「ストレプト植物」の版間の差分
m →特徴: 曖昧さ回避ページへのリンクの回避 |
編集の要約なし |
||
(他の1人の利用者による、間の2版が非表示) | |||
1行目: | 1行目: | ||
{{生物分類表 |
{{生物分類表 |
||
| |
|色 = 植物界 |
||
|名称 = ストレプト植物 |
|||
| 画像 = [[Image:Cyathea spp in Waipoua.jpg|250px|]]<!--画像は適当--> |
|||
|画像 = [[ファイル:The freshwater alga Spirogyra.jpg|250px|アオミドロ]]<br />[[ファイル: Cherry blossom flowers 1.jpg|250px|サクラ]] |
|||
| 画像キャプション = |
|||
|画像キャプション = (上) [[アオミドロ]] ([[接合藻]])<br />(下) [[サクラ]] ([[陸上植物]]) |
|||
| 名称 = ストレプト植物 |
|||
| |
|ドメイン = [[真核生物]] {{Sname||Eukaryota}} |
||
| |
|界 = [[植物界]] {{sname||Plantae}}<br/>([[アーケプラスチダ]] [[:w:Archaeplastida|Archaeplastida]]) |
||
|亜界 = [[緑色植物亜界]] {{sname||Viridiplantae}}<br /> |
|||
[[アーケプラスチダ]] [[:w:Archaeplastida|Archaeplastida]] |
|||
|亜界階級なし = '''ストレプト植物''' {{sname||Streptophyta}} |
|||
| 亜界 = [[緑色植物亜界]] [[:w:Viridiplantae|Viridiplantae]] |
|||
|学名 = {{Sname||Streptophyta}}<ref group="注">これは下界の分類群名としての学名の場合である。</ref><br /> {{AUY|Cavalier-Smith in Lewin|1993}} |
|||
| 門 = '''ストレプト植物門 [[:w:Streptophyta|Streptophyta]]'''<br /><small>Bremer, 1985</small> |
|||
|英名 = streptophytes |
|||
| 亜門 = '''ストレプト植物亜門 [[:w:Streptophytina|Streptophytina]]'''<br /><small>Lewis and McCourt, 2004</small> |
|||
| |
|下位分類名 = 下位分類 |
||
| |
|下位分類 = |
||
*[[メソスティグマ藻綱]] {{Sname||Mesostigmatophyceae}} |
|||
* [[陸上植物]] [[:w:Embryophyte|land plants]] |
|||
*[[クロロキブス藻綱]] {{Sname||Chlorokybophyceae}}<ref group="注" name="Chlorokybophyceae" /> |
|||
*[[クレブソルミディウム科|クレブソルミディウム藻綱]] {{Sname||Klebsormidiophyceae}} |
|||
*[[シャジクモ類|シャジクモ綱]] {{Sname||Charophyceae}} |
|||
*[[コレオケーテ藻綱]] {{Sname||Coleochaetophyceae}} |
|||
*[[接合藻|ホシミドロ綱]] {{Sname||Zygnematophyceae}} |
|||
*[[陸上植物]] {{Sname||Embryophyta}} |
|||
}} |
}} |
||
'''ストレプト植物''' (ストレプトしょくぶつ) ([[英語|英]]:streptophytes) は、[[緑色植物亜界|緑色植物]]を構成する2つの大きな系統群のうちの1つ (もう1つは[[緑藻植物]])、またはそれに属する生物のことである。緑色植物における最大のグループである[[陸上植物]]とともに、それに近縁な[[緑藻]] ([[接合藻]]、[[シャジクモ類]]など) を含む。単細胞のものから複雑な多細胞体を形成するものまでさまざまな体制の生物が含まれる。[[有糸分裂|核分裂]]は開放型 (核膜が消失する)、[[細胞質分裂]]時に[[隔膜形成体|フラグモプラスト]] (分裂面に垂直な[[微小管]]群) が生じるものが多い。鞭毛細胞は、発達した多層構造体 (MLS) を伴う側方型の鞭毛装置をもつ。多くは陸上または淡水域に生育する。特に陸上植物は、[[生産者]]として陸上生態系を支える存在である。 |
|||
分類学的には、ストレプト植物門またはストレプト植物下界 ([[学名]]:{{Sname||Streptophyta}}) とされることがある。陸上植物以外のストレプト植物は、車軸藻綱 (シャジクモ藻綱) にまとめられることが多かったが、このまとまりは明らかに非[[単系統群]]であり、2019年現在では複数の[[綱 (分類学)|綱]]または[[門 (分類学)|門]]に分けられることが多い。近年では、このような陸上植物以外のストレプト植物は、'''ストレプト藻''' (streptophyte algae) と総称されることがある。 |
|||
'''ストレプト植物'''(ストレプトしょくぶつ)とは、広義の[[緑色植物]](=緑色植物亜界)の中の分類群である。 |
|||
ストレプト(''strepto-'', ''strepsis'')は[[ギリシア語]]で「らせん」を意味し、[[シャジクモ類]] (狭義) と陸上植物の[[精子]]がらせん状にねじれていることに由来する。当初はシャジクモ類 (狭義) と陸上植物からなる系統群に対する名称として提唱された<ref name="Jeffrey1971">{{cite journal|author=Jeffrey, C.|year=1971|title=Thallophytes and kingdoms—a critique|journal=Kew Bull.|volume=25|pages=291–299|doi=10.2307/4103226}}</ref><ref group="注">2019年現在、シャジクモ類 (狭義) と陸上植物が姉妹群であるとする仮説は支持されていない (本文参照)。</ref>。その後、陸上植物に近縁なシャジクモ類以外の緑藻 (接合藻など) も含む意味で使われるようになった<ref name="Bremer1985" /><ref group="注">ただし、ストレプト植物のその他のグループ ([[コレオケーテ類]]、[[クレブソウミディウム科|クレブソウミディウム類]]など) の鞭毛細胞は、らせん状ではない (Hoek ''et al.'' 1995; Graham ''et al.'' 2016)。</ref>。 |
|||
単にストレプト植物と言った場合には、ストレプト植物門([[:w:Streptophyta|Streptophyta]])を意味することが多く、[[陸上植物]](有胚植物)と[[車軸藻類]]を含み、[[緑藻植物門]] {{sname||Chlorophyta}}を含まないような最大の単系統群を意味する。また、ストレプト植物亜門([[:w:Streptophytina|Streptophytina]])という分類もあり、これは狭義[[車軸藻類]]と[[陸上植物]](有胚植物)とを含むような最小の単系統群の意味となる。 |
|||
ストレプト(''strepto-'', ''strepsis'')は[[ギリシア語]]で「螺旋」を意味し、このグループ(接合藻を除く)の[[精子]]が螺旋状にねじれていることに由来する。広義車軸藻類の中の[[接合藻]]類は精子のような遊泳細胞、[[鞭毛]]、[[基底小体]]を欠く特異な群であるが、[[細胞分裂]]の様式などからストレプト植物に含められている。 |
|||
== 特徴 == |
== 特徴 == |
||
ストレプト植物の体制は多様である<ref name="Chihara1999">{{cite book|author=千原 光雄 (編)|year=1999|title=バイオディバーシティ・シリーズ (3) 藻類の多様性と系統|publisher=裳華房|pages=386|isbn=978-4785358266}}</ref><ref name="Inouye2006">{{cite book|author=井上 勲|year=2006|title=藻類30億年の自然史 -藻類からみる生物進化-|publisher=東海大学出版会|isbn=4486017773}}</ref><ref name="Hoek1995">{{cite book|author=van den Hoek, C., Mann, D., Jahns, H. M. & Jahns, M.|year=1995|chapter=|editor=|title=Algae: an introduction to phycology|publisher=Cambridge University Press|isbn=978-0521316873|pages=}}</ref><ref name="Leliaert2012">{{cite journal|author=Leliaert, F., Smith, D.R., Moreau, H., Herron, M.D., Verbruggen, H., Delwiche, C.F. & De Clerck, O.|year=2012|title=Phylogeny and molecular evolution of the green algae|journal=Critical Reviews in Plant Sciences|volume=31|pages=1-46|url=https://frederikleliaert.files.wordpress.com/2013/05/2012_leliaert_crps.pdf}}</ref><ref name="Graham2016" /><ref name="Hara1994">{{cite book|author=原 襄|year=1994|chapter=|editor=|title=植物形態学|publisher=朝倉書店|isbn=4-254-17086-6|pages=180}}</ref><ref name="Gifford2002" /> (下図)。[[単細胞生物|単細胞]]鞭毛性のもの ([[メソスティグマ藻綱]]) から単細胞不動性 ([[接合藻]]の多くなど)、群体性 ([[クロロキブス藻綱]]など)、無分枝糸状性 ([[クレブソルミディウム科|クレブソウミディウム藻綱]]の多く、接合藻の一部)、分枝糸状性 ([[コレオケーテ藻綱]]など)、さらに[[陸上植物]]のように複雑な[[多細胞生物|多細胞体]]を形成するものまでいる。 |
|||
ストレプト植物の特長には以下のものがある。 |
|||
栄養細胞は、ふつう[[セルロース]]や[[ヘミセルロース]]、[[ペクチン]]を含む[[細胞壁]]で囲まれている<ref name="Leliaert2012" /><ref name="Graham2016" />。[[クロロキブス藻綱]]や[[クレブソルミディウム科|クレブソウミディウム藻綱]]の細胞壁は、[[陸上植物]]や[[コレオケーテ藻綱]]にくらべてセルロースが少ない反面[[カロース]]が多く、また[[ペクチン#ラムノガラクツロナン‐I|ラムノガラクツロナン‐I]]を欠く<ref name="Cook2016">{{cite book|author=Cook, M. E. & Graham, L. E.|year=2016|chapter=Chlorokybophyceae, Klebsormidiophyceae, Coleochaetophyceae|editor=Archibald, J.M. et al. (eds.)|title=Handbook of the Protists|publisher=Springer International Publishing|doi=10.1007/978-3-319-28149-0_36|pages=185–204}}</ref>。クレブソウミディウム藻綱は、[[ペクチン#ホモガラクツロナン|ホモガラクツロナン]]を欠く。[[細胞膜]]中のセルロース合成酵素複合体は、ロゼット型<ref name="Okuda1992">{{cite journal|author=Okuda, K. & Brown, R. M.|year=1992|title=A new putative cellulose-synthesizing complex of ''Colechaete scutata''|journal=Protoplasma|volume=168|pages=51–63|doi=}}</ref>。例外的に、[[メソスティグマ藻綱]]の栄養細胞は細胞壁を欠き、[[プラシノ藻]]に一般的な有機質鱗片で覆われている<ref name="Graham2016" /><ref>{{cite journal|author=Domozych, D. S., Wells, B. & Shaw, P. J.|year=1992|title=Scale biogenesis in the green alga, ''Mesostigma viride''|journal=Protoplasma|volume=167|pages=19-32|doi=10.1007/BF01353577}}</ref>。またクロロキブス藻綱やコレオケーテ藻綱、[[シャジクモ類]]の鞭毛細胞も、有機質鱗片で覆われている<ref name="Graham2016" />。 |
|||
* 非生殖細胞を含む[[生殖器官]]が発達し、[[有性生殖]]を行う。接合藻では[[接合 (生物)|接合]]と呼ばれる有性生殖を行う。 |
|||
* 開放型(=核膜崩壊型)の[[細胞核]]分裂を行う。 |
|||
* 中間紡錘体が残存性である。 |
|||
* [[細胞質分裂]]の際は[[娘細胞]]間に[[フラグモプラスト]](phragmoplast、隔膜形成体)と呼ばれる[[微小管]]性の細胞板構造が形成される。 |
|||
{{multiple image |
|||
このようなストレプト植物に対し、狭義の[[緑藻植物門]]に属する[[緑藻|緑藻類]]などでは核膜残存型の細胞分裂、崩壊性中間紡錘体、[[ファイコプラスト]](phycoplast)といった特徴がみられる。 |
|||
| total_width = 600 |
|||
| align = left |
|||
| caption_align = left |
|||
| image1 = Cosmarium201512081550.JPG |
|||
== 階級分類の整合性 == |
|||
| alt1 = 単細胞 |
|||
このストレプト植物という分類は、その下位分類に後生植物と藻類とを含む。つまり、それまで別々の体系の下にあったものを姉妹群としているため、これらを同一系統樹内で、階級分類の整合性を合わせるために、ひと工夫を要するのである。具体的な例で言うと、[[単子葉類]]は[[綱 (分類学)|綱]]の階級にあたるが、その上位の[[被子植物]]、[[種子植物]]、[[真葉植物]]、[[維管束植物]]、[[陸上植物]]、およびストレプト植物の各階級のそれぞれに[[門 (分類学)|門]]の可能性がある。この問題が解決され、体系が安定的に理解されるためには、もう少し時間が必要である。[[車軸藻植物門]]も参照のこと。 |
|||
| caption1 = 単細胞性のツヅミモ属 ([[接合藻]]綱) |
|||
| image2 = Klebsormidium bilatum Belgium (14759117646).jpg |
|||
| alt2 = 糸状 |
|||
| caption2 = 無分枝糸状性のクレブソルミディウム属 ([[クレブソルミディウム科|クレブソルミディウム藻属]]) |
|||
| image3 = Nitella mucronata quirl.jpeg |
|||
なお、大枠では、陸上植物の直下とその同レベルに適量数の門を置くのが、本来的な立場である。その上で「陸上植物」を階級なしとする例が、ネット上では多いようである。ストレプト植物に関しては、下界もしくは階級なしといった例が見られる。 |
|||
| alt3 = 分枝糸状性 |
|||
| caption3 = 複雑な分枝糸状性のキヌフラスコモ ([[シャジクモ類|シャジクモ綱]]) |
|||
| image4 = Lepisorus thunbergianus.jpg |
|||
== 分類 == |
|||
| alt4 = 多細胞性 |
|||
{| class="wikitable" style="background-color:#fff; margin-left: 0.5em;" |
|||
| caption4 = 組織分化を伴う多細胞性のノキシノブ ([[陸上植物]]) |
|||
}} |
|||
{{-}} |
|||
ストレプト植物の中で、[[メソスティグマ藻綱|メソスティグマ]]のみが栄養体に[[鞭毛]]をもつ<ref name="Graham2016" /><ref name="Manton1965">{{cite journal|author=Manton, I. & Ettl, H.|year=1965|title=Observations on the fine structure of ''Mesostigma viride'' Lauterborn|journal=J. Linn. Soc. Bot.|volume=59|pages=175-184|doi=10.1111/j.1095-8339.1965.tb00056.x}}</ref>。それ以外のグループでは、生活環の一時期にのみ[[遊走子]]や[[精子]]など鞭毛をもつ細胞を形成するか、もしくは鞭毛細胞を全く欠く ([[接合藻]]、大部分の[[種子植物]])<ref name="Graham2016" /><ref name="Gifford2002">{{cite book|author=アーネスト・ギフォード & エイドリアンス・フォスター (著) 長谷部 光泰, 鈴木 武 & 植田 邦彦 (監訳)|year=2002|chapter=|editor=|title=維管束植物の形態と進化|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829921609|pages=643}}</ref>。鞭毛細胞では、基本的に2本の鞭毛が平行に、側方または後方に伸びている。[[維管束植物]]の精子は基本的に多鞭毛性であるが、[[種子植物]]の大部分 ([[イチョウ]]と[[ソテツ類]]以外) は鞭毛を欠く。鞭毛装置は非対称の側方型 (メソスティグマ藻綱を除く)。1本の微小管性鞭毛根(1d, R1)が発達して'''多層構造体'''(multilayered structure, '''MLS''')を形成し、それ以外の微小管性鞭毛根が退化的である<ref name="Chihara1999" /><ref name="Inouye2006" /><ref>{{cite journal|author=O'Kelly, C. J. & Floyd, G. L.|year=1983|title=Flagellar apparatus absolute orientations and the phylogeny of the green algae|journal=BioSystems|volume=16|pages=227-251|doi=10.1016/0303-2647(83)90007-2}}</ref><ref name="Melkonian1984">{{cite book|author=Melkonian, M.|year=1984|chapter=Flagellar apparatus ultrastructure in relation to green algal classification|editor=Irvine, D. E. G. & John, D. M. (eds.)|title=Systematics of the Green Algae|publisher=Academic Press, London|isbn=|pages=73-120}}</ref>。鞭毛細胞は眼点を欠く (メソスティグマ藻綱を除く)。 |
|||
[[有糸分裂|核分裂]]は'''開放型''' (核分裂時に[[核膜]]が消失する)、中間[[紡錘体]]は残存性<ref name="Chihara1999" /><ref name="Leliaert2012" /><ref name="Graham2016" /><ref name="Buschmann2016">{{cite journal|author=Buschmann, H. & Zachgo, S.|year=2016|title=The evolution of cell division: from streptophyte algae to land plants|journal=Trends in Plant Science|volume=21|pages=872-883|doi=10.1016/j.tplants.2016.07.004}}</ref>。[[細胞質分裂]]は求心的な細胞膜の陥入、または遠心的な細胞板形成による。後者の場合、分裂面に'''[[隔膜形成体|フラグモプラスト]]''' ([[隔膜形成体]] phragmoplast) とよばれる分裂面に垂直な[[微小管]]群が生じる。細胞板形成・フラグモプラストによる細胞質分裂を行うものでは、これによって姉妹細胞間に[[原形質連絡]]が形成される<ref name="Leliaert2012" /><ref name="Graham2016" />。 |
|||
[[接合藻]]、[[シャジクモ類]]、[[陸上植物]]以外のグループは、細胞中に1個の葉緑体もつ。接合藻では、1細胞当たりの葉緑体数は1個から数個までさまざまである<ref name="Graham2016" />。これらのグループは、ふつう葉緑体中に[[ピレノイド]]が存在する<ref name="Graham2016" />。一方、シャジクモ類と陸上植物は、1細胞中に多数の葉緑体をもち、葉緑体はピレノイドを欠く ([[ツノゴケ類]]は例外的であり、ふつうピレノイドを含む葉緑体を1個もつ)<ref name="Graham2016" /><ref name="Kato1997" />。[[緑色植物亜界|緑色植物]]に典型的な光合成色素組成 ([[クロロフィル]] ''a, b''、[[ルテイン]]、[[ネオキサンチン]]、[[ゼアキサンチン]]、[[β-カロテン]]、ときに[[ロロキサンチン]]) をもつものが多いが、[[メソスティグマ藻綱|メソスティグマ]]はこれらの色素に加えて[[シフォナキサンチン]]をもつ。[[光呼吸]] (グリコール酸代謝) は、[[ペルオキシソーム]]中のグリコール酸酸化酵素 (glycolate oxidase) による<ref name="Leliaert2012" /><ref name="Graham2016" />。銅/亜鉛型[[スーパーオキシドディスムターゼ]] (Cu/Zn superoxide dismutase) をもつ。 |
|||
ストレプト植物の中で、[[接合藻]]綱、[[コレオケーテ藻綱]]、[[シャジクモ類]]および[[陸上植物]]において、[[有性生殖]]が報告されている。接合藻では栄養細胞が対になってそのまま細胞質が融合する現象である接合 (conjugation) を行うが、コレオケーテ藻綱、シャジクモ類および陸上植物では不動性で大型の[[配偶子]]である[[卵細胞|卵]]と小型の配偶子である[[精子]] (または精細胞) の融合である卵生殖 (oogamy) を行う<ref name="Chihara1999" /><ref name="Graham2016" /><ref name="Kato1997" />。シャジクモ類と陸上植物は、これら配偶子を形成する多細胞性の配偶子嚢をつくる。接合藻、コレオケーテ類、シャジクモ類では、配偶子合体の結果生じた[[接合子]] (受精卵) は[[減数分裂]]を行って単相の栄養体を生じる。一方、陸上植物では接合子は母体上で細胞分裂して[[胚]]となり、複相のまま胞子体へと成長する<ref name="Kato1997">{{cite book|author=加藤 雅啓 (編)|year=1997|title=バイオディバーシティ・シリーズ (2) 植物の多様性と系統|publisher=裳華房|pages=334|isbn=978-4-7853-5825-9}}</ref>。 |
|||
==生態== |
|||
ストレプト藻 (陸上植物以外のストレプト植物) は淡水域に生育するものが多いが ([[シャジクモ類]]、[[接合藻]]など)、土壌や岩・壁上など陸上域に生育する種もいる ([[クロロキブス藻綱|クロロキブス]]、[[クレブソルミディウム科|クレブソルミディウム類]])<ref name="Graham2016" /><ref name="Cook2016" />。一方、[[陸上植物]]は基本的に陸上域に生育し、陸上生態系の主要な[[生産者]]の役割を担っている。また陸上植物の中には、二次的に淡水または海水に進出したものもいる ([[水草]]、[[海草]])。 |
|||
ストレプト藻の多くが淡水性であることから、ストレプト植物は最初は淡水で多様化したと考えられている。その中で陸上環境への進出が何度か起こり ([[クロロキブス藻綱]]、[[クレブソルミディウム科|クレブソルミディウム類]]、[[陸上植物]])、特に陸上植物が大繁栄を遂げたと考えられている<ref name="Becker2009" /><ref>{{cite journal|author=Holzinger, A., Kaplan, F., Blaas, K., Zechmann, B., Komsic-Buchmann, K. & Becker, B.|year=2014|title=Transcriptomics of desiccation tolerance in the streptophyte green alga ''Klebsormidium'' reveal a land plant-like defense reaction.|journal=PloS One|volume=9|pages=e110630|doi=10.1371/journal.pone.0110630}}</ref><ref name="Pierangelini2019">{{cite journal|author=Pierangelini, M., Glaser, K., Mikhailyuk, T., Karsten, U. & Holzinger, A.|year=2019|title=Light and dehydration but not temperature drive photosynthetic adaptations of basal streptophytes (''Hormidiella, Streptosarcina and Streptofilum'') living in terrestrial habitats|journal=Microbial Ecology|volume=77|pages=380-393|doi=10.1007/s00248-018-1225-x}}</ref>。 |
|||
==系統と分類== |
|||
===進化・系統=== |
|||
[[陸上植物]]と[[緑藻]]は、光合成色素組成や貯蔵多糖、鞭毛細胞などさまざまな特徴を共有しており、近縁な生物群であることは古くから認識されていた<ref name="Smith1950">{{cite book|author=Smith, G. M.|year=1950|chapter=|editor=|title=The Freshwater Algae of the United States|publisher=McGraw-Hill, New York|isbn=|pages=}}</ref><ref name="Lewis2004">{{cite journal|author=Lewis, L. A. & McCourt, R. M.|year=2004|title=Green algae and the origin of land plants|journal=American Journal of Botany|volume=91|pages=1535-1556|doi=10.3732/ajb.91.10.1535}}</ref>。陸上植物は緑藻様の生物から進化したと考えられていたが、特にフリッチエラ属 ({{Snamei||Fritschiella}}) のような陸生の分枝糸状性緑藻が陸上植物の祖先に近いと考えられることが多かった (現在ではフリッチエラ属は[[緑藻綱]]に分類されており、陸上植物に近縁であるとは考えられていない)<ref name="Kato1997" />。 |
|||
しかし1970年代から、微細構造 ([[鞭毛装置]]、[[細胞分裂]]様式) や生化学的特徴の研究をもとに緑色植物の系統関係が再考されるようになり、[[シャジクモ類]]や[[コレオケーテ類]]、[[接合藻]]などの緑藻が、[[陸上植物]]に近縁であると考えられるようになった<ref name="Stewart1975">{{cite journal|author=Stewart,K.D. & Mattox, K. R.|year=1975|title=Comparative cytology, evolutionand classification of the green algae, with some consideration of theorigin of other organisms with chlorophylls ''a'' and ''b''.|journal=Botanical Review41|volume=41|pages=104–135|doi=}}</ref><ref name="Mattox1984">{{cite book|author=Mattox, K. R. & Stewart, K. D.|year=1984|chapter=Classification of the green algae: a concept based on comparative cytology|editor=Irvine, D. E. G. & John, D. (eds.)|title=The Systematics of the Green Algae|publisher=Academic Press, New York|isbn=|pages=29-72}}</ref><ref name="Chihara1999">{{cite book|author=千原 光雄 (編)|year=1999|title=バイオディバーシティ・シリーズ (3) 藻類の多様性と系統|publisher=裳華房|pages=386|isbn=978-4785358266}}</ref>。このような系統仮説は分子系統学的研究からも支持され、広く受け入れられるようになった<ref name="Leliaert2012">{{cite journal|author=Leliaert, F., Smith, D.R., Moreau, H., Herron, M.D., Verbruggen, H., Delwiche, C.F. & De Clerck, O.|year=2012|title=Phylogeny and molecular evolution of the green algae|journal=Critical Reviews in Plant Sciences|volume=31|pages=1-46|url=https://frederikleliaert.files.wordpress.com/2013/05/2012_leliaert_crps.pdf}}</ref>。このように明らかとなった、陸上植物と一部の緑藻 ([[シャジクモ類]]、[[接合藻]]など) を含む系統群は、現在ではストレプト植物とよばれている。 |
|||
{{cladogram |
|||
|caption='''ストレプト植物内の系統仮説の一例'''<ref name="Leliaert2012" /><ref name="Karol2001" /><ref name="Timme2012" /><ref name="Wickett2014" />. |
|||
|align=center |
|||
|width= |
|||
|clades={{clade| style=font-size:80%;line-height:100%; |
|||
|grouplabel1='''ストレプト藻'''<br />(広義の車軸藻綱、シャジクモ藻類) |
|||
|label1='''ストレプト植物''' |
|||
|1={{Clade |
|||
|1='''[[メソスティグマ藻綱]]'''|barbegin1=green |
|||
|2='''[[クロロキブス藻綱]]''' (およびスピロタエニア属)|bar2=green |
|||
|3={{Clade |
|||
|1='''[[クレブソルミディウム科|クレブソルミディウム藻綱]]'''|bar1=green |
|||
|label2=フラグモプラスト植物 |
|||
|2={{Clade |
|||
|1='''[[車軸藻類|シャジクモ綱]]'''|bar1=green |
|||
|2={{Clade |
|||
|1='''[[コレオケーテ藻綱]]'''|bar1=green |
|||
|2={{Clade |
|||
|1={{Nowrap|'''[[接合藻]]''' (ホシミドロ綱)}}|barend1=darkgreen |
|||
|2='''[[陸上植物]]''' |
|||
}} |
|||
}} |
|||
}} |
|||
}} |
|||
}} |
|||
}} |
|||
}} |
|||
{{-}} |
|||
ストレプト植物の中では、[[メソスティグマ藻綱]]と[[クロロキブス藻綱]]が初期に分岐したと考えられている。メソスティグマ藻綱は鞭毛をもつ栄養細胞や眼点などの祖先形質をもち、一部の分子系統解析からはストレプト植物の中で最も初期に分岐したことが示唆されている<ref name="Karol2001" />。しかし多くの研究では、メソスティグマ藻綱とクロロキブス藻綱が[[姉妹群]]であることが示唆されている<ref>{{cite journal|author=Lemieux, C., Otis, C. & Turmel, M.|year=2007|title=A clade uniting the green algae ''Mesostigma viride'' and ''Chlorokybus atmophyticus'' represents the deepest branch of the Streptophyta in chloroplast genome-based phylogenies|journal=BMC Biology|volume=5|pages=2|doi=}}</ref><ref name="O.T.P.T.I.2019" /><ref group="注" name="MesoChloro">そのため、両群をメソスティグマ藻綱まとめることもある (Cheng ''et al.'' 2019)。</ref>。残りのストレプト植物の中では、[[クレブソルミディウム科|クレブソルミディウム藻綱]]が最初に分岐、残る4群 ([[接合藻綱]]、[[コレオケーテ藻綱]]、[[シャジクモ類]]および[[陸上植物]]) が単系統群を構成していることが強く支持されている<ref name="O.T.P.T.I.2019" />。この4群は[[細胞質分裂]]時にフラグモプラスト ([[隔膜形成体]]) を形成するため (ただし接合藻の中にはこれを欠くものもいる)、この単系統群は'''フラグモプラスト植物''' ({{Sname||Phragmoplastophyta}}) とよばれる<ref name="Adl2019">{{cite journal|author=Adl, S. M., Bass, D., Lane, C. E., Lukeš, J., Schoch, C. L., Smirnov, A., ... & Cárdenas, P.|year=2019|title=Revisions to the classification, nomenclature, and diversity of eukaryotes.|journal=Journal of Eukaryotic Microbiology|volume=66|pages=4-119|url=https://doi.org/10.1111/jeu.12691}}</ref> (上図)。 |
|||
フラグモプラスト植物の中では、[[シャジクモ類]] (狭義)、[[コレオケーテ藻綱]]、[[陸上植物]]の3群が[[原形質連絡]]、[[先端成長]]、卵生殖などの形質を共有している<ref name="Graham2016" />。さらにシャジクモ類と陸上植物で共通する特徴が多く (多細胞性の生殖器、らせん状の[[精子]]、[[中心小体]]の欠如、[[ピレノイド]]を欠く多数の盤状[[葉緑体]]など)、また一部の分子系統学的研究からも両者の近縁性が支持されたことから<ref name="Karol2001">{{cite journal|author=Karol,K. G.,McCourt,R. M.,Cimino,M. T. & Delwiche,C. F.|year=2001|title=The closest living relatives of land plants|journal=Science|volume=294|pages=2351-2353|doi=10.1126/science.1065156}}</ref><ref name="Qiu2007">{{cite journal|author=Qiu, Y. L., Li, L., Wang, B., Chen, Z., Dombrovska, O., Lee, J., ... & Taylor, D. W.|year=2007|title=A nonflowering land plant phylogeny inferred from nucleotide sequences of seven chloroplast, mitochondrial, and nuclear genes|journal=International Journal of Plant Sciences|volume=168|pages=691-708|doi=10.1086/513474}}</ref>、一般的にシャジクモ類が陸上植物に最も近縁なストレプト藻であると考えられていた。 |
|||
しかし2010年代、より大量のデータに基づいた分子系統解析からは、[[シャジクモ類]]よりも[[コレオケーテ藻綱]]や[[接合藻]]綱、特に後者が陸上植物に近縁であることが示唆されている<ref name="Wodniok2011">{{cite journal|author=Wodniok, S., Brinkmann, H., Glöckner, G., Heidel, A. J., Philippe, H., Melkonian, M. & Becker, B.|year=2011|title=Origin of land plants: do conjugating green algae hold the key?|journal=BMC Evolutionary Biology|volume=11|pages=104|doi=10.1186/1471-2148-11-104}}</ref><ref name="Timme2012">{{cite journal|author=Timme, R. E., Bachvaroff, T. R. & Delwiche, C. F.|year=2012|title=Broad phylogenomic sampling and the sister lineage of land plants|journal=PLoS One|volume=7|pages=e29696|doi=10.1371/journal.pone.0029696}}</ref><ref name="Wickett2014">{{cite journal|author=Wickett, N.J., Mirarab, S., Nguyen, N., Warnow, T., Carpenter, E., Matasci, N., Ayyampalayam, S., Barker, M.S., Burleigh, J.G., Gitzendanner, M.A., et al.|year=2014|title=Phylotranscriptomic analysis of the origin and early diversification of land plants|journal=Proc Natl. Acad. Sci. USA|volume=111|pages=E4859-4868|doi=10.1073/pnas.1323926111}}</ref><ref>{{cite journal|author=Zhong, B., Xi, Z., Goremykin, V. V., Fong, R., Mclenachan, P. A., Novis, P. M., ... & Penny, D.|year=2013|title=Streptophyte algae and the origin of land plants revisited using heterogeneous models with three new algal chloroplast genomes|journal=Molecular Biology and Evolution|volume=31|pages=177-183|doi=10.1093/molbev/mst200}}</ref><ref name="O.T.P.T.I.2019">{{cite journal|author=O.T.P.T.I. [= One Thousand Plant Transcriptomes Initiative]|year=2019|title=One thousand plant transcriptomes and the phylogenomics of green plants|journal=Nature|volume=574|pages=679-685|doi=}}</ref> (上図)。この場合、シャジクモ類やコレオケーテ類に見られ、接合藻には見られない陸上植物との共通点 (上記) は、接合藻において二次的に失われた形質であることが示唆されている<ref name="Timme2012" />。 |
|||
===分類=== |
|||
ストレプト植物は、特に階級を定めない系統群名、または[[門 (分類学)|門]]<ref name="Bremer1985">{{cite journal|author=Bremer, K.|year=1985|title=Summary of green plant phylogeny and classification|journal=Cladistics|volume=1|pages=369–385|doi=10.1111/j.1096-0031.1985.tb00434.x}}</ref>や下界<ref name="Guiry2019" /><ref name="Cavalier-Smith1993">{{cite book|author=Cavalier-Smith, T.|year=1993|chapter=The origin, losses and gains of chloroplasts|editor=Lewin, R.A. (ed.)|title=Origin of Plastids: Symbiogenesis, Prochlorophytes and the Origins of Chloroplasts|publisher=Chapman & Hall, New York|isbn=978-1-4613-6218-0|pages=291–348}}</ref><ref name="Ruggiero2015">{{cite journal|author=Ruggiero, M.A., Gordon, D.P., Orrell, T.M., Bailly, N., Bourgoin, T., Brusca, R.C., Cavalier-Smith, T., Guiry, M.D. & Kirk, P.M.|year=2015|title=A higher level classification of all living organisms|journal=PLoS One|volume=10|pages=e0119248|doi=10.1371/journal.pone.0119248}}</ref>の階級の分類群名 ({{Sname||Streptophyta}}) として使われる。 |
|||
ストレプト植物は、[[陸上植物]]と共に、([[クロレラ]]などの[[緑藻]]に対してよりも) 陸上植物に近縁な緑藻を含む。1980年代から、このような緑藻は車軸藻綱<ref name="Chihara1999" />またはシャジクモ藻綱<ref>{{cite book|author=伊藤 元己|year=2012|chapter=|editor=|title=植物の系統と進化|publisher=裳華房|isbn=978-4785358525|pages=168}}</ref> ([[学名]]:Charophyceae) に分類されていた<ref name="Mattox1984" />。しかし上記のように、これらの緑藻は単系統群ではなく、陸上植物に対して側系統群であるが、このことは当初から認識されていた。その後、分類体系から側系統群を排除することが一般的になると、車軸藻綱は分解され、それぞれ独立の[[綱 (分類学)|綱]]として扱われるようになった<ref name="Guiry2019">Guiry, M.D. & Guiry, G.M. (2019) AlgaeBase. World-wide electronic publication, Nat. Univ. Ireland, Galway. http://www.algaebase.org; searched on 7 December 2019.</ref> (上記のように、このうち[[メソスティグマ藻綱|メソスティグマ藻]]と[[クロロキブス藻綱|クロロキブス藻]]は姉妹群であることが示されることが多く、メソスティグマ藻綱にまとめられることもある<ref name="Cheng2019">{{cite journal|author=Cheng, S., Xian, W., Fu, Y., Marin, B., Keller, J., Wu, T., ... & Wittek, S.|year=2019|title=Genomes of subaerial Zygnematophyceae provide insights into land plant evolution|journal=Cell|volume=179|pages=1057-1067|doi=10.1016/j.cell.2019.10.019}}</ref>)。これらの綱は[[車軸藻植物門]] (Charophyta) にまとめられることもあるが<ref name="Guiry2019" />、このまとまりは広義の車軸藻綱と同一であり、単系統群ではない。そのため、これらの綱はそれぞれ独立の[[門 (分類学)|門]]に分類することもある<ref name="Nakada">仲田 崇志. [http://www2.tba.t-com.ne.jp/nakada/takashi/taxonomy/taxonomy.html 生物分類表.] ''きまぐれ生物学''.</ref><ref name="Iwasa2013">{{cite book|author=巌佐 庸, 倉谷 滋, 斎藤 成也 & 塚谷 裕一 (編)|year=2013|chapter=|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|pages=2192}}</ref>。これらの緑藻の総称としては、'''ストレプト藻''' (streptophyte algae) の名が使われることがある<ref name="Becker2009">{{cite journal|author=Becker, B. & Marin, B.|year=2009|title=Streptophyte algae and the origin of embryophytes|journal=Annals of Botany|volume=103|pages=999-1004|doi=10.1093/aob/mcp044}}</ref><ref name="Wodniok2011" /><ref name="Graham2016">{{cite book|author=Graham, L.E., Graham, J.M., Wilcox, L.W. & Cook, M.E.|year=2016|chapter=|editor=|title=Algae. 3rd ed.|publisher=LJLM Press|isbn=978-0-9863935-3-2|pages=}}</ref>。 |
|||
ストレプト植物の中には、およそ7個の系統群が認識されている (下表)。これら以外のものとして、[[接合藻]]に分類されていたスピロタエニア属 ({{Snamei||Spirotaenia}}) がある。スピロタエニア属は接合藻とは異なる系統に属し、[[クロロキブス藻綱]]に近縁であることが分子系統学的研究から示唆されている<ref name="O.T.P.T.I.2019" /><ref name="Gontcharov2004">{{cite journal|author=Gontcharov, A. A. & Melkonian, M.|year=2004|title=Unusual position of the genus ''Spirotaenia'' (Zygnematophyceae) among streptophytes revealed by SSU rDNA and rbcL sequence comparisons|journal=Phycologia|volume=43|pages=105-113|doi=10.2216/i0031-8884-43-1-105.1}}</ref>。またストレプトフィルム属 ({{Snamei||Streptofilum}}) はストレプト植物に属することが示されているが、ストレプト植物内での位置は明らかになっていない (2019年現在)<ref name="Pierangelini2019" />。 |
|||
<span id="classes"></span> |
|||
{| class="wikitable" style="margin:0 auto; font-size:80%;" |
|||
|+ ストレプト植物に含まれる7群の特徴<ref name="Chihara1999" /><ref name="Leliaert2012" /><ref name="Graham2016" /> |
|||
! 系統群 !! 体制 !! 鞭毛細胞 !! 鞭毛装置 !! 鱗片<ref group="注">鞭毛細胞の鱗片</ref> !! 眼点<ref group="注">鞭毛細胞の眼点</ref> !! 葉緑体<ref group="注">1細胞あたりの数とピレノイド (P) の有無</ref> !! 細胞質分裂<ref group="注">フ = フラグモプラスト ([[隔膜形成体]])</ref> !! 生活環 !! 有性生殖 !! 生育環境<ref group="注">カッコ内は少数例</ref> |
|||
|- |
|- |
||
! [[メソスティグマ藻綱]] |
|||
|rowspan="12"| [[緑色植物亜界]] {{sname||Viridiplantae}} |
|||
| 単細胞鞭毛性 || 栄養体 || 交叉型 || あり || あり || 1個+P || ? || 不明 || 不明 || 淡水 |
|||
|rowspan="4"| [[緑藻植物門]] {{sname||Chlorophyta}} |
|||
|colspan="5"| [[緑藻綱]] {{sname||Chlorophyceae}} |
|||
|- |
|- |
||
! [[クロロキブス藻綱]]<ref group="注" name="Chlorokybophyceae">メソスティグマ藻綱に含めることもある (Cheng ''et al.'' 2019)。</ref> |
|||
|colspan="5"| [[トレボウクシア藻綱]] {{sname||Trebouxiophyceae}} |
|||
| サルシナ状群体 || 遊走子 || 側方型 || あり || なし || 1個+P || 収縮環 || 不明 || 不明 || 陸上 |
|||
|- |
|- |
||
! {{Nowrap|[[クレブソルミディウム科|クレブソルミディウム藻綱]]}} |
|||
|colspan="5"| [[アオサ藻綱]] {{sname||Ulvophyceae}} |
|||
| 無分枝糸状、サルシナ状群体 || 遊走子 || 側方型 || なし || なし || 1個+P || 収縮環 || 不明 || 不明 || 陸上、淡水 |
|||
|- |
|- |
||
! [[接合藻]] (ホシミドロ綱) |
|||
|colspan="5"| [[プラシノ藻]]類 (ペディノ藻、クロロデンドロン藻、ミクロモナス藻、等) |
|||
| 単細胞不動性、無分枝糸状 || なし || – || – || – || 1〜数個+P || 収縮環+フ<ref group="注">フラグモプラストが見られない例もある (Buschmann & Zachgo 2016)。</ref> || 単相単世代 || 接合 || 淡水、(陸上) |
|||
|- |
|- |
||
! [[コレオケーテ藻綱]] |
|||
|rowspan="8"| '''ストレプト植物''' {{sname||Streptophyta}} |
|||
| 分枝糸状 || 遊走子、精子 || 側方型 || あり || なし || 1個+P || 細胞板+フ || 単相単世代 || 卵生殖 || 淡水 |
|||
|colspan="5"| [[車軸藻綱]] {{sname||Charophyceae}}、[[接合藻綱]]{{sname||Zygnematophyceae}}、等 |
|||
|- |
|- |
||
! [[シャジクモ類|シャジクモ綱]] (狭義) |
|||
|rowspan="7"| [[陸上植物]]<br>(有胚植物) {{sname||Embryophyta}} |
|||
| 分枝糸状 || 精子のみ || 側方型 || あり || なし || 多数 || 細胞板+フ || 単相単世代 || 卵生殖 || 淡水 |
|||
|colspan="4"| [[ゼニゴケ植物門]] {{sname||Marchantiophyta}}/苔植物門 |
|||
|- |
|- |
||
! [[陸上植物]] |
|||
|colspan="4"| [[マゴケ植物門]]/蘚植物門{{sname||Bryophyta}} |
|||
| 多細胞 (柔組織) || 精子のみ<ref group="注">[[種子植物]]の大部分は鞭毛細胞を欠く</ref> || 側方型 || なし || なし || 多数<ref group="注">[[ツノゴケ類]]のみ1〜数個+P</ref> || 細胞板+フ || 単複世代交代 || 卵生殖 || 陸上、(淡水、海) |
|||
|- |
|||
|colspan="4"| [[ツノゴケ植物門]]{{sname||Anthocerotophyta}} |
|||
|- |
|||
|rowspan="4"| [[維管束植物]] {{sname||Tracheophyta}} |
|||
|colspan="3"| [[ヒカゲノカズラ植物門]] {{sname||Lycopodiophyta}} |
|||
|- |
|||
|rowspan="3"| [[真葉植物]] {{sname||Euphyllophyta}} |
|||
|colspan="2"| [[シダ植物門]] {{sname||Pteridophyta}} |
|||
|- |
|||
|rowspan="2"| [[種子植物]] {{sname||Spermatophyta}} |
|||
| [[裸子植物門]] {{sname||Gymnospermae}} |
|||
|- |
|||
| [[被子植物門]] {{sname||Angiospermae}} |
|||
|} |
|} |
||
<span id="system"></span> |
|||
{| class="wikitable" style="margin:0 auto" |
|||
|'''ストレプト植物の分類体系の1例'''<ref name="Nakada" /><ref name="Iwasa2013" /> (2019年現在) |
|||
*ストレプト植物下界 {{Sname||Streptophyta}} {{AUY|Cavalier-Smith in Lewin|1993}} |
|||
**メソスティグマ植物門 {{Sname||Mesostigmatophyta}} |
|||
***[[メソスティグマ藻綱]] {{Sname||Mesostigmatophyceae}} {{AUY|Marin & Melkonian|2010}} |
|||
**クロロキブス植物門 {{Sname||Chlorokybophyta}} |
|||
***[[クロロキブス藻綱]] {{Sname||Chlorokybophyceae}} {{AUY|K.Bremer|1985}} nom. inval. (非正式名)<ref group="注" name="Chlorokybophyceae" /> |
|||
**クレブソウミディウム植物門 {{Sname||Klebsormidiophyta}} |
|||
***[[クレブソルミディウム科|クレブソルミディウム藻綱]] {{Sname||Klebsormidiophyceae}} {{AUY|C.Hoek, D.G.Mann & H.M.Jahns|1995}} |
|||
**シャジクモ植物門 {{Sname||Charophyta}} {{AUY|Migula|1889}} (狭義) |
|||
***[[シャジクモ類|シャジクモ綱]] {{Sname||Charophyceae}} {{AUY|Rabenhorst|1863}} (狭義) |
|||
**コレオケーテ植物門 {{Sname||Coleochaetophyta}} |
|||
***[[コレオケーテ藻綱]] {{Sname||Coleochaetophyceae}} {{AUY|C.Jeffrey|1982}} |
|||
**ホシミドロ植物門 {{Sname||Zygnematophyta}} (接合藻植物門 {{Sname||Conjugatophyta}}) |
|||
***[[接合藻|ホシミドロ綱]] {{Sname||Zygnematophyceae}} {{AUY|Round ex Guiry|2013}} ([[接合藻綱]] {{Sname||Conjugatophyceae}} {{AUY|Engler|1892}}) |
|||
**[[陸上植物]] {{Sname||Embryophyta}} |
|||
***[[苔類|ゼニゴケ植物門 (苔類)]] {{Sname||Marchantiophyta}} {{AUY|Doweld|2001}} |
|||
***[[蘚類|マゴケ植物門 (蘚類)]] {{Sname||Bryophyta}} {{AUY|Schimper|1879}} |
|||
***[[ツノゴケ類|ツノゴケ植物門]] {{Sname||Anthocerotophyta}} {{AUY|Stotl. & Crand.-Stotl.|1977}} |
|||
***[[維管束植物|維管束植物門]] {{Sname||Tracheophyta}} {{AUY|Sinnott|1935}} |
|||
|} |
|||
==脚注== |
|||
{{脚注ヘルプ}} |
|||
===注釈=== |
|||
{{Notelist2}} |
|||
===出典=== |
|||
{{Reflist|2}} |
|||
==外部リンク== |
|||
{{Wikispecies|Streptophyta}} |
|||
*[http://natural-history.main.jp/Tree_of_life/Eukaryote/Plantae/Viriplantae.html 緑色植物亜界 (ストレプト植物を含む)]. ''写真で見る生物の系統と分類.'' 生きもの好きの語る自然誌. (2019年11月17日閲覧) |
|||
*[https://www.algaebase.org/pub_taxonomy/?id=142050 Infrakingdom: Streptophyta]. ''AlgaeBase.'' (英語) (2019年11月17日閲覧) |
|||
{{デフォルトソート:すとれふとしよくふつ}} |
{{デフォルトソート:すとれふとしよくふつ}} |
||
[[Category:植物]] |
[[Category:植物]] |
||
[[Category:植物門]] |
|||
[[Category:緑色植物]] |
[[Category:緑色植物]] |
2020年2月26日 (水) 03:21時点における版
ストレプト植物 | ||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
分類 | ||||||||||||
| ||||||||||||
学名 | ||||||||||||
Streptophyta[注 1] Cavalier-Smith in Lewin, 1993 | ||||||||||||
英名 | ||||||||||||
streptophytes | ||||||||||||
下位分類 | ||||||||||||
ストレプト植物 (ストレプトしょくぶつ) (英:streptophytes) は、緑色植物を構成する2つの大きな系統群のうちの1つ (もう1つは緑藻植物)、またはそれに属する生物のことである。緑色植物における最大のグループである陸上植物とともに、それに近縁な緑藻 (接合藻、シャジクモ類など) を含む。単細胞のものから複雑な多細胞体を形成するものまでさまざまな体制の生物が含まれる。核分裂は開放型 (核膜が消失する)、細胞質分裂時にフラグモプラスト (分裂面に垂直な微小管群) が生じるものが多い。鞭毛細胞は、発達した多層構造体 (MLS) を伴う側方型の鞭毛装置をもつ。多くは陸上または淡水域に生育する。特に陸上植物は、生産者として陸上生態系を支える存在である。
分類学的には、ストレプト植物門またはストレプト植物下界 (学名:Streptophyta) とされることがある。陸上植物以外のストレプト植物は、車軸藻綱 (シャジクモ藻綱) にまとめられることが多かったが、このまとまりは明らかに非単系統群であり、2019年現在では複数の綱または門に分けられることが多い。近年では、このような陸上植物以外のストレプト植物は、ストレプト藻 (streptophyte algae) と総称されることがある。
ストレプト(strepto-, strepsis)はギリシア語で「らせん」を意味し、シャジクモ類 (狭義) と陸上植物の精子がらせん状にねじれていることに由来する。当初はシャジクモ類 (狭義) と陸上植物からなる系統群に対する名称として提唱された[1][注 3]。その後、陸上植物に近縁なシャジクモ類以外の緑藻 (接合藻など) も含む意味で使われるようになった[2][注 4]。
特徴
ストレプト植物の体制は多様である[3][4][5][6][7][8][9] (下図)。単細胞鞭毛性のもの (メソスティグマ藻綱) から単細胞不動性 (接合藻の多くなど)、群体性 (クロロキブス藻綱など)、無分枝糸状性 (クレブソウミディウム藻綱の多く、接合藻の一部)、分枝糸状性 (コレオケーテ藻綱など)、さらに陸上植物のように複雑な多細胞体を形成するものまでいる。
栄養細胞は、ふつうセルロースやヘミセルロース、ペクチンを含む細胞壁で囲まれている[6][7]。クロロキブス藻綱やクレブソウミディウム藻綱の細胞壁は、陸上植物やコレオケーテ藻綱にくらべてセルロースが少ない反面カロースが多く、またラムノガラクツロナン‐Iを欠く[10]。クレブソウミディウム藻綱は、ホモガラクツロナンを欠く。細胞膜中のセルロース合成酵素複合体は、ロゼット型[11]。例外的に、メソスティグマ藻綱の栄養細胞は細胞壁を欠き、プラシノ藻に一般的な有機質鱗片で覆われている[7][12]。またクロロキブス藻綱やコレオケーテ藻綱、シャジクモ類の鞭毛細胞も、有機質鱗片で覆われている[7]。
ストレプト植物の中で、メソスティグマのみが栄養体に鞭毛をもつ[7][13]。それ以外のグループでは、生活環の一時期にのみ遊走子や精子など鞭毛をもつ細胞を形成するか、もしくは鞭毛細胞を全く欠く (接合藻、大部分の種子植物)[7][9]。鞭毛細胞では、基本的に2本の鞭毛が平行に、側方または後方に伸びている。維管束植物の精子は基本的に多鞭毛性であるが、種子植物の大部分 (イチョウとソテツ類以外) は鞭毛を欠く。鞭毛装置は非対称の側方型 (メソスティグマ藻綱を除く)。1本の微小管性鞭毛根(1d, R1)が発達して多層構造体(multilayered structure, MLS)を形成し、それ以外の微小管性鞭毛根が退化的である[3][4][14][15]。鞭毛細胞は眼点を欠く (メソスティグマ藻綱を除く)。
核分裂は開放型 (核分裂時に核膜が消失する)、中間紡錘体は残存性[3][6][7][16]。細胞質分裂は求心的な細胞膜の陥入、または遠心的な細胞板形成による。後者の場合、分裂面にフラグモプラスト (隔膜形成体 phragmoplast) とよばれる分裂面に垂直な微小管群が生じる。細胞板形成・フラグモプラストによる細胞質分裂を行うものでは、これによって姉妹細胞間に原形質連絡が形成される[6][7]。
接合藻、シャジクモ類、陸上植物以外のグループは、細胞中に1個の葉緑体もつ。接合藻では、1細胞当たりの葉緑体数は1個から数個までさまざまである[7]。これらのグループは、ふつう葉緑体中にピレノイドが存在する[7]。一方、シャジクモ類と陸上植物は、1細胞中に多数の葉緑体をもち、葉緑体はピレノイドを欠く (ツノゴケ類は例外的であり、ふつうピレノイドを含む葉緑体を1個もつ)[7][17]。緑色植物に典型的な光合成色素組成 (クロロフィル a, b、ルテイン、ネオキサンチン、ゼアキサンチン、β-カロテン、ときにロロキサンチン) をもつものが多いが、メソスティグマはこれらの色素に加えてシフォナキサンチンをもつ。光呼吸 (グリコール酸代謝) は、ペルオキシソーム中のグリコール酸酸化酵素 (glycolate oxidase) による[6][7]。銅/亜鉛型スーパーオキシドディスムターゼ (Cu/Zn superoxide dismutase) をもつ。
ストレプト植物の中で、接合藻綱、コレオケーテ藻綱、シャジクモ類および陸上植物において、有性生殖が報告されている。接合藻では栄養細胞が対になってそのまま細胞質が融合する現象である接合 (conjugation) を行うが、コレオケーテ藻綱、シャジクモ類および陸上植物では不動性で大型の配偶子である卵と小型の配偶子である精子 (または精細胞) の融合である卵生殖 (oogamy) を行う[3][7][17]。シャジクモ類と陸上植物は、これら配偶子を形成する多細胞性の配偶子嚢をつくる。接合藻、コレオケーテ類、シャジクモ類では、配偶子合体の結果生じた接合子 (受精卵) は減数分裂を行って単相の栄養体を生じる。一方、陸上植物では接合子は母体上で細胞分裂して胚となり、複相のまま胞子体へと成長する[17]。
生態
ストレプト藻 (陸上植物以外のストレプト植物) は淡水域に生育するものが多いが (シャジクモ類、接合藻など)、土壌や岩・壁上など陸上域に生育する種もいる (クロロキブス、クレブソルミディウム類)[7][10]。一方、陸上植物は基本的に陸上域に生育し、陸上生態系の主要な生産者の役割を担っている。また陸上植物の中には、二次的に淡水または海水に進出したものもいる (水草、海草)。
ストレプト藻の多くが淡水性であることから、ストレプト植物は最初は淡水で多様化したと考えられている。その中で陸上環境への進出が何度か起こり (クロロキブス藻綱、クレブソルミディウム類、陸上植物)、特に陸上植物が大繁栄を遂げたと考えられている[18][19][20]。
系統と分類
進化・系統
陸上植物と緑藻は、光合成色素組成や貯蔵多糖、鞭毛細胞などさまざまな特徴を共有しており、近縁な生物群であることは古くから認識されていた[21][22]。陸上植物は緑藻様の生物から進化したと考えられていたが、特にフリッチエラ属 (Fritschiella) のような陸生の分枝糸状性緑藻が陸上植物の祖先に近いと考えられることが多かった (現在ではフリッチエラ属は緑藻綱に分類されており、陸上植物に近縁であるとは考えられていない)[17]。
しかし1970年代から、微細構造 (鞭毛装置、細胞分裂様式) や生化学的特徴の研究をもとに緑色植物の系統関係が再考されるようになり、シャジクモ類やコレオケーテ類、接合藻などの緑藻が、陸上植物に近縁であると考えられるようになった[23][24][3]。このような系統仮説は分子系統学的研究からも支持され、広く受け入れられるようになった[6]。このように明らかとなった、陸上植物と一部の緑藻 (シャジクモ類、接合藻など) を含む系統群は、現在ではストレプト植物とよばれている。
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ストレプト植物内の系統仮説の一例[6][25][26][27]. |
ストレプト植物の中では、メソスティグマ藻綱とクロロキブス藻綱が初期に分岐したと考えられている。メソスティグマ藻綱は鞭毛をもつ栄養細胞や眼点などの祖先形質をもち、一部の分子系統解析からはストレプト植物の中で最も初期に分岐したことが示唆されている[25]。しかし多くの研究では、メソスティグマ藻綱とクロロキブス藻綱が姉妹群であることが示唆されている[28][29][注 5]。残りのストレプト植物の中では、クレブソルミディウム藻綱が最初に分岐、残る4群 (接合藻綱、コレオケーテ藻綱、シャジクモ類および陸上植物) が単系統群を構成していることが強く支持されている[29]。この4群は細胞質分裂時にフラグモプラスト (隔膜形成体) を形成するため (ただし接合藻の中にはこれを欠くものもいる)、この単系統群はフラグモプラスト植物 (Phragmoplastophyta) とよばれる[30] (上図)。
フラグモプラスト植物の中では、シャジクモ類 (狭義)、コレオケーテ藻綱、陸上植物の3群が原形質連絡、先端成長、卵生殖などの形質を共有している[7]。さらにシャジクモ類と陸上植物で共通する特徴が多く (多細胞性の生殖器、らせん状の精子、中心小体の欠如、ピレノイドを欠く多数の盤状葉緑体など)、また一部の分子系統学的研究からも両者の近縁性が支持されたことから[25][31]、一般的にシャジクモ類が陸上植物に最も近縁なストレプト藻であると考えられていた。
しかし2010年代、より大量のデータに基づいた分子系統解析からは、シャジクモ類よりもコレオケーテ藻綱や接合藻綱、特に後者が陸上植物に近縁であることが示唆されている[32][26][27][33][29] (上図)。この場合、シャジクモ類やコレオケーテ類に見られ、接合藻には見られない陸上植物との共通点 (上記) は、接合藻において二次的に失われた形質であることが示唆されている[26]。
分類
ストレプト植物は、特に階級を定めない系統群名、または門[2]や下界[34][35][36]の階級の分類群名 (Streptophyta) として使われる。
ストレプト植物は、陸上植物と共に、(クロレラなどの緑藻に対してよりも) 陸上植物に近縁な緑藻を含む。1980年代から、このような緑藻は車軸藻綱[3]またはシャジクモ藻綱[37] (学名:Charophyceae) に分類されていた[24]。しかし上記のように、これらの緑藻は単系統群ではなく、陸上植物に対して側系統群であるが、このことは当初から認識されていた。その後、分類体系から側系統群を排除することが一般的になると、車軸藻綱は分解され、それぞれ独立の綱として扱われるようになった[34] (上記のように、このうちメソスティグマ藻とクロロキブス藻は姉妹群であることが示されることが多く、メソスティグマ藻綱にまとめられることもある[38])。これらの綱は車軸藻植物門 (Charophyta) にまとめられることもあるが[34]、このまとまりは広義の車軸藻綱と同一であり、単系統群ではない。そのため、これらの綱はそれぞれ独立の門に分類することもある[39][40]。これらの緑藻の総称としては、ストレプト藻 (streptophyte algae) の名が使われることがある[18][32][7]。
ストレプト植物の中には、およそ7個の系統群が認識されている (下表)。これら以外のものとして、接合藻に分類されていたスピロタエニア属 (Spirotaenia) がある。スピロタエニア属は接合藻とは異なる系統に属し、クロロキブス藻綱に近縁であることが分子系統学的研究から示唆されている[29][41]。またストレプトフィルム属 (Streptofilum) はストレプト植物に属することが示されているが、ストレプト植物内での位置は明らかになっていない (2019年現在)[20]。
系統群 | 体制 | 鞭毛細胞 | 鞭毛装置 | 鱗片[注 6] | 眼点[注 7] | 葉緑体[注 8] | 細胞質分裂[注 9] | 生活環 | 有性生殖 | 生育環境[注 10] |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
メソスティグマ藻綱 | 単細胞鞭毛性 | 栄養体 | 交叉型 | あり | あり | 1個+P | ? | 不明 | 不明 | 淡水 |
クロロキブス藻綱[注 2] | サルシナ状群体 | 遊走子 | 側方型 | あり | なし | 1個+P | 収縮環 | 不明 | 不明 | 陸上 |
クレブソルミディウム藻綱 | 無分枝糸状、サルシナ状群体 | 遊走子 | 側方型 | なし | なし | 1個+P | 収縮環 | 不明 | 不明 | 陸上、淡水 |
接合藻 (ホシミドロ綱) | 単細胞不動性、無分枝糸状 | なし | – | – | – | 1〜数個+P | 収縮環+フ[注 11] | 単相単世代 | 接合 | 淡水、(陸上) |
コレオケーテ藻綱 | 分枝糸状 | 遊走子、精子 | 側方型 | あり | なし | 1個+P | 細胞板+フ | 単相単世代 | 卵生殖 | 淡水 |
シャジクモ綱 (狭義) | 分枝糸状 | 精子のみ | 側方型 | あり | なし | 多数 | 細胞板+フ | 単相単世代 | 卵生殖 | 淡水 |
陸上植物 | 多細胞 (柔組織) | 精子のみ[注 12] | 側方型 | なし | なし | 多数[注 13] | 細胞板+フ | 単複世代交代 | 卵生殖 | 陸上、(淡水、海) |
ストレプト植物の分類体系の1例[39][40] (2019年現在)
|
脚注
注釈
- ^ これは下界の分類群名としての学名の場合である。
- ^ a b c メソスティグマ藻綱に含めることもある (Cheng et al. 2019)。
- ^ 2019年現在、シャジクモ類 (狭義) と陸上植物が姉妹群であるとする仮説は支持されていない (本文参照)。
- ^ ただし、ストレプト植物のその他のグループ (コレオケーテ類、クレブソウミディウム類など) の鞭毛細胞は、らせん状ではない (Hoek et al. 1995; Graham et al. 2016)。
- ^ そのため、両群をメソスティグマ藻綱まとめることもある (Cheng et al. 2019)。
- ^ 鞭毛細胞の鱗片
- ^ 鞭毛細胞の眼点
- ^ 1細胞あたりの数とピレノイド (P) の有無
- ^ フ = フラグモプラスト (隔膜形成体)
- ^ カッコ内は少数例
- ^ フラグモプラストが見られない例もある (Buschmann & Zachgo 2016)。
- ^ 種子植物の大部分は鞭毛細胞を欠く
- ^ ツノゴケ類のみ1〜数個+P
出典
- ^ Jeffrey, C. (1971). “Thallophytes and kingdoms—a critique”. Kew Bull. 25: 291–299. doi:10.2307/4103226.
- ^ a b Bremer, K. (1985). “Summary of green plant phylogeny and classification”. Cladistics 1: 369–385. doi:10.1111/j.1096-0031.1985.tb00434.x.
- ^ a b c d e f g 千原 光雄 (編) (1999). バイオディバーシティ・シリーズ (3) 藻類の多様性と系統. 裳華房. pp. 386. ISBN 978-4785358266
- ^ a b 井上 勲 (2006). 藻類30億年の自然史 -藻類からみる生物進化-. 東海大学出版会. ISBN 4486017773
- ^ van den Hoek, C., Mann, D., Jahns, H. M. & Jahns, M. (1995). Algae: an introduction to phycology. Cambridge University Press. ISBN 978-0521316873
- ^ a b c d e f g h Leliaert, F., Smith, D.R., Moreau, H., Herron, M.D., Verbruggen, H., Delwiche, C.F. & De Clerck, O. (2012). “Phylogeny and molecular evolution of the green algae”. Critical Reviews in Plant Sciences 31: 1-46 .
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q Graham, L.E., Graham, J.M., Wilcox, L.W. & Cook, M.E. (2016). Algae. 3rd ed.. LJLM Press. ISBN 978-0-9863935-3-2
- ^ 原 襄 (1994). 植物形態学. 朝倉書店. pp. 180. ISBN 4-254-17086-6
- ^ a b アーネスト・ギフォード & エイドリアンス・フォスター (著) 長谷部 光泰, 鈴木 武 & 植田 邦彦 (監訳) (2002). 維管束植物の形態と進化. 文一総合出版. pp. 643. ISBN 978-4829921609
- ^ a b Cook, M. E. & Graham, L. E. (2016). “Chlorokybophyceae, Klebsormidiophyceae, Coleochaetophyceae”. In Archibald, J.M. et al. (eds.). Handbook of the Protists. Springer International Publishing. pp. 185–204. doi:10.1007/978-3-319-28149-0_36
- ^ Okuda, K. & Brown, R. M. (1992). “A new putative cellulose-synthesizing complex of Colechaete scutata”. Protoplasma 168: 51–63.
- ^ Domozych, D. S., Wells, B. & Shaw, P. J. (1992). “Scale biogenesis in the green alga, Mesostigma viride”. Protoplasma 167: 19-32. doi:10.1007/BF01353577.
- ^ Manton, I. & Ettl, H. (1965). “Observations on the fine structure of Mesostigma viride Lauterborn”. J. Linn. Soc. Bot. 59: 175-184. doi:10.1111/j.1095-8339.1965.tb00056.x.
- ^ O'Kelly, C. J. & Floyd, G. L. (1983). “Flagellar apparatus absolute orientations and the phylogeny of the green algae”. BioSystems 16: 227-251. doi:10.1016/0303-2647(83)90007-2.
- ^ Melkonian, M. (1984). “Flagellar apparatus ultrastructure in relation to green algal classification”. In Irvine, D. E. G. & John, D. M. (eds.). Systematics of the Green Algae. Academic Press, London. pp. 73-120
- ^ Buschmann, H. & Zachgo, S. (2016). “The evolution of cell division: from streptophyte algae to land plants”. Trends in Plant Science 21: 872-883. doi:10.1016/j.tplants.2016.07.004.
- ^ a b c d 加藤 雅啓 (編) (1997). バイオディバーシティ・シリーズ (2) 植物の多様性と系統. 裳華房. pp. 334. ISBN 978-4-7853-5825-9
- ^ a b Becker, B. & Marin, B. (2009). “Streptophyte algae and the origin of embryophytes”. Annals of Botany 103: 999-1004. doi:10.1093/aob/mcp044.
- ^ Holzinger, A., Kaplan, F., Blaas, K., Zechmann, B., Komsic-Buchmann, K. & Becker, B. (2014). “Transcriptomics of desiccation tolerance in the streptophyte green alga Klebsormidium reveal a land plant-like defense reaction.”. PloS One 9: e110630. doi:10.1371/journal.pone.0110630.
- ^ a b Pierangelini, M., Glaser, K., Mikhailyuk, T., Karsten, U. & Holzinger, A. (2019). “Light and dehydration but not temperature drive photosynthetic adaptations of basal streptophytes (Hormidiella, Streptosarcina and Streptofilum) living in terrestrial habitats”. Microbial Ecology 77: 380-393. doi:10.1007/s00248-018-1225-x.
- ^ Smith, G. M. (1950). The Freshwater Algae of the United States. McGraw-Hill, New York
- ^ Lewis, L. A. & McCourt, R. M. (2004). “Green algae and the origin of land plants”. American Journal of Botany 91: 1535-1556. doi:10.3732/ajb.91.10.1535.
- ^ Stewart,K.D. & Mattox, K. R. (1975). “Comparative cytology, evolutionand classification of the green algae, with some consideration of theorigin of other organisms with chlorophylls a and b.”. Botanical Review41 41: 104–135.
- ^ a b Mattox, K. R. & Stewart, K. D. (1984). “Classification of the green algae: a concept based on comparative cytology”. In Irvine, D. E. G. & John, D. (eds.). The Systematics of the Green Algae. Academic Press, New York. pp. 29-72
- ^ a b c Karol,K. G.,McCourt,R. M.,Cimino,M. T. & Delwiche,C. F. (2001). “The closest living relatives of land plants”. Science 294: 2351-2353. doi:10.1126/science.1065156.
- ^ a b c Timme, R. E., Bachvaroff, T. R. & Delwiche, C. F. (2012). “Broad phylogenomic sampling and the sister lineage of land plants”. PLoS One 7: e29696. doi:10.1371/journal.pone.0029696.
- ^ a b Wickett, N.J., Mirarab, S., Nguyen, N., Warnow, T., Carpenter, E., Matasci, N., Ayyampalayam, S., Barker, M.S., Burleigh, J.G., Gitzendanner, M.A., et al. (2014). “Phylotranscriptomic analysis of the origin and early diversification of land plants”. Proc Natl. Acad. Sci. USA 111: E4859-4868. doi:10.1073/pnas.1323926111.
- ^ Lemieux, C., Otis, C. & Turmel, M. (2007). “A clade uniting the green algae Mesostigma viride and Chlorokybus atmophyticus represents the deepest branch of the Streptophyta in chloroplast genome-based phylogenies”. BMC Biology 5: 2.
- ^ a b c d O.T.P.T.I. [= One Thousand Plant Transcriptomes Initiative] (2019). “One thousand plant transcriptomes and the phylogenomics of green plants”. Nature 574: 679-685.
- ^ Adl, S. M., Bass, D., Lane, C. E., Lukeš, J., Schoch, C. L., Smirnov, A., ... & Cárdenas, P. (2019). “Revisions to the classification, nomenclature, and diversity of eukaryotes.”. Journal of Eukaryotic Microbiology 66: 4-119 .
- ^ Qiu, Y. L., Li, L., Wang, B., Chen, Z., Dombrovska, O., Lee, J., ... & Taylor, D. W. (2007). “A nonflowering land plant phylogeny inferred from nucleotide sequences of seven chloroplast, mitochondrial, and nuclear genes”. International Journal of Plant Sciences 168: 691-708. doi:10.1086/513474.
- ^ a b Wodniok, S., Brinkmann, H., Glöckner, G., Heidel, A. J., Philippe, H., Melkonian, M. & Becker, B. (2011). “Origin of land plants: do conjugating green algae hold the key?”. BMC Evolutionary Biology 11: 104. doi:10.1186/1471-2148-11-104.
- ^ Zhong, B., Xi, Z., Goremykin, V. V., Fong, R., Mclenachan, P. A., Novis, P. M., ... & Penny, D. (2013). “Streptophyte algae and the origin of land plants revisited using heterogeneous models with three new algal chloroplast genomes”. Molecular Biology and Evolution 31: 177-183. doi:10.1093/molbev/mst200.
- ^ a b c Guiry, M.D. & Guiry, G.M. (2019) AlgaeBase. World-wide electronic publication, Nat. Univ. Ireland, Galway. http://www.algaebase.org; searched on 7 December 2019.
- ^ Cavalier-Smith, T. (1993). “The origin, losses and gains of chloroplasts”. In Lewin, R.A. (ed.). Origin of Plastids: Symbiogenesis, Prochlorophytes and the Origins of Chloroplasts. Chapman & Hall, New York. pp. 291–348. ISBN 978-1-4613-6218-0
- ^ Ruggiero, M.A., Gordon, D.P., Orrell, T.M., Bailly, N., Bourgoin, T., Brusca, R.C., Cavalier-Smith, T., Guiry, M.D. & Kirk, P.M. (2015). “A higher level classification of all living organisms”. PLoS One 10: e0119248. doi:10.1371/journal.pone.0119248.
- ^ 伊藤 元己 (2012). 植物の系統と進化. 裳華房. pp. 168. ISBN 978-4785358525
- ^ Cheng, S., Xian, W., Fu, Y., Marin, B., Keller, J., Wu, T., ... & Wittek, S. (2019). “Genomes of subaerial Zygnematophyceae provide insights into land plant evolution”. Cell 179: 1057-1067. doi:10.1016/j.cell.2019.10.019.
- ^ a b 仲田 崇志. 生物分類表. きまぐれ生物学.
- ^ a b 巌佐 庸, 倉谷 滋, 斎藤 成也 & 塚谷 裕一 (編) (2013). 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. pp. 2192. ISBN 978-4000803144
- ^ Gontcharov, A. A. & Melkonian, M. (2004). “Unusual position of the genus Spirotaenia (Zygnematophyceae) among streptophytes revealed by SSU rDNA and rbcL sequence comparisons”. Phycologia 43: 105-113. doi:10.2216/i0031-8884-43-1-105.1.
外部リンク
- 緑色植物亜界 (ストレプト植物を含む). 写真で見る生物の系統と分類. 生きもの好きの語る自然誌. (2019年11月17日閲覧)
- Infrakingdom: Streptophyta. AlgaeBase. (英語) (2019年11月17日閲覧)