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'''サマリウム''' ({{lang-en-short|samarium}}) は[[原子番号]]62の[[元素]]。[[元素記号]]は '''Sm'''。[[希土類元素]]の一つ(ランタノイドにも属す)。
'''サマリウム''' ({{lang-en-short|samarium}}) は[[原子番号]]62の[[元素]]。[[元素記号]]は '''Sm'''。[[希土類元素]]の一つ(ランタノイドにも属す)。他の軽ランタノイドと共に[[モナズ石]](モナザイト)に含まれる


== 性質 ==
== 性質 ==
=== 物理的性質 ===
灰白色の軟らかい[[金属]]で、常温、常圧の安定構造は[[三方晶系]](六回対称をもった三方配列の層が、ACACBCBAB のスタッキングで9層ずつ繰り返す構造)。比重7.54、[[融点]]は1072 {{℃}}、[[沸点]]は1800 {{℃}}(沸点は異なる実験値あり)。
灰白色の軟らかい[[金属]]であり、比重は7.54。サマリウムのこの硬さおよび比重は[[亜鉛]]に類似している。[[融点]]は1072 {{℃}}、[[沸点]]は1800 {{℃}}(沸点は異なる実験値あり)。サマリウムの沸点は希土類元素の中でも[[イッテルビウム]]、[[ユウロピウム]]に次いで低いため、希土類鉱石からのサマリウムの単離を容易なものとしている。常温、常圧の安定構造は[[三方晶系]](六回対称をもった三方配列の層が、ACACBCBAB のスタッキングで9層ずつ繰り返す構造)であり、これはα型と呼ばれる。731 {{℃}}以上に加熱すると[[六方最密充填]] (hcp) となるが、この転移温度は金属の純度に依存する。さらに922 {{℃}}まで加熱すると[[体心立方構造]] (bcc) に転移する。40 k[[バール|bar]]に加圧した状態で300 {{℃}}まで加熱すると二重六方最密充填 (dhcp) となる。また、数百から数千 k[[バール|bar]]に加圧していくことで一連の相変化を示し、特におよそ900 kbarにおいて正方晶系の相が現れる<ref name=sm>{{cite journal|doi=10.1016/0022-5088(85)90294-2|last1=Shi|first1=N|year=1985|page=21|volume=113|journal=Journal of the Less Common Metals|last2=Fort|first2=D|title=Preparation of samarium in the double hexagonal close packed form|issue=2}}</ref>。700 {{℃}}から400 {{℃}}まで急激に冷却する焼戻しを行うことによって、圧力を加えることなく二重六方最密充填の相を生じさせることができる。また、[[蒸着]]によって得られるサマリウムの薄膜は周囲の状態によって六方最密充填もしくは二重六方最密充填の相を含んでいる可能性がある<ref name=sm/>。


サマリウムおよびそのセスキ酸化物(三二酸化物、Sm<sub>2</sub>O<sub>3</sub>)は常温で[[常磁性]]を示す。それらに対応する有効磁気モーメントは[[ランタン]]、[[ルテチウム]](およびそれらの酸化物)に次いで希土類中3番目に低く、[[ボーア磁子]]は2 µB以下である。14.8 [[ケルビン|K]]以下に冷却されると[[反強磁性]]に転移する<ref>{{cite journal|last1= Lock|first1= J M|title= The Magnetic Susceptibilities of Lanthanum, Cerium, Praseodymium, Neodymium and Samarium, from 1.5 K to 300 K|journal= Proceedings of the Physical Society. Section B|volume= 70|page= 566|year= 1957|doi= 10.1088/0370-1301/70/6/304|issue= 6|bibcode = 1957PPSB...70..566L }}</ref><ref>{{cite journal|last1=Huray|first1=P|last2=Nave|first2=S|last3=Haire|first3=R|title=Magnetism of the heavy 5f elements|journal=Journal of the Less Common Metals|volume=93|page=293|year= 1983|doi=10.1016/0022-5088(83)90175-3|issue=2}}</ref>。個々のサマリウム原子は[[フラーレン]]を用いることで単離することができる<ref>{{cite journal|doi = 10.1016/S0921-4526(02)00991-2|title= Electronic and geometric structures of metallofullerene peapods| year = 2002| author = Okazaki, T| journal = Physica B|volume = 323|page=97|bibcode = 2002PhyB..323...97O|last2 = Suenaga|first2 = Kazutomo|last3 = Hirahara|first3 = Kaori|last4 = Bandow|first4 = Shunji|last5 = Iijima|first5 = Sumio|last6 = Shinohara|first6 = Hisanori }}</ref>。サマリウム原子はまたフラーレンに[[ドープ]]することもでき、そのようなサマリウムをドープされたフラーレンは8 K以下の温度で[[超伝導]]性を示す<ref>{{cite journal|last1=Chen|first1=X.|last2=Roth|first2=G.|title=Superconductivity at 8 K in samarium-doped C60|journal=Physical Review B|volume=52|page=15534|year=1995|doi=10.1103/PhysRevB.52.15534|issue=21|bibcode = 1995PhRvB..5215534C }}</ref>。[[高温超電導]]物質である[[鉄系超伝導物質]](SrFeAsF)にサマリウムをドープさせることで超伝導転移温度を56 Kまで高めることができ、これは報告のなされた2008年11月時点では鉄系超電導物質の中で最も転移温度の高い物質であった<ref name=Wu2008>{{cite journal|arxiv = 0811.0761|title = Superconductivity at 56 K in Samarium-doped SrFeAsF|author = Wu, G. et al.|year = 2008|doi=10.1088/0953-8984/21/14/142203|journal = Journal of Physics: Condensed Matter|volume = 21|issue = 14|page = 142203|bibcode = 2009JPCM...21n2203W }}</ref>。
加熱下で酸化され、[[酸]](無機酸)に易溶。熱水とも反応する。他の軽ランタノイドと共に[[モナズ石]](モナザイト)に含まれる。


=== 化学的性質 ===
知られている[[原子価]]は+2、+3価であり、安定なのは 4f<sup>5</sup> の[[電子配置]]をとる+3価である。そのため水溶液中において赤色の2価のイオン Sm<sup>2+</sup> は極めて酸化されやすく、水を還元して水素を発生し、淡黄色の3価のイオン Sm<sup>3+</sup> に変化する。その[[標準酸化還元電位]]は以下のように見積もられている。
サマリウムの新しい表面は銀色の光沢を持つが、空気中においては[[室温]]で徐々に[[酸化]]され、150 {{℃}}で自然発火する<ref name=emsley/><ref name=CRC>{{cite book| author = C. R. Hammond |chapter = The Elements |title=''Handbook of Chemistry and Physics'' 81st edition| publisher =CRC press| isbn = 0-8493-0485-7}}</ref>。[[鉱油]]中に保存していたとしても徐々に酸化され、灰黄色の酸化物と水酸化物の混合物で表面が覆われる。サマリウムの金属表面は試料を[[アルゴン]]雰囲気下で保存することによって維持することができる。

サマリウムは電気的に陽性であり、冷水とは徐々に、湯となら直ちに反応して水酸化物を形成する<ref name=we/>。
:2 Sm (s) + 6 H<sub>2</sub>O (l) → 2 Sm(OH)<sub>3</sub> (aq) + 3 H<sub>2</sub> (g)

サマリウムは希[[硫酸]]に容易に溶解して黄色<ref name=g1243>Greenwood, p. 1243</ref>から薄緑色をしたSm<sup>+3</sup>イオンとなり、それは[Sm(OH<sub>2</sub>)<sub>9</sub>]<sup>3+</sup>錯体として存在している<ref name=we>{{cite web| url =https://www.webelements.com/samarium/chemistry.html| title =Chemical reactions of Samarium| publisher=Webelements| accessdate=2009-06-06}}</ref>。
:2 Sm (s) + 3 H<sub>2</sub>SO<sub>4</sub> (aq) → 2 Sm<sup>3+</sup> (aq) + 3 SO{{su|b=4|p=2−}} (aq) + 3 H<sub>2</sub> (g)

サマリウムは希土類元素の中では珍しく+2価の酸化状態を取り、Sm<sup>2+</sup>イオンは溶液中で赤血色を示す<ref name=g1248>Greenwood, p. 1248</ref>。安定なのは 4f<sup>5</sup> の[[電子配置]]をとる+3価であるため+2価のイオン Sm<sup>2+</sup> は極めて酸化されやすく、水溶液中においては水を還元して水素を発生し+3価のイオン Sm<sup>3+</sup> へと酸化される。その[[標準酸化還元電位]]は以下のように見積もられている。
: Sm<sup>3+</sup>(aq) + e<sup>-</sup> = Sm<sup>2+</sup>(aq) (''E''°= -1.55 V)
: Sm<sup>3+</sup>(aq) + e<sup>-</sup> = Sm<sup>2+</sup>(aq) (''E''°= -1.55 V)


サマリウムは単体でも原子価揺動 (Valence fluctuation) を起こす。[[固体]]では、(4f)<sup>5</sup>(5d6s)<sup>3</sup>であるが、遊離状態の[[原子]]、固体[[表面]]のサマリウム原子は、(4f)<sup>6</sup>(5d6s)<sup>2</sup>となっている。
サマリウムは単体でも原子価揺動 (Valence fluctuation、[[混合原子価化合物]]も参照) を起こす。[[固体]]では、(4f)<sup>5</sup>(5d6s)<sup>3</sup>であるが、遊離状態の[[原子]]、固体[[表面]]のサマリウム原子は、(4f)<sup>6</sup>(5d6s)<sup>2</sup>となっている。


== 用途 ==
== 用途 ==
[[サマリウムコバルト磁石]](SmCo<sup>5</sup>:[[金属間化合物]])は、強力な磁石として使用される。[[ネオジム磁石]]の方が価格が安く性能もよいが、[[強磁性|キュリー温度]](磁性がなくなる温度)が約700 {{℃}}のため、高温で使用する用途などで使われている。また、[[コンピューター]]の[[ハードディスク]]、[[電気自動車]]や[[コンプレッサー]]用の[[モーター]]、音響機器の[[スピーカー]]や[[ヘッドホン]]、[[携帯電話]]、[[風力発電]]等の幅広い用途で使用されている<ref name=monka>{{Cite web|url=http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/housha/002/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2009/04/30/20030724_01c.pdf|title=放射線審議会第15回基本部会 資料第15-3 号 サマリウムの作業場所における線量評価について|format=PDF|pages=4ページ|publisher=文部科学省|accessdate=2010-12-4}}</ref>。
[[サマリウムコバルト磁石]](SmCo<sup>5</sup>:[[金属間化合物]])は、強力な磁石として使用される。[[ネオジム磁石]]の方が価格が安く性能もよいが、[[強磁性|キュリー温度]](磁性がなくなる温度)が約700 {{℃}}のため、高温で使用する用途などで使われている。また、[[コンピューター]]の[[ハードディスク]]、[[電気自動車]]や[[コンプレッサー]]用の[[モーター]]、[[永久磁石同期電動機]]、音響機器の[[スピーカー]]や[[ヘッドホン]]、[[携帯電話]]、[[スマートフォン]]、[[風力発電]]等の幅広い用途で使用されている<ref name=monka>{{Cite web|url=http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/housha/002/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2009/04/30/20030724_01c.pdf|title=放射線審議会第15回基本部会 資料第15-3 号 サマリウムの作業場所における線量評価について|format=PDF|pages=4ページ|publisher=文部科学省|accessdate=2010-12-4}}</ref>。


酸化サマリウムから作られる[[セラミックス]]材料は電子材料として[[コンデンサー]]や[[誘電体]]に用いられるほか、[[自動車]]の[[排気ガス]]浄化用等、[[触媒]]の材料としても注目されている<ref name=monka/>。
酸化サマリウムから作られる[[セラミックス]]材料は電子材料として[[コンデンサー]]や[[誘電体]]に用いられるほか、[[自動車]]の[[排気ガス]]浄化用等、[[触媒]]の材料としても注目されている<ref name=monka/>。
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== 歴史 ==
== 歴史 ==
[[File:Lecoq de Boisbaudran.jpg|thumb|upright|サマリウムの発見者、[[ポール・ボアボードラン]]]]
[[ワシーリー・サマルスキー=ビホヴェッツ]] ([[:w:Vasili Samarsky-Bykhovets|Vasili Samarsky-Bykhovets]]) が新鉱物を発見し、[[1847年]]に[[ハインリヒ・ローゼ]]が[[サマルスキー石]](Samarskite)と命名<ref name="sakurai">{{Cite |和書 |author =[[桜井 弘]]|||title = 元素111の新知識|date = 1998| pages = 275|publisher =[[講談社]]| series = |isbn=4-06-257192-7 |ref = harv }}</ref>。サマルスキー石から[[1879年]]に[[ポール・ボアボードラン]] が発見した<ref name="sakurai" />。鉱石の発見者であるサマルスキーの名前が元素名の由来となっている<ref name="sakurai" />。
[[ロシア]]の[[ウラル山脈]]南部に位置するイリメニ山脈の[[ミアス]]で[[ワシーリー・サマルスキー=ビホヴェッツ]]が新鉱物を発見し、ロシアの鉱山技術部隊のチーフスタッフであったサマルスキーは[[ドイツ]]の鉱物学者のグスタフ・ローゼおよび[[ハインリヒ・ローゼ]]の兄弟に対して研究のため鉱物標本の利用許可を与えた。[[1847年]]にハインリヒ・ローゼはサマルスキーへの[[献名]]としてその鉱物を[[サマルスキー石]] (Samarskite, (Y,Ce,U,Fe)<sub>3</sub>(Nb,Ta,Ti)<sub>5</sub>O<sub>16</sub>) と命名した<ref name=webmin>http://webmineral.com/data/Samarskite-(Y).shtml Webminerals</ref><ref name="sakurai">{{Cite |和書 |author =[[桜井 弘]]|||title = 元素111の新知識|date = 1998| pages = 275|publisher =[[講談社]]| series = |isbn=4-06-257192-7 |ref = harv }}</ref>。1879年にフランスの化学者である[[ポール・ボアボードラン]]はパリでサマルスキー石からサマリウムを酸化物や水酸化物の形で単離し、強い吸収線スペクトルによってそれが新しい元素であることを確認した<ref name=CRC>{{cite book| author = C. R. Hammond |chapter = The Elements |title=''Handbook of Chemistry and Physics'' 81st edition| publisher =CRC press| isbn = 0-8493-0485-7}}</ref>。サマリウムを含むいくつかの希土類元素の発見は19世紀後半に複数の化学者によって発表されたが、ほとんどの情報源においてボアボードランを一番初めの発見者としている<ref>Greenwood, p. 1229</ref><ref name=brit>[http://www.britannica.com/EBchecked/topic/520309/samarium Samarium], ブリタニカ百科事典オンライン</ref>。例えば1878年にスイスの化学者である[[マルク・ドラフォンテーヌ]]によって新しい元素として''decipium''(ラテン語で「あてにならない」「紛らわしい」を意味する''decipiens''に由来する)が発表されたが<ref>{{cite journal|title = Sur le décepium, métal nouveau de la samarskite|first = Marc|last = Delafontaine|journal = Journal de pharmacie et de chimie|volume = 28|page = 540|year = 1878|url = http://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k78100m.image.r=Decipium.f548.langEN}}</ref><ref>{{cite journal| title = Sur le décepium, métal nouveau de la samarskite| first = Marc| last = Delafontaine| journal = Comptes rendus hebdomadaires| volume = 87| page = 632| year = 1878| url = http://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k3044x.image.r=Decipium.f694.langEN}}</ref>、1880年後半から1881年にかけてそれがボアボードランが発見したサマリウムを含むいくつかの元素の混合物であることが証明されている<ref name=iupac>{{cite journal|last1=De Laeter|first1=J. R.|last2=Böhlke|first2=J. K.|last3=De Bièvre|first3=P.|last4=Hidaka|first4=H.|last5=Peiser|first5=H. S.|last6=Rosman|first6=K. J. R.|last7=Taylor|first7=P. D. P.|title=Atomic weights of the elements. Review 2000 (IUPAC Technical Report)|doi=10.1351/pac200375060683|journal=Pure and Applied Chemistry|year=2003 |volume=75|pages= 683–800|publisher=IUPAC|issue=6}}</ref><ref>{{cite journal| title = Sur le décipium et le samarium| first = Marc| last = Delafontaine| journal = Comptes rendus hebdomadaires| volume = 93| page = 63| year = 1881| url = http://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k3049g.image.r=Decipium.f63.langEN}}</ref>。また、ボアボードランが単離したサマリウムも純粋なものではなく相当量の[[ユウロピウム]]が含まれていた事も判明しており、純粋なサマリウムはユウロピウムの発見者である[[ウジェーヌ・ドマルセー]]によって[[1901年]]に得られた<ref name=van/>。

ボアボードランはこの新しい元素をサマリアと呼んだが後に他の元素の命名則に合わせてサマリウムとなり、サマリアという名称はジルコニアやアルミナ、セリア、ホルミアなどのように酸化サマリウムを言及するための名称としてしばしば利用されている。サマリウムの元素記号としてはSmが提案されたが、1920年代頃まではSaが多用されていた<ref name=van>[http://elements.vanderkrogt.net/element.php?sym=Sm Samarium: History & Etymology]. Elements.vanderkrogt.net. Retrieved on 2013-03-21.</ref><ref>{{cite journal|last1=Coplen|first1=T. B.|last2=Peiser|first2=H. S.|title=History of the recommended atomic-weight values from 1882 to 1997: A comparison of differences from current values to the estimated uncertainties of earlier values (Technical Report)|journal=Pure and Applied Chemistry |volume=70|page=237|year=1998|doi=10.1351/pac199870010237}}</ref>。サマリウムの名称は鉱石の発見者であるサマルスキーの名前が元素名の由来となっており<ref name="sakurai" />、サマルスキーは人物名が元素名の由来となった初めての人物である<ref name=RSC>[http://www.rsc.org/chemistryworld/podcast/Interactive_Periodic_Table_Transcripts/Samarium.asp Chemistry in Its Element – Samarium], Royal Society of Chemistry</ref><ref name=van>[http://elements.vanderkrogt.net/element.php?sym=Sm Samarium: History & Etymology]</ref>。

1950年代に[[イオン交換]]による分離技術が出現する以前には、純粋な形でのサマリウムの商業的用途は存在しなかった。しかしネオジムの分別結晶化精製の副産物として生じるサマリウムと[[ガドリニウム]]の混合物は、それを製造していた会社にちなんで"Lindsay Mix"と名付けられ、初期の[[原子炉]]のいくつかで核[[制御棒]]として使用された。今日では、これに類似した製品は"サマリウム-ユウロピウム-ガドリニウム" (SEG)と呼ばれている<ref name=RSC>[http://www.rsc.org/chemistryworld/podcast/Interactive_Periodic_Table_Transcripts/Samarium.asp Chemistry in Its Element – Samarium], Royal Society of Chemistry</ref>。それは[[バストネサイト]] (もしくは[[モナズ石]])から分離されるランタノイドの混合物から溶媒抽出法によって製造される。ランタノイドはより重いものほど溶媒との親和性が高いため、それらは比較的少量の溶媒で容易に抽出される。バストネサイトを処理する全ての希土類製造者が元の鉱石のわずか1、2 %を占めるにすぎないSEGの各構成元素をさらに分離するために十分な規模の設備を持つわけではなく、そのような生産者は専門的な処理業者に売却する目的でSEGを製造している。SEGからは蛍光体メーカーが利用する高価なユウロピウムが回収できる。2012年現在サマリウムは供給過剰であり、酸化サマリウムの価格は鉱石中に含まれるサマリウムの相対的な存在量から予測されるよりも安価に供給されている<ref name=price/>。

== 化合物 ==
=== 酸化物 ===
サマリウムの最も安定な酸化物はセスキ酸化物であるSm<sub>2</sub>O<sub>3</sub>であり、Sm<sub>2</sub>O<sub>3</sub>には複数の結晶系のものが存在している。三方晶系のものは溶融させたものを徐冷することによって得られる。Sm<sub>2</sub>O<sub>3</sub>の融点は2365{{℃}}と高いため、直接的な加熱ではなく高周波コイルによる[[誘導加熱]]によって溶融される。Sm<sub>2</sub>O<sub>3</sub>の単斜晶の結晶は火炎溶融法([[ベルヌーイ法]])によって結晶成長させることができ、粉末のSm<sub>2</sub>O<sub>3</sub>から直径1 cm、最大長さ数 cm のブールが得られる。ブールは純粋で格子欠陥などが含まれていなければ透明であるが、そうでなければオレンジ色を呈する。準安定な三方晶のSm<sub>2</sub>O<sub>3</sub>を1900{{℃}}まで加熱すると、より安定な単斜晶に転移する<ref name=smo/>。立方晶のSm<sub>2</sub>O<sub>3</sub>もまた研究されている<ref name=smo2/>。

サマリウムは一酸化物SmOを形成する数少ないランタノイドの一つである。この黄金の光沢を持つ化合物はSm<sub>2</sub>O<sub>3</sub>を金属サマリウムを用いて1000{{℃}}、50 k[[バール (単位)|bar]]以上の条件下で還元させることによって得られ、圧力が低いと反応は不完全に終わる。SmOは立方晶の塩化ナトリウム型構造を取る<ref name=smox/><ref name=g1239>Greenwood, p. 1239</ref>。

=== 他のカルコゲナイド ===
サマリウムは[[硫黄]]、[[セレン]]、[[テルル]]と反応し、それぞれ3価の硫化物、セレン化物、テルル化物を形成する。2価のSmS、SmSe、SmTeも知られており、それらはSmOと同様に立方晶の塩化ナトリウム型構造を取る。これらのカルコゲナイドは室温において、圧力を加えることで半導体から金属に変化する性質を有している。SmSeおよびSmTeは20–30 kbarほどの圧力で連続的に変化するが、SmSはわずか6.5 kbarの圧力で急激に変化する。SmSの結晶やフィルムが引っ掻かれたり磨かれたりしたときに、この物性の変化は黒色から明るい黄色という劇的な色の変化を引き起こす。この物性変化によって結晶系は変化しないが、結晶の容積は15 %も激減する<ref name=b1>Beaurepaire, Eric (Ed.) [http://books.google.com/books?id=rGDCn4lqmdsC&pg=PA393 ''Magnetism: a synchrotron radiation approach''], Springer, 2006 ISBN 3-540-33241-3 p. 393</ref>。圧力から解放されるとSmSは0.4 kbarという非常に低い圧力で半導体に戻り、[[ヒステリシス]]を示す<ref name=emsley/><ref>{{cite journal|last1=Jayaraman|first1=A.|last2=Narayanamurti|first2=V.|last3=Bucher|first3=E.|last4=Maines|first4=R.|title=Continuous and Discontinuous Semiconductor-Metal Transition in Samarium Monochalcogenides Under Pressure|journal=Physical Review Letters|volume=25|page=1430|year=1970|doi=10.1103/PhysRevLett.25.1430|bibcode=1970PhRvL..25.1430J|issue=20}}</ref>。

=== ハロゲン化物 ===
金属サマリウムは全ての[[ハロゲン]]と反応して三ハロゲン化物を与える<ref name=g1236>Greenwood, pp. 1236, 1241</ref>。
:2 Sm (s) + 3 X<sub>2</sub> (g) → 2 SmX<sub>3</sub> (s)

これらの三ハロゲン化物は金属サマリウムもしくは金属[[リチウム]]、金属[[ナトリウム]]と共に700から900{{℃}}の高温にすることによって更に還元され、二ハロゲン化物を生じる<ref name=smcl2/>。二ヨウ化物は三ヨウ化物を加熱するか、室温において無水[[テトラヒドロフラン]]を溶媒として金属サマリウムと1,2-ジヨードエタンを反応させることによっても得ることが出来る<ref name=g1240>Greenwood, p. 1240</ref>。
:Sm (s) + ICH<sub>2</sub>-CH<sub>2</sub>I → SmI<sub>2</sub> + CH<sub>2</sub>=CH<sub>2</sub>.

三ハロゲン化物の還元によって生成されるのは二ハロゲン化物に加え、Sm<sub>3</sub>F<sub>7</sub>, Sm<sub>14</sub>F<sub>33</sub>, Sm<sub>27</sub>F<sub>64</sub><ref name=smf2/>, Sm<sub>11</sub>Br<sub>24</sub>, Sm<sub>5</sub>Br<sub>11</sub>およびSm<sub>6</sub>Br<sub>13</sub>のような明瞭な結晶構造を有する多数の[[不定比化合物|不定比]]ハロゲン化物も生成される<ref>{{cite journal|last1=Baernighausen|first1=H.|last2=Haschke|first2=John M.|title=Compositions and crystal structures of the intermediate phases in the samarium-bromine system|journal=Inorganic Chemistry|volume=17|page=18|year=1978|doi=10.1021/ic50179a005}}</ref>。

下記[[#サマリウム化合物の一覧]]の表にあるように、サマリウムのハロゲン化物はハロゲン元素の種類によってその結晶系が変わるという、大部分の元素では見られないような珍しい挙動を示す。ハロゲン化サマリウムの多くは1つの化合物に2つの主要な結晶相があり、一方は安定相でもう一方は準安定相である。準安定相は急冷後に加圧もしくは加熱することによって形成される。例えば、単斜晶(安定相)の[[ヨウ化サマリウム(II)]]を加圧し、圧力を開放することで[[塩化鉛]]型結晶構造を有する斜方晶のヨウ化サマリウム(II)(密度:5.90 g/cm<sup>3</sup>)が得られ<ref>{{cite journal|last1=Beck|first1=H. P.|title=Hochdruckmodifikationen der Diiodide von Sr, Sm und Eu. Eine neue PbCl2-Variante?|journal=Zeitschrift für anorganische und allgemeine Chemie|volume=459|page=81|year=1979|doi=10.1002/zaac.19794590108}}</ref>、類似の方法により[[ヨウ化サマリウム(III)]]の新たな結晶相(密度:5.90 g/cm<sup>3</sup>)も得られる<ref>{{cite journal|last1=Beck|first1=H. P.|last2=Gladrow|first2=E.|title=Zur Hochdruckpolymorphie der Seltenerd-Trihalogenide|journal=Zeitschrift für anorganische und allgemeine Chemie|volume=453|page=79|year=1979|doi=10.1002/zaac.19794530610}}</ref>。

=== ホウ化物 ===
酸化サマリウムおよびホウ素の粉末を真空下で焼結させることによっていくつかの相のホウ化サマリウムを含んだ粉末が得られ、サマリウムとホウ素の混合比を調整することで任意の組成の物が得られる<ref name=smb6b/>。この粉末は[[アーク炉|アーク溶融]]もしくは[[ゾーンメルト法]]によって特定のホウ化サマリウムの大きな結晶とすることができ、溶融、結晶化温度を変えることでそれぞれSmB<sub>6</sub> (2580{{℃}})、SmB<sub>4</sub>(およそ2300{{℃}})およびSmB<sub>66</sub> (2150{{℃}})が形成される。これらのホウ化サマリウムは全て硬く脆い暗灰色の固体であり、含まれるホウ素の割合が高くなるほど硬さが増す<ref name=smb6/>。二ホウ化サマリウムはこれらの方法で製造するには揮発性すぎるため、安定して結晶成長させるためには高圧(およそ65 kbar)かつ低温(1140から1240{{℃}})な条件が必要となる。これよりも高温になるとSmB<sub>6</sub>が優先されて形成する<ref name=smb2/>。

====六ホウ化サマリウム====
六ホウ化サマリウムはSm<sup>2+</sup>とSm<sup>3+</sup>のサマリウムイオンが3:7の割合で存在する典型的な中間原子価化合物である<ref name=smb6b>{{cite journal|last1=Nickerson|first1=J.|last2=White|first2=R.|last3=Lee|first3=K.|last4=Bachmann|first4=R.|last5=Geballe|first5=T.|last6=Hull|first6=G.|title=Physical Properties of SmB<sub>6</sub> |journal=Physical Review B|volume=3|page=2030|year=1971|doi=10.1103/PhysRevB.3.2030|issue=6|bibcode = 1971PhRvB...3.2030N }}</ref>。それは典型的な近藤絶縁体([[近藤効果]]参照)に属しており、50 [[ケルビン|K]]を越える高温では近藤金属に特有の強い電子散乱による金属的な電気伝導度を示すのに対し、低温ではおよそ4から14 meVという狭い[[バンドギャップ]]の非磁性絶縁体としてふるまう<ref>{{cite journal|doi=10.1103/PhysRevB.52.R14308|last1=Nyhus|year=1995|first1=P.|pages=R14308|volume=52|last2=Cooper|journal=Physical Review B|first2=S.|last3=Fisk|first3=Z.|last4=Sarrao|first4=J.|title=Light scattering from gap excitations and bound states in SmB<sub>6</sub> |issue=20|bibcode = 1995PhRvB..5214308N }}</ref>。六ホウ化サマリウムの冷却によって引き起こされる金属-絶縁体転移には熱伝導率の急激な増加が伴い、それはおよそ15 Kで最大値を示す。この原因は、低温領域における熱伝導は電子が熱の伝導に貢献しないため[[フォノン]]のみが熱伝導の要因となり、フォノンは電子による散乱を受けると熱伝導に寄与できなくなるため熱伝導率が低下するが、近藤効果によって金属から絶縁体へと転移することで電子密度が急激に減少するため電子にフォノンが散乱される割合もそれに伴って急激に減少するため、それまで電子による散乱をうけて熱伝導に寄与できなかったフォノンが熱伝導に寄与できるようになるためである<ref>{{cite journal|last1=Sera|first1=M.|last2=Kobayashi|first2=S.|last3=Hiroi|first3=M.|last4=Kobayashi|first4=N.|last5=Kunii|first5=S.|title=Thermal conductivity of RB<sub>6</sub> (R=Ce, Pr, Nd, Sm, Gd) single crystals |journal=Physical Review B |volume=54 |page=R5207 |year=1996 |doi=10.1103/PhysRevB.54.R5207 |issue=8 |bibcode=1996PhRvB..54.5207S }}</ref>。

新しい研究では{{仮リンク|トポロジカル絶縁体|en|Topological insulator}}となるかもしれないことが示されている<ref>{{cite arXiv |last=Botimer|eprint=1211.6769 |first1=J. |author2=Kim |author3=Thomas |author4=Grant |author5=Fisk |author6=Jing Xia |title=Robust Surface Hall Effect and Nonlocal Transport in SmB<sub>6</sub>: Indication for an Ideal Topological Insulator |class=cond-mat.str-el |year=2012}}</ref><ref>{{cite journal |last=Zhang |author2=Butch |author3=Syers |author4=Ziemak |author5=Greene |author6=Paglione |title=Hybridization, Correlation, and In-Gap States in the Kondo Insulator SmB<sub>6</sub> |year=2012 |doi=10.1103/PhysRevX.3.011011 |first1=Xiaohang |journal=Physical Review X |volume=3 |issue=1|arxiv=1211.5532}}</ref><ref>{{cite arXiv |last=Wolgast|eprint=1211.5104 |author2=Cagliyan Kurdak |author3=Kai Sun |author4=Allen |author5=Dae-Jeong Kim |author6=Zachary Fisk |title=Discovery of the First Topological Kondo Insulator: Samarium Hexaboride |class=cond-mat.str-el |year=2012}}</ref>。

=== 他の無機化合物 ===
[[File:Samarium-sulfate.jpg|thumb|upright|硫酸サマリウム、Sm<sub>2</sub>(SO<sub>4</sub>)<sub>3</sub>]]
炭化サマリウムは[[グラファイト]]と金属サマリウムを混合し、不活性雰囲気下で溶融させることによって得られる。空気中で不安定な物質であるため、研究もまた不活性雰囲気下で行われる<ref name=smc/>。リン化サマリウムSmPはシリコンと同程度のバンドギャップ1.10 eVを示す半導体であり、[[N型半導体]]として高い電気伝導度を示す。それはリンと金属サマリウムの混合粉末を石英アンプル中に真空封管し、1100{{℃}}で焼きなますことによって合成される。リンは高温では非常に揮発性であり爆発の危険があるため、加熱時の昇温ペースは1分間に1{{℃}}以下に保たなければならない<ref name=smp/>。ヒ化サマリウムSmAsも類似の方法で合成されるが、合成温度は1800{{℃}}以上である<ref name=smas/>。

サマリウムの他の二元化合物としては、[[ケイ素]]、[[ゲルマニウム]]、[[スズ]]、[[鉛]]、[[アンチモン]]、[[テルル]]といった[[第14族元素]]、[[第15族元素]]、[[第16族元素]]との化合物が知られており、また多くのグループの元素との間で合金を作る。それらは全て金属サマリウムおよび対応する元素の粉末を混合し、焼きなますことによって得ることができる。そうやって得られた化合物の多くは不定比化合物であり、Sm<sub>a</sub>X<sub>b</sub> (b / a は0.5から3の間を変化する) という名目上の組成比を持つ<ref>{{cite journal|last1=Gladyshevskii|first1=E. I.|last2=Kripyakevich|first2=P. I.|title=Monosilicides of rare earth metals and their crystal structures|journal=Journal of Structural Chemistry|volume=5|page=789|year=1965|doi=10.1007/BF00744231|issue=6}}</ref><ref>{{cite journal|last1=Smith|first1=G. S.|last2=Tharp|first2=A. G.|last3=Johnson|first3=W.|title=Rare earth–germanium and –silicon compounds at 5:4 and 5:3 compositions|journal=Acta Crystallographica|volume=22|page=940|year=1967|doi=10.1107/S0365110X67001902|issue=6}}</ref><ref>{{cite journal|journal=Inorg. Mater.|year=1971|volume=7|pages=661–665|author=Yarembash E.I., Tyurin E.G., Reshchikova A.A., Karabekov A., Klinaeva N.N.}}</ref>。

=== 有機金属化合物 ===
サマリウムは[[シクロペンタジエン|シクロペンタジエニド]] Sm(C<sub>5</sub>H<sub>5</sub>)<sub>3</sub> およびその塩化物誘導体 Sm(C<sub>5</sub>H<sub>5</sub>)<sub>2</sub>Cl を形成する。それらは[[塩化サマリウム(III)]]を[[シクロペンタジエニルナトリウム]]とともに[[テトラヒドロフラン]]中で反応させることによって得られる。Sm(C<sub>5</sub>H<sub>5</sub>)<sub>3</sub>は他の大部分のランタノイド元素の[[シクロペンタジエニル錯体]]とは異なり、一部のC<sub>5</sub>H<sub>5</sub>が隣接するもう一方のサマリウム原子の方へ頂点や辺のみで結合し[[ハプト数]]η<sup>1</sup>もしくはη<sup>2</sup>の配位をすることで架橋し、それによってポリマー鎖を形成する<ref name=g1248/>。塩化物誘導体は二量体を形成し、より正確には(η<sup>5</sup>-C<sub>5</sub>H<sub>5</sub>)<sub>2</sub>Sm(µ-Cl)<sub>2</sub>(η<sup>5</sup>-C<sub>5</sub>H<sub>5</sub>)<sub>2</sub>と表される。それらの塩素橋は例えばヨウ素や水素、窒素、もしくはシアン化物イオンなどによって置換される<ref name=g1249>Greenwood, p. 1249</ref>。

シクロペンタジエニド・サマリウム中の (C<sub>5</sub>H<sub>5</sub>)<sup>–</sup> イオンはインデニド (C<sub>9</sub>H<sub>7</sub>)<sup>–</sup> もしくは[[シクロオクタテトラエン|シクロオクタテトラニド]] (C<sub>8</sub>H<sub>8</sub>)<sup>2–</sup> 環と置換されてSm(C<sub>9</sub>H<sub>7</sub>)<sub>3</sub> もしくは KSm(η<sup>8</sup>-C<sub>8</sub>H<sub>8</sub>)<sub>2</sub>を形成する。これらの化合物は[[ウラノセン]]と類似した構造を有する。また、およそ85{{℃}}で[[昇華]]する2価のシクロペンタジエニド Sm(C<sub>5</sub>H<sub>5</sub>)<sub>2</sub> も存在する。[[フェロセン]]とは正反対に、Sm(C<sub>5</sub>H<sub>5</sub>)<sub>2</sub>中の C<sub>5</sub>H<sub>5</sub> リングは平行でなく45 °傾いている<ref name=g1249/><ref>{{cite journal|last1=Evans|first1=William J.|last2=Hughes|first2=Laura A.|last3=Hanusa|first3=Timothy P.|title=Synthesis and x-ray crystal structure of bis(pentamethylcyclopentadienyl) complexes of samarium and europium: (C5Me5)2Sm and (C5Me5)2Eu|journal=Organometallics|volume=5|page=1285|year=1986|doi=10.1021/om00138a001|issue=7}}</ref>。

サマリウムの[[アルカン]]および[[アリール基|アリール]]化合物はテトラヒドロフランや[[エーテル]]中で[[複分解|メタセシス]]反応によって得ることができる<ref name=g1249/>。
:SmCl<sub>3</sub> + 3 LiR → SmR<sub>3</sub> + 3 LiCl
:Sm(OR)<sub>3</sub> + 3 LiCH(SiMe<sub>3</sub>)<sub>2</sub> → Sm{CH(SiMe<sub>3</sub>)<sub>2</sub>}<sub>3</sub> + 3 LiOR
ここでRは炭化水素基、Meはメチル基を表す。

=== サマリウム化合物の一覧 ===
{| Class = "wikitable collapsed" style = "text-align: center"
|-は
! 化学式
! 色
! 結晶系
! [[空間群]]
! No
! [[ピアソン記号]]
! ''a'' (pm)
! ''b'' (pm)
! ''c'' (pm)
! ''Z''
! 密度 <br/>g/cm<sup>3</sup>
|-
| Sm
| 銀色
| 三方晶<ref name=sm>{{cite journal|doi=10.1016/0022-5088(85)90294-2|last1=Shi|first1=N|year=1985|page=21|volume=113|journal=Journal of the Less Common Metals|last2=Fort|first2=D|title=Preparation of samarium in the double hexagonal close packed form|issue=2}}</ref>
| R{{overline|3}}m
| 166
| hR9
| 362.9
| 362.9
| 2621.3
| 9
| 7.52
|-
| Sm
| 銀色
| 六方晶<ref name="sm"/>
| P6<sub>3</sub>/mmc
| 194
| hP4
| 362
| 362
| 1168
| 4
| 7.54
|-
| Sm
| 銀色
| 正方晶<ref name=sm2>{{cite journal|doi=10.1016/0375-9601(91)90346-A|last1=Vohra|year=1991|first1=Y|page=89|volume=158|journal=Physics Letters A |title=A new ultra-high pressure phase in samarium|bibcode = 1991PhLA..158...89V|last2=Akella|first2=Jagannadham|last3=Weir|first3=Sam|last4=Smith|first4=Gordon S. }}</ref>
| I4/mmm
| 139
| tI2
| 240.2
| 240.2
| 423.1
| 2
| 20.46
|-
| SmO
| 金色
| 立方晶<ref name=smox>{{cite journal|last1=Leger|first1=J|last2=Yacoubi|first2=N|last3=Loriers|first3=J|title=Synthesis of rare earth monoxides|journal=Journal of Solid State Chemistry|volume=36|page=261|year=1981 |doi=10.1016/0022-4596(81)90436-9|issue=3|bibcode = 1981JSSCh..36..261L }}</ref>
| Fm{{overline|3}}m
| 225
| cF8
| 494.3
| 494.3
| 494.3
| 4
| 9.15
|-
| Sm<sub>2</sub>O<sub>3</sub>
|
| 三方晶<ref name=smo>{{cite journal|doi=10.1016/0022-4596(81)90058-X|last1=Gouteron|year=1981|first1=J|page=288|volume=38|journal=Journal of Solid State Chemistry|title=Raman spectra of lanthanide sesquioxide single crystals: Correlation between A and B-type structures|issue=3|bibcode = 1981JSSCh..38..288G|last2=Michel|first2=D.|last3=Lejus|first3=A.M.|last4=Zarembowitch|first4=J. }}</ref>
| P{{overline|3}}m1
| 164
| hP5
| 377.8
| 377.8
| 594
| 1
| 7.89
|-
| Sm<sub>2</sub>O<sub>3</sub>
|
| 単斜晶<ref name="smo"/>
| C2/m
| 12
| mS30
| 1418
| 362.4
| 885.5
| 6
| 7.76
|-
| Sm<sub>2</sub>O<sub>3</sub>
|
| 立方晶<ref name=smo2>{{cite journal|journal=Br. Ceram. Trans. J.|year=1984|volume=83|pages=92–98|author=Taylor D.}}</ref>
| Ia{{overline|3}}
| 206
| cI80
| 1093
| 1093
| 1093
| 16
| 7.1
|-
| SmH<sub>2</sub>
|
| 立方晶<ref name=smh2>{{cite journal|last1=Daou|first1=J|last2=Vajda|first2=P|last3=Burger|first3=J|title=Low temperature thermal expansion in SmH2+x|journal=Solid State Communications|volume=71|page=1145|year=1989|doi=10.1016/0038-1098(89)90728-X|issue=12|bibcode = 1989SSCom..71.1145D }}</ref>
| Fm{{overline|3}}m
| 225
| cF12
| 537.73
| 537.73
| 537.73
| 4
| 6.51
|-
| SmH<sub>3</sub>
|
| 六方晶<ref name=smh3>{{cite journal|doi=10.1016/S0925-8388(96)03071-X|last1=Dolukhanyan|year=1997|first1=S|page=10|volume=253–254|journal=Journal of Alloys and Compounds|title=Synthesis of novel compounds by hydrogen combustion}}</ref>
| P{{overline|3}}c1
| 165
| hP24
| 377.1
| 377.1
| 667.2
| 6
|
|-
| Sm<sub>2</sub>B<sub>5</sub>
| 灰色
| 単斜晶<ref>{{cite journal|doi=10.1007/BF00795346|last1=Zavalii|year=1990|first1=L. V.|page=471|volume=29|journal=Soviet Powder Metallurgy and Metal Ceramics|last2=Kuz'ma|first2=Yu. B.|last3=Mikhalenko|first3=S. I.|title=Sm2B5 boride and its structure|issue=6}}</ref>
| P2<sub>1</sub>/c
| 14
| mP28
| 717.9
| 718
| 720.5
| 4
| 6.49
|-
| SmB<sub>2</sub>
|
| 六方晶<ref name=smb2>{{cite journal|doi=10.1016/0022-5088(77)90221-1|last1=Cannon|year=1977|first1=J|page=83|volume=56|journal=Journal of the Less Common Metals|last2=Cannon|first2=D|last3=Tracyhall|first3=H|title=High pressure syntheses of SmB2 and GdB12}}</ref>
| P6/mmm
| 191
| hP3
| 331
| 331
| 401.9
| 1
| 7.49
|-
| SmB<sub>4</sub>
|
| 正方晶<ref>{{cite journal|last1=Etourneau|doi=10.1016/0022-5088(79)90038-9|first1=J|year=1979|page=531|volume=67|last2=Mercurio|journal=Journal of the Less Common Metals|first2=J|last3=Berrada|first3=A|last4=Hagenmuller|first4=P|last5=Georges|first5=R|last6=Bourezg|first6=R|last7=Gianduzzo|first7=J|title=The magnetic and electrical properties of some rare earth tetraborides|issue=2}}</ref>
| P4/mbm
| 127
| tP20
| 717.9
| 717.9
| 406.7
| 4
| 6.14
|-
| SmB<sub>6</sub>
|
| 立方晶<ref name=smb6>{{cite journal|doi=10.1111/j.1151-2916.1972.tb11344.x|last1=Solovyev|first1=G. I.|year=1972|page=475|volume=55|journal=Journal of the American Ceramic Society|last2=Spear|first2=K. E.|title=Phase Behavior in the Sm-B System|issue=9}}</ref>
| Pm{{overline|3}}m
| 221
| cP7
| 413.4
| 413.4
| 413.4
| 1
| 5.06
|-
| SmB<sub>66</sub>
|
| 立方晶<ref>{{cite journal|last1=Schwetz|first1=K|last2=Ettmayer|first2=P|last3=Kieffer|first3=R|last4=Lipp|first4=A|title=Über die Hektoboridphasen der Lanthaniden und Aktiniden|journal=Journal of the Less Common Metals|volume=26|page=99|year=1972|doi=10.1016/0022-5088(72)90012-4}}</ref>
| Fm{{overline|3}}c
| 226
| cF1936
| 2348.7
| 2348.7
| 2348.7
| 24
| 2.66
|-
| Sm<sub>2</sub>C<sub>3</sub>
|
| 立方晶<ref name=smc/>
| I{{overline|4}}3d
| 220
| cI40
| 839.89
| 839.89
| 839.89
| 8
| 7.55
|-
| SmC<sub>2</sub>
|
| 正方晶<ref name=smc>{{cite journal|doi=10.1021/ja01550a017|last1=Spedding|year=1958|first1=F. H.|page=4499|volume=80|journal=Journal of the American Chemical Society|last2=Gschneidner|first2=K.|last3=Daane|first3=A. H.|title=The Crystal Structures of Some of the Rare Earth Carbides|issue=17}}</ref>
| I4/mmm
| 139
| tI6
| 377
| 377
| 633.1
| 2
| 6.44
|-
| SmF<sub>2</sub>
| 紫色<ref name=g1241/>
| 立方晶<ref name=smf2>{{cite journal|last1=Greis|first1=O|title=Über neue Verbindungen im system SmF2_SmF3|journal=Journal of Solid State Chemistry|volume=24|page=227|year=1978|doi=10.1016/0022-4596(78)90013-0|issue=2|bibcode = 1978JSSCh..24..227G }}</ref>
| Fm{{overline|3}}m
| 225
| cF12
| 587.1
| 587.1
| 587.1
| 4
| 6.18
|-
| SmF<sub>3</sub>
| 白色<ref name=g1241/>
| 斜方晶<ref name=smf2/>
| Pnma
| 62
| oP16
| 667.22
| 705.85
| 440.43
| 4
| 6.64
|-
| SmCl<sub>2</sub>
| 褐色<ref name=g1241/>
| 斜方晶<ref name=smcl2>{{cite journal|doi=10.1016/0022-5088(86)90228-6|last1=Meyer|first1=G|year=1986|page=187|volume=116|journal=Journal of the Less Common Metals|last2=Schleid|first2=T|title=The metallothermic reduction of several rare-earth trichlorides with lithium and sodium}}</ref>
| Pnma
| 62
| oP12
| 756.28
| 450.77
| 901.09
| 4
| 4.79
|-
| SmCl<sub>3</sub>
| 黄色<ref name=g1241/>
| 六方晶<ref name=smf2/>
| P6<sub>3</sub>/m
| 176
| hP8
| 737.33
| 737.33
| 416.84
| 2
| 4.35
|-
| SmBr<sub>2</sub>
| 褐色<ref name=g1241/>
| 斜方晶<ref name=smbr2>{{cite journal|journal=Rev. Chim. Miner.|year=1973|volume=10|pages=77–92|author=Bärnighausen, H.}}</ref>
| Pnma
| 62
| oP12
| 797.7
| 475.4
| 950.6
| 4
| 5.72
|-
| SmBr<sub>3</sub>
| 黄色<ref name=g1241/>
| 斜方晶<ref name=smbr3>{{cite journal|last1=Zachariasen|first1=W. H.|title=Crystal chemical studies of the 5f-series of elements. I. New structure types|journal=Acta Crystallographica|volume=1|page=265|year=1948|doi=10.1107/S0365110X48000703|issue=5}}</ref>
| Cmcm
| 63
| oS16
| 404
| 1265
| 908
| 2
| 5.58
|-
| SmI<sub>2</sub>
| 緑色<ref name=g1241>Greenwood, p. 1241</ref>
| 単斜晶
| P2<sub>1</sub>/c
| 14
| mP12
|
|
|
|
|
|-
| SmI<sub>3</sub>
| 橙色<ref name=g1241/>
| 三方晶<ref name=smI3>{{cite journal|last1=Asprey|first1=L. B.|last2=Keenan|first2=T. K.|last3=Kruse|first3=F. H.|journal=Inorganic Chemistry|volume=3|page=1137|year=1964|doi=10.1021/ic50018a015|issue=8}}</ref>
| R{{overline|3}}
| 63
| hR24
| 749
| 749
| 2080
| 6
| 5.24
|-
| SmN
|
| 立方晶<ref name=smn>{{cite journal|last1=Brown|first1=R|title=Composition limits and vaporization behaviour of rare earth nitrides|journal=Journal of Inorganic and Nuclear Chemistry|volume=36|page=2507|year=1974 |doi=10.1016/0022-1902(74)80462-8|issue=11|last2=Clark|first2=N.J.}}</ref>
| Fm{{overline|3}}m
| 225
| cF8
| 357
| 357
| 357
| 4
| 8.48
|-
| SmP
|
| 立方晶<ref name=smp>{{cite journal|last1=Meng|first1=J|title=Studies on the electrical properties of rare earth monophosphides|journal=Journal of Solid State Chemistry|volume=95|page=346|year=1991 |doi=10.1016/0022-4596(91)90115-X|issue=2|bibcode = 1991JSSCh..95..346M|last2=Ren|first2=Yufang }}</ref>
| Fm{{overline|3}}m
| 225
| cF8
| 576
| 576
| 576
| 4
| 6.3
|-
| SmAs
|
| 立方晶<ref name=smas>{{cite journal|last1=Beeken|first1=R.|last2=Schweitzer|first2=J.|title=Intermediate valence in alloys of SmSe with SmAs|journal=Physical Review B|volume=23|page=3620|year=1981|doi=10.1103/PhysRevB.23.3620|issue=8|bibcode = 1981PhRvB..23.3620B }}</ref>
| Fm{{overline|3}}m
| 225
| cF8
| 591.5
| 591.5
| 591.5
| 4
| 7.23
|}


== サマリウムの化合物 ==
* [[六ホウ化サマリウム]] (SmB<sub>6</sub>)
* [[六ホウ化サマリウム]] (SmB<sub>6</sub>)
* [[硫化サマリウム(II)]] (SmS)
* [[硫化サマリウム(II)]] (SmS)
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== 同位体 ==
== 同位体 ==
{{main|サマリウムの同位体}}
{{main|サマリウムの同位体}}
天然に存在するサマリウムは4つの安定同位体および3つの[[放射性同位体]]からなり、128 [[ベクレル|Bq]] / g の放射能を有する。<sup>144</sup>Sm、<sup>150</sup>Sm、<sup>152</sup>Smおよび<sup>154</sup>Smの4つがその安定同位体であり、3つの放射性同位体の[[半減期]]はそれぞれ<sup>147</sup>Sm(半減期 = 1.06×10<sup>11</sup>年)、<sup>148</sup>Sm(7×10<sup>15</sup> 年)、<sup>149</sup>Sm(2×10<sup>15</sup>年)と非常に長い。[[天然存在比]]の最も大きな同位体は26.75 %を占める<sup>152</sup>Smである<ref name="nubase">{{cite journal|last1=Audi|first1=G|doi=10.1016/j.nuclphysa.2003.11.001|title=The NUBASE evaluation of nuclear and decay properties|year=2003|page=3|volume=729|journal=Nuclear Physics A|url=http://www.nndc.bnl.gov/amdc/nubase/Nubase2003.pdf|bibcode=2003NuPhA.729....3A|last2=Bersillon|first2=O.|last3=Blachot|first3=J.|last4=Wapstra|first4=A.H.}}</ref>。<sup>149</sup>Smは様々な資料で安定同位体であるとも<ref name="nubase"/><ref>[http://www.nndc.bnl.gov/chart/reCenter.jsp?z=62&n=87 Chart of the nuclides], Brookhaven National Laboratory</ref>、放射性同位体であるとも<ref>Holden, Norman E. "Table of the isotopes" in {{RubberBible86th}}</ref>される。
天然に存在するサマリウム147(サマリウム中におよそ15 %存在)はα崩壊する(弱い放射能を持つ)。これを利用して年代測定に利用される。

長寿命な放射性同位体である<sup>146</sup>Sm、<sup>147</sup>Smおよび<sup>148</sup>Smは、主に[[ネオジム]]の同位体の[[アルファ崩壊]]によって生成する。それらよりも軽い放射性同位体は主に[[プロメチウム]]の同位体の[[電子捕獲]]によって生成し、より重いものは[[ユウロピウム]]の同位体の[[ベータ崩壊]]によって生成する<ref name="nubase"/>。

<sup>147</sup>Smは1.06×10<sup>11</sup>年の半減期でアルファ崩壊し<sup>143</sup>Ndとなり、[[放射年代測定]]法の一つである{{仮リンク|サマリウム-ネオジム法|en|Samarium-neodymium dating}}として利用される。

<sup>151</sup>Smおよび<sup>145</sup>Smの半減期はそれぞれ90年および340日である。残りの放射性同位体の半減期はいずれも2日未満であり、それらの大部分は48秒未満である。サマリウムはまた5つの[[核異性体]]を持ち、最も安定な<sup>141m</sup>Smで半減期22.6分、次いで<sup>143m1</sup>Smが66秒、<sup>139m</sup>Smが10.7秒である<ref name="nubase"/>。

== 生理作用 ==
金属サマリウムは人体内における生物学的な役割を持たない。サマリウム塩類は[[代謝]]を促進するが、それが純粋にサマリウムの影響であるのか、もしくは共存する他の希土類元素の影響なのかは不明である。成人の体内に含まれるサマリウムの総量はおよそ50 マイクログラムであり、その大部分は[[肝臓]]および[[腎臓]]に存在しており、血液中に溶存しているサマリウム濃度はおよそ8 マイクログラム / リットルである。植物はサマリウムを吸収せず測定可能な濃度にまで蓄積されることがないため、サマリウムは通常人間の食事には含まれない。しかしながら、少数の植物や野菜は最大1 [[ppm]]のサマリウムを含む可能性がある。サマリウムの不溶性塩類は非毒性であり、溶解性のものはわずかに毒性を示す<ref name=emsley>{{cite book|title = Nature's Building Blocks: An A–Z Guide to the Elements|last = Emsley|first = John|publisher = Oxford University Press|year = 2001|location = Oxford, England, UK|isbn = 0-19-850340-7|chapter = Samarium|pages = 371–374|url = http://books.google.com/?id=j-Xu07p3cKwC&pg=PA371}}</ref>。

サマリウム塩が摂取された際にはその内のわずか0.05 %のみが血液中に吸収され、残りは排出される。血液からは45 %が肝臓、45 %が骨の表面へと運ばれて10年間残存し、残りの10 %は排出される<ref name=LA2>[http://www.ead.anl.gov/pub/doc/samarium.pdf Human Health Fact Sheet on Samarium], Los Alamos National Laboratory</ref>。


== 出典 ==
== 出典 ==
{{Reflist}}
{{Reflist}}

== 参考文献 ==
*{{Greenwood&Earnshaw2nd}}


{{Commons|Samarium}}
{{Commons|Samarium}}

2013年5月22日 (水) 14:36時点における版

プロメチウム サマリウム ユウロピウム
-

Sm

Pu
Element 1: 水素 (H),
Element 2: ヘリウム (He),
Element 3: リチウム (Li),
Element 4: ベリリウム (Be),
Element 5: ホウ素 (B),
Element 6: 炭素 (C),
Element 7: 窒素 (N),
Element 8: 酸素 (O),
Element 9: フッ素 (F),
Element 10: ネオン (Ne),
Element 11: ナトリウム (Na),
Element 12: マグネシウム (Mg),
Element 13: アルミニウム (Al),
Element 14: ケイ素 (Si),
Element 15: リン (P),
Element 16: 硫黄 (S),
Element 17: 塩素 (Cl),
Element 18: アルゴン (Ar),
Element 19: カリウム (K),
Element 20: カルシウム (Ca),
Element 21: スカンジウム (Sc),
Element 22: チタン (Ti),
Element 23: バナジウム (V),
Element 24: クロム (Cr),
Element 25: マンガン (Mn),
Element 26: 鉄 (Fe),
Element 27: コバルト (Co),
Element 28: ニッケル (Ni),
Element 29: 銅 (Cu),
Element 30: 亜鉛 (Zn),
Element 31: ガリウム (Ga),
Element 32: ゲルマニウム (Ge),
Element 33: ヒ素 (As),
Element 34: セレン (Se),
Element 35: 臭素 (Br),
Element 36: クリプトン (Kr),
Element 37: ルビジウム (Rb),
Element 38: ストロンチウム (Sr),
Element 39: イットリウム (Y),
Element 40: ジルコニウム (Zr),
Element 41: ニオブ (Nb),
Element 42: モリブデン (Mo),
Element 43: テクネチウム (Tc),
Element 44: ルテニウム (Ru),
Element 45: ロジウム (Rh),
Element 46: パラジウム (Pd),
Element 47: 銀 (Ag),
Element 48: カドミウム (Cd),
Element 49: インジウム (In),
Element 50: スズ (Sn),
Element 51: アンチモン (Sb),
Element 52: テルル (Te),
Element 53: ヨウ素 (I),
Element 54: キセノン (Xe),
Element 55: セシウム (Cs),
Element 56: バリウム (Ba),
Element 57: ランタン (La),
Element 58: セリウム (Ce),
Element 59: プラセオジム (Pr),
Element 60: ネオジム (Nd),
Element 61: プロメチウム (Pm),
Element 62: サマリウム (Sm),
Element 63: ユウロピウム (Eu),
Element 64: ガドリニウム (Gd),
Element 65: テルビウム (Tb),
Element 66: ジスプロシウム (Dy),
Element 67: ホルミウム (Ho),
Element 68: エルビウム (Er),
Element 69: ツリウム (Tm),
Element 70: イッテルビウム (Yb),
Element 71: ルテチウム (Lu),
Element 72: ハフニウム (Hf),
Element 73: タンタル (Ta),
Element 74: タングステン (W),
Element 75: レニウム (Re),
Element 76: オスミウム (Os),
Element 77: イリジウム (Ir),
Element 78: 白金 (Pt),
Element 79: 金 (Au),
Element 80: 水銀 (Hg),
Element 81: タリウム (Tl),
Element 82: 鉛 (Pb),
Element 83: ビスマス (Bi),
Element 84: ポロニウム (Po),
Element 85: アスタチン (At),
Element 86: ラドン (Rn),
Element 87: フランシウム (Fr),
Element 88: ラジウム (Ra),
Element 89: アクチニウム (Ac),
Element 90: トリウム (Th),
Element 91: プロトアクチニウム (Pa),
Element 92: ウラン (U),
Element 93: ネプツニウム (Np),
Element 94: プルトニウム (Pu),
Element 95: アメリシウム (Am),
Element 96: キュリウム (Cm),
Element 97: バークリウム (Bk),
Element 98: カリホルニウム (Cf),
Element 99: アインスタイニウム (Es),
Element 100: フェルミウム (Fm),
Element 101: メンデレビウム (Md),
Element 102: ノーベリウム (No),
Element 103: ローレンシウム (Lr),
Element 104: ラザホージウム (Rf),
Element 105: ドブニウム (Db),
Element 106: シーボーギウム (Sg),
Element 107: ボーリウム (Bh),
Element 108: ハッシウム (Hs),
Element 109: マイトネリウム (Mt),
Element 110: ダームスタチウム (Ds),
Element 111: レントゲニウム (Rg),
Element 112: コペルニシウム (Cn),
Element 113: ニホニウム (Nh),
Element 114: フレロビウム (Fl),
Element 115: モスコビウム (Mc),
Element 116: リバモリウム (Lv),
Element 117: テネシン (Ts),
Element 118: オガネソン (Og),
Samarium has a rhombohedral crystal structure
62Sm
外見
銀白色
一般特性
名称, 記号, 番号 サマリウム, Sm, 62
分類 ランタノイド
, 周期, ブロック n/a, 6, f
原子量 150.36
電子配置 [Xe] 6s2 4f6
電子殻 2, 8, 18, 24, 8, 2(画像
物理特性
固体
密度室温付近) 7.52 g/cm3
融点での液体密度 7.16 g/cm3
融点 1345 K, 1072 °C, 1962 °F
沸点 2067 K, 1794 °C, 3261 °F
融解熱 8.62 kJ/mol
蒸発熱 165 kJ/mol
熱容量 (25 °C) 29.54 J/(mol·K)
蒸気圧
圧力 (Pa) 1 10 100 1 k 10 k 100 k
温度 (K) 1001 1106 1240 (1421) (1675) (2061)
原子特性
酸化数 3, 2(弱塩基性酸化物
電気陰性度 1.17(ポーリングの値)
イオン化エネルギー 第1: 544.5 kJ/mol
第2: 1070 kJ/mol
第3: 2260 kJ/mol
原子半径 180 pm
共有結合半径 198 ± 8 pm
その他
結晶構造 菱面体晶系
磁性 常磁性[1]
電気抵抗率 (r.t.) (α, poly) 0.940 µΩ⋅m
熱伝導率 (300 K) 13.3 W/(m⋅K)
熱膨張率 (r.t.) (α, poly) 12.7 μm/(m⋅K)
音の伝わる速さ
(微細ロッド)
(20 °C) 2130 m/s
ヤング率 (α form) 49.7 GPa
剛性率 (α form) 19.5 GPa
体積弾性率 (α form) 37.8 GPa
ポアソン比 (α form) 0.274
ビッカース硬度 412 MPa
ブリネル硬度 441 MPa
CAS登録番号 7440-19-9
主な同位体
詳細はサマリウムの同位体を参照
同位体 NA 半減期 DM DE (MeV) DP
144Sm 3.07 % 中性子82個で安定
146Sm syn 1.03 × 108 y α 2.529 142Nd
147Sm 14.99 % 1.06 × 1011 y α 2.310 143Nd
148Sm 11.24 % 7 × 1015 y α 1.986 144Nd
149Sm 13.82 % 2 × 1015 y α 1.870 145Nd
150Sm 7.38 % 中性子88個で安定
152Sm 26.75 % 中性子90個で安定
154Sm 22.75 % 中性子92個で安定

サマリウム (: samarium) は原子番号62の元素元素記号Sm希土類元素の一つ(ランタノイドにも属す)。他の軽ランタノイドと共にモナズ石(モナザイト)に含まれる。

性質

物理的性質

灰白色の軟らかい金属であり、比重は7.54。サマリウムのこの硬さおよび比重は亜鉛に類似している。融点は1072 °C沸点は1800 °C(沸点は異なる実験値あり)。サマリウムの沸点は希土類元素の中でもイッテルビウムユウロピウムに次いで低いため、希土類鉱石からのサマリウムの単離を容易なものとしている。常温、常圧の安定構造は三方晶系(六回対称をもった三方配列の層が、ACACBCBAB のスタッキングで9層ずつ繰り返す構造)であり、これはα型と呼ばれる。731 °C以上に加熱すると六方最密充填 (hcp) となるが、この転移温度は金属の純度に依存する。さらに922 °Cまで加熱すると体心立方構造 (bcc) に転移する。40 kbarに加圧した状態で300 °Cまで加熱すると二重六方最密充填 (dhcp) となる。また、数百から数千 kbarに加圧していくことで一連の相変化を示し、特におよそ900 kbarにおいて正方晶系の相が現れる[2]。700 °Cから400 °Cまで急激に冷却する焼戻しを行うことによって、圧力を加えることなく二重六方最密充填の相を生じさせることができる。また、蒸着によって得られるサマリウムの薄膜は周囲の状態によって六方最密充填もしくは二重六方最密充填の相を含んでいる可能性がある[2]

サマリウムおよびそのセスキ酸化物(三二酸化物、Sm2O3)は常温で常磁性を示す。それらに対応する有効磁気モーメントはランタンルテチウム(およびそれらの酸化物)に次いで希土類中3番目に低く、ボーア磁子は2 µB以下である。14.8 K以下に冷却されると反強磁性に転移する[3][4]。個々のサマリウム原子はフラーレンを用いることで単離することができる[5]。サマリウム原子はまたフラーレンにドープすることもでき、そのようなサマリウムをドープされたフラーレンは8 K以下の温度で超伝導性を示す[6]高温超電導物質である鉄系超伝導物質(SrFeAsF)にサマリウムをドープさせることで超伝導転移温度を56 Kまで高めることができ、これは報告のなされた2008年11月時点では鉄系超電導物質の中で最も転移温度の高い物質であった[7]

化学的性質

サマリウムの新しい表面は銀色の光沢を持つが、空気中においては室温で徐々に酸化され、150 °Cで自然発火する[8][9]鉱油中に保存していたとしても徐々に酸化され、灰黄色の酸化物と水酸化物の混合物で表面が覆われる。サマリウムの金属表面は試料をアルゴン雰囲気下で保存することによって維持することができる。

サマリウムは電気的に陽性であり、冷水とは徐々に、湯となら直ちに反応して水酸化物を形成する[10]

2 Sm (s) + 6 H2O (l) → 2 Sm(OH)3 (aq) + 3 H2 (g)

サマリウムは希硫酸に容易に溶解して黄色[11]から薄緑色をしたSm+3イオンとなり、それは[Sm(OH2)9]3+錯体として存在している[10]

2 Sm (s) + 3 H2SO4 (aq) → 2 Sm3+ (aq) + 3 SO2−
4
(aq) + 3 H2 (g)

サマリウムは希土類元素の中では珍しく+2価の酸化状態を取り、Sm2+イオンは溶液中で赤血色を示す[12]。安定なのは 4f5電子配置をとる+3価であるため+2価のイオン Sm2+ は極めて酸化されやすく、水溶液中においては水を還元して水素を発生し+3価のイオン Sm3+ へと酸化される。その標準酸化還元電位は以下のように見積もられている。

Sm3+(aq) + e- = Sm2+(aq) (E°= -1.55 V)

サマリウムは単体でも原子価揺動 (Valence fluctuation、混合原子価化合物も参照) を起こす。固体では、(4f)5(5d6s)3であるが、遊離状態の原子、固体表面のサマリウム原子は、(4f)6(5d6s)2となっている。

用途

サマリウムコバルト磁石(SmCo5金属間化合物)は、強力な磁石として使用される。ネオジム磁石の方が価格が安く性能もよいが、キュリー温度(磁性がなくなる温度)が約700 °Cのため、高温で使用する用途などで使われている。また、コンピューターハードディスク電気自動車コンプレッサー用のモーター永久磁石同期電動機、音響機器のスピーカーヘッドホン携帯電話スマートフォン風力発電等の幅広い用途で使用されている[13]

酸化サマリウムから作られるセラミックス材料は電子材料としてコンデンサー誘電体に用いられるほか、自動車排気ガス浄化用等、触媒の材料としても注目されている[13]

サマリウムにヨウ素を作用させて得られるヨウ化サマリウム(II) (SmI2) が、有機合成において 1電子還元剤として用いられる。これはケトンをケチルラジカルに還元する。

歴史

サマリウムの発見者、ポール・ボアボードラン

ロシアウラル山脈南部に位置するイリメニ山脈のミアスワシーリー・サマルスキー=ビホヴェッツが新鉱物を発見し、ロシアの鉱山技術部隊のチーフスタッフであったサマルスキーはドイツの鉱物学者のグスタフ・ローゼおよびハインリヒ・ローゼの兄弟に対して研究のため鉱物標本の利用許可を与えた。1847年にハインリヒ・ローゼはサマルスキーへの献名としてその鉱物をサマルスキー石 (Samarskite, (Y,Ce,U,Fe)3(Nb,Ta,Ti)5O16) と命名した[14][15]。1879年にフランスの化学者であるポール・ボアボードランはパリでサマルスキー石からサマリウムを酸化物や水酸化物の形で単離し、強い吸収線スペクトルによってそれが新しい元素であることを確認した[9]。サマリウムを含むいくつかの希土類元素の発見は19世紀後半に複数の化学者によって発表されたが、ほとんどの情報源においてボアボードランを一番初めの発見者としている[16][17]。例えば1878年にスイスの化学者であるマルク・ドラフォンテーヌによって新しい元素としてdecipium(ラテン語で「あてにならない」「紛らわしい」を意味するdecipiensに由来する)が発表されたが[18][19]、1880年後半から1881年にかけてそれがボアボードランが発見したサマリウムを含むいくつかの元素の混合物であることが証明されている[20][21]。また、ボアボードランが単離したサマリウムも純粋なものではなく相当量のユウロピウムが含まれていた事も判明しており、純粋なサマリウムはユウロピウムの発見者であるウジェーヌ・ドマルセーによって1901年に得られた[22]

ボアボードランはこの新しい元素をサマリアと呼んだが後に他の元素の命名則に合わせてサマリウムとなり、サマリアという名称はジルコニアやアルミナ、セリア、ホルミアなどのように酸化サマリウムを言及するための名称としてしばしば利用されている。サマリウムの元素記号としてはSmが提案されたが、1920年代頃まではSaが多用されていた[22][23]。サマリウムの名称は鉱石の発見者であるサマルスキーの名前が元素名の由来となっており[15]、サマルスキーは人物名が元素名の由来となった初めての人物である[24][22]

1950年代にイオン交換による分離技術が出現する以前には、純粋な形でのサマリウムの商業的用途は存在しなかった。しかしネオジムの分別結晶化精製の副産物として生じるサマリウムとガドリニウムの混合物は、それを製造していた会社にちなんで"Lindsay Mix"と名付けられ、初期の原子炉のいくつかで核制御棒として使用された。今日では、これに類似した製品は"サマリウム-ユウロピウム-ガドリニウム" (SEG)と呼ばれている[24]。それはバストネサイト (もしくはモナズ石)から分離されるランタノイドの混合物から溶媒抽出法によって製造される。ランタノイドはより重いものほど溶媒との親和性が高いため、それらは比較的少量の溶媒で容易に抽出される。バストネサイトを処理する全ての希土類製造者が元の鉱石のわずか1、2 %を占めるにすぎないSEGの各構成元素をさらに分離するために十分な規模の設備を持つわけではなく、そのような生産者は専門的な処理業者に売却する目的でSEGを製造している。SEGからは蛍光体メーカーが利用する高価なユウロピウムが回収できる。2012年現在サマリウムは供給過剰であり、酸化サマリウムの価格は鉱石中に含まれるサマリウムの相対的な存在量から予測されるよりも安価に供給されている[25]

化合物

酸化物

サマリウムの最も安定な酸化物はセスキ酸化物であるSm2O3であり、Sm2O3には複数の結晶系のものが存在している。三方晶系のものは溶融させたものを徐冷することによって得られる。Sm2O3の融点は2365°Cと高いため、直接的な加熱ではなく高周波コイルによる誘導加熱によって溶融される。Sm2O3の単斜晶の結晶は火炎溶融法(ベルヌーイ法)によって結晶成長させることができ、粉末のSm2O3から直径1 cm、最大長さ数 cm のブールが得られる。ブールは純粋で格子欠陥などが含まれていなければ透明であるが、そうでなければオレンジ色を呈する。準安定な三方晶のSm2O3を1900°Cまで加熱すると、より安定な単斜晶に転移する[26]。立方晶のSm2O3もまた研究されている[27]

サマリウムは一酸化物SmOを形成する数少ないランタノイドの一つである。この黄金の光沢を持つ化合物はSm2O3を金属サマリウムを用いて1000°C、50 kbar以上の条件下で還元させることによって得られ、圧力が低いと反応は不完全に終わる。SmOは立方晶の塩化ナトリウム型構造を取る[28][29]

他のカルコゲナイド

サマリウムは硫黄セレンテルルと反応し、それぞれ3価の硫化物、セレン化物、テルル化物を形成する。2価のSmS、SmSe、SmTeも知られており、それらはSmOと同様に立方晶の塩化ナトリウム型構造を取る。これらのカルコゲナイドは室温において、圧力を加えることで半導体から金属に変化する性質を有している。SmSeおよびSmTeは20–30 kbarほどの圧力で連続的に変化するが、SmSはわずか6.5 kbarの圧力で急激に変化する。SmSの結晶やフィルムが引っ掻かれたり磨かれたりしたときに、この物性の変化は黒色から明るい黄色という劇的な色の変化を引き起こす。この物性変化によって結晶系は変化しないが、結晶の容積は15 %も激減する[30]。圧力から解放されるとSmSは0.4 kbarという非常に低い圧力で半導体に戻り、ヒステリシスを示す[8][31]

ハロゲン化物

金属サマリウムは全てのハロゲンと反応して三ハロゲン化物を与える[32]

2 Sm (s) + 3 X2 (g) → 2 SmX3 (s)

これらの三ハロゲン化物は金属サマリウムもしくは金属リチウム、金属ナトリウムと共に700から900°Cの高温にすることによって更に還元され、二ハロゲン化物を生じる[33]。二ヨウ化物は三ヨウ化物を加熱するか、室温において無水テトラヒドロフランを溶媒として金属サマリウムと1,2-ジヨードエタンを反応させることによっても得ることが出来る[34]

Sm (s) + ICH2-CH2I → SmI2 + CH2=CH2.

三ハロゲン化物の還元によって生成されるのは二ハロゲン化物に加え、Sm3F7, Sm14F33, Sm27F64[35], Sm11Br24, Sm5Br11およびSm6Br13のような明瞭な結晶構造を有する多数の不定比ハロゲン化物も生成される[36]

下記#サマリウム化合物の一覧の表にあるように、サマリウムのハロゲン化物はハロゲン元素の種類によってその結晶系が変わるという、大部分の元素では見られないような珍しい挙動を示す。ハロゲン化サマリウムの多くは1つの化合物に2つの主要な結晶相があり、一方は安定相でもう一方は準安定相である。準安定相は急冷後に加圧もしくは加熱することによって形成される。例えば、単斜晶(安定相)のヨウ化サマリウム(II)を加圧し、圧力を開放することで塩化鉛型結晶構造を有する斜方晶のヨウ化サマリウム(II)(密度:5.90 g/cm3)が得られ[37]、類似の方法によりヨウ化サマリウム(III)の新たな結晶相(密度:5.90 g/cm3)も得られる[38]

ホウ化物

酸化サマリウムおよびホウ素の粉末を真空下で焼結させることによっていくつかの相のホウ化サマリウムを含んだ粉末が得られ、サマリウムとホウ素の混合比を調整することで任意の組成の物が得られる[39]。この粉末はアーク溶融もしくはゾーンメルト法によって特定のホウ化サマリウムの大きな結晶とすることができ、溶融、結晶化温度を変えることでそれぞれSmB6 (2580°C)、SmB4(およそ2300°C)およびSmB66 (2150°C)が形成される。これらのホウ化サマリウムは全て硬く脆い暗灰色の固体であり、含まれるホウ素の割合が高くなるほど硬さが増す[40]。二ホウ化サマリウムはこれらの方法で製造するには揮発性すぎるため、安定して結晶成長させるためには高圧(およそ65 kbar)かつ低温(1140から1240°C)な条件が必要となる。これよりも高温になるとSmB6が優先されて形成する[41]

六ホウ化サマリウム

六ホウ化サマリウムはSm2+とSm3+のサマリウムイオンが3:7の割合で存在する典型的な中間原子価化合物である[39]。それは典型的な近藤絶縁体(近藤効果参照)に属しており、50 Kを越える高温では近藤金属に特有の強い電子散乱による金属的な電気伝導度を示すのに対し、低温ではおよそ4から14 meVという狭いバンドギャップの非磁性絶縁体としてふるまう[42]。六ホウ化サマリウムの冷却によって引き起こされる金属-絶縁体転移には熱伝導率の急激な増加が伴い、それはおよそ15 Kで最大値を示す。この原因は、低温領域における熱伝導は電子が熱の伝導に貢献しないためフォノンのみが熱伝導の要因となり、フォノンは電子による散乱を受けると熱伝導に寄与できなくなるため熱伝導率が低下するが、近藤効果によって金属から絶縁体へと転移することで電子密度が急激に減少するため電子にフォノンが散乱される割合もそれに伴って急激に減少するため、それまで電子による散乱をうけて熱伝導に寄与できなかったフォノンが熱伝導に寄与できるようになるためである[43]

新しい研究ではトポロジカル絶縁体となるかもしれないことが示されている[44][45][46]

他の無機化合物

硫酸サマリウム、Sm2(SO4)3

炭化サマリウムはグラファイトと金属サマリウムを混合し、不活性雰囲気下で溶融させることによって得られる。空気中で不安定な物質であるため、研究もまた不活性雰囲気下で行われる[47]。リン化サマリウムSmPはシリコンと同程度のバンドギャップ1.10 eVを示す半導体であり、N型半導体として高い電気伝導度を示す。それはリンと金属サマリウムの混合粉末を石英アンプル中に真空封管し、1100°Cで焼きなますことによって合成される。リンは高温では非常に揮発性であり爆発の危険があるため、加熱時の昇温ペースは1分間に1°C以下に保たなければならない[48]。ヒ化サマリウムSmAsも類似の方法で合成されるが、合成温度は1800°C以上である[49]

サマリウムの他の二元化合物としては、ケイ素ゲルマニウムスズアンチモンテルルといった第14族元素第15族元素第16族元素との化合物が知られており、また多くのグループの元素との間で合金を作る。それらは全て金属サマリウムおよび対応する元素の粉末を混合し、焼きなますことによって得ることができる。そうやって得られた化合物の多くは不定比化合物であり、SmaXb (b / a は0.5から3の間を変化する) という名目上の組成比を持つ[50][51][52]

有機金属化合物

サマリウムはシクロペンタジエニド Sm(C5H5)3 およびその塩化物誘導体 Sm(C5H5)2Cl を形成する。それらは塩化サマリウム(III)シクロペンタジエニルナトリウムとともにテトラヒドロフラン中で反応させることによって得られる。Sm(C5H5)3は他の大部分のランタノイド元素のシクロペンタジエニル錯体とは異なり、一部のC5H5が隣接するもう一方のサマリウム原子の方へ頂点や辺のみで結合しハプト数η1もしくはη2の配位をすることで架橋し、それによってポリマー鎖を形成する[12]。塩化物誘導体は二量体を形成し、より正確には(η5-C5H5)2Sm(µ-Cl)25-C5H5)2と表される。それらの塩素橋は例えばヨウ素や水素、窒素、もしくはシアン化物イオンなどによって置換される[53]

シクロペンタジエニド・サマリウム中の (C5H5) イオンはインデニド (C9H7) もしくはシクロオクタテトラニド (C8H8)2– 環と置換されてSm(C9H7)3 もしくは KSm(η8-C8H8)2を形成する。これらの化合物はウラノセンと類似した構造を有する。また、およそ85°C昇華する2価のシクロペンタジエニド Sm(C5H5)2 も存在する。フェロセンとは正反対に、Sm(C5H5)2中の C5H5 リングは平行でなく45 °傾いている[53][54]

サマリウムのアルカンおよびアリール化合物はテトラヒドロフランやエーテル中でメタセシス反応によって得ることができる[53]

SmCl3 + 3 LiR → SmR3 + 3 LiCl
Sm(OR)3 + 3 LiCH(SiMe3)2 → Sm{CH(SiMe3)2}3 + 3 LiOR

ここでRは炭化水素基、Meはメチル基を表す。

サマリウム化合物の一覧

同位体

天然に存在するサマリウムは4つの安定同位体および3つの放射性同位体からなり、128 Bq / g の放射能を有する。144Sm、150Sm、152Smおよび154Smの4つがその安定同位体であり、3つの放射性同位体の半減期はそれぞれ147Sm(半減期 = 1.06×1011年)、148Sm(7×1015 年)、149Sm(2×1015年)と非常に長い。天然存在比の最も大きな同位体は26.75 %を占める152Smである[66]149Smは様々な資料で安定同位体であるとも[66][67]、放射性同位体であるとも[68]される。

長寿命な放射性同位体である146Sm、147Smおよび148Smは、主にネオジムの同位体のアルファ崩壊によって生成する。それらよりも軽い放射性同位体は主にプロメチウムの同位体の電子捕獲によって生成し、より重いものはユウロピウムの同位体のベータ崩壊によって生成する[66]

147Smは1.06×1011年の半減期でアルファ崩壊し143Ndとなり、放射年代測定法の一つであるサマリウム-ネオジム法英語版として利用される。

151Smおよび145Smの半減期はそれぞれ90年および340日である。残りの放射性同位体の半減期はいずれも2日未満であり、それらの大部分は48秒未満である。サマリウムはまた5つの核異性体を持ち、最も安定な141mSmで半減期22.6分、次いで143m1Smが66秒、139mSmが10.7秒である[66]

生理作用

金属サマリウムは人体内における生物学的な役割を持たない。サマリウム塩類は代謝を促進するが、それが純粋にサマリウムの影響であるのか、もしくは共存する他の希土類元素の影響なのかは不明である。成人の体内に含まれるサマリウムの総量はおよそ50 マイクログラムであり、その大部分は肝臓および腎臓に存在しており、血液中に溶存しているサマリウム濃度はおよそ8 マイクログラム / リットルである。植物はサマリウムを吸収せず測定可能な濃度にまで蓄積されることがないため、サマリウムは通常人間の食事には含まれない。しかしながら、少数の植物や野菜は最大1 ppmのサマリウムを含む可能性がある。サマリウムの不溶性塩類は非毒性であり、溶解性のものはわずかに毒性を示す[8]

サマリウム塩が摂取された際にはその内のわずか0.05 %のみが血液中に吸収され、残りは排出される。血液からは45 %が肝臓、45 %が骨の表面へと運ばれて10年間残存し、残りの10 %は排出される[69]

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