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「小田急60000形電車」の版間の差分

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{{利用者:MaximusM4/Template
{{鉄道車両
|車両名=小田急60000形電車<br/><small>Multi Super Express</small>
|車両名=小田急60000形電車<br/><small>Multi Super Express</small>
|社色=#DD3C00 <!--VSE・MSEのバーミリオン 鉄道ピクトリアル通巻829号(2010年1月号臨時増刊)「特集・小田急電鉄」p191の表から色を抽出-->
|社色=#DD3C00 <!--VSE・MSEのバーミリオン 鉄道ピクトリアル通巻829号(2010年1月号臨時増刊)「特集・小田急電鉄」p191の表から色を抽出-->
|画像= OER Romancecar Bay Resort -MSE-.JPG
|画像 =OER Romancecar Bay Resort -MSE-.JPG
|pxl =300px
|画像説明= 特急「ベイリゾート」に運用される小田急60000形<br/>(2008年8月16日)
|画像説明 =60000形MSE車の特急「ベイリゾート」
|編成両数= 6両 3本<br/>4両 1本
|unit = self
|起動加速度= 2.4(小田急線内2.0)
|編成 = 4両固定編成<br/>6両固定編成
|営業最高速度= 110
|起動加速度 =2.0[[メートル毎秒毎秒|km/h/s]](小田急線内)<ref name="498-100"/><br/>2.4km/h/s(東京メトロ・箱根登山線内)<ref name="498-100"/>
|設計最高速度= 120
|営業最高速度 =110km/h<ref name="495-102"/>
|減速度(常用最大)= 4.0
|設計最高速度 =120km/h<ref name="563-59"/>
|減速度(非常)= 4.7
|最高速度 =
|全長= 2 - 9号車 20,000mm<br/>1・10号車 20,220
|定格速度 =
|全幅= 2,850
|減速度(常用最大)=4.0km/h/s<ref name="498-100"/>
|全高= 4,140
|減速度(非常) =4.7km/h/s<ref name="498-100"/>
|軌間= 1,067([[狭軌]])
|編成定員 =578名(4両固定編成+6両固定編成)<ref name="495-103"/>
|電気方式= [[直流電化|直流]]1,500V<br/>([[架空電車線方式]])
|車両定員 =
|モーター出力= 190kW
|編成長 =200.44m<ref name="495-103"/>
|編成出力= 6両 3,040kW<br/>4両 1,520kW
|最大寸法 =20,220[[ミリメートル|mm]]×2,850mm×4,140mm(1号車・10号車)<ref name="829-318"/><br/>20,000mm×2,850mm×4,140mm(2号車-9号車)<ref name="829-318"/>
|駆動装置= [[WN駆動方式]]
|全長 =
|電動機= 全密閉外扇式[[かご形三相誘導電動機|三相誘導電動機]]
|全幅 =
|制御装置= [[絶縁ゲートバイポーラトランジスタ|IGBT]]-2レベル[[可変電圧可変周波数制御|VVVFインバータ制御]]
|全高 =
|ブレーキ方式= [[電気指令式ブレーキ|電気指令式空気ブレーキ]]<br/>[[回生ブレーキ]]<br/>[[抑速ブレーキ]]<br/>[[純電気ブレーキ|全電気ブレーキ]]
|車体長 =
|保安装置= [[自動列車停止装置#多変周式信号ATS(多変周式(点制御、連続照査型))|OM-ATS, D-ATS-P]], [[自動列車制御装置#新CS-ATC|CS-ATC]], [[自動列車停止装置#ATS-S改良形(ATS-Sx形)|ATS-S<small>T</small>]]
|車体幅 =
|製造メーカー= [[日本車輌製造]]
|車体高 =
|備考={{ブルーリボン賞 (鉄道)|52|2009}}
|編成質量 =359.8t<ref name="495-103"/>
|車両質量 =
|軸配置 =
|軌間 =1,067mm
|電気方式 =[[直流電化|直流]]1,500[[ボルト (単位)|V]]<br/>([[架空電車線方式]])
|出力 =
|主電動機 =[[三菱電機]] MB-5123-A2<br/>全密閉自己通風式[[かご形三相誘導電動機]]<ref name="829-318"/>
|モーター出力 =190[[ワット|kW]]<ref name="829-318"/>
|機関出力 =
|編成出力 =
|定格出力 =
|定格引張力 =
|駆動装置 =[[WN駆動方式]]<ref name="829-287"/>
|歯車比 =79:19=4.16<ref name="829-287"/>
|変速段 =
|台車 =[[日本車輛製造]] ND-739(電動台車)<ref name="498-103">[[#OER498|『鉄道ジャーナル』通巻498号 p.103]]</ref><br/>日本車輛製造 ND-739TA(先頭付随台車)<ref name="498-103"/><br/>日本車輛製造 ND-739T(中間付随台車)<ref name="498-103"/>
|制御装置 =[[東芝]] SVF089-A0(6両固定編成)<ref name="829-287"/><br/>[[東芝]] SVF089-B0(4両固定編成)<ref name="829-287"/><br/>純電気ブレーキ対応、定速運転・抑速制動機能付[[絶縁ゲートバイポーラトランジスタ|IGBT]][[半導体素子|素子]]2レベル[[可変電圧可変周波数制御|VVVFインバータ制御]]
|ブレーキ方式 =[[回生ブレーキ|回生制動]]併用[[電気指令式ブレーキ|電気指令式]][[電磁直通ブレーキ|電磁直通制動]]<ref name="829-287"/>
|保安装置 =[[自動列車停止装置#多変周式信号ATS(多変周式(点制御、連続照査型))|OM-ATS]]<ref name="829-287"/>, [[自動列車停止装置#D-ATS-P(デジタルATS-P)形|D-ATS-P]]<ref name="829-287"/>, [[自動列車制御装置#CS-ATC|CS-ATC]]<ref name="829-287"/>
|製造メーカー =[[日本車輌製造]]
|備考 =
|備考全幅 ={{ブルーリボン賞 (鉄道)|52|2009}}
}}
}}
'''小田急60000形電車'''(おだきゅう60000がたでんしゃ)は、[[2008年]]に[[小田急電鉄]](小田急)が運用を開始した[[特急形車両]]([[小田急ロマンスカー|ロマンスカー]])である。
{{Vertical_images_list

|幅= 240px
日本では初めての事例となる「座席指定制特急列車の[[地下鉄]]直通」を目的として登場した特急車両<ref name="829-285"/>で、[[2012年]]3月17日以降は[[東海旅客鉄道]](JR東海)[[御殿場線]]に直通する[[あさぎり (列車)|特急「あさぎり」]]にも運用が開始される<ref name="545-2627"/>。「多彩な運行が可能な特急列車」という意味で "Multi Super Express" (略して「MSE」)という愛称が設定され、2008年にはワトフォード会議 (Watford Group) より第10回[[ブルネル賞]]車両部門奨励賞を<ref name="2009-177178"/><ref name="Brunel">{{Cite web|date=|url=http://www.watford-group.org/brunel-2008.html|title=10th Brunel Awards 2008 |publisher=Watford Group|language=英語|accessdate=2011-11-20}}</ref>、同年度には日本産業デザイン振興会より「[[グッドデザイン賞]]」を<ref name="829-285"/>、[[2009年]]には[[鉄道友の会]]より「[[ブルーリボン賞 (鉄道)|ブルーリボン賞]]」を受賞した<ref name="829-285"/>。
| 1=Model 60000 of Odakyu Electric Railway 6.JPG

| 2=貫通側前面<br/>(2008年1月18日 / 五月台駅)
小田急では、編成表記の際には「[[新宿駅|新宿]]寄り先頭車両の[[鉄道の車両番号|車両番号]](新宿方の車号)×両数」という表記を使用している<ref>『鉄道ダイヤ情報』通巻145号 p.15</ref>ため、本項もそれに倣い、特定の編成を表記する際には「60051×4」「60253×6」のように表記する。また、特に区別の必要がない場合は[[東京地下鉄]](東京メトロ)[[東京地下鉄千代田線|千代田線]]・[[東京地下鉄有楽町線|有楽町線]]をまとめて「地下鉄線」と表記し、[[小田急3000形電車 (初代)|初代3000形]]は「SE車」、[[小田急3100形電車|3100形]]は「NSE車」、[[小田急7000形電車|7000形]]は「LSE車」、[[小田急10000形電車|10000形]]は「HiSE車」、[[小田急20000形電車|20000形]]は「RSE車」、[[小田急30000形電車|30000形]]は「EXE車」、[[小田急50000形電車|50000形]]は「VSE車」、本形式60000形は「MSE車」、[[箱根登山鉄道]][[箱根湯本駅]]へ乗り入れる特急列車については「箱根特急」と表記する。
| 3=Model 60000 of Odakyu Electric Railway 4.JPG
| 4=7号車+6号車の併合部<br/>(2008年1月9日 / 新百合ヶ丘駅)
| 5=OER-60101 inside.jpg
| 6=車内
| 7=OER-60101 inside seat.jpg
| 8=座席
}}
'''小田急60000形電車'''(おだきゅう60000がたでんしゃ)は、[[小田急電鉄]]の[[特急形車両|特急形]][[電車]]([[小田急ロマンスカー|ロマンスカー]])。[[鉄道の車両愛称|車両愛称]]は「'''MSE''' (Multi Super Express) 」。


== 登場の経緯 ==
[[2008年]]([[平成]]20年)[[3月15日]]から営業運転を開始した。
小田急の前身となる小田原急行鉄道は、もともとは東京都内の地下鉄事業を行なう計画で[[1919年]]に立ち上げられた<ref name="2009-16"/>東京高速鉄道<ref group="注釈">後に[[東京地下鉄]][[東京地下鉄銀座線|銀座線]]の一部となる路線を建設した[[東京高速鉄道]]とは別。</ref>の延長線として設立された鉄道会社であった<ref name="2009-16"/>。この東京高速鉄道は、実際に地下鉄の建設には着手されないまま[[1924年]]に免許が失効している<ref name="1988-25"/>。


戦後間もない[[1946年]]に、[[東京急行電鉄]]([[大東急]])では「鉄道復興3カ年計画」の中で、郊外電鉄の都心乗り入れを計画として盛り込んでいた<ref name="2009-118119"/>。大東急から小田急電鉄として分離発足した直後の1948年8月には、[[南新宿駅]]から[[東京駅]]までの地下鉄敷設免許を申請していた<ref name="1988-83"/>。出願後しばらくは自社内の輸送力増強に追われて動きがなかった<ref name="1988-83"/>が、[[1955年]]頃には箱根と日光を直結することを想定し<ref name="1988-84"/>、将来[[東武鉄道]]と連絡することを付記した上で出願路線の一部を変更していた<ref name="1988-84"/>。これらの計画は結局実現しないままであったが、[[北千住駅]]で東武鉄道と接続している[[帝都高速度交通営団]](営団地下鉄・当時)[[東京地下鉄千代田線|千代田線]]が[[1978年]]3月31日に全通し、小田急と相互乗り入れを開始している<ref name="546-145"/>。
第10回[[ブルネル賞]](車両部門奨励賞)、[[グッドデザイン賞]]、および[[2009年]][[ブルーリボン賞 (鉄道)|ブルーリボン賞]]受賞。


その後、小田急と東京メトロでは、小田急のロマンスカーを千代田線に乗り入れる計画を[[2005年]]5月17日に発表した<ref name="466-149"/>。この計画では、小田急が地下鉄線乗り入れに対応した新型特急車両を製造し<ref name="466-102"/>。平日夕方に[[湯島駅]]から[[町田駅]]・[[相模大野駅]]の運行を行ない<ref name="466-102"/>、土休日には新宿発着の特急に使用する計画となっていた<ref name="500-100"/>。[[2006年]]秋には車両仕様が発表され、[[小田急50000形電車|50000形(VSE車)]]に続いて[[岡部憲明]]がデザインや設計を担当し、[[2007年]]9月に竣功と公表された<ref name="482-96"/>。
== 概要 ==
特急ロマンスカーの[[東京地下鉄]](東京メトロ)[[直通運転]]用として設計され、特急専用車両としては[[日本]]で初めて[[地下鉄]]での営業運転を開始した車両である。


こうして、日本で初めてとなる、地下鉄線に直通する座席指定制特急車両として登場したのがMSE車である。
[[2005年]](平成17年)[[5月17日]]に営業開始について、[[2006年]](平成18年)[[9月20日]]に車両の製造について、それぞれの報道発表が行われた。


== 車両概説 ==
車両デザインは、[[小田急50000形電車|50000形「VSE」]]に引き続き[[岡部憲明]]が担当し、[[2007年]](平成19年)度に20m級[[ボギー台車|ボギー車]]の6両編成(定員352名)2本と4両編成(定員226名)1本の計3本16両が[[日本車輌製造]]で製造された。小田急ロマンスカーにおける「ボギー車」の採用は[[1996年]](平成8年)登場の[[小田急30000形電車|30000形「EXE」]]以来である。全編成の製造費は約38億円である。
本節では、登場当時の仕様を基本として、増備途上での変更点を個別に記述する。更新による変更については沿革で後述する。


MSE車は全長20[[メートル|m]]の車両による4両固定編成と6両固定編成が製造され、分割・併合に対応した10両編成を組成可能とした。形式は先頭車が[[制御車]]のクハ60050形で、中間車は[[動力車|電動車]]のデハ60000形である<ref name="829-285"/>。車両番号については[[#編成表|巻末の編成表]]を参照のこと。全体的にVSE車のデザイン思想を継承した<ref name="829-285"/>。
[[2009年]](平成21年)度は、6両編成1本が製造された<ref>{{PDFlink|[http://www.odakyu.jp/program/info/data.info/4533_6586618_.pdf 小田急電鉄プレスリリース 2009年4月30日:2009年度の鉄道事業設備投資計画]}}</ref>。また、[[2011年]](平成23年)度は6両編成と4両編成がそれぞれ1本ずつ製造される予定<ref>{{PDFlink|[http://www.odakyu.jp/program/info/data.info/6194_5738230_.pdf 2011年度の鉄道事業設備投資計画(小田急電鉄)]}}(2011年4月30日閲覧)</ref>。


== 特徴 ==
=== 車体 ===
=== 車体 ===
1号車と10号車は車体長19,720mm・全長20,220mm、それ以外の車両が車体長19,500mm・全長20,000mmで、車体幅は地下鉄線乗り入れに対応した2,850mmとした。車体は全て[[アルミニウム合金]]製で<ref name="498-100"/>、10両編成組成時に両端となる1号車と10号車の先頭部分は[[シングルスキン構造]]<ref name="829-53"/>、それ以外の部分は[[ダブルスキン構造]]とし<ref name="829-53"/>、構体の型枠は一部を除きVSE車と同じものを使用した<ref name="498-100"/>。
車体は[[アルミニウム合金]]製[[ダブルスキン構造]]である。車体のアルミ合金の押し出し型材は50000形「VSE」と一部を除き共通であるが、車体幅と全高は若干異なる。


{{Double image aside|right|OER 60554 Kaisei7cross Trial Run 2.jpg|180|OER Romancecar Sagami -MSE-.JPG|180|10両編成組成時に両端となる先頭車<!--非貫通型ではない-->|10両編成組成時に中間に入る先頭車}}
車体[[塗装]]は、「[[ヨハネス・フェルメール|フェルメール]]・[[青|ブルー]]」を地色に小田急ロマンスカーのイメージカラーである「[[オレンジ色|バーミリオン・オレンジ]]」の帯を窓下に配する。
先頭部の形状は2種類存在し、10両編成組成時に両端となる1号車と10号車については正面に非常用の[[貫通扉]]を設けている流線形である<ref name="498-100"/>。これに対し、10両編成組成時に中間に入る6号車と7号車については正面に貫通扉が設けられた貫通型である<ref name="12-16"/>。正面貫通扉は1号車と10号車が片開き式プラグドア<ref name="498-100"/>、6号車と7号車は両開き式プラグドアである。いずれの先頭車も、運転室は通常の床高さに設置された。この2種類の先頭形状は全く異なるものであるが、6号車と7号車でも側面からエッジを回りこませることにより、同じイメージを持たせることを意図してデザインされた<ref name="12-31"/>。デザインを担当した岡部は「もっともデザイン作業の時間がかかった部分ではないか」と述べている<ref name="12-31"/>。前面ガラスは厚さ13.1mmの合わせ強化ガラスで<ref name="498-102"/>、中間膜1枚を挟み込んだ上で室内側から飛散防止フィルムを貼ることで乗務員の保護を図った<ref name="498-102"/>。


側面客用扉は各車両とも1箇所で、片開き引戸が採用され、扉幅は全車両とも900mm幅とした<ref name="498-101"/>。側面窓の配置については、窓枠の幅を1,966mmとし、これを連続させた。1号車・6号車・7号車・10号車の乗務員室部分には500mm幅の乗務員扉を配置した<ref name="498-102"/>。車両間の貫通路は850mm幅である<ref name="498-102"/>。
6両編成の[[新宿駅|新宿]]・[[北千住駅|北千住]]寄り先頭車と4両編成の[[小田原駅|小田原]]寄りの先頭車は[[増解結|分割・併合]]が可能な構造で、車外から見て前面左上に[[フルカラー]][[発光ダイオード|LED]]式[[方向幕|愛称表示器]]が設置されている。また、分割・併合しない側の先頭車は流線型となるが、車外から見て前面左側に非常用[[貫通扉]]が、右中央に愛称表示器が設置されている。側面の行先表示器についてもフルカラーLEDを採用している。


[[File:OER Romancecar MSE -Metro Home Way- 1.jpg|thumb|側面表示器]]
[[エア・コンディショナー|冷房装置]]は屋根上に[[集約分散式冷房装置|集約分散式]]を2基搭載した。1基あたりの能力は23.26kW (20000kcal/h) である。冷房・除湿運転のほか、装置内に電熱ヒーターを組み込んだことで、冬期の[[暖房]]運転も可能となっている。
前面・側面の[[方向幕|表示器]]はフルカラー式[[発光ダイオード|発光ダイオード (LED) ]]表示器を使用し、小田急線内では前面に愛称・側面に愛称と号数を、地下鉄線内では前面は愛称と運行番号の交互表示・側面は愛称・号数と行き先の交互表示を行なう<ref name="498-105"/>。また、任意の文字を愛称として登録することが可能な「任意愛称表示」を新たな機能として導入した<ref name="498-105"/>。


塗装デザインは「地下鉄路線でも明るく見えるように」という岡部の提案により<ref name="12-31"/>、屋根上の冷房装置のカバーも含めてメタリック系の青色である「[[ウルトラマリン|フェルメール・ブルー]]」を基調とし<ref name="498-100"/>、窓下にはバーミリオン帯とホワイトの細帯を配置した<ref name="498-100"/>。バーミリオンは小田急ロマンスカーのイメージカラーとしてSE車・NSE車・LSE車・VSE車において使用されており、これを継承したものである<ref name="498-100"/>。
屋根部には、一体感のある車体となるよう、冷房装置のない部分にもカバーを設置している。運転台のある車両にはこの冷房装置間のカバー内に列車無線のアンテナを設置し、先頭部のデザイン性に配慮した。なお、ほとんど見分けがつかないが、列車無線のアンテナ部のカバーのみFRPを用いている。


=== 内装 ===
Tc車の先頭部の非常貫通扉については、強度や操作性の確認を行うため、モックアップを製作した。
[[File:OER-60101 inside.jpg|thumb|車内]]
室内は、EXE車をベースとして設計し、ビジネス特急として落ち着いた雰囲気となることを図った<ref name="498-100"/>。


[[鉄道車両の座席|座席]]は[[鉄道車両の座席#回転式クロスシート(回転腰掛)|回転式]][[リクライニングシート]]を採用、[[座席#シートピッチ|シートピッチ]]が983mmで配置した<ref name="498-100"/>。このシートピッチはEXE車の1,000mmよりも狭いが、座席の背もたれを薄くすることで足元空間は逆にEXE車より42mm広く確保された<ref name="498-100"/>。また、前後の座席がリクライニングさせた状態でも回転が可能な形状とした。各座席の肘掛にはA4[[ノートパソコン]]を置くことが可能な収納式テーブルを設置したが、テーブルを出したままでも座席の回転が可能な形状とした<ref name="498-100"/><!--つまりA4ノートパソコンがテーブル内におさまるわけではない。もっともThinkPad A22pで試して不安定感はなかった。-->。また、座席背面には[[傘]]かけを設置した<ref name="498-100"/>。座席表地は濃いグレーとした<ref name="12-22"/>。一斉回転機構はEXE車と同様に電動式が採用された<ref name="498-100"/>が、奇数列の回転が完了する前に偶数列の回転が開始される設定とすることで、短時間での折り返しが可能となるように配慮した<ref name="498-101"/>。肘掛と背もたれ上部の手掛けはともにアルミ製である<ref name="829-239"/>。
=== 車内案内 ===
* 座席定員は10両編成時で578名(6両352名+4両226名)である。
* 座席は全席禁煙である。
* 東京メトロ線内での乗降は、号車番号が太字・緑背景の車両(1・4・5・7・8・9号車)のみで行われる。
* 30000形EXEとの共通運用を考慮して、室内見付は車椅子スペースなどを除き、基本的に30000形EXEと同一である。


天井高さは2,340mmを確保し<ref name="498-101"/>、大きな円弧を描くスパンドレル構造とし<ref name="498-101"/>、電球色の蛍光灯による間接照明とした。室内の内壁は木目調化粧板とし<ref name="498-100"/>、床には赤系統のカーペットを敷きつめた<ref name="498-100"/>。荷物棚下には電球色のLED式直接照明装置を設置した<ref name="498-101"/>が、火災時に溶融滴下を防止するため、LEDのユニットはガラス内に収める構造とした<ref name="498-101"/>。通路上には車内案内表示用にフルカラー式LED表示装置を設置し、[[日本語]]以外に表示内容によって[[英語]]・[[中国語]]([[繁体字]])・[[韓国語]]による表示を可能とした<ref name="498-105"/>。また、車掌が乗客の対応中に、運転士が車掌を呼び出せるように、運転台からの操作で車掌の呼び出しを表示する機能を有している<ref name="498-105"/>。
{| class="wikitable" style="font-size:90%;"
|-
! 号車 !! 客席 !! その他の設備
|-
| style="background-color:#9f9;"|'''1'''
| 一般席(56席) || [[操縦席|乗務員室]]
|-
| 2 || 一般席(60席) || [[列車便所|トイレ]]・[[洗面器#洗面台・洗面所|洗面所]]
|-
| 3 || 一般席(56席) || [[車内販売]]カウンター・[[自動販売機]]・[[自動体外式除細動器]] (AED)
|-
| style="background-color:#9f9;"|'''4'''
| 一般席(68席) || &nbsp;
|-
| style="background-color:#9f9;"|'''5'''
| 一般席(52席)<br/><small>うち2席は[[障害者]]対応</small> || [[車椅子スペース]]・「だれでもトイレ」・洗面所
|-
| 6 || 一般席(60席) || 乗務員室
|-
| style="background-color:#9f9;"|'''7'''
| 一般席(60席) || 乗務員室
|-
| style="background-color:#9f9;"|'''8'''
| 一般席(54席)<br/><small>うち2席は[[障害者]]対応</small> || 車椅子スペース・「だれでもトイレ」・洗面所
|-
| style="background-color:#9f9;"|'''9'''
| 一般席(56席) || 車内販売カウンター・自動販売機・自動体外式除細動器 (AED)
|-
| 10 || 一般席(56席) || 乗務員室
|}


出入台部分では白いパイプが妻板に突き刺さった構図など、前衛芸術的な造形物もある<ref name="12-21"/>が、これは出入台部分でも間接照明を実現するためのもので<ref name="498-101"/>、白いパイプには灯具が上向きに収められている<ref name="498-101"/>。客室と出入台の間にある仕切り扉は車体色と同じ「フェルメール・ブルー」で<ref name="498-101"/>、車椅子対応座席のある5号車・8号車は幅広の両開きとし<ref name="12-24"/>、それ以外の箇所は片開き850mm幅とした<ref name="498-102"/>。仕切り扉には大きなガラスをはめ込んだ構造としたほか、縦方向全長に渡って手掛けとなる溝を設けた<ref name="498-101"/>。2009年に増備された車両からは、出入台に防犯カメラを設置した。5号車には、車椅子に乗ったままで車窓を楽しめるスペースを確保し、保護棒と簡易車椅子固定装置を設けた<ref name="498-101"/>。また、4号車には車内専用の車椅子を用意した。
客室内装は木目調の化粧板に床面全体に赤色系の[[絨毯]]を敷き詰めている。座席は50000形「VSE」に引き続き[[岡村製作所]]製を採用し、横2+2列配置のリクライニングシートで、前後間隔(シートピッチ)は983mmである。これは[[小田急30000形電車|30000形「EXE」]]の1,000mm、50000形「VSE」の1,050mmよりも狭いが、背もたれ部分の厚みを少なくしたことにより、足元部のスペースを広く確保している。薄くなった背面部は木目調の強化樹脂製である。


3号車の新宿側車端部と9号車の小田原側車端部にはカフェカウンターと清涼飲料水自動販売機を設置した<ref name="498-101"/>。カフェカウンターはワゴンによる車内販売の拠点となるため、ワゴンを2台収納することが可能なスペースを確保した<ref name="498-101"/>ほか、備品盗難防止のため横スライド式シャッターを設けた。カフェカウンターの前の通路には、日本の鉄道車両としては初めて<ref name="498-103"/>[[自動体外式除細動器]] (AED) が設置された。この箇所は客室との明確な区別のため薄茶色系としている<ref name="498-101"/>。
なお、テーブルは一点支点方式の小さな三角形という特殊な形状で、腰掛けから引き出して使用する。そのため、飲料類を置くことはできるが、[[パーソナルコンピューター|パソコン]]や大型の弁当を置くとはみ出すことになる。一方で、両座席のテーブルを出した状態で座席を回転させることが可能である。


2号車・8号車の新宿側車端部と5号車の小田原側車端部には男女共用洋式トイレ・男性小用トイレ・化粧室を配置した<ref name="498-101"/>。このうち5号車と8号車の男女共用トイレについては車椅子にも対応し、[[オストメイト]]や[[ベビーベッド]]も備えた「ゆったりトイレ」としており<ref name="498-101"/>、トイレ内で転倒した場合にも対応できるように床下近くにも非常通報装置を設けた<ref name="498-101"/>。洗面所にはカーテンを設けた<ref name="498-101"/>。
これらについては、地下鉄乗り入れ規格を満たすため<!--([[地下鉄対応車両|A-A基準]])の関係から ←A-A基準はもう存在しません-->50000形「VSE」とは異なり不燃加工された[[木材]]は採用せず、例えばテーブルや肘掛け部はアルミ合金製とされている。天井部の形状は同形式に準じているが、室内高は同形式の2,550mmに対して、本形式は2,345mmと若干低い。


=== 主要機器 ===
客室とデッキ部の仕切り扉は、フェルメール・ブルー地に大型透明ガラスまたはスリガラスを組み込んだ構造(車両より異なる)としている。また、片開きと両開きが混在している。仕切り扉の上部には2行表示が可能なフルカラーLED式[[車内案内表示装置|車内案内表示器]]を設置している。なお、デザイン優先のため、号車ごとに貫通扉は片開きと両開きが混在しており、ガラスも透明ガラスとスリガラスが混在している。また、白いパイプが妻板に突き刺さった構図など、[[アバンギャルド|前衛芸術]]的な側面も見られる。
主要機器は[[小田急4000形電車 (2代)|4000形]]と共通点が多くなっている<ref name="829-287"/>。


==== 乗務員室 ====
トイレと洗面所は、10両編成の場合2・5・8号車に男女共用[[便器#腰掛大便器(洋式・洋風大便器)|洋式]]、女性用洋式、男性[[便器#小便器|小用]]を組み合わせて設置されている。そのうち、障害者対応座席と車椅子スペースが設置されている5・8号車の共用トイレについては[[ユニバーサルデザイン]]の一環としてスペースを広くし、[[オストメイト]]にも対応し[[ベビーベッド]]を備える「ゆったりトイレ」である。
{{Double image aside|right|OER-60101 cockpit.jpg|180|Model 60000 of Odakyu Electric Railway 4.JPG|180|10両編成組成時に両端となる運転台|「自動ほろ装置」により接続された中間の運転台}}
運転士が乗務する乗務員室(運転室)は、背後の客室から見られることを前提とした「魅せる乗務員室」とするととも<ref name="498-101"/>に、乗務しやすい環境となることを目指した<ref name="498-101"/>。設計には運転士の経験者が携わった<ref name="498-100"/>ほか、特に10両編成組成時に編成の中間に入る6号車・7号車の運転台については、[[モックアップ]]の作成により現業の運転士からの意見も集約して反映させた<ref name="498-101"/>。


10両編成組成時に両端となる1号車・10号車の運転台と、編成の中間に入る6号車・7号車では運転台の構造は異なる。共通事項として、運転に必要な機器類は運転席周りに集約し、[[マスター・コントローラー|主幹制御器]]を4000形と共通の左手操作ワンハンドル式とした<ref name="498-104"/>ほか、2種類の運転台で機器配置を極力統一し、運転士が頻繁に扱う機器については着座位置から右手で操作できるようにした<ref name="498-102"/>。通常使用しないスイッチ類については左側に配置し、主幹制御器ハンドル操作中には使用できないようにしている<ref name="498-102"/>。また、運転士の異常時に対応する機器として[[緊急列車停止装置|EB装置]]を導入したが、地下鉄線内ではEB装置は機能しないようにしている<ref name="498-105"/>。
3・9号車には、車内販売カウンターのほか、日本の鉄道車両では初めて自動体外式除細動器 (AED) が設置された。これを皮切りに他のロマンスカー全編成にも設置が進み、2008年[[10月22日]]までに設置が完了している。


1号車・10号車の運転台は前面に大型ガラスを採用している<ref name="498-102"/>ことから、暑さ対策や紫外線対策として、前面窓と側面の三角形の窓には大型で完全遮光のフリーストップカーテンを装備した<ref name="498-102"/>。運転室の空調は、ラインデリアに冷房のダクトを通すことで空調効果を高める<ref name="498-102"/>一方、運転士の後頭部に冷風が直接当たらないように配慮した<ref name="498-102"/>。運転席はハイバックシートで2度のリクライニング機能を持たせた<ref name="498-102"/>ほか、背面にコート掛けを設けた<ref name="498-102"/>。6号車・7号車の運転台は、運転室構造を「く」の字形の構造とし<ref name="498-102"/>、車掌台側はオープン構造とした<ref name="498-102"/>ため、車掌スイッチには鎖錠カバーを設置した<ref name="498-103"/>。
なお、車内販売は「メトロはこね」運用時のみ実施している<ref>なお、[[アジサイ|あじさい]]の開花時期に[[開成駅]]へ臨時停車した「さがみ」運用に入った時は臨時に車内販売が実施された。<!--この「さがみ」の運行は2008年[[11月30日]]をもって終了した。-->この他、一部のVSE指定列車を代走する時もワゴンカートによる車内販売を実施する。</ref>。


車両の情報を管理するシステムとしては、4000形と同様のシステムであるTIOS(列車情報小田急型管理装置)が採用されている<ref name="498-103"/>。「自動遮断スイッチ」<ref name="498-103"/>、「車両転動防止支援装置」<ref name="498-103"/>、「停車予告」<ref name="498-104"/>など、実装されている機能は基本的に4000形と同様であるが、MSE車独自の機能として、停車駅表示と同時に編成両数も表示されること<ref name="498-104"/>、3号車と8号車に搭載したAEDの収納箱扉を開いた場合に警告を発する<ref name="498-103"/>といった機能が追加されている。
60253Fは、各デッキとトイレ前通路に[[監視カメラ|防犯カメラ]]が設置された。このため、「防犯カメラ作動中」の表示も併せて行われている<ref>{{PDFlink|[http://www.odakyu.jp/company/odakyu/0912/book206/book.pdf 広報紙 ODAKYU VOICE12月号]}}</ref>。


MSE車では分割・併合に対応する機器としてEXE車と同様に「自動ほろ装置」を設置した<ref name="498-103"/>が、6両固定編成が単独で地下鉄線内に乗り入れる運用を考慮し、通路幅は地下鉄線内で脱出用通路となる場合を想定して、EXE車よりも50mm拡大した600mmとした<ref name="498-103"/>。また、6号車の運転台では、電源がない状態でも自動ほろ装置を手動扱いによって貫通扉の開放と渡り板の展開が可能な構造とした<ref name="498-102"/>。
=== 走行機器など ===
[[Image:OER-60101 cockpit.jpg|thumb|240px|right|運転室]]
主回路システムは[[東芝]]製[[絶縁ゲートバイポーラトランジスタ|IGBT]][[半導体素子|素子]]による2レベル方式の[[可変電圧可変周波数制御|VVVFインバータ制御]](型式:SVF089-A0,SVF089-B0)で、[[回生ブレーキ]]機能、[[抑速ブレーキ]]機能<ref>東京メトロ線内では機能しない。</ref>、[[定速運転|定速制御]]機能および[[純電気ブレーキ|全電気ブレーキ]]機能を有する。1基のインバータ装置で4個の[[かご形三相誘導電動機|主電動機]]を駆動する1C4M方式2群を1ユニットとして2・4・8号車に搭載する。[[動力車|電動車]] (M) と[[付随車]] (T) の構成([[MT比]])は6両編成が4M2T、4両編成は2M2Tである。


保安装置は小田急線内で使用する[[自動列車停止装置#多変周式信号ATS(多変周式(点制御、連続照査型))|OM-ATS装置]]<ref name="498-105"/>・地下鉄線内で使用する車内信号式自動列車制御装置 ([[自動列車制御装置#CS-ATC|CS-ATC]]) のほか<ref name="498-105"/>、小田急線内で新しく採用された[[自動列車停止装置#D-ATS-P(デジタルATS-P)形|D-ATS-P装置]]も準備工事として搭載した<ref name="498-105"/>。ただし、4両固定編成が単独で地下鉄線内に乗り入れることは運用上想定していない<ref name="12-21"/>ため、7号車の運転台にはCS-ATCは搭載していない<ref name="829-287"/>。
[[起動加速度]]は小田急線内が2.0km/h/s、東京メトロ・箱根登山線内が2.4km/h/sである。これらは運転台の[[マスター・コントローラー|主幹制御器]]キーの挿入条件により自動的に切り替わる。


==== 走行関連機器 ====
補助電源装置はIGBT素子による容量260kVAの[[静止形インバータ]] (SIV) を3・9号車に搭載する。インバータ1基中に[[コンデンサ]]や制御ユニットなどの故障頻度が高いユニットを2回路、フィルタ[[リアクトル]]などの故障頻度の少ないユニットを1回路として[[冗長化]]を図った待機二重系のシステムとしている。[[小田急4000形電車 (2代)|4000形]]と同一仕様であり、箱の色とわずかな回路を除き、JR東日本の[[JR東日本E233系電車|E233系]]とも同一仕様である。
[[主制御器|制御装置]]は[[東芝]]製の[[絶縁ゲートバイポーラトランジスタ|IGBT]][[半導体素子|素子]]2レベル[[可変電圧可変周波数制御|VVVFインバータ制御]]装置を採用した<ref name="498-104"/>。SE車からVSE車までの特急車両に引き続き東芝製の採用で、主電動機2台×2台車×2群を1ユニットとし、1ユニットで8個の電動機の制御を行う方式(1C8M)である<ref name="498-104"/>。6両固定編成ではSVF-089A0形を2号車と4号車に<ref name="498-104"/>、4両固定編成ではSVF-089B0形を8号車に搭載した<ref name="498-104"/>。センサレスベクトル制御方式を採用しており、[[回生ブレーキ|電力回生制動]]は[[純電気ブレーキ]]制御である<ref name="498-104"/>。素子の冷却方式は、冷媒に水を使用し走行風によって冷却するヒートパイプ方式である<ref name="498-104"/>。


主電動機は速度センサレス式全密閉形の[[三菱電機]]製MB-5123-A2であり、定格出力190kWである。駆動装置は[[WN駆動方式]]、歯車比は79:19 (4.16) である。4000形と同一仕様であり、[[小田急8000形電車|8000形]]VVVF車や[[小田急3000形電車 (2代)|3000形]]の一部にも搭載されている
[[主電動機]]4000で採用実績ある[[三菱電機]]製の外扇式全密閉[[かご形三相誘導電動機]]である<ref name="498-104"/>出力190kWのMB-5123-A2形を採用した。駆動装置はVSE車と同様に[[WN駆動方式|WNドライブ]]が採用され<ref name="498-103"/>[[歯車比|歯数比]]は79:19=4.16に設定した<ref name="498-103"/>


[[鉄道のブレーキ|制動装置(ブレーキ)]]については、[[鉄道のブレーキ|制動装置(ブレーキ)]]は回生制動併用[[電気指令式ブレーキ|全電気指令式電磁直通制動]]とした<ref name="498-104"/>。4000形と同様にTIOSによって編成全体で制動力の管理を行なう方式<ref name="498-104"/>で、制御車には滑走制御装置を搭載した<ref name="498-104"/>ほか、「編成滑走制御」を導入している<ref name="498-104"/>。基礎制動装置は電動車がシングル式(片押し式)の[[踏面ブレーキ#ユニットブレーキ|ユニットブレーキ]]で<ref name="498-103"/>、制御車と付随車においては4000形と同様[[ディスクブレーキ]](ツインディスク式)が採用され、ユニットブレーキとの併用としている<ref name="498-103"/>。
ブレーキシステムは[[TIMS#TIOS|TIOS]] (Train Information Odakyu management System) の制御伝送による回生(全電気)併用[[電気指令式ブレーキ|電気指令空気式]]で、[[遅れ込め制御]]を有する。また、ブレーキ時の[[滑走]]に対応するために1・10号車に滑走制御装置を設置し、これとTIOS制御伝送による編成中のブレーキ制御を統合することにより編成全体での滑走発生を抑制する「編成滑走制御」を導入した。


[[鉄道車両の台車|台車]]は日本車輌製の積層ゴム軸箱片支持ボルスタレス式で、電動はND-739、付随車([[制御車]])はND-739TまたはND-739TAを装着する。[[ホイールベース|固定軸距(ホイーベー]]は2,100mmである。軸箱支持装置軸ゴム配置を変更したにより[[蛇行動#ヨーダンパ|ヨーダンパ]]は省略されている。
[[鉄道車両の台車|台車]]は、電動台車がND-739、付随先頭台車がND-739TA、付随中間台車がND-739Tで、いずれも[[日本車輌製造]]製の積層ゴム軸箱片支持式[[鉄道車両の台車史#ボルスタレス車|ルスタレス台車]]である<ref name="498-103"/>この台車は、軸箱支持装置に左右荷重と前後荷重を負担する円筒積層軸ゴムを2箇所に配置した「タンデム式」呼ばれるもので<ref name="498-103"/>、ヨーダンパ設置をせずに蛇行動抑制や走行安定性向上を実現している<ref name="498-103"/>。車輪径は電動台車が860mm、付随台車が810mmである<ref name="498-103"/>


==== その他機器 ====
[[集電装置|パンタグラフ]]はシングルアーム式で、6両編成の2・3号車と4両編成の8・9号車に各1基搭載される。
[[集電装置|集電装置(パンタグラフ)]]は[[集電装置#Z型・シングルアーム型|シングルアーム式]]のPT7113-B形を採用、2号車・3号車・8号車・9号車に設置した<ref name="498-104"/>。舟体は、降雪時の着雪量低減を図るため、強度を上げながら枠を薄くするために薄形角パイプのアルミニウム製とし、避雷器を集電装置の台枠に直接取り付けた<ref name="498-104"/>。


[[エア・コンディショナー|冷房装置]]については、[[冷凍能力]]20,000[[カロリー|kcal]]/hの三菱電機CU-733形を採用、各車両屋根上に2台ずつ搭載した<ref name="498-105"/>。補助電源装置は、出力260[[ボルト (単位)|kV]][[アンペア|A]]のIGBT素子式[[静止形インバータ]] (SIV) を3号車・9号車に搭載した<ref name="498-105"/>。[[圧縮機|電動空気圧縮機]] (CP) については、交流440Vで駆動する低騒音スクロール式を採用、小容量のスクロール圧縮機を2台もしくは3台で1ユニットとする「マルチコンプレッサシステム」として、1号車・5号車・7号車・10号車に搭載した<ref name="498-105"/>。
[[圧縮機|電動空気圧縮機]]は稼働時の騒音低減を図ったスクロール式で、1・5・7・10号車に搭載する。


[[警笛]]については、空気笛はAW-5C形<ref name="829-189"/>、電子笛には八幡電気産業製のYA-04046形<ref name="829-190"/>が搭載されたほか、VSE車と同様、SE車からRSE車まで設けられていた補助警報音と同じメロディのミュージックホーンが採用された<ref name="829-190"/><ref group="注釈">回路は電子笛と共用で([[#中山829|『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.190]])、警笛と別装置ではない。</ref>。
運転台の[[マスター・コントローラー|主幹制御器]]は4000形と同一の左手操作型ワンハンドル式である。コンソールの機器配置は1・10号車、自動幌装置が設置されている6・7号車ともに共通である。


== 沿革 ==
保安装置は[[自動列車停止装置#多変周式信号ATS(多変周式(点制御、連続照査型))|OM-ATS]]のほか、今後小田急で導入予定のD-ATS-Pや東京メトロ用の[[自動列車制御装置#新CS-ATC|CS-ATC]]、JR東海用の[[自動列車停止装置#ATS-S改良形(ATS-Sx形)|ATS-S<small>T</small>]]を搭載する。
[[ファイル:Odakyu romance car kasumigaseki.JPG|thumb|「メトロはこね」運用に入ったMSE車]]
2007年9月に60251×6が入線、同年10月の「[[ファミリー鉄道展]]」で展示された<ref name="829-235"/>が、営業運行開始前の展示は異例のことであった<ref name="829-235"/>。2008年3月15日より営業運行を開始、小田急の駅では「青い、ロマンスカー」と大きく宣伝された<ref name="500-94"/>。


運用開始時点での定期運用は、平日が「メトロさがみ70号」<ref name="563-58"/>・「メトロホームウェイ71号」<ref name="563-58"/>・「メトロホームウェイ41号」<ref name="563-58"/>・「メトロホームウェイ43号」<ref name="563-58"/>で、土休日は「メトロさがみ80号」<ref name="563-58"/>(日によっては「ベイリゾート90号」<ref name="563-58"/>)・「メトロはこね21号」<ref name="563-58"/>・「メトロはこね22号」<ref name="563-58"/>・「メトロはこね23号」<ref name="563-58"/>・「メトロはこね24号」<ref name="563-58"/>・「メトロホームウェイ43号」<ref name="563-58"/>(日によっては「ベイリゾート90号」<ref name="563-58"/>)であった。この時点では6両固定編成×2編成と4両固定編成×1編成だけしかなく<ref name="500-98"/>、平日ダイヤでは全ての編成が運用に入っており、予備車がなかったため<ref name="500-98"/>、平日ダイヤの「メトロさがみ70号」で北千住駅に到着した後は 綾瀬駅で折り返して喜多見検車区まで回送して検査時間を確保していた<ref name="500-98"/>。休日ダイヤでは6両固定編成と4両固定編成を各1編成ずつ使用していた<ref name="500-98"/>。
=== 編成 ===

※個別の編成を指す場合は、6両編成は6号車のクハ60050形の[[鉄道の車両番号|車両番号]]を用いて「60251F」、4両編成は10号車のクハ60050形の車両番号を用いて「60051F」(「F」は編成を意味する'''Formation'''の頭文字)のように表記される。
[[ファイル:OER 60000 Extra 20110417.jpg|thumb|臨時列車に運用されるMSE車]]
同年夏には[[小田急江ノ島線|江ノ島線]]へ直通する臨時特急「湘南マリン号」に使用され<ref name="829-218"/>、[[2009年]]1月1日には「[[ニューイヤーエクスプレス]]」に運用される<ref name="829-219"/>など、臨時列車にも使用されるようになり、2009年2月には地下鉄直通の臨時特急として、臨時特急「メトロおさんぽ号」も運行された。また、VSE車が検査を行う際にはVSE車の運用に入った<ref name="829-218"/>ほか、2009年9月13日には、[[ブルーリボン賞 (鉄道)|ブルーリボン賞]]受賞記念として、新宿発の箱根特急の運用に入った<ref name="829-54"/>など、愛称の "Multi" の意味そのままに多彩な運用が見られるようになった<ref name="829-218"/>。団体専用列車では、MSE車で新しく実装された「任意愛称表示」の機能を使用して、「○○幼稚園号」のように団体名を愛称として表示の上運行することがある<ref name="829-218"/><ref name="railf20101020">{{Cite web|date=2010-10-20|url=http://railf.jp/news/2010/10/20/170000.html|title=小田急ロマンスカー「MSE」による団体臨時列車|publisher=[[交友社]]『[[鉄道ファン (雑誌)|鉄道ファン]]』railf.jp 鉄道ニュース|language=日本語|accessdate=2012-03-05}}</ref>。2009年には6両固定編成が1編成増備された<ref>{{Cite web|date=2009-10-31|url=http://railf.jp/news/2009/10/31/214300.html|title=小田急ロマンスカー「MSE」が甲種輸送される|publisher=交友社『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース|language=日本語|accessdate=2012-03-05}}</ref>。

列車内のカフェカウンターは、「メトロはこね」や他形式運用の代走など、箱根特急運用時のみの営業で<ref name="12-25"/>、ワゴン販売中はカフェカウンターは営業しない<ref name="12-125"/>。

[[2010年]]1月中旬より、LSE車とHiSE車は部品の一部に不具合が見つかったことを理由として<ref name="522-147">[[#RJ522|『鉄道ジャーナル』通巻522号 p.147]]</ref>全面的に運用から離脱していた。その最中の同年1月14日には本来LSE車・HiSE車で運行される「[[ホームウェイ (列車)|ホームウェイ]]」<ref name="railf20100115">{{Cite web|date=2010-01-15|url=http://railf.jp/news/2010/01/15/190400.html|title=60000形「MSE」が“ホームウェイ”に|publisher=交友社『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース|language=日本語|accessdate=2012-03-05}}</ref>や箱根特急<ref name="railf20100118">{{Cite web|date=2010-01-18|url=http://railf.jp/news/2010/01/18/184000.html|title=「LSE」代走の影響で、「MSE」が箱根登山線内で並ぶ|publisher=交友社『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース|language=日本語|accessdate=2012-03-05}}</ref>などにMSE車が使用された。

[[2011年]]度には6両固定編成・4両固定編成が各1編成ずつ増備された<ref>{{cite press release|author=|url=http://www.odakyu.jp/program/info/data.info/6194_5738230_.pdf|title=2011年度の鉄道事業設備投資計画|publisher=[[小田急電鉄]]|language=日本語|accessdate=2012-03-05}}</ref>。なお、なお、有楽町線へ直通する「ベイリゾート」については、ホームドア設置の関連で2011年10月以降運行を休止しており<ref name="12-126"/>、2012年3月17日以降は運転中止となることが公表された<ref name="oer20111216">{{cite press release|author=|date=2011-12-16|url=http://www.odakyu.jp/program/info/data.info/6813_2421858_.pdf|title=2012年3月17日(土) ダイヤ改正を実施します。|publisher=[[小田急電鉄]]|format=PDF|language=日本語|accessdate=2011-12-16|quote=(1)東京メトロ千代田線直通ロマンスカーについて}}</ref>。

前述の通り、計画段階では土休日に新宿駅発着の特急列車に使用することになっていた<ref name="500-100"/>が、実際に運用についてからは、小田急の特急車両でありながら、臨時に他の特急車両運用に入るか臨時列車としての運行以外には新宿駅発着の運用はなかった<ref name="829-289"/>。しかし、2012年3月17日からは新宿駅発着で御殿場線へ直通する特急「あさぎり」の全列車と<ref name="545-2627"/>、土休日ダイヤで「あさぎり」と併結する「えのしま11号」<ref name="od12-14"/>と「えのしま12号」<ref name="od12-15"/>をはじめとして、新宿発着の定期列車にMSE車が運用されることになった<ref group="注釈">「あさぎり」各列車と「えのしま11号」「えのしま12号」以外の列車は、平日ダイヤでは、下り「さがみ63号」「はこね25号」「ホームウェイ83号」「ホームウェイ89号」([[#時刻表2012|『2012 小田急時刻表』 p.12]])・上り「さがみ60号」「さがみ72号」「さがみ78号」「はこね16号」「えのしま90号」([[#時刻表2012|『2012 小田急時刻表』 p.13]])。土休日ダイヤでは、下り「はこね11号」「さがみ75号」「えのしま75号」「ホームウェイ53号」「ホームウェイ55号」「ホームウェイ59号」([[#時刻表2012|『2012 小田急時刻表』 p.14]])・上り「さがみ56号」「さがみ70号」「はこね12号」「さがみ92号」「えのしま92号」([[#時刻表2012|『2012 小田急時刻表』 p.15]])。</ref>。

== 編成表 ==
; 凡例 : Tc…[[制御車]]、M…[[動力車|電動車]]、CON…[[主制御器|制御装置]]、SIV…補助電源装置、CP…[[圧縮機|電動空気圧縮機]]、PT…[[集電装置]]、ATC…[[自動列車制御装置#CS-ATC|CS-ATC]]<br/>乗 …乗務員室、車…車椅子対応座席、売…売店・自動販売機・[[自動体外式除細動器|自動体外式除細動器 (AED) ]]、WC…[[列車便所|トイレ]]・[[洗面器#洗面台・洗面所|化粧室]]、VWC…車椅子対応トイレ・化粧室

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!号車
!号車
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!形式
| '''クハ60000''' || '''デハ60000''' || '''デハ60000''' || '''デハ60000''' || '''デハ60000''' || '''クハ60000'''
|'''クハ60050'''<br/> (Tc1)
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!style="border-bottom:solid 3px #DD3C00;"|区分
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|'''クハ60050'''<br/> (Tc2')
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|'''クハ60050'''<br/> (Tc1')
![[鉄道の車両番号|車両番号]]
|'''デハ60000'''<br/> (M1')
| '''60551'''<br/>'''∥'''<br/>'''60554''' || '''60501'''<br/>'''∥'''<br/>'''60504''' || '''60451'''<br/>'''∥'''<br/>'''60454''' || '''60351'''<br/>'''∥'''<br/>'''60354''' || '''60201'''<br/>'''∥'''<br/>'''60204''' || '''60251'''<br/>'''∥'''<br/>'''60254'''
|'''デハ60000'''<br/> (M2')
|'''デハ60000'''<br/> (M3)
|'''デハ60000'''<br/> (M4)
|'''クハ60050'''<br/> (Tc2)
|-
|-
!搭載機器
!搭載機器
| CP || SIV || CONT || CP || &nbsp; || CP || CONT || SIV || CONT || CP
| CP,ATC || CON,PT || SIV,PT || CON || CP || ATC
|-style="border-top:solid 3px #0077bb;"
! rowspan="2"|車両番号
| 60051<br/>&nbsp;<br/>&nbsp;
| 60001<br/>&nbsp;<br/>&nbsp;
| 60101<br/>&nbsp;<br/>&nbsp;
| 60151<br/>&nbsp;<br/>&nbsp;
| 60251<br/>60252<br/>60253
| 60201<br/>60202<br/>60203
| 60301<br/>60302<br/>60303
| 60401<br/>60402<br/>60403
| 60501<br/>60502<br/>60503
| 60551<br/>60552<br/>60553
|-
|-
!style="border-bottom:solid 3px #465DAA;"|自重
|colspan="4" style="background-color:#ffc;"|4両編成
|style="border-bottom:solid 3px #465DAA;"| 32.1t ||style="border-bottom:solid 3px #465DAA;"| 39.6t ||style="border-bottom:solid 3px #465DAA;"| 38.9t ||style="border-bottom:solid 3px #465DAA;"| 38.3t ||style="border-bottom:solid 3px #465DAA;"| 36.4t ||style="border-bottom:solid 3px #465DAA;"| 32.3t
|colspan="6" style="background-color:#fcf;"|6両編成
|-
!車内設備
| 乗 || WC|| 売|| || 車、VWC|| 乗
|-
!定員
| 56 || 60 || 56 || 68 || 52 ||60
|}
|
{| class="wikitable" style="text-align:center; font-size:80%; margin:1em 0em 2em 3em;"
|-
|style="border-bottom:solid 3px #465DAA; background-color:#ccc;"|&nbsp;
|style="border-bottom:solid 3px #465DAA;" colspan="6"|{{TrainDirection|[[小田原駅|小田原]]|[[新宿駅|新宿]]・[[北千住駅|北千住]]}}
|-
!号車
| 7 || 8 || 9 || 10
|-
!形式
| '''クハ60000''' || '''デハ60000''' || '''デハ60000''' || '''クハ60000'''
|-
!style="border-bottom:solid 3px #DD3C00;"|区分
|style="border-bottom:solid 3px #DD3C00;"| 30150<br/>(Tc2') ||style="border-bottom:solid 3px #DD3C00;"| 30100<br/>(M2) ||style="border-bottom:solid 3px #DD3C00;"| 60000<br/>(M1) ||style="border-bottom:solid 3px #DD3C00;"| 60050<br/>(Tc1)
|-
!車両番号
| '''60151'''<br/>'''∥'''<br/>'''60152''' || '''60101'''<br/>'''∥'''<br/>'''60102''' || '''60001'''<br/>'''∥'''<br/>'''60002''' || '''60051'''<br/>'''∥'''<br/>'''60052'''
|-
!搭載機器
| CP || CON,PT || SIV,PT || CP,ATC
|-
!style="border-bottom:solid 3px #465DAA;"|自重
|style="border-bottom:solid 3px #465DAA;"| 33.1t ||style="border-bottom:solid 3px #465DAA;"| 38.8t ||style="border-bottom:solid 3px #465DAA;"| 38.5t ||style="border-bottom:solid 3px #465DAA;"| 31.8t
|-
!車内設備
| 乗 || 車、VWC|| 売|| 乗
|-
!定員
| 60 || 54 || 56 || 56
|}
|}
|}
::; 凡例
::* CONT:主制御器(1C4M2群)
::* SIV:補助電源装置(静止形インバータ)260kVA
::* CP:空気圧縮機

== 運用 ==
[[ファイル:Odakyu romance car kasumigaseki.JPG|thumb|250px|東京メトロ千代田線霞ヶ関駅に停車する小田急60000形ロマンスカー、メトロはこね号]]
2011年12月現在のダイヤでは、本形式は次のとおり運行されている。
* 平日:朝[[ラッシュ時]]に[[小田急小田原線|小田原線]][[本厚木駅]]から千代田線[[北千住駅]]まで「[[はこね (列車)|メトロさがみ]]」として1本(70号)運行し、夕方ラッシュ時に「[[ホームウェイ (列車)|メトロホームウェイ]]」として北千住から[[小田急多摩線|多摩線]][[唐木田駅]]まで1本(71号)と[[大手町駅 (東京都)|大手町駅]]から本厚木まで2本(41・43号)の計3本、合計で4本運行する。
* 土曜・休日:朝夕に北千住駅 - 本厚木駅間を上りは「メトロさがみ」(80号)、下りは「メトロホームウェイ」(43号)として1往復運行するほか、北千住駅 - [[箱根登山鉄道鉄道線|箱根登山線]][[箱根湯本駅]]間に「[[はこね (列車)|メトロはこね]]」として2往復(21 - 24号)、合計で3往復運行する。

東京地下鉄直通ロマンスカーは全列車[[代々木上原駅]]に運転停車する。代々木上原駅では乗務員交代が行われ、旅客扱いは行わない。

なお、東京地下鉄[[東京地下鉄千代田線|千代田線]]には[[待避駅|追い越し設備]]がなく、先の列車を追い抜くことはない。そのため、通常の営業列車に挟まれて運転され、[[表定速度]]は40km/h台となっている。

編成は、「メトロホームウェイ41号」が6両で運転されるほかはすべて10両である。ただし、4両編成は2009年時点で1本のみの存在であり、当該編成が検査などで運用に就かない場合は6両で運転される。また、「メトロはこね」は[[小田原駅]]で分割・併合を行い、千代田線・小田急線内を10両で、箱根登山線内を6両で運転する。また、「湘南マリン」のように臨時運用では6両で運転される場合もある。その他、[[小田急50000形電車|50000形「VSE」]]が検査などで使用できない時は、VSE指定となっている一部の「はこね」を本形式の6両で代走する。

※当初は平日夕方ラッシュ時に千代田線[[湯島駅]]から[[町田駅|町田]]・[[相模大野駅|相模大野]]方面へ直通運転し、土曜・休日は[[新宿駅]] - 箱根湯本駅間を運転する予定としていたが、上記のように変更された。

== 歴史 ==
[[Image:OER Romancecar MSE in Shinkiba.JPG|thumb|240px|right|新木場検車区に停車中の<br/>60000形MSE<br/>(2007年11月18日)]]
* [[2005年]]([[平成]]17年)[[5月17日]]:小田急電鉄および東京地下鉄が「千代田線湯島 - 小田原線町田・相模大野方面にロマンスカーを2008年春より運行する」という内容が発表される。
* [[2006年]](平成18年)[[9月20日]]:製造および[[鉄道車両|車両]]概要を発表。
* [[2007年]](平成19年)
** 9月:最初の編成 (60251F) が落成。
** [[10月16日]]:60251Fの甲種車両輸送を実施。
** [[10月19日]]:報道関係者向けに初公開。同時に運用計画も発表。
** [[10月20日]]・[[10月21日|21日]]:[[ファミリー鉄道展]]2007で一般向けに初公開。
** [[11月6日]]:60051F(4両編成)の甲種輸送を実施。
** [[11月11日]]:60251Fが深夜に[[新木場駅|新木場]]まで試運転を行う。
** [[11月22日]]:60251Fが深夜に[[新木場車両基地|新木場検車区]]から[[綾瀬車両基地|綾瀬検車区]]に移動する。
** [[12月3日]]:60252Fの甲種車両輸送を実施。
** [[12月14日]]:60251Fを使用した報道関係者向け[[団体専用列車|団体臨時列車]]を運転。初の日中運転を実施。
** [[12月15日]]以降:同日に60051Fが[[海老名駅]] - [[小田原駅]]間で試運転を実施し、その後連日試運転を実施。同月[[12月20日|20日]]より6両編成+4両編成での試運転を開始。
[[Image:Debut Commemoration of OER 60000.jpg|thumb|240px|right|営業開始日に行われた<br/>小田急ロマンスカーMSE到着式<br/>(2008年3月15日 / 箱根湯本駅)]]
* [[2008年]](平成20年)
** [[2月1日]]:60051F+60251Fが日中に初めて地下鉄線内に入線。その日のうちに新木場検車区に回送。同年[[2月2日]]深夜に「ベイリゾート」の試運転として[[代々木上原駅]] - 新木場駅間を往復。
** [[3月15日]]:営業運転開始。
** [[5月3日]]:「ベイリゾート」として新木場駅までの運転開始。
** [[6月7日]]・[[6月8日|8日]]・[[6月14日|14日]]・[[6月15日|15日]]:本来[[小田急30000形電車|30000形「EXE」]]が充当される予定だった「さがみ」として[[新宿駅]] - 小田原駅間を運転(下り1本は[[開成駅]]に臨時停車)。「さがみ」としての初運転は7日<ref>{{PDFlink|[http://www.odakyu.jp/program/info/data.info/3535_3788620_.pdf 小田急電鉄プレスリリース 2008年4月24日:「2008開成あじさい祭」の開催に合わせ、開成駅に臨時停車する「新型ロマンスカー・MSE」を新宿駅から運転します]}}</ref>。
** [[6月12日]] - [[7月8日]]:この日より[[小田急50000形電車|50000形「VSE」]]50002Fの検査入場に伴う代替扱いで「スーパーはこね」「はこね」として新宿駅 - [[箱根湯本駅]]間を運転。
** [[7月22日]] - [[8月22日]]:「湘南マリン号」として[[唐木田駅]] - [[片瀬江ノ島駅]]間を運転<ref>7月26日・27日、8月2日・3日・9日・10日・16日・17日を除く。また7月25日は[[小田急20000形電車|20000形「RSE」]]により運転。</ref>。7月22日には片瀬江ノ島駅で到着式も行われた。これに伴い、本来30000形「EXE」で運用している「さがみ」67号と「えのしま」24号を本形式が代走で運転している。これにより[[小田急江ノ島線|江ノ島線]]にも初めて本形式が入線することになった<ref>{{PDFlink|[http://www.odakyu.jp/program/info/data.info/3653_7652434_.pdf 小田急電鉄プレスリリース 2008年6月9日:臨時特急列車「湘南マリン号」を新型ロマンスカー・MSEで運転]}}</ref>。
** [[7月19日]] - [[11月30日]]:この期間の土曜・休日に臨時列車扱いで「さがみ」60号として運転。また本来30000形「EXE」・[[小田急10000形電車|10000形「HiSE」]]・[[小田急7000形電車|7000形「LSE」]]で運用している「さがみ」65・75・79号を本形式が代走運転。当初予定より期間を延長して運転される。
** [[10月8日]] - [[11月7日]]:2008年度日本産業デザイン振興会「[[グッドデザイン賞]]」を受賞。これを記念して1・6・7・10号車の側面にグッドデザイン賞のマーク(Gマーク)が貼付される。
* [[2009年]](平成21年)
** [[2月14日]] - [[2月22日|22日]]:この期間の土曜・休日に臨時特急「メトロおさんぽ号」を[[町田駅]] - 北千住駅間で運転。初めて[[湯島駅]]に特急が停車する<ref>{{PDFlink|[http://www.odakyu.jp/program/info/data.info/4253_8684213_.pdf 小田急電鉄プレスリリース 2009年1月29日:臨時特急列車、ロマンスカー「メトロおさんぽ号」の運転について]}}</ref><ref>ただし、湯島駅は通常特急停車駅でないため、特急券の券面表示は「北千住」となっていた。</ref>。
** [[3月22日]]:団体列車「エコロマンスカー」を新宿駅 - 小田原駅間で運転。[[斉藤鉄夫]][[環境大臣]](当時)や[[森田正光]][[気象予報士]]らが出席。
** [[6月15日]]:2009年度[[鉄道友の会]]「[[ブルーリボン賞 (鉄道)|ブルーリボン賞]]」受賞<ref>{{PDFlink|[http://www.jrc.gr.jp/act/ac/pdf/2009bl.pdf 鉄道友の会プレスリリース 2009年6月15日:2009年度ブルーリボン賞・ローレル賞決定]}}</ref>。
** [[7月18日]] - [[8月30日]]:この期間の土曜・休日に臨時列車扱いで「さがみ」60号として運転。
** [[7月21日]] - [[8月21日]]:「湘南マリン号」として[[成城学園前駅]] - 片瀬江ノ島駅間を運転<ref>7月25日・26日、8月1日・2日・8日・9日・15日・16日を除く。</ref>。これに伴い、本来30000形「EXE」で運用している「えのしま」24号を本形式が代走で運転した。なお、[[8月3日]] - [[8月7日|7日]]は車内温度を通常より1 - 2度高く設定し、体感調査を実施する「クールビズトレイン」として運転した<ref>{{PDFlink|[http://www.odakyu.jp/program/info/data.info/4616_1158682_.pdf 小田急電鉄プレスリリース 2009年6月18日:成城学園前駅発、江の島・鎌倉への海水浴や観光に便利な臨時特急列車「湘南マリン号」をロマンスカー・MSEで運転]}}</ref>。
** [[9月13日]]:2009年度鉄道友の会「ブルーリボン賞」受賞記念式典を新宿駅で開催。全編成に記念ステッカーが貼付される。同日、本来20000形「RSE」で運用している「はこね」15・16・29・30号を本形式が代走で運転した。本形式の「はこね」運用と10両編成の新宿乗り入れは初めてだったが、「メトロさがみ」「メトロはこね」「メトロホームウェイ」は6両編成で運用された。
** [[10月30日]] - [[10月31日|31日]]:2009年度分増備車である60253Fの甲種車両輸送を実施<ref>『[http://railf.jp/news/2009/10/31/214300.html 小田急ロマンスカー「MSE」が甲種輸送される]』交友社『鉄道ファン』railf.jp鉄道ニュース、2009年10月31日</ref>。
** [[11月15日]]・22日・[[11月23日|23日]]:「メトロもみじ号」として北千住駅 - 小田原駅間を運転。途中、定期特急列車で停車を行わない[[伊勢原駅]]に停車した<ref>{{PDFlink|[http://www.odakyu.jp/program/info/data.info/4873_4851613_.pdf 小田急電鉄プレスリリース 2009年10月8日:都心から丹沢・大山などへ秋の行楽に便利な臨時特急ロマンスカー「メトロもみじ号」を運転します]}}</ref>。
** [[12月7日]]:60253Fが営業運転開始。
* [[2010年]](平成22年)
** [[1月1日]]:「[[ニューイヤーエクスプレス|メトロニューイヤー号]]」として北千住から片瀬江ノ島まで運転<ref>{{PDFlink|[http://www.odakyu.jp/program/info/data.info/5033_2545051_.pdf 小田急電鉄プレスリリース 2009年11月25日:大晦日から元日にかけての終夜運転実施のお知らせ]}}</ref>。
* [[2011年]](平成23年)
** 10月:「ベイリゾート」の運転を休止。
* [[2012年]](平成24年)
** [[3月17日]]:「メトロはこね」を平日にも1往復設定し、毎日運転とする。本形式の「[[あさぎり (列車)|あさぎり号]]」への充当及び[[東海旅客鉄道|東海旅客鉄道(JR東海)]][[御殿場線]]への乗り入れが開始される予定<ref name="oer20111216">{{cite press release|author=|date=2011-12-16|url=http://www.odakyu.jp/program/info/data.info/6813_2421858_.pdf|title=2012年3月17日(土) ダイヤ改正を実施します。|publisher=[[小田急電鉄]]|language=日本語|accessdate=2011-12-16|quote=(3)JR東海御殿場線直通ロマンスカー「あさぎり」について}}</ref><ref name="jrc20111216">{{cite press release|author=|date=2011-12-16|url=http://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000013606.pdf|title=平成24年3月ダイヤ改正について|publisher=[[東海旅客鉄道]]|language=日本語|accessdate=2011-12-16|quote=7. 特急「あさぎり」の列車体系を見直します}}</ref>。またそれに関連して土休日の「えのしま」2往復にも充当される予定である<ref>http://www.odakyu.jp/romancecar/timetable/doc/120317/weekend_up.pdf</ref>。

== その他 ==
* 2008年[[1月14日]]から、小田急線と東京メトロ線の各駅や電車内の中吊りなどに本形式のポスターが掲出されている。[[キャッチコピー]]は「青いロマンスカー」。
* 2008年→2009年の[[終夜運転]]より、「[[ニューイヤーエクスプレス]]」としての運用にも充当されるようになった。
* 2009年以降、特別団体専用列車としての運用も開始されている。
* 2010年1月、[[小田急7000形電車|7000形「LSE」]]と[[小田急10000形電車|10000形「HiSE」]]の車両に不具合が見つかり、全車が点検となり運休した。運休期間中は本形式が代走運用に充当された。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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{{reflist|2}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注釈"}}

=== 出典 ===
{{Reflist|2|refs=
<ref name="2009-16">[[#青田2009|『ゼロ戦から夢の超特急』p.116]]</ref>
<ref name="2009-118119">[[#青田2009|『ゼロ戦から夢の超特急』pp.118-119]]</ref>
<ref name="2009-177178">[[#青田2009|『ゼロ戦から夢の超特急』pp.177-178]]</ref>
<ref name="1988-25">[[#種村1988|『新・地下鉄ものがたり』p.25]]</ref>
<ref name="1988-83">[[#種村1988|『新・地下鉄ものがたり』p.83]]</ref>
<ref name="1988-84">[[#種村1988|『新・地下鉄ものがたり』p.84]]</ref>
<ref name="466-149">[[#種村466|『鉄道ジャーナル』通巻466号 p.149]]</ref>
<ref name="466-102">[[#RJ466|『鉄道ジャーナル』通巻466号 p.102]]</ref>
<ref name="482-96">[[#RJ482|『鉄道ジャーナル』通巻482号 p.96]]</ref>
<ref name="495-102">[[#RJ495|『鉄道ジャーナル』通巻495号 p.102]]</ref>
<ref name="495-103">[[#RJ495|『鉄道ジャーナル』通巻495号 p.103]]</ref>
<ref name="498-100">[[#OER498|『鉄道ジャーナル』通巻498号 p.100]]</ref>
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<ref name="498-103">[[#OER498|『鉄道ジャーナル』通巻498号 p.103]]</ref>
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<ref name="500-94">[[#土屋500|『鉄道ジャーナル』通巻500号 p.94]]</ref>
<ref name="500-98">[[#土屋500|『鉄道ジャーナル』通巻500号 p.98]]</ref>
<ref name="500-100">[[#土屋500|『鉄道ジャーナル』通巻500号 p.100]]</ref>
<ref name="545-2627">[[#RJ545|『鉄道ジャーナル』通巻545号 p.26-27]]</ref>
<ref name="563-58">[[#OER563|『鉄道ファン』通巻563号 p.58]]</ref>
<ref name="563-59">[[#OER563|『鉄道ファン』通巻563号 p.59]]</ref>
<ref name="546-145">[[#刈田546|『鉄道ピクトリアル』通巻546号 p.145]]</ref>
<ref name="829-53">[[#丹829|『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.53]]</ref>
<ref name="829-54">[[#丹829|『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.54]]</ref>
<ref name="829-189">[[#中山829|『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.189]]</ref>
<ref name="829-190">[[#中山829|『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.190]]</ref>
<ref name="829-218">[[#杉田829|『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.218]]</ref>
<ref name="829-219">[[#杉田829|『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.219]]</ref>
<ref name="829-235">[[#L829|『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.235]]</ref>
<ref name="829-239">[[#photo829|『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.239]]</ref>
<ref name="829-285">[[#岸上829|『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.285]]</ref>
<ref name="829-287">[[#岸上829|『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.287]]</ref>
<ref name="829-289">[[#岸上829|『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.289]]</ref>
<ref name="829-318">[[#岸上829-2|『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.318]]</ref>
<ref name="12-16">[[#MSE12|『鉄道のテクロノジー』通巻12号 p.16]]</ref>
<ref name="12-21">[[#MSE12|『鉄道のテクロノジー』通巻12号 p.21]]</ref>
<ref name="12-22">[[#MSE12|『鉄道のテクロノジー』通巻12号 p.22]]</ref>
<ref name="12-24">[[#MSE12|『鉄道のテクロノジー』通巻12号 p.24]]</ref>
<ref name="12-25">[[#MSE12|『鉄道のテクロノジー』通巻12号 p.25]]</ref>
<ref name="12-31">[[#okabe12|『鉄道のテクロノジー』通巻12号 p.31]]</ref>
<ref name="12-125">[[#saito12|『鉄道のテクロノジー』通巻12号 p.125]]</ref>
<ref name="12-126">[[#saito12|『鉄道のテクロノジー』通巻12号 p.126]]</ref>
<ref name="od12-14">[[#時刻表2012|『2012 小田急時刻表』 p.14]]</ref>
<ref name="od12-15">[[#時刻表2012|『2012 小田急時刻表』 p.15]]</ref>
}}


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
=== 書籍 ===
* 小田急電鉄(株)運転車両部「新車ガイド 小田急電鉄60000形」『[[鉄道ファン (雑誌)|鉄道ファン]]』2008年4月号(通巻564号)p.54 - 61, 交友社
* {{Cite book|和書|author = 青田孝|authorlink = |coauthors = |year = 2009|title = ゼロ戦から夢の超特急 小田急SE車世界新記録誕生秘話 |publisher = [[交通新聞社]]|ref = 青田2009|id = |isbn = 9784330105093}}
* {{Cite book|和書|author = [[種村直樹]]|authorlink = |coauthors = |year = 1988|title = 新・地下鉄ものがたり|publisher = [[JTBパブリッシング|日本交通公社出版事業局]]|ref = 種村1988|id = |isbn = 4533008887}}
* {{Cite book|和書|author = |authorlink = |coauthors = |year = 2012|title = 2012 小田急時刻表|publisher = 交通新聞社|ref = 時刻表2012|id = |isbn = 9784330279121}}

=== 雑誌記事 ===
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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== 外部リンク ==
'''プレスリリース'''
* [http://www.odakyu.jp/cgi-bin/info/pg02348.pl?key=1053&info_kubun=d-cue&mode=online&ft=html 小田急電鉄プレスリリース 2005年5月17日:小田急ロマンスカー千代田線乗り入れ]
* [http://www.tokyometro.jp/news/2005/2005-m07.html 東京地下鉄ニュースリリース 2005年5月17日:小田急ロマンスカー千代田線乗り入れ]
* {{PDFlink|[http://www.odakyu.jp/program/info/data.info/3093_2181188_.pdf 小田急電鉄プレスリリース 2007年10月19日:特急ロマンスカーの東京メトロ線への直通運転計画について]}}
* [http://www.tokyometro.jp/news/2007/2007-m19.html 東京地下鉄ニュースリリース 2007年10月19日:特急ロマンスカーの東京メトロ線への直通運転計画について]
* {{PDFlink|[http://www.odakyu.jp/program/info/data.info/3274_7703230_.pdf 小田急電鉄プレスリリース 2007年12月20日:2008年3月15日(土)から東京メトロ線への直通運転を開始するロマンスカー・MSEに「AED(自動対外式除細動器)」を設置します]}}
* {{PDFlink|[http://www.odakyu.jp/program/info/data.info/3276_7621683_.pdf 小田急電鉄プレスリリース 2007年12月20日:2008年3月15日(土)からロマンスカー・MSEによる東京メトロ線への直通運転を開始します]}}
'''製造会社'''
* [http://www.n-sharyo.co.jp/topics/tp061120.html 日本車輌製造 受注情報]
* [http://www.n-sharyo.co.jp/business/tetsudo/pages/oer60000.htm 日本車輛製造:小田急電鉄60000形特急電車「MSE」]
* [http://www.okamura.co.jp/company/topics/culture/2008/mse60000.php 小田急電鉄株式会社 新型「小田急ロマンスカー・MSE(60000形)」用 アルミ製インアームテーブル付車両用シートを納入 - 岡村製作所ニュースリリース 2008年4月24日]
'''その他'''
* [http://www.odakyu.jp/romancecar/line_up/60000.html ROMANCECAR MSE(小田急電鉄ホームページ内)]
* {{PDFlink|[http://www.odakyu.jp/program/info/data.info/1993_6852248_.pdf 小田急電鉄プレスリリース 2006年9月20日:MSE製造計画発表]}}
* [http://rail.hobidas.com/blog/natori09/archives/2006/09/mse.html RM編集長敬白アーカイブ 新型ロマンスカー・MSEを発表!]
* [http://rail.hobidas.com/blog/natori09/archives/2007/10/msx.html RM編集長敬白アーカイブ 小田急新型ロマンスカーMSEを公開。(上)]
* [http://rail.hobidas.com/blog/natori09/archives/2007/10/mse-1.html RM編集長敬白アーカイブ 小田急新型ロマンスカーMSEを公開。(下)]

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2012年3月16日 (金) 15:00時点における版

利用者:MaximusM4/Template 小田急60000形電車(おだきゅう60000がたでんしゃ)は、2008年小田急電鉄(小田急)が運用を開始した特急形車両ロマンスカー)である。

日本では初めての事例となる「座席指定制特急列車の地下鉄直通」を目的として登場した特急車両[1]で、2012年3月17日以降は東海旅客鉄道(JR東海)御殿場線に直通する特急「あさぎり」にも運用が開始される[2]。「多彩な運行が可能な特急列車」という意味で "Multi Super Express" (略して「MSE」)という愛称が設定され、2008年にはワトフォード会議 (Watford Group) より第10回ブルネル賞車両部門奨励賞を[3][4]、同年度には日本産業デザイン振興会より「グッドデザイン賞」を[1]2009年には鉄道友の会より「ブルーリボン賞」を受賞した[1]

小田急では、編成表記の際には「新宿寄り先頭車両の車両番号(新宿方の車号)×両数」という表記を使用している[5]ため、本項もそれに倣い、特定の編成を表記する際には「60051×4」「60253×6」のように表記する。また、特に区別の必要がない場合は東京地下鉄(東京メトロ)千代田線有楽町線をまとめて「地下鉄線」と表記し、初代3000形は「SE車」、3100形は「NSE車」、7000形は「LSE車」、10000形は「HiSE車」、20000形は「RSE車」、30000形は「EXE車」、50000形は「VSE車」、本形式60000形は「MSE車」、箱根登山鉄道箱根湯本駅へ乗り入れる特急列車については「箱根特急」と表記する。

登場の経緯

小田急の前身となる小田原急行鉄道は、もともとは東京都内の地下鉄事業を行なう計画で1919年に立ち上げられた[6]東京高速鉄道[注釈 1]の延長線として設立された鉄道会社であった[6]。この東京高速鉄道は、実際に地下鉄の建設には着手されないまま1924年に免許が失効している[7]

戦後間もない1946年に、東京急行電鉄大東急)では「鉄道復興3カ年計画」の中で、郊外電鉄の都心乗り入れを計画として盛り込んでいた[8]。大東急から小田急電鉄として分離発足した直後の1948年8月には、南新宿駅から東京駅までの地下鉄敷設免許を申請していた[9]。出願後しばらくは自社内の輸送力増強に追われて動きがなかった[9]が、1955年頃には箱根と日光を直結することを想定し[10]、将来東武鉄道と連絡することを付記した上で出願路線の一部を変更していた[10]。これらの計画は結局実現しないままであったが、北千住駅で東武鉄道と接続している帝都高速度交通営団(営団地下鉄・当時)千代田線1978年3月31日に全通し、小田急と相互乗り入れを開始している[11]

その後、小田急と東京メトロでは、小田急のロマンスカーを千代田線に乗り入れる計画を2005年5月17日に発表した[12]。この計画では、小田急が地下鉄線乗り入れに対応した新型特急車両を製造し[13]。平日夕方に湯島駅から町田駅相模大野駅の運行を行ない[13]、土休日には新宿発着の特急に使用する計画となっていた[14]2006年秋には車両仕様が発表され、50000形(VSE車)に続いて岡部憲明がデザインや設計を担当し、2007年9月に竣功と公表された[15]

こうして、日本で初めてとなる、地下鉄線に直通する座席指定制特急車両として登場したのがMSE車である。

車両概説

本節では、登場当時の仕様を基本として、増備途上での変更点を個別に記述する。更新による変更については沿革で後述する。

MSE車は全長20mの車両による4両固定編成と6両固定編成が製造され、分割・併合に対応した10両編成を組成可能とした。形式は先頭車が制御車のクハ60050形で、中間車は電動車のデハ60000形である[1]。車両番号については巻末の編成表を参照のこと。全体的にVSE車のデザイン思想を継承した[1]

車体

1号車と10号車は車体長19,720mm・全長20,220mm、それ以外の車両が車体長19,500mm・全長20,000mmで、車体幅は地下鉄線乗り入れに対応した2,850mmとした。車体は全てアルミニウム合金製で[16]、10両編成組成時に両端となる1号車と10号車の先頭部分はシングルスキン構造[17]、それ以外の部分はダブルスキン構造とし[17]、構体の型枠は一部を除きVSE車と同じものを使用した[16]

10両編成組成時に両端となる先頭車 10両編成組成時に中間に入る先頭車
10両編成組成時に両端となる先頭車
10両編成組成時に中間に入る先頭車

先頭部の形状は2種類存在し、10両編成組成時に両端となる1号車と10号車については正面に非常用の貫通扉を設けている流線形である[16]。これに対し、10両編成組成時に中間に入る6号車と7号車については正面に貫通扉が設けられた貫通型である[18]。正面貫通扉は1号車と10号車が片開き式プラグドア[16]、6号車と7号車は両開き式プラグドアである。いずれの先頭車も、運転室は通常の床高さに設置された。この2種類の先頭形状は全く異なるものであるが、6号車と7号車でも側面からエッジを回りこませることにより、同じイメージを持たせることを意図してデザインされた[19]。デザインを担当した岡部は「もっともデザイン作業の時間がかかった部分ではないか」と述べている[19]。前面ガラスは厚さ13.1mmの合わせ強化ガラスで[20]、中間膜1枚を挟み込んだ上で室内側から飛散防止フィルムを貼ることで乗務員の保護を図った[20]

側面客用扉は各車両とも1箇所で、片開き引戸が採用され、扉幅は全車両とも900mm幅とした[21]。側面窓の配置については、窓枠の幅を1,966mmとし、これを連続させた。1号車・6号車・7号車・10号車の乗務員室部分には500mm幅の乗務員扉を配置した[20]。車両間の貫通路は850mm幅である[20]

側面表示器

前面・側面の表示器はフルカラー式発光ダイオード (LED) 表示器を使用し、小田急線内では前面に愛称・側面に愛称と号数を、地下鉄線内では前面は愛称と運行番号の交互表示・側面は愛称・号数と行き先の交互表示を行なう[22]。また、任意の文字を愛称として登録することが可能な「任意愛称表示」を新たな機能として導入した[22]

塗装デザインは「地下鉄路線でも明るく見えるように」という岡部の提案により[19]、屋根上の冷房装置のカバーも含めてメタリック系の青色である「フェルメール・ブルー」を基調とし[16]、窓下にはバーミリオン帯とホワイトの細帯を配置した[16]。バーミリオンは小田急ロマンスカーのイメージカラーとしてSE車・NSE車・LSE車・VSE車において使用されており、これを継承したものである[16]

内装

車内

室内は、EXE車をベースとして設計し、ビジネス特急として落ち着いた雰囲気となることを図った[16]

座席回転式リクライニングシートを採用、シートピッチが983mmで配置した[16]。このシートピッチはEXE車の1,000mmよりも狭いが、座席の背もたれを薄くすることで足元空間は逆にEXE車より42mm広く確保された[16]。また、前後の座席がリクライニングさせた状態でも回転が可能な形状とした。各座席の肘掛にはA4ノートパソコンを置くことが可能な収納式テーブルを設置したが、テーブルを出したままでも座席の回転が可能な形状とした[16]。また、座席背面にはかけを設置した[16]。座席表地は濃いグレーとした[23]。一斉回転機構はEXE車と同様に電動式が採用された[16]が、奇数列の回転が完了する前に偶数列の回転が開始される設定とすることで、短時間での折り返しが可能となるように配慮した[21]。肘掛と背もたれ上部の手掛けはともにアルミ製である[24]

天井高さは2,340mmを確保し[21]、大きな円弧を描くスパンドレル構造とし[21]、電球色の蛍光灯による間接照明とした。室内の内壁は木目調化粧板とし[16]、床には赤系統のカーペットを敷きつめた[16]。荷物棚下には電球色のLED式直接照明装置を設置した[21]が、火災時に溶融滴下を防止するため、LEDのユニットはガラス内に収める構造とした[21]。通路上には車内案内表示用にフルカラー式LED表示装置を設置し、日本語以外に表示内容によって英語中国語繁体字)・韓国語による表示を可能とした[22]。また、車掌が乗客の対応中に、運転士が車掌を呼び出せるように、運転台からの操作で車掌の呼び出しを表示する機能を有している[22]

出入台部分では白いパイプが妻板に突き刺さった構図など、前衛芸術的な造形物もある[25]が、これは出入台部分でも間接照明を実現するためのもので[21]、白いパイプには灯具が上向きに収められている[21]。客室と出入台の間にある仕切り扉は車体色と同じ「フェルメール・ブルー」で[21]、車椅子対応座席のある5号車・8号車は幅広の両開きとし[26]、それ以外の箇所は片開き850mm幅とした[20]。仕切り扉には大きなガラスをはめ込んだ構造としたほか、縦方向全長に渡って手掛けとなる溝を設けた[21]。2009年に増備された車両からは、出入台に防犯カメラを設置した。5号車には、車椅子に乗ったままで車窓を楽しめるスペースを確保し、保護棒と簡易車椅子固定装置を設けた[21]。また、4号車には車内専用の車椅子を用意した。

3号車の新宿側車端部と9号車の小田原側車端部にはカフェカウンターと清涼飲料水自動販売機を設置した[21]。カフェカウンターはワゴンによる車内販売の拠点となるため、ワゴンを2台収納することが可能なスペースを確保した[21]ほか、備品盗難防止のため横スライド式シャッターを設けた。カフェカウンターの前の通路には、日本の鉄道車両としては初めて[27]自動体外式除細動器 (AED) が設置された。この箇所は客室との明確な区別のため薄茶色系としている[21]

2号車・8号車の新宿側車端部と5号車の小田原側車端部には男女共用洋式トイレ・男性小用トイレ・化粧室を配置した[21]。このうち5号車と8号車の男女共用トイレについては車椅子にも対応し、オストメイトベビーベッドも備えた「ゆったりトイレ」としており[21]、トイレ内で転倒した場合にも対応できるように床下近くにも非常通報装置を設けた[21]。洗面所にはカーテンを設けた[21]

主要機器

主要機器は4000形と共通点が多くなっている[28]

乗務員室

10両編成組成時に両端となる運転台 「自動ほろ装置」により接続された中間の運転台
10両編成組成時に両端となる運転台
「自動ほろ装置」により接続された中間の運転台

運転士が乗務する乗務員室(運転室)は、背後の客室から見られることを前提とした「魅せる乗務員室」とするととも[21]に、乗務しやすい環境となることを目指した[21]。設計には運転士の経験者が携わった[16]ほか、特に10両編成組成時に編成の中間に入る6号車・7号車の運転台については、モックアップの作成により現業の運転士からの意見も集約して反映させた[21]

10両編成組成時に両端となる1号車・10号車の運転台と、編成の中間に入る6号車・7号車では運転台の構造は異なる。共通事項として、運転に必要な機器類は運転席周りに集約し、主幹制御器を4000形と共通の左手操作ワンハンドル式とした[29]ほか、2種類の運転台で機器配置を極力統一し、運転士が頻繁に扱う機器については着座位置から右手で操作できるようにした[20]。通常使用しないスイッチ類については左側に配置し、主幹制御器ハンドル操作中には使用できないようにしている[20]。また、運転士の異常時に対応する機器としてEB装置を導入したが、地下鉄線内ではEB装置は機能しないようにしている[22]

1号車・10号車の運転台は前面に大型ガラスを採用している[20]ことから、暑さ対策や紫外線対策として、前面窓と側面の三角形の窓には大型で完全遮光のフリーストップカーテンを装備した[20]。運転室の空調は、ラインデリアに冷房のダクトを通すことで空調効果を高める[20]一方、運転士の後頭部に冷風が直接当たらないように配慮した[20]。運転席はハイバックシートで2度のリクライニング機能を持たせた[20]ほか、背面にコート掛けを設けた[20]。6号車・7号車の運転台は、運転室構造を「く」の字形の構造とし[20]、車掌台側はオープン構造とした[20]ため、車掌スイッチには鎖錠カバーを設置した[27]

車両の情報を管理するシステムとしては、4000形と同様のシステムであるTIOS(列車情報小田急型管理装置)が採用されている[27]。「自動遮断スイッチ」[27]、「車両転動防止支援装置」[27]、「停車予告」[29]など、実装されている機能は基本的に4000形と同様であるが、MSE車独自の機能として、停車駅表示と同時に編成両数も表示されること[29]、3号車と8号車に搭載したAEDの収納箱扉を開いた場合に警告を発する[27]といった機能が追加されている。

MSE車では分割・併合に対応する機器としてEXE車と同様に「自動ほろ装置」を設置した[27]が、6両固定編成が単独で地下鉄線内に乗り入れる運用を考慮し、通路幅は地下鉄線内で脱出用通路となる場合を想定して、EXE車よりも50mm拡大した600mmとした[27]。また、6号車の運転台では、電源がない状態でも自動ほろ装置を手動扱いによって貫通扉の開放と渡り板の展開が可能な構造とした[20]

保安装置は小田急線内で使用するOM-ATS装置[22]・地下鉄線内で使用する車内信号式自動列車制御装置 (CS-ATC) のほか[22]、小田急線内で新しく採用されたD-ATS-P装置も準備工事として搭載した[22]。ただし、4両固定編成が単独で地下鉄線内に乗り入れることは運用上想定していない[25]ため、7号車の運転台にはCS-ATCは搭載していない[28]

走行関連機器

制御装置東芝製のIGBT素子2レベルVVVFインバータ制御装置を採用した[29]。SE車からVSE車までの特急車両に引き続き東芝製の採用で、主電動機2台×2台車×2群を1ユニットとし、1ユニットで8個の電動機の制御を行う方式(1C8M)である[29]。6両固定編成ではSVF-089A0形を2号車と4号車に[29]、4両固定編成ではSVF-089B0形を8号車に搭載した[29]。センサレスベクトル制御方式を採用しており、電力回生制動純電気ブレーキ制御である[29]。素子の冷却方式は、冷媒に水を使用し走行風によって冷却するヒートパイプ方式である[29]

主電動機は4000形で採用実績のある三菱電機製の外扇式全密閉かご形三相誘導電動機である[29]出力190kWのMB-5123-A2形を採用した。駆動装置はVSE車と同様にWNドライブが採用され[27]歯数比は79:19=4.16に設定した[27]

制動装置(ブレーキ)については、制動装置(ブレーキ)は回生制動併用全電気指令式電磁直通制動とした[29]。4000形と同様にTIOSによって編成全体で制動力の管理を行なう方式[29]で、制御車には滑走制御装置を搭載した[29]ほか、「編成滑走制御」を導入している[29]。基礎制動装置は電動車がシングル式(片押し式)のユニットブレーキ[27]、制御車と付随車においては4000形と同様ディスクブレーキ(ツインディスク式)が採用され、ユニットブレーキとの併用としている[27]

台車は、電動台車がND-739、付随先頭台車がND-739TA、付随中間台車がND-739Tで、いずれも日本車輌製造製の積層ゴム軸箱片支持式ボルスタレス台車である[27]。この台車は、軸箱支持装置に左右荷重と前後荷重を負担する円筒積層軸ゴムを2箇所に配置した「タンデム式」と呼ばれるもので[27]、ヨーダンパ設置をせずに蛇行動抑制や走行安定性向上を実現している[27]。車輪径は電動台車が860mm、付随台車が810mmである[27]

その他機器

集電装置(パンタグラフ)シングルアーム式のPT7113-B形を採用、2号車・3号車・8号車・9号車に設置した[29]。舟体は、降雪時の着雪量低減を図るため、強度を上げながら枠を薄くするために薄形角パイプのアルミニウム製とし、避雷器を集電装置の台枠に直接取り付けた[29]

冷房装置については、冷凍能力20,000kcal/hの三菱電機CU-733形を採用、各車両屋根上に2台ずつ搭載した[22]。補助電源装置は、出力260kVAのIGBT素子式静止形インバータ (SIV) を3号車・9号車に搭載した[22]電動空気圧縮機 (CP) については、交流440Vで駆動する低騒音スクロール式を採用、小容量のスクロール圧縮機を2台もしくは3台で1ユニットとする「マルチコンプレッサシステム」として、1号車・5号車・7号車・10号車に搭載した[22]

警笛については、空気笛はAW-5C形[30]、電子笛には八幡電気産業製のYA-04046形[31]が搭載されたほか、VSE車と同様、SE車からRSE車まで設けられていた補助警報音と同じメロディのミュージックホーンが採用された[31][注釈 2]

沿革

「メトロはこね」運用に入ったMSE車

2007年9月に60251×6が入線、同年10月の「ファミリー鉄道展」で展示された[32]が、営業運行開始前の展示は異例のことであった[32]。2008年3月15日より営業運行を開始、小田急の駅では「青い、ロマンスカー」と大きく宣伝された[33]

運用開始時点での定期運用は、平日が「メトロさがみ70号」[34]・「メトロホームウェイ71号」[34]・「メトロホームウェイ41号」[34]・「メトロホームウェイ43号」[34]で、土休日は「メトロさがみ80号」[34](日によっては「ベイリゾート90号」[34])・「メトロはこね21号」[34]・「メトロはこね22号」[34]・「メトロはこね23号」[34]・「メトロはこね24号」[34]・「メトロホームウェイ43号」[34](日によっては「ベイリゾート90号」[34])であった。この時点では6両固定編成×2編成と4両固定編成×1編成だけしかなく[35]、平日ダイヤでは全ての編成が運用に入っており、予備車がなかったため[35]、平日ダイヤの「メトロさがみ70号」で北千住駅に到着した後は 綾瀬駅で折り返して喜多見検車区まで回送して検査時間を確保していた[35]。休日ダイヤでは6両固定編成と4両固定編成を各1編成ずつ使用していた[35]

臨時列車に運用されるMSE車

同年夏には江ノ島線へ直通する臨時特急「湘南マリン号」に使用され[36]2009年1月1日には「ニューイヤーエクスプレス」に運用される[37]など、臨時列車にも使用されるようになり、2009年2月には地下鉄直通の臨時特急として、臨時特急「メトロおさんぽ号」も運行された。また、VSE車が検査を行う際にはVSE車の運用に入った[36]ほか、2009年9月13日には、ブルーリボン賞受賞記念として、新宿発の箱根特急の運用に入った[38]など、愛称の "Multi" の意味そのままに多彩な運用が見られるようになった[36]。団体専用列車では、MSE車で新しく実装された「任意愛称表示」の機能を使用して、「○○幼稚園号」のように団体名を愛称として表示の上運行することがある[36][39]。2009年には6両固定編成が1編成増備された[40]

列車内のカフェカウンターは、「メトロはこね」や他形式運用の代走など、箱根特急運用時のみの営業で[41]、ワゴン販売中はカフェカウンターは営業しない[42]

2010年1月中旬より、LSE車とHiSE車は部品の一部に不具合が見つかったことを理由として[43]全面的に運用から離脱していた。その最中の同年1月14日には本来LSE車・HiSE車で運行される「ホームウェイ[44]や箱根特急[45]などにMSE車が使用された。

2011年度には6両固定編成・4両固定編成が各1編成ずつ増備された[46]。なお、なお、有楽町線へ直通する「ベイリゾート」については、ホームドア設置の関連で2011年10月以降運行を休止しており[47]、2012年3月17日以降は運転中止となることが公表された[48]

前述の通り、計画段階では土休日に新宿駅発着の特急列車に使用することになっていた[14]が、実際に運用についてからは、小田急の特急車両でありながら、臨時に他の特急車両運用に入るか臨時列車としての運行以外には新宿駅発着の運用はなかった[49]。しかし、2012年3月17日からは新宿駅発着で御殿場線へ直通する特急「あさぎり」の全列車と[2]、土休日ダイヤで「あさぎり」と併結する「えのしま11号」[50]と「えのしま12号」[51]をはじめとして、新宿発着の定期列車にMSE車が運用されることになった[注釈 3]

編成表

凡例
Tc…制御車、M…電動車、CON…制御装置、SIV…補助電源装置、CP…電動空気圧縮機、PT…集電装置、ATC…CS-ATC
乗 …乗務員室、車…車椅子対応座席、売…売店・自動販売機・自動体外式除細動器 (AED) 、WC…トイレ化粧室、VWC…車椅子対応トイレ・化粧室
 
号車 1 2 3 4 5 6
形式 クハ60000 デハ60000 デハ60000 デハ60000 デハ60000 クハ60000
区分 60550
(Tc2)
60500
(M4)
60400
(M3)
60300
(M2')
60200
(M1')
60250
(Tc1')
車両番号 60551

60554
60501

60504
60451

60454
60351

60354
60201

60204
60251

60254
搭載機器 CP,ATC CON,PT SIV,PT CON CP ATC
自重 32.1t 39.6t 38.9t 38.3t 36.4t 32.3t
車内設備 WC 車、VWC
定員 56 60 56 68 52 60
 
号車 7 8 9 10
形式 クハ60000 デハ60000 デハ60000 クハ60000
区分 30150
(Tc2')
30100
(M2)
60000
(M1)
60050
(Tc1)
車両番号 60151

60152
60101

60102
60001

60002
60051

60052
搭載機器 CP CON,PT SIV,PT CP,ATC
自重 33.1t 38.8t 38.5t 31.8t
車内設備 車、VWC
定員 60 54 56 56

脚注

注釈

  1. ^ 後に東京地下鉄銀座線の一部となる路線を建設した東京高速鉄道とは別。
  2. ^ 回路は電子笛と共用で(『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.190)、警笛と別装置ではない。
  3. ^ 「あさぎり」各列車と「えのしま11号」「えのしま12号」以外の列車は、平日ダイヤでは、下り「さがみ63号」「はこね25号」「ホームウェイ83号」「ホームウェイ89号」(『2012 小田急時刻表』 p.12)・上り「さがみ60号」「さがみ72号」「さがみ78号」「はこね16号」「えのしま90号」(『2012 小田急時刻表』 p.13)。土休日ダイヤでは、下り「はこね11号」「さがみ75号」「えのしま75号」「ホームウェイ53号」「ホームウェイ55号」「ホームウェイ59号」(『2012 小田急時刻表』 p.14)・上り「さがみ56号」「さがみ70号」「はこね12号」「さがみ92号」「えのしま92号」(『2012 小田急時刻表』 p.15)。

出典

  1. ^ a b c d e 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.285
  2. ^ a b 『鉄道ジャーナル』通巻545号 p.26-27
  3. ^ 『ゼロ戦から夢の超特急』pp.177-178
  4. ^ 10th Brunel Awards 2008” (英語). Watford Group. 2011年11月20日閲覧。
  5. ^ 『鉄道ダイヤ情報』通巻145号 p.15
  6. ^ a b 『ゼロ戦から夢の超特急』p.116
  7. ^ 『新・地下鉄ものがたり』p.25
  8. ^ 『ゼロ戦から夢の超特急』pp.118-119
  9. ^ a b 『新・地下鉄ものがたり』p.83
  10. ^ a b 『新・地下鉄ものがたり』p.84
  11. ^ 『鉄道ピクトリアル』通巻546号 p.145
  12. ^ 『鉄道ジャーナル』通巻466号 p.149
  13. ^ a b 『鉄道ジャーナル』通巻466号 p.102
  14. ^ a b 『鉄道ジャーナル』通巻500号 p.100
  15. ^ 『鉄道ジャーナル』通巻482号 p.96
  16. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 『鉄道ジャーナル』通巻498号 p.100
  17. ^ a b 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.53
  18. ^ 『鉄道のテクロノジー』通巻12号 p.16
  19. ^ a b c 『鉄道のテクロノジー』通巻12号 p.31
  20. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 『鉄道ジャーナル』通巻498号 p.102
  21. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u 『鉄道ジャーナル』通巻498号 p.101
  22. ^ a b c d e f g h i j k 『鉄道ジャーナル』通巻498号 p.105
  23. ^ 『鉄道のテクロノジー』通巻12号 p.22
  24. ^ 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.239
  25. ^ a b 『鉄道のテクロノジー』通巻12号 p.21
  26. ^ 『鉄道のテクロノジー』通巻12号 p.24
  27. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 『鉄道ジャーナル』通巻498号 p.103
  28. ^ a b 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.287
  29. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 『鉄道ジャーナル』通巻498号 p.104
  30. ^ 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.189
  31. ^ a b 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.190
  32. ^ a b 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.235
  33. ^ 『鉄道ジャーナル』通巻500号 p.94
  34. ^ a b c d e f g h i j k l 『鉄道ファン』通巻563号 p.58
  35. ^ a b c d 『鉄道ジャーナル』通巻500号 p.98
  36. ^ a b c d 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.218
  37. ^ 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.219
  38. ^ 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.54
  39. ^ 小田急ロマンスカー「MSE」による団体臨時列車”. 交友社鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース (2010年10月20日). 2012年3月5日閲覧。
  40. ^ 小田急ロマンスカー「MSE」が甲種輸送される”. 交友社『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース (2009年10月31日). 2012年3月5日閲覧。
  41. ^ 『鉄道のテクロノジー』通巻12号 p.25
  42. ^ 『鉄道のテクロノジー』通巻12号 p.125
  43. ^ 『鉄道ジャーナル』通巻522号 p.147
  44. ^ 60000形「MSE」が“ホームウェイ”に”. 交友社『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース (2010年1月15日). 2012年3月5日閲覧。
  45. ^ 「LSE」代走の影響で、「MSE」が箱根登山線内で並ぶ”. 交友社『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース (2010年1月18日). 2012年3月5日閲覧。
  46. ^ "2011年度の鉄道事業設備投資計画" (PDF) (Press release). 小田急電鉄. 2012年3月5日閲覧
  47. ^ 『鉄道のテクロノジー』通巻12号 p.126
  48. ^ "2012年3月17日(土) ダイヤ改正を実施します。" (PDF) (Press release). 小田急電鉄. 16 December 2011. 2011年12月16日閲覧(1)東京メトロ千代田線直通ロマンスカーについて
  49. ^ 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.289
  50. ^ 『2012 小田急時刻表』 p.14
  51. ^ 『2012 小田急時刻表』 p.15

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参考文献

書籍

雑誌記事

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  • 「SPECIAL INTERVIEW 建築デザイナー 岡部憲明氏」『鉄道のテクノロジー』第12号、三栄書房、2011年10月、26-31頁、ISBN 9784779613494 
  • 「斉藤雪乃のメトロはこね初乗車体験記」『鉄道のテクノロジー』第12号、三栄書房、2011年10月、122-127頁、ISBN 9784779613494 
  • 「2012年3月17日ダイヤ改正の概要」『鉄道ジャーナル』第545号、鉄道ジャーナル社、2012年3月、22-27頁。 

関連項目

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