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{{thumbnail:ノーベル賞受賞者|1923年|ノーベル文学賞|芸術性が高く精妙な詩歌によって国民全体の精神を表現した貢献に対し}} |
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'''ウィリアム・バトラー・イェイツ'''('''[[:en:William Butler Yeats|William Butler Yeats]]''', [[1865年]][[6月13日]] - [[1939年]][[1月28日]])は、[[アイルランド]]の[[詩人]]・[[劇作家]]。幼少のころから親しんだアイルランドの妖精譚などを題材とする抒情詩で注目されたのち、民族演劇運動を通じてアイルランド文芸復興の担い手となった<ref name=":1">"Yeats, William Butler (1865 - 1939)." ''The Cambridge Guide to Literature in English'', edited by Ian Ousby, Cambridge University Press, 2nd edition, 2000. </ref>。モダニズム詩の世界に新境地を切りひらき、20世紀の英語文学において最も重要な詩人の一人とも評される<ref name=":0">高松雄一「イェイツ W.B.」(『集英社世界文学大事典』集英社、1998);高松雄一「イェーツ」(『日本大百科全書』小学館、2001);高橋 康也「イェーツ」(『改訂新版 世界大百科事典』平凡社、2014);田代 慶一郎「イェイツ」(『新版 能・狂言事典』平凡社、2011)</ref>。 |
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{{Portal|文学}} |
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{{Wikisource author|William Butler Yeats|ウィリアム・バトラー・イェイツ}} |
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{{Commons&cat|William Butler Yeats|William Butler Yeats}} |
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'''ウィリアム・バトラー・イェイツ'''('''[[:en:William Butler Yeats|William Butler Yeats]]''', [[1865年]][[6月13日]] - [[1939年]][[1月28日]])は、[[アイルランド]]の[[詩人]]、[[劇作家]]。[[イギリス]]の[[神秘主義]][[秘密結社]][[黄金の夜明け団]]のメンバーでもある。[[ダブリン]]郊外、[[サンディマウント]]出身。作風は幅広く、[[ロマン主義]]、[[神秘主義]]、[[モダニズム]]を吸収し、アイルランドの文芸復興を促した。日本の[[能]]の影響を受けた戯曲『[[鷹の井戸]]』も執筆している。 |
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1923年に[[ノーベル文学賞]]を受賞。1922年から6年間、アイルランド上院議員もつとめた<ref>"Yeats, William Butler." ''Encyclopedia of Nobel Laureates 1901-2017'', edited by P.T. Rajasekharan, and Arun Tiwari, Panther Publishers, 2nd edition, 2018.</ref>。日本では[[能]]の影響を受けて執筆した戯曲『[[鷹の井戸]]』や、初期の抒情詩「イニスフリー湖の島」などがとくに知られる<ref name=":0" />。 |
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[[1976年]]から発行されていた[[アイルランド]]の20[[アイルランド・ポンド|ポンド]]紙幣に肖像が使用されていた。 |
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== 来歴 == |
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* [[1865年]] 画家J・イェイツ([[w:John Butler Yeats|John Butler Yeats]])のもとに生まれる。15歳までは[[ロンドン]]で過ごす。 |
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* [[1880年]] ダブリンに帰郷。父の影響で絵の勉強をしたが、むしろ文学の方面で実力を発揮した。 |
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* [[1889年]] 「アシーンの放浪」出版。ケルトの古伝説に興味を持ち始める。 |
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* [[1892年]] アイルランド文芸協会設立。 |
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* [[1899年]] アイルランド国民劇場協会設立。 |
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* [[1923年]] [[ノーベル文学賞]]受賞。 |
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=== 幼年期から第一詩集まで === |
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== 作品 == |
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イェイツは1865年6月13日、アイルランドの[[ダブリン]]でイングランド植民者子孫の家に生まれた。父親([[w:John Butler Yeats|<small>John Butler Yeats</small>]]) ははじめ法律を学んで弁護士資格を取ったが、結婚後に画家となる決意を固め、イェイツが2歳のとき一家はロンドンへ移った<ref name=":3">R. F. Foster, "Yeats, William Butler" (''Oxford Dictionary of National Biography'', 2004)</ref>。以後イェイツは幼少期をロンドンで過ごすが、一家はアイルランド港町[[スライゴ]]の裕福な船主だった母方の祖父の家をたびたび訪れ、ここでイェイツが触れたアイルランドの習俗や人々が伝える妖精伝説は、後の詩作の重要な着想源となった<ref name=":4">"W. B. Yeats (1865-1939)." ''Blackwell Guides to Criticism: Twentieth-Century British and Irish Poetry: Hardy to Mahon'', Michael O'Neill, and Madeleine Callaghan, Wiley, 1st edition, 2011. </ref>。 |
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* ''The Wanderings of Oisin''『アシーンの放浪』 |
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* ''The Countess Kathleen and Various Legends and Lyrics''(「イニスフリーの湖島」を収録している) |
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* ''The Wind among the Reeds''『葦間の風』 |
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* ''The Tower''『塔』 |
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* ''The Celtic Twilight''『ケルトの薄明』 |
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1881年に一家はダブリンへ戻る。イェイツは父親と同様に画家を志して地元の美術学校に入学するが、同時に創作を開始、ダブリン大学の同人誌に「彫像の島 <small>The Island of Statues</small>」と題する牧歌劇の習作を連載している<ref name=":5">"Yeats, William Butler (1865 - 1939)." ''The Cambridge Guide to Literature in English'', edited by Ian Ousby, Cambridge University Press, 2nd edition, 2000. </ref>。このころ神秘主義に傾倒して友人と「ダブリン神秘哲学協会」を組織したほか、活動家ジョン・オリアリーらの知己を得てアイルランド独立運動に接した<ref name=":1" />。またアイルランドの歴史・神話に深く惹きつけられて、これを題材とする物語を書き始めており<ref>Gorski, William, and Gorski. "Yeats, William Butler." ''Dictionary of Gnosis and Western Esotericism'', edited by W. J. Hanegraaff, Brill, 1st edition, 2006. </ref>、こうした民族自治・[[神秘学|オカルティズム]]・アイルランドの伝統への関心といった要素は、イェイツの創作全体に大きな影響を及ぼすことになる<ref name=":11">Holdeman, David, and Ben Levitas, eds. ''W. B. Yeats in Context.'' Cambridge, UK: Cambridge University Press, 2010.; Howes, Marjorie, and John Kelly, eds. ''The Cambridge Companion to W. B. Yeats.'' Cambridge, UK: Cambridge University Press, 2006.</ref>。 |
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== 逸話 == |
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{{仮リンク|復活 (イェイツ)|en|The Resurrection (play)|label=復活}}(1931)は「Satoに捧げる」とされるが、このSatoとはイェイツの熱心な信奉者である日本人佐藤醇造の事を指している。イェイツの講演に感じ入り彼の滞在先のホテルに半ば強引に押しかけた佐藤は、そこで設けてもらった会談において彼に[[長船元重|備前長船元重]]の短刀を贈った{{sfn|鈴木|1994|pages=148,192}}。イェイツは会談の二日後、[[エドマンド・デュラック]]に宛てた書簡において会談自体を「大変素晴らしい事」としつつも、短刀については(当時独身だった)佐藤に子供が出来た時に彼に返却するつもりであるとした。一方で、この日本刀とその絹の覆いをイェイツ自身の人生の象徴とするとオリビア・シェイクスピアへの書簡で触れており、詩においても"Montashigi"の名で登場させている。{{sfn|Conner|1998|page=167}} |
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イェイツは2年で絵の才能に見切りをつけて22歳のとき美術学校を退学、1887年に一家は再びロンドンに出た。イェイツはそれまで書き継いでいた作品を第一詩集'''『アシーンの放浪 <small>The Wanderings of Oisin and Other Poems</small>』'''(1889) として刊行、その哀愁に満ちた優雅な表現と、当時ロンドンで馴染みの薄かったケルト伝説によってロンドン文芸界の注目を集めた<ref name=":1" />。 |
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アシーン([[オシアン]])はアイルランド伝説に登場する英雄の一人で、妖精に導かれて歓楽の国・恐怖の島・忘却の島などさまざまな土地をめぐったのちに故郷へ戻るが、そのときすでに300年の月日が経っていたことを知る。アシーンが妖精の戒めをやぶって大地に触れると、彼はただちに白髪の老人に姿を変える。イェイツの詩は、この物語を老いたアシーンがアイルランドで布教していた後の守護聖人[[パトリキウス|パトリック]]に物語る構成を取っている<ref name=":6">"Irish literature in English." ''The Bloomsbury Dictionary of English Literature,'' edited by Marion Wynne- Davies, Bloomsbury, 2nd edition, 1997.</ref>。この間『アイルランド農民民話集 <small>Fairy and Folk Tales of the Irish Peasantry</small>』(1888) を刊行するなど、この時期のイェイツはアイルランドの歴史・伝統への深い関心に彩られている<ref name=":12">Jeffares, A. N. W. B. ''Yeats: A New Biography.'' London: Hutchinson, 1988.</ref>。 |
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=== モードとの出会い === |
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[[ファイル:Maude_Gonne_McBride_nd.jpg|サムネイル|<small>イェイツにとって生涯の詩神となったモード・ゴン(1866―1953)</small> ]] |
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1889年1月、イェイツは活動家モード・ゴン [[:en:Maud_Gonne|<small>Maud Gonne</small>]] に出会う。モードはイングランド軍人の娘でありながらアイルランド農民の悲惨な暮らしに深く心を寄せ、過激なアイルランド独立闘争運動に身を投じていた<ref>Unterecker, John. ''A Reader’s Guide to William Butler Yeats.'' Syracuse, NY: Syracuse University Press, 1996.</ref>。イェイツは彼女の美貌と活発な気性に魅せられ、出会ってまもなく彼女に求婚する。当時フランス人記者の恋人がいたモードはこれを断るが、その後もイェイツの恋情は失われることがなかった。イェイツは50歳すぎまで独身を続け、幾度か彼女に求婚を繰り返しながら<ref name=":7" />、生涯を通してモードを詩想源とする作品を書き続けた<ref name=":7">Kelly, John S. A W. B. ''Yeats Chronology.'' Basingstoke, UK, and New York: Palgrave, 2003.</ref>。 |
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1890年、耽美派詩人たちと語らって「詩人クラブ <small>Rhymes’ Club</small>」を結成、酒場に集まって自作の朗読と批評を繰り返した<ref name=":2">"Irish literature in English." ''The Bloomsbury Dictionary of English Literature,'' edited by Marion Wynne- Davies, Bloomsbury, 2nd edition, 1997.</ref>。この集まりには同世代の[[アーネスト・ダウスン|アーネスト・ダウソン]]、[[アーサー・シモンズ]]のほか、年長の[[オスカー・ワイルド]]も参加することがあった<ref name=":2" />。イェイツはこの集まりを通じてフランス[[象徴主義|象徴派]]詩人たちの活動に触れることになったほか、この酒場で浸った芸術至上主義こそ自分の詩作の原点だったと後に振り返っている<ref name=":13">Hone, Joseph. ''W. B. Yeats, 1865–1939.'' Harmondsworth, UK: Macmillan, 1971.; McCormack, W. J. Blood Kindred: ''W. B. Yeats, the Life, the Death, the Politics.'' London: Pimlico, 2005.</ref>。 |
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また1892年にはアイルランド出身の詩人たちと「アイルランド文芸協会 <small>The Irish Literary Society of London</small>」を設立、ダブリンにも文芸団体を発足させて民族文学の発掘と普及に力を入れ始めた<ref name=":6" /><ref name=":5" />。 |
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=== オカルティスムへの傾倒 === |
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このころ創作面では、イェイツの作品のうち最も広く知られる詩の一つ'''「イニスフリー湖の島 <small>The Lake Isle Of Innisfree</small>」'''を含む詩集『キャスリーン伯爵夫人および諸伝説と抒情詩 <small>The Countess Kathleen and Various Legends and Lyrics</small>』(1892)などを発表するほか、[[神秘学|オカルティズム]]への傾倒を深め、当時のロンドンで人気を集めていた「[[神智学協会]]」や「[[黄金の夜明け団|黄金の夜明け教団]]」に加入して心霊学や神秘思想の研究に没頭している<ref name=":3" />。このころ『[[ウィリアム・ブレイク]]著作集』を編纂したほか、[[ステファヌ・マラルメ|マラルメ]]などフランス[[象徴主義]]文学への関心を深め、パリで[[ポール・ヴェルレーヌ|ヴェルレーヌ]]と出会っている<ref name=":4" />。 |
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1896年、イェイツはゴールウェイ地方の富裕な地主の未亡人だった[[オーガスタ・グレゴリー|グレゴリー夫人]] <small>Lady Isabella Augusta Gregory</small> (1852―1932) の知己を得る<ref name=":1" />。グレゴリー夫人はイェイツの詩才を高く評価し、以後生涯にわたってイェイツの重要な後援者となった<ref name=":11" />。イェイツはしばしば彼女の邸宅に滞在して創作に専念し、規則正しいゆたかな生活と、いくつもの湖沼をかかえる広大な地所の景観は、イェイツの詩作の重要な主題となってゆく<ref name=":12" />。 |
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1899年に発表された'''『葦間<small>(あしま)</small>の風 <small>The Wind among the Reeds</small>』'''は、イェイツの文名を高めた妖精伝説の素養と、報われない恋の憂鬱や神秘主義が混然となった詩集で、初期代表作のひとつとみなされている<ref name=":1" /><ref name=":13" />。このころ、ほかに短編集『秘儀のバラ <small>The Secret Rose</small>』(1897)や批評集『善と悪の観念 <small>Ideas of Good and Evil</small>』(1903)などを相次いで発表している。 |
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=== アイルランド演劇運動 === |
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[[ファイル:AbbeyPosterOpeningNight.jpg|サムネイル|<small>アベイ劇場オープニング時のポスター(1904年)</small>]] |
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同年イェイツはグレゴリー夫人らの後援のもと「アイルランド文芸劇場 <small>Irish Literary Theatre</small>」をダブリンに設立、これは1903年に「アイルランド国民劇場協会 <small>Irish National Theatre Society</small>」へと発展し、同協会は、いわゆるアイルランド演劇運動の重要な推進役となった<ref>O’Doherty, Fergal, and FERGAL O’DOHERTY. "Irish Literature." ''Encyclopedia of World Literature in the 20th Century'', edited by Steven R. Serafin, Gale, 3rd edition, 1999. </ref>。また1904年には新たなパトロンの支援のもと「アベイ劇場 <small>Abbey Theatre</small>」を拠点劇場として新設、ここでイェイツの戯曲の大半が初演されたほか、[[ジョン・ミリントン・シング|シング]]の悲劇『海へ騎(の)りゆく人々 <small>Riders to the Sea</small>』などもここで初演されている (1904)<ref name=":6" /><ref name=":1" />。 |
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このころイェイツは、アイルランド演劇運動の盟友となったシングの死 (1903) や、求婚拒絶の後も恋情を忘れられずにいたモード・ゴンの結婚と出産 (1903) といった私的な事件を経て、新たな詩作の境地を切りひらく。とりわけ詩集'''『責任 <small>Responsibilities</small>』(1903)''' では、それまでのイェイツを決定づけていた茫漠とした郷愁と夢幻的な世界への哀惜が後退し、ダブリン市民への辛辣な風刺や痛罵が繰り返され、政治と社会へのするどい批評が前面に登場したと評される<ref name=":5" />。 |
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=== 『鷹の井戸』 === |
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また同時期、イェイツはのちに重要な[[モダニスト]]詩人とみなされることになる[[エズラ・パウンド]]と知り合う (1909<ref name=":1" />)。当時パウンドはフェノロサによる能楽集の英訳編集に関わっており、彼を通じてイェイツは日本の能に深い関心を抱くこととなった<ref name=":4" />。能楽の簡潔な舞台や様式の重視・非現実的な舞台設定といった要素がイェイツの象徴主義に通じ、またイェイツがオスカー・ワイルドから受け継いだ仮面の活用といった手法が応用できることも、彼が能楽に関心を抱いた背景にあると言われる<ref>Bloom, Harold. ''Yeats.'' New York: Oxford University Press, 1970.; Brown, Terence. ''The Life of W. B. Yeats: A Critical Biography.'' Oxford: Blackwell, 1999.</ref>。 |
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能の影響を受けて書かれた最初の戯曲が、1幕物'''『[[鷹の井戸]] <small>[[:en:At_the_Hawk's_Well|At the Hawk's Well]]</small>』'''(1917刊)である。この戯曲では、不死の泉の水を追い求める主人公クーフリンが、泉を守る神秘的な娘(鷹の化身)にまどわされてついに望みを果たすことができないまま死地におもむく<ref name=":8">Taylor, Richard. ''A Reader’s Guide to the Plays of W. B. Yeats.'' London: Macmillan, 1984.</ref>。初演はロンドン富裕層の私邸で、選ばれたわずかな観客を前に行われた(このとき鷹を演じたのは、日本人舞踊家の伊藤道郎である)<ref name=":8" />。以後イェイツは『エルマーの嫉妬 <small>The Only Jealousy of Emer</small>』(1919刊)から『クーフリンの死 <small>The Death of Cuchulain</small>』 (1939刊)まで、ほぼ同様の構成を踏襲した作品を発表しつづける<ref name=":8" />。 |
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イェイツが『鷹の井戸』を上演してまもなく、ダブリンで「[[イースター蜂起]]」が起きる。これは1916年4月24日の復活祭に、武装した活動家や農民がダブリン市内の郵便局などを占拠、アイルランド共和国政府の樹立を宣言した事件である<ref name=":9">O'Ruairc, Liam. "Easter Rising (1916)." ''The Palgrave Encyclopedia of Imperialism and Anti-Imperialism'', Immanuel Ness, and Zak Cope, Macmillan Publishers Ltd, 1st edition, 2016. </ref>。蜂起は1週間ほどでイングランド軍によって完全に鎮圧され、指導者15人は銃殺された<ref name=":9" />。その中にはイェイツの知人や、モード・ゴンの夫も含まれていた。この事件の深い衝撃をもとに書かれた詩'''「1916年復活祭 <small>Easter 1916</small>」'''はイェイツの代表作の一つとされている<ref name=":10">Foster, R. F. ''W. B. Yeats, A Life, II: The Arch-Poet, 1915–1939.'' Oxford and New York: Oxford University Press, 2003.</ref>。 |
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=== 名声の高まり === |
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事件で未亡人となったモード・ゴンへの再度の求婚と拒絶を経て、1917年10月、52歳のイェイツは友人の遠戚にあたる25歳の娘ジョージー・ハイド・リーズ <small>Georgie Hyde-Lees</small> (1892―1968)と結婚した。彼女はイェイツの創作活動を深く理解して詩人の生活を安定させたが、同時に霊媒のように脳裏に浮かぶ言葉をつぎつぎに口にする能力を示したため、イェイツはこれを「自動筆記」と呼んで自らの創作活動に取り入れることになった。イェイツは妻を霊媒とする問答をもとに膨大な草稿をつくり、それまでの神秘思想への傾倒の集大成となる'''『ヴィジョン <small>A Vision</small>』'''として発表している(1937)。 |
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アイルランドでは復活祭蜂起の鎮圧後も反イングランド感情がくすぶり、1919年1月には[[シン・フェイン党]]がアイルランド議会の樹立を宣言、武力抗争が激しくなっていた<ref name=":9" />。1921年には条約が結ばれて[[アイルランド自由国]]は念願の独立を果たすが、以後もこの条約に不満をもつ過激派と自由国政府とのあいだに内戦が続いていた<ref name=":9" />。 |
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[[ファイル:Yeats1923.jpg|サムネイル|<small>ノーベル賞受賞時のイェイツ</small>]] |
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動揺がつづく建国間もない故郷からの懇請を受け、すでにロンドンで確固たる文名を築いていたイェイツは1922年12月、アイルランド上院議員に任命される<ref name=":14" />。 |
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1923年には[[ノーベル文学賞]]を受賞<ref>"Yeats, William Butler." ''Encyclopedia of Nobel Laureates 1901-2017'', edited by P.T. Rajasekharan, and Arun Tiwari, Panther Publishers, 2nd edition, 2018.</ref>。社会的な名声に包まれるなか書き継がれた詩集'''『塔 <small>[[:en:The_Tower_(poetry_collection)|The Tower]]</small>』'''(1928)は後期イェイツの頂点の一つで<ref name=":14">Larrissy, Edward. "W. B. Yeats: The Tower (1928)." ''Blackwell Companions to Literature and Culture: A Companion to Modernist Literature and Culture,'' David Bradshaw, and Kevin J. H. Dettmar, Wiley, 1st edition, 2006. </ref>、'''「ビザンティウムへの船出 <small>Sailing to Byzantium</small>」'''や'''「レダと白鳥 <small>Leda and the Swan</small>」'''など数々の佳品が含まれている<ref name=":10" />。 |
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=== 最晩年 === |
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このころからイェイツは体力の衰えを自覚するようになり、また生涯にわたる支援者だったグレゴリー夫人の死去という私生活の事件も重なるが、第二次世界大戦の予兆が高まるなか書かれた詩集'''『螺旋階段 <small>The Winding Stair and Other Poems</small>』'''(1933)は、『塔』にならぶ代表作とみなされている<ref name=":3" />。 |
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一方、晩年のイェイツは編纂にかかわった『オクスフォード近代詩集 <small>The Oxford Book of Modern Verse</small>』(1936) で戦争詩人として名高かった[[ウィルフレッド・オーエン]]やローゼンバーグらを黙殺して大いに物議をかもしたほか<ref name=":1" />、台頭するファシズムに関心を寄せ、民主主義嫌悪・戦争肯定論ともとれるエッセイも残している<ref>Cronin, Mike. "Yeats, William Butler (1865 1939)." ''World Fascism: A Historical Encyclopedia,'' Cyprian P. Blamires, ABC-CLIO, 5th edition, 2006. </ref>。 |
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1939年1月、保養先の南フランスにて73歳で死去<ref name=":7" />。戦後の1948年になって遺体が故郷のアイルランドに移され、埋葬された<ref name=":3" />。 |
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== ポピュラー文化とイェイツ == |
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イェイツ没後、彼の詩歌は英語で書かれた代表的な文学作品のひとつとみなされるようになった<ref name=":1" />。英語圏では中等教育の段階から広く教材として用いられ、幾つかの作品はきわめてよく知られているため<ref name=":14" />、イェイツ作品に登場する詩句はさまざまな映画や音楽で引用され続けている。<br /> |
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* '''映画『ノーカントリー』<small>(No Country for Old Men)</small>''' (2007)は[[コーマック・マッカーシー]]の原作とともに、題名を「ビザンティンへの船出」冒頭の一節「老いた人々の住む土地はない」から取っている。 |
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* コミック'''『スタートレック:無秩序シリーズ''' <small>('''Star Trek: Mere Anarchy series)'''</small>'''』''' (2009)や作曲家[[モービー]] (Moby) の楽曲'''「ミーア・アナーキー''' ('''[https://www.youtube.com/watch?v=BZcBjjfR-10 <small>Mere Anarchy</small>]''')」(2018)は、イェイツの詩「再臨 <small>([https://www.poetryfoundation.org/poems/43290/the-second-coming The Second Coming])</small>」の一節「うわべだけの無秩序が世界にゆきわたり <small>(Mere Anarchy is loosed upon the world)</small>」を踏まえている。 |
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* コミック'''『バットマン:拡大する螺旋 <small>(Batman: The Widening Gyre)』</small>''' (2009)や[[ロバート・B・パーカー]]の小説'''『拡大する螺旋 (<small>The Widening Gyre)</small>』''' (1983)は、同じく「再臨」の一節「(1羽の鷹が)しだいに大きく螺旋を描き <small>(Turning and turning in the widening gyre)</small>」より。 |
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* SF短編集'''『太陽の黄金の林檎 <small>The Golden Apples of the Sun</small> 』'''([[レイ・ブラッドベリ]]、1953)の題名は、イェイツの詩「さまよえるオェングスの歌 <small>([https://www.poetryfoundation.org/poems/55687/the-song-of-wandering-aengus The Song of Wandering Aengus])</small>」の一節を取っている。 |
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* SF映画'''『A.I. 』'''([[スティーヴン・スピルバーグ]]監督、2001)では、人工知能が少年ロボットに向かって朗誦するイェイツの詩「さらわれた子ども <small>(The Stolen Child)</small>」が物語全体の重要な伏線となっている。 |
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*映画'''『ウォール街』'''([[オリバー・ストーン]]監督、1987)で、伝説的な投資家ゴードン・ゲッコーが未熟な主人公に向かって「鷹が鷹匠の言うことを聞いたみたいだな <small>(So the falcon’s heard the falconer, huh?)</small>」とからかう場面は、「再臨」の一節「鷹は鷹匠のいいつけに耳を貸さない <small>(The falcon cannot hear the falconer)</small>」を踏まえている。 |
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*短編映画'''『あるラブストーリー ([http://www.openculture.com/2017/02/w-b-yeats-classic-poem-when-you-are-old-gets-adapted-into-a-beautiful-short-film.html A Love Story)』]''' (ジェシカ・ベラミー監督)は、イェイツがモード・ゴンに宛てて書いた恋詩「あなたが年をとって <small>([https://www.poetryfoundation.org/poems/43283/when-you-are-old WhenYou Are Old])</small> 」を映画化したもの。 |
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== エピソード == |
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*{{仮リンク|復活 (イェイツ)|en|The Resurrection (play)|label=復活}}(1931)は「Satoに捧げる」とされるが、このSatoとはイェイツの熱心な信奉者である日本人佐藤醇造の事を指している。イェイツの講演に感じ入り彼の滞在先のホテルに半ば強引に押しかけた佐藤は、そこで設けてもらった会談において彼に[[長船元重|備前長船元重]]の短刀を贈った<ref>鈴木弘『図説イェイツ詩辞典』本の友社、1994, p. 148, 192.</ref>。イェイツは会談の二日後、[[エドマンド・デュラック]]に宛てた書簡において会談自体を「大変素晴らしい事」としつつも、短刀については(当時独身だった)佐藤に子供が出来た時に彼に返却するつもりであるとした。一方で、この日本刀とその絹の覆いをイェイツ自身の人生の象徴とするとオリビア・シェイクスピアへの書簡で触れており、詩においても"Montashigi"の名で登場させている<ref>Conner, Lester I. ''A Yeats Dictionary: Persons and Places in the Poetry of William Butler Yeats,'' Syacuse University Press, 1998, p. 167.</ref>。 |
|||
*[[1976年]]から発行されていた[[アイルランド]]の20[[アイルランド・ポンド|ポンド]]紙幣に肖像が使用されていた<ref>{{Cite web|title=Ireland 20 Pounds (1976-1993 Central Bank of Ireland) - Foreign Currency and Coin|url=https://foreigncurrencyandcoin.com/outmoded-irish-pounds-banknotes/10449-ireland-20-pounds-1976-1993-central-bank-of-ireland.html|website=foreigncurrencyandcoin.com|accessdate=2019-09-11}}</ref>。 |
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== 脚注 == |
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{{Reflist|2}} |
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== 関連文献 == |
|||
*Bloom, Harold. ''Yeats.'' New York: Oxford University Press, 1970. |
|||
*Brown, Terence. ''The Life of W. B. Yeats: A Critical Biography.'' Oxford: Blackwell, 1999. |
|||
*Conner, Lester I. ''A Yeats Dictionary: Persons and Places in the Poetry of William Butler Yeats,'' Syacuse University Press, 1998. |
|||
*Ellmann, Richard. ''Yeats: The Man and the Masks.'' Rev. ed. London: Penguin, 1988. |
|||
*Ellmann, Richard. ''Eminent Domain: Yeats among.'' Wilde, Joyce, Pound, Eliot, and Auden, 1970 |
|||
**リチャード・エルマン『イェイツをめぐる作家たち ワイルド、ジョイス、パウンド、エリオット、オーデン』 |
|||
*:小田井勝彦・グレース宮田訳、[[彩流社]]、2017年 |
|||
*Foster, R. F. ''W. B. Yeats, A Life, I: The Apprentice Mage, 1865–1914.'' Oxford and New York: Oxford University Press, 1997. |
|||
*Foster, R. F. ''W. B. Yeats, A Life, II: The Arch-Poet, 1915–1939.'' Oxford and New York: Oxford University Press, 2003. |
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'''邦語文献(抜粋)''' |
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* 伊藤宏見『イェイツ詩研究『クール湖上の白鳥』その他』北星堂書店、2004 |
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* 木原謙一『イェイツと仮面 : 死のパラドックス』彩流社、2001 |
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* 木原誠『イェイツと夢 : 死のパラドックス』彩流社、2001 |
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* 木村正俊編『文学都市ダブリン : ゆかりの文学者たち = City of literature Dublin』春風社、2017 |
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* 日下隆平『イェイツとその周辺』大学教育出版、1999 |
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* 杉山寿美子『祖国と詩 : W・B・イェイツ : 1865-1939』国書刊行会、2019 |
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* 鈴木弘『図説 イェイツ詩辞典』本の友社、1994 |
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* 武子和幸『イェイツの影の下で』国文社、1998 |
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* 野中涼編『イェイツの詩を読む』思潮社、2000 |
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* 萩原眞一『イェイツ : 自己生成する詩人』慶應義塾大学出版会、2010 |
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* 前波清一『イェイツとアイルランド演劇』風間書房、1997 |
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=== 主な日本語訳 === |
=== 主な日本語訳 === |
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* {{cite book|和書|title =戯曲 幻の海 |translator= 栗原古城 |year =1914|publisher=赤城正蔵(アカギ叢書)|url= {{NDLDC|906509}}|ref=harv}} |
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* {{cite book|和書|title =「ケルトの薄明」より| translator= [[芥川龍之介|柳川龍之介]]| year =1914| publisher=[[新思潮]](第1巻第3号)| url= https://www.aozora.gr.jp/cards/001085/card1128.html| ref=harv}} |
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* {{cite book|和書|title =春の心臓 |translator= [[芥川龍之介]] |year =1926|publisher=[[新潮社]](梅・馬・鶯 :芥川竜之介随筆集)|url= {{NDLDC|1019919/214}}|ref=harv}} |
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* 『神秘の薔薇』 ([[井村君江]]・大久保直幹訳) [[国書刊行会]]〈[[世界幻想文学大系]]24〉、新版1994年 |
* 『神秘の薔薇』 ([[井村君江]]・大久保直幹訳) [[国書刊行会]]〈[[世界幻想文学大系]]24〉、新版1994年 |
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* 『幻想録』 (島津彬郎訳) [[ちくま学芸文庫]]、2001年。旧版はパシフィカ、1978年 |
* 『幻想録』 (島津彬郎訳) [[ちくま学芸文庫]]、2001年。旧版はパシフィカ、1978年 |
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* 『小説ジョン・シャーマンとドーヤ』(フィンネラン編・川上武志訳)[[英宝社]] 2017年 |
* 『小説ジョン・シャーマンとドーヤ』(フィンネラン編・川上武志訳)[[英宝社]] 2017年 |
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* 『幼年と少年時代の幻想』(川上武志訳)英宝社 2015年 |
* 『幼年と少年時代の幻想』(川上武志訳)英宝社 2015年 |
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== 外部リンク == |
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'''作品など''' |
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*{{青空文庫著作者|1085|イエイツ ウィリアム・バトラー}} |
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*[https://www.gutenberg.org/ebooks/author/1719 Books by W. B. Yeats (Project Gutenberg)] |
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*[http://www.bibliomania.com/0/2/332/2423/frameset.html Poetry by W.B. Yeats (Bibliomania)] |
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*[http://www.csun.edu/~hceng029/yeats/poemsalpha.html Alphabetical Listing of Poems by Yeats (California State University)] |
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*[http://librivox.org/where-my-books-go-by-william-butler-yeats/ Audiobook: "Where My Books Go"] ([http://librivox.org LibriVox)] |
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*[https://www.nobelprize.org/prizes/literature/1923/yeats/lecture/ ノーベル賞受賞講演「アイルランド演劇運動」(ノーベル財団)] |
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*[http://www.openculture.com/2012/06/rare_1930s_audio_wb_yeats_reads_four_of_his_poems.html イェイツによる自作朗読の録音] (Open Culture, 2012) |
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'''年譜''' |
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*[https://www.poetryfoundation.org/poets/william-butler-yeats "William Buter Yeats" (Poetry Foundation)] |
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*[http://www.nli.ie/yeats/ Online Exhibition: The Life and Works of William Butler Yeats (The National Library of Ireland)] |
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'''関連団体・個人サイト''' |
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*[https://www.yeatssociety.com/ The Yeats Society] |
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*[http://the-yeats-society-of-japan.jp/ 日本イェイツ協会] |
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*[http://franklludwig.com/yeatscountry.html Gallery of Locations of Yeats' Poems(個人サイト)] |
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== 関連項目 == |
== 関連項目 == |
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* [[ケルト神話]] |
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*[[ケルト神話]] |
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* [[黄金の夜明け団]] |
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*[[黄金の夜明け団]] |
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* [[象徴主義]] |
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*[[象徴主義]] |
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*[[神秘主義]] |
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*[[ジョン・ミリントン・シング]] |
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* |
*[[オーガスタ・グレゴリー]](グレゴリー夫人) |
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* |
*[[エズラ・パウンド]] |
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* |
*[[W・H・オーデン]] |
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* |
*[[ラビンドラナート・タゴール]] |
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*[[尾島庄太郎]] |
*[[尾島庄太郎]] |
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*[[井村君江]] |
*[[井村君江]] |
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* |
*[[ケルト人]] |
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*{{仮リンク|トール・バリリー|en|Thoor_Ballylee|preserve=1}} - イエイツと家族が住んだ15世紀の要塞塔(イエイツ・タワー) |
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* [[グラーニアとディアーミッド]] |
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*{{仮リンク|クール・パーク|en|Coole_Park|preserve=1}} - イエイツ住居から3マイルにある[[ゴールウェイ州]]の公園。 |
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* [[サミュエル・ベケット級哨戒艦]](3番艦の艦名に彼の名前が付けられた。) |
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*[[グラーニアとディアーミッド]] |
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*[[サミュエル・ベケット級哨戒艦]](3番艦の艦名に彼の名前が付けられた。) |
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== 脚注 == |
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{{Portal|文学}} |
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{{Commons&cat|William Butler Yeats|William Butler Yeats}} |
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== 出典 == |
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{{Wikisource author|William Butler Yeats|ウィリアム・バトラー・イェイツ}}{{ノーベル文学賞受賞者 (1901年-1925年)}} |
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* {{Cite|last=Conner|first=Lester I.|date=1998|title=A Yeats Dictionary: Persons and Places in the Poetry of William Butler Yeats|publisher=Syracuse Univ Press|ISBN=081562770X}} |
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* {{Cite|和書|last=鈴木|first=弘|title=図説イェイツ詩辞典|date=1994|publisher=本の友社|ISBN=4938429810}} |
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== 外部リンク == |
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* {{青空文庫著作者|1085|イエイツ ウィリアム・バトラー}} |
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* [http://the-yeats-society-of-japan.jp/ 日本イェイツ協会] |
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* [http://www.nli.ie/yeats/ www.nli.ie/yeats - National Library of Ireland Yeats Exhibition] (en) |
|||
* [http://www.nior.co.uk NIOR.CO.UK - hosts and provides analysis of many of Yeats' poems] |
|||
* [http://www.poetryfeast.com/category/modern-poets/william-butler-yeats/ Large collection of Yeats' poetry] |
|||
* [http://www.yeats-sligo.com/html/summer.html The Yeats Summer School, Sligo] |
|||
* [http://www.poetseers.org/nobel_prize_for_literature/william_b_yeats/library/ Selected Poetry of W.B.Yeats] |
|||
* [http://d-sites.net/english/yeats.htm 'Yeats' 'Leda and the swan': an images coming of age] |
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* {{gutenberg author|id=William_Butler_Yeats}} |
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* [http://www.bibliomania.com/0/2/332/2423/frameset.html Poetry by W.B. Yeats on Bibliomania] |
|||
* [http://www.csun.edu/~hceng029/yeats/poemsalpha.html Alphabetical Listing of Poems by Yeats] |
|||
* [http://librivox.org/where-my-books-go-by-william-butler-yeats/ Free audiobook of "Where My Books Go"] from [http://librivox.org LibriVox] |
|||
* [http://franklludwig.com/yeatscountry.html Gallery of Locations of Yeats' Poems] |
|||
* [http://www.wbyeats.net The Yeats theater, an introduction to his life and work] |
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{{ノーベル文学賞受賞者 (1901年-1925年)}} |
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2019年9月26日 (木) 11:07時点における版
Yeats Boughton ウィリアム・バトラー・イェイツ | |
---|---|
生誕 |
1865年6月13日 アイルランド ダブリン州 |
死没 |
1939年1月28日 (73歳没) フランス ロクブリュヌ=カップ=マルタン |
国籍 | アイルランド |
主な受賞歴 | ノーベル文学賞(1923) |
プロジェクト:人物伝 |
|
ウィリアム・バトラー・イェイツ(William Butler Yeats, 1865年6月13日 - 1939年1月28日)は、アイルランドの詩人・劇作家。幼少のころから親しんだアイルランドの妖精譚などを題材とする抒情詩で注目されたのち、民族演劇運動を通じてアイルランド文芸復興の担い手となった[1]。モダニズム詩の世界に新境地を切りひらき、20世紀の英語文学において最も重要な詩人の一人とも評される[2]。
1923年にノーベル文学賞を受賞。1922年から6年間、アイルランド上院議員もつとめた[3]。日本では能の影響を受けて執筆した戯曲『鷹の井戸』や、初期の抒情詩「イニスフリー湖の島」などがとくに知られる[2]。
来歴
幼年期から第一詩集まで
イェイツは1865年6月13日、アイルランドのダブリンでイングランド植民者子孫の家に生まれた。父親(John Butler Yeats) ははじめ法律を学んで弁護士資格を取ったが、結婚後に画家となる決意を固め、イェイツが2歳のとき一家はロンドンへ移った[4]。以後イェイツは幼少期をロンドンで過ごすが、一家はアイルランド港町スライゴの裕福な船主だった母方の祖父の家をたびたび訪れ、ここでイェイツが触れたアイルランドの習俗や人々が伝える妖精伝説は、後の詩作の重要な着想源となった[5]。
1881年に一家はダブリンへ戻る。イェイツは父親と同様に画家を志して地元の美術学校に入学するが、同時に創作を開始、ダブリン大学の同人誌に「彫像の島 The Island of Statues」と題する牧歌劇の習作を連載している[6]。このころ神秘主義に傾倒して友人と「ダブリン神秘哲学協会」を組織したほか、活動家ジョン・オリアリーらの知己を得てアイルランド独立運動に接した[1]。またアイルランドの歴史・神話に深く惹きつけられて、これを題材とする物語を書き始めており[7]、こうした民族自治・オカルティズム・アイルランドの伝統への関心といった要素は、イェイツの創作全体に大きな影響を及ぼすことになる[8]。
イェイツは2年で絵の才能に見切りをつけて22歳のとき美術学校を退学、1887年に一家は再びロンドンに出た。イェイツはそれまで書き継いでいた作品を第一詩集『アシーンの放浪 The Wanderings of Oisin and Other Poems』(1889) として刊行、その哀愁に満ちた優雅な表現と、当時ロンドンで馴染みの薄かったケルト伝説によってロンドン文芸界の注目を集めた[1]。
アシーン(オシアン)はアイルランド伝説に登場する英雄の一人で、妖精に導かれて歓楽の国・恐怖の島・忘却の島などさまざまな土地をめぐったのちに故郷へ戻るが、そのときすでに300年の月日が経っていたことを知る。アシーンが妖精の戒めをやぶって大地に触れると、彼はただちに白髪の老人に姿を変える。イェイツの詩は、この物語を老いたアシーンがアイルランドで布教していた後の守護聖人パトリックに物語る構成を取っている[9]。この間『アイルランド農民民話集 Fairy and Folk Tales of the Irish Peasantry』(1888) を刊行するなど、この時期のイェイツはアイルランドの歴史・伝統への深い関心に彩られている[10]。
モードとの出会い
1889年1月、イェイツは活動家モード・ゴン Maud Gonne に出会う。モードはイングランド軍人の娘でありながらアイルランド農民の悲惨な暮らしに深く心を寄せ、過激なアイルランド独立闘争運動に身を投じていた[11]。イェイツは彼女の美貌と活発な気性に魅せられ、出会ってまもなく彼女に求婚する。当時フランス人記者の恋人がいたモードはこれを断るが、その後もイェイツの恋情は失われることがなかった。イェイツは50歳すぎまで独身を続け、幾度か彼女に求婚を繰り返しながら[12]、生涯を通してモードを詩想源とする作品を書き続けた[12]。
1890年、耽美派詩人たちと語らって「詩人クラブ Rhymes’ Club」を結成、酒場に集まって自作の朗読と批評を繰り返した[13]。この集まりには同世代のアーネスト・ダウソン、アーサー・シモンズのほか、年長のオスカー・ワイルドも参加することがあった[13]。イェイツはこの集まりを通じてフランス象徴派詩人たちの活動に触れることになったほか、この酒場で浸った芸術至上主義こそ自分の詩作の原点だったと後に振り返っている[14]。
また1892年にはアイルランド出身の詩人たちと「アイルランド文芸協会 The Irish Literary Society of London」を設立、ダブリンにも文芸団体を発足させて民族文学の発掘と普及に力を入れ始めた[9][6]。
オカルティスムへの傾倒
このころ創作面では、イェイツの作品のうち最も広く知られる詩の一つ「イニスフリー湖の島 The Lake Isle Of Innisfree」を含む詩集『キャスリーン伯爵夫人および諸伝説と抒情詩 The Countess Kathleen and Various Legends and Lyrics』(1892)などを発表するほか、オカルティズムへの傾倒を深め、当時のロンドンで人気を集めていた「神智学協会」や「黄金の夜明け教団」に加入して心霊学や神秘思想の研究に没頭している[4]。このころ『ウィリアム・ブレイク著作集』を編纂したほか、マラルメなどフランス象徴主義文学への関心を深め、パリでヴェルレーヌと出会っている[5]。
1896年、イェイツはゴールウェイ地方の富裕な地主の未亡人だったグレゴリー夫人 Lady Isabella Augusta Gregory (1852―1932) の知己を得る[1]。グレゴリー夫人はイェイツの詩才を高く評価し、以後生涯にわたってイェイツの重要な後援者となった[8]。イェイツはしばしば彼女の邸宅に滞在して創作に専念し、規則正しいゆたかな生活と、いくつもの湖沼をかかえる広大な地所の景観は、イェイツの詩作の重要な主題となってゆく[10]。
1899年に発表された『葦間(あしま)の風 The Wind among the Reeds』は、イェイツの文名を高めた妖精伝説の素養と、報われない恋の憂鬱や神秘主義が混然となった詩集で、初期代表作のひとつとみなされている[1][14]。このころ、ほかに短編集『秘儀のバラ The Secret Rose』(1897)や批評集『善と悪の観念 Ideas of Good and Evil』(1903)などを相次いで発表している。
アイルランド演劇運動
同年イェイツはグレゴリー夫人らの後援のもと「アイルランド文芸劇場 Irish Literary Theatre」をダブリンに設立、これは1903年に「アイルランド国民劇場協会 Irish National Theatre Society」へと発展し、同協会は、いわゆるアイルランド演劇運動の重要な推進役となった[15]。また1904年には新たなパトロンの支援のもと「アベイ劇場 Abbey Theatre」を拠点劇場として新設、ここでイェイツの戯曲の大半が初演されたほか、シングの悲劇『海へ騎(の)りゆく人々 Riders to the Sea』などもここで初演されている (1904)[9][1]。
このころイェイツは、アイルランド演劇運動の盟友となったシングの死 (1903) や、求婚拒絶の後も恋情を忘れられずにいたモード・ゴンの結婚と出産 (1903) といった私的な事件を経て、新たな詩作の境地を切りひらく。とりわけ詩集『責任 Responsibilities』(1903) では、それまでのイェイツを決定づけていた茫漠とした郷愁と夢幻的な世界への哀惜が後退し、ダブリン市民への辛辣な風刺や痛罵が繰り返され、政治と社会へのするどい批評が前面に登場したと評される[6]。
『鷹の井戸』
また同時期、イェイツはのちに重要なモダニスト詩人とみなされることになるエズラ・パウンドと知り合う (1909[1])。当時パウンドはフェノロサによる能楽集の英訳編集に関わっており、彼を通じてイェイツは日本の能に深い関心を抱くこととなった[5]。能楽の簡潔な舞台や様式の重視・非現実的な舞台設定といった要素がイェイツの象徴主義に通じ、またイェイツがオスカー・ワイルドから受け継いだ仮面の活用といった手法が応用できることも、彼が能楽に関心を抱いた背景にあると言われる[16]。
能の影響を受けて書かれた最初の戯曲が、1幕物『鷹の井戸 At the Hawk's Well』(1917刊)である。この戯曲では、不死の泉の水を追い求める主人公クーフリンが、泉を守る神秘的な娘(鷹の化身)にまどわされてついに望みを果たすことができないまま死地におもむく[17]。初演はロンドン富裕層の私邸で、選ばれたわずかな観客を前に行われた(このとき鷹を演じたのは、日本人舞踊家の伊藤道郎である)[17]。以後イェイツは『エルマーの嫉妬 The Only Jealousy of Emer』(1919刊)から『クーフリンの死 The Death of Cuchulain』 (1939刊)まで、ほぼ同様の構成を踏襲した作品を発表しつづける[17]。
イェイツが『鷹の井戸』を上演してまもなく、ダブリンで「イースター蜂起」が起きる。これは1916年4月24日の復活祭に、武装した活動家や農民がダブリン市内の郵便局などを占拠、アイルランド共和国政府の樹立を宣言した事件である[18]。蜂起は1週間ほどでイングランド軍によって完全に鎮圧され、指導者15人は銃殺された[18]。その中にはイェイツの知人や、モード・ゴンの夫も含まれていた。この事件の深い衝撃をもとに書かれた詩「1916年復活祭 Easter 1916」はイェイツの代表作の一つとされている[19]。
名声の高まり
事件で未亡人となったモード・ゴンへの再度の求婚と拒絶を経て、1917年10月、52歳のイェイツは友人の遠戚にあたる25歳の娘ジョージー・ハイド・リーズ Georgie Hyde-Lees (1892―1968)と結婚した。彼女はイェイツの創作活動を深く理解して詩人の生活を安定させたが、同時に霊媒のように脳裏に浮かぶ言葉をつぎつぎに口にする能力を示したため、イェイツはこれを「自動筆記」と呼んで自らの創作活動に取り入れることになった。イェイツは妻を霊媒とする問答をもとに膨大な草稿をつくり、それまでの神秘思想への傾倒の集大成となる『ヴィジョン A Vision』として発表している(1937)。
アイルランドでは復活祭蜂起の鎮圧後も反イングランド感情がくすぶり、1919年1月にはシン・フェイン党がアイルランド議会の樹立を宣言、武力抗争が激しくなっていた[18]。1921年には条約が結ばれてアイルランド自由国は念願の独立を果たすが、以後もこの条約に不満をもつ過激派と自由国政府とのあいだに内戦が続いていた[18]。
動揺がつづく建国間もない故郷からの懇請を受け、すでにロンドンで確固たる文名を築いていたイェイツは1922年12月、アイルランド上院議員に任命される[20]。
1923年にはノーベル文学賞を受賞[21]。社会的な名声に包まれるなか書き継がれた詩集『塔 The Tower』(1928)は後期イェイツの頂点の一つで[20]、「ビザンティウムへの船出 Sailing to Byzantium」や「レダと白鳥 Leda and the Swan」など数々の佳品が含まれている[19]。
最晩年
このころからイェイツは体力の衰えを自覚するようになり、また生涯にわたる支援者だったグレゴリー夫人の死去という私生活の事件も重なるが、第二次世界大戦の予兆が高まるなか書かれた詩集『螺旋階段 The Winding Stair and Other Poems』(1933)は、『塔』にならぶ代表作とみなされている[4]。
一方、晩年のイェイツは編纂にかかわった『オクスフォード近代詩集 The Oxford Book of Modern Verse』(1936) で戦争詩人として名高かったウィルフレッド・オーエンやローゼンバーグらを黙殺して大いに物議をかもしたほか[1]、台頭するファシズムに関心を寄せ、民主主義嫌悪・戦争肯定論ともとれるエッセイも残している[22]。
1939年1月、保養先の南フランスにて73歳で死去[12]。戦後の1948年になって遺体が故郷のアイルランドに移され、埋葬された[4]。
ポピュラー文化とイェイツ
イェイツ没後、彼の詩歌は英語で書かれた代表的な文学作品のひとつとみなされるようになった[1]。英語圏では中等教育の段階から広く教材として用いられ、幾つかの作品はきわめてよく知られているため[20]、イェイツ作品に登場する詩句はさまざまな映画や音楽で引用され続けている。
- 映画『ノーカントリー』(No Country for Old Men) (2007)はコーマック・マッカーシーの原作とともに、題名を「ビザンティンへの船出」冒頭の一節「老いた人々の住む土地はない」から取っている。
- コミック『スタートレック:無秩序シリーズ (Star Trek: Mere Anarchy series)』 (2009)や作曲家モービー (Moby) の楽曲「ミーア・アナーキー (Mere Anarchy)」(2018)は、イェイツの詩「再臨 (The Second Coming)」の一節「うわべだけの無秩序が世界にゆきわたり (Mere Anarchy is loosed upon the world)」を踏まえている。
- コミック『バットマン:拡大する螺旋 (Batman: The Widening Gyre)』 (2009)やロバート・B・パーカーの小説『拡大する螺旋 (The Widening Gyre)』 (1983)は、同じく「再臨」の一節「(1羽の鷹が)しだいに大きく螺旋を描き (Turning and turning in the widening gyre)」より。
- SF短編集『太陽の黄金の林檎 The Golden Apples of the Sun 』(レイ・ブラッドベリ、1953)の題名は、イェイツの詩「さまよえるオェングスの歌 (The Song of Wandering Aengus)」の一節を取っている。
- SF映画『A.I. 』(スティーヴン・スピルバーグ監督、2001)では、人工知能が少年ロボットに向かって朗誦するイェイツの詩「さらわれた子ども (The Stolen Child)」が物語全体の重要な伏線となっている。
- 映画『ウォール街』(オリバー・ストーン監督、1987)で、伝説的な投資家ゴードン・ゲッコーが未熟な主人公に向かって「鷹が鷹匠の言うことを聞いたみたいだな (So the falcon’s heard the falconer, huh?)」とからかう場面は、「再臨」の一節「鷹は鷹匠のいいつけに耳を貸さない (The falcon cannot hear the falconer)」を踏まえている。
- 短編映画『あるラブストーリー (A Love Story)』 (ジェシカ・ベラミー監督)は、イェイツがモード・ゴンに宛てて書いた恋詩「あなたが年をとって (WhenYou Are Old) 」を映画化したもの。
エピソード
- 復活(1931)は「Satoに捧げる」とされるが、このSatoとはイェイツの熱心な信奉者である日本人佐藤醇造の事を指している。イェイツの講演に感じ入り彼の滞在先のホテルに半ば強引に押しかけた佐藤は、そこで設けてもらった会談において彼に備前長船元重の短刀を贈った[23]。イェイツは会談の二日後、エドマンド・デュラックに宛てた書簡において会談自体を「大変素晴らしい事」としつつも、短刀については(当時独身だった)佐藤に子供が出来た時に彼に返却するつもりであるとした。一方で、この日本刀とその絹の覆いをイェイツ自身の人生の象徴とするとオリビア・シェイクスピアへの書簡で触れており、詩においても"Montashigi"の名で登場させている[24]。
- 1976年から発行されていたアイルランドの20ポンド紙幣に肖像が使用されていた[25]。
脚注
- ^ a b c d e f g h i "Yeats, William Butler (1865 - 1939)." The Cambridge Guide to Literature in English, edited by Ian Ousby, Cambridge University Press, 2nd edition, 2000.
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- ^ 鈴木弘『図説イェイツ詩辞典』本の友社、1994, p. 148, 192.
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- ^ “Ireland 20 Pounds (1976-1993 Central Bank of Ireland) - Foreign Currency and Coin”. foreigncurrencyandcoin.com. 2019年9月11日閲覧。
関連文献
- Bloom, Harold. Yeats. New York: Oxford University Press, 1970.
- Brown, Terence. The Life of W. B. Yeats: A Critical Biography. Oxford: Blackwell, 1999.
- Conner, Lester I. A Yeats Dictionary: Persons and Places in the Poetry of William Butler Yeats, Syacuse University Press, 1998.
- Ellmann, Richard. Yeats: The Man and the Masks. Rev. ed. London: Penguin, 1988.
- Ellmann, Richard. Eminent Domain: Yeats among. Wilde, Joyce, Pound, Eliot, and Auden, 1970
- リチャード・エルマン『イェイツをめぐる作家たち ワイルド、ジョイス、パウンド、エリオット、オーデン』
- 小田井勝彦・グレース宮田訳、彩流社、2017年
- Foster, R. F. W. B. Yeats, A Life, I: The Apprentice Mage, 1865–1914. Oxford and New York: Oxford University Press, 1997.
- Foster, R. F. W. B. Yeats, A Life, II: The Arch-Poet, 1915–1939. Oxford and New York: Oxford University Press, 2003.
- Hogan, Robert, and Richard Burnham. The Art of the Amateur: 1916–1920, Ireland: Dolmen, 1984.
- Holdeman, David, and Ben Levitas, eds. W. B. Yeats in Context. Cambridge, UK: Cambridge University Press, 2010.
- Hone, Joseph. W. B. Yeats, 1865–1939. Harmondsworth, UK: Macmillan, 1971.
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- O’Donnell, William. A Guide to the Prose Fiction of W. B. Yeats. Ann Arbor, MI: UMI Research, 1983.
- Taylor, Richard. A Reader’s Guide to the Plays of W. B. Yeats. London: Macmillan, 1984.
- Unterecker, John. A Reader’s Guide to William Butler Yeats. Syracuse, NY: Syracuse University Press, 1996.
邦語文献(抜粋)
- 池田寛子『イェイツとアイリッシュ・フォークロアの世界 : 物語と歴史の交わるところ』彩流社、2011
- 出淵博『イェイツとの対話(出淵博著作集:1)』みすず書房、2000
- 伊藤宏見『存在の統一 : イェイツの思想と詩の研究』文化書房博文社、2007
- 伊藤宏見『イェイツ詩研究『クール湖上の白鳥』その他』北星堂書店、2004
- 岩田美喜『ライオンとハムレット : W・B・イェイツ演劇作品の研究』松柏社、2002
- 大野光子『イェイツとアングロ・アイリッシュ文学の伝統 : 植民地/帝国のジェンダー意識考察』京都修学社、1999
- 大森恵子『愛と叡智 : イェイツの世界』思潮社、2004
- 木原謙一『イェイツと仮面 : 死のパラドックス』彩流社、2001
- 木原誠『イェイツと夢 : 死のパラドックス』彩流社、2001
- 木村正俊編『文学都市ダブリン : ゆかりの文学者たち = City of literature Dublin』春風社、2017
- 日下隆平『イェイツとその周辺』大学教育出版、1999
- 杉山寿美子『祖国と詩 : W・B・イェイツ : 1865-1939』国書刊行会、2019
- 鈴木弘『図説 イェイツ詩辞典』本の友社、1994
- 武子和幸『イェイツの影の下で』国文社、1998
- 野中涼編『イェイツの詩を読む』思潮社、2000
- 萩原眞一『イェイツ : 自己生成する詩人』慶應義塾大学出版会、2010
- 前波清一『イェイツとアイルランド演劇』風間書房、1997
主な日本語訳
- 栗原古城 訳『戯曲 幻の海』赤城正蔵(アカギ叢書)、1914年 。
- 柳川龍之介 訳『「ケルトの薄明」より』新思潮(第1巻第3号)、1914年 。
- 芥川龍之介 訳『春の心臓』新潮社(梅・馬・鶯 :芥川竜之介随筆集)、1926年 。
- 『神秘の薔薇』 (井村君江・大久保直幹訳) 国書刊行会〈世界幻想文学大系24〉、新版1994年
- 『幻想録』 (島津彬郎訳) ちくま学芸文庫、2001年。旧版はパシフィカ、1978年
- 『イエーツ詩集』 (加島祥造編訳) 思潮社〈現代詩文庫〉
- 『ケルトの薄明』 (井村君江訳) ちくま文庫、1993年
- 『ケルト幻想物語』 (井村君江編訳) ちくま文庫、1987年
- 『ケルト妖精物語』 (井村君江編訳) ちくま文庫、1986年
- 『イエイツ詩抄』 (山宮允訳) 岩波文庫 1946年、復刊1988年ほか
- 『イエイツ詩選』 (山宮允訳) 吾妻書房 1955年
- 『イェイツ詩集』 (尾島庄太郎訳) 北星堂書店 1958年
- 『薔薇 イェイツ詩集』 (尾島庄太郎訳) 角川文庫 1999年
- 『W・B・イェイツ全詩集』 (鈴木弘訳) 北星堂書店 1982年
- 『まだらの鳥 自伝小説』 (島津彬郎訳) 人文書院 1997年
- 『イェイツ詩集』 (中林孝雄・中林良雄共訳) 松柏社 2001年(第4版)
- 『イェイツ詩集 塔』 (小堀隆司訳) 思潮社 2003年
- 『最後のロマン主義者 イエーツ訳詩集』 〈加島祥造セレクション1〉 港の人 2007年
- 『W・B・イェイツ詩集 塔』 (中林孝雄訳) 個人書店銀座店 2008年/角川学芸出版(増補版)2010年
- 『対訳 イェイツ詩集』 (高松雄一編) 岩波文庫 2009年
- 『ジョン・シャーマンとサーカスの動物たち』(栩木伸明編訳) 平凡社 2016年
- 『赤毛のハンラハンと葦間の風』(栩木伸明編訳)平凡社 2015年
- 『小説ジョン・シャーマンとドーヤ』(フィンネラン編・川上武志訳)英宝社 2017年
- 『幼年と少年時代の幻想』(川上武志訳)英宝社 2015年
外部リンク
作品など
- イエイツ ウィリアム・バトラー:作家別作品リスト - 青空文庫
- Books by W. B. Yeats (Project Gutenberg)
- Poetry by W.B. Yeats (Bibliomania)
- Alphabetical Listing of Poems by Yeats (California State University)
- Audiobook: "Where My Books Go" (LibriVox)
- ノーベル賞受賞講演「アイルランド演劇運動」(ノーベル財団)
- イェイツによる自作朗読の録音 (Open Culture, 2012)
年譜
- "William Buter Yeats" (Poetry Foundation)
- Online Exhibition: The Life and Works of William Butler Yeats (The National Library of Ireland)
関連団体・個人サイト
関連項目
- ケルト神話
- 黄金の夜明け団
- 象徴主義
- 神秘主義
- ジョン・ミリントン・シング
- オーガスタ・グレゴリー(グレゴリー夫人)
- エズラ・パウンド
- W・H・オーデン
- ラビンドラナート・タゴール
- 尾島庄太郎
- 井村君江
- ケルト人
- トール・バリリー - イエイツと家族が住んだ15世紀の要塞塔(イエイツ・タワー)
- クール・パーク - イエイツ住居から3マイルにあるゴールウェイ州の公園。
- グラーニアとディアーミッド
- サミュエル・ベケット級哨戒艦(3番艦の艦名に彼の名前が付けられた。)