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[[2007年]]、ワシントン条約の常設委員会は監視体制が適切に機能しているとした[[南アフリカ]]、[[ボツワナ]]、[[ナミビア]]が保有している60トンを日本へ輸出することを認める決定をした。なお日本と同じく輸入を希望していた中国は認められなかった。[[2008年]]には[[CITES]]によって許可された象牙競売が開催され、ナミビア・ボツワナ・ジンバブエ・南アフリカの4ヵ国から出荷された合計102トンの象牙(すべて、政府が管理する自然死した象のもの)が日本と中国の業者に限定して売却された<ref>[http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2536087/3502762 アフリカの象牙競売終了、日本と中国の業者が15億円落札],AFP BB NEWS,2008年11月7日/朝日新聞2010年3月14日朝刊「密漁呼ぶ象牙限定解禁」</ref>。 |
[[2007年]]、ワシントン条約の常設委員会は監視体制が適切に機能しているとした[[南アフリカ]]、[[ボツワナ]]、[[ナミビア]]が保有している60トンを日本へ輸出することを認める決定をした。なお日本と同じく輸入を希望していた中国は認められなかった。[[2008年]]には[[CITES]]によって許可された象牙競売が開催され、ナミビア・ボツワナ・ジンバブエ・南アフリカの4ヵ国から出荷された合計102トンの象牙(すべて、政府が管理する自然死した象のもの)が日本と中国の業者に限定して売却された<ref>[http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2536087/3502762 アフリカの象牙競売終了、日本と中国の業者が15億円落札],AFP BB NEWS,2008年11月7日/朝日新聞2010年3月14日朝刊「密漁呼ぶ象牙限定解禁」</ref>。 |
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現在、経済発展著しい中国では、かつての高度経済成長期の日本と同様、象牙の需要が増しており、この需要を満たすためにアフリカで象の密猟が増加している<ref>[https://web.archive.org/web/20120419044744/http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=2011081803&expand 象牙需要が背景、ケニアのゾウ密猟](2012年4月19日時点の[[インターネット |
現在、経済発展著しい中国では、かつての高度経済成長期の日本と同様、象牙の需要が増しており、この需要を満たすためにアフリカで象の密猟が増加している<ref>[https://web.archive.org/web/20120419044744/http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=2011081803&expand 象牙需要が背景、ケニアのゾウ密猟](2012年4月19日時点の[[インターネットアーカイブ|アーカイブ]]) - ナショナルジオグラフィック 2011年8月18日</ref>。環境保護団体の{{仮リンク|環境調査エージェンシー|en|Environmental Investigation Agency}}によれば、2013年、[[中華人民共和国|中国]]の[[習近平]][[中華人民共和国主席|国家主席]]が[[タンザニア]]を訪問した時、随行していた中国政府関係者が象牙を大量購入、[[クーリエ|外交封印袋]]に入れられ、中国まで運ばれたという。2009年の[[胡錦涛]]の時代にも、同様のことがあったという<ref>{{cite news |title=習主席の随行団が象牙を大量密輸か 環境団体 |newspaper=[[CNN]] |date=2014-11-7 |url=http://www.cnn.co.jp/world/35056252.html |accessdate=2014-11-7 }}</ref>。批判を受け、中国の国内市場は2017年には閉鎖される予定<ref>[http://www.afpbb.com/articles/-/3112844?cx_part=txt_topstory 中国、象牙の取引と加工を2017年末までに全面禁止]AFP通信(2016年12月31日)2016年12月31日閲覧</ref>だが、闇市場では象牙1[[ポンド (質量)|ポンド]]当たり1000ドル前後で取引されている<ref>[http://www.afpbb.com/articles/-/3107184 違法象牙の90%以上、3年以内に密猟したゾウから採取 研究](AFP通信)</ref>。 |
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2013年に[[国連安保理]]に提出された報告書によれば、アフリカ中部地帯の武装勢力が象牙の密輸を重要な資金源としているとして[[潘基文]]事務総長が懸念を表明している。報告書によると2004年から2013年にかけて[[ガボン]]の国立公園で1万1000頭以上のゾウが殺されている。密猟者は[[2011年リビア内戦]]でリビアから流失した強力な武器で武装しており、従来の治安機関では対応が困難であり、カメルーンのように国軍が対応している国もある。これらのアフリカ諸国では、象牙取引の全面禁止を強く主張している一方で、政治が安定して象の保護に成功しているアフリカ諸国には、備蓄された象牙を他国(2016年現在で象牙の国際取引を望んでいる国は日本のみ)に売却したいと思っている国もある。 |
2013年に[[国連安保理]]に提出された報告書によれば、アフリカ中部地帯の武装勢力が象牙の密輸を重要な資金源としているとして[[潘基文]]事務総長が懸念を表明している。報告書によると2004年から2013年にかけて[[ガボン]]の国立公園で1万1000頭以上のゾウが殺されている。密猟者は[[2011年リビア内戦]]でリビアから流失した強力な武器で武装しており、従来の治安機関では対応が困難であり、カメルーンのように国軍が対応している国もある。これらのアフリカ諸国では、象牙取引の全面禁止を強く主張している一方で、政治が安定して象の保護に成功しているアフリカ諸国には、備蓄された象牙を他国(2016年現在で象牙の国際取引を望んでいる国は日本のみ)に売却したいと思っている国もある。 |
2017年9月4日 (月) 15:05時点における版
概要
多くの哺乳類の「牙」と称される長く尖った歯は犬歯が発達したものであるが、ゾウの牙は門歯が発達したものである点が異なる。ゾウの生活において象牙は鼻とともに採餌活動などに重要な役割を果たしている。材質が美しく加工も容易であるため、古来工芸品の素材として珍重されていた。
象牙を取得するために象が殺され、20世紀後半には生息数が減少して絶滅が危惧される状況となっているので、問題となっている。1989年の絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(通称:ワシントン条約)によって、象牙製品なども含め国際取引は原則禁止とされており、日本を除くほとんどの国々では国内取引も禁止されているが、アフリカ諸国では政治の腐敗などにより密猟や密輸による非合法な流通が存在するとされ、問題となっている[1]。2016年の時点では、アフリカにいる全個体から象牙を収穫しても、世界の需要の1/3から1/6くらいしか満たせない計算で、日本以外では象牙は「持続可能な資源」とは考えられていない。
代用品
- 動物系代用品:代用品とされた動物にも絶滅の恐れがあり、ほとんどがワシントン条約で国際取引が禁止されている。
- マンモス牙[2][3]:ロシアの永久凍土の下に埋もれたマンモスの化石を利用する。象などの動物の牙を使うと絶滅する恐れがあるために問題となっているが、マンモスはすでに絶滅しているのでそのような心配がなく、牙の取引も合法である。ただし、マンモスの化石の発見が年々困難になってきている。また、象牙をマンモスの牙と偽って合法的に密輸・販売するケースがあり、問題となっている。
- カバ (河馬牙)[3]
- 鯨 (鯨歯)[3]
- セイウチ (セイウチ牙)[3]
- イッカク (イッカク角) - 歯が変化した角[3]
- 水牛の角[3]
- シカの角 - ワシントン条約で規制されているシカも多いが、日本に多く住むニホンジカは規制されていない。ただし、ニホンジカの角は中間がスポンジ状になっているなど扱いが難しく、印鑑の機械彫り用の印材としては想定されておらず、職人による手彫りになるため、ほとんど扱われていない。
- 人工品
- セルロイド:1856年に不足しがちであった象牙の代用品として開発された[4]。
- 水酸燐灰石 (ハイドロキシアパタイト) - 研究において気孔率0%のペレットが象牙の代わりに使われている[5]。また、三井東圧化学 (現三井化学)が、ハイドロキシアパタイトを使用した人工象牙の特許を出願している[6]。
- カゼインプラスチック
- ガラリス-牛乳に含まれるカゼイン蛋白にホルムアルデヒドを合成したプラスチック。シャネルの大衆向けドレスの装飾、カスタムジュエリー(象牙、サンゴ、真珠の模造品)としてもてはやされた。安価であったが、成形できず切削によって造形する必要があったため、1960年頃には使用されなくなった。1930年ごろには象牙の代わりとしてピアノの白鍵や傘の持ち手に使用された[7][8]。
- ラクト材-近年では、象牙と全く同じ質感のある素材をカゼイン蛋白と酸化チタン粉末から作ることが可能で、市場で安価に出回っている象牙風の彫刻はたいていこれである。
- 人工象牙を台所で自作することも可能である。白色顔料や陶芸の釉薬などとして画材屋で販売されている酸化チタン、牛乳(カゼイン)、玉子(殻に炭酸カルシウムが含まれる)をミキサーで混ぜ、オーブンでチンして完成。これは「越前の発明王」こと酒井弥が発明したレシピである。
象牙の生物学
象牙の生理
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象牙の適応的意義
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用途
工芸
適度に吸湿性があって手になじみやすく、材質が硬すぎず・柔らか過ぎず(モース硬度2.5)、加工性も金属や水晶や大理石・翡翠などより優れている。
印章の高級素材としての象牙
朱肉の馴染みがきわめてよく、高級感もある事から、印章が契約や公式書類では欠かせない日本においては、ワシントン条約締結までは一番の輸入大国であった。取引停止後は、条約施行前や一時解禁時に輸入された象牙が印材として加工されているほか、各種の代替品が利用される。
印材としての象牙でも部位によってランクがある。安物は表面近くの筋が多く入っている物。先端に行くほど、中心に位置するほど貴重な物とされる。通常は木材と同じく縦目に切削されるが、側面から見て年輪のように模様が出る横目印材もある。特徴のある文様だが、木材と同じように強度は縦目の物には劣る。
刃装具としての象牙
象牙は刃装具として古くから利用されていることから、イギリスの刃物職人組合である「Worshipful Company of Cutlers」の紋章には象と城が使用されている[9]。
楽器部品としての象牙
三味線の撥として適度な弾力、掌の湿度を吸収することにより手との馴染みが良いこと、舞台映えの良さなどで多くの三味線音楽分野において最高の素材とされている。代替品として木や合成樹脂製のものも普及しているが、いまだ象牙を超える素材が見つかっていない。箏の爪についても同様である。この他箏の柱(じ・現在では一般的にほとんど合成樹脂製)、三味線の駒(三味線音楽の種目により象牙を使用しないものもある)においても象牙の優れた性質に勝るものがないのが現状である。更に紫檀や黒檀などの唐木との色彩対比が美しいことから、それらと組み合わせて箏や琵琶の部分的な装飾にもしばしば使用されるが現在は次第に使われなくなる傾向にある。また三味線、ギターやリュートのナット(上駒)、三味線やリュート、ヴィオールなどの糸巻(ペグ)、弦楽器の弓のチップにも使用される。音色への影響もあるが、主に見た目の美しさで選ばれることが多い。
古くからピアノの白鍵に貼られてきたが、象牙の入手が困難になる前からより安価なアクリル樹脂が用いられていた。象牙の入手が困難となった現在ではアクリル樹脂に加えて、象牙に似た特性を持つ人工象牙など演奏しやすいものが開発されて鍵盤に使われるようになった。ただし現在でも一部のフルコンサートグランドピアノなどの鍵盤部には、本物の象牙が使われている。
薬
象牙は、漢方薬として肝臓がんの治療に使われる[10]。
象牙の歴史
世界
象牙は古くから、密度が高く切削加工しやすい素材として珍重された。ヨーロッパの旧石器時代の遺物には、マンモスの牙に人や動物の像を刻み、投槍器のような道具を製作した例が多数ある[12]。紀元前5世紀には、古代ギリシアの彫刻家ペイディアスによって象牙から彫られた女神アテーナー像がパルテノン神殿に飾られていた[13]。イスラム圏では、イスラム美術の複雑な幾何学パターンを彫るのに非常に適していた事や、インドやアフリカとのアクセスのしやすさ等から、ヨーロッパより不自由することなく大きな象牙製品が作られた[14][15]。
特にその重量感と温かい風合いは多くの人に好まれる所で、ピアノの鍵の代名詞でもありビリヤードの流行の際にはビリヤードボールを象牙で作ることが一般的であった。しかしこの素材は高価で、また乱獲により得がたくなってきたことからこれに代わる素材の開発が求められ、19世紀に入ってセルロイドが発明された。
象牙の国際取引を禁止するワシントン条約が発効した1989年以後、多くの国では象牙の国内取引も禁止された。それ以後もアジア諸国では根強い需要があったが、2017年の中国市場の閉鎖、2021年の香港市場の閉鎖をもって、日本以外での象牙の歴史は終了する予定。
日本
古くは正倉院宝物となっている工芸品の素材として用いられており、珊瑚(サンゴ)や鼈甲(ベッコウ)に並んで珍重されたことがうかがえる[16]。
その後象牙工芸品はしばらく姿を消すが、鎌倉・室町時代には日本に象牙の流入があったことが確認できる。主たる輸入先は中国・東南アジアである。だが古代には南部には相当数いたとされている中国の象も唐の時代にはほぼ絶滅したと言われており、もっぱら東南アジアから中国を経由して日本に入ってくるルートが用いられた。
『室町殿行幸御飾記』によると、足利将軍家には象牙製の棚や卓があり、筆や筆刀、菓子の器などにも象牙が用いられていた。三味線のバチも象牙で作られ、茶道具でも茶杓や掛け軸の軸に使われた。特に茶入の蓋、牙蓋は特異な使われ方をしている。茶入と牙蓋とのバランスが重視され、傷や古さが逆に評価されることもあった。蓋に生ずる傷を「巢」と総称し、これを一種の風景や文様のように扱い、茶入と組み合わせて生ずる人工的な風景を、自然の風景に見立てた。
江戸時代には象牙工芸は高度な発展を見せ、根付や印籠などの工芸品に優品が存在する。明治時代以降象牙の輸入量が増えると糸巻の高級品に象牙が使用されさらに象牙の置物も広く珍重されるようになった。大正・昭和に入ると西欧のパイプ喫煙文化が導入され、パイプが主な象牙製工芸品となった。この頃には仏師など西洋化によって仕事の減った職人が象牙加工業に進出するようにもなっていった。
これらの伝統的象牙工芸品は明治維新以降のイギリスを中心とした海外交易(主に緑茶の輸出)の際や第二次世界大戦後のアメリカ進駐軍が根付や印籠のユニークなデザインや精巧な加工に目を付けるなどしたことで、数多くの工芸品が海外に流出し、特に江戸時代などの芸術性の高い根付などが有名美術館で多数展示されている。特にイギリス方面ではこれら根付のコレクター市場がある程で、ヴィクトリア&アルバート博物館に展示されている根付コレクションは有名である。
なお、欧米には根付専門のコレクターも存在するほど人気が高い。
高度成長期にはサラリーマンが増え、高額商品の分割払い(ローン)購入が普及することで象牙製の印鑑を実印とするための需要が飛躍的に伸びて輸入された象牙消費の9割が印鑑に加工される時代があった。
彫刻師では菊地互道 (1887-1967) や安藤緑山 (1885?-1955) 等、有名な人物が居たが、今日では象牙の彫刻師は需要の減少と高齢化が進み、現在は東京や京都に数えるほどの人数しか存在しない。菊地互道の作品は東京国立博物館に数点互道の息子(菊地敏夫)により寄贈されている。また安藤緑山の作品は、インターネット[17]で閲覧可能である。
象牙の国際取引を禁止するワシントン条約が発効した1989年以後、多くの国では象牙の国内取引も禁止されたが、日本には印鑑業界を中心とする根強い需要があるため、2016年現在も象牙市場が存在する。ワシントン条約締約国会議と国際自然保護連合から、日本の象牙市場の早期の閉鎖を勧告されている。
1989年以降の日本の象牙市場は、ワシントン条約発効前に輸入された象牙を合法的に利用しているという建前だが、現実は密輸や違法取引が横行している。2000年代以後にはインターネットを介した象牙の違法取引が急増しており、また違法な象牙を「マンモス牙」などと偽って販売する例もあることから、インターネット印鑑業界最大手のハンコヤドットコムは2016年8月に象牙・マンモス牙を使った印鑑の販売を終了する[18]など、インターネットの象牙印鑑の合法市場の規模も徐々に縮小している。日本の象牙市場の規模は、2016年現在ではピーク時の10%程度となっており、そのうちで印鑑での利用は8割である。
手入れの方法
- 汚れやほこり等を取る場合、水で洗ったときは水分を乾いた布でふき取り日陰干しする(直射日光を避けること)。
- 光沢を出したい場合、湿った布でホコリをふきとりその後、研磨剤を含まない光沢剤(ワックス)で磨き布のきれいな部分で軽く乾拭きすると輝きが戻る。
- 婦箸などの黄ばみを取る場合、ふきんを白くする市販の漂白洗剤を倍以上に薄めて数日浸しておくときれいになる。
- 数珠やネックレス等の黄ばみの場合は洗剤に漬けるとひもの繊維が弱くなり切れやくなるので、布に湿らせて洗剤で拭きとる。
象牙貿易の禁止と再開に向けた動き
かつて日本は最大の象牙輸入国であったがワシントン条約(CITES)の締結により1989年より象牙の輸入禁止措置が採られ、事実上世界の象牙貿易は終了した。しかしその後、ボツワナ、ナミビア、ジンバブエのゾウの個体数が間引きが必要な規模へ急増。1997年のワシントン条約締結国会議で、ナンバーリングを行う等の措置を条件に貿易再開を決議。1999年に日本向けに1度限りの条件で貿易が行われた。南部アフリカ諸国はゾウの急増により農業被害や人的被害が見られることもあり引き続き貿易の継続を要望したが、一方で無制限に貿易が再開されると錯覚した密猟者がアフリカ各地で活動を活発化、混乱が生じたことから再開の目処は立たなくなった。
2007年、ワシントン条約の常設委員会は監視体制が適切に機能しているとした南アフリカ、ボツワナ、ナミビアが保有している60トンを日本へ輸出することを認める決定をした。なお日本と同じく輸入を希望していた中国は認められなかった。2008年にはCITESによって許可された象牙競売が開催され、ナミビア・ボツワナ・ジンバブエ・南アフリカの4ヵ国から出荷された合計102トンの象牙(すべて、政府が管理する自然死した象のもの)が日本と中国の業者に限定して売却された[19]。
現在、経済発展著しい中国では、かつての高度経済成長期の日本と同様、象牙の需要が増しており、この需要を満たすためにアフリカで象の密猟が増加している[20]。環境保護団体の環境調査エージェンシーによれば、2013年、中国の習近平国家主席がタンザニアを訪問した時、随行していた中国政府関係者が象牙を大量購入、外交封印袋に入れられ、中国まで運ばれたという。2009年の胡錦涛の時代にも、同様のことがあったという[21]。批判を受け、中国の国内市場は2017年には閉鎖される予定[22]だが、闇市場では象牙1ポンド当たり1000ドル前後で取引されている[23]。
2013年に国連安保理に提出された報告書によれば、アフリカ中部地帯の武装勢力が象牙の密輸を重要な資金源としているとして潘基文事務総長が懸念を表明している。報告書によると2004年から2013年にかけてガボンの国立公園で1万1000頭以上のゾウが殺されている。密猟者は2011年リビア内戦でリビアから流失した強力な武器で武装しており、従来の治安機関では対応が困難であり、カメルーンのように国軍が対応している国もある。これらのアフリカ諸国では、象牙取引の全面禁止を強く主張している一方で、政治が安定して象の保護に成功しているアフリカ諸国には、備蓄された象牙を他国(2016年現在で象牙の国際取引を望んでいる国は日本のみ)に売却したいと思っている国もある。
日本では今も合法的な国内市場が維持されており、象牙の国際取引の再開を要望している。
詳細
象牙は国際取引が原則禁止された後も、日本や中国を中心とするアジア諸国に大きな需要が存在し、特に中国は世界の象牙需要の7割を占めているとされ、違法・合法問わずに活発な取引がなされているので、こちらも問題になっている。国際的な批判を受け、中国では2017年までに象牙の国内取引を禁止する方針を発表し、香港政府も2021年までに象牙取引を廃止する方針を発表したが、中国市場が閉鎖された場合に世界唯一の合法市場となる日本では2016年の時点では禁止の予定はなく、逆に象牙の国際取引の全面解禁をワシントン条約締約国会議に要求している。日本は印鑑を中心とする大きな象牙の需要があり、アフリカ諸国の中にも日本の立場を支持する国がいくつかある[24]。日本は象牙の「持続可能な利用」を主張しており、実際にワシントン条約発効後にも象牙の日本への条件付き輸出を認められたことがあるが、それをきっかけに象牙の密猟が激増して象が激減した経緯があることから、日本へ輸出するための象牙の在庫があるアフリカの数か国以外では、日本の立場を支持する国は無い。第17回ワシントン条約締約国会議が開かれた2016年9月現在、日本、ナミビア、南アフリカ、ジンバブエが、象牙の国際取引の解禁をワシントン条約締約国会議に要求しており、それ以外の全ての国は象牙取引の禁止を日本政府を含む各国政府に要求している(ただし、いくつかの国では全面禁止に至っておらず、抜け穴がある)。
アメリカは、2016年7月に象牙の販売を禁止した。象の密猟は象の絶滅を引き起こすとともに、テロ組織の資金源でもあることから、象牙の禁止は「テロとの戦い」という一面があり、アメリカのオバマ大統領は世界各国に象牙の国内市場の禁止を呼び掛けている[25]。フランスも2016年に象牙の販売を禁止した。イギリスでも2016年9月に象牙の取引を大筋で禁止する法案が施行されたが、アンティーク業界のロビー活動の結果、1947年以前に製造された象牙製品(アンティーク象牙)は販売できることになったため、新規に作られた象牙製品を「アンティーク象牙」と主張して販売する抜け穴が指摘され、議論が続いている。このように、EU各国の足並みはそろっていないが、EUレベルで象牙取引の全面禁止に至る取り組みが2016年より段階的に始まっており、2017年6月にはEU全域における全形象牙の取引が禁止された[26]。イギリスではウィリアム王子が象牙の禁止のために熱心に活動しており、王室財産である1200点の象牙製品(アンティーク象牙)を全て破壊したいと公言している[27]。ウィリアム王子は、第17回ワシントン条約締約国会議でも基調公演を担当した。
日本では、象牙は彫刻・印章・根付などとして、伝統的に使われてきた。日本の象牙市場は、WWFジャパンによると2016年時点でピーク時の10%くらいとなるなど縮小の傾向にあるとされるが[28](WWFジャパンは「日本は象牙の密輸とは無関係」との日本政府の見解を支持しているため、これは合法市場のみの数字である)、代わりにヤフーオークションを介しての取引が急増している(「日本は象牙の違法取引の拠点」との立場に立つEIAによると、違法市場であることが強く疑われている)など、いまだに活発な需要が存在し、特に印鑑での用途は、日本国内で使われている象牙の80%を占める。ただし「印鑑」は日本古来の「印章」とは別物で、役所や銀行などで印鑑登録制度が始まる近代以後の産物であり、さらに象牙の印鑑が普及するのは一般庶民に象牙の印鑑を購入するほどの財力の付いた高度成長期以降の印鑑業界のキャンペーンによるところが大きく、印鑑に使われる書体である「印相体」も昭和30年代に創出されたフォントである(「印章」に使われる正式な書体は「篆書体」で、印材は石が多かった。篆刻を参照)。
日本はワシントン条約の実効性を高めるために、1992年に「種の保存法」を制定し違法な取引の防止に努めている[29][30]が、そもそも合法的な象牙の「利用を推進する」というコンセプト自体が、合法・違法を問わず全ての象牙の利用の規制・縮小を目的とするワシントン条約に違反しており、日本では違法市場どころか合法市場ですら今なお活発な取引が続いている状態が、象牙の密輸が武装グループの資金源にもなっているケニアを中心とするアフリカ諸国から非難を浴び、2016年にワシントン条約締約国会議において国内合法市場の閉鎖を勧告された[31]。しかし日本政府は「合法市場は適切に管理されている」との見解から勧告に従っていない。
自然保護団体の世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)とトラフィックは、日本市場が「密猟された象牙の流入先になっている可能性は低い」と考えており、そのため日本の国内合法市場を直ちに閉鎖する必要はないと考えているが、一方で日本から中国への違法な象牙の密輸が相次いで摘発されていることなどから、「日本市場は管理の行き届いたものとは到底言えない」との見解である。特に2017年には、日本で経済産業省への届出を行っていた合法な業者が違法取引で摘発されたことで、これまで日本政府の「適切な管理」を高く評価していたWWFジャパンも、「種の保存法」による国内取引管理の有効性に疑問を投げかける状況となった。そのため、WWFジャパンは日本政府に対して対応の強化を要求しており、それができない場合は国内市場の閉鎖もやむを得ない、と考えている[32](WWFは象の密猟や象牙の違法取引と言った犯罪を厳しく取り締まる立場だが、犯罪とは無関係の合法市場は閉鎖する必要はないと考えている)。またWWFとは別の自然保護団体であるアメリカの環境調査エージェンシー(EIA)によると、世界では象牙の取引禁止が強化された2010年代以降に日本では逆に取引数が増えているとされ、違法な抜け穴が指摘されている[33](EIAは違法・合法問わず全ての象牙取引を禁止すべきとの立場であり、またそもそも日本市場は違法な象牙が野放しだと考えている)。象牙の密輸が確認されていないはずの日本で、2016年時点でも象牙の活発な取引がなされていることについては、日本にはワシントン条約締結が締結された1989年以前に取得された象牙が、約30年後の2016年時点でも未だに大量に存在するため、と言うのが日本政府の公式見解である。また、世界的に象牙の取引禁止が強化された2011年以降に、日本では何故か象牙の登録本数・重量が増加したことに関しては、チェック体制がザルである日本の合法市場を介して違法な象牙を合法化する動きが進んだことをEIAは疑っているが、日本政府としては、管理者の死亡や高齢化で相続や譲渡のために登録される件数が増加した、法律の周知が進んたために自ら進んで登録するようになった業者が増加した、というのが公式見解である[34]。日本では、民間の押し入れや床の間などにワシントン条約締結以前に取得された全形の象牙が大量に存在し、これが相続や譲渡などの際に合法な象牙として市場に供給されることがしばしばあるとのことで、これを「床の間象牙」「押し入れ象牙」などと呼んでいる。
合法的な業者と密売人が結託し、合法的な象牙の中に違法な象牙を紛れ込ませて申請するとチェックが難しく、このようにして違法な象牙を合法化することを「ロンダリング」と呼ぶ。ロンダリングを防ぐためには世界の違法市場のみならず合法市場をも閉鎖するしかない、というのが国際自然保護連合(IUCN)およびワシントン条約締結国会議の見解である。日本では違法市場や密輸はほとんど摘発されておらず、適切に管理されているように見えるが、アフリカ諸国での密猟の摘発数と、日本からの密輸された象牙の中国での摘発数からみると、現実は日本を介した違法な象牙の合法化、さらには中国への密輸が横行していると考えられている[35]。
象牙の違法市場に関しては、EIAの報告書では日本のネットオークションサイトであるヤフーオークションが「世界最大の象牙オンライン小売業者」と名指しで批判されており[36]、ヤフオクを経営するソフトバンク社に対し、EIA、トラ・ゾウ保護基金、米ヤフー本社などから象牙取引の中止の要望がなされているが、ソフトバンク社は「日本市場は象牙の密輸と無関係」という日本政府の見解を支持しており、まっとうな利用者がいわれなき批判を受けるのに反対する立場から、従っていない[37]。
このように象牙をめぐっては、象のいない日本も象牙の主要消費国や密輸仲介国と言う面では当事国の一つであり、様々な問題が存在する。
- 対策
象を保護するためには象牙の国際取引のみならず国内取引を含めた世界の全ての取引を禁止するしかない、と言うのが、国際動物福祉基金の見解である。国際社会に発言力のある日本が、象牙の国内取引の禁止どころか国際取引の再開を主張していることから、ワシントン条約締結国会議でも「象牙の国内市場の禁止」ではなくあくまで「象牙の国内市場の閉鎖の勧告」にとどまっているが、2016年時点で日本以外の全ての国は象牙の国内市場の閉鎖を決定している。
ワシントン条約締結国会議のうち、日本と、日本と取引のあるアフリカの数か国(2016年現在ではナミビア・ジンバブエ・南アフリカの3か国)は、ルールを守った象牙の厳正な管理による「持続的な利用」を主張している[38]。それ以外の国は、象牙が「持続可能な資源」だとは考えておらず、一刻も早い象牙取引の全面禁止と象の全面保護を主張している。密猟で象が激減している国々はおろか、象の保護に成功しており、また日本に象牙を輸出した経緯があるボツワナも、2016年度のワシントン条約締結国会議では象の保護を主張する側に回った。
放射性炭素年代測定法によって、象牙が採取された年代や地域を把握する方法があり、これによって象牙がどこで密猟されたかを把握することが可能である。2016年、9か国で押収された違法象牙の90%以上が、政府の古い備蓄象牙ではなく、この3年以内に採取された違法な物であることがコロンビア大学などの調査報告で分かった。
世界銀行は、富裕層に象をスポーツハンティングさせることで、地域住民の収入を安定させ、保護した方が有益となるようにできると考えている。ただし、これに対して国際動物福祉基金は「動物を殺すことは保護ではない」と批判しており、今後どれだけ効果を上げるかの信ぴょう性や、腐敗した政府を介して得られる収入がどれほどかを疑問視する声も多い[39]。
脚注
- ^ 各国の象牙市場について WWF
- ^ 象牙とマンモス牙識別マニュアル(PDF) - 環境省
- ^ a b c d e f 合衆国魚類野生生物局研究所. “Ivory Identification Guide – U.S. Fish and Wildlife Service Forensics Laboratory”. fws.gov. 2016年11月16日閲覧。
- ^ ブルース有機化学: 下, 第2巻(5版) p1369
- ^ 研究用ペレット HOYA Technosurgical
- ^ 人工象牙 特開平5-271431 j-tokkyo
- ^ Otto (2004). Stone from milk. Ascent and fall of the Galaliths. Chemistry in our time.
- ^ 日本大百科全書カゼイン(コトバンク)
- ^ 第21回 頭と刃は切れるうちに(ニュースダイジェスト)
- ^ アジアからの需要増大でゾウとサイの密猟増える=アフリカ(ロイター)
- ^ 人間の歯を食べると意外な栄養? マクドナルド騒動の危険なもしも…(もぐもぐニュース)
- ^ 象牙(コトバンク)
- ^ Harold Osborne, Antonia Boström. "Ivories" in The Oxford Companion to Western Art, ed. Hugh Brigstocke. Oxford University Press, 2001. Oxford Reference Online. Oxford University Press. Accessed 5 October 2010
- ^ Shatzmiller, Maya (1993). Labour in the Medieval Islamic World. BRILL. pp. 229–230. ISBN 90-04-09896-8
- ^ Jones, Dalu & Michell, George, (eds); The Arts of Islam, Arts Council of Great Britain, 1976, ISBN 0-7287-0081-6. pp. 147–150, and exhibits following
- ^ 会場案内図、正倉院の仏具(奈良国立博物館)
- ^ 三井版 日本美術デザイン大辞展(食品サンプルではありません。こちらも牙彫で、安藤緑山作)
- ^ 象牙・マンモス実印の販売終了について ハンコヤドットコム
- ^ アフリカの象牙競売終了、日本と中国の業者が15億円落札,AFP BB NEWS,2008年11月7日/朝日新聞2010年3月14日朝刊「密漁呼ぶ象牙限定解禁」
- ^ 象牙需要が背景、ケニアのゾウ密猟(2012年4月19日時点のアーカイブ) - ナショナルジオグラフィック 2011年8月18日
- ^ “習主席の随行団が象牙を大量密輸か 環境団体”. CNN. (2014年11月7日) 2014年11月7日閲覧。
- ^ 中国、象牙の取引と加工を2017年末までに全面禁止AFP通信(2016年12月31日)2016年12月31日閲覧
- ^ 違法象牙の90%以上、3年以内に密猟したゾウから採取 研究(AFP通信)
- ^ アフリカ諸国、象牙で対立 輸出禁止か解禁か 日本経済新聞
- ^ 象牙“取引禁止” 密猟の現場は|けさのクローズアップ NHKニュース おはよう日本
- ^ EU set to ban raw ivory exports from July(The guardian)
- ^ Prince William wants 'all royal ivory destroyed'The Independent
- ^ 象牙と犀角 縮小する日本の市場について報告
- ^ ワシントン条約について(条約全文、付属書、締約国など)(経済産業省)
- ^ 象牙等はルールを守って取引しましょう!(環境省)
- ^ 象牙の国内市場、合法でも縮小を ワシントン条約会議 朝日新聞
- ^ 日本国内での象牙取引で違法事例 古物商ら27人が書類送検|野生生物の違法取引対策 WWFジャパン
- ^ 日本で違法な象牙取引が横行、覆面調査でも確認 ナショナルジオグラフィック日本版サイト
- ^ 日本のアフリカゾウ保全及び象牙取引についての見解 環境省
- ^ 中国、象牙も「爆買い」 合法市場・日本からの密輸横行…EIA報告書「習近平主席の専用機でアフリカから密輸した」産経WEST
- ^ 日本によるワシントン条約不遵守の20年 EIA
- ^ 象牙取引(下):見えないネット取引実態、日米ヤフーに温度差 ロイター
- ^ 環境省_象牙等はルールを守って取引しましょう! 環境省
- ^ 『ナショナルジオグラフィック ゾウを殺してゾウを保護するという矛盾』(2015年7月13日)
参考文献
- 渋谷区立松濤美術館編集・発行 『日本の象牙美術 --明治の象牙彫刻を中心に--』 1996年
- 美術誌「Bien(美庵) Vol.48」 特集「石川光明とデザインで見る象牙彫刻」(藝術出版社、2008年) ISBN 978-4-434-12047-3 C0370
関連語
- 象の墓場
- 象の墓場は象牙の宝庫とされる。「象は死に場所を選んで死ぬため、死期が迫った象は自ら仲間が死んだ場所へと向かい、死んだ象が必然的にたくさん集まる場所ができる」とする伝説がある。『シンドバッドの冒険』の「7度目の冒険」では、象を狩って象牙を得る奴隷の身分に堕ちたシンドバッドが、仲良くなった象から「象の墓場」を教えてもらい、象を殺さずに象牙を得て巨万の富を得た。このように、おとぎ話の世界の話で、現実には存在しない。
- 象牙の塔
- 現実からかけ離れた夢想の世界。学者が閉じこもる研究室の比喩。ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』にも登場する。
- もともとはフランス語la tour d'ivoire。「旧約聖書」「ソロモンの雅歌」7:5の「なんじの首は象牙の塔の如し」に由来し、サント-ブーブがヴィニーを評した「Et Vigny, plus secret,/ Comme en son tour d'ivoire, avant midi, rentrait.」という言い回しに由来する。
- 象牙色
- アイボリー。淡い黄色。クリーム色。
- 象牙海岸
- 西アフリカの国・コートジボワールのこと。フランス語のCôte d'Ivoireを和訳した名前で、英語名のIvory Coastも同じ意味。かつてこの一帯から象牙が搬出されたため、この名が付いた。