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| 地質時代 = 約7,650万 ~ 約7,550万年前<br>([[中生代]][[白亜紀]]後期[[カンパニアン期]])
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'''カスモサウルス'''(''Chasmosaurus'')は、[[中生代]][[白亜紀]]後期[[カンパニアン]](約7,650万 ~ 7,550万年前)に[[北アメリカ|北米]]大陸に生息していた[[角竜類|角竜下目]]の[[恐竜]]の[[属 (分類学)|属]]の一つ。
'''カスモサウルス'''(''Chasmosaurus'')は、[[中生代]][[白亜紀]]後期[[カンパニアン]](約7,650万 - 7,550万年前)に[[北アメリカ|北米]]大陸に生息していた[[角竜類|角竜下目]]の[[恐竜]]の[[属 (分類学)|属]]の一つ。


[[学名|属名]]カスモサウルスは、「穴のあいたトカゲ」を意味する。これは、頭部の[[フリル (動物)|フリル]]に(軽量化のためと考えられている)穴があいているからである。しかしこの「穴」は、[[トリケラトプス]]を除き、ほとんどの角竜に見られるため、カスモサウルス特有の物ではない。
[[学名|属名]]カスモサウルスは、「穴のあいたトカゲ」を意味する。これは、頭部の[[フリル (動物)|フリル]]に(軽量化のためと考えられている)穴があいているからである。しかしこの「穴」は、[[トリケラトプス]]を除き、ほとんどの角竜に見られるため、カスモサウルス特有の物ではない。


==特徴==
== 記載 ==
[[File:Ceratopsidae Scale.svg|thumb|人間と[[ケラトプス類]]のいくつかのメンバーのサイズ比較。緑色がカスモサウルス]]
頭部のフリルは縦に長い形で、角竜最大級の長さを誇る。フリルの左右の先端には、ごく短い[[ホーンレット]]が二つずつ付いている。角はトリケラトプス同様、3本ある。体長は5~8メートルとされる。

カスモサウルスは中型のケラトプス類であった。2010年、[[グレゴリー・ポール]]は全長4.8メートル、体重2トンと推定している<ref name="Paul2010">Paul, G.S., 2010, ''The Princeton Field Guide to Dinosaurs'', Princeton University Press p. 269–270</ref>。2種間で知られている違いは、主に角とフリルの形質に関連しているが、ルッセリ種の頭頂骨はあまり知られていない。他の多くのカスモサウルス亜科と同様に、カスモサウルスの顔面にも3本の発達した角があり、鼻骨に1本、後眼窩骨に2本が備わっている。両種とも角は絶対的にかなり短いが、ルッセリ種は比較的長く、特に上眼窩角はより後方に湾曲している。 本属のフリルは夥しく拡張されており、前部よりも後部の方が広い。吻部の水平面以上にはほぼ隆起していない。ベリ種ではフリル後端がV字型で側面が直線的である。ルッセリ種では後縁は浅いU字型をしており、側面はより凸状である<ref name="Paul2010"/>。側面は6〜9個の小さな皮骨(縁鱗状骨と呼ばれる)によって装飾されており、[[鱗状骨]]に付着している。フリルの角(かど)は[[頭頂骨]]上の大きな角状の皮骨を特徴としている。 ルッセリ種では外側のものが最も大きく、ベリ種では内側のものがより大きい。頭頂骨の他の部分に皮骨は存在しない。フリルを形成する頭頂骨には非常に大きな開口部があり、これがこの属名の由来となった。 この頭頂骨はほとんどの近縁種のような楕円形ではなく、三角形をしていて、フリルの両端が尖っている。

[[File:Chasmosaurus BW.jpg|thumb|カスモサウルス・ベリの復元]]
カスモサウルス・ベリ (''C. belli'') の頭頂骨はNHMUK 4948として知られている標本において最もよく保存されている。最初の3つの[[頸椎]]は他の[[角竜類|ネオケラトプシア]]標本と同様にsyncervicalとして知られている状態に癒合している。この標本には他に5つの頚椎が保存されており、合計8つの頚椎があり、これは完全な頸部を表していると考えられる。第4頸椎~第8頸椎において長さよりも幅が広く、長さはほぼ等しい。 胴椎も同様である。ベリ種はsyncervical を持っており、標本によっては[[脊椎|仙椎]]、胴椎、時に尾椎からなる複合体である。

[[チャールズ・モートラム・スタンバーグ]]が収集したカスモサウルス標本NMC 2245は[[皮膚]]の印象を伴っていた<ref name="ageofdinosaurschasmosaurus">{{cite book |chapter=Chasmosaurus |title=The Age of Dinosaurs |last=Dodson |first=Peter |publisher=Publications International |location=ISBN=0-7853-0443-6 |pages=110-111 |url=|display-authors=etal}}</ref>。保存されている領域は、右側の腰から約1×0.5メートルの範囲である <ref name="ageofdinosaurschasmosaurus"/>。 大きな鱗は直径が最大55mmで、互いに5~10cm離れていた。 鱗は六角形または五角形で、5つまたは6つの辺を持っていた。これらの辺はそれぞれ、やや小さな鱗に接し、ロゼットを形成している。直径約1cmの小さな凸状の鱗が全体を取り囲んでいる。大きな鱗は、その縁に垂直な方向にまっすぐな溝があり、全面的に皺があった<ref>Sternberg, C.M., 1925, "Integument of ''Chasmosaurus belli''", ''Canadian Field-Naturalist'''' '''39''': 108-110</ref>。残念ながら、既知の化石の皮膚印象標本からは、カスモサウルスの色についてはまだ何も知ることができない。



<gallery>
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File:Chasmo-baby.jpg|thumb|カスモサウルスの幼体
ファイル:ChasmosaurusBelli-Skull_RoyalOntarioMuseum.png|''C. belli''の頭骨側面。<br/>[[ロイヤルオンタリオ博物館]]の展示品。
ファイル:ChasmosaurusBelli-Skull_RoyalOntarioMuseum.png|''C. belli''の頭骨側面。<br/>[[ロイヤルオンタリオ博物館]]の展示品。
ファイル:Chasmosaurus belli RTM 01.jpg|''C. belli''の骨格。<br/>[[ロイヤル・ティレル古生物学博物館|ロイヤル•ティレル古生物学博物館]]の展示品
ファイル:Chasmosaurus belli RTM 01.jpg|''C. belli''の骨格。<br/>[[ロイヤル・ティレル古生物学博物館|ロイヤル•ティレル古生物学博物館]]の展示品
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==種の分け方==
== 発見と ==
[[File:Hunting dinosaurs in the bad lands of the Red Deer River, Alberta, Canada; a sequel to The life of a fossil hunter (1917) (20765045131).jpg|thumb|[[ジョージ・フライヤー・スタンバーグ]]がカスモサウルス・ベリの頭骨を補完している。]]
カスモサウルスは[[属 (分類学)|属]]であり、数種が知られている。多い時は7種ほどあったが、''C. mariscalensis'' が[[アグジャケラトプス]]属とされるなど整理された結果、現在では1から3種類程度だろうといわれている。模式種であるC.ベリが最も有名である。
1898年、カナダ地質学調査所の[[ローレンス・ラム]]は、ベリークリークでカスモサウルスの第一標本となる[[頭頂骨]]、[[タイプ (分類学)|ホロタイプ]]NMC 491 を発見した<ref name="ageofdinosaurschasmosaurus"/> 。またラムはこの動物が、より小さいフリルをもつ角竜の属[[モノクロニウス]]の新種であると考えた<ref name="ageofdinosaurschasmosaurus"/>。 彼は新種モノクロニウス・ベリ (''Monoclonius belli'') として標本を記載した<ref name="ageofdinosaurschasmosaurus"/>。その[[学名|種小名]]は採集家のウォルター・ベルへの献名である<ref>Lambe, L.M., 1902, "New genera and species from the Belly River Series (mid-Cretaceous)", ''Geological Survey of Canada Contributions to Canadian Palaeontology'' '''3'''(2): 25–81</ref>。

その後の1913年、[[チャールズ・ヘイゼリアス・スタンバーグ]]とその息子たちが[[カナダ]]・[[アルバータ州]][[州立恐竜公園]]でモノクロニウス・ベリのいくつかの完全な頭骨を発見した<ref name="ABS09"/>。これらの発見に基づき、ランベはプロトロサウルス(''Protorosaurus''「原初の[[トロサウルス]]」の意味)を設立した<ref>Lambe, L.M., 1914, "On the forelimb of a carnivorous dinosaur from the Belly River Formation of Alberta, and a new genus of Ceratopsia from the same horizon, with remarks on the integument of some Cretaceous herbivorous dinosaurs", ''The Ottawa Naturalist'' '''27'''(10): 129–135</ref>。しかし[[プロトロサウルス]]の名は[[ペルム紀]]の爬虫類に先取されていたので、1914年にカスモサウルスと改名された。カスモサウルスの名は[[古代ギリシア語]]で「裂けた」あるいは「開いた」を意味する χάσμα, ''khasma'' という単語に由来する物で、非常に大きな頭頂骨窓に因んでいる。ランベは1913年にスタンバーグが発見した、皮膚印象の保存された概して完全な骨格 NMC 2245 を[[タイプ (分類学)|パラタイプ]]として記載した<ref>Lambe, L.M., 1914, "On ''Gryposaurus notabilis'', a new genus and species of trachodont dinosaur from the Belly River Formation of Alberta, with a description of the skull of ''Chasmosaurus belli''", ''The Ottawa Naturalist'' '''27''': 145–155</ref>。
[[File:Royal Tyrell Chasmosaurus russelli.jpg|thumb|[[ロイヤル・ティレル古生物学博物館]]のカスモサウルス・ラッセリ]]
その頃から、頭骨を含む更なる化石が発見されカスモサウルスと同定された。そしていくつかの種がこの属に追加された<ref name="ageofdinosaurschasmosaurus"/>。今日、それらのうちいくつかはカスモサウルス・ベリの頭骨の形態変異のバリエーションに過ぎないと考えられている<ref name="ageofdinosaurschasmosaurus"/>。 その他はカスモサウルスの有効種または独自の属であると思われる。1933年、[[バーナム・ブラウン]]はAMNH 5401に基づきカスモサウルス・カイセニ (''Chasmosaurus kaiseni'') を命名、カスモサウルス・ベリから独立させた。種小名はピーター・ケイセン (Peter Kaiden) への献名である<ref>Brown, B., 1933, "A new longhorned Belly River ceratopsian", ''American Museum Novitates'' '''669''': 1–3</ref>。これは1990年にトーマス・レーマンに命名されたカスモサウルス・カナデンシス (''Chasmosaurus canadensis'') と関連があると思われる<ref name="Lehman1990">T.M. Lehman, 1990, "The ceratopsian subfamily Chasmosaurinae: sexual dimorphism and systematics", In: K. Carpenter and P. J. Currie (eds.), ''Dinosaur Systematics: Perspectives and Approaches'', Cambridge University Press, Cambridge, pp. 211–229</ref>。カスモサウルス・カナデンシスはもともと1902年にランベによってモノクロニウス・カナデンシス (''Monoclonius canadensis'') として記載されていたが、1915年にランベによってエオケラトプス・カナデンシス (''Eoceratops canadensis'') として再記載された種である。エオケラトプスと角の長いカスモサウルス・カイセニはニコラス・ロングリッチによって[[モジョケラトプス]]の典型例であると考えられていた<ref name="Longrich2010">{{Cite journal|author=Nicholas R. Longrich|year=2010|title=''Mojoceratops perifania'', A New Chasmosaurine Ceratopsid from the Late Campanian of Western Canada|journal=Journal of Paleontology|volume=84|issue=4|pages=681–694|doi=10.1666/09-114.1}}</ref>。また、モジョケラトプスはカスモサウルス・ルッセリ (''Chasmosaurus russelli'') のシノニムであることを発見した研究チームがあるが、キャンベルらも2016年にカスモサウルスの標本を分析し、エオケラトプスとカスモサウルス・カイセニがルッセリ種のシノニムであることを発見した。キャンベルらは2016年に行われたカスモサウルス標本の分析の中で、エオケラトプスとカイセニ種は、双方のホロタイプにおいて頭頂骨が欠いている事により、種不明のカスモサウルス (''Chasmosaurus'' sp.) として参照することが可能であると述べた<ref name="Campbelletal2016">Campbell, J.A., Ryan, M.J., Holmes, R.B., and Schröder-Adams, C.J. (2016). [http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0145805 A Re-Evaluation of the chasmosaurine ceratopsid genus ''Chasmosaurus'' (Dinosauria: Ornithischia) from the Upper Cretaceous (Campanian) Dinosaur Park Formation of Western Canada.] ''PLoS ONE'', '''11'''(1): e0145805. {{doi|10.1371/journal.pone.0145805}}</ref>。1933年、[[リチャード・スワン・ルル]]は1926年に採集された異常に口吻が短い標本、ROM 839(旧ROM 5436)をカスモサウルス・ブレヴィロストリス (''Chasmosaurus brevirostris'') として記載した。種小名は「短い鼻先」を意味する<ref name="Lull1933">Lull, R.S., 1933, ''A revision of the Ceratopsia or horned dinosaurs''. Memoirs of the Peabody Museum of Natural History '''3'''(3): 1–175</ref>。これはベリ種のジュニアシノニムであると思われる<ref name="Lehman1990"/>。[[チャールズ・モートラム・スタンバーグ]]は1940年に、アルバータ州南部の[[ダイナソーパーク累層]]下部で発見された標本NMC 8800に基づいてカスモサウルス・ルッセリ (''Chasmosaurus russelli'') を追加した。種小名はローリス・シャノ・ラッセル (Loris Shano Russell) への献名である<ref name="ABS09"> Arbour, V.M.; Burns, M. E.; Sissons, R. L. (2009). "A redescription of the ankylosaurid dinosaur Dyoplosaurus acutosquameus Parks, 1924 (Ornithischia: Ankylosauria) and a revision of the genus". Journal of Vertebrate Paleontology. 29 (4): 1117–1135. doi:10.1671/039.029.0405</ref><ref>Sternberg, C.M., 1940, "Ceratopsidae from Alberta", ''Journal of Paleontology'' '''14'''(5): 468–480</ref>。トマス・レーマンは、1989年に[[テキサス州]]産のカスモサウルス・マリスカレンシス (''Chasmosaurus mariscalensis'') を記載した<ref>Lehman, T.M., 1989, "''Chasmosaurus mariscalensis'', sp. nov., a new ceratopsian dinosaur from Texas", ''Journal of Vertebrate Paleontology'', '''9'''(2): 137–162</ref>。これは現在[[アグジャケラトプス]]と改名されている<ref name="Lucas">{{Cite journal|vauthors=Lucas SG, Sullivan RM, Hunt AP |year=2006 |title=Re-evaluation of Pentaceratops and Chasmosaurus (Ornithischia: Ceratopsidae) in the Upper Cretaceous of the Western Interior |journal=New Mex Mus. Nat. Hist. Sci. Bull. |volume=35 |pages=367–370}}</ref>。最近記載された種は2001年に命名されたカスモサウルス・イルヴィネンシス (''Chasmosaurus irvinensis'') である<ref>R.B. Holmes, [[Catherine Forster|C.A. Forster]], M.J. Ryan and K.M. Shepherd, 2001, "A new species of ''Chasmosaurus'' (Dinosauria: Ceratopsia) from the Dinosaur Park Formation of southern Alberta", ''Canadian Journal of Earth Sciences'' '''38''': 1423–1438</ref>。これはダイナソーパーク累層最上部から知られる。本種は2010年に一度[[ヴァガケラトプス]]という独自の属を与えられた<ref name="Sampson">{{Cite journal|author1=Scott D. Sampson |author2=Mark A. Loewen |author3=Andrew A. Farke |author4=Eric M. Roberts |author5=Catherine A. Forster |author6=Joshua A. Smith |author7=Alan L. Titus |year=2010 |title=New Horned Dinosaurs from Utah Provide Evidence for Intracontinental Dinosaur Endemism |journal=PLoS ONE |volume=5 |issue=9 |pages=e12292 |doi=10.1371/journal.pone.0012292 |pmid=20877459 |pmc=2929175 |url=http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0012292}}</ref>が、2019年のキャンベルの研究でカスモサウルスに帰還された<ref name="Campbell19">James Alexander Campbell, Michael J. Ryan, Claudia J. Schroder-Adams, Robert B. Holmes & David C. Evans (2019)
Temporal range extension and evolution of the chasmosaurine ceratopsid 'Vagaceratops' irvinensis (Dinosauria: Ornithischia) in the Upper Cretaceous (Campanian) Dinosaur Park Formation of Alberta. ''Vertebrate Anatomy Morphology Palaeontology'' 7: 83–100 DOI: https://doi.org/10.18435/vamp29356 https://journals.library.ualberta.ca/vamp/index.php/VAMP/article/view/29356</ref>。
[[File:ChasmosaurusBelli-Skull RoyalOntarioMuseum.png|thumb|カスモサウルス・ブレヴィロストリスのホロタイプ頭骨、ROM 839。[[トロント]]の[[ロイヤル・オンタリオ博物館]]に展示されている。]]
1987年、[[グレゴリー・ポール]]は[[ペンタケラトプス]]・ステルンベルギィ (''Pentaceratops sternbergii'') をカスモサウルス・ステルンベルギ (''Chasmosaurus sternbergi'') に改名した<ref>Paul, G.S., 1987, "The science and art of reconstructing the life appearance of dinosaurs and their relatives: a rigorous how-to guide", pp 4–49 in: ''Dinosaurs Past and Present Volume II'', Natural History Museum of Los Angeles County</ref>が、これは合意が得られておらずペンタケラトプス・ステルンベルギのジュニアシノニムと見なされている。2000年、[[ジョージ・オルシェフスキー]]はモノクロニウス・レクルヴィコルニス (''Monoclonius recurvicornis'' Cope 1889) を、よりカスモサウルス亜科に近似であるとして、カスモサウルス・レクルヴィコルニス (''Chasmosaurus recurvicornis'') と改めた<ref>Olshevsky, G. 2000. ''An Annotated Checklist of Dinosaur Species by Continent''. George Olshevsky, Publications Requiring Research, San Diego, 157 pp</ref>。これは[[疑問名]]である。

今日、ベリ種とルッセリ種、ただ2つのみの種が有効とされている。これらにはわずかな形態的差異と層序的差異がある。ルッセリはダイナソーパーク累層([[カンパニアン期]])のより古い(下部の)地層から見つかり、ベリ種はダイナソーパーク累層中部から見つかる<ref name="Maidment2011">{{cite journal|last1=Maidment|first1=S.C.R.|last2=Barrett|first2=P.M.|year=2011|title=A new specimen of ''Chasmosaurus belli'' (Ornithischia: Ceratopsidae), a revision of the genus, and the utility of postcrania in the taxonomy and systematics of ceratopsid dinosaurs|journal=Zootaxa|volume=2963|pages=1–47}}</ref>。共に7650万〜7550万年前の期間に生息した<ref name="ABS09"/>ホロタイプとパラタイプのほかにもいくつかの標本が知られている。これらの標本にはAMNH 5422、ROM 843(旧ROM 5499)、NHMUK R4948などがあり、いずれも頭骨を含む部分骨格の標本である。ルッセリ種のホロタイプ以外に、パラタイプのCMN 8803(フリル)、CMN 41933(フリル後部)、RTMP 81.19.175(右側頭骨)、CMN 2280(1914年にスタンバーグ家によって発見された頭骨付き部分骨格)が知られている。 YPM 2016の頭骨とAMNH 5402の頭骨と骨格は、キャベルら (2016)によって他のベリ種に言及された標本とは異なり、より多くのホーンレット・パーツを持つことが指摘されたが、著者はそれらを個体変異と解釈しており、キャンベルら(2019)はこれらの標本をヴァガケラトプスに近い不確定のカスモケラトプス種と解釈している<ref name="Campbell19"/><ref>{{cite journal|last=[[Victoria Arbour|Arbour, V.M.]]|author2=Burns, M. E.|author3=Sissons, R. L.|date=|year=2009|title=A redescription of the ankylosaurid dinosaur ''Dyoplosaurus acutosquameus'' Parks, 1924 (Ornithischia: Ankylosauria) and a revision of the genus|url=|journal=Journal of Vertebrate Paleontology|volume=29|issue=4|pages=1117–1135|doi=10.1671/039.029.0405|via=}}</ref>。


== モジョケラトプス ==
== モジョケラトプス ==


モジョケラトプス・ペリファニア ''Mojoceratops perifania'' は[[ロイヤル・ティレル古生物学博物館]]や[[アメリカ自然史博物館]]所蔵の複数個体分の部分的な頭骨から2010年、ロングリッチによって記載され、それに基づいて他の5個体分の標本も同種と見なされた。モジョケラトプスとされた全ての個体はカナダの[[ダイナソーパーク累層]]から産出されたものだった。
モジョケラトプス・ペリファニア ''Mojoceratops perifania'' は[[ロイヤル・ティレル古生物学博物館]]や[[アメリカ自然史博物館]]所蔵の複数個体分の部分的な頭骨から2010年、ロングリッチによって記載され、それに基づいて他の5個体分の標本も同種と見なされた。モジョケラトプスとされた全ての個体はカナダの[[ダイナソーパーク累層]]から産出されたものだった。
属名のモジョはアフリカ系アメリカ人文化の[[スラング]]で(ドラッグなどに)「虜になる、溺れる」という意味の[[モジョ]] に由来し、[[種小名]]は古代ギリシャ語で「目立つプライド」を意味する。どちらも派手なフリルに因んでいる。この種は他の研究者たちがカスモサウルスのものであると考える頭骨に基づいている<ref name="Longrich2010">{{Cite journal|author=Nicholas R. Longrich|year=2010|title=''Mojoceratops perifania'', A New Chasmosaurine Ceratopsid from the Late Campanian of Western Canada|journal=Journal of Paleontology|volume=84|issue=4|pages=681–694|doi=10.1666/09-114.1}}</ref>
属名のモジョはアフリカ系アメリカ人文化の[[スラング]]で(ドラッグなどに)「虜になる、溺れる」という意味の[[モジョ]] に由来し、[[学名|種小名]]は古代ギリシャ語で「目立つプライド」を意味する。どちらも派手なフリルに因んでいる。この種は他の研究者たちがカスモサウルスのものであると考える頭骨に基づいている<ref name="Longrich2010">{{Cite journal|author=Nicholas R. Longrich|year=2010|title=''Mojoceratops perifania'', A New Chasmosaurine Ceratopsid from the Late Campanian of Western Canada|journal=Journal of Paleontology|volume=84|issue=4|pages=681–694|doi=10.1666/09-114.1}}</ref>

AMNH 5401と呼ばれる一個体分のほぼ完全な頭骨にはもともとカスモサウルス・カイセニ ''Chasmosaurus kaiseni'' の学名が与えられていた。C. カイセニはモジョケラトプスと同じ特徴をもっていると考えられた為、M. ペリファニアの同物異名とされた。しかしながらAMNH 5401 には縁後頭骨 (ホーンレット) が保存されておらず、別のカスモサウルスの種のものをもとに人工的に補われていた。このことが過去10年間科学者達の混乱を招き続けていた。縁後頭骨はカスモサウルスのようなケラトプス類の同定において非常に重要な決め手となる部分である。そのためC.カイセニは疑問名であり、M.ペリファニアの同物異名ではないと考えられた。ロングリッチはまた、エオケラトプスの模式標本がモジョケラトプスにあてはまるのではないかとも指摘していた。しかしその標本はあまりにも保存状態が悪く、更に亜成体であると考えられる個体で、以前から疑問名とされていた。信憑性に乏しいということで、こちらもM.ペリファニアの同物異名ではないと考えられる。<ref name="Longrich2010"/>
AMNH 5401と呼ばれる一個体分のほぼ完全な頭骨にはもともとカスモサウルス・カイセニ ''Chasmosaurus kaiseni'' の学名が与えられていた。C. カイセニはモジョケラトプスと同じ特徴をもっていると考えられた為、M. ペリファニアの同物異名とされた。しかしながらAMNH 5401 には縁頭頂骨 (ホーンレット) が保存されておらず、別のカスモサウルスの種のものをもとに人工的に補われていた。このことが過去10年間科学者達の混乱を招き続けていた。縁後頭骨はカスモサウルスのようなケラトプス類の同定において非常に重要な決め手となる部分である。そのためC.カイセニは疑問名であり、M.ペリファニアの同物異名ではないと考えられた。ロングリッチはまた、エオケラトプスの模式標本がモジョケラトプスにあてはまるのではないかとも指摘していた。しかしその標本はあまりにも保存状態が悪く、更に亜成体であると考えられる個体で、以前から疑問名とされていた。信憑性に乏しいということで、こちらもM.ペリファニアの同物異名ではないと考えられる<ref name="Longrich2010" />。
2016年のカスモサウルスのオーバービューでは、C.カイセニとエオケラトプスは双方とも、ホロタイプとしては保存が部分的過ぎるため、種不詳のカスモサウルスであるということで纏まっている。<ref name =Campbelletal2016>Campbell, J.A., Ryan, M.J., Holmes, R.B., and Schröder-Adams, C.J. (2016). [http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0145805 A Re-Evaluation of the chasmosaurine ceratopsid genus ''Chasmosaurus'' (Dinosauria: Ornithischia) from the Upper Cretaceous (Campanian) Dinosaur Park Formation of Western Canada.] ''PLoS ONE'', '''11'''(1): e0145805. {{doi|10.1371/journal.pone.0145805}}</ref>

ホロタイプの原記載やモジョケラトプスとされた他の頭骨標本について、複数の研究者たちは出版物の中で本属の有効性を疑問視している。例えば、2011年、 メイドメントとバーレットはモジョケラトプスについていかなる独自性も見出すことはできず、カスモサウルス・ルッセリの同物異名ではないかと指摘している。キャンベルらは2016年に著したカスモサウルスの種に関する分析の中で、メイドメントらに賛同した上、モジョケラトプスの固有形質とされていた頭頂骨の血管の溝はC.ルッセリのホロタイプや他のカスモサウルスの標本においても散在的にも見受けられると付け加えた。これらの主張はモジョケラトプスが単なるC.ルッセリの成長段階に過ぎないことを示唆している。<ref name =Campbelletal2016/>
2016年のカスモサウルスのオーバービューでは、C.カイセニとエオケラトプスは双方とも、ホロタイプとしては保存が部分的過ぎるため、種不詳のカスモサウルスであるということで纏まっている<ref name="Campbelletal2016">Campbell, J.A., Ryan, M.J., Holmes, R.B., and Schröder-Adams, C.J. (2016). [http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0145805 A Re-Evaluation of the chasmosaurine ceratopsid genus ''Chasmosaurus'' (Dinosauria: Ornithischia) from the Upper Cretaceous (Campanian) Dinosaur Park Formation of Western Canada.] ''PLoS ONE'', '''11'''(1): e0145805. {{doi|10.1371/journal.pone.0145805}}</ref>。

ホロタイプの原記載やモジョケラトプスとされた他の頭骨標本について、複数の研究者たちは出版物の中で本属の有効性を疑問視している。例えば、2011年、 メイドメントとバーレットはモジョケラトプスについていかなる独自性も見出すことはできず、カスモサウルス・ルッセリの同物異名ではないかと指摘している。キャンベルらは2016年に著したカスモサウルスの種に関する分析の中で、メイドメントらに賛同した上、モジョケラトプスの固有形質とされていた頭頂骨の血管の溝はC.ルッセリのホロタイプや他のカスモサウルスの標本においても散在的にも見受けられると付け加えた。これらの主張はモジョケラトプスが単なるC.ルッセリの成長段階に過ぎないことを示唆している<ref name="Campbelletal2016" />。


== エオケラトプス ==
== エオケラトプス ==
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[[file:エオケラトプス UALVP 40.jpg|thumb|エオケラトプス UALVP 40、アルバータ大学収蔵]]
[[file:エオケラトプス UALVP 40.jpg|thumb|エオケラトプス UALVP 40、アルバータ大学収蔵]]


1901年、 [[ローレンス・ラム]]はカナダ・アルバータ州・ベリークリークで恐竜の頭骨を発見し、[[モノクロニウス]]属の新種、M.カナデンシスとして発表した<ref name="Lambe1902">L.M. Lambe, 1902, "New genera and species from the Belly River Series (mid-Cretaceous).", ''Geological Survey of Canada. Contributions to Canadian Palaeontology'' '''3'''(2): 25-81</ref>
1901年、 [[ローレンス・ラム]]はカナダ・アルバータ州・ベリークリークで恐竜の頭骨を発見し、[[モノクロニウス]]属の新種、M.カナデンシスとして発表した<ref name="Lambe1902">L.M. Lambe, 1902, "New genera and species from the Belly River Series (mid-Cretaceous).", ''Geological Survey of Canada. Contributions to Canadian Palaeontology'' '''3'''(2): 25-81</ref>


その [[模式標本]]、 '''NMC 1254''' はカンパニアン中頃のものと思われるベリーリバー層群から発見された。それは部分的な頭骨、下顎、脊椎の前部を含んでおり、[[亜成体]]と思われた。頭部は右の上眼窩角、右眼窩、右側の鱗状骨、フリルの縁の断片、そして左の下顎の後部の要素からなる。この時、ラムは右頸部も発見したと思っていたが、これは後に正しくは鼻骨と特定された。彼は1897年に右下顎を NMC 284 とし、それと別に上眼窩角を NMC 190とした<ref name="Lambe1902"/>
その [[タイプ (分類学)|模式標本]]、 '''NMC 1254''' はカンパニアン中頃のものと思われるベリーリバー層群から発見された。それは部分的な頭骨、下顎、脊椎の前部を含んでおり、[[幼生|亜成体]]と思われた。頭部は右の上眼窩角、右眼窩、右側の鱗状骨、フリルの縁の断片、そして左の下顎の後部の要素からなる。この時、ラムは右頸部も発見したと思っていたが、これは後に正しくは鼻骨と特定された。彼は1897年に右下顎を NMC 284 とし、それと別に上眼窩角を NMC 190とした<ref name="Lambe1902"/>


1905年にスタントンと[[ジョン・ベル・ハッチャー]]は、本種をケラトプス・カナデンシス ''Ceratops canadensis'' として、つまり[[ケラトプス]]属に含まれるとして再記載した<ref>Stanton, T.W. & Hatcher, J.B., 1905, "Geology and paleontology of the Judith River Beds". ''United States Geological Survey Bulletin'' '''257''': 1-174</ref>
1905年にスタントンと[[ジョン・ベル・ハッチャー]]は、本種をケラトプス・カナデンシス ''Ceratops canadensis'' として、つまり[[ケラトプス]]属に含まれるとして再記載した<ref>Stanton, T.W. & Hatcher, J.B., 1905, "Geology and paleontology of the Judith River Beds". ''United States Geological Survey Bulletin'' '''257''': 1-174</ref> これは1907年のハッチャーの死後の出版で確認された。その中で、ハッチャーはさらに上顎と歯を参照し、カスモサウルス・ベリとの同一性を示唆していた<ref name="Hatcher1907">Hatcher, J.B., Marsh, O.C., & Lull, R.S., 1907, ''The Ceratopsia''. ''Monographs of the United States Geological Survey'' 49, pp. 198</ref>。
これは1907年のハッチャーの死後の出版で確認された。その中で、ハッチャーはさらに上顎と歯を参照し、カスモサウルス・ベリのとの同一性を示唆していた。
<ref name="Hatcher1907">Hatcher, J.B., Marsh, O.C., & Lull, R.S., 1907, ''The Ceratopsia''. ''Monographs of the United States Geological Survey'' 49, pp. 198</ref>
[[File:Ceratops canadensis crest.jpg|left|thumb|ハッチャーによる鱗状骨の図 (1907年)]]
[[File:Ceratops canadensis crest.jpg|left|thumb|ハッチャーによる鱗状骨の図 (1907年)]]
1915年、ラムは新属エオケラトプスを設立した。この名は古代ギリシャ語で「暁のケラトプス」を意味するが、本属がケラトプスより更に古い時代に生きていたと考えた故である<ref name="Lambe1915">Lambe, L., 1915, "On ''Eoceratops canadensis'', gen. nov., with remarks on other genera of Cretaceous horned dinosaurs", ''Canada Geological Survey, Museum Bulletin'', '''12''': 1–49</ref> モノクロニウス・カナデンシスに代わってE.カナデンシスがその模式種とされた。
1915年、ラムは新属エオケラトプスを設立した。この名は古代ギリシャ語で「暁のケラトプス」を意味する本属がケラトプスより更に古い時代に生きていたと考えた故である<ref name="Lambe1915">Lambe, L., 1915, "On ''Eoceratops canadensis'', gen. nov., with remarks on other genera of Cretaceous horned dinosaurs", ''Canada Geological Survey, Museum Bulletin'', '''12''': 1–49</ref>モノクロニウス・カナデンシスに代わってE.カナデンシスがその模式種とされた。


後の1915年、複数の標本がエオケラトプスに含められた。 その内の一つが1913年にウィリアム・エドマンド・カトラーによって発掘された化石である。それはカトラーの不慮の死後、[[カルガリー動物園]]に保管されていたが最終的に破壊され失われたものとアメリカの古生物学者たちは推定していた。しかし実はカトラーが[[自然史博物館]]に売却して、それがカスモサウルス BMNH R4948 として収蔵されていたことが2010年に発覚した<ref>D.H. Tanke, 2010, "Lost in plain sight: rediscovery of William E. Cutler's missing ''Eoceratops''", In: M.J. Ryan, B.J. Chinnery-Allgeier, D.A. Eberth (eds.), ''New Perspectives on Horned Dinosaurs: The Royal Tyrrell Museum Ceratopsian Symposium''. Indiana University Press, Bloomington pp 541-550</ref>
後の1915年、複数の標本がエオケラトプスに含められた。その内の一つが1913年にウィリアム・エドマンド・カトラーによって発掘された化石である。それはカトラーの不慮の死後、[[カルガリー動物園]]に保管されていたが最終的に破壊され失われたものとアメリカの古生物学者たちは推定していた。しかし実はカトラーが[[自然史博物館]]に売却して、それがカスモサウルス BMNH R4948 として収蔵されていたことが2010年に発覚した<ref>D.H. Tanke, 2010, "Lost in plain sight: rediscovery of William E. Cutler's missing ''Eoceratops''", In: M.J. Ryan, B.J. Chinnery-Allgeier, D.A. Eberth (eds.), ''New Perspectives on Horned Dinosaurs: The Royal Tyrrell Museum Ceratopsian Symposium''. Indiana University Press, Bloomington pp 541-550</ref>。別の標本 UALVP 40 は、1921年に[[ジョージ・フライヤー・スタンバーグ]]によって発掘され、1923年にエオケラトプスとして[[チャールズ・ホイットニー・ギルモア]]によって記載されたものである<ref>C.W. Gilmore, 1923, "A new species of ''Corythosaurus'' with notes on other Belly River Dinosauria", ''The Canadian Field-Naturalist'' '''37''': 46-52</ref>。1933年、 [[リチャード・スワン・ルル]] はそれがカスモサウルス・カイセニのメスかもしれないと考えた<ref>Lull, R.S., 1933, ''A revision of the Ceratopsia or horned dinosaurs''. Memoirs of the Peabody Museum of Natural History '''3'''(3): 1-175</ref>。
1990年、 トーマス・レーマンはカスモサウルス・カイセニとエオケラトプスを統合し、カスモサウルス属の新種、カスモサウルス・カナデンシスに含めた<ref>T.M. Lehman, 1990, "The ceratopsian subfamily Chasmosaurinae: sexual dimorphism and systematics", In: K. Carpenter and P. J. Currie (eds.), ''Dinosaur Systematics: Perspectives and Approaches'', Cambridge University Press, Cambridge, pp. 211-229</ref>。
別の標本 UALVP 40 は、1921年に[[ジョージ・フライヤー・スタンバーグ]]によって発掘され、1923年にエオケラトプスとして[[チャールズ・ホイットニー・ギルモア]]によって記載されたものである。<ref>C.W. Gilmore, 1923, "A new species of ''Corythosaurus'' with notes on other Belly River Dinosauria", ''The Canadian Field-Naturalist'' '''37''': 46-52</ref>1933年、 [[リチャード・スワン・ルル]] はそれがカスモサウルス・カイセニのメスかもしれないと考えた。<ref>Lull, R.S., 1933, ''A revision of the Ceratopsia or horned dinosaurs''. Memoirs of the Peabody Museum of Natural History '''3'''(3): 1-175</ref>
1990年、 トーマス・ラーマンはカスモサウルス・カイセニとエオケラトプスを合併し、カスモサウルス属の新種、カスモサウルス・カナデンシスに含めた。<ref>T.M. Lehman, 1990, "The ceratopsian subfamily Chasmosaurinae: sexual dimorphism and systematics", In: K. Carpenter and P. J. Currie (eds.), ''Dinosaur Systematics: Perspectives and Approaches'', Cambridge University Press, Cambridge, pp. 211-229</ref>


2010年にニコラス・ロングリッチは、ーマンがC.カナデンシスとした TMP 1983.25.1を新属新種モジョケラトプス・ペリファニアとして記載した。(詳細は前モジョケラトプスを参照)その顛末でエオケラトプスは疑問名となった<ref name="Longrich2010">{{Cite journal|author=Nicholas R. Longrich|year=2010|title=''Mojoceratops perifania'', A New Chasmosaurine Ceratopsid from the Late Campanian of Western Canada|journal=Journal of Paleontology|volume=84|issue=4|pages=681–694|doi=10.1666/09-114.1}}</ref>
2010年にニコラス・ロングリッチは、ーマンがC.カナデンシスとした TMP 1983.25.1を新属新種モジョケラトプス・ペリファニアとして記載した。(詳細は前節[[カスモサウルス#モジョケラトプス|モジョケラトプス]]を参照)その顛末でエオケラトプスは疑問名となった<ref name="Longrich2010">{{Cite journal|author=Nicholas R. Longrich|year=2010|title=''Mojoceratops perifania'', A New Chasmosaurine Ceratopsid from the Late Campanian of Western Canada|journal=Journal of Paleontology|volume=84|issue=4|pages=681–694|doi=10.1666/09-114.1}}</ref>


キャンベルらは、2016年のカスモサウルスの種についての分析でエオケラトプスおよび C. カイセニはどちらもホロタイプとしての独自性に欠くため種不詳のカスモサウルスとした<ref name =Campbelletal2016>Campbell, J.A., Ryan, M.J., Holmes, R.B., and Schröder-Adams, C.J. (2016). [http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0145805 A Re-Evaluation of the chasmosaurine ceratopsid genus ''Chasmosaurus'' (Dinosauria: Ornithischia) from the Upper Cretaceous (Campanian) Dinosaur Park Formation of Western Canada.] ''PLoS ONE'', '''11'''(1): e0145805. {{doi|10.1371/journal.pone.0145805}}</ref>
キャンベルらは、2016年のカスモサウルスの種についての分析でエオケラトプスおよび C. カイセニはどちらもホロタイプとしての独自性に欠くため種不詳のカスモサウルスとした<ref name =Campbelletal2016>Campbell, J.A., Ryan, M.J., Holmes, R.B., and Schröder-Adams, C.J. (2016). [http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0145805 A Re-Evaluation of the chasmosaurine ceratopsid genus ''Chasmosaurus'' (Dinosauria: Ornithischia) from the Upper Cretaceous (Campanian) Dinosaur Park Formation of Western Canada.] ''PLoS ONE'', '''11'''(1): e0145805. {{doi|10.1371/journal.pone.0145805}}</ref>


ホロタイプはかなり小さい個体であることを示している。その鱗状骨は外側の曲線に沿って計測して、長さ57cm、幅38cm。縁後頭骨は6つ<ref name="Hatcher1907"/>
ホロタイプはかなり小さい個体であることを示している。その鱗状骨は外側の曲線に沿って計測して、長さ57cm、幅38cm。縁後頭骨は6つ<ref name="Hatcher1907"/>
亜成体であることは、短く幅の広い鱗状骨、短い鼻面と癒合していない縁鼻骨によって判断することができる<ref name="Longrich2010"/>
亜成体であることは、短く幅の広い鱗状骨、短い鼻面と癒合していない縁鼻骨によって判断することができる<ref name="Longrich2010"/>
鼻角の基底部には、三日月形の構造があり、鼻骨との接触面が見える。これは、1915年にラムが縁鼻骨を形成する別の骨化であることを示唆している。
鼻角の基底部には、三日月形の構造があり、鼻骨との接触面が見える。これは、1915年にラムが縁鼻骨を形成する別の骨化であることを示唆している<ref name="Lambe1915"/>
エオケラトプスの上眼窩角は通常のカスモサウルスと比べかなり長く、216mmある。これは基底部の直径の二倍の長さになる<ref name="Longrich2010"/>。
<ref name="Lambe1915"/>
上眼窩角は後ろに反っている。ラムはこの角の反りは個体が成長段階の途中であったことを示すわけではなく、[[タクソン]]が有効であることを示す独自の特徴であると唱えた<ref name="Lambe1915"/>。
エオケラトプスの上眼窩角は通常のカスモサウルスと比べかなり長く、216mmある。これは基底部の直径の二倍の長さになる。<ref name="Longrich2010"/>
上眼窩角は後ろに反っている。ラムはこの角の反りは個体が成長段階の途中であったことを示すわけではなく、[[タクソン]]が有効であることを示す独自の特徴であと唱えた。<ref name="Lambe1915"/>
しかし今日ではこの角の反りはカスモサウルス亜科において、その個体がであることを示す特徴として理解されている<ref name="Longrich2010"/>
しかし今日ではこの角の反りはカスモサウルス亜科において、その個体が未成熟であることを示す特徴として理解されている。<ref name="Longrich2010"/>


1902年、ラムはモノクロニウス・カナデンシスをケラトプス亜科に分類した<ref name="Lambe1902"/>
1902年、ラムはモノクロニウス・カナデンシスをケラトプス亜科に分類した<ref name="Lambe1902"/>
1915年、ラムはエオケラトプス亜科 Eoceratopsinae を設立し、そこ[[アンキケラトプス]]、[[トリケラトプス]]、そして[[ネドケラトプス]](当時はディケラトプス)も含め、カスモサウルス亜科よりもコンパクトで頑丈なフリルをもつ別のグループと考えられた<ref name="Lambe1915"/> 今日ではそういった形態はエオケラトプスも含め、カスモサウルス亜科に含まれることになっている。
1915年、ラムはエオケラトプス亜科 Eoceratopsinae を設立し、そこ[[アンキケラトプス]]、[[トリケラトプス]]、そして[[ネドケラトプス]](当時はディケラトプス)も含め、カスモサウルス亜科よりもコンパクトで頑丈なフリルをもつ別のグループと考えられた<ref name="Lambe1915"/> 今日ではそういった形態はエオケラトプスも含め、カスモサウルス亜科に含まれることになっている。


==関連項目==
== 系統 ==
カスモサウルスはカスモサウルス亜科のメンバーである。以下の[[クラドグラム]]は2015年のカレブ・ブラウンとドナルド・アンダーソンに基づく<ref name="Brown2015">{{cite journal|last1=Brown|first1=Caleb M.|last2=Henderson|first2=Donald M.|title=A new horned dinosaur reveals convergent evolution in cranial ornamentation in ceratopsidae|journal=[[Current Biology]]|date=June 4, 2015|issue=online|url=http://www.cell.com/current-biology/pdfExtended/S0960-9822(15)00492-3|doi=10.1016/j.cub.2015.04.041|pmid=26051892|volume=25|pages=1641–8}}</ref><ref name=Spiclypeus>{{cite journal |authors=Jordan C. Mallon, Christopher J. Ott, Peter L. Larson, Edward M. Iuliano and David C. Evans |year=2016 |title=''Spiclypeus shipporum'' gen. et sp. nov., a Boldly Audacious New Chasmosaurine Ceratopsid (Dinosauria: Ornithischia) from the Judith River Formation (Upper Cretaceous: Campanian) of Montana, USA |journal=PLoS ONE |volume=11 |issue=5 |pages=e0154218 |doi=10.1371/journal.pone.0154218 |pmid=27191389 |pmc=4871577}}</ref>。
* [[ヴァガケラトプス]]
* [[恐竜の一覧]]
* [[絶滅した動物一覧]]
* [[アグジャケラトプス]]


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== 古生物科学 ==
==脚注==
[[File:Dinosaur park formation fauna.png|thumb|[[ダイナソーパーク層]]の大型植物食動物を描いたもの。左がカスモサウルス・ベリ。]]

カスモサウルスは[[生息地]]である[[ララミディア大陸]]の東海岸を別の角竜類[[セントロサウルス]]と共有していた。[[ニッチ・パーテーション]]が行われていた可能性が示唆されている。

フリルと角の機能には問題がある。 角はかなり短く、フリルには大きな穴があったので、機能的な防御はできなかったと思われる<ref name="Paul2010"/>。フリルは単に威圧的に見せるために使われたか、あるいは[[体温調節]]のために使われたのではないかと考えられる。フリルはまた、体を大きく見せるために、あるいは性的なディスプレイの一部として、鮮やかな色をしていた可能性もある。 しかし、いかなる[[性的二形]]も証明することは困難である。1933年、ルルは長い上眼窩角を持つカスモサウルス・カイセニは実際にはカスモサウルス・ベリの雄であり、そのうちの雌は短い角を有していたと推測した<ref>Sternberg, C.M., 1927, "Horned dinosaur group in the National Museum of Canada", ''Canadian Field-Naturalist'' '''41''': 67–73</ref>。しかし、現在ではこの2種は別種と言われている。

[[File:Chasmosaurus juvenile.jpg|thumb|ベイビーカスモことUALVP 52613]]
[[File:Chasmo-baby.jpg|thumb|UALVP 52613]]
カナダのアルバータ州ダイナソーパーク層下層で発見されたカスモサウルス・ベリの幼体''UALVP 52613''から、カスモサウルスは幼体の世話をしていなかった可能性があることが[[フィリップ・カリー]]らによって示唆された。この標本は関節したほぼ完全な骨格で、全長1.5m。3歳と推定され、四肢のプロポーションは成体のカスモサウルスに似ている。このことは、カスモサウルスは幼体でも動きが速くなかったことを示しており、成体の歩調に追いつくための素早さがなかったことを示している。化石は前肢が欠損している以外は完全なもので、明瞭な眼瞼骨が確認できるほか、強膜輪も保存されていることがわかる。縁鼻骨や縁頬骨、縁後頭骨はまだ形成されておらず、近縁な[[トリケラトプス]]の幼体と似ているが、一方ではっきりした頭頂骨窓を確認できる。この化石は右半身を上にし、頭部と胴体、後肢を露出した状態で発見された。すぐ脇には大きなシンクホールの跡が残っており、肩帯と前肢はそこへ吸い込まれて失われたと考えられる。採集された骨格は左半身を集中的にクリーニングされることになった。骨の下からは皮膚の痕跡も発見され、化石を保存していた堆積物からは幼体が川を渡っている間に溺死した可能性があることが示唆された<ref>{{Cite web|url=http://www.nbcnews. com/sciencemain/rare-baby-dinosaur-skeleton-unearthed-canada-2D11650637|title=Rare baby dinosaur skeleton unearthed in Canada|website=NBC News|language=ja|access-date=2019-08-22}}</ref>。さらに標本を調査したところ、幼体のカスモサウルスは成体よりもフリルが短く狭いことが判明した<ref>{{Cite web|url=https://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160114113643.htm|title=Charting the growth of one of the world's oldest babies: Late Cretaceous Chasmosaurus fills in missing pieces of dinosaur evolution|website=ScienceDaily|language=en|access-date=2019-08-22}}</ref>。

== 脚注 ==
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== 関連項目 ==
{{Commonscat|Chasmosaurus}}
* [[ヴァガケラトプス]]
* [[恐竜の一覧]]
* [[絶滅した動物一覧]]
* [[アグジャケラトプス]]


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2020年5月8日 (金) 13:54時点における版

カスモサウルス
生息年代: 中生代白亜紀後期, 76.5–75.5 Ma
カスモサウルス
Chasmosaurus belli ROM 843の骨格。
ロイヤル・オンタリオ博物館の展示品)
地質時代
約7,650万 ~ 約7,550万年前
(中生代白亜紀後期カンパニアン期)
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 鳥盤目
亜目 : 周飾頭亜目 Marginocephalia
下目 : 角竜下目 Ceratopia Ornithischia
: ケラトプス科 Ceratopidae
亜科 : カスモサウルス亜科 Chasmosaurinae
: カスモサウルス属 Chasmosaurus
学名
Chasmosaurus
Lambe1914
シノニム
  • Ceratops? Marsh, 1888
  • Proceratops? (Marsh, 1888) Lull, 1906
  • Eoceratops? Lambe, 1915
  • Vagaceratops? Holmes et al.,2001
  • Mojoceratops? Longrich, 2010

カスモサウルスChasmosaurus)は、中生代白亜紀後期カンパニアン(約7,650万 - 7,550万年前)に北米大陸に生息していた角竜下目恐竜の一つ。

属名カスモサウルスは、「穴のあいたトカゲ」を意味する。これは、頭部のフリルに(軽量化のためと考えられている)穴があいているからである。しかしこの「穴」は、トリケラトプスを除き、ほとんどの角竜に見られるため、カスモサウルス特有の物ではない。

記載

人間とケラトプス類のいくつかのメンバーのサイズ比較。緑色がカスモサウルス

カスモサウルスは中型のケラトプス類であった。2010年、グレゴリー・ポールは全長4.8メートル、体重2トンと推定している[1]。2種間で知られている違いは、主に角とフリルの形質に関連しているが、ルッセリ種の頭頂骨はあまり知られていない。他の多くのカスモサウルス亜科と同様に、カスモサウルスの顔面にも3本の発達した角があり、鼻骨に1本、後眼窩骨に2本が備わっている。両種とも角は絶対的にかなり短いが、ルッセリ種は比較的長く、特に上眼窩角はより後方に湾曲している。 本属のフリルは夥しく拡張されており、前部よりも後部の方が広い。吻部の水平面以上にはほぼ隆起していない。ベリ種ではフリル後端がV字型で側面が直線的である。ルッセリ種では後縁は浅いU字型をしており、側面はより凸状である[1]。側面は6〜9個の小さな皮骨(縁鱗状骨と呼ばれる)によって装飾されており、鱗状骨に付着している。フリルの角(かど)は頭頂骨上の大きな角状の皮骨を特徴としている。 ルッセリ種では外側のものが最も大きく、ベリ種では内側のものがより大きい。頭頂骨の他の部分に皮骨は存在しない。フリルを形成する頭頂骨には非常に大きな開口部があり、これがこの属名の由来となった。 この頭頂骨はほとんどの近縁種のような楕円形ではなく、三角形をしていて、フリルの両端が尖っている。

カスモサウルス・ベリの復元

カスモサウルス・ベリ (C. belli) の頭頂骨はNHMUK 4948として知られている標本において最もよく保存されている。最初の3つの頸椎は他のネオケラトプシア標本と同様にsyncervicalとして知られている状態に癒合している。この標本には他に5つの頚椎が保存されており、合計8つの頚椎があり、これは完全な頸部を表していると考えられる。第4頸椎~第8頸椎において長さよりも幅が広く、長さはほぼ等しい。 胴椎も同様である。ベリ種はsyncervical を持っており、標本によっては仙椎、胴椎、時に尾椎からなる複合体である。

チャールズ・モートラム・スタンバーグが収集したカスモサウルス標本NMC 2245は皮膚の印象を伴っていた[2]。保存されている領域は、右側の腰から約1×0.5メートルの範囲である [2]。 大きな鱗は直径が最大55mmで、互いに5~10cm離れていた。 鱗は六角形または五角形で、5つまたは6つの辺を持っていた。これらの辺はそれぞれ、やや小さな鱗に接し、ロゼットを形成している。直径約1cmの小さな凸状の鱗が全体を取り囲んでいる。大きな鱗は、その縁に垂直な方向にまっすぐな溝があり、全面的に皺があった[3]。残念ながら、既知の化石の皮膚印象標本からは、カスモサウルスの色についてはまだ何も知ることができない。


発見と種

ジョージ・フライヤー・スタンバーグがカスモサウルス・ベリの頭骨を補完している。

1898年、カナダ地質学調査所のローレンス・ラムは、ベリークリークでカスモサウルスの第一標本となる頭頂骨ホロタイプNMC 491 を発見した[2] 。またラムはこの動物が、より小さいフリルをもつ角竜の属モノクロニウスの新種であると考えた[2]。 彼は新種モノクロニウス・ベリ (Monoclonius belli) として標本を記載した[2]。その種小名は採集家のウォルター・ベルへの献名である[4]

その後の1913年、チャールズ・ヘイゼリアス・スタンバーグとその息子たちがカナダアルバータ州州立恐竜公園でモノクロニウス・ベリのいくつかの完全な頭骨を発見した[5]。これらの発見に基づき、ランベはプロトロサウルス(Protorosaurus「原初のトロサウルス」の意味)を設立した[6]。しかしプロトロサウルスの名はペルム紀の爬虫類に先取されていたので、1914年にカスモサウルスと改名された。カスモサウルスの名は古代ギリシア語で「裂けた」あるいは「開いた」を意味する χάσμα, khasma という単語に由来する物で、非常に大きな頭頂骨窓に因んでいる。ランベは1913年にスタンバーグが発見した、皮膚印象の保存された概して完全な骨格 NMC 2245 をパラタイプとして記載した[7]

ロイヤル・ティレル古生物学博物館のカスモサウルス・ラッセリ

その頃から、頭骨を含む更なる化石が発見されカスモサウルスと同定された。そしていくつかの種がこの属に追加された[2]。今日、それらのうちいくつかはカスモサウルス・ベリの頭骨の形態変異のバリエーションに過ぎないと考えられている[2]。 その他はカスモサウルスの有効種または独自の属であると思われる。1933年、バーナム・ブラウンはAMNH 5401に基づきカスモサウルス・カイセニ (Chasmosaurus kaiseni) を命名、カスモサウルス・ベリから独立させた。種小名はピーター・ケイセン (Peter Kaiden) への献名である[8]。これは1990年にトーマス・レーマンに命名されたカスモサウルス・カナデンシス (Chasmosaurus canadensis) と関連があると思われる[9]。カスモサウルス・カナデンシスはもともと1902年にランベによってモノクロニウス・カナデンシス (Monoclonius canadensis) として記載されていたが、1915年にランベによってエオケラトプス・カナデンシス (Eoceratops canadensis) として再記載された種である。エオケラトプスと角の長いカスモサウルス・カイセニはニコラス・ロングリッチによってモジョケラトプスの典型例であると考えられていた[10]。また、モジョケラトプスはカスモサウルス・ルッセリ (Chasmosaurus russelli) のシノニムであることを発見した研究チームがあるが、キャンベルらも2016年にカスモサウルスの標本を分析し、エオケラトプスとカスモサウルス・カイセニがルッセリ種のシノニムであることを発見した。キャンベルらは2016年に行われたカスモサウルス標本の分析の中で、エオケラトプスとカイセニ種は、双方のホロタイプにおいて頭頂骨が欠いている事により、種不明のカスモサウルス (Chasmosaurus sp.) として参照することが可能であると述べた[11]。1933年、リチャード・スワン・ルルは1926年に採集された異常に口吻が短い標本、ROM 839(旧ROM 5436)をカスモサウルス・ブレヴィロストリス (Chasmosaurus brevirostris) として記載した。種小名は「短い鼻先」を意味する[12]。これはベリ種のジュニアシノニムであると思われる[9]チャールズ・モートラム・スタンバーグは1940年に、アルバータ州南部のダイナソーパーク累層下部で発見された標本NMC 8800に基づいてカスモサウルス・ルッセリ (Chasmosaurus russelli) を追加した。種小名はローリス・シャノ・ラッセル (Loris Shano Russell) への献名である[5][13]。トマス・レーマンは、1989年にテキサス州産のカスモサウルス・マリスカレンシス (Chasmosaurus mariscalensis) を記載した[14]。これは現在アグジャケラトプスと改名されている[15]。最近記載された種は2001年に命名されたカスモサウルス・イルヴィネンシス (Chasmosaurus irvinensis) である[16]。これはダイナソーパーク累層最上部から知られる。本種は2010年に一度ヴァガケラトプスという独自の属を与えられた[17]が、2019年のキャンベルの研究でカスモサウルスに帰還された[18]

カスモサウルス・ブレヴィロストリスのホロタイプ頭骨、ROM 839。トロントロイヤル・オンタリオ博物館に展示されている。

1987年、グレゴリー・ポールペンタケラトプス・ステルンベルギィ (Pentaceratops sternbergii) をカスモサウルス・ステルンベルギ (Chasmosaurus sternbergi) に改名した[19]が、これは合意が得られておらずペンタケラトプス・ステルンベルギのジュニアシノニムと見なされている。2000年、ジョージ・オルシェフスキーはモノクロニウス・レクルヴィコルニス (Monoclonius recurvicornis Cope 1889) を、よりカスモサウルス亜科に近似であるとして、カスモサウルス・レクルヴィコルニス (Chasmosaurus recurvicornis) と改めた[20]。これは疑問名である。

今日、ベリ種とルッセリ種、ただ2つのみの種が有効とされている。これらにはわずかな形態的差異と層序的差異がある。ルッセリはダイナソーパーク累層(カンパニアン期)のより古い(下部の)地層から見つかり、ベリ種はダイナソーパーク累層中部から見つかる[21]。共に7650万〜7550万年前の期間に生息した[5]ホロタイプとパラタイプのほかにもいくつかの標本が知られている。これらの標本にはAMNH 5422、ROM 843(旧ROM 5499)、NHMUK R4948などがあり、いずれも頭骨を含む部分骨格の標本である。ルッセリ種のホロタイプ以外に、パラタイプのCMN 8803(フリル)、CMN 41933(フリル後部)、RTMP 81.19.175(右側頭骨)、CMN 2280(1914年にスタンバーグ家によって発見された頭骨付き部分骨格)が知られている。 YPM 2016の頭骨とAMNH 5402の頭骨と骨格は、キャベルら (2016)によって他のベリ種に言及された標本とは異なり、より多くのホーンレット・パーツを持つことが指摘されたが、著者はそれらを個体変異と解釈しており、キャンベルら(2019)はこれらの標本をヴァガケラトプスに近い不確定のカスモケラトプス種と解釈している[18][22]

モジョケラトプス

モジョケラトプス・ペリファニア Mojoceratops perifaniaロイヤル・ティレル古生物学博物館アメリカ自然史博物館所蔵の複数個体分の部分的な頭骨から2010年、ロングリッチによって記載され、それに基づいて他の5個体分の標本も同種と見なされた。モジョケラトプスとされた全ての個体はカナダのダイナソーパーク累層から産出されたものだった。 属名のモジョはアフリカ系アメリカ人文化のスラングで(ドラッグなどに)「虜になる、溺れる」という意味のモジョ に由来し、種小名は古代ギリシャ語で「目立つプライド」を意味する。どちらも派手なフリルに因んでいる。この種は他の研究者たちがカスモサウルスのものであると考える頭骨に基づいている[10]

AMNH 5401と呼ばれる一個体分のほぼ完全な頭骨にはもともとカスモサウルス・カイセニ Chasmosaurus kaiseni の学名が与えられていた。C. カイセニはモジョケラトプスと同じ特徴をもっていると考えられた為、M. ペリファニアの同物異名とされた。しかしながらAMNH 5401 には縁頭頂骨 (ホーンレット) が保存されておらず、別のカスモサウルスの種のものをもとに人工的に補われていた。このことが過去10年間科学者達の混乱を招き続けていた。縁後頭骨はカスモサウルスのようなケラトプス類の同定において非常に重要な決め手となる部分である。そのためC.カイセニは疑問名であり、M.ペリファニアの同物異名ではないと考えられた。ロングリッチはまた、エオケラトプスの模式標本がモジョケラトプスにあてはまるのではないかとも指摘していた。しかしその標本はあまりにも保存状態が悪く、更に亜成体であると考えられる個体で、以前から疑問名とされていた。信憑性に乏しいということで、こちらもM.ペリファニアの同物異名ではないと考えられる[10]

2016年のカスモサウルスのオーバービューでは、C.カイセニとエオケラトプスは双方とも、ホロタイプとしては保存が部分的過ぎるため、種不詳のカスモサウルスであるということで纏まっている[11]

ホロタイプの原記載やモジョケラトプスとされた他の頭骨標本について、複数の研究者たちは出版物の中で本属の有効性を疑問視している。例えば、2011年、 メイドメントとバーレットはモジョケラトプスについていかなる独自性も見出すことはできず、カスモサウルス・ルッセリの同物異名ではないかと指摘している。キャンベルらは2016年に著したカスモサウルスの種に関する分析の中で、メイドメントらに賛同した上、モジョケラトプスの固有形質とされていた頭頂骨の血管の溝はC.ルッセリのホロタイプや他のカスモサウルスの標本においても散在的にも見受けられると付け加えた。これらの主張はモジョケラトプスが単なるC.ルッセリの成長段階に過ぎないことを示唆している[11]

エオケラトプス

エオケラトプス UALVP 40、アルバータ大学収蔵

1901年、 ローレンス・ラムはカナダ・アルバータ州・ベリークリークで恐竜の頭骨を発見し、モノクロニウス属の新種、M.カナデンシスとして発表した[23]

その 模式標本NMC 1254 はカンパニアン中頃のものと思われるベリーリバー層群から発見された。それは部分的な頭骨、下顎、脊椎の前部を含んでおり、亜成体と思われた。頭部は右の上眼窩角、右眼窩、右側の鱗状骨、フリルの縁の断片、そして左の下顎の後部の要素からなる。この時、ラムは右頸部も発見したと思っていたが、これは後に正しくは鼻骨と特定された。彼は1897年に右下顎を NMC 284 とし、それと別に上眼窩角を NMC 190とした[23]

1905年にスタントンとジョン・ベル・ハッチャーは、本種をケラトプス・カナデンシス Ceratops canadensis として、つまりケラトプス属に含まれるとして再記載した[24]。 これは1907年のハッチャーの死後の出版で確認された。その中で、ハッチャーはさらに上顎と歯を参照し、カスモサウルス・ベリとの同一性を示唆していた[25]

ハッチャーによる鱗状骨の図 (1907年)

1915年、ラムは新属エオケラトプスを設立した。この名は古代ギリシャ語で「暁のケラトプス」を意味する。本属がケラトプスより更に古い時代に生きていたと考えた故である[26]。モノクロニウス・カナデンシスに代わってE.カナデンシスがその模式種とされた。

後の1915年、複数の標本がエオケラトプスに含められた。その内の一つが1913年にウィリアム・エドマンド・カトラーによって発掘された化石である。それはカトラーの不慮の死後、カルガリー動物園に保管されていたが最終的に破壊され失われたものとアメリカの古生物学者たちは推定していた。しかし実はカトラーが自然史博物館に売却して、それがカスモサウルス BMNH R4948 として収蔵されていたことが2010年に発覚した[27]。別の標本 UALVP 40 は、1921年にジョージ・フライヤー・スタンバーグによって発掘され、1923年にエオケラトプスとしてチャールズ・ホイットニー・ギルモアによって記載されたものである[28]。1933年、 リチャード・スワン・ルル はそれがカスモサウルス・カイセニのメスかもしれないと考えた[29]。 1990年、 トーマス・レーマンはカスモサウルス・カイセニとエオケラトプスを統合し、カスモサウルス属の新種、カスモサウルス・カナデンシスに含めた[30]

2010年にニコラス・ロングリッチは、レーマンがC.カナデンシスとした TMP 1983.25.1を新属新種モジョケラトプス・ペリファニアとして記載した。(詳細は前節モジョケラトプスを参照)その顛末でエオケラトプスは疑問名となった[10]

キャンベルらは、2016年のカスモサウルスの種についての分析でエオケラトプスおよび C. カイセニはどちらもホロタイプとしての独自性に欠くため種不詳のカスモサウルスとした[11]

ホロタイプはかなり小さい個体であることを示している。その鱗状骨は外側の曲線に沿って計測して、長さ57cm、幅38cm。縁後頭骨は6つ[25]。 亜成体であることは、短く幅の広い鱗状骨、短い鼻面と癒合していない縁鼻骨によって判断することができる[10]。 鼻角の基底部には、三日月形の構造があり、鼻骨との接触面が見える。これは、1915年にラムが縁鼻骨を形成する別の骨化であることを示唆している[26]。 エオケラトプスの上眼窩角は通常のカスモサウルスと比べかなり長く、216mmある。これは基底部の直径の二倍の長さになる[10]。 上眼窩角は後ろに反っている。ラムはこの角の反りは個体が成長段階の途中であったことを示すわけではなく、タクソンが有効であることを示す独自の特徴であると唱えた[26]。 しかし今日ではこの角の反りはカスモサウルス亜科において、その個体が未成熟であることを示す特徴として理解されている[10]

1902年、ラムはモノクロニウス・カナデンシスをケラトプス亜科に分類した[23]。 1915年、ラムはエオケラトプス亜科 Eoceratopsinae を設立し、そこにアンキケラトプストリケラトプス、そしてネドケラトプス(当時はディケラトプス)も含め、カスモサウルス亜科よりもコンパクトで頑丈なフリルをもつ別のグループと考えられた[26]。 今日ではそういった形態はエオケラトプスも含め、カスモサウルス亜科に含まれることになっている。

系統

カスモサウルスはカスモサウルス亜科のメンバーである。以下のクラドグラムは2015年のカレブ・ブラウンとドナルド・アンダーソンに基づく[31][32]

カスモサウルス亜科

ヴァガケラトプス

コスモケラトプス

カスモサウルス・ベリ

カスモサウルス・ルッセリ

モジョケラトプス

アグジャケラトプス

ユタケラトプス

ペンタケラトプス

ブラヴォケラトプス

コアフイラケラトプス

アンキケラトプス

アリノケラトプス

トリケラトプス族

レガリケラトプス

エオトリケラトプス

オジョケラトプス

ティタノケラトプス

ネドケラトプス

トロサウルス・ラトゥス

トロサウルス・ユタヘンシス

トリケラトプス・ホリドゥス

トリケラトプス・プロルスス

古生物科学

ダイナソーパーク層の大型植物食動物を描いたもの。左がカスモサウルス・ベリ。

カスモサウルスは生息地であるララミディア大陸の東海岸を別の角竜類セントロサウルスと共有していた。ニッチ・パーテーションが行われていた可能性が示唆されている。

フリルと角の機能には問題がある。 角はかなり短く、フリルには大きな穴があったので、機能的な防御はできなかったと思われる[1]。フリルは単に威圧的に見せるために使われたか、あるいは体温調節のために使われたのではないかと考えられる。フリルはまた、体を大きく見せるために、あるいは性的なディスプレイの一部として、鮮やかな色をしていた可能性もある。 しかし、いかなる性的二形も証明することは困難である。1933年、ルルは長い上眼窩角を持つカスモサウルス・カイセニは実際にはカスモサウルス・ベリの雄であり、そのうちの雌は短い角を有していたと推測した[33]。しかし、現在ではこの2種は別種と言われている。

ベイビーカスモことUALVP 52613
UALVP 52613

カナダのアルバータ州ダイナソーパーク層下層で発見されたカスモサウルス・ベリの幼体UALVP 52613から、カスモサウルスは幼体の世話をしていなかった可能性があることがフィリップ・カリーらによって示唆された。この標本は関節したほぼ完全な骨格で、全長1.5m。3歳と推定され、四肢のプロポーションは成体のカスモサウルスに似ている。このことは、カスモサウルスは幼体でも動きが速くなかったことを示しており、成体の歩調に追いつくための素早さがなかったことを示している。化石は前肢が欠損している以外は完全なもので、明瞭な眼瞼骨が確認できるほか、強膜輪も保存されていることがわかる。縁鼻骨や縁頬骨、縁後頭骨はまだ形成されておらず、近縁なトリケラトプスの幼体と似ているが、一方ではっきりした頭頂骨窓を確認できる。この化石は右半身を上にし、頭部と胴体、後肢を露出した状態で発見された。すぐ脇には大きなシンクホールの跡が残っており、肩帯と前肢はそこへ吸い込まれて失われたと考えられる。採集された骨格は左半身を集中的にクリーニングされることになった。骨の下からは皮膚の痕跡も発見され、化石を保存していた堆積物からは幼体が川を渡っている間に溺死した可能性があることが示唆された[34]。さらに標本を調査したところ、幼体のカスモサウルスは成体よりもフリルが短く狭いことが判明した[35]

脚注

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  2. ^ a b c d e f g Dodson, Peter. [|display-authors=etal “Chasmosaurus”]. The Age of Dinosaurs. ISBN=0-7853-0443-6: Publications International. pp. 110-111. |display-authors=etal 
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  5. ^ a b c Arbour, V.M.; Burns, M. E.; Sissons, R. L. (2009). "A redescription of the ankylosaurid dinosaur Dyoplosaurus acutosquameus Parks, 1924 (Ornithischia: Ankylosauria) and a revision of the genus". Journal of Vertebrate Paleontology. 29 (4): 1117–1135. doi:10.1671/039.029.0405
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  7. ^ Lambe, L.M., 1914, "On Gryposaurus notabilis, a new genus and species of trachodont dinosaur from the Belly River Formation of Alberta, with a description of the skull of Chasmosaurus belli", The Ottawa Naturalist 27: 145–155
  8. ^ Brown, B., 1933, "A new longhorned Belly River ceratopsian", American Museum Novitates 669: 1–3
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関連項目