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腸管と同様に皮膚もまた独自の微生物叢を構成しており、皮膚の微生物叢においては[[プロピオニバクテリウム属]]、[[コリネバクテリウム属]]、[[ストレプトコッカス属]]の細菌とそれに感染するファージ、マラセチアなどの真菌、ポリオーマウイルスが主体となっている<ref>{{Cite journal|last=NISC Comparative Sequencing Program|last2=Oh|first2=Julia|last3=Byrd|first3=Allyson L.|last4=Deming|first4=Clay|last5=Conlan|first5=Sean|last6=Kong|first6=Heidi H.|last7=Segre|first7=Julia A.|date=2014-10|title=Biogeography and individuality shape function in the human skin metagenome|url=http://www.nature.com/articles/nature13786|journal=Nature|volume=514|issue=7520|pages=59–64|language=en|doi=10.1038/nature13786|issn=0028-0836|pmid=25279917|pmc=PMC4185404}}</ref>。健常者の皮膚微生物叢は[[黄色ブドウ球菌]]の増殖を抑制する働きを持つが、[[アトピー性皮膚炎]]の患者においては皮膚微生物叢が破綻して黄色ブドウ球菌が増殖している。また、[[ニキビ]]は皮膚微生物叢で最も比率の大きい種である[[アクネ菌]]との関連が指摘されている。アクネ菌は健常な皮膚における常在細菌だが、ニキビ患部においては特定の系統が増加している<ref name=":7" />。 |
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2020年8月25日 (火) 00:04時点における版
微生物叢(英: microbiota 英語発音: [ˌmaɪkɹoʊbaɪˈoʊtə])とは生態系における生きた微生物の集合のことであり、それらの遺伝情報を含意してマイクロバイオーム(英: microbiome 英語発音: [ˌmaɪkɹoʊbaɪˈoʊm])と呼ばれることもある。微生物叢は細菌、古細菌、真菌、寄生虫、ウイルスによって構成されており、この構成成分の組成構造は微生物叢が定着する環境ごとに異なっている。微生物叢はヒトを含めた動物の体に定着し、植物と共生、また海中から地下鉄の車内まで様々な環境に存在している。
ヒトの体にも微生物は定着しており、ヒトの微生物叢はヒトの健康状態と密接に関連している。そのため、特に腸内細菌は医学的な観点からも古くから研究されてきた。古典的には分離培養に依存した研究が行われていたが、16S rRNA遺伝子の配列に基づく系統分類法が提唱されてからは、分離培養を伴わない方法により未培養の微生物を含めた解析が行われるようになった。近年のDNAシークエンス技術の発展に伴い、微生物叢の研究は急速に進展、様々な疾患との関連性が明らかにされている。
定義と語源
微生物叢は生きた微生物集団の全体であり、また微生物集団が有する遺伝情報の全体を指してマイクロバイオーム (microbiome) と呼ばれることもある[1]。従来は微生物叢を意味する用語として、生態学において叢(くさむら、多くのものが集まっている)を意味する用語であるフローラの語が用いられてきたが、マイクロバイオーム解析の興隆と共に微生物叢 (microbiota) が支配的に用いられるようになった[1][2]。また、微生物叢研究はメタゲノム解析と呼ばれる解析技術によって発展してきた。メタゲノムとはギリシャ語で「高次」や「超越」を意味する「メタ」と、すべての遺伝子全体を意味する「ゲノム」を組み合わせた造語である。メタゲノム解析においては微生物群集の遺伝子全体を、DNAの混合物として培養を行わずに網羅的に解析する[3][4][5]。微生物が細菌、古細菌、真菌、蠕虫などの寄生虫、及びウイルスを内包するように、微生物叢もまた細菌をはじめとした様々な微生物によって構成される。一方で、微生物叢の研究の多くは腸内細菌をはじめとした細菌に焦点を当てており[5]、マイクロバイオームが常在細菌と同義的に用いられることもある[6]。ヒト微生物叢の遺伝情報の規模はヒトそのものの遺伝情報の規模よりも大きく、それ故に「第二のゲノム」と称されることもある[7][8]。
微生物叢の構成要素とその解析手法
細菌叢
細菌叢は微生物集団が有する遺伝情報の全体がマイクロバイオームと呼ばれるように、細菌集団が有する遺伝情報の全体をバクテリオーム (bacteriome) と呼ぶ。先述の通り、微生物叢を構成する要素の中でも、細菌の成分は特に重点を置かれて研究が進められてきた[5]。
細菌叢の組成を明らかにするためには、様々な生物で保存されており、適度に系統間では配列が異なる16S rRNA遺伝子のDNA配列をマーカー遺伝子として解析し、その存在比から細菌叢を構成する菌種の特定や組成を推定することが一般に行われる。また、その手法のことをメタ16S解析と呼ぶ[9]。この手法は比較的簡単、安価に行える、真正細菌だけでなく古細菌も同時に評価できるといった利点をもつ。ただし、PCRによりDNA配列のコピー数を増幅する作業が必要であり、この過程で特定の分類群に対してその組成を過大/過少に評価してしまうようなバイアスが生じる[5]。また、古くから行われてきた手法であり、データベースに登録された既存のデータや、データ解析ツールが充実しているのもこの手法である[10]。
一方で、全メタゲノム解析は試料に含まれる全てのDNA配列を解析する手法であり、微生物叢の遺伝情報を詳細に解析できる上、細菌のみならず真菌やDNAウイルスについても同時に評価できるという利点を持つ。しかしながら比較的高価で複雑な解析が必要であり、一般性には劣る[5][10]。
また、メタトランスクリプトーム解析は試料に含まれる全RNAを解析するもので、死んだ細菌でも安定しているDNAを解析するメタ16S解析や全メタゲノム解析と異なり、原則的に生きている細菌の遺伝情報だけを解析できる。ただし、上記の手法に比べるとrRNAの除去が必要など、実験系が複雑であり、解析により多額の費用がかかる[10]。
真菌叢
カビや酵母といった真菌もまた微生物叢の構成要素として注目されている[5]。真菌の研究は19世紀から行われてきたが、環境中の真菌全体を捉える真菌叢の研究の歴史は浅く、mycobiologyとmicrobiomeを組み合わせた造語であるmycobiomeの語が提案されたのは2010年のことである[11]。また、真菌叢解析に関する報告は細菌叢解析に関するものに比べると格段に少ない。しかしながら、解析の手法に大きな差はない[9]。細菌叢の解析には16S rRNA遺伝子の配列がマーカーとして利用されるが、真菌叢の解析においてはリボソームRNA遺伝子を隔てる内部転写スペーサー (internal transcribed spacer, ITS) 領域や、細菌の16S rRNA遺伝子に相当する18S rRNA遺伝子がマーカー遺伝子として用いられる。ただし、真菌叢の解析はデータベースの不足から細菌叢の解析と比べ困難である。ヒトの身体の場合、粘膜においてはカンジダ属が優位だが、皮膚ではマラセチア属が優占する[5]。
ウイルス叢
他の微生物と同様にウイルスもまた人体に普遍的に常在しており、DNAウイルスやRNAウイルスを含むすべてのウイルスの集合をviromeと呼ぶ。ウイルスは細菌や真菌と異なり、全てのウイルスで共通して存在するような保存配列を持たない。そのため、ウイルス叢の解析においてはしばしば試料に含まれる全ての遺伝情報を解析するメタゲノム解析が用いられる。また、人体に生息するDNAウイルスの多くは、常在細菌に感染しているバクテリオファージであり、ウイルス叢の研究は細菌叢との関連で扱われることが多い[5]。ファージは宿主となる細菌を殺したり、新しい遺伝子を付与することで、細菌叢に影響を及ぼしていると考えられている[12]。環境中にもウイルスは存在しており、最初期のウイルス叢研究は海水中のウイルス叢を解析したものであった[13][14]。
宿主や環境と微生物叢
ヒトと微生物叢
腸内をはじめヒトの体には微生物が定着している。大腸には特に多数の細菌が生息しており、重量は体重70kgの成人男性で0.2kgに過ぎないが、細胞数では約40兆に及ぶと推定されている。この数は個人の全細胞の数を超える[16]。ヒトの微生物叢はヒトの疾病との関連性から重点的に研究が進められてきた。その中でも腸内細菌叢に関する研究が特に焦点を当てられてきており、腸管の走行に沿って腸内細菌叢の構造が変化することや、様々な疾病との関連が明らかにされている。同様に、口腔、皮膚、膣などの微生物叢も疾患との関連などから研究されてきた[5]。また、ヒトの微生物叢の大規模な調査として、アメリカのHuman Microbiome ProjectやヨーロッパのMetaHITなどの国家規模のプロジェクトが実施されている[17][18]。
ヒトの微生物叢は腸管、口腔、皮膚、膣といった部位ごとに、構成する細菌種が異なり、例えば異なるヒトの腸管の微生物叢を比べた場合と、同一のヒトの腸管の微生物叢と口腔の微生物叢を比較した場合、前者の方が互いに類似性が高い[19][20]。
腸管の微生物叢
腸管の微生物叢については特に3つのエンテロタイプと呼ばれる微生物叢のグループが提唱されている。3つのエンテロタイプはそれぞれに特有な細菌の系統によって特徴付けることができ、これらの特徴的なグループは地域に依存せずに存在する[21][22]。
近年の研究成果から疾患と細菌叢の関係が明らかにされてきた。例えば肥満とそれに伴う2型糖尿病のような生活習慣病は、ヒトの遺伝情報だけではなく、腸内細菌叢を構成する細菌種の割合とも関係していることが疫学調査や動物実験から明らかにされた[23][24][25]。
環境が清潔だとアレルギー性疾患に罹患しやすいとする衛生仮説も微生物叢との関連から説明され得る[5]。経済的豊かな富裕国では病原性のない、または病原性の弱い寄生虫や真菌、乳酸菌といった常在性の微生物に感染する機会が失われている。一方でこのような微生物は免疫の過剰応答を抑える制御性T細胞の誘導を活性化する働きがあり、それ故に富裕国では炎症性腸疾患などのアレルギー性疾患が増加しているとするものである[26]。実際に様々な研究が炎症性腸疾患と微生物叢の関連性を示しており、細菌叢の多様性(α多様性)が失われて特定の菌種が増加することなどの変化が起きると考えられているが、因果関係の証明には至っていない[27]。
口腔の微生物叢
口腔にはおよそ700種程の細菌が生息すると推定されている。レンサ球菌属に代表される一部の細菌は口腔の全域に存在するが、特定の部位にのみ生息する細菌もあり、例えばRothia属の細菌は舌や歯の表面にしかいない。虫歯や歯周炎に代表される口腔の疾患は特定の細菌が原因となるのではなく、複数の常在細菌の集団が特定の条件で引き起こすと考えられている[28]。
皮膚の微生物叢
腸管と同様に皮膚もまた独自の微生物叢を構成しており、皮膚の微生物叢においてはプロピオニバクテリウム属、コリネバクテリウム属、ストレプトコッカス属の細菌とそれに感染するファージ、マラセチアなどの真菌、ポリオーマウイルスが主体となっている[29]。健常者の皮膚微生物叢は黄色ブドウ球菌の増殖を抑制する働きを持つが、アトピー性皮膚炎の患者においては皮膚微生物叢が破綻して黄色ブドウ球菌が増殖している。また、ニキビは皮膚微生物叢で最も比率の大きい種であるアクネ菌との関連が指摘されている。アクネ菌は健常な皮膚における常在細菌だが、ニキビ患部においては特定の系統が増加している[15]。
膣の微生物叢
膣微生物叢は偏った構造を持っており、構成種のほとんどがラクトバシラス属に属する細菌である。一方でラクトバシラス属の中では様々な種の細菌が存在しており、個人間ではラクトバシラス属の多様性が大きく異なる。また、膣微生物叢の組成はpHの影響を受け、pHが高くなるとラクトバシラス属の減少が認められる[20]。ラクトバシラス属は乳酸菌を産生することでpH3.5-4.5の酸性環境を整えており、これが膣を有害な病原体から守ると考えられている[30]。細菌性膣炎は膣の疾患で、悪臭を伴う、白色粘稠の分泌物が症状として認められる。細菌性膣炎では、pHが上昇し、ラクトバシラス属が減少する一方で、Gardnerella vaginalisなどラクトバシラス属以外の細菌が増加することが知られる[31]。
ヒトの微生物叢の由来と定着
ヒトに定着している微生物はどこからやってくるのか。新生児の微生物叢は母体に由来しているようである。新生児の細菌叢と母体の細菌叢を比較した調査によると、新生児の細菌叢は出産の形態に影響を受ける。自然分娩の場合は母体の膣の細菌叢が新生児に定着し、ラクトバシラス属菌が優占種となる。一方で帝王切開の場合は母体の細菌叢が定着し、プロピオニバクテリウム属菌をはじめとした皮膚の常在細菌が優占種となる[32]。分娩形態の違いにより生じる新生児における微生物叢の違いは12-24ヶ月齢までに徐々に消えていく[33]。分娩前の胎児が微生物叢を持つかについては議論があった。胎児が無菌的であるか否かについては150年前から議論されていたが、20世期の後半になって一旦は胎児は無菌であり、出産中とその後に微生物叢を獲得するという説が定説となる。しかしながら、近代的なDNAシークエンシング技術の開発によって、従来無菌的であると考えられていた羊水、胎盤、臍帯血、胎便からも細菌が検出されたことから、再び胎児の子宮内における微生物叢の獲得が主張されたきた[1][34]。もっともDNAの抽出試薬も細菌DNAに汚染されているなどの理由から、試料から得られるDNAの量が少ない場合は、試料に由来しない細菌DNAを検出してしまう可能性があるなど、実験系に制限があることが知られる。そのため、子宮内における微生物の検出には確定的な結論は出ていない[33]。実際、子宮内における微生物の検出には否定的な見解が示されている。537人の妊婦を対象とした研究によると、妊娠中の胎盤は基本的に無菌的であると考えられ、唯一の例外は約5%の妊婦でB群レンサ球菌が検出されたことのみであった[35]。
抗生物質は新生児の微生物叢に影響を及ぼし、新生児への持続的投与は喘息、2型糖尿病、炎症性腸疾患、乳アレルギーなどの疾患と関連する可能性がある。もっとも、否定的見解もしめされており、また、相関関係は必ずしも因果関係を意味しない。食事もまた微生物叢に影響を与える。母乳栄養は粉ミルクに比べ、新生児と母体の双方に健康上の利点があるとされるが、母乳に分泌される免疫グロブリンA、ラクトフェリン、ディフェンシンが少なからずこれに寄与すると考えられる[33]。
ヒト以外の動物と微生物叢
ヒトと同様に様々な動物が微生物と共生関係にあり、固有の微生物叢を持つ。微生物叢はそれを保持する動物の行動によって構成が変化し、また微生物叢が宿主となる動物の行動に影響を与えるとされる[36]。一方でアリなどの一部の動物は、病的な状態や一過性に微生物が寄生することを除くと、共生関係にある微生物叢が存在しない場合もあると指摘する研究もある[37]。
一般に動物の腸内細菌叢は食性によって変わる。レッサーパンダとジャイアントパンダはその例外であり、これらの動物は草食動物であるが、その腸内細菌叢はむしろ肉食動物のものである。これはパンダが最近になって食性を肉食から草食へと変化させたことを反映させているのかもしれない[38]。
ウシに代表される反芻動物は、胃が4つの部屋に分画されており、食道から直接つながる第一胃は食物の発酵槽として働く。草食動物であるウシは草本を栄養源として利用するが、一般に植物の葉は果実や動物の肉と比べて栄養の利用効率が低い。これは植物の葉がセルロースに代表される不溶性の多糖類から構成されるためであるが、反芻動物はこの不溶性の多糖類を第一胃の微生物による発酵で分解し、最終生産物として得られる酢酸、酪酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸(揮発性脂肪酸とも呼ばれる)を吸収する。反芻動物はこの短鎖脂肪酸を材料に糖新生、脂肪新生という過程を経て糖や脂肪を合成している[38]。 反芻動物の飼料利用効率は農業において重要であり、第一胃の微生物叢と飼料利用効率の相関が調査されている。それによると、ウシの飼料利用効率は第一胃にフィルミクテスが多い場合に高いとされている[39]。
細菌叢や特定の細菌が、それを保持する宿主に及ぼす生理作用を明らかにするために、ノトバイオート技術が用いられる。ヒトの細菌叢がヒトの健康に及ぼす影響を明らかにするためには、ヒトそのものを研究材料とすることがもっとも直接的な方法だが、遺伝的、環境的な背景を揃えた実験群を用意することは困難であり、また、健康を害するおそれのある処置を伴う実験は倫理的に行うことができない。そのため、ヒトの腸内細菌の研究であっても実験動物を用いた実験が必要となる。既知の細菌のみが腸内などに定着しているノトバイオート動物の作製においては、細菌の株やその混合物を何の微生物も定着していない無菌動物に接種する。さらに、細菌を移植されたノトバイオート動物の病態や健康状態の変化を観察することで、移植した細菌叢が宿主に与える生理作用を調べる。現在広く用いられる無菌動物はマウスとラットだが、無菌動物を用いた初期の研究ではモルモットが多く用いられた。他にもウサギ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、イヌ、ニワトリなどの動物でも無菌化が行われている[9]。
植物と微生物叢
様々な栄養素を提供する植物は微生物にとって魅力的な宿主である。植物に寄生する微生物はエピファイト(植物の表面に存在する微生物)またはエンドファイト(植物の組織内に存在する微生物)として存在している[41][42]。卵菌と真菌は収斂進化の果てに類似した形態を持つようになり、生態学的ニッチを共有するようになった。これらの生物は菌糸を持っており、その脚を宿主の細胞へと浸透させる。共生的関係において植物は共生真菌と物質交換を行っており、ヘキソースの代わりに無機リン酸を得ている。この共生関係は古代から続いていると考えられており、これが植物の地上進出を助けたと推測されている[43][44]。植物成長促進根圏細菌(plant growth-promoting rhizobacteria:PGPR)は植物の成長を促進する働きを持つ根圏微生物で、窒素固定、リンなどの無機物の可溶化、植物ホルモンの合成、無機物の取り込み、病原体からの防御といった植物に必須な機能を提供する[45][46]。PGPRは生態学的ニッチや基質の獲得を病原体と競合したり、アレロケミカルを産生したり、全身的な抵抗性誘導 (induced systemic resistance: ISR) を引き起こすことで、植物を病原体から守る[47][48]。
環境と微生物叢
土壌は一様ではなく、pHや塩分濃度、酸素濃度などの勾配が存在し、土壌微生物叢は土壌環境によって構成を変化させる。土壌の微生物叢では細菌と真菌が多数を占め、その比率は他の成分である古細菌、ウイルス、原生生物の100倍から10000倍に及ぶ[49]。
建造環境は人工的に造られた環境の事をいい、建造物や交通機関を含む全ての人工的な環境を言う。建造環境は地球上の他の環境と比較して微生物の生息には適さず、選択圧により一部の微生物しか生息しないため、自然環境と比べると独特の微生物群集を保持する。建造環境の微生物は主にヒトの皮膚や口腔微生物叢に由来すると考えられているが、一方で農村においては動物由来の微生物などより多様な微生物が生息する[50]。コーネル大学のグループはニューヨークの地下鉄の駅構内と地下鉄車両の車内を綿棒でぬぐい、地下鉄の微生物叢の調査を行った。およそ半分の配列は未知の配列であり、残りのほとんどは細菌のものであった。ニューヨークの地下鉄は世界でも最大規模であり、多数のヒトが利用するにも関わらず、ヒトのDNA配列は0.2%を占めるに過ぎない[51]。
歴史
古典的には腸内細菌叢をはじめとする微生物叢の研究には分離培養法を基礎とした手法が用いられてきた。しかしながら、今日において実験室で分離培養が可能な細菌は集団中の極一部に過ぎないことが知られており、分離培養に頼った手法で微生物叢の全体像を把握することは困難である[52][17][53][54]。
1977年、カール・ウーズとジョージ・E・フォックスは16S rRNA遺伝子の配列に基づく系統分類の手法を提示する[55][15]。
さらに1990年には、当時開発されたPCR法を用いて、キャサリン・G・フィールドらのグループが16S rRNAを増幅し、分離培養を介さずに海洋の微生物叢を構成する細菌の分類を試みる[52][56][57]。
1990年代における微生物叢解析の主な手法は、遺伝情報を含んだDNA配列を大腸菌に導入する必要があるクローニングを前提とした手法であった[52]。
メタゲノムの語が提唱されたのは1998年である[58]。また、マイクロバイオームという概念を初めて提唱したのはノーベル生理学・医学賞を受賞したジョシュア・レーダーバーグとされており、これは2001年のことであった[17]。
この頃までの微生物叢解析は古典的なDNAシークエンシング法であるサンガー法に依存していたため、出力されるデータ量に限りがあり、希少な種の遺伝情報を見過ごしてしまう可能性があった。この課題を解決したのが2010頃からの次世代シーケンサーの登場である。454をはじめとした第二世代シーケンサーとも呼ばれるDNAシーケンサーはサンガー法に比べ、圧倒的に多数の配列を同時に解析することができる。このDNAシーケンサーの技術革新により、より網羅的に微生物叢を解析することが可能となった。[57][58]
これに伴って研究の規模も巨大化しており、例えば2006年に公表された初期のメタゲノム解析は、サンガー法による2人の被験者の腸内細菌を対象としたものであったが、2016年に公表された研究では、イルミナ社製の次世代シーケンサーが用いられ、解析対象者の数は1135人に及ぶ[9][59][60]。
出典
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