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「エアバスA318」の版間の差分

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| キャプション=[[ロンドン・ヒースロー空港]]に着陸する[[エールフランス]]のA318(旧塗装)
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**[[エールフランス]]
**[[アビアンカ航空]]
**[[アビアンカ航空]]
**[[アビアンカ・ブラジル航空]]
{{Indent|など}}
**[[タロム航空]]
**[[ブリティッシュ・エアウェイズ]]
**[[タイタン エアウェイズ]]
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'''エアバスA318'''('''Airbus A318''')は、ヨーロッパの[[エアバス]]社が開発・販売した単通路([[ナローボディ機|ナローボディ]])の双発[[ジェット旅客機]]である。標準座席数は約100席で、[[エアバスA320|エアバスA320ファミリー]]を構成する最小モデルである。エアバス社が自社開発した旅客機では最も小さいサイズであり、[[ベビーバス]] (Baby Bus) <ref>{{Cite web |title=What it’s like to fly on British Airways BA1 all-business-class flight |date=2018-12-31 |work=Australian Business Traveller |url=https://www.ausbt.com.au/what-it-s-like-to-travel-on-british-airways-ba1-all-business-class-flight |accessdate=2019-06-04 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20190429060114/https://www.ausbt.com.au/what-it-s-like-to-travel-on-british-airways-ba1-all-business-class-flight |archivedate=2019-04-29}}</ref>やミニバス (Minibus){{sfn|Kingsley-Jones|2003}}と呼ばれることもある。
'''エアバスA318'''('''Airbus A318''')は、[[エアバスA320|エアバスA320ファミリー]]の短胴型旅客機で、[[エアバス]]社の機体の中ではもっとも胴体が短い。日本を含むアジアの[[航空会社]]では運航されていない。


低翼配置の片持ち翼の主翼を持ち、尾翼は通常配置、降着装置は前輪配置、左右の主翼下にパイロンを介して1基ずつターボファンエンジンを装備する。全長は31.45メートル、全幅は34.10メートル、全高は12.79メートルである。A320の設計を基本に胴体長が短縮されたことから、ずんぐりとした外観を持つ。飛行システムはA320ファミリーと共通化されており、操縦資格もファミリー機で共通である。
==概要==
エアバス社では100席クラスの旅客機として、[[1997年]][[5月15日]]に、全くの新設計機であるAE31X<ref>“AE”は“エイジアン・エクスプレス”の略。</ref>を[[中国]]や[[シンガポール]]の企業と共同開発することを発表した。A320ファミリーとシステムを共通化し、それより一回り小さい2+3の横5列座席配置となる胴体を持つ機材で<ref>エアバスA220や[[スホーイ・スーパージェット100]]で、この座席配置が取られている。</ref>、95人乗りのAE316と最大125人乗りのAE317が開発される予定であった。しかし、新規開発による経済的リスクの大きさから計画は中止され、代わりに[[1998年]][[9月]]に開催された[[ファーンボロー国際航空ショー]]で発表されたのが、エアバス社単独開発となるこの機材である。[[1999年]][[4月30日]]にローンチされ、[[2002年]][[1月15日]]に初飛行。[[2003年]][[7月22日]]に[[フロンティア航空]]へ初めて引き渡された。


1999年4月に正式な開発が決定し、2002年1月に初飛行、2003年7月にフロンティア航空により商業運航を開始した。2015年に納入された80号機を最後に生産が途絶えている。2018年7月現在、41機のA318が民間航空会社で運航されている。そのほかに、[[ビジネスジェット|プライベートジェット]]仕様である「A318エリート」も開発され納入されている。2019年4月現在において、A318に関して死亡事故や機体損失事故は発生していない。
[[エアバスA319|A319]]の胴体をさらに2.39m(5フレーム)短縮し、短胴化によるモーメント・アームの減少を補うため、[[垂直尾翼]]を79㎝高くして安定させている。エンジンは他のA320ファミリーと同じ[[CFMインターナショナル]]社製[[CFMインターナショナル CFM56|CFM56]]に加え、同ファミリーの他型式では使用されていない[[プラット・アンド・ホイットニー]]社製[[プラット・アンド・ホイットニー PW6000|PW6000]]エンジンから選択できる<ref>A320・A321・A319は、CFM56と[[インターナショナル・エアロ・エンジンズ|IAE]] [[V2500 (エンジン)|V2500]]から選択。</ref>。貨物室は[[コンテナ#航空貨物用コンテナ|LD-3-46/46W]]の[[コンテナ]]使用はやめてバラ積みのみ対応となるが、胴体径がA320と同じためオプションでスライディングカーペット(床面をパネル状にして取り扱いを容易にする方法)を選択可能。


== 沿革 ==
[[エンブラエル]]社の[[エンブラエル E-Jet|Eジェット]]、[[ボンバルディア]]社の[[ボンバルディア CRJ|CRJ]]やCシリーズなどの[[リージョナルジェット]]と競合しているため、苦戦を強いられている。そのため、他のA320ファミリーと違って、新エンジンへの換装を含む[[エアバスA320neo|neo化]]は行われない。なお、エアバス社がボンバルディア社と提携した事に伴い、本機とCシリーズから改称した<ref>{{Cite web | url=http://www.airbusjapan.com/single-jp/detail/a220/| title=エアバス、A220を披露 CシリーズをA220-100とA220-300に改名、エアバスファミリーに| accessdate=2019-5-27|date=2018-7-10|publisher=エアバスジャパン}}</ref>[[エアバスA220]]が、エアバス社の旅客機ラインナップにおいて<!-- 特に100型が -->ほぼ同じポジションとなった。また、同クラスのライバル機である[[ボーイング737#737NG_-600.2F-700.2F-800.2F-900.EF.BC.88.E7.AC.AC3.E4.B8.96.E4.BB.A3.EF.BC.89|ボーイング737-600]]は、2012年に生産・販売を終了した<ref>{{Cite web | url=http://www.aviationwire.jp/archives/7073| title=ボーイング、787を7%値上げ 737-600は販売完了| accessdate=2014-3-30|date=2012-8-8|publisher=Aviation Wire}}</ref>。
=== 開発の背景 ===
世界初の双通路([[ワイドボディ機|ワイドボディ]])双発[[ジェット旅客機]]である[[エアバスA300|A300]]を開発したエアバス・インダストリー(以下、[[エアバス]])は、A300シリーズの販売が軌道に乗ると、単通路([[ナローボディ機|ナローボディ]])市場への進出を図った{{sfn|山崎|2009|pp=90–91}}。


[[File:Airfrance.a320-200.f-glgm.arp.jpg|thumb|完全新規開発でナローボディ機市場に参入したエアバスA320。]]
エアバス社が開発した旅客機では最も小さいサイズであることから、ベビーバス(Baby Bus)という愛称がある<ref>[https://www.ausbt.com.au/what-it-s-like-to-travel-on-british-airways-ba1-all-business-class-flight What it’s like to travel on an all-business-class flight] - Australian Business Traveller May 2, 2018</ref>。
[[ボーイング]]や[[マクドネル・ダグラス]]と違い既存の単通路機を持っていなかったエアバスは、完全な新設計機として[[エアバスA320|A320]]を開発し、当時の最新技術を積極的に取り入れた{{sfn|青木|2003b|pp=54–55}}。大型機も含めたエアバス機全体での操縦資格の共通化を目指し、操縦系統に全面的な[[フライ・バイ・ワイヤ]]技術が採用された{{sfn|青木|2003a|pp=48–49}}。A320は、同規模の旅客機の中で最も太い断面の胴体を持ち、大型の貨物室扉を備えたことで航空貨物コンテナの搭載も可能となった{{sfn|青木|2003b|pp=57–58}}。A320は1988年2月に[[型式証明]]を取得し、翌月に顧客引き渡しが始まった{{sfn|青木|2003b|p=58}}。


続いてエアバスは、長胴型の[[エアバスA321|A321]]と短胴型の[[エアバスA319|A319]]を相次いで開発し、A320ファミリーのラインナップを強化した{{sfn|山崎|2009|pp=93–94}}。A321は1993年12月、A319は1996年4月にそれぞれ型式証明を取得した{{sfn|青木|2018|pp=120–121}}。これにより、A320ファミリーは、標準座席数で124席から185席までをカバーできるようになった{{sfn|山崎|2009|pp=93–94}}。
===派生モデル===
[[2006年]][[3月]]に5.5度の進入角度で着陸させることで騒音の低減ができるスティープ(急角度)進入型が認定され、[[2009年]][[9月1日]]に[[ブリティッシュ・エアウェイズ]]へ初めて引き渡された。他に座席を16席前後にし、[[大西洋]]横断も可能な航続距離を持つA318エリート([[ビジネスジェット]]仕様)が[[2005年]]に発表されている。


=== エイジアン・エクスプレス計画 ===
== 機体仕様 ==
A320ファミリーの拡充が進んでいた1990年代前半、座席数80から120席程度の旅客機を開発する構想が複数持ち上がり、メーカー間で活発な動きがあった{{sfn|Kingsley-Jones|1999|p=150}}。その中で、アジアとヨーロッパの企業による共同開発構想がまとまりつつあった{{sfn|Kingsley-Jones|1999|p=150}}。ヨーロッパ側の意見を取りまとめるため、エアバスとイタリアの[[アレーニア・アエルマッキ|アレーニア]]の合弁によりエアバス・インダストリー・アジア (Airbus Industrie Asia; AIA) が設立された{{sfn|Kingsley-Jones|1999|p=150}}。アジア側は[[中国航空工業集団]] (AVIC) と[[STエンジニアリング|シンガポール・テクノロジーズ]]が参加し、1997年5月15日に100席級旅客機の開発に基本合意した<ref name=FI-1997-05-21>{{Cite web |title=AVIC/Airbus sign AE31X agreement |date=1997-05-21 |work=Flightglobal |url=https://www.flightglobal.com/news/articles/avicairbus-sign-ae31x-agreement-3843/ |accessdate=2019-05-04}}</ref>{{sfn|青木|2003b|p=64}}。
[[File:British Airways (G-EUNA) Airbus A318 at London City Airport.jpg|thumb|[[ブリティッシュ・エアウェイズ]]のA318([[ロンドン・シティ空港]]にて)]]
[[File:Frontier Airlines plane at Denver International Airport.jpg|thumb|[[フロンティア航空]] A318]]
{| class="wikitable" style="text-align:center; font-size:96%;"
|-
|+エアバス A318
|-
!
!A318-100
|-
! 操縦士
| colspan="4" style="text-align:center;"| 2名
|-
! 乗客数
| 132名 (1-クラス, 最大) <br/> 117名 (1-クラス, 通常) <br/>107名 (2-クラス, 通常)
|-
! 貨物積載量
| {{convert|21.21|m3|cuft|abbr=on}}
|-
! 全長
| {{convert|31.44|m|ftin|abbr=on}}
|-
! 翼幅
| {{convert|34.10|m|ftin|abbr=on}}
|-
! 翼面積
| {{convert|122.6|m2|sqft|abbr=on}}
|-
! 後退角
| 25°
|-
! 尾翼高
| {{convert|12.51|m|ftin|abbr=on}}
|-
! 客室幅
| {{convert|3.70|m|ftin|abbr=on}}
|-
! 胴体幅
| {{convert|3.95|m|ftin|abbr=on}}
|-
! 非積載運用重量
| {{convert|39500|kg|lb|abbr=on}}
|-
! 最大燃料比搭載時重量 (MZFW)
| {{convert|54500|kg|lb|abbr=on}}
|-
! [[最大離陸重量]] (MTOW)
| {{convert|68.0|t|lb|abbr=on}}
|-
! 巡航速度
| [[マッハ数|マッハ]] 0.78 (高度11,000&nbsp;m/36,000&nbsp;ftで828&nbsp;km/h/511&nbsp;mph)
|-
! 最大速度
| マッハ 0.82 (高度11,000&nbsp;m/36,000&nbsp;ftで871&nbsp;km/h/537&nbsp;mph)
|-
! 最大積載時最大航続距離
| {{convert|3100|nmi|abbr=on}}
|-
! 最大離陸重量での離陸速度 (海面高度, [[:en:International standard atmosphere|ISA]])
| {{convert|1828|m|ft|abbr=on}}
|-
! 最大燃料積載量
| {{convert|24210|L|abbr=on}}
|-
! 巡航高度
| {{convert|12000|m|abbr=on}}
|-
! エンジン (×2)
| [[プラット・アンド・ホイットニー PW6000|プラット・アンド・ホイットニー PW6000 シリーズ]] または <br/> [[CFMインターナショナル CFM56|CFMインターナショナル CFM56-5 シリーズ]]
|-
! 推力 (×2)
| {{convert|96|-|106|kN|abbr=on}}
|}
出典: エアバス,<ref name="A318 specifications">{{Cite web|url=http://www.airbus.com/aircraftfamilies/passengeraircraft/a320family/a318/specifications/|title=Dimentions&Keydata A318|accessdate=2014-3-30|work=Airbus}}</ref><ref>{{Cite web |url=http://www.airbus.com/support/maintenance-engineering/technical-data/aircraft-characteristics/|title= Airbus Aircraft Characteristics |work=Airbus |date = June 2011|accessdate=7 June 2011}}</ref> ''Airliners.net''<ref>{{Cite web | url=http://www.airliners.net/aircraft-data/stats.main?id=21 | title=The Airbus A318 | accessdate=1 March 2011 | publisher=Airliners.net}}</ref>


計画名はエイジアン・エクスプレスと名付けられ、機体名はAE31Xと呼ばれた{{sfn|青木|2003b|p=64}}{{sfn|Kingsley-Jones|1999|p=150}}。AE31Xは座席数100席のAE316と、その胴体を延長して125席とするAE317の2種類で構成された<ref name=FI-1997-05-21/>{{sfn|青木|2003b|p=64}}。AE31Xの操縦システムや操縦席、そして操縦資格はA320ファミリーと共通化するものの、胴体や主翼、尾翼などは完全に新規設計する計画だった{{sfn|青木|2003b|p=64}}。胴体断面はA320よりも細くし、[[エコノミークラス]]の座席配置は5[[アブレスト]]とされた{{sfn|Lewis|1997|p=40}}。最終組み立ては中国で行うこととし、事業への出資比率は、中国航空工業集団が46%、エアバス・インダストリー・アジアが39%、残りの15%がシンガポール・テクノロジーズと決まった<ref name=FI-1997-05-21/>。
=== エンジン ===

{| class="wikitable sortable" style="text-align: center;"
=== A319の短縮型構想 ===
|-
2003年の就航を目指してAE31X計画の詳細検討が始まったものの、1997年中に数多くの課題が表面化した{{sfn|Kingsley-Jones|1999|pp=150, 153}}。特に、機体を新規設計する以上は機体価格がどうしても高止まりし、事業リスクが高くなることが懸念された{{sfn|青木|2003b|p=64}}。そうこうしている内に、競合機となる[[ボーイング717]]の開発が先行していた{{sfn|Kingsley-Jones|1999|pp=150, 153}}{{r|A319shrink}}。こうした中、エアバスは単独で小型機を開発する研究に秘密裏に着手した{{sfn|Kingsley-Jones|1999|pp=150, 153}}{{r|A319shrink}}。このとき研究された機体は、A319の胴体を5フレーム短縮するというもので、A319M5(マイナス5の意味)と呼ばれた{{sfn|Kingsley-Jones|1999|pp=150, 153}}。結局、AE31X計画は投資に見合う収益の見込みが立たず、まずシンガポール・テクノロジーズが離脱し、中国航空工業集団とエアバスとの交渉も物別れに終わった{{r|FI-1998-1808}}。
! 機種 !! 年 !! エンジン

|-
エアバスはA319M5計画を進めることにし、1998年9月の[[ファーンボロー国際航空ショー]]で機体概要を発表した{{sfn|青木|2003b|p=64}}。この時点でA318のエンジンには、[[プラット・アンド・ホイットニー]] (P&W) 社が新規開発する[[プラット・アンド・ホイットニー PW6000|PW6000]]が選定された{{sfn|Gerzanics|2003|pp=68–69}}。PW6000は、短距離を高頻度で離着陸する航空機に適したエンジンとなるよう、特に保守コストを小さくすることを主要設計目標に置いて開発された{{sfn|Gerzanics|2003|pp=68–69}}。
| A318-111 || 2003 || [[CFMインターナショナル CFM56|CFM56-5B8/P]]

|-
1999年4月26日、エアバスはA319M5案をA318と名付けて正式に開発を決定した{{sfn|Kingsley-Jones|2003|pp=79–80}}。このA318には、[[フロンティア航空]]、[[エールフランス]]、[[エジプト航空]]、[[トランス・ワールド航空]]や航空機リース会社を含めて合計6社から合わせて109機の受注が集まっていた{{sfn|Kingsley-Jones|2003|pp=79–80}}。
| A318-112 || 2003 || [[CFMインターナショナル CFM56|CFM56-5B9/P]]

|-
=== 設計の過程 ===
| A318-121 || 2007 || [[プラット・アンド・ホイットニー PW6000|PW6122A]]
[[File:Avianca Airbus A318 N594EL (6156487074).jpg|thumb|正面から見たA318。胴体断面と主翼は他のA320ファミリー機と共通である。]]
|-
[[File:F-GUGL Air France A318 (9591264581).jpg|thumb|右側面から見たA318]]
| A318-122 || 2007 || [[プラット・アンド・ホイットニー PW6000|PW6124A]]
詳細設計において、胴体の短縮は5フレームから4.5フレームに改められた{{sfn|青木|2010|pp=55–56}}。短縮幅は主翼の前側で1.5フレーム(0.8メートル)、後ろ側で3フレーム(1.59メートル)となった{{sfn|Gerzanics|2003|pp=69–70}}。胴体短縮に伴い、翼胴フェアリング(主翼と胴体の表面を滑らかに繋ぐ覆い)が修正された{{sfn|Gerzanics|2003|pp=69–70}}。
|}

胴体を短縮することで機体重心から[[垂直尾翼]]までの距離が短くなりモーメントアームが減少することから、方向安定性を維持するためのドーサル・フィン(垂直安定板の付け根を前方に三角形に延長すること)の追加が検討された{{sfn|Kingsley-Jones|1999|p=154}}。しかし、ドーサル・フィンでは効果が不十分であることが風洞実験で判明し、結局尾翼の上端部が79センチメートル延長された{{sfn|Kingsley-Jones|1999|p=154}}{{sfn|青木|2010|pp=55–56}}。

胴体短縮にともない床下前方の貨物扉が再設計された{{sfn|青木|2003b|p=65}}。エンジンの空気取り入れ口からの距離を確保するため、扉は小型化され若干前方に移動された{{sfn|青木|2003b|p=65}}。扉が小型化されたことに伴い、他のA320ファミリー機で収容可能な航空貨物コンテナは、A318では非対応とされた{{sfn|Kingsley-Jones|1999|p=154}}{{sfn|Gerzanics|2003|pp=68–69}}。

エンジンはPW6000に加えて、1999年7月に[[CFMインターナショナル]]社の[[CFMインターナショナル CFM56|CFM56]]エンジンも選択できることになった{{sfn|Kingsley-Jones|2003|pp=79–80}}。CFM56エンジンは、既存のA320ファミリーで採用実績があり、A318用に出力を抑えた派生型が用意された{{sfn|Kingsley-Jones|2003|pp=79–80}}。

=== 生産と試験 ===
A318の生産分担についてはエアバス内部で政治的駆け引きがあったものの、最終組み立てはA319やA321と同様に[[ドイツ]]の[[ハンブルク]]で行うことに決まった{{sfn|青木|2018|p=122}}{{sfn|Kingsley-Jones|1999|pp=153–154}}。

2001年8月からA318初号機の最終組立が始まった<ref>{{Cite web |title=Airbus begins final assembly of first A318 in Hamburg, company says |date=2001-08-10 |work=Aerospace Daily |url=https://aviationweek.com/awin/airbus-begins-final-assembly-first-a318-hamburg-company-says |accessdate=2019-07-23}}</ref>。初号機はPW6000エンジン装備機で、A320ファミリーの通算1,599番目の機体となった{{sfn|青木|2010|pp=55–56}}。2002年1月15日、ハンブルクにて成功裏に初飛行を行い、型式証明取得のための試験が始まった{{sfn|青木|2010|pp=55–56}}{{sfn|Gerzanics|2003|pp=68–69}}。同年6月3日には2号機も初飛行を行い、この2機で証明取得に必要な試験飛行を行う計画だった{{sfn|青木|2010|pp=55–56}}{{sfn|Gerzanics|2003|pp=68–69}}。

当初、PW6000は、部品点数を減らし保守コストを抑制するため、高圧圧縮機を5段としたところ、燃費の目標値水準を達成できないことが明らかとなった{{sfn|Gerzanics|2003|pp=68–69}}。そこでやむを得ず、[[MTUエアロ・エンジンズ]]社製の6段の高圧圧縮機に変更することになった{{sfn|Gerzanics|2003|pp=68–69}}。これにより、試験スケジュールに遅延が生じ、CFM56装備型の証明取得を先行して急ぐこととなった{{sfn|Gerzanics|2003|pp=68–69}}{{sfn|Kingsley-Jones|2003|pp=79–80}}。

初号機は、180時間飛行したところでCFM56-5Bにエンジンが換装された{{sfn|Gerzanics|2003|pp=68–69}}。そしてCFM56エンジンでの初飛行は2002年8月29日に行われた{{sfn|青木|2018|p=122}}。重心位置の後方限界が若干小さくなった他は、エンジンの違いが機体の取り扱いに与える悪影響はなかった{{sfn|Gerzanics|2003|pp=68–69}}。認証取得の試験飛行には主に初号機が充てられ、エンジン換装後に490時間の飛行を行った{{sfn|Gerzanics|2003|pp=68–69}}。エンジンの選択肢にCFM56が加わっていたことで、エアバスは救われる形になった{{sfn|Kingsley-Jones|2003|pp=79–80}}。

飛行試験において、降着装置を下ろして[[迎角]]を大きくとると、前脚の格納扉で発生した乱流が胴体に備わる迎角センサに影響することが判明した{{sfn|Gerzanics|2003|pp=69–70}}。そこで、乱流が迎角センサのプローブを支障しないように、[[ストレーキ]]が追加された{{sfn|Gerzanics|2003|pp=69–70}}。

CFM56エンジン仕様機は、2003年5月23日にヨーロッパの合同航空当局 (Joint Aviation Authorities; JAA) から型式証明を取得した{{sfn|Gerzanics|2003|pp=69–70}}{{sfn|青木|2010|pp=55–56}}。続いて6月4日に米国の[[連邦航空局]] (Federal Aviation Administration; FAA) からも同エンジン仕様の型式証明が交付された{{sfn|FAA|2018|p=2}}。

=== 就航開始 ===
[[File:Frontier Airlines Airbus A318-111 N810FR.jpg|thumb|[[フロンティア航空]]のA318を後方から見る。]]
2003年7月22日、A318は[[フロンティア航空]]に初引き渡しされ、同月中に路線就航を開始した<ref>{{Cite web |title=Frontier Takes Delivery of the First Airbus A318 |date=2003-07-22 |work=defense-aerospace.com |url=http://www.defense-aerospace.com/articles-view/release/3/20893/airbus-delivers-a318-to-frontier-air-(july-23).html |accessdate=2019-05-25}}</ref>{{sfn|青木|2018|p=122}}。続いて同年10月9日にはエールフランスにも初引き渡しが行われた<ref name=CFMI>{{Cite press release |title=Air France Takes Delivery Of First CFM-Powered A318 |date=2003-10-09 |publisher=CFM International |url=https://www.cfmaeroengines.com/press-articles/air-france-takes-delivery-of-first-cfm-powered-a318/ |accessdate=2019-05-29}}</ref>。エールフランスは、当時のA320ファミリーの全機種(A318、A319、A320、A321)を運航する最初の航空会社となった{{r|CFMI}}。

一時は129機まで集まったA318の受注数は、2003年の初納入の時点では84機まで減少していた{{sfn|Kingsley-Jones|2003|pp=79–80}}。PW6000エンジンの開発遅延に伴い、同エンジン装備型を発注していた[[中国国際航空]]、[[ブリティッシュ・エアウェイズ]]、そしてエジプト航空はA320へ注文を切り替えた{{sfn|Kingsley-Jones|2003|pp=79–80}}。さらに25機を発注していたトランス・ワールド航空は財務状況の悪化により[[アメリカン航空]]に買収され、同社の発注分はキャンセルとなった{{r|WAC2000}}{{sfn|Kingsley-Jones|2003|pp=79–80}}。

PW6000エンジン装備型の型式証明取得は大幅に遅れ、2005年12月21日に[[欧州航空安全機関]]  (EASA) から型式証明が交付された{{sfn|EASA|2018|pp=129–130}}。米国のFAAの型式証明を取得したのは、2007年5月25日のことだった{{sfn|FAA|2018|p=2}}。PW6000装備型は、2007年6月5日に[[LAN航空]]に対して初引き渡しされ、同月18日に商業運航を開始した{{sfn|青木|2018|p=122}}<ref>{{Cite web |title=Chile’s LAN takes new PW6000 aloft in A318 |date=2007-06-19 |work=Aviation International News |url=https://www.ainonline.com/aviation-news/2007-06-19/chiles-lan-takes-new-pw6000-aloft-a318 |accessdate=2019-05-31 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20190531010717/https://www.ainonline.com/aviation-news/2007-06-19/chiles-lan-takes-new-pw6000-aloft-a318 |archivedate=2019-05-31}}</ref>。

=== その後の展開 ===
1990年代以降、座席数100席未満の[[リージョナルジェット]]が台頭した{{sfn|谷川|2016|loc=位置No.2362–2381}}。リージョナルジェットは急速にラインナップを広げ、2000年代になると100席級の市場にまで進出した{{sfn|谷川|2016|loc=位置No.2362–2381}}。[[エンブラエル]]の[[エンブラエル E-Jet|E195]]や[[ボンバルディア]]の[[ボンバルディア CRJ|CRJ-1000]]、[[エアバスA220|Cシリーズ]]らがA318と競合するようになった{{sfn|山崎|2009|p=94}}{{sfn|谷川|2016|loc=位置No.2408-2417}}。これに対してエアバスは、A320ファミリーの共通性によってパイロットや整備士の教育コストを削減できるとして、ファミリー機とパッケージ化してA318を売り込んだ{{sfn|Kingsley-Jones|1999|p=154}}{{sfn|山崎|2009|p=94}}。

[[File:Airbus A318-121 (cn 1599) F-WWIA at FIDAE.jpg|thumb|[[アルトゥーロ・メリノ・ベニテス国際空港]]で開催されたFIDAE 2006 航空ショーでエアバスのコーポレートカラーのA318]]
[[File:Airbus A318-112(CJ) Elite, Al Jaber Aviation JP7322484.jpg|thumb|A318エリートの内装例。]]
2005年11月にエアバスは、A318の[[ビジネスジェット|プライベートジェット]]仕様となる「A318エリート」の開発を発表した<ref name=FG-Elite>{{Cite web |title=Comlux gets first Airbus A318 Elite |date=2006-12-14 |work=Flightglobal |url=https://www.flightglobal.com/news/articles/comlux-gets-first-airbus-a318-elite-211114/ |accessdate=2019-05-31 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20190531050853/https://www.flightglobal.com/news/articles/comlux-gets-first-airbus-a318-elite-211114/ |archivedate=2019-05-31}}</ref><ref name=Airbus-Elite>{{Cite press release|title=Airbus introduces A318 Elite |date=2005-10-10 |publisher=Airbus |url=https://www.airbus.com/newsroom/press-releases/en/2005/11/airbus-introduces-a318-elite.html |accessdate=2019-05-31}}</ref><ref>{{Cite web|和書|title=最新鋭プライベートジェット「A318エリート」公開-エアバスが羽田空港で |date=2009-12-16 |work=東京ベイ経済新聞 |url=https://tokyobay.keizai.biz/headline/452/ |accessdate=2019-05-31 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20190531082711/https://tokyobay.keizai.biz/headline/452/ |archivedate=2019-05-31}}</ref>。A318エリートは座席数は14席または18席で、[[エアバス コーポレートジェット|エアバス・コーポレート・ジェット]]の最小機種としてラインナップに加えられた{{r|FG-Elite}}。A318エリートの最初の顧客はVIP機の運航会社であるコムラックス・アビエーション社で、2006年12月に初引き渡しが行われた{{r|FG-Elite}}。

さらに、双発機の長距離飛行を可能とする要件である[[ETOPS]]<ref name=yoneya>{{Citation |和書 |last=米谷 |first=豪恭 |title=ETOPSの歴史とエアラインの取り組み |journal=航空技術 |date=2002-12 |issue=573 |pages=23-29 |issn=0023284X |naid=40005429737}}</ref>がA318にも認められ、CFM56仕様は2006年11月、PW6000仕様は2010年11月に、それぞれ180分ETOPSの認証を取得している{{sfn|EASA|2018|pp=129–130}}。

[[File:G-EUNB A318 BAW (4128298815).jpg|thumb|[[ブリティッシュ・エアウェイズ]]のA318([[ロンドン・シティ空港]]にて)]]
エアバスは、小空港への乗り入れを可能にするため、5.5度という急角度で着陸進入が可能となるA318の改良型を開発し、2007年11月23日にEASAから認定を取得した{{sfn|青木|2018|p=122}}。この急角度進入型は、2009年9月1日にブリティッシュ・エアウェイズに初納入された{{sfn|青木|2018|p=122}}{{r|FirstBA}}。ブリティッシュ・エアウェイズは、この急角度進入タイプのA318を全席ビジネスクラスの32席仕様とし、ニューヨークの[[ジョン・F・ケネディ国際空港]]と滑走路が短い[[ロンドン・シティ空港]]を結ぶ大西洋横断路線に投入した{{r|simpleflying-BA1}}{{r|FG-Sharklets}}。

2010年9月には、エアバスはA320ファミリーで採用を決めたシャークレットをA318にもオプションで用意することを発表した{{r|FG-Sharklets}}。シャークレットは[[ウイングレット|翼端装置]]の一種で、燃費を向上させ航続距離を延長する効果がある{{r|FG-Sharklets}}。

このように様々な改良策が講じられたものの、A318の販売は低迷した{{sfn|谷川|2016|loc=位置No.2408-2417}}。2010年代に入るとA318の納入数は年に1、2機程度に低迷し、2015年に80号機を引き渡して以降は生産が途絶えている{{sfn|日本航空機開発協会|2019|pp=II-4, II-8}}{{sfn|青木|2018|p=122}}。他のA320ファミリー機については、新型エンジンを装備したA320neoファミリーが開発されているが、A318についてのみ "neo" の開発が行なわれていない{{sfn|青木|2018|p=122}}。

2008年時点において、100席から150席級の旅客機の需要は今後20年間で6,000機とも予測されていたものの、実際には同クラスの市場はそこまで拡大しなかった<ref name=FG-20180716>{{Cite web |title=OPINION: Airbus and Boeing can revitalise small narrowbody market |date=2018-07-16 |work=Flightglobal |url=https://www.flightglobal.com/news/articles/opinion-airbus-and-boeing-can-revitalise-small-narr-450232/ |accessdate=2019-07-23}}</ref>。さらに、ボンバルディアやエンブラエルがこの市場に進出したことで、A318の販売は打撃を受けた<ref name=nycaviation>{{Cite web |title=Final Airbus A318 Operated By A North American Airline Retired |date=2013-08-21 |work=NYCAviation |url=http://www.nycaviation.com/2013/08/last-airbus-a318-operated-by-a-north-american-airline-retired/30249 |accessdate=2019-07-23}}</ref>{{sfn|谷川|2016|loc=位置No.2418-2476}}。より大きな機体からサイズダウンしたA318は、燃費などの運航経費の面で不利だった{{sfn|谷川|2016|loc=位置No.2418-2476}}。特に完全に新規設計されたCシリーズは、燃費性能が優れているだけでなく、最大級の窓を備えるなど客室の居住性が優れていた<ref name=simpleflying-vs>{{Cite web |title=The Airbus A318 vs A220-100 - What Plane Is Best? |date=2018-05-08 |work=Simple Flying |url=https://simpleflying.com/airbus-a318-vs-a220/ |accessdate=2019-07-23}}</ref><ref name=independent>{{Cite web |title=Airbus and Bombardier tie-up could signal shift in aviation empires |date=2017-10-20 |work=The Independent |url=https://www.independent.co.uk/travel/news-and-advice/boeing-bombardier-airbus-a318-c-series-embraer-comac-sukhoi-a8011636.html |accessdate=2019-07-23}}</ref>。

一方、Cシリーズを開発したボンバルディアも順風満帆というわけではなく、Cシリーズ事業のコスト超過のため資金不足に陥っていた<ref name=wsj>{{Cite web|和書|title=エアバス、ボンバルディアの「Cシリーズ」事業の過半数持ち分取得 - Bloomberg |date=2017-10-17 |work=Bloomberg |url=https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-10-17/OXY4M16JIJUP01 |accessdate=2019-06-05}}</ref>。エアバスとボンバルディアは接近し、2018年7月1日、エアバスはCシリーズ事業会社に出資して同事業会社株式の過半数を取得した{{r|wsj}}<ref name=aviationwire-1>{{Cite web|和書|title=エアバス、Cシリーズ事業会社買収へ アラバマで製造も、ボンバルディアや州政府と合意 |date=2018-06-08 |work=Aviation Wire |url=https://www.aviationwire.jp/archives/149160 |accessdate=2019-06-05}}</ref>。同時にCシリーズは「[[エアバスA220|A220]]」と改称され、エアバスの製品群に加えられた <ref name=aviationwire-2>{{Cite web|和書|last=YOSHIKAWA |first=Tadayuki |title=A220ってどんな機体? 特集・エアバス機になったCシリーズ |date=2018-07-11 |work=Aviation Wire |url=https://www.aviationwire.jp/archives/150985 |accessdate=2019-06-05 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20180715234039/http://www.aviationwire.jp/archives/150985 |archivedate=2018-07-15}}</ref>。これにより、100席から150席前後のエアバス機ラインナップを[[エアバスA220|A220]]シリーズが担うことになった{{r|aviationwire-2}}。

== 機体 ==
=== 形状・構造 ===
[[File:Avianca Airbus A318 N592EL (6156504038).jpg|thumb|前方上側から見たA318。]]
[[File:Airbus A318-111, Airbus Industrie JP337148.jpg|thumb|下面から見たA318。]]
A318は片持ち翼の主翼を[[低翼機|低翼]]に配置した[[単葉機]]である{{sfn|Airbus|2019|loc=§2-2-0}}。機体全長は31.45メートル、全幅は34.10メートル、全高は12.79メートルである{{sfn|EASA|2018|p=137}}。A320ファミリーの設計を基本として胴体長を短縮したA318は、ずんぐりとした印象の外観を持つ{{sfn|Gerzanics|2003|pp=69–70}}。

左右の主翼下にパイロンを介して1発ずつ[[ターボファンエンジン]]を備える{{sfn|Airbus|2019|loc=§2-2-0}}{{sfn|EASA|2018|p=142}}。[[尾翼]]は通常配置で、[[垂直尾翼]]と[[水平尾翼]]はともに胴体尾部に直接取り付けられている{{sfn|Airbus|2019|loc=§2-2-0}}。[[降着装置]]は前輪式配置で機首部に前脚、左右の主翼の付け根に主脚がある{{sfn|Airbus|2019|loc=§2-3-0}}。

A318の主翼はA320と共通の設計である{{sfn|Gerzanics|2003|pp=69–70}}。主翼は[[テーパー]]がついた後退翼で、25パーセント翼弦での後退角は25度、アスペクト比{{refnest|group="注釈"|name="aspect_ratio"|アスペクト比とは翼幅の2乗を面積で割った値で翼の細長比を示す値である<ref name=encyclopedia-314/>。}}は9.4、翼面積は122.6平方メートルである{{sfn|Airbus|2019|loc=§2-2-0}}{{sfn|青木|2003b|p=56}}{{sfn|青木|2018|p=122}}。[[高揚力装置]]として後縁にシングル・スロッテッドフラップ、前縁スラットを備える{{sfn|Kingsley-Jones|1999|p=154}}。スラットは片翼あたり5枚で、ほぼ全幅にわたり配置されている{{sfn|青木|2003b|p=56}}。フラップは内翼と外翼に2分割されており、その外側に[[エルロン|補助翼]]がある{{sfn|青木|2003b|p=56}}。主翼上面には片翼あたり5枚の[[スポイラー (航空機)|スポイラー]]がある{{sfn|青木|2003b|p=56}}。翼端装置として[[抗力|誘導抵抗]]を減らす効果のあるウィングチップフェンスを有する{{sfn|青木|2003b|p=56}}。

胴体断面もA320ファミリー共通の設計であり、幅は3.95メートル、高さが4.14メートルである{{sfn|Airbus|2019|loc=§2-2-0}}{{sfn|Kingsley-Jones|2003|pp=79–80}}。胴体長は全長と同じ31.45メートルで、A319よりも4.5フレーム分短い{{sfn|Airbus|2019|loc=2-2-0}}{{sfn|青木|2003b|p=65}}。A319からの短縮幅は、主翼の前側で1.5フレーム(0.8メートル)、後ろ側で3フレーム(1.59メートル)である{{sfn|Gerzanics|2003|pp=69–70}}。

水平尾翼は水平安定板と[[昇降舵]]、垂直尾翼は垂直安定板と[[方向舵]]で構成される{{sfn|Airbus|2019|loc=§2-2-0}}。胴体短縮にともない機体重心から垂直尾翼までの距離が短くなったことから、方向安定性を維持するために垂直安定板が上端側に79センチメートル延長された{{sfn|青木|2010|pp=55–56}}。

=== 飛行システム ===
[[File:Airbus A318-112(CJ) Elite, Al Jaber Aviation JP7339383.jpg|thumb|A318のコックピット。]]
運航に必要な操縦士は[[機長]]と[[副操縦士]]の2名である{{sfn|EASA|2018|p=144}}。

[[旅客機のコックピット|コックピット]]のレイアウトはA320と共通で、左右の操縦席に各2枚、中央に2枚の計6枚の[[液晶ディスプレイ]]を備える{{sfn|Gerzanics|2003|p=70}}。[[操縦桿]]はなくサイドスティックで操縦を行う{{sfn|Gerzanics|2003|pp=70–72}}{{sfn|青木|2003a|p=52}}。A320からの変更点としては、A320で独立して残っていた3点の予備計器が、A318では液晶ディスプレイに統合された{{sfn|Gerzanics|2003|p=70}}。A318の操縦資格もA320ファミリー共通のものである{{r|FAST}}。同時にエアバスの[[相互乗員資格]] (Cross Crew Qualification; CCQ) の対象でもあることから、CCQ対象となるエアバス機との間であれば、短時間の訓練で他機種の資格を取得することが可能である{{r|FAST}}。

=== 客室・貨物室 ===
[[File:TAROMAirbusA 318 (4).JPG|thumb|[[タロム航空]]のA318の客室内。]]
[[File:Air France Airbus A318-111; F-GUGQ@CDG;10.07.2011 605ho (5939305165).jpg|thumb|空港で駐機中のA318。左前方扉にボーディングブリッジが接続され、貨物室扉にベルトコンベアが配置されている。]]
[[File:A318 PSO.JPG|thumb|タラップが接続された様子。]]客室の全長は21.38メートルである{{sfn|青木|2003b|p=65}}。客室には中央に1本の通路があり、[[エコノミークラス]]の座席配置は通路を挟んで3-3席の6[[アブレスト]]、上級クラスでは2-2席の4アブレストである{{sfn|Airbus|2019|loc=§2-5-0}}。座席の頭上には、手荷物を収容するオーバーヘッド・ストウェッジが備わる{{sfn|Airbus|2019|loc=§2-5-0}}。通常の内装よりも座席幅を詰めて広い通路幅を確保する内装案も用意された{{sfn|Gerzanics|2003|pp=69–70}}。これは、飛行時間が短い高頻度運航路線などを想定し、乗客の乗降時間を短縮することを狙ったものである{{sfn|Gerzanics|2003|pp=69–70}}。客室の扉配置は左右対称で、乗降用ドア・サービスドアが前方と後方に1組ずつあり、主翼上には非常口が1組配置されている{{sfn|Airbus|2019|loc=§2-5-0}}。

床下の貨物室は主翼を挟んで前方と後方に2か所ある{{sfn|Airbus|2019|loc=§2-6-0}}。それぞれの貨物室に対応した貨物扉が左舷にある{{sfn|Airbus|2019|loc=§2-6-0}}。前述の通り、A320ファミリーの他機種と比べて貨物扉は小型化されている{{sfn|青木|2003b|p=65}}。したがって貨物コンテナは搭載できないが、エアバスではA318の導入路線ではコンテナの必要性がなく問題ないとしている{{sfn|青木|2003b|p=65}}。

== 運用 ==
[[File:TAROM Airbus A318-111; YR-ASC@FRA;06.07.2011 603fq (5914614601).jpg|thumb|[[フランクフルト空港]]に着陸する[[タロム航空]]のA318]]
A318は総計80機が生産・納入された{{sfn|日本航空機開発協会|2019|pp=II-4, II-8}}。

2003年の納入開始から運用数は増加を続け、2008年には60機のA318が運航されるようになった{{sfn|日本航空機開発協会|2019|pp=II-15–II-17}}。その後、運用数は頭打ちとなり2010年代に入ると減少傾向にある{{r|WAC|group="注釈"}}{{sfn|日本航空機開発協会|2019|pp=II-15–II-17}}。新造機で最も多くのA318を受領した航空会社は[[エールフランス]]で、18機を導入した{{sfn|青木|2010|p=156}}。

2018年7月の統計によると、6社の民間航空会社で41機のA318が運用されている{{r|WAC2018}}。A318の運用数が最も多いのは[[エールフランス]]でその数は18機、続いて[[アビアンカ航空]]が10機、[[アビアンカ・ブラジル航空]]が7機、[[タロム航空]]が4機、[[ブリティッシュ・エアウェイズ]]と[[タイタン エアウェイズ]]が1機ずつの運用となっている{{r|WAC2018}}。


{| class="wikitable" style="text-align:right; font-size:91%;"
== 運用航空会社 ==
|+ 表: 年ごとの受注・納入数(キャンセル分は当初発注年度から減じている){{sfn|日本航空機開発協会|2019|pp=II-4, II-8}}
[[File:A318.jpg|thumb|[[アルトゥーロ・メリノ・ベニテス国際空港]]で開催されたFIDAE 2006 航空ショーでエアバスのコーポレートカラーのA318]]
[[File:Tarom A318 YR-ASA.jpg|thumb|[[フランクフルト空港]]に着陸する[[タロム航空]]のA318]]
{{See also|[[:en:List of Airbus A320 operators|List of Airbus A320 operators]]}}
私用と官公庁関連は含まず、2014年2月28日現在。:
{| class="wikitable sortable" style="text-align:left"
|-
|-
! 年 !! 合計
!国
! 2015 !! 2014 !! 2013 !! 2012 !! 2011 !! 2010 !! 2009 !! 2008
!航空会社
!A318
|-
|-
! 受注数||'''80'''
|{{flag|France}}
| 1 || 0 || 0 || 2 || 0 || 0 || 1 || 4
|[[エールフランス航空]]
|align="center"|18
|-
|-
! 納入数||'''80'''
|{{flag|Colombia}}
| 1 || 0 || 1 || 2 || 2 || 2 || 6 || 13
|[[アビアンカ航空]]
|align="center"|10
|-
|-
| style="height: 1px;" colspan=14 |
|{{flag|Brazil}}
|[[w:Avianca Brazil|アビアンカ・ブラジル航空]]
|align="center"|10
|-
|-
! !! 2007 !! 2006 !! 2005 !! 2004 !! 2003 !! 2002 !! 2001 !! 2000 !! 1999
|{{flag|United Kingdom}}
|[[ブリティッシュ・エアウェイズ]]
|align="center"|1
|-
|-
! 受注数
|{{flag|Romania}}
| 6 || 8 || 22 || 4 || 0 || 0 || 0 || 17 || 15
|[[タロム航空]]
|align="center"|4
|-
|-
! 納入数
|{{flag|United Kingdom}}
| 17 || 8 || 9 || 10 || 9 || 0 || 0 || 0 || 0
|[[タイタン航空]]
|align="center"|1
|-
| ||align="left"|顧客名非公表
|align="center"|1
|-class="sortbottom"
!合計||7||51
|}
|}


=== 受注と納入 ===
== 事故・事件 ==
2023年10月現在において、A318に関する事故・事件は10件報告されているが、死亡事故や機体損失事故は発生していない<ref name="ASN-A318">{{Cite web |title=Aviation Safety Network > ASN Aviation Safety Database > Aircraft type index > Airbus A318 |work=Aviation Safety Network |url=https://aviation-safety.net/database/types/Airbus-A318/index |accessdate=2023-10-22}}</ref>。
{{See also|[[:en:List of Airbus A320 orders|List of Airbus A320 orders]]}}


== 主要諸元 ==
{| class="wikitable" border="1" style="text-align:right; font-size:96%"
* 運航乗務員数:2名{{sfn|EASA|2018|p=144}}
* 標準座席数:107名{{sfn|青木|2010|p=57}}
* 貨物室容積:21.3&nbsp;[[立方メートル|m{{sup|3}}]]{{sfn|Airbus|2019|loc=§2-1-1}}
* 全長:31.45&nbsp;[[メートル|m]]{{sfn|EASA|2018|p=137}}
* 全幅:34.10&nbsp;m{{sfn|EASA|2018|p=137}}
* 全高:12.79&nbsp;m{{sfn|EASA|2018|p=137}}
* 主翼面積:122.6&nbsp;[[平方メートル|m{{sup|2}}]]{{sfn|青木|2010|p=57}}
* 胴体幅:3.95&nbsp;m{{sfn|EASA|2018|p=137}}
* 最大無燃料重量 (MZFW):53,000 - 54,500&nbsp;[[キログラム|kg]]{{sfn|EASA|2018|p=143}}}
* 最大離陸重量 (MTOW):56,000 - 68,000&nbsp;kg{{sfn|EASA|2018|p=143}}
* 最大着陸重量:56,000 - 57,500&nbsp;kg{{sfn|EASA|2018|p=143}}
* 巡航速度:[[マッハ数|マッハ]]0.82{{sfn|青木|2010|p=57}}
* 航続距離:5,950&nbsp;[[キロメートル|km]]{{sfn|青木|2010|p=57}}
* エンジン (×2):[[CFMインターナショナル CFM56|CFMI CFM56-5]]または[[プラット・アンド・ホイットニー PW6000|P&W PW6000]]{{sfn|EASA|2018|p=142}}
* 推力 (×2):96.08 – 105.87&nbsp;[[ニュートン (単位)|kN]]{{sfn|EASA|2018|p=142}}

=== エンジン ===
{| class="wikitable sortable" style="font-size:91%; text-align:center;"
|+ 型式名と装備エンジンの一覧
<ref>{{Cite web |date=2019-12-20|url=https://www.easa.europa.eu/sites/default/files/dfu/TCDS_EASA%20A%20064_%20Airbus_%20A318_A319_A320_A321_Iss_45.pdf |title=TYPE-CERTIFICATE DATA SHEET No.EASA A.064 for AIRBUS A318-A319-A320-A320 Issue 45 |format=PDF |publisher=EASA |accessdate=2020-03-17}}</ref>
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! 機種 !! エンジン !! 型式証明取得日 !! 180分ETOPS認証日
! !!colspan="2"|受注!!colspan="14"|納入
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| A318-111 || [[CFMインターナショナル CFM56|CFMI CFM56-5B8/P<br>CFMI CFM56-5B8/3]] || 2003年5月23日 || 2006年11月6日
!機種!!合計!!受注残!!合計!!2011!!2010!!2009!!2008!!2007!!2006!!2005!!2004!!2003
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!A318
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|}
<small>''2014年2月末時点でのデータに基づく、2014年3月30日更新''</small><ref name="Airbus_Orders">{{Cite web |url=http://www.airbus.com/fileadmin/backstage/orders_deliveries_table/Airbus_ODs_Feb_2014.xls|title =Airbus orders and deliveries February 2014|work=Airbus|date=2014-2-28|accessdate=2014-3-30|format=Microsoft Excel}}</ref>

<!---
== 機体仕様 ==
(仕様による差異あり)
* 基本座席数:107席前後(2クラス制)
* 全長:31.44m
* 全幅:34.09m
* 全高:12.56m
* 胴体直径:3.96m
* 最大客室幅:3.70m
* 最大離陸重量:59.0t
* 最大燃料容量:23,860l
* 基本空虚重量:38.4t
* エンジン:CFM56-5,PW6000
* エンジン推力:21,600 - 23,800lb
* 最大巡航速度:約[[マッハ]]0.82
* 航続距離:3300km前後(最大6000km)
* 貨物:バルク(バラ積み)21.21m&sup3;
--->


== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist}}
{{Notelist|refs=
{{refnest|group="注釈"|name="WAC"|Flight International/Flightglobalが発行している2004年から2018年までのWorld Airliner Censusによる<ref name=WAC2004/><ref name=WAC2005/><ref name=WAC2006/><ref name=WAC2007/><ref name=WAC2008/><ref name=WAC2009/><ref name=WAC2010/><ref name=WAC2011/><ref name=WAC2012/><ref name=WAC2013/><ref name=WAC2014/><ref name=WAC2015/><ref name=WAC2016/><ref name=WAC2017/><ref name=WAC2018/>。}}
}}

=== 出典 ===
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==関連項目==
==関連項目==
{{Commons category|Airbus A318}}
* [[エアバスA320]]
* [[エアバスA321]]
* [[ボーイングとエアバス]]
* [[ボーイング737]]
* [[旅客機の構造]]
* [[旅客機のコックピット]]
* {{Portal-inline|航空}}


==外部リンク==
==外部リンク==
* [https://www.airbus.com/en/who-we-are/our-history/commercial-aircraft-history/previous-generation-aircraft/a318 A318] [https://aircraft.airbus.com/en エアバス社公式サイト]{{en icon}}
{{Commons category|Airbus A318}}
* [https://www.airbus.com/aircraft/passenger-aircraft/a320-family/a318.html A318紹介ページ] - エアバス(英語)
* [http://www.airbusjapan.com/aircraft-families-jp/passengeraircraftjp/a320family0/a318/ A318] - エアバスジャパン


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[[zh:空中客车A320#A318]]

2024年3月22日 (金) 15:31時点における最新版

エアバスA318
Airbus A318

エアバスA318Airbus A318)は、ヨーロッパのエアバス社が開発・販売した単通路(ナローボディ)の双発ジェット旅客機である。標準座席数は約100席で、エアバスA320ファミリーを構成する最小モデルである。エアバス社が自社開発した旅客機では最も小さいサイズであり、ベビーバス (Baby Bus) [2]やミニバス (Minibus)[3]と呼ばれることもある。

低翼配置の片持ち翼の主翼を持ち、尾翼は通常配置、降着装置は前輪配置、左右の主翼下にパイロンを介して1基ずつターボファンエンジンを装備する。全長は31.45メートル、全幅は34.10メートル、全高は12.79メートルである。A320の設計を基本に胴体長が短縮されたことから、ずんぐりとした外観を持つ。飛行システムはA320ファミリーと共通化されており、操縦資格もファミリー機で共通である。

1999年4月に正式な開発が決定し、2002年1月に初飛行、2003年7月にフロンティア航空により商業運航を開始した。2015年に納入された80号機を最後に生産が途絶えている。2018年7月現在、41機のA318が民間航空会社で運航されている。そのほかに、プライベートジェット仕様である「A318エリート」も開発され納入されている。2019年4月現在において、A318に関して死亡事故や機体損失事故は発生していない。

沿革

[編集]

開発の背景

[編集]

世界初の双通路(ワイドボディ)双発ジェット旅客機であるA300を開発したエアバス・インダストリー(以下、エアバス)は、A300シリーズの販売が軌道に乗ると、単通路(ナローボディ)市場への進出を図った[4]

完全新規開発でナローボディ機市場に参入したエアバスA320。

ボーイングマクドネル・ダグラスと違い既存の単通路機を持っていなかったエアバスは、完全な新設計機としてA320を開発し、当時の最新技術を積極的に取り入れた[5]。大型機も含めたエアバス機全体での操縦資格の共通化を目指し、操縦系統に全面的なフライ・バイ・ワイヤ技術が採用された[6]。A320は、同規模の旅客機の中で最も太い断面の胴体を持ち、大型の貨物室扉を備えたことで航空貨物コンテナの搭載も可能となった[7]。A320は1988年2月に型式証明を取得し、翌月に顧客引き渡しが始まった[8]

続いてエアバスは、長胴型のA321と短胴型のA319を相次いで開発し、A320ファミリーのラインナップを強化した[9]。A321は1993年12月、A319は1996年4月にそれぞれ型式証明を取得した[10]。これにより、A320ファミリーは、標準座席数で124席から185席までをカバーできるようになった[9]

エイジアン・エクスプレス計画

[編集]

A320ファミリーの拡充が進んでいた1990年代前半、座席数80から120席程度の旅客機を開発する構想が複数持ち上がり、メーカー間で活発な動きがあった[11]。その中で、アジアとヨーロッパの企業による共同開発構想がまとまりつつあった[11]。ヨーロッパ側の意見を取りまとめるため、エアバスとイタリアのアレーニアの合弁によりエアバス・インダストリー・アジア (Airbus Industrie Asia; AIA) が設立された[11]。アジア側は中国航空工業集団 (AVIC) とシンガポール・テクノロジーズが参加し、1997年5月15日に100席級旅客機の開発に基本合意した[12][13]

計画名はエイジアン・エクスプレスと名付けられ、機体名はAE31Xと呼ばれた[13][11]。AE31Xは座席数100席のAE316と、その胴体を延長して125席とするAE317の2種類で構成された[12][13]。AE31Xの操縦システムや操縦席、そして操縦資格はA320ファミリーと共通化するものの、胴体や主翼、尾翼などは完全に新規設計する計画だった[13]。胴体断面はA320よりも細くし、エコノミークラスの座席配置は5アブレストとされた[14]。最終組み立ては中国で行うこととし、事業への出資比率は、中国航空工業集団が46%、エアバス・インダストリー・アジアが39%、残りの15%がシンガポール・テクノロジーズと決まった[12]

A319の短縮型構想

[編集]

2003年の就航を目指してAE31X計画の詳細検討が始まったものの、1997年中に数多くの課題が表面化した[15]。特に、機体を新規設計する以上は機体価格がどうしても高止まりし、事業リスクが高くなることが懸念された[13]。そうこうしている内に、競合機となるボーイング717の開発が先行していた[15][16]。こうした中、エアバスは単独で小型機を開発する研究に秘密裏に着手した[15][16]。このとき研究された機体は、A319の胴体を5フレーム短縮するというもので、A319M5(マイナス5の意味)と呼ばれた[15]。結局、AE31X計画は投資に見合う収益の見込みが立たず、まずシンガポール・テクノロジーズが離脱し、中国航空工業集団とエアバスとの交渉も物別れに終わった[17]

エアバスはA319M5計画を進めることにし、1998年9月のファーンボロー国際航空ショーで機体概要を発表した[13]。この時点でA318のエンジンには、プラット・アンド・ホイットニー (P&W) 社が新規開発するPW6000が選定された[18]。PW6000は、短距離を高頻度で離着陸する航空機に適したエンジンとなるよう、特に保守コストを小さくすることを主要設計目標に置いて開発された[18]

1999年4月26日、エアバスはA319M5案をA318と名付けて正式に開発を決定した[19]。このA318には、フロンティア航空エールフランスエジプト航空トランス・ワールド航空や航空機リース会社を含めて合計6社から合わせて109機の受注が集まっていた[19]

設計の過程

[編集]
正面から見たA318。胴体断面と主翼は他のA320ファミリー機と共通である。
右側面から見たA318

詳細設計において、胴体の短縮は5フレームから4.5フレームに改められた[20]。短縮幅は主翼の前側で1.5フレーム(0.8メートル)、後ろ側で3フレーム(1.59メートル)となった[21]。胴体短縮に伴い、翼胴フェアリング(主翼と胴体の表面を滑らかに繋ぐ覆い)が修正された[21]

胴体を短縮することで機体重心から垂直尾翼までの距離が短くなりモーメントアームが減少することから、方向安定性を維持するためのドーサル・フィン(垂直安定板の付け根を前方に三角形に延長すること)の追加が検討された[22]。しかし、ドーサル・フィンでは効果が不十分であることが風洞実験で判明し、結局尾翼の上端部が79センチメートル延長された[22][20]

胴体短縮にともない床下前方の貨物扉が再設計された[23]。エンジンの空気取り入れ口からの距離を確保するため、扉は小型化され若干前方に移動された[23]。扉が小型化されたことに伴い、他のA320ファミリー機で収容可能な航空貨物コンテナは、A318では非対応とされた[22][18]

エンジンはPW6000に加えて、1999年7月にCFMインターナショナル社のCFM56エンジンも選択できることになった[19]。CFM56エンジンは、既存のA320ファミリーで採用実績があり、A318用に出力を抑えた派生型が用意された[19]

生産と試験

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A318の生産分担についてはエアバス内部で政治的駆け引きがあったものの、最終組み立てはA319やA321と同様にドイツハンブルクで行うことに決まった[24][25]

2001年8月からA318初号機の最終組立が始まった[26]。初号機はPW6000エンジン装備機で、A320ファミリーの通算1,599番目の機体となった[20]。2002年1月15日、ハンブルクにて成功裏に初飛行を行い、型式証明取得のための試験が始まった[20][18]。同年6月3日には2号機も初飛行を行い、この2機で証明取得に必要な試験飛行を行う計画だった[20][18]

当初、PW6000は、部品点数を減らし保守コストを抑制するため、高圧圧縮機を5段としたところ、燃費の目標値水準を達成できないことが明らかとなった[18]。そこでやむを得ず、MTUエアロ・エンジンズ社製の6段の高圧圧縮機に変更することになった[18]。これにより、試験スケジュールに遅延が生じ、CFM56装備型の証明取得を先行して急ぐこととなった[18][19]

初号機は、180時間飛行したところでCFM56-5Bにエンジンが換装された[18]。そしてCFM56エンジンでの初飛行は2002年8月29日に行われた[24]。重心位置の後方限界が若干小さくなった他は、エンジンの違いが機体の取り扱いに与える悪影響はなかった[18]。認証取得の試験飛行には主に初号機が充てられ、エンジン換装後に490時間の飛行を行った[18]。エンジンの選択肢にCFM56が加わっていたことで、エアバスは救われる形になった[19]

飛行試験において、降着装置を下ろして迎角を大きくとると、前脚の格納扉で発生した乱流が胴体に備わる迎角センサに影響することが判明した[21]。そこで、乱流が迎角センサのプローブを支障しないように、ストレーキが追加された[21]

CFM56エンジン仕様機は、2003年5月23日にヨーロッパの合同航空当局 (Joint Aviation Authorities; JAA) から型式証明を取得した[21][20]。続いて6月4日に米国の連邦航空局 (Federal Aviation Administration; FAA) からも同エンジン仕様の型式証明が交付された[27]

就航開始

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フロンティア航空のA318を後方から見る。

2003年7月22日、A318はフロンティア航空に初引き渡しされ、同月中に路線就航を開始した[28][24]。続いて同年10月9日にはエールフランスにも初引き渡しが行われた[29]。エールフランスは、当時のA320ファミリーの全機種(A318、A319、A320、A321)を運航する最初の航空会社となった[29]

一時は129機まで集まったA318の受注数は、2003年の初納入の時点では84機まで減少していた[19]。PW6000エンジンの開発遅延に伴い、同エンジン装備型を発注していた中国国際航空ブリティッシュ・エアウェイズ、そしてエジプト航空はA320へ注文を切り替えた[19]。さらに25機を発注していたトランス・ワールド航空は財務状況の悪化によりアメリカン航空に買収され、同社の発注分はキャンセルとなった[30][19]

PW6000エンジン装備型の型式証明取得は大幅に遅れ、2005年12月21日に欧州航空安全機関  (EASA) から型式証明が交付された[31]。米国のFAAの型式証明を取得したのは、2007年5月25日のことだった[27]。PW6000装備型は、2007年6月5日にLAN航空に対して初引き渡しされ、同月18日に商業運航を開始した[24][32]

その後の展開

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1990年代以降、座席数100席未満のリージョナルジェットが台頭した[33]。リージョナルジェットは急速にラインナップを広げ、2000年代になると100席級の市場にまで進出した[33]エンブラエルE195ボンバルディアCRJ-1000CシリーズらがA318と競合するようになった[34][35]。これに対してエアバスは、A320ファミリーの共通性によってパイロットや整備士の教育コストを削減できるとして、ファミリー機とパッケージ化してA318を売り込んだ[22][34]

アルトゥーロ・メリノ・ベニテス国際空港で開催されたFIDAE 2006 航空ショーでエアバスのコーポレートカラーのA318
A318エリートの内装例。

2005年11月にエアバスは、A318のプライベートジェット仕様となる「A318エリート」の開発を発表した[36][37][38]。A318エリートは座席数は14席または18席で、エアバス・コーポレート・ジェットの最小機種としてラインナップに加えられた[36]。A318エリートの最初の顧客はVIP機の運航会社であるコムラックス・アビエーション社で、2006年12月に初引き渡しが行われた[36]

さらに、双発機の長距離飛行を可能とする要件であるETOPS[39]がA318にも認められ、CFM56仕様は2006年11月、PW6000仕様は2010年11月に、それぞれ180分ETOPSの認証を取得している[31]

ブリティッシュ・エアウェイズのA318(ロンドン・シティ空港にて)

エアバスは、小空港への乗り入れを可能にするため、5.5度という急角度で着陸進入が可能となるA318の改良型を開発し、2007年11月23日にEASAから認定を取得した[24]。この急角度進入型は、2009年9月1日にブリティッシュ・エアウェイズに初納入された[24][40]。ブリティッシュ・エアウェイズは、この急角度進入タイプのA318を全席ビジネスクラスの32席仕様とし、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港と滑走路が短いロンドン・シティ空港を結ぶ大西洋横断路線に投入した[41][42]

2010年9月には、エアバスはA320ファミリーで採用を決めたシャークレットをA318にもオプションで用意することを発表した[42]。シャークレットは翼端装置の一種で、燃費を向上させ航続距離を延長する効果がある[42]

このように様々な改良策が講じられたものの、A318の販売は低迷した[35]。2010年代に入るとA318の納入数は年に1、2機程度に低迷し、2015年に80号機を引き渡して以降は生産が途絶えている[43][24]。他のA320ファミリー機については、新型エンジンを装備したA320neoファミリーが開発されているが、A318についてのみ "neo" の開発が行なわれていない[24]

2008年時点において、100席から150席級の旅客機の需要は今後20年間で6,000機とも予測されていたものの、実際には同クラスの市場はそこまで拡大しなかった[44]。さらに、ボンバルディアやエンブラエルがこの市場に進出したことで、A318の販売は打撃を受けた[45][46]。より大きな機体からサイズダウンしたA318は、燃費などの運航経費の面で不利だった[46]。特に完全に新規設計されたCシリーズは、燃費性能が優れているだけでなく、最大級の窓を備えるなど客室の居住性が優れていた[47][48]

一方、Cシリーズを開発したボンバルディアも順風満帆というわけではなく、Cシリーズ事業のコスト超過のため資金不足に陥っていた[49]。エアバスとボンバルディアは接近し、2018年7月1日、エアバスはCシリーズ事業会社に出資して同事業会社株式の過半数を取得した[49][50]。同時にCシリーズは「A220」と改称され、エアバスの製品群に加えられた [51]。これにより、100席から150席前後のエアバス機ラインナップをA220シリーズが担うことになった[51]

機体

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形状・構造

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前方上側から見たA318。
下面から見たA318。

A318は片持ち翼の主翼を低翼に配置した単葉機である[52]。機体全長は31.45メートル、全幅は34.10メートル、全高は12.79メートルである[53]。A320ファミリーの設計を基本として胴体長を短縮したA318は、ずんぐりとした印象の外観を持つ[21]

左右の主翼下にパイロンを介して1発ずつターボファンエンジンを備える[52][54]尾翼は通常配置で、垂直尾翼水平尾翼はともに胴体尾部に直接取り付けられている[52]降着装置は前輪式配置で機首部に前脚、左右の主翼の付け根に主脚がある[55]

A318の主翼はA320と共通の設計である[21]。主翼はテーパーがついた後退翼で、25パーセント翼弦での後退角は25度、アスペクト比[注釈 1]は9.4、翼面積は122.6平方メートルである[52][57][24]高揚力装置として後縁にシングル・スロッテッドフラップ、前縁スラットを備える[22]。スラットは片翼あたり5枚で、ほぼ全幅にわたり配置されている[57]。フラップは内翼と外翼に2分割されており、その外側に補助翼がある[57]。主翼上面には片翼あたり5枚のスポイラーがある[57]。翼端装置として誘導抵抗を減らす効果のあるウィングチップフェンスを有する[57]

胴体断面もA320ファミリー共通の設計であり、幅は3.95メートル、高さが4.14メートルである[52][19]。胴体長は全長と同じ31.45メートルで、A319よりも4.5フレーム分短い[58][23]。A319からの短縮幅は、主翼の前側で1.5フレーム(0.8メートル)、後ろ側で3フレーム(1.59メートル)である[21]

水平尾翼は水平安定板と昇降舵、垂直尾翼は垂直安定板と方向舵で構成される[52]。胴体短縮にともない機体重心から垂直尾翼までの距離が短くなったことから、方向安定性を維持するために垂直安定板が上端側に79センチメートル延長された[20]

飛行システム

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A318のコックピット。

運航に必要な操縦士は機長副操縦士の2名である[59]

コックピットのレイアウトはA320と共通で、左右の操縦席に各2枚、中央に2枚の計6枚の液晶ディスプレイを備える[60]操縦桿はなくサイドスティックで操縦を行う[61][62]。A320からの変更点としては、A320で独立して残っていた3点の予備計器が、A318では液晶ディスプレイに統合された[60]。A318の操縦資格もA320ファミリー共通のものである[63]。同時にエアバスの相互乗員資格 (Cross Crew Qualification; CCQ) の対象でもあることから、CCQ対象となるエアバス機との間であれば、短時間の訓練で他機種の資格を取得することが可能である[63]

客室・貨物室

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タロム航空のA318の客室内。
空港で駐機中のA318。左前方扉にボーディングブリッジが接続され、貨物室扉にベルトコンベアが配置されている。
タラップが接続された様子。

客室の全長は21.38メートルである[23]。客室には中央に1本の通路があり、エコノミークラスの座席配置は通路を挟んで3-3席の6アブレスト、上級クラスでは2-2席の4アブレストである[64]。座席の頭上には、手荷物を収容するオーバーヘッド・ストウェッジが備わる[64]。通常の内装よりも座席幅を詰めて広い通路幅を確保する内装案も用意された[21]。これは、飛行時間が短い高頻度運航路線などを想定し、乗客の乗降時間を短縮することを狙ったものである[21]。客室の扉配置は左右対称で、乗降用ドア・サービスドアが前方と後方に1組ずつあり、主翼上には非常口が1組配置されている[64]

床下の貨物室は主翼を挟んで前方と後方に2か所ある[65]。それぞれの貨物室に対応した貨物扉が左舷にある[65]。前述の通り、A320ファミリーの他機種と比べて貨物扉は小型化されている[23]。したがって貨物コンテナは搭載できないが、エアバスではA318の導入路線ではコンテナの必要性がなく問題ないとしている[23]

運用

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フランクフルト空港に着陸するタロム航空のA318

A318は総計80機が生産・納入された[43]

2003年の納入開始から運用数は増加を続け、2008年には60機のA318が運航されるようになった[66]。その後、運用数は頭打ちとなり2010年代に入ると減少傾向にある[注釈 2][66]。新造機で最も多くのA318を受領した航空会社はエールフランスで、18機を導入した[67]

2018年7月の統計によると、6社の民間航空会社で41機のA318が運用されている[1]。A318の運用数が最も多いのはエールフランスでその数は18機、続いてアビアンカ航空が10機、アビアンカ・ブラジル航空が7機、タロム航空が4機、ブリティッシュ・エアウェイズタイタン エアウェイズが1機ずつの運用となっている[1]

表: 年ごとの受注・納入数(キャンセル分は当初発注年度から減じている)[43]
合計 2015 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008
受注数 80 1 0 0 2 0 0 1 4
納入数 80 1 0 1 2 2 2 6 13
2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999
受注数 6 8 22 4 0 0 0 17 15
納入数 17 8 9 10 9 0 0 0 0

事故・事件

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2023年10月現在において、A318に関する事故・事件は10件報告されているが、死亡事故や機体損失事故は発生していない[68]

主要諸元

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  • 運航乗務員数:2名[59]
  • 標準座席数:107名[69]
  • 貨物室容積:21.3 m3[70]
  • 全長:31.45 m[53]
  • 全幅:34.10 m[53]
  • 全高:12.79 m[53]
  • 主翼面積:122.6 m2[69]
  • 胴体幅:3.95 m[53]
  • 最大無燃料重量 (MZFW):53,000 - 54,500 kg[71]}
  • 最大離陸重量 (MTOW):56,000 - 68,000 kg[71]
  • 最大着陸重量:56,000 - 57,500 kg[71]
  • 巡航速度:マッハ0.82[69]
  • 航続距離:5,950 km[69]
  • エンジン (×2):CFMI CFM56-5またはP&W PW6000[54]
  • 推力 (×2):96.08 – 105.87 kN[54]

エンジン

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型式名と装備エンジンの一覧 [72]
機種 エンジン 型式証明取得日 180分ETOPS認証日
A318-111 CFMI CFM56-5B8/P
CFMI CFM56-5B8/3
2003年5月23日 2006年11月6日
A318-112 CFMI CFM56-5B9/P
CFMI CFM56-5B9/3
2003年5月23日 2006年11月6日
A318-121 P&W PW6122A 2005年12月21日 2010年11月16日
A318-122 P&W PW6124A 2005年12月21日 2010年11月16日

脚注

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注釈

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  1. ^ アスペクト比とは翼幅の2乗を面積で割った値で翼の細長比を示す値である[56]
  2. ^ Flight International/Flightglobalが発行している2004年から2018年までのWorld Airliner Censusによる[73][74][75][76][77][78][79][80][81][82][83][84][85][86][1]

出典

[編集]
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参考文献

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関連項目

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外部リンク

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