「シュワルツシルト解」の版間の差分
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{{翻訳直後|[[:en:Special:Permalink/739135394|en:Schwarzschild metric]]|date=2016年10月}} |
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'''シュワルツシルト解'''(シュワルツシルトかい)あるいは'''シュワルツシルト計量''' ({{en|Schwarzschild metric}}) は、[[一般相対性理論]]における[[アインシュタイン方程式]](重力場の方程式)の解の一つで、[[カール・シュヴァルツシルト]]が[[1916年]]に導き出した。[[球対称]]かつ真空な時空を仮定して得られるアインシュタイン方程式のもっとも簡単な解である。解は通常、''r'' を動径座標とする球座標を用いて、 |
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{{一般相対性理論|cTopic=解}} |
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:<math>ds^{2} = -c^2 \left( 1 - \frac{2GM}{c^2 r} \right) dt^2 + \left( 1 - \frac{2GM}{c^2 r} \right)^{-1} dr^2+ r^2 d\Omega^2</math> |
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と表現される。ここで ''G'' は[[重力定数]]、''M'' は重力を及ぼす中心物体の[[質量]]を表し、 |
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:<math>d\Omega^2 = d\theta^2 + \sin^2 \theta d\phi^2</math> |
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は、2 次元球面を表す[[計量テンソル|計量]]である。 |
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[[アルベルト・アインシュタイン|アインシュタイン]]による[[一般相対性理論]]において、'''シュワルツシルト解'''(シュワルツシルトかい、{{Lang-en-short|'''Schwarzschild solution'''}})は、'''シュワルツシルト計量''' {{Lang|en|'''Schwarzschild metric'''}}、'''シュワルツシルト真空''' {{Lang|en|'''Schwarzschild vacuum'''}} とも呼ばれる。(なお、シュワルツシルトでなくシュヴァルツシルトとも呼ばれる)とは、[[アインシュタイン方程式]]の厳密解の一つで、[[球対称]]で静的な[[質量]]分布の外部にできる[[重力場]]を記述する。ただし、[[電荷]]や[[角運動量]]、[[宇宙定数]]はすべてゼロとする。この解は[[太陽]]や[[地球]]など、十分に自転の遅い[[恒星]]や[[惑星]]が外部の[[真空]]空間に及ぼす重力を近似的に表わすことができ、応用されている。名称については、この解を[[1916年]]に初めて発表した[[カール・シュヴァルツシルト]]に由来する。 |
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この解は中心の天体が周囲に与える空間の歪みを表すので、一般相対性理論の効果を計算するときの第一近似として、天体の周囲での物体の運動を計算するときなどに広く応用される。 |
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== 解説 == |
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この解は、''r'' = 0 と |
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[[バーコフの定理]]により、シュワルツシルト計量は球対称性をもつアインシュタイン方程式の[[真空解 (一般相対性理論)|真空解]]として唯一のものといえる。'''[[シュワルツシルト・ブラックホール]]'''({{Lang|en|'''Schwarzschild black hole'''}})または別名'''静的ブラックホール'''({{Lang|en|'''static black hole'''}})とは、[[チャージ (物理学)|電荷]]も[[角運動量]]ももたないブラックホールを指す。シュワルツシルト・ブラックホールはシュワルツシルト解により記述でき、シュワルツシルトブラックホールにはその質量以外で区別する手段がない。 |
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:<math>r_{\rm s} = \frac{2GM}{c^2}</math> |
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の 2 点で特異性を持つ。''r''<sub>s</sub> は[[シュワルツシルト半径]]と呼ばれ、長らくその物理的解釈は不明であった。現在では、この特異性は座標の取り方による見かけ上のものであることが説明される。シュワルツシルト解は、[[ブラックホール]]の存在を予言するものでもあった。大質量の星の[[重力崩壊]]の後には、ブラックホールが形成されると考えられるが、この解によるブラックホールのモデルを[[シュワルツシルト・ブラックホール]]と言う。[[シュワルツシルト半径]]はブラックホールの[[事象の地平線]]の位置を表す。 |
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シュワルツシルトブラックホールには、その中心から[[シュワルツシルト半径]]だけ離れた場所に[[事象の地平面]]と呼ばれる境界面を持つという特徴がある。この境界面は物理的な面ではなく、もし人が事象の地平面の内部に([[潮汐力]]により引き裂かれる前に)落ち込んだとしても、物理的ななにかを感じることはない。この面は数学的なものであり、ブラックホールの性質を決定づける上で重要である。無回転・無電荷の質量が、その質量に応じたシュワルツシルト半径よりも小さい領域に凝集したとき、必ずブラックホールが生じる。シュワルツシルト解は質量 {{Mvar|M}} がどんな値でも成り立つので、形成するための条件を満たせば(一般相対性理論によれば)原理的には任意の質量のシュワルツシルトブラックホールが存在しうる。 |
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なお、''r'' = 0 の中心の特異性は除去できない。時空の特異点と呼ばれ、一般相対性理論をはじめ、あらゆる物理法則が適用できない点である。このような時空特異点が現実に存在してもそれがブラックホールの内側であれば、ブラックホールの外側の世界での物理法則の適用には影響はない(詳しくは[[宇宙検閲官仮説]]を参照のこと)。 |
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== シュワルツシルト計量 == |
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[[バーコフの定理]]により、真空かつ球対称でのアインシュタイン方程式の解は、シュワルツシルト解に限られることが示される。 |
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符号 {{Math|(1, −1, −1, −1)}} の{{仮リンク|シュワルツシルト座標|en|Schwarzschild coordinates}}を用いると、シュワルツシルト計量の{{仮リンク|線素|en|Line element}}は以下のような式で書き下される。 |
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: <math> |
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c^2 {\mathrm d \tau}^{2} = |
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\left(1 - \frac{r_\mathrm s}{r} \right) c^2 \mathrm dt^2 - \left(1-\frac{r_\mathrm s}{r}\right)^{-1} \mathrm dr^2 - r^2 \left(\mathrm d\theta^2 + \sin^2\theta \, \mathrm d\varphi^2\right) |
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</math> |
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ここで、以下のような[[変数 (数学)|変数]]および[[定数]]を用いた。 |
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* {{Mvar|τ}} は[[固有時|固有時間]]([[試験粒子]]のたどる[[世界線]]に沿って動く時計で測った時間) |
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* {{Mvar|c}} は[[光速]] |
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* {{Mvar|t}} は座標時(質量から無限に遠い静的な時計で測った時間) |
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* {{Mvar|r}} は動径座標 |
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* {{Mvar|θ}} は[[余緯度]]座標(北極から[[ラジアン]]単位で測った角度) |
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* {{Mvar|φ}} は[[経度]]座標(単位はラジアン) |
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* {{Math|''r''{{sub|s}}}} は質量をもつ物体に対応する[[シュワルツシルト半径]]({{Mvar|M}} により {{Math|1=''r''{{sub|s}} = 2''GM''/''c''{{sup|2}}}} のように決まる[[スケール因子|スケールファクター]]。ここで {{Mvar|G}} は[[万有引力定数]]である)<ref name="landau_1975">{{Harv|Landau|Liftshitz|1975}}.</ref> |
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この解は、ニュートン力学において質点のつくる重力場に相当する<ref>{{Cite journal|last=Ehlers|first=Jürgen|author-link=Jürgen Ehlers|date=January 1997|title=Examples of Newtonian limits of relativistic spacetimes|url=http://pubman.mpdl.mpg.de/pubman/item/escidoc:153004:1/component/escidoc:153003/328699.pdf|journal=[[Classical and Quantum Gravity]]|volume=14|issue=1A|pages=A119–A126|bibcode=1997CQGra..14A.119E|doi=10.1088/0264-9381/14/1A/010}}</ref>。 |
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ほとんどの場合、{{Math|''r''{{sub|s}}/''r''}} は極端に小さい。たとえば[[地球]]のシュワルツシルト半径 {{Math|''r''{{sub|s}}}} はおよそ {{Val|8.9|ul=mm}}, 地球の {{Val|3.3|e=5|u=倍}}の質量を持つ[[太陽]]でさえ<ref>{{Cite book|editor-last=Tennent|editor-first=R.M.|title=Science Data Book|year=1971|publisher=[[Oliver & Boyd]]|ISBN=0-05-002487-6|page=}}</ref>そのシュワルツシルト半径はおよそ {{Val|3.0 |ul=km}} である。地球の表面においてさえ、ニュートン重力からの一般相対性理論によるずれは10億分の1程度にすぎない。この比は[[中性子星]]などの極端に密度の高い物体に対してしかブラックホールにおいて見られるような大きな値にはならない{{要出典|date=2016年10月}}。 |
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シュワルツシルト・ブラックホールに[[電荷]]を持たせた解は、[[ライスナー・ノルドシュトロム解|ライスナー・ノルドストロム解]]である。現実の重力崩壊現象で形成されるブラックホールは、回転するブラックホールになることが普通と考えられる。回転するブラックホール解としては、[[カー解]]と、さらに[[電荷]]を持たせた[[カー・ニューマン解]]が唯一の解として知られている。 |
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シュワルツシルト計量は何もない空間についてのアインシュタイン方程式の解であり、重力源の「外側」についてのみ意味を持つ。つまり、球状物体の半径を {{Mvar|R}} とすると {{Math|''r'' > ''R''}} についてしか適用できない。重力源となる物体の外部と内部の両方を取り扱うためには、{{仮リンク|シュワルツシルトの内部解|en|Interior Schwarzschild solution}}を初めとする内部解と {{Math|1=''r'' = ''R''}} において適切に接続する必要がある<ref>{{Cite book|title=Introduction to Black Hole Physics|year=2011|publisher=Oxford|ISBN=0-19-969229-7|page=168|last1=Frolov|last2=Zelnikov|first1=Valeri|first2=Andrei}}</ref>。 |
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[[第一次世界大戦]]中、カール・シュヴァルツシルトは[[一般相対性理論]]を出兵先の[[ロシア]]で知り、[[戦地]]でその計算に勤しんでこの解を導き出したという。彼はその研究結果を[[アルベルト・アインシュタイン]]に送り、その半年後に病死した。 |
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== 歴史 == |
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シュワルツシルト解の名は、アインシュタインが一般相対性理論を発表してから一ヶ月そこそこでこの厳密解を1915年に初めて見出し、1916年に発表した<ref name="Schwarzschild1916">{{Cite journal|last=Schwarzschild|first=K.|year=1916|title=Über das Gravitationsfeld eines Massenpunktes nach der Einsteinschen Theorie|url=https://archive.org/stream/sitzungsberichte1916deutsch#page/188/mode/2up|journal=[[Sitzungsberichte der Königlich Preussischen Akademie der Wissenschaften]]|volume=7|issue=|pages=189–196|ref=harv|bibcode=1916AbhKP......189S}}</ref>[[カール・シュヴァルツシルト]]を称えて命名された。これは自明な[[ミンコフスキー空間|平坦空間解]]を除けば初めて見付かったアインシュタイン方程式の厳密解である。シュヴァルツシルトはこの論文が発表されてすぐ、第一次世界大戦にドイツ兵として参戦中に病のため亡くなった<ref name="MacTutorBio">{{MacTutor|id=Schwarzschild|title=Karl Schwarzschild}}</ref>。 |
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1916年、ヨハネス・ドロステ<ref>{{Cite journal|last=Droste|first=J.|year=1917|title=The field of a single centre in Einstein's theory of gravitation, and the motion of a particle in that field|url=http://www.dwc.knaw.nl/DL/publications/PU00012325.pdf|journal=[[Proceedings of the Royal Netherlands Academy of Arts and Science]]|volume=19|issue=1|pages=197–215|ref=harv|bibcode=1917KNAB...19..197D}}</ref>は独立に、より直接的な導出方法を用いてシュワルツシルト解を導いた<ref>{{Cite book|last=Kox|first=A. J.|title=Studies in the History of General Relativity|year=1992|publisher=[[Birkhäuser]]|ISBN=978-0-8176-3479-7|page=41|chapter=General Relativity in the Netherlands:1915-1920|editor1-last=Eisenstaedt|editor2-last=Kox|editor1-first=J.|editor2-first=A. J.|chapterurl=https://books.google.com/books?id=vDHCF_3vIhUC&lpg=PA39|chapter-url=https://books.google.com/books?id=vDHCF_3vIhUC&lpg=PA39}}</ref>。 |
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一般相対性理論の黎明期にはシュワルツシルト解を初めとするアインシュタイン方程式の解に現われる特異点をめぐって多くの混乱が見られた。シュヴァルツシルトの原論文では、現在では事象の地平面と呼ばれている面を座標の原点としていた<ref>{{Cite book|last=Brown|first=K.|title=Reflections On Relativity|url=http://mathpages.com/rr/s8-07/8-07.htm|year=2011|publisher=[[Lulu.com]]|ISBN=978-1-257-03302-7|at=Chapter 8.7}}</ref>。同論文では、シュワルツシルト動径座標(上式の {{Mvar|r}})は補助変数として用いられていた。シュヴァルツシルトの方程式においては、シュワルツシルト半径においてゼロとなる別の動径座標が用いられていた。 |
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より完全な特異点構造の解析は後年、[[ダフィット・ヒルベルト]]<ref>{{Cite journal|last=Hilbert|first=David|year=1924<!-- This paper is a reprint combining notes first published in 1915 and 1917 -->|title=Die Grundlagen der Physik|journal=Mathematische Annalen|volume=92|issue=1-2|pages=1–32|publisher=Springer-Verlag|doi=10.1007/BF01448427}}</ref>により与えられ、{{Math|1=''r'' = 0}} と {{Math|1=''r'' = ''r''{{sub|s}}}} の両方が特異点であるとされた。{{Math|1=''r'' = 0}} における特異点は「真の」物理的な特異点であることが一般の共通理解となっていたが、{{Math|1=''r'' = ''r''{{sub|s}}}} における特異点の性質については未だはっきりしなかった<ref name="earman">{{Cite book|last=Earman|editor-last=Goenner|editor-first=H.|first=J.|title=The expanding worlds of general relativity|year=1999|publisher=[[Birkhäuser]]|ISBN=978-0-8176-4060-6|page=236-|chapter=The Penrose–Hawking singularity theorems: History and Implications|chapterurl=https://books.google.com/books?id=5mGZno8CvnQC&pg=PA236|chapter-url=https://books.google.com/books?id=5mGZno8CvnQC&pg=PA236}}</ref>。 |
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1921年には[[ポール・パンルヴェ]]により、そして1922年には[[アルヴァル・グルストランド]]により、それぞれ独立に現在では{{仮リンク|グルストランド・パンルヴェ座標|en|Gullstrand–Painlevé coordinates}}と呼ばれる、{{Math|1=''r'' = ''r''{{sub|s}}}} において特異点を持たない、シュワルツシルト計量の変換にあたる座標が導出された。しかし、彼らはその解を単なる座標変換であると気付いておらず、アインシュタインの説が誤っているという議論に実際用いた。1924年、[[アーサー・エディントン]]は、{{仮リンク|エディントン・フィンケルシュタイン座標|en|Eddington–Finkelstein coordinates}}と呼ばれる座標変換を初めて用い、{{Math|1=''r'' = ''r''{{sub|s}}}} における特異点は座標の取り方による人為的なものにすぎないことを示していたが、やはり彼もこの発見の重要性に気付いていなかった。1932年まで下って、[[ジョルジュ・ルメートル]]によりまた異る座標変換({{仮リンク|ルメートル座標系|en|Lemaître coordinates}})が示され、{{Math|1=''r'' = ''r''{{sub|s}}}} における特異点が物理的なものではないことが意識的に初めて示された。1939年、[[ハワード・ロバートソン]]は、シュワルツシルト計量上で自由落下を行う観測者は、{{Math|1=''r'' = ''r''{{sub|s}}}} を通り過ぎるのに無限の座標時を要するにも関らず、有限の固有時しか要さないことを示した<ref name="earman">{{Cite book|last=Earman|editor-last=Goenner|editor-first=H.|first=J.|title=The expanding worlds of general relativity|year=1999|publisher=[[Birkhäuser]]|ISBN=978-0-8176-4060-6|page=236-|chapter=The Penrose–Hawking singularity theorems: History and Implications|chapterurl=https://books.google.com/books?id=5mGZno8CvnQC&pg=PA236|chapter-url=https://books.google.com/books?id=5mGZno8CvnQC&pg=PA236}}</ref>。 |
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1950年、{{仮リンク|ジョン・シン|en|John Lighton Synge}}<ref>{{Cite journal|last=Synge|first=J. L.|year=1950|title=The gravitational field of a particle|journal=[[Proceedings of the Royal Irish Academy]]|volume=53|issue=6|pages=83–114|bibcode=|doi=}}</ref>はシュワルツシルト計量の極大[[解析接続|解析拡張]]を用いてやはり {{Math|1=''r'' = ''r''{{sub|s}}}} における特異点が座標による人工物であり、二つの地平面を表わすことを示した。同様の結果が後に{{仮リンク|セケレシュ・ジェルジ|en|George Szekeres}}<ref>{{Cite journal|last=Szekeres|first=G.|year=1960|title=On the singularities of a Riemannian manifold|journal=[[Publicationes Mathematicae Debrecen 7]]|volume=7|pages=285|bibcode=2002GReGr..34.2001S|doi=10.1023/A:1020744914721}}</ref>および{{仮リンク|マーティン・デイヴィッド・クルスカル|en|Martin David Kruskal}}<ref>{{Cite journal|last=Kruskal|first=M. D.|year=1960|title=Maximal extension of Schwarzschild metric|journal=[[Physical Review]]|volume=119|issue=5|pages=1743–1745|bibcode=1960PhRv..119.1743K|doi=10.1103/PhysRev.119.1743}}</ref>によりそれぞれ独立に再発見された。この現在では[[クルスカル・スゼッケル座標系|クルスカル・セケレシュ座標]]として知られる新しい座標はシンによるものより大幅に単純であるものの、単一の座標系により全時空を覆うことができた。しかし、ルメートルとシンが論文を投稿した論文誌が有名でなかったためか、彼らの結論は知られることがなく、アインシュタインを含めた主要人物の大部分がシュワルツシルト半径における特異点が物理的なものであると考えていた<ref name="earman">{{Cite book|last=Earman|editor-last=Goenner|editor-first=H.|first=J.|title=The expanding worlds of general relativity|year=1999|publisher=[[Birkhäuser]]|ISBN=978-0-8176-4060-6|page=236-|chapter=The Penrose–Hawking singularity theorems: History and Implications|chapterurl=https://books.google.com/books?id=5mGZno8CvnQC&pg=PA236|chapter-url=https://books.google.com/books?id=5mGZno8CvnQC&pg=PA236}}</ref>。 |
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1960年代に入って初めて、[[微分幾何学]]というより厳密な道具が一般相対性理論の分野に持ち込まれ、[[擬リーマン多様体|ローレンツ多様体]]における特異点の意味をより厳密に定義できるようになり、状況が進展した。これにより、シュワルツシルト計量の {{Math|1=''r'' = ''r''{{sub|s}}}} における特異点が[[事象の地平面]](一方向にしか通過できない[[超曲面]])であることが決定づけられた<ref name="earman">{{Cite book|last=Earman|editor-last=Goenner|editor-first=H.|first=J.|title=The expanding worlds of general relativity|year=1999|publisher=[[Birkhäuser]]|ISBN=978-0-8176-4060-6|page=236-|chapter=The Penrose–Hawking singularity theorems: History and Implications|chapterurl=https://books.google.com/books?id=5mGZno8CvnQC&pg=PA236|chapter-url=https://books.google.com/books?id=5mGZno8CvnQC&pg=PA236}}</ref>。 |
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== 特異点とブラックホール == |
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シュワルツシルト解は {{Math|1=''r'' = 0}} と {{Math|1=''r'' = ''r''{{sub|s}}}} において[[特異点 (数学)|特異点]]を持つようにみえる。すなわち、計量のいくつかの成分が発散するのである。シュワルツシルト計量は重力源となる物体の半径 {{Mvar|R}} よりも外側についてしか有効であると考えられないため、{{Math|''R'' > ''r''{{sub|s}}}} の場合には問題は存在しない。通常の恒星や惑星では常にこの条件が成り立つ。例えば、[[太陽]]の直径はおよそ {{Val|700000 |e=|u=km}} であるが、シュワルツシルト半径はわずか {{Val|3|e=|u=km}} でしかない。 |
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シュワルツシルト座標の {{Math|1=''r'' = ''r''{{sub|s}}}} における特異点は座標を二つの[[連結空間|非連結]]な[[アトラス (位相幾何学)|座標パッチ]]に分割する。このうち、{{Math|''r'' > ''r''{{sub|s}}}} を満たす「シュワルツシルトの外部解」は恒星や惑星の生み出す重力と関係がある。対して、{{Math|0 ≤ ''r'' < ''r''{{sub|s}}}} を満たす「シュワルツシルトの内部解」は {{Math|1=''r'' = 0}} に特異点を含み、外部とは {{Math|1=''r'' = ''r''{{sub|s}}}} の特異点により完全に断絶している。そのため、シュワルツシルト座標は内部と外部で物理的な繋りをまったく持っておらず、別々の解と見做すことができる。しかし、{{Math|1=''r'' = ''r''{{sub|s}}}} における特異点は見掛け上のものにすぎない。このような存在を座標特異点と呼ぶ。名前の示すとおり、この特異点は座標の選びかたもしくは{{仮リンク|座標条件|en|Coordinate conditions}}が悪いために生じるものである。座標を適切に変更すれば(例えばルメートル座標、エディントン・フィンケルシュタイン座標、クルスカル・セケレシュ座標、ノビコフ座標、グルストランド・パンルヴェ座標など)、計量は {{Math|1=''r'' = ''r''{{sub|s}}}} において正則となり外部の座標パッチと内部の座標パッチを繋ぐことができる。したがって、座標変換を用いれば外部と内部を関連付けることが可能となる<ref>{{Cite book|title=An introduction to general relativity|url=https://books.google.com/books?id=2q5Rdjn0qfgC&lpg=PA126|year=1990|publisher=[[Cambridge University Press]]|ISBN=978-0-521-33943-8|last1=Hughston|last2=Tod|first1=L.P.|first2=K.P.|at=Chapter 19}}</ref>。 |
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しかし、{{Math|1=''r'' = 0}} の場合は話が異る。{{Mvar|r}} がどんな値でも成り立つような解を求めようとすると必ず[[重力の特異点]]と呼ばれる真の物理的特異点が原点に生じる。この特異点が真の特異点であることを理解するためには座標の選択によらない量を調べる必要がある。そのような量のうち重要なものとして、下に示す{{仮リンク|クレッチマン不変量|en|Kretschmann invariant}}が挙げられる。 |
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: <math>R^{\alpha\beta\gamma\delta} R_{\alpha\beta\gamma\delta} = \frac{12 {r_\mathrm s}^2}{r^6} = \frac{48 G^2 M^2}{c^4 r^6}</math> |
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{{Math|1=''r'' = 0}} において曲率は無限大になり、すなわち特異点の存在を示す。この点では計量および時空そのものが良い定義を持ちえない。長い間、このような解は物理的でないと見做されていた。しかし、一般相対性理論がよりよく理解されるにつれて、このような特異点は珍しい特殊例ではなく、この理論にまつわる一般的な特徴であることが明らかになってきた。 |
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{{Math|''r'' > 0}} の全域において成り立つようなシュワルツシルト解を、'''[[シュワルツシルト・ブラックホール]]'''と呼ぶ。これはいくつかの奇妙な特徴を持っているが、完全に妥当なアインシュタイン方程式の厳密解である。{{Math|''r'' < ''r''{{sub|s}}}} において、シュワルツシルト座標 {{Mvar|r}} は[[時空|時間的]]となり、座標時 {{Mvar|t}} は[[時空|空間的]]となる。したがって、{{Mvar|r}} を一定に保つような曲線はもはや粒子や観測者の世界線には成り得ず、どのような力を加えたとしてもこのような軌跡を描くことはできない。このことは時空が著しく曲がっているため原因と結果の向き(粒子の未来[[光円錐]])が特異点にしか向かわないことに起因する{{要出典|date=2016年10月}}。曲面 {{Math|1=''r'' = ''r''{{sub|s}}}} はブラックホールの「事象の地平面」と呼ばれるある種の限界を表わしている。これは、光ですら重力から逃れることができなくなる点を表わしている。その半径 {{Mvar|R}} がシュワルツシルト半径よりも小さくなった物理的物体は全て[[重力崩壊]]を起こし、ブラックホールとなる<ref>{{Cite journal|last=Brill|first=D.|date=19 January 2012|title=Black Hole Horizons and How They Begin|url=http://astroreview.com/issue/2012/article/black-hole-horizons-and-how-they-begin|journal=Astronomical Review}}</ref>。 |
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== 別の座標系 == |
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シュワルツシルト解は先に示した式で用いられていた座標とは別の座標系によっても表わすことができる。それぞれの座標はこの解のそれぞれ別の側面を強調している。下表にいくつかの一般的な座標をまとめる。 |
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{| class="wikitable" style="margin: 1em auto 10px;" |
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|+その他の座標系 |
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!座標系 |
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!線素 |
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!備考 |
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!特徴 |
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|{{仮リンク|エディントン・フィンケルシュタイン座標系|en|Eddington-Finkelstein coordinates}}(内向き) |
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|<math>\left(1-\frac{r_\mathrm s}{r} \right) \mathrm dv^2 - 2 \mathrm dv \mathrm dr - r^2 \mathrm d\Omega^2</math> |
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| |
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|地平面において正則、未来地平面を超えて拡がる |
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|- |
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|エディントン・フィンケルシュタイン座標系(外向き) |
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|<math>\left(1-\frac{r_s}{r} \right) \mathrm du^2 + 2 \mathrm du \mathrm dr - r^2 \mathrm d\Omega^2</math> |
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| |
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|地平面において正則、過去地平面を超えて拡がる |
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|- |
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|{{仮リンク|グルストランド・パンルヴェ座標系|en|Gullstrand–Painlevé coordinates}} |
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|<math>\left(1-\frac{r_\mathrm s}{r} \right)\mathrm dT^2- 2\sqrt{\frac{r_\mathrm s}{r}} \mathrm dT \mathrm dr - \mathrm dr^2-r^2\mathrm d\Omega^2</math> |
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| |
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|地平面において正則 |
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|- |
|||
|[[等方座標系]] |
|||
|<math>\frac{(1-\frac{r_\mathrm s}{4R})^{2}}{(1+\frac{r_\mathrm s}{4R})^{2}}{\mathrm d t}^2 - \left(1+\frac{r_\mathrm s}{4R}\right)^{4}(\mathrm dx^2+\mathrm dy^2+\mathrm dz^2)</math> |
|||
|<math>R = \sqrt{ x^2 + y^2 + z^2 }</math><ref name="eddntn1923">{{Cite book|last=Eddington|first=A. S.|title=The Mathematical Theory of Relativity|edition=2nd|year=1924|publisher=[[Cambridge University Press]]|ISBN=|page=93|lccn=|LCCN=}}</ref> |
|||
|等時間断面において光円錐が等方的 |
|||
|- |
|||
|[[クルスカル・スゼッケル座標系|クルスカル・セケレシュ座標系]] |
|||
|<math>\frac{4r_\mathrm s^3}{r}e^{-r/r_\mathrm s}(\mathrm dT^2 - \mathrm dR^2)- r^2 \mathrm d\Omega^2</math> |
|||
|<math>T^2 - R^2 = \left(1-\frac{r}{r_\mathrm s}\right)e^{r/r_\mathrm s}</math> |
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|地平面において正則、全時空に最大限拡がる |
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|- |
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|{{仮リンク|ルメートル座標系|en|Lemaitre coordinates}} |
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|<math> \mathrm dT^{2} - \frac{r_\mathrm{s}}{r} \mathrm dR^{2}- r^{2}\mathrm d\Omega^{2}</math> |
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|<math>r = \left[\frac{3}{2}(R-T)\right]^{2/3}r_\mathrm {s}^{1/3}</math> |
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|地平面において正則 |
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|} |
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上の表において、簡潔さのためにいくつかの簡略化を用いた。光速 {{Mvar|c}} は1とした。二次元球面の計量を表わすために <math> \mathrm d\Omega^2= \mathrm d\theta^2+\sin(\theta)^2 \mathrm d\phi^2</math> という表記を用いた。さらに、{{Mvar|R}} および {{Mvar|T}} はそれぞれその座標系における新たな動径座標と座標時を表わす。{{Mvar|R}} および {{Mvar|T}} はそれぞれの座標系によって異なることに注意されたい。 |
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== フラムの双曲面 == |
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[[ファイル:Flamm.svg|右|サムネイル|250x250ピクセル|フラムの[[双曲面]]のプロット。[[重力井戸]]の概念と混同してはならない。]] |
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シュワルツシルト解の {{Math|''R'' > ''r''{{sub|s}}}} における空間曲率を左図のように図示することができる。シュワルツシルト解の一定時間・赤道面 ({{Math|1=''θ'' = ''π''/2, ''t'' = const.}}) における断面を考える。この平面上を運動する粒子の位置は残りのシュワルツシルト座標 {{Math|(''r'', ''φ'')}} により表わすことができる。ここにもうひとつ仮想のユークリッド次元 {{Mvar|w}}(時空の一部ではない)を追加したところを想像してみよう。そして、{{Math|(''r'', ''φ'')}} 平面を {{Mvar|w}} 方向に次のように窪んだ曲面(フラムの[[双曲面]])と置き換える。 |
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: <math> |
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w = 2 \sqrt{r_\mathrm{s} \left( r - r_\mathrm{s} \right)}. |
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</math> |
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この曲面は、その上で測る距離がシュワルツシルト計量により定義するものと一致するという性質を持つ。なぜなら、上記の {{Mvar|w}} の定義により、次の式が成り立つ。 |
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: <math>\mathrm dw^2 + \mathrm dr^2 + r^2 \mathrm d\varphi^2 = -c^2 \mathrm d\tau^2 = \frac{\mathrm dr^2}{1 - \frac{r_\mathrm s}{r}} + r^2 \mathrm d\varphi^2</math> |
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このため、フラムの双曲面はシュワルツシルト計量における空間の歪みを可視化するのに便利である。しかし、これを[[重力井戸]]の概念と混同してはならない。通常の粒子は(質量の有無に関らず)この双曲面上に世界線を辿ることができない。なぜなら、この双曲面上の線分は全て[[時空|空間的]]だからである(これはある瞬間における断面であり、全ての動く粒子は無限大の[[速度]]を持つことになってしまう)。[[タキオン]]を持ち出したとしても、「ゴム膜」のアナロジーをナイーブに当てはめたときに予期されるような軌跡を辿るわけではない。一例をあげれば、この窪みが下向きでなく上向き描かれていたとしても、タキオンの軌跡は中心質量に向かって曲がるのであって離れるように曲がるのではない。 |
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フラムの双曲面は次のように導出することができる。[[ユークリッド距離|ユークリッド計量]]の下の距離を[[円柱座標変換|円柱座標系]] {{Math|(''r'', ''φ'', ''w'')}} を用いて書くと下のように書き下せる。 |
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: <math> |
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\mathrm{d}s^2 = \mathrm{d}w^2 + \mathrm{d}r^2 + r^2 \mathrm{d}\phi^2 |
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</math> |
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この曲面を {{Math|1=''w'' = ''w''(''r'')}} なる[[関数 (数学)|関数]]で表わすことにすると、ユークリッド計量はつぎのように書き下せる。 |
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: <math> |
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\mathrm{d}s^2 = \left[ 1 + \left(\frac{\mathrm{d}w}{\mathrm{d}r}\right)^2 \right] \mathrm{d}r^2 + r^2\mathrm{d}\phi^2 |
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</math> |
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これをある固定時間の下 {{Math|1=(''t'' = const., d''t'' = 0)}} での赤道面 ({{Math|1=''θ'' = ''π''/2}}) におけるシュワルツシルト計量での距離 |
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: <math> |
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\mathrm{d}s^2 = \left(1-\frac{r_{s}}{r} \right)^{-1} \mathrm{d}r^2 + r^2\mathrm{d}\phi^2 |
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</math> |
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と比較すると、{{Math|''w''(''r'')}} の[[積分法|積分]]表式は次のように書けることがわかる。 |
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: <math> |
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w(r) = \int \frac{\mathrm{d}r}{\sqrt{\frac{r}{r_\mathrm{s}}-1}} = 2 r_{s} \sqrt{\frac{r}{r_\mathrm{s}}- 1} + \mbox{constant} |
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</math> |
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この解がフラムの双曲面である。 |
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== 軌道運動 == |
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シュワルツシルト計量下における粒子は、{{Math|''r'' > 3''r''{{sub|s}}}} の場合は安定な[[円軌道]]を描くことができる。{{Math|3''r''{{sub|s}}/2 < ''r'' < 3''r''{{sub|s}}}} の間の場合は円軌道は不安定となり、{{Math|''r'' < 3''r''{{sub|s}}/2}} の場合は円軌道は存在しない。この最小半径 {{Math|3''r''{{sub|s}}/2}} における円軌道は軌道速度が光速となる軌道に対応する。{{Math|''r''{{sub|s}} < ''r'' < 3''r''{{sub|s}}/2}} の場合でも円を描かせることはできるが、なんらかの力を加える必要がある。 |
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[[水星]]のような非円形軌道では、[[ニュートン力学]]から予測されるよりも長い間、動径が小さい部分にとどまる。この事実を、粒子が事象の地平面を超えて永遠に出てこないという場合のあまり極端でない例だと考えることもできる。水星の場合と事象の地平面に落ち込む場合の間の中間例には、例えば、任意の回数だけほぼ円形の軌道を描いたあと外側に戻ってくる「ナイフエッジ」軌道のような直感的でない例が存在する。 |
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== 対称性 == |
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シュワルツシルト計量上の[[等長写像|等長変換]]の成す[[群 (数学)|群]]は10次元[[ポアンカレ群]]の、時間軸(恒星のトラジェクトリ)をそれ自身に写すような[[部分群]]である。ここには空間並進(3次元)と[[ローレンツ変換|ブースト]](3次元)は含まれない。時間並進(1次元)と回転(3次元)は含まれる。したがって、4つの次元を持つ。ポアンカレ群の場合と同様、4つの連結成分が存在する。恒等成分、時間反転成分、空間反転成分、時間空間反転成分である。 |
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== 引用 == |
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{{Quote|''{{Lang|de|„Es ist immer angenehm, über strenge Lösungen einfacher Form zu verfügen.“}}(思い通りに単純な厳密解が得られた時はいつも快い)''|Karl Schwarzschild, 1916.}} |
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== 脚注 == |
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{{脚注ヘルプ}} |
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{{Reflist|2}} |
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== 参考文献 == |
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*{{Cite journal|last=Schwarzschild|first=K.|year=1916|title=Über das Gravitationsfeld eines Massenpunktes nach der Einsteinschen Theorie|url=https://archive.org/stream/sitzungsberichte1916deutsch#page/188/mode/2up|journal=[[Sitzungsberichte der Königlich Preussischen Akademie der Wissenschaften]]|volume=7|issue=|pages=189–196|ref=harv|bibcode=1916AbhKP1916..189S|doi=}} |
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** [http://de.wikisource.org/wiki/%C3%9Cber_das_Gravitationsfeld_eines_Massenpunktes_nach_der_Einsteinschen_Theorie Text of the original paper, in Wikisource] |
|||
** Translation: {{Cite arXiv|last1=Antoci|first1=S.|last2=Loinger|first2=A.|year=1999|title=On the gravitational field of a mass point according to Einstein's theory|eprint=physics/9905030}} |
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** A commentary on the paper, giving a simpler derivation: {{Cite arXiv|last=Bel|first=L.|year=2007|title=Über das Gravitationsfeld eines Massenpunktesnach der Einsteinschen Theorie|class=gr-qc|eprint=0709.2257}} |
|||
* {{Cite journal|last=Schwarzschild|first=K.|year=1916|title=Über das Gravitationsfeld einer Kugel aus inkompressibler Flüssigkeit|journal=[[Sitzungsberichte der Königlich Preussischen Akademie der Wissenschaften]]|volume=1|issue=|pages=424|bibcode=|doi=}} |
|||
* {{Cite journal|last=Flamm|first=L.|year=1916|title=Beiträge zur Einstein'schen Gravitationstheorie|journal=[[Physikalische Zeitschrift]]|volume=17|issue=|pages=448|bibcode=|doi=}} |
|||
* {{Cite book|title=Introduction to General Relativity|edition=2nd|year=1975|publisher=[[McGraw-Hill]]|ISBN=0-07-000423-4|last1=Adler|last2=Bazin|last3=Schiffer|first1=R.|first2=M.|first3=M.|at=Chapter 6}} |
|||
* {{Cite book|ref=harv|title=The Classical Theory of Fields|edition=4th Revised English|series=[[Course of Theoretical Physics]]|year=1951|publisher=[[Pergamon Press]]|ISBN=0-08-025072-6|volume=2|last1=Landau|last2=Lifshitz|first1=L. D.|first2=E. M.|at=Chapter 12}} |
|||
* {{Cite book|title=Gravitation|year=1970|publisher=[[W.H. Freeman]]|ISBN=0-7167-0344-0|last1=Misner|last2=Thorne|last3=Wheeler|first1=C. W.|first2=K. S.|first3=J. A.|at=Chapters 31 and 32}} |
|||
* {{Cite book|last=Weinberg|first=S.|title=Gravitation and Cosmology: Principles and Applications of the General Theory of Relativity|year=1972|publisher=[[John Wiley & Sons]]|ISBN=0-471-92567-5|at=Chapter 8}} |
|||
* {{Cite book|title=Exploring Black Holes: Introduction to General Relativity|year=2000|publisher=[[Addison-Wesley]]|ISBN=0-201-38423-X|last1=Taylor|last2=Wheeler|first1=E. F.|first2=J. A.}} |
|||
* {{Cite journal|last=Heinzle|first=J. M.|year=2002|title=Remarks on the distributional Schwarzschild geometry|journal=[[Journal of Mathematical Physics]]|volume=43|issue=3|page=1493|arxiv=gr-qc/0112047|bibcode=2002JMP....43.1493H|doi=10.1063/1.1448684}} |
|||
* {{Cite arXiv|last=Foukzon|first=J.|year=2008|title=Distributional Schwarzschild Geometry from nonsmooth regularization via Horizon|class=physics.gen-ph|eprint=0806.3026}} |
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== 関連項目 == |
== 関連項目 == |
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* |
*[[一般相対性理論]] - [[アインシュタイン方程式]] |
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* |
*[[ブラックホール]] - [[ブラックホール唯一性定理]] |
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* |
*[[事象の地平面]] |
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* {{仮リンク|シュワルツシルト解の導出|en|Deriving the Schwarzschild solution}} |
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* [[ライスナー・ノルドシュトロム解]](電荷を持ち、角運動量を持たない解) |
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* [[カー解]](電荷を持たず、角運動量を持つ解) |
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* [[カー・ニューマン解]](電荷を持ち、角運動量も持つ解) |
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* [[ブラックホール]] 総説 |
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* {{仮リンク|シュワルツシルト座標|en|Schwarzschild coordinates}} |
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* [[クルスカル・スゼッケル座標系|クルスカル・セケレシュ座標]] |
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* {{仮リンク|エディントン・フィンケルシュタイン座標|en|Eddington–Finkelstein coordinates}} |
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* {{仮リンク|グルストランド・パンルヴェ座標|en|Gullstrand–Painlevé coordinates}} |
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* {{仮リンク|ルメートル座標|en|Lemaitre coordinates}}({{仮リンク|同期座標|en|Synchronous coordinates}}によるシュワルツシルト解) |
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* {{仮リンク|一般相対性理論における基準場|en|Frame fields in general relativity}}(シュワルツシルト真空におけるルメートル観測者) |
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{{相対性理論}} |
{{相対性理論}} |
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一般相対性理論 | ||||||||||||
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アインシュタイン方程式 | ||||||||||||
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アインシュタインによる一般相対性理論において、シュワルツシルト解(シュワルツシルトかい、英: Schwarzschild solution)は、シュワルツシルト計量 Schwarzschild metric、シュワルツシルト真空 Schwarzschild vacuum とも呼ばれる。(なお、シュワルツシルトでなくシュヴァルツシルトとも呼ばれる)とは、アインシュタイン方程式の厳密解の一つで、球対称で静的な質量分布の外部にできる重力場を記述する。ただし、電荷や角運動量、宇宙定数はすべてゼロとする。この解は太陽や地球など、十分に自転の遅い恒星や惑星が外部の真空空間に及ぼす重力を近似的に表わすことができ、応用されている。名称については、この解を1916年に初めて発表したカール・シュヴァルツシルトに由来する。
解説
[編集]バーコフの定理により、シュワルツシルト計量は球対称性をもつアインシュタイン方程式の真空解として唯一のものといえる。シュワルツシルト・ブラックホール(Schwarzschild black hole)または別名静的ブラックホール(static black hole)とは、電荷も角運動量ももたないブラックホールを指す。シュワルツシルト・ブラックホールはシュワルツシルト解により記述でき、シュワルツシルトブラックホールにはその質量以外で区別する手段がない。
シュワルツシルトブラックホールには、その中心からシュワルツシルト半径だけ離れた場所に事象の地平面と呼ばれる境界面を持つという特徴がある。この境界面は物理的な面ではなく、もし人が事象の地平面の内部に(潮汐力により引き裂かれる前に)落ち込んだとしても、物理的ななにかを感じることはない。この面は数学的なものであり、ブラックホールの性質を決定づける上で重要である。無回転・無電荷の質量が、その質量に応じたシュワルツシルト半径よりも小さい領域に凝集したとき、必ずブラックホールが生じる。シュワルツシルト解は質量 M がどんな値でも成り立つので、形成するための条件を満たせば(一般相対性理論によれば)原理的には任意の質量のシュワルツシルトブラックホールが存在しうる。
シュワルツシルト計量
[編集]符号 (1, −1, −1, −1) のシュワルツシルト座標を用いると、シュワルツシルト計量の線素は以下のような式で書き下される。
- τ は固有時間(試験粒子のたどる世界線に沿って動く時計で測った時間)
- c は光速
- t は座標時(質量から無限に遠い静的な時計で測った時間)
- r は動径座標
- θ は余緯度座標(北極からラジアン単位で測った角度)
- φ は経度座標(単位はラジアン)
- rs は質量をもつ物体に対応するシュワルツシルト半径(M により rs = 2GM/c2 のように決まるスケールファクター。ここで G は万有引力定数である)[1]
この解は、ニュートン力学において質点のつくる重力場に相当する[2]。
ほとんどの場合、rs/r は極端に小さい。たとえば地球のシュワルツシルト半径 rs はおよそ 8.9 mm, 地球の 3.3×105 倍の質量を持つ太陽でさえ[3]そのシュワルツシルト半径はおよそ 3.0 km である。地球の表面においてさえ、ニュートン重力からの一般相対性理論によるずれは10億分の1程度にすぎない。この比は中性子星などの極端に密度の高い物体に対してしかブラックホールにおいて見られるような大きな値にはならない[要出典]。
シュワルツシルト計量は何もない空間についてのアインシュタイン方程式の解であり、重力源の「外側」についてのみ意味を持つ。つまり、球状物体の半径を R とすると r > R についてしか適用できない。重力源となる物体の外部と内部の両方を取り扱うためには、シュワルツシルトの内部解を初めとする内部解と r = R において適切に接続する必要がある[4]。
歴史
[編集]シュワルツシルト解の名は、アインシュタインが一般相対性理論を発表してから一ヶ月そこそこでこの厳密解を1915年に初めて見出し、1916年に発表した[5]カール・シュヴァルツシルトを称えて命名された。これは自明な平坦空間解を除けば初めて見付かったアインシュタイン方程式の厳密解である。シュヴァルツシルトはこの論文が発表されてすぐ、第一次世界大戦にドイツ兵として参戦中に病のため亡くなった[6]。
1916年、ヨハネス・ドロステ[7]は独立に、より直接的な導出方法を用いてシュワルツシルト解を導いた[8]。
一般相対性理論の黎明期にはシュワルツシルト解を初めとするアインシュタイン方程式の解に現われる特異点をめぐって多くの混乱が見られた。シュヴァルツシルトの原論文では、現在では事象の地平面と呼ばれている面を座標の原点としていた[9]。同論文では、シュワルツシルト動径座標(上式の r)は補助変数として用いられていた。シュヴァルツシルトの方程式においては、シュワルツシルト半径においてゼロとなる別の動径座標が用いられていた。
より完全な特異点構造の解析は後年、ダフィット・ヒルベルト[10]により与えられ、r = 0 と r = rs の両方が特異点であるとされた。r = 0 における特異点は「真の」物理的な特異点であることが一般の共通理解となっていたが、r = rs における特異点の性質については未だはっきりしなかった[11]。
1921年にはポール・パンルヴェにより、そして1922年にはアルヴァル・グルストランドにより、それぞれ独立に現在ではグルストランド・パンルヴェ座標と呼ばれる、r = rs において特異点を持たない、シュワルツシルト計量の変換にあたる座標が導出された。しかし、彼らはその解を単なる座標変換であると気付いておらず、アインシュタインの説が誤っているという議論に実際用いた。1924年、アーサー・エディントンは、エディントン・フィンケルシュタイン座標と呼ばれる座標変換を初めて用い、r = rs における特異点は座標の取り方による人為的なものにすぎないことを示していたが、やはり彼もこの発見の重要性に気付いていなかった。1932年まで下って、ジョルジュ・ルメートルによりまた異る座標変換(ルメートル座標系)が示され、r = rs における特異点が物理的なものではないことが意識的に初めて示された。1939年、ハワード・ロバートソンは、シュワルツシルト計量上で自由落下を行う観測者は、r = rs を通り過ぎるのに無限の座標時を要するにも関らず、有限の固有時しか要さないことを示した[11]。
1950年、ジョン・シン[12]はシュワルツシルト計量の極大解析拡張を用いてやはり r = rs における特異点が座標による人工物であり、二つの地平面を表わすことを示した。同様の結果が後にセケレシュ・ジェルジ[13]およびマーティン・デイヴィッド・クルスカル[14]によりそれぞれ独立に再発見された。この現在ではクルスカル・セケレシュ座標として知られる新しい座標はシンによるものより大幅に単純であるものの、単一の座標系により全時空を覆うことができた。しかし、ルメートルとシンが論文を投稿した論文誌が有名でなかったためか、彼らの結論は知られることがなく、アインシュタインを含めた主要人物の大部分がシュワルツシルト半径における特異点が物理的なものであると考えていた[11]。
1960年代に入って初めて、微分幾何学というより厳密な道具が一般相対性理論の分野に持ち込まれ、ローレンツ多様体における特異点の意味をより厳密に定義できるようになり、状況が進展した。これにより、シュワルツシルト計量の r = rs における特異点が事象の地平面(一方向にしか通過できない超曲面)であることが決定づけられた[11]。
特異点とブラックホール
[編集]シュワルツシルト解は r = 0 と r = rs において特異点を持つようにみえる。すなわち、計量のいくつかの成分が発散するのである。シュワルツシルト計量は重力源となる物体の半径 R よりも外側についてしか有効であると考えられないため、R > rs の場合には問題は存在しない。通常の恒星や惑星では常にこの条件が成り立つ。例えば、太陽の直径はおよそ 700000 km であるが、シュワルツシルト半径はわずか 3 km でしかない。
シュワルツシルト座標の r = rs における特異点は座標を二つの非連結な座標パッチに分割する。このうち、r > rs を満たす「シュワルツシルトの外部解」は恒星や惑星の生み出す重力と関係がある。対して、0 ≤ r < rs を満たす「シュワルツシルトの内部解」は r = 0 に特異点を含み、外部とは r = rs の特異点により完全に断絶している。そのため、シュワルツシルト座標は内部と外部で物理的な繋りをまったく持っておらず、別々の解と見做すことができる。しかし、r = rs における特異点は見掛け上のものにすぎない。このような存在を座標特異点と呼ぶ。名前の示すとおり、この特異点は座標の選びかたもしくは座標条件が悪いために生じるものである。座標を適切に変更すれば(例えばルメートル座標、エディントン・フィンケルシュタイン座標、クルスカル・セケレシュ座標、ノビコフ座標、グルストランド・パンルヴェ座標など)、計量は r = rs において正則となり外部の座標パッチと内部の座標パッチを繋ぐことができる。したがって、座標変換を用いれば外部と内部を関連付けることが可能となる[15]。
しかし、r = 0 の場合は話が異る。r がどんな値でも成り立つような解を求めようとすると必ず重力の特異点と呼ばれる真の物理的特異点が原点に生じる。この特異点が真の特異点であることを理解するためには座標の選択によらない量を調べる必要がある。そのような量のうち重要なものとして、下に示すクレッチマン不変量が挙げられる。
r = 0 において曲率は無限大になり、すなわち特異点の存在を示す。この点では計量および時空そのものが良い定義を持ちえない。長い間、このような解は物理的でないと見做されていた。しかし、一般相対性理論がよりよく理解されるにつれて、このような特異点は珍しい特殊例ではなく、この理論にまつわる一般的な特徴であることが明らかになってきた。
r > 0 の全域において成り立つようなシュワルツシルト解を、シュワルツシルト・ブラックホールと呼ぶ。これはいくつかの奇妙な特徴を持っているが、完全に妥当なアインシュタイン方程式の厳密解である。r < rs において、シュワルツシルト座標 r は時間的となり、座標時 t は空間的となる。したがって、r を一定に保つような曲線はもはや粒子や観測者の世界線には成り得ず、どのような力を加えたとしてもこのような軌跡を描くことはできない。このことは時空が著しく曲がっているため原因と結果の向き(粒子の未来光円錐)が特異点にしか向かわないことに起因する[要出典]。曲面 r = rs はブラックホールの「事象の地平面」と呼ばれるある種の限界を表わしている。これは、光ですら重力から逃れることができなくなる点を表わしている。その半径 R がシュワルツシルト半径よりも小さくなった物理的物体は全て重力崩壊を起こし、ブラックホールとなる[16]。
別の座標系
[編集]シュワルツシルト解は先に示した式で用いられていた座標とは別の座標系によっても表わすことができる。それぞれの座標はこの解のそれぞれ別の側面を強調している。下表にいくつかの一般的な座標をまとめる。
座標系 | 線素 | 備考 | 特徴 |
---|---|---|---|
エディントン・フィンケルシュタイン座標系(内向き) | 地平面において正則、未来地平面を超えて拡がる | ||
エディントン・フィンケルシュタイン座標系(外向き) | 地平面において正則、過去地平面を超えて拡がる | ||
グルストランド・パンルヴェ座標系 | 地平面において正則 | ||
等方座標系 | [17] | 等時間断面において光円錐が等方的 | |
クルスカル・セケレシュ座標系 | 地平面において正則、全時空に最大限拡がる | ||
ルメートル座標系 | 地平面において正則 |
上の表において、簡潔さのためにいくつかの簡略化を用いた。光速 c は1とした。二次元球面の計量を表わすために という表記を用いた。さらに、R および T はそれぞれその座標系における新たな動径座標と座標時を表わす。R および T はそれぞれの座標系によって異なることに注意されたい。
フラムの双曲面
[編集]シュワルツシルト解の R > rs における空間曲率を左図のように図示することができる。シュワルツシルト解の一定時間・赤道面 (θ = π/2, t = const.) における断面を考える。この平面上を運動する粒子の位置は残りのシュワルツシルト座標 (r, φ) により表わすことができる。ここにもうひとつ仮想のユークリッド次元 w(時空の一部ではない)を追加したところを想像してみよう。そして、(r, φ) 平面を w 方向に次のように窪んだ曲面(フラムの双曲面)と置き換える。
この曲面は、その上で測る距離がシュワルツシルト計量により定義するものと一致するという性質を持つ。なぜなら、上記の w の定義により、次の式が成り立つ。
このため、フラムの双曲面はシュワルツシルト計量における空間の歪みを可視化するのに便利である。しかし、これを重力井戸の概念と混同してはならない。通常の粒子は(質量の有無に関らず)この双曲面上に世界線を辿ることができない。なぜなら、この双曲面上の線分は全て空間的だからである(これはある瞬間における断面であり、全ての動く粒子は無限大の速度を持つことになってしまう)。タキオンを持ち出したとしても、「ゴム膜」のアナロジーをナイーブに当てはめたときに予期されるような軌跡を辿るわけではない。一例をあげれば、この窪みが下向きでなく上向き描かれていたとしても、タキオンの軌跡は中心質量に向かって曲がるのであって離れるように曲がるのではない。
フラムの双曲面は次のように導出することができる。ユークリッド計量の下の距離を円柱座標系 (r, φ, w) を用いて書くと下のように書き下せる。
この曲面を w = w(r) なる関数で表わすことにすると、ユークリッド計量はつぎのように書き下せる。
これをある固定時間の下 (t = const., dt = 0) での赤道面 (θ = π/2) におけるシュワルツシルト計量での距離
と比較すると、w(r) の積分表式は次のように書けることがわかる。
この解がフラムの双曲面である。
軌道運動
[編集]シュワルツシルト計量下における粒子は、r > 3rs の場合は安定な円軌道を描くことができる。3rs/2 < r < 3rs の間の場合は円軌道は不安定となり、r < 3rs/2 の場合は円軌道は存在しない。この最小半径 3rs/2 における円軌道は軌道速度が光速となる軌道に対応する。rs < r < 3rs/2 の場合でも円を描かせることはできるが、なんらかの力を加える必要がある。
水星のような非円形軌道では、ニュートン力学から予測されるよりも長い間、動径が小さい部分にとどまる。この事実を、粒子が事象の地平面を超えて永遠に出てこないという場合のあまり極端でない例だと考えることもできる。水星の場合と事象の地平面に落ち込む場合の間の中間例には、例えば、任意の回数だけほぼ円形の軌道を描いたあと外側に戻ってくる「ナイフエッジ」軌道のような直感的でない例が存在する。
対称性
[編集]シュワルツシルト計量上の等長変換の成す群は10次元ポアンカレ群の、時間軸(恒星のトラジェクトリ)をそれ自身に写すような部分群である。ここには空間並進(3次元)とブースト(3次元)は含まれない。時間並進(1次元)と回転(3次元)は含まれる。したがって、4つの次元を持つ。ポアンカレ群の場合と同様、4つの連結成分が存在する。恒等成分、時間反転成分、空間反転成分、時間空間反転成分である。
引用
[編集]„Es ist immer angenehm, über strenge Lösungen einfacher Form zu verfügen.“(思い通りに単純な厳密解が得られた時はいつも快い)—Karl Schwarzschild, 1916.
脚注
[編集]- ^ (Landau & Liftshitz 1975).
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参考文献
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- Text of the original paper, in Wikisource
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関連項目
[編集]- 一般相対性理論 - アインシュタイン方程式
- ブラックホール - ブラックホール唯一性定理
- 事象の地平面
- シュワルツシルト解の導出
- ライスナー・ノルドシュトロム解(電荷を持ち、角運動量を持たない解)
- カー解(電荷を持たず、角運動量を持つ解)
- カー・ニューマン解(電荷を持ち、角運動量も持つ解)
- ブラックホール 総説
- シュワルツシルト座標
- クルスカル・セケレシュ座標
- エディントン・フィンケルシュタイン座標
- グルストランド・パンルヴェ座標
- ルメートル座標(同期座標によるシュワルツシルト解)
- 一般相対性理論における基準場(シュワルツシルト真空におけるルメートル観測者)