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日本語の'''乳'''(ちち)には、次のような用法がある。 |
日本語の'''乳'''(ちち)には、次のような用法がある。 |
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# [[乳房]]のこと<ref name=KouJi1246>{{Cite book|和書|year=1989|title=日本語大辞典|edition=第一刷|publisher=講談社|pages=1246|chapter=【乳】|isbn=4-06-121057-2}}</ref>。 |
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# [[乳房]]のこと。 |
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# [[梵鐘]]の突起状装飾のこと |
# [[梵鐘]]の突起状装飾のこと<ref>{{cite web|title=梵鐘 対馬佐護観音堂(長崎)伝来 |
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|publisher=[[文化庁]]、文化遺産オンライン|url= http://bunka.nii.ac.jp/SearchDetail.do?heritageId=214803 |accessdate=2012-05-30}}</ref>。 |
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# 乳汁のこと。 |
# 乳汁のこと。 |
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本稿では、3番目に挙げられている乳汁について解説する。 |
本稿では、3番目に挙げられている乳汁について解説する。 |
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[[File:Human Breastmilk - Foremilk and Hindmilk.png|thumb|人間の母乳をサンプルとした、初乳(左)と後期乳(右)の比較。]] |
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[[File:Milk.jpg|thumb|[[パスチャライゼーション]]を施された[[牛乳]]。]] |
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'''乳汁'''(にゅうじゅう、ちちしる)とは、'''乳'''(ちち、にゅう)、'''ミルク'''(英: milk)とも言われる、[[動物]]のうち[[哺乳類]]が[[幼児]]に栄養を与えて育てるために母体が作りだす[[分泌液]]である。特に'''母乳''' (ぼにゅう)と呼ぶ場合は、[[ヒト]]の[[女性]]が出す乳汁を指すのが、慣例である。また、[[出産]]の直後に母体から出る乳汁は[[初乳]]と呼ばれ、区別される。 |
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'''乳汁'''(にゅうじゅう、ちちしる)とは、'''乳'''(ちち、にゅう)、'''ミルク'''({{lang-en-short|milk}})とも言われる、[[動物]]のうち[[哺乳類]]が[[幼児]]に栄養を与えて育てるために母体が作りだす[[分泌液]]である。特に'''母乳''' (ぼにゅう)と呼ぶ場合は、[[ヒト]]の[[女性]]が出す乳汁を指すのが、慣例である。[[誕生]]後の哺乳類が他の[[食物]]を摂取できるようになるまでの間、[[子供]]の成長に見合った[[栄養]]を獲得できる最初の源となる<ref name=pub>{{cite web|title=牛乳、乳製品の知識|publisher=社団法人日本酪農乳業協会|url= http://www.j-milk.jp/publicities/8d863s0000063ng7-att/8d863s0000063nl9.pdf |format=PDF |accessdate=2012-05-30}}</ref>。 |
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== 概説 == |
== 概説 == |
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[[File:Feeding Is Fun.jpg|thumb|母親からの授乳を飲む人間の乳児。]] |
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どんな哺乳類も本来子供を出産した後、哺乳期間の間だけ母体は乳汁を作り出す。この哺乳期間は[[種 (分類学)|種]]によって違い、数ヵ月から数年である。ヒトの場合は子供に乳汁を与えている間、身体は受注生産で乳汁を作り出し、吸われる限り母乳を作り出す。ただし、出産直後でも授乳をしていなければ数週間で乳汁は出てこなくなる。この乳汁は、[[乳房]]の中の[[乳腺]]で作られ、[[乳管]]を通して[[乳首]]から体外に出てくる。なお、乳腺は[[血液]]中に含まれる[[赤血球]]を取り除き(血管内に赤血球を残し)、さらに必要量の[[乳糖]]や乳脂質や乳蛋白質を合成し、これらを合わせて乳汁を作っている。 |
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[[File:Kid feeding on mothers milk.jpg|thumb|子[[ヤギ]]が母乳を飲む様子。]] |
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[[File:Holstein cows large.jpg|thumb|[[ホルスタイン]]。今日、工業化された酪農業において広く飼育される種。]] |
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一般の[[食物]]は、本来は[[生体]][[組織 (生物学)|組織]]や[[種子]]などである。それに対しミルクは食糧として作られる唯一の[[天然物]]である<ref>{{cite web|title=ミルク科学研究室 |author=増田哲也|publisher=[[日本大学]]、生物資源科学部、動物資源科学科|url= http://hp.brs.nihon-u.ac.jp/~asr/milk.html |accessdate=2012-05-30}}</ref>。 |
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ミルクは、分泌作用を持つ[[外分泌腺]]の一種である乳腺から引き出されている<ref name="Oftedal 2002 225–252">{{cite journal |last=Oftedal |first=Olav T. |title=The mammary gland and its origin during synapsid evolution|journal=Journal of Mammary Gland Biology and Neoplasia |volume=7 |issue=3 |pages=225–252 |year=2002 |doi=10.1023/A:1022896515287 |pmid=12751889}}</ref>。この事から、[[授乳]]機構とは、原始的には[[卵]]の[[湿度]]を維持する役目が発達したものと考えられる。この仮説は、[[カモノハシ目]](卵生哺乳類)の生態を根拠に立てられた<ref name="Oftedal 2002 225–252"/><ref>{{cite journal |last1=Oftedal |first1=Olav T. |title=The origin of lactation as a water source for parchment-shelled eggs |journal=Journal of Mammary Gland Biology and Neoplasia |volume=7 |issue=3 |pages=253–66 |year=2002 |pmid=12751890 |doi=10.1023/A:1022848632125}}</ref><ref>{{cite web|url=http://nationalzoo.si.edu/ConservationAndScience/SpotlightOnScience/oftedalolav20030714.cfm |archiveurl=http://web.archive.org/web/20090414083919/http://nationalzoo.si.edu/ConservationAndScience/SpotlightOnScience/oftedalolav20030714.cfm |archivedate=2012-05-30 |title=Lactating on Eggs |publisher=Nationalzoo.si.edu |date=2003-07-14 |accessdate=2009-03-08}}</ref>。授乳の根本目的は、栄養摂取<ref>{{Cite journal|author=Lefèvre C.M., Sharp J.A., Nicholas K.R.|title=Evolution of lactation: ancient origin and extreme adaptations of the lactation system|pmid=20565255|journal=Annual Review of Genomics and Human Genetics|issue=11|pages=219–238|year=2010|volume=11|doi=10.1146/annurev-genom-082509-141806}}</ref>もしくは[[免疫]]による防御<ref>{{Cite journal|author= Vorbach C., Capecchi M.R., Penninger J.M.|title=Evolution of the mammary gland from the innate immune system?|journal=Bioessays|volume=28|pages=606–616|year=2006|pmid=16700061|doi=10.1002/bies.20423|issue= 6}}</ref><ref>{{Cite journal| author=Goldman A.S.|title=Evolution of the mammary gland defense system and the ontogeny of the immune system|pmid=12751892|url=http://pages.usherbrooke.ca/infosbio/PSL705/temp/evolution%20immune%20system.pdf|journal=Journal of Mammary Gland Biology and Neoplasia|issue=7|pages=277–289|year=2002| volume=7}}</ref>であったという考えが受け入れられている。そしてこの分泌物は、進化を遂げる時間の中で、その量を増やし、複雑な栄養素を含むようになった<ref name="Oftedal 2002 225–252"/>。 |
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出産直後に母体から出る乳汁は[[初乳]]と呼ばれ、幼児の[[免疫]]にとって重要な[[ラクトフェリン]]やIgA([[免疫グロブリン]])などの成分が多く含まれている。その後の乳汁には幼児がある程度成長するまで必要とされる栄養分を含んでいるので、哺乳類の幼児はある期間、この乳汁だけを食料として成長を続けられる。やはり乳汁の成分も種によって違う。例えば、乳糖の割合は、[[カンガルー]]で7.6%、ヒトで7.2%、[[ウシ]]や[[ネコ]]で4.8%、[[イヌ]]で3.1%、[[クジラ]]で1.3%、[[ウサギ]]で0.9%などバラツキが見られる |
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八木 直樹 『食品の科学と新技術』 p.103 日本出版制作センター 1992年2月15日発行 |
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最初に授乳されるミルク([[初乳]])には、[[母親|母体]]から赤ん坊へ与えられる[[抗体]]が含まれ、以後のさまざまな[[病気]]にかかる危険性を低める効果がある<ref>{{cite web|title=特別演習 基礎薬学|author=荒牧弘範|publisher=[[第一薬科大学]]分子生命化学教室|url= http://square.umin.ac.jp/haramaki/yakudai/meneki/042507.pdf|format=PDF |accessdate=2012-05-30}}</ref>。また、[[ウサギ]]の母乳から、子供を乳首に吸いつけさせる[[フェロモン]] (2-methylbut-2-enal, 2MB2) が発見された報告もある<ref>{{cite web|title=6. 赤ん坊が乳を吸う|author=五嶋良郎|publisher=[[横浜市立大学]]分子生命化学教室|url= http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~pharmac/04goshima/6goshima_milk.html|accessdate=2012-05-30}}</ref>。[[生乳]]が含んでいる栄養成分は動物の[[種 (分類学)|種]]によって差異があるが、主に[[飽和脂肪酸]]・[[タンパク質]]・[[カルシウム]]そして[[ビタミンC]]を含む。牛乳は[[水素イオン指数]] (pH) 6.4 - 6.8 を示す[[弱酸性]]である<ref>{{cite journal|author=William H. Bowen and Ruth A. Lawrence|title=Comparison of the Cariogenicity of Cola, Honey, Cattle Milk, Human Milk, and Sucrose|doi=10.1542/peds.2004-2462|year=2005|journal=Pediatrics|volume=116|issue=4|pages=921–6|pmid=16199702}}</ref><ref>{{cite web|title= Soil pH: What it Means |publisher= SUNY College of Environmental Science and Forestry. www.esf.edu.|url= http://www.esf.edu/pubprog/brochure/soilph/soilph.htm |language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>。 |
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本来、乳汁は、哺乳類の母親が自分の子供に与えるものである。稀に、自分の子供以外の子供に乳汁を与えた例も観察されているが、それでも乳汁を与える対象は、哺乳期間にある子供のみであるのが本来の姿である。よって、ある程度成長すると、一般的な哺乳類は乳汁を摂取しなくなるし、仮に摂取しても哺乳期間は消化できていた乳糖が消化できずに、結果として下痢などを引き起こし体調を崩す原因になる。これが遅発性の乳糖不耐であり、これは哺乳類全般に見られる[[不耐]]である。特異な例としてはヒトが挙げられ、哺乳期間終了どころか成体になってからも乳汁を摂取し、それを十分に消化してしまえる個体が多数存在する。そのような個体は、成体であるにもかかわらず乳汁を飲んでも下痢などの症状が起こらない。しかしながら、ヒトにとっても哺乳期間終了後に乳汁を摂取し続けるという食習慣は、比較的新しい習慣であるため、乳汁を長期に渡って摂取していないと、腸内の乳糖を分解する酵素の活性が落ちて、十分な消化ができなくなる。これは別にいわゆる[[成年]]に達していなくとも哺乳期間が終わった者には、たとえ健康であっても起こり得る現象であって、病気ではない。一般的な哺乳類と同様に、遅発性の乳糖不耐が起こったに過ぎないのである。それでも、日常生活で摂取するような分量(常識的な分量)の乳汁を摂取しただけで、下痢などを起こしてしまうほど程度が酷い場合は[[乳糖不耐症]]と呼ぶ。ヒトは、何種類かの動物を[[家畜]]として飼育するようになり、そして家畜化された哺乳類が出す乳汁を食糧として使うようになったため、この乳糖不耐症が問題となるのである。家畜化した哺乳類の乳汁を使うことには、幾つか利点があった。まずは、乳汁が栄養豊富だったこと、そして、乳汁を取ったところでその家畜は死なないこと、さらに、その日に必要な分だけを取ることが出来る(その都度生成される)ので、保存の役目も果たすことなどが挙げられる。その上乳汁は、ただ飲料として用いる以外にも様々に加工することができた。乳汁は加工することで、[[生クリーム]]、[[バター]]、[[ヨーグルト]]、[[チーズ]]などを作ることもできたし、変わり種としては、酒 |
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乳汁は、一般的な酒の材料ではないので、 |
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酒には内部リンク不要です。 |
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[[馬乳酒]]のような[[醸造酒]]だけではなく、ミルキーウォッカ(100%[[牛乳]]で作った[[ウォッカ]])のような[[蒸留酒]]も造られている。 |
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を作る例も見られる。また、料理の材料の一部として使う例については枚挙に暇がない程である。しかしながら、特に農耕を営んできた民族にとっては、別に家畜の乳汁を食料として使わずとも良かったので、ヒトの全てが同じように乳汁を利用してきたわけではないことを付言しておく。 |
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[[ウシ]]の[[種 (分類学)|種]]が提供するミルクは、多くの栄養素を含む重要な食品である<ref name=pub />。2011年、世界中では、1億3189万頭の[[乳牛]]が飼育され、4億4467万トンの牛乳が生産された<ref group="2-">USDA「World Markets and Trade」 (In selected countries)</ref>。国別では[[インド]]が生産および消費のいずれも1位であり、ミルクの輸出入は行われていない。[[ニュージーランド]]、[[EU]]加盟15ヶ国、[[オーストラリア]]がミルクや乳製品の3大輸出国である。一方で輸入は[[中華人民共和国]]、[[メキシコ]]、[[日本]]が上位3位までに入る。ミルクは特に発展途上国において、栄養供給と食糧の安全保障の確立に貢献する重要な食品である。[[家畜]]の改良、酪農技術、およびミルクの品質は、貧困問題や世界的な食糧問題の解決に、大きく役立つものとも考えられている<ref>{{cite web|title=Status and Prospects for Smallholder Milk Production: A Global Perspective|publisher=Food and Agriculture Organization of the United Nations|year=2010|author=Hemme and Otte|url=http://www.fao.org/docrep/012/i1522e/i1522e00.pdf |format=PDF|language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>。 |
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他、現在では、乳汁から[[カゼイン]]を取り出してカゼインプラスチックを作るなど、食材以外の用途に利用される場合もある。 |
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== 乳 |
=== 母乳以外のミルク === |
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単語「乳」または「ミルク」は、色や食感が似ている動物由来ではない飲料を表す際にも使われる。[[豆乳]] (soy milk) 、[[粥]] (rice milk) 、[[アーモンドミルク]]や[[ココナッツミルク]]などがこれに該当する。また、哺乳類以外でも[[ハト目]]の親が若鳥に与えるため分泌する液体も[[素嚢乳]] (crop milk) と呼ばれ、哺乳類のミルクとの共通性も見られる<ref>{{Cite book|last=Gussekloo|first=S.W.S.|editor-last=Bels|editor-first=V|title=Feeding in Domestic Vertebrates: From Structure to Behaviour|year=2006|publisher=CABI Publishing|isbn=978-1-84593-063-9|page=22|chapter=Chapter 2: Feeding Structures in Birds|quote=A remarkable adaptation can be found in the crop of pigeons. During the breeding season the crop produces a yellow-white fat-rich secretion known as crop milk that is used to feed the nestlings. … The crop milk resembles strongly the milk produced by mammals, except for the fact that carbohydrates and calcium are missing in crop milk.}}</ref>。また、[[植物]]に切れ目を入れた際に滲み出る白い液体も「乳」({{lang-en-short|latex}})と言う<ref name=KouJi1246 />。 |
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既述の[[乳糖不耐症]]が、生死に関わるような事態に発展することはあまりない。しかし、[[遺伝子]]に問題があったり、[[奇形]]が存在したり、[[免疫]]システムに問題が発生していることなどが原因で、乳汁を摂取すると生死に関わるような事態も起こり得る。 |
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== 需要 == |
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例えば、ごく稀にではあるものの、ヒトでは先天的に[[ラクターゼ]]が合成できない個体も確認されており、この場合は哺乳期間であるはずの[[新生児]]の段階ですら乳糖不耐症が発生する。これは先天性の乳糖不耐と呼ばれる。こちらは明らかな異常であり、唯一の食料である乳汁を十分に消化できないので、本来であれば生存は難しくなる |
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ミルクを消費する方法には、大きく2種類がある。ひとつは幼い哺乳類が授乳される自然な状態であり、もうひとつは成熟した人類が他の動物から得たミルクを加工して食品とする場合である。 |
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より詳しくは、「[[乳糖不耐症]]」の記事を参照のこと。 |
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</ref> |
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またヒトでは、これら乳糖に対する[[不耐]]とは全く別に、遺伝子の異常や、[[門脈]]の奇形が原因で、乳糖が分解されて出てくる[[ガラクトース]]を上手く代謝できない個体も確認されている。この場合、何も手を打たないと(一般的な乳汁に限らず、乳糖を含む食品の摂取を避けない限り)、[[ガラクトース血症]]を発症して多くは死亡する |
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<ref> |
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より詳しくは、「[[ガラクトース血症]]」の記事を参照のこと。 |
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</ref> |
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。 |
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さらにヒトでは、乳汁に含まれる成分に対して[[アレルギー]]反応を示す個体が散見され、これは[[食物アレルギー]]の中でも比較的よく見られるものとして知られる。乳汁に対してアレルギーを起こす個体が乳汁を摂取すると、最悪の場合、[[アナフィラキシーショック]]を起こして死亡する |
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より詳しくは、「[[食物アレルギー]]」の記事を参照のこと。 |
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</ref> |
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=== 授乳 === |
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また、母親が乳汁に移行する性質を持った薬剤を使用している場合は、基本的に授乳できない。さらに薬剤だけではなく、例えば[[タバコ]]を吸っている女性は、[[脂肪]]に蓄えられた[[ダイオキシン]]が母乳と一緒に排出される場合もあるので注意を要する。他、母親が[[成人T細胞白血病]](ATL)の[[キャリア]]である場合は、母乳に含まれる[[リンパ球]]を通して乳児に[[ウイルス]]感染する危険性が極めて高いので、自然状態での授乳は避けるべきであり、人工乳を使用するか、一定期間冷凍保存してリンパ球を不活性化させた母乳で養育することが望ましい。同じく、母親が[[エイズ]]のキャリアである場合は、母乳を通しても感染する可能性があるので、人工乳を使用するべきである。他に、[[チェルノブイリ原子力発電所事故]]後は、乳汁の1種である牛乳に含まれていた[[放射性物質]]が、[[内部被曝]]の原因の1つとして問題となったことで知られる。 |
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ほとんど全ての哺乳類では、ミルクは[[赤ちゃん]]に[[母乳栄養]]を与えるために直接または一時的に貯めた状態のものを飲ませる<ref name=pub />。その中で人間は、幼年期を過ぎてもミルクを消費する数少ない例外に当る。ミルクを常飲するグループの中には、ウシだけでなく[[家畜化]]した[[有蹄類]]の乳を利用する地域もある<ref name=GB>{{Cite news|url=http://www.theglobeandmail.com/servlet/ArticleNews/TPStory/LAC/20040626/MOOSE26/TPEntertainment/Style|date=26 June 2004|accessdate=2007-08-27|title=Moose milk makes for unusual cheese|publisher=The Globe and Mail |archiveurl = http://web.archive.org/web/20070930035220/http://www.theglobeandmail.com/servlet/ArticleNews/TPStory/LAC/20040626/MOOSE26/TPEntertainment/Style |archivedate = September 30, 2007}}</ref>。インドは牛乳だけでなく水牛の乳の生産や消費も世界一である<ref>{{cite web|url=http://www.indiadairy.com/ind_world_number_one_milk_producer.html |title=World's No 1 Milk Producer |publisher=Indiadairy.com |language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>。 |
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乳糖は、ミルクの他に[[レンギョウ]]の花やわずかな熱帯性低木の中だけに含まれるもので、これを消化するために必要な[[酵素]]である[[ラクトース]]の数は出生後に[[小腸]]の中で最も高くなるが、ミルクを恒常的に飲まなくなるにつれ徐々に減退する<ref name="On Food and Cooking">{{Cite book|last = McGee|first = Harold |title = On Food and Cooking: The Science and Lore of the Kitchen|origyear = 1984|year=2004|publisher =Scribner|edition=2nd |location = New York|isbn = 978-0-684-80001-1|url=http://books.google.com/books?id=bKVCtH4AjwgC&lpg=PP1&pg=PA7|pages = 7–67|chapter = Milk and Dairy Products}}</ref>。人がヤギの生乳を乳児に与える事があるが、ここには危険が潜んでいる事が知られている。水電解質平衡異常、{{仮リンク|代謝性アシドーシス|en|metabolic acidosis}}、{{仮リンク|巨赤芽球性貧血|en|megaloblastic anemia}}や数々の[[アレルギー]]反応などである<ref>{{Cite journal| author = Basnet, S.; Schneider, M.; Gazit, A.; Mander, G.; Doctor, A.|title = Fresh Goat's Milk for Infants: Myths and Realities—A Review|journal = Pediatrics|volume = 125|issue = 4 |date = April 2010| pages = e973–977|doi = 10.1542/peds.2009-1906|pmid = 20231186}}</ref>。 |
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== 食用に供される家畜の乳汁 == |
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様々な家畜の乳汁が、あちらこちらの地域で、飲料としてだけではなく、食材として様々な料理に用いられている。しかしながら、本来は子供の哺乳期間が終わってしまえば母体から乳汁は出なくなるので、家畜から乳汁を連続して得るために、いくつかの方法が考えられてきた。これは[[ウシ]]の例だが、牝牛が子供に乳汁を与えなくなった後も、乳汁を絞りなおかつ仔牛の張子を牝牛の前に置いておくなどの方法が取られている。 |
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たが、現在一般的には、(筆者はしりませんのでよろしく)。 |
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食材としてヒトが用いている家畜の乳汁の種類としては、次のようなものが知られる。 |
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=== 乳製品 === |
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; 牛乳 |
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牛乳を元に様々な[[乳製品]]が作られている。脂肪を集めて得られたクリームからは[[生クリーム]]や[[バター]]、逆に脂肪を取り除いた脱脂乳からは[[脱脂粉乳]]や[[スキムミルク]]などが出来る。牛乳を[[濃縮]]した[[コンデンスミルク]]、[[発酵]]させた[[ヨーグルト]]、[[凝固]]・発酵・[[加熱]]などのプロセスを経て作られる各種[[チーズ]]などである<ref>{{cite web|title=牧場おしごと探検隊‐牛乳は栄養満点の飲みもの|publisher=[[酪農学園大学]]|url= http://www.rakuno.ac.jp/rakuno/08_eiyo.html |accessdate=2012-05-30}}</ref>。 |
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: [[ウシ]]の乳汁。最も一般的に食用にされる乳汁である。 |
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; 水牛乳 |
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: [[スイギュウ]](水牛、バッファロー)の乳汁。一般的な牛乳より濃厚で脂肪分に富む。主に、スイギュウを家畜として飼う[[南アジア]]等で食用にされる。 |
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; ヤク乳 |
|||
: [[ヤク]]の乳汁。[[ネパール]]や[[チベット]]等において食用にされる。 |
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; 山羊乳 |
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: [[ヤギ]]の乳汁。主に、[[スイス]]等の[[ヨーロッパ]]内陸部で食用にされ、また、スイスにて生息するザーネン種等のように、羊乳を[[チーズ]]に加工しているところもある。 |
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; 羊乳 |
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: [[ヒツジ]]の乳汁。 |
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; 馬乳 |
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: [[ウマ]]の乳汁。[[モンゴル]]などの[[中央アジア]]等において食用にされる。また、[[馬乳酒]]が作られることでも知られる。 |
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; ラクダ乳 |
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: [[ラクダ]]の乳汁。[[中央アジア]]等において食用にされる。 |
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== |
=== 消費量 === |
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{| class="sortable wikitable" |
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乳汁には、主に次のような成分が含まれる。ただし、動物の[[種 (分類学)|種類、品種]]によって成分の比率は異なる。さらに、たとえ同じ種であっても、[[出産]]からの経過時間、食べる餌、気候などによっても成分は変化する。 |
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|+牛乳および牛乳製品の一人当たり消費量、上位10ヶ国</br>(2006年)<ref name="intro">{{cite web|last=Goff|first=Douglas|title=Introduction to Dairy Science and Technology: Milk History, Consumption, Production, and Composition |url=http://www.foodsci.uoguelph.ca/dairyedu/intro.html|work=Dairy Science and Technology|publisher=University of Guelph|language=英語|accessdate=2012-05-30|year=2010}}</ref> |
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* [[水]] |
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|- |
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* [[脂肪]](乳脂質、乳脂肪分とも呼ばれる) |
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! 国!! ミルク([[リットル|l]]) !! チーズ([[キログラム|kg]]) !! バター(kg) |
|||
** [[オレイン酸]] |
|||
|- |
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** [[ミリスチン酸]] |
|||
| {{FIN}} || 183.9 || 19.1 || 5.3 |
|||
** [[リノール酸]] |
|||
|- |
|||
** [[ドコサヘキサエン酸]] など |
|||
| {{SWE}} || 145.5 || 18.5 || 1.0 |
|||
* [[コレステロール]] |
|||
|- |
|||
* [[タンパク質]](乳蛋白質とも呼ばれる) |
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| {{IRL}} || 129.8 || 10.5 || 2.9 |
|||
** [[カゼイン]] |
|||
|- |
|||
** [[ラクトフェリン]] |
|||
| {{NED}} || 122.9 || 20.4 || 3.3 |
|||
** [[ラクトアルブミン]]など |
|||
|- |
|||
* [[糖質]] |
|||
| {{NOR}} || 116.7 || 16.0 || 4.3 |
|||
** [[乳糖]] など |
|||
|- |
|||
* [[灰分]] |
|||
| {{ESP}} || 119.1 || 9.6 || 1.0 |
|||
** [[カリウム]] |
|||
|- |
|||
** [[カルシウム]] |
|||
| {{SUI}} || 112.5 || 22.2 || 5.6 |
|||
** [[ナトリウム]] |
|||
|- |
|||
** [[リン]] |
|||
| {{GBR}} || 111.2 || 12.2 || 3.7 |
|||
** [[マグネシウム]] など |
|||
|- |
|||
* [[アミノ酸]] |
|||
| {{AUS}} || 106.3 || 11.7 || 3.7 |
|||
** [[タウリン]] など |
|||
|- |
|||
* [[核酸]] |
|||
| {{CAN}} || 94.7 || 12.2 || 3.3 |
|||
** [[デオキシリボ核酸|DNA]] |
|||
|} |
|||
** [[リボ核酸|RNA]] |
|||
** [[ヌクレオチド]] |
|||
* [[ビタミン]] |
|||
** [[ビタミンC]]<br>[[牛乳]]にビタミンCがほとんど含まれていないのは、子牛が自らビタミンCを合成できるので摂取する必要がないためである。逆に、ヒトの[[母乳]]にビタミンCが含まれているのは、[[ヒト]]の乳児がビタミンCを合成できないので摂取する必要があるためである<ref>[[ビタミンC]]、[[母乳]]も参照のこと。</ref>。 |
|||
** [[ビタミンE]] |
|||
** [[ナイアシン]] |
|||
** [[ビタミンB2|ビタミンB<sub>2</sub>]] |
|||
** [[ビタミンB1|ビタミンB<sub>1</sub>]] など |
|||
== |
== 供給 == |
||
西洋諸国では、牛乳が産業レベルの規模で生産され、各種のミルクの中で最も多く消費されている。商業的な酪農では{{仮リンク|自動搾乳機|en|automatic milking}}が導入されており、先進国ではほとんどの牛乳を供給している。そこでは、牛乳生産に注力するためホルスタインのような[[乳牛]]が選択的に飼育される。アメリカ合衆国の乳牛のうち90%、イギリスの80%がホルスタインである<ref name="On Food and Cooking"/>。飼われる他の乳牛種には、{{仮リンク|エアシャー種|en|Ayrshire cattle}}、{{仮リンク|ブラウン・スイス種|en|Brown Swiss}}、{{仮リンク|ガンジー種|en|Guernsey cattle}}、[[ジャージー種]]、[[ショートホーン|デイリー・ショートホーン種]]などがある<ref name=pub />。 |
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* [[乳製品]] |
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* [[母乳栄養]]/[[授乳]] |
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[[File:Goat in melking stall 20050429-593.jpg|thumb|ヤギの乳からはチーズなどの酪農製品がつくられる。]] |
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* [[搾乳]] |
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=== 牛以外からの供給 === |
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* [[乳腺]]/[[乳房]] |
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ウシ以外でも、人類は多様な動物を家畜化し、そのミルクを利用している。例えば、[[ラクダ]]、[[ロバ]]、[[ヤギ]]、[[ウマ]]、[[トナカイ]]、[[羊]]、[[水牛]]、[[ヤク]]などである。[[ロシア]]や[[スウェーデン]]では[[ヘラジカ]]の乳も利用している<ref name=GB />。 |
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全米バイソン協会によると、[[アメリカバイソン]](アメリカンバッファローとも呼ばれる)のミルクは商業的な取引こそ行われていないが<ref>{{cite web|url=http://www.bisoncentral.com/index.php?c=63&d=73&a=1022&w=2&r=Y|title=About Bison: Frequently Asked Questions|publisher=National Bison Association|language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>、ヨーロッパ人の北米移住や<ref>{{Cite book|last=Allen|first=Joel Asaph|title=History of the American Bison: bison americanus|editor=Elliott Coues, Secretary of the Survey|publisher=Department of the Interior, United States Geological Survey, Government Printing Office|location=Washington, DC|date=June 1877|series=extracted from the 9th Annual Report of the United States Geological Survey (1875)|pages=585–586|chapter=Part II., Chapter 4. Domestication of the Buffalo|oclc=991639|url=http://books.google.com/?id=oj04AAAAMAAJ&pg=PA585|language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>1970‐1980年に行われた{{仮リンク|ビーファロ種|en|Beefalo}}の商業的交雑<ref>{{Cite journal|date=March/April 1981|title=The Basics of Beefalo Raising|journal=Mother Earth News|first=George |last=O'Connor |publisher=Ogden Publications|issue=68|url=http://www.motherearthnews.com/Sustainable-Farming/1981-03-01/The-Basics-of-Beefalo-Raising.aspx|language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>以降、乳牛の品種改良のために行われる交配に利用されることが多い。 |
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=== 生産国 === |
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[[File:MilkMaid.JPG|thumb|right|upright|ウシの乳搾りをする少女。]] |
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ミルクの最大生産国はインド、次いでアメリカ<ref>{{cite web|url= http://www.fao.org/docrep/009/j7927e/j7927e09.htm |title= International dairy product prices are turning down: how far, how fast?|publisher= FAO Food outlook No.1, June 2006. www.fao.org |language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>に、ドイツとパキスタンが続く。 |
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発展途上国の経済成長と、ミルクおよび乳製品の販売促進が相まって、近年これらの国におけるミルク全体の消費量は伸長している。それに伴い、成長市場をターゲットにした酪農系多国籍企業の投資も活発になっている。このような潮流にもかかわらず、多くの国でミルク生産事業体は依然として小規模なままに止まり、それのみの収入に頼っていられない状態にある<ref>{{cite web|url= ftp://ftp.fao.org/docrep/fao/011/i0521e/i0521e00.pdf |format=PDF|title=Milk for Health and Wealth |author= J. Henriksen |publisher= FAO Diversification Booklet Series 6, Rome |language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>。 |
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以下の表は水牛のミルク生産量を国別に示す。 |
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{| class="wikitable" |
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|+水牛のミルク生産上位10ヶ国(2007年)<ref>{{cite web|url= http://faostat.fao.org/site/569/DesktopDefault.aspx?PageID=567#ancor |title= Livestock Production statistics |publisher= FAOSTAT, Food And Agricultural Organization of the United Nations. faostat.fao.org |language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref> |
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!国 |
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!生産量(トン) |
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!付記 |
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|- |
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| {{IND}} || 59,210,000|| 非公式なデータを含む |
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|- |
|||
| {{PAK}} || 20,372,000|| 公式発表 |
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|- |
|||
| {{PRC}} || 2,900,000 |
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| rowspan="2"|[[国際連合食糧農業機関|FAO]]調べ |
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|- |
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| {{EGY}} || 2,300,000 |
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|- |
|||
| {{NEP}} || 958,603||公式発表 |
|||
|- |
|||
| {{IRN}} || 241,500 |
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| FAO調べ |
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|- |
|||
| {{BIR}} || 220,462||公式発表 |
|||
|- |
|||
| {{ITA}} || 200,000 |
|||
| rowspan="2"| FAO調べ |
|||
|- |
|||
| {{VNM}} || 32,000 |
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|- |
|||
| {{TUR}} || 30,375||公式発表 |
|||
|- style="background:#ccc;" |
|||
||{{noflag}}世界 |
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| 86,574,539 |
|||
| 公式発表 |
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|} |
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== 歴史 == |
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人類が他の動物の乳を定常的に飲むようになったのは、ユーラシアでは{{仮リンク|新石器革命|en|Neolithic Revolution}}期に家畜を飼い始めたこともしくは[[農業]]の革新が契機となった。この新たな食糧確保は、紀元前9000-7000年頃の[[西南アジア]]や<ref>{{cite book|last=Bellwood|first=Peter|title=First Farmers: the origins of agricultural societies|year=2005|publisher=Blackwell Publushing|location=Malden, MA|isbn=978-0-631-20566-1|pages=44–68|chapter=The Beginnings of Agriculture in Southwest Asia}}</ref>、前3500-3000年頃の[[アメリカ州]]<ref>{{cite book|last=Bellwood|first=Peter|title=First Farmers: the origins of agricultural societies|year=2005|publisher=Blackwell Publushing|location=Malden, MA|isbn=978-0-631-20566-1|pages=146–179|chapter=Early Agriculture in the Americas}}</ref>でもそれぞれ独立して発生した。ウシ・ヒツジ・ヤギといった重要な動物の家畜化は西南アジアで始まったが<ref name=pub />、それ以降、野生の[[オーロックス]]を飼いならす例は世界中の様々な時と場所で起こった<ref>{{cite doi|10.1073/pnas.0509210103}}</ref><ref>{{cite doi|10.1371/journal.pone.0001592|noedit}}</ref>。当初、動物の家畜化は[[肉]]を得るために行われたが、考古学者{{仮リンク|アンドリュー・シェラット|en|Andrew Sherratt}}が提唱した考えによると、酪農は、家畜から体毛を得たり労働をさせたりする行為の進展とともに、{{仮リンク|二次産物革命|en|secondary products revolution}}よりももっと後の前4000年頃に形作られたという<ref>{{cite book|last=Sherratt|first=Andrew|title=Pattern of the Past: Studies in honour of David Clarke|year=1981|publisher=Cambridge University Press|location=Cambridge|isbn=0-521-22763-1|pages=261–305|editor1-last=Hodder|editor1-first=I.|editor2-last=Isaac|editor2-first=G.|editor3-last=Hammond|editor3-first=N.|chapter=Plough and pastoralism: aspects of the secondary products revolution}}</ref>。ただし、近年の発見はシェラットの説に反する。[[先史時代]]の[[土器]]に残る液体の痕跡を分析した結果、西南アジアにて酪農は初期農業段階で既に行われていたと判明し、その時期は前7000年頃と推定された<ref>{{cite journal|last1=Vigne|first2=J.-D.|last2=Helmer|first=D.|title=Was milk a "secondary product" in the Old World Neolithisation process? Its role in the domestication of cattle, sheep and goats|journal=Anthropozoologica|year=2007|volume=42|issue=2|pages=9–40|url=http://www.mnhn.fr/museum/front/medias/publication/12514_009_040.pdf}}</ref><ref>{{cite doi|10.1038/nature07180}}</ref>。 |
|||
西南アジア発祥の酪農は、紀元前7000年頃からヨーロッパに伝わり、前4000年以降に[[ブリテン諸島]]や[[スカンディナヴィア半島]]まで伝播した<ref>{{cite book|last=Price|first=T. D.|title=Europe's First Farmers|year=2000|publisher=Cambridge University Press|location=Cambridge|isbn=0-521-66203-6|pages=1–18|editor=T. D. Price|chapter=Europe's first farmers: an introduction}}</ref>。[[南アジア]]には前7000-5500年頃に伝わった<ref>{{cite book|last=Meadow|first=R. H.|title=The origins and spread of agriculture and pastoralism in Eurasia|year=1996|publisher=UCL Press|location=London|isbn=1-85728-538-7|pages=390–412|editor=D. R. Harris|chapter=The origins and spread of agriculture and pastoralism in northwestern South Asia}}</ref>。搾乳を始めたのは中央ヨーロッパ<ref>{{cite journal|last=Craig|first=Oliver E.|coauthors=John Chapman, Carl Heron, Laura H. Willis, László Bartosiewicz, Gillian Taylor, Alasdair Whittle and Matthew Collins|title=Did the first farmers of central and eastern Europe produce dairy foods?|journal=Antiquity|year=2005|volume=79|issue=306|pages=882–894|url=http://antiquity.ac.uk/ant/079/ant0790882.htm}}</ref>ブリテン諸島<ref>{{cite doi|10.1016/j.jas.2004.08.006}}</ref>の農民たちと考えられる。[[牧畜]]や[[遊牧]]のような耕作よりも家畜に大きく依存する経済活動は、農業主体のヨーロッパ人集団が[[カスピ海]]近郊の[[ステップ]]地帯に移動した紀元前4世紀頃に発達し、後に[[ユーラシア大陸]]のステップ気候域に広まった<ref>{{cite book|last=Anthony|first=D. W.|title=The Horse, the Wheel, and Language|year=2007|publisher=Princeton University Press|location=Princeton, NJ|isbn=978-0-691-05887-0}}</ref>。アフリカのヒツジやヤギは西南アジアから持ち込まれたものだが、ウシは前7000-6000年頃に独自に飼いならしたものと考えられる<ref>{{cite book|last=Gifford-Gonzalez|first=D.|title=African archaeology: a critical introduction|year=2004|publisher=Blackwell Publishing|location=Malden, MA|isbn=978-1-4051-0155-4|pages=187–224|editor=A. B. Stahl|chapter=Pastoralism and its Consequences}}</ref>。ラクダの家畜化は紀元前4世紀の中央[[アラビア]]で興り、北アフリカや[[アラビア半島]]では酪農の対象となった<ref>{{cite pmid|9451759}}</ref>。 |
|||
1863年、[[フランス]]の化学者[[ルイ・パスツール]]は乳飲料や食品の中に潜む有毒な[[バクテリア]]を殺菌する低温殺菌法([[パスチャライゼーション]])を発明した<ref name="milk history">{{cite web|url= http://inventors.about.com/od/mstartinventions/a/milk.htm |title= The History Of Milk |publisher=[[About.com]]|language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>。1884年、ニューヨーク在住のアメリカ人医師ヘンリー・サッチャーが、撥水紙のフタを持つ初の[[ガラス]]製[[牛乳瓶]]「Thatcher's Common Sense Milk Jar」を発明した<ref name="milk history"/>。後の1932年に、ビクター・W・ファリスの発明による[[プラスチック]]コーティングされた[[紙]]パックが採用され普及した<ref name="milk history"/>。 |
|||
== 物理的・化学的性質 == |
|||
ミルクは、球状の[[脂肪]]が水を基調とした[[炭水化物]]や[[タンパク質]]およびミネラルが含まれた液体の中に分散した[[エマルジョン]]または[[コロイド]]溶液である<ref>Rolf Jost "Milk and Dairy Products" Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, Wiley-VCH, Weinheim, 2002. {{DOI|10.1002/14356007.a16_589.pub3}}</ref>。含まれる成分は、これを口にする新生児の初期発育を助けるためのエネルギー源(脂質、乳糖、タンパク質)、非必須アミノ酸を生合成するためにタンパク質から供給される物質([[必須アミノ酸]]とその仲間)、必須脂肪酸、ビタミン、無機元素、そして水である<ref name="autogenerated5" />。 |
|||
ミルクの分析は19世紀後半から始まり、近年の分析技術向上によって微量の活性物質も発見されているが、未だ全容を掴むには至っていない。中には、β-ラクトグロブリンのように生物学的に含まれている理由が見つかっていないものもある<ref name=Nougei>{{cite web|title=酪農王国 北海道の牛乳の科学|publisher=日本農芸化学界北海道支部・網走大会・サブセッション、[[北海道大学]]農学部|url= http://www.agr.hokudai.ac.jp/jsbba/history/pdf/H10/H1911s.pdf |format=PDF |accessdate=2012-05-30}}</ref>。 |
|||
[[File:TriglycerideDairyButter.png|thumb|400px|乳脂肪は、[[ミリスチン酸]]・[[パルミチン酸]]・[[オレイン酸]]などの脂肪酸からつくられる[[トリアシルグリセロール]](脂肪)である。]] |
|||
=== 脂質 === |
|||
乳脂肪は膜で包まれた脂肪球の形で分泌される<ref name="autogenerated1995">Fox, P.F. Advanced Dairy Chemistry: Vol 2 Lipids. 2nd Ed. Chapman and Hall: New york, 1995.</ref>。それぞれの脂肪球はほとんどが[[トリアシルグリセロール]]であり、これを[[リン脂質]]やタンパク質などを成分とする複合膜が覆う。これらは[[乳化]]された状態にあり、各球が引っ付き合わないよう保ちつつ、ミルクの液体部分に含まれる各種の酵素と反応する事を防ぐ。97-98%がトリアシルグリセロールであるが、[[ジアシルグリセロール]]や[[モノアシルグリセロール]]、遊離コレステロールやコレステロールエステル、遊離脂肪酸、リン脂質もそれぞれ少量ながら含まれている。タンパク質や炭水化物とは異なりミルクに含まれる脂肪の構成は、発生の起源や授乳方法によって異なり、とくに動物の種族によっても差異が大きい<ref name="autogenerated1995"/>。 |
|||
構造の特徴として、脂肪球の大きさにはばらつきがあり、小さいもので直径0.2[[マイクロメートル|μm]]、大きいものでは15-20μmに達するものもある。この直径の差異は、動物の種だけでなく特定の個体が分泌した時によっても生じる可能性がある。均質化をしていない牛乳の脂肪球の平均直径は2-4μmであり、均質化を施すとこれが0.4μm前後まで小さくなる<ref name="autogenerated1995"/>。[[親油性]]の[[ビタミン]]である[[ビタミンA|A]]・[[ビタミンD|D]]・[[ビタミンE|E]]・[[ビタミンK|K]]は、必須脂肪酸である[[リノール酸]]などに親和した形で乳脂肪部分の中に含まれる<ref name="On Food and Cooking"/>。 |
|||
=== タンパク質 === |
|||
通常、牛乳は1リットル当り30-35グラム程度のタンパク質を含み、その約80%は[[カゼイン]][[ミセル]]である。 |
|||
==== カゼイン ==== |
|||
カゼインミセルは、液状のミルク中に存在する最大の構造物であり、表層に[[界面活性剤]]ミセルと近かよった[[ナノメートル]]大の[[リン酸カルシウム]]微細粒子を持つ、数千というタンパク質分子の集まりである。それぞれのカゼインミセルは、直径40-600nmのコロイド粒子である<ref name=Shinpi>{{cite web|title=基調講演 「ミルクの神秘」|author=堂迫俊一|publisher=雪印メグミルク株式会社酪農総合研究所|url= http://rakusouken.net/topic/017_2_1.html |accessdate=2012-05-30}}</ref>。カゼイン状タンパク質は αs1-, αs2-, β-, κ- の4タイプに分類できる<ref name=Shinpi />。ミルク中に含まれるタンパク質のうち、重量比で76-86%を占めるカゼイン状タンパク質<ref name="autogenerated5">Fox, P. F. Advanced Dairy Chemistry, Vol. 3: Lactose, Water, Salts and Vitamins. 2nd ed. Chapman and Hall: New York, 1995.</ref>や、水に不溶のリン酸カルシウムのほとんどはミセルの中に捕らわれている<ref name=Shinpi />。 |
|||
ミセルの精密な構造に関して複数の理論が提唱されているが、最も外側の層は{{仮リンク|k-カゼイン|en|k-casein}}のみで構成され、周囲の流体に突き出ているという考えは共通している。このk-カゼイン分子は負の[[電荷]]を帯びているためにミセル同士は電気的に反発し合い、通常ならばそれぞれが離れた状態を維持し、水を主成分とする液体の中でコロイド状[[懸濁液]]となる<ref name="On Food and Cooking"/><ref name="chem">{{cite web|last=Goff|first=Douglas|title=Dairy Chemistry and Physics |
|||
|url=http://www.foodsci.uoguelph.ca/dairyedu/chem.html|work=Dairy Science and Technology|publisher=University of Guelph|language=英語|accessdate=2012-05-30|year=2010}}</ref>。構造モデルの一つは「サブミセルモデル」と呼ばれ、小さなサブミセルが寄せ集まってミセルを作っているという考えである。これによると、ミセルの内側にはk-カゼイン含有量が少ないサブミセルがあり、これをk-カゼインに豊むサブミセルが覆いつつ、これらの間にリン酸カルシウムが存在する構造を持つ<ref name=Shinpi />。他に提唱される「ナノクラスターモデル」では、中心にリン酸カルシウムの小さな集合体があり、その周囲に紐状のカゼインが付着している構造を取るという考えであり、この場合サブミセルは作られていない<ref name=Shinpi />。 |
|||
ミルクにはカゼイン以外にも、βラクトグロブリン(β-Lg)、乳糖合成に関与するαラクトアルブミン(α-La)、免疫グロブリン(IgG)、血清アルブミン(BSA)、ラクトフェリン(Lf)などそれぞれの機能を持つ多種多様なタンパク質が含まれている<ref name=Shinpi />。これらはカゼインよりも水溶性が高いため、大きな構造には纏まらない。[[カード (食品)|カード]]をつくるとカゼインが凝乳側に集まるのに対し、これらのタンパク質は[[乳清]](ホエイ)側に残る。そのため乳漿蛋白(ホエイプロテイン)とも呼ばれる。乳漿蛋白は重量比でミルク中のタンパク質の20%を占める。代表的な乳漿蛋白は{{仮リンク|ラクトグロブリン|en|Lactoglobulin}}である<ref name="On Food and Cooking"/>。 |
|||
=== ミネラル・塩・ビタミン === |
|||
ミネラルや[[塩 (化学)|塩]]は、様々な種類のものがミルクの中では[[アニオン]]や[[カチオン]]の形態を取り存在している。これらは[[カルシウム]]、リン酸塩、[[マグネシウム]]、[[ナトリウム]]、[[カリウム]]、クエン酸塩そして[[塩素]]などが含まれ、5-40ナノメートルに凝集している。塩はカゼイン、特にリン酸カルシウムと強い相互作用を起こす。これは時に、リン酸カルシウムへの過剰な結合を引き起こす場合がある<ref name="autogenerated5"/>。その他、ミルクは良質なビタミン供給源となり、ビタミンA、B1、B2、B12、K、[[パントテン酸]]などは全てミルクに含まれる<ref name=pub />。 |
|||
複数の測定にて、タンパク質を捉えるリン酸カルシウムはCa9(PO4)6の構造を持っている事が示された。しかし一方で、この物質は鉱物の[[ブルシャイト]] CaHPO4 -2H2O 的な構造を持つという主張もある<ref>{{cite web| title= chemistry and physics |
|||
|url= http://www.foodsci.uoguelph.ca/dairyedu/chem.html |publisher= Foodsci.uoguelph.ca.|language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>。 |
|||
=== 炭水化物と他の含有物質 === |
|||
[[File:Hydrolysis of lactose.svg|thumb|[[ラクトース]]分子(左)が[[ガラクトース]](1)と[[グルコース]](2)に分解される簡略図。]] |
|||
ミルクは、[[ラクトース]](乳糖)、[[グルコース]]、[[ガラクトース]]、その他の[[オリゴ糖]]など複数の[[炭水化物]]を含む。グルコースとガラクトースの2つの[[単糖]]が合成したラクトースはミルクに甘みを与え、カロリーの約40%を占める。ウシ属のミルクには平均4.8%の無水ラクトースが含まれ、[[脱脂粉乳]]の固形分のうち50%に相当する。ラクトースの含有率はミルクの種類によって異なり、他の炭水化物は強く結合してラクトースの状態でミルクの中に存在する<ref name="autogenerated5"/> |
|||
その他、未精製の牛乳には[[白血球]]や乳腺細胞、様々な[[バクテリア]]や大量の活性酵素が含まれている<ref name="On Food and Cooking"/>。 |
|||
=== 外見 === |
|||
脂肪球とそれよりも小さなカゼインミセルは、いずれも光を乱反射させる充分な大きさがあり、このためにミルクは白く見える<ref name=Nougei />。中には脂肪球が黄色 - オレンジ色のカロテンを含む場合があり、このため例えばガンジー種やジャージー種などのミルクをグラスに注ぐと、黄金色またはクリームのような色調が見られる。乳清部分の[[リボフラビン]]はやや緑がかっており、脱脂粉乳やホエーで確認できる場合もある<ref name="On Food and Cooking"/>。また、脱脂粉乳は粒子が小さなカゼインミセルのみが光を散乱させるため、赤色よりも青色の波長をより散乱さえる傾向があり、薄青い色に見える<ref name="chem"/>。 |
|||
== 栄養と健康への効果 == |
|||
ミルクの成分構成は、動物の種によって大きく異なる。例えばタンパク質の種類や、タンパク・脂肪・糖質の割合、ビタミンやミネラルの比率、乳脂肪[[滴]]の大きさ、[[カード (食品)|カード]]の濃度など、違いは様々な要因において見られる<ref name="intro"/>。例えば、 |
|||
*人間の乳の平均的組成は、タンパク質1.1%、脂質3.5%、糖質7.2%、ミネラル0.2%。100グラム当り65kカロリー。この成分構成は馬乳も近い<ref name=pub />。糖質含有比は哺乳動物中で最も高く、これは早い脳の発達速度が関係する<ref name=pub />。 |
|||
*牛乳の平均的組成は、タンパク質3.3%、脂質3.8%、糖質4.8%、ミネラル0.7%。100グラム当り67kカロリー<ref name=pub />。牛乳の成分含有量は、哺乳類の乳の中で中間的な値を取る<ref name=pub />。人間の乳よりもタンパク質やミネラルに富む理由は、ウシの成長速度が人間よりも早いためである<ref name=pub />。 |
|||
*ロバやウマの乳は含有脂肪分が低く、逆に[[鰭脚類]]や[[クジラ]]の乳は高脂肪で含有率は50%を越える<ref>{{cite web|url=http://www.havemilk.com/article.asp?id=1485#contentbyspecies |title=Milk From Cows and Other Animals, web page by Washington Dairy Products Commission |publisher=Havemilk.com |language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref><ref>{{cite encyclopedia|title=Whale|url=http://www.webcitation.org/5kx5gN68d|publisher=Encarta}}</ref>。 |
|||
*乳糖の割合は、[[カンガルー]]で7.6%、[[ネコ]]で4.8%、[[イヌ]]で3.1%、[[クジラ]]で1.3%、[[ウサギ]]で0.9%などバラツキが見られる<ref>八木 直樹 『食品の科学と新技術』 p.103 日本出版制作センター 1992年2月15日発行</ref>。 |
|||
{| class="wikitable" |
|||
|+ ミルクの成分分析(100[[グラム|g]]当り<ref>{{cite web|title=Milk analysis |publisher=North Wales Buffalo |url=http://www.northwalesbuffalo.co.uk/milk_analysis.htm |archiveurl=http://web.archive.org/web/20070929071651/http://www.northwalesbuffalo.co.uk/milk_analysis.htm |archivedate=2007-09-29 |language=英語|accessdate=2012-05-31}} (Citing McCane, Widdowson, Scherz, Kloos, International Laboratory Services.)</ref><ref>[http://www.ars.usda.gov/nutrientdata USDA National Nutrient Database for Standard Reference]. Ars.usda.gov. Retrieved on 2011-11-24.</ref>。 |
|||
|- |
|||
! 成分 |
|||
! 単位 |
|||
! [[ウシ]] |
|||
! [[ヤギ]] |
|||
! [[ヒツジ]] |
|||
! [[水牛]] |
|||
|- |
|||
| 水分 |
|||
| g |
|||
| 87.8 |
|||
| 88.9 |
|||
| 83.0 |
|||
| 81.1 |
|||
|- |
|||
| タンパク質 |
|||
| g |
|||
| 3.2 |
|||
| 3.1 |
|||
| 5.4 |
|||
| 4.5 |
|||
|- |
|||
| 脂肪 |
|||
| g |
|||
| 3.9 |
|||
| 3.5 |
|||
| 6.0 |
|||
| 8.0 |
|||
|- |
|||
| 炭水化物 |
|||
| g |
|||
| 4.8 |
|||
| 4.4 |
|||
| 5.1 |
|||
| 4.9 |
|||
|- |
|||
| カロリー |
|||
| kcal |
|||
| 66 |
|||
| 60 |
|||
| 95 |
|||
| 110 |
|||
|- |
|||
| エネルギー |
|||
| kJ |
|||
| 275 |
|||
| 253 |
|||
| 396 |
|||
| 463 |
|||
|- |
|||
| 糖質(乳糖) |
|||
| g |
|||
| 4.8 |
|||
| 4.4 |
|||
| 5.1 |
|||
| 4.9 |
|||
|- |
|||
| コレステロール |
|||
| mg |
|||
| 14 |
|||
| 10 |
|||
| 11 |
|||
| 8 |
|||
|- |
|||
| カルシウム |
|||
| mg |
|||
| 120 |
|||
| 100 |
|||
| 170 |
|||
| 195 |
|||
|- |
|||
| 飽和脂肪酸 |
|||
| g |
|||
| 2.4 |
|||
| 2.3 |
|||
| 3.8 |
|||
| 4.2 |
|||
|- |
|||
| モノ不飽和脂肪酸 |
|||
| g |
|||
| 1.1 |
|||
| 0.8 |
|||
| 1.5 |
|||
| 1.7 |
|||
|- |
|||
| ポリ不飽和脂肪酸 |
|||
| g |
|||
| 0.1 |
|||
| 0.1 |
|||
| 0.3 |
|||
| 0.2 |
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|} |
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このような成分構成は、種、個体、授乳期のどのタイミングかによっても変わる。以下、乳牛の種による差異を示す。 |
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{| class="wikitable" |
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|+ミルク中の脂肪含有比 |
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!乳牛の種 |
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!%(近似値) |
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|- |
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|ジャージー種 |
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|5.2 |
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|- |
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|[[コブウシ]] |
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|4.7 |
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|- |
|||
|ブラウン・スイス種 |
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|4.0 |
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|- |
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|ホルスタイン種 |
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|3.6 |
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|} |
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これら4種の牛乳に含まれるタンパク質は3.3-3.9%、ラクトースは4.7-4.9%である<ref name="On Food and Cooking"/>。 |
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ミルクの脂肪率は、酪農家が家畜に与える飼料の構成によっても左右される。また、乳腺炎に感染するとミルクの脂肪含有率は低下する<ref>{{Cite book|url=http://books.google.com/?id=qJgdAEhQvnMC&pg=PA226|title=Designing Foods: Animal Product Options in the Marketplace |publisher=National Academies Press|year= 1988|isbn=978-0-309-03795-2}}</ref>。 |
|||
飲用したミルクから人体が吸収するカルシウムの量に関しては、さまざまな見解がある<ref>{{cite journal|pmid=9224182|title=Milk, dietary calcium, and bone fractures in women: a 12-year prospective study|year=1997|last1=Feskanich|first1=D|last2=Willett|first2=WC|last3=Stampfer|first3=MJ|last4=Colditz|first4=GA|volume=87|issue=6|pages=992–7|pmc=1380936|doi=10.2105/AJPH.87.6.992|journal=American journal of public health}}</ref>。乳製品から得られるカルシウムは、[[ホウレンソウ]]のような高いカルシウム-[[キレート]]物質を持つ[[野菜]]よりも、[[生物学的利用能]]が高い<ref>Brody T. Calcium and phosphate. In: Nutritional biochemistry. 2nd ed. Boston: Academic Press, 1999:761–94</ref>。その一方で、[[ケール]]や[[ブロッコリー]]など[[シュウ酸]]塩をあまり含まない[[アブラナ属]]の野菜と比較すると、得られるカルシウムの生物学的利用能は同等以下である<ref>{{cite journal |first1=Robert P. |last1=Heaney |first2=Connie M. |last2=Weaver |title=Calcium absorption from kale |pmid=2321572 |year=1990 |pages=656–7 |issue=4 |volume=51 |journal=The American journal of clinical nutrition}}</ref><ref>{{cite web|title=Calcium and Milk: What's Best for Your Bones and Health?|url=http://www.hsph.harvard.edu/nutritionsource/what-should-you-eat/calcium-full-story/index.html|work=The Nutrition Source|publisher=Harvard School of Public Health|language=英語|accessdate=2012-05-30|year=2011}}</ref>。 |
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=== 医学的な研究 === |
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近年の評価では、ミルクの摂取には筋肉の成長を促進する効果があり<ref>{{Cite journal|author=Roy BD |title=Milk: the new sports drink? A Review |journal=J Int Soc Sports Nutr |volume=5 |page=15 |year=2008 |pmid=18831752 |pmc=2569005 |doi=10.1186/1550-2783-5-15}}</ref>、運動後の筋肉を回復させる事にも有効とする示唆がなされている<ref>{{Cite journal|author=Ferguson-Stegall L, McCleave E, Doerner PG, Ding Z, Dessard B, Kammer L, Wang B, Liu Y, Ivy JL|title=Effects of Chocolate Milk Supplementation on Recovery from Cycling Exercise and Subsequent Time Trial Performance |journal=International Journal of Exercise Science: Conference Abstract Submissions |volume=2 |issue= 2|article=25 |year=2010 |url=http://digitalcommons.wku.edu/ijesab/vol2/iss2/25}}</ref>。 |
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=== 乳糖不耐症 === |
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{{Main|乳糖不耐症}} |
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ミルクに含まれる[[二糖]]であるラクトースは、[[小腸]]で吸収するためには酵素のラクターゼによって構成をガラクトースとグルコースに分解されなければならない。しかし、すべての哺乳動物は乳離れの後にラクターゼの分泌が減衰する。その結果、多くの人間は成長後にラクトースを適切に消化できなくなる。ただしこれも人それぞれであり、ほとんどラクトースを消化できない人もいれば、ある程度は可能な者、さらにミルクや乳製品中に含まれるかなりの比率を問題無く吸収できる者もいる。人のラクターゼ分泌を制御する遺伝子はC/T-13910 である<ref name="Babu, J. 2009">Babu, J. et al "Frequency of lactose malabsorption among healthy southern and northern Indian populations", American Journal of Clinical Nutrition, doi 10.3945/ajcn.2009.27946</ref>。 |
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世界の5%程度の人々はラクトースを満足に消化できない乳糖不耐症を示す事が知られ、この傾向はアフリカやアジア系の人々の中でより顕著である<ref name="Biochemistry">{{Cite book|last = Champe|first = Pamela|title = Lippincott's Illustrated Reviews: Biochemistry, 4th ed.|year = 2008|publisher = Lippincott Williams & Wilkins|location = Baltimore|isbn = 978-0-7817-6960-0|page = 88|chapter = Introduction to Carbohydrates}}</ref>。アメリカ人の3000-5000万が乳糖不耐症であると考えられており、その中には[[ネイティブ・アメリカン]]や[[アフリカ系アメリカ人]]の75%、[[アジア系アメリカ人]]の90%が含まれる。乳糖不耐症は北ヨーロッパ人にはあまり見られず<ref>{{cite web| url=http://www.umm.edu/digest/lactose.htm|title= Digestive Disorders – Lactose Intolerance|author = University of Maryland Medical Center|accessdate = 2009-05-03}}</ref>、その他ではサハラ砂漠のトゥレグ族、西アフリカ・サヘル地域遊牧民のフラーニ、スーダンのベジャやカバビッシュ、ウガンダからルワンダ地域の[[ツチ族]]などが知られる<ref>Patterson, K. D. [http://www.cambridge.org/us/books/kiple/lactose.htm "Lactose Tolerance"], The Cambridge World History of Food, Kiple, K.F. (Ed.) Cambridge University Press, 2000</ref>。他にも、北インドの人々も同様である<ref name="Babu, J. 2009"/>。 |
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== 言語や文化への影響 == |
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[[File:Abhisheka.jpg|thumb|ヒンズー教の[[灌頂]]の儀式。インド、[[カルナータカ州]]。]] |
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古代[[ギリシア神話]]では[[女神]][[ヘーラー]]が[[ヘーラクレース]]を引き離した際に溢れた乳が[[天の川]](ミルキーウェイ)になったという<ref>{{cite book |ref=harv |last1=Waller |first1=W. H. |last2=Hodge |first2=P. W. |pages=91|year=2003 |title=Galaxies and the Cosmic Frontier |publisher=[[ハーバード大学]]出版局 |isbn=0674010795}}</ref>。 |
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[[聖書]]にもミルクを意図した言葉があり、カナンの地[[イスラエル]]を「乳と蜜が流れる地」と表現している。乳は蜜と並び「よきもの」の象徴である<ref>{{cite web|title=蜂蜜考(Ⅰ)|author=菅淑江、田中由紀子|publisher=中国学園リポジトリ|url= http://cur-ren.cjc.ac.jp/522/1/J29_001_014.pdf|format=PDF|accessdate=2012-05-30}}</ref>。[[コーラン]]の「[[蜜蜂 (クルアーン)|蜜蜂]]」には乳について述べた箇所があり、乳は家畜の中で飼料と血液の中間から生じ、人間に与えられる美味な飲み物だと言う (16-The Honeybee, 66)。伝統的に、[[ラマダーン]]明けには一杯のミルクと乾燥ナツメヤシの実を口にする。仏教では[[釈迦]]の説話に、断食修行後に口にした牛乳の美味が悟りを導いたとあり、牛乳から作られる[[醍醐]]を「仏の最上の経法」を指す用語に用いている<ref name=pub />。[[ヒンズー教]]で行われる[[灌頂]]では、崇拝する神の像を聖水やミルク又はヨーグルトなどで清める儀式が行われる<ref>{{cite web|title=月刊みんぱく2005年9月号 |publisher=国立民族博物館 |url= http://www.minpaku.ac.jp/museum/showcase/bookbite/gekkan/200509txt|accessdate=2012-05-30}}</ref>。 |
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人間の文化において乳 (milk) がいかに重要かという事は、数々の言語表現に使われることで説明できる。例えば、「the milk of human kindness」(人間的な思いやり)という用例がある。一方で、「他人を利用する」(to milk someone) という慣用句もある。 |
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様々な意味の[[スラング]]でも用いられる。17世紀初頭には、[[精液]]や[[膣液]]の意味がつけられ、転じて[[自慰]]行為を指すようにもなった。19世紀には変性アルコールを水に混ぜて作られた安物の[[酒]]の名に使われた。他に、詐取する、騙す、他人に送られた電報を[[盗聴]]する、そして虚弱な者や腰抜けという意味もある。1930年代のオーストラリアでは、自動車の吸気ガスを指して使われもした<ref>{{Cite book|url=http://books.google.com/?id=5GpLcC4a5fAC&pg=PA943|author=Jonathon Green|title=Cassell's Dictionary of Slang |publisher=Weidenfeld & Nicholson|isbn=978-0-304-36636-1|year=2005}}</ref>。 |
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== 脚注 == |
== 脚注 == |
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=== 注釈 === |
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<references /> |
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=== 脚注 === |
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=== 脚注2 === |
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ここでは、出典・脚注内で提示されている「出典」を示しています。 |
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== 参考文献 == |
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*{{Cite book| author=McGee, Harold |title=On Food and Cooking |edition=2nd|location=New York|publisher=Scribner|year=2004|isbn=978-0-684-80001-1}} |
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== 外部リンク == |
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{{commonscat|Milk}} |
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{{Sister project links|wikt=milk|commons=Milk|b=Cookbook:Milk|n=no|q=no|s=The New Student's Reference Work/Milk|v=Introduction to nutrition}} |
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*{{Dmoz|Business/Food_and_Related_Products/Dairy/Milk|Milk}} |
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*[http://www.carnamah.com.au/milk-cream-butter.html Virtual Museum Exhibit on Milk, Cream & Butter] |
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[[category:乳|*]] |
[[category:乳|*]] |
2012年5月30日 (水) 11:38時点における版
日本語の乳(ちち)には、次のような用法がある。
本稿では、3番目に挙げられている乳汁について解説する。
乳汁(にゅうじゅう、ちちしる)とは、乳(ちち、にゅう)、ミルク(英: milk)とも言われる、動物のうち哺乳類が幼児に栄養を与えて育てるために母体が作りだす分泌液である。特に母乳 (ぼにゅう)と呼ぶ場合は、ヒトの女性が出す乳汁を指すのが、慣例である。誕生後の哺乳類が他の食物を摂取できるようになるまでの間、子供の成長に見合った栄養を獲得できる最初の源となる[3]。
概説
一般の食物は、本来は生体組織や種子などである。それに対しミルクは食糧として作られる唯一の天然物である[4]。
ミルクは、分泌作用を持つ外分泌腺の一種である乳腺から引き出されている[5]。この事から、授乳機構とは、原始的には卵の湿度を維持する役目が発達したものと考えられる。この仮説は、カモノハシ目(卵生哺乳類)の生態を根拠に立てられた[5][6][7]。授乳の根本目的は、栄養摂取[8]もしくは免疫による防御[9][10]であったという考えが受け入れられている。そしてこの分泌物は、進化を遂げる時間の中で、その量を増やし、複雑な栄養素を含むようになった[5]。
最初に授乳されるミルク(初乳)には、母体から赤ん坊へ与えられる抗体が含まれ、以後のさまざまな病気にかかる危険性を低める効果がある[11]。また、ウサギの母乳から、子供を乳首に吸いつけさせるフェロモン (2-methylbut-2-enal, 2MB2) が発見された報告もある[12]。生乳が含んでいる栄養成分は動物の種によって差異があるが、主に飽和脂肪酸・タンパク質・カルシウムそしてビタミンCを含む。牛乳は水素イオン指数 (pH) 6.4 - 6.8 を示す弱酸性である[13][14]。
ウシの種が提供するミルクは、多くの栄養素を含む重要な食品である[3]。2011年、世界中では、1億3189万頭の乳牛が飼育され、4億4467万トンの牛乳が生産された[2- 1]。国別ではインドが生産および消費のいずれも1位であり、ミルクの輸出入は行われていない。ニュージーランド、EU加盟15ヶ国、オーストラリアがミルクや乳製品の3大輸出国である。一方で輸入は中華人民共和国、メキシコ、日本が上位3位までに入る。ミルクは特に発展途上国において、栄養供給と食糧の安全保障の確立に貢献する重要な食品である。家畜の改良、酪農技術、およびミルクの品質は、貧困問題や世界的な食糧問題の解決に、大きく役立つものとも考えられている[15]。
母乳以外のミルク
単語「乳」または「ミルク」は、色や食感が似ている動物由来ではない飲料を表す際にも使われる。豆乳 (soy milk) 、粥 (rice milk) 、アーモンドミルクやココナッツミルクなどがこれに該当する。また、哺乳類以外でもハト目の親が若鳥に与えるため分泌する液体も素嚢乳 (crop milk) と呼ばれ、哺乳類のミルクとの共通性も見られる[16]。また、植物に切れ目を入れた際に滲み出る白い液体も「乳」(英: latex)と言う[1]。
需要
ミルクを消費する方法には、大きく2種類がある。ひとつは幼い哺乳類が授乳される自然な状態であり、もうひとつは成熟した人類が他の動物から得たミルクを加工して食品とする場合である。
授乳
ほとんど全ての哺乳類では、ミルクは赤ちゃんに母乳栄養を与えるために直接または一時的に貯めた状態のものを飲ませる[3]。その中で人間は、幼年期を過ぎてもミルクを消費する数少ない例外に当る。ミルクを常飲するグループの中には、ウシだけでなく家畜化した有蹄類の乳を利用する地域もある[17]。インドは牛乳だけでなく水牛の乳の生産や消費も世界一である[18]。
乳糖は、ミルクの他にレンギョウの花やわずかな熱帯性低木の中だけに含まれるもので、これを消化するために必要な酵素であるラクトースの数は出生後に小腸の中で最も高くなるが、ミルクを恒常的に飲まなくなるにつれ徐々に減退する[19]。人がヤギの生乳を乳児に与える事があるが、ここには危険が潜んでいる事が知られている。水電解質平衡異常、代謝性アシドーシス、巨赤芽球性貧血や数々のアレルギー反応などである[20]。
乳製品
牛乳を元に様々な乳製品が作られている。脂肪を集めて得られたクリームからは生クリームやバター、逆に脂肪を取り除いた脱脂乳からは脱脂粉乳やスキムミルクなどが出来る。牛乳を濃縮したコンデンスミルク、発酵させたヨーグルト、凝固・発酵・加熱などのプロセスを経て作られる各種チーズなどである[21]。
消費量
国 | ミルク(l) | チーズ(kg) | バター(kg) |
---|---|---|---|
フィンランド | 183.9 | 19.1 | 5.3 |
スウェーデン | 145.5 | 18.5 | 1.0 |
アイルランド | 129.8 | 10.5 | 2.9 |
オランダ | 122.9 | 20.4 | 3.3 |
ノルウェー | 116.7 | 16.0 | 4.3 |
スペイン | 119.1 | 9.6 | 1.0 |
スイス | 112.5 | 22.2 | 5.6 |
イギリス | 111.2 | 12.2 | 3.7 |
オーストラリア | 106.3 | 11.7 | 3.7 |
カナダ | 94.7 | 12.2 | 3.3 |
供給
西洋諸国では、牛乳が産業レベルの規模で生産され、各種のミルクの中で最も多く消費されている。商業的な酪農では自動搾乳機が導入されており、先進国ではほとんどの牛乳を供給している。そこでは、牛乳生産に注力するためホルスタインのような乳牛が選択的に飼育される。アメリカ合衆国の乳牛のうち90%、イギリスの80%がホルスタインである[19]。飼われる他の乳牛種には、エアシャー種、ブラウン・スイス種、ガンジー種、ジャージー種、デイリー・ショートホーン種などがある[3]。
牛以外からの供給
ウシ以外でも、人類は多様な動物を家畜化し、そのミルクを利用している。例えば、ラクダ、ロバ、ヤギ、ウマ、トナカイ、羊、水牛、ヤクなどである。ロシアやスウェーデンではヘラジカの乳も利用している[17]。
全米バイソン協会によると、アメリカバイソン(アメリカンバッファローとも呼ばれる)のミルクは商業的な取引こそ行われていないが[23]、ヨーロッパ人の北米移住や[24]1970‐1980年に行われたビーファロ種の商業的交雑[25]以降、乳牛の品種改良のために行われる交配に利用されることが多い。
生産国
ミルクの最大生産国はインド、次いでアメリカ[26]に、ドイツとパキスタンが続く。
発展途上国の経済成長と、ミルクおよび乳製品の販売促進が相まって、近年これらの国におけるミルク全体の消費量は伸長している。それに伴い、成長市場をターゲットにした酪農系多国籍企業の投資も活発になっている。このような潮流にもかかわらず、多くの国でミルク生産事業体は依然として小規模なままに止まり、それのみの収入に頼っていられない状態にある[27]。
以下の表は水牛のミルク生産量を国別に示す。
国 | 生産量(トン) | 付記 |
---|---|---|
インド | 59,210,000 | 非公式なデータを含む |
パキスタン | 20,372,000 | 公式発表 |
中華人民共和国 | 2,900,000 | FAO調べ |
エジプト | 2,300,000 | |
ネパール | 958,603 | 公式発表 |
イラン | 241,500 | FAO調べ |
ビルマ | 220,462 | 公式発表 |
イタリア | 200,000 | FAO調べ |
ベトナム | 32,000 | |
トルコ | 30,375 | 公式発表 |
世界 | 86,574,539 | 公式発表 |
歴史
人類が他の動物の乳を定常的に飲むようになったのは、ユーラシアでは新石器革命期に家畜を飼い始めたこともしくは農業の革新が契機となった。この新たな食糧確保は、紀元前9000-7000年頃の西南アジアや[29]、前3500-3000年頃のアメリカ州[30]でもそれぞれ独立して発生した。ウシ・ヒツジ・ヤギといった重要な動物の家畜化は西南アジアで始まったが[3]、それ以降、野生のオーロックスを飼いならす例は世界中の様々な時と場所で起こった[31][32]。当初、動物の家畜化は肉を得るために行われたが、考古学者アンドリュー・シェラットが提唱した考えによると、酪農は、家畜から体毛を得たり労働をさせたりする行為の進展とともに、二次産物革命よりももっと後の前4000年頃に形作られたという[33]。ただし、近年の発見はシェラットの説に反する。先史時代の土器に残る液体の痕跡を分析した結果、西南アジアにて酪農は初期農業段階で既に行われていたと判明し、その時期は前7000年頃と推定された[34][35]。
西南アジア発祥の酪農は、紀元前7000年頃からヨーロッパに伝わり、前4000年以降にブリテン諸島やスカンディナヴィア半島まで伝播した[36]。南アジアには前7000-5500年頃に伝わった[37]。搾乳を始めたのは中央ヨーロッパ[38]ブリテン諸島[39]の農民たちと考えられる。牧畜や遊牧のような耕作よりも家畜に大きく依存する経済活動は、農業主体のヨーロッパ人集団がカスピ海近郊のステップ地帯に移動した紀元前4世紀頃に発達し、後にユーラシア大陸のステップ気候域に広まった[40]。アフリカのヒツジやヤギは西南アジアから持ち込まれたものだが、ウシは前7000-6000年頃に独自に飼いならしたものと考えられる[41]。ラクダの家畜化は紀元前4世紀の中央アラビアで興り、北アフリカやアラビア半島では酪農の対象となった[42]。
1863年、フランスの化学者ルイ・パスツールは乳飲料や食品の中に潜む有毒なバクテリアを殺菌する低温殺菌法(パスチャライゼーション)を発明した[43]。1884年、ニューヨーク在住のアメリカ人医師ヘンリー・サッチャーが、撥水紙のフタを持つ初のガラス製牛乳瓶「Thatcher's Common Sense Milk Jar」を発明した[43]。後の1932年に、ビクター・W・ファリスの発明によるプラスチックコーティングされた紙パックが採用され普及した[43]。
物理的・化学的性質
ミルクは、球状の脂肪が水を基調とした炭水化物やタンパク質およびミネラルが含まれた液体の中に分散したエマルジョンまたはコロイド溶液である[44]。含まれる成分は、これを口にする新生児の初期発育を助けるためのエネルギー源(脂質、乳糖、タンパク質)、非必須アミノ酸を生合成するためにタンパク質から供給される物質(必須アミノ酸とその仲間)、必須脂肪酸、ビタミン、無機元素、そして水である[45]。
ミルクの分析は19世紀後半から始まり、近年の分析技術向上によって微量の活性物質も発見されているが、未だ全容を掴むには至っていない。中には、β-ラクトグロブリンのように生物学的に含まれている理由が見つかっていないものもある[46]。
脂質
乳脂肪は膜で包まれた脂肪球の形で分泌される[47]。それぞれの脂肪球はほとんどがトリアシルグリセロールであり、これをリン脂質やタンパク質などを成分とする複合膜が覆う。これらは乳化された状態にあり、各球が引っ付き合わないよう保ちつつ、ミルクの液体部分に含まれる各種の酵素と反応する事を防ぐ。97-98%がトリアシルグリセロールであるが、ジアシルグリセロールやモノアシルグリセロール、遊離コレステロールやコレステロールエステル、遊離脂肪酸、リン脂質もそれぞれ少量ながら含まれている。タンパク質や炭水化物とは異なりミルクに含まれる脂肪の構成は、発生の起源や授乳方法によって異なり、とくに動物の種族によっても差異が大きい[47]。
構造の特徴として、脂肪球の大きさにはばらつきがあり、小さいもので直径0.2μm、大きいものでは15-20μmに達するものもある。この直径の差異は、動物の種だけでなく特定の個体が分泌した時によっても生じる可能性がある。均質化をしていない牛乳の脂肪球の平均直径は2-4μmであり、均質化を施すとこれが0.4μm前後まで小さくなる[47]。親油性のビタミンであるA・D・E・Kは、必須脂肪酸であるリノール酸などに親和した形で乳脂肪部分の中に含まれる[19]。
タンパク質
通常、牛乳は1リットル当り30-35グラム程度のタンパク質を含み、その約80%はカゼインミセルである。
カゼイン
カゼインミセルは、液状のミルク中に存在する最大の構造物であり、表層に界面活性剤ミセルと近かよったナノメートル大のリン酸カルシウム微細粒子を持つ、数千というタンパク質分子の集まりである。それぞれのカゼインミセルは、直径40-600nmのコロイド粒子である[48]。カゼイン状タンパク質は αs1-, αs2-, β-, κ- の4タイプに分類できる[48]。ミルク中に含まれるタンパク質のうち、重量比で76-86%を占めるカゼイン状タンパク質[45]や、水に不溶のリン酸カルシウムのほとんどはミセルの中に捕らわれている[48]。
ミセルの精密な構造に関して複数の理論が提唱されているが、最も外側の層はk-カゼインのみで構成され、周囲の流体に突き出ているという考えは共通している。このk-カゼイン分子は負の電荷を帯びているためにミセル同士は電気的に反発し合い、通常ならばそれぞれが離れた状態を維持し、水を主成分とする液体の中でコロイド状懸濁液となる[19][49]。構造モデルの一つは「サブミセルモデル」と呼ばれ、小さなサブミセルが寄せ集まってミセルを作っているという考えである。これによると、ミセルの内側にはk-カゼイン含有量が少ないサブミセルがあり、これをk-カゼインに豊むサブミセルが覆いつつ、これらの間にリン酸カルシウムが存在する構造を持つ[48]。他に提唱される「ナノクラスターモデル」では、中心にリン酸カルシウムの小さな集合体があり、その周囲に紐状のカゼインが付着している構造を取るという考えであり、この場合サブミセルは作られていない[48]。
ミルクにはカゼイン以外にも、βラクトグロブリン(β-Lg)、乳糖合成に関与するαラクトアルブミン(α-La)、免疫グロブリン(IgG)、血清アルブミン(BSA)、ラクトフェリン(Lf)などそれぞれの機能を持つ多種多様なタンパク質が含まれている[48]。これらはカゼインよりも水溶性が高いため、大きな構造には纏まらない。カードをつくるとカゼインが凝乳側に集まるのに対し、これらのタンパク質は乳清(ホエイ)側に残る。そのため乳漿蛋白(ホエイプロテイン)とも呼ばれる。乳漿蛋白は重量比でミルク中のタンパク質の20%を占める。代表的な乳漿蛋白はラクトグロブリンである[19]。
ミネラル・塩・ビタミン
ミネラルや塩は、様々な種類のものがミルクの中ではアニオンやカチオンの形態を取り存在している。これらはカルシウム、リン酸塩、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、クエン酸塩そして塩素などが含まれ、5-40ナノメートルに凝集している。塩はカゼイン、特にリン酸カルシウムと強い相互作用を起こす。これは時に、リン酸カルシウムへの過剰な結合を引き起こす場合がある[45]。その他、ミルクは良質なビタミン供給源となり、ビタミンA、B1、B2、B12、K、パントテン酸などは全てミルクに含まれる[3]。
複数の測定にて、タンパク質を捉えるリン酸カルシウムはCa9(PO4)6の構造を持っている事が示された。しかし一方で、この物質は鉱物のブルシャイト CaHPO4 -2H2O 的な構造を持つという主張もある[50]。
炭水化物と他の含有物質
ミルクは、ラクトース(乳糖)、グルコース、ガラクトース、その他のオリゴ糖など複数の炭水化物を含む。グルコースとガラクトースの2つの単糖が合成したラクトースはミルクに甘みを与え、カロリーの約40%を占める。ウシ属のミルクには平均4.8%の無水ラクトースが含まれ、脱脂粉乳の固形分のうち50%に相当する。ラクトースの含有率はミルクの種類によって異なり、他の炭水化物は強く結合してラクトースの状態でミルクの中に存在する[45]
その他、未精製の牛乳には白血球や乳腺細胞、様々なバクテリアや大量の活性酵素が含まれている[19]。
外見
脂肪球とそれよりも小さなカゼインミセルは、いずれも光を乱反射させる充分な大きさがあり、このためにミルクは白く見える[46]。中には脂肪球が黄色 - オレンジ色のカロテンを含む場合があり、このため例えばガンジー種やジャージー種などのミルクをグラスに注ぐと、黄金色またはクリームのような色調が見られる。乳清部分のリボフラビンはやや緑がかっており、脱脂粉乳やホエーで確認できる場合もある[19]。また、脱脂粉乳は粒子が小さなカゼインミセルのみが光を散乱させるため、赤色よりも青色の波長をより散乱さえる傾向があり、薄青い色に見える[49]。
栄養と健康への効果
ミルクの成分構成は、動物の種によって大きく異なる。例えばタンパク質の種類や、タンパク・脂肪・糖質の割合、ビタミンやミネラルの比率、乳脂肪滴の大きさ、カードの濃度など、違いは様々な要因において見られる[22]。例えば、
- 人間の乳の平均的組成は、タンパク質1.1%、脂質3.5%、糖質7.2%、ミネラル0.2%。100グラム当り65kカロリー。この成分構成は馬乳も近い[3]。糖質含有比は哺乳動物中で最も高く、これは早い脳の発達速度が関係する[3]。
- 牛乳の平均的組成は、タンパク質3.3%、脂質3.8%、糖質4.8%、ミネラル0.7%。100グラム当り67kカロリー[3]。牛乳の成分含有量は、哺乳類の乳の中で中間的な値を取る[3]。人間の乳よりもタンパク質やミネラルに富む理由は、ウシの成長速度が人間よりも早いためである[3]。
- ロバやウマの乳は含有脂肪分が低く、逆に鰭脚類やクジラの乳は高脂肪で含有率は50%を越える[51][52]。
- 乳糖の割合は、カンガルーで7.6%、ネコで4.8%、イヌで3.1%、クジラで1.3%、ウサギで0.9%などバラツキが見られる[53]。
成分 | 単位 | ウシ | ヤギ | ヒツジ | 水牛 |
---|---|---|---|---|---|
水分 | g | 87.8 | 88.9 | 83.0 | 81.1 |
タンパク質 | g | 3.2 | 3.1 | 5.4 | 4.5 |
脂肪 | g | 3.9 | 3.5 | 6.0 | 8.0 |
炭水化物 | g | 4.8 | 4.4 | 5.1 | 4.9 |
カロリー | kcal | 66 | 60 | 95 | 110 |
エネルギー | kJ | 275 | 253 | 396 | 463 |
糖質(乳糖) | g | 4.8 | 4.4 | 5.1 | 4.9 |
コレステロール | mg | 14 | 10 | 11 | 8 |
カルシウム | mg | 120 | 100 | 170 | 195 |
飽和脂肪酸 | g | 2.4 | 2.3 | 3.8 | 4.2 |
モノ不飽和脂肪酸 | g | 1.1 | 0.8 | 1.5 | 1.7 |
ポリ不飽和脂肪酸 | g | 0.1 | 0.1 | 0.3 | 0.2 |
このような成分構成は、種、個体、授乳期のどのタイミングかによっても変わる。以下、乳牛の種による差異を示す。
乳牛の種 | %(近似値) |
---|---|
ジャージー種 | 5.2 |
コブウシ | 4.7 |
ブラウン・スイス種 | 4.0 |
ホルスタイン種 | 3.6 |
これら4種の牛乳に含まれるタンパク質は3.3-3.9%、ラクトースは4.7-4.9%である[19]。
ミルクの脂肪率は、酪農家が家畜に与える飼料の構成によっても左右される。また、乳腺炎に感染するとミルクの脂肪含有率は低下する[56]。
飲用したミルクから人体が吸収するカルシウムの量に関しては、さまざまな見解がある[57]。乳製品から得られるカルシウムは、ホウレンソウのような高いカルシウム-キレート物質を持つ野菜よりも、生物学的利用能が高い[58]。その一方で、ケールやブロッコリーなどシュウ酸塩をあまり含まないアブラナ属の野菜と比較すると、得られるカルシウムの生物学的利用能は同等以下である[59][60]。
医学的な研究
近年の評価では、ミルクの摂取には筋肉の成長を促進する効果があり[61]、運動後の筋肉を回復させる事にも有効とする示唆がなされている[62]。
乳糖不耐症
ミルクに含まれる二糖であるラクトースは、小腸で吸収するためには酵素のラクターゼによって構成をガラクトースとグルコースに分解されなければならない。しかし、すべての哺乳動物は乳離れの後にラクターゼの分泌が減衰する。その結果、多くの人間は成長後にラクトースを適切に消化できなくなる。ただしこれも人それぞれであり、ほとんどラクトースを消化できない人もいれば、ある程度は可能な者、さらにミルクや乳製品中に含まれるかなりの比率を問題無く吸収できる者もいる。人のラクターゼ分泌を制御する遺伝子はC/T-13910 である[63]。
世界の5%程度の人々はラクトースを満足に消化できない乳糖不耐症を示す事が知られ、この傾向はアフリカやアジア系の人々の中でより顕著である[64]。アメリカ人の3000-5000万が乳糖不耐症であると考えられており、その中にはネイティブ・アメリカンやアフリカ系アメリカ人の75%、アジア系アメリカ人の90%が含まれる。乳糖不耐症は北ヨーロッパ人にはあまり見られず[65]、その他ではサハラ砂漠のトゥレグ族、西アフリカ・サヘル地域遊牧民のフラーニ、スーダンのベジャやカバビッシュ、ウガンダからルワンダ地域のツチ族などが知られる[66]。他にも、北インドの人々も同様である[63]。
言語や文化への影響
古代ギリシア神話では女神ヘーラーがヘーラクレースを引き離した際に溢れた乳が天の川(ミルキーウェイ)になったという[67]。
聖書にもミルクを意図した言葉があり、カナンの地イスラエルを「乳と蜜が流れる地」と表現している。乳は蜜と並び「よきもの」の象徴である[68]。コーランの「蜜蜂」には乳について述べた箇所があり、乳は家畜の中で飼料と血液の中間から生じ、人間に与えられる美味な飲み物だと言う (16-The Honeybee, 66)。伝統的に、ラマダーン明けには一杯のミルクと乾燥ナツメヤシの実を口にする。仏教では釈迦の説話に、断食修行後に口にした牛乳の美味が悟りを導いたとあり、牛乳から作られる醍醐を「仏の最上の経法」を指す用語に用いている[3]。ヒンズー教で行われる灌頂では、崇拝する神の像を聖水やミルク又はヨーグルトなどで清める儀式が行われる[69]。
人間の文化において乳 (milk) がいかに重要かという事は、数々の言語表現に使われることで説明できる。例えば、「the milk of human kindness」(人間的な思いやり)という用例がある。一方で、「他人を利用する」(to milk someone) という慣用句もある。
様々な意味のスラングでも用いられる。17世紀初頭には、精液や膣液の意味がつけられ、転じて自慰行為を指すようにもなった。19世紀には変性アルコールを水に混ぜて作られた安物の酒の名に使われた。他に、詐取する、騙す、他人に送られた電報を盗聴する、そして虚弱な者や腰抜けという意味もある。1930年代のオーストラリアでは、自動車の吸気ガスを指して使われもした[70]。
脚注
注釈
脚注
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脚注2
ここでは、出典・脚注内で提示されている「出典」を示しています。
- ^ USDA「World Markets and Trade」 (In selected countries)
参考文献
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