武智三繁
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武智 三繁(たけち みつしげ、1949年12月28日[1] - )は、長崎県西彼杵郡出身の元漁師[2]。2001年(平成13年)7月に自分の漁船「繁栄丸」で出航したところ、エンジンの故障で遭難し、37日後に生還を果たすと[3]、新語・流行語大賞の語録賞を受賞する等話題となった[4]。
漂流の経緯
[編集]- 7月25日
- 7月26日 - 8月4日頃
- (時期不明)
- 8月9日前後
- (時期不明)
- 8月19日 - 23日頃
- (時期不明)
- (時期不明)
- 8月26日
- 千葉県犬吠埼の東方約800キロメートル地点の太平洋上で[36]、漁場に向かう徳島県のマグロはえ縄漁船・末広丸が繁栄丸を発見し、救助を求めていると気づいた[33][37]。船の大きさが違うために船を横付けできず、飲み物、おにぎり、たばこなどを差し入れた[36][38]。その後、海上保安庁から連絡を受けた海上自衛隊の救難飛行艇が到着。出航から37日目にして生還を果たした[39]。
- この報道当時は極限状態からの生還というイメージが強調されたものの、後に武智自身が語ったところによれば、実際には水と食料を補給された時点で、船上を歩き回る余裕ができるほど体力が回復しており、救助に駆けつけた側がむしろ驚いていたという[40]。
- 12月
- 漂流生活を綴った著書『あきらめたから、生きられた』が出版された[43]。
漂流の要因
[編集]- 繁栄丸は購入直後にエンジンが壊れたためにエンジンを交換したが、資金不足で中古のエンジンしか買えず、このエンジンが最初から故障気味だった[6][44]。武智自身も機械の修理は不得意だった[8]。
- エンジンが最初に停止した時点でも、事態の深刻さに気づかず、「陸地がまだ近いので帰還は可能」と判断していた[5][45]。また、この時点で携帯電話が通じていたにもかかわらず、救助を求めずに自力でエンジンを修理することにこだわった[45]。これは武智が極端に遠慮深い性格のためだが、このために救助後に海上保安庁からの非難を受けている[45]。
- 武智に金銭的余裕がなかったため、万一遭難したときに備えてのレーダーやGPSなど、現在位置を把握するための航海計器が船に搭載されていなかった[46]。
生存の要因
[編集]物理的な要因
[編集]- 武智は繁栄丸を購入した直後、水上に浮かんだときの船の姿が気に入らず、船底にバラストとして積まれていたかなりの数の砂袋をすべて外していた[44]。これにより船の浮力が増し、台風を乗り切るなどして生還に繋がったものと武智は推測している[28][44]。
- 本来は日帰りの出航だったにもかかわらず、武智自身が買い溜めの習慣があったため、缶詰、ソーセージ、煎餅、インスタントラーメン、即席の粉末スープなど、約4日分の食料を常備していた[47][48](ただし、後のインタビューでは備蓄食は煎餅だけだったと語ったこともあり、自著書の内容などとは矛盾している[49])。
- 置き薬の業者が置いて行った栄養ドリンクが十数本あり、魚やインスタント食品だけでは補給しきれない栄養素が補われた[50][51]。
精神的な要因
[編集]- 乾電池式カセットデッキを積んでおり、夜には好きな歌手の音楽を楽しむことで心が癒され、よく眠ることができた[51]。
- 食料が釣った魚ばかりで食べ飽きそうなときでも、ラーメンやスープなどがあったので舌を満足させることができ、精神安定の効果になった[51]。
- 石鹸の匂いを嗅ぐことで、風呂に浸かって疲れを癒している気分に浸れた[49]。またコーヒーが大好きな武智は、飲み干したコーヒーのペットボトルの匂いを嗅ぎ、コーヒーを飲んでいる気分に浸ったこともあった[49][51]。後に武智はこの経験を振り返り、嗅覚が人間の精神に与える効果に驚いている[49]。
これらの精神安定については、救助後の武智を診察した東海大学医学部付属病院の医師が、彼には胃潰瘍の既往があるにもかかわらず、胃にはストレスの痕跡などがまったく見られなくて驚いたという[52]。
漂流後
[編集]漂流後は、著書を出版し、また講演活動を行っていた[42][53]。2006年(平成18年)8月10日、仕掛け網を盗んだ容疑で逮捕され、「無職」と発表された[54]。その後執行猶予付きの有罪判決を受けた[42]。
2016年、『やっちまったtv』(第6弾)に出演し、漂流と窃盗について触れている[53]。
脚注
[編集]- ^ 吉岡 2005, pp. 33–34.
- ^ Takano Tamiyo「interview 武智三繁 太平洋漂流37日間で見えたもの」『カフェグローブ』カフェグローブ・ドット・コム、2001年12月19日。オリジナルの2004年2月25日時点におけるアーカイブ。2019年8月3日閲覧。
- ^ 吉岡 2005, pp. 17–19.
- ^ 吉岡 2005, pp. 7–13.
- ^ a b 吉岡 2005, pp. 52–57
- ^ a b 平義彦「武智船長漂流記 出港」『長崎新聞』長崎新聞社、2001年9月21日。オリジナルの2002年2月23日時点におけるアーカイブ。2019年8月3日閲覧。
- ^ 吉岡 2005, pp. 56–60.
- ^ a b 平義彦「武智船長漂流記 最後の連絡」『長崎新聞』2001年9月22日。オリジナルの2002年2月23日時点におけるアーカイブ。2019年8月3日閲覧。
- ^ 平義彦「武智船長漂流記 機関停止」『長崎新聞』2001年9月23日。オリジナルの2002年2月23日時点におけるアーカイブ。2019年8月3日閲覧。
- ^ 武智 2001, pp. 48–51.
- ^ 平義彦「武智船長漂流記 釣り」『長崎新聞』2001年9月25日。オリジナルの2002年2月23日時点におけるアーカイブ。2019年8月3日閲覧。
- ^ a b 吉岡 2005, pp. 82–85
- ^ 武智 2001, pp. 82–86.
- ^ a b 吉岡 2005, pp. 90–93
- ^ 武智 2001, pp. 71–73.
- ^ 武智 2001, pp. 78–81.
- ^ 武智 2001, pp. 81–82.
- ^ 平義彦「武智船長漂流記 船影」『長崎新聞』2001年9月28日。オリジナルの2002年2月23日時点におけるアーカイブ。2019年8月3日閲覧。
- ^ 塩入 2001, p. 3.
- ^ a b 武智 2001, pp. 91–92
- ^ a b 武智 2001, pp. 100–101
- ^ a b 平義彦「武智船長漂流記 枯渇」『長崎新聞』2001年9月30日。オリジナルの2002年6月18日時点におけるアーカイブ。2019年8月3日閲覧。
- ^ 吉岡 2005, pp. 113–115.
- ^ 吉岡 2005, pp. 108–111.
- ^ 武智 2001, pp. 106–110.
- ^ 吉岡 2005, pp. 98–100.
- ^ 平義彦「武智船長漂流記 台風」『長崎新聞』2001年10月1日。オリジナルの2002年6月18日時点におけるアーカイブ。2019年8月3日閲覧。
- ^ a b 平義彦「武智船長漂流記 愛船」『長崎新聞』2001年10月2日。オリジナルの2002年6月18日時点におけるアーカイブ。2019年8月3日閲覧。
- ^ 武智 2001, pp. 134–138.
- ^ a b c 平義彦「武智船長漂流記 極限」『長崎新聞』2001年10月3日。オリジナルの2001年12月26日時点におけるアーカイブ。2019年8月3日閲覧。
- ^ 吉岡 2005, pp. 137–141.
- ^ 武智 2001, pp. 144–151.
- ^ a b 平義彦「武智船長漂流記 救難信号」『長崎新聞』2001年10月4日。オリジナルの2001年12月26日時点におけるアーカイブ。2019年8月3日閲覧。
- ^ 吉岡 2005, pp. 146–149.
- ^ 武智 2001, pp. 159–160.
- ^ a b 平義彦「武智船長漂流記 発見」『長崎新聞』2001年9月19日。オリジナルの2002年2月5日時点におけるアーカイブ。2019年8月3日閲覧。
- ^ 吉岡 2005, pp. 153–155.
- ^ 吉岡 2005, pp. 155–159.
- ^ 平義彦「武智船長漂流記 救助」『長崎新聞』2001年9月20日。オリジナルの2002年2月23日時点におけるアーカイブ。2019年8月3日閲覧。
- ^ 武智 2001, pp. 194–196.
- ^ 山田吉彦「49日ぶりの生還! 国籍不明の漂流者を「助ける」勇気と「生きる」勇気」『FNN.jpプライムオンライン』フジニュースネットワーク、2018年9月26日。2019年8月3日閲覧。
- ^ a b c 近松仁太郎「窃盗 流行語大賞→講演活動→パチスロ浪費→漁網盗む「漂流人生」元漁師に有罪判決」『毎日新聞』毎日新聞社、2006年10月31日、西部朝刊、27面。
- ^ 武智 2001, p. 223.
- ^ a b c 武智 2001, pp. 22–35
- ^ a b c 武智 2001, pp. 38–44
- ^ 吉岡 2005, pp. 14–17.
- ^ 吉岡 2005, pp. 52–56.
- ^ 武智 2001, pp. 56–62.
- ^ a b c d 塩入雄一郎「武智手記」『西日本新聞』西日本新聞社、2001年、2面。オリジナルの2004年12月31日時点におけるアーカイブ。2019年8月3日閲覧。
- ^ 武智 2001, pp. 67–68.
- ^ a b c d 武智 2001, pp. 211–215
- ^ 武智 2001, pp. 197–199.
- ^ a b “日曜ファミリア やっちまったTV【TV初告白! 流行語受賞の37日漂流男】”. TVでた蔵. ワイヤーアクション (2016年9月11日). 2019年8月3日閲覧。
- ^ 「漁網盗んだ疑いで西海の元船長逮捕 2001年に漂流で話題」『読売新聞』読売新聞社、2016年8月12日、西部朝刊、28面。
参考文献
[編集]- 武智三繁『あきらめたから、生きられた』小学館〈Be-pal books〉、2001年12月20日。ISBN 978-4-09-366471-4。
- 吉岡忍『ある漂流者のはなし』筑摩書房〈ちくまプリマー新書〉、2005年6月10日。ISBN 978-4-480-68714-2。