「ベーオウルフ」の版間の差分
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2018年2月11日 (日) 01:09時点における版
ベオウルフ(英: Beowulf、古英語: Bēowulf、慣習的発音 英語発音: [ˈbeɪəwʊlf]、古英語的発音 英語発音: [ˈbeːo̯wʊɫf] ベーオウルフ)は、英文学最古の伝承の一つで英雄ベオウルフ(ベーオウルフ)の冒険を語る叙事詩である。約3000行と古英語文献の中で最も長大な部類に属することから、言語学上も貴重な文献である。
概要
デネ(デンマーク)を舞台とし、主人公である勇士ベオウルフが夜な夜なヘオロットの城を襲う巨人のグレンデルや炎を吐くドラゴンを退治するという英雄譚であり、現在伝わっているゲルマン諸語の叙事詩の中では最古の部類に属する。
『ベオウルフ』が成立した時期は、作品内部にも外部の言及としても成立の時期を特定する記述が存在しないため、必ずしも明らかではないが、8世紀から9世紀にかけての間に成ったと考えられている[3]。
ファンタジーの源流とも言える内容を持っている。研究者の中にはJ・R・R・トールキンがおり[3][4]、その著作『ホビットの冒険』や『指輪物語』への影響はつとに指摘されているのみならず、彼の研究がその後のベオウルフ研究に与えた影響も大きかった[3][4]。トールキンが1920年代に行った『ベオウルフ』の現代英語への翻訳は、生前には出版されることがなかったが、没後の2014年になって出版された[5]。
写本
ベオウルフを現在まで伝える写本は1000年頃に筆写されたと思われるノーウェル写本ただ一冊である。この写本は12世紀に筆写された別の写本であるサウスウィック写本と一つにまとめられ、この合本はCotton Vittelius A xvと呼ばれている。古書研究家であるコットン卿が彼の図書館にこの合本を保有していたのであるが、1731年同図書館の出火に遭い、外側が焦げてしまった。このため徐々に合本の劣化が進むこととなる。1753年には大英博物館へと移管。1783年には古書研究家のG.J.ソルケリンとその助手がそれぞれ1部ずつ写しを転写した。元となった合本は火災の損傷が原因となった劣化のため現在では読めない部分が存在するが、ソルケリンらの写しのおかげで消失部分をある程度補うことが可能である。[6]
二人のベオウルフ
叙事詩の登場人物の一人、フロスガール王の祖父の名を写本は「ベオウルフ」と記す。 しかし史実と照らしあわせた結果、この「ベオウルフ」は「ベーオウ」の誤記とする解釈が主流である。 このデンマーク王ベオウルフ(ベーオウ)は、叙事詩の主人公である後のイェアータ王ベオウルフとは基本的には別人である。 しかしこの叙事詩の前半部分で語られるグレンデルとその母親の討伐は元来はデンマーク王ベオウルフの物語であったのかもしれないという説がある。[7][8]
あらすじ
『ベオウルフ』は、主人公の勇士ベオウルフの若い時を描いた第一部と、それから時代が飛び、老域に入ったベオウルフ王の最期までを描いた第二部に分かれている。それゆえに二つの物語を一つにしたものではないか、とする声もある。 第一部でベオウルフは巨人(ドラゴンとも言われている)グレンデルとその母親と戦い、第二部では炎を吐く竜と死闘をかわす。 なお、インパクトが強くかつ謎の多いグレンデルとその親に関しては言及されることが多いが、炎を吐く竜に関してのものは少ない傾向にある。だが、同時にいわゆる「ドラゴンの約束事」(財宝を蓄え守っている、翼を持って空を飛ぶ、火を吐くなど)をほぼそろえている珍しいドラゴンでもある。
第一部
デネ(デンマーク)の王フロースガールはヘオロット(牡鹿)という名の宮殿を築き、それを祝って連夜祝宴を開いた。そのざわめきにカインの末裔、呪われし巨人(ドラゴンとすることもある)グレンデルは怒り、宴がはねた深夜に襲撃してフロースガール王の家臣を虐殺した。
スウェーデンの南部イェータランドに住む勇士ベオウルフは、その噂を聞きつけて従士を従え、海を渡ってフロースガール王のもとに訪れる。ベオウルフはヘオロットの館の警護にあたることになった。深夜になると、グレンデルがまたもや襲撃してきて、ベオウルフと一騎討ちになった。ベオウルフはグレンデルの腕をもぎとるが、巨人はそのまま逃走していく。
翌晩、グレンデルの母親がわが子の復讐にやって来た。家臣を殺されたフロースガール王はベオウルフに巨人討伐を依頼し、ベオウルフは巨人の棲家である沼に赴く。勇士と巨人の間で格闘戦が繰り広げられ、ベオウルフが勝利を収めた。
第二部
ベオウルフは王となり、そして老いた。彼の治世により国の平和は維持されてきたが、ある時問題が起こった。宝を奪われたドラゴンが民を襲ったのである。
ベオウルフは部下に大きな鉄の盾を作らせ、最期の戦いになると覚悟のうえでドラゴンの住む岬へと向かった。王は瀕死の重傷を負いながらもただ一人最期の場所までついてきた部下の助けを得て、相討ちの形でドラゴンを倒した。
ベオウルフは勝ち得た宝を眺めながら息を引き取り、残った者が王の願いを叶えるために大きな塚を築いたところで物語は終わる。残された12人の部下は、宝をすべて王とともに葬ったのである。
訳書
脚注
- ^ 叙事詩後半の竜退治の舞台。
- ^ 叙事詩前半のグレンデル退治の舞台。
- ^ a b c 岩波文庫『ベーオウルフ』忍足欣四郎訳
- ^ a b ハンフリー・カーペンター『J.R.R.トールキン 或る伝記』菅原啓州訳 評論社
- ^ J.R.R. Tolkien (2014). Beowulf: A Translation and Commentary. HarperCollins. ISBN 978-0007590063
- ^ 『アングルサクソン文学史:韻文編』 唐沢一友 東信堂 2014 pp.69,103-104
- ^ 『中世英雄叙事詩 ベーオウルフ 韻文訳』 枡矢好弘 開拓者 2015 p.4
- ^ 『王と英雄の剣 アーサー王・ベーオウルフ・ヤマトタケル -古代中世文学における勲と志-』多ヶ谷有子 北星堂 2008 p.69
関連項目
外部リンク
- いにしえの冒険ファンタジーが現代英語訳でよみがえる(宮脇孝雄) - シェイマス・ヒーニーによる現代英語訳の紹介
- 本文 ベオウルフ 古代英語