レトロフューチャー
レトロフューチャー(英: retrofuturism、または retrofuture)とは、過去の人々が思い描いていた未来像のこと[2]。
概要
最もシンプルな定義ではレトロフューチャーとは過去の人々が思い描いていた未来像のことを意味する[3]。Elizabeth Guffeyによると優れたレトロフューチャーは過去 (当時) と想像上の未来が上手く融合しているという[4]。
また、1970年代から80年代の科学技術が急成長を見せた時代から流行しはじめた、「20世紀初頭から20世紀中期までの人々が描いた未来像」への懐古趣味や、当時のそういった描写を好み熱中する(現実の未来と比較し、郷愁を楽しむ)ことを指す[5][2]。
発展して、そういった過去の楽天的な未来像を取り入れた現代の作品や、現在の視点から過去を再構築して生み出された、"訪れることのなかった過去"を差す場合もある[3][2]。
レトロフューチャーのサブジャンルにはスチームパンク、ディーゼルパンク、デコパンク、アトムパンク、レイガン・ゴシック、サイバーパンクなどがある[3]。
空飛ぶ車、ジェットパック、飲むだけで食事を代替できる薬、ロボット執事などはレトロフューチャーの代名詞である[6]。
背景
1930年代から1970年代前半にかけ、人類の科学技術の発達や革新的技術による先進的な未来像への盲信的な憧れや信頼感を持った時代が存在し、多くの人々は原子力の平和利用・プラスチック製品の普及・宇宙開発などに強い憧れを持ち、これらを強く支持した。
1950年代のアメリカで、SFパルプ・マガジンが表紙や掲載小説の挿絵で描いた、未来における架空の市民社会像が人気を博した。多くの作品で登場した、空飛ぶ自動車のデザインを時の大手自動車メーカーがドリームカーのデザインに採り入れ、国際博覧会などのイベントで展示した。するとこの斬新で華美な外観が人気となった。そして多くの要望を受け商品化。のちに一世を風靡したのが、垂直尾翼の様なテールフィンをデザインに採用した往年のアメリカ車である。デザイナーのレイモンド・ローウィは流線形デザインを工業デザイン製品へとうつし込み、未来的なイメージを量産した。
日本では20世紀半ばにかけて、21世紀を描いた未来予想図が口絵や絵物語などの形で少年誌に掲載され、当時の少年少女を魅了した。そこでは超高層ビルやエアカー、ロボット、宇宙旅行などが未来世界の現実として描かれた[7]。
しかし、当時は遥か未来だった21世紀の現実は、必ずしも「かつて思い描いていたバラ色の未来」とはなっていない。科学万能の夢が公害・環境破壊・経済の低迷などの現実に破れ、冷戦終結後も民族主義紛争などに起因するテロリズムが横行し、すぐにでも実現するはずだった宇宙旅行や惑星開発に至っては一向に進展を見せないからである。これからの社会の将来や世界情勢に明るい希望が持てない不安の裏返しとして、レトロフューチャーという流行はこれらの「かつての、希望と躍動に満ちあふれた未来を思い描いた時代」への一種の『郷愁』の対象として見ている現象の一つであるとも言える。[独自研究?]
東欧・ロシアといった旧社会主義国家でも、同時代には科学万能社会を描いたりモチーフとした芸術が出現した。一例として、1957年にイワン・エフレーモフにより執筆・出版された未来ユートピアSF小説『アンドロメダ星雲 (小説)』や、1972年に製作されたイワン・アクセンチュク監督作品の短編アニメ「電化を進めよ」[8]が代表作のひとつに挙げられる[9]。
後年の社会主義の失墜によって生じた幻滅・失望の時代を経て、再び当時の雰囲気を懐古する風潮があり、これも一種のレトロフューチャーとも言える。例えば、旧東ドイツ地域にとってのオスタルギーがこれに当たる。
脚注
- ^ “30 Predictions From “Retro Future” That Were Either A Hit Or A Miss” (英語). Hiptoro (2021年3月26日). 2021年10月19日閲覧。
- ^ a b c Kuroski, John (2018年1月24日). “55 Enthralling Images Of How Artists Of The Past Imagined Life Today” (英語). All That's Interesting. 2021年10月19日閲覧。
- ^ a b c “What is Retrofuturism?” (英語). The Retrofuturist. 2021年10月19日閲覧。
- ^ Fetters, Ashley (2020年6月25日). “We’re Living in the Retro-Future” (英語). The Atlantic. 2021年10月21日閲覧。
- ^ デジタル大辞泉. “レトロフューチャーとは”. コトバンク. 2021年10月20日閲覧。
- ^ Novak, Matt. “Arthur Radebaugh’s Shiny Happy Future” (英語). Smithsonian Magazine. 2021年5月14日閲覧。
- ^ “昭和少年 SF大図鑑 展 | 展覧会”. アイエム[インターネットミュージアム]. 2021年10月18日閲覧。
- ^ 参考映像
- ^ 同作品は2011年春より、「ロシア革命アニメーション 1924-1977 ロシア・アヴァンギャルドからプロパガンダへ」Aプログラム収録作品のひとつとして、全国のミニ・シアター系映画館での上映、及び同名DVD発売が予定されている。<公式サイト>
参考文献
- 岡田斗司夫 著 『失われた未来』 毎日新聞社、2006年、ISBN 4-620-31450-1、ISBN 978-4-620-31450-1。
- 堀江あき子 編 『昭和少年SF大図鑑 : 昭和20~40年代僕らの未来予想図』 河出書房新社、2009年、ISBN 978-4-309-72769-1。