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「淡水魚」の版間の差分

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[[ファイル:Nihonmedaka.jpg|thumb|250px|[[メダカ]] ''Oryzias latipes'']]
[[ファイル:Nihonmedaka.jpg|thumb|250px|[[メダカ]] ''Oryzias latipes'' ([[メダカ科]])。日本を含めた東アジアに広く分布する、よく知られた淡水魚の1種である<ref name=Tansuigyo426-429>『日本の淡水魚 改訂版』 pp.426-429</ref>]]
'''淡水魚'''(たんすいぎょ)は、[[淡水]]で生活し得る[[魚類]]のこと
'''淡水魚'''(たんすいぎょ、英:[[w:Freshwater fish|Freshwater fish]])は、[[淡水]]で生活し得る[[魚類]]の総称。淡水魚は[[2006年]]の時点でおよそ1万2,000種が知られ、現生の魚類2万8,000種のうち約43%を占めている<ref name=Nelson11-14>『Fishes of the World Fourth Edition』 pp.11-14</ref>


淡水魚が生息する[[河川]]や[[湖沼]]などの[[陸水]]は、[[地球]]上に存在するすべての水のうち0.01%にも満たず、一種あたりの平均体積は[[海水魚]]の約7,500分の1に過ぎない<ref name=Helfman339>『The Diversity of Fishes Second Edition』 p.339</ref>。海水魚よりもはるかに狭い[[生物圏]]で獲得された淡水魚の著しい[[生物多様性]]は、平均水深が浅い淡水域では[[基礎生産]]が非常に高いこと、隔離状態が容易に発生し[[種分化]]が促進されやすいことなど、複雑に絡み合った[[生態学]]的・[[地質学]]的要因によってもたらされたものと考えられている<ref name=Helfman339/>。
を淡水中過ごさなくとも、[[ウナギ]]や[[アユ]]のように一生の一時期を[[海水]]中で過ごすもの、[[ボラ]]や[[スズキ (魚)|スズキ]]など本来[[海水魚]]でも[[汽水]]や[[淡水]]中に侵入するもの淡水魚に含む


== 淡水魚の区分 ==
特に全く淡水域を出ないもの純淡水魚と呼ぶ。現世の魚類は約25,000種と言われるが、淡水魚は10,000であり、種数にして40%に達する。
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[[淡水]]域と[[海水]]域の境界ではさまざまな形での魚類の出入りがあり、「淡水魚」を明確に定義することは難しい<ref name=Iwai53-54>『魚学入門』 pp.53-54</ref>。淡水魚の区分は海水への耐性の程度、あるいは[[生活史 (生物)|生活史]]に占める淡水域の割合を基準にして行われることが多い<ref name=Iwai53-54/>。


活史基づ分類の一例して、[[コイ]]や[[ナマズ]]など淡水中で生涯を送るのを'''純淡水魚'''(一次性淡水魚、Primary)、[[ウナギ]]や[[アユ]]のように一生の一時期を海水中で過ごすものを'''通し回遊魚'''、[[ボラ]]や[[スズキ (魚)|スズキ]]など本来[[海水魚]][[汽水]]であるものが淡水に侵入するものを'''周縁性淡水魚'''(Peripheral)として分けるものがある<ref name=Iwai53-54/>
== 分布との関連 ==

純淡水魚は海水域を通過できないので、淡水で連なった水系から外に出るのが困難でる。人の手による移入を除けば[[河川争奪]]などがない限り他の河川へ移動することはほとんどなく、地域による遺伝的な変異が多い。また、[[琵琶湖]]や[[バイカル湖]]など、いわゆる[[古代湖]]のように淡水域だった歴史が長く、その規模の大きい地域では多くの[[固有種]]が見られる。[[アマゾン川]]の魚の種数は[[大西洋]]全体より多いと言われる。従って、純淡水魚はその分布が広くないものが多い。また、それらの分布は地誌的な影響を強く受ける。淡水魚の[[隔離分布]]には、地誌的な影響を考えなければならない例が多い。たとえばそのもっとも規模が大きい例が[[肺魚]]類で、それぞれ独立の属が南半球のアフリカ、オーストラリア、南アメリカに1属ずつある。これらはこの大陸が[[ゴンドワナ大陸]]として陸続きだったことに起源があると考えられている。
ただし、区分法は研究者による異同が多い。[[メダカ]]・[[カダヤシ]]のように通常は淡水で生活する一方、偶発的に海水域に進出しうるものを'''二次性淡水魚'''と呼ぶが、これを広義の純淡水魚に含める場合と、独立の区分として扱う場合とがある<ref name=Iwai53-54/>。また、[[サケ類]]などの[[回遊魚]]を、周縁性淡水魚に含めることもしばしばある<ref name=Helfman339/>。

== 分布 ==
純淡水魚は海水域を通過できないため、淡水で連なった[[水系]]から外に出るのが困難で、その分布範囲は地誌的な影響を強く受け<ref name=Iwai53-54/>。人の手による移入を除けば[[河川争奪]]などがない限り他の河川へ移動することはほとんどなく、地域による独自の[[種分化]]が多い。[[琵琶湖]]や[[バイカル湖]]など、いわゆる[[古代湖]]のように淡水域だった歴史が長く、その規模の大きい地域では多くの[[固有種]]が見られる。[[アマゾン川]]の魚の種数は[[大西洋]]全体より多いと言われる。

淡水魚の[[隔離分布]]には、地誌的な変化と強く関連付けられるものも多い。[[ハイギョ]]類の分布はその一例で、それぞれ独立の属が[[南半球]]のアフリカ、オーストラリア、南アメリカに1属ずつある。これはこの大陸が[[ゴンドワナ大陸]]として陸続きだったことに起源があると考えられている。

=== 生物地理区に基づく分布 ===
[[ファイル: Ecozones.png|thumb|250px|生物地理区の占める領域
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他の生物群と同様に、[[生物地理区]]に基づく区分は淡水魚の分布を理解するために有用である<ref name=Helfman339-345>『The Diversity of Fishes Second Edition』 pp.339-345</ref>。以下では、[[アルフレッド・ラッセル・ウォレス|ウォレス]]が[[1876年]]に提唱した6つの地理区における淡水魚の分布を概説する。本節では、淡水魚を大きく純淡水魚(一次性淡水魚)・二次性淡水魚・周縁性淡水魚の3種に区分している。

==== 新北区 ====
[[新北区]]は[[メキシコ高原]]以北の[[北アメリカ]]を含む領域である<ref name=Helfman339-345/>。少なくとも14科の純淡水魚が知られ、全体では[[コイ科]]・[[サッカー科]]・[[アメリカナマズ科]]・[[ペルカ科]]・[[サンフィッシュ科]]など約950種が分布する<ref name=Helfman339-345/>。[[南アパラチア山脈]]に由来する[[水系]]には350種余りの淡水魚が生息し、[[温帯]]域としては最も多様性の高い領域となっている<ref name=Helfman339-345/>。

==== 新熱帯区 ====
[[新熱帯区]]には[[南アメリカ]]と[[中央アメリカ]]が含まれ、世界で最も豊富な淡水魚相を抱える領域となっている<ref name=Helfman345-346>『The Diversity of Fishes Second Edition』 pp.345-346</ref>。純淡水魚のみで32科、総種数では4,475種が知られるほか、1,500種超の未記載種が存在するとみられている<ref name=Helfman345-346/>。[[ナマズ目]]の13科と[[カラシン目]]の8科がそれぞれ1,200種を超えるほか、[[デンキウナギ目]]の5科や[[シクリッド科]]([[スズキ目]])などがこの地域を特徴づけるグループとなっている<ref name=Helfman345-346/>。一方、北アメリカで優勢であったコイ科・サッカー科は、南アメリカではまったくみられない<ref name=Helfman345-346/>。

本来は海水魚のグループであったものの一部が、純淡水魚として適応した例が多いことも特徴であり、[[ポタモトリゴン科]](いわゆる[[淡水エイ]])・[[ガマアンコウ科]]・[[ダツ科]]・[[ニベ科]]の一部などが知られる<ref name=Helfman345-346/>。

==== 旧北区 ====
[[旧北区]]は[[ヨーロッパ]]から[[東アジア]]に至る広大な領域であるが、分布する純淡水魚は14科にとどまる<ref name=Helfman346>『The Diversity of Fishes Second Edition』 p.346</ref>。コイ科・[[ドジョウ科]]が多く、ナマズ目魚類は4科、約10種を数えるに過ぎない<ref name=Helfman346/>。他には[[ペルカ科]]・[[カワカマス科]]などが生息し、総計では少なくとも500種が知られている<ref name=Helfman346/>。

==== アフリカ区 ====
アフリカ区([[エチオピア区]])には多様な淡水魚が分布し、27科の純淡水魚を含めた、計47科2,000種が生息している<ref name=Helfman346/>。コイ目・ナマズ目・カラシン目など、[[骨鰾上目]]の仲間がその半数を占める<ref name=Helfman346/>。

==== 東洋区 ====
[[東洋区]]は主に[[インド亜大陸]]と[[東南アジア]]からなり、ウォレスはオーストラリア区との境界を[[ボルネオ島]]と[[バリ島]]の東に引いている([[ウォレス線]])<ref name=Helfman346-347>『The Diversity of Fishes Second Edition』 pp.346-347</ref>。純淡水魚は28科が分布し、そのうち12科はナマズ目に所属する<ref name=Helfman346-347/>。コイ目は4科が知られ、コイ科以外の3科([[ドジョウ科]]・[[ギュリノケイルス科]]・[[タニノボリ科]])は特にこの領域で多様性を示すグループとなっている<ref name=Helfman346-347/>。骨鰾類以外では、[[タイワンドジョウ科]]・[[トゲウナギ科]]・[[キノボリウオ亜目]]の仲間が特徴的である<ref name=Helfman346-347/>。

==== オーストラリア区 ====
[[オーストラリア区]]には[[オーストラリア大陸]]と、[[ニューギニア島]]などウォレス線より東の島嶼域が含まれる<ref name=Helfman347>『The Diversity of Fishes Second Edition』 p.347</ref>。この地域には純淡水魚はわずか2種しか知られておらず、いずれも[[古代魚]]である<ref name=Helfman347/>。他には二次性淡水魚が2科、周縁性淡水魚は[[メラノタエニア科]]・[[トウゴロウイワシ科]]など16科が分布する<ref name=Helfman347/>。


== 人為的影響 ==
== 人為的影響 ==
ただしもっとも人為的攪乱にさらされている区域もある。現在日本では[[アユ]]や[[ニジマス]]などの有用魚種の[[放流]]に伴って、それに混入した他の魚も分布を広げている例があり、野生淡水魚の分布の攪乱が問題になっている。たとえば琵琶湖のコアユを捕獲して他の河川に放流することで、[[オイカワ]][[カワムツ]][[ムギツク]][[オヤニラミ]][[ハス (魚)|ハス]][[ワタカ]]、さらには[[ブルーギル]][[ブラックバス]][[ライギョ]][[ソウギョ]]などもアユに混じって分布を広げている。
現代の多くの地域において淡水魚の分布範囲や生息数は人為的攪乱にさらされている。日本では[[アユ]]や[[ニジマス]]などの有用魚種の[[放流]]に伴って、それに混入した他の魚も分布を広げている例があり、野生淡水魚の分布の攪乱が問題になっている。たとえば琵琶湖のコアユを捕獲して他の河川に放流することで、[[オイカワ]][[カワムツ]][[ムギツク]][[オヤニラミ]][[ハス (魚)|ハス]][[ワタカ]]、さらには[[ブルーギル]][[ブラックバス]][[ライギョ]][[ソウギョ]]などの[[外来種]]もアユに混じって分布を広げている。

同様の事世界各地で知られる。特にマス類など有用魚種の移植は19世紀末以降に世界中で行われ、原産の固有種が絶滅、あるいは絶滅の危機に瀕した例が知られる。[[チチカカ湖]]固有種であった[[キュプノドン科]]の1種、[[チチカカオレスティア]]はその例である。[[カダヤシ]]はカ類の防除のために世界の熱帯域に移入された。

== 出典・脚注 ==
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== 参考文献 ==
同様の事国外にもある。特にマス類など有用魚種の移植は19世紀末以降に世界中で行われた経緯がありそのため原産の固有種が絶滅に瀕した、あるいは絶滅したなどの例が知られる。[[チチカカ湖]][[ヴィクトリア]]などはその例である。[[カダヤシ]]はカ類の防除のために世界の熱帯域に移入された。
* Gene S. Helfman, Bruce B. Collette, Douglas E. Facey, Brian W. Bowen 『The Diversity of Fishes Second Edition』 Wiley-Blackwell 2009年 ISBN 978-1-4051-2494-2
* Joseph S. Nelson 『Fishes of the World Fourth Edition』 Wiley & Sons, Inc. 2006年 ISBN 0-471-25031-7
* 岩井保 『魚学入門』 [[恒星社厚生閣]] 2005年 ISBN 978-4-7699-1012-1
* 川那部浩哉・水野信彦・細谷和海 編・監修 『日本の淡水魚 改訂版』 [[山と渓谷|山と溪谷社]] 1989年 ISBN 4-635-09021-3


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
{{Commons|Category:Freshwater fishes}}
* [[回遊]]
* [[回遊]]
* [[鹹水魚]]
* [[汽水魚]] - [[海水魚]] - [[鹹水魚]]
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* [[魚の一覧]]
* [[魚の一覧]]
* [[日本の淡水魚一覧]]
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* [[骨鰾上目]](68%を占める[[目 (分類学)|上目]])
* [[骨鰾上目]](68%を占める[[目 (分類学)|上目]])
* [[コイ科]](最大の[[科 (分類学)|科]])
** [[コイ科]](最大の[[科 (分類学)|科]])


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
*[[国立科学博物館]]
* [[国立科学博物館]]
**[http://research.kahaku.go.jp/zoology/FreshwaterFishCollection/ 日本産淡水魚類標本データベース]
** [http://research.kahaku.go.jp/zoology/FreshwaterFishCollection/ 日本産淡水魚類標本データベース]
**[http://research.kahaku.go.jp/zoology/uodas_freshdb/ 日本産淡水魚分布データベース]
** [http://research.kahaku.go.jp/zoology/uodas_freshdb/ 日本産淡水魚分布データベース]


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2010年10月31日 (日) 12:33時点における版

メダカ Oryzias latipesメダカ科)。日本を含めた東アジアに広く分布する、よく知られた淡水魚の1種である[1]

淡水魚(たんすいぎょ、英:Freshwater fish)は、淡水で生活し得る魚類の総称。淡水魚は2006年の時点でおよそ1万2,000種が知られ、現生の魚類2万8,000種のうち約43%を占めている[2]

淡水魚が生息する河川湖沼などの陸水は、地球上に存在するすべての水のうち0.01%にも満たず、一種あたりの平均体積は海水魚の約7,500分の1に過ぎない[3]。海水魚よりもはるかに狭い生物圏で獲得された淡水魚の著しい生物多様性は、平均水深が浅い淡水域では基礎生産が非常に高いこと、隔離状態が容易に発生し種分化が促進されやすいことなど、複雑に絡み合った生態学的・地質学的要因によってもたらされたものと考えられている[3]

淡水魚の区分

モツゴ Pseudorasbora parva (左:コイ科)およびサカサナマズ科の1種 Synodontis grandiops (右)。コイ目・ナマズ目を含む骨鰾上目の仲間は世界中の淡水域に分布し、淡水魚全体の半数近くを占める重要な存在となっている モツゴ Pseudorasbora parva (左:コイ科)およびサカサナマズ科の1種 Synodontis grandiops (右)。コイ目・ナマズ目を含む骨鰾上目の仲間は世界中の淡水域に分布し、淡水魚全体の半数近くを占める重要な存在となっている
モツゴ Pseudorasbora parva (左:コイ科)およびサカサナマズ科の1種 Synodontis grandiops (右)。コイ目ナマズ目を含む骨鰾上目の仲間は世界中の淡水域に分布し、淡水魚全体の半数近くを占める重要な存在となっている

淡水域と海水域の境界ではさまざまな形での魚類の出入りがあり、「淡水魚」を明確に定義することは難しい[4]。淡水魚の区分は海水への耐性の程度、あるいは生活史に占める淡水域の割合を基準にして行われることが多い[4]

生活史に基づく分類の一例として、コイナマズなど淡水中で生涯を送るものを純淡水魚(一次性淡水魚、Primary)、ウナギアユのように一生の一時期を海水中で過ごすものを通し回遊魚ボラスズキなど本来は海水魚汽水魚であるものが淡水域に侵入するものを周縁性淡水魚(Peripheral)として分けるものがある[4]

ただし、区分法は研究者による異同が多い。メダカカダヤシのように通常は淡水で生活する一方、偶発的に海水域に進出しうるものを二次性淡水魚と呼ぶが、これを広義の純淡水魚に含める場合と、独立の区分として扱う場合とがある[4]。また、サケ類などの回遊魚を、周縁性淡水魚に含めることもしばしばある[3]

分布

純淡水魚は海水域を通過できないため、淡水で連なった水系から外に出るのが困難で、その分布範囲は地誌的な影響を強く受ける[4]。人の手による移入を除けば、河川争奪などがない限り他の河川へ移動することはほとんどなく、地域による独自の種分化が多い。琵琶湖バイカル湖など、いわゆる古代湖のように淡水域だった歴史が長く、その規模の大きい地域では多くの固有種が見られる。アマゾン川の魚の種数は大西洋全体より多いと言われる。

淡水魚の隔離分布には、地誌的な変化と強く関連付けられるものも多い。ハイギョ類の分布はその一例で、それぞれ独立の属が南半球のアフリカ、オーストラリア、南アメリカに1属ずつある。これはこの大陸がゴンドワナ大陸として陸続きだったことに起源があると考えられている。

生物地理区に基づく分布

生物地理区の占める領域

他の生物群と同様に、生物地理区に基づく区分は淡水魚の分布を理解するために有用である[5]。以下では、ウォレス1876年に提唱した6つの地理区における淡水魚の分布を概説する。本節では、淡水魚を大きく純淡水魚(一次性淡水魚)・二次性淡水魚・周縁性淡水魚の3種に区分している。

新北区

新北区メキシコ高原以北の北アメリカを含む領域である[5]。少なくとも14科の純淡水魚が知られ、全体ではコイ科サッカー科アメリカナマズ科ペルカ科サンフィッシュ科など約950種が分布する[5]南アパラチア山脈に由来する水系には350種余りの淡水魚が生息し、温帯域としては最も多様性の高い領域となっている[5]

新熱帯区

新熱帯区には南アメリカ中央アメリカが含まれ、世界で最も豊富な淡水魚相を抱える領域となっている[6]。純淡水魚のみで32科、総種数では4,475種が知られるほか、1,500種超の未記載種が存在するとみられている[6]ナマズ目の13科とカラシン目の8科がそれぞれ1,200種を超えるほか、デンキウナギ目の5科やシクリッド科スズキ目)などがこの地域を特徴づけるグループとなっている[6]。一方、北アメリカで優勢であったコイ科・サッカー科は、南アメリカではまったくみられない[6]

本来は海水魚のグループであったものの一部が、純淡水魚として適応した例が多いことも特徴であり、ポタモトリゴン科(いわゆる淡水エイ)・ガマアンコウ科ダツ科ニベ科の一部などが知られる[6]

旧北区

旧北区ヨーロッパから東アジアに至る広大な領域であるが、分布する純淡水魚は14科にとどまる[7]。コイ科・ドジョウ科が多く、ナマズ目魚類は4科、約10種を数えるに過ぎない[7]。他にはペルカ科カワカマス科などが生息し、総計では少なくとも500種が知られている[7]

アフリカ区

アフリカ区(エチオピア区)には多様な淡水魚が分布し、27科の純淡水魚を含めた、計47科2,000種が生息している[7]。コイ目・ナマズ目・カラシン目など、骨鰾上目の仲間がその半数を占める[7]

東洋区

東洋区は主にインド亜大陸東南アジアからなり、ウォレスはオーストラリア区との境界をボルネオ島バリ島の東に引いている(ウォレス線[8]。純淡水魚は28科が分布し、そのうち12科はナマズ目に所属する[8]。コイ目は4科が知られ、コイ科以外の3科(ドジョウ科ギュリノケイルス科タニノボリ科)は特にこの領域で多様性を示すグループとなっている[8]。骨鰾類以外では、タイワンドジョウ科トゲウナギ科キノボリウオ亜目の仲間が特徴的である[8]

オーストラリア区

オーストラリア区にはオーストラリア大陸と、ニューギニア島などウォレス線より東の島嶼域が含まれる[9]。この地域には純淡水魚はわずか2種しか知られておらず、いずれも古代魚である[9]。他には二次性淡水魚が2科、周縁性淡水魚はメラノタエニア科トウゴロウイワシ科など16科が分布する[9]

人為的影響

現代の多くの地域において、淡水魚の分布範囲や生息数は人為的攪乱にさらされている。日本ではアユニジマスなどの有用魚種の放流に伴って、それに混入した他の魚も分布を広げている例があり、野生淡水魚の分布の攪乱が問題になっている。たとえば琵琶湖のコアユを捕獲して他の河川に放流することで、オイカワカワムツムギツクオヤニラミハスワタカ、さらにはブルーギルブラックバスライギョソウギョなどの外来種もアユに混じって分布を広げている。

同様の事例は世界各地で知られる。特にマス類など有用魚種の移植は19世紀末以降に世界中で行われ、原産の固有種が絶滅、あるいは絶滅の危機に瀕した例が知られる。チチカカ湖固有種であったキュプリノドン科の1種、チチカカオレスティアはその一例である。カダヤシはカ類の防除のために世界の熱帯域に移入された。

出典・脚注

  1. ^ 『日本の淡水魚 改訂版』 pp.426-429
  2. ^ 『Fishes of the World Fourth Edition』 pp.11-14
  3. ^ a b c 『The Diversity of Fishes Second Edition』 p.339
  4. ^ a b c d e 『魚学入門』 pp.53-54
  5. ^ a b c d 『The Diversity of Fishes Second Edition』 pp.339-345
  6. ^ a b c d e 『The Diversity of Fishes Second Edition』 pp.345-346
  7. ^ a b c d e 『The Diversity of Fishes Second Edition』 p.346
  8. ^ a b c d 『The Diversity of Fishes Second Edition』 pp.346-347
  9. ^ a b c 『The Diversity of Fishes Second Edition』 p.347

参考文献

関連項目

外部リンク