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「不登校」の版間の差分

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=== 医療面の対応 ===
=== 医療面の対応 ===
[[うつ病]]、[[統合失調症]]、[[パニック障害]]などの[[精神疾患]]が不登校の原因となっているか、または不登校の過程で精神疾患を併発している場合がある。攻撃な徴候言動をしている場合、精神疾患の疑いで、[[神経科]][[心身医学|心療内科]]、[[精神科]]など、出来る限り速やかに通院、または入院させなければならない。
[[うつ病]]、[[パニック障害]]、[[統合失調症]]などの[[精神疾患]]が不登校の原因となっているか、または不登校の過程で精神疾患を併発している場合がある。著しい苦痛または日常生活に障害を引き起こしている症状がある場合<ref group="注">DSM-IV-TR 「症状は、臨床に著しい苦痛、または、社会的、職業的、または他重要な領域におけ機能の障害引き起こしている。」</ref>には、精神疾患の疑いで、[[神経科]]、[[精神科]]、[[心身医学|心療内科]]など、出来る限り速やかに受診しなければならない<ref>厚生労働省 『こころのバリアフリー宣言 ~精神疾患を正しく理解し、新しい一歩を踏み出すための指針』 第3 平成16年3月</ref>。何らかの身体症状で他の診療科に通院している場合にも、精神疾患の可能性を疑う必要がある


とくに、うつ状態は[[自殺]]につながるリスクがあり、軽症であっても、医療機関での治療をせずに放置することは危険である。10代のうつ病患者の行動は、反抗的、怠惰と評価されることが多く、受診につながりにくい<ref>Garland 1994</ref>
医療機関での対応は、[[薬物治療|薬物療法]]や[[認知行動療法]]が中心となる。認知行動療法の一環として、[[ソーシャルスキルトレーニング|ソーシャル・スキル・トレーニング]](社会性訓練)を取り入れている医療機関もある。これは、不登校児にしばしば不足しがちな、[[社会技能|コミュニケーション技術]]の向上を図るものである。


医療機関での対応は、[[薬物治療|薬物療法]]や[[認知行動療法]]、[[デイケア]]などが中心となる。認知行動療法の一環として、[[ソーシャルスキルトレーニング|ソーシャル・スキル・トレーニング]](社会性訓練)を取り入れている医療機関もある。これは、不登校児にしばしば不足しがちな、[[社会技能|コミュニケーション技術]]の向上を図るものである。[[虐待]]や[[事故]]、[[災害]]、[[被害者|犯罪被害]]など、深刻な[[トラウマ]]体験により[[心的外傷後ストレス障害|PTSD]](心的外傷後ストレス障害)を発症している場合、薬物療法の他、[[EMDR]](眼球運動による脱感作と再処理法)が有効とされている。[http://www.emdr.jp 日本EMDR学会]は全国のEMDR治療者リストを公式サイトで公開している。
とくに、うつ状態は[[自殺]]につながるリスクがあり、医療機関での治療をせずに放置することは危険である。

かつて精神疾患は入院医療が主体であったが、現在では多くが外来治療で対処できる。入院治療を必要とする場合でも、半数は3ヶ月以内に、8割強は1年で退院可能である。<ref>厚生労働省 『心の健康問題の正しい理解のための普及啓発検討会報告書 ~精神疾患を正しく理解し、新しい一歩を踏み出すために~ 』(概要) 平成16年3月 p7</ref>


本人に[[病識]]が無く、医療機関の受診を拒否することもある。本人の意思を無視した強制的な通院・入院は、新たなトラブルとなる可能性がある。しかし一方で、本人の状態によっては、[[医療保護入院]]や[[措置入院]]が必要となるかもしれない。いずれにせよ、まずは医師や臨床心理士など、専門家による助言を求めることが不可欠である。
本人に[[病識]]が無く、医療機関の受診を拒否することもある。本人の意思を無視した強制的な通院・入院は、新たなトラブルとなる可能性がある。しかし一方で、本人の状態によっては、[[医療保護入院]]や[[措置入院]]が必要となるかもしれない。いずれにせよ、まずは医師や臨床心理士など、専門家による助言を求めることが不可欠である。


[[注意欠陥・多動性障害]](AD/HD)や[[アスペルガー症候群]]などの[[発達障害]]、さらには軽度の[[知的障害|精神遅滞]](知的障害)もまた、不登校に関係している場合がある。これらの疑われる場合もまた、医療機関、専門機関と相談することが望ましい。
[[自閉症スペクトラム|自閉症スペクトラム障害]]<ref group="注">DSM-5から登場した診断基準。DSM-IVで「広汎性発達障害」とされていたものとほぼ重複する。</ref>や[[注意欠陥・多動性障害]](AD/HD)などの[[発達障害]]、さらには軽度の[[知的障害|精神遅滞]](知的障害)も不登校に関係している場合がある。これらの疑われる場合もまた、医療機関、専門機関と相談することが望ましい<ref group="注">発達障害と精神遅滞は[[疾病及び関連保健問題の国際統計分類|ICD]], [[精神障害の診断と統計の手引き|DSM]]など現在の診断基準では精神疾患に含まれる。</ref>。また、発達障害の[[併存症]](二次障害)として他の精神疾患が現れることもある。精神遅滞者の約10-40%には他の精神疾患も見られる<ref>『メルクマニュアル医学百科 家庭版』 オンライン版 「知的障害」 原書最終査読/改訂月 2006年10月</ref>

精神疾患は人生の早期に発症する。50[[パーセンタイル]]<small>(50パーセンタイルは[[中央値]]を表す)</small>が14歳までに発症、75パーセンタイルが24歳までに発症している<ref>Kessler 2005</ref>。また、26歳時点でいずれかの精神障害を持つ者の1/2が15歳までに、3/4が18歳までに、何らかの精神障害の診断を受けていた<ref>Kim-Cohen et al. 2003</ref>。

子どもの精神疾患は必ずしも成人と同様の症状が現れる訳ではなく、その診断は成人よりも困難である。ことに、[[双極性障害]](そううつ病)はうつ病と非常に誤診されやすい。25歳未満の若年発症のうつ病は双極性障害であるリスクが高い。軽度、短期であっても過去に躁<small>(そう)</small>状態のあった場合、過眠、過食などの双極性障害に特徴的な症状がある場合、または双極性障害の家族歴がある場合には、必ず医師に申告しなければならない。うつ病と双極性障害では治療法が全く異なるためである。双極性障害はうつ病よりも自殺率が高く、[[アルコール依存症]]や[[薬物乱用]]など無軌道な行動とも結びつきやすい。うつ病との鑑別は極めて重要である。[http://www.nho-kumamoto.jp/kumabyo-news/178-08.html][[双極性障害|双極スペクトラム障害]]の生涯有病率は2.7-7.8%<ref>B. J. Sadock, V. A. Sadock, P. Ruiz, ''Kaplan and Sadock's Comprehensive Textbook of Psychiatry, 9th edition'', Lippincott Williams & Wilkins, 2009</ref>であり、軽視できる数値ではない。

重い疲労感が長期にわたって続いているにもかかわらず、精神疾患を含め、他の疾病の可能性がすべて否定された場合、[[慢性疲労症候群]](筋痛性脳脊髄炎)と診断される可能性がある。

[[2009年]]の1年間に[[国立国際医療研究センター]]国府台病院児童精神科を受診した初診患児756名のうち、不登校を主訴の一つとしている患児227名の診断名(主診断のみ)は、[[不安障害]]23%、[[気分障害]]19%、[[広汎性発達障害]](PDD)<ref group="注">DSM-5から登場した[[自閉症スペクトラム|自閉症スペクトラム障害]]とされているものとほぼ重複する。</ref>19%、[[適応障害]]11%、[[心身症|身体表現性障害]]8%、ADHD(注意欠如・多動性障害)5%、[[破壊性行動障害]]4%、その他の障害11%であった<ref> [[齊藤万比古]]編集 『発達障害が引き起こす不登校へのケアとサポート』 学研教育出版 2011年 ISBN 4054050263 p27</ref>。不安障害<small>(パニック障害、[[社交不安障害]]等)</small>と気分障害<small>(うつ病、双極性障害等)</small>という典型的な精神疾患が全体の4割以上を占める。また、発達障害<small>(PDD, AD/HD等)</small>も約1/4に見られる。ただし、この統計の対象は児童精神科を受診した児童のみである点に注意する必要がある。また、児童が複数の精神疾患を発症している場合の重複診断は集計されていない。


<!--Q熱の患者は日本では毎年数名ほどでは…。-->
[[動物由来感染症]]である「[[Q熱]]」の慢性期による不登校(登校困難)も問題視されている。
<!-- [[動物由来感染症]]である「[[Q熱]]」の慢性期による不登校(登校困難)も問題視されている。
[[Q熱]]の慢性期「post Q fever fatigue syndrome(QFS)」には、精神的な症状および抑うつ症状を呈する症例が多く報告されている。
[[Q熱]]の慢性期「post Q fever fatigue syndrome(QFS)」には、精神的な症状および抑うつ症状を呈する症例が多く報告されている。
[[Q熱]]は、一般の病院で行われる検査方法(血液検査、レントゲン、CT、MRIなど)ではほとんど異常値がみられないため、多くの場合原因不明とされるか誤診により、症状が回復されないまま「怠けている」などの誤解を受けることが考えられる。
[[Q熱]]は、一般の病院で行われる検査方法(血液検査、レントゲン、CT、MRIなど)ではほとんど異常値がみられないため、多くの場合原因不明とされるか誤診により、症状が回復されないまま「怠けている」などの誤解を受けることが考えられる。
しかし、[[Q熱]]の検査、治療を行っている医療機関は、日本全国に4施設のみであり、検査、治療が困難な状況である。
しかし、[[Q熱]]の検査、治療を行っている医療機関は、日本全国に4施設のみであり、検査、治療が困難な状況である。-->


=== 進学面の対応 ===
=== 進学面の対応 ===

2013年12月23日 (月) 03:06時点における版

不登校の語が指す範囲は、狭義から広義まで多くの説がある

不登校(ふとうこう)は、学校に登校していない状態のことである。日本における「不登校」の語については、研究者専門家、教育関係者らの間に全国的に統一した定義がなくきわめて多義的である。

なお、「統計法」に基づく「学校基本調査」における「不登校」、および行政用語である「不登校児童生徒」については、不登校 (理由別長期欠席者数)の項目を参照のこと。また、在学者の不登校問題については、長期欠席の項目を、非在学者の不登校問題については、「不就学」の項目を参照のこと。

概要

「不登校」とは、登校していないという意味であるが、「欠席」という用語が1日単位で用いられるのに対し、不登校という語は、ある任意(不特定)の時期について使われることが多い。

ただしこれらは、学校の通学課程(全日制の課程・定時制の課程など)の場合で、通信制の課程においては、一ヶ月から一週間に一日程度の面接指導日(出席日)が設定されているような例が多く、日常的に登校する課程ではないので、長期的なものであって、かつ、二者択一とした「登校・欠席」の類型には、当てはめにくい。

かつては不登校は小中学校を対象に使われていたが、現在では高校大学についても使われるようになってきている。

用語の定義

『「不登校」は学校登校しない状態のこと』と定義されるが、以下のように分類される。

  1. 学籍がなく、登校しない状態のこと。非就学者も参照。過年度生(受験浪人)や就学義務猶予免除対象者なども含まれる。
  2. 学籍がある人が、登校しない状態のこと。欠席長期欠席も参照。休学停学出席停止なども含まれる。

2のうち、さらに一部が日本政府の公式用語としての「不登校 (理由別長期欠席者数)」にあたる。これを受けて、マスメディアにおいては、不登校全体のうち、「理由別長期欠席者数統計における不登校区分」に当たるもののみに限定して、「不登校」と表記し、それ以外の長期欠席を含めていないことも多いため、注意が必要である。

「就学」とは学校に在籍していることを指し、不登校であっても就学と呼ぶ。なお「非就学」のうち、小学校就学の始期に達していないために就学していない場合は「未就学」と呼ぶ。

不登校の分類
状態 学籍 処理 出欠
不登校 非就学
(学籍なし)
学籍を得るまで正規の出席はできない。
就学
(学籍あり)
出席停止 欠席とも出席ともみなされない。
欠席 連続的な長期欠席
不登校気味 断続的な長期欠席
登校 一過性の欠席(短期欠席)
出席

歴史

学校制度と就学

学校制度がない時代は、一生就学しないままの例が大多数だった。学校はあっても、貴族富裕層など、一部の人しか通えなかった。日本では寺子屋など、欧米では日曜学校など、類似機関はあったが、現代の学校のようなタイプの施設ではなかった。

日本では明治初期に学制が施行され、学齢児童の就学が望ましいこととされた。この時期から徐々に、まったく学校に通わないのこどもの方が少数派となってくる。ただし、就学率は少しずつ上昇したものの、やはり貧困などにより就学できなかったり、途中で学校に通わなくなったりすることが多かった。終戦直後も、混乱により就学できない場合があり、学籍があっても登校できない場合が多かった。これに前後して、A.M.ジョンソンが1941年に論文にて「学校恐怖症」という言い方をした。

しかし高度経済成長期以降は就学率が100%に近くなった。それ以降の日本社会では、6歳ごろに就学し、15歳から25歳ごろに学校生活を終える例が多くなっている。多くの人は、就職するまでは長い期間登校し、就職と共に非就学になる(ただし、大学進学経験者の場合、高校卒業から大学入学までに1年以上の非在学期間があることは珍しくなく、これは過年度生(浪人)と呼ばれる)。しかし1990年代に入ると、就学率は高いままであるものの欠席率が高くなった。

これらの現象は、日本では当初1950年代から報告され、「学校嫌い」や、1960年代ごろからは「登校拒否」とも呼ばれ、その後、折衷的な語を選択して「不登校」と呼ばれるようになった。また非就学者学校教育を受けられない問題も並行して存在する。これらは次の段落で詳述している。

障害を持つ人の就学については、時代とともに改善されつつあり、現代では重度の障害があっても就学できるようになっている。1979年養護学校の就学義務化を境に、就学猶予・免除される障害児は激減し、就学率は大幅に向上した。また、一般学校での特別支援教育の力も高まっており、以前なら養護学校(現在の特別支援学校の一部に相当)に通っていたレベルの障害でも、小学校・中学校に通うケースが多くなっている。また、院内学級の制度により、入院中でも教育を受けられるようになったり、場合によっては病院内に学校を設置して、こどもが教育を受けられるようになったりしてきている。発達障害がある生徒の場合、通常より長い教育期間のニーズがあるが、「高等学校」や「特別支援学校の高等部」などの後期中等教育の課程への進学率も高い。

欧米においては、19世紀ごろになると義務教育制度が作られ、就学率が上昇していった。しかし日本と違って、家庭教育ホームスクーリング)のみで育つ例もそれなりにあった(代表的な例ではトーマス・エジソンなど)。そのため、就学義務ではなく、教育義務を履行するという選択肢がある程度市民権を得ていた。現在は欧米でも、学校制度の発達により、日本ほどではないが、大多数の人が学齢期に学校に通っている。

世界的に生涯学習の時代に入り、就職することと学校に在籍しないことが同一ではなくなり、また成年に達することと学校に在籍しないことも同一ではなくなりつつある。このため、就職中、あるいは高年齢になっても、学校に在籍する選択肢が検討されやすくなっている。

不登校の問題化

日本においては義務教育制度が発達しているため、住民票がある学齢期の子女の場合は、自動的に小中学校などの学籍を得られ、就学できる。しかし、その場合でも長期欠席が急増するなど、いわゆる「不登校問題」が拡大し、大きな課題となっている。

理由としては、病気停学などの物理的要因以外にも、いじめ学業不振浮きこぼれなどの教育問題や、家庭の貧困、学校価値の絶対的・相対的な低下に伴う魅力減少、いわゆる統合教育で世話係を無理矢理命じられた結果などがある。

これらのうち、直接的な原因のない長期欠席について、文部科学省は狭義の「不登校」という用語を付与し、それ以外のものと区別している。これについては、「長期欠席」、「不登校 (理由別長期欠席者数)」で詳述している。

とりわけ、従来から知られている、病気や精神的な原因による不登校の他に、「家庭の貧困」による不登校が広く存在することが明らかになってきている。

例えば、東京都板橋区2009年に公表した調査によると、区立中学校の2006年度の全生徒のうち、不登校の生徒は127人で、発生率は2.41%であった。しかし、生活保護を受ける中学生は、不登校の生徒が52人、発生率は11.58%であり、これは、生活保護を受けない子どもの4.8倍の発生率である。[1]

また、東京都杉並区2008年に行った調査では、生活保護を受ける中学生70人を調査したところ、不登校の発生率は8.6%であり、前年同期の区全体の不登校発生率2.19%の約4倍であった[2]

これらの結果は、「中流以上の豊かな家庭の子どもに起こる精神的な問題」という、不登校のステレオタイプに対して、見直しを迫るものである。

一方、日本国籍を持たない子女の場合、自動的には学籍を得られないので、そのまま就学せず、学校に行かないケースが見られる。古くから定住している在日韓国・朝鮮人などの場合は、一条校や民族学校に通う場合も多いが、日本に出稼ぎに来る外国人の場合、子女を学校に入れようとしないケースも多く、また地方公共団体によっては就学に積極的でない場合もある。こちらは、学齢期の外国人非就学問題といわれるが、あまりマスメディアで取り上げられることはない。

また、日本の初中等教育の課程では年齢主義の影響が強いため、学齢を超過すると小学校・中学校に通うことが難しくなり(特に小学校)、高等学校も「全日制の課程」の場合は、年齢によっては入学しにくくなる。

そのため、長期欠席をした人が学校を卒業してからは、復学サポートの対象にならない上、統計にも表れず(就学率は学齢期のみであり、それ以降は計算されない)、問題の把握がしにくくなっている。

これは学齢超過者の入学拒否問題といわれるが、学齢期の外国人の非就学問題と同様に、あまりマスメディアには注目されない。

不登校の子どもの受け入れ先として、教育委員会の運営する教育支援センター(適応指導教室)が知られている。その他には、一部地域にある夜間中学や、民間のフリースクールが、補助的な形で受け皿となっている。

また高等学校の場合、義務教育でないため不登校が問題にされにくい。たとえば、中途退学という形で、学校からドロップアウトする例があるが、その後の生活にプラスになっていない例もある[要出典]

また、欠席が多くてもあまり復学支援はないし、小中学校ほどではないが同様に年齢が高くなると入学が難しくなる例もあり、そういった理由での不登校も問題にされにくい。

それらの理由もあって、休学・退学後に復学再入学しない例が多い。これらの現象は、外国で「教育のウェステージ(損耗)」と呼ばれるものに当たる。

上記のように、就学者の不登校は大きな問題になっているのに対し、非就学者の不登校はほとんど問題視されない傾向がある。学籍がないと、学校側の目が届かないため、行政の対応が難しくなるのである。

派生的な意味であるが、「教師の不登校」も存在する。

不登校への対応

一般的な対応

学校現場では早期対応、家庭訪問、個別指導などの対応が行われる。 不登校問題が深刻化して以降、学校毎にスクールカウンセラーが配置されるなど専門家による対応が実施されている。 また教室に入れない児童生徒は保健室登校や、教育支援センター(適応指導教室)など学校以外(一部は学校内に設置されるものもある)の教育環境が提供され学習指導などが行われる。

ただし、いじめなどで不登校になった場合、その原因となった人間関係があるために保健室等であっても登校することができないケースやそもそも自宅から外へ出ることができないケースがある。これらの場合は家庭訪問等で対応がなされるが、保健室や教育支援センターでの指導に比べ十分な時間や内容が確保しにくい。

保護者の対応としては、不登校に詳しい臨床心理士精神科医、学校や行政の担当者などと相談しつつ、専門的に解決していくことになる。

保護者が適切な登校刺激を与えれば、早期の再登校につながる場合もあるが、不適切な登校刺激が事態の深刻化を招く場合もある。 一方で、一見すると不適切とも思える登校刺激により再登校に至った事例もあれば、放置により不登校の長期化する可能性もある。 このように、登校刺激への反応は、生徒によってケース・バイ・ケースであり、複雑である。場合によっては、必ずしも再登校を目標としない選択も考えられる。

保護者などによる暴力的な登校圧力は、教育行政の進歩や、世論の理解、「更生施設」において死者が出たこと等により、現在では推奨されていない。

医療面の対応

うつ病パニック障害統合失調症などの精神疾患が不登校の原因となっているか、または不登校の過程で精神疾患を併発している場合がある。著しい苦痛または日常生活に障害を引き起こしている症状がある場合[注 1]には、精神疾患の疑いで、神経科精神科心療内科などを、出来る限り速やかに受診しなければならない[3]。何らかの身体症状で他の診療科に通院している場合にも、精神疾患の可能性を疑う必要がある。

とくに、うつ状態は自殺につながるリスクがあり、軽症であっても、医療機関での治療をせずに放置することは危険である。10代のうつ病患者の行動は、反抗的、怠惰と評価されることが多く、受診につながりにくい[4]

医療機関での対応は、薬物療法認知行動療法デイケアなどが中心となる。認知行動療法の一環として、ソーシャル・スキル・トレーニング(社会性訓練)を取り入れている医療機関もある。これは、不登校児にしばしば不足しがちな、コミュニケーション技術の向上を図るものである。虐待事故災害犯罪被害など、深刻なトラウマ体験によりPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症している場合、薬物療法の他、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)が有効とされている。日本EMDR学会は全国のEMDR治療者リストを公式サイトで公開している。

かつて精神疾患は入院医療が主体であったが、現在では多くが外来治療で対処できる。入院治療を必要とする場合でも、半数は3ヶ月以内に、8割強は1年で退院可能である。[5]

本人に病識が無く、医療機関の受診を拒否することもある。本人の意思を無視した強制的な通院・入院は、新たなトラブルとなる可能性がある。しかし一方で、本人の状態によっては、医療保護入院措置入院が必要となるかもしれない。いずれにせよ、まずは医師や臨床心理士など、専門家による助言を求めることが不可欠である。

自閉症スペクトラム障害[注 2]注意欠陥・多動性障害(AD/HD)などの発達障害、さらには軽度の精神遅滞(知的障害)も不登校に関係している場合がある。これらの疑われる場合もまた、医療機関、専門機関と相談することが望ましい[注 3]。また、発達障害の併存症(二次障害)として他の精神疾患が現れることもある。精神遅滞者の約10-40%には他の精神疾患も見られる[6]

精神疾患は人生の早期に発症する。50パーセンタイル(50パーセンタイルは中央値を表す)が14歳までに発症、75パーセンタイルが24歳までに発症している[7]。また、26歳時点でいずれかの精神障害を持つ者の1/2が15歳までに、3/4が18歳までに、何らかの精神障害の診断を受けていた[8]

子どもの精神疾患は必ずしも成人と同様の症状が現れる訳ではなく、その診断は成人よりも困難である。ことに、双極性障害(そううつ病)はうつ病と非常に誤診されやすい。25歳未満の若年発症のうつ病は双極性障害であるリスクが高い。軽度、短期であっても過去に躁(そう)状態のあった場合、過眠、過食などの双極性障害に特徴的な症状がある場合、または双極性障害の家族歴がある場合には、必ず医師に申告しなければならない。うつ病と双極性障害では治療法が全く異なるためである。双極性障害はうつ病よりも自殺率が高く、アルコール依存症薬物乱用など無軌道な行動とも結びつきやすい。うつ病との鑑別は極めて重要である。[1]双極スペクトラム障害の生涯有病率は2.7-7.8%[9]であり、軽視できる数値ではない。

重い疲労感が長期にわたって続いているにもかかわらず、精神疾患を含め、他の疾病の可能性がすべて否定された場合、慢性疲労症候群(筋痛性脳脊髄炎)と診断される可能性がある。

2009年の1年間に国立国際医療研究センター国府台病院児童精神科を受診した初診患児756名のうち、不登校を主訴の一つとしている患児227名の診断名(主診断のみ)は、不安障害23%、気分障害19%、広汎性発達障害(PDD)[注 4]19%、適応障害11%、身体表現性障害8%、ADHD(注意欠如・多動性障害)5%、破壊性行動障害4%、その他の障害11%であった[10]。不安障害(パニック障害、社交不安障害等)と気分障害(うつ病、双極性障害等)という典型的な精神疾患が全体の4割以上を占める。また、発達障害(PDD, AD/HD等)も約1/4に見られる。ただし、この統計の対象は児童精神科を受診した児童のみである点に注意する必要がある。また、児童が複数の精神疾患を発症している場合の重複診断は集計されていない。


進学面の対応

進学面での対応としては、とくに小・中学校において、不登校となった生徒を、出席日数と関係なく、学校側が進級および卒業させることが一般化している。

ただし、学校側の対応によっては、不登校により、進級または卒業が認められない事例も、ごく稀ではあるが、起こり得る。この場合、転校するか、留年して通学するか、中学校卒業程度認定試験(中卒認定)や夜間中学校などを経て、高校進学または就職することになる。また、現在では、高認(後述)に合格すれば、中学校を卒業していなくても大学受験は可能である。

不登校の生徒の高等学校進学では、中学校への出席日数の不足を理由に不合格とする高校は、公立、私立ともに(とくに公立高校では)、少なくなってきている[要出典]

加えて、文部科学省の通知により、現在では、調査書(内申書)の代わりに、自己申告書を用いることが可能となっている。また、教育支援センター(適応指導教室)やフリースクールなど学校外の施設への通所・入所や、自宅においてIT等を活用した学習活動を、要件付きで「出席」扱いとすることが、やはり文科省の通知で認められている。このような措置により、不登校児の入学できる高校の選択肢は、それ以前より広がっている[要出典]

さらに、調査書(内申書)を必要としないか、調査書を重視しない高校も存在する。単位制高等学校通信制高等学校、その他支援教育を行う普通学校などが、それである。これらは一般的に、無学年、無学級であり、登校日時も柔軟なため、不登校児童にとって比較的、登校しやすい。また、編入学高認(後述)の単位認定も容易である。

高等学校卒業程度認定試験(高認)は、その取得により、高等学校を卒業しないまま、大学短期大学専門学校の受験が可能になる。しかし高認は、「高等学校を卒業した者と同等以上の学力があるかどうかを認定するための試験」であり、「高等学校卒業の資格」を与えるものではない。このため、就職の際に不利になるケースもあり得る。

また、高校に在学しながらの高認取得も可能である。高校で必要単位を修得した科目は免除されるため、高認を受験する場合でも、何らかの高校に在籍したほうが有利である。高校の全課程を修了すれば、大学への推薦入学も可能になる。これは高認のみでも不可能ではないが、容易さが異なる。

転校について

新しい環境を求めて転校を希望する児童生徒もいる。公立学校の場合、いじめなど転校するだけの特別な事由があれば、教育委員会の裁量により、学区外または区域外の越境通学が認められている。

他の自治体の小・中学校へ転校する区域外就学は、居住する自治体と受け入れ先自治体の、それぞれの教育委員会の協議と合意が必要であるが、実際には、受け入れ先の教育委員会が承諾すれば可能である。

私立学校の場合は、特別の事由が無くとも転校が可能だが、全ての学校が不登校理由の転校を理解してくれるわけではない。このため、不登校への十分なサポートの有無も含めて、学校の選定が重要になる。

八王子市立高尾山学園小学部・中学部京都市立洛風中学校星槎中学校東京シューレ葛飾中学校などは、不登校の児童生徒を対象としており、その実態に配慮した特別の教育課程を編成している[11]

自然に囲まれた環境や少人数学級での指導に期待し、山村留学の制度を活用して転校する児童生徒もいる[要出典]。また、不登校の子どもを積極的に受け入れる山村留学施設もある[要出典]

より開放的な教育環境を求めて、中学・高校段階から、主に英語圏への海外留学を選択する不登校児童もいる[要出典]

その他、夜間中学校通信制中学校の利用も考えられる。

学力面の対応

学力面での対応では、保健室登校や、教育支援センター以外には、学習塾予備校や、家庭教師学習参考書問題集などを活用し、心身に無理のない範囲で、出来るだけ基礎学力の遅れを取り戻す、または遅れを生じさせないことが望ましい。

ただし、検定教科書は、教師による授業での使用を前提としているため、独学に用いる場合、教科書ガイドなどで解説を補う必要がある。また、サポート校が中等部などを設けていることもあるが、これは、同じサポート校の高等部への進学を前提としている場合もある。

自宅を拠点とした学習は、ホームスクーリング(在宅学習)と呼ばれ、近年、アメリカを中心に、世界的に増加の傾向にある。日本でも、ホームスクーリングを支援する団体等が設立されている。

中学卒業後に、通信制高校への進学や高認受験を選択した場合、広い範囲の自学自習を求められる。このため、卒業または合格の前に、学習を放棄または先延ばししてしまう危険も比較的大きい[要出典]

したがって、その場合には、単位制高校などへ入学・編入学するか、またはサポート校や学習塾・予備校などに通うことで、そうした危険をより少ないものに出来る。

さらに、大学受験を希望する場合、高認や通信制高校の内容と、平均的な大学受験で必要とされる内容の格差が大きいことに、注意する必要がある。また、高認に限らず、通信制高校(一部を除く)では、数学III・数学Cなど、理系学部の受験で求められることの多い科目が受講できない。

学業や進学についての問題(親の期待, 学業不振など)が不登校の契機となっている場合もあり、そのような事例では、焦って勉学を促すことが逆効果ともなり得る。保護者は、子どもの成人後の自立にとって必要最低限の提案をしながらも、最終的には子ども本人の意思で決めさせることが望ましい。

不登校児の学業結果は、保護者にとって、必ずしも満足できるものではないかもしれない。しかし、他の子どもとの比較で本人を評価するよりも、たとえ些細なことであれ、本人の努力を評価することが、本人のモチベーション(やる気)を保つためには必要である。

経済面の対応

特殊な不登校への対応

全ての不登校が、心身の障害や学校での人間関係、家庭の貧困を原因とする訳ではない。

子どもへの虐待など、不登校が明らかに家庭に起因する場合には、原因となっている家庭環境を改善することが、解決の前提となる。その過程で、行政により、子どもを家庭から引き離す措置が採られることもある。

外国人の子弟で、日本語能力の不足が不登校の原因となっている場合もある。例えば、日系人労働者の多い自治体では、日系人児童の不登校が問題化している。学校による日本語や基礎学力のケア、いじめ対策などが十分に期待できない事例では、ブラジル学校など、外国人学校への入学・編入学も検討される。

脚注

  1. ^ 『中学生不登校 生活苦も原因 保護世帯の1割 東京・板橋』 毎日新聞 2009年1月30日付.
  2. ^ 『中学生不登校 生活苦も原因 保護世帯の1割 東京・板橋』 毎日新聞 2009年1月30日付.
  3. ^ 厚生労働省 『こころのバリアフリー宣言 ~精神疾患を正しく理解し、新しい一歩を踏み出すための指針』 第3 平成16年3月
  4. ^ Garland 1994
  5. ^ 厚生労働省 『心の健康問題の正しい理解のための普及啓発検討会報告書 ~精神疾患を正しく理解し、新しい一歩を踏み出すために~ 』(概要) 平成16年3月 p7
  6. ^ 『メルクマニュアル医学百科 家庭版』 オンライン版 「知的障害」 原書最終査読/改訂月 2006年10月
  7. ^ Kessler 2005
  8. ^ Kim-Cohen et al. 2003
  9. ^ B. J. Sadock, V. A. Sadock, P. Ruiz, Kaplan and Sadock's Comprehensive Textbook of Psychiatry, 9th edition, Lippincott Williams & Wilkins, 2009
  10. ^ 齊藤万比古編集 『発達障害が引き起こす不登校へのケアとサポート』 学研教育出版 2011年 ISBN 4054050263 p27
  11. ^ 「不登校児童生徒を対象とする学校に係る教育課程の弾力化」について 文部科学省

参考文献

関連項目

外部リンク


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