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{{Chembox
{{出典の明記|date=2018-04-25}}
| ImageFile = Aqua regia.svg
[[ファイル:%E7%8E%8B%E6%B0%B4.JPG|thumb|right|250px|王水]]
| ImageSize =
[[ファイル:Jabir ibn Hayyan.jpg|thumb|right|250px|[[ジャービル・イブン=ハイヤーン]]]]
| ImageAlt =
'''王水'''(おうすい、aqua regia)は、濃[[塩酸]]と濃[[硝酸]]を3:1の体積比で混合してできる橙赤色の[[液体]]。[[CAS登録番号]]は8007-56-5。また、濃塩酸と濃硝酸を1:3の体積比で混合したものは「逆王水」と呼称され、[[分析化学]]において金属の溶解などに用いる。
| Reference = {{efn|このinfoboxの情報は、[[塩酸]]と[[硝酸]]のモル比が3:1の場合である。}}
| IUPACName = nitric acid hydrochloride
| OtherNames = {{ubl|Aqua regis|Nitrohydrochloric acid}}
|Section1={{Chembox Identifiers
| CASNo = 8007-56-5
| PubChem = 90477010
| SMILES = [N+](=O)(O)[O-].Cl}}
|Section2={{Chembox Properties
| Formula = HNO<sub>3</sub>+3 HCl
| Appearance = 橙赤色の発煙性液体
| Density = 1.01–1.21 g/cm<sup>3</sup>
| MeltingPtC = −42
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|Section3={{Chembox Hazards
| MainHazards =
| NFPA-H = 3
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| AutoignitionPt =
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}}
[[File:Aqua regia in Davenport Laboratories.jpg|thumb|金属塩沈着物を除去するために新たに調製された王水]]
[[File:Aqua regia in NMR tubes.jpg|thumb|upright|調製してすぐの王水は無色だが、数秒で橙色に変わる。]]
'''王水'''(おうすい、aqua regia)は、濃[[塩酸]]と濃[[硝酸]]を3:1の体積比{{efn|より厳密には[[モル比]]で3:1であるが、濃硝酸の濃度(w/v)が35%、濃塩酸の濃度が65%とすると、体積比でおよそ3:1となる。}}で混合してできる橙赤色の[[液体]]である。[[CAS登録番号]]は8007-56-5。全ての金属ではないが、[[金]]や[[白金]]といった[[貴金属]]を始めとして多くの金属を溶解できることから、[[錬金術師]]によってこのように命名された。


[[塩化アンモニウム]]と[[硝酸アンモニウム]]とを目分量1:3の混合比としたものは「固体王水」と呼称され、粉末試験法においてほとんどの[[金属]][[酸化物]]を混合して加熱することにより、[[塩化物|塩化]]することができる。
濃塩酸と濃硝酸を1:3の体積比で混合したものは「逆王水」と呼称され、[[分析化学]]において金属の溶解などに用いる。[[塩化アンモニウム]]と[[硝酸アンモニウム]]とを目分量1:3の混合比としたものは「固体王水」と呼称され、粉末試験法においてほとんどの[[金属]][[酸化物]]を混合して加熱することにより、[[塩化物|塩化]]することができる。


== 性質 ==
== 性質 ==
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[[腐食性]]が非常に強いため、人体にとっては極めて有害である。日本では[[毒物及び劇物取締法]]により、10 %を超える[[塩化水素]]の製剤として[[劇物]]となる。
[[腐食性]]が非常に強いため、人体にとっては極めて有害である。日本では[[毒物及び劇物取締法]]により、10 %を超える[[塩化水素]]の製剤として[[劇物]]となる。


== ==
==用==
王水は、主に最高品質(99.999%)の金の精製法である{{仮リンク|ウォールウィル法|en|Wohlwill process}}に使われる[[電解質]]である[[テトラクロリド金(III)酸|塩化金酸]]の製造に使用される。
多くの金属を溶解できることから、[[分析化学]]での試料調製・貴金属塩の製造・[[ガラス器具]]の精密洗浄などに用いられる。


また、多くの金属を溶解できることから、[[分析化学]]での試料調製・貴金属塩の製造・[[ガラス器具]]の精密洗浄などに用いられる。そのほか、電子部品や装飾品の加工くずなどから貴金属を回収する時にも使われる<ref>{{Cite journal|和書|author=高木春光 |year=2014 |title=王水で金箔を溶かす |url=https://doi.org/10.20665/kakyoshi.62.4_194 |journal=化学と教育 |volume=62 |issue=4 |pages=194-195 |publisher=日本化学会 }}</ref>。
また家電製品の基盤等に導電物質として使用される[[貴金属]]類を[[都市鉱山|リサイクルする]]のにも利用されている。


成分間の分解を引き起こす反応により、王水はすぐにその効果を失うため、通常は使用直前に調製される。
== 起源 ==
[[西暦]][[800年]]前後、[[イスラム科学|イスラム科学者]]の[[ジャービル・イブン=ハイヤーン|アブ・ムサ・ジャービル・イブン=ハイヤーン]]により、まず[[食塩]]と[[硫酸]]から[[塩酸]]ができることが発見され、それを濃[[硝酸]]と混合することで開発された。[[十字軍]]を通じて伝えられた[[中世]]ヨーロッパにて[[錬金術]]師たちに注目され、[[銀]]以外のいかなる金属も溶かし込むことから、"aqua regia"('''王の水''')と名付けられた。日本語の「王水」はこの直訳である。


地域の規制により異なる場合もあるが、王水は十分に中和することで下水に流すことができる。溶存金属による汚染がある場合は、中和された溶液を廃棄するために収集する必要がある<ref>{{cite book | title = Prudent Practices in the Laboratory: Handling and Disposal of Chemicals | year = 1995 | publisher = National Academies Press | authors = Committee on Prudent Practices for Handling, Storage, and Disposal of Chemicals in Laboratories, National Research Council | pages = 160–161 | url = http://www.nap.edu/catalog.php?record_id=4911 | format = free fulltext}}</ref><ref>{{cite web | publisher = Princeton University | title = Aqua Regia | work = Laboratory Safety Manual | url = http://web.princeton.edu/sites/ehs/labsafetymanual/cheminfo/aquaregia.htm}}</ref>。
== 反応式 ==
=== 王水の合成 ===
濃硝酸と濃塩酸を混合すると、以下の反応により[[塩化ニトロシル]]と[[塩素]]と[[水]]が発生する。


==反応式==
<math>
=== 生成と分解 ===
\rm HNO_3 + 3HCl \longrightarrow NOCl + Cl_2 + 2H_2O
濃硝酸と濃塩酸を混合すると、以下の反応により[[塩化ニトロシル]](NOCl)と[[塩素]]と[[水]]が生成される。
</math>
: <ce>{HNO3(aq)} + 3HCl(aq) -> {NOCl(g)} \uparrow + {Cl2(g)} \uparrow + 2H2O(l)</ce>


王水の成分は揮発性であり、調製してすぐの王水は無色だが、数秒で橙色に変わる。揮発性の成分が全て王水から揮発すると、王水としての性質はなくなる。また、塩化ニトロシルは、[[一酸化窒素]]と塩素に分解する可能性がある。
=== 金の溶解 ===
: <ce>{2NOCl(g)} -> {2NO(g)} \uparrow + {Cl2(g)} \uparrow</ce>
王水は[[金]]と反応して[[一酸化窒素]]を発生させながら[[錯体]]を作る。


この解離は平衡制約であり、王水の煙には塩化ニトロシルと塩素のほかに一酸化窒素も含まれている。一酸化窒素は大気中の[[酸素]]と容易に反応するため、生成される気体には[[二酸化窒素]](NO<sub>2</sub>)も含まれる。
<math>
\rm Au + NOCl + Cl_2 + HCl \longrightarrow H[AuCl_4] + NO
</math>


: <ce>{2NO(g)} + {O2(g)} -> {2NO2(g)} \uparrow</ce>
最終的に、水分子4つを[[結晶水]]に持つ H[AuCl<sub>4</sub>]•4H<sub>2</sub>O([[テトラクロリド金(III)酸|塩化金酸]])として溶液中に黄色く析出する。


===金の溶解 ===
===金の溶解===
[[File:Golddust.jpg|thumb|left|王水による化学精製プロセスによって生成された純金沈殿物]]
[[ファイル:Platin löst sich in heißem Königswasser.jpg|thumb|left|250px|白金を溶解する王水]][[白金]]の場合は、温めた王水でないと溶けない。金と同様に、溶けると以下の反応を経て橙色の[[ヘキサクロリド白金(IV)酸]](H<sub>2</sub>[PtCl<sub>6</sub>]・6H<sub>2</sub>O)を生じる。
王水は金を溶解するが、王水を構成するどの酸も単独では金を溶解できない。これは、それぞれの酸が異なる役割を実行するためである。硝酸は強力な酸化剤であり、検出不可能なわずかな量の金を溶解し、金イオン({{chem|Au|3+}})を形成する。塩酸は塩化物イオン({{chem|Cl|-}})を供給する。塩化物イオンは金イオンと反応して、溶液中にテトラクロリド金(III)イオンを生成する。塩酸との反応は、塩化金イオン({{chem|AuCl|4|-|}})の生成を促進する平衡反応である。これにより、溶液から金イオンが除去され、金のさらなる酸化が起こる。金は溶解して[[テトラクロリド金(III)酸|塩化金酸]]になる。さらに、金は王水に存在する塩素によって溶解する可能性がある。反応式は次の通りである。
: <ce>{Au} + {3HNO3} + 4HCl <=> {[AuCl_4]^-} + \ {[3NO2]} + {[H3O]^+} + 2H2O</ce>


: または
<math>
: <ce>{Au} + {HNO3} + 4HCl <=> {[AuCl_4]^-} + \ {[NO]} + {[H3O]^+} + H2O</ce>
\rm Pt + 2NOCl + Cl_2+2HCl \longrightarrow H_2[PtCl_6] + 2NO

</math>
王水が金のみを含む場合、残った王水を煮沸し、塩酸で繰り返し加熱して残留硝酸を除去することにより、固体のテトラクロロ金酸を調製できる。ここから金のみを得る場合、[[二酸化硫黄]]、[[ヒドラジン]]、[[シュウ酸]]などで選択的に還元することができる<ref name = ullgold>{{Ullmann | doi = 10.1002/14356007.a12_499 | title = Gold, Gold Alloys, and Gold Compounds | first1 = Hermann | last1 = Renner | first2 = Günther | last2 = Schlamp | first3 = Dieter | last3 = Hollmann | first4 = Hans Martin | last4 = Lüschow | first5 = Peter | last5 = Tews | first6 = Josef | last6 = Rothaut | first7 = Klaus | last7 = Dermann | first8 = Alfons | last8 = Knödler | first9 = Christian | last9 = Hecht | displayauthors=8}}</ref>。二酸化硫黄による金の還元の式は次の通りである。
{{-}}

== 出典 ==
: <ce>{2AuCl4^-(aq)} + {3SO2(g)} + 6H2O (l) -> {2Au (s)} + {12H+ (aq)} + {3SO4^{2-} (aq)} + 8Cl^- (aq)</ce>
{{reflist}}

===白金の溶解===
[[白金]]についても金と同様の反応式を書くことができる。金と同様に、酸化反応は、窒素酸化物として一酸化窒素または二酸化窒素のいずれかを使用して記述できる。
: <ce>{Pt(s)} + {4NO3^-(aq)} + 8H+ (aq) -> {Pt^{4+} (aq)} + {4NO2(g)} + 4H2O(l)</ce>
: <ce>{3Pt(s)} + {4NO3^-(aq)} + 16H+ (aq) -> {3Pt^{4+}(aq)} + {4NO(g)} + 8H2O(l)</ce>
酸化された白金イオンは、塩化物イオンと反応して、塩化白金酸イオンになる。

: <ce>{Pt^4+(aq)} + {6Cl^-(aq)} -> PtCl6^{2-}(aq)</ce>

実験的証拠により、白金と王水との反応がかなり複雑であることが明らかである。最初の反応では、テトラクロリド白金(II)酸(H<sub>2</sub>PtCl<sub>4</sub>)と塩化ニトロソ白金((NO)<sub>2</sub>PtCl<sub>4</sub>)の混合物が生成される。塩化ニトロソ白金は固体生成物である。白金を完全に溶解したい場合は、濃塩酸で残留固形物を繰り返し抽出する必要がある。

: <ce>2Pt(s) + 2HNO3(aq) + 8HCl(aq) -> (NO)2PtCl4(s) + H2PtCl4(aq) + 4H2O(l)</ce>
and
: <ce>(NO)2PtCl4(s) + 2HCl(aq) <=> H2PtCl4(aq) + 2NOCl(g)</ce>

加熱中に溶液を塩素で飽和させることにより、テトラクロリド白金(II)酸を[[ヘキサクロリド白金(IV)酸]]に酸化できる。
: <ce>H2PtCl4(aq) + Cl2(g) -> H2PtCl6(aq)</ce>

王水での白金固体の溶解は、最も密度の高い金属である[[イリジウム]]と[[オスミウム]]の発見方法だった。どちらも白金鉱石の中から見つかり、酸によって溶解せず、容器の底に集まる。

<gallery>
Plaatina reageerimine kuningveega 01.JPG|王水で旧ソ連の白金製硬貨を溶解させている様子
Plaatina reageerimine kuningveega 02.JPG
Plaatina reageerimine kuningveega 03.JPG|4日後
</gallery>

===溶解した白金の沈殿===
[[白金族元素]]を王水に溶解した後、[[塩化鉄(II)]]での処理により白金族元素が沈殿する。ろ液中の白金(ヘキサクロリド白金(IV)酸)に[[塩化アンモニウム]]を加えることで、[[ヘキサクロリド白金(IV)酸アンモニウム]]が生成される。このアンモニウム塩は非常に不溶性であるため、ろ過することができ、強力な加熱により金属の白金にすることができる<ref>{{cite journal|first1 = L. B.|last1 = Hunt|last2 = Lever |first2= F. M.|journal = Platinum Metals Review|volume = 13|issue = 4|year = 1969|pages = 126–138|title = Platinum Metals: A Survey of Productive Resources to industrial Uses|url = http://www.platinummetalsreview.com/pdf/pmr-v13-i4-126-138.pdf}}</ref>。

: <ce>3(NH4)2PtCl6 -> 3Pt + 2N2 + 2NH4Cl + 16HCl</ce>

未沈殿のヘキサクロリド白金(IV)酸塩は[[亜鉛]]で還元できる。この方法は、実験室残留物からの白金の小規模回収に適している<ref>{{cite book | journal = Inorg. Synth. | title = Recovery of Platinum from Laboratory Residues | author1 = Kauffman, George B. | author2 = Teter, Larry A. | doi = 10.1002/9780470132388.ch61 | series = Inorganic Syntheses | year = 1963 | last3 = Rhoda | first3 = Richard N. | isbn = 9780470132388 | volume = 7 | pages = 232}}</ref>。

===スズとの反応===
王水は[[スズ]]と反応して、[[塩化スズ(IV)]]を生成する。
: <ce>4HCl + 2HNO3 + Sn -> SnCl4 + NO2 + NO + 3H2O</ce>

===その他の物質との反応===
王水は[[黄鉄鉱]]と反応して窒素酸化物を生成する。
: <ce>FeS2 + 5HNO3 + 3HCl -> FeCl3 + 2H2SO4 + 5NO + 2H2O</ce>

==歴史==
[[File:Musaeum Hermeticum 1678 p 398 III. Clavis AQ27.tif|thumb|バシリウス・ヴァレンティヌスの第3の鍵に描かれる狐は王水を象徴する。(''Musaeum Hermeticum'', 1678年)]]
王水は、[[アル・ラーズィー]](854年 - 925年)などの{{仮リンク|中世イスラム世界の錬金術と化学|en|Alchemy and chemistry in the medieval Islamic world|label=イスラムの錬金術師}}によって最初に言及され<ref>Ahmad Y. Al-Hassan, ''Cultural contacts in building a universal civilisation: Islamic contributions'', published by [https://books.google.com/books?id=3iQXAQAAIAAJ O.I.C. Research Centre for Islamic History, Art and Culture in 2005] and available [http://www.history-science-technology.com/articles/articles%2072.html online at History of Science and Technology in Islam]</ref>、その後、1300年ごろの{{仮リンク|偽ゲベル|en|Pseudo-Geber}}によって言及された<ref name="Principe 2012">{{cite book|last=Principe|first=Lawrence M.|title=The secrets of alchemy|year=2012|publisher=University of Chicago Press|location=Chicago|isbn=978-0226682952}}</ref>。

1600年頃の{{仮リンク|バシリウス・ヴァレンティヌス|en|Basil Valentine}}による『{{仮リンク|バシリウス・ヴァレンティヌスの12の鍵|en|The Twelve Keys of Basil Valentine}}』の第3の鍵には、手前にドラゴンが、後ろに雄鶏を食べる狐が描かれている。雄鶏は金を象徴し(日の出との関係と太陽と金の関係から)、狐は王水を表す。雄鶏を食べる狐に別の雄鶏が食いついているのは、金の精製のために溶解・加熱・再溶解を繰り返すことを表す。その後、金は塩化金の形で結晶化するが、その赤い結晶はドラゴンの血と呼ばれており、これが手前のドラゴンで表されている。この反応が化学文献で再び報告されたのは1890年である<ref name="Principe 2012"/>。

1789年、[[アントワーヌ・ラヴォアジェ]]がこの物質を"aqua regia"(王の水)と名付けた<ref>{{Cite book | author = Lavoisier, Antoine | date = 1790 | url = https://archive.org/details/elementschemist00kerrgoog | title = Elements of Chemistry, in a New Systematic Order, Containing All the Modern Discoveries | publisher = Edinburgh: William Creech | page = 116 | isbn = 978-0486646244}}.</ref>。日本語の「王水」はこの直訳である。

[[第二次世界大戦]]で[[ヴェーザー演習作戦|ドイツがデンマークに侵攻]]したとき、ハンガリーの化学者[[ゲオルク・ド・ヘヴェシー]]は、[[マックス・フォン・ラウエ]]と[[ジェイムス・フランク]]から預かっていた[[ノーベル物理学賞]]の金製のメダルを、ドイツ軍に奪われるのを防ぐために王水で溶かした。ドイツ政府は、1935年に投獄された平和活動家[[カール・フォン・オシエツキー]]が[[ノーベル平和賞]]を受賞した後、ドイツ人がノーベル賞を受賞することを禁止していた。ヘヴェシーは、金メダルを溶かした王水を入れた容器を[[ニールス・ボーア研究所]]の棚にしまったが、ナチスには気づかれなかった。戦後、ヘヴェシーは王水から金を復元した。金は[[スウェーデン王立科学アカデミー]]と[[ノーベル財団]]に返還され、金メダルが作り直されて、ラウエとフランクに再び贈られた<ref>[https://archive.org/stream/adventuresinradi01heve#page/27/mode/1up/search/medals "Adventures in radioisotope research"], George Hevesy</ref><ref>{{Cite web| publisher = The Nobel Foundation | url = http://nobelprize.org/nobel_prizes/about/medals/ | author = Birgitta Lemmel | title = The Nobel Prize Medals and the Medal for the Prize in Economics | year = 2006}}</ref>。

==脚注==
{{脚注ヘルプ}}
===注釈===
{{Notelist}}

===出典===
{{Reflist|2}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
52行目: 139行目:
* [[超酸]]
* [[超酸]]


==外部リンク==
* [http://jchemed.chem.wisc.edu/JCESoft/CCA/CCA3/MAIN/AQREGIA/PAGE1.HTM Chemistry Comes Alive! ''Aqua Regia'']
* [http://www.periodicvideos.com/videos/mv_aqua_regia.htm Aqua Regia] at ''[[The Periodic Table of Videos]]'' (University of Nottingham)
* [https://www.youtube.com/watch?v=XoqU1GfIOkI Demonstration of ''Gold Coin Dissolving in Acid (Aqua Regia)'']

{{Authority control}}
{{DEFAULTSORT:おうすい}}
{{DEFAULTSORT:おうすい}}
[[Category:酸]]
[[Category:酸]]

2020年3月24日 (火) 00:12時点における版

王水[注釈 1]
識別情報
CAS登録番号 8007-56-5
PubChem 90477010
特性
化学式 HNO3+3 HCl
外観 橙赤色の発煙性液体
密度 1.01–1.21 g/cm3
融点

−42 °C, 231 K, -44 °F

沸点

108 °C, 381 K, 226 °F

への溶解度 混和性
蒸気圧 21 mbar
危険性
NFPA 704
0
3
0
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。
金属塩沈着物を除去するために新たに調製された王水
調製してすぐの王水は無色だが、数秒で橙色に変わる。

王水(おうすい、aqua regia)は、濃塩酸と濃硝酸を3:1の体積比[注釈 2]で混合してできる橙赤色の液体である。CAS登録番号は8007-56-5。全ての金属ではないが、白金といった貴金属を始めとして多くの金属を溶解できることから、錬金術師によってこのように命名された。

濃塩酸と濃硝酸を1:3の体積比で混合したものは「逆王水」と呼称され、分析化学において金属の溶解などに用いる。塩化アンモニウム硝酸アンモニウムとを目分量1:3の混合比としたものは「固体王水」と呼称され、粉末試験法においてほとんどの金属酸化物を混合して加熱することにより、塩化することができる。

性質

酸化力が非常に強く、王水との反応で生じた金属化合物はその金属の最高酸化数を示す。また、通常のには溶けない白金などの貴金属も溶解できる。ただしタンタルイリジウムは酸に対しての耐性が極めて高いため、溶解できない(イリジウムは粉末にすればわずかに溶ける)。また、もほとんど溶けない(王水と反応してできる塩化銀 (AgCl) が表面に膜を形成し、反応の進行を妨げる)。ルテニウムロジウムオスミウムとは反応するが、反応速度は低く、徐々に侵される。

腐食性が非常に強いため、人体にとっては極めて有害である。日本では毒物及び劇物取締法により、10 %を超える塩化水素の製剤として劇物となる。

利用

王水は、主に最高品質(99.999%)の金の精製法であるウォールウィル法英語版に使われる電解質である塩化金酸の製造に使用される。

また、多くの金属を溶解できることから、分析化学での試料調製・貴金属塩の製造・ガラス器具の精密洗浄などに用いられる。そのほか、電子部品や装飾品の加工くずなどから貴金属を回収する時にも使われる[1]

成分間の分解を引き起こす反応により、王水はすぐにその効果を失うため、通常は使用直前に調製される。

地域の規制により異なる場合もあるが、王水は十分に中和することで下水に流すことができる。溶存金属による汚染がある場合は、中和された溶液を廃棄するために収集する必要がある[2][3]

反応式

生成と分解

濃硝酸と濃塩酸を混合すると、以下の反応により塩化ニトロシル(NOCl)と塩素が生成される。

王水の成分は揮発性であり、調製してすぐの王水は無色だが、数秒で橙色に変わる。揮発性の成分が全て王水から揮発すると、王水としての性質はなくなる。また、塩化ニトロシルは、一酸化窒素と塩素に分解する可能性がある。

この解離は平衡制約であり、王水の煙には塩化ニトロシルと塩素のほかに一酸化窒素も含まれている。一酸化窒素は大気中の酸素と容易に反応するため、生成される気体には二酸化窒素(NO2)も含まれる。

金の溶解

王水による化学精製プロセスによって生成された純金沈殿物

王水は金を溶解するが、王水を構成するどの酸も単独では金を溶解できない。これは、それぞれの酸が異なる役割を実行するためである。硝酸は強力な酸化剤であり、検出不可能なわずかな量の金を溶解し、金イオン(Au3+)を形成する。塩酸は塩化物イオン(Cl)を供給する。塩化物イオンは金イオンと反応して、溶液中にテトラクロリド金(III)イオンを生成する。塩酸との反応は、塩化金イオン(AuCl
4
)の生成を促進する平衡反応である。これにより、溶液から金イオンが除去され、金のさらなる酸化が起こる。金は溶解して塩化金酸になる。さらに、金は王水に存在する塩素によって溶解する可能性がある。反応式は次の通りである。

または

王水が金のみを含む場合、残った王水を煮沸し、塩酸で繰り返し加熱して残留硝酸を除去することにより、固体のテトラクロロ金酸を調製できる。ここから金のみを得る場合、二酸化硫黄ヒドラジンシュウ酸などで選択的に還元することができる[4]。二酸化硫黄による金の還元の式は次の通りである。

白金の溶解

白金についても金と同様の反応式を書くことができる。金と同様に、酸化反応は、窒素酸化物として一酸化窒素または二酸化窒素のいずれかを使用して記述できる。

酸化された白金イオンは、塩化物イオンと反応して、塩化白金酸イオンになる。

実験的証拠により、白金と王水との反応がかなり複雑であることが明らかである。最初の反応では、テトラクロリド白金(II)酸(H2PtCl4)と塩化ニトロソ白金((NO)2PtCl4)の混合物が生成される。塩化ニトロソ白金は固体生成物である。白金を完全に溶解したい場合は、濃塩酸で残留固形物を繰り返し抽出する必要がある。

and

加熱中に溶液を塩素で飽和させることにより、テトラクロリド白金(II)酸をヘキサクロリド白金(IV)酸に酸化できる。

王水での白金固体の溶解は、最も密度の高い金属であるイリジウムオスミウムの発見方法だった。どちらも白金鉱石の中から見つかり、酸によって溶解せず、容器の底に集まる。

溶解した白金の沈殿

白金族元素を王水に溶解した後、塩化鉄(II)での処理により白金族元素が沈殿する。ろ液中の白金(ヘキサクロリド白金(IV)酸)に塩化アンモニウムを加えることで、ヘキサクロリド白金(IV)酸アンモニウムが生成される。このアンモニウム塩は非常に不溶性であるため、ろ過することができ、強力な加熱により金属の白金にすることができる[5]

未沈殿のヘキサクロリド白金(IV)酸塩は亜鉛で還元できる。この方法は、実験室残留物からの白金の小規模回収に適している[6]

スズとの反応

王水はスズと反応して、塩化スズ(IV)を生成する。

その他の物質との反応

王水は黄鉄鉱と反応して窒素酸化物を生成する。

歴史

バシリウス・ヴァレンティヌスの第3の鍵に描かれる狐は王水を象徴する。(Musaeum Hermeticum, 1678年)

王水は、アル・ラーズィー(854年 - 925年)などのイスラムの錬金術師英語版によって最初に言及され[7]、その後、1300年ごろの偽ゲベル英語版によって言及された[8]

1600年頃のバシリウス・ヴァレンティヌス英語版による『バシリウス・ヴァレンティヌスの12の鍵英語版』の第3の鍵には、手前にドラゴンが、後ろに雄鶏を食べる狐が描かれている。雄鶏は金を象徴し(日の出との関係と太陽と金の関係から)、狐は王水を表す。雄鶏を食べる狐に別の雄鶏が食いついているのは、金の精製のために溶解・加熱・再溶解を繰り返すことを表す。その後、金は塩化金の形で結晶化するが、その赤い結晶はドラゴンの血と呼ばれており、これが手前のドラゴンで表されている。この反応が化学文献で再び報告されたのは1890年である[8]

1789年、アントワーヌ・ラヴォアジェがこの物質を"aqua regia"(王の水)と名付けた[9]。日本語の「王水」はこの直訳である。

第二次世界大戦ドイツがデンマークに侵攻したとき、ハンガリーの化学者ゲオルク・ド・ヘヴェシーは、マックス・フォン・ラウエジェイムス・フランクから預かっていたノーベル物理学賞の金製のメダルを、ドイツ軍に奪われるのを防ぐために王水で溶かした。ドイツ政府は、1935年に投獄された平和活動家カール・フォン・オシエツキーノーベル平和賞を受賞した後、ドイツ人がノーベル賞を受賞することを禁止していた。ヘヴェシーは、金メダルを溶かした王水を入れた容器をニールス・ボーア研究所の棚にしまったが、ナチスには気づかれなかった。戦後、ヘヴェシーは王水から金を復元した。金はスウェーデン王立科学アカデミーノーベル財団に返還され、金メダルが作り直されて、ラウエとフランクに再び贈られた[10][11]

脚注

注釈

  1. ^ このinfoboxの情報は、塩酸硝酸のモル比が3:1の場合である。
  2. ^ より厳密にはモル比で3:1であるが、濃硝酸の濃度(w/v)が35%、濃塩酸の濃度が65%とすると、体積比でおよそ3:1となる。

出典

  1. ^ 高木春光「王水で金箔を溶かす」『化学と教育』第62巻第4号、日本化学会、2014年、194-195頁。 
  2. ^ Committee on Prudent Practices for Handling, Storage, and Disposal of Chemicals in Laboratories, National Research Council (1995) (free fulltext). Prudent Practices in the Laboratory: Handling and Disposal of Chemicals. National Academies Press. pp. 160–161. http://www.nap.edu/catalog.php?record_id=4911 
  3. ^ Aqua Regia”. Laboratory Safety Manual. Princeton University. Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
  4. ^ Renner, Hermann; Schlamp, Günther; Hollmann, Dieter; Lüschow, Hans Martin; Tews, Peter; Rothaut, Josef; Dermann, Klaus; Knödler, Alfons; et al. (2005), "Gold, Gold Alloys, and Gold Compounds", Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, Weinheim: Wiley-VCH, doi:10.1002/14356007.a12_499
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  11. ^ Birgitta Lemmel (2006年). “The Nobel Prize Medals and the Medal for the Prize in Economics”. The Nobel Foundation. Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。

関連項目

外部リンク