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|種='''クモタケ''' '''''N. atypicola''''' |
|種='''クモタケ''' '''''N. atypicola''''' |
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|学名=''Nomuraea atypicola'' |
|学名=''Nomuraea atypicola'' (Yasuda) Samson |
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|和名=クモタケ |
|和名=クモタケ}} |
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[[子実体]]はいわゆる分生子柄叢(シンネマ synnema)で、一体の宿主から通常は一本ずつ(まれに二本)生じ、細長い円筒状の柄と、柄よりやや太くてソーセージ状の頭部とで構成され、全体の高さは3-8センチ程度、そのうち頭部の長さは(1-)2-4センチ程度である。柄は白色・平滑で径1-4ミリ程度、柔らかい肉質で中空、その基部はほぼ完全に宿主体を包み込んだ白色の菌糸塊につながる。頭部は円筒形ないし細長いソーセージ状、先端は尖らず円頭状をなし、もっとも太い部分の径 1.2-4.5ミリ程度、無数の分生子におおわれて肉眼的には灰紫色・粉状を呈する<ref name=Monograph>[http://cordyceps.cgrb.oregonstate.edu/files/Kobayasi(1941)part4.pdf Kobayasi, Y., 1941. The genus ''Cordyceps'' and its allies. Science Report of the Tokyo Bunrika Daigaku 84: 53-260.]</ref><ref name=Zukan>清水大典、1994.原色冬虫夏草図鑑.380 pp.誠文堂新光社、東京.ISBN 978-4-41629- 410-9</ref><ref name=Color>清水大典、1997.カラー版 冬虫夏草図鑑.446 pp.家の光協会、東京. ISBN 978-4-25953-866-8</ref>。 |
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[[アシダカグモ]](''Heteropoda venatoria'')などの地中営巣性以外のクモ(造網性あるいは徘徊性のクモ)が宿主となった場合には、こん棒状の典型的な子実体を形成せず、宿主の体表背面に直接に多数の分生子柄を作り、その上に無数の分生子(無性胞子)を生じるため、宿主は淡灰紫色の粉塊におおわれるにとどまる<ref name=JArachnology>[http://www.americanarachnology.org/JoA_free/JoA_v15_n2/JoA_v15_p266.pdf Greenestone, M. H., Ignoffo, C. M., and R. A. Samson, 1987. Susceptibility of spider species to the fungus ''Nomuraea atypicola''. The Journal of Arachnology 15: 266-268.]</ref><ref name=Ryukyu1>盛口満、2014.琉球列島の冬虫夏草(その5).冬虫夏草34: 35-37.</ref>。 |
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柄の組織は平行に並んだ無色の菌糸(径2-4 μm:隔壁を欠く)で構成される。頭部の基本組織は、ほぼまっすぐかあるいはやや屈曲した無色の菌糸(多くは分岐せず、径 3-5μm、多数の隔壁を有する)からなり、その表面から立ち上がった菌糸上に分生子形成細胞(フィアライド)を生じる。分生子柄は菌糸末端の頂部から求心的に密な束となって3-5個ずつ形成されるが、主菌糸の伸長に伴って新たな分生子柄群を生じるため、じゅうぶんに生長した子実体においては、主菌糸の中途から数段に渡りフィアライドが節状をなして輪生することとなる。個々のフィアライドは卵形~長楕円形をなし、薄壁で径15-25μm程度、その上部は頸状~アンプル状に細まることなく、分生子を順次に芽出する。分生子の形成様式は[[出芽型]]で、形成された分生子は鎖状の連鎖を形成するが、分生子同士の連結はごく緩い<ref name=Thailand>[http://cordyceps.cgrb.oregonstate.edu/files/h_m.r_99;809;812_1995_hywel_c.cylindrica.._.pdf Hywel-Jones, N. L., and Sivichai, S. 1995 ''Cordyceps cylindrica'' and its association with ''Nomuraea atypicola'' in Thailand. Mycological Research 99: 809-812.]</ref>。分生子は細長い楕円形で、顕微鏡下ではほぼ無色・単細胞かつ薄壁、大きさ 5.6-6.3×1.2-2.0μmである<ref name=Zukan/><ref name=Thailand/>(顕著な子実体を形成せず、宿主体上に直接に分生子形成構造を生じる型では、2-2.5μmと短径がやや大きいこともある<ref name=SolomonIsl>[http://www.cybertruffle.org.uk/cyberliber/59350/0079/003/0375.htm Humber, R. A., and M.C.Rombach, 1987. ''Torrubiella ratticaudata'' sp.nov. (Pyrenomycetes: Clavicipitales) and other fungi from spiders on the Solomon Islands. Mycologia 79: 375-382.]</ref> |
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)。また、[[アルゼンチン]]産の資料標本では、分生子の大きさについて、4.0-5.5×1.4-1.7μmという計測値がある<ref name=Actinopus> [http://www.cbs.knaw.nl/images/ResearchGroups/Publications/1990Coyle0001.pdf Coyle, F. A., Goloboff, P. A., and R. A. Samson, 1990. ''Actinopus'' trapdoor spiders (Araneae, Actinopodidae) killed by the fungus ''Nomuraea atypicola'' (Deuteromycotina). Acta Zoologica Fennica 190: 89-93.]</ref>。 |
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[[子実体]]は主に春~夏、庭園や民家近くなどの地上に巣を作ったクモから発生する。形状は棍棒状で長さ約3~8cmとなり、薄紫色の分生子に覆われる。宿主は[[キシノウエトタテグモ]]を中心とする[[トタテグモ]]類であることが多い。この類のクモは地中に縦穴を掘って生息しており、子実体は巣の底で死んだクモから伸びて巣穴の入り口からその先端を出す。 |
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== テレオモルフ == |
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このきのこは[[分生子]]を形成する[[不完全菌]]であり、[[子嚢]]胞子をつくる完全世代は ''Cordyceps cylindrica'' とされる。しかし、不完全世代の[[子実体]]がごく普通に見られるのに対し、完全世代は稀である。 |
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テレオモルフの子実体は、日本で見出されるクモタケとほぼ同形同大で、宿主もやはり、地中に袋状の巣を作って生活するクモ類であるが、頭部は粉状をなさず、微細な粒点(組織に埋没して形成された[[子嚢殻]]の開口部)をこうむり、粉状の分生子におおわれることなく黄白色ないし淡黄褐色を呈する<ref name=Protologue>Petch, T., 1937. Notes on entomogenous fungi. Transactions of the British Mycological Society 21: 34-67</ref><ref name=KewBulletin>Kobayasi, Y., and D. Shimizu, 1977. Some species of ''Cordyceps'' and its allies on spiders. Kew Bulletin 31: 557-</ref>。基準産地はトリニダードドバゴである<ref name=Zukan/><ref name=Color/><ref name=Protologue/>であるが、台湾<ref>陳仁杰・許坤金・蔡叔芬、2013. 閉戶螲蟷的殺手-柱形蟲草在臺灣的發現.自然保育季刊 82: 42-48.</ref>・中国([[安徽省]][[滁州市]])<ref name=Anhui/><ref name=Mycosystema/>にも分布する。なお、アナモルフの分布が確認されているソロモン諸島では、テレオモルフの発生記録はまだ知られていない<ref name=SolomonIsl/>。 |
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日本では、[[沖縄県]][[西表島]]の[[カンピレー滝]]付近において、オキナワトタテグモを宿主とする標本が見出されたのが最初で、イリオモテクモタケの和名が与えられている<ref name=Zukan/><ref name=Color/><ref name=KewBulletin/> |
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が、発見例はクモタケに比べてはるかに少なく、沖縄県以外の産地としては[[鹿児島県]]([[屋久島]])<ref name=Yaku>盛口満、2009.屋久島冬虫夏草探索記(4).冬虫夏草29: 50-51.</ref>および[[山口県]]<ref>西嶋綾子・西嶋佳世子、2005.山口県で発生したクモタケ完全型.冬虫夏草 25: 27.</ref><ref>山田詳生、2005.山口県で発生したイリオモテクモタケ.日本菌学会ニュースレター 2005-4: 1.</ref>が知られているのみである。 |
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このきのこは、安田により1917年に''Isaria atypicola''として新種記載された<ref>Yasuda A.(1917) "Eine neue Art von Isaria" ''植物学雑誌'' '''31''':208-209</ref>。その後1974年にはSamsonにより''Isaria''属から''Nomuraea''属に移されている<ref>Samson RA.(1974) "Paecilomycas and some allied Hyphomucetes" ''Studies in Mycology'' '''6''':119</ref>が、図鑑などによっては未だに''Isaria''が属名として用いられているものも多く、混乱を招いている。さらに、21世紀に入って分子系統解析が行われると、このきのこが''Nomuraea''とは異なるグループに分類されることが示されており<ref>Han Q., Inglis GD., Hausner G.(2002) "Phylogenetic relationships among strains of the entomopathogenic fungus, Nomuraea rileyi, as revealed by partial beta-tubulin sequences and inter-simple sequence repeat (ISSR) analysis." ''Lett Appl Microbiol.'' '''34''':376-83</ref>、将来的には属名が再度変更される可能性も高い。なお、種小名のatypicolaは「[[ジグモ]](''Atypus'')に発生する」の意であるが、現在では宿主がジグモではなくトタテグモであることがわかっており、こちらも性質を反映した名前となっていない。 |
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[[奄美大島]]においてミヤコジマトタテグモを宿主とし、子実体の赤みが弱くてクリーム色を帯びるものを一変異とし、アマミウスキクモタケの名で区別する意見もある<ref name=Zukan/><ref name=Color/><ref name=Ryukyu2>盛口満、2010.琉球列島の冬虫夏草.冬虫夏草 30: 26-29.</ref>。両者は、子実体(子座)の色調のほか、生育環境にもやや相違がある(イリオモテクモタケは通風のよい路傍の崖面、アマミウスキクモタケは空中湿度に富んだ沢すじに多い)という観察例が報じられている<ref name=Yaku/><ref name=Ryukyu2/>。 |
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このキノコは日本では主としてキシノウエトタテグモから発生する。このクモの巣は入り口に扉があって普段は閉じられているが、この扉の表面は周囲と同じ土で覆われているため、発見はなかなか難しい。そのため、このキノコの出現によってこのクモの存在を知る、と言うことがままある。 |
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== 生態 == |
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なお、同じようにトタテグモの生活をするクモは他に数種あるが、このクモにこの菌の発生が集中するのは、このクモの巣が深さ10cm程度であるのに対して、他の種では20cm以上の深い巣穴を作ることが多いためではないかとの説がある。飼育下で浅い巣穴しか作れなかった条件下で[[キムラグモ]]からクモタケが発生した例が知られている。 |
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宿主の体表面を綿毛状菌糸塊で完全に覆ってから子実体を生じ、伸長した分生子柄叢は宿主の巣穴の出入り口から地上に現れる。子実体が形成され、地表に姿を現した時点では、宿主体はおおむね分解されつくして内臓その他が消失し、歩脚先端の爪や顎などの硬質部のみがかろうじて認められる程度であることが多い。日本国内での発生時期は、主に梅雨時から8月にかけてであるとされている<ref name=KasugaTaisha>[http://homepage2.nifty.com/chibakin/kaihou25/25.p44-45.pdf 大久保泰和、2009.春日大社のクモタケ.千葉菌類談話会通信25: 44-45.]</ref>。 |
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日本では、おもに[[キシノウエトタテグモ]](''Latouchia swinhoei tipica'')を宿主とし、地中に営巣している宿主に感染してこれを斃す。日本から見出された当時は、地中に営巣するクモ<ref name=Tsuchigumo>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jplantres1887/8/90/8_90_337/_pdf 安田篤、1894.螲蟷ニ寄生スル冬虫夏草.植物学雑誌 8(90): 337-340]</ref>の一種を宿主とすると報告されたり、[[ジグモ]](''Atypus karschi'')とキシノウエトタテグモとの両方に寄生すると報じられた<ref name=EineIsaria>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jplantres1887/31/367/31_367_en208/_pdf Yasuda, A. 1917 Eine neue Art von ''Isaria''. Botanical Magazine (Tokyo) 31(367):208-209.]</ref>が、今日では、これはクモタケの発生地周辺で捕えた生きたクモの写真のみに基づく、宿主の誤同定の結果であると推定されている<ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jplantres1887/44/517/44_517_55/_pdf 藥師寺英次郎・熊澤正夫、1930.小石川植物園ニテ得タル冬蟲夏草菌(第一).植物学雑誌 44: 69-74.]</ref> |
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<ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jplantres1887/44/517/44_517_40/_pdf Yakushiji, E., and M. Kumazawa, 1930. Über einige im Koishikawa botanischen Garten gesammelte ''Isaria''-Arten. Botanical Magazine (Tokyo) 44: 40-42.]</ref>。 |
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[[沖縄県]][[石垣島]]では、ミヤコジマトタテグモ(''Latouchia japonica'')を宿主とした例も報告されている<ref name=Monograph/><ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jplantres1887/44/524/44_524_461/_pdf 藥師寺英次郎・熊澤正夫、1930.くもたけノ一新宿主ニ就テ.植物学雑誌(東京)44: 464.]</ref>が、この例では宿主の同定についての再検討を要するという意見もある<ref name=Bumpu>横山和正・橋屋誠、1994.クモタケの分布調査.冬虫夏草 14: 6-10.</ref>。また、鹿児島県[[佐多岬]]付近において、樹上に営巣していたクモを宿主とした一標本<ref>[http://ir.kagoshima-u.ac.jp/bitstream/10232/909/1/KJ00000067419.pdf 馬田英隆、1975.鹿児島県佐多地方のキノコ類(1).鹿児島大学農学部演習林報告 3: 109-113.],</ref>についてもまた、[[キノボリトタテグモ]]を宿主としている可能性が一時示唆されていた<ref name=Ueda>上田俊穂、1990.クモタケ(''Isaria atypicola'' Yasuda)の分布(予報).日本菌学会ニュース1990-2(No. 15): 89-90.</ref>が、クモタケに寄生されて分解された後にも残存する宿主の上顎部の牙その他の形態に基づいた再検討の結果、宿主はキシノウエトタテグモであったと訂正されている<ref name=Bumpu/>。千葉県下からも、立ち木上の洞からクモタケが得られた例<ref name=Shimizu1988>清水大典、1988.冬虫夏草の窓 87年 !! 冬虫夏草 8: 4-11.</ref>があり、その宿主については厳密な同定がなされていないが、キシノウエトタテグモも、時には地表面から2 m近くの高さにある樹幹の空洞や分岐部などに巣を作ることがあるとされ、キノボリトタテグモであったのかキシノウエトタテグモであったのかは不明である<ref name=Bumpu/>。 |
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いっぽう、[[宮崎県]]においては、粘土質の土壌の上に生きたまま放した[[キムラグモ]](''Heptathela kimurai'')からのクモタケの発生が記録されている 。この例では、土壌がしまっていたために、通常は地中の深さ10-20 cmに営巣する習性をもつキムラグモが浅いところに巣を作らざるを得ず、そのためにクモタケに感染したものではないかとの推定がなされている<ref name=Bumpu/><ref name=Ootsu>横山和正・一川由香、1984.大津市近江神宮のクモタケの生態.冬虫夏草4: 3-6.</ref>。 |
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キシノウエトタテグモ以外の日本産クモ類に対し、分生子の懸濁液(界面活性剤添加:分生子の濃度はおおむね 300,000個/ml)を塗布した後に飼育したところでは、24種のクモのうち12種について、斃死とそれに続くクモタケの分生子形成が確認されたが、野外で見出されるような典型的な分生子柄叢を形成した例は皆無であったという<ref name=Hatamori>畑守有紀、2000.日本産クモタケ ''Nomuraea atypicola'' の宿主特異性に関する室内実験からの検討.冬虫夏草20: 15-23.</ref>。また、クモの斃死は急激に起こり、死後1-3日めには、肉眼的にも淡紫色の分生子の形成を認めることができたとされている<ref name=Hatamori/>。 |
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パナマからは[[コガネグモ科]]などに属する三種のクモ({{Sname||''Argiope argentata''}}・ {{Sname||''Argiope savignyi''}} ほか)を宿主として発生した例<ref name=Nentwig> Nentwig, W., 1985. Parasitic fungi as a mortality factor of spiders. Journal of Arachnology 13 :272-274.</ref>が知られている。また、ブラジル産のクモを用いた室内での接種(分生子懸濁液の塗布)実験によれば、[[イトグモ科]]の{{Sname||''Loxosceles reclusa''}}、[[ヒメグモ科]]の[[オオヒメグモ]] (''Achaearanea tepidariorum'')、[[サラグモ科]]の{{Sname||''Frontinella pyramitella''}}、[[コガネグモ科]]のキマダラコガネグモ({{Sname||''Argiope aurantia''}})および{{Sname||''Acantheperia stellata''}}や[[ヒメオニグモ属]]の一種、[[アシナガグモ科]]の{{Sname||''Tetragnatha laboriosa''}}、タナグモ科の{{Sname||''T agelenopsis''}}と''T.'' sp.、[[イヅツグモ]]科の一種、[[カニグモ科]]のカニグモ属およびハナグモ属の一種、あるいは[[ハエトリグモ]]科の数種などの造網性もしくは徘徊性のクモ類、さらには[[ザトウムシ]]の一種({{Sname||''Leiobunum vittatum''}})に対しても感染力を持つことが報告されている<ref name=JArachnology/>。''L. vittatum'' を宿主とした例は、[[北アメリカ]]([[ミズーリ州]])からも報告されている<ref name=Opiliones>[http://www.nsrl.ttu.edu/personnel/JCCokendolpher/Cokendolpherpubs/publications/1993Cokendolpher_pathogens.pdf Cokendolfer, J. C., 1993. Pathogens and parasites of Opiliones (Arthropoda, Arachnida). The Journal of Arachnology 21: 120-146.]</ref>。しかし、これらの例では、地中営巣性の宿主から形成されるような典型的な分生子柄束は形成されることがなく、宿主の体表面に直接に分生子柄が生じるにすぎなかったという。 |
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[[タイ]]においても、宿主としては地中に営巣するクモ類ではなく、草本や灌木の葉の裏面または河川敷の丸石の下などに生息するクモ類([[コモリグモ]]科あるいは[[アシナガクモ]]科)が挙げられている<ref name=Thailand/>。 |
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なお、同様に人工的な分生子接種を行うことにより、[[チョウ目]]の[[幼虫]](アメリカタバコガ・ニセアメリカタバゴガ・ツマジロクサヨトウ・イラクサギンウワバおよび{{Sname||''Anticalsia gemmatalis''}})への感染をみた例も知られている<ref name=Ignoffo>[http://www.cbs.knaw.nl/images/ResearchGroups/Publications/1989%20Ignoffo%200001.pdf Ignoffo, C. M., Galcia, C., and R. A. Samson, 1989. Relative virulence of ''Nomuraea'' spp. (''N. rileyi'', ''N. atypicola'', ''N. anemonoides'') originally isolated from an insect, a spider, and soil. Journal of Invertebrate Pathology 54: 373-378.]</ref>。 |
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[[滋賀県]][[大津市]]([[近江神宮]]境内)での調査例によれば、クモタケの寄生はキシノウエトタテグモの死因の31.5%を占めていたという<ref name=YandY>山道秀子・横山和正、1987.クモタケに関する2、3の観察.冬虫夏草 7: 22-27.</ref>。背甲幅が10 mmを越えたクモでは、約50%が感染しており、老熟した個体であるほど、クモタケによる死亡率が高まると推定されている<ref name=Ootsu/>。厳密な検証はまだなされていないが、キシノウエトタテグモへの感染は、地温が上昇してくる晩春から初夏にかけて起こるという見解<ref name=Ootsu/>があり、4月下旬に野外で捕獲したクモを室内で飼育したところ、5月下旬から6月上旬に、飼育容器内でのクモタケの子実体形成が観察された例も知られている。この例では、クモの飼育は完全な無菌条件下で行われたわけではないが、クモは野外で捕えられた時点ですでにクモタケに感染していた可能性も考えられる<ref name=YandY/>。なお、[[九州]]・沖縄および[[マレーシア]]で捕えられた地中営巣性のクモ(''Latouchia'' sp.)の飼育実験に際して、その個体数の18%からクモタケの子実体の発生をみたとの報告<ref name=Rickettisia>[http://www.european-arachnology.org/wdp/wp-content/uploads/2015/08/045-049_Haupt.pdf Haupt, J., 2000. Fungal and rickettisial infections of some East Asian trapdoor spiders. Europian Arachnology 2000: 45-49.]</ref>もあるが、この観察例では、地域ごとあるいは季節ごとの寄生率については明らかにされていない。 |
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いっぽう、9~10月あるいは1月上旬に、白色・綿毛状の菌糸を生じたキシノウエトタテグモが野外で見出された例が少数ながらあり、また10月はじめにクモタケの子実体が採集されたという報告もある<ref>畑守有紀・横山和正、1991.クモタケの生態―宿主と寄生者の関係―.冬虫夏草 11: 2-7.</ref>。さらに、春(4月23日)に捕えた複数のクモを、一匹ずつに分けて室内で飼育したところ、5月23日および6月7日に、二匹のクモから一本ずつ、クモタケの子実体発生が認められたという報告もなされている。 |
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なお、日本において野外で捕獲され、室内で飼育されたキシノウエトタテグモからのクモタケの発生例では、クモが最後に自力で餌を摂った時点(すなわち、クモが生存していることが最後に確認された時点:飼育開始から10-17日め)から1-2日ないし一週間めには、全身が白色・綿毛状の菌糸で覆われ、その一部に小突起が形成されて伸長し、成熟した分生子柄束となるまでにはさらに7日ほどを要するという。この観察例では人為的な菌の接種は行われておらず、クモタケの発生をみたキシノウエトタテグモは、すべて捕獲された時点ですでに菌に感染していたと考えられる。すなわち、クモタケの菌体は、宿主に感染してから少なくとも10-17日の潜伏期を過ごし、宿主が斃れてからはすみやかに分生子を形成するにいたるものと考えられている<ref>畑守有紀・横山和正、1992.クモタケ発生過程の観察―クモの死亡からクモタケ成熟まで―.冬虫夏草12: 6-10.</ref>。 |
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なお、宿主が、おおむね常に陽光のもとで生活する造網性あるいは徘徊性のクモであった場合に顕著な分生子柄叢が形成されず、袋状の巣を作る地中生息性の宿主からのみ典型的な子実体が作られるのは、分生子柄束の形態形成には、暗黒下での菌糸生長とともに、一定方向からのわりあい弱い光照射が必要とされるため、そのような条件を満たす環境(=土中の、宿主の巣穴)で菌が生育したときに限られるではないかとの推測もなされている<ref name=Actinopus/>。 |
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== 培養所見 == |
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分生子は、[[ジャガイモ]]=[[ブドウ糖]][[寒天]][[培地]](PDA)上において24-36時間で[[発芽]]し始める。PDA培地上での生育は緩慢(暗黒下・22℃で、10日経過後のコロニーは径5 mm 程度)で、コロニーの裏面はクリーム白色である。培養開始から一週間程度で、コロニーは分生子を形成し始め、培養下で形成された分生子は大きさ 3.8-6.4×1.1-1.9 μmであったという<ref name=Thailand/>。また、2%のブドウ糖と[[酵母]]エキスとを含む培地15 mlを含浸させた滅菌済みポリ[[ウレタンフォーム]]上での培養試験例においては、[[カメムシタケ]]や[[ツクツクボウシタケ]]などの他の冬虫夏草類よりも迅速な生長を示し、コロニーの径は接種後6日めにおいて8cm(カメムシタケやツクツクボウシタケでは2 cm程度)に達し、80-90日めには子実体をも形成したとされている<ref name=PolyUretane>[http://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/handle/2324/15527/bkuf_087_p009.pdf Pokhrel, C. P., Yang, B.,Sumikawa, S., Mae, M., and S. Ogha, 2006. Cultural characteristics for inducing fruit body of various insect mushrooms of Polyurethane foams. Bulletin of Kyushu Uniersity Forest 87: 9-21.]</ref>。 |
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キシノウエトタテグモを含めた23科51種の日本産クモ類を種類ごとにすりつぶし、2%素[[寒天]]培地10 ml に対しクモ一匹の割合で懸濁させ、クモタケの分生子の懸濁液を接種して培養した実験では、クモの種類および個体長に関わりなく、すべての培地上でクモタケの菌糸生長および分生子形成が認められたが、野外で見出されるような典型的な子実体が形成された例はなかったという<ref name=Hatamori/>。また、菌の接種から分生子形成が肉眼的に確認できるようになるまでの日数はクモの種類によって異なり、[[サガオニグモ]]({{Sname||''Zilla astridae''}})を破砕して培地に添加した場合で8日、イタチグモ({{Sname||''Itatsina praticola''}})の場合で20日を要し、キシノウエトタテグモを用いた場合には10日であったという一例が報告されている<ref name=Hatamori/>。 |
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PGO培地(ブドウ糖2%、ポリペプトン0.4%、酵母エキス0.1%、KH<sub>2</sub>PO<sub>4</sub> 0.046%、K<sub>2</sub>HPO<sub>4</sub> 0.1%、[[ペクチン]]および[[アラビアゴム]]各 2%、[[オリーブ油]]1%からなる:[[水素イオン濃度指数|pH]] 5.5)を用いて培養すれば、 [[エステル|ケトエステル]]や[[芳香族]][[アミド|ケトアミド]]を[[還元]]して、対応する[[アルコール]]に高い効率で変換し、また[[グリシン]]や[[アラニン]]などの[[アミノ酸]]の付加反応も行うとされ、生体[[触媒]]としての応用に興味が持たれている<ref>[http://www.ijcmas.com/vol-2-9/K.%20Ishihara,%20et%20al.pdf Ishihara, K., Fujimoto, H., Kodani, M., Mouri, K., Yamamoto, T., Ishida, M., Maruike, K., Hamada, H., Nakajima, N., and N. Masuoka, Biocatalyst activity of entomogenous fungi: stereoselective reduction of carbonyl compounds using tochukaso and related species. International Journals of current microbiology and applied science 2: 188-197.]</ref>。 |
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日本では比較的普通に見出されるが、その分布は宿主の分布とおおむね一致していると考えられ、[[千葉県]]より東方からの記録は知られていない<ref name=Shimizu1988/><ref name=ChibaKin>[http://homepage2.nifty.com/chibakin/kaihou4to15/tsushinNo11.pdf 大作晃一、1995.千葉県でクモタケを見つけた! 千葉菌類談話会通信 11: 2-4.]</ref><ref>[http://homepage2.nifty.com/chibakin/kaihou4to15/tsushinNo11.pdf 佐野悦三、1995.佐倉城址公園のクモタケ.千葉菌類談話会通信 11: 5.]</ref>。また、日本海側では[[石川県]]以西で採集されているが、[[兼六園]]の園内における発生は、外部から園内に持ち込まれて植栽された樹木に、クモタケの菌糸あるいは分生子、もしくはすでにクモタケに感染したキシノウエトタテグモが随伴していた結果ではないかとの推定もある。南にかけては、奄美大島<ref>清水大典、1986.冬虫夏草の窓85年.冬虫夏草16: 10-28.</ref>および沖縄本島<ref name=Ryukyu1/>における分布も確認されている。 |
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かつては日本の特産種とみなされてきた<ref>今関六也・本郷次雄、1957.原色日本菌類図鑑.保育社、大阪.ISBN 458630023X</ref>が、[[台湾]]<ref>Tzean, S. S. , Hsieh, L. S. and W. J. Wu, 1997. Atlas of entomopathogenic fungi from Taiwan. 214 pp. Council of agriculture, executive Yuan Taiwan, R. O. C.</ref>・中国<ref name=Anhui>仇飞・张琪・李春如・Spatafora, J.,樊美珍・李增智,2012. 安徽的虫草及其相关真菌Ⅱ. 安徽农业大学学报 39: 803-806.</ref><ref name=Mycosystema>Li, C.-R., Chen, A.-H., Wang, M., Fan, M.-Z., and Z.-Z. Li, 2005. ''Cordyceps cylindrica'' and its anamorph ''Nomuraea atypicola''. Mycosystema 1: 14-18.</ref><ref name=Bumpu/>・[[スリランカ]] <ref>[http://www.cybertruffle.org.uk/cyberliber/59351/0016/004/0209.htm Petch, T., 1932. Notes on entomogenous fungi. Transactions of the British Mycological Society 16: 209-245.]</ref>・[[北アメリカ]]([[フロリダ]] <ref name=Samson1974>Samson R. A., 1974. ''Paecilomycas'' and some allied Hyphomycetes. Studies in Mycology 6:119</ref>)・[[コスタリカ]]<ref name=Mains1955>[http://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=mdp.39015007469466;view=1up;seq=42 Mains, E. B., 1955. Some entomogenous species of ''Isaria''. Papers Michigan Academy of Science, Arts And Letters 40: 23-32.]</ref>・ブラジル<ref name=Ignoffo/><ref name=Greenstone>Greenstone, M. H., Ignoffo, C. M., and R. A. Samson, 1987. Susceptability of spider species to the fungus ''Nomuraea atypicola''. Journal of Arachnology 15: 266-268.</ref>・[[アルゼンチン]] <ref name=Actinopus/>・パナマ<ref name=Nentwig/>およびソロモン群島<ref name=SolomonIsl/><ref name=HanEtAl>[http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1046/j.1472-765X.2002.01103.x/pdf Han, Q., Inglis, G. D., and G. Hausner, 2002. Phylogenetic relationships among strains of the entomopathogenic fungus, ''Nomuraea rileyi'', as revealed by partial beta-tubulin sequences and inter-simple sequence repeat (ISSR) analysis. Letters of the Applied Microbiology 34: 376-383.]</ref> |
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・ガーナ<ref name=Samson1974/>などからも見出されている。 |
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== 分類学上の位置づけ == |
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[[小石川植物園]]([[東京都]][[文京区]])で見出された標本をもとに、''Isaria''属の新しい未知種ではないかと考えられた<ref name=Lloyd1915>[http://cordyceps.cgrb.oregonstate.edu/files/lloyd_1915_.pdf Lloyd, C. G., 1915. Mycological Notes 39 (p. 568). ''in'' Mycological Writings 4: 526-530, 567-568.]</ref>が、結局は''Isaria arachnophila'' Ditmar(ドイツ産<ref> Ditmar, L.P. F., 1817. Deutschlands Flora, Abt. III. Die Pilze Deutschlands. 1-4:.99-130.</ref>)と同定・報告された<ref name=Tsuchigumo/>。しかし後者は徘徊性のクモ類を宿主とするとともに子実体が非常に小型かつ繊細であることから、日本産のクモタケとはまったく別の菌であると改めて判断され、新たに''Isaria atypicola''として新種記載された<ref name=EineIsaria/><ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jplantres1887/29/339/29_107/_pdf 安田篤、1915.くもたけハ新種ナリ.植物学雑誌 29(339): 117.]</ref>。比較的発達した分生子柄束を形成する点で共通する別属 ''Spicaria''に移し、''S. atypicola'' (Yasuda) Petch の学名を用いる意見<ref name=Petch1939>Petch, T., 1939. Notes on Entomogenous fungi. Transactions of the British Mycological Society 23: 127-148.</ref>もあったが、''Isaria''に置く処置が伝統的に続いていた。 |
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その後、分生子形成細胞(フィアライド)が分生子柄の先端のみに束生することなく、分生子柄の中途からも輪生する点を重視し、''Isaria''属から''Nomuraea''属に移された<ref name=Samson1974/>が、文献によってはいまだに''Isaria''が属名として用いられているものも多く、混乱を招いている。さらに、21世紀に入って分子系統解析が行われた結果からは、''Nomuraea''とも異なるグループに分類されるべきであることが示唆されている<ref name=HanEtAl/>。 |
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日本では、科レベルの所属について未詳とする文献もある<ref>今関六也・大谷吉雄・本郷次雄(編・解説)、青木孝之・内田正弘・前川二太郎・吉見昭一・横山和正(解説)、2011.山渓カラー名鑑 日本のきのこ(増補改訂版).山と渓谷社、東京. ISBN 978-4-635-09044-5.</ref><ref>大作晃一、1915.くらべてわかる きのこ 原寸大.144 pp. 山と渓谷社、東京.ISBN 978-4-635-06348-7.</ref>が、テレオモルフとしては''Ophiocordyceps''属に所属するものであることが示唆されている<ref>Gi-Ho Sung, G. H., Hywel-Jones, N. L., Sung,J. M., Jennifer Luangsa-ard, J. J. , J., Shrestha,B., and J. W. Spatafora1, 2007. Phylogenetic classification of ''Cordyceps'' and the clavicipitaceous fungi. Studies in Mycology 57: 5-59.</ref><ref>Kepler, R. M., Kaitsu, Y., Tanaka,E., Shimano, S., and J. W. Spatafora, 2011. ''Ophiocordyceps pulvinata'' so. nov., a pathogen of ants with a reduced stroma. Mycoscience 52: 39-47.</ref>点から、この属が所属するオフィオコルジケプス科(Ophiocordycipitaceae)に置くのが妥当である<ref>Quandt,C.A., Kepler,R.M., Gams,W., Araujo,J.P., Ban,S., Evans,H.C.、Hughes,D., Humber,R., Hywel-Jones,N., Li,Z., Luangsa-Ard,J.J., Rehner,S.A., Sanjuan,T., Sato,H., Shrestha,B., Sung,G.H., Yao,Y.J., Zare,R. and J. W. Spatafora,2014. Phylogenetic-based nomenclatural proposals for Ophiocordycipitaceae (Hypocreales) with new combinations in ''Tolypocladium''. IMA Fungus 5: 121-134.</ref>。 |
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== 類似種 == |
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外観がやや類似するものにツチカメムシタケ(''Isaria macrocyticola'' Y. Kobay. )がある。クモタケに似て、円頭状円筒形・淡紫色で粉状の頭部と白く細い柄とからなるが、分生子柄は主軸の周囲に輪生することなく、主軸の先端からほうき状の束をなして生じること・分生子がほぼ球形であること・クモ類ではなく、ツチカメムシ(''Macroscytus japonensis'')の成虫を宿主とすることなどにおいて異なる<ref name=Monograph/>。 |
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顕著な子実体を形成することなく、宿主の体表面に直接に分生子形成構造を生じた場合、その肉眼的特徴は''Nomuraea rileyi'' (Farl.) Samson(現在では、[[分子系統学]]的解析の結果に基づいて''Metarhizium rileyi'' (Farl.) Kepler, Rehner & Humber の学名が正しいとされている)のそれに酷似するが、後者は[[チョウ目]]の幼虫を宿主とすることで異なる<ref name=Samson1974/>。また''Nomuraea anemonoides'' Hockingは[[オーストラリア]]の土壌中から純粋分離を経て記載された種で、分生子が緑色を帯びるとともに類球形をなす点でクモタケと区別することができる<ref>[http://www.cybertruffle.org.uk/cyberliber/59351/0069/003/0511.htm Hocking, A.D., 1977. ''Nomuraea anemonoides'' sp.nov. from Australian soil. Transactions of the British Mycological Society 69: 511-513.]</ref>というが、これらの特徴は、培養に用いる培地の組成その他によって変化し得るという示唆もある<ref name=Ignoffo/>。''Nomuraea anemonoides'' は、通常は生きた節足動物に感染してこれを斃すことはなく、腐生的に生活しているらしい<ref name=Samson1974/>。 |
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和名は、日本産の節足動物寄生菌のうち、クモ類を宿主として最初に記録されたことから命名されたものである<ref name=Tsuchigumo/>。 |
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属名の''Nomuraea''は、属の[[タイプ]]種である[[緑僵病菌]]の資料標本をフランスへと送付した、日本の養蚕学・蚕体病理学の権威である野村彦太郎(東京蠶業講習所)の名を記念したもの<ref>宇田川俊一、2000.''Nomuraea'' の学名の由来とカイコの硬化病.冬虫夏草20: 13-14.</ref>であり、旧来の属名''Isaria''は「繊維」の意味である<ref>今関六也・本郷次雄・椿啓介、1970.標準原色図鑑全集14 菌類(きのこ・かび).保育社.ISBN 978-4-58632-014-1.</ref>。種小名の''atypicola''は「[[ジグモ]]属(''Atypus'')に発生する」の意であるが、前述のとおり本種の宿主はジグモではなくトタテグモ類であり、実態を反映した名とはなっていない。 |
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なお、中国語では「紫色野村菌」と呼称される<ref name=Anhui/>。 |
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== 保護状況 == |
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[[京都府]]においては要注目種(DD:情報不足)として、また[[埼玉県]]では絶滅危惧Ⅱ類(VU)<ref>埼玉県環境防災部みどり自然課、2005.改訂・埼玉県レッドデータブック.358 pp.埼玉県、さいたま.</ref>、[[三重県]]では絶滅危惧IB類として[[レッドデータブック]]に加えられているが、具体的な保護策は特に講じられていない。 |
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== 脚注 == |
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== 参考文献 == |
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== 関連項目 == |
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== 外部リンク == |
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[[Category:冬虫夏草]] |
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[[Category:バッカクキン科]] |
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<!-- [[en:Nomuraea atypicola]] --> |
2016年3月9日 (水) 09:49時点における版
クモタケ Nomuraea atypicola | |||||||||||||||||||||||||||
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クモタケ
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Nomuraea atypicola (Yasuda) Samson | |||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||
クモタケ |
クモタケは、子嚢菌門フンタマカビ綱ボタンタケ目オフィオコルジケプス科に属する菌類の一種である。いわゆる冬虫夏草の一つとして扱われる。
形態
子実体はいわゆる分生子柄叢(シンネマ synnema)で、一体の宿主から通常は一本ずつ(まれに二本)生じ、細長い円筒状の柄と、柄よりやや太くてソーセージ状の頭部とで構成され、全体の高さは3-8センチ程度、そのうち頭部の長さは(1-)2-4センチ程度である。柄は白色・平滑で径1-4ミリ程度、柔らかい肉質で中空、その基部はほぼ完全に宿主体を包み込んだ白色の菌糸塊につながる。頭部は円筒形ないし細長いソーセージ状、先端は尖らず円頭状をなし、もっとも太い部分の径 1.2-4.5ミリ程度、無数の分生子におおわれて肉眼的には灰紫色・粉状を呈する[1][2][3]。 アシダカグモ(Heteropoda venatoria)などの地中営巣性以外のクモ(造網性あるいは徘徊性のクモ)が宿主となった場合には、こん棒状の典型的な子実体を形成せず、宿主の体表背面に直接に多数の分生子柄を作り、その上に無数の分生子(無性胞子)を生じるため、宿主は淡灰紫色の粉塊におおわれるにとどまる[4][5]。
柄の組織は平行に並んだ無色の菌糸(径2-4 μm:隔壁を欠く)で構成される。頭部の基本組織は、ほぼまっすぐかあるいはやや屈曲した無色の菌糸(多くは分岐せず、径 3-5μm、多数の隔壁を有する)からなり、その表面から立ち上がった菌糸上に分生子形成細胞(フィアライド)を生じる。分生子柄は菌糸末端の頂部から求心的に密な束となって3-5個ずつ形成されるが、主菌糸の伸長に伴って新たな分生子柄群を生じるため、じゅうぶんに生長した子実体においては、主菌糸の中途から数段に渡りフィアライドが節状をなして輪生することとなる。個々のフィアライドは卵形~長楕円形をなし、薄壁で径15-25μm程度、その上部は頸状~アンプル状に細まることなく、分生子を順次に芽出する。分生子の形成様式は出芽型で、形成された分生子は鎖状の連鎖を形成するが、分生子同士の連結はごく緩い[6]。分生子は細長い楕円形で、顕微鏡下ではほぼ無色・単細胞かつ薄壁、大きさ 5.6-6.3×1.2-2.0μmである[2][6](顕著な子実体を形成せず、宿主体上に直接に分生子形成構造を生じる型では、2-2.5μmと短径がやや大きいこともある[7] )。また、アルゼンチン産の資料標本では、分生子の大きさについて、4.0-5.5×1.4-1.7μmという計測値がある[8]。
テレオモルフ
テレオモルフの子実体は、日本で見出されるクモタケとほぼ同形同大で、宿主もやはり、地中に袋状の巣を作って生活するクモ類であるが、頭部は粉状をなさず、微細な粒点(組織に埋没して形成された子嚢殻の開口部)をこうむり、粉状の分生子におおわれることなく黄白色ないし淡黄褐色を呈する[9][10]。基準産地はトリニダードドバゴである[2][3][9]であるが、台湾[11]・中国(安徽省滁州市)[12][13]にも分布する。なお、アナモルフの分布が確認されているソロモン諸島では、テレオモルフの発生記録はまだ知られていない[7]。
日本では、沖縄県西表島のカンピレー滝付近において、オキナワトタテグモを宿主とする標本が見出されたのが最初で、イリオモテクモタケの和名が与えられている[2][3][10] が、発見例はクモタケに比べてはるかに少なく、沖縄県以外の産地としては鹿児島県(屋久島)[14]および山口県[15][16]が知られているのみである。
奄美大島においてミヤコジマトタテグモを宿主とし、子実体の赤みが弱くてクリーム色を帯びるものを一変異とし、アマミウスキクモタケの名で区別する意見もある[2][3][17]。両者は、子実体(子座)の色調のほか、生育環境にもやや相違がある(イリオモテクモタケは通風のよい路傍の崖面、アマミウスキクモタケは空中湿度に富んだ沢すじに多い)という観察例が報じられている[14][17]。
生態
宿主の体表面を綿毛状菌糸塊で完全に覆ってから子実体を生じ、伸長した分生子柄叢は宿主の巣穴の出入り口から地上に現れる。子実体が形成され、地表に姿を現した時点では、宿主体はおおむね分解されつくして内臓その他が消失し、歩脚先端の爪や顎などの硬質部のみがかろうじて認められる程度であることが多い。日本国内での発生時期は、主に梅雨時から8月にかけてであるとされている[18]。
日本では、おもにキシノウエトタテグモ(Latouchia swinhoei tipica)を宿主とし、地中に営巣している宿主に感染してこれを斃す。日本から見出された当時は、地中に営巣するクモ[19]の一種を宿主とすると報告されたり、ジグモ(Atypus karschi)とキシノウエトタテグモとの両方に寄生すると報じられた[20]が、今日では、これはクモタケの発生地周辺で捕えた生きたクモの写真のみに基づく、宿主の誤同定の結果であると推定されている[21] [22]。
沖縄県石垣島では、ミヤコジマトタテグモ(Latouchia japonica)を宿主とした例も報告されている[1][23]が、この例では宿主の同定についての再検討を要するという意見もある[24]。また、鹿児島県佐多岬付近において、樹上に営巣していたクモを宿主とした一標本[25]についてもまた、キノボリトタテグモを宿主としている可能性が一時示唆されていた[26]が、クモタケに寄生されて分解された後にも残存する宿主の上顎部の牙その他の形態に基づいた再検討の結果、宿主はキシノウエトタテグモであったと訂正されている[24]。千葉県下からも、立ち木上の洞からクモタケが得られた例[27]があり、その宿主については厳密な同定がなされていないが、キシノウエトタテグモも、時には地表面から2 m近くの高さにある樹幹の空洞や分岐部などに巣を作ることがあるとされ、キノボリトタテグモであったのかキシノウエトタテグモであったのかは不明である[24]。
いっぽう、宮崎県においては、粘土質の土壌の上に生きたまま放したキムラグモ(Heptathela kimurai)からのクモタケの発生が記録されている 。この例では、土壌がしまっていたために、通常は地中の深さ10-20 cmに営巣する習性をもつキムラグモが浅いところに巣を作らざるを得ず、そのためにクモタケに感染したものではないかとの推定がなされている[24][28]。
キシノウエトタテグモ以外の日本産クモ類に対し、分生子の懸濁液(界面活性剤添加:分生子の濃度はおおむね 300,000個/ml)を塗布した後に飼育したところでは、24種のクモのうち12種について、斃死とそれに続くクモタケの分生子形成が確認されたが、野外で見出されるような典型的な分生子柄叢を形成した例は皆無であったという[29]。また、クモの斃死は急激に起こり、死後1-3日めには、肉眼的にも淡紫色の分生子の形成を認めることができたとされている[29]。
パナマからはコガネグモ科などに属する三種のクモ(Argiope argentata・ Argiope savignyi ほか)を宿主として発生した例[30]が知られている。また、ブラジル産のクモを用いた室内での接種(分生子懸濁液の塗布)実験によれば、イトグモ科のLoxosceles reclusa、ヒメグモ科のオオヒメグモ (Achaearanea tepidariorum)、サラグモ科のFrontinella pyramitella、コガネグモ科のキマダラコガネグモ(Argiope aurantia)およびAcantheperia stellataやヒメオニグモ属の一種、アシナガグモ科のTetragnatha laboriosa、タナグモ科のT agelenopsisとT. sp.、イヅツグモ科の一種、カニグモ科のカニグモ属およびハナグモ属の一種、あるいはハエトリグモ科の数種などの造網性もしくは徘徊性のクモ類、さらにはザトウムシの一種(Leiobunum vittatum)に対しても感染力を持つことが報告されている[4]。L. vittatum を宿主とした例は、北アメリカ(ミズーリ州)からも報告されている[31]。しかし、これらの例では、地中営巣性の宿主から形成されるような典型的な分生子柄束は形成されることがなく、宿主の体表面に直接に分生子柄が生じるにすぎなかったという。
タイにおいても、宿主としては地中に営巣するクモ類ではなく、草本や灌木の葉の裏面または河川敷の丸石の下などに生息するクモ類(コモリグモ科あるいはアシナガクモ科)が挙げられている[6]。
なお、同様に人工的な分生子接種を行うことにより、チョウ目の幼虫(アメリカタバコガ・ニセアメリカタバゴガ・ツマジロクサヨトウ・イラクサギンウワバおよびAnticalsia gemmatalis)への感染をみた例も知られている[32]。
滋賀県大津市(近江神宮境内)での調査例によれば、クモタケの寄生はキシノウエトタテグモの死因の31.5%を占めていたという[33]。背甲幅が10 mmを越えたクモでは、約50%が感染しており、老熟した個体であるほど、クモタケによる死亡率が高まると推定されている[28]。厳密な検証はまだなされていないが、キシノウエトタテグモへの感染は、地温が上昇してくる晩春から初夏にかけて起こるという見解[28]があり、4月下旬に野外で捕獲したクモを室内で飼育したところ、5月下旬から6月上旬に、飼育容器内でのクモタケの子実体形成が観察された例も知られている。この例では、クモの飼育は完全な無菌条件下で行われたわけではないが、クモは野外で捕えられた時点ですでにクモタケに感染していた可能性も考えられる[33]。なお、九州・沖縄およびマレーシアで捕えられた地中営巣性のクモ(Latouchia sp.)の飼育実験に際して、その個体数の18%からクモタケの子実体の発生をみたとの報告[34]もあるが、この観察例では、地域ごとあるいは季節ごとの寄生率については明らかにされていない。
いっぽう、9~10月あるいは1月上旬に、白色・綿毛状の菌糸を生じたキシノウエトタテグモが野外で見出された例が少数ながらあり、また10月はじめにクモタケの子実体が採集されたという報告もある[35]。さらに、春(4月23日)に捕えた複数のクモを、一匹ずつに分けて室内で飼育したところ、5月23日および6月7日に、二匹のクモから一本ずつ、クモタケの子実体発生が認められたという報告もなされている。
なお、日本において野外で捕獲され、室内で飼育されたキシノウエトタテグモからのクモタケの発生例では、クモが最後に自力で餌を摂った時点(すなわち、クモが生存していることが最後に確認された時点:飼育開始から10-17日め)から1-2日ないし一週間めには、全身が白色・綿毛状の菌糸で覆われ、その一部に小突起が形成されて伸長し、成熟した分生子柄束となるまでにはさらに7日ほどを要するという。この観察例では人為的な菌の接種は行われておらず、クモタケの発生をみたキシノウエトタテグモは、すべて捕獲された時点ですでに菌に感染していたと考えられる。すなわち、クモタケの菌体は、宿主に感染してから少なくとも10-17日の潜伏期を過ごし、宿主が斃れてからはすみやかに分生子を形成するにいたるものと考えられている[36]。
なお、宿主が、おおむね常に陽光のもとで生活する造網性あるいは徘徊性のクモであった場合に顕著な分生子柄叢が形成されず、袋状の巣を作る地中生息性の宿主からのみ典型的な子実体が作られるのは、分生子柄束の形態形成には、暗黒下での菌糸生長とともに、一定方向からのわりあい弱い光照射が必要とされるため、そのような条件を満たす環境(=土中の、宿主の巣穴)で菌が生育したときに限られるではないかとの推測もなされている[8]。
培養所見
分生子は、ジャガイモ=ブドウ糖寒天培地(PDA)上において24-36時間で発芽し始める。PDA培地上での生育は緩慢(暗黒下・22℃で、10日経過後のコロニーは径5 mm 程度)で、コロニーの裏面はクリーム白色である。培養開始から一週間程度で、コロニーは分生子を形成し始め、培養下で形成された分生子は大きさ 3.8-6.4×1.1-1.9 μmであったという[6]。また、2%のブドウ糖と酵母エキスとを含む培地15 mlを含浸させた滅菌済みポリウレタンフォーム上での培養試験例においては、カメムシタケやツクツクボウシタケなどの他の冬虫夏草類よりも迅速な生長を示し、コロニーの径は接種後6日めにおいて8cm(カメムシタケやツクツクボウシタケでは2 cm程度)に達し、80-90日めには子実体をも形成したとされている[37]。
キシノウエトタテグモを含めた23科51種の日本産クモ類を種類ごとにすりつぶし、2%素寒天培地10 ml に対しクモ一匹の割合で懸濁させ、クモタケの分生子の懸濁液を接種して培養した実験では、クモの種類および個体長に関わりなく、すべての培地上でクモタケの菌糸生長および分生子形成が認められたが、野外で見出されるような典型的な子実体が形成された例はなかったという[29]。また、菌の接種から分生子形成が肉眼的に確認できるようになるまでの日数はクモの種類によって異なり、サガオニグモ(Zilla astridae)を破砕して培地に添加した場合で8日、イタチグモ(Itatsina praticola)の場合で20日を要し、キシノウエトタテグモを用いた場合には10日であったという一例が報告されている[29]。
PGO培地(ブドウ糖2%、ポリペプトン0.4%、酵母エキス0.1%、KH2PO4 0.046%、K2HPO4 0.1%、ペクチンおよびアラビアゴム各 2%、オリーブ油1%からなる:pH 5.5)を用いて培養すれば、 ケトエステルや芳香族ケトアミドを還元して、対応するアルコールに高い効率で変換し、またグリシンやアラニンなどのアミノ酸の付加反応も行うとされ、生体触媒としての応用に興味が持たれている[38]。
分布
日本では比較的普通に見出されるが、その分布は宿主の分布とおおむね一致していると考えられ、千葉県より東方からの記録は知られていない[27][39][40]。また、日本海側では石川県以西で採集されているが、兼六園の園内における発生は、外部から園内に持ち込まれて植栽された樹木に、クモタケの菌糸あるいは分生子、もしくはすでにクモタケに感染したキシノウエトタテグモが随伴していた結果ではないかとの推定もある。南にかけては、奄美大島[41]および沖縄本島[5]における分布も確認されている。
かつては日本の特産種とみなされてきた[42]が、台湾[43]・中国[12][13][24]・スリランカ [44]・北アメリカ(フロリダ [45])・コスタリカ[46]・ブラジル[32][47]・アルゼンチン [8]・パナマ[30]およびソロモン群島[7][48] ・ガーナ[45]などからも見出されている。
分類学上の位置づけ
小石川植物園(東京都文京区)で見出された標本をもとに、Isaria属の新しい未知種ではないかと考えられた[49]が、結局はIsaria arachnophila Ditmar(ドイツ産[50])と同定・報告された[19]。しかし後者は徘徊性のクモ類を宿主とするとともに子実体が非常に小型かつ繊細であることから、日本産のクモタケとはまったく別の菌であると改めて判断され、新たにIsaria atypicolaとして新種記載された[20][51]。比較的発達した分生子柄束を形成する点で共通する別属 Spicariaに移し、S. atypicola (Yasuda) Petch の学名を用いる意見[52]もあったが、Isariaに置く処置が伝統的に続いていた。
その後、分生子形成細胞(フィアライド)が分生子柄の先端のみに束生することなく、分生子柄の中途からも輪生する点を重視し、Isaria属からNomuraea属に移された[45]が、文献によってはいまだにIsariaが属名として用いられているものも多く、混乱を招いている。さらに、21世紀に入って分子系統解析が行われた結果からは、Nomuraeaとも異なるグループに分類されるべきであることが示唆されている[48]。
日本では、科レベルの所属について未詳とする文献もある[53][54]が、テレオモルフとしてはOphiocordyceps属に所属するものであることが示唆されている[55][56]点から、この属が所属するオフィオコルジケプス科(Ophiocordycipitaceae)に置くのが妥当である[57]。
類似種
外観がやや類似するものにツチカメムシタケ(Isaria macrocyticola Y. Kobay. )がある。クモタケに似て、円頭状円筒形・淡紫色で粉状の頭部と白く細い柄とからなるが、分生子柄は主軸の周囲に輪生することなく、主軸の先端からほうき状の束をなして生じること・分生子がほぼ球形であること・クモ類ではなく、ツチカメムシ(Macroscytus japonensis)の成虫を宿主とすることなどにおいて異なる[1]。
顕著な子実体を形成することなく、宿主の体表面に直接に分生子形成構造を生じた場合、その肉眼的特徴はNomuraea rileyi (Farl.) Samson(現在では、分子系統学的解析の結果に基づいてMetarhizium rileyi (Farl.) Kepler, Rehner & Humber の学名が正しいとされている)のそれに酷似するが、後者はチョウ目の幼虫を宿主とすることで異なる[45]。またNomuraea anemonoides Hockingはオーストラリアの土壌中から純粋分離を経て記載された種で、分生子が緑色を帯びるとともに類球形をなす点でクモタケと区別することができる[58]というが、これらの特徴は、培養に用いる培地の組成その他によって変化し得るという示唆もある[32]。Nomuraea anemonoides は、通常は生きた節足動物に感染してこれを斃すことはなく、腐生的に生活しているらしい[45]。
和名・学名その他
和名は、日本産の節足動物寄生菌のうち、クモ類を宿主として最初に記録されたことから命名されたものである[19]。
属名のNomuraeaは、属のタイプ種である緑僵病菌の資料標本をフランスへと送付した、日本の養蚕学・蚕体病理学の権威である野村彦太郎(東京蠶業講習所)の名を記念したもの[59]であり、旧来の属名Isariaは「繊維」の意味である[60]。種小名のatypicolaは「ジグモ属(Atypus)に発生する」の意であるが、前述のとおり本種の宿主はジグモではなくトタテグモ類であり、実態を反映した名とはなっていない。
なお、中国語では「紫色野村菌」と呼称される[12]。
保護状況
京都府においては要注目種(DD:情報不足)として、また埼玉県では絶滅危惧Ⅱ類(VU)[61]、三重県では絶滅危惧IB類としてレッドデータブックに加えられているが、具体的な保護策は特に講じられていない。
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