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「生活保護」の版間の差分

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2020年11月12日 (木) 12:39時点における版

生活保護(せいかつほご、英語: Public Assistance[1])は、経済的に困窮する国民に対して、自治体が、健康文化的な最低限度の生活を保障する公的扶助制度である。

日本においては、日本国憲法第25条生活保護法の理念に基き、生活に困窮する国民に対して、資力調査(ミーンズテスト)を行いその困窮の程度によって、要保護者に必要な扶助を行い、最低限度の生活(ナショナル・ミニマム)を保障するとともに自立を促すことを目的とする[2]。要保護者は、住所が不定でも居所を基準として管轄地での保護を受けることができる。

原則

生活保護は次の原則に則って適用される。

無差別平等の原則(生活保護法第2条)

生活保護は、生活保護法4条1項に定める補足性の要件を満たす限り、全ての国民に無差別平等に適用される。生活困窮に陥った理由や過去の生活歴や職歴等は問わない。この原則は、法の下の平等日本国憲法第14条)によるものである。なお、2014年7月18日に最高裁判所永住外国人は生活保護法の適用対象ではないという判断を4裁判官全員一致で下した。

補足性の原則(第4条)

生活保護は、資産(預貯金・生命保険不動産等)、能力(稼働能力等)や、他の法律による援助や扶助などその他あらゆるものを生活に活用してもなお、最低生活の維持が不可能なものに対して適用される。 能力の活用において、売れるかどうか分からない絵を描くことや選挙活動や宗教活動や発明研究等に没頭することなどは現時点の自分の経済生活に役立っているとはいえないため、補足性の要件には該当しない[3]民法に定められた扶養義務者の扶養及びその他の扶養は、生活保護に優先して実施される。

保護の実施機関は、保護の実施に際し被保護者や要保護者に対して法に基づき必要な指示(例えば生活の経済性や他者に及ぼす危険性に関して、最低限度の生活を超える部分での自動車の保有・運転に関する制限など)をすることがあり、その指示に従わない場合は保護の変更、停止又は廃止がなされる。2014年春に施行された改正生活保護法では、ケースワーカーが必要と認めた場合は受給者に対して家計簿と領収書(レシート)の提出を求める事が可能となった。

申請保護の原則(第7条)

生活保護は原則として要保護者の申請によって開始される。保護請求権は、要保護者本人はもちろん、扶養義務者や同居の親族にも認められている。ただし、急病人等、要保護状態にありながらも申請が困難な者もあるため、第7条但書で、職権保護が可能な旨を規定している。第7条但書では、できる、とのみ規定されている職権保護は、第25条では、実施機関に対して、要保護者を職権で保護しなければならないと定めている。

世帯単位の原則(第10条)

生活保護は、あくまで世帯を単位として能力の活用等を求めて補足性の要否を判定し程度を決定する(ミーンズテスト)。例外として、大学生などを世帯分離する場合もある。

労働争議に参加したため生活困窮におちいった労働者及びその家族に対する生活保護の取扱いは、労働者本人については、その能力を最低生活維持に活用しているとは認め難いので、第4条1項の保護の要件を欠き、特にその者が急迫状態に陥った場合のほか、保護を拒否すべきであるが、その労働者の家族については直ちに保護の要件を欠くとは認め得ないので、この場合は、第10条但書を適用して、その家族が保護を要する状態にあれば、保護を行なうべきである(昭和36年12月11日大阪府労働部長あて労働省労政局労働法規課長通知)[4]

被保護者の権利と義務

審査の結果、生活保護費を受給できると認められた者を被保護者という。被保護者は生活保護法に基づき、次のような権利を得るとともに義務を負わなければならない。

権利

  • 不利益変更の禁止 - 正当な理由がない限り、すでに決定された保護を不利益に変更されることはない(第56条)。
  • 公課禁止 - 受給された保護金品を標準として租税やその他の公課を課せられることはない(第57条)。
  • 差押禁止 - 被保護者は、既に給与を受けた保護金品又はこれを受ける権利を差し押えられることがない(第58条)。

義務

  • 譲渡禁止 - 保護を受ける権利は、他者に譲り渡すことができない(第59条)。
  • 生活上の義務 - 能力に応じて勤労に励んだり支出の節約を図るなどして、生活の維持・向上に努めなければならない(第60条)。
  • 届出の義務 - 収入や支出など、生計の状況に変動があったとき、あるいは居住地または世帯構成に変更があったときは、速やかに実施機関等へ届け出なければならない(第61条)。
  • 指示等に従う義務 - 保護の実施機関が、被保護者に対して生活の維持・向上その他保護の目的達成に必要な指導や指示を行った場合(法第27条)や、資産状況や健康状態等の調査目的で、保護の実施機関が居住場所の立入調査された場合(法第28条)、医師検診受診義務や歯科医師検診受診義務を命令された場合(法第28条)、適切な理由により救護施設等への入所を促した場合(法第30条第1項但書)は、これらに従わなければならない(法第62条)。
  • 費用返還義務 - 緊急性を要するなど、本来生活費に使える資力があったにも関わらず保護を受けた場合、その金品に相当する金額の範囲内において定められた金額を返還しなければならない(法第63条。主に、支給されるまでに時間がかかる年金などが該当する)。
  • 生活保護は困窮のため最低限度の生活を維持する為の制度であるので、既に支給された保護費のやり繰りによって生じた預金・貯金・貯蓄などの累積金は最低限の生活を維持する為のものであり、当該預貯金等の使用目的を聴取し、その使用目的が生活保護の趣旨目的に反しないと認められ、国民一般の感情からして違和感を覚える程度の高額でない場合は活用すべき資産には当たらないものとして保有を容認して差しつかえない。容認された累積金は世帯の収入・資産に加算されず保護費が減額されなくなるが、容認されない場合はその資産価値に応じて差額の生活保護費を減額・返還する義務が発生する。

扶養義務者

民法第877条1
直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

絶対的扶養義務

保護の実施機関は、知れたる扶養義務者が民法の規定による扶養義務を履行していないと認められる場合において、保護の開始の決定をしようとするときは、厚生労働省令で定めるところにより、あらかじめ、当該扶養義務者に対して書面をもつて厚生労働省令で定める事項を通知しなければならない(第24条の8)。ただし、あらかじめ通知することが適当でない場合として厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。

具体的には以下の場合に該当する場合について、保護決定通知が行われる(施行規則第2条)

  • 保護の実施機関が、当該扶養義務者に対して法第77条第1項の規定による費用の徴収を行う蓋然性が高いと認めた場合
  • 保護の実施機関が、申請者がDV保護法第1条第1項に規定する配偶者からの暴力を受けているものでないと認めた場合
  • 前各号に掲げる場合のほか、保護の実施機関が、当該通知を行うことにより申請者の自立に重大な支障を及ぼすおそれがないと認めた場合

被保護者に対して民法の規定により扶養の義務を履行しなければならない者があるときは、その義務の範囲内において、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の全部又は一部を、その者から徴収することができる(第77条)。この場合、扶養義務者の負担すべき額について保護の実施機関と扶養義務者の間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、保護の実施機関の申立により家庭裁判所がこれを定める(第77条2)。

種類

生活保護の体系[5]
分類 扶助小分類・加算・一時的給付等




生活扶助 第1類(個人的経費)(年齢別)
第2類(世帯共通的経費)(基準額 + 地区別冬期加算
入院患者日用品費
介護施設入所者基本生活費
各種加算 妊産婦加算
障害者加算
介護施設入所者加算
在宅患者加算
放射線障害者加算
児童養育加算
介護保険料加算
母子加算
期末一時扶助
一時扶助 被服費(布団, 被服, 新生児被服等, 寝巻等, おむつ, 等), 入学準備金, 家具什器, 配電設備, 水道等設備, 就労活動促進費, 等
住宅扶助 家賃・間代等 借家・借間の場合の家賃・間代等, 転居時の敷金等, 契約更新料
住宅維持費 家屋の補修又は建具, 水道設備等の従属物の修理経費
教育扶助 一般基準 + 学校給食費 + 通学交通費 + 教材代 + 学習支援費
医療扶助
介護扶助
出産扶助
生業扶助 生業費技能修得費高等学校等就学費)就職支援費
葬祭扶助
その他の扶助 転居の際の敷金, 家屋補修費, 入浴設備の付設, 通学用自転車, 等
勤労控除

生活保護は次の8種類からなる[6]。これらの扶助は、要保護者の年齢、性別、健康状態等その個人または世帯の生活状況の相違を考慮して、1つあるいは2つ以上の扶助を行われる。

医療扶助 (公費負担医療)
被保護者が、けがや病気で医療を必要とするときに行われる扶助である。国民健康保険後期高齢者医療制度からは脱退となり[7]、原則として現物支給(投薬、処置、手術、入院等の直接給付)により行われ、その治療内容は国民健康保険と同等とされている(第34条)。
なお、医療扶助は生活保護法指定医療機関に委託して行われるが、場合により指定外の医療機関でも給付が受けられる(第34条)。予防接種などは対象とならない。医師または歯科医師は可能な限り後発医薬品の使用を促すよう努めることが生活保護法に定められている(第34条3)。
この点について政府は医療扶助の抑制策として生活保護受給者に対して医師の判断を条件に後発医薬品の処方を原則とするよう生活保護法を改正し、2018年10月からの施行された。これについては「生活保護受給者が医薬品を自由に選択できなくなる」との批判もある[8]。医療扶助は生活保護費の半分を占め、うち医科の入院医療費が全体の55.7%(2013年)と大きく、医療扶助による入院患者は、1か月平均の42.9%が精神障害であり多数となっている。人数では7.1%入院患者に、医療扶助費全体の55%余が使われている。日本は、世界でも突出して精神科のベッド数、入院患者数が多い国であり、長期入院が生活保護費を上昇させている(社会的入院[9]。病院通院のタクシー代も一時医療扶助として支給され年間で45億円の給付があったが、主要都市間で受給者の上限額(長崎市242円、奈良市12,149円)に差異がある[10]
生活扶助
被保護者が、衣食、その他日常生活の需要を満たすための扶助であり、飲食物費、光熱水費、移送費などが支給される。基準生活費(第1類・第2類)と各種加算とに分けられている。第1類は個人ごとの飲食や衣服・娯楽費等の費用、第2類は世帯として消費する光熱費等とされており、各種加算は障害者加算(重度障害者加算、重度障害者家族介護料、在宅重度障害者介護料)や母子加算、妊産婦加算、介護施設入所者加算、在宅患者加算、放射線障害者加算、児童養育加算、介護保険料加算があり、特別需要に対応するもの等[11]である。改定は現在、水準均衡方式によっている[12]
教育扶助
被保護家庭の児童が、義務教育を受けるのに必要な扶助であり、教育費の需要の実態に応じ、原則として金銭をもって支給される。
住宅扶助
被保護者の、住宅費を給付する扶助であり、家賃・間代等は、被保護者の住宅が借家・借間の場合で、家賃、間代、地代等を支払う必要があるときに支給される。住宅維持費は、居住する家屋の補修、その他住宅を維持する必要があるときに支給される。いずれも原則として金銭をもって実費が支給される(上限あり)。被保護世帯のうち、家賃等が支給される借家・借間世帯は84.5%(2011年)となっている[13]。その他の世帯は持ち家、入院、入所などの理由で家賃・間代の支給を受けていない[14]
介護扶助
要介護又は要支援と認定された被保護者に対して行われる給付である。原則として、生活保護法指定介護機関における現物支給により行われる(第34条の2)。
介護保険の加入者である場合はそちらが優先して適用され、介護保険の1割自己負担分が介護扶助から支出される。
介護保険とほぼ同等の給付が保障されているが、現在普及しつつあるユニット型特養、あるいは認知症対応型共同生活介護、特定施設入所者生活介護は利用料(住宅扶助として支給)の面から制限がある。
出産扶助
被保護者が出産をするときに行われる給付である。原則として、金銭により給付される。他法優先のため、児童福祉法の入院助産制度[15]を優先適用するため、生活保護の出産扶助は自宅出産など指定助産施設以外での分娩の場合などしか適用されない。[16]
生業扶助
生業に必要な資金、器具や資材を購入する費用、又は技能を修得するための費用、就労のための支度費用(運転免許証)等が必要な時に行われる扶助で、原則として金銭で給付される。平成17年度より高等学校就学費がこの扶助により支給されている。但し、これらには、修学旅行費、クラブ活動費、学習塾の費用は含まれない[17]
葬祭扶助
被保護者が葬儀を行う必要があるとき行われる給付で、原則として、金銭により給付される。

生活保護の地区分けと基準額

生活保護の基準は、厚生労働大臣が地域の生活様式や物価等を考慮して定める級地区分表によって、市町村単位で6段階に分けられている[18]。この級地区分表による生活保護基準の地域格差の平準化を(生活保護制度における)級地制度という。また、冬季(11月〜翌3月)加算の基準にのみ使用される5段階の区分がもうけられている。

生活扶助基準(第1類)基準額1
年齢 1級地-1 1級地-2 2級地-1 2級地-2 3級地-1 3級地-2
0〜2 21,510 20,540 19,570 18,600 17,640 16,670
3〜5 27,110 25,890 24,680 23,450 22,240 21,010
6〜11 35,060 33,480 31,900 30,320 28,750 27,170
12〜19 43,300 41,360 39,400 37,460 35,510 33,560
20〜40 41,440 39,580 37,710 35,840 33,980 32,120
41〜59 39,290 37,520 35,750 33,990 32,220 30,450
60〜69 37,150 35,480 33,800 32,140 30,460 28,790
70〜 33,280 32,020 30,280 29,120 27,290 26,250
生活扶助基準(第1類)基準額2
年齢 1級地-1 1級地-2 2級地-1 2級地-2 3級地-1 3級地-2
0〜2 26,660 25,520 24,100 23,540 22,490 21,550
3〜5 29,970 28,690 27,090 26,470 25,290 24,220
6〜11 34,390 32,920 31,090 30,360 29,010 27,790
12〜19 39,170 37,500 35,410 34,580 33,040 31,650
20〜40 38,430 36,790 34,740 33,930 32,420 31,060
41〜59 39,360 37,670 35,570 34,740 33,210 31,810
60〜69 38,990 37,320 35,230 34,420 32,890 31,510
70〜 33,830 32,380 30,580 29,870 28,540 27,340
逓減率1
人員 1級地-1 1級地-2 2級地-1 2級地-2 3級地-1 3級地-2
1人 1.0000 1.0000 1.0000 1.0000 1.0000 1.0000
2人 1.0000 1.0000 1.0000 1.0000 1.0000 1.0000
3人 1.0000 1.0000 1.0000 1.0000 1.0000 1.0000
4人 0.9500 0.9500 0.9500 0.9500 0.9500 0.9500
5人 0.9000 0.9000 0.9000 0.9000 0.9000 0.9000
逓減率2
人員 1級地-1 1級地-2 2級地-1 2級地-2 3級地-1 3級地-2
1人 1.0000 1.0000 1.0000 1.0000 1.0000 1.0000
2人 0.8850 0.8850 0.8850 0.8850 0.8850 0.8850
3人 0.8350 0.8350 0.8350 0.8350 0.8350 0.8350
4人 0.7675 0.7675 0.7675 0.7675 0.7675 0.7675
5人 0.7140 0.7140 0.7140 0.7140 0.7140 0.7140
生活扶助基準(第2類)基準額1
人員 1級地-1 1級地-2 2級地-1 2級地-2 3級地-1 3級地-2
1人 44,690 42,680 40,670 38,660 36,640 34,640
2人 49,460 47,240 45,010 42,790 40,560 38,640
3人 54,840 52,370 49,900 47,440 44,970 42,500
4人 56,760 54,210 51,660 49,090 46,540 43,990
5人 57,210 54,660 52,070 49,510 46,910 44,360
生活扶助基準(第2類)基準額2
人員 1級地-1 1級地-2 2級地-1 2級地-2 3級地-1 3級地-2
1人 40,800 39,050 36,880 36,030 34,420 32,970
2人 50,180 48,030 45,360 44,310 42,340 40,550
3人 59,170 56,630 53,480 52,230 49,920 47,810
4人 61,620 58,970 55,690 54,390 51,970 49,780
5人 65,690 62,880 59,370 57,990 55,420 53,090
  • (生活扶助基準第1類基準額1×逓減率1)+生活扶助基準第2類基準額1=生活扶助基準額1
  • (生活扶助基準第1類基準額2×逓減率2)+生活扶助基準第2類基準額2=生活扶助基準額2
    • 各居宅世帯員の第1類基準額を合計し、世代人員に応じた逓減率を乗じ、世代人員に応じた第2類基準額を加える。
    • 基本的に生活扶助基準額2が適応されるが、(生活扶助基準額1×0.9>生活扶助基準額2)の時は生活扶助基準額1×0.9が適応される。
障害者加算額
身体障害者障害程度等級表 1級地 2級地 3級地
1・2級に該当する者等 26,310 24,470 22,630
3級に該当する者等 17,530 16,310 15,090
母子世帯等加算額
児童数 1級地 2級地 3級地
児童1人の場合 22,790 21,200 19,620
児童2人の場合 24,590 22,890 21,200
3人以上の児童1人につき加える額 920 850 780
子ども養育加算額
中学校終了前の子どもを療育する場合 1級地 2級地 3級地
中学校終了前の子ども 15,000(3歳未満の場合)(子ども1人につき)
  • 該当者がいるときだけ、その分を加える。
  • 入院患者、施設入所者は金額が異なる場合がある。
  • このほか、「妊産婦」がいる場合は、別途妊婦加算等がある。
  • 児童とは、18歳になる日以後の最初の3月31日までの者。
  • 障害者加算と母子加算は併給できない。


最低生活費の計算例

8種類ある扶助を合計した金額が最低生活費であり、ここから収入を差し引いた額が実際の支給額となる。2013年8月から順次減額。以下の計算例は平成27年度(2015年度)を基準とする[19]

  • 東京都区部(1級地-1)・31歳(単身)
    • 生活扶助 79,230円
      • 第1類 38,430円(20-40歳)
      • 第2類 40,800円(単身世帯)
      • 各種加算 0円
    • 住宅扶助 実費(最高額は53,700円だが住宅の面積により基準額が異なる)
  • 東京都区部(1級地-1)・41歳、38歳、14歳、8歳(4人世帯)
    • 生活扶助 207,060円({151,135.5円+56,760円}×0.9+20,000円:10円未満切上げ)[20]
      • 第1類 151,135.5円({39,290円+41,440円+43,300円+35,060円}×0.95)
      • 第2類 56,760円(4人世帯)
      • 各種加算 20,000円
        • 児童養育加算 20,000円(第1・2子)
    • 教育扶助 13,580円(4,290円+4,450円+2,210円+2,630円)
      • 基準額 2,210円(小学校)・4,290円(中学校)
      • 学習支援費 2,630円(小学校)・4,450円(中学校)
      • ※小中学校の教材費、給食費、交通費等は実費支給。
    • 住宅扶助 実費(69,800円以内)

児童手当、児童扶養手当等を別途受給した場合、収入として差し引かれて支給される。

級地による比較例

  • 大阪府大阪市(1級地-1)・単身・20-40歳
    • 生活扶助 79,230円(第1類38,430円+第2類40,800円)
    • 住宅扶助 実費(40,000円以内)
  • 三重県津市(2級地-1)・単身・20-40歳
    • 生活扶助 71,620円(第1類34,740円+第2類36,880円)
    • 住宅扶助 実費(35,200円以内)
  • 佐賀県鳥栖市(3級地-1)・単身・20-40歳
    • 生活扶助 66,840円(第1類32,420円+第2類34,420円)
    • 住宅扶助 実費(29,000円以内)
東京都区部(最大級地)と地方郡部など(最小級地)の生活扶助費の差
東京都区部など
(1級地-1)
地方郡部など
(3級地-2)
標準3人世帯(33歳、29歳、4歳) 158,380円 129,910円
高齢者単身世帯(70歳以上) 74,630円 60,310円
高齢者夫婦世帯(68歳、65歳) 119,200円 96,330円
母子世帯(30歳、4歳、2歳) 188,140円 158,170円
若年者単身世帯(19歳) 79,970円 64,620円

実施主体

実施主体は、原則として地方公共団体(都道府県知事市長及び福祉事務所を管理する町村長)であり、これらの事務は第一号法定受託事務である(地方自治法第2条9)。したがって扶助費は義務的経費に分類される[21]

なお、福祉事務所を管理していない町村(ほとんどの町村)においては、その町村を包括する都道府県知事がこの事務を行う。また、都道府県知事、市町村長の下に福祉事務所長及び社会福祉主事が置かれ、知事・市町村長の事務の執行を補助し、民生委員は市町村長、福祉事務所長又は社会福祉主事の事務の執行に協力するものとされる。

生活保護を担当する現業員(ケースワーカー)は、市部では被保護世帯80世帯に1人、町村部では65世帯に1人を配置することを標準数として定めている(社会福祉法第16条)。

実施機関では原則として厚生労働省が示す実施要領に則り保護を実施しているが、厚生労働省は技術的助言として実施要領を示すだけであって個別の事例の判断は一切行わない(監査や再審査請求での裁決を除く)。そのため、法及び各種通達等において定めることができない事例については、法の趣旨と実施機関が管轄する地域の実情などを勘案して判断される。

保護施設

都道府県市町村は、生活保護を行うため、保護施設を設置することができる(第40条)。保護施設が設置できるのは、都道府県・市町村のほか、社会福祉法人日本赤十字社だけである(第41条)。なお市町村が保護施設を設置する場合、都道府県知事への届出が必要である(第40条2)。

保護施設には次の5種類がある。

福祉事務所の調査権限

保護の実施機関及び福祉事務所長は、保護の決定若しくは実施又は第七十七条若しくは第七十八条の規定の施行のために必要があると認めるときは、次の各号に掲げる者の当該各号に定める事項につき、官公署、日本年金機構若しくは国民年金共済組合に対し、必要な書類の閲覧若しくは資料の提供を求め、又は銀行、信託会社、次の各号に掲げる者の雇主その他の関係人に、報告を求めることができる(第29条)。

  • 要保護者又は被保護者であつた者: 氏名及び住所又は居所、資産及び収入の状況、健康状態、他の保護の実施機関における保護の決定及び実施の状況その他政令で定める事項(被保護者であつた者にあつては、氏名及び住所又は居所、健康状態並びに他の保護の実施機関における保護の決定及び実施の状況を除き、保護を受けていた期間における事項に限る。)
  • 扶養義務者: 氏名及び住所又は居所、資産及び収入の状況その他政令で定める事項(被保護者であつた者の扶養義務者にあつては、氏名及び住所又は居所を除き、当該被保護者であつた者が保護を受けていた期間における事項に限る。)

さらに以下の官公庁などには、回答義務が課されている(第29条2, 別表第一)。

  •  総務大臣又は都道府県知事
  •  厚生労働大臣
  •  市町村長
  •  国土交通大臣
  •  税務署長
  •  福祉事務所を管理する町村長
  •  日本年金機構又は日本私立学校振興・共済事業団、国家公務員共済組合連合会、地方公務員共済組合若しくは全国市町村職員共済組合連合会
  •  後期高齢者医療広域連合
  •  広島市長若しくは長崎市長

財政

生活保護費負担金事業実績(2012年度) [22]
医療扶助
(46.5%)
入院
(29.3%)
精神・行動の障害 17.6%
その他疾患 11.7%
入院以外 15.1%
歯科 2.1%
生活扶助 34.6%
住宅扶助 15.7%
その他 3.2%
総額は 3.8兆円

扶助費の負担率は国が4分の3、地方自治体が4分の1である(第75条)。

支給総額

受給者数の増加に伴い、生活保護の支給総額は2001年(平成13年)度に2兆円、2009年(平成21年)度には3兆円を突破し[23]2012年(平成24年)度の支給額は3兆8000億円を超える見通しとされている。

政府の社会保障改革に関する集中検討会議によれば、「他法による施策も複雑化しているため[24]ケースワーカーの育成も進まず要保護者の調査及び被保護者の生活改善に向けた指導などに手が回らない状態である。男性が25歳から80歳まで生活保護を受け続けた場合、扶助費総額にあわせ、働いた場合の税金や社会保険料の国と地方の逸失額を合算すると最大で1億5千万円を超えることも明らかになっている」とされている[25]

厚労省資料によれば、この生活扶助費の総支給額に占める割合は平成21年度実績ベースで全体の33.8%となっている[26]。また、生活保護の標準世帯生活扶助費基準額は平成10年をピークとしており、平成23年現在では対平成10年で月1,146円の減、0.7%の減額にとどまっていたうえ[27]、平成17年には高校就学費を、21年には小学から高校までの学習支援費を新設するなど[28]、有子世帯の総支給額は上昇している一方、国税庁平成23年民間給与実態統計調査結果によると、給与所得者の平均給与は平成9年をピークにして下がり続け、平成23年には平均年409万円で、対平成9年にして年58万3千円の減、12.5%の減となっているとされている[29]

NHKの報道によれば、「平成22年度の生活保護費を国内世帯(生活保護世帯を含む)で割った場合、1取世帯が1年に負担する額はおよそ6万3千円と」されている[30]

地方分権

2005年、国(厚生労働省)と地方との間で「三位一体の改革」の一環として、生活保護費の国と地方自治体との負担率を変更しようとの議論が行われた。現制度では支給される保護費について国3/4、地方1/4の割合で負担しているが、これを国1/2、地方1/2に変更しようとするものであった。さらに住宅扶助の一般財源化(地方交付税交付金に含めて国が交付)、保護基準(最低生活費)を地方が独自に設定することができるようにしようとした。

厚生労働省の主張は、生活保護行政事務の実施水準が低いところは保護率が高い水準にあり、保護費の負担を地方に大きく負わせることで生活保護行政事務の実施水準を向上させざるを得ない状況にして、国と地方を合わせた保護費の総額を減らそうというものである。しかしながら地方六団体は、憲法第25条で国が最低生活の保障を責任を持っていること、最低生活を保障するという事務は地方自治体に裁量の幅がほとんど無いこと(幅を持たせるとすれば、最低生活費を下げるあるいは上げるということになる)、仮に現段階での地方の負担増に合わせて税源を移譲されたとしても今後保護世帯数が増加すればその分が総て地方の負担となること、等から猛反発した。福祉行政報告例第1表-第4表並びに第6表の生活保護関連統計の国への報告を停止する行動に出た自治体もあった。

保護率が高い地域を都道府県ごとにみると、北海道青森県東京都大阪府福岡県沖縄県である。反対に保護率が最も低い県は富山県であり、次いで愛知県である(平成19年度のデータによる)。

国籍条項の追加

1946年(昭和21年)の旧生活保護法においては全ての在住者を対象としたが、1950年(昭和25年)の改訂で国籍条項が加わった。しかし、1954年(昭和29年)5月8日付厚生省社会局長通知[31]により、「人道的見地」から、生活に困窮者する永住外国人や日本人配偶者などの外国人においても、生活保護法を準用すると通知して以降、慣例的に日本国民と同じ条件で給付している。1990年(平成2年)10月25日に厚生省社会局保護課企画法令係長による口頭指示という形で対象となる外国人を永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者、特別永住者、認定難民に限定するようになった[32]

2009年6月の国会では、生活保護法第6条第2項の保護を必要とする状態にある者(要保護者)に切迫した状況の不法残留外国人が含まれるかについての質問があり、不法滞在を助長するとの事由から外国人は第6条第2項の要保護者に含まれず、保護の対象は日本の国籍を有する者であるとした[33]

大阪市での中国人生活保護集団申請

2010年5月、大阪市で中国国籍者が集団(10世帯で25名)で入国し、外国人登録が認められた直後に生活保護申請を集団で行うという事例が発生。大阪市は形式的に要件が整っている以上、保護決定をせざるを得ない状況にあると考えられたことから、保護決定を行った。大阪市は、以下の「基本的認識」の通り、入国管理法の運用や生活保護制度の準用に問題があるとの認識から、入国管理局他、関係先に対して申し入れ等を行うとともに、同様の生活保護の申請は受付を保留し、厳正な対応を行っていくことを決め、この事実を2011年6月29日に公表し、問題提起を行った[34]

基本的認識(大阪市)
  • 入国管理法では「生活上国又は地方公共団体の負担となるおそれのある者」は入国を拒否することとなっているにも関わらず、今回のケースでは日本に入国してすぐ生活保護を申請している。このことから、法の趣旨を大きく逸脱した、在留資格の審査がなされている可能性がある[34]
  • 厚生労働省の通知では、形式的に在留資格を得ているだけで、生活保護制度を準用することになっている[34]
  • 結果的に、本市に何の裁量権もなく、生活保護法を適用しなければならないというのでは、市民の理解は得られにくく、また、4分の1の財政負担を余儀なくされる大阪市としても納得できるものではない[34]
  • 人道上の観点から、中国残留邦人の子孫の方たちの処遇をどう考えるのかという問題は国の責任において、別の制度、施策を設けて対応すべきものであり、生活保護の準用の是非という観点だけで本市に判断を委ねるのは大きな問題である[34]

その結果、2010年7月21日、厚生労働省はこの件について、身元保証人による保証の実態がないなど、結果的に生活保護目的の入国とみなさざるを得ない場合は、生活保護を準用しない旨の回答を行った。大阪市は、この回答を受け、現在の状況では生活保護を準用することはできないと判断し、2010年8月以降の保護費の支給を保留するなどの措置を取った。その後、2010年9月10日までに、集団で申請を行った16世帯46人全員から生活保護の辞退および申請の取り下げがあった。しかし、すでに受給済みの者について保護決定を過去に遡って取り消すのかどうかなどの問題も残っていた上、いったん生活保護を辞退することによって、「国または地方公共団体に負担をかけない」こととし、一定の期間が経過した後に再申請することも懸念されたため、大阪市は、入国管理局の再調査の結果に関する見解や、関係資料をもらったうえで最終的な意思決定を行うことした。その後、大阪入局管理局は、2011年4月19日に、これらの者の在留資格の更新申請にあたっては、これまでの「定住者」資格ではなく「特定活動」資格に限って許可し、生活保護準用の対象とはしない方針を示した。一方、厚生労働省の通知に基づいて大阪市が2010年7月23日に照会した「入国在留中の一切の経費を支弁することができることを証する文書」等については明確な回答がなかった。大阪市は以上の経過を踏まえ、総合的に判断し今回の対象者は、生活保護目的の入国と見なさざるを得ず、本来、法の準用の対象ではないと認められるため、生活保護法の準用を取消し、支給した保護費の返還を求めるとの判断を示した。大阪市は2005年から2009年の5年間に外国籍の者が入国から3ヶ月以内に生活保護を申請した事案について調査を行うことを決定し、調査した[34]

2011年8月17日付で、厚生労働省より「外国人からの生活保護の申請に関する取扱いについて」が各自治体あての通知にて、入国後間もない外国人から生活保護の申請があった場合、生活保護の実施機関は、申請者に対して入国管理局へ提出した資料(入国在留中の一切の経費を支弁することができることを証する文書等)の提出を求め、申請者が理由なく提出を拒む場合は生活保護の申請を却下できるとした。これに先立ち、法務省からも各地方入国管理局に対して、入国を求める外国人が「生活上国又は地方公共団体の負担となるおそれのある者」でないかを一層厳正に審査するよう通知が出された[34]

最高裁の判断

国内での永住権を持つ外国人が、日本人と同じように生活保護法の対象となるかどうかが争われた訴訟で、最高裁第二小法廷は2014年7月18日、二審[35]の判決を破棄し、「現行の生活保護法は,1条及び2条において(中略)「国民」とは日本国民を意味するものであって」「生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されると解すべき根拠は見当たらない。」「生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されるものとなると解する余地はなく」「外国人は,行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得るにとどまり,生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく,同法に基づく受給権を有しないというべきである」とする判断を示している[36]

外国人受給者の実態

2015年の厚生労働省「 被保護者調査 」によれば、日本人をふくむ生活保護の総件数は、160万2551世帯(人数は212万7841人)、このうち外国人世帯主の世帯は4万4965世帯(人数は6万9914人)である。全生活保護件数のうち外国人の占める割合は世帯数で2.8%、人数で3.3%、年間1200億円の規模になっている。国籍別でみると、日本人が約155万世帯205万7927人、在日韓国・朝鮮人2万9482世帯3万7239人、在日フィリピン人5333世帯1万3200人、在日中国人4966世帯8716人となっている[37]

各国の在日外国人世帯の受給率では、在日韓国・朝鮮人世帯が14.2%(2010年)と国別では一番高い数値となっている[38][39]

年齢層でみると、在日フィリピン人受給者の79%が44歳以下、在日中国人受給者の31%が44歳以下・48%が64歳以下、という数字に比べ、在日韓国・朝鮮人の受給世帯では、高齢者世帯(65歳以上だけの世帯)が59.7%、世帯全員の年齢構成も65歳以上が56.5%と、在日韓国・朝鮮人の受給者は高齢者率が高くなっている[40]

統計

各種の統計データや試算が出ているが、代表例としては、厚生労働省の被保護者調査が基本統計データとしてあげられる[41]

従って、客観的に検証可能な公的な機関が作成した統計データ以外の統計、例えば、政治家の試算や審議会の試算による統計データについては、客観的な検証の必要性を残す場合もあるという観点から、当欄の記載にあたって「〜によると・・される」等との記載に統一している。

被保護者数

被保護者の実数[42]
年次 被保護者総数
(1000人単位)
人口1000人
あたり被保護者数
1980 1,427 12.2
1982 1,457 12.3
1984 1,469 12.2
1986 1,348 11.1
1988 1,176 9.6
1990 1,015 8.2
1992 898 7.2
1994 885 7.1
1996 887 7.1
1998 947 7.5
2000 1,072 8.4
2002 1,243 9.8
2004 1,423 11.1
2006 1,514 11.8
2008 1,593 12.5
2010 1,952 15.2
2011 2,067 16.2
2012 2,136 16.7
2013 2,162 17.0

厚労省によれば、生活保護の受給者数は、第二次世界大戦後の混乱の中、月平均で204万6646人が受給していた1951年が、同年の調査開始から2011年まで60年間、統計史上最高であった。その後は高度経済成長に伴い減少傾向で推移していたが、1995年の88万2229人を底に増加に転じ、1999年に再び100万人を突破したとされている[42]。2011年3月には200万人を突破し、2012年7月には212万4669人と過去最多の受給者数を記録しているとされている[42]

生活保護受給者 年齢構成比・男女比(平成21年) [43]

生活保護の打ち切り理由のトップは、「失踪」である(2012年時点)[44]。また、生活保護を受けている人の自殺率は、一般の人の2倍となっており、20代だと6倍となっている(2012年時点)[45]

世帯類型別統計

被保護世帯の実数(単位:1000世帯)[46]
年次 総数 内訳 医療扶助単給
世帯(再掲)
単身世帯
(再掲)
高齢者世帯 母子世帯 障害者世帯 傷病者世帯 その他
2000 750 341 63 76 214 55 85 551
2002 870 403 75 87 232 72 84 638
2004 997 466 87 102 247 94 79 731
2006 1,074 474 93 125 272 110 76 796
2008 1,146 524 93 138 269 122 72 863
2010 1,405 604 109 157 308 227 70 1,061
2011 1,492 636 113 169 319 254 69 1,130
2012 1,552 678 114 178 297 285 66 1,181
2013 1,584 720 112 182 282 288 65 1,215

厚労省統計では、世帯類型については以下のように分別され、上から順に優先適応される[41]

  1. 高齢者世帯
  2. 母子世帯(父子世帯は含まない)
  3. 障害者世帯
  4. 傷病者世帯
  5. その他の世帯

これによれば、中でも高齢者世帯(65歳以上)は趨勢的に増加しており、1980年度(昭和55年度)には全体の30.2%であったが2011年(平成23年)には43.4%と半数近くを占めるようになっている[46]。年齢・性別人数の内訳を見ると、2000年と2011年全国調査を比較しても、最多層は50、60代単身男性で、次いで70代以上単身女性、2人以上世帯の40代女性となっている。受給者の7割が単身者となっているとされている[46]

なお、不況による雇用環境の悪化で、失業による生活保護受給も増加中である[23]。稼働世帯を多く含む「その他の世帯」は、平成22年度は約22.7万世帯と10年前の平成12年度の約5.5万世帯から4倍強の増加となっている。特に対前年度伸び率は、平成21年度は41.5%、平成22年度は32.2%となっている[47]

ただし、実態として、長子が18歳以上となった場合や祖母などと同居している母子世帯では傷害・傷病がなければ生活保護の統計上において「その他世帯」となるが、2006年には母子加算総数約10万世帯に対して[48]、統計の母子世帯は8万6千世帯と少なく[49]、差分は主に「その他」世帯となるため、事実上の母子家庭の存在も、勤労世子ども虐待対応の手引き 第5章 一時保護帯である「その他世帯」増加の要因となっている。

なお、「稼働年齢層」とは、厚生労働省で明確な定義がなく、『いわゆる稼働年齢層(15 歳~64 歳)』と表記されている[50]

疾病・障害の有無

保護者における障害・傷病の有無(千人単位、2015年)[51]
年齢 総数 障害・傷病あり 障害・傷病なし
小計 障害者 傷病者
うち
精神障害
うち
知的障害
うち
身体障害
うちアルコール
依存症
うち
精神病
うち
その他
総数 2,123 885 361 130 33 197 525 10 137 377 1,238
〜19歳 299 19 11 1 7 3 8 0 2 7 280
20〜24 29 9 5 1 3 1 4 0 3 2 20
25〜29 35 14 7 3 2 1 7 0 5 2 21
30〜34 50 23 10 6 2 2 12 0 8 4 28
35〜39 79 38 17 11 3 4 21 0 13 8 42
40〜44 116 57 25 15 3 7 32 1 18 14 59
45〜49 116 62 27 16 2 9 35 1 17 18 54
50〜54 120 68 28 15 2 12 39 1 14 24 52
55〜59 151 86 34 15 2 17 52 2 14 37 65
60〜64 246 143 52 19 3 31 91 2 17 71 103
65〜69 240 115 46 13 2 31 69 1 11 57 125
70〜74 234 92 38 8 1 29 54 1 7 47 142
75〜79 193 73 29 4 1 24 44 0 5 39 120
80歳〜 215 86 31 3 1 27 55 0 5 50 129
平均年齢 55歳 60歳 58歳 53歳 40歳 65歳 61歳 57歳 52歳 64歳 51歳
医療扶助による一般診療件数(入院および通院、2014年) [52]
年齢 総数 0-14歳 15-34歳 35-54歳 55-59歳 60-64歳 65歳以上
精神・行動の障害 7.3% 4.4% 15.5% 13.0% 8.7% 7.2% 4.8%
神経系の疾患 3.7% 1.3% 4.3% 4.4% 3.6% 3.2% 3.8%
循環系の疾患 21.7% 0.4% 2.1% 10.0% 18.7% 22.6% 29.4%
呼吸系の疾患 8.3% 43.2% 19.1% 9.3% 5.5% 5.0% 4.9%
消化系の疾患 6.2% 1.7% 6.0% 8.1% 7.3% 6.6% 5.8%
筋骨格系及び結合組織の疾患 12.1% 1.9% 6.6% 13.3% 14.8% 14.1% 12.3%
その他 40.7% 47.1% 46.3% 41.8% 41.4% 41.4% 39.0%
総数 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0%

生活保護の捕捉率(利用率)

所得が生活保護支給基準以下となっているひとのうち、実際に生活保護制度を利用している人の割合のことを一般的に「捕捉率」というが、実質的には制度の利用率だと言えるため、捕捉率(利用率)と以下表すこととする。

この捕捉率(利用率)は、統計によると、ドイツでは64.6%、イギリスでは47-90%、フランスでは91.6%なのに対し、日本は15.3-18%となっている[53]。ただし行政機関では「捕捉率」という言葉は使用せず、統計資料で生活保護受給率と表記し[54]、厚生労働省においても、上記調査結果は被保護世帯数の割合(保護世帯比)であるとして「生活保護は申請に基づいた制度であることから、調査から得られた「保護世帯比」が、申請の意思がありながら生活保護の受給から漏れている要保護世帯(いわゆる漏給)の割合を表すものではない」としている[55]

厚生労働省の国民基礎調査を用いた推計では、2007年の時点で世帯所得が生活保護基準に満たない世帯は597万世帯(全世帯の12.4%)であるのに対し、実際に生活保護を受けている世帯は108万世帯(全世帯の2.2%)である。世帯類型別では、世帯所得が生活保護基準に満たない世帯は高齢者世帯が141万世帯、母子世帯が46万世帯、その他の世帯が410万世帯であるのに対し、実際に生活保護を受けている世帯は高齢者世帯が49万世帯、母子世帯が9万世帯、その他の世帯が50万世帯である。一方、同時に公表された全国消費実態調査を用いた集計では、世帯所得が生活保護基準に満たない世帯は231または311万世帯であるとし、低所得世帯数に対する被保護世帯数の割合(保護世帯比)は、フロー所得のみの場合で23.8%または29.6%、資産を考慮した場合で75.8%または87.4%と推定されるとしている[56]

日本の生活保護の不正受給率は0.5%以下であり、世界最低水準である[57]。2005年の生活保護予算1兆9230億円に対し、不正受給は71億9000万円であった[58]

各国の制度と日本の生活保護との保障水準の比較

世界的な機関による分析の例としては(1)がある。なお、厚生労働省の審議会の分析として(2)もある。

  1. 世界銀行 Survey of Social Assistance in OECD Countri による分析によると、各国の社会扶助費のGDPに占める割合比較(1995年)は、ニュージーランドの10.4%を最上位とし、フランス3.9%、ドイツ3.45、イギリス2.8%、アメリカ0.8%であるのに対し、日本は0.5%でありOECD加盟国平均の3.5%を大きく下回り、かつ、アメリカよりも低い水準であるとされている[59][60]
  2. 日本の厚生労働省社会保障審議会がまとめた分析によると、諸外国公的扶助制度と比較した場合の30代単身世帯所得保障水準では、比較対象のスウェーデンフランスドイツイギリス日本の5カ国中、最高水準の額とされている。スウェーデンフランスに対しては、日本では約2倍の所得保障水準となっている[61][62]

捕捉率(利用率)の将来推計についての各種分析例

上例で見たように、世界的にみて極端に捕捉率(利用率)が低い日本の生活保護制度であるが、日本では、「捕捉率(利用率)がこれ以上高まったら財政的に問題が出るという」立場の論者から、いくつかの分析が示されている。

片山さつきの試算によれば、「2011年の国と地方を合わせた税収は79兆円で[63]、そのうち約5%が生活保護費に回っているとしている[10][64]

また、学習院大学経済学部経済学科鈴木亘教授によれば、「確かに生活保護を受けてもいい低所得者はたくさんいるので、もっと生活保護を増やすべきという主張は理解できないわけではない。しかし、実施体制が崩壊しかかっている。低所得者をすべて受け入れると、単純計算でも年間10兆円が必要で、消費税にすれば3%を超える。制度を維持していくには、支える側、つまり納税者の理解が得られなければ無理である。今の状況ではとても理解が得られるとは言えない」としており、受給期限の設定や自立支援プログラムの強制などの導入を提唱しつつ、現状の生活保護制度の在り方について危機感を示している[65]

これと同じく、「捕捉率(利用率)がこれ以上高まったら財政的に問題が出る」という立場の団体・研究機関の分析や意見の例として以下のものがある。

総合開発研究機構の2008年段階の試算レポートによると、就職氷河期の人々について、働き方の変化(非正規の増加と、家事・通学をしていない無業者の増加)によって生じる潜在的な生活保護受給者は77.4万人、それが具体化した場合に必要な追加的な予算額累計約17.7-19.3兆円となる結果が導き出され、これが現実となれば社会的にも深刻な影響を与える規模であることが予想されている[66]

相対的貧困率が小さいスウェーデンでも1990年代の経済危機により失業者が増加し社会保障受給者が増え、社会省が1999年から2004年までに社会扶助受給者数を半減する目標を設定するまでになった[67]。同国では社会保障に占める生活保護など社会扶助の割合は4%と極めて小さく、また2008年のうち少なくとも1か月受給したことのある世帯は、全世帯の6.1%であり、平均受給期間は6.1か月で、1世帯当たりの月平均受給額は8万6千円となっている[68]

生活保護者のギャンブルに関する統計

2018年1月23日厚生労働省は、生活保護受給者が行った過度のギャンブルに対して、2016年に指導を行った件数は3,100件であったと公表した。ギャンブルの種類別では、パチンコの2,462件が最多[69]

脚注

  1. ^ 日本法令外国語訳データベースシステム - 生活保護法”. 法務省. 2014年8月1日閲覧。
  2. ^ 生活保護と福祉一般 厚生労働省
  3. ^ 生活保護手帳 別冊問答集 2011(問1-54、問11-3、問11-7、問11-8、問11-10)
  4. ^ ストライキ中における労働組合員の生活保障については、組合自身が自主的に準備するのが常道であって、かかる準備が不十分なままに、組合員の少なからぬ部分につき、その家族を生活保護を要するごとき困窮状態におとしいれながら、あえてストライキを強行継続するようなことは、労働組合の健全な運営確保上、一般論としては、問題であり、平常の労働教育活動において、かかる趣旨を徹底せしめるようせられたい(昭和36年12月11日大阪府労働部長あて労働省労政局労働法規課長通知)。
  5. ^ 『生活保護のてびき 平成30年度版』(出版:第一法規株式会社, 編集:生活保護制度研究会, ISBN 978-4-474-06387-7)43頁目
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  16. ^ 出産扶助を含め、扶助を受ける者の性別を規定する条文は存在しない。生活保護法は男性の妊娠が実用化されるより前に制定されたものだが、男性の妊娠が将来実用化されることを想定してあえて性別を規定しなかったのかどうかは不明。
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参考文献

関連項目

外部リンク