クロスオーナーシップ (メディア)
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メディアにおけるクロスオーナーシップとは、新聞社が放送業に資本参加するなど、特定資本が多数のメディアを傘下にして影響を及ぼすことをいう[1]。アメリカではこれを排除するため、1920年代にワシントン・ポストとデトロイト・ニュースが所有するラジオ局を別都市で入れ替えている。
なお、近年、世界的に、メディアグループの再編が進み、複数のメディア媒体を傘下にしたメディア・コングロマリットと呼ばれるグループが、事実上の寡占をしている。代表例は、ルパート・マードックで有名なニューズ・コーポレーションである。
欧米における現状
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国では、連邦通信委員会(FCC)により言論の多様性を確保する観点からクロス・オーナーシップが制限されている[2]。
ただし、2002年以降は経営の効率化などの観点からクロス・オーナーシップ等の緩和が議論されている[2]。
イタリア
日本における現状
本来、マスメディア集中排除原則の観点から、新聞業と放送業などメディア同士は距離を持つべきとされる。
しかし、日本では1952年に設立され、翌1953年に民放テレビ局最初のテレビ局として放送を開始した日本テレビからこの傾向がある。同局は読売新聞グループの支配下にあり、経営面、放送内容などに読売新聞社の意向が極度に反映されることとなった。さらに当時の読売新聞社オーナーで日本テレビの初代社長も兼務した正力松太郎は自由民主党政権と近く、多くのテレビ局が新聞社の子会社として設立される方式を確立していった。
一般的に、テレビ局が新聞社の系列の元に縦割りとなった原因は、1975年に行われたTBS(毎日新聞社系)の系列だった朝日放送(朝日新聞社系)と、日本教育テレビ(現テレビ朝日)の系列だった毎日放送(毎日新聞系)とのネットチェンジ(腸捻転解消)だとされる。これによりキー局と地方局、新聞社の関係が同系列で整理された。
また、テレビ放送が大都市圏から日本全国に拡大する過程で、系列の異なる新聞社が地元企業などと共同で出資したローカル局も新聞社とキー局が筆頭株主になるということで新聞社・キー局の出先機関と化した。ローカル局は各県に複数設立されたが[3]、多くの県では日中戦争から太平洋戦争(第二次世界大戦)へと戦争が激化した1940年代前半に行われた戦時統合で成立した「一県一紙」の地方紙が他を圧する取材網を持ち、新規テレビ局はその地方紙に依存した方が取材の容易さやコストなどの点でも有利なため、県単位でのクロスオーナーシップが各地で成立していった。
現在は建前上は独立企業である放送局(特にローカル局)も一種の子会社レベルの存在意義である現状である。しかも、クロスオーナーシップの影響で新聞社>キー局>ローカル局という力関係ができ、新聞・テレビともお互いに方針に逆らいにくいという弊害が出ている。
日本では総務省令(放送局に係る表現の自由享有基準)にクロスオーナーシップを制限する規定があるが、一つの地域でテレビ・ラジオ・新聞のすべてを独占的に保有する状態を禁止する条項である[4]ため、複数のテレビ・ラジオ局がある地域で一つのメディアグループがこの3つの媒体をすべて所有する事は事実上妨げられない。そのため、フジ・メディア・ホールディングスがフジテレビジョン・ニッポン放送(ラジオ局)・産業経済新聞社(産経新聞)を、日本経済新聞社がテレビ東京と日経ラジオ社(ラジオNIKKEI=短波放送ラジオ局)を所有する事が可能となっていた。
日本では「クロスオーナーシップ」が温存されているが、2009年9月に成立した鳩山由紀夫内閣の原口一博総務大臣(民主党)が2010年1月13日の文化通信社のインタビュー[5]や、2010年1月14日の外国特派員協会での会見で「クロスオーナーシップ」禁止の法制化を行うと発言した[6][7]。しかし、これに対し各新聞社は強く反発し、日本新聞協会はインターネットの普及などでメディアが多様化した事などを理由にクロスメディア規制の撤廃を求める意見書を同年3月1日に総務省へ提出した[8]。原口総務相はこれを押し切り、3月5日には事実上形骸化している現行のクロスオーナーシップ規制について3年後の見直し規定を盛り込んだ放送法や電波法などの改正法案が閣議決定されたが、同年6月に鳩山政権は総辞職して菅直人内閣が成立し、7月の参議院選挙で民主党が大敗して与党が過半数を失うねじれ国会となり、法制化は目処が立たなくなった。9月に成立した菅改造内閣では原口が総務大臣を退任し、後任の片山善博はクロスオーナーシップ規制の見直し条項の削除を行ったため、11月26日に成立した(改正)放送法ではクロスオーナーシップ規制の強化が見送られた。
現在の資本関係
- 読売新聞グループ本社 - 日本テレビホールディングス(22.82%を保有)および日本テレビ系列局
- 日本テレビはアール・エフ・ラジオ日本を45.26%所有
- 朝日新聞社 - テレビ朝日ホールディングス(24.7%を保有)およびテレビ朝日系列局(東京以外全部でラジオ・テレビ兼営)
- 日本経済新聞社 - テレビ東京ホールディングス(33.3%を保有)およびテレビ東京系列局、日経ラジオ社(19.93%を保有)
- フジ・メディア・ホールディングス - フジテレビジョン(100%を保有)および系列局、ニッポン放送(100%を保有)、産業経済新聞社(40.0%を保有)
- 東京放送ホールディングスはかつて毎日新聞社が大株主であり[9]、現在も役員を相互派遣している。
山形県におけるクロスオーナーシップ
なお、各地方局でも地方紙の資本が入っているケースがあり、特に目覚ましいのは山形県にある山形新聞社(山形新聞)である。同新聞は1960年にテレビ放送を開始した山形放送(YBC、1953年のラジオ放送開始当時は「ラジオ山形」)の設立に深く関わり、現在でも山形新聞は山形県に次ぐ山形放送第2位の大株主(9.77%を保有)で、同放送のテレビ放送では同新聞の社説を紹介するYBC社説放送が放映されている。2007年には山形メディアタワーが完成し、山形新聞社と山形放送が同居してさらなる連携の強化が図られた。
さらに、山形新聞は1970年放送開始の山形テレビ(YTS、ANN系列)にも10%出資してテレビ朝日・朝日新聞社に次ぐ第3位の株主であり[10]、1989年放送開始のテレビユー山形(TUY、TBS系列)でも10%出資して東京放送ホールディングス(TBSHD)に次ぐ第2位の株主である[11]。1997年放送開始のさくらんぼテレビ(SAY、FNN系列)のみは資本関係を持たないが、山形県内の民放テレビ4局中3局で山形新聞が大株主となっている。加えて、山形県内のラジオは中波(AM)が上記の山形放送のみで、超短波(FM)として1989年に開局したエフエム山形(Rhythm Station、JFN系列)にも山形新聞が10%・第2位の株主として参加しているため[12]、山形県内のラジオ放送はコミュニティ放送を除いて山形新聞が全ての放送局に影響力を持つ形となっている。
このように強力なクロスオーナーシップの成立には山形新聞の社長を1945年から1991年まで務めた服部敬雄[13]の意向が強く、いわゆる「平成新局」として山形新聞が資本参加しない放送局として開局したテレビユー山形とエフエム山形の設立には服部が強く反対したとされる[14]。
中日新聞と東海三県テレビ局との関係
中日新聞は東海三県で圧倒的なシェアを持ち、また多数のテレビ局に出資している。愛知県ではCBC、東海テレビ、テレビ愛知、三重県でも三重テレビに出資している。中日新聞の出資の有無による処遇の違いについてはまず番組欄に現れており、左から順にNHKの次にCBC、東海テレビ、テレビ愛知が並び、非出資のメーテレ、中京テレビは右端となっている。また中日ドラゴンズ主催の野球放映権はNHKの他は出資しているCBC、東海テレビ、テレビ愛知、三重テレビにしか与えられていない。一方、岐阜県では岐阜新聞と対立しておりそれを裏付けるものとして岐阜新聞系列の岐阜放送の番組欄での扱いは地元・岐阜版でもハーフサイズの扱いとなっている。
弊害
- 新聞がテレビ、ラジオを批判すること、あるいはその逆のようなことを発言することに及び腰である[15]。
- 新聞の腐敗、あるいはテレビ、ラジオの腐敗を報道しない、一種の情報操作の原因である。本来は再販問題や押し紙問題の利害当事者ではないはずのテレビ、ラジオがこれらの問題について(NHKを含めて)報じられなくなっているといわれる[1][16]
- 新聞やテレビ、ラジオの改革に関する報道に及び腰である。原口総務大臣が外国特派員協会での会見で述べたクロスオーナーシップの禁止に関しても、当事者である新聞やテレビは(NHKを含めて)一切報じていない。
- テレビ局、ラジオ局が新聞社の意向により動かされるなど、中立であるべきメディアが新聞社など上位企業の圧力を受けることになる。
- メディア業界全体が護送船団方式のシステムとなり新聞以外の資本を持つ新規参入希望者を排除する原因である[17]。
- 前述の通り、地方局はその地方紙が筆頭株主になっている場合が多く、その場合その地方に新規のテレビ局、ラジオ局ができる事に反対する場合がある(CM収入が減るため)。地方では民放テレビ局やラジオ局が2局か3局しかない県が数多くあり、その場合サッカーワールドカップ予選やプロ野球日本シリーズなどのスポーツビッグイベントなどを視聴できない問題が生じるが、その県民が被る不利益や不満がテレビ番組上やラジオ番組上ではもちろん地方紙上で取り上げられる事は少ない。その為メディア自らが都会と地方における情報格差を助長している。→県域放送も参照の事
- ローカル局が地域密着を標榜しても、新聞社・キー局による一方的な支配のため独立性が損なわれており、実例としてフジテレビ『ワンナイR&R』による「王シュレット事件」で地元の福岡県のローカル局であり、福岡ダイエーホークス(現福岡ソフトバンクホークス)を応援していた放送局であるテレビ西日本が王貞治を侮辱した放送内容について制作には無関係ながら放送したとして連帯責任を問われた(独立放送局を除く)。
- 新聞社が、免許事業で権力の影響を受けやすい放送局を所有することによって、権力の影響を受けやすくなっている[1]。
脚注
- ^ a b c “テレビがなぜ「新聞再販」報じないか 民主新政権のマスコミ政策に注目”. J-CASTニュース (ジェイ・キャスト). (2009年9月6日) 2009年9月6日閲覧。
- ^ a b “諸外国の通信・放送法制と動向”. 総務省. 2017年10月6日閲覧。
- ^ 最少の宮崎県や沖縄県などでも2局存在する。また、佐賀県は1局(サガテレビ、FNN系列)のみだが、隣県の福岡県のテレビ局の視聴が容易なため、民放の独占化は起こらない。
- ^ “放送局に係る表現の自由享有基準 (平成二十年三月二十六日総務省令第二十九号)”. 総務省. 2016年3月1日閲覧。
- ^ “原口総務相インタビュー「新規参入阻害する既得権益は徹底的に壊す」”. 文化通信.com (文化通信社). (2010年1月15日) 2010年1月22日閲覧。
- ^ "原口総務大臣閣議後記者会見の概要" (Press release). 総務省. 15 January 2010. 2010年1月22日閲覧。
- ^ “新聞・テレビの猛反発は必至 総務相「新聞社の放送支配禁止」表明”. J-CASTニュース (ジェイ・キャスト). (2010年1月15日) 2010年1月22日閲覧。
- ^ 総務省ホームページより、2010年3月1日付 「クロスメディア所有のあり方に関する意見」
- ^ 1977年に毎日新聞の経営危機により株式の大半を売却した。
- ^ 一時は筆頭株主であったが、マスメディア集中排除原則による行政指導を受けて10%を超過する分を売却した。山形テレビの項目も参照。
- ^ 設立当初は資本関係は存在しなかった。テレビユー山形の項目も参照。
- ^ 当初は資本関係なし。筆頭株主は読売新聞東京本社。
- ^ 山形交通(現在の山交バスを含む)の経営権も把握して県内の交通・報道網を独占した服部は「山形の首領」として『朝日ジャーナル』で特集され、『別冊宝島』では「天皇」とすら紹介されるほどの絶対権力者とされた[1]。
- ^ 服部敬雄の項目も参照
- ^ 岡田克敏 (2007年2月12日). “マスコミ集中排除案 報道姿勢に疑問”. JANJAN 2009年9月6日閲覧。
- ^ NHKへの苦情続出、 ワンセグに対して受信料を徴収、テレビの有無の調査権を主張、「押し紙」関連資料の受け取り拒否) MEDIA KOKUSYO 2015年11月13日配信分(2016年3月31日閲覧)
- ^ ライブドアによるフジサンケイグループへの資本参加、楽天によるTBSへの資本参加を組織的に糾弾した。
関連項目
外部リンク
- 「クロスオーナーシップ問題」『情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)』2007年3月21日。
- メディア系列化容認に動くFCC クロスオーナーシップ 動画 日本語字幕付 (デモクラシーナウ!ジャパン 2007.10.22)
- 元FCC委員マイケル・コップスが語る米国メディアの未来