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氏名の振り仮名

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

氏名の振り仮名(しめいのふりがな)とは、うじ[注 1]のそれぞれの読み方を仮名かなで表した日本国民の戸籍に記載される事項である。氏名の読み仮名(マスコミ等)、氏名のフリガナ(後述)とも呼ばれる。氏名の振り仮名は2023年(令和5年)に法整備された制度であるが、それが全国民の戸籍に実際記載されるのは2026年(令和8年)の春限りとされている[1][2]

氏名の振り仮名は、戸籍に記載された仮名を基礎に、住民票マイナンバーカードなど様々な身分証明書に転記される予定である。氏名の振り仮名が公証され、様々なサービスにおいて本人確認事項として利用することが可能になることから、社会のデジタル化の促進に寄与する社会的基盤と言える。ただし、氏名の振り仮名はあくまでも補助的な情報であり、氏名そのものに取って代わるものではない。

なお、氏名の振り仮名は「氏名として用いられる文字の読み方として一般に認められているものでなければならない」と規定されている(改正戸籍法第13条)。例えば「一郎」の振り仮名を「じろう」にすることができない。

氏名の振り仮名制度の背景

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日本人の氏と名は、漢字平仮名片仮名と幾つかの記号(長音符など)で書かれているが、ほぼ全ての氏と大半の名は漢字を含んでいる。漢字が単純な表音文字ではないため、補助的情報なしでは氏名の読み方が不確かである。日本国民の氏名公証の根本は戸籍であるが、元来、戸籍には氏名の読み方を示す欄がなかった。一方で、市区町村住民基本台帳に氏名の読み方を登録することがあったが、事務処理上の利便を図るためにすぎなかった[3]

個人番号法戸籍法を改正する法律(令和5年法律第48号、2023年6月9日公布)をうけ、「氏名の振り仮名」を戸籍に記録するかたちで、氏名の読み方は法制化される。氏名の振り仮名制度によって、氏名の読み方は公式な根拠を得、戸籍上の一意的な読み方が住民票等を経由して各所に共有されやすくなる。また、次期のマイナンバーカード(個人番号カード)に氏名の振り仮名を記載する計画がある[4]

この制度の導入の動機は、読み方の不確定性による様々な支障や行政・社会のデジタル化への妨げである。例えば電信振り込みの際に送られてくる送金依頼人の名義データに漢字が使用できないことから、氏名の仮名表記のみを手元の名簿と比べて本人確認を行う場面がある。そのような実務上の要請から、各機関が氏名の仮名表記を独自で登録してきたが、本人の申告や読み方の習慣に基づいた推定による公式でない読み方の控えにすぎない。しかも、同一個人にもかかわらず複数の仮名表記が併存するケースもある。

仕様

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日本人の氏名の振り仮名は次のように戸籍の新設欄に記載される予定である[5]

  • 戸籍の様式上部にある本籍と戸籍筆頭者氏名の下の欄【氏の振り仮名】
  • 戸籍に記録されている者の名の下の欄【名の振り仮名】

氏名の振り仮名で使用できる仮名・記号の一覧は今後法務省令によって定められる[6]。2023年(令和5年)10月現在は、未発表である。

戸籍記載の氏名の振り仮名は片仮名表記が想定されているが、全ての片仮名に一対一対応する平仮名があるため、平仮名で表記された氏名の読み方を氏名の振り仮名とみなすことができる。特に手書きのときは、平仮名のほうが判読しやすいことなどから、平仮名表記の使用もありうる。

解説や広報を性格をもつ公用文等では、振り仮名が片仮名で表記されることを分かりやすく指示するために法令上の正式名称である「氏名の振り仮名」の代わりに氏名のフリガナという名称が用いられる可能性がある。

振り仮名の届け出と変更

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制度発足以降は、出生や帰化によって新たに戸籍に載る日本国民の氏名の振り仮名の届け出が出生届や帰化届を通して行われる。

既に戸籍を有している人の場合は、本籍地(本籍を管理している市区町村)から氏名の振り仮名に係る確認状が住民票上の住所に郵送される。1年以内に届け出をしない場合、本籍地の市区町村長が職権によって戸籍に振り仮名を記録するが、職権によって定められた読み方をそのあと一度限り変更することができる。

一方で、自分の戸籍の筆頭者等によって既に届け出られた読み方を任意変更することができず、変更を希望するときは、家庭裁判所に申し立てて許可を得る必要がある。氏の振り仮名の変更は「やむを得ない事由」[7]を考慮して例外的に認めらうるの対し、名の振り仮名の変更は「正当な事由」[8]を考慮して認められうるため、名の読み方変更は比較的ハードルが低いと言える。

キラキラネーム問題

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平成年間急増した、辞書に載っている音訓・名乗りによらない解読が困難な名(いわゆるキラキラネーム)の社会的問題性がたびたび指摘されている。法が施行されると、出生の届け出の際に極端なキラキラネームが一部受理されない見込みである。

在留外国人の氏名の読み方

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表記揺れの問題

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日本国籍を有しない人は当然日本国の戸籍制度の対象外になっているので、日本に在留する外国人の氏名の振り仮名は本記事の制度の影響を受けない。ただし、銀行・健康保険・年金などの事務処理では、外国人の氏名の片仮名表記が頻繁に使用されている。

一般に、音韻体系が違うので、外国の名前を片仮名を用いて音写することは容易ではない。現代日本語でよく用いられる外来語・外国人名特有の音を表す仮名の組み合わせ(「ジェ」「ティ」「デュ」「ファ」「イェ」「ウォ」「ヴィ」等[9])はあるものの、多くの外国人名の仮名表記はとても揺れやすい(例えば「バ」-「ヴァ」の揺れ)。しかも、外国人本人——または本人の代わりに片仮名表記を定める人——が片仮名音写に関する十分な知識をもたないケースもあり、表記の間違いは生じやすい。

そのような背景から、複数の登録機関で異なる仮名表記を有する在留外国人が少なくない。

併記名

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日本に住民登録している外国人(漢字圏の外国人を除く)は、印鑑登録などの際に、住民基本台帳に氏名の片仮名表記を届け出ることができる(併記名ともいう)。その片仮名の氏名は、印鑑登録証明書や住民票に本名(アルファベット氏名)とともに記載され、一定の公的な性格をもっている。ただし、併記名は在留カードマイナンバーカード運転免許証の券面に印字されない。

通名

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なお、通名(行政用語:通称)を有する外国人も多数いる。通称は、住民票やマイナンバーカード、運転免許証などに本名とともに記載されており、銀行を含む社団等との契約の際に通用することがある。

現行制度では、住民登録事務のシステム等で通称の仮名表記が用いられることがあるが、通称の読み方を公証することは不可能である。

脚注

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注釈

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  1. ^ 一般に名字、姓とも呼ばれる。

出典

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  1. ^ 氏名の振り仮名法制化に伴う住民記録・印鑑登録・戸籍附票システム標準仕様書の検討 総務省 令和5年8月28日 https://www.soumu.go.jp/main_content/000898401.pdf
  2. ^ 氏名読み仮名、25年から届け出 戸籍に記載、「キラキラ」判別”. 時事通信社  (2023年10月16日). 2024年1月3日閲覧。
  3. ^ 氏名の読み仮名の法制化に関する研究会『氏名の読み仮名の法制化に関する研究会取りまとめ』令和3年8月 https://www.moj.go.jp/content/001361613.pdf
  4. ^ 次期個人番号カード仕様に係る検討事項について デジタル庁 2023年9月7日 https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/8f5526a5-1a75-40e9-859b-281defa27d6c/c72eda26/20230912_meeting_mynumber-card-renewal_outline_04.pdf
  5. ^ 戸籍情報システム標準仕様書【第2.0版】
  6. ^ 改正戸籍法の第13条は、「氏名の振り仮名に用いることができる仮名及び記号の範囲は、法務省令で定める」としている。
  7. ^ 戸籍法第107条の3:やむを得ない事由によって氏の振り仮名を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。
  8. ^ 戸籍法第107条の4:正当な事由によって名の振り仮名を変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。
  9. ^ 平成3年6月28日内閣訓令「外来語の表記」の「第1表」の右側および「第2表」 https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/gairai/honbun01.html