「ツキヨタケ」の版間の差分
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| 画像キャプション = 径5cm程度の比較的小さな子実体 |
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| 名称 = ツキヨタケ |
| 名称 = ツキヨタケ |
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| 亜門 = [[ハラタケ亜門]] {{sname||Agaricomycotina}} |
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| 亜綱 = [[ハラタケ亜綱]] {{sname||Agaricomycetidae}} |
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| 目 = [[ハラタケ目]] {{sname||Agaricales}} |
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| 科 = [[キシメジ科]] {{Sname||Tricholomataceae}} |
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| 科 = [[ホウライタケ科]] {{Sname||Marasmiaceae}} |
| 科 = [[ホウライタケ科]] {{Sname||Marasmiaceae}} |
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| 属 = [[ツキヨタケ属]] {{Snamei||Omphalotus}} |
| 属 = [[ツキヨタケ属]] {{Snamei||Omphalotus}} |
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| 和名 =ツキヨタケ(月夜茸) |
| 和名 =ツキヨタケ(月夜茸) |
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[[File:Omphalotus guepiniformis Berk Neda 02.jpg|thumb|right|200px|ツキヨタケ15-20cm前後とかなり大型]] |
[[File:Omphalotus guepiniformis Berk Neda 02.jpg|thumb|right|200px|ツキヨタケ(径15-20cm前後とかなり大型の子実体]] |
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'''ツキヨタケ'''は、[[ハラタケ目]][[ホウライタケ科]][[ツキヨタケ属]]に属する[[キノコ]]の一種 |
'''ツキヨタケ'''は、[[ハラタケ目]][[ホウライタケ科]]の[[ツキヨタケ属]]に属する[[キノコ]]の一種である。 |
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== 形態 == |
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[[キノコの部位#傘|かさ]]は半円形ないし腎臓形をなし、長径5-30センチ程度になり、表面は湿時にはいくぶん粘性を示し、幼時は橙褐色~黄褐色でときに微細な鱗片を散在するが、老成するに従って紫褐色または黄褐色となり、にぶい光沢をあらわす。表皮は肉から剥離しにくく、[[水酸化カリウム]]・[[水酸化ナトリウム]]・[[アンモニア水]]・[[炭酸水素ナトリウム]]などの[[塩基性]]化合物によってすみやかに鮮青緑色に変色する(この呈色は、茹でたものや冷凍したもの、あるいは乾燥したものでも反応する)<ref name=AokiZuhan>青木実・日本きのこ同好会(著).名部みち代(編)、2008.日本きのこ図版(第一巻:ヒラタケ科・ヌメリガサ科・キシメジ科).日本きのこ同好会2、神戸.</ref>。ひだは比較的幅広く、わりあい密で白色~クリーム色を呈し、分岐することはない。[[キノコの部位#柄|柄]]は通常はかさの一端に着き(まれにほぼ中心生)、太く短くて淡い黄褐色を呈し、[[キノコの部位#ひだ|ひだ]]との境界には低いリング状をなした隆起(不完全な[[キノコの部位#つば|内被膜]])がある。肉はもろい肉質でほぼ白色を呈するが、柄の基部付近においては多くは紫黒色のしみ(まれに、ほとんどこれを欠くこともある<ref>大作晃一・吹春俊光、2010.おいしいきのこ 毒きのこ.191 pp.、主婦の友社、東京. ISBN 978-4-07-273560</ref>を生じ、特徴的な味やにおいはない。 |
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紫褐色または黄褐色の[[キノコの部位#傘|かさ]]で、[[キノコの部位#柄|柄]]は短く、[[キノコの部位#つば|つば]]状の突起がある。新鮮なものはツキヨタケ中に含まれる成分である[[ランプテロフラビン]]の効果によって、暗闇で白色の[[キノコの部位#ひだ|ひだ]]が青白から蛍光緑に[[発光]]するが、熟成が進むと発光しない場合もある。柄を裂くと、紫褐色のシミがあるので他の食用キノコと見分けられるが、まれにシミのないものもあるので注意が必要である。色が地味で肉厚なので、おいしそうに見えることから、食用キノコと間違い誤食し[[中毒]]に至ることが多い。日本での毒キノコ中毒例の半数以上がツキヨタケによるものといわれるほどである。また、大きさはかなりばらついており、大きいものでは25cmほどのものもある。 |
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=== 分布 === |
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[[朝鮮半島]]、[[ロシア]]極東地方、中国東北部、[[ヨーロッパ]]、[[北アメリカ]]などに分布する。 |
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[[子実体]]を構成する[[菌糸]]はしばしばやや厚壁で、[[クランプ]]を有する。[[キノコの部位#シスチジア|シスチジア]]はなく、[[胞子]]はほほ球形かつ薄壁で無色・平滑、[[ヨウ素]]液で青く染まらず(非アミロイド性)、径 13-17μm程度、[[胞子紋]]は通常は白色あるいはかすかに灰褐色を帯びる<ref name=IandHold>今関六也・本郷次男、1957.原色日本菌類図鑑.181 pp.保育社、大阪.ISBN 458630023X</ref><ref name=IandHnew>今関六也・本郷次雄(編著)、1987. 原色日本新菌類図鑑(Ⅰ). 410 pp.保育社. 大阪.ISBN 4-586-30075-2.</ref>が、いくぶん紫色を呈する場合もある<ref name=ImaiHokkaido>Imai, S., 1938. Studies on the Agaricaceae of Hokkaido I. Journal of the Faculty of Agriculture, Hokkaido Imperial University 43: 1-168 + 3 plates.</ref>。 |
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== 有毒種 == |
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主要毒成分は[[セスキテルペン]]の[[イルジン|イルジンS]]([[:w:Illudin|Illudin]])などとされるが、イルジン類は主要症状の下痢の原因となる[[平滑筋]]弛緩作用を持たず、[[ムスカリン]]様の未知の物質が平滑筋弛緩作用を持つことが判明しており、[[鳥取大学]]で現在研究中である<ref>[http://www.cjrd.tottori-u.ac.jp/seeds_cgi/files/20110509161342_pdffile02.pdf 毒きのこの子実体生産と化合物ライブラリの商品化]、鳥取大学農学部附属菌類きのこ遺伝資源研究センター、2011年</ref><ref>[http://www.cjrd.tottori-u.ac.jp/seeds_cgi/files/20131002133009_pdffile02.pdf 毒きのこの利活用のための新イノベーション推進事業の展開]、鳥取大学農学部、2013年</ref>。 |
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== 生態 == |
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食後約30分から3時間程度で嘔吐や下痢などの[[食中毒]]の症状が現れ、見るものが[[青]]く見える[[幻覚]]症状を伴うことがある。最悪の場合、[[脱水 (医療)|脱水症状]]などで[[死]]に至ることもある。 |
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晩夏から秋にかけて、おもに[[ブナ]]の倒木・切り株、あるいは立ち枯れ木などの上に群生する<ref name=ImaiHokkaido/><ref name=Ito>伊藤誠哉、1959.日本菌類誌(第2巻 第5号)担子菌類. 658 pp.養賢堂、東京.</ref><Ref name=Imazeki1974>今関六也、1974.カラー日本のきのこ.199 pp.山と渓谷社、東京.ISBN 9-784-63502-664-2.</ref><ref name=NandO>西野嘉憲・大場裕一、2013.光るキノコと夜の森.82 pp. 岩波書店、東京.ISBN 978-4-00-005883-4.</ref><ref name=Haneda>羽根田弥太、1972.発光生物の話―よみもの動物記.225 pp. 北隆館、東京.</ref><ref name=Culture>Yamaguchi, O., and C. Kobayashi, 1994. Habitat segregation and cultural preference of ''Lampteromyces japonicus'' and ''Armillariella mellea''. Hyogo University of Teacher Education Journal 14 (Ser. 3): 19-23.</ref>。ときに[[イタヤカエデ]] <ref name=IandHnew/><ref name=Ito/><ref name=NandO/><ref name=Haneda/><ref name=Continue>今関六也・本郷次男、1965.続原色日本菌類図鑑.245 pp.保育社、大阪. ISBN 4-586-30045-6.</ref><ref name=Matsuda>松田一郎、1965.ツキヨタケ.新潟県生物教育研究会誌 (2): 1-5</ref>や[[トチノキ]]<ref name=Continue/><ref name=Matsuda/>、あるいは[[ミズメ]]<ref>永田潤一、1937.有毒茸「ツキヨタケ」の食用法に就いて.茸類の研究 3(1): 60-62.</ref>・[[アカシデ]]<ref name=IandHnew/><ref name=IHT>今関六也・本郷次雄・椿啓介、1970.標準原色図鑑全集14 菌類(きのこ・かび).保育社、大阪. ISBN 978-4-58632-014-1.</ref>・[[イヌシデ]]・[[コナラ]]・[[ミズナラ]]<ref>吉見昭一、1973.夜光のツキヨタケ.Nature Study 19(12): 11.</ref>などの枯れ木に発生することもあり、また、ブナの自然分布がない北海道東北部などにおいては、[[トドマツ]]上に生じる<ref name=IandHnew/><ref name=Ito/><ref name=IHT/>。なお、人工栽培が試みられた例では、[[アカマツ]]・[[カラマツ]]・[[チョウセンゴヨウ]]・[[アベマキ]]・[[クヌギ]]・[[モンゴリナラ]]あるいは[[ヤマハンノキ]]などのおが屑上でも子実体が形成されることが確認されている<ref name=Korean>[http://ocean.kisti.re.kr/downfile/volume/mycology/GNHHDL/2010/v38n1/GNHHDL_2010_v38n1_80.pdf Ka, K.H., Park, H., Hur, T. C.; and W. C. Bac, 2010. Formation of fruiting body of ''Omphalotus japonicus'' by sawdust cultivation. The Korean Journal of Mycology 38: 80–82.]</ref>。 |
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菌糸は一般的な真菌用の[[培地]](たとえばジャガイモ=ブドウ糖寒天培地<ref name=Korean/>や浜田培地<ref name=Culture/>)を用いて培養することができ、さらに滅菌したブナ材の小片を培地に加えることで、単位時間当たりの菌糸の生育が有意に促進される<ref name=Culture/>。なお、生態的には、木材中の[[リグニン]]を分解する白色腐朽菌とみなされている<ref name=Phylogeny>[http://www.mycologia.org/content/96/6/1253.full.pdf#search='Chemotaxonomical+and+morphologiccal+observations+in+the+genus+Omphalotus+Fayod+%28Omphalotaceae%29.' Kirchmair, M., Morandell, S., Stolz, D., Põder、R., and C. Strurbauer, 2004. Phylogeny of the genus ''Omphalotus'' Based on Nuclear Ribosomal DNA-sequences. Mycologia 96: 1253-1260.]</ref>。 |
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日本では古くから毒キノコとして知られており、『[[今昔物語集]]』では「和太利(わたり)」という名で登場し、和太利による毒殺未遂事件が取り上げられている(巻二十八・第十八話「[[金峰山]]の別当、毒茸を食ひて酔はぬ事」)。 |
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== 分布 == |
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日本のブナ林にはごく普通に産する。北海道南部以南に広く分布し、鹿児島県(大隅半島)の高隈山が南限であるとされている<ref name=KankyoCHo>環境庁(編)、2000.改訂 日本の絶滅のおそれのある野生生物―レッドデータブック― 植物Ⅱ(維管束植物以外).429 pp.財団法人自然環境研究センター、東京.</ref>。日本国外では、[[ロシア]]極東地方<ref>Vasil’eva, 1973. Agarikovye shliapochnye griby (por Agaricales) Primorskogo kraia.</ref>および中国東北部<ref name=RdandN> Redhead, S. A., and H. Neda, 2006. (1741) Proposal to Conserve the Name ''Pleurotus japonicus'' against ''Agaricus guepiniformis'' and ''Pleurotus harmandii'' (Basidiomycota). Taxox 55: 1032–33.</ref>のほか、[[朝鮮半島]] <ref name=IHT/>にも分布する。ただし、朝鮮半島での発生は非常にまれであるといわれている<ref name=Korean/>。 |
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* 毒性分(胃腸系の中毒)イルジンS(''illudin S'')、イルジンM(''illudin M'')。</br>(細胞毒)dehydroilludin M、ネオイルジンA(''neoilludin A'')、ネオイルジンB(''neoilludin B'')<ref name="drg21">[http://www.drugsinfo.jp/2007/08/17-173300 ツキヨタケ] - 医薬品情報21</ref> |
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: illudin Sの毒性:LD50:マウス(腹腔 内)50mg/kg<ref name="drg21"/>。 |
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* 発光物質 従来、ジヒドロイルジンS(dihydroilludin S)。デオキシイルジンM(deoxyilludine M)も発光物質と考えられていたが、ランプテロフラビンであることが判明している<ref>[http://ci.nii.ac.jp/naid/110006678837 月夜茸の発光物質ランプテロフラビンの構造と合成研究] 天然有機化合物討論会講演要旨集(31)、396-403、1989-09-1</ref>。 |
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* 抗菌物質 レクチン |
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* 色素 アトロメチン、テレホール酸、ジロシアニン |
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== 毒性 == |
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=== 中毒症状 === |
=== 中毒症状 === |
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摂食後30分~3時間で発症し、[[下痢]]と[[嘔吐]]が中心となり<ref name=Kawamura1915>[http://hdl.handle.net/2261/32970 Kawamura, S., 1915. Studies on the Luminous Fungus, ‘’Pleurotus japonicus’’ sp. nov] 東京帝国大学紀要 理科. v35 art3, 1915.12.30, pp. 1-29</ref>、あるいは[[腹痛]]をも併発する<ref>[http://doi.org/10.11280/gee1973b.48.2493 岩井啓一郎・松本主之・江崎幹宏・八尾隆史・鎌田正博・飯田三雄、2006.ツキヨダケ摂取が原因と考えられた急性十二指腸炎の1例.日本消化器内視鏡学会雑誌 48: 2493-2498.]</ref>。景色が青白く見えるなどの幻覚症状がおこる場合もあり、重篤な場合は、[[痙攣]]・脱水・[[アシドーシスショック]]などをきたす。少数ではあるが死亡例<ref>上嶋権兵衛・松橋京子、1985.フグ・キノコなどによる食中毒.診断と治療 73; 401-405.</ref>も報告されている。 |
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摂食後30分~3時間で発症し消化器系の[[下痢]]、[[嘔吐]]が中心症状であるが、重篤な場合は、[[痙攣]]、脱水、[[アシドーシスショック]]などを起こす。死亡例も少ないが報告されている。 |
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=== 治療 === |
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医療機関による処置が必要で、消化器系の症状に対しては、催吐 |
医療機関による処置が必要で、消化器系の症状に対しては、催吐・[[胃洗浄]]、あるいは吸着剤([[活性炭]]など)の投与が行われる。また、[[嘔吐]]や[[下痢]]による水分喪失の改善を目的とした補液も重要視される。重症例では血液吸着 DHP(Direct Hemoperfusion:直接血液灌流法)により、血中の毒素の吸着除去が行われることもある<ref name=Hayashida>Hayashida, A., Seino, K., and K. Iseki, 2011. Treatment of mushroom poisoning by ''Lampteromyces japonicus''; four case reports and review of the literature. Yamagata Medical Journal 29: 57–62.</ref>。 |
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=== 毒成分 === |
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主要な毒成分は、[[セスキテルペン]]に属する[[イルジン|イルジンS]]([[:w:Illudin|Illudin]])およびその異性体であるイルジンMなどとされている<ref name=Imazeki1974/><ref name=Nakanishi>Nakanishi, K., and M. Tada, 1963. Isolation of lampterol, antitumour substance from ''Lampteromyces japonicus''. Nature 197: 292.</ref><ref name=Tanaka1990>Tanaka, K., Inoue, T., Kadota, S., and T. Kikuchi, 1990. Metabolism of illudin S, a toxic principle of ''Lampteromyces japonicus'', by rat liver. I. Isolation and identification of cyclopropane ring-cleavage metabolites. Xenobiotica 20: 671-681.</ref><ref name=Tanaka1992>Tanaka, K., Inoue, T., Kadota, S., and T. Kikuchi, 1992. Metabolism by rat liver cytosol of illudin S, a toxic substance of ''Lampteromyces japonicus''. II. Characterization of illudin S-metabolizing enzyme. Xenobiotica 22 : 33–39.</ref><ref name=Tanaka1996a>Tanaka, K., Inoue, T., Tezuka, Y., and T. Kikuchi, 1996. Metabolism of illudin S, a toxic substance of ''Lampteromyces japonicus'': urinary excretion of mercapturic acids in rat. Xenobiotica 26: 347–54. </ref><ref name=Tanaka1996b> Tanaka, K., Inoue, T., Tezuka, Y., and T. Kikuchi, 1996. Michael-type addition of illudin S, a toxic substance from ''Lampteromyces japonicus'', with cysteine and cysteine-containing peptides ''in vitro'' . Chemical and Pharmacological Bulletin 44: 273-279. </ref>。特に、主要な中毒症状の一つである[[嘔吐]]は、イルジンSによるものであるという<ref name=Enzo>[http://doi.org/10.3358/shokueishi.37.1 笠原義正・板垣昭浩・久間木 國男・片桐 進、1996.ツキヨタケの胃腸管毒性及び塩蔵による減毒.食品衛生学雑誌,37: 1-7]</ref><ref>McMorris. T. C., Kelner, M. J., Wang, W., Moon, S., and R. Taetle, 1990. On the mechanism of toxicity of illudins: the role of glutathione. Chemical Research in Toxicology 3: 574-579.</ref>。 |
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ツキヨタケから得られた毒成分は、当初はランプテロール<ref>中西 香爾・大橋守・鈴木沖・多田愈・山田泰司・稲垣清二郎、1963.ツキヨタケからのLampterolの単離.薬学雑誌 93: 377-380</ref><ref>Nakanishi, K., Tada, M., Yamada, Y., Ohashi,,M., Komatsu, N., And H. Terakawa. 1963.,Isolation of lampterol, an antitumour substance from ’’Lampteromyces japonicus’’ Nature 197 : 292.</ref>の名で呼ばれたが、後の研究<ref>{{PDFlink|[http://www.pnas.org/content/36/5/300.full.pdf Anchel, M., Hervey, A., and W. J. Robbins, 1950. Antibiotic substances from Basidiomycetes. Proceedings of the National Academy of Science of USA 36 : 300-305.]}}</ref><ref>{{pdfLINK|[http://www.pnas.org/content/38/11/927.full.pdf Anchel, M., Hervey, A., and W. J. Robbins, 1952. Production of Illudin M and of a Fourth Crystalline Compound by ''Clitocybe Illudens''. Proceedings of the National Academy of Science of USA 38 : 927-928.]}}</ref> により、日本未産の有毒きのこである''Omphalotus illudens''から単離されたイルジンと同一物質であることが明らかにされた。 |
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いっぽう、イルジン類は、ツキヨタケのもう一つの主要な中毒症状たる下痢の原因となる[[平滑筋]]弛緩作用を持たない。平滑筋の弛緩作用は、[[ムスカリン]]類似の未同定物質によるものではないかと推定されている<ref>草野源次郎、1985.キノコの毒成分.遺伝 39(9): 32-36.</ref><ref>河野昌彦、1986. ツキヨダケに関する法医学的研究.医学研究 56: 108-119.</ref>。 |
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なお、野生のツキヨタケ子実体に含有されるイルジンSの含有量は、採集した場所や時期によって大きく変動し、場合によってはこれをまったく含まないことすらあるという。さらに、菌糸体の人工[[培養]]に際して液体[[培地]]を用いた場合には、イルジンSが培地中に分泌されるのに対し、木粉培地を使用した場合には、子実体形成後に培地内に残った菌糸体あるいは廃培地中にイルジンSが検出されなかったことから、子実体に含まれるイルジンSはまず菌糸体内で生成され、子実体形成に際して移送されるのではないかと推定されている<ref>一柳剛・増田健太・春口佐知・金子依子・霜村典宏・前川二太郎・北村直樹・會見忠則、2013.ツキヨタケ(''Omphalotus guepiniformis'')によるIlludin Sの生産.日本きのこ学会誌 21: 98-102.</ref>。 |
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また、子実体には、細胞毒として働くジヒドロイルジンM(dihydroilludin M)や、ネオイルジン(Neoilludin)AおよびB<ref>Kuramoto, M., Tsukihara, T., and N. Ono , 1999. Neoilludins A and B, New Bioactive Components from ''Lampteromyces japonicus''. Chemistry Letters 28, 1113-1114.</ref>なども含まれている。 |
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== 誤食されやすい食用キノコ == |
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[[ファイル:Sarcomyxa serotina 1.JPG |250px|thumb|ツキヨタケと間違われやすいムキタケ。]] |
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全体に地味な色調を持ち、少しも毒々しくみえないこと・縦によく裂けること・不快なにおいや味がないこと・しばしば一か所で大量に採取されることなどから、日本におけるきのこ中毒(原因となったきのこが確定されたケース)には、ツキヨタケによるものがもっとも多い<Ref name=Imazeki1974/><ref name=Tsurida2012>[http://doi.org/10.1271/bbb.120090 Tsurida, S., Akai, K., Hiwaki, H., Suzuki, A., and H. Akiyama, 2012. Multiplex real-time PCR assay for simultaneous detection of ''Omphalotus guepiniformis'' and ''Lentinula edodes''. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 76: 1343–1349].</ref>。 |
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比較的幼い子実体は[[シイタケ]]に、成熟したものは[[ムキタケ]]や[[ヒラタケ]]に類似している。特に、シイタケやムキタケとは一本の枯れ木上に混じり合って発生することがあり、誤食の危険が大きい。 |
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後三種は、子実体のいかなる発育段階においても、ひだに発光性を欠いている。また、シイタケでは、肉がツキヨタケのそれに比べてより強靭であり、乾燥すると特有の香気を発する点が異なり、ムキタケはかさの表面に微毛をこうむりとともに、かさの表皮が容易に剥がれる点で区別される。ヒラタケは、柄にリング状の隆起(不完全なつば)がなく、ひだと柄との境界がより不明瞭なことで異なっている。 |
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== 学名について == |
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さらに、ツキヨタケ以外の三種では、かさの表皮に[[塩基性]]化合物の水溶液を滴下しても緑色にならないこと<ref name=AokiZuhan/>、柄の肉に黒紫色のしみを生じない<ref name=ImaiHokkaido/>ことも識別の上で重要な性質である。 |
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従来のツキヨタケの[[学名]](''Lampteromyces japonicus''(Kawam.) Sing.)は、[[1947年]]に[[ロルフ・シンガー]]によって新たに一[[属 (分類学)|属]]一[[種 (分類学)|種]]として[[記載]]されたものである。しかし、[[2002年]]になって[[ヨーロッパ]]や[[北アメリカ]]に分布する''Omphalotus''属との類似性が指摘された<ref name="日本の毒きのこ">長沢栄史 監修 『フィールドベスト図鑑14 日本の毒きのこ』 [[学研ホールディングス|学習研究社]]、[[2003年]][[10月4日]]初版発行、ISBN 4-05-401882-3、142 - 143頁</ref>(この場合、先名権により学名は''Omphalotus japonicus''となる<ref name="日本の毒きのこ"/>)。そして、[[根田仁]]は標本を比較検討した上で、[[1878年]]に[[マイルズ・ジョセフ・バークリー]]により報告された''[[ハラタケ属|Agaricus]] guepiniformis''と[[同定]]して''Omphalotus guepiniformis'' (Berk.) Neda の学名を与えた<ref name="Neda 2004">{{cite journal |author=Neda, Hitoshi |year=2004|title=Type studies of ''Pleurotus'' reported from Japan |journal=Mycoscience |volume=45 |issue= |pages=181–87 |doi=10.1007/s10267-003-0172-6}}</ref>。これにより、従来の''Lampteromyces''は[[シノニム]]となった。その後、根田らは[[2006年]]に''A. guepiniformis''ともう一つのシノニム''Pleurotus harmandii''に対して''O. japonicus''を[[保留名]]とするべきだと提案し<ref name="Redhead 2006">{{cite journal |author=Redhead, Scott A.; Neda, Hitoshi |title=(1741) Proposal to Conserve the Name ''Pleurotus japonicus'' against ''Agaricus guepiniformis'' and ''Pleurotus harmandii'' (Basidiomycota) |journal=Taxon |year=2006 |volume=55 |issue=4 |pages=1032–33 |jstor=25065705}}</ref>、[[2008年]]に[[命名法部会菌類委員会]]([[:w:Nomenclature Committee for Fungi|Nomenclature Committee for Fungi]])により正式に決定した<ref name="Norvell 2008">{{cite journal |author=Norvell, Lorelei L. |title=Report of the Nomenclature Committee for Fungi: 14 |journal=Taxon |year=2008 |volume=57 |issue=2 |pages=637–39 |jstor=25066033}}</ref>。 |
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これらの相違点に加え、シイタケ・ヒラタケ・ムキタケにおいては、それらの胞子はツキヨタケのそれに比べてずっと小さく、類球形をなすこともない<ref name=ImaiHokkaido/>。 |
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なお、''Omphalotus''属は欧米およびオーストラリアに分布し、発光性およびツキヨタケ同様[[イルジン]](本来、''O. illudens''から発見された)を含む毒キノコが多い。特に、''O. olearius''は[[w:Omphalotus olearius|Jack O'Lantern]]の名前で知られている。 |
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なお、[[山形県]]下の一部の地方では、茹でた後に塩蔵保存し、流水にさらしてから食用とする習慣があるが、[[マウス]]を用いた実験によれば、熱処理したのみでは便重量の減少や消化管内容物の輸送の促進(ヒトの中毒時の下痢症状を示唆する)などがみられるのに対し、塩蔵(沸騰水中で10分間熱した後、菌体を一分あたり500mlの流速にて流水中に48時間さらし、水切りをしてから、重量比で1.5倍量の食塩を加え、室温下で5週間保存)してから水中に投じて48時間の塩抜きを行ったツキヨタケの[[メタノール]]エキスを与えた実験区ではこれらの所見がなく、解剖時の胃の膨満や出血、あるいは消化管内壁の潰瘍性びらんなどもみられなかったという<ref name=Enzo/>。 |
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ツキヨタケは伝統的に[[キシメジ科]]とされていたが、[[分子系統学]]の結果、キシメジ科から分離され、[[ツキヨタケ科]]を経て現在はホウライタケ科に分類される。 |
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== 発光性 == |
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== 類似の食用キノコ == |
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子実体の各部のうち、発光性を有するのはひだのみで、かさや柄は、表面においても内部においても光らない。また、ひだが堅いものに触れたりして損傷した部分は光らなくなる<ref name=Kawamura1915/><ref name=Kawamura1>[http://doi.org/10.15281/jplantres1887.24.281_165 川村清一、1910.月夜茸及ビ其發光現象ニ就テ.植物学雑誌 24(281): 165-177.]</ref>。発光のピークはかさがじゅうぶんに開いた後の2-3日程度であるという<ref name=NandO/>。また、菌体が古くなると、光量は次第に小さくなる<ref name=Kawamura1/>が、小動物などにより食害された部分などを除けば、ひだの光量の低下は一個の子実体中において均等に起こり、部分的に光のむらが生じることはない<ref name=Kawamura1915/>。 |
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[[画像:ムキタケ.jpg|250px|thumb|ツキヨタケと間違われやすいムキタケ。これは2cm。]] |
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幼菌は[[シイタケ]]に、成菌は[[ムキタケ]]、[[ヒラタケ]]に類似し、特にムキタケとは同一場所に生える場合もあり、間違え採集することも多い。 |
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ひだの断面はいちように発光するが、胞子については「発光性を欠く」という報告<ref name=Kawamura1915/><ref name=Kawamura1/>と、「湿った場所に落ちると光る」という報告<ref name=Haneda/>とがある。さらに、菌糸体については、当初は発光しないとされていた<ref name=Kawamura1915/>が、測定機器の進歩により、肉眼的には検知することができない微弱な光を発していることが判明した。培養した菌糸において、多数の胞子を起源とした菌糸(重相菌糸)は、唯一個の胞子を発芽させて得た菌糸(単相菌糸)と比較して1000倍ほど高い光量を示したという<ref>D. Bermudes, D., Petersen, R. H., and K. H. Nealson, 1992. Low-level bioluminescence detected in ''Mycena haematopus'' basidiocarps, Mycologia 84: 799-802.</ref>。 |
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ひだを高温または低温に保った容器に入れると、次第に光量は小さくなリ、60℃の空気中に15分間保つと、常温に戻しても発光は回復しなかったという報告<ref name=Kawamura1915/><ref name=Kawamura2>[http://doi.org/10.15281/jplantres1887.24.282_203 月夜茸及ビ其發光現象ニ就テ(二) .本菌ノ發光ト外團ノ温度トノ關係.植物学雑誌 24(282): 203-213.]がある </ref>。また、[[塩酸]]や[[水酸化カリウム]]溶液、あるいは無水[[エタノール]]、もしくは[[エーテル]]や[[クロロホルム]]などの薬剤をひだに滴下した部分は光が弱くなり、もしくはまったく光らなくなるという観察結果も報告されている<ref name=Kawamura1915/><ref name=Kawamura3>[http://doi.org/10.15281/jplantres1887.24.283_249 川村清一、1910.月夜茸及ビ其發光現象ニ就テ (三).植物学雑誌 24(283): 249-260.]</ref>。同様に、[[二酸化炭素]]・[[窒素]]・[[水素]]などや、気化させた[[エーテル]]・[[クロロホルム]]などを満たした容器中でも光を減じ、0.05気圧程度の真空容器内では、菌体が視認できないほどに光量が減少したとされている。一方で、[[酸素]]を満たした容器内での発光は、空気中におけるそれと差がないようにみえたという<ref name=Kawamura1915/><ref name=Kawamura3/>。60℃の熱水中に子実体を投入した場合には、瞬時にひだの発光性は失われ、これを常温の空気中に取り出しても光は復活しないと報告されている<ref name=Kawamura1915/>。 |
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従来、イルジンS<ref name=Korean/>、ジヒドロイルジンS(dihydroilludin S)やデオキシイルジンM(deoxyilludine M)などが発光の起因物質であると考えられていたが、それは誤りであり、ひだの発光は、ランプテロフラビン(5’-α-リボフラノシルリボフラビン)に起因するものである<ref name=Sympodium>[http://ci.nii.ac.jp/naid/110006678837 磯部稔・Uyakul, D., 高橋宏幸・後藤俊夫、1989.月夜茸の発光物質ランプテロフラビンの構造と合成研究 天然有機化合物討論会講演要旨集(31)、396-403.]</ref><ref>Uyakul, D., Isobe, M., and T. Goto, 1990. Lampteroflavin, the first riboflavinyl alpha ribofuranoside as light emitter in the luminous mushroom, ’’L. Japonicus’’. Tetragedron 46: 1367-1378.</ref>。 |
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ランプテロフラビンは、新鮮なツキヨタケのひだの組織中に0000.5パーセント(重量比:1mg/生の子実体のひだ5kg)程度の割合で存在し、その蛍光スペクトルは、ツキヨタケのひだが放つ光とほぼ等しい波長である524nm付近に吸収極大を示す。またその光量は pH5-8の中性域においてもっとも低くなるとされている<ref name=Sympodium/><ref>Uyakul, D., Isobe, M., and T. Goto, 1989. ’’Lampteromyces’’ bioluminescence: 3. Structure of lampteroflavin, the light emitter in the luminous mushroom, ’’L. japonicus’’. Bioorganic Chemistry 17: 454-460.</ref>。 |
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== 分類学的位置づけ == |
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日本の菌学界に初めて紹介された時点では、樹上生であるとともに発光性を有することから、''Pleurotus olearius'' DC(=''Omphalotus olearius'':後述)と同定されたが、これは誤りであった<ref name=Kawamura1/>。やや時代が下がって、この誤りがただされ、柄がかさの一端に側生することから、古典的な定義による ''Pleurotus''属([[ヒラタケ]]・[[ムキタケ]]・[[スギヒラタケ]]・[[ワサビタケ]]・シジミタケ・チャヒラタケなど、短い柄がかさの一端に生じるか、あるいはほぼ無柄で、かさの一端で朽ち木などの基質に直接に付着して生育する)に置かれ、''Pleurotus noctilucens'' Inokoの学名が提唱された<ref>Inoko, Y., 1889. Toxikologisches ueber einen Japanischen Giftschwamm. Mitteilung der Medikalishen Faclutät der Kaiserlish-Japanischen Universität, Tokyo 1: 277-306.</ref>. |
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しかし''P. noctilucens'' の名は、その時点ですでに別種の発光きのこ(フィリピン産:現在では、''Nothopanus noctilucens'' (Lév.) Sing.の学名が用いられている<ref>Singer R., 1973.. Diagnoses fungorum novorum Agaricalium III. Beihefte zur Sydowia 7: 1–106.</ref>)に与えられていた<ref>Saccard, 1887. Sylloge fungorum omnium hucusque cognitorum 5: 586.</ref>ために無効とされた<ref>[http://doi.org/10.15281/jplantres1887.3.47 田中 延次郎、1889.猪子吉人氏ノ二本有毒菌類第一編ヲ讀ム.植物学雑誌 3(24): 47-51.]</ref>。その後、日本産の新鮮な生標本に基づいてさらに詳しく検討されるとともに、やはり新種であると判断されて''Pleurotus japonicus''の学名が与えられた<ref name=Kawamura1915/>。 |
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のち、柄に不明瞭なつばを備えることをおもな理由として、古典的定義による''Armillaria''属([[マツタケ]] やヌメリツバタケなどを含む)に移された<ref name=ImaiHokkaido/>が、[[胞子]]がほぼ球状をなすことや、ひだの組織の実質が類整型(Subegular:菌糸がほぼ平行に並んで配列し、互いに著しくもつれ合うことはない)の構造を有すること、あるいは子実下層がよく発達することなどを重視し、''Pleurotus''や''Armillaria''からは独立させられ、新属''Lampteromyces''が設立されるとともに''L. japonicus''の組み合わせが提唱された<ref name=Singer1947>Singer, R., 1947. New genera of fungi Ⅲ.Mycologia 39: 77-89.</ref>。 |
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[[分子系統]]学的解析の結果、''Omphalotus''属に包含する見解が支持されることとなり、''O. japonicus''の組み合わせ名が提案された<ref name=Persoonia>Kirchmair, M., Pöder R., Huber, C. G., and O. K. Miller Jr., 2002. Chemotaxonomical and morphologiccal observations in the genus ''Omphalotus'' Fayod (Omphalotaceae). Persoonia 17: 583-600.</ref>。属内においては、[[タイプ]]種である''O. olearius'' (DC) Sing. にもっとも近縁であると考えられている<ref name=Phylogeny/>。 |
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[[ファイル:Omphalotus olearius.JPG|250px|thumb|''Omphalotus''属の基準種である''O. olearius''。]] |
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いっぽうで、''Omphalotus''属の所属種として扱われてきた他の菌の[[標本]]との比較検討が行われた結果、日本産の標本(標本の産地や最終年月日については記述されていない)をもとにすでに新種記載がなされていた''Agaricus guepiniformis'' Berk.<ref name=Berkeley1877> M. J. Berkeley, 1877. Contributions to the Botany of H.M.S. ‘Challenger.’ XXXVIII. Enumeration of the Fungi collected during the Expedition of H.M.S. ‘Challenger.’ 1874–75. Journal of the Linnean Society of London, Botany 16: 38-54.</ref>と同一種であることが明らかになり、[[国際藻類・菌類・植物命名規約]]上で先取権のある種形容名を生かして''O. guepiniformis'' (Berk.) Nedaの組み合わせが提唱された<ref>Neda, H., 2004. Type studies of ''Pleurotus'' reported from Japan. Mycoscience 45: 181-187.</ref>。 |
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しかしながら、''L. japonicus''の学名が、特に日本においては中毒を防ぐための実用的見地から広く普及していたことに鑑み、この名を組み替えた''O. japonicus''を命名規約上での[[保留名]]として扱い、''O. guepiniformis''(および、同じく異名である''Pleurotus harmandii'')の名に置き換えることが提案された<ref>Redhead, S. A., and H. Neda, 2006. (1741) Proposal to Conserve the Name ''Pleurotus japonicus'' against ''Agaricus guepiniformis'' and ''Pleurotus harmandii'' (Basidiomycota). Taxon 55 (4): 1032–33.</ref>。この提案は[[命名法部会菌類委員会]]([[:w:Nomenclature Committee for Fungi|Nomenclature Committee for Fungi]])によって審議され、正式に認められるにいたった<ref>Norvell, L. L., 2008. Report of the Nomenclature Committee for Fungi: 14. Taxon 57 637–639.</ref>。 |
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[[科(分類学)|科]]レベルの位置づけとしては、長らく Tricholomataceae(キシメジ科)に置かれていた<ref name=Singer1947/>が、のちに、子実体が含有する成分の共通性などを根拠に、''Omphalotus''属などとともにPaxillaceae ヒダハタケ科に所属させる見解が示された<ref>Singer, R., 1986. The Agaricales in Modern Taxonomy (4 th and reviced edition). Koeltz Scientific Book, Koenigstein. ISBN 3-87429-254-1.</ref>。 |
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また、分子系統学的解析の結果に基づき、独立した Omphalotaceae ツキヨタケ科を設立する意見<ref>Kämmerer, A., Besl, H., and A. Bresinsky, 1985. Omphalotaceae fam. nov. und Paxillaceae, ein chemotaxonomischer Vergleich zwier Pilzfamilien der Boletales. Pl. Syst. Evol. 150: 101–117.</ref>もあったが、2015年5月の時点では Marasmiaceae ホウライタケ科に所属させる見解が一般的なものとなっている。 |
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なお、''Lampteromyces''の第二の種として記載された''L. luminescens'' M. Zangは、チベットから見出され、胞子がきわめて微細な粒状突起をこうむる点でツキヨタケと区別された<ref>臧穆、我国西蔵高等真菌数新种.云南植物研究 1: 101-104 + 1 plate</ref>もので、ツキヨタケと同一種であるとする見解<ref name=Persoonia/>と、別種であるとする見解<ref>Yang, A.-L., and Femg, B., 2013. The genus ''Omphalotus'' in China. Mycosyctema 32: 545-556.</ref>とがあり、両者の異同についてはまだ決着がついていない。 |
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==古典上での記述== |
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日本では古くから毒キノコとして広く知られており、『[[今昔物語集]]』では'''和太利(わたり)'''という名で登場し、この菌を用いた毒殺未遂事件が取り上げられている(二十八巻・第十八話「[[金峰山]]別當食二毒茸不酔語」)<Ref name=Imazeki1974/><ref name=NandO/>。 |
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また、同じく二十八巻の十七話として、「藤の樹に発生した平茸を食したことによる中毒事件(左大臣御読経所僧酔茸死語第十七)」が題材とされているほか、同じ巻の第十九話(比叡山横川僧酔茸誦経語)として、平茸とおぼしき茸を持ち帰ったところ、「これは平茸ではない」という者と「いや、平茸だから食べられる」という者とがあり、汁物にして食したところ中毒を起こした、と記述されている。後者の二つの例においては「和太利」の名こそ登場しないものの、これらもまたツキヨタケによるものではないかと推測されている<ref>奥沢康正・奥沢淳治・久世幸吾・松下 裕恵、2004.毒きのこ今昔―中毒症例を中心にして―.366 pp.思文閣出版、京都.ISBN 978-4784212156</ref>。 |
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江戸時代末期に著わされた[[続三州奇談]]では、本種とおぼしきキノコを指して'''闇夜茸'''の名が当てられ、「又闇夜茸と云う物あり。闇中に二・三茎を下げて歩けば、三尺四方は明るくして昼の如し:多く積む処には遠望火光に似てけり:是を煮て食ふに、吐瀉して多く煩ふ:味も劣れり、必ず食ふべからずとや」と記述されている<Ref >日置謙(校訂)、1933.七尾網燐.続三州奇談 巻六.(合本三州奇談 p. 195-196.) 石川県図書館協会、金沢.</ref>。 |
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同じく、江戸時代の天天保6(1835)年に坂本浩然が著した「菌譜(第二巻毒菌之部)」にも、「月夜蕈―叉一種石曾根等ノ朽木横倒スルモノニ生ズ状チ硬木耳ノ如ク紫黒色夜間光アリ余野州探藥ノ時友人櫟齋卜同ク山中ノ栗樹ノ立枯二生ズルモノデ見ルニ香蕈ノ如シ傍テ是チ得テ家ニ帰リ酒肴トス食スルモノ皆腹痛、吐潟急二樺皮チ煎ジ服サシメテ漸ク解ス故二知ル此菌ノ大毒アルコトチ余ハ幸ニシテ免ガルルコトヲ得タリ謹ズンバアル可カラズ(石曾根などの倒木上に発生するもので、形状は[[キクラゲ]]に似て紫黒色を呈し、夜になると光る:また立ち枯れた[[クヌギ]]に発生しているシイタケに似た茸をみかけたが、これを酒の肴として食したところ、食べた者はみな腹痛と吐瀉とをきたしたので、[[カンバ]]の樹皮を煎じて服用してことなきを得た:この茸に激毒が含まれているのは明らかなので、食用にしてはいけない)」との記述がある。「黒紫色で夜になると光る」菌が、現代の分類学上でなにに当たるのかは不明だが、「クリの立ち枯れ木に生じた、シイタケ類似の茸」については、ツキヨタケを指すものである可能性が考えられる<ref name=Kawamura1/>。 |
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==名称== |
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旧属名 ''Lampteromyces''は、古典ギリシア語の Lampteros(Λαπτερος:灯火)と Myces(μύκης:菌)とを組み合わせたもの<ref name=IHT/><ref name=Singer1947/>、また現在適用されている属名''Omphalotus''は、同じくギリシア語のOmphalus(ὀμφαλύς:へそ)とTus(τύς:耳)とを組み合わせたものである<ref name=IHT/>。 |
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和名としては、初めに提案されていたクマヒラタケの名ではなく、江戸時代に坂本浩然によって提唱された名であるツキヨタケが用いられることとなった<ref name=Kawamura1/>。 |
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日本各地に広く分布し、大形で通常は群生するためによく目立つことや、あまり類を見ない発光性を有すること、あるいは有毒であることなどを反映して、方言名も多数にのぼる。 |
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カタハキノコ(青森県津軽地方)・カタハタケ(鹿児島県下)・カタヘラタケ(秋田県下)などの名は、樹幹の側面に重なり合って発生する状態を形容したものではないかと考えられ、岩手県下では毒性を反映したドクキノコの名がある。また、秋田県(北秋田・鹿角)では、発光性と毒性とを表現したドクアカリの名で呼ばれているという。さらに、ブナの樹幹に好んで生えることをあらわすブナカタハ(青森県)・ブナタロウ(石川県白山山麓)などの名も知られている<ref>奥沢康正・奥沢正紀、1999. きのこの語源・方言事典. 山と溪谷社.ISBN 978-4-63588-031-2.</ref>。 |
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==保全状況== |
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環境省の第2次レッドデータリストで絶滅危惧II類にカテゴライズされたが<ref name=KankyoCHo/><ref>根田仁「[http://www.biodic.go.jp/cgi-db/gen/rdb_g2000_sy2.RDB_DETAIL?code=D0088&rank=&search_str=%a5%c4%a5%ad%a5%e8%a5%bf%a5%b1&start_row=1&gaku_n=&bunrui=% ツキヨタケ]」『[http://www.biodic.go.jp/rdb/rdb_f.html 絶滅危惧種情報]』環境省[[生物多様性センター]](2015年5月29日閲覧)</ref>、2007年公表の第3次レッドリストでランク外とされた<ref>環境省『報道発表資料 [http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=8648 哺乳類、汽水・淡水魚類、昆虫類、貝類、植物I及び植物IIのレッドリストの見直しについて]』、2007年8月3日。</ref>。 |
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== 出典 == |
== 出典 == |
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* [http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/kinoko_det_06.html 自然毒のリスクプロファイル:ツキヨタケOmphalotus guepiniformis(キシメジ科ツキヨタ属)] 厚生労働省 |
* [http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/kinoko_det_06.html 自然毒のリスクプロファイル:ツキヨタケOmphalotus guepiniformis(キシメジ科ツキヨタケ属)] 厚生労働省 |
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== 脚注 == |
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== 関連項目 == |
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* [[キノコ]] |
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* [[:en:Omphalotus olearius]] - ツキヨタケと類縁種であり、同じ毒(Illudin)を含む。 |
* [[:en:Omphalotus olearius]] - ツキヨタケと類縁種であり、同じ毒(Illudin)を含む。 |
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* [[ツキヨタケ科]] - ツキヨタケ属を含んでいた科。現在では[[ホウライタケ科]]のシノニムとされる。 |
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== 外部リンク == |
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[[Category:日本の毒キノコ]] |
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[[Category:発光生物]] |
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[[Category:キシメジ科]] |
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[[Category:ホウライタケ科]] |
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[[en:Omphalotus japonicus]] |
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[[ce:Omphalotus japonicus]] |
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[[sv:Omphalotus japonicus]] |
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[[war:Omphalotus japonicus]] |
2015年5月29日 (金) 21:30時点における版
ツキヨタケ | ||||||||||||||||||||||||||||||
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径5cm程度の比較的小さな子実体
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分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Omphalotus japonicus (Kawam.) Kirchm. & O.K.Mill. (2002) | ||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
ツキヨタケ(月夜茸) |
ツキヨタケは、ハラタケ目ホウライタケ科のツキヨタケ属に属するキノコの一種である。
形態
かさは半円形ないし腎臓形をなし、長径5-30センチ程度になり、表面は湿時にはいくぶん粘性を示し、幼時は橙褐色~黄褐色でときに微細な鱗片を散在するが、老成するに従って紫褐色または黄褐色となり、にぶい光沢をあらわす。表皮は肉から剥離しにくく、水酸化カリウム・水酸化ナトリウム・アンモニア水・炭酸水素ナトリウムなどの塩基性化合物によってすみやかに鮮青緑色に変色する(この呈色は、茹でたものや冷凍したもの、あるいは乾燥したものでも反応する)[1]。ひだは比較的幅広く、わりあい密で白色~クリーム色を呈し、分岐することはない。柄は通常はかさの一端に着き(まれにほぼ中心生)、太く短くて淡い黄褐色を呈し、ひだとの境界には低いリング状をなした隆起(不完全な内被膜)がある。肉はもろい肉質でほぼ白色を呈するが、柄の基部付近においては多くは紫黒色のしみ(まれに、ほとんどこれを欠くこともある[2]を生じ、特徴的な味やにおいはない。
子実体を構成する菌糸はしばしばやや厚壁で、クランプを有する。シスチジアはなく、胞子はほほ球形かつ薄壁で無色・平滑、ヨウ素液で青く染まらず(非アミロイド性)、径 13-17μm程度、胞子紋は通常は白色あるいはかすかに灰褐色を帯びる[3][4]が、いくぶん紫色を呈する場合もある[5]。
生態
晩夏から秋にかけて、おもにブナの倒木・切り株、あるいは立ち枯れ木などの上に群生する[5][6][7][8][9][10]。ときにイタヤカエデ [4][6][8][9][11][12]やトチノキ[11][12]、あるいはミズメ[13]・アカシデ[4][14]・イヌシデ・コナラ・ミズナラ[15]などの枯れ木に発生することもあり、また、ブナの自然分布がない北海道東北部などにおいては、トドマツ上に生じる[4][6][14]。なお、人工栽培が試みられた例では、アカマツ・カラマツ・チョウセンゴヨウ・アベマキ・クヌギ・モンゴリナラあるいはヤマハンノキなどのおが屑上でも子実体が形成されることが確認されている[16]。
菌糸は一般的な真菌用の培地(たとえばジャガイモ=ブドウ糖寒天培地[16]や浜田培地[10])を用いて培養することができ、さらに滅菌したブナ材の小片を培地に加えることで、単位時間当たりの菌糸の生育が有意に促進される[10]。なお、生態的には、木材中のリグニンを分解する白色腐朽菌とみなされている[17]。
分布
日本のブナ林にはごく普通に産する。北海道南部以南に広く分布し、鹿児島県(大隅半島)の高隈山が南限であるとされている[18]。日本国外では、ロシア極東地方[19]および中国東北部[20]のほか、朝鮮半島 [14]にも分布する。ただし、朝鮮半島での発生は非常にまれであるといわれている[16]。
毒性
中毒症状
摂食後30分~3時間で発症し、下痢と嘔吐が中心となり[21]、あるいは腹痛をも併発する[22]。景色が青白く見えるなどの幻覚症状がおこる場合もあり、重篤な場合は、痙攣・脱水・アシドーシスショックなどをきたす。少数ではあるが死亡例[23]も報告されている。
治療
医療機関による処置が必要で、消化器系の症状に対しては、催吐・胃洗浄、あるいは吸着剤(活性炭など)の投与が行われる。また、嘔吐や下痢による水分喪失の改善を目的とした補液も重要視される。重症例では血液吸着 DHP(Direct Hemoperfusion:直接血液灌流法)により、血中の毒素の吸着除去が行われることもある[24]。
毒成分
主要な毒成分は、セスキテルペンに属するイルジンS(Illudin)およびその異性体であるイルジンMなどとされている[7][25][26][27][28][29]。特に、主要な中毒症状の一つである嘔吐は、イルジンSによるものであるという[30][31]。
ツキヨタケから得られた毒成分は、当初はランプテロール[32][33]の名で呼ばれたが、後の研究[34][35] により、日本未産の有毒きのこであるOmphalotus illudensから単離されたイルジンと同一物質であることが明らかにされた。
いっぽう、イルジン類は、ツキヨタケのもう一つの主要な中毒症状たる下痢の原因となる平滑筋弛緩作用を持たない。平滑筋の弛緩作用は、ムスカリン類似の未同定物質によるものではないかと推定されている[36][37]。
なお、野生のツキヨタケ子実体に含有されるイルジンSの含有量は、採集した場所や時期によって大きく変動し、場合によってはこれをまったく含まないことすらあるという。さらに、菌糸体の人工培養に際して液体培地を用いた場合には、イルジンSが培地中に分泌されるのに対し、木粉培地を使用した場合には、子実体形成後に培地内に残った菌糸体あるいは廃培地中にイルジンSが検出されなかったことから、子実体に含まれるイルジンSはまず菌糸体内で生成され、子実体形成に際して移送されるのではないかと推定されている[38]。
また、子実体には、細胞毒として働くジヒドロイルジンM(dihydroilludin M)や、ネオイルジン(Neoilludin)AおよびB[39]なども含まれている。
誤食されやすい食用キノコ
全体に地味な色調を持ち、少しも毒々しくみえないこと・縦によく裂けること・不快なにおいや味がないこと・しばしば一か所で大量に採取されることなどから、日本におけるきのこ中毒(原因となったきのこが確定されたケース)には、ツキヨタケによるものがもっとも多い[7][40]。
比較的幼い子実体はシイタケに、成熟したものはムキタケやヒラタケに類似している。特に、シイタケやムキタケとは一本の枯れ木上に混じり合って発生することがあり、誤食の危険が大きい。
年 | 発生件数 | 摂食者総数 | 患者数 |
---|---|---|---|
2000年 | 20件 | 91人以上 | 91人 |
2001年 | 6件 | 80人 | 67人 |
2002年 | 21件 | 117人 | 98人 |
2003年 | 14件 | 55人 | 52人 |
2004年 | 25件 | 93人 | 91人 |
2005年 | 16件 | 73人 | 66人 |
2006年 | 21件 | 90人 | 83人 |
2007年 | 20件 | 99人 | 91人 |
2008年 | 20件 | 97人 | 85人 |
2009年 | 22件 | 74人 | 68人 |
後三種は、子実体のいかなる発育段階においても、ひだに発光性を欠いている。また、シイタケでは、肉がツキヨタケのそれに比べてより強靭であり、乾燥すると特有の香気を発する点が異なり、ムキタケはかさの表面に微毛をこうむりとともに、かさの表皮が容易に剥がれる点で区別される。ヒラタケは、柄にリング状の隆起(不完全なつば)がなく、ひだと柄との境界がより不明瞭なことで異なっている。 さらに、ツキヨタケ以外の三種では、かさの表皮に塩基性化合物の水溶液を滴下しても緑色にならないこと[1]、柄の肉に黒紫色のしみを生じない[5]ことも識別の上で重要な性質である。
これらの相違点に加え、シイタケ・ヒラタケ・ムキタケにおいては、それらの胞子はツキヨタケのそれに比べてずっと小さく、類球形をなすこともない[5]。
なお、山形県下の一部の地方では、茹でた後に塩蔵保存し、流水にさらしてから食用とする習慣があるが、マウスを用いた実験によれば、熱処理したのみでは便重量の減少や消化管内容物の輸送の促進(ヒトの中毒時の下痢症状を示唆する)などがみられるのに対し、塩蔵(沸騰水中で10分間熱した後、菌体を一分あたり500mlの流速にて流水中に48時間さらし、水切りをしてから、重量比で1.5倍量の食塩を加え、室温下で5週間保存)してから水中に投じて48時間の塩抜きを行ったツキヨタケのメタノールエキスを与えた実験区ではこれらの所見がなく、解剖時の胃の膨満や出血、あるいは消化管内壁の潰瘍性びらんなどもみられなかったという[30]。
発光性
子実体の各部のうち、発光性を有するのはひだのみで、かさや柄は、表面においても内部においても光らない。また、ひだが堅いものに触れたりして損傷した部分は光らなくなる[21][41]。発光のピークはかさがじゅうぶんに開いた後の2-3日程度であるという[8]。また、菌体が古くなると、光量は次第に小さくなる[41]が、小動物などにより食害された部分などを除けば、ひだの光量の低下は一個の子実体中において均等に起こり、部分的に光のむらが生じることはない[21]。
ひだの断面はいちように発光するが、胞子については「発光性を欠く」という報告[21][41]と、「湿った場所に落ちると光る」という報告[9]とがある。さらに、菌糸体については、当初は発光しないとされていた[21]が、測定機器の進歩により、肉眼的には検知することができない微弱な光を発していることが判明した。培養した菌糸において、多数の胞子を起源とした菌糸(重相菌糸)は、唯一個の胞子を発芽させて得た菌糸(単相菌糸)と比較して1000倍ほど高い光量を示したという[42]。
ひだを高温または低温に保った容器に入れると、次第に光量は小さくなリ、60℃の空気中に15分間保つと、常温に戻しても発光は回復しなかったという報告[21][43]。また、塩酸や水酸化カリウム溶液、あるいは無水エタノール、もしくはエーテルやクロロホルムなどの薬剤をひだに滴下した部分は光が弱くなり、もしくはまったく光らなくなるという観察結果も報告されている[21][44]。同様に、二酸化炭素・窒素・水素などや、気化させたエーテル・クロロホルムなどを満たした容器中でも光を減じ、0.05気圧程度の真空容器内では、菌体が視認できないほどに光量が減少したとされている。一方で、酸素を満たした容器内での発光は、空気中におけるそれと差がないようにみえたという[21][44]。60℃の熱水中に子実体を投入した場合には、瞬時にひだの発光性は失われ、これを常温の空気中に取り出しても光は復活しないと報告されている[21]。 従来、イルジンS[16]、ジヒドロイルジンS(dihydroilludin S)やデオキシイルジンM(deoxyilludine M)などが発光の起因物質であると考えられていたが、それは誤りであり、ひだの発光は、ランプテロフラビン(5’-α-リボフラノシルリボフラビン)に起因するものである[45][46]。
ランプテロフラビンは、新鮮なツキヨタケのひだの組織中に0000.5パーセント(重量比:1mg/生の子実体のひだ5kg)程度の割合で存在し、その蛍光スペクトルは、ツキヨタケのひだが放つ光とほぼ等しい波長である524nm付近に吸収極大を示す。またその光量は pH5-8の中性域においてもっとも低くなるとされている[45][47]。
分類学的位置づけ
日本の菌学界に初めて紹介された時点では、樹上生であるとともに発光性を有することから、Pleurotus olearius DC(=Omphalotus olearius:後述)と同定されたが、これは誤りであった[41]。やや時代が下がって、この誤りがただされ、柄がかさの一端に側生することから、古典的な定義による Pleurotus属(ヒラタケ・ムキタケ・スギヒラタケ・ワサビタケ・シジミタケ・チャヒラタケなど、短い柄がかさの一端に生じるか、あるいはほぼ無柄で、かさの一端で朽ち木などの基質に直接に付着して生育する)に置かれ、Pleurotus noctilucens Inokoの学名が提唱された[48].
しかしP. noctilucens の名は、その時点ですでに別種の発光きのこ(フィリピン産:現在では、Nothopanus noctilucens (Lév.) Sing.の学名が用いられている[49])に与えられていた[50]ために無効とされた[51]。その後、日本産の新鮮な生標本に基づいてさらに詳しく検討されるとともに、やはり新種であると判断されてPleurotus japonicusの学名が与えられた[21]。
のち、柄に不明瞭なつばを備えることをおもな理由として、古典的定義によるArmillaria属(マツタケ やヌメリツバタケなどを含む)に移された[5]が、胞子がほぼ球状をなすことや、ひだの組織の実質が類整型(Subegular:菌糸がほぼ平行に並んで配列し、互いに著しくもつれ合うことはない)の構造を有すること、あるいは子実下層がよく発達することなどを重視し、PleurotusやArmillariaからは独立させられ、新属Lampteromycesが設立されるとともにL. japonicusの組み合わせが提唱された[52]。
分子系統学的解析の結果、Omphalotus属に包含する見解が支持されることとなり、O. japonicusの組み合わせ名が提案された[53]。属内においては、タイプ種であるO. olearius (DC) Sing. にもっとも近縁であると考えられている[17]。
いっぽうで、Omphalotus属の所属種として扱われてきた他の菌の標本との比較検討が行われた結果、日本産の標本(標本の産地や最終年月日については記述されていない)をもとにすでに新種記載がなされていたAgaricus guepiniformis Berk.[54]と同一種であることが明らかになり、国際藻類・菌類・植物命名規約上で先取権のある種形容名を生かしてO. guepiniformis (Berk.) Nedaの組み合わせが提唱された[55]。
しかしながら、L. japonicusの学名が、特に日本においては中毒を防ぐための実用的見地から広く普及していたことに鑑み、この名を組み替えたO. japonicusを命名規約上での保留名として扱い、O. guepiniformis(および、同じく異名であるPleurotus harmandii)の名に置き換えることが提案された[56]。この提案は命名法部会菌類委員会(Nomenclature Committee for Fungi)によって審議され、正式に認められるにいたった[57]。
科レベルの位置づけとしては、長らく Tricholomataceae(キシメジ科)に置かれていた[52]が、のちに、子実体が含有する成分の共通性などを根拠に、Omphalotus属などとともにPaxillaceae ヒダハタケ科に所属させる見解が示された[58]。
また、分子系統学的解析の結果に基づき、独立した Omphalotaceae ツキヨタケ科を設立する意見[59]もあったが、2015年5月の時点では Marasmiaceae ホウライタケ科に所属させる見解が一般的なものとなっている。
なお、Lampteromycesの第二の種として記載されたL. luminescens M. Zangは、チベットから見出され、胞子がきわめて微細な粒状突起をこうむる点でツキヨタケと区別された[60]もので、ツキヨタケと同一種であるとする見解[53]と、別種であるとする見解[61]とがあり、両者の異同についてはまだ決着がついていない。
古典上での記述
日本では古くから毒キノコとして広く知られており、『今昔物語集』では和太利(わたり)という名で登場し、この菌を用いた毒殺未遂事件が取り上げられている(二十八巻・第十八話「金峰山別當食二毒茸不酔語」)[7][8]。 また、同じく二十八巻の十七話として、「藤の樹に発生した平茸を食したことによる中毒事件(左大臣御読経所僧酔茸死語第十七)」が題材とされているほか、同じ巻の第十九話(比叡山横川僧酔茸誦経語)として、平茸とおぼしき茸を持ち帰ったところ、「これは平茸ではない」という者と「いや、平茸だから食べられる」という者とがあり、汁物にして食したところ中毒を起こした、と記述されている。後者の二つの例においては「和太利」の名こそ登場しないものの、これらもまたツキヨタケによるものではないかと推測されている[62]。
江戸時代末期に著わされた続三州奇談では、本種とおぼしきキノコを指して闇夜茸の名が当てられ、「又闇夜茸と云う物あり。闇中に二・三茎を下げて歩けば、三尺四方は明るくして昼の如し:多く積む処には遠望火光に似てけり:是を煮て食ふに、吐瀉して多く煩ふ:味も劣れり、必ず食ふべからずとや」と記述されている[63]。
同じく、江戸時代の天天保6(1835)年に坂本浩然が著した「菌譜(第二巻毒菌之部)」にも、「月夜蕈―叉一種石曾根等ノ朽木横倒スルモノニ生ズ状チ硬木耳ノ如ク紫黒色夜間光アリ余野州探藥ノ時友人櫟齋卜同ク山中ノ栗樹ノ立枯二生ズルモノデ見ルニ香蕈ノ如シ傍テ是チ得テ家ニ帰リ酒肴トス食スルモノ皆腹痛、吐潟急二樺皮チ煎ジ服サシメテ漸ク解ス故二知ル此菌ノ大毒アルコトチ余ハ幸ニシテ免ガルルコトヲ得タリ謹ズンバアル可カラズ(石曾根などの倒木上に発生するもので、形状はキクラゲに似て紫黒色を呈し、夜になると光る:また立ち枯れたクヌギに発生しているシイタケに似た茸をみかけたが、これを酒の肴として食したところ、食べた者はみな腹痛と吐瀉とをきたしたので、カンバの樹皮を煎じて服用してことなきを得た:この茸に激毒が含まれているのは明らかなので、食用にしてはいけない)」との記述がある。「黒紫色で夜になると光る」菌が、現代の分類学上でなにに当たるのかは不明だが、「クリの立ち枯れ木に生じた、シイタケ類似の茸」については、ツキヨタケを指すものである可能性が考えられる[41]。
名称
旧属名 Lampteromycesは、古典ギリシア語の Lampteros(Λαπτερος:灯火)と Myces(μύκης:菌)とを組み合わせたもの[14][52]、また現在適用されている属名Omphalotusは、同じくギリシア語のOmphalus(ὀμφαλύς:へそ)とTus(τύς:耳)とを組み合わせたものである[14]。
和名としては、初めに提案されていたクマヒラタケの名ではなく、江戸時代に坂本浩然によって提唱された名であるツキヨタケが用いられることとなった[41]。
日本各地に広く分布し、大形で通常は群生するためによく目立つことや、あまり類を見ない発光性を有すること、あるいは有毒であることなどを反映して、方言名も多数にのぼる。
カタハキノコ(青森県津軽地方)・カタハタケ(鹿児島県下)・カタヘラタケ(秋田県下)などの名は、樹幹の側面に重なり合って発生する状態を形容したものではないかと考えられ、岩手県下では毒性を反映したドクキノコの名がある。また、秋田県(北秋田・鹿角)では、発光性と毒性とを表現したドクアカリの名で呼ばれているという。さらに、ブナの樹幹に好んで生えることをあらわすブナカタハ(青森県)・ブナタロウ(石川県白山山麓)などの名も知られている[64]。
保全状況
環境省の第2次レッドデータリストで絶滅危惧II類にカテゴライズされたが[18][65]、2007年公表の第3次レッドリストでランク外とされた[66]。
出典
脚注
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関連項目
- キノコ
- en:Omphalotus olearius - ツキヨタケと類縁種であり、同じ毒(Illudin)を含む。
外部リンク
- きのこによる中毒情報 ツキヨタケ (PDF) - 財団法人 日本中毒情報センター
- ツキヨタケによる食中毒におけるイルジンSの分析 (PDF) - 宮崎県衛生環境研究所