梅雨
梅雨(つゆ、ばいう)は、北海道付近[1]と小笠原諸島を除く日本、朝鮮半島南部、中国の南部から長江流域にかけての沿海部、および台湾など、東アジアの広範囲においてみられる特有の気象現象で、5月から7月にかけて来る曇りや雨の多い期間のこと。雨季の一種である[2]。
名称
[編集]漢字表記「梅雨」の語源としては、この時期は梅の実が熟す頃であることからという説や、この時期は湿度が高くカビが生えやすいことから「黴雨(ばいう)」と呼ばれ、これが同じ音の「梅雨」に転じたという説、この時期は「毎」日のように雨が降るから「梅」という字が当てられたという説がある。普段の倍、雨が降るから「倍雨」というのはこじつけ(民間語源)である。このほかに「梅霖(ばいりん)」、旧暦で5月頃であることに由来する「五月雨(さみだれ)」、麦の実る頃であることに由来する「麦雨(ばくう)」などの別名がある。
なお、「五月雨」の語が転じて、梅雨時の雨のように、物事が長くだらだらと続くことを「五月雨式」と言うようになった。また梅雨の晴れ間のことを「五月晴れ(さつきばれ)」というが、この言葉は最近では「ごがつばれ」とも読んで新暦5月初旬のよく晴れた天候を指すことの方が多い。気象庁では5月の晴れのことを「さつき晴れ」と呼び、梅雨時の晴れ間のことを「梅雨の合間の晴れ」と呼ぶように取り決めている。五月雨の降る頃の夜の闇のことを「五月闇(さつきやみ)」という。
地方名には「ながし」(鹿児島県奄美群島[3])、「なーみっさ」(喜界島での別名[4])がある。沖縄では、梅雨が小満から芒種にかけての時期に当たるので「小満芒種(スーマンボースー、しょうまんぼうしゅ)」や「芒種雨(ボースーアミ、ぼうしゅあめ)」という別名がある。
中国では「梅雨(メイユー)」、「芒種雨」[2]、韓国では「장마(チャンマ)」(「長い雨」の意味と推定される[5])という[2]。中国では、古くは「梅雨」と同音の「霉雨」という字が当てられており、現在も用いられることがある。「霉」はカビのことであり、日本の「黴雨」と同じ意味である。
中国では、梅が熟して黄色くなる時期の雨という意味の「黄梅雨(ファンメイユー)」もよく用いられる[6]。
東アジアの四季変化における梅雨
[編集]気候学的な季節変化を世界と比較したとき、東アジアでは春夏秋冬に梅雨を加えた五季、また日本に限るとさらに秋雨を加えた六季の変化がはっきりと表れる[2]。
東アジアでは、春や秋は、温帯低気圧と移動性高気圧が交互に通過して周期的に天気が変化する。一方、盛夏期には亜熱帯高気圧(太平洋高気圧)の影響下に入って高温多湿な気団に覆われる。そして、春から盛夏の間と、盛夏から秋の間には、中国大陸東部から日本の東方沖に前線が停滞することで雨季となる。この中で、春から盛夏の間の雨季が梅雨、盛夏から秋の間の雨季が秋雨である。なお、梅雨は東アジア全体で明瞭である一方、秋雨は中国大陸方面では弱く日本列島方面で明瞭である。また、盛夏から秋の間の雨季の雨の内訳として、台風による雨も無視できないほど影響力を持っている[2]。
梅雨の時期が始まることを梅雨入りや入梅(にゅうばい)といい、社会通念上・気象学上は春の終わりであるとともに夏の始まり(初夏)とされる。なお、日本の雑節の1つに入梅(6月11日頃)があり、暦の上ではこの日を入梅とするが、これは水を必要とする田植えの時期の目安とされている。また、梅雨が終わることを梅雨明けや出梅(しゅつばい)といい、これをもって本格的な夏(盛夏)の到来とすることが多い。ほとんどの地域では、気象当局が梅雨入りや梅雨明けの発表を行っている。
梅雨の期間はふつう1か月から1か月半程度である。また、梅雨期の降水量は九州では500mm程度で年間の約4分の1・関東や東海では300mm程度で年間の約5分の1ある。西日本では秋雨より梅雨の方が雨量が多いが、東日本では逆に秋雨の方が多い(台風の寄与もある)。梅雨の時期や雨量は、年によって大きく変動する場合があり、例えば150mm程度しか雨が降らなかったり、梅雨明けが平年より2週間も遅れたりすることがある。そのような年は猛暑・少雨であったり冷夏・多雨であったりと、夏の天候が良くなく気象災害が起きやすい[2][7][8]。
東アジアは中緯度に位置している。同緯度の中東などのように亜熱帯高気圧の影響下にあって乾燥した気候となってもおかしくないが、大陸東岸は夏季に海洋を覆う亜熱帯高気圧の辺縁部になるため雨が多い傾向にある。これは北アメリカ大陸東岸も同じだが、九州では年間降水量が約2,000mmとなるなど、熱帯収束帯の雨量にも劣らないほどの雨量がある。この豊富な雨量に対する梅雨や秋雨の寄与は大きい。梅雨が大きな雨量をもたらす要因として、インドから東南アジアへとつながる高温多湿なアジア・モンスーンの影響を受けている事が挙げられる[2][9]。
時折、梅雨は「雨がしとしとと降る」「それほど雨足の強くない雨や曇天が続く」と解説されることがある。これは東日本では正しいが、西日本ではあまり正しくない。梅雨の雨の降り方にも地域差があるためである。特に西日本や華中(長江の中下流域付近)では、積乱雲が集まった雲クラスターと呼ばれる水平規模100km前後の雲群がしばしば発生して東に進み、激しい雨をもたらすという特徴がある[2]。日本本土で梅雨期にあたる6-7月の雨量を見ると、日降水量100mm以上の大雨の日やその雨量は西や南に行くほど多くなるほか、九州や四国太平洋側では2カ月間の雨量の半分以上がたった4-5日間の日降水量50mm以上の日にまとまって降っている[10]。梅雨期の総雨量自体も、日本本土では西や南に行くほど多くなる[2]。
メカニズムと経過
[編集]気団
[編集]梅雨の時期には、以下の4つの気団が東アジアに存在する。
- オホーツク海に存在。冷たく湿った海洋性の気団。
- 北太平洋西部に存在。高温・多湿で海洋性の気団。
春から夏に季節が移り変わる際、東アジアでは性質の違うこれらの気団がせめぎ合う。中国大陸方面と日本列島・朝鮮半島方面ではせめぎ合う気団が異なる。
- 中国大陸方面:北の■揚子江気団と南の■熱帯モンスーン気団が接近し、主に両者の湿度の差によって停滞前線が形成される[注 1]。
- 日本列島・朝鮮半島方面:北の■オホーツク海気団と南の■小笠原気団が接近し、主に両者の温度の差により、停滞前線が形成される[注 1]。
性質が似ていることや、距離が離れていて干渉が少ないことなどから、北側の気団同士・南側の気団同士の間には、前線は形成されない。
北と南の気団が衝突した部分には東西数千kmに渡って梅雨前線(ばいうぜんせん)ができ、数か月に渡って少しずつ北上していく。この前線付近では雨が降り続くが、長雨の期間は各地域で1か月–2か月にもなる。これが梅雨である。
華南に停滞する梅雨前線の雲(画像上部。2008年5月22日、PD NASA) |
本州に停滞する梅雨前線の雲(画像中央。下の濃緑の部分は九州から紀伊半島。2006年7月16日、PD NASA) |
華中から朝鮮半島にかけて停滞する梅雨前線の雲(画像中央付近。2008年7月22日、PD NASA) |
梅雨前線の最初
[編集]冬の間、シベリアから中国大陸にかけての広範囲を冷たく乾燥したシベリア気団が覆っている。シベリア気団はしばしば南下して寒波をもたらし、日本の日本海側に大雪を降らせるが、チベット高原では高い山脈が邪魔して気団がそれ以上南下できない。そのチベット高原の南側、インド-フィリピンにかけての上空を亜熱帯ジェット気流が流れる。
冬が終わり春が近づくにつれ、シベリア気団は勢力が弱くなり、次第に北上していく。代わって中国大陸には暖かく乾燥した揚子江気団ができ始め、勢力を強めていく。春になると、揚子江気団は東の日本列島や朝鮮半島などに移動性高気圧を放出し、これが偏西風に乗って東に進み、高気圧の間にできた低気圧とともに春の移り変わりやすい天候を作り出している。
春が終わりに差し掛かるにつれて、南シナ海付近にある熱帯モンスーン気団が勢力を増し北上してくる。すると、揚子江気団と熱帯モンスーン気団が衝突し始める。地上天気図でみると、揚子江気団からできた高気圧と熱帯モンスーン気団からできた高気圧が南シナ海上でせめぎあい、その間に前線ができていることがわかる。これが最初の梅雨前線である。
例年、華南や南西諸島南方沖付近では5月上旬頃に、梅雨前線のでき始めである雲の帯(専門的には準定常的な雲帯と呼ぶことがある)が発生する。
明瞭になる梅雨前線
[編集]5月上旬には南西諸島も梅雨前線の影響を受け始める。5月中旬ごろになると、梅雨前線ははっきりと天気図上に現れるようになり、華南や南西諸島付近に停滞する。
一方、初夏に入った5月ごろ、亜熱帯ジェット気流も北上し、チベット高原に差し掛かる。ただし、チベット高原は上空を流れる亜熱帯ジェット気流よりもさらに標高が高いため、亜熱帯ジェット気流はチベット高原を境に北と南の2つの流れに分かれてしまう。
分かれた亜熱帯ジェット気流のうち、北側の分流は、樺太付近で寒帯ジェット気流と合流する。さらにこの気流は、カムチャツカ半島付近で南側の分流と合流する。この合流の影響で上空の大気が滞ると、下降気流が発生して、その下層のオホーツク海上に高気圧ができる。この高気圧をオホーツク海高気圧といい、この高気圧の母体となる冷たく湿った気団をオホーツク海気団という。
同じごろ、太平洋中部の洋上でも高気圧が勢力を増し、範囲を西に広げてくる。この高気圧は北太平洋を帯状に覆う太平洋高気圧の西端で小笠原高気圧ともいい、この母体となる暖かく湿った気団を小笠原気団という。
5月下旬から6月上旬ごろになると、九州や四国が梅雨前線の影響下に入り始める。このころから、梅雨前線の東部ではオホーツク海気団と小笠原気団のせめぎあいの色が濃くなってくる。一方、華北や朝鮮半島、東日本では、高気圧と低気圧が交互にやってくる春のような天気が続く。
北上する梅雨前線
[編集]北上を続ける梅雨前線は、6月中旬に入ると、中国では南嶺山脈付近に停滞、日本では本州付近にまで勢力を広げてくる。
次に梅雨前線は中国の江淮(長江流域・淮河流域)に北上する。6月下旬には華南や南西諸島が梅雨前線の勢力圏から抜ける。7月に入ると東北地方も梅雨入りし、北海道を除く日本の本土地域が本格的な長雨に突入する。また同じころ、朝鮮半島南部も長雨の時期に入る。
7月半ばを過ぎると、亜熱帯ジェット気流がチベット高原よりも北を流れるようになり、合流してオホーツク海気団が弱まってくる。一方で、太平洋高気圧が日本の南海上を覆い続けて晴天が続くようになり、日本本土や朝鮮半島も南から順に梅雨明けしてくる。
こうして北上してきた梅雨前線は最終的に、北京などの華北・中国東北部に達する。例年、この頃には前線の勢力も弱まっており、曇天続きになることはあるが前線が居座り続けるようなことはほとんどない。また、8月中旬・下旬を境にしてこれ以降の長雨はいわゆる秋雨であり、前線の名前も秋雨前線に変わるが、前線の南北の空気を構成する気団は同じである[6]。ただし、秋雨は中国大陸方面ではほとんど見られない。西日本でも秋雨はあるものの雨量はそれほど多くない。一方、東日本、および北日本(北海道除く)では梅雨期の雨量よりもむしろ秋雨期の雨量の方が多いという傾向がある(ただし、秋雨期の雨量には台風によるまとまった雨も含まれる)。
梅雨前線の性質
[編集]性質の違う2つの空気(気団という)がぶつかる所は大気の状態が不安定になり、前線が発生する。梅雨前線を構成する気団はいずれも勢力が拮抗しているため、ほぼ同じ地域を南北にゆっくりと移動する停滞前線となる。
梅雨前線の南側を構成する2つの気団はともに海洋を本拠地とする気団(海洋性気団)のため、海洋から大量の水蒸気を吸収して湿潤な空気を持っている。ただ、北側の気団と南側の気団とではお互いの温度差が小さいため、通常はほとんどが乱層雲の弱い雨雲で構成される。そのため、しとしととあまり強くない雨を長時間降らせる。
しかし、上空の寒気や乾燥した空気が流入したり、台風や地表付近に暖かく湿った空気(暖湿流)が流入したりすると、前線の活動が活発化して、積乱雲をともなった強い雨雲となり、時に豪雨となる。
2つの高気圧がせめぎあい、勢力のバランスがほぼつり合っているとき、梅雨前線はほとんど動かない。しかし、2つの高気圧の勢力のバランスが崩れたときや、低気圧が近づいてきたり、前線付近に低気圧が発生したりしたときは一時的に温暖前線や寒冷前線となることもある。梅雨前線の活動が太平洋高気圧の勢力拡大によって弱まるか、各地域の北側に押し上げられ、今後前線の影響による雨が降らない状況になったとき、梅雨が終わったとみなされる。
梅雨入りの特定なしの年
[編集]年によっては梅雨入りの時期が特定できなかったり、あるいは発表がされないこともある[注 2]。梅雨入りの特定ができなかったのは、1963年の四国地方・近畿地方が唯一の事例である。なお、2024年時点では、梅雨入りそのものがなかった事例は、統計開始以来まだ皆無である。これは、太平洋高気圧の勢力が強いために梅雨前線が四国地方、中国地方、近畿地方、北陸地方から北上して進みそのまま夏空に突入し、南の高気圧となって次第に南下していくパターンがほとんどである(小暑を境にして、小暑以降はそのまま梅雨明けになる)。この場合でも、四国地方、中国地方、近畿地方、北陸地方では高温や晴天がやや多くなるものの、概ね晴天が続く「夏」が訪れている。このことから、年によっては、近畿地方における(本当の)夏は北陸地方よりも長いとされている。
梅雨明けの特定なしの年
[編集]年によっては梅雨明けの時期が特定できなかったり、あるいは発表がされないこともある[注 3]。東北地方(特に青森・岩手・秋田の北東北3県)、関東甲信地方ではこのパターンが数年に一度の割合で起こる。これは、オホーツク海高気圧の勢力が強いために梅雨前線が東北地方から北上できずにそのまま秋に突入し、秋雨前線となって次第に南下していくパターン、または梅雨前線が本州から完全に消滅した場合であっても曇りや雨の日が多く、大気の状態が安定しない天候が続くパターンがほとんどである(立秋を境にして、立秋以降の長雨を秋雨とする)。この場合でも、北の北海道では低温や曇天がやや多くなるものの、概ね晴天が続く「夏」が訪れている。このことから、年によっては、東北地方における(本当の)夏は北海道よりも短いとされている。
アジアモンスーンと梅雨
[編集]梅雨前線は、気象学的にはモンスーンをもたらす前線(モンスーン前線)の1つである。インドをはじめとした南アジアや東南アジアのモンスーンは、インド洋や西太平洋に端を発する高温多湿の気流が原因である。世界最多の年間降水量を有する地域(インドのチェラプンジ)を含むなど、この地域のモンスーンは地球上で最も規模が大きく、広範囲で連動して発生していることから、総称してアジア・モンスーンと呼ばれる。またこの影響を受ける地域をモンスーン・アジアという。
アジア・モンスーンの影響範囲はさらに東にまで及んでおり、南シナ海を覆う熱帯モンスーン気団にも影響を与えている。具体的には、南西諸島や華南の梅雨の降雨の大部分が熱帯モンスーン気団によってもたらされるほか、太平洋高気圧の辺縁を時計回りに吹く気流が、この熱帯モンスーン気団の影響を受けた空気を日本・朝鮮半島付近まで運んできて雨を増強する。このような関連性を考えて、気象学では一般的に、梅雨がある中国沿海部・朝鮮半島・日本列島の大部分をモンスーン・アジアに含める。
また、梅雨前線付近の上空の大気をみると、冬の空気と春・秋の空気の境目となる寒帯前線、春・秋の空気と夏の空気の境目となる亜熱帯前線が接近して存在していて、梅雨は「季節の変わり目」の性質が強い。
各地の梅雨
[編集]日本
[編集]地方 | 梅雨入り | 梅雨明け | 日数注2 |
---|---|---|---|
北海道 | – | – | – |
東北北部 | 6月15日 | 7月28日 | 44日 |
東北南部 | 6月12日 | 7月24日 | 43日 |
北陸 | 6月11日 | 7月23日 | 43日 |
関東甲信 | 6月 | 7日7月19日 | 43日 |
東海 | 6月 | 6日7月19日 | 44日 |
近畿 | 6月 | 6日7月19日 | 44日 |
中国 | 6月 | 6日7月19日 | 44日 |
四国 | 6月 | 5日7月17日 | 43日 |
九州北部 | 6月 | 4日7月19日 | 46日 |
九州南部 | 5月30日 | 7月15日 | 47日 |
奄美 | 5月12日 | 6月29日 | 49日 |
沖縄 | 5月10日 | 6月21日 | 43日 |
出典[7] / 注1:1991年 - 2020年平均 注2:梅雨入りの日と梅雨明けの日を含む日数 |
地点名 | 梅雨入り | 梅雨明け | 降水量の平年比注1 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
最早値 | 最晩値 | 最早値 | 最晩値 | 最少 | 最多 | |
北海道 | - | - | - | - | - | - |
東北北部 | 6月 | 2日7月 | 3日7月 | 8日8月14日 | 30% | 169% |
東北南部 | 6月 | 1日6月30日 | 7月 | 5日8月 | 9日41% | 153% |
北陸 | 5月22日 | 6月28日 | 7月 | 2日8月14日 | 36% | 176% |
関東甲信 | 5月 | 6日6月22日 | 6月29日 | 8月 | 4日50% | 174% |
東海 | 5月 | 4日6月28日 | 6月22日 | 8月 | 3日50% | 193% |
近畿 | 5月22日 | 6月27日 | 7月 | 3日8月 | 3日40% | 184% |
中国 | 5月 | 8日6月26日 | 7月 | 3日8月 | 3日38% | 195% |
四国 | 5月12日 | 6月26日 | 7月 | 1日8月 | 2日56% | 187% |
九州北部 | 5月11日 | 6月26日 | 7月 | 1日8月 | 4日31% | 192% |
九州南部 | 5月 | 1日6月21日 | 6月24日 | 8月 | 8日33% | 182% |
奄美 | 4月25日 | 5月28日 | 6月10日 | 7月20日 | 32% | 185% |
沖縄 | 4月20日 | 6月 | 4日6月 | 8日7月10日 | 34% | 214% |
出典[11] / 注1:気象台・測候所等の地域平均。沖縄と奄美は5・6月、 それ以外は6・7月。1991年 - 2020年平均。 |
北海道
[編集]実際の気象としては北海道にも道南を中心に梅雨前線がかかることはあるが、平均的な気象として、つまり気候学的には北海道に梅雨はないとされている[12]。1970年(昭和45年)に気象庁は梅雨の定義を統一し過去の梅雨入り・明けも遡って決定したが、このとき、北海道については梅雨がはっきりしないことから梅雨入り・明けを定めないことになった。「蝦夷梅雨」(えぞつゆ)の俗称が登場したのはこれ以降とされる[13]。梅雨前線が北海道に到達する梅雨末期は勢力が衰え、北上する速度が速まることが背景にある。
北海道の中でも南西部太平洋側(渡島・胆振・日高)では本州の梅雨末期に大雨が降る事がある。また、北海道の広い範囲でこの時期は低温や日照不足が起こりやすいほか、釧路など東部で海霧の日数が多くなるのも、東北や関東・甲信越の梅雨と同じくオホーツク海高気圧の影響を受けている[12]。特に、5月下旬から6月上旬を中心として見られる一時的な低温は、北海道ではリラ(ライラック)の花が咲く時期であることから俗に「リラ冷え」とも呼ぶ[注 4][14][15]。また、このようにぐずついた肌寒い天気が、年によっては2週間程度、本州の梅雨と同じ時期に続くことがあり、「蝦夷梅雨」と呼ばれることも決して少なくない[16]。
1990年代以降より、北海道では限りなく梅雨に近い天候が現れる年が次第に増加している。梅雨の特徴のひとつである日照の顕著な減少を指標とした研究では、本州以南で毎年みられるような「メリハリ」のある日照変化が札幌では1960年代 - 1980年代に約4年に1回だったが、1990年代以降は約2年に1回になり頻度が増している。レジームシフトに伴う気候変動で北海道でも梅雨が発生するようになるのではないかという議論はあるが、気候モデルの梅雨前線帯に対応する亜熱帯ジェットが現在より南に偏るとする予測はこれに反している。梅雨らしい天候は主にラニーニャの発生時にみられ、毎年ではない。頻度増加の原因にはPDO指数の負偏移などが指摘されている[13]。
沖縄〜東北
[編集]日本では各地の地方気象台・気象庁が、数個の都府県をまとめた地域ごとに毎年梅雨入り・梅雨明けの発表をする(北海道を除く)。まず、梅雨入り・梅雨明けしたと思われるその日(休日の場合は、以降最初の平日)に「速報値」として発表が行われ、その発表に従って「梅雨入りしたとみられる」・「梅雨明けしたとみられる」と報道される。その後、5月から8月の天候経過を総合的に検討し、毎年9月に最終的な梅雨の時期を「確定値」として発表する。その際、速報値での梅雨入り・梅雨明けの期日の修正が行われたり、最終的に「特定せず」という表現になることもある。一般に、南の地域ほど梅雨の到来は早く、沖縄は5月中旬から6月下旬、東北・北陸では6月下旬から7月下旬頃となるのが平均的である。
梅雨入りや梅雨明けの発表は通常、次のようにして行われる。各気象台は主に、1週間後までの中期予報とそれまでの天候の推移から、晴れが比較的多い初夏から曇りや雨の多い梅雨へと変わる「境目」を推定して、それを梅雨入りの日として発表している。端的には、管轄地域で曇りや雨が今後数日以上続くと推定されるときにその初日を梅雨入りとする。梅雨明けの場合は逆に晴れが数日以上つづくときである。中期予報の根拠になるのは、誤差が比較的少ないジェット気流などの上空の大気の流れ(亜熱帯ジェット気流と梅雨前線の位置関係は対応がよい)の予想などである。ただ、この中期予報自体が外れると、発表通りにいかず晴れたりする。梅雨入りや梅雨明けの発表は、確定したことを発表するのではなく、気象庁によれば「予報的な要素を含んでいる」ので、外れる場合もある。
ただし、梅雨前線が停滞したまま立秋を過ぎると、梅雨明けの発表はされない。立秋の時期はちょうど、例年梅雨前線がもっとも北に達するころであり、これ以降はどちらかといえば秋雨の時期に入る。しかし、この場合でも翌年には通常通り「梅雨入り」を迎えるが、「梅雨明けがないまま一年を越して重畳的にまた梅雨入りとなる」わけではない。つまり、梅雨明けがない場合は「はっきりと夏の天気が現れないまま梅雨から秋雨へと移行する」と考える。
梅雨期間の終了発表のことを俗に梅雨明け宣言という。基本的に、梅雨前線の北上に伴って南から北へ順番に梅雨明けを迎えるが、必ずしもそのようにならない場合もある。前線が一部地域に残存してしまうような場合には、より北の地方の方が先に梅雨明けになる場合もある。過去に、先に梅雨入りした中国地方より後に梅雨入りした北陸地方が先に梅雨明けしたり、関東地方の梅雨明けが西日本より大幅に遅れたりした例がある。
梅雨の末期は太平洋高気圧の勢力が強くなって等圧線の間隔が込むことで高気圧のへりを回る「辺縁流」が強化され、暖湿流が入りやすくなるため豪雨となりやすい[17]。逆に梅雨明け後から8月上旬くらいまでは「梅雨明け十日」といって天候が安定することが多く、猛暑に見舞われることもある。
梅雨の期間はどの地方でも40日から50日前後と大差はないが、期間中の降水量は大きく異なる。本土では西や南に行くほど多くなり、東北よりも関東・東海・近畿、関東・東海・近畿よりも九州北部、九州北部よりも九州南部の方が多い。一方南西諸島では、石垣島や那覇よりも名瀬の方が期間降水量は多く、総合的に日本付近の梅雨期の雨量は九州南部が最も多い[17]。
ただし、梅雨前線が北上したまま小暑を過ぎると、梅雨入りの発表はされない。小暑の時期はちょうど、明確な区切り無く梅雨明けに移る。小暑以降の梅雨明けという。つまり、梅雨入りがない場合は「はっきりと梅雨の天気が現れないまま梅雨から夏空へと移行する」と考える。
小笠原諸島
[編集]小笠原諸島が春から夏への遷移期にあたる5月には、気団同士の中心が離れているため前線が形成されず、雨が長続きしない。そして初夏を迎える6月頃より太平洋高気圧の圏内に入ってその後ずっと覆われるため、こちらも梅雨がない[18]。
中国
[編集]中国中部・南部でも梅雨がみられる。中国では各都市の気象台が、梅雨入りと梅雨明けの発表をしている。ある研究では、1971年 - 2000年の各都市の梅雨入り・梅雨明けの平均値で、長江下流域の梅雨入りは6月14日、梅雨明けは7月10日、淮河流域の梅雨入りは6月18日、梅雨明けは7月11日となっている[6]。
目安として、華南では5月中旬ごろに梅雨前線による長雨が始まり6月下旬ごろに終わる。時間とともにだんだんと長雨の地域は北に移り、6月中旬ごろから7月上旬ごろに華東(長江中下流域)、6月下旬ごろから7月下旬ごろに華北の一部が長雨の時期となる。長雨はそれぞれ1か月ほど続く。
朝鮮半島
[編集]朝鮮半島では6月下旬ごろから7月下旬ごろに長雨の時期となり、1か月ほど続く。北にいくほど長雨ははっきりしないものになる[19]。
地域 | 梅雨入り | 梅雨明け | 平均日数 | 期間降水量 |
---|---|---|---|---|
中部地方 | 6月25日 | 7月26日 | 31.5日 | 378.3 mm |
南部地方 | 6月23日 | 7月24日 | 31.4日 | 341.1 mm |
済州道 | 6月19日 | 7月20日 | 32.4日 | 348.7 mm |
出典[20] /注1: 1973年 - 2021年の平均。降水量は各地点の地域平均。 |
梅雨の気象の特徴
[編集]梅雨入り前の5 - 6月ごろ、日本の南岸に前線が一時的に停滞し、数日間程度梅雨に似た天候がみられることがある[21]。これを走り梅雨(はしりづゆ)[21]、梅雨の走り(つゆのはしり)、あるいは迎え梅雨(むかえづゆ)と呼ぶ。
梅雨入り当初は比較的しとしととした雨が連続することが多い。梅雨の半ばには一旦天気が回復する期間が出現することがある。この期間のことを梅雨の中休み(つゆのなかやすみ)という。
梅雨の時期、特に、長雨の場合は、日照時間が短いため、気温の上下(最高気温と最低気温の差、日較差)が小さく、肌寒く感じることがある。この寒さや天候を梅雨寒(つゆざむ)または梅雨冷(つゆびえ)と呼ぶ。一方、梅雨期間中の晴れ間は梅雨晴れ(つゆばれ)または梅雨の晴れ間と呼ばれ、特に、気温が高く、湿度も高い。そのため、梅雨晴れの日は不快指数が高くなり過ごしにくく、熱中症が起こりやすい傾向にある。
梅雨末期には降雨量が多くなることが多く、ときとして集中豪雨になることがある。中国地方および九州の東シナ海側ではこれが顕著で、特に熊本県・宮崎県・鹿児島県の九州山地山沿いでは十数年に1回程度の割合で短期間に1000mm程度の大雨が降ることがある。逆に、関東や東北など東日本および徳島県南部・高知県と大分県佐伯市・宮崎県では梅雨の時期よりも台風と重なる秋雨の時期のほうが雨量が多い。
梅雨末期の雨を荒梅雨(あらづゆ)あるいは暴れ梅雨(あばれづゆ)とも呼ぶ。また、梅雨の末期には雷をともなった雨が降ることが多く、これを送り梅雨(おくりづゆ)と呼ぶ[22]。また、梅雨明けした後も、雨が続いたり、いったん晴れた後また雨が降ったりすることがある。これを帰り梅雨(かえりづゆ、返り梅雨とも書く)または戻り梅雨(もどりづゆ)と呼ぶ[22]。これらの表現は近年ではあまり使われなくなってきている。
梅雨明けが遅れた年は冷夏となる場合も多く、冷害が発生しやすい傾向にある。
梅雨は日本の季節の中でも高温と高湿が共に顕著な時期であり、カビや食中毒の原因となる細菌・ウイルスの繁殖が進みやすいことから、これらに注意が必要な季節とされている[8]。
空梅雨
[編集]梅雨の期間中ほとんど雨が降らない場合がある。このような梅雨のことを空梅雨(からつゆ)という。空梅雨の場合、夏季に使用する水(特に稲作に必要な農業用水)が確保できなくなり、渇水を引き起こすことが多く、特に青森、岩手、秋田の北東北地方においては空梅雨になる確率がかなり高く、また、秋季〜冬季の降水量が少ない北部九州や瀬戸内地方などでは、空梅雨の後、台風などによるまとまった雨がない場合、渇水が1年以上続くこともある。
陰性・陽性
[編集]あまり強くない雨が長く続くような梅雨を陰性の梅雨、雨が降るときは短期間に大量に降り、降らないときはすっきりと晴れるような梅雨を陽性の梅雨と表現することもある。陰性の梅雨を女梅雨(おんなづゆ)、陽性の梅雨を男梅雨(おとこづゆ)とも呼ぶこともあり、俳句では季語として使われる場合がある。
傾向として、陰性の場合は、オホーツク海高気圧の勢力が強いことが多く、陽性の場合は、太平洋高気圧の勢力が強いことが多いが、偏西風の流路や、北極振動・南方振動(ENSO、エルニーニョ・ラニーニャ)なども関係している。
台風との関連
[編集]台風や熱帯低気圧は地上付近では周囲から空気を吸い上げる一方、上空数千m-1万mの対流圏上層では吸い上げた空気を湿らせて周囲に大量に放出している。そのため、梅雨前線の近くに台風や熱帯低気圧が接近または上陸すると、水蒸気をどんどん供給された梅雨前線が活発化して豪雨となる。また、梅雨前線が、勢力が弱まった台風や温帯低気圧とともに北上して一気に梅雨が明けることがある。
梅雨の豪雨パターン
[編集]梅雨の時期の大雨や豪雨の事例をみていくと、気圧配置や気象状況にある程度のパターンがあるといわれている。日本海側で豪雨になりやすいのが日本海南部、あるいは朝鮮半島に停滞する梅雨前線付近を低気圧が東に進むパターンで、低気圧に向かって南西から湿った空気が流れ込み、その空気が山脈にぶつかって局地的な豪雨となりやすい。
太平洋側で豪雨になりやすいのが、梅雨前線が長期的に停滞するパターンや、太平洋側付近に梅雨前線、西側に低気圧がそれぞれ停滞するパターンであり、南 - 南東から湿った空気が流れ込み、同じようにその空気が山脈にぶつかって局地的な豪雨となりやすい。
このほか、梅雨前線沿いにクラウドクラスター(楕円形の雲群をつくる降水セルの一種)と呼ばれる積乱雲の親雲が東進すると、豪雨となりやすいことが知られている。上空の大気が乾燥している中国大陸や東シナ海で形成され、日本方面へやってくることが多い。
海洋変動との関連
[編集]統計的にみて、赤道付近の太平洋中部-東部にかけて海水温が上昇・西部で低下するエルニーニョ現象が発生したときは、日本各地で梅雨入り・梅雨明け共に遅くなる傾向にあり、降水量は平年並み、日照時間は多めとなる傾向にある[23]。また、同じく中部-東部で海水温が低下・西部で上昇するラニーニャ現象が発生したときは、沖縄で梅雨入りが遅めになるのを除き、日本の一部で梅雨入り・梅雨明けともに早くなる傾向にあり、降水量は一部を除き多め、日照時間はやや少なめとなる傾向にある[24]。
梅雨前線によってもたらされた災害
[編集]日本
[編集]梅雨の気象記録
[編集]- 最大1時間降水量
- 最大年間降水量
梅雨入り・梅雨明けの発表
[編集]日本の気象庁が梅雨入り・梅雨明けの情報提供を始めたのは1955年ごろとされ、「お知らせ」として報道機関に連絡していた[25][26]。気象情報として発表を始めたのは1986年になってからである[25]。
梅雨の時期を発表することにより、長雨・豪雨という水害・土砂災害につながりやすい気象が頻発する時期としての「梅雨」を知らせることで防災意識を高める[25]、多雨・高温多湿が長続きする「梅雨」の時期を知らせることで生活面・経済面での対策を容易にする、「梅雨」という一種の季節の開始・終了を知らせることで季節感を明確にする(春一番、木枯らし、初雪などの発表と同様の役割)といった効果が期待されている。
梅雨とは「晩春から夏にかけて雨や曇りの日が多く現れる現象、またはその期間」と定義されているが、梅雨入り・明けには明確な定義はないため、気象庁と各気象台の担当者が梅雨入り・明けを判断し、「明けたとみられる」「梅雨入りしたとみられる」といった表現を使っている。梅雨入り・明けの発表は速報値であり、梅雨明けの発表後に雨が続くこともある。このため気象庁では毎年9月に、その年の梅雨を振り返り、梅雨入り・明けの日付けを見直して確定させている[27][28]。
2022年9月1日、気象庁は天候経過を事後的に検証し、7月半ばの天候不順を梅雨に含めるべきだと判断したため、関東甲信地方の梅雨明けの時期について、1951年の統計開始以降で最も早い6月27日頃としていた当初発表から、平年より4日遅い7月23日頃に修正した。九州南部・北部、中国、四国、近畿、東海も同様に、記録的に早い梅雨明けを6月下旬に発表していたが、いずれも平年より数日遅い7月下旬へ修正した。北陸、東北南部も同様に、記録的に早い梅雨明けを6月下旬に発表し、東北北部は7月26日頃に発表ていたが、いずれも特定できないとなった[29][30]。
気象庁は梅雨入り・明け発表をすることについて以下の理由を明記している。
- 梅雨期は大雨による災害が発生しやすい
- 梅雨明け後の盛夏期に必要な農業用の水等を蓄える重要な時期
- 曇りや雨の日が多くなって、日々の生活等にも様々な影響を与えることから、社会的にも関心が高い[31][32]
気象庁の担当者は「そもそも気象庁という役所が、『いつからですよ』といった季節のはじまりや終わりを決めるなんておこがましいのですが」と前置きしたうえで、「大雨のシーズンであり、災害も起きやすくなります。防災への意識を高めて、注意を払ってもらえるように、こうして発表しています」と語っている[33]。
梅雨に関連する文化
[編集]植物
[編集]楽曲
[編集]- 雨(作詞:北原白秋、作曲:弘田龍太郎)
- 雨ふり(作詞:北原白秋、作曲:中山晋平)
- 雨降りお月さん(作詞:野口雨情、作曲:中山晋平)
- 雨降り熊の子
- てるてる坊主(作詞:浅原六朗、作曲:中山晋平)
- かたつむり(唱歌)
- 五月雨(作詞・作曲・歌:大瀧詠一)
俳句
[編集]辞世の句
[編集]類似の気象現象
[編集]- 菜種梅雨
- おもに3月後半から4月前半頃の連日降りつづく寒々とした降雨を、菜の花が咲く頃に降るため「菜種梅雨(なたねづゆ)」という[34][35]。梅雨のように何日も降り続いたり、集中豪雨をみたりすることは少ないが、やはり、曇りや雨の日が多く、すっきりしない天気が何日も続くことが多い。
- また、「春の長雨」や「春霖(しゅんりん)」、「催花雨(さいかう)」とも言う[34][36]。「催花雨」は、桜をはじめいろいろな花を催す(咲かせる)雨という意味である[34][36]。「春雨(はるさめ)」も、この頃の雨を指して言う場合が多く、月形半平太の名台詞「春雨じゃ、濡(ぬ)れてゆこう」も、草木の芽を張らせ花を咲かせる柔らかい春の雨だからこそ、粋(いき)に聞こえる[36]。
- なお、NHKで「菜種梅雨」を言うときには、必ず説明を付けるようにしている[36]。
- 冬の間、本州付近を支配していた大陸高気圧の張り出しや、移動性高気圧の通り道が北に偏り、一方で、その北方高気圧の張り出しの南縁辺に沿って、冷湿な北東気流(やませ)が吹いたり、本州南岸沿いに前線が停滞しやすくなるために生じる[35]。そのときには南岸に小低気圧が頻繁に発生しやすくなるのもまた特色である。そのため、西 - 東日本太平洋沿岸部にかけていう場合が多く、北日本にはこの現象はみられない。近年は、暖冬傾向および、温暖化の影響もあり、菜種梅雨が冬に繰り上がるきらいがあり、気候の変動が懸念される面もある。
- また、菜種梅雨は梅雨のようにずっと続くということはなく、期間は一日中あるいは数日程度のことがほとんどである。
- 例としては、1990年2月は月の後半を中心に曇雨天続きで、東京での同・月間日照時間は僅か81時間しかならず、大暖冬を象徴するかのようだった。また、1985年には3月は月全体を通して関東以西の太平洋側地方では冷たい雨の連続で、東京では同年月での快晴日数は0(梅雨期である6、7月を除いては初のワースト記録)、日本気象協会発行の天気図日記では「暗い3月」と評される程であった。その他、1986年、1988年、1991年、1992年、1995年、1999年と3月が比較的長いこと曇雨天が持続した影響で、月間日照時間は北日本を除いてかなり少なかったため、20世紀末にかけての3月は、「菜の花の上にお日様無し」、「行楽受難・鬼門の月」、「花見には 傘など雨具が 必需品」、「卒業式、終業式、離任式はいつも雨」などと不名誉なレッテルが貼られたこともあった。その他、2002年、2006年には2月おわりから3月初めにかけて、南岸前線が停滞したり、朝晩中心に雨の降りやすいすっきりしない空が続いて、お天気キャスターの一部では「菜種梅雨の走り?」と評されたりもした。
- 走り梅雨
- おもに5月下旬から梅雨の先駆けのように雨が降り続く状態をいう[21][37]。ちょうど、その時期が卯の花が咲く頃にあたり、卯の花を腐らせるような雨ということから、「卯の花腐し(うのはなくたし)」[37]と呼ぶことがある。「たけのこ梅雨」[37]の名もある。沖縄など南西諸島の梅雨期にあり、南西諸島付近にある梅雨前線が一時的に本州南岸沿いに北上したときに多くみられる。また、オホーツク海高気圧が5月前半に出現した場合に北東気流の影響を受けやすくなるため、関東以北の太平洋側で低温と曇雨天が長続きすることがある。その他、メイストームなど、日本海や北日本方面を通過する発達した低気圧の後面に伸びる寒冷前線が本州を通過して、太平洋側に達した後、南海上の優勢な高気圧の北側に沿って、そのまま停滞前線と化して、太平洋側、おもに東日本太平洋沿岸部でしばらくぐずつき天気が続くケースもそのたぐいである。
- 秋雨
- おもに9月から10月上旬頃(地域によって時期に差がある)の長雨の時期をいう。大陸からの高気圧の張り出しが強まり、前線が南下して雨となる[38]。「秋霖(しゅうりん)」[38]、「薄(すすき)梅雨」などとも呼ぶ。
- →詳細は「秋雨」を参照
- 山茶花梅雨
- おもに11月下旬から12月上旬にかけての、連続した降雨を「山茶花(さざんか)梅雨」という。山茶花が咲く頃に降るためこの名前がある。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ a b 梅雨前線のもととなる対流(雲)は、大気の相当温位θeの減率が大きいほど強くなる。大気の温度や湿度が高いほどθeは大きいので、乾と湿、あるいは寒と暖の性質を持つ気団の衝突によって大気のθe減率が大きくなることで、前線の雲が発生しやすくなる。
- ^ 2004年に小暑の2日以降になってもまだ梅雨に入っていない場合は梅雨入りを発表(特定)しないことを定めた。また7月31日の時点でもまだ梅雨入りがなされていない場合は、梅雨入りそのものが存在しなかったとの発表となる(扱いは梅雨入り特定なしと同じ)。
- ^ 2004年に立秋の2日以降になってもまだ梅雨が明けない場合は梅雨明けを発表(特定)しないことを定めた。また8月31日の時点でもまだ梅雨明けしない場合は、梅雨明けそのものが存在しなかったとの発表となる(扱いは梅雨明け特定なしと同じ)。梅雨明け特定なしは何度があるが、梅雨明けそのものがなかったのは、現時点では唯一、1993年だけである。1993年の記録的長雨では、沖縄と北海道以外での梅雨が、8月も月末まで梅雨となり(8月の梅雨は度々発生する青森・岩手・秋田の北東北3県を除き観測史上では極めて稀である)、3か月近くにわたって梅雨が続いた状態であった(9月中旬にようやく沈静化)ため、梅雨明けそのものがなかった。
- ^ なお、「リラ冷え」は1970年代から知られるようになった言葉で、俳人の榛谷美枝子が初めて俳句に用いたものを、辻井達一が著書で紹介、それがさらに渡辺淳一によって引用され小説『リラ冷えの街』となり、テレビドラマ化もされたことが契機となって広まったと伝えられている。
出典
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参考文献
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- 『最新気象の事典』、東京堂出版、1993年 ISBN 4-490-10328-X
- 新田尚、伊藤朋之、木村龍治、住明正、安成哲三(編) 『キーワード 気象の事典』、朝倉書店、2002年 ISBN 4-254-16115-8
- 日本気象予報士会(編) 『気象予報士ハンドブック』、オーム社、2008年 ISBN 978-4-274-20635-1
- 「梅雨(ばいう)」、Yahoo!百科事典(日本大百科全書)、小学館、2013年9月1日閲覧[リンク切れ]
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 気象庁|過去の梅雨入りと梅雨明け
- 『梅雨』 - コトバンク