intro
| filename2 = Tchaikovsky Swan Lake Op.20 No.2.Waltz.ogg | title2 = Act I Waltz(第1幕『ワルツ』)
| filename3 = Tchaikovsky - Swan Lake Op.20 - Act II Concl.ogg | title3 = Act II Concl
| filename4 = Tchaikovsky - Swan Lake Op.20 - Act II Pt.1.ogg | title4 = Act II Pt.1(第2幕『情景』)
| filename5 = Tchaikovsky Swan Lake Op.20 No.13. Danses des cygnes IV.ogg | title5 = Danses des cygnes(第2幕『四羽の白鳥の踊り』)
| filename6 = Tchaikovsky - Swan Lake Op.20 - Act III Concl, Allegro.ogg | title6 = Act III Concl, Allegro
| filename7 = Tchaikovsky - Swan Lake Op.20 - Act III Pt.1.ogg | title7 = Act III Pt.1
| filename8 = Tchaikovsky - Swan Lake Op.20 - Act IV Intro.ogg | title8 = Act IV Intro
| filename9 = Tchaikovsky Swan Lake Op.20 No.20. Hungarian Dance-Czardas.ogg | title9 = Hungarian Dance-Czardas(『ハンガリーの踊り(チャールダーシュ)』)
| image = none
}}
}}
|{{External media
| width = 255px
| topic = 組曲版の全曲を試聴する
| audio1 = [https://www.youtube.com/watch?v=wZaboVf5jdI P. I. Tchaikovsky 'Swan Lake' Suite] - イム・ホンジョン(林憲政;Hun-Joung Lim)指揮コリアン・シンフォニー・オーケストラによる演奏。コリアン・シンフォニー・オーケストラ公式YouTube。
| audio2 = [https://www.youtube.com/watch?v=viYJdkB_z9k TCHAIKOVSKY - Swan Lake Suite Op.20] - イウリアン・ルス(Iulian Rusu)指揮アジア・フィルハーモニー管弦楽団による演奏。Busan Maru International Music Festival公式YouTube。
| audio3 = [https://www.youtube.com/watch?v=-tzvebu6U08 Pyotr Tchaikovsky - Swan Lake suite Op.20a] - Sylwia Anna Janiak指揮Symphony Orchestra of the Feliks Nowowiejski Music School in Gdanskによる演奏。Akademia Filmu i Telewizji (映像制作者)公式YouTube。
| audio4 = [https://www.youtube.com/watch?v=E5RjqtBY1mk Tchaikovsky - Swan Lake suite]《追加有り》 - Maciej Niesiołowski指揮Symphony Orchestra of the Karol Szymanowski Music School in Warsawによる演奏。Akademia Filmu i Telewizji (映像制作者)公式YouTube。
}}
|}
{{External media
| width = 310px
| topic = 組曲版第2曲「ワルツ」(第1幕から)
| audio1 = [https://www.youtube.com/watch?v=V9L6_3AiF2Q P. Tchaikovsky:Swan Lake Suite, Valse] - ダリウシュ・ミクルスキ(Dariusz Mikulski)指揮[[タイ・フィルハーモニック管弦楽団]]による演奏。指揮者自身の公式YouTube。
| audio2 = [https://www.youtube.com/watch?v=GEEpLhlFYnU Tchaikovsky:Swan Lake Waltz] - ニコラス・クラウゼ(Nicolas Krauze)指揮ONE Symphony Orchestraによる演奏。指揮者自身の公式YouTube。
}}

# 序奏
# ワルツ〔第1幕〕
# 情景〔第2幕〕
# 四羽の白鳥の踊り〔第2幕〕
# 王子とオデットのグラン・アダージョ〔第2幕〕
# ハンガリーの踊り(チャールダーシュ)〔第3幕〕
# ナポリの踊り〔第3幕〕
# スペインの踊り〔第3幕〕
# 終曲〔第4幕〕
など

ハープの短い序奏のあと、オーボエがソロで主旋律を吹く「情景」(第2幕・第10曲、第14曲)が、本作品を代表する曲として、特によく知られている。

演奏会用[[組曲]]としてしばしば演奏される。曲目についてはチャイコフスキー没後の1900年に、出版社のユルゲンソンが
# 情景〔第2幕〕
# ワルツ〔第1幕〕
# 四羽の白鳥の踊り〔第2幕〕
# 王子とオデットのグラン・アダージョ〔第2幕〕
# ハンガリーの踊り(チャールダーシュ)〔第3幕〕
# 終曲〔第4幕〕
を取り出して出版した組曲版のセレクト以外にも、指揮者によってはまた別の曲を加えた形で演奏される。

チャイコフスキー本人も、1882年には「出来が良いものと考えた曲を選んで組曲を作る」という意思をユルゲンソン宛の手紙で表明していたが、その中では具体的な曲を挙げることはしていない。その後実際にチャイコフスキーがその作業に取り組んだか、またユルゲンソンの組曲版の選択に彼の意思が反映されているのかなどの具体的な証拠は残されていない。

なお[[クロード・ドビュッシー]]はその少年時代、チャイコフスキーのパトロンだった[[ナジェジダ・フォン・メック]]のお抱えピアニストを務め、その際にこの『白鳥の湖』組曲のピアノ[[連弾]]版を編曲して、フォン・メック夫人の子供たちと共に演奏した。
{{-}}

== たくさんの版 ==
1895年の蘇演以降、多くの演出家によって様々な版が作られた。多くはプティパ=イワノフ版をもとに改訂を施したものだが、ストーリー、登場人物、曲順などは版によってはかなり異なる。ただし白鳥たちの登場する第2幕はプティパ=イワノフ版が決定的な影響力を持っており、イワノフの振付がほとんど原形のまま見られる版が多い。

* ゴールスキー版(1933年)
* ニコライ・セルゲイエフ版(1934年)
* メッセレル版(1937年)
* [[ジョージ・バランシン|バランシン]]版(1951年)
* ブルメイステル版(1953年)
* [[ルドルフ・ヌレエフ|ヌレエフ]]版(1964年、1984年)- 王子と悪魔の戦いでは悪魔が勝ち、オデットを連れて去る。
* プティパ版(1952年)
* [[ユーリー・グリゴローヴィチ|グリゴローヴィチ]]版(1969年、2001年)
* [[清水哲太郎]]版[[新・白鳥の湖]](1994年)
* マッケンジー版(2000年)
* [[白鳥の湖 (マシュー・ボーン)|マシュー・ボーンの「白鳥の湖」]](1995年)
など

== 一人二役 ==
通常オデット(白鳥)とオディール(黒鳥)は同じ[[バレリーナ]]が演じる。見た目ではオデットとオディールでは衣装(オデット=白、オディール=黒)が違うが二人の性格は正反対であり、全く性格の違う2つの役を一人で踊り分けるのはバレリーナにとって大変なことである。オデット/オディール役は32回連続の[[フェッテ]](黒鳥の[[パ・ド・ドゥ]])など超技巧も含まれて、優雅さと演技力、表現力、技術、体力、スピードすべてに高いレベルが要求される役である。

プティパ版初演時、[[マリインスキー・バレエ|マリインスキー・バレエ団]](キーロフ・バレエ団)の[[プリマ]]、[[ピエリーナ・レニャーニ]]が両方踊ったのが定着した。

== 物語の最後 ==
版によって様々だが大きく2つに分けられる。一つは、王子とオデットがともに死んでしまう悲劇的な最後。もう一つは、オデットの魔法が解け王子と2人で幸せに暮らすというハッピーエンド。

初版やプティパ版は悲劇で終わっており、2人は永遠の世界へ旅立っていく(昇天する)。もっとも、悪魔や魔法が実在する世界においては、これも一種のハッピーエンドとして捉えることも可能である。現世で解決するハッピーエンドは1937年のメッセレル版で採用され、[[ソビエト連邦|ソ連]]を中心に広まった。


===出典===
== 「白鳥」のモデルについて ==
{{Columns-list|colwidth=16em|
[[File:SwansCygnus olor.jpg|thumb|right|150px]]
タイトルの通り、[[ハクチョウ]]が「白鳥」のモデルであると思われがちだが、[[大阪音楽大学]]学長の[[西岡信雄]]は本作の白鳥のモデルについて、「ハクチョウはダンスを踊ることはできない。白鳥のモデルは求愛のダンスを踊る[[ツル]]であり、[[タンチョウ]]が存在する日本と違って白いツルがいなかったヨーロッパだったので、ツルのダンスにハクチョウの白いイメージをあわせたのではないか」という意見を述べ、実際にツルの求愛のダンスと本作のダンスの刻むリズムが同じであるとの研究成果を述べた<ref>[[日本経済新聞]]2003/05/19付朝刊 40ページ(文化欄) 『白鳥の湖、モデルはツル』西岡信雄</ref>。

== その他 ==
* プティパによる初演に際し…
** 第1幕のグラン・パ・ド・ドゥの第3幕の王子とオディールのグラン・パ・ド・ドゥへの転用
** 第2幕の白鳥たちの踊りの曲順の変更
** 第3幕から婚約者の姫たちのパ・ド・シスの省略
** 第4幕へのチャイコフスキーのピアノ曲を[[管弦楽法|管弦楽編曲]]した曲の挿入
 などの曲の構成変更が行われている。そのため、全曲版のCDと実際に舞台に使われている音楽とで構成が異なる場合があるので注意が必要である。
* [[中国]]には、[[広州]]軍政治部戦士雑技団によるアクロバット・バレエの『白鳥の湖』があり、1999年から日本を含む世界各地で公演している<ref>[http://english.chinamil.com.cn/site2/news-channels/2006-06/15/content_501201.htm The "Swan Couple" conferred First Class Merit]english.chinamil.com.cn 2006-06-15</ref>。
*[[茨城県]][[龍ケ崎市]]にある[[東日本旅客鉄道]](JR東日本)[[常磐線]][[龍ケ崎市駅]]では、同駅が最寄り駅である[[牛久沼]]と、その水面を優雅に泳ぐ同市の市の鳥であるハクチョウを連想させる曲として、[[2017年]][[6月3日]]から[[発車メロディ]]として使用している<ref>{{Cite web|title=発車メロディー新しく 佐貫駅 記念式典、3曲お披露目 {{!}} きたかんナビ|url=http://kitakan-navi.jp/archives/21809|accessdate=2019-10-12|language=ja}}</ref>。メロディは[[スイッチ (音楽制作会社)|スイッチ]]の制作で、編曲は[[福嶋尚哉]]が手掛けた<ref>{{Cite web|title=株式会社スイッチオフィシャルサイト|url=http://www.switching.co.jp/news/309|website=株式会社スイッチオフィシャルサイト|accessdate=2019-10-12|language=ja|last=株式会社スイッチ}}</ref>。

== 脚注 ==
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注"}}
=== 出典 ===
{{Reflist}}
{{Reflist}}
}}


== 関連項目 ==
==参考文献==
*{{Cite book |和書 |author=[[赤尾雄人]]|year=2010 |title=これがロシア・バレエだ! |publisher=[[新書館]] |isbn=9784403231193|ref={{SfnRef|赤尾雄人|2010}}}}
* [[世界名作童話 白鳥の湖]]
*{{Cite book |和書 |author=[[小倉重夫]]|year=1997 |title=バレエ音楽百科 |publisher=[[音楽之友社]] |isbn=4276250315|ref={{SfnRef|小倉重夫|1997}}}}
* [[ブラック・スワン (映画)]]
*{{Cite book |和書 |author=小野幸惠 |year=2013 |title=焼け跡の「白鳥の湖」 島田廣が駆け抜けた戦後日本バレエ史 |publisher=文藝春秋企画出版部 |isbn=9784160087859|ref={{SfnRef|小野幸惠|2013}}}}
*{{Cite book |和書 |author=音楽之友社|year=1993 |title=作曲家別名曲解説ライブラリー⑧ チャイコフスキー |publisher=音楽之友社 |isbn=4276010489 |ref={{SfnRef|音楽之友社|1993}}}}
*{{Cite book |和書 |author=デブラ・クレイン、ジュディス・マックレル |translator= [[鈴木晶]]、赤尾雄人、海野敏、長野由紀|year=2010 |title=オックスフォード バレエダンス事典 |publisher=[[平凡社]] |isbn=9784582125221 |ref={{SfnRef|デブラ・クレイン、ジュディス・マックレル|2010}}}}
*{{Cite book |和書 |author=小松佑子 |year=2017 |title=チャイコーフスキイ伝 上巻 アダージョ・ラメント―ソはレクイエムの響き |publisher=[[文芸社]] |isbn=9784286181844 |ref={{SfnRef|小松佑子|2017}}}}
*{{Cite book |和書 |author=鈴木晶 |year=1994 |title=踊る世紀 |publisher=新書館 |isbn=4403230385 |ref={{SfnRef|鈴木晶|1994}}}}
*{{Cite book |和書 |author=ダンスマガジン |year=2008 |title=バレエ・パーフェクト・ガイド |publisher=新書館 |isbn=9784403320286|ref={{SfnRef|ダンスマガジン|2008}} }}
*{{Cite book |和書 |author=ダンスマガジン編集部|year=1998 |title=バレエ101物語 |publisher=新書館|isbn=9784403250323|ref={{SfnRef|ダンスマガジン編集部|1998}}}}
*{{Cite book |和書 |author=ダンスマガジン編集部|year=1999 |title=ダンス・ハンドブック |publisher=新書館 |isbn=4403250378|ref={{SfnRef|ダンスマガジン編集部|1999}}}}
*{{Cite book |和書 |author=長野由紀|year=2003 |title=バレエの見方 |publisher=新書館 |isbn=4403230997|ref={{SfnRef|長野由紀|2003}} }}
*{{Cite journal |和書|author=長野由紀 |title=バレエ名作ガイド 白鳥の湖 |date=2020-10-01 |publisher= 新書館|journal=ダンスマガジン |volume=第30巻第10号 |ref={{SfnRef|長野由紀|2020}} }}
*{{Cite book |和書 |author=野崎韶夫 |year=1993 |title=ロシア・バレエの黄金時代 |publisher=新書館 |isbn=4403230369 |ref={{SfnRef|野崎韶夫|1993}}}}
*{{Cite web |author=森瑠依子 |date=2017-8-10 |url=https://www.chacott-jp.com/news/column/others/detail000343.html |title=バレエの栄光の歴史がきらめく 「薄井憲二バレエ・コレクション」の逸品を訪ねて その5 |website=[[チャコット]] |accessdate=2021-04-21|ref={{SfnRef|森瑠依子|2017}}}}
*{{Cite book |和書 |author=[[森田稔]] |year=1999 |title=永遠の「白鳥の湖」  チャイコフスキーとバレエ音楽|publisher=新書館 |isbn=4403230644|ref={{SfnRef|森田稔|1999}}}}
*{{Cite book |和書 |author=渡辺真弓 |year=2014 |title=チャイコフスキー三大バレエ 初演から現在に至る上演の変遷 |publisher=[[新国立劇場|公益財団法人新国立劇場運営財団情報センター]] |isbn=9784907223069|ref={{SfnRef|渡辺真弓|2014}} }}
*{{Cite book |和書 |author=渡辺真弓 |year=2015 |title=魅惑のバレエの世界 ―入門編― |publisher=青林堂 |isbn=9784792605339 |ref={{SfnRef|渡辺真弓|2015}}}}


== 外部リンク ==
==外部リンク==
{{commonscat|Swan Lake}}
{{commonscat|Swan Lake}}
* バレエ音楽『白鳥の湖』作品20
* バレエ音楽『白鳥の湖』作品20
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** [https://musopen.org/ja/music/2247-swan-lake-suite-op20a/ Swan Lake (suite), Op.20a] - 『Musopen』より
** [https://musopen.org/ja/music/2247-swan-lake-suite-op20a/ Swan Lake (suite), Op.20a] - 『Musopen』より
** [http://en.tchaikovsky-research.net/pages/Swan_Lake_(suite) Swan Lake (suite)] - 『Tchaikovsky Research』より
** [http://en.tchaikovsky-research.net/pages/Swan_Lake_(suite) Swan Lake (suite)] - 『Tchaikovsky Research』より
* [http://www.nureyev.org/rudolf-nureyev-choreographies/rudolf-nureyev-swan-lake The Swan Lake - Nureyev's choreography] - 『Rudolf Nureyev Foundation』より{{en icon}}{{fr icon}}{{ru icon}}


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[[Category:チャイコフスキーの管弦楽曲]]
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[[Category:変身を題材としたフィクション作品]]
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[[Category:悪魔を題材とした作品]]
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[[Category:心中を扱った作品]]
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[[Category:1870年代の音楽]]
[[Category:1870年代の音楽]]
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[[Category:1870年代の舞台作品]]

2021年5月24日 (月) 09:40時点における版

白鳥の湖
Лебединое озеро
『白鳥の湖』オデットと王子のパ・ド・ドゥ
プティパ=イワノフ版
構成 3幕4場
振付 M・プティパL・イワノフ
作曲 P・チャイコフスキー
編曲 R・ドリゴ
台本 V・ベギチェフ、V・ゲリツェル(M・チャイコフスキー改訂)
美術 M・I・ボチャーロフ、H・レヴォット[1]
初演 1895年1月15日
ロシア旧暦1月27日)
マリインスキー劇場
主な初演者 【オデット/オディール】P・レニャーニ
【王子】P・ゲルト
ポータル 舞台芸術
ポータル クラシック音楽
テンプレートを表示
音楽・音声外部リンク
バレエ『白鳥の湖』全幕

バレエ『白鳥の湖』(全幕)
キーロフ・バレエ出演、K・セルゲエフ英語版他改訂振付、V・フェドートフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団演奏)

ワーナー・クラシックス英語版公式YouTubeより

白鳥の湖』(はくちょうのみずうみ、 : Лебединое озеро, : Le Lac des cygnes, : Swan Lake)は、ピョートル・チャイコフスキーが作曲したバレエ音楽作品20)、およびそれを用いたバレエ作品である[2]

本作は、チャイコフスキーが初めて発表したバレエ音楽である[注釈 1]。1877年にモスクワボリショイ劇場で初演された際はあまり評価が得られなかったが、チャイコフスキーの没後、振付家マリウス・プティパレフ・イワノフが大幅な改訂を行い、1895年にサンクトペテルブルクマリインスキー劇場で蘇演した[1]。現在上演されている『白鳥の湖』のほとんどは、プティパ=イワノフ版を元としている[1]

本作は、ドイツを舞台に、悪魔呪い白鳥に姿を変えられた王女オデットと、王子ジークフリートとの悲恋を描いた物語である[3][4]クラシック・バレエを代表する作品の一つであり、同じくチャイコフスキーが作曲した『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』と共に「3大バレエ」とも呼ばれている[5]

上演史

創作の背景

初演版の舞台デザイン

1875年の春、チャイコフスキーは、ボリショイ劇場からバレエ音楽『白鳥の湖』の作曲を依頼された[6]。当時のバレエ音楽は、バレエ専門の作曲家が手掛ける職人的な仕事であり、オペラ交響曲に比べて芸術的価値が低いとみなされていた[7][8]。チャイコフスキーはすでにオペラや交響曲の分野で成功を収めていたが、以前からバレエ音楽に興味を持っていたこともあり、作曲を承諾した[8]。チャイコフスキーは友人のリムスキー=コルサコフに宛てた手紙で、「この仕事を引き受けたのは一つにはお金のためと、もう一つは長い間この種の音楽を書いてみたかったからだ」と書いている[8]

『白鳥の湖』の創作過程については不明な点が多いが、台本は、ボリショイ劇場の管理部長であったウラジミール・ベギチェフと、ダンサーであったワシリー・ゲリツェルが手掛けたとされる[8][9]。また、チャイコフスキーは作曲に当たり、振付家のウェンツェル・レイジンゲル英語版と打ち合わせを行っていたと推測される[10]。チャイコフスキーは1875年の夏に作曲を始め、翌1876年の春に完成させた[11]

初演(1877年・レイジンゲル版)

初演者の一人であるA・ソベシチャンスカヤ

1877年3月4日(ロシア旧暦2月20日)、ボリショイ劇場において、レイジンゲル振付による4幕のバレエ『白鳥の湖』が初演された[12]。 主演のオデット役(オディール役との一人二役)はダブルキャストで、初日から3回はペラゲーヤ・カルパコワが、4回目はアンナ・ソベシチャンスカヤが演じた[注釈 2][13][14]。この公演は、振付・舞台美術・ダンサー・指揮者などの水準が低かったことや、従来のバレエ音楽とは異なるチャイコフスキーの高度な楽曲が観客に理解されなかったことから、不成功に終わったというのが通説である[15]。しかし、完全な失敗だったという説には疑問が呈されており、実際には観客の評判は賛否両論であったこと、初演以降も繰り返し上演されており一定の人気を集めていたこと、などが指摘されている[16]

レイジンゲル版『白鳥の湖』は41回上演されたが、1883年1月の上演を最後にボリショイ劇場のレパートリーから外されてしまった[17]。その背景には、当時のボリショイ劇場で経費や人員の削減が進められていたという事情があると考えられている[17]。その後、1888年プラハで第2幕の抜粋上演が行われるなど、再演の試みはあったものの、本格的な全幕復活上演は、後述するプティパ=イワノフ版まで待たなければならなかった[18]

なお、初演版に関しては、オディールが踊る「黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ」の追加曲にまつわるエピソードが有名である[13]。第2キャストとして主演したソベシチャンスカヤは、自分の見せ場を増やすため、レオン・ミンクスに追加の楽曲を作らせたが、そのことを知ったチャイコフスキーは猛反対し、自ら作った新曲を挿入した[13]。この曲は上演後しばらく忘れられていたが、1953年に再発見され、ウラジーミル・ブルメイステル英語版による新演出版『白鳥の湖』で一部が用いられたほか、ジョージ・バランシンの『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』(1960年)で全曲が使用された[13]

蘇演(1895年・プティパ=イワノフ版)

蘇演版のオデットと白鳥たち(1895年)
蘇演版に主演したP・レニャーニ

1890年代初頭、サンクトペテルブルクマリインスキー劇場では、劇場支配人のイワン・フセヴォロジスキー英語版主導の下、チャイコフスキー作曲のバレエ『眠れる森の美女』(1890年)と『くるみ割り人形』(1892年)が相次いで制作されていた[19]。フセヴォロジスキーはこの間、あるいはそれ以前から『白鳥の湖』の再演を計画していたが、1893年10月にチャイコフスキーが急逝する[19]。そこで急遽、翌1894年2月のチャイコフスキー追悼演奏会において、『白鳥の湖』第2幕の湖畔の場面が抜粋上演されることになった[20]。振付はマリインスキー劇場の副バレエマスターであったレフ・イワノフ、オデット役はピエリーナ・レニャーニ、王子ジークフリート役はパーヴェル・ゲルトが務めた[1][21]。この公演が好評を博したことから、全幕蘇演に向けた準備が開始された[21]

蘇演にあたっては、台本・振付・音楽の大幅な改訂が行われた。台本の改訂経緯は複雑であるが、まずチャイコフスキーの弟であるモデストが改訂を行い、さらにフセヴォロジスキーの意見に基づく修正が加えられたと考えられている[22]。この過程で、全体の構成が4幕から3幕に変更され、初演時の第1幕・第2幕は、第1幕の第1場・第2場となった[23]。また内容面では、全体的に物語を簡素化し、王子ジークフリートの性格をより好ましいものにするなどの改変が行われた[24]。結末の展開も大きく変更された。初演では王子がオデットの命を奪い、2人は洪水で流されるという結末であったのに対し、改訂後は、オデットが自ら死を選んで王子も後を追い、2人の犠牲によって悪魔が滅びるという筋書きになった[22][25]

振付は、抜粋上演の振付を担当したイワノフと、彼の師でマリインスキー劇場の首席バレエマスターであったマリウス・プティパが分担して行った[25][26]。具体的な分担は、第1幕第1場の宴の場面はプティパ、第1幕第2場の湖畔の場面はイワノフ、第2幕の舞踏会の場面はプティパ(ただしナポリとハンガリーの踊りのみイワノフ)、第3幕の湖畔の場面はプティパの原案を元にイワノフ、というものであった[25]

音楽はリッカルド・ドリゴが、原曲の一部削除や曲順の入れ替え、チャイコフスキーの別の楽曲の挿入などにより全面的に改訂し、実際の上演に当たってはさらに改変が加えられた[25][27]。この改訂により原曲の4分の1ほどが削除され、チャイコフスキーが緻密に組み立てた音楽的構成は崩れてしまったが、一方で舞踊劇としての構成は改善され、踊りの見せ場が全体にバランスよく配置された[28]

1895年1月15日(ロシア旧暦1月27日)、マリインスキー劇場において『白鳥の湖』全幕蘇演が行われた[29]。主演は、前年の抜粋上演時と同じくレニャーニとゲルトが務め、この公演はチケットが完売するほどの評判となった[1][30]

改訂演出

1895年の蘇演以降、多くの振付家が『白鳥の湖』の改訂版を創作している。その多くはプティパ=イワノフ版を元にしているが、細かい筋書きや構成は演出によって異なる。以下、代表的な改訂演出とその特徴を挙げる(括弧内は初演年および初演バレエ団)。

  • A・ゴルスキー英語版版(1901年・1912年・1920年・1922年、ボリショイ・バレエ[31]ボリショイ劇場のバレエマスターであったゴルスキーは、4回にわたり本作の改訂版を発表したが、中でも特徴的なのは1920年版である。この版では、『白鳥の湖』の上演史上初めてハッピーエンドを採用し、終幕で悪魔を倒したオデットと王子が、命を落とさず現世で結ばれるという展開をとった[32][33]。その背景には、内戦が続いていた当時のソ連社会において、勧善懲悪の物語が求められていたことがある[32]。他にも、宮廷の場面に道化を登場させたり、従来一人二役であったオデットとオディールを別々のダンサーに踊らせたりといった新たな演出が試みられた[32]。ただし、この版には守旧派からの批判が多かったため、1922年版ではオデットとオディールは再び一人二役となり、終幕も悲劇的なものに戻された[32]。しかし、1937年アサフ・メッセレル英語版がゴルスキー版を改訂した際は、再びハッピーエンドが採用された[32]
  • K・セルゲエフ英語版版(1950年キーロフ・バレエプティパ=イワノフ版を初演したマリインスキー劇場では、幾度か本作の改訂が行われたが、その中で最も長く演じられてきたのがセルゲエフ版である[35][36]。プティパ=イワノフ版の雰囲気を守りつつも、リアリズム的な演出を取り入れたことが特徴であり、結末は、王子と悪魔の一騎討ちにより、悪魔が羽根をもがれて死ぬというものになっている[37]
  • V・ブルメイステル英語版版(1953年、スタニスラフスキーおよびネミロヴィチ=ダンチェンコ劇場モスクワ・アカデミー音楽劇場バレエ(現・モスクワ音楽劇場バレエ)[38]この版の特徴は、楽曲の構成をできる限り1877年の初演版に近づけたことである[39]。たとえば「黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ」では、プティパ=イワノフ版とは異なり、初演時にソベシチャンスカヤのために作られた追加楽曲が使用された(ただし、オディールのヴァリアシオンとコーダは、原曲の「パ・ド・シス」より最後の2曲が用いられている)[39]。全体の構成はプロローグ・エピローグ付き全4幕であり、プロローグで悪魔がオデットに呪いをかける場面が演じられることで、物語の発端が理解しやすくなっている[39]。また、エピローグでは悪魔が滅び、オデットが人間に戻る様子が演じられる[39]
ヌレエフ版の上演(2004年)

ソ連では、ゴルスキー=メッセレル版以降、善が悪を滅ぼすハッピーエンドの演出が多く生まれたが、西ヨーロッパでは、オデットと王子の死で終わる悲劇的な演出が主流となった[40]ドイツシュトゥットガルト・バレエ団で初演されたジョン・クランコ版(1963年)や、その影響を受けたルドルフ・ヌレエフ版(1964年)などが代表的である[40]

また、初演版から踏襲されてきた物語設定を大きく変更し、現代的に再解釈した演出もある。王子ジークフリートをバイエルン王ルードヴィヒ2世に重ね合わせたジョン・ノイマイヤー版(1976年)、男性ダンサーが白鳥を演じたマシュー・ボーン版(1995年)、英国王室ダイアナ元妃をオデットのモデルとしたグレアム・マーフィ英語版版(2002年)などが挙げられる[41][42]

日本での上演

日本における『白鳥の湖』全幕初演は、1946年8月9日から同月30日まで、帝国劇場にて東京バレエ団が行った公演である[43]。その後も、本作は国内外のバレエ団によって頻繁に上演されている[注釈 3]。日本で手掛けられた本作の改訂演出には、清水哲太郎版『新・白鳥の湖』(1994年)や、熊川哲也版(2003年)などがある[41][44]。なお、本作は日本で当初『白鳥湖(はくちょうこ)』と呼ばれており、今でも内々の会話では「はくちょうこ」と呼ぶバレエ団も少なくない[要出典]

物語

原作

『白鳥の湖』は、悪魔呪いによって白鳥に姿を変えられた王女の物語であるが、直接の原作にあたる作品は明らかでない[45][注釈 4]。創作の経緯については諸説あるが、最も一般的な説は、特定の原作はなく、既存の様々な作品を混ぜ合わせて物語を作り上げたというものである[45]。その一つは、ドイツの作家ヨハン・カール・アウグスト・ムゼーウスが、世界中に見られる白鳥処女説話を題材として書いた『奪われたヴェール』である[45][46]。他にも本作に影響を与えたと考えられる作品としては、フランソワ・オーベールのオペラ『妖精の湖英語版』や、『ジゼル』『ドナウの娘』などのロマンティック・バレエの作品群が挙げられる[45]

創作経緯に関するその他の仮説としては、ワーグナーのオペラ『タンホイザー』や『ローエングリン』の影響を受けているという説や、チャイコフスキーが1871年に親戚の子供向けに創作した家庭演劇が原型になっているという説がある[47]。ただし後者は、根拠とされているチャイコフスキーの姪の回想が曖昧であることなどから、真偽は疑わしい[48]

主な登場人物

オデット
オディール(左)とジークフリート(右)
  • オデット - 悪魔の呪いによって白鳥に姿を変えられた王女。
  • ジークフリート - オデットと恋に落ちる王子。
  • ロットバルト - オデットに呪いをかけた悪魔。
  • オディール - ロットバルトの娘。オデット役のダンサーが二役で演じる。

あらすじ

演出によって物語の展開に相違があるが、あらすじは概ね次のような内容である[41][49][50]

第1幕第1場

ドイツのとある王宮の前庭。王子ジークフリートの成人を祝う宴が開かれており、王子の友人たちが祝福の踊りを踊っている。そこに王子の母親が現れ、明日行われる舞踏会で花嫁を選ぶよう命じる。まだ結婚したくない王子は憂鬱な気分になる。やがて日が暮れると、白鳥の群れが空を飛んでいくのが見え、王子は白鳥狩りをしようとへ向かう。

第1幕第2場

第1幕第2場 湖畔でのパ・ド・ドゥ

静かな湖のほとり。弓を構えている王子の目の前で、1羽の白鳥が岸辺に上がり、美しい娘に変身する。王子の姿に気づいた娘は驚き、怯えるが、やがて身の上話を始める。娘の名はオデットといい、とある国の王女だったが、侍女たちと共に悪魔ロットバルトから呪いをかけられてしまった。そのために昼は白鳥の姿となり、夜だけ人間の姿に戻るのである。この呪いを解くただ一つの方法は、まだ誰にも愛を誓ったことのない男が、オデットに愛を捧げることである。2人は惹かれ合い、王子は自分が愛を誓おうと申し出るが、夜明けとともにオデットたちは白鳥の姿に戻り、飛び去って行く。

第2幕

第2幕 舞踏会に現れたオディール(中央)

王宮の舞踏会場。ジークフリートの花嫁候補が様々な国から訪れるが、王子は彼女たちには目もくれず、オデットのことを思い続けている。そこへ、客人に変装した悪魔ロットバルトとその娘オディールが現れる。オディールは悪魔の魔法によって、オデットと瓜二つの姿になっている。オディールをオデットと思い込んだ王子は、その場で結婚の誓いを立ててしまう。その途端、ロットバルトたちは正体を現し、広間の窓に映る悲しげなオデットの姿を示しながら、王子をあざ笑って去っていく。王子は自分の過ちを悔い、急いでオデットのもとへ向かう。

第3幕

再び湖のほとり。侍女たちのもとへ戻ったオデットは、王子の誓いが破られたことを告げる。後を追ってきた王子はオデットに赦しを請う。オデットは王子を赦し、2人は湖に身を投げる。2人の愛の力を前にした悪魔は滅び、恋人たちの魂は永遠に結ばれる。

演出による違い

上記は3幕4場構成の場合のあらすじであるが、4幕構成で上演される場合は、第1幕第1場・第2場がそれぞれ第1幕・第2幕となる。また、物語の結末は演出によって様々である。上記のあらすじは、オデットと王子が命を落とすものの死後の世界で結ばれる、というものであるが、2人が湖に沈んで終わる悲劇的な結末や、悪魔を倒した2人が現世で結ばれるというハッピーエンドもある[40]

作品の特徴

本作の特徴の一つは、主演バレリーナ一人二役をこなすことであり、清楚な白鳥オデットと、王子を誘惑する妖艶な黒鳥オディールという、対照的な役柄の演じ分けが見どころとされている[50][51]。オディールが「黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ」のクライマックスで披露する32回転のフェッテは、1895年の蘇演版に主演したピエリーナ・レニャーニが取り入れたものであり、女性ダンサーの高度なテクニックの見せ場として有名である[52][53]

また、オデットと王子が出会う湖畔の場面(第1幕第2場)は、主役2人のパ・ド・ドゥに加え、刻々とフォーメーションを変えていく白鳥たちの群舞の美しさが高く評価されている[31][50]。この場面の振付はプティパ=イワノフ版の影響が強く残っており、新演出が試みられる際にも大きな変更が加えられることは稀である[50]

楽曲

音楽・音声外部リンク
オーケストラによる演奏(抜粋版)

『白鳥の湖』(抜粋演奏)[注釈 5]
B・ウィーヘルスオランダ語版指揮、北オランダ交響楽団英語版による演奏)

オランダ公共放送公式YouTubeより

楽器編成

ピッコロフルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、コルネット2、トランペット4、トロンボーン3、チューバティンパニ大太鼓小太鼓タンブリンシンバルカスタネットタムタムトライアングルグロッケンシュピールハープ弦五部[2]

作品構成

小さな白鳥たちの踊り(4羽の白鳥の踊り)

以下の楽曲構成は、チャイコフスキーの全集版スコア(1957年)に基づく[54]。演奏時間は約2時間25分(第1幕約40分、第2幕約40分、第3幕約40分、第4幕約25分)である[2]

ただし、1895年のバレエ蘇演にあたって楽曲に大幅な改変が加えられたため、現在上演されているバレエの楽曲構成は、以下のオリジナル版とは異なる場合がほとんどである。蘇演時の変更点は多数あるが、例えば、第1幕の「パ・ド・ドゥ(第5曲)」を第3幕の舞踏会の場面に移動させ「黒鳥のパ・ド・ドゥ」としたこと、第2幕の「白鳥たちの踊り(第13曲)」の曲順を入れ替えたこと、第3幕から「パ・ド・シス(第19曲)」等を削除したこと、などが挙げられる[27]

序奏
第1幕
1 情景
2 ワルツ
3 情景
4 パ・ド・トロワ(Ⅰ イントラーダ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ コーダ)
5 パ・ド・ドゥ(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ コーダ)
6 パ・ダクシオン
7 シュジェ
8 酒杯の踊り
9 フィナーレ
第2幕
10 情景
11 情景
12 情景
13 白鳥たちの踊り(Ⅰ、Ⅱ オデット・ソロ、Ⅲ 白鳥たちの踊り、Ⅳ、Ⅴ パ・ダクシオン、Ⅵ 全員の踊り、Ⅶ コーダ)
14 情景
第3幕
15
16 コール・ド・バレエと小人たちの踊り
17 情景。客たちの退場とワルツ
18 情景
19 パ・ド・シス(Ⅰ イントラーダ、Ⅱ~Ⅵ ヴァリアシオン1~5、Ⅶ コーダ)
20 ハンガリーの踊り、チャルダーシュ
21 スペインの踊り
22 ナポリの踊り
23 マズルカ
24 情景
第4幕
25 間奏曲
26 情景
27 小さな白鳥たちの踊り
28 情景
29 フィナーレの情景
第3幕への付加曲
パ・ド・ドゥ(Ⅰ イントロダクション、Ⅱ ヴァリアシオン1、Ⅲ ヴァリアシオン2、Ⅳ コーダ)
ロシアの踊り

編曲版

音楽・音声外部リンク
組曲『白鳥の湖』
組曲『白鳥の湖』(全曲) - L・ホンジョン(林憲政)指揮、コリアン・シンフォニー・オーケストラによる演奏。コリアン・シンフォニー・オーケストラ公式YouTube。
組曲『白鳥の湖』(全曲) - I・ルス指揮、アジア・フィルハーモニー管弦楽団による演奏。Busan Maru International Music Festival公式YouTube。
組曲『白鳥の湖』(全曲) - Sylwia Anna Janiak指揮、Symphony Orchestra of the Feliks Nowowiejski Music School in Gdanskによる演奏。Akademia Filmu i Telewizji (映像制作者)公式YouTube。
第2曲「ワルツ」 - D・ミクルスキ指揮、タイ・フィルハーモニック管弦楽団による演奏。指揮者自身の公式YouTube。
第2曲「ワルツ」 - N・クラウゼ指揮、ONE Symphony Orchestraによる演奏。指揮者自身の公式YouTube。

本作は、演奏会用組曲作品20a)としても演奏される。1882年、チャイコフスキーは楽譜出版社のユルゲンソンに宛てた手紙で、『白鳥の湖』の組曲を作りたいという意思を表明しているが、その後の経緯については資料が残されていない[55]。今日演奏されている組曲は以下の6曲から成るが、指揮者によって曲目が多少変更されることもある[56]

  1. 情景(第10曲)
  2. ワルツ(第2曲)
  3. 小さな白鳥たちの踊り(第13曲Ⅳ)
  4. パ・ダクシオン(第13曲Ⅴ)
  5. ハンガリーの踊り、チャールダーシュ(第20曲)
  6. フィナーレの情景(第29曲・一部削除)

またクロード・ドビュッシーは、若い頃に、チャイコフスキーのパトロンであったナジェジダ・フォン・メックのお抱えピアニストを務めていたが、1880年に夫人の指示で『白鳥の湖』の一部をピアノ連弾用に編曲し、ユルゲンソンから出版している[57]

ワーグナーからの影響

『禁問の動機』と『白鳥のテーマ』

ワーグナーローエングリン』第1幕第3場より[58](禁問の動機)

{
#(set-default-paper-size "a7")
#(set-global-staff-size 14)
\key aes \major
\once \omit Score.MetronomeMark
\tempo 4 = 84
\override Score.SpacingSpanner #'common-shortest-duration = #(ly:make-moment 1 4)
\relative c'' {ees2-> aes,8-> bes8-> ces8.-> ees16-> ees2-> aes,4 r4 ees'2 aes,8-> bes8-> ces8.-> ees16-> ees2-> aes,4 r8. aes16 ces4.. ces16 fes4.. ges16 ees2~ees8 des8 ces8 des8 ees2. bes4 c2 }\bar "|"
}
\addlyrics {Nie sollst du mich be -- fra -- gen, noch Wis -- sens Sor -- ge tra -- gen, wo -- her Ich kam der Fahrt, noch wie mein Nam' und Art!}

『白鳥の湖』第2幕第10曲『情景』より[59]
(白鳥のテーマ)

{
#(set-default-paper-size "a7")
#(set-global-staff-size 14)
\key d \major
\once \omit Score.MetronomeMark
\tempo 4 = 84
\override Score.SpacingSpanner #'common-shortest-duration = #(ly:make-moment 1 16)
\relative c'' {fis2 b,8( cis8 d8 e8) fis4.( d8) fis4.( d8) fis4.( b,8) d8( b8 g8 d'8) b2~b8 e8( d8 cis8) fis2 b,8( cis8 d8 e8) fis4.( d8) fis4.( d8) fis4.( b,8) d8( b8 g8 d'8) b2.}\bar "|"
}

本作品にはワーグナーオペラローエングリン』からの影響が指摘されている[60][61][62]。両作品で白鳥が象徴的な意味を持つこと、『ローエングリン』の第1幕第3場で現れる「禁問の動機」と『白鳥の湖』の「白鳥のテーマ」との類似性(図の譜例参照)、そしてチャイコフスキーがワーグナー作品の中で『ローエングリン』を特に高く評価していたことが根拠として挙げられている[60][61][62]

関連項目

脚注

注釈

  1. ^ チャイコフスキーが初めて取り組んだバレエ音楽は、1870年にボリショイ劇場から依頼を受けた『シンデレラ』であるが、何らかの理由で作曲を中断している。したがって、実際に完成し、発表されたバレエ音楽は『白鳥の湖』が最初である(森田稔 1999, pp. 95-96)。
  2. ^ 初演時のポスターの配役表では、オディール役のダンサー名は「***」とだけ記載されており、名前が明示されていない。しかし、当時は二役を踊る人をこのように記載する習慣があったことから、オデットとオディールは初演時から一人二役であったと考えられる(森田稔 1999, pp. 129-130)。
  3. ^ 。1946年から2019年までに日本国内で本作が全幕上演された回数は2057回に上り、他の演目の上演回数を大きく上回る(Performances 公演記録を探す”. バレエアーカイブ. 昭和音楽大学. 2021年4月22日閲覧。)。
  4. ^ 本作の「白鳥」のモデルとなった鳥については、ハクチョウではなくツルであるという説がある。音楽学者西岡信雄は、「ハクチョウはダンスを踊ることはできない。白鳥のモデルは求愛のダンスを踊るツルであり、タンチョウが存在する日本と違って白いツルがいなかったヨーロッパだったので、ツルのダンスにハクチョウの白いイメージをあわせたのではないか」と述べ、実際にツルの求愛のダンスと本作のダンスの刻むリズムが同じであるとの研究成果を発表している(「白鳥の湖、モデルはツル」『日本経済新聞』2003年5月19日。)。
  5. ^ 当該動画に付記された説明文によれば、この演奏は子供向けにナレーションを伴う形で行われたが、当該動画は演奏部分のみを抜粋して制作されている。なお、『白鳥の湖』のナレーション付き演奏は、スロヴァキア放送交響楽団によるものがナクソスからリリースされている(チャイコフスキー:バレエ音楽「白鳥の湖」(子供のためのナレーション入り)”. ナクソス・ジャパン. 2018年10月9日閲覧。)。また、日本国内では、東京シティ・バレエ団が2018年5月にナレーション・台詞付きの公演を行っている(”セリフ付き”バレエ「白鳥の湖」”. 東京シティ・バレエ団 (2018年5月27日). 2018年10月9日閲覧。)。

出典

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  7. ^ 森田稔 1999, p. 7.
  8. ^ a b c d 渡辺真弓 2014, p. 12.
  9. ^ 森田稔 1999, pp. 98–100.
  10. ^ 森田稔 1999, pp. 102–103.
  11. ^ 森田稔 1999, p. 109.
  12. ^ 渡辺真弓 2014, pp. 12–13.
  13. ^ a b c d 渡辺真弓 2014, p. 15.
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  16. ^ 渡辺真弓 2014, pp. 15–16.
  17. ^ a b 渡辺真弓 2014, p. 16.
  18. ^ 森田稔 1999, pp. 139–141.
  19. ^ a b 渡辺真弓 2014, pp. 16–17.
  20. ^ 小倉重夫 1997, p. 256.
  21. ^ a b 渡辺真弓 2014, p. 17.
  22. ^ a b 森田稔 1999, pp. 267–272.
  23. ^ 森田稔 1999, p. 269.
  24. ^ 森田稔 1999, p. 267.
  25. ^ a b c d 渡辺真弓 2014, p. 20.
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  28. ^ 森田稔 1999, pp. 278–282.
  29. ^ 渡辺真弓 2014, pp. 19–20.
  30. ^ 森田稔 1999, p. 282.
  31. ^ a b 渡辺真弓 2014, p. 21.
  32. ^ a b c d e 赤尾雄人 2010, pp. 214–216.
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  59. ^ Pyotr Tchaikovsky (1895). “Acte II No.10 - Scène”. Le Lac des cygnes. P. Jurgenson. pp. 223-224  (Online version at IMSLP, retrieved on 2018-10-09)
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参考文献

外部リンク