空陸両用車
スカイカー (skycar) とは空を飛行可能な自動車のことである。単に空飛ぶ車とも[1]。
また、SF作品などに登場する空気の力や反重力で浮上する車はホバーカー (hovercar) とも呼ばれる。ホバーカーはスカイカーと同義で使われる場合もある。ここでは浮上可能な自動車全般について取り扱う。
概要
従来から飛行可能な自動車の研究は行われてきたが、航空機は単発ピストンエンジンの単座機でもスーパーカー以上の価格であり、実際に操縦するには自動車免許の他、最低でも自家用操縦士と航空特殊無線技士が必要で、飛行計画の事前提出が求められるなどハードルが高く、個人やベンチャー企業の小規模な研究にとどまっていた。その後無人航空機やオートパイロットの発展により、自動操縦により免許不要で利用できる小型エアタクシーの計画が大手企業の出資でスタートしている[2]。
2018年現在は法的な位置づけが不明瞭であり国際民間航空機関でも単に地上走行可能な航空機とみなされているが、自動操縦によるスカイカーの開発が各国で急速に進んでいるため、運航のルールなどを検討する協議会が設立されるなどしている[3]。
歴史
初期の開発史
1926年、ヘンリー・フォードは自身が"sky flivver"と呼称する実験的な1人乗り用飛行機を披露した。2年後、距離記録を試みた際に墜落事故を起こし、パイロットが死亡したことによりプロジェクトは破棄された[4]。
Flivverはスカイカーではないが、当時のマスコミの注目を集めており、自動車と同様に製造や販売、メンテナンスが行われ、大量生産型でありながら手頃な価格の飛行機が造られるのではないかという期待が国民を取り巻いていた。未来において飛行機は当時のモデルTと同じくらいありふれたものである。
1940年、ヘンリー・フォードは有名な予測を残した: "Mark my word: a combination airplane and motorcar is coming. You may smile, but it will come.”[4]
1942年、ソビエト軍は空挺戦車Antonov A-40の実験を行った。しかしこれに自力で宙に浮く能力はなかった。
1949年12月、モルト・テイラーにより設計、制作されたエアロカーは飛行することに成功、翌年のバージョンは一連の乗車と飛行の試験に耐えた。チャック・ベリーによる1956年の歌「ユー・キャント・キャッチ・ミー」はこの計画を取り上げている。
1956年の12月には民間航空局により大量生産のための設計が承認されたが、広域な宣伝や1989年に改良版の生産を行ったにも関わらずテイラーがスカイカーの制作に入ることはなかった。全部で6機のエアロカーが作成された[5]。
1956年から1958年の間にフォード社のAdvanced Design studioはVolante Tri-Athodyneの3/8スケールのコンセプトカーを作成した。車には各々独自のモーターが使われた3つのダクテッドファンが設計されており、 地面から発射して空中を移動するために使われた。フォード社はプレスリリースで "the day where there will be an aero-car in every garage is still some time off", 追加で "the Volante indicates one direction that the styling of such a vehicle would take".[6][7]
1957年ポピュラーメカニクス誌は、Hiller Helicoptersがヘリコプターより飛行が簡単でありながらコストも大幅に削減できるダクテッドファン航空機を開発していたという報告をした。 ヒラーのエンジニアは、このタイプの航空機が特殊な航空機の祖になるという期待を持っていた[8]。
1980年代半ば、元ボーイングのエンジニアFred Barkerは、Flight Innovations Inc.を創設すると同時に小さなダクトファンベースのVTOL飛行機sky commuterの開発を初めた。この機体はコンパクトな4.3メートルの2人乗り機体で主に複合材料で作られていた[9]。 2008年、残されていた試作機がeBayで£86kで売られた[10]。
開発中のスカイカー
Moller Skycar
カナダの発明家、ポール・モラー (Paul Moller) がMoller Internationalで開発した空を飛ぶ自動車(スーパーカー)である。そのうち、モラー・スカイカーM400 (Moller Skycar M400) は4人乗りで最高時速350マイル(約560km)、垂直に離陸が可能である (VTOL) 。飛行機やヘリコプターなどとはあくまで一線を画しており、スカイカーはあくまで自動車のように、庶民の誰もが運転できるようになる、手軽な交通手段としての普及を目指している。現在は競売価格で4億円程度と高額だが、大量生産が始まれば、近い未来には10万ドル以内(1,000万円程度)での販売を視野に入れている。
2013年、モラーは米国企業と中国企業のコンソーシアムと共同生産することで合意した[11]。
Transition
米国企業のテラフージア (Terrafugia) によるもので、2011年中に生産を開始すると発表している。30秒以内に地上走行モードから飛行モードへの切り替えが可能。また、燃料の満タン時には640~720キロの飛行ができ、最高速度は時速185km、価格は1,600万円〜2,100万円と発表している。現在、同社のホームページにて1万ドル(約80万円)で予約を受け付けている[12]。
テラフージアではこの他にDARPAのトランスフォーマーTXというスカイカーの製造を担当[13]した他、「AirCar」(エアカー)という名称のスカイカーも開発している[14]。
2017年11月にテラフージアは中国の吉利汽車の親会社の浙江吉利控股集団に買収され[15]、3倍の人員と資金を得てTransitionの開発体制を安定させたことから2019年の市販を発表し[16]、2018年10月に世界初の量産型スカイカーとして注文開始した[17][18][19]。
flying Maruti
インドのバンガロールに住むヴィシュワナート (A.K. Vishwanath) がマルチ・スズキ・インディアのマルチ・800(2代目スズキ・アルトベース)を改造して製作。バンガロール空港で開催された航空ショー「エアロインディア2011」に展示された。ミツバチの飛行能力などを参考にし開発に16年を費やしたとしているが、航空力学的に飛行出来ないと言われ現在のところ飛行試験は行われていない[20]。
パラジェット社製スカイカー
英国企業パラジェット (Parajet) によるモーターパラグライダーを利用したスカイカー。ギー風の車にパラグライダーのような翼を持つ[21]。レイジ・モータースポーツ (Rage Motorsport) との共同生産、スカイカーの考案は冒険家のニール・ロートン (Neil Laughton) である。地上走行モードから飛行モードへの切り替えは3分程、離陸するための速度は時速約56km、200メートル以上の滑走路により離陸可能である。飛行モードでの最高速度は時速約110km、巡航高度約600〜900メートル、最高高度約4,500メートルとなっている。また、地上走行モードでの最高速度は時速約160km、4.5秒で時速約97kmまで加速できる。ロンドンからアフリカ・マリ共和国のトンブクトゥまで飛行するプロジェクト「スカイカー・エクスペディション2009」に成功した。将来的には車体を80kg軽量化し、約142psのヤマハ燃料噴射式3気筒エンジンを搭載する予定である[22][23]。
CARTIVATOR
日本の業務外有志団体による計画。
脚注
- ^ 小型無人機・無人航空機と航空機の分類について
- ^ “日本発の空飛ぶクルマ「SkyDrive」、2020年に実現へ――NECがCARTIVATORとスポンサー契約を締結”. ITmedia エンタープライズ. (2018年3月28日)
- ^ “「空飛ぶ車」実用化目指す 官民で運航ルールなど検討へ”. NHK. (2018年8月25日)
- ^ a b Popular Science: Looking back at Henry Ford's Flivver: A plane-car for the man of average means, December 2001 Archived 16 November 2007 at the Wayback Machine.
- ^ Andrew Glass (25 August 2015). Flying Cars: The True Story. Houghton Mifflin Harcourt. pp. 84–. ISBN 978-0-547-53423-7
- ^ Joseph J. Cor; Brian Horrigan (15 May 1996). Yesterday's Tomorrows: Past Visions of the American Future. Johns Hopkins University Press. ISBN 978-0801853999
- ^ Lionel Salisbury. “Volante (Ford) VTOL”. Roadabletimes.com. 2018年10月19日閲覧。
- ^ “Prediction 1957: Flying Fan Vehicle”. Gregory Benford and the Editors of Popular Mechanics. 14 September 2013閲覧。
- ^ “Vest-pocket VTOL. (vertical take-off-and-landing aircraft, Sky Commuter) (column)”. Mechanical Engineering-CIME (1 December 1990). 23 March 2015時点のオリジナルよりアーカイブ。1 October 2014閲覧。
- ^ “Sky Commuter vehicle prototype for sale”. Urbanaero.com (12 January 2012). 1 October 2014閲覧。
- ^ “Skycar® developer, Moller International, Signs MOU with US-based Firm” (January 23, 2013). 2017年12月18日閲覧。 from eAthenaTech.com
- ^ “「空飛ぶ車」、年内に生産開始へ-米テレフギア社”. サーチナ. (2011年2月8日)
- ^ Huang, Gregory T. "Terrafugia, Aurora Flight Sciences, Metis Design take wing in $65M DARPA program to design Flying Humvee" Xconomy, 2 December 2010.
- ^ “Is is a car? Is it a plane? Actually it's both, and it certainly beats sitting in traffic jams” (英語). Daily Mail Online. (2008年3月6日)
- ^ “「空飛ぶ車」を買収、中国・浙江吉利の株価が24年ぶり高値更新” (2017年11月14日). 2017年12月18日閲覧。
- ^ “空飛ぶクルマTerrafugia、2019年の市販開始を発表。吉利の買収で開発体制が安定” (2018年7月19日). 2019年1月15日閲覧。
- ^ “動画:吉利集団、10月に「空飛ぶ車」予約受付 19年に納車” (2018年10月2日). 2019年3月30日閲覧。
- ^ “World's first FLYING CAR that can turn into a plane in less than a minute and soar along at 100mph is going on sale in the US next month” (2018年9月26日). 2019年1月15日閲覧。
- ^ “World's first flying car about to go on sale” (2018年9月27日). 2019年1月15日閲覧。
- ^ “「空飛ぶ車」?インド発明家が開発”. AFPBB News. (2011年2月12日)
- ^ “The Parajet SkyCar's First Flight - 2009” (2009年10月20日). 2019年1月15日閲覧。
- ^ “世界初のバイオ燃料スカイカーの製品モデルが2010年に登場!”. Autoblog JP. (2009年4月20日). オリジナルの2012年7月10日時点におけるアーカイブ。
- ^ “パラグライダー+エンジンで人が飛ぶ「パラジェット」:「空飛ぶ車」も開発中”. WIRED.jp. (2008年12月1日). オリジナルの2012年7月16日時点におけるアーカイブ。
関連項目
外部リンク
- “空飛ぶクルマ”の実現に向けたロードマップを取りまとめました -経済産業省
- クラスターファンVTOL技術による「空飛ぶクルマ」の提案
- Moller International
- Terrafugia
- Parajet