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'''思考場療法'''(しこうばりょうほう、Thought Field Therapy、'''TFT''')は、アメリカのロジャー・キャラハン博士によって開発された[[心理療法]][[東洋医学]]でいう[[経絡]]の[[経穴]]をたたくことで、精神的症状改善させの。
'''思考場療法'''しこうばりょうほう、Thought Field Therapy、TFT)は、[[アメリカ合衆国|アメリカ]][[心理学者]]ロジャー・キャラハン開発、{{仮リンク|境界科学|en|Fringe science}}的な[[心理療法]]である.<ref name="npr">{{cite news|title = Unorthodox Therapy in New Orleans Raises Concern | publisher = [[National Public Radio]] | first = Alix | last = Spiegel | url = http://www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=5309328 | date = 2006-03-29 | accessdate = 2008-12-16}}</ref>。支持者の主張によれば、上半身と[[]]の[[経穴]]を指で「タッピング」することで、多種多様な精神的・身体的不調治療すことができるという。思考場療法セッションはふつう長くても15分ほどで、繰り返して行うことはない<ref name="npr"/>
思考場療法では、感情的混乱の原因が不幸な出来事そのものにあるとは捉えず、'''パータベーション'''(perturbation)と呼ぶ「精神的動揺の原因」の存在を想定している。
患者が特定のエピソードや事柄を思い浮かべると、特定の'''思考場'''(Thought Field)にチューニングされ、そこに存在するパータベーションがネガティブな感情を発生させる。この状態において、ある特定の手順で特定の経穴をたたくことでそのパータベーションを取り除くことが出来るとされている。


TFTの有効性を示す科学的な証拠はなく、[[アメリカ心理学会]]は、TFTは「科学的根拠を欠く」と明言している<ref name="npr"/>。
== 概要 ==

主流派の心理療法家であったキャラハン博士が1980年に、「水をみるとみぞおちがむかつく」という「水[[恐怖症]]」の患者に対し、胃の経絡で最初の経穴である目の下をたたくように指示したところ、水恐怖症が治癒したことからヒントを得て思考場療法は誕生した。
== 理論 ==
その後、[[:en:Applied kinesiology|アプライド・キネシオロジー]](応用運動機能学)や[[鍼]]療法、[[神経言語プログラミング]](NLP)、[[量子力学]]理論等の影響を受け、独特の心理療法として確立した。
キャラハンが1980年に、「水をみるとみぞおちがむかつく」という「水恐怖症」の患者に対し、胃の経絡で最初の経穴である目の下をたたくように指示したところ、水恐怖症が治癒したことからヒントを得て思考場療法は誕生した。彼が自らの治療法を「思考場療法」と名付けたのは、人が感情的問題を伴う事柄や思考について考えているとき、ある「思考場」にチューニングされるのだと考えていたためである。彼は思考場こそ「TFT体系の最も基本的な概念」であると主張し、思考場は「仮想のものだが、説明のための概念を確立するきわめてリアルな土台となる」と述べている<ref>Callahan, R.J. and Callahan, J. (2000). Stop the Nightmares of Trauma. Chapel Hill: Professional Press. p. 143</ref> 。
思考場療法は、[[恐怖症]]、[[怒り]]、[[嗜癖]]、[[トラウマ]]、[[不安]]、[[罪悪感]]、[[悲嘆]]、[[うつ病|うつ]]、[[PTSD]]、[[緊張]]、恥辱、[[嫉妬]]、[[自尊心]]低下など非常に広い範囲の精神的症状を、短期間に治療でき、効果は半永久的とされている。

ただし、厳密な科学的検証がなされておらず、非主流派の心理療法である。
思考場療法では、感情的混乱の原因が不幸な出来事そのものにあるとは捉えず、パータベーション(perturbation)と呼ぶ「精神的動揺の原因」の存在を想定している。すなわち、ある人の思考場の歪み1つ1つが、特定の問題と結びついていて、その問題について考えることで活性化されるのだという。キャラハンは、これらのパータベーションこそがネガティブな感情の根本原因であり、各パータベーションは1つの経穴に対応すると主張している。キャラハンによれば、感情的混乱を取り除くためには、経穴を正確な順序でタッピングしなければならない。彼は、タッピングが[[気]]の流れをよくし、バランスの取れた状態にすると考えている<ref name="TapHeal2001">{{cite book | author = Trubo, Richard; Callahan, Roger | title = Tapping the healer within: using thought field therapy to instantly conquer your fears, anxieties, and emotional distress | publisher = Contemporary Books | location = Chicago, Ill | year = 2001 | pages = | isbn = 0-8092-9880-5 | oclc = | doi = | accessdate = }}</ref>。

キャラハンは、TFTは[[心的外傷後ストレス障害]](PTSD)、[[うつ病]]、[[不安]]、[[依存症]]、[[恐怖症]]を含む幅広い心理的問題を和らげることができる<ref name="npr"/>だけでなく、[[心房細動]]などの身体的問題の治療や予防にも効果があると主張している<ref>[http://www.tftrx.com/ref.php?art_id=101&art_catid=1 TFT Stops Atrial Fibriliation] by Roger Callahan</ref>。1985年に書かれたTFTについての最初の本のなかで、キャラハンは、ある種の恐怖症であれば、最短5分で治療できると豪語している<ref name="5Min_Phobia">{{cite book | author = Callahan, Roger; Roger J., PhD. Stancliffe | title = Five minute phobia cure: Dr. Callahan's treatment for fears, phobias and self-sabotage | publisher = Enterprise Publishing | location = Wilmington | year = 1985 | pages = | isbn = 0-913864-89-7 | oclc = | doi = | accessdate = }}</ref>。

キャラハンは、彼の療法をより発展させたボイステクノロジー(Voice Thechnology、VT)は、ある非公表の「テクノロジー」を用いることで、[[電話]]越しに行うことができると断言している。高度なVTの講習はキャラハンから受けることができる。キャラハンのウェブサイトに掲載されている講習費用は10万ドルである。受講者は、VTの背景にある企業秘密を公開しないという秘密保持契約にサインしなければならない<ref>[http://www.csicop.org/si/2000-07/thought-field-therapy.html Gaudiano & Herbert, 2000]</ref><ref>Pignotti, M. (2004, Fall/Winter). Thought Field Therapy in the media: a critical analysis of one exemplar. The Scientific Review of Mental Health Practice, 3(2) p. 60-66.
</ref><ref>[http://rsw.sagepub.com/cgi/content/abstract/17/3/392 Pignotti, M. (2007)] Thought Field Therapy: A former insider's experience. Research on Social Work Practice, 17(3), 392-407.
</ref>。

== TFTの評価と批判 ==
[[査読]]のある学術誌に発表されたTFTの研究は2つある。1つは[[ベトナム戦争]]の帰還兵で、PTSDのより効果的な治療法を探し求めた人物、{{仮リンク|チャールズ・フィグレー|en|Charles Figley}}による試験的研究である<ref name="Carbonell & Figley 1999">[http://www.fsu.edu/~trauma/promising.html Carbonell & Figley (1999)]</ref>。この研究は4つの新しい治療法を、体系的な臨床的実証(Systematic Clinical Demonstration、SCD)と呼ぶ手法で、6ヶ月の追跡調査によって試験していたもので、各治療法を比較する統計的検定は行われていない。著者らは、「従来の心理療法の研究と違い、SCDは異なる治療法を比較することを意図したものではないので、実証的に妥当な治療法として認めるための基準のうち、一部は満たしているものの、必ずしもそのすべてを満たすものではない。」「残念ながら、被験者の選別とデータ収集に問題があり、本研究は目標を達成できなかった。加えて、手法間の比較は、この研究の性質上不可能であり、この研究はそのような比較をはじめから計画したものではない。」<ref name="Carbonell & Figley 1999"/>と述べている。著者らはまた、PTSDの患者を予備選別しなかったので、なかにはPTSDの診断基準に当てはまらない患者もいたかもしれないとも書いている。著者らは、TFTと他3つの手法の研究が不十分なことを認めた上で、「これらの治療法は、患者がトラウマ的な記憶のもっとも辛い側面を取り除くのに役立つ見込みがあると思われる」と述べ、4つの手法ともにより詳しい研究をするべきだとしている<ref name="Carbonell & Figley 1999"/>。

2つ目は、思考場療法のボイステクノロジー(TFT VT)に関する統制された研究で、査読のある''Scientific Review of Mental Health Practice''誌に発表された<ref>TFT VT, Pignotti, M. (2005c). Thought Field Therapy Voice Technology vs. random meridian point sequences: a single-blind controlled experiment. The Scientific Review of Mental Health Practice, 4(1), 72-81</ref>。この研究では、TFT VTと、ランダムな順序でのタッピングにはまったく差がないことが示され、キャラハンによる、彼の特別なテクノロジーから導き出される正確な順序が重要であるという主張に反する証拠となった<ref>[http://www.srmhp.org/0302/media-watch.html Pignotti, 2005]</ref>。

キャラハンやTFTの支持者たちは、TFTを支持する証拠を多数掲げているが、それらは査読されていない、統制のない事例報告に基づくものである。たとえば、ディーポルドとゴールドシュタインは、トラウマを抱える患者1人の[[脳波]]パターンが、TFTによって変化したことを報告している<ref>Diepold, J. H., & Goldstein, D. (2008). Thought field therapy and QEEG changes in the treatment of trauma: A case study. Traumatology, 15, 85 – 93.</ref>。

[[2001年]]に、''Journal of Clinical Psychology''は、キャラハンの選んだTFTに関する論文5本<ref>[http://www.tftrx.com/ref.php?art_id=99&art_catid=1 Callahan 2001b]</ref><ref>[http://www.tftrx.com/ref.php?art_id=92&art_catid=3 2001c]</ref><ref>Pignotti & Steinberg, 2001</ref><ref>Sakai et al., 2001</ref><ref>Johnson et al., 2001</ref>を「査読なし」に載せるという前例のないことに同意した。査読の代わりに、批判の文章が各論文に並べて掲載された<ref name=McNally>McNally, R.J. (2001). Tertullian’s motto and Callahan’s method. Journal of Clinical Psychology, 57(10) 1171-1174</ref><ref>Kline, J.P. (2001). Heart Rate Variability does not tap putative efficacy of Thought Field Therapy. Journal of Clinical Psychology. 57 (10), 1187-1192.</ref><ref>[http://www.psychology.drexel.edu/papers/herbert-holygrail.pdf Herbert & Gaudiano 2001]</ref>。批判派は、5つの研究それぞれに深刻な欠陥があり、そのために説明不能なものになっていることに同意した。彼らは、成功した事例のみを選び出すことによるバイアス、多種多様な問題を対象にしていること、[[対照実験|対照群]]を適切に用いていないこと、[[プラセボ効果]]・需要特性{{訳語疑問点|date=2011-7}}・[[平均への回帰]]をコントロールできていないこと、評価のための適切な測定値がないこと、有効性の測定値として、心拍変動性以外には主観的障害単位しか利用していないこと、背景を無視して心拍変動性を不適切に用いていること、信憑性のある理論がないことを、欠陥として指摘している。

批判派の1人で、[[ハーバード大学]]で心理学の教授を務めるリチャード・J・マクナリーは、TFTを支持する証拠はないと指摘し、「キャラハンが宿題を終えるまでは、心理学者はTFTにいかなる注意も払う義務はない」と述べている<ref name=McNally/>。心理学者のジョン・クラインは、キャラハンの論文は「根拠のない主張、定義の曖昧な新造語、突拍子もない事例報告の支離滅裂な羅列で、茶番と説明文の境界を曖昧にするようなものだ」と書いた<ref>[http://www.southalabama.edu/psychology/kline/hrvtft.pdf Kline, 2001, p. 1188]</ref>。査読なしに発表された研究の著者の1人は、後に彼女の結論を撤回し、TFTに好意的だったかつての立場を覆した<ref>Pignotti, M. (2005a). Regarding the October 2001 JCLP Special Issue on Thought Field Therapy: Retraction of conclusions in the article “Heart Rate Variability as an outcome measure for Thought Field Therapy in clinical practice.” Journal of Clinical Psychology, 61(3), 361-365.</ref><ref>Pignotti, M. (2005b). Callahan fails to meet the burden of proof for Thought Field Therapy claims: Rejoinder to Callahan. Journal of Clinical Psychology, 61(3), 251-255.</ref>。それ以外にTFTを支持するとして挙げられている研究には、キャラハンのニュースレター''The Thought Field''に挙げられているものと、[[アプライドキネシオロジー]]に関する論文を集めた雑誌の私的アーカイブに発表された、TFTボイステクノロジーについての視聴者参加型ラジオ番組による統制されていない研究がある。ある研究は、代替医療を擁護する信念を持った、編集委員に{{仮リンク|ドーソン・チャーチ|en|Dawson Church}}をはじめとする代替医療支持者を多数擁する雑誌に発表されている<ref>Stone,B. Leyden, L & Bert Fellows, B. (2009). Energy Psychology Treatment for Posttraumatic Stress in Genocide Survivors in a Rwandan Orphanage: A Pilot Investigation. Energy Psychology: Theory, Research and Treatment, 1:1.</ref>。

2006年に行われた、心理学者を対象にした疑わしい治療法についてのアンケート調査の結果が、アメリカ心理学会誌に発表されている。それによれば、アンケート参加者(現場の[[臨床心理学]]者と、学術的な心理学研究者の両方を含む)は、平均して、TFTを「おそらく疑わしい(probably discredited)」と評価している<ref>Norcross, Garofalo & Koocher, 2006</ref>。デビリーは、TFT、[[EFT]]、[[神経言語プログラミング]]を含むパワーセラピーが主張されているような効果を持つという証拠はなく、それらのセラピーは疑似科学の特徴を示すと述べている<ref>Devilly 2005 p.444</ref>。リリエンフェルトらは、疑似科学の顕著な兆候を示す療法の例としてTFTを挙げている。具体的には、査読から逃げていることと、[[境界条件]]がないことがその兆候だという<ref>[http://www.guilford.com/excerpts/lilienfeld.pdf Lilienfeld, SO, Lynn, SJ, Lohr JM (eds) (2003). Science and Pseudoscience in Clinical Psychology. New York: Guilford Press, Chapter 1]</ref>。

臨床心理学者は、効果のない疑似科学的治療法であるTFTが政府機関や社会全体で採用されることを懸念している<ref name="npr"/><ref>[http://www.srmhp.org/0101/raison-detre.html The Scientific Review of Mental Health Practice]</ref>。

== 脚注 ==
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
*[[EFT]]
*[[EFT]]
*[[EMDR]]
*[[EMDR]]
*[[神経言語プログラミング]](NLP)
*[[神経言語プログラミング]]
*[[:en:Applied kinesiology|アプライドキネシオロジー]](AK)
*[[アプライドキネシオロジー]
*[[鍼灸]]
*[[鍼灸]]
*[[心拍変動]](HRV)
*[[心拍変動]]
*[[心理療法]]
*[[心理療法]]


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*[http://www.energypsych.org 総合エネルギー心理学協会(英語)]
*[http://www.energypsych.org 総合エネルギー心理学協会(英語)]
*[http://theamt.com 経絡エネルギー・セラピー協会(英語)]
*[http://theamt.com 経絡エネルギー・セラピー協会(英語)]
* [http://skepdic.com/thoughtfield.html The Skeptic's Dictionary(英語)]


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
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*ロベルタ・テムズ 『タッピング入門』 浅田仁子訳、春秋社、2009年、ISBN 978-4393365045
*ロベルタ・テムズ 『タッピング入門』 浅田仁子訳、春秋社、2009年、ISBN 978-4393365045
*森川綾女 『ツボ打ちTFT療法』、講談社〈講談社+α新書〉、2008年、ISBN 978-4062725446
*森川綾女 『ツボ打ちTFT療法』、講談社〈講談社+α新書〉、2008年、ISBN 978-4062725446
*Callahan, R.J. (1996). The Case of Mary. Traumatology 3(5), Article 5.
*Callahan, R.J. (2001b). The impact of thought field therapy on heart rate variability (HRV). Journal of Clinical Psychology. 57 (10), 1153-1170 ''(Not Peer Reviewed)''.
* Callahan, R.J. (2001c). Raising and lowering heart rate variability: Some clinical findings of Thought Field Therapy. Journal of Clinical Psychology. 57 (10), 1175-1186 ''(Not Peer Reviewed)''.
*Carbonell, J.L. & Figley, C. (1999). A systematic clinical demonstration of promising PTSD treatment approaches. Traumatology, 5(1), Article 4. Available: http://www.fsu.edu/~trauma/promising.html
*Craig, G. (1998) The evolution of EFT from TFTtm. EFT: Emotional Freedom Technique: A Universal Healing Aid. Available: http://www.emofree.com/articles/scien-i.htm
*Craig, G. About Voice Technology. Available: http://www.emofree.com/articles/about.htm
*Devilly, Grant J. Source: Australian and New Zealand Journal of Psychiatry, June 2005, vol. 39, no. 6, pp.&nbsp;437–445(9)
*Gaudiano, B. A., & Herbert, J. D. (2000a, July/August). Can we really tap our problems away?: A critical analysis of Thought Field Therapy. Skeptical Inquirer, 24, 29-36. Available: http://www.csicop.org/si/show/can_we_really_tap_our_problems_away_a_critical_analysis_of_thought_field_th/
* Herbert, J.D. & Gaudiano, B.A. (2001). The search for the holy grail: Heart Rate Variability and Thought Field Therapy. Journal of Clinical Psychology, 57(10), 1207-1214. Available: http://www.psychology.drexel.edu/papers/herbert-holygrail.pdf
*Hooke, W. (1998). A review of Thought Field Therapy. Traumatology, 3(2), Article 3. Available online: http://www.fsu.edu/~trauma/v3i2art3.html .
*Kline, J.P. (2001). Heart Rate Variability does not tap putative efficacy of Thought Field Therapy. Journal of Clinical Psychology. 57 (10), 1187-1192.
*Lilienfeld, SO, Lynn, SJ, Lohr JM (eds) (2003). Science and Pseudoscience in Clinical Psychology. New York: Guilford Press.
*McNally, R.J. (2001). Tertullian’s motto and Callahan’s method. Journal of Clinical Psychology, 57(10) 1171-1174.
*Norcross, J.C., Garofalo, A., Koocher, G.P. (2006). Discredited Psychological Treatments and Tests: A Delphi Poll, Professional Psychology, Research and Practice, 37(5), 515-522.
*Pignotti, M., Steinberg, M., (2001). Heart rate variability as an outcome measure for Thought Field Therapy in clinical practice. Journal of Clinical Psychology, 57(10), 1193-1206.''(Not Peer Reviewed)'' ''The first author published a retraction''.
* Waite, W.L. & Holder, M.D. (2003). Assessment of the Emotional Freedom Technique: An Alternative Treatment for Fear. Scientific Review of Mental Health Practice, 2 (2), 20-26.


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2011年7月23日 (土) 13:40時点における版

思考場療法(しこうばりょうほう、Thought Field Therapy、TFT)は、アメリカ心理学者ロジャー・キャラハンが開発した、境界科学的な心理療法である.[1]。支持者の主張によれば、上半身と経穴を指で「タッピング」することで、多種多様な精神的・身体的不調を治療することができるという。思考場療法のセッションはふつう長くても15分ほどで、繰り返して行うことはない[1]

TFTの有効性を示す科学的な証拠はなく、アメリカ心理学会は、TFTは「科学的根拠を欠く」と明言している[1]

理論

キャラハンが1980年に、「水をみるとみぞおちがむかつく」という「水恐怖症」の患者に対し、胃の経絡で最初の経穴である目の下をたたくように指示したところ、水恐怖症が治癒したことからヒントを得て思考場療法は誕生した。彼が自らの治療法を「思考場療法」と名付けたのは、人が感情的問題を伴う事柄や思考について考えているとき、ある「思考場」にチューニングされるのだと考えていたためである。彼は思考場こそ「TFT体系の最も基本的な概念」であると主張し、思考場は「仮想のものだが、説明のための概念を確立するきわめてリアルな土台となる」と述べている[2]

思考場療法では、感情的混乱の原因が不幸な出来事そのものにあるとは捉えず、パータベーション(perturbation)と呼ぶ「精神的動揺の原因」の存在を想定している。すなわち、ある人の思考場の歪み1つ1つが、特定の問題と結びついていて、その問題について考えることで活性化されるのだという。キャラハンは、これらのパータベーションこそがネガティブな感情の根本原因であり、各パータベーションは1つの経穴に対応すると主張している。キャラハンによれば、感情的混乱を取り除くためには、経穴を正確な順序でタッピングしなければならない。彼は、タッピングがの流れをよくし、バランスの取れた状態にすると考えている[3]

キャラハンは、TFTは心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病不安依存症恐怖症を含む幅広い心理的問題を和らげることができる[1]だけでなく、心房細動などの身体的問題の治療や予防にも効果があると主張している[4]。1985年に書かれたTFTについての最初の本のなかで、キャラハンは、ある種の恐怖症であれば、最短5分で治療できると豪語している[5]

キャラハンは、彼の療法をより発展させたボイステクノロジー(Voice Thechnology、VT)は、ある非公表の「テクノロジー」を用いることで、電話越しに行うことができると断言している。高度なVTの講習はキャラハンから受けることができる。キャラハンのウェブサイトに掲載されている講習費用は10万ドルである。受講者は、VTの背景にある企業秘密を公開しないという秘密保持契約にサインしなければならない[6][7][8]

TFTの評価と批判

査読のある学術誌に発表されたTFTの研究は2つある。1つはベトナム戦争の帰還兵で、PTSDのより効果的な治療法を探し求めた人物、チャールズ・フィグレー英語版による試験的研究である[9]。この研究は4つの新しい治療法を、体系的な臨床的実証(Systematic Clinical Demonstration、SCD)と呼ぶ手法で、6ヶ月の追跡調査によって試験していたもので、各治療法を比較する統計的検定は行われていない。著者らは、「従来の心理療法の研究と違い、SCDは異なる治療法を比較することを意図したものではないので、実証的に妥当な治療法として認めるための基準のうち、一部は満たしているものの、必ずしもそのすべてを満たすものではない。」「残念ながら、被験者の選別とデータ収集に問題があり、本研究は目標を達成できなかった。加えて、手法間の比較は、この研究の性質上不可能であり、この研究はそのような比較をはじめから計画したものではない。」[9]と述べている。著者らはまた、PTSDの患者を予備選別しなかったので、なかにはPTSDの診断基準に当てはまらない患者もいたかもしれないとも書いている。著者らは、TFTと他3つの手法の研究が不十分なことを認めた上で、「これらの治療法は、患者がトラウマ的な記憶のもっとも辛い側面を取り除くのに役立つ見込みがあると思われる」と述べ、4つの手法ともにより詳しい研究をするべきだとしている[9]

2つ目は、思考場療法のボイステクノロジー(TFT VT)に関する統制された研究で、査読のあるScientific Review of Mental Health Practice誌に発表された[10]。この研究では、TFT VTと、ランダムな順序でのタッピングにはまったく差がないことが示され、キャラハンによる、彼の特別なテクノロジーから導き出される正確な順序が重要であるという主張に反する証拠となった[11]

キャラハンやTFTの支持者たちは、TFTを支持する証拠を多数掲げているが、それらは査読されていない、統制のない事例報告に基づくものである。たとえば、ディーポルドとゴールドシュタインは、トラウマを抱える患者1人の脳波パターンが、TFTによって変化したことを報告している[12]

2001年に、Journal of Clinical Psychologyは、キャラハンの選んだTFTに関する論文5本[13][14][15][16][17]を「査読なし」に載せるという前例のないことに同意した。査読の代わりに、批判の文章が各論文に並べて掲載された[18][19][20]。批判派は、5つの研究それぞれに深刻な欠陥があり、そのために説明不能なものになっていることに同意した。彼らは、成功した事例のみを選び出すことによるバイアス、多種多様な問題を対象にしていること、対照群を適切に用いていないこと、プラセボ効果・需要特性[訳語疑問点]平均への回帰をコントロールできていないこと、評価のための適切な測定値がないこと、有効性の測定値として、心拍変動性以外には主観的障害単位しか利用していないこと、背景を無視して心拍変動性を不適切に用いていること、信憑性のある理論がないことを、欠陥として指摘している。

批判派の1人で、ハーバード大学で心理学の教授を務めるリチャード・J・マクナリーは、TFTを支持する証拠はないと指摘し、「キャラハンが宿題を終えるまでは、心理学者はTFTにいかなる注意も払う義務はない」と述べている[18]。心理学者のジョン・クラインは、キャラハンの論文は「根拠のない主張、定義の曖昧な新造語、突拍子もない事例報告の支離滅裂な羅列で、茶番と説明文の境界を曖昧にするようなものだ」と書いた[21]。査読なしに発表された研究の著者の1人は、後に彼女の結論を撤回し、TFTに好意的だったかつての立場を覆した[22][23]。それ以外にTFTを支持するとして挙げられている研究には、キャラハンのニュースレターThe Thought Fieldに挙げられているものと、アプライドキネシオロジーに関する論文を集めた雑誌の私的アーカイブに発表された、TFTボイステクノロジーについての視聴者参加型ラジオ番組による統制されていない研究がある。ある研究は、代替医療を擁護する信念を持った、編集委員にドーソン・チャーチ英語版をはじめとする代替医療支持者を多数擁する雑誌に発表されている[24]

2006年に行われた、心理学者を対象にした疑わしい治療法についてのアンケート調査の結果が、アメリカ心理学会誌に発表されている。それによれば、アンケート参加者(現場の臨床心理学者と、学術的な心理学研究者の両方を含む)は、平均して、TFTを「おそらく疑わしい(probably discredited)」と評価している[25]。デビリーは、TFT、EFT神経言語プログラミングを含むパワーセラピーが主張されているような効果を持つという証拠はなく、それらのセラピーは疑似科学の特徴を示すと述べている[26]。リリエンフェルトらは、疑似科学の顕著な兆候を示す療法の例としてTFTを挙げている。具体的には、査読から逃げていることと、境界条件がないことがその兆候だという[27]

臨床心理学者は、効果のない疑似科学的治療法であるTFTが政府機関や社会全体で採用されることを懸念している[1][28]

脚注

  1. ^ a b c d e Spiegel, Alix (2006年3月29日). “Unorthodox Therapy in New Orleans Raises Concern”. National Public Radio. http://www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=5309328 2008年12月16日閲覧。 
  2. ^ Callahan, R.J. and Callahan, J. (2000). Stop the Nightmares of Trauma. Chapel Hill: Professional Press. p. 143
  3. ^ Trubo, Richard; Callahan, Roger (2001). Tapping the healer within: using thought field therapy to instantly conquer your fears, anxieties, and emotional distress. Chicago, Ill: Contemporary Books. ISBN 0-8092-9880-5 
  4. ^ TFT Stops Atrial Fibriliation by Roger Callahan
  5. ^ Callahan, Roger; Roger J., PhD. Stancliffe (1985). Five minute phobia cure: Dr. Callahan's treatment for fears, phobias and self-sabotage. Wilmington: Enterprise Publishing. ISBN 0-913864-89-7 
  6. ^ Gaudiano & Herbert, 2000
  7. ^ Pignotti, M. (2004, Fall/Winter). Thought Field Therapy in the media: a critical analysis of one exemplar. The Scientific Review of Mental Health Practice, 3(2) p. 60-66.
  8. ^ Pignotti, M. (2007) Thought Field Therapy: A former insider's experience. Research on Social Work Practice, 17(3), 392-407.
  9. ^ a b c Carbonell & Figley (1999)
  10. ^ TFT VT, Pignotti, M. (2005c). Thought Field Therapy Voice Technology vs. random meridian point sequences: a single-blind controlled experiment. The Scientific Review of Mental Health Practice, 4(1), 72-81
  11. ^ Pignotti, 2005
  12. ^ Diepold, J. H., & Goldstein, D. (2008). Thought field therapy and QEEG changes in the treatment of trauma: A case study. Traumatology, 15, 85 – 93.
  13. ^ Callahan 2001b
  14. ^ 2001c
  15. ^ Pignotti & Steinberg, 2001
  16. ^ Sakai et al., 2001
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関連項目

外部リンク

参考文献

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