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「ウビフ語」の版間の差分

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'''ウビフ語'''(ウビフご、'''ウビフ語''': t°axəbza, tʷɜχɨbzɜ)は、かつてウビフ人によって話されていた[[北西コーカサス語族]](アブハズ・アディゲ諸語)の言語の一つ。
{{出典の明記|date=2013年6月23日 (日) 01:28 (UTC)}}

'''ウビフ語'''(Ubykh)は、[[北西コーカサス語族]](アブハズ・アディゲ諸語)の一つ。
== 概要 ==
ウビフ語は80または81の[[子音]]を持ち、[[コン語]]の子音が解明されるまでは世界でもっとも多くの子音を持つ言語であると考えられていた<ref>ノリス・マクワーター編 1985 ギネスブック ’85 講談社</ref>。

[[膠着語|膠着的]]な形態法を持つ。[[能格]]型の格標示を行う。8~10個の[[時制]]と5個の[[格]]を区別する。動詞は多くの[[接頭辞]]と[[接尾辞]]によるきわめて複雑な[[派生]]・[[語形変化|屈折]]を行う。

ウビフ語話者は自身の言語をtʷaχəbzaと呼んだ。これはウビフ人の自称である'''tʷɜχɨ'''{{R|vogt1963|page1=195}}と言語を表す'''bzɜ'''{{R|vogt1963|page1=91}}の複合語である。

「ウビフ」という名称は[[アディゲ語]]におけるウビフ人の呼称({{lang-ady|убых}} /wɨbɨx/)から来ている{{R|charachidze1991|page1=22}}。


== 歴史 ==
== 歴史 ==
ウビフ語を話す{{仮リンク|ウビフ人|en|Ubykh people}}は、もとは[[黒海]]北部沿岸の[[ソチ]]の付近に住んでいたが、[[1875年]]ごろに[[トルコ]]に移住した。[[1992年]]10月7日、ウビフ語の最後の話者であったテヴフィク・エセンチ(Tevfik Esenç)が死去し、ウビフ語は死滅した。


ウビフ語を話す[[ウビフ人]]は、もとは[[黒海]]北部沿岸の[[ソチ]]の付近に住んでいたが、[[1864年]]に起きた[[ロシア]]との[[コーカサス戦争]]で敗戦後、生き残ったウビフ人は主に[[トルコ]]へ移住した{{R|koerner1998|page1=33}}{{Refnest|group="注釈"|テヴフィク・エセンチは敗戦後の移住についてウビフ語で詳細に語っている。彼の先祖は黒海を船で移動したという{{R|dumezil1955b|page1=441-444}}}}。
エセンチとともにフランスの言語学者[[ジョルジュ・デュメジル]]や[[ジョルジュ・シャラキゼ]]が研究を行なった。


ウビフ語の最古の記録として知られているのは17世紀頃に[[エヴリヤ・チェレビ]]が記した{{仮リンク|セイハトナーメ|en|Seyahatnâme}}で、「サズ語」としてウビフ語を記録している{{R|gippert1992|page1=8-9}}。サズ人はアブハジア人の住む土地とウビフ人の住む土地の間に住んでいたと言われており、ウビフ人同様にコーカサス戦争後はトルコへ移住している。尚、サズ人はアブハズ語の一方言を話しており、ウビフ語とは関係無い。
== 特徴 ==

ウビフ語は83の[[子音]]を持ち(但し、そのうち3つは[[借用語]]にしか現れない)、以前は世界でもっとも多くの子音を持つ言語であると考えられていた。[[母音]]は2つしかない。そのほかにも数々の点で特異な言語である。
近代では{{仮リンク|ジェームス・ベル|en|James_Bell_(adventurer)}}が1840年に「[[アバザ語]]」としてウビフ語の単語を記録しており<ref name=bell1840 />、1887年には{{仮リンク|ピョートル・ウスラル|en|Peter von Uslar}}が[[アブハズ語]]の文法書内の補遺にウビフ語の記録を遺している<ref name=uslar1887 />。

[[ロシア科学アカデミー]]の要請により{{仮リンク|アドルフ・ディル|de|Adolf Dirr}}が1913年にウビフ語の調査を行い{{R|dirr1928||page1=1-4}}、1928年にウビフ語に関する書籍を出版した<ref name=dirr1928 />。これが知られている限り最も古い体系的なウビフ語の記録である{{Refnest|group="注釈"|これ以前の記録は前述のベルとウスラルのものと、オーゲ・ベネディクツェンによる非公開の日記のみであった{{R|dirr1928||page1=1-4}}}}。彼は自著にて次のようなことを述べており、1913年の時点で既にウビフ語が絶滅寸前であったことがわかる。

{{Quotation|
... 正直、これが完成するかどうか怪しい。1898年にベネディクツェンが既に述べていたことは1913年までに全て確認した。ウビフは絶滅した言語であり、全てのウビフ人はトリリンガル{{Refnest|group="注釈"|ウスラル{{R|uslar1887|page1=2巻5章}}もウビフ語話者がバイリンガルまたはトリリンガルであることを指摘しているが、彼はウビフ語・チェルケス語・アブハズ語のトリリンガルであると記述している。バイリンガルの場合、もう一つの言語はチェルケス語かアブハズ語である。}}であった。彼らは[[アディゲ語|チェルケス語]]、[[トルコ語]]、そして少しのウビフ語を知っていた。Kyrkbunarで私は喜ばしい事に、もちろん、完全ではないインフォーマットを見つけた。...

(中略)

... ウビフ人は最早独自の民話を持たず、チェルケス語やトルコ語で歌い、おとぎ話や伝統もまたウビフ語ではなくそれらの言語で語っている。ベネディクツェンは既にウビフ語の歌を知っていた老人は一年前に死んでいたという事を報告している ...
|Dirr, A. (1928) Die sprache der ubychen p.3|著作権保護期間満了}}

第二次世界大戦前に単独の本として出版されたウビフ語の著書はアドルフ・ディル以外に1931年に[[ジョルジュ・デュメジル]]<ref name=dumezil1931 />、1934年にジュリアス・メスザロス<ref name=meszaros1934 />がそれぞれ出版している。

第二次世界大戦後、ジョルジュ・デュメジルを筆頭に多くの学者がウビフ語を記録した。1954年に「ウビフ語の発音構造<ref name=dumezil1954 />」、1955年に「ウビフ語の喉音<ref name=dumezil1955 />」、1958年に「ウビフ語の母音<ref name=dumezil1958 />」という論文が発表され、子音が80個以上存在するという学説が成立する。それ以前の文献では子音の表記が不正確{{R|dumezil1954|page1=162-163}}であるため注意が必要であるが、Dirr 1928とDumézil 1931に記載されたウビフ語テキストは1959年に校正され{{R|dumezil1959|page1=51-76}}、Mészáros 1934に記載されたことわざ一覧は1960年に校正された{{R|dumezil1960|page1=79-89}}。この音素構造の解明とテキストの校正では、ウビフ語話者である[[テヴフィク・エセンチ]]が活躍した。彼はトルコ語が流暢に話せない祖父母に育てられ{{R|vogt1963|page1=66-67}}、8歳までウビフ語のみで生活をしていた{{R|vogt1963|page1=258}}ウビフ語母語話者で、1956年から亡くなる前年の1991年{{Refnest|group="注釈"|音声録音は1991年9月21日が最後の記録{{R|charachidze1991|page1=5,13}}。録音以外の記録がいつまで行われていたかは不明。}}までウビフ語の記録に協力した。

単語集自体はDirr 1928, Dumézil 1931, Mészáros 1934に収録されているが、前述通り音素が正確でなかった。1963年、{{仮リンク|ハンス・フォークト|nn|Hans Vogt}}は今まで発表されたテキストを基にウビフ語-フランス語辞書を出版した<ref name=vogt1963 />。尚、この辞書は1965年デュメジルによって校正されている{{R|dumezil1965|page1=197-259}}ため、この辞書を用いる際はデュメジルによる校正も参照する事が望ましい。

文法面は1959年以降、長らくまとまった資料が作られなかったが、1975年にデュメジルが「ウビフ語の動詞<ref name=dumezil1975 />」を出版した。ウビフ語全体の文法については1989年にシャラシゼが記述している<ref name=charachidze1989 />。また、2011年には初めて英語で書かれた文法書がフェンウィックにより出版された<ref name=fenwick2011 />。

[[1992年]]10月7日、テヴフィク・エセンチが死去したことで母語話者が誰もいなくなり、[[死語]]となった{{R|charachidze1991|page1=5}}。

2011年現在、ウビフ語の言葉を知る者は殆どおらず、知っていてもいくつかのフレーズが言える程度であったという報告がある<ref name=chirikba2013 />。

=== 歴史的な話者分布 ===
公的なウビフ語の話者統計は存在しない。以下は断片的な情報である。

*1864年以前、ウビフ人はソチ周辺に住んでいた。キシュマホフによれば、ウビフ人は現在の{{仮リンク|ヴォルコンカ|ru|Волконка (Краснодарский край)}}以南{{仮リンク|ホスタ|ru|Хоста_(Сочи)|preserve=1}}以北の範囲に住んでいた{{R|kishmakhov2012|page1=346-347}}。
*1889年に{{仮リンク|オーゲ・ベネディクツェン|ka|ოგე_ბენედიქტსენი}}、1913年にジェームス・ベル、1930年にジョルジュ・デュメジルは{{仮リンク|サパンジャ|en|Sapanca}}にあるウビフ人の村を訪れていたが、1965年までに話者の殆どが死亡していた{{R|dumezil1965|page1=11-36}}。
*1931年ジュリアス・メスザロス、1953年以降のジョルジュ・デュメジル、1957年以降のハンス・フォークト、1965年以降の{{仮リンク|ジョルジュ・シャラシゼ|en|Georges Charachidzé}}などの大半の言語学者は[[バルケスィル]]のマニャス地区にあるウビフ人の村を訪れていた{{R|smeets1994|page1=38}}。テヴフィク・エセンチはマニャス地区のHacı Osman köyü (ウビフ語:lɜkʷʼɐɕʷɜ{{R|vogt1963|page1=136}})と呼ばれる地区に住んでいた。
*[[カフラマンマラシュ]]と[[サムスン (都市)|サムスン]]にもウビフ語話者が居たとされているが、カフラマンマラシュでは1967年に最後の話者が死亡し、サムスンでは1974年の時点で誰もウビフ語を話していなかったという報告があり、言語学者による調査は殆ど行われていない{{R|smeets1986|page1=278}}。

== 音素==
ウビフ語は北西コーカサス語族の中では数少ない、咽頭音を区別する言語として知られている。咽頭音を区別する言語は他にも[[アブハズ語]]のブズィプ方言などが知られているが、ウビフ語は北西コーカサス語族の中でも特に咽頭音が多い{{R|colarusso1988|page1=150}}。

ウビフ語に出現する音素は話者により若干異なる。テヴフィク・エセンチのように外来語由来の子音を含め84個の音素を区別している者もいれば、一方で60個程度しか子音の区別がなかったケースもある(後述)。

他の北西コーカサス語族に属する言語と同じく、母音の数が極端に少ない。ウビフ語では2個または3個しかない。

===子音===
子音は80個または81個存在する。これは[kʼ]を固有の音素として数えるかどうかで学者によって意見が異なっているためである。

いずれも[[借用語]]に現れる音素を含めれば84個である。借用語にのみ現れる子音は[k] [g] [v]の3音素で、[kʼ]を加えるなら4音素である。

以下はデュメジルによる子音表{{R|dumezil1975|page1=13}}及びフェンウィックによる実際の発音記号{{R|fenwick2011|page1=17-24}}である。デュメジルは[kʼ]を固有の音素として数えている。

ウビフ語では歯茎音~歯茎硬口蓋音の間に独特な唇音化が発生した{{R|fenwick2011|page1=15-17}}。[[アブハズ語#音韻|アブハズ語の子音表]]も参照。

{| class="wikitable" style="text-align: center;"
|-
! rowspan=2 colspan=2 |
! colspan=2 | [[唇音]]
! colspan=3 | [[歯茎音]]
! colspan=2 | [[後部歯茎音]]
! colspan=2 | [[歯茎硬口蓋音]]
! rowspan=2 | [[そり舌音]]
! colspan=4 | [[軟口蓋音]]
! colspan=5 | [[口蓋垂音]]
! rowspan=2 | [[声門音]]
|- class=small
! 平音
! [[咽頭化|咽頭]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! [[側面音|側面]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! [[口蓋化|口蓋]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! [[咽頭化|咽頭]]
! [[口蓋化|口蓋]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! [[咽頭化|咽頭]]
! 唇音+咽頭
|-
! colspan=2 | [[鼻音]]
| {{IPA|m}}
| {{IPA|mˤ}}
| {{IPA|n}}
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| ({{IPA|ʔ}}){{Refnest|group="注釈"|話者によって[qʼ]の異音として[ʔ]が発音される事があり、特に文末に来る過去形マーカー"-qʼɜ"が"-ʔɜ"になった{{R|vogt1963|page1=43}}。}}
|-
! rowspan=3 | [[破裂音]]
! <small>[[無声音]]</small>
| {{IPA|p}}
| {{IPA|pˤ}}
| {{IPA|t}}
| {{IPA|t͡p}}
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| <span style="color:orange;">{{IPA|k}}</span>
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| {{IPA|q}}
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|-
! <small>[[有声音]]</small>
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| {{IPA|d͡b}}
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| <span style="color:orange;">{{IPA|ɡ}}</span>
| {{IPA|ɡʷ}}
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! <small>[[放出音]]</small>
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| {{IPA|pˤʼ}}
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! rowspan=3 | [[破擦音]]
! <small>[[無声音]]</small>
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! <small>[[放出音]]</small>
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| {{IPA|t͡ʃʼ}}
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| {{IPA|t͡ɕʼ}}
| {{IPA|t͡ɕᶲʼ}}
| {{IPA|ʈ͡ʂʼ}}
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! rowspan=3 | [[摩擦音]]
! <small>[[無声音]]</small>
| {{IPA|f}}
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| {{IPA|ɕ}}
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| {{IPA|ʂ}}
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| {{IPA|h}}
|-
! <small>[[有声音]]</small>
| <span style="color:orange;">{{IPA|v}}</span>
| {{IPA|vˤ}}
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| {{IPA|ʑ}}
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| {{IPA|ʁˤ}}
| {{IPA|ʁˤʷ}}
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! <small>[[放出音]]</small>
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| {{IPA|ɬʼ}}
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! colspan=2 | [[接近音]]
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| {{IPA|l}}
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| {{IPA|j}}
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| {{IPA|w}}
| {{IPA|wˤ}}
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! colspan=2 | [[ふるえ音]]
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| {{IPA|r}}
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|}

===母音===
母音は他の北西コーカサス語族と同様極端に少なく、2つまたは3つしか区別が存在しない。

開母音について、[[アブハズ語]]のような長母音と短母音の違い(母音としては1種類)があるか、[[アディゲ語]]のような[[広母音]]と[[半広母音]]の違いがあるかで学者によって意見が異なるため母音の数が確定していない。

また、{{仮リンク|垂直母音構造|en|Vertical vowel system}}{{Refnest|group="注釈"|IPAの母音表では縦軸が口の開閉度、横軸が舌の位置を表しており、垂直母音構造を取る言語では口の開閉度(縦軸)のみの区別があり、舌の位置(横軸)の区別がない}}であり、[[前舌母音]]や[[後舌母音]]といった舌の位置について区別がないため、多くの異音が現れる{{R|fenwick2011|page1=25}}。

{| class="wikitable" style="text-align: center;"
!
! 三母音説
! 二母音説
|-
! 狭/閉
| {{IPA|/ɨ/}}
| {{IPA|/ə/}}
|-
! 半広/開
| {{IPA|/ɜ/}}
| {{IPA|/a/}}
|-
! 広/長開
| {{IPA|/ɐ/}}
| {{IPA|/aː /}}
|}


== 方言 ==
話者によって差異が存在するため厳密には話者毎に方言を設定する事ができるが、特筆するべきはデュメジルがKaracalarでOsman Güngörというインフォーマントから記録したウビフ語(の方言と思わしきもの{{R|dumezil1965|page1=266-269}}{{Refnest|group="注釈"|見出しのタイトルがUn dialecte oubykh? となっており、デュメジルはこれを方言であると断定していない}})である。

=== 音素 ===
多くの違いが存在するが、特に異なる部分は以下の3点である。
* 咽頭音が殆ど出現しない。代わりに平音または[[硬音]](fortis)が出現する。デュメジルは ɐbˤɜ (病気)と qʷˤɨ (吠える)の2単語でのみ咽頭音を観測している。
*口蓋化口蓋垂音が出現しない。代わりに平音または[[硬音]](fortis)が出現する。
* [t͡p] [d͡b] [t͡pʼ] が完全に[p] [b] [pʼ]として発音されている。

以下に挙げるのはコラルッソによる子音表{{R|colarusso1988|page1=418}}である。ただし[ɣ]についてデュメジルは存在しない事が示唆されると書いているため赤で示した。

またデュメジルが示したが、コラルッソが示さなかった音素[mː](mːɜ りんご,mˤɜ)と、[qː](qːɜ - 咳をする,qʲɜ)を青で示した。

[bˤ]と[qʷˤ]は本表には加えていない。

{| class="wikitable" style="text-align: center;"
|-
! rowspan=2 colspan=2 |
! colspan=2 | [[唇音]]
! colspan=3 | [[歯茎音]]
! colspan=2 | [[後部歯茎音]]
! colspan=3 | [[歯茎硬口蓋音]]
! rowspan=2 | [[そり舌音]]
! colspan=4 | [[軟口蓋音]]
! colspan=5 | [[口蓋垂音]]
! rowspan=2 | [[声門音]]
|- class=small
! 平音
! [[硬音]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! [[側面音|側面]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! 唇音+硬音
! [[口蓋化|口蓋]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! [[硬音]]
! [[口蓋化|口蓋]]
! 平音
! [[唇音化|唇音]]
! [[硬音]]
! 唇音+硬音
|-
! colspan=2 | [[鼻音]]
| {{IPA|m}}
| <span style="color:blue;">{{IPA|mː }}</span>
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| <span style="color:blue;">{{IPA|qː }} </span>
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! <small>[[放出音]]</small>
| {{IPA|pʼ}}
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| {{IPA|tʼ}}
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| {{IPA|kʲʼ}}
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| {{IPA|kʷʼ}}
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| {{IPA|qʼ}}
| {{IPA|qʷʼ}}
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! rowspan=3 | [[破擦音]]
! <small>[[無声音]]</small>
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| {{IPA|t͡s}}
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| {{IPA|t͡ʃ}}
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| {{IPA|t͡ɕ}}
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! <small>[[放出音]]</small>
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| {{IPA|t͡ɕʼ}}
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| {{IPA|ʈ͡ʂʼ}}
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! rowspan=3 | [[摩擦音]]
! <small>[[無声音]]</small>
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| {{IPA|s}}
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| {{IPA|ɬ}}
| {{IPA|ʃ}}
| {{IPA|ʃʷ}}
| {{IPA|ɕ}}
| {{IPA|ɕʷ}}
| {{IPA|ɕː ʷ}}
| {{IPA|ʂ}}
|
| {{IPA|x}}
|
|
|
| {{IPA|χ}}
| {{IPA|χʷ}}
| {{IPA|χː }}
| {{IPA|χː ʷ}}
| {{IPA|h}}
|-
! <small>[[有声音]]</small>
| {{IPA|v}}
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| {{IPA|z}}
|
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| {{IPA|ʒ}}
| {{IPA|ʒʷ}}
| {{IPA|ʑ}}
| {{IPA|ʑʷ}}
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| {{IPA|ʐ}}
|
| <span style="color:red;">{{IPA|ɣ}}</span>
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| {{IPA|ʁ}}
| {{IPA|ʁʷ}}
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! <small>[[放出音]]</small>
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| {{IPA|ɬʼ}}
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| {{IPA|l}}
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| {{IPA|wː }}
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! colspan=2 | [[ふるえ音]]
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| {{IPA|r}}
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|}

== 文字 ==
ウビフ語は文字を持たない言語であったが、言語学者が自著に記述する際に作成された文字体系が存在する。

以下は特に多くのウビフ語の記録を行ったジョルジュ・デュメジル{{R|dumezil1975|page1=13}}及びハンス・フォークト{{R|vogt1963|page1=13}}により記述された便宜上の文字である。

デュメジルは母音を3つ、フォークトは母音を4つ{{Refnest|group="注釈"|4母音説を唱えたのはフォークトのみ。厳密にはフォークトは長母音・短母音を採用した2母音説{{R|fenwick2011|page1=25}}}}に設定した。

デュメジル特有の音素を<span style="color:red;">赤字</span>、フォークト特有の音素を<span style="color:blue;">青字</span>、外来語(主にトルコ語)のみに現れる音素を<span style="color:orange;">橙字</span>で示す。

[kʼ]をデュメジルは固有音素として数えている一方、フォークトは固有音素として数えていない。

{| class="wikitable IPA"
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | a <br /><span style="color:red;">/ɜ/</span> <span style="color:blue;">/a/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:red;">ạ</span> , <span style="color:blue;">aː </span> <br /><span style="color:red;">/ɐ/</span> <span style="color:blue;">/aː /</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | b <br /> /b/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ḇ <br /> /bˤ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | c <br /> /t͡s/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | c’ <br /> /t͡sʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ċ <br /> /t͡ɕ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ċ’ <br /> /t͡ɕʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | c° <br /> /t͡ɕʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | c°’ <br /> /t͡ɕʷʼ/
|-
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | č <br /> /ʈ͡ʂ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | č’ <br /> /ʈ͡ʂʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | čʹ <br /> /t͡ʃ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | čʹ’ <br /> /t͡ʃʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | d <br /> /d/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | d° <br /> /dʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">e<br /> /e/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | f <br /> /f/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">g<br /> /g/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | gʹ <br /> /gʲ/
|-
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | g° <br /> /gʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | h <br /> /h/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">ı <br /> /ɯ/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">i <br /> /i/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">k <br /> /k/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | k’<br /> /kʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | kʹ <br /> /kʲ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | kʹ’ <br /> /kʲʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | k° <br /> /kʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | k°’ <br /> /kʷʼ/
|-
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | l <br /> /l/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:red;">λ</span> , <span style="color:blue;">ɬ</span> <br /> /ɬ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | λ’ <br /> /ɬʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | m <br /> /m/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | m̱ <br /> /mˤ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | n <br /> /n/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">o <br /> /o/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">ö <br /> /œ/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:blue;">oː <br /> /oː / <br />{{Refnest|group="注釈"|フォークト以外では"aw" /ɜw/ ~ /ow/に相当する。}}</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | p <br /> /p/
|-
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | p’ <br /> /pʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | p̄ <br /> /pˤ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | p̄’ <br /> /pˤʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | q <br /> /q/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | q’ <br /> /qʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | qʹ <br /> /qʲ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | qʹ’ <br /> /qʲʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | q° <br /> /qʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | q°’ <br /> /qʷʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | q̄ <br /> /qˤ/
|-
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | q̄’ <br /> /qˤʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | q̄° <br /> /qʷˤ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | q̄°’ <br /> /qʷˤʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | r <br /> /r/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | s <br /> /s/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ṡ <br /> /ɕ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | s° <br /> /ɕʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | š° <br /> /ʃʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | š <br /> /ʂ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | šʹ <br /> /ʃ/
|-
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | t <br /> /t/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | t° <br /> /tʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | t’ <br /> /tʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | t°’ <br /> /tʷʼ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">u <br /> /u/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">ü <br /> /y/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:orange;">v <br /> /v/</span>
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | v̱ <br /> /vˤ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | w <br /> /w/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | w̱ <br /> /wˤ/
|-
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | x <br /> /χ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | xʹ <br /> /χʲ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | x° <br /> /χʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | x̄ <br /> /χˤ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | x̄° <br /> /χˤʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | χ <br /> /x/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | y <br /> /j/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | z <br /> /z/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ż <br /> /ʑ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | z° <br /> /ʑʷ/
|-
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ž° <br /> /ʒʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ž <br /> /ʐ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | žʹ <br /> /ʒ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | γ <br /> /ʁ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | γʹ <br /> /ʁʲ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | γ° <br /> /ʁʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | γ̄ <br /> /ʁˤ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | γ̄° <br /> /ʁˤʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ǧ <br /> /ɣ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ʒ <br /> /d͡z/
|-
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ʒ̇ <br /> /d͡ʑ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ʒ° <br /> /d͡ʑʷ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ǯ <br /> /ɖ͡ʐ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ǯʹ <br /> /d͡ʒ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | <span style="color:red;">ʹ</span> , <span style="color:blue;">?</span> <br /> /ʔ/
| style="width:5em; text-align:center; padding: 3px;" | ə <br /><span style="color:red;">/ɨ/</span> <span style="color:blue;">/ə/</span>
|}

== 文法 ==
ウビフ語は[[能格言語]]であるため、[[対格言語]]である日本語から見ると[[自動詞]]の[[主格]]と[[他動詞]]の[[目的格]]が文法上同じ扱いをする。また、[[標識 (言語学)|マーカー]]によって語の文法的機能の付与を行う。

===格===
ウビフ語では5種類の基底となる格が存在する{{R|fenwick2011|page1=33-45}}。ただし、接尾辞は5種類以上ある。

* [[絶対格]] ({{Scaps|abs}}): 単数・複数共に無標。
* [[能格]]-[[斜格]]{{Refnest|group="注釈"|能格と斜格を関係格という名前で1つの格として数えている。}} ({{Scaps|obl}}-{{Scaps|erg}}): 単数 -n 複数 -nɜ
* 副詞格 ({{Scaps|adv}}): -nɨ
形容詞に対して用いることで副詞の機能を付与する。副詞は動詞に対して前置修飾である。

::{|class=wikitable
|-class=IPA
|jɜdɜ-n|| ɐ-ʈ͡ʂʼɜ-gʲɨʁɨ-ø
|-
|much-{{Scaps|adv}}|| {{Scaps|3sg.abs}}-good-very-{{Scaps|stat.pres}}
|}
::とても良い{{R|vogt1963|page1=67}}

* [[処格]] ({{Scaps|loc}}): -ʁɜ
::{|class=wikitable
|-class=IPA
|ɐ-tʷɜχʷɜ-qɜfɜ-ʁɜ ||ɐ-kʲʼɜ-qʼɜ-n
|-
|the-river-shore-{{Scaps|loc}} ||{{Scaps|3pl.abs}}-go-{{Scaps|pret}}-{{Scaps|pl}}
|}
::彼らは川岸へ行った<ref name=dumezil1968c />

* [[共格]]-[[具格]]{{Refnest|group="注釈"|共格と具格あわせて1つの格として数えている。}}({{Scaps|com}}-{{Scaps|instr}}): -ɐlɜ
共格マーカー-ɐlɜは日本語の”~と”(and)の意味合いも持つ。
::{|class=wikitable
|-class=IPA
|ɐjdɨ-χɨ{{Refnest|group="注釈"|原文ではạydəxəになっているが、{{R|fenwick2011|page1=81}}によれば、ɐjdɜ-χɨ (ạyda-xə)}}-n-gʲɨ ||ɕʷɨbˤɜ-ɐlɜ||psɜ-ɐlɜ ||ø-ø-χʷɜdɜ-n ||ɐ-j-nɨ-w-q’ɜ
|-
|another-belonging.to-{{Scaps|erg}}-also ||cheese-{{Scaps|com}} ||fish-{{Scaps|com}} ||{{Scaps|3sg.abs}}-{{Scaps|3sg.erg}}-buy-{{Scaps|conv}}{{Refnest|group="注釈"|{{Lang-en-short|converb}}}} ||{{Scaps|3pl.abs}}-{{Scaps|prev}}{{Refnest|group="注釈"|動詞前辞-j-は反動作を示す。-wɨ-「運ぶ」に対して-j-wɨ-「持ってくる」。他にも-kʲʼɜ-「行く」に対して-j-kʲʼɜ-「来る」などがある}}-{{Scaps|3sg.erg}}-carry-{{Scaps|pret}}
|}
::もう一人もチーズと魚を買って持ってきた<ref name=dumezil1968a />

* [[具格]]({{Scaps|instr}}): -ɜwn(ɨ) {{Refnest|group="注釈"|変格や奪格などの意味もある{{R|charachidze1989|page1=371}}}}
::{|class=wikitable
|-class=IPA
|bɜrdɜnɜqʷɜ-gʲɨ ||ʁɜ-tʼqʷʼɜ-qʼɐpʼɜ-ɜwn||ɐ-t͡ʃɐʁɜ ||ø-ø-qʷʼɜ-n ||(...)
|-
|Badanoquo-also ||{{Scaps|3sg.poss}}{{Refnest|group="注釈"|{{Lang-en-short|possessive}}, 所有格}}-two-hand-{{Scaps|instr}} ||the-cup{{Refnest|group="注釈"|原典の翻訳による。一方、{{R|vogt1963|page1=98}}によれば「皿」}} ||{{Scaps|3sg.abs}}-{{Scaps|3sg.erg}}-take-{{Scaps|conv}} || (...)
|}
::バダノコ{{Refnest|group="注釈"|bɜrdɜnɜqʷɜはナルト叙事詩に出てくる狩人{{R|colarusso2002|page1=274-275}}}}も両手でコップを取って…{{R|dumezil1960b|page1=435}}

===基本文型===
基本文形はSVまたはAOV,Agent([[動作主]])-Object([[目的語]])-Verb(動詞)である{{R|fenwick2011|page1=151}}。

絶対格と斜格はどちらが先頭に来ても語の強調といった意味の変化はない{{R|fenwick2011|page1=153}}。

*例 (絶対格 斜格 動詞)
::{|class=wikitable
|-class=IPA
|ɐ-ʁʷɨndʷɨ ||ɐ-ʁʷɨn-ʂɜ-n ||ø-ø-ʂɨqʷʼɐ-tʷʼɜs-qʼɜ
|-
|the-bird({{Scaps|abs}}) ||the-top-tree-{{Scaps|obl}} ||{{Scaps|3sg.abs}}-{{Scaps|3sg.obl}}-{{Scaps|prev}}-sit-{{Scaps|pret}}
|}
::鳥が木の頂に止まった{{R|fenwick2011|dumezil1975|page1=35|page2=122}}

*例 (斜格 絶対格 動詞)
::{|class=wikitable
|-class=IPA
|zɜ-tɨtɨ-n ||tʼqʷʼɜ-qʷɜ ||ø-ø-qʼɐ-ʁ-qʼɜ.
|-
|one-man-{{Scaps|obl}} ||two-son({{Scaps|abs}}) ||{{Scaps|3pl.abs}}-{{Scaps|3sg.obl}}-by.hand({{Scaps|prev}})-hang-{{Scaps|pret}}
|}
::ある男が2人の息子を持っていた{{R|vogt1963|page1=72}}

*例 (能格 絶対格 動詞)
::{|class=wikitable
|-class=IPA
|ʁʷɜ ||zɜkʲʼɜ ||sɨ-pʃɜ ||dɜ-ø-w-bɨjɜ-q’ɜ-ʁɐfɜ ||wɨ-ʃʷɐt͡ʃɜ-n.
|-
|you({{Scaps|erg}}){{Refnest|group="注釈"|人称代名詞には能格-斜格マーカーがつかない}} ||once ||{{Scaps|1sg.poss}}-back({{Scaps|abs}}) ||{{Scaps|sub}}{{Refnest|group="注釈"|{{Lang-en-short|subordination clause}}{{R|fenwick2011|page1=167-168}}}}-{{Scaps|3sg.abs}}-{{Scaps|2sg.erg}}-see-{{Scaps|pret}}-because ||{{Scaps|2sg.abs}}-laugh-{{Scaps|pres}}
|}
::あなたは一度私の後ろを見たから笑っている<ref name=dumezil1968b />

===名詞の修飾===
形容詞は名詞に対して後置修飾である{{R|charachidze1989|fenwick2011|page1=375|page2=63-65,150}}。

::{|class=wikitable
|-class=IPA
|zɜ-pχʲɜɕʷ-ɐnɨɕʷɜ
|-
|one-woman-beautiful
|}
::(1人の,とある)美しい女性{{R|dumezil1975|page1=155}}

また、動詞の過去形を形容詞として名詞に修飾し、複合語を作る事がある{{R|fenwick2011|page1=65-67}}。

::{|class=wikitable
|-class=IPA
|t͡ʃɜ-tʷʼɜ-qʼɜ
|-
|milk-purulent-{{Scaps|pret}}
|}
::ヨーグルト (直訳:膿んだ牛乳){{R|vogt1963|page1=104}}

=== 動作動詞 ===

動作動詞は語根に決まった順番で接辞的要素を置く「スロット型」と呼ばれる構造を取っている。

重要な要素のみを取り上げると動詞は以下のような構造をしている{{R|fenwick2011|page1=98-99}}。

'''「絶対格({{Scaps|abs}})-斜格({{Scaps|obl}})-関係動詞前辞-斜格({{Scaps|obl}})-動詞前辞({{Scaps|prev}})-能格({{Scaps|erg}})-否定辞({{Scaps|neg}})-動詞語根-[[アスペクト]]-複数辞({{Scaps|pl}})-[[時制]]-複数辞({{Scaps|pl}})-否定辞({{Scaps|neg}})」'''

複数辞と否定辞が2個あるのは、時制によって出現位置が変わるためである。後述。


人称は1人称から3人称まで存在し、単数・複数の区別がある{{R|dumezil1975|charachidze1989|fenwick2011|page1=74|page2=378,396|page3=76-77,101}}。男女の区別は存在しない{{Refnest|group="注釈"|2人称単数に男女の区別があるとメスザロスは記している{{R|meszaros1934|page1=384}}が、テヴフィク・エセンチは使用しておらず、古語的とされる{{R|dumezil1975|fenwick2011|page1=77|page2=47-48}}。本記事内では掲載していない。}}。

====人称代名詞====

[[テヴフィク・エセンチ]]はしばしば1人称複数をʃɜɬɜ, 2人称複数ɕʷɜɬɜと省略していたが、他のウビフ語話者から間違いであると指摘されていた{{R|fenwick2011|page1=77}}。

{| class="wikitable" style="text-align: center;"
!
! 1人称
! 2人称
! 3人称
|-
! 単数
| sɨʁʷɜ
| wʁʷɜ, ʁʷɜ
| ɐʁʷɜ
|-
! 複数
| ʃɨʁʷɜ(ɬɜ)
| ɕʷɨʁʷɜ(ɬɜ)
| ɐʁʷɜɬɜ
|}

====絶対格人称マーカー====

{| class="wikitable" style="text-align: center;"
!
! 1人称
! 2人称
! 3人称
! 無人称
|-
! 単数
| s(ɨ)-
| w(ɨ)-
| ɐ-, jɨ-, ɨ-, ø-
| rowspan=2 | jɜ-
|-
! 複数
| ʃ(ɨ)-
| ɕʷ(ɨ)-
| ɐ-, jɨ-, ø-
|}

*無人称絶対格マーカーは本来絶対格を取らなければならない他動詞で絶対格を取らない時に用いる。
::{|class=wikitable
|-class=IPA
|t͡ʃʼɜχʷɜ|| jɜ-sɨ-fɨ-qʼɜ-mɜ.
|-
|today|| {{Scaps|null.abs}}-{{Scaps|1sg.erg}}-eat-{{Scaps|pret}}-{{Scaps|neg}}
|}
::今日、私はまだ何も食べていない{{R|fenwick2011|page1=108}}

3人称マーカーが複数あるが、これは以下のルールに従う{{R|charachidze1989|fenwick2011|page1=394-396|page2=103-104}}。
*自動詞
**3人称単数ならばɐ-またはø-, 3人称複数ならばɐ-
*斜格を伴う自動詞・斜格を伴わない他動詞
**後続の人称マーカーが1人称または2人称ならば単数ɐ-またはø-,複数ɐ-
**後続の人称マーカーが3人称単数なら単数複数共にjɨ-またはø-
**後続の人称マーカーが3人称複数なら、無標(ø-)。
*斜格を伴う他動詞
**斜格人称マーカーが1人称または2人称ならばいかなる能格でも単数ɐ-またはø-,複数ɐ-
**斜格が3人称単数なら、いかなる能格でもjɨ-。更に能格が3人称単数ならば無標にできる(ø-)。
**斜格が3人称複数なら、いかなる能格でも無標(ø-)。
*絶対格人称マーカーにアクセントがあるとき、jɨ-はɨ-になる事がある。

====斜格人称マーカー====

後続するマーカーまたは動詞の語根が有声音かつ斜格人称マーカーにアクセントが無い時、1人称単数・1人称複数・2人称複数マーカーは対応する有声音になる。

{| class="wikitable" style="text-align: center;"
!
! 1人称
! 2人称
! 3人称
|-
! 単数
| s(ɨ)-, z-
| w(ɨ)-
| ø-
|-
! 複数
| ʃ(ɨ)-, ʒ-
| ɕʷ(ɨ)-, ʑʷ(ɨ)-
| ɐ-
|}

====関係動詞前辞====
関係動詞前辞は必ず{{Scaps|obl}}<sub>a</sub>を伴って出現し、また{{Scaps|obl}}<sub>a</sub>は必ず関係動詞前辞を伴って出現する。

関係動詞前辞は3種類ある{{R|fenwick2011|page1=110}}。

* {{仮リンク|受益者格|en|Benefactive case}} ({{Scaps|ben}}): -χʲɜ-
{{Scaps|obl}}<sub>a</sub>のために、{{Scaps|obl}}<sub>a</sub>に向けて動作を行う

::{|class=wikitable
|-class=IPA
| ɐ-w-χʲɜ-s-ʃ-ɜwt
|-
|{{Scaps|3sg.abs}}-{{Scaps|2sg.obl}}<sub>a</sub>-{{Scaps|ben}}-{{Scaps|1sg.erg}}-do-{{Scaps|fut.ii}}
|}
::私はあなた<sub>a</sub>のために{{Scaps|3sg.abs}}をするでしょう{{R|dumezil1975|fenwick2011|page1=166|page2=165}}

::{|class=wikitable
|-class=IPA
|ɐ-nkʲɜ-nɨ|| ʃɨ-zɜ-χʲɜ-ʃ-nɜ-ɜw
|-
|the-friend-{{Scaps|adv}}|| {{Scaps|1pl.abs}}-{{Scaps|recip.obl}}<sub>a</sub>{{Refnest|group="注釈"|{{Lang-en-short|reciprocal}}, この場合、「相互に」「一緒に」動作する事を意味する。}}-{{Scaps|ben}}-become-{{Scaps|pl}}-{{Scaps|fut.i}}
|}
::お互い<sub>a</sub>に友達になりましょう{{R|fenwick2011|page1=152}}

* 被害者格{{Refnest|group="注釈"|{{Lang-en-short|malefactive}}}} ({{Scaps|mal}}): -t͡ɕʷʼɨ-
{{Scaps|obl}}<sub>a</sub>の意向に反して、{{Scaps|obl}}<sub>a</sub>に逆らって動作を行う

::{|class=wikitable
|-class=IPA
| ɐ-s-t͡ɕʷʼɨ-ø-ʁʷɐ-tʷʼɨ-qʼɜ
|-
|{{Scaps|3sg.abs}}-{{Scaps|1sg.obl}}<sub>a</sub>-{{Scaps|mal}}-{{Scaps|3sg.obl}}<sub>b</sub>-{{Scaps|prev}}-leave-{{Scaps|pret}}
|}
::{{Scaps|3sg.obl}}<sub>b</sub>は私<sub>a</sub>の願いに反して{{Scaps|3sg.abs}}を出てきた{{R|fenwick2011|page1=111}}

* 共格 ({{Scaps|com}}): -d͡ʒɨ-
{{Scaps|obl}}<sub>a</sub>と共に動作を行う

::{|class=wikitable
|-class=IPA
| jɜ-zɜ-d͡ʒɨ-nɐ-d͡ʑʷɜ-qʼɜ
|-
|{{Scaps|null.abs}}-{{Scaps|recip.obl}}<sub>a</sub>-{{Scaps|com}}-{{Scaps|3pl.erg}}-drink-{{Scaps|pret}}
|}
::{{Scaps|3pl.erg}}は一緒<sub>a</sub>に飲んだ{{R|fenwick2011|page1=110}}


====能格人称マーカー====

後続するマーカーまたは動詞の語根が有声音かつ能格人称マーカーにアクセントが無い時、1人称単数・1人称複数・2人称複数マーカーは対応する有声音になる。

{| class="wikitable" style="text-align: center;"
! rowspan=2 |
! rowspan=2 | 1人称
! rowspan=2 | 2人称
! colspan=2 | 3人称
|-
! 斜格または動詞前辞が無い時
! 斜格または動詞前辞が有る時
|-
! 単数
| s(ɨ)-, z-
| w(ɨ)-
| ø-
| n(ɨ)-
|-
! 複数
| ʃ(ɨ)-, ʒ-
| ɕʷ(ɨ)-, ʑʷ(ɨ)-
| ɐ-
| nɐ-
|}

====アスペクト====
アスペクトは5種類ある{{Refnest|group="注釈"|複数のアスペクトを組み合わせる事がɐj-lɜ, ɐj-fɜ, ɐj-lɜ-fɜ, t͡ɕʷɜ-fɜ の4通りで可能{{R|dumezil1975|page1=70}}}}。

* 習慣相{{Refnest|group="注釈"|Dumézil 1975: habituel{{R|dumezil1975|page1=55}} ({{Lang-en-short|habitual aspect}})}} ({{Scaps|hab}}): -gʲɜ-
習慣となっている動作を表す。

::{|class=wikitable
|-class=IPA
|ɐ-wɨrɨs-ɐlɜ|| ʃɨ-zɜjɜ-gʲɜ-ɐ-nɜjɬ
|-
|the-Russia-{{Scaps|com}}|| {{Scaps|1pl.abs}}-fight-{{Scaps|hab}}-{{Scaps|pl}}-{{Scaps|impf}}
|}
::私たちはいつもロシアと戦争していた{{R|dumezil1975|page1=55}}


* 反復相{{Refnest|group="注釈"|Dumézil 1975: réparative et itérative{{R|dumezil1975|page1=52}} ({{Lang-en-short|iterative aspect}})}} ({{Scaps|iter}}): -ɐj(ɨ)-
動作の反復を表すが、一部の動詞では意味が変化する。

::{|class=wikitable
|-class=IPA
| ɐ-wɨ-s-tʷɨ-n
|-
|{{Scaps|3sg.abs}}-{{Scaps|2sg.obl}}-{{Scaps|1sg.erg}}-give-{{Scaps|pres}}
|}
::私はあなたに{{Scaps|3sg.abs}}をあげる{{R|dumezil1975|page1=52}}

::{|class=wikitable
|-class=IPA
| ɐ-wɨ-s-tʷ-ɐjɨ-n
|-
|{{Scaps|3sg.abs}}-{{Scaps|2sg.obl}}-{{Scaps|1sg.erg}}-give-{{Scaps|iter}}-{{Scaps|pres}}
|}
::私はあなたに{{Scaps|3sg.abs}}を返す (再びあげる){{R|dumezil1975|page1=52}}


* 完全相{{Refnest|group="注釈"|Dumézil 1975: définitif-exhaustif{{R|dumezil1975|page1=54}} ({{Lang-en-short|exhaustive aspect}})}} ({{Scaps|exh}}): -lɜ-
完全な動作、完結した動作を表す。

::{|class=wikitable
|-class=IPA
| ɐ-s-t͡ɕʼɜ-ɐj-lɜ-n
|-
|{{Scaps|3sg.abs}}-{{Scaps|1sg.erg}}-know-{{Scaps|iter}}-{{Scaps|exh}}-{{Scaps|pres}}
|}
::私は完全に{{Scaps|3sg.abs}}を覚えている{{R|dumezil1975|fenwick2011|page1=70|page2=127}}

::{|class=wikitable
|-class=IPA
|ʁɜ-ɬɐpʼɜ|| dʁɜ-ø-ø-pʼt͡ɕʼɜ-lɜ-tʼɨn|| (...)
|-
|{{Scaps|3sg.poss}}-foot|| {{Scaps|sub}}-{{Scaps|3sg.abs}}-{{Scaps|3sg.erg}}-clean-{{Scaps|exh}}-{{Scaps|conv}}|| (...)
|}
::{{Scaps|3sg.abs}}が足を洗い終えると…{{R|fenwick2011|page1=126}}


* 過大相{{Refnest|group="注釈"|Dumézil 1975: excessif{{R|dumezil1975|page1=56}} ({{Lang-en-short|excessive aspect}})}} ({{Scaps|exc}}): -t͡ɕʷɜ-
度の超えた動作を表す。

::{|class=wikitable
|-class=IPA
| jɜ-s-fɨ-t͡ɕʷɜ-n.
|-
|{{Scaps|null.abs}}-{{Scaps|1sg.erg}}-eat-{{Scaps|exc}}-{{Scaps|pres}}
|}
::私は食べ過ぎている{{R|dumezil1975|fenwick2011|page1=56|page2=126}}


* 可能相{{Refnest|group="注釈"|{{Lang-en-short|potential aspect}}}} ({{Scaps|pot}}): -fɜ-
動作の可能・不可能を表す。

::{|class=wikitable
|-class=IPA
| s-kʲʼɜ-fɜ-qʼɜ-mɜ
|-
|{{Scaps|1sg.abs}}-go-{{Scaps|pot}}-{{Scaps|pret}}-{{Scaps|neg}}
|}
::私は行けなかった{{R|dumezil1975|page1=51}}

====時制====
ウビフ語の時制は8個{{R|dumezil1975|page1=146-147}}から10個{{Refnest|group="注釈"|話者によって現在形と現在進行形の区別が存在した{{R|dumezil1965|page1=267}}}}{{Refnest|group="注釈"|古ウビフ語で用いられていた過去形の時制が稀に出現する事があった{{R|dumezil1975|page1=151}}}}存在する。

ここでは時制ごとに異なる複数形・否定形の形を見るため、4個抜粋した。

時制の単数・複数は絶対格の単数・複数に依存する。たとえ斜格・能格が複数でも絶対格が単数ならば時制は単数である。

ただし、2人称複数が斜格または能格にある場合は、絶対格が単数でも時制は複数となる。

{| class="wikitable" style="text-align: center;"
! rowspan=2 |時制
! rowspan=2 |グロス
! colspan=2 |肯定
! colspan=2 |否定
|-
! 絶対格単数
! 絶対格複数
! 絶対格単数
! 絶対格複数
|-
! 現在形
! {{Scaps|pres}}
| -n
| -ɐ-n
| -m(ɨ)-語根-n
| -m(ɨ)-語根-ɐ-n
|-
! 過去形
! {{Scaps|pret}}{{Refnest|group="注釈"|Dumézil 1975 でprétérit ({{Lang-en-short|Preterite}})と書いている事から。一方で、Fenwick 2011ではPASTとしている。}}
| -qʼɜ
| -qʼɜ-n
| -qʼɜ-mɜ
| -qʼɜ-nɜ-mɜ
|-
! 未来形(Ⅱ)
! {{Scaps|fut.ii}}
| -ɜwt
| -nɜ-ɜwt
| -ɜwmɨt
| -nɜ-ɜwmɨt
|-
! 半過去
! {{Scaps|impf}}
| -nɜjtʼ
| -ɐ-nɜjɬ
| -nɜjtʼ-mɜ
| -ɐ-nɜjɬɜ-mɜ
|}

*例: 他動詞 bjɜ (見る)の肯定形{{R|dumezil1975|page1=148}}

能格は一人称単数固定で、絶対格を二人称単数・二人称複数としている。

{| class="wikitable" style="text-align: center;"
! 時制
! 絶対格単数
! 絶対格複数
|-
! 現在形
| wɨzbjɜn
| ɕʷɨzbjɐn
|-
! 過去形
| wɨzbjɜqʼɜ
| ɕʷɨzbjɜqʼɜn
|-
! 未来形(Ⅱ)
| wɨzbjɜwt
| ɕʷɨzbjɜnɜwt
|-
! 半過去
| wɨzbjɜnɜjtʼ
| ɕʷɨzbjɐnɜjɬ
|}

*例: 自動詞 kʲʼɜ (行く)の否定形{{R|dumezil1975|page1=165}}

絶対格は一人称単数・一人称複数としている。

{| class="wikitable" style="text-align: center;"
! 時制
! 絶対格単数
! 絶対格複数
|-
! 現在形
| sɨmkʲʼɜn
| ʃɨmkʲʼɐn
|-
! 過去形
| skʲʼɜqʼɜmɜ
| ʃkʲʼɜqʼɜnɜmɜ
|-
! 未来形(Ⅱ)
| skʲʼɜwmɨt
| ʃkʲʼɜnɜwmɨt
|-
! 半過去
| skʲʼɜnɜjtʼmɜ
| ʃkʲʼɐnɜjɬɜmɜ
|}

====基本動詞型====
自動詞、斜格のある自動詞、他動詞、斜格のある他動詞の4パターンに分かれる。デュメジルはこれをA~Dパターンと分類した{{R|dumezil1975|charachidze1989|fenwick2011|page1=85|page2=393|page3=97}}。

*自動詞(A)
::{|class=wikitable
|-class=IPA
|ɐ-tɨt|| ø-qˤɜ-qʼɜ
|-
|the-man{{Scaps|(abs)}}|| {{Scaps|3sg.abs}}-run-{{Scaps|pret}}
|}
::その男は走った{{R|charachidze1989|page1=370}}
::{|class=wikitable
|-class=IPA
|ɐ-tɨt|| ɐ-qˤɜ-qʼɜ-n
|-
|the-man{{Scaps|(abs)}}|| {{Scaps|3pl.abs}}-run-{{Scaps|pret}}-{{Scaps|pl}}
|}
::その男たちは走った{{R|charachidze1989|page1=370}}

*斜格のある自動詞(B)
::{|class=wikitable
|-class=IPA
| sɨ-wɨ-jɜ-n
|-
|{{Scaps|1sg.abs}}-{{Scaps|2sg.obl}}-hit-{{Scaps|pres}}
|}
::私はあなたを叩いた{{R|dumezil1975|page1=87}}

*他動詞(C)
::{|class=wikitable
|-class=IPA
| sɨ-ʑʷ-bjɜ-ɐ-n.
|-
|{{Scaps|1sg.abs}}-{{Scaps|2pl.erg}}-see-{{Scaps|pl}}-{{Scaps|pres}}
|}
::あなたたちは私を見る{{R|dumezil1975|page1=87-88}}

::{|class=wikitable
|-class=IPA
| ɕʷɨ-z-bjɜ-ɐ-n.
|-
|{{Scaps|2pl.abs}}-{{Scaps|1sg.erg}}-see-{{Scaps|pl}}-{{Scaps|pres}}
|}
::私はあなたたちを見る{{R|dumezil1975|page1=87-88}}

*斜格のある他動詞(D)
::{|class=wikitable
|-class=IPA
| ɐ-sɨ-wɨ-tʷɨ-n.
|-
|{{Scaps|3sg.abs}}-{{Scaps|1sg.obl}}-{{Scaps|2sg.erg}}-give-{{Scaps|pres}}
|}
::あなたは{{Scaps|3sg.abs}}を私にあげる{{R|dumezil1975|page1=90-92}}

斜格または能格で二人称複数形が出現する場合は時制が複数形となるため、絶対格において三人称単数・三人称複数の区別ができない。

::{|class=wikitable
|-class=IPA
| ɐ-ɕʷɨ-s-tʷɨ-ɐ-n.
|-
|{{Scaps|3sg.abs}}-{{Scaps|2pl.obl}}-{{Scaps|1sg.erg}}-give-{{Scaps|pl}}-{{Scaps|pres}}
|}
::私は{{Scaps|3sg.abs}}をあなたたちにあげる{{R|dumezil1975|page1=90-92}}

::{|class=wikitable
|-class=IPA
| ɐ-ɕʷɨ-s-tʷɨ-ɐ-n.
|-
|{{Scaps|3pl.abs}}-{{Scaps|2pl.obl}}-{{Scaps|1sg.erg}}-give-{{Scaps|pl}}-{{Scaps|pres}}
|}
::私は{{Scaps|3pl.abs}}をあなたたちにあげる{{R|dumezil1975|page1=90-92}}

*斜格が2個ある例
::{|class=wikitable
|-class=IPA
| ɐ-s-χʲɜ-w-ʁɜ-nɨ-wtʷɨ-ɐj-ɜwt
|-
|{{Scaps|3sg.abs}}-{{Scaps|1sg.obl}}<sub>a</sub>-{{Scaps|ben}}-{{Scaps|2sg.obl}}<sub>b</sub>-{{Scaps|prev}}-{{Scaps|3sg.erg}}-remove-{{Scaps|iter}}-{{Scaps|fut.ii}}
|}
::{{Scaps|3sg.erg}}は{{Scaps|3sg.abs}}をあなた<sub>b</sub>から私<sub>a</sub>へ奪い返すだろう{{R|dumezil1975|fenwick2011|page1=102|page2=100}}

=== 状態動詞 ===
動作動詞と概ね同じ構造を取るが、時制が動作動詞と異なり、現在と過去の2種類のみである{{R|fenwick2011|page1=123-124}}。

名詞や形容詞が述語となる場合も状態動詞と同じ時制を用いて複合語を作る。


{| class="wikitable" style="text-align: center;"
! rowspan=2 |時制
! rowspan=2 |グロス
! colspan=2 |肯定
! colspan=2 |否定
|-
! 絶対格単数
! 絶対格複数
! 絶対格単数
! 絶対格複数
|-
! 現在形
! {{Scaps|stat.pres}}
| -ø
| -n
| -mɜ
| -nɜ-mɜ
|-
! 過去形
! {{Scaps|stat.past}}
| -jtʼ
| -jɬ
| -jtʼ-mɜ
| -jɬɜ-mɜ
|}

::{|class=wikitable
|-class=IPA
|ɐ-gʲɨd͡zɜ-jɬɜ-mɜ
|-
|{{Scaps|3pl.abs}}-big-{{Scaps|stat.past.pl}}-{{Scaps|neg}}
|}
::{{Scaps|3pl.abs}}は大きくなかった{{R|charachidze1989|fenwick2011|page1=389|page2=124}}

=== 数字 ===
ウビフ語は北西コーカサス語族の他言語と同じく、20進数である。共格マーカー-ɐlɜを用いる事で21以上の数を表現できる{{R|charachidze1989|fenwick2011|page1=416-417|page2=90-91}}。
{| class="wikitable"
|-
! 数 !! 数詞 !! 数 !! 数詞 !! 数 !! 数詞
|-
| 1 || zɜ || 11 || ʒʷɨzɜ || 21 || tʼqʷʼɜtʷʼɐlɜ zɐlɜ
|-
| 2 || tʼqʷʼɜ || 12 || ʒʷɨtʼqʷʼɜ || 30 || tʼqʷʼɜtʷʼɐlɜ ʒʷɐlɜ
|-
| 3 || ɕɜ || 13 || ʒʷɨɕɜ || 40 || tʼqʷʼɜmt͡ɕʼɜtʼqʷʼɜtʷʼ
|-
| 4 || pʼɬʼɨ || 14 || ʒʷɨpʼɬʼ || 50 || tʼqʷʼɜmt͡ɕʼɜtʼqʷʼɜtʷʼɐlɜ ʒʷɐlɜ
|-
| 5 || ʃxɨ || 15 || ʒʷɨʃx || 60 || ɕɜmt͡ɕʼɜtʼqʷʼɜtʷʼ
|-
| 6 || fɨ || 16 || ʒʷɨf || 80 || pʼɬʼɨmt͡ɕʼɜtʼqʷʼɜtʷʼ
|-
| 7 || blɨ || 17 || ʒʷɨbl || 100 || ʃʷɜ
|-
| 8 || ʁʷɜ || 18 || ʒʷɨʁʷɜ || 200 || tʼqʷʼɜʃʷɜ
|-
| 9 || bʁʲɨ || 19 || ʒʷɨbʁʲ || 300 || ɕɨʃʷɜ{{Refnest|group="注釈"|発音の問題でɕɜʃʷɜとならない。同じく同音異義語のɕɨ-ʃʷɜ(3年)でもɕɜʃʷɜとならない{{R|fenwick2011|page1=90}}。}}
|-
| 10 || ʒʷɨ || 20 || tʼqʷʼɜtʷʼ || 1000 || min
|}

*例

::{|class=wikitable
|-class=IPA
|bɨn-ɐlɜ||bʁʲɨʃʷɜ-ɐlɜ||pʼɬʼɨ-ʃʷɜ-ɜwn||sɨ-ʁˤ-qʼɜ.
|-
|1000-{{Scaps|com}} ||900-{{Scaps|com}} ||4-year-{{Scaps|instr}} ||{{Scaps|1sg.abs}}-be.born-{{Scaps|pret}}
|}
::私は1904年に生まれた{{R|vogt1963|page1=66}}


[[膠着語|膠着的]]な形態法を持つ。[[能格]]型の格標示を行う。4つの[[格]]を区別する。動詞は多くの[[接頭辞]]と[[接尾辞]]によるきわめて複雑な[[派生]]・[[屈折]]を行う。
==脚注==
==脚注==
{{脚注ヘルプ}}
{{脚注ヘルプ}}

{{Reflist}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注釈"}}

=== 出典 ===
{{Reflist|refs=
<ref name=bell1840>[https://reader.digitale-sammlungen.de/en/fs1/object/goToPage/bsb10430693.html?pageNo=550 Bell, J. 1840 Journal of a Residence in Circassia: during the Years 1837, 1838 and 1839; in 2 Volumes. Volume 2, p.482]</ref>
<ref name=charachidze1989>Charachidzé, G. 1989 Oubykh. Hewitt, B.G. (ed.) The indigenous languages of the Caucasus 2: North West Caucasus, pp.359-459</ref>
<ref name=charachidze1991>Charachidzé, G. 1991 Nouveaux récits oubykhs. Revue des études géorgiennes et caucasiennes 6-7</ref>
<ref name=chirikba2013>[https://abkhazworld.com/aw/interview/86-interview-with-viacheslav-chirikba-ubykh Chirikba, V. The Ubykh People Were in Practice Consumed in the Flames of the Fight for Freedom]原文は2013年2月17日掲載</ref>
<ref name=colarusso1988>Colarusso, J. 1988 The Northwest Caucasian Languages: a phonological survey. Routledge.</ref>
<ref name=colarusso2002>Colarusso, J. 2002 Nart sagas from the caucasus: myths and legends from the circassians, abazas, abkhaz, and ubykhs.</ref>
<ref name=dirr1928>Dirr, A. 1928 Die sprache der ubychen</ref>
<ref name=dumezil1931>Dumézil, G. 1931. La langue de Oubykhs.</ref>
<ref name=dumezil1954>Dumézil, G. et A.Namitok. 1954 Le système de sons de l'oubykh. gutturales de l'oubykh. Bulletin de la Société de Paris 49. pp.160-189</ref>
<ref name=dumezil1955>Dumézil, G. 1955 Les gutturales de l'oubykh. Bulletin de la Société de Paris 51. pp.176-180</ref>
<ref name=dumezil1955b>Dumezil, G. 1955 Récits oubykh, II. Journal Asiatique 243: 439-459</ref>
<ref name=dumezil1958>Dumézil, G. 1958 Les vocalisme de l'oubykh. Bulletin de la Société de Paris 53. pp.198-203</ref>
<ref name=dumezil1959>Dumézil, G. 1959. Études oubykhs.</ref>
<ref name=dumezil1960>Dumézil, G. 1960 Documents anatoliens sur les langues et les traditions du caucase I.</ref>
<ref name=dumezil1960b>Dumézil, G. 1960 Récits Oubykh Ⅳ Textes sur Sawsərəq°a. Année 1960 pp.431-462.</ref>
<ref name=dumezil1965>Dumézil, G. 1965 Documents anatoliens sur les langues et les traditions du caucase III. Institut d'ethnologie: Paris.</ref>
<ref name=dumezil1968a>[https://pangloss.cnrs.fr/corpus/show_text.php?id=cocoon-2b11e515-358b-3c21-8fa5-4ad299b6a613&idref=cocoon-33ecd2ad-12cc-30df-97c2-58f5f93023ec Dumézil, G. 1968 Eating fish makes you clever]</ref>
<ref name=dumezil1968b>[https://pangloss.cnrs.fr/corpus/show_text.php?id=cocoon-03c7f3a0-b6a2-3df6-b67d-5e6ef019c281&idref=cocoon-bb839640-d38c-33cd-97bd-30bd00bfb542 Dumézil, G. 1968 The goat and the sheep]</ref>
<ref name=dumezil1968c>[https://pangloss.cnrs.fr/corpus/show_text.php?id=cocoon-f3cccaf0-cd8e-3353-b227-fc6e196577ce&idref=cocoon-81e5e086-e55c-3636-a835-586929d58316 Dumézil, G. 1968 The world ends tomorrow]</ref>
<ref name=dumezil1975>Dumézil, G. 1975 Le verbe oubykh. Paris.</ref>
<ref name=fenwick2011>Fenwick, R.S.H. 2011 A Grammar of Ubykh. Lincom Europa.</ref>
<ref name=gippert1992>Gippert, J. 1992 The Caucasian language material in Evliya Celebi's "Travel Book": a revision. Caucasian Perspectives: 8-62.</ref>
<ref name=kishmakhov2012>Kishmakhov, M.KH.-B. 2012 Problems of the ubykh ethnic history and culture.</ref>
<ref name=koerner1998>{{cite book |author=E. F. K. Koerner |title=First Person Singular III: Autobiographies by North American Scholars in the Language Sciences |url=https://books.google.com/books?id=-SYou4fhWUgC&pg=PA33 |date=1998 |publisher=John Benjamins Publishing |isbn=978-90-272-4576-2 |page=33 }}</ref>
<ref name=meszaros1934>[https://oi.uchicago.edu/research/publications/saoc/saoc-9-die-pakhy-sprache Meszaros, J. 1934 Die Pakhy-Sprache]</ref>
<ref name=smeets1986>Smeets, R. 1986 On Ubykh Circassian. Studia Caucasologica Ⅰ.</ref>
<ref name=smeets1994>Smeets, R. 1994 Suffixal marking of plural in ubykh verb forms. Studia Caucasologica Ⅲ.</ref>
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<ref name=vogt1963>Vogt, H. 1963 Dictionnaire de la langue oubykh. Universitetsforlaget.</ref>
}}


==関連項目==
==関連項目==
*{{仮リンク|ウビフ人|en|Ubykh people}}
*[[ウビフ人]]
*[[アブハズ語]]
*[[アディゲ語]]

==参考文献==
===音韻===
* Colarusso, J. 1988 The Northwest Caucasian Languages: a phonological survey. Routledge.
===文法===
* Charachidzé, G. 1989 Oubykh. (Hewitt, B.G. (ed.) The indigenous languages of the Caucasus 2: North West Caucasus, pp.359-459)
* Dumézil, G. 1975 Le verbe oubykh. Paris.
* Fenwick, R.S.H. 2011 A Grammar of Ubykh. Lincom Europa.
===辞書===
* Dumézil, G. 1965 Documents anatoliens sur les langues et les traditions du caucase III. Institut d'ethnologie: Paris. (Vogt (1963) の校正が収録されている。)
* Vogt, H. 1963 Dictionnaire de la langue oubykh. Universitetsforlaget.


==外部リンク==
==外部リンク==
39行目: 1,521行目:
*[http://llmap.org/languages/uby.html LL-Map]
*[http://llmap.org/languages/uby.html LL-Map]
*[http://multitree.org/codes/uby MultiTree]
*[http://multitree.org/codes/uby MultiTree]
*[http://archive.phonetics.ucla.edu/Language/UBY/uby.html The UCLA Phonetics Lab Archive - Ubykh] ウビフ語の単語が聞けるサイト


{{コーカサス諸語}}
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[[Category:死語]]
[[Category:死語]]

2024年11月14日 (木) 01:30時点における最新版

ウビフ語
t°axəbza , tʷɜχɨbzɜ
発音 IPA: t͡pɜχɨbzɜ
話される国 ソチ周辺(1864年以前)
トルコ(1864年以後)
地域 コーカサス
消滅時期 1992年10月7日
言語系統
表記体系 無文字言語
言語コード
ISO 639-1 なし
ISO 639-2 cau
ISO 639-3 uby
消滅危険度評価
Extinct (Moseley 2010)
テンプレートを表示

ウビフ語(ウビフご、ウビフ語: t°axəbza, tʷɜχɨbzɜ)は、かつてウビフ人によって話されていた北西コーカサス語族(アブハズ・アディゲ諸語)の言語の一つ。

概要

[編集]

ウビフ語は80または81の子音を持ち、コン語の子音が解明されるまでは世界でもっとも多くの子音を持つ言語であると考えられていた[1]

膠着的な形態法を持つ。能格型の格標示を行う。8~10個の時制と5個のを区別する。動詞は多くの接頭辞接尾辞によるきわめて複雑な派生屈折を行う。

ウビフ語話者は自身の言語をtʷaχəbzaと呼んだ。これはウビフ人の自称であるtʷɜχɨ[2]:195と言語を表すbzɜ[2]:91の複合語である。

「ウビフ」という名称はアディゲ語におけるウビフ人の呼称(アディゲ語: убых /wɨbɨx/)から来ている[3]:22

歴史

[編集]

ウビフ語を話すウビフ人は、もとは黒海北部沿岸のソチの付近に住んでいたが、1864年に起きたロシアとのコーカサス戦争で敗戦後、生き残ったウビフ人は主にトルコへ移住した[4]:33[注釈 1]

ウビフ語の最古の記録として知られているのは17世紀頃にエヴリヤ・チェレビが記したセイハトナーメ英語版で、「サズ語」としてウビフ語を記録している[6]:8-9。サズ人はアブハジア人の住む土地とウビフ人の住む土地の間に住んでいたと言われており、ウビフ人同様にコーカサス戦争後はトルコへ移住している。尚、サズ人はアブハズ語の一方言を話しており、ウビフ語とは関係無い。

近代ではジェームス・ベル英語版が1840年に「アバザ語」としてウビフ語の単語を記録しており[7]、1887年にはピョートル・ウスラル英語版アブハズ語の文法書内の補遺にウビフ語の記録を遺している[8]

ロシア科学アカデミーの要請によりアドルフ・ディルドイツ語版が1913年にウビフ語の調査を行い[9]:1-4、1928年にウビフ語に関する書籍を出版した[9]。これが知られている限り最も古い体系的なウビフ語の記録である[注釈 2]。彼は自著にて次のようなことを述べており、1913年の時点で既にウビフ語が絶滅寸前であったことがわかる。

... 正直、これが完成するかどうか怪しい。1898年にベネディクツェンが既に述べていたことは1913年までに全て確認した。ウビフは絶滅した言語であり、全てのウビフ人はトリリンガル[注釈 3]であった。彼らはチェルケス語トルコ語、そして少しのウビフ語を知っていた。Kyrkbunarで私は喜ばしい事に、もちろん、完全ではないインフォーマットを見つけた。...

(中略)

... ウビフ人は最早独自の民話を持たず、チェルケス語やトルコ語で歌い、おとぎ話や伝統もまたウビフ語ではなくそれらの言語で語っている。ベネディクツェンは既にウビフ語の歌を知っていた老人は一年前に死んでいたという事を報告している ...

— Dirr, A. (1928) Die sprache der ubychen p.3、著作権保護期間満了

第二次世界大戦前に単独の本として出版されたウビフ語の著書はアドルフ・ディル以外に1931年にジョルジュ・デュメジル[10]、1934年にジュリアス・メスザロス[11]がそれぞれ出版している。

第二次世界大戦後、ジョルジュ・デュメジルを筆頭に多くの学者がウビフ語を記録した。1954年に「ウビフ語の発音構造[12]」、1955年に「ウビフ語の喉音[13]」、1958年に「ウビフ語の母音[14]」という論文が発表され、子音が80個以上存在するという学説が成立する。それ以前の文献では子音の表記が不正確[12]:162-163であるため注意が必要であるが、Dirr 1928とDumézil 1931に記載されたウビフ語テキストは1959年に校正され[15]:51-76、Mészáros 1934に記載されたことわざ一覧は1960年に校正された[16]:79-89。この音素構造の解明とテキストの校正では、ウビフ語話者であるテヴフィク・エセンチが活躍した。彼はトルコ語が流暢に話せない祖父母に育てられ[2]:66-67、8歳までウビフ語のみで生活をしていた[2]:258ウビフ語母語話者で、1956年から亡くなる前年の1991年[注釈 4]までウビフ語の記録に協力した。

単語集自体はDirr 1928, Dumézil 1931, Mészáros 1934に収録されているが、前述通り音素が正確でなかった。1963年、ハンス・フォークトノルウェー語 (ニーノシュク)版は今まで発表されたテキストを基にウビフ語-フランス語辞書を出版した[2]。尚、この辞書は1965年デュメジルによって校正されている[17]:197-259ため、この辞書を用いる際はデュメジルによる校正も参照する事が望ましい。

文法面は1959年以降、長らくまとまった資料が作られなかったが、1975年にデュメジルが「ウビフ語の動詞[18]」を出版した。ウビフ語全体の文法については1989年にシャラシゼが記述している[19]。また、2011年には初めて英語で書かれた文法書がフェンウィックにより出版された[20]

1992年10月7日、テヴフィク・エセンチが死去したことで母語話者が誰もいなくなり、死語となった[3]:5

2011年現在、ウビフ語の言葉を知る者は殆どおらず、知っていてもいくつかのフレーズが言える程度であったという報告がある[21]

歴史的な話者分布

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公的なウビフ語の話者統計は存在しない。以下は断片的な情報である。

  • 1864年以前、ウビフ人はソチ周辺に住んでいた。キシュマホフによれば、ウビフ人は現在のヴォルコンカロシア語版以南ホスタロシア語版以北の範囲に住んでいた[22]:346-347
  • 1889年にオーゲ・ベネディクツェングルジア語版、1913年にジェームス・ベル、1930年にジョルジュ・デュメジルはサパンジャ英語版にあるウビフ人の村を訪れていたが、1965年までに話者の殆どが死亡していた[17]:11-36
  • 1931年ジュリアス・メスザロス、1953年以降のジョルジュ・デュメジル、1957年以降のハンス・フォークト、1965年以降のジョルジュ・シャラシゼ英語版などの大半の言語学者はバルケスィルのマニャス地区にあるウビフ人の村を訪れていた[23]:38。テヴフィク・エセンチはマニャス地区のHacı Osman köyü (ウビフ語:lɜkʷʼɐɕʷɜ[2]:136)と呼ばれる地区に住んでいた。
  • カフラマンマラシュサムスンにもウビフ語話者が居たとされているが、カフラマンマラシュでは1967年に最後の話者が死亡し、サムスンでは1974年の時点で誰もウビフ語を話していなかったという報告があり、言語学者による調査は殆ど行われていない[24]:278

音素

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ウビフ語は北西コーカサス語族の中では数少ない、咽頭音を区別する言語として知られている。咽頭音を区別する言語は他にもアブハズ語のブズィプ方言などが知られているが、ウビフ語は北西コーカサス語族の中でも特に咽頭音が多い[25]:150

ウビフ語に出現する音素は話者により若干異なる。テヴフィク・エセンチのように外来語由来の子音を含め84個の音素を区別している者もいれば、一方で60個程度しか子音の区別がなかったケースもある(後述)。

他の北西コーカサス語族に属する言語と同じく、母音の数が極端に少ない。ウビフ語では2個または3個しかない。

子音

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子音は80個または81個存在する。これは[kʼ]を固有の音素として数えるかどうかで学者によって意見が異なっているためである。

いずれも借用語に現れる音素を含めれば84個である。借用語にのみ現れる子音は[k] [g] [v]の3音素で、[kʼ]を加えるなら4音素である。

以下はデュメジルによる子音表[18]:13及びフェンウィックによる実際の発音記号[20]:17-24である。デュメジルは[kʼ]を固有の音素として数えている。

ウビフ語では歯茎音~歯茎硬口蓋音の間に独特な唇音化が発生した[20]:15-17アブハズ語の子音表も参照。

唇音 歯茎音 後部歯茎音 歯茎硬口蓋音 そり舌音 軟口蓋音 口蓋垂音 声門音
平音 咽頭 平音 唇音 側面 平音 唇音 平音 唇音 口蓋 平音 唇音 咽頭 口蓋 平音 唇音 咽頭 唇音+咽頭
鼻音 [m] [mˤ] [n] ([ʔ])[注釈 5]
破裂音 無声音 [p] [pˤ] [t] [t͡p] [kʲ] [k] [kʷ] [qʲ] [q] [qʷ] [qˤ] [qʷˤ]
有声音 [b] [bˤ] [d] [d͡b] [ɡʲ] [ɡ] [ɡʷ]
放出音 [pʼ] [pˤʼ] [tʼ] [t͡pʼ] [kʲʼ] [kʼ] [kʷʼ] [qʲʼ] [qʼ] [qʷʼ] [qˤʼ] [qʷˤʼ]
破擦音 無声音 [t͡s] [t͡ʃ] [t͡ɕ] [t͡ɕᶲ] [ʈ͡ʂ]
有声音 [d͡z] [d͡ʒ] [d͡ʑ] [d͡ʑᵝ] [ɖ͡ʐ]
放出音 [t͡sʼ] [t͡ʃʼ] [t͡ɕʼ] [t͡ɕᶲʼ] [ʈ͡ʂʼ]
摩擦音 無声音 [f] [s] [ɬ] [ʃ] [ʃʷ] [ɕ] [ɕᶲ] [ʂ] [x] [χʲ] [χ] [χʷ] [χˤ] [χˤʷ] [h]
有声音 [v] [vˤ] [z] [ʒ] [ʒʷ] [ʑ] [ʑᵝ] [ʐ] [ɣ] [ʁʲ] [ʁ] [ʁʷ] [ʁˤ] [ʁˤʷ]
放出音 [ɬʼ]
接近音 [l] [j] [w] [wˤ]
ふるえ音 [r]

母音

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母音は他の北西コーカサス語族と同様極端に少なく、2つまたは3つしか区別が存在しない。

開母音について、アブハズ語のような長母音と短母音の違い(母音としては1種類)があるか、アディゲ語のような広母音半広母音の違いがあるかで学者によって意見が異なるため母音の数が確定していない。

また、垂直母音構造英語版[注釈 6]であり、前舌母音後舌母音といった舌の位置について区別がないため、多くの異音が現れる[20]:25

三母音説 二母音説
狭/閉 /ɨ/ /ə/
半広/開 /ɜ/ /a/
広/長開 /ɐ/ /aː /


方言

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話者によって差異が存在するため厳密には話者毎に方言を設定する事ができるが、特筆するべきはデュメジルがKaracalarでOsman Güngörというインフォーマントから記録したウビフ語(の方言と思わしきもの[17]:266-269[注釈 7])である。

音素

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多くの違いが存在するが、特に異なる部分は以下の3点である。

  • 咽頭音が殆ど出現しない。代わりに平音または硬音(fortis)が出現する。デュメジルは ɐbˤɜ (病気)と qʷˤɨ (吠える)の2単語でのみ咽頭音を観測している。
  • 口蓋化口蓋垂音が出現しない。代わりに平音または硬音(fortis)が出現する。
  • [t͡p] [d͡b] [t͡pʼ] が完全に[p] [b] [pʼ]として発音されている。

以下に挙げるのはコラルッソによる子音表[25]:418である。ただし[ɣ]についてデュメジルは存在しない事が示唆されると書いているため赤で示した。

またデュメジルが示したが、コラルッソが示さなかった音素[mː](mːɜ りんご,mˤɜ)と、[qː](qːɜ - 咳をする,qʲɜ)を青で示した。

[bˤ]と[qʷˤ]は本表には加えていない。

唇音 歯茎音 後部歯茎音 歯茎硬口蓋音 そり舌音 軟口蓋音 口蓋垂音 声門音
平音 硬音 平音 唇音 側面 平音 唇音 平音 唇音 唇音+硬音 口蓋 平音 唇音 硬音 口蓋 平音 唇音 硬音 唇音+硬音
鼻音 [m] [mː ] [n]
破裂音 無声音 [p] [t] [kʲ] [kʷ] [q] [qʷ] [qː ]
有声音 [b] [d] [ɡʲ] [ɡʷ]
放出音 [pʼ] [tʼ] [kʲʼ] [kʷʼ] [qʼ] [qʷʼ]
破擦音 無声音 [t͡s] [t͡ʃ] [t͡ɕ] [t͡ɕʷ] [ʈ͡ʂ]
有声音 [d͡z] [d͡ʒ] [d͡ʑ] [d͡ʑʷ] [ɖ͡ʐ]
放出音 [t͡sʼ] [t͡ʃʼ] [t͡ɕʼ] [t͡ɕʷʼ] [ʈ͡ʂʼ]
摩擦音 無声音 [f] [s] [ɬ] [ʃ] [ʃʷ] [ɕ] [ɕʷ] [ɕː ʷ] [ʂ] [x] [χ] [χʷ] [χː ] [χː ʷ] [h]
有声音 [v] [z] [ʒ] [ʒʷ] [ʑ] [ʑʷ] [ʐ] [ɣ] [ʁ] [ʁʷ]
放出音 [ɬʼ]
接近音 [l] [j] [w] [wː ]
ふるえ音 [r]

文字

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ウビフ語は文字を持たない言語であったが、言語学者が自著に記述する際に作成された文字体系が存在する。

以下は特に多くのウビフ語の記録を行ったジョルジュ・デュメジル[18]:13及びハンス・フォークト[2]:13により記述された便宜上の文字である。

デュメジルは母音を3つ、フォークトは母音を4つ[注釈 8]に設定した。

デュメジル特有の音素を赤字、フォークト特有の音素を青字、外来語(主にトルコ語)のみに現れる音素を橙字で示す。

[kʼ]をデュメジルは固有音素として数えている一方、フォークトは固有音素として数えていない。

a
/ɜ/ /a/
,
/ɐ/ /aː /
b
/b/

/bˤ/
c
/t͡s/
c’
/t͡sʼ/
ċ
/t͡ɕ/
ċ’
/t͡ɕʼ/

/t͡ɕʷ/
c°’
/t͡ɕʷʼ/
č
/ʈ͡ʂ/
č’
/ʈ͡ʂʼ/
čʹ
/t͡ʃ/
čʹ’
/t͡ʃʼ/
d
/d/

/dʷ/
e
/e/
f
/f/
g
/g/

/gʲ/

/gʷ/
h
/h/
ı
/ɯ/
i
/i/
k
/k/
k’
/kʼ/

/kʲ/
kʹ’
/kʲʼ/

/kʷ/
k°’
/kʷʼ/
l
/l/
λ , ɬ
/ɬ/
λ’
/ɬʼ/
m
/m/

/mˤ/
n
/n/
o
/o/
ö
/œ/

/oː /
[注釈 9]
p
/p/
p’
/pʼ/

/pˤ/
p̄’
/pˤʼ/
q
/q/
q’
/qʼ/

/qʲ/
qʹ’
/qʲʼ/

/qʷ/
q°’
/qʷʼ/

/qˤ/
q̄’
/qˤʼ/
q̄°
/qʷˤ/
q̄°’
/qʷˤʼ/
r
/r/
s
/s/

/ɕ/

/ɕʷ/
š°
/ʃʷ/
š
/ʂ/
šʹ
/ʃ/
t
/t/

/tʷ/
t’
/tʼ/
t°’
/tʷʼ/
u
/u/
ü
/y/
v
/v/

/vˤ/
w
/w/

/wˤ/
x
/χ/

/χʲ/

/χʷ/

/χˤ/
x̄°
/χˤʷ/
χ
/x/
y
/j/
z
/z/
ż
/ʑ/

/ʑʷ/
ž°
/ʒʷ/
ž
/ʐ/
žʹ
/ʒ/
γ
/ʁ/
γʹ
/ʁʲ/
γ°
/ʁʷ/
γ̄
/ʁˤ/
γ̄°
/ʁˤʷ/
ǧ
/ɣ/
ʒ
/d͡z/
ʒ̇
/d͡ʑ/
ʒ°
/d͡ʑʷ/
ǯ
/ɖ͡ʐ/
ǯʹ
/d͡ʒ/
ʹ , ?
/ʔ/
ə
/ɨ/ /ə/

文法

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ウビフ語は能格言語であるため、対格言語である日本語から見ると自動詞主格他動詞目的格が文法上同じ扱いをする。また、マーカーによって語の文法的機能の付与を行う。

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ウビフ語では5種類の基底となる格が存在する[20]:33-45。ただし、接尾辞は5種類以上ある。

  • 絶対格 (abs): 単数・複数共に無標。
  • 能格斜格[注釈 10] (obl-erg): 単数 -n 複数 -nɜ
  • 副詞格 (adv): -nɨ

形容詞に対して用いることで副詞の機能を付与する。副詞は動詞に対して前置修飾である。

jɜdɜ-n ɐ-ʈ͡ʂʼɜ-gʲɨʁɨ-ø
much-adv 3sg.abs-good-very-stat.pres
とても良い[2]:67
ɐ-tʷɜχʷɜ-qɜfɜ-ʁɜ ɐ-kʲʼɜ-qʼɜ-n
the-river-shore-loc 3pl.abs-go-pret-pl
彼らは川岸へ行った[26]

共格マーカー-ɐlɜは日本語の”~と”(and)の意味合いも持つ。

ɐjdɨ-χɨ[注釈 12]-n-gʲɨ ɕʷɨbˤɜ-ɐlɜ psɜ-ɐlɜ ø-ø-χʷɜdɜ-n ɐ-j-nɨ-w-q’ɜ
another-belonging.to-erg-also cheese-com fish-com 3sg.abs-3sg.erg-buy-conv[注釈 13] 3pl.abs-prev[注釈 14]-3sg.erg-carry-pret
もう一人もチーズと魚を買って持ってきた[27]
bɜrdɜnɜqʷɜ-gʲɨ ʁɜ-tʼqʷʼɜ-qʼɐpʼɜ-ɜwn ɐ-t͡ʃɐʁɜ ø-ø-qʷʼɜ-n (...)
Badanoquo-also 3sg.poss[注釈 16]-two-hand-instr the-cup[注釈 17] 3sg.abs-3sg.erg-take-conv (...)
バダノコ[注釈 18]も両手でコップを取って…[29]:435

基本文型

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基本文形はSVまたはAOV,Agent(動作主)-Object(目的語)-Verb(動詞)である[20]:151

絶対格と斜格はどちらが先頭に来ても語の強調といった意味の変化はない[20]:153

  • 例 (絶対格 斜格 動詞)
ɐ-ʁʷɨndʷɨ ɐ-ʁʷɨn-ʂɜ-n ø-ø-ʂɨqʷʼɐ-tʷʼɜs-qʼɜ
the-bird(abs) the-top-tree-obl 3sg.abs-3sg.obl-prev-sit-pret
鳥が木の頂に止まった[20]:35[18]:122
  • 例 (斜格 絶対格 動詞)
zɜ-tɨtɨ-n tʼqʷʼɜ-qʷɜ ø-ø-qʼɐ-ʁ-qʼɜ.
one-man-obl two-son(abs) 3pl.abs-3sg.obl-by.hand(prev)-hang-pret
ある男が2人の息子を持っていた[2]:72
  • 例 (能格 絶対格 動詞)
ʁʷɜ zɜkʲʼɜ sɨ-pʃɜ dɜ-ø-w-bɨjɜ-q’ɜ-ʁɐfɜ wɨ-ʃʷɐt͡ʃɜ-n.
you(erg)[注釈 19] once 1sg.poss-back(abs) sub[注釈 20]-3sg.abs-2sg.erg-see-pret-because 2sg.abs-laugh-pres
あなたは一度私の後ろを見たから笑っている[30]

名詞の修飾

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形容詞は名詞に対して後置修飾である[19]:375[20]:63-65,150

zɜ-pχʲɜɕʷ-ɐnɨɕʷɜ
one-woman-beautiful
(1人の,とある)美しい女性[18]:155

また、動詞の過去形を形容詞として名詞に修飾し、複合語を作る事がある[20]:65-67

t͡ʃɜ-tʷʼɜ-qʼɜ
milk-purulent-pret
ヨーグルト (直訳:膿んだ牛乳)[2]:104

動作動詞

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動作動詞は語根に決まった順番で接辞的要素を置く「スロット型」と呼ばれる構造を取っている。

重要な要素のみを取り上げると動詞は以下のような構造をしている[20]:98-99

「絶対格(abs)-斜格(obl)-関係動詞前辞-斜格(obl)-動詞前辞(prev)-能格(erg)-否定辞(neg)-動詞語根-アスペクト-複数辞(pl)-時制-複数辞(pl)-否定辞(neg)」

複数辞と否定辞が2個あるのは、時制によって出現位置が変わるためである。後述。


人称は1人称から3人称まで存在し、単数・複数の区別がある[18]:74[19]:378,396[20]:76-77,101。男女の区別は存在しない[注釈 21]

人称代名詞

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テヴフィク・エセンチはしばしば1人称複数をʃɜɬɜ, 2人称複数ɕʷɜɬɜと省略していたが、他のウビフ語話者から間違いであると指摘されていた[20]:77

1人称 2人称 3人称
単数 sɨʁʷɜ wʁʷɜ, ʁʷɜ ɐʁʷɜ
複数 ʃɨʁʷɜ(ɬɜ) ɕʷɨʁʷɜ(ɬɜ) ɐʁʷɜɬɜ

絶対格人称マーカー

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1人称 2人称 3人称 無人称
単数 s(ɨ)- w(ɨ)- ɐ-, jɨ-, ɨ-, ø- jɜ-
複数 ʃ(ɨ)- ɕʷ(ɨ)- ɐ-, jɨ-, ø-
  • 無人称絶対格マーカーは本来絶対格を取らなければならない他動詞で絶対格を取らない時に用いる。
t͡ʃʼɜχʷɜ jɜ-sɨ-fɨ-qʼɜ-mɜ.
today null.abs-1sg.erg-eat-pret-neg
今日、私はまだ何も食べていない[20]:108

3人称マーカーが複数あるが、これは以下のルールに従う[19]:394-396[20]:103-104

  • 自動詞
    • 3人称単数ならばɐ-またはø-, 3人称複数ならばɐ-
  • 斜格を伴う自動詞・斜格を伴わない他動詞
    • 後続の人称マーカーが1人称または2人称ならば単数ɐ-またはø-,複数ɐ-
    • 後続の人称マーカーが3人称単数なら単数複数共にjɨ-またはø-
    • 後続の人称マーカーが3人称複数なら、無標(ø-)。
  • 斜格を伴う他動詞
    • 斜格人称マーカーが1人称または2人称ならばいかなる能格でも単数ɐ-またはø-,複数ɐ-
    • 斜格が3人称単数なら、いかなる能格でもjɨ-。更に能格が3人称単数ならば無標にできる(ø-)。
    • 斜格が3人称複数なら、いかなる能格でも無標(ø-)。
  • 絶対格人称マーカーにアクセントがあるとき、jɨ-はɨ-になる事がある。

斜格人称マーカー

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後続するマーカーまたは動詞の語根が有声音かつ斜格人称マーカーにアクセントが無い時、1人称単数・1人称複数・2人称複数マーカーは対応する有声音になる。

1人称 2人称 3人称
単数 s(ɨ)-, z- w(ɨ)- ø-
複数 ʃ(ɨ)-, ʒ- ɕʷ(ɨ)-, ʑʷ(ɨ)- ɐ-

関係動詞前辞

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関係動詞前辞は必ずoblaを伴って出現し、またoblaは必ず関係動詞前辞を伴って出現する。

関係動詞前辞は3種類ある[20]:110

oblaのために、oblaに向けて動作を行う

ɐ-w-χʲɜ-s-ʃ-ɜwt
3sg.abs-2sg.obla-ben-1sg.erg-do-fut.ii
私はあなたaのために3sg.absをするでしょう[18]:166[20]:165
ɐ-nkʲɜ-nɨ ʃɨ-zɜ-χʲɜ-ʃ-nɜ-ɜw
the-friend-adv 1pl.abs-recip.obla[注釈 22]-ben-become-pl-fut.i
お互いaに友達になりましょう[20]:152

oblaの意向に反して、oblaに逆らって動作を行う

ɐ-s-t͡ɕʷʼɨ-ø-ʁʷɐ-tʷʼɨ-qʼɜ
3sg.abs-1sg.obla-mal-3sg.oblb-prev-leave-pret
3sg.oblbは私aの願いに反して3sg.absを出てきた[20]:111
  • 共格 (com): -d͡ʒɨ-

oblaと共に動作を行う

jɜ-zɜ-d͡ʒɨ-nɐ-d͡ʑʷɜ-qʼɜ
null.abs-recip.obla-com-3pl.erg-drink-pret
3pl.ergは一緒aに飲んだ[20]:110


能格人称マーカー

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後続するマーカーまたは動詞の語根が有声音かつ能格人称マーカーにアクセントが無い時、1人称単数・1人称複数・2人称複数マーカーは対応する有声音になる。

1人称 2人称 3人称
斜格または動詞前辞が無い時 斜格または動詞前辞が有る時
単数 s(ɨ)-, z- w(ɨ)- ø- n(ɨ)-
複数 ʃ(ɨ)-, ʒ- ɕʷ(ɨ)-, ʑʷ(ɨ)- ɐ- nɐ-

アスペクト

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アスペクトは5種類ある[注釈 24]

習慣となっている動作を表す。

ɐ-wɨrɨs-ɐlɜ ʃɨ-zɜjɜ-gʲɜ-ɐ-nɜjɬ
the-Russia-com 1pl.abs-fight-hab-pl-impf
私たちはいつもロシアと戦争していた[18]:55


動作の反復を表すが、一部の動詞では意味が変化する。

ɐ-wɨ-s-tʷɨ-n
3sg.abs-2sg.obl-1sg.erg-give-pres
私はあなたに3sg.absをあげる[18]:52
ɐ-wɨ-s-tʷ-ɐjɨ-n
3sg.abs-2sg.obl-1sg.erg-give-iter-pres
私はあなたに3sg.absを返す (再びあげる)[18]:52


完全な動作、完結した動作を表す。

ɐ-s-t͡ɕʼɜ-ɐj-lɜ-n
3sg.abs-1sg.erg-know-iter-exh-pres
私は完全に3sg.absを覚えている[18]:70[20]:127
ʁɜ-ɬɐpʼɜ dʁɜ-ø-ø-pʼt͡ɕʼɜ-lɜ-tʼɨn (...)
3sg.poss-foot sub-3sg.abs-3sg.erg-clean-exh-conv (...)
3sg.absが足を洗い終えると…[20]:126


度の超えた動作を表す。

jɜ-s-fɨ-t͡ɕʷɜ-n.
null.abs-1sg.erg-eat-exc-pres
私は食べ過ぎている[18]:56[20]:126


動作の可能・不可能を表す。

s-kʲʼɜ-fɜ-qʼɜ-mɜ
1sg.abs-go-pot-pret-neg
私は行けなかった[18]:51

時制

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ウビフ語の時制は8個[18]:146-147から10個[注釈 30][注釈 31]存在する。

ここでは時制ごとに異なる複数形・否定形の形を見るため、4個抜粋した。

時制の単数・複数は絶対格の単数・複数に依存する。たとえ斜格・能格が複数でも絶対格が単数ならば時制は単数である。

ただし、2人称複数が斜格または能格にある場合は、絶対格が単数でも時制は複数となる。

時制 グロス 肯定 否定
絶対格単数 絶対格複数 絶対格単数 絶対格複数
現在形 pres -n -ɐ-n -m(ɨ)-語根-n -m(ɨ)-語根-ɐ-n
過去形 pret[注釈 32] -qʼɜ -qʼɜ-n -qʼɜ-mɜ -qʼɜ-nɜ-mɜ
未来形(Ⅱ) fut.ii -ɜwt -nɜ-ɜwt -ɜwmɨt -nɜ-ɜwmɨt
半過去 impf -nɜjtʼ -ɐ-nɜjɬ -nɜjtʼ-mɜ -ɐ-nɜjɬɜ-mɜ
  • 例: 他動詞 bjɜ (見る)の肯定形[18]:148

能格は一人称単数固定で、絶対格を二人称単数・二人称複数としている。

時制 絶対格単数 絶対格複数
現在形 wɨzbjɜn ɕʷɨzbjɐn
過去形 wɨzbjɜqʼɜ ɕʷɨzbjɜqʼɜn
未来形(Ⅱ) wɨzbjɜwt ɕʷɨzbjɜnɜwt
半過去 wɨzbjɜnɜjtʼ ɕʷɨzbjɐnɜjɬ
  • 例: 自動詞 kʲʼɜ (行く)の否定形[18]:165

絶対格は一人称単数・一人称複数としている。

時制 絶対格単数 絶対格複数
現在形 sɨmkʲʼɜn ʃɨmkʲʼɐn
過去形 skʲʼɜqʼɜmɜ ʃkʲʼɜqʼɜnɜmɜ
未来形(Ⅱ) skʲʼɜwmɨt ʃkʲʼɜnɜwmɨt
半過去 skʲʼɜnɜjtʼmɜ ʃkʲʼɐnɜjɬɜmɜ

基本動詞型

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自動詞、斜格のある自動詞、他動詞、斜格のある他動詞の4パターンに分かれる。デュメジルはこれをA~Dパターンと分類した[18]:85[19]:393[20]:97

  • 自動詞(A)
ɐ-tɨt ø-qˤɜ-qʼɜ
the-man(abs) 3sg.abs-run-pret
その男は走った[19]:370
ɐ-tɨt ɐ-qˤɜ-qʼɜ-n
the-man(abs) 3pl.abs-run-pret-pl
その男たちは走った[19]:370
  • 斜格のある自動詞(B)
sɨ-wɨ-jɜ-n
1sg.abs-2sg.obl-hit-pres
私はあなたを叩いた[18]:87
  • 他動詞(C)
sɨ-ʑʷ-bjɜ-ɐ-n.
1sg.abs-2pl.erg-see-pl-pres
あなたたちは私を見る[18]:87-88
ɕʷɨ-z-bjɜ-ɐ-n.
2pl.abs-1sg.erg-see-pl-pres
私はあなたたちを見る[18]:87-88
  • 斜格のある他動詞(D)
ɐ-sɨ-wɨ-tʷɨ-n.
3sg.abs-1sg.obl-2sg.erg-give-pres
あなたは3sg.absを私にあげる[18]:90-92

斜格または能格で二人称複数形が出現する場合は時制が複数形となるため、絶対格において三人称単数・三人称複数の区別ができない。

ɐ-ɕʷɨ-s-tʷɨ-ɐ-n.
3sg.abs-2pl.obl-1sg.erg-give-pl-pres
私は3sg.absをあなたたちにあげる[18]:90-92
ɐ-ɕʷɨ-s-tʷɨ-ɐ-n.
3pl.abs-2pl.obl-1sg.erg-give-pl-pres
私は3pl.absをあなたたちにあげる[18]:90-92
  • 斜格が2個ある例
ɐ-s-χʲɜ-w-ʁɜ-nɨ-wtʷɨ-ɐj-ɜwt
3sg.abs-1sg.obla-ben-2sg.oblb-prev-3sg.erg-remove-iter-fut.ii
3sg.erg3sg.absをあなたbから私aへ奪い返すだろう[18]:102[20]:100

状態動詞

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動作動詞と概ね同じ構造を取るが、時制が動作動詞と異なり、現在と過去の2種類のみである[20]:123-124

名詞や形容詞が述語となる場合も状態動詞と同じ時制を用いて複合語を作る。


時制 グロス 肯定 否定
絶対格単数 絶対格複数 絶対格単数 絶対格複数
現在形 stat.pres -n -mɜ -nɜ-mɜ
過去形 stat.past -jtʼ -jɬ -jtʼ-mɜ -jɬɜ-mɜ
ɐ-gʲɨd͡zɜ-jɬɜ-mɜ
3pl.abs-big-stat.past.pl-neg
3pl.absは大きくなかった[19]:389[20]:124

数字

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ウビフ語は北西コーカサス語族の他言語と同じく、20進数である。共格マーカー-ɐlɜを用いる事で21以上の数を表現できる[19]:416-417[20]:90-91

数詞 数詞 数詞
1 11 ʒʷɨzɜ 21 tʼqʷʼɜtʷʼɐlɜ zɐlɜ
2 tʼqʷʼɜ 12 ʒʷɨtʼqʷʼɜ 30 tʼqʷʼɜtʷʼɐlɜ ʒʷɐlɜ
3 ɕɜ 13 ʒʷɨɕɜ 40 tʼqʷʼɜmt͡ɕʼɜtʼqʷʼɜtʷʼ
4 pʼɬʼɨ 14 ʒʷɨpʼɬʼ 50 tʼqʷʼɜmt͡ɕʼɜtʼqʷʼɜtʷʼɐlɜ ʒʷɐlɜ
5 ʃxɨ 15 ʒʷɨʃx 60 ɕɜmt͡ɕʼɜtʼqʷʼɜtʷʼ
6 16 ʒʷɨf 80 pʼɬʼɨmt͡ɕʼɜtʼqʷʼɜtʷʼ
7 blɨ 17 ʒʷɨbl 100 ʃʷɜ
8 ʁʷɜ 18 ʒʷɨʁʷɜ 200 tʼqʷʼɜʃʷɜ
9 bʁʲɨ 19 ʒʷɨbʁʲ 300 ɕɨʃʷɜ[注釈 33]
10 ʒʷɨ 20 tʼqʷʼɜtʷʼ 1000 min
bɨn-ɐlɜ bʁʲɨʃʷɜ-ɐlɜ pʼɬʼɨ-ʃʷɜ-ɜwn sɨ-ʁˤ-qʼɜ.
1000-com 900-com 4-year-instr 1sg.abs-be.born-pret
私は1904年に生まれた[2]:66

脚注

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注釈

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  1. ^ テヴフィク・エセンチは敗戦後の移住についてウビフ語で詳細に語っている。彼の先祖は黒海を船で移動したという[5]:441-444
  2. ^ これ以前の記録は前述のベルとウスラルのものと、オーゲ・ベネディクツェンによる非公開の日記のみであった[9]:1-4
  3. ^ ウスラル[8]:2巻5章もウビフ語話者がバイリンガルまたはトリリンガルであることを指摘しているが、彼はウビフ語・チェルケス語・アブハズ語のトリリンガルであると記述している。バイリンガルの場合、もう一つの言語はチェルケス語かアブハズ語である。
  4. ^ 音声録音は1991年9月21日が最後の記録[3]:5,13。録音以外の記録がいつまで行われていたかは不明。
  5. ^ 話者によって[qʼ]の異音として[ʔ]が発音される事があり、特に文末に来る過去形マーカー"-qʼɜ"が"-ʔɜ"になった[2]:43
  6. ^ IPAの母音表では縦軸が口の開閉度、横軸が舌の位置を表しており、垂直母音構造を取る言語では口の開閉度(縦軸)のみの区別があり、舌の位置(横軸)の区別がない
  7. ^ 見出しのタイトルがUn dialecte oubykh? となっており、デュメジルはこれを方言であると断定していない
  8. ^ 4母音説を唱えたのはフォークトのみ。厳密にはフォークトは長母音・短母音を採用した2母音説[20]:25
  9. ^ フォークト以外では"aw" /ɜw/ ~ /ow/に相当する。
  10. ^ 能格と斜格を関係格という名前で1つの格として数えている。
  11. ^ 共格と具格あわせて1つの格として数えている。
  12. ^ 原文ではạydəxəになっているが、[20]:81によれば、ɐjdɜ-χɨ (ạyda-xə)
  13. ^ : converb
  14. ^ 動詞前辞-j-は反動作を示す。-wɨ-「運ぶ」に対して-j-wɨ-「持ってくる」。他にも-kʲʼɜ-「行く」に対して-j-kʲʼɜ-「来る」などがある
  15. ^ 変格や奪格などの意味もある[19]:371
  16. ^ : possessive, 所有格
  17. ^ 原典の翻訳による。一方、[2]:98によれば「皿」
  18. ^ bɜrdɜnɜqʷɜはナルト叙事詩に出てくる狩人[28]:274-275
  19. ^ 人称代名詞には能格-斜格マーカーがつかない
  20. ^ : subordination clause[20]:167-168
  21. ^ 2人称単数に男女の区別があるとメスザロスは記している[11]:384が、テヴフィク・エセンチは使用しておらず、古語的とされる[18]:77[20]:47-48。本記事内では掲載していない。
  22. ^ : reciprocal, この場合、「相互に」「一緒に」動作する事を意味する。
  23. ^ : malefactive
  24. ^ 複数のアスペクトを組み合わせる事がɐj-lɜ, ɐj-fɜ, ɐj-lɜ-fɜ, t͡ɕʷɜ-fɜ の4通りで可能[18]:70
  25. ^ Dumézil 1975: habituel[18]:55 (: habitual aspect)
  26. ^ Dumézil 1975: réparative et itérative[18]:52 (: iterative aspect)
  27. ^ Dumézil 1975: définitif-exhaustif[18]:54 (: exhaustive aspect)
  28. ^ Dumézil 1975: excessif[18]:56 (: excessive aspect)
  29. ^ : potential aspect
  30. ^ 話者によって現在形と現在進行形の区別が存在した[17]:267
  31. ^ 古ウビフ語で用いられていた過去形の時制が稀に出現する事があった[18]:151
  32. ^ Dumézil 1975 でprétérit (: Preterite)と書いている事から。一方で、Fenwick 2011ではPASTとしている。
  33. ^ 発音の問題でɕɜʃʷɜとならない。同じく同音異義語のɕɨ-ʃʷɜ(3年)でもɕɜʃʷɜとならない[20]:90

出典

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  1. ^ ノリス・マクワーター編 1985 ギネスブック ’85 講談社
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m Vogt, H. 1963 Dictionnaire de la langue oubykh. Universitetsforlaget.
  3. ^ a b c Charachidzé, G. 1991 Nouveaux récits oubykhs. Revue des études géorgiennes et caucasiennes 6-7
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  5. ^ Dumezil, G. 1955 Récits oubykh, II. Journal Asiatique 243: 439-459
  6. ^ Gippert, J. 1992 The Caucasian language material in Evliya Celebi's "Travel Book": a revision. Caucasian Perspectives: 8-62.
  7. ^ Bell, J. 1840 Journal of a Residence in Circassia: during the Years 1837, 1838 and 1839; in 2 Volumes. Volume 2, p.482
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  9. ^ a b c Dirr, A. 1928 Die sprache der ubychen
  10. ^ Dumézil, G. 1931. La langue de Oubykhs.
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  12. ^ a b Dumézil, G. et A.Namitok. 1954 Le système de sons de l'oubykh. gutturales de l'oubykh. Bulletin de la Société de Paris 49. pp.160-189
  13. ^ Dumézil, G. 1955 Les gutturales de l'oubykh. Bulletin de la Société de Paris 51. pp.176-180
  14. ^ Dumézil, G. 1958 Les vocalisme de l'oubykh. Bulletin de la Société de Paris 53. pp.198-203
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  30. ^ Dumézil, G. 1968 The goat and the sheep

関連項目

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参考文献

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音韻

[編集]
  • Colarusso, J. 1988 The Northwest Caucasian Languages: a phonological survey. Routledge.

文法

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  • Charachidzé, G. 1989 Oubykh. (Hewitt, B.G. (ed.) The indigenous languages of the Caucasus 2: North West Caucasus, pp.359-459)
  • Dumézil, G. 1975 Le verbe oubykh. Paris.
  • Fenwick, R.S.H. 2011 A Grammar of Ubykh. Lincom Europa.

辞書

[編集]
  • Dumézil, G. 1965 Documents anatoliens sur les langues et les traditions du caucase III. Institut d'ethnologie: Paris. (Vogt (1963) の校正が収録されている。)
  • Vogt, H. 1963 Dictionnaire de la langue oubykh. Universitetsforlaget.

外部リンク

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