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2020年12月25日 (金) 08:55時点における版
宗教の広がり
世界の宗教の信者数は、キリスト教約20億人(33.0%)、イスラム教(イスラーム)約11億9,000万人(19.6%)、ヒンドゥー教約8億1,000万人(13.4%)、仏教約3億6,000万人(5.9%)、シク教約3,000万人、ユダヤ教約1,400万人(0.2%)、その他の宗教約9億1,000万人(15.0%)、無宗教約7億7,000万人(12.7%)である[注 1]。
一般に、キリスト教、イスラム教、仏教は世界宗教とよばれ、人種や民族、文化圏の枠を超え広範な人々に広まっている[5]。また、特定の地域や民族にのみ信仰される宗教は民族宗教と呼ばれ、ユダヤ教や神道、ヒンドゥー教[注 2]などがこれに分類される。
語源
日本語の「宗教」という語は、仏教学者の中村元によると、仏教に由来する。仏教において、「宗の教え」、つまり、究極の原理や真理を意味する「宗」に関する「教え」を意味しており、仏教の下位概念として宗教が存在していた[6]。幕末期に英語のReligionの訳語が必要となって、今でいう「宗教」一般をさす語として採用され、明治初期に広まったとされている。宗教は、キリスト教をイメージする用語として受容され、日本人の宗教のイメージに大きな影響を及ぼした[6]。
原語のほうの英語 Religion はラテン語のreligioから派生したものである。religioは「ふたたび」という意味の接頭辞reと「結びつける」という意味のligareの組み合わせであり、「再び結びつける」という意味で、そこから、神と人を再び結びつけること、と理解されていた[注 3]。
磯前順一によれば[8][要ページ番号]、Religionの語が最初に翻訳されたのは日米修好通商条約(1858年)においてであり、訳語には「宗旨」や「宗法」の語があてられた。他にもそれに続く幕末から明治初頭にかけての間にもちいられた訳語として、「宗教」、「宗門」、「宗旨法教」、「法教」、「教門」、「神道」、「聖道」などが確認できるとする。このうち、「宗旨」、「宗門」など宗教的な実践を含んだ語は「教法」、「聖道」など思想や教義の意味合いが強い語よりも一般に広くもちいられており、それは多くの日本人にとって宗教が実践と深く結びついたものであったことに対応する。「宗教」の語は実践よりも教義の意味合いが強い語だが、磯前の説ではそのような訳語が最終的に定着することになった背景には、日本の西洋化の過程で行われた外交折衝や、エリート層や知識人の価値観の西欧化などがあるとされる。
「宗教」の語は1869年にドイツ北部連邦との間に交わされた修好通商条約第4条に記されていたReligionsübungの訳語に選ばれたことから定着したとされる[注 4][7]。また、多くの日本人によって「宗教」という語が 現在のように"宗教一般" の意味でもちいられるようになったのは、1884年(明治17年)に出版された辞書『改定増補哲学字彙』(井上哲次郎)に掲載されてからだともされている。
定義
「宗教とは何か」という問いに対して、宗教者、哲学者、宗教学者などによって非常に多数の宗教の定義が試みられてきた[9]とされ、「宗教の定義は宗教学者の数ほどもある」といわれる[10][1]とされる。代表的なものだけを取り上げただけでもかなりの数になる[11]とされ、例えば、ジェームズ・リューバの著書[12]の付録には48の定義およびそれに関するコメントが書かれており、日本の文部省宗務課がかつて作成した「宗教定義集」[13]でも104の定義が挙げられている[14]といい、その気になればさらに集めることも難しくはない[15]という。
ジェームズ・リューバによる定義の分類
アメリカの心理学者であるジェームズ・リューバは宗教についての多数の定義を三つのグループに分類している。すなわち、主知的(intellectualistic)な観点からの定義、主情的(affectivistic)な観点からの定義、主意的あるいは実践的(voluntaristic or practical)な観点からの定義の3つである[16]。
- 主知的な観点からの定義
- 代表例で古典的な定義の例としてはマックス・ミューラーによる「無限なるものを認知する心の能力」が挙げられる。比較的近年のそれでは、クリフォード・ギアツによる「存在の一般的秩序に関する概念の体系化」がある。
- 主情的な観点からの定義
- シュライエルマッハー(F.E.D.)による「ひたすらなる依存感情」。マレット(Marett, R.R.)なども他の学者などにみられる合理主義な観点を批判しつつ、宗教の原型を情緒主義(emotionalism)から論じた[17]という。
- 主意的あるいは実践的な観点からの定義
- C.P.ティーレによる「人間の原初的、無意識的、生得的な無限感覚」というものがある。
『世界宗教事典』では上記のリューバの分類・分析を踏まえ、また、宗教を成立させている基本要素が超絶的ないし超越的存在(神、仏、法、原理、道、霊など)をみとめる特定の観念であることを踏まえつつ、宗教とは人間の力や自然の力を超えた存在を中心とする観念であり、その観念体系に基づく教義、儀礼、施設、組織などをそなえた社会集団である[18]とまとめている。
『世界宗教事典』での上記の定義のまとめに沿って、もう少し具体的な例も含めて示せば[注 5]、宗教とは、超越的存在(神、仏、法、原理、道、霊など)についての信念、超越的なものと個人の関係、超越的なものに対する個人の態度(信仰など)、信仰に基づいた活動(礼拝、巡礼など)、組織・制度(教会、寺社制度など)、信者の形成する社会、施設(教会堂、モスク、寺院など)等々である。[要出典]
そのほかの定義
- 広辞苑では、「神または何らかの超越的絶対者あるいは神聖なものに関する信仰・行事」、との定義を掲載した[19]。
- 宗教法人格を取得している物を宗教とする定義(国家など共同体から宗教として承認されている組織)もあり、一般社団法人である「実践倫理宏正会」や「倫理研究所」、公益財団法人である「モラロジー研究所」、公益社団法人である「調和道協会」などは「宗教ではない」という立ち位置である。逆に、法律上は宗教法人でありながら「宗教ではない」という立場をとる団体には「崇教真光」、「世界真光文明教団」、「道ひらき」などがある。
宗教の歴史
宗教の表現形式
宗教はさまざまな表現形式を通して時間や空間を超えて伝えられている。神話や伝説、教典の内容や教義は口伝や詠唱、詩、書物を通して伝えられる。また、通過儀礼や年中行事などの儀礼を通して伝えられる場合や、生活習慣や文化の中に織り込まれる場合もある。食事の際に生産者や自然に感謝をする場合などがこれにふくまれる。
また、絵画や彫刻などの芸術、音楽、舞踏、建築などを通して伝えられる場合もある。
宗教の分類
19世紀から20世紀にかけて、比較宗教学の発展に伴い世界宗教という分類が定義された。たとえば、下記は宗教学の学者による分類の一例である。
- 世界宗教 - 文化の境界を越え、多くの国において信仰される宗教
- 土着宗教 - 世界宗教と比べてより小さく、特定の文化あるいは特定の国で信仰される宗教
- 新宗教 - 世界宗教、土着宗教と比べてより新しく形成した宗教[20]
形態による分類
宗教を普遍宗教(universal religion、世界中に信仰されることを望み、積極的に帰依を求める宗教)と民族宗教(ethnic religion、特定の民族にのみ信仰され、積極的に帰依を求めない宗教)と分類する学者もいるが[21]、教義にかかわらず、全ての宗教の表現形式が特定の文化に由来することからこの分類が正しくないと主張する学者もいる[22][23][24]。
それ以外の分類
各国の宗教概況
一覧
宗教問題
世界での主な宗教問題
- 聖地をめぐる争い(エルサレムなど)
- 宗教戦争(異教徒間、異宗派間で、時として戦争や紛争を引き起こすことがあり、このような問題が狭い区域の宗教的多数派の住民と宗教的少数派の住民の間に発生した場合、ヘイトクライムの形をとることが多い)
- 社会主義や共産主義を標榜する国家による宗教に対する弾圧(中国、北朝鮮など)
- セクト問題
- カルトの集団自殺
日本の主な宗教問題
- 政教分離の原則とその解釈、適用範囲
- 宗教と学校教育(教育基本法第15条をめぐる議論など)
- 信教の自由と人権(人権尊重と人権侵害をめぐる議論、あるいは新宗教をいかに処遇するかについての議論、エホバの証人の輸血拒否、武道教育拒否問題に見られる子どもの人権と教義の衝突など)
- 一部の宗教団体、およびその構成員による触法・犯罪行為(オウム真理教、摂理、冨士大石寺顕正会など)
脚注
注釈
- ^ 計60億5,505万人(2000年)[4]。
- ^ ヒンドゥー教はヒンドゥー(文化圏としてのインド)の人々にのみ信仰されているが、さまざまな語族にまたがる数多くの人々に信仰されている(南アジアおよび東南アジアのバリ島が含まれる。なお、これらの地域にはイスラム教や仏教も伝わっている)。
- ^ 「神と人を再び結びつけること」という理解は神学者ラクタティウスの述べた説明による。ただし、このラクタティウスの説明は言語学的には正しいとは認められていないともする説もある[7]。
- ^ その修好通商条約の第4条の訳文は右のとおり 「日本在住の独乙臣民は自国の宗教を自由に行うの理あるべし」
- ^ 包括的用語からより具体的な用語へとwikipedia内のリンクをたどりつつ読み進めたい読者を配慮して、具体例の中でも代表的なものを示したものである。
出典
- ^ a b 古野 1978, p. 231.
- ^ 村上重良『世界宗教事典』p.4[要文献特定詳細情報]
- ^ 古野 1978, pp. 234–235.
- ^ 『朝日新聞データ年鑑 ジャパン・アルマナック2006』朝日新聞社、2005年、p247。ただし同書の当該部分はオックスフォード大学出版局発行 World Christian Encyclopedia を再引用したもの。
- ^ 古野 1978, p. 233.
- ^ a b 岩井洋 「日本宗教の理解に関する覚書」関西国際大学研究紀要第5号、2004年
- ^ a b 石井研士『手に取るように宗教がわかる本』かんき出版、2002年、24頁。ISBN 4761259884。
- ^ 磯前 2003, p. 不明.
- ^ 村上重良 『世界宗教事典』 pp.3-4。[要文献特定詳細情報]
- ^ 小口偉一・堀一郎 『宗教学辞典』 東京大学出版会、pp.255-263「宗教」。[要文献特定詳細情報]
- ^ 『宗教学辞典』[要文献特定詳細情報]
- ^ Leuba, J. H. (1912). The psychological study of religion:Its origin, function, and future. New York:Macmillan. (かつて日本語訳が刊行されたことあり。リューバ 『宗教の心理学的研究』 同文館、昭和2年)。
- ^ 文部省宗務課 編『宗教定義集』1961年、154-173頁。
- ^ 『宗教学辞典』[要文献特定詳細情報]
- ^ 『宗教学辞典』[要文献特定詳細情報]
- ^ 『宗教学辞典』[要文献特定詳細情報]
- ^ 『宗教学辞典』[要文献特定詳細情報]
- ^ 村上重良 『世界宗教事典』 p.4。
- ^ 新村出 編『広辞苑』(第五版)岩波書店、1254-1255頁。
- ^ Harvey, Graham (2000). Indigenous Religions: A Companion (英語). London and New York: Cassell. p. 6.
- ^ Hinnells, John R. (2005). The Routledge companion to the study of religion (英語). Routledge. pp. 439–440. ISBN 978-0-415-33311-5。
- ^ Timothy Fitzgerald. The Ideology of Religious Studies. New York: Oxford University Press US, 2000.
- ^ Craig R. Prentiss. Religion and the Creation of Race and Ethnicity. New York: NYU Press, 2003. ISBN 0-8147-6701-X
- ^ Tomoko Masuzawa. The Invention of World Religions, or, How European Universalism Was Preserved in the Language of Pluralism. Chicago: University of Chicago Press, 2005. ISBN 0-226-50988-5
参考文献
- 磯前順一『近代日本の宗教言説とその系譜:宗教・国家・神道』岩波書店、2003年。ISBN 4000225251。
- 古野清人 著、平凡社 編『世界大百科事典』 14巻、平凡社、1978年(原著1972年4月25日)。
- King, Winston L. (1987). Religion. in Mircea Eliade (ed.) The Encyclopedia of Religion Macmillan Publishing Company, New York.