沼沢洽治
沼沢 洽治(ぬまさわ こうじ、1932年12月6日 - 2007年11月16日[1])は、日本の英文学者、翻訳家。東京工業大学名誉教授。従四位瑞宝中綬章。専攻はアメリカ文学。姓の正式な表記は沼澤[2]。
生涯
[編集]東京市本郷区本富士町(現文京区)生まれ[3]。1955年、東京大学文学部英文科卒業[3]。1958年、東京大学大学院修士課程修了[3]。1960年~1961年コロンビア大学に留学[3]。 東京工業大学教授。1988年、退任して東京工業大学名誉教授[4]。桐蔭学園横浜大学教授をへて、1996年から2001年まで聖心女子大学文学部教授(外国語外国文学科)[4]。
専門としてはヘミングウェイ、フィッツジェラルドなどロスト・ジェネレーションの作家や、サリンジャー、および現代英米演劇。福田恆存が理事長を務める現代演劇協会に参加、その傘下にある劇団雲、劇団欅、劇団昴において英米戯曲の翻訳も手がけた。
SFファンでもあり[5][6]、翻訳家としての活動の前半期(1960年代中盤 - 70年代序盤)にはSFの翻訳も行なった。「武器店」二部作、『宇宙船ビーグル号の冒険』(創元版)、『終点: 大宇宙!』などヴァン・ヴォークトのSF作品が有名。他にアイザック・アシモフ「トランター」もの、アルフレッド・ベスター『分解された男』など。
訳書の総計は40ないし50冊。確認できる最古の翻訳は、T・S・エリオット「劇詩問答」で、1960年、中央公論社『エリオット全集・第3巻』に収録された。
英米演劇の翻訳では、アーサー・ミラー『セールスマンの死』、スタインベック『怒りの葡萄』など。
佐伯泰樹は弟子であり共編した『笑いの新大陸 アメリカ・ユーモア文学傑作選』の訳者後書きには「翻訳上の師弟共演」と書かれている。
受賞
[編集]翻訳以外の著述
[編集]創作・エッセイ等の著作はないが、公刊された英米文学に関する評論・研究解説が少しある。「サリンジャー文学とニューヨーク」([7]に所収)、「『ブラック・ヒューマー』作家」([8]に所収)、『英米文学史講座』の「SF」の章(正確には[6])など数編。また劇団三百人劇場で公演された翻訳劇の解説が多数ある。
主要訳書リスト
[編集]- 『燃える導火線』(ベン・ベンスン、東京創元社、創元推理文庫)1962年
- 『暗黒星雲のかなたに』(アイザック・アシモフ、東京創元社、創元推理文庫)1964年
- 『夜への長い旅路』(ユージン・オニール、筑摩書房、世界文学大系 第90)1965年
- 『分解された男』(アルフレッド・ベスター、東京創元社、創元推理文庫)1965年
- 『スクーバ・ドゥーバ』(ブルース・ジェイ・フリードマン、白水社、今日の英米演劇 第5) 1968
- 『シカゴ』(サム・シェパード、竹内書店、現代アメリカ戯曲選集 第1)1969年
- 『地球幼年期の終わり』(アーサー・C・クラーク 、東京創元社、創元推理文庫)1969年
- 『嵐と凪と太陽 - ジプシー・モス号三万マイルの記録』(フランシス・チチェスター、新潮社、人と自然シリーズ) 1970年
- 『ピンター戯曲全集 第1』(ハロルド・ピンター、喜志哲雄,小田島雄志共訳、竹内書店)1970年
- 『海流のなかの島々』(ヘミングウェイ、新潮社)1971年、のち文庫
- 『ファッツ』(ロシェル・オウエンズ、竹内書店、現代アメリカ戯曲選集 2) 1971
- 『皇帝ジョーンズ』(E・オニール、村田元史共訳、白水社、現代世界演劇2) 1971
- 『あいびき』(ノエル・カワード、白水社、現代世界演劇15)1971年
- 『スターン氏のはかない抵抗』(ブルース・ジェイ・フリードマン、白水社)1971年、のち白水Uブックス
- 『宇宙の小石』(アイザック・アシモフ、東京創元社、創元推理文庫)1972年
- 『バナナ魚日和』(サリンジャー、講談社)1973年、のち文庫『九つの物語』
- 『刑事』(ブルース・ジェイ・フリードマン、白水社、新しい世界の文学 71)1975年
- 『ベック氏の奇妙な旅と女性遍歴』(ジョン・アップダイク、新潮社)1976年
- 『ビール・ストリートに口あらば』(ジェイムズ・ボールドウィン、集英社、世界の文学33) 1976年
- 『キリマンジャロの雪 ほか』(ヘミングウェイ、集英社、世界文学全集)1977年
- 『ハロルド・ピンター全集』1 - 3(ハロルド・ピンター、喜志哲雄,小田島雄志共訳、新潮社)1977年
- 『最後の大君 / 皐月祭 / 富豪青年 / バビロン再訪』(フィッツジェラルド、集英社、世界文学全集)1979年、のち文庫『バビロン再訪』
- 『颱風 : 中短篇小説集2』(ジョゼフ・コンラッド、人文書院)1983年
- 『エデンの園』(ヘミングウェイ、集英社)1989年、のち文庫
- 『青春は川の中に - フライフィッシングと父ヘミングウェイ』(ジャック・H・N・ヘミングウェイ、TBSブリタニカ)1990年
- 『笑いの新大陸』(佐伯泰樹共編訳、白水社、白水社Uブックス、アメリカ・ユーモア文学傑作選)1991年
- 『美しき夫たち』(ジョン・アプダイク、筑摩書房)1993年
- 『シュワーツコフ回想録 - 少年時代・ヴェトナム最前線・湾岸戦争』(ノーマン・シュワルツコフ、新潮社)1994年
- 『戦争特派員 CNN名物記者の自伝』(ピーター・アーネット、新潮社)、1995年
- 『サーシャのしっぽ』(ジャクリーン・デーミアン、飛鳥新社)1996年
A・E・ヴァン・ヴォークト
[編集]- 『宇宙船ビーグル号の冒険』(A・E・ヴァン・ヴォークト、東京創元社、創元推理文庫)1964年
- 『イシャーの武器店』(A・E・ヴァン・ヴォークト、東京創元社、創元推理文庫)1966年
- 『非Aの傀儡』(A・E・ヴァン・ヴォークト、東京創元社、創元推理文庫)1966年
- 『武器製造業者』(A・E・ヴァン・ヴォークト、東京創元社、創元推理文庫)1967年
- 『終点:大宇宙!』(A・E・ヴァン・ヴォークト、東京創元社、創元推理文庫)1973年
- 『時間と空間のかなた』(A・E・ヴァン・ヴォークト、東京創元社、創元推理文庫)1970年
- 「セールスマンの死」(1989年、東京グローブ座、作:アーサー・ミラー、演出:ジョン・ディロン、出演:久米明、劇団昴)
- 「熱いトタン屋根の上の猫」(1994年、三百人劇場、作:テネシー・ウィリアムズ、演出:ジョン・ディロン、出演:久米明)
- 「プレイング・フォア・タイム」(1998年、三百人劇場、作:アーサー・ミラー、演出:村田元史、出演、松谷彼哉、劇団昴)
- 「夜への長い旅路」(2000年、新国立劇場、作:ユージン・オニール、演出:栗山民也、出演:三田和代、津嘉山正種)
- 「怒りの葡萄」(2000年、三百人劇場、原作:J・スタインベック)
- 「転落」(2002年、三百人劇場、劇団昴創立40周年記念上演作品、作:アーサー・ミラー)
- 「喪服の似合うエレクトラ」(2004年、制作:新国立劇場、作:ユージン・オニール、演出:栗山民也、出演:大竹しのぶ、堺雅人)
- 「氷屋来たる」(2007年、制作:新国立劇場、作:ユージン・オニール、演出:栗山民也、出演:市村正親、岡本健一)
- 「うつろわぬ愛」(2007年、制作:劇団昴、作:ロミュラス・リニー、演出:ジョン・ディロン、出演:西本裕之、宮本充)ほか
脚注
[編集]- ^ 四国新聞社、エキサイトニュースなど
- ^ 初期の一部の訳書では「沼澤」と表記。
- ^ a b c d 日外アソシエーツ現代人物情報より
- ^ a b c d e 読売人物データベース
- ^ ヴァン・ヴォークト『イシャーの武器店』(創元、1966年)の「訳者(沼沢洽治)あとがき」より
- ^ a b 福原麟太郎監修『英米文学史講座・第13巻・二十世紀IV』(研究社出版、1984年)の「SF」の章
- ^ 渥美昭夫編『サリンジャーの世界』(荒地出版社、1969年)
- ^ 竜口直太郎編『現代アメリカ文学入門』(評論社、1974年)