「コンゴ民主共和国の世界遺産」の版間の差分
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[[ファイル:Gazelle_in_Virunga_National_Park.jpg|thumb|ヴィルンガ国立公園で撮影された[[ガゼル]]]] |
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'''コンゴ民主共和国の世界遺産'''(コンゴみんしゅきょうわこくのせかいいさん)は[[国際連合教育科学文化機関|ユネスコ]]の[[世界遺産]]に登録されている[[コンゴ民主共和国]]の文化・自然遺産の一覧。 |
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[[国際連合教育科学文化機関|ユネスコ]]の[[世界遺産]]リストに登録されている'''コンゴ民主共和国の世界遺産'''(コンゴみんしゅきょうわこくのせかいいさん)は5件あり、いずれも[[自然遺産 (世界遺産)|自然遺産]]である。[[コンゴ民主共和国]]は[[アフリカ大陸]]で2番目に大きな国土を持ち、[[固有種]]や[[絶滅危惧種]]も多く生息する貴重な[[生態系]]が多く残っていることもあって、自然遺産の保有件数はアフリカでは1位である<ref group = "注釈">これに次ぐのが[[タンザニア]]と[[南アフリカ共和国]]で各4件である(いずれの国も[[複合遺産 (世界遺産)|]]を1件含む)。</ref>。しかし、近隣諸国の武装勢力の流入も含む政情の不安定さや財政基盤の弱さ、それらによる密猟や違法な森林伐採・資源盗掘などへの対応の不十分さといった問題があり、全ての世界遺産が「[[危機にさらされている世界遺産]]」(危機遺産)に登録されている。1か国に存在する危機遺産の数は[[シリアの世界遺産]](6件)についで多い(データはいずれも2013年の第37回[[世界遺産委員会]]終了時点)。 |
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== 総説 == |
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コンゴ民主共和国の世界遺産は5件全てが自然遺産であるが、その全てが「[[危機にさらされている世界遺産]]」(危機遺産)に登録されているという他に例を見ない状況となっている(2006年の第30回世界遺産委員会終了時点)。 |
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コンゴ民主共和国の[[世界遺産条約]]批准は[[1974年]][[9月23日]]のことであった<ref name = SP>[http://whc.unesco.org/en/statesparties/cd Democratic Republic of the Congo - World Heritage Centre]</ref>(当時の国名はザイール共和国<ref group = "注釈">本記事では便宜上「ザイール共和国」時代(1971年 - 1997年)の国名も「コンゴ民主共和国」で統一する。</ref>)。1980年から1987年には[[世界遺産委員会]]の委員国を務めていた<ref name = SP />。 |
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コンゴ民主共和国内には[[ヒガシローランドゴリラ]]、[[ボノボ]]、[[コンゴクジャク]]、[[オカピ]]などの固有種が棲息し、[[キタシロサイ]]や[[コンゴキリン]]の希少な棲息地域も含んでいる<ref name = Debonnet_p22>デボネ (2007) p.22</ref>。こうしたことから、自然遺産への推薦が優先的に行われてきた。世界遺産リストは1978年に12件が登録されたところから始まったが、その翌年にはコンゴ民主共和国初の世界遺産として[[ヴィルンガ国立公園]]が登録されている。ヴィルンガ国立公園はコンゴ経済が比較的安定していた1970年代には多くの観光収入を稼ぎ出しており、当時のコンゴ民主共和国の財政収入の約3割はそこからのものだったといわれている<ref>米川 (2010) p.136</ref>。 |
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1980年にはさらに[[ガランバ国立公園]]、[[カフジ=ビエガ国立公園]]が登録されたが、前者は1984年に[[危機にさらされている世界遺産|危機遺産]]リストに登録された<ref>[http://whc.unesco.org/en/decisions/1229 08COM X.26-27 : Inscriptions on the List of World Heritage in Danger](2013年9月1日閲覧)</ref>。同じ1984年には[[サロンガ国立公園]]が世界遺産リストに登録されたが、同時に推薦されていた{{仮リンク|マイコ国立公園|en|Maiko National Park}}と{{仮リンク|クンデルング国立公園|fr|Parc national de Kundelungu}}は「[[世界遺産#世界遺産委員会の決議|不登録]]」の決議が下された<ref>[http://whc.unesco.org/en/decisions/3935 08COM IX.C : Not Inscribed: Maiko National Park (Zaire)], [http://whc.unesco.org/en/decisions/3936 08COM IX.C : Not Inscribed: Kundelungu National Park (Zaire)] (いずれも2013年9月1日閲覧)</ref>。 |
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ガランバ国立公園は1992年に一度は危機遺産リストから除外されたものの<ref>[http://whc.unesco.org/en/decisions/1249 16COM X.E : Removed from the World Heritage List in Danger: Garamba National Park (Zaire)](2013年9月1日閲覧)</ref>、1996年に再び危機遺産リストに加えられた<ref>[http://whc.unesco.org/en/decisions/2966 20COM VIII.A.4 : Properties Inscribed on the List of World Heritage in Danger](2013年9月1日閲覧)</ref>。その2年前にはヴィルンガ国立公園も危機遺産リストに加えられており<ref>[http://whc.unesco.org/en/decisions/3204 18COM XI : Inscription on the List of World Heritage in Danger: Virunga National Park (Zaire)](2013年9月1日閲覧)</ref>、1997年にはカフジ=ビエガ国立公園も危機遺産リスト入りした<ref name = Danger97>[http://whc.unesco.org/en/decisions/2838 21COM VIII.A.4 : Properties included on the List of World Heritage in Danger](2013年9月1日閲覧)</ref>。 |
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{{Location map+|コンゴ民主共和国|width=300|float=right|caption=コンゴ民主共和国の世界遺産<ref group = "注釈">位置情報は世界遺産センターが示している緯度・経度を利用した。</ref>|places= |
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{{Location map~|コンゴ民主共和国|lat_deg=0|lat_min=55|lon_deg=29|lon_min=10|position=bottom|background=#FFF|label=Virunga NP}} |
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{{Location map~|コンゴ民主共和国|lat_deg=4|lat_min=0|lon_deg=29|lon_min=5|position=left|background=#FFF|label=Garamba NP}} |
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{{Location map~|コンゴ民主共和国|lat_deg=-2|lat_min=30|lon_deg=28|lon_min=45|position=bottom|background=#FFF|label=Kahuzi-Biega NP}} |
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{{Location map~|コンゴ民主共和国|lat_deg=-2|lat_min=0|lon_deg=21|lon_min=00|position=left|background=#FFF|label=Salonga NP}} |
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{{Location map~|コンゴ民主共和国|lat_deg=2|lat_min=0|lon_deg=28|lon_min=30|position=left|background=#FFF|label=Okapi WR}} |
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1994年以降の相次ぐ危機遺産リスト入りは隣国[[ルワンダ紛争|ルワンダの紛争]]が影響しており<ref name = Debonnet_p22 />、近隣諸国の武装勢力の流入などによって[[第一次コンゴ戦争]](1996年)、[[第二次コンゴ戦争]](1998年)が勃発すると、大量の[[難民]]の発生と相俟って保護環境はさらに悪化した。これらの紛争の主戦場は[[ウガンダ]]や[[ルワンダ]]の国境に近いコンゴ北東部であり、後述するように[[サロンガ国立公園]]以外の世界遺産はすべてその地域に存在している。[[世界遺産基金]]の助成を受けて推薦にこぎつけ、1996年に登録された[[オカピ野生生物保護区]]もコンゴ北東部に存在しており、登録の翌年には危機遺産リスト入りした<ref name = Danger97 />。 |
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地域紛争などによる混乱は、公園監視員の殺傷事件といった直接的脅威だけでなく、[[国立公園]]設定の問題点も浮き彫りにした。たとえば、[[カフジ=ビエガ国立公園]]の場合、国立公園が設定された結果、地域住民が国有化された敷地から追い出されてしまっていた。こうした経緯で政府の対応に不満を持っていた人々は、混乱によって監視体制がまともに機能しなくなると、自然資源の保護よりも収奪を優先したのである<ref>山極 (2006) pp.75-76</ref>。 |
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コンゴ北東部は森林資源も地下資源も豊かなことが、かえって情勢の不安定化に拍車をかけている。コンゴ北東部に多く茂る熱帯雨林では、地域の主要なエネルギー源のひとつとして需要がある[[木炭]]を作るために、不法な伐採を行う者たちが後を絶たない。隣国ルワンダが自国内の木を使った木炭生産を禁じていることも、こうした傾向に影響している<ref>米川 (2010) pp.142-143</ref>。また、地下資源では、携帯電話などの電子機器に使用される[[レアメタル]]の一種、[[コルタン]]が採掘できる上、[[鉛]]の代替品として需要が高まった[[錫]]の採掘地でもある<ref>米川 (2010) pp.140-141</ref>。 |
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1997年時点で危機遺産に登録された4件はいずれもコンゴ民主共和国北東部にあったのに対し、[[サロンガ国立公園]]は国内中央部に位置し、地域紛争の影響を比較的受けづらい状況にあった<ref>「1999年第23回世界遺産委員会会議より」(日本ユネスコ協会連盟『世界遺産年報2000』pp.51-52)</ref>。しかし、サロンガ国立公園も密猟や住宅建設による保護環境の悪化を理由として1999年に危機遺産に登録され、国内の世界遺産がすべて危機遺産リストに登録されたのである。 |
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このとき、世界遺産センターは各種[[非政府組織|NGO]]とも連携しつつ、保護を支援し続けていくことを決定し、{{仮リンク|国際連合財団|en|United Nation Foundation}}や[[ベルギー]](コンゴ民主共和国の旧宗主国)からの資金などで、積極的な保護・監視活動に乗り出した<ref name = Debonnet_p25>デボネ (2007) p.25</ref>。活動資金からは、給与未払いの中で危険な監視活動に当たっていた現地の公園監視員の給与や新装備の費用が拠出された<ref name = Debonnet_p25 />。あわせて[[欧州宇宙機関]]と連携し、[[人工衛星]]から植生の状況を監視することも始めた<ref>松浦 (2008) pp.210,212</ref>。 |
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また、ユネスコが前面に出て積極的に国際社会でアピールするとともに、[[世界遺産条約]]を引き合いに出してコンゴ民主共和国の政治家や軍当局、さらには紛争当事者らとの交渉を重ねた<ref name = Debonnet_p25 />。一連の活動は、世界遺産条約を前面に出して保護を要請する外交(「保護外交」)の中では、先駆的なものと位置づけられており、それも含む諸活動は一定の成果を上げたと評価はされている<ref>デボネ (2007) pp.25-26</ref>。また、地域住民の間に自然保護の重要性を広く認識してもらうべく、草の根の活動を続けるNGOもあり、地域住民主体のNGOも設立されている<ref>山極 (2006) pp.96-97</ref>。 |
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しかし、2004年に[[ジョゼフ・カビラ]]大統領に対し、ユネスコ事務局長[[松浦晃一郎]]が直接会談の場で保護の重要性を指摘した後も厳しい状況に変わりはなく、2007年には[[ヴィルンガ国立公園]]内のマウンテンゴリラ7頭が、公園管理者への見せしめを目的として密猟者に殺害される事件も起きた<ref name = Matsuura>松浦 (2008) p.212</ref>。この年に、かつて世界遺産リストからの抹消が議論されたこともあるガランバ国立公園も含め<ref>日本ユネスコ協会連盟 (2007) p.20</ref>、5件すべてが危機遺産のまま「[[世界遺産#保全状況の調査|強化モニタリング]]」(監視強化)の指定も受けた<ref>古田 (2012) pp.44-52</ref>。そのなかで、オカピ野生生物保護区については、徐々に保全状況に改善が見られ、一時は危機遺産リストからの除去の可能性も見えていたが、2012年に武装勢力による殺害・破壊事件が起こり、それまでの現地関係者やNGOの努力を台無しにする形で、状況はむしろ悪化してしまった<ref>米田 (2013) p.23</ref>。 |
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[[世界遺産基金]]からは1979年から2012年までの間に、保護・管理やスタッフの教育・装備品の調達などに、計41回、総額1,012,550[[アメリカ合衆国ドル|USD]]が拠出された<ref>[http://whc.unesco.org/en/statesparties/cd/assistance/ Democratic Republic of the Congo (assistance) - UNESCO World Heritage Centre](2013年9月8日閲覧)</ref>。 |
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== 文化遺産 == |
== 文化遺産 == |
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2013年時点では文化遺産の登録は1件もない。 |
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なし |
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== 自然遺産 == |
== 自然遺産 == |
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[[ファイル:DCongoNumbered.png|thumb|行政区画。本文中の番号はこの地図に対応]] |
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* [[ヴィルンガ国立公園]] -(1979年) |
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自然遺産は以下で見る5件の国立公園や自然保護区であり、前述の通り、いずれも危機遺産リストにも登録されている。11州制の区分をもとに地域別に見ると<ref group = "注釈">[[コンゴ民主共和国の行政区画]]は11州制から25州制への移行が予定されているが、ユネスコ世界遺産センターの公式サイトではまだ11州制に基づいて表記されている(2013年9月1日時点。後述するように例外が1件ある)。この記事では世界遺産センターに従い、11州制で記載する。</ref>、[[東部州 (コンゴ)|東部州]](10) にあるのが[[ガランバ国立公園]]と[[オカピ野生生物保護区]]で、[[ヴィルンガ国立公園]]の一部も含まれる。[[北キブ州]] (9) にあるのがヴィルンガ国立公園の残りで、[[南キブ州]] (11) と[[マニエマ州]] (8) には[[カフジ=ビエガ国立公園]]がある。[[サロンガ国立公園]]はそれらから離れて、[[バンドゥンドゥ州]] (1)、[[赤道州 (コンゴ)|赤道州]] (3)、[[西カサイ州]] (4)、[[東カサイ州]] (5)の4州にまたがっている。 |
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* [[ガランバ国立公園]] -(1980年) |
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* [[カフジ=ビエガ国立公園]] -(1980年) |
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サロンガ国立公園を除くと、すべて[[世界遺産#世界遺産登録基準|世界遺産登録基準]]10、つまり絶滅が危惧される野生生物の生息域を含むことを評価する基準が適用されている。ヴィルンガ国立公園はマウンテンゴリラ、カフジ=ビエガ国立公園はヒガシローランドゴリラ、ガランバ国立公園はキタシロサイ、オカピ野生生物保護区はオカピが、それぞれ絶滅の危機に瀕している生物として特筆されている<ref>世界遺産アカデミー (2012) pp.333-335</ref>(なお、この基準が適用されていないサロンガ国立公園にも絶滅危惧種は生息している。後述)。 |
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* [[サロンガ国立公園]] -(1984年) |
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* [[オカピ野生生物保護区]] -(1996年) |
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サロンガ国立公園はもともと一般観光客の立ち入りを認めていなかったが、それ以外の物件は予約が必要な場合もあるにせよ、観光は可能だった<ref>中川ほか (1999) pp.171, 173, 175, 177, 179</ref><ref>『21世紀世界遺産の旅』[[小学館]]、2007年、pp.300-301</ref>。しかし、それらの世界遺産が存在している東部州、北キブ州、南キブ州では[[ルワンダ解放民主軍]](ルワンダの反政府勢力)や[[神の抵抗軍]](ウガンダの反政府勢力)などによる略奪・暴力、コンゴ民主共和国軍と国軍離脱兵士の対立などの影響が顕著であり、日本の[[外務省]]は退避勧告を出している<ref>[http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo.asp?id=103 海外安全ホームページ - コンゴ民主共和国](2013年9月1日閲覧)</ref>。 |
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{{-}} |
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=== ヴィルンガ国立公園 === |
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[[ファイル:Virunga_01.jpg|thumb|ヴィルンガ国立公園]] |
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[[ファイル:Virunga_Mountain_Gorilla_.jpg|thumb|国立公園内のマウンテンゴリラ]] |
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{{Main|ヴィルンガ国立公園}} |
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ヴィルンガ国立公園は[[東部州 (コンゴ)|東部州]]と[[北キブ州]]にまたがる面積8,000km<sup>2</sup>の[[国立公園]]である<ref>[http://whc.unesco.org/en/list/63 Virunga National Park - World Heritage Centre](2013年9月1日閲覧)</ref>。[[ヴィルンガ山地]]周辺に位置し、コンゴ民主共和国の国立公園の中では最古の歴史を持つ<ref>中川ほか (1999) p.168</ref>。世界遺産登録は1979年で、1996年には[[ラムサール条約]]登録地となった<ref>UNEP-WCMC (2011), ''Virunga National Park (World Heritage Sheet)'', p.2</ref>。 |
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前身は1925年に設立され、1929年に大幅拡大されたアルバート国立公園である。この国立公園は現在ではヴィルンガ国立公園、[[ルワンダ]]の{{仮リンク|火山国立公園|en|Volcanoes National Park}}、[[ウガンダ]]の{{仮リンク|ムガヒンガ・ゴリラ国立公園|en|Mgahinga Gorilla National Park}}に分割されている<ref>ユネスコ世界遺産センター (1997) p.97</ref>。ウガンダの国立公園名に表れているように、もともとはゴリラの保護を目的とした国立公園で、ヴィルンガ国立公園には[[マウンテンゴリラ]]の全世界の生息数(約650頭)の半数ほどが棲んでいる<ref>ユネスコ世界遺産センター (1997) p.100</ref>。また、[[エドワード湖]]周辺には[[カバ]]が多く生息しており、世界最大のカバ繁殖地とされている<ref>中川ほか (1999) p.169</ref>。ほかの[[哺乳類]]には[[アフリカゾウ]]、[[アフリカスイギュウ]]、[[ウォーターバック]]、[[オカピ]]、[[ライオン]]、[[ヒョウ]]、[[ボンゴ]]、[[チンパンジー]]などがおり<ref>ユネスコ世界遺産センター (1997) pp.97, 100</ref>、ラムサール条約に登録されているように、[[カンムリヅル]]、[[コウノトリ]]、[[ペリカン]]をはじめ<ref>中川ほか (1999) p.170</ref>、[[絶滅危惧種]]や[[危急種]]も含む706種以上の鳥類も確認されている<ref>UNEP-WCMC (2011), ''Virunga National Park (World Heritage Sheet)'', p.5</ref>。 |
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しかし、ルワンダ国境に近いことから[[ルワンダ紛争]]の影響を受け、流入した兵士たちの密猟が横行した。民兵集団[[マイマイ (コンゴ)|マイマイ]]などもカバの大量虐殺を行い<ref>デボネ (2007) p.23</ref>、かつて1986年に33,000頭いたとされるが、2007年には約1000頭にまで激減した<ref name= Debonnet_p22 />。大量に流入した[[難民]]の存在も問題で、その数は100万人とも言われる<ref name = Debonnet_p22 />。彼らは薪を求めて森林を破壊しただけでなく、彼らが出す大量のゴミも環境汚染につながっている<ref>ユネスコ世界遺産センター (1997) p.100</ref>。ヴィルンガ国立公園の危機遺産登録は1994年のことであった。 |
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密猟者たちに対して厳しい取締りが実施されているが、前述のように、その報復行為として2007年にマウンテンゴリラたちが殺害される事件がおきた。また、その翌年にはマウンテンゴリラの生息域にも影響を及ぼす政府軍と反政府勢力の激しい衝突が、北キブ州で起こっている<ref>古田 (2012) p.44</ref>。 |
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=== ガランバ国立公園 === |
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[[ファイル:Garamba_National_Park_overhead.jpg|thumb|ガランバ国立公園]] |
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[[ファイル:Northern_White_Rhinoceros_Angalifu.jpg|thumb|参考 : 飼育されているキタシロサイ(アメリカ・カリフォルニア州)]] |
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{{Main|ガランバ国立公園}} |
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ガランバ国立公園は[[東部州 (コンゴ)|東部州]]に位置する面積5000km<sup>2</sup>の国立公園である<ref>[http://whc.unesco.org/en/list/136 Garamba National Park - World Heritage Centre](2013年9月1日閲覧)</ref><ref group = "注釈">ユネスコ世界遺産センター (1997) では4920km<sup>2</sup>と記載されている。</ref>。1938年に設定された国立公園で<ref>ユネスコ世界遺産センター (1997) p.86</ref>、[[アフリカスイギュウ]]、[[コーブ]]、[[ウォーターバック]]、[[アヌビスヒヒ]]、[[サバンナモンキー]]、[[アフリカゴールデンキャット]]など多様な動物たちが暮らしている<ref>ユネスコ世界遺産センター (1997) pp.92-93</ref>。また、[[危急種]]の[[アフリカゾウ]]の生息地でもある<ref name = UNEP_Garamba_p3 />。 |
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しかし、それらよりも重要なのが[[シロサイ]]の亜種であり[[絶滅寸前]]となっている{{仮リンク|キタシロサイ|en|Northern_White_Rhinoceros}}の存在である。キタシロサイの角はアジア諸国などでの需要が見込めることから密猟が絶えず、時代を追うごとに[[ヘリコプター]]や[[キャノン砲]]など、使用する機材も大掛かりなものになっていった<ref>ユネスコ世界遺産センター (1997) </ref>。1963年に約1300頭いたキタシロサイは、1984年には15頭にまで激減しており<ref>中川ほか (1999) pp.172-173</ref>、その年に危機遺産リストに加えられた。その後、密猟取締りの厳格化などの保護政策が成功し、1990年代に入ると漸増に転じていることが確認された<ref>ユネスコ世界遺産センター (1997) p.89</ref>。35頭に回復したことが確認された1992年に、危機遺産リストから除外された<ref>平山 (2006) p.101</ref>。しかし、その後、難民の流入やウガンダの反政府勢力[[神の抵抗軍]]の侵入によって保護環境が悪化し<ref>古田 (2012) p.46</ref>、公園職員の殺害事件も起こった<ref>日本ユネスコ協会連盟 (2007) p.21</ref>。こうした地域情勢の不安定化などによって、再びキタシロサイの生息数が減少したことから、1996年に危機遺産リストに再登録された。密猟には、流入した[[スーダン]]の反政府勢力も加わっている<ref name = Debonnet_p25 />。 |
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2005年12月の時点でのキタシロサイの生息数は10頭以下となり、その年の[[世界遺産委員会]]では世界遺産リストからの抹消すら議題に上った<ref name = Debonnet_p26 />。ひとまず抹消は見送られたものの、さらにキタシロサイは4頭にまで減少した<ref name = Debonnet_p26>デボネ (2007) p.26</ref>。この間、キタシロサイを国外に移送するという案がユネスコと[[国際自然保護連合]](IUCN) によって提案されたこともあったが、地元の政治家らの反対で頓挫した<ref name = Debonnet_p26 />。その後、最後に確認されていた4頭のキタシロサイすら2006年以降には全く目撃されなくなったため、2010年の段階で[[国際自然保護連合]](IUCN) はまだ生存している可能性を示してはいるものの<ref name = UNEP_Garamba_p3>UNEP-WCMC (2011), ''Garamba National Park (World Heritage Information Sheet)'', p.3</ref>、すでに[[野生絶滅]]の状況に至ってしまったともいわれている<ref>世界遺産アカデミー (2012) p.369</ref>。世界遺産委員会でもおそらく野生絶滅に至ったものとした上で、コンゴ民主共和国に再導入も含む将来的な対応策を求めている<ref>[http://whc.unesco.org/en/decisions/4620 UNESCO World Heritage Centre - Decision - 36COM 7A.6](2013年9月8日閲覧)</ref>。 |
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=== カフジ=ビエガ国立公園 === |
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[[ファイル:KahuziBiegaSign.jpg|thumb|カフジ=ビエガ国立公園]] |
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[[ファイル:Kahuzi_gorilla.jpg|thumb|国立公園内のゴリラ]] |
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{{Main|カフジ=ビエガ国立公園}} |
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カフジ=ビエガ国立公園は[[南キブ州]]と[[マニエマ州]]にまたがる面積6,000km<sup>2</sup>の国立公園である<ref>[http://whc.unesco.org/en/list/137 Kahuzi-Biega National Park - World Heritage Centre](2013年9月1日閲覧)</ref>。1970年に設定され、[[カフジ山]]と[[ビエガ山]]という2つの[[死火山]]を擁することからその名前がついた<ref>ユネスコ世界遺産センター (1997) pp.112-113</ref>。前述のように、国立公園設定にあたって地域内の住民たちを追い出したことが、後の環境悪化の一因となった。 |
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[[アカコロブス]]、[[アビシニアコロブス]]、[[チンパンジー]]、[[フクロウグエノン]]といった[[霊長類]]や、[[アフリカミドリヒロハシ]]、[[オオアフリカスゲヨシキリ]]、[[コンゴゴシキタイヨウチョウ]]などの貴重な[[鳥類]]も生息するが<ref>ユネスコ世界遺産センター (1997) p.114</ref>、この国立公園で特筆されているのは、[[絶滅危惧種]]の[[ヒガシローランドゴリラ]]の存在であり、もともとこの国立公園はヒガシローランドゴリラの棲息地域を守るために設定されたものだった<ref>ユネスコ世界遺産センター (1997) p.112</ref><ref>中川ほか (1999) p.174</ref>。 |
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1980年代には観光ツアーも盛んに行われたが、その結果、人間が持ち込んだ[[はしか]]などの病気や[[十二指腸虫]]などの[[寄生虫]]が原因で、ゴリラの数が減った<ref>ユネスコ世界遺産センター (1997) p.115</ref>。さらに1990年代半ばに[[ルワンダ紛争]]の難民5万人が国立公園の境界域に流入したことで、環境はさらに悪化した。この難民キャンプは[[国際連合難民高等弁務官事務所]]やコンゴ(当時はザイール)政府の協力などで移転されたが<ref>B・フォン・ドロステ (1996) 「世界遺産を未来へ伝えるために - この1年の世界の動き」(日本ユネスコ協会連盟『ユネスコ世界遺産年報1995』pp.30-31)</ref>、情勢の悪化は観光客の減少につながった。1992年には2730人の訪問があったが、1998年には1人も訪れなかったのである<ref name = Debonnet_p25 />。この観光収入の激減は公園管理の財政悪化にも結びついた<ref name = Debonnet_p25 />。こうした状況の中、1997年に危機遺産リストに登録されたが、その時点で管理施設のスタッフはほとんどが逃亡し、施設も荒廃していたという<ref name = Nihon_97_p40 />。ヒガシローランドゴリラの生息数は減少しており、1996年に約250頭だったものが、2000年には約130頭になっていた<ref>山極 (2006) p.75</ref>。 |
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前述の[[コルタン]]の違法な採掘によって、環境悪化の被害を受けている国立公園のひとつでもある<ref>デボネ (2007) pp.23, 25</ref><ref>古田 (2012) p.48</ref>。 |
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=== サロンガ国立公園 === |
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[[ファイル:La rivière Lulilaka, parc national de Salonga, 2005.jpg|thumb|サロンガ国立公園]] |
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{{Main|サロンガ国立公園}} |
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サロンガ国立公園は[[赤道州 (コンゴ)|赤道州]]、[[バンドゥンドゥ州]]、[[東カサイ州]]、[[西カサイ州]]にまたがる面積36,000km<sup>2</sup>の国立公園で<ref>[http://whc.unesco.org/en/list/280 Salonga National Park - World Heritage Centre](2013年9月1日閲覧)</ref>、その面積はアフリカ第2位とされる<ref name = Kodansha_97_p105>ユネスコ世界遺産センター (1997) p.105</ref>。また、熱帯雨林保護区としては世界第2位といわれている<ref name = Debonnet_p22 />。 |
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1970年に設定されたサロンガ国立公園は、研究者以外の立ち入りが禁じられている<ref name = Kodansha_97_p105 />。彼らの主たる研究対象は[[絶滅危惧種]]の[[ボノボ]]である<ref>ユネスコ世界遺産センター (1997) pp.107-108</ref>。ボノボは公園内に約2万頭生息していると見積もられている<ref>ユネスコ世界遺産センター (1997) p.107</ref>。ほかの生物としては、[[準絶滅危惧]]の[[オカピ]]<ref>ユネスコ世界遺産センター (1997) p.102</ref>や[[ボンゴ (偶蹄目)|ボンゴ]]、絶滅危惧種の[[マルミミゾウ]]をはじめ、[[ミズジャコウネコ]]、[[アカコロブス]]、[[アンゴラコロブス]]、[[オオセンザンコウ]]、[[オナガセンザンコウ]]、[[キノボリセンザンコウ]]、[[ヨウム]]などが生息している<ref name = Kodansha_97_p108>ユネスコ世界遺産センター (1997) p.108</ref>。 |
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1984年に世界遺産リストに登録されたが、近隣の人口増加のあおりで耕作地の違法な拡大が見られるほか<ref name = Kodansha_97_p108 />、違法な住宅建設などもみられるようになり、1999年に危機遺産リストに加えられた<ref name = Nihon_07_p21>日本ユネスコ協会連盟 (2007) p.21</ref>。 |
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=== オカピ野生生物保護区 === |
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[[ファイル:Epulu_River_Ituri.jpg|thumb|オカピ野生生物保護区(写真はイトゥリの森とエプル川)]] |
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{{Main|オカピ野生生物保護区}} |
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オカピ野生生物保護区は[[東部州 (コンゴ)|東部州]]に位置する面積13,726.25km<sup>2</sup>の野生生物保護区である<ref>[http://whc.unesco.org/en/list/718 Okapi Wildlife Reserve - World Heritage Centre](2013年9月1日閲覧)</ref>(IUCNカテゴリーでは「国立公園」に分類<ref name = UNEP_Okapi_p2>UNEP-WCMC (2011), ''Okapi Wildlife Reserve (World Heritage Information Sheet)''p.2</ref>)。その名の通り、世界三大珍獣にも挙げられる[[準絶滅危惧]]の[[オカピ]]が群棲している地域で、保護区の設定は1992年<ref name = UNEP_Okapi_p2 />、世界遺産登録は1996年のことである。この物件が世界遺産に登録された時点で、オカピはアフリカ全土に約3万頭棲息していたが、そのうち約6分の1が{{仮リンク|イトゥリの森|en|Ituri Rainforest}}に設定されたこの保護区内で暮らしていた<ref>ユネスコ世界遺産センター (1998) pp.318</ref>。ほかの生物としては、哺乳類52種(うち[[霊長類]]13種)、鳥類376種などが確認されており、稀少なものとしては絶滅危惧種の{{仮リンク|ケナガチンパンジー|en|Eastern chimpanzee}}や{{仮リンク|コンゴモリシャコ|en|Nahan's Patridge}}、危急種の[[マルミミゾウ]]などが挙げられる<ref name = UNEP_Okapi_p3>UNEP-WCMC (2011), ''Okapi Wildlife Reserve (World Heritage Information Sheet)''pp.3-4</ref>。 |
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しかし、イトゥリの森は[[南スーダン]]やウガンダの国境に近く<ref>ユネスコ世界遺産センター (1998) p.320(出典では「スーダン」となっているが、現在の国境区分に従い、本文中では南スーダンに修正)。</ref>、地域紛争の影響で環境が悪化した<ref name = Nihon_07_p21 />。1997年に危機遺産に登録された時点では、公園管理者たちへの給料の未払い、施設や設備の荒廃などが見られた<ref name = Nihon_97_p40>「1997年第21回世界遺産委員会より」(日本ユネスコ協会連盟 (1998) 『ユネスコ世界遺産年報1997-1998』 pp.40-41)</ref>。イトゥリの森は、[[コルタン]]の鉱脈に加え、[[金|金鉱]]が存在することから、それらの違法な採掘が環境をさらに悪化させている<ref>UNEP-WCMC (2011), ''Okapi Wildlife Reserve (World Heritage Information Sheet)''p.1</ref>。前述のように登録時点でオカピの生息数は約5000頭と見積もられていたが、2008年の段階で3000頭ほどに減少していた<ref name = UNEP_Okapi_p3 />。 |
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2012年には[[レンジャー]]などが密猟者たちに襲われ、7人が犠牲となった上、保護事務所も破壊される事件が起こった<ref>古田 (2012) p.52</ref>。前述の通り、これは改善したかに見えた保全状況を巻き戻すものであったと見なされている。 |
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== 複合遺産 == |
== 複合遺産 == |
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2013年時点では[[複合遺産 (世界遺産)|複合遺産]]の登録は1件もない。 |
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なし |
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== 暫定リスト == |
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2013年の第37回[[世界遺産委員会]]終了時点で、[[世界遺産#暫定リスト|世界遺産の暫定リスト]]には3件が登録されている。いずれも1997年に暫定リストに記載された<ref name = SP />。これらはいずれも[[複合遺産 (世界遺産)|複合遺産]]での登録を目指している。 |
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=== ウペンバの窪地 === |
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[[ファイル:Lake_Upemba_STS057-104-62.jpg|thumb|ウペンバの窪地の衛星写真]] |
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ウペンバの窪地 ([[:en:Upemba Depression|Dépression de l'Upemba]]) は[[カタンガ州]]にあり、多くの湖沼をもつ巨大な窪地 ([[:en:Depression (geology)|Depression]]) である。そこには面積11,730km<sup>2</sup>の{{仮リンク|ウペンバ国立公園|fr|Parc national de l'Upemba}}が設定されており、中心部のウペンバ湖周辺には湿地帯が広がっている<ref name = Upemba>竹内 (2012) p.159</ref>。周辺の草原や森林も含めると、生息している生物は1800種を超えると見積もられている<ref name = Upemba />。そして、文化的な側面については、[[石器時代]]から近代に至る[[ルバ族|ルバ人]]の歴史を伝える「サハラの南で最大級の墓所群」が残されている<ref>[http://whc.unesco.org/en/tentativelists/963/ Dépression de l'Upemba - UNESCO World Heritage Centre](2013年9月1日閲覧)</ref>。 |
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=== ディンバとンゴヴォの洞窟群 === |
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ディンバとンゴヴォの洞窟群 (Grottes de Dimba et Ngovo) は[[コンゴ中央州]]<ref group = "注釈">この州のみは世界遺産センターの表記でも25州制に基づいて記載されている。本記事で引き合いに出した11州制の地図の2に対応する。</ref>にあり、18000年前にさかのぼる考古遺跡を含んでいる。[[石器時代]]から[[鉄器時代]]にかけての石器や土器が出土している地域で、時代ごとの生活様式の移行が記録されている<ref>[http://whc.unesco.org/en/tentativelists/961/ Grottes de Dimba et Ngovo - UNESCO World Heritage Centre](2013年9月1日閲覧)</ref>。 |
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=== マトゥピの洞窟群 === |
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マトゥピの洞窟群 (Grottes de Matupi) は、約40000年前にまでさかのぼる東部州の考古遺跡で、世界でも最古級の[[細石器]]が出土している地域である<ref>[http://whc.unesco.org/en/tentativelists/962/ Grottes de Matupi - UNESCO World Heritage Centre](2013年9月1日閲覧)</ref>。 |
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== 過去に登録が見送られた物件 == |
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=== マイコ国立公園 === |
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{{仮リンク|マイコ国立公園|en|Maiko National Park}}は1984年に審議された。世界遺産ビューロー会議は<ref group = "注釈">かつては世界遺産委員会の本審議に先立ち、「ビューロー会議」が世界遺産推薦物件の事前審議をおこなっていた(日本ユネスコ協会連盟 (2002) 『世界遺産年報2002』p.57)。</ref>、この国立公園がアフリカの原生林を対象として高い価値を有していることを認めつつ、コンゴ当局が示していた世界遺産推薦理由と同様の理由で、よりすぐれた自然遺産がすで登録されている上、[[世界遺産#完全性と真正性|完全性]]の基準にも合致しないとして認めなかった<ref name = Maiko>{{pdf|[http://whc.unesco.org/archive/1984/sc-84-conf004-3e.pdf Nomination to the World Heritage List (8<sup>th</sup> Ordinary Session)]}},p.10</ref>。その年の第8回世界遺産委員会の審議でもその判断がそのまま踏襲され、不登録と決議された<ref name = Maiko2>{{pdf|[http://whc.unesco.org/archive/1984/sc-84-conf004-9e.pdf Report of the Rapporteur (8<sup>th</sup> Ordinary Session)]}}p.17</ref>。 |
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=== クンデルング国立公園 === |
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{{仮リンク|クンデルング国立公園|fr|Parc national de Kundelungu}}は1970年に設定された[[カタンガ州]]の国立公園で、[[サバナ]]が広がる高原地帯に多くの草食動物や肉食動物が棲息している<ref name = Kundelungu>竹内 (2012) p.362</ref>。また、国立公園内のロフォイ滝はアフリカ中央部では最大級である<ref name = Kundelungu />。マイコ国立公園とともに1984年に審議された。世界遺産ビューロー会議は、この国立公園が十分に高い価値を持っていることを認めつつも、世界遺産基準に合致しないとした上で完全性についても疑問を呈した<ref name = Maiko />。その年の第8回世界遺産委員会の審議でもその判断が踏襲されたため、不登録と決議された<ref name = Maiko2 />。 |
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== 脚注 == |
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=== 注釈 === |
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{{reflist|group = "注釈"}} |
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=== 出典 === |
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{{reflist}} |
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== 参考文献 == |
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* [[世界遺産アカデミー]]監修 (2012) 『すべてが分かる世界遺産事典・上』[[マイナビ]] |
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* [[竹内啓一]]総編集 (2012) 『世界地名大事典3 中東・アフリカ』[[朝倉書店]] |
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* ギー・デボネ (2007) 「コンゴの野生動物が消えていく」世界遺産年報編集部訳 (日本ユネスコ協会連盟 (2007) pp.22-27) |
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* [[中川武]] [[三宅理一]] [[山田幸正]]監修 (1999) 『世界遺産を旅する (12) エジプト・アフリカ』[[近畿日本ツーリスト]] |
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* [[日本ユネスコ協会連盟]] (2007) 『世界遺産年報2007』[[日経ナショナルジオグラフィック社]] |
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* [[平山郁夫]]監修 (2006) 『SOS世界危機遺産』[[小学館]]〈[[小学館文庫]]〉 |
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* [[古田陽久]] [[古田真美]] (2012) 『世界遺産ガイド - 危機遺産編- 2013改訂版』シンクタンクせとうち総合研究機構 |
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* [[松浦晃一郎]] (2008) 『世界遺産 - ユネスコ事務局長は訴える』[[講談社]] |
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* [[山極寿一]] 「危機にある世界遺産 コンゴの現場で考える」(平山 (2006) pp.74-77) |
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* ユネスコ世界遺産センター監修 (1997) 『ユネスコ世界遺産12 中央・南アフリカ』[[講談社]] |
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* ユネスコ世界遺産センター監修 (1998) 『ユネスコ世界遺産13 新指定』講談社 |
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* [[米川正子]] (2010) 『世界最悪の紛争「コンゴ」 - 平和以外に何でもある国 -』[[創成社]]〈創成社新書〉 |
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* [[米田久美子]] (2013) 「第36回世界遺産委員会における自然遺産」(日本ユネスコ協会連盟『世界遺産年報2013』[[朝日新聞出版]]、p.23) |
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== 関連項目 == |
== 関連項目 == |
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* [[第一次コンゴ戦争]] |
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{{commonscat|World Heritage Sites in the Democratic Republic of Congo}} |
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* [[第二次コンゴ戦争]] |
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* [[世界遺産の一覧 (アフリカ)|世界遺産の一覧]] |
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* [[コルタン#コルタンを巡る問題]] |
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== 外部リンク == |
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* [http://whc.unesco.org/en/statesparties/cd Democratic Republic of the Congo - World Heritage Centre] |
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{{コンゴ民主共和国の世界遺産}} |
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{{アフリカの題材|世界遺産|mode=3}} |
{{アフリカの題材|世界遺産|mode=3}} |
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[[Category:コンゴ民主共和国の世界遺産|*]] |
[[Category:コンゴ民主共和国の世界遺産|*]] |
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[[Category:各国の世界遺産|か こんこみんしゆきようわこくのせかいいさん]] |
[[Category:各国の世界遺産|か こんこみんしゆきようわこくのせかいいさん]] |
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[[fr:Liste du patrimoine mondial en République démocratique du Congo]] |
2013年9月23日 (月) 03:24時点における版
ユネスコの世界遺産リストに登録されているコンゴ民主共和国の世界遺産(コンゴみんしゅきょうわこくのせかいいさん)は5件あり、いずれも自然遺産である。コンゴ民主共和国はアフリカ大陸で2番目に大きな国土を持ち、固有種や絶滅危惧種も多く生息する貴重な生態系が多く残っていることもあって、自然遺産の保有件数はアフリカでは1位である[注釈 1]。しかし、近隣諸国の武装勢力の流入も含む政情の不安定さや財政基盤の弱さ、それらによる密猟や違法な森林伐採・資源盗掘などへの対応の不十分さといった問題があり、全ての世界遺産が「危機にさらされている世界遺産」(危機遺産)に登録されている。1か国に存在する危機遺産の数はシリアの世界遺産(6件)についで多い(データはいずれも2013年の第37回世界遺産委員会終了時点)。
総説
コンゴ民主共和国の世界遺産条約批准は1974年9月23日のことであった[1](当時の国名はザイール共和国[注釈 2])。1980年から1987年には世界遺産委員会の委員国を務めていた[1]。
コンゴ民主共和国内にはヒガシローランドゴリラ、ボノボ、コンゴクジャク、オカピなどの固有種が棲息し、キタシロサイやコンゴキリンの希少な棲息地域も含んでいる[2]。こうしたことから、自然遺産への推薦が優先的に行われてきた。世界遺産リストは1978年に12件が登録されたところから始まったが、その翌年にはコンゴ民主共和国初の世界遺産としてヴィルンガ国立公園が登録されている。ヴィルンガ国立公園はコンゴ経済が比較的安定していた1970年代には多くの観光収入を稼ぎ出しており、当時のコンゴ民主共和国の財政収入の約3割はそこからのものだったといわれている[3]。
1980年にはさらにガランバ国立公園、カフジ=ビエガ国立公園が登録されたが、前者は1984年に危機遺産リストに登録された[4]。同じ1984年にはサロンガ国立公園が世界遺産リストに登録されたが、同時に推薦されていたマイコ国立公園とクンデルング国立公園は「不登録」の決議が下された[5]。
ガランバ国立公園は1992年に一度は危機遺産リストから除外されたものの[6]、1996年に再び危機遺産リストに加えられた[7]。その2年前にはヴィルンガ国立公園も危機遺産リストに加えられており[8]、1997年にはカフジ=ビエガ国立公園も危機遺産リスト入りした[9]。
1994年以降の相次ぐ危機遺産リスト入りは隣国ルワンダの紛争が影響しており[2]、近隣諸国の武装勢力の流入などによって第一次コンゴ戦争(1996年)、第二次コンゴ戦争(1998年)が勃発すると、大量の難民の発生と相俟って保護環境はさらに悪化した。これらの紛争の主戦場はウガンダやルワンダの国境に近いコンゴ北東部であり、後述するようにサロンガ国立公園以外の世界遺産はすべてその地域に存在している。世界遺産基金の助成を受けて推薦にこぎつけ、1996年に登録されたオカピ野生生物保護区もコンゴ北東部に存在しており、登録の翌年には危機遺産リスト入りした[9]。
地域紛争などによる混乱は、公園監視員の殺傷事件といった直接的脅威だけでなく、国立公園設定の問題点も浮き彫りにした。たとえば、カフジ=ビエガ国立公園の場合、国立公園が設定された結果、地域住民が国有化された敷地から追い出されてしまっていた。こうした経緯で政府の対応に不満を持っていた人々は、混乱によって監視体制がまともに機能しなくなると、自然資源の保護よりも収奪を優先したのである[10]。
コンゴ北東部は森林資源も地下資源も豊かなことが、かえって情勢の不安定化に拍車をかけている。コンゴ北東部に多く茂る熱帯雨林では、地域の主要なエネルギー源のひとつとして需要がある木炭を作るために、不法な伐採を行う者たちが後を絶たない。隣国ルワンダが自国内の木を使った木炭生産を禁じていることも、こうした傾向に影響している[11]。また、地下資源では、携帯電話などの電子機器に使用されるレアメタルの一種、コルタンが採掘できる上、鉛の代替品として需要が高まった錫の採掘地でもある[12]。
1997年時点で危機遺産に登録された4件はいずれもコンゴ民主共和国北東部にあったのに対し、サロンガ国立公園は国内中央部に位置し、地域紛争の影響を比較的受けづらい状況にあった[13]。しかし、サロンガ国立公園も密猟や住宅建設による保護環境の悪化を理由として1999年に危機遺産に登録され、国内の世界遺産がすべて危機遺産リストに登録されたのである。
このとき、世界遺産センターは各種NGOとも連携しつつ、保護を支援し続けていくことを決定し、国際連合財団やベルギー(コンゴ民主共和国の旧宗主国)からの資金などで、積極的な保護・監視活動に乗り出した[14]。活動資金からは、給与未払いの中で危険な監視活動に当たっていた現地の公園監視員の給与や新装備の費用が拠出された[14]。あわせて欧州宇宙機関と連携し、人工衛星から植生の状況を監視することも始めた[15]。
また、ユネスコが前面に出て積極的に国際社会でアピールするとともに、世界遺産条約を引き合いに出してコンゴ民主共和国の政治家や軍当局、さらには紛争当事者らとの交渉を重ねた[14]。一連の活動は、世界遺産条約を前面に出して保護を要請する外交(「保護外交」)の中では、先駆的なものと位置づけられており、それも含む諸活動は一定の成果を上げたと評価はされている[16]。また、地域住民の間に自然保護の重要性を広く認識してもらうべく、草の根の活動を続けるNGOもあり、地域住民主体のNGOも設立されている[17]。
しかし、2004年にジョゼフ・カビラ大統領に対し、ユネスコ事務局長松浦晃一郎が直接会談の場で保護の重要性を指摘した後も厳しい状況に変わりはなく、2007年にはヴィルンガ国立公園内のマウンテンゴリラ7頭が、公園管理者への見せしめを目的として密猟者に殺害される事件も起きた[18]。この年に、かつて世界遺産リストからの抹消が議論されたこともあるガランバ国立公園も含め[19]、5件すべてが危機遺産のまま「強化モニタリング」(監視強化)の指定も受けた[20]。そのなかで、オカピ野生生物保護区については、徐々に保全状況に改善が見られ、一時は危機遺産リストからの除去の可能性も見えていたが、2012年に武装勢力による殺害・破壊事件が起こり、それまでの現地関係者やNGOの努力を台無しにする形で、状況はむしろ悪化してしまった[21]。
世界遺産基金からは1979年から2012年までの間に、保護・管理やスタッフの教育・装備品の調達などに、計41回、総額1,012,550USDが拠出された[22]。
文化遺産
2013年時点では文化遺産の登録は1件もない。
自然遺産
自然遺産は以下で見る5件の国立公園や自然保護区であり、前述の通り、いずれも危機遺産リストにも登録されている。11州制の区分をもとに地域別に見ると[注釈 4]、東部州(10) にあるのがガランバ国立公園とオカピ野生生物保護区で、ヴィルンガ国立公園の一部も含まれる。北キブ州 (9) にあるのがヴィルンガ国立公園の残りで、南キブ州 (11) とマニエマ州 (8) にはカフジ=ビエガ国立公園がある。サロンガ国立公園はそれらから離れて、バンドゥンドゥ州 (1)、赤道州 (3)、西カサイ州 (4)、東カサイ州 (5)の4州にまたがっている。
サロンガ国立公園を除くと、すべて世界遺産登録基準10、つまり絶滅が危惧される野生生物の生息域を含むことを評価する基準が適用されている。ヴィルンガ国立公園はマウンテンゴリラ、カフジ=ビエガ国立公園はヒガシローランドゴリラ、ガランバ国立公園はキタシロサイ、オカピ野生生物保護区はオカピが、それぞれ絶滅の危機に瀕している生物として特筆されている[23](なお、この基準が適用されていないサロンガ国立公園にも絶滅危惧種は生息している。後述)。
サロンガ国立公園はもともと一般観光客の立ち入りを認めていなかったが、それ以外の物件は予約が必要な場合もあるにせよ、観光は可能だった[24][25]。しかし、それらの世界遺産が存在している東部州、北キブ州、南キブ州ではルワンダ解放民主軍(ルワンダの反政府勢力)や神の抵抗軍(ウガンダの反政府勢力)などによる略奪・暴力、コンゴ民主共和国軍と国軍離脱兵士の対立などの影響が顕著であり、日本の外務省は退避勧告を出している[26]。
ヴィルンガ国立公園
ヴィルンガ国立公園は東部州と北キブ州にまたがる面積8,000km2の国立公園である[27]。ヴィルンガ山地周辺に位置し、コンゴ民主共和国の国立公園の中では最古の歴史を持つ[28]。世界遺産登録は1979年で、1996年にはラムサール条約登録地となった[29]。
前身は1925年に設立され、1929年に大幅拡大されたアルバート国立公園である。この国立公園は現在ではヴィルンガ国立公園、ルワンダの火山国立公園、ウガンダのムガヒンガ・ゴリラ国立公園に分割されている[30]。ウガンダの国立公園名に表れているように、もともとはゴリラの保護を目的とした国立公園で、ヴィルンガ国立公園にはマウンテンゴリラの全世界の生息数(約650頭)の半数ほどが棲んでいる[31]。また、エドワード湖周辺にはカバが多く生息しており、世界最大のカバ繁殖地とされている[32]。ほかの哺乳類にはアフリカゾウ、アフリカスイギュウ、ウォーターバック、オカピ、ライオン、ヒョウ、ボンゴ、チンパンジーなどがおり[33]、ラムサール条約に登録されているように、カンムリヅル、コウノトリ、ペリカンをはじめ[34]、絶滅危惧種や危急種も含む706種以上の鳥類も確認されている[35]。
しかし、ルワンダ国境に近いことからルワンダ紛争の影響を受け、流入した兵士たちの密猟が横行した。民兵集団マイマイなどもカバの大量虐殺を行い[36]、かつて1986年に33,000頭いたとされるが、2007年には約1000頭にまで激減した[2]。大量に流入した難民の存在も問題で、その数は100万人とも言われる[2]。彼らは薪を求めて森林を破壊しただけでなく、彼らが出す大量のゴミも環境汚染につながっている[37]。ヴィルンガ国立公園の危機遺産登録は1994年のことであった。
密猟者たちに対して厳しい取締りが実施されているが、前述のように、その報復行為として2007年にマウンテンゴリラたちが殺害される事件がおきた。また、その翌年にはマウンテンゴリラの生息域にも影響を及ぼす政府軍と反政府勢力の激しい衝突が、北キブ州で起こっている[38]。
ガランバ国立公園
ガランバ国立公園は東部州に位置する面積5000km2の国立公園である[39][注釈 5]。1938年に設定された国立公園で[40]、アフリカスイギュウ、コーブ、ウォーターバック、アヌビスヒヒ、サバンナモンキー、アフリカゴールデンキャットなど多様な動物たちが暮らしている[41]。また、危急種のアフリカゾウの生息地でもある[42]。
しかし、それらよりも重要なのがシロサイの亜種であり絶滅寸前となっているキタシロサイの存在である。キタシロサイの角はアジア諸国などでの需要が見込めることから密猟が絶えず、時代を追うごとにヘリコプターやキャノン砲など、使用する機材も大掛かりなものになっていった[43]。1963年に約1300頭いたキタシロサイは、1984年には15頭にまで激減しており[44]、その年に危機遺産リストに加えられた。その後、密猟取締りの厳格化などの保護政策が成功し、1990年代に入ると漸増に転じていることが確認された[45]。35頭に回復したことが確認された1992年に、危機遺産リストから除外された[46]。しかし、その後、難民の流入やウガンダの反政府勢力神の抵抗軍の侵入によって保護環境が悪化し[47]、公園職員の殺害事件も起こった[48]。こうした地域情勢の不安定化などによって、再びキタシロサイの生息数が減少したことから、1996年に危機遺産リストに再登録された。密猟には、流入したスーダンの反政府勢力も加わっている[14]。
2005年12月の時点でのキタシロサイの生息数は10頭以下となり、その年の世界遺産委員会では世界遺産リストからの抹消すら議題に上った[49]。ひとまず抹消は見送られたものの、さらにキタシロサイは4頭にまで減少した[49]。この間、キタシロサイを国外に移送するという案がユネスコと国際自然保護連合(IUCN) によって提案されたこともあったが、地元の政治家らの反対で頓挫した[49]。その後、最後に確認されていた4頭のキタシロサイすら2006年以降には全く目撃されなくなったため、2010年の段階で国際自然保護連合(IUCN) はまだ生存している可能性を示してはいるものの[42]、すでに野生絶滅の状況に至ってしまったともいわれている[50]。世界遺産委員会でもおそらく野生絶滅に至ったものとした上で、コンゴ民主共和国に再導入も含む将来的な対応策を求めている[51]。
カフジ=ビエガ国立公園
カフジ=ビエガ国立公園は南キブ州とマニエマ州にまたがる面積6,000km2の国立公園である[52]。1970年に設定され、カフジ山とビエガ山という2つの死火山を擁することからその名前がついた[53]。前述のように、国立公園設定にあたって地域内の住民たちを追い出したことが、後の環境悪化の一因となった。
アカコロブス、アビシニアコロブス、チンパンジー、フクロウグエノンといった霊長類や、アフリカミドリヒロハシ、オオアフリカスゲヨシキリ、コンゴゴシキタイヨウチョウなどの貴重な鳥類も生息するが[54]、この国立公園で特筆されているのは、絶滅危惧種のヒガシローランドゴリラの存在であり、もともとこの国立公園はヒガシローランドゴリラの棲息地域を守るために設定されたものだった[55][56]。
1980年代には観光ツアーも盛んに行われたが、その結果、人間が持ち込んだはしかなどの病気や十二指腸虫などの寄生虫が原因で、ゴリラの数が減った[57]。さらに1990年代半ばにルワンダ紛争の難民5万人が国立公園の境界域に流入したことで、環境はさらに悪化した。この難民キャンプは国際連合難民高等弁務官事務所やコンゴ(当時はザイール)政府の協力などで移転されたが[58]、情勢の悪化は観光客の減少につながった。1992年には2730人の訪問があったが、1998年には1人も訪れなかったのである[14]。この観光収入の激減は公園管理の財政悪化にも結びついた[14]。こうした状況の中、1997年に危機遺産リストに登録されたが、その時点で管理施設のスタッフはほとんどが逃亡し、施設も荒廃していたという[59]。ヒガシローランドゴリラの生息数は減少しており、1996年に約250頭だったものが、2000年には約130頭になっていた[60]。
前述のコルタンの違法な採掘によって、環境悪化の被害を受けている国立公園のひとつでもある[61][62]。
サロンガ国立公園
サロンガ国立公園は赤道州、バンドゥンドゥ州、東カサイ州、西カサイ州にまたがる面積36,000km2の国立公園で[63]、その面積はアフリカ第2位とされる[64]。また、熱帯雨林保護区としては世界第2位といわれている[2]。
1970年に設定されたサロンガ国立公園は、研究者以外の立ち入りが禁じられている[64]。彼らの主たる研究対象は絶滅危惧種のボノボである[65]。ボノボは公園内に約2万頭生息していると見積もられている[66]。ほかの生物としては、準絶滅危惧のオカピ[67]やボンゴ、絶滅危惧種のマルミミゾウをはじめ、ミズジャコウネコ、アカコロブス、アンゴラコロブス、オオセンザンコウ、オナガセンザンコウ、キノボリセンザンコウ、ヨウムなどが生息している[68]。
1984年に世界遺産リストに登録されたが、近隣の人口増加のあおりで耕作地の違法な拡大が見られるほか[68]、違法な住宅建設などもみられるようになり、1999年に危機遺産リストに加えられた[69]。
オカピ野生生物保護区
オカピ野生生物保護区は東部州に位置する面積13,726.25km2の野生生物保護区である[70](IUCNカテゴリーでは「国立公園」に分類[71])。その名の通り、世界三大珍獣にも挙げられる準絶滅危惧のオカピが群棲している地域で、保護区の設定は1992年[71]、世界遺産登録は1996年のことである。この物件が世界遺産に登録された時点で、オカピはアフリカ全土に約3万頭棲息していたが、そのうち約6分の1がイトゥリの森に設定されたこの保護区内で暮らしていた[72]。ほかの生物としては、哺乳類52種(うち霊長類13種)、鳥類376種などが確認されており、稀少なものとしては絶滅危惧種のケナガチンパンジーやコンゴモリシャコ、危急種のマルミミゾウなどが挙げられる[73]。
しかし、イトゥリの森は南スーダンやウガンダの国境に近く[74]、地域紛争の影響で環境が悪化した[69]。1997年に危機遺産に登録された時点では、公園管理者たちへの給料の未払い、施設や設備の荒廃などが見られた[59]。イトゥリの森は、コルタンの鉱脈に加え、金鉱が存在することから、それらの違法な採掘が環境をさらに悪化させている[75]。前述のように登録時点でオカピの生息数は約5000頭と見積もられていたが、2008年の段階で3000頭ほどに減少していた[73]。
2012年にはレンジャーなどが密猟者たちに襲われ、7人が犠牲となった上、保護事務所も破壊される事件が起こった[76]。前述の通り、これは改善したかに見えた保全状況を巻き戻すものであったと見なされている。
複合遺産
2013年時点では複合遺産の登録は1件もない。
暫定リスト
2013年の第37回世界遺産委員会終了時点で、世界遺産の暫定リストには3件が登録されている。いずれも1997年に暫定リストに記載された[1]。これらはいずれも複合遺産での登録を目指している。
ウペンバの窪地
ウペンバの窪地 (Dépression de l'Upemba) はカタンガ州にあり、多くの湖沼をもつ巨大な窪地 (Depression) である。そこには面積11,730km2のウペンバ国立公園が設定されており、中心部のウペンバ湖周辺には湿地帯が広がっている[77]。周辺の草原や森林も含めると、生息している生物は1800種を超えると見積もられている[77]。そして、文化的な側面については、石器時代から近代に至るルバ人の歴史を伝える「サハラの南で最大級の墓所群」が残されている[78]。
ディンバとンゴヴォの洞窟群
ディンバとンゴヴォの洞窟群 (Grottes de Dimba et Ngovo) はコンゴ中央州[注釈 6]にあり、18000年前にさかのぼる考古遺跡を含んでいる。石器時代から鉄器時代にかけての石器や土器が出土している地域で、時代ごとの生活様式の移行が記録されている[79]。
マトゥピの洞窟群
マトゥピの洞窟群 (Grottes de Matupi) は、約40000年前にまでさかのぼる東部州の考古遺跡で、世界でも最古級の細石器が出土している地域である[80]。
過去に登録が見送られた物件
マイコ国立公園
マイコ国立公園は1984年に審議された。世界遺産ビューロー会議は[注釈 7]、この国立公園がアフリカの原生林を対象として高い価値を有していることを認めつつ、コンゴ当局が示していた世界遺産推薦理由と同様の理由で、よりすぐれた自然遺産がすで登録されている上、完全性の基準にも合致しないとして認めなかった[81]。その年の第8回世界遺産委員会の審議でもその判断がそのまま踏襲され、不登録と決議された[82]。
クンデルング国立公園
クンデルング国立公園は1970年に設定されたカタンガ州の国立公園で、サバナが広がる高原地帯に多くの草食動物や肉食動物が棲息している[83]。また、国立公園内のロフォイ滝はアフリカ中央部では最大級である[83]。マイコ国立公園とともに1984年に審議された。世界遺産ビューロー会議は、この国立公園が十分に高い価値を持っていることを認めつつも、世界遺産基準に合致しないとした上で完全性についても疑問を呈した[81]。その年の第8回世界遺産委員会の審議でもその判断が踏襲されたため、不登録と決議された[82]。
脚注
注釈
- ^ これに次ぐのがタンザニアと南アフリカ共和国で各4件である(いずれの国も[[複合遺産 (世界遺産)|]]を1件含む)。
- ^ 本記事では便宜上「ザイール共和国」時代(1971年 - 1997年)の国名も「コンゴ民主共和国」で統一する。
- ^ 位置情報は世界遺産センターが示している緯度・経度を利用した。
- ^ コンゴ民主共和国の行政区画は11州制から25州制への移行が予定されているが、ユネスコ世界遺産センターの公式サイトではまだ11州制に基づいて表記されている(2013年9月1日時点。後述するように例外が1件ある)。この記事では世界遺産センターに従い、11州制で記載する。
- ^ ユネスコ世界遺産センター (1997) では4920km2と記載されている。
- ^ この州のみは世界遺産センターの表記でも25州制に基づいて記載されている。本記事で引き合いに出した11州制の地図の2に対応する。
- ^ かつては世界遺産委員会の本審議に先立ち、「ビューロー会議」が世界遺産推薦物件の事前審議をおこなっていた(日本ユネスコ協会連盟 (2002) 『世界遺産年報2002』p.57)。
出典
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