コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

没入型デジタル環境

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
没入型デジタル環境の一例

没入型デジタル環境(ぼつにゅうがたデジタルかんきょう、:immersive digital environment)とは、コンピュータが作る人工かつ対話型の光景あるいは「世界」であり、人間がその中に入ることができる。没入型インタフェースとも。

没入型デジタル環境はバーチャルリアリティとほぼ同義だが、現実(リアリティ)をシミュレートしているとは限らない。つまり、全く現実とはかけ離れた環境としてユーザインタフェースを構築したり抽象化することもあり、単にその中にユーザーが没入するという点が共通する。「没入」の定義は様々で、かつ変化するが、ここではユーザーが自身をシミュレートされた「宇宙」の一部であるように感じることとする。没入型デジタル環境は、3次元コンピュータグラフィックスサラウンド音響、対話型ユーザー入力、単純さ、機能性、娯楽性など、様々な要素を必要とする。自然な風、座席の振動、自然な照明など、よりリアルな効果を与えるための研究開発が今も行われている。

歴史

[編集]

マサチューセッツ工科大学メディアラボが 1980年代に研究していた「メディアルーム」が源流とされ、1992年にイリノイ大学Electronic Visualization LaboratoryのThomas DeFanti達によってCave automatic virtual environment(CAVE)が開発された。

かつてヘッドマウントディスプレイ(HMD)は仮想現実の表示デバイスとしては適さないと評価された時期があり、1990年代から2000年代初頭にかけて、この種の投影型表示装置と液晶シャッタグラスを組み合わせて没入型デジタル環境を実現して仮想現実の研究の発展に貢献した時期があったものの、装置が大掛かりで設置するための空間や維持費がかかることもあり、近年では一部を除き、下火になりつつある[1]

ヘッドマウントディスプレイと比較した場合の優劣

[編集]

長所

[編集]
  • ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着する仮想現実環境と比較して装着する装置はヘッドマウントディスプレイよりも軽量の液晶シャッタグラスとポヒマスと呼ばれる磁気式の位置センサであり、焦点移動の少ないヘッドマウントディスプレイよりも長時間の着用でも疲れにくいとされる。

短所

[編集]
  • 設備が大掛かりで設置や維持に多くの経費がかかる。
  • 空間を占有するものの、1台の装置で1度に1人しか視点の移動を伴う仮想現実を体験できない。

[編集]

没入型技術は、小売業やeコマース、アダルト産業、芸術、エンターテインメントやビデオゲーム、インタラクティブなストーリーテリング、軍事、教育、医療など、さまざまな分野で利用されている[5][6]。また、災害救助や自然保護などの分野では、単なる写真よりも実体験を想起させるような状況にユーザーを置くことができるため、閲覧する状況により強い感情的なつながりを与えることができるため、非営利業界で支持を集めている。

没入型バーチャルリアリティが関与する医学研究の新分野は日々生まれている。研究者たちは、メンタルヘルスケアの提供における追加的な面接方法として機能するバーチャルリアリティテストに大きな可能性を見出している[7]。また、没入型バーチャルリアリティは、同じような症状の患者に対する理解を深めるために精神病状態の視覚化が用いられた研究において、教育ツールとして使用されている[8]。学童の不安障害の治療にビデオグラスを用いたVR技術を応用する研究が進行中である[9]。統合失調症の新たな治療法[10]をはじめ、最近開発された研究分野もあり、没入型バーチャルリアリティは外科手術の質の向上、怪我や手術後のリハビリプログラム[11]、幻肢痛の軽減などが期待されている。

建築設計や建築科学の分野では、没入型バーチャル環境を活用することで、建築家や土木技師がスケール感や奥行き感、空間認識を内面化し、設計プロセスを改善するのに役立っている[12][13][14]

議論

[編集]

エピック・ゲームズ・ジャパンの今井翔太は、没入型デジタル環境は、その没入要素により新しいストーリー表現方法として発展しているという意見を紹介している[15]

主な没入型デジタル環境装置

[編集]

Cave automatic virtual environment

[編集]

1992年にイリノイ大学Electronic Visualization LaboratoryのThomas DeFanti達が開発、その後の没入型デジタル環境装置の開発に影響を与えた。

CABIN

[編集]

CABIN(Computer Augmented Booth for Image Navigation) は正面、両側面、天井、床面の周囲5面を大型スクリーンで囲んだ装置で1997年に東京大学インテリジェント・モデリング・ラボラトリーに設置され、2012年まで、15年間にわたり運用された[16]。当時はリアルタイムでの3D映像の作成のためにSGI Onyxを複数台使用した。

COSMOS

[編集]

COSMOS (COsmic Scale Multimedia Of Six-faces)は岐阜県各務原市株式会社VRテクノセンターで運用される6面を大型スクリーンで囲んだ装置[17]。岐阜県知事だった梶原拓の肝いりで計画が進められ、完成した当時、6面を表示できる装置は世界に2台しかなかった。

π-CAVE

[編集]

神戸ポートアイランド京 (スーパーコンピュータ)に隣接する神戸大学統合研究拠点で運用される[18]。データが投影されるスクリーン空間は3m(高さ)x3m(奥行)x7.8m(横幅)と、国内最大級のCAVE装置であり、クリスティ・デジタル・システムズが設計したVRソリューション『HoloStage(ホロステージ)』が採用されている[18]

脚注

[編集]
  1. ^ HMDがダメだといわれた時代 - CABIN誕生
  2. ^ Pulseworks - Film Library
  3. ^ Artery Explorer: The Movie US AGAINST ATHERO
  4. ^ RIDE THE BRAND Pulseworks
  5. ^ Home - Immersive Education Initiative”. immersiveeducation.org. 2024年12月20日閲覧。
  6. ^ Immersive Learning Research Network”. www.immersivelrn.org. 2024年12月20日閲覧。
  7. ^ The Use of Immersive Virtual Reality (VR) to Predict the Occurrence 6 Months Later of Paranoid Thinking and Posttraumatic Stress Symptoms Assessed by Self-Report and Interviewer Methods: A Study of Individuals Who Have Been Physically Assaulted”. pmc.ncbi.nlm.nih.gov. 2024年12月20日閲覧。
  8. ^ The Use of Immersive Virtual Reality in the Learning Sciences: Digital Transformations of Teachers, Students, and Social Context”. www.life-slc.org. 2024年12月20日閲覧。
  9. ^ Cyberpsychology And Schools: A Feasibility Study Using Virtual Reality With School Children”. www.lavendercounselling.com. 2024年12月20日閲覧。
  10. ^ Studying and Treating Schizophrenia Using Virtual Reality: A New Paradigm”. pmc.ncbi.nlm.nih.gov. 2024年12月20日閲覧。
  11. ^ A data-globe and immersive virtual reality environment for upper limb rehabilitation after spinal cord injury”. oa.upm.es. 2024年12月20日閲覧。
  12. ^ From Concept to Reality: How Virtual Reality Is Helping Architects and Engineers Design the Impossible”. www.constructionplacements.com. 2024年12月20日閲覧。
  13. ^ How Virtual Environments Could Help Architects ?”. www.arch2o.com. 2024年12月20日閲覧。
  14. ^ The Use of Virtual Reality in Architecture”. architecturecompetitions.com. 2024年12月20日閲覧。
  15. ^ aueki (2015年4月25日). “[OGC 2015]Unreal Engine 4によるVR開発の実際。VR用途なら完全無料で資金援助プログラムも”. 4Gamer.net (Aetas). https://www.4gamer.net/games/210/G021013/20150425005/ 2015年4月26日閲覧. "講演で今井は、Epic GamesのNick Whitingの言葉を紹介していた。それは、VRが最も新しいストーリーの展開方法だというものだ。ストーリーに「記録」という要素が加わると「本」ができる。さらに「演技」が加わると「劇」になり、そこに「カメラ」が加わると「映画」になる。映画に「インタラクション」要素が加わったものが「ゲーム」であり、それが「没入」できるようになると「VR」になる。VRというのは新しいストーリー表現の進化形ではないかというのだ。" 
  16. ^ さよならCABINシンポジウム(2012年12月18日火)
  17. ^ COSMOS
  18. ^ a b 没入型VRシステム HoloStageを使った「π-CAVE (パイ・ケイブ)」”. 2017年1月15日閲覧。

参考文献

[編集]

読書案内

[編集]

外部リンク

[編集]