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東洋町議リコール訴訟

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
最高裁判所判例
事件名 解職請求署名簿無効決定異議申立棄却決定取消請求事件
事件番号 平成21(行ヒ)83
2009年(平成21年)11月18日
判例集 民集第63巻9号2033頁
裁判要旨
地方自治法施行令115条,113条,108条2項及び109条の各規定のうち,公職選挙法89条1項を準用することにより,公務員につき議員の解職請求代表者となることを禁止している部分は,その資格制限が解職の請求手続にまで及ぼされる限りで,同法中の選挙に関する規定を解職の投票に準用する地方自治法85条1項に基づく政令の定めとして許される範囲を超え,無効である(補足意見及び反対意見がある)。
大法廷
裁判長 竹崎博允
陪席裁判官 藤田宙靖甲斐中辰夫今井功中川了滋堀籠幸男古田佑紀那須弘平涌井紀夫田原睦夫近藤崇晴宮川光治櫻井龍子竹内行夫金築誠志
意見
多数意見 竹崎博允、藤田宙靖、甲斐中辰夫、今井功、中川了滋、那須弘平、涌井紀夫、田原睦夫、近藤崇晴、宮川光治、櫻井龍子、金築誠志
反対意見 堀籠幸男、古田佑紀、竹内行夫
参照法条
地方自治法80条1項,地方自治法80条3項,地方自治法85条1項,地方自治法施行令108条2項,地方自治法施行令109条,地方自治法施行令113条,地方自治法施行令115条,公職選挙法89条1項,公職選挙法施行令90条2項,公職選挙法施行令別表第2
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東洋町議リコール訴訟(とうようちょうぎリコールそしょう)は地方議員解職請求において請求代表者に公務員が含まれていたことで住民の署名簿を無効としたことの取り消しを求めた訴訟。

概要

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2008年4月に高知県東洋町の農業委員ら6人は高レベル放射性廃棄物処分場の調査を積極的に受け入れたとして田島毅三夫町議の解職(リコール)を求めて署名を集め、1124人分の署名簿を東洋町選挙管理委員会に提出したが、5月2日に町選挙管理委員会は請求代表者の1人が農業委員だったため、地方自治法施行令等の法令に定める正規の手続きによらない署名として無効と決定し、住民は異議申し立てを行なったが棄却された[1][2]。6月に住民らは地方自治法の条文は解職の投票に限って公職選挙法を準用しているにすぎず、解職の請求手続きには準用しないため、農業委員であっても請求代表者になることができ、無効の決定は参政権を侵害するものとして町選挙管理委員会の決定について取り消しを求めて提訴した[1]。なお、請求代表者は請求に必要な署名を集める他、住民投票の際は開票立会人の選任や結果への異議申し立て等を行う職務がある[3]

同年12月5日高知地裁は「農業委員が代表者となった署名はすべて無効」として請求を棄却した[2][3]。住民は地方自治法に基づき、最高裁に上告した[2][3]

2009年11月18日に最高裁は地方自治法がリコールについて請求と投票の2段階に分けて規定を設けていることをあげ、「公務員が請求代表者になることの禁止は投票段階にだけ適用される。地方自治施行令が請求段階について規定することは許されず、請求代表者の資格制限部分は無効。」と結論づけ、公選公職の解職請求において公務員が請求代表者になれないとした地方自治施行令を無効と判断した[3]。公務員を請求代表者として集めた署名を無効とした青森県内の村における事案に関する1954年5月の最高裁判例を55年ぶりに変更した[3]。15人中12人の賛成意見で多数意見であった[3]。最高裁はリコール請求代表者の資格制限が必要かどうかの判断は示していないが、「制限を設けるのならば、その範囲は可能な限り法律で明確に規定されることが望ましい」とした[3][4]堀籠幸男古田佑紀竹内行夫の3裁判官は「解職請求の代表者に公務員が就けば、地位を利用して住民の投票に不当な影響を及ぼす可能性がある」と反対意見を述べた[4]

署名を有効とした最高裁判決を受け、同年11月24日に住民は住民投票の請求のために署名簿を提出したが、署名簿がコピーだったことから、町選挙管理委員会は有効性を検討し、「無効の判断をした1年半前に原本は返しており、代表者がコピーを提出した理由は分からない」とした上で「選管に残っていたコピーと提出されたコピーが一致した。法律に原本でないといけないという条文がない。」として11月27日に正式に受理し、住民投票を進める段階に入った[5]。田島町議は当初は「提出する署名簿は原本が常識。だから、条文には書かれていないのではないか。」として弁明書提出の前に異議申し立てやリコール手続きの差し止め請求を検討していた[5]。町議の任期満了が2010年1月29日である中で町議選の投票日である同年1月17日に住民投票を予定し、住民投票には町議選と同日の場合でもさらに約100万円が必要と見られていたが、田島町議は2010年1月の町議選には5期目の当選を目指して立候補する姿勢を示す中で住民投票で解職となっても町議選で当選すれば任期満了後の1月30日から5期目として復職できるため「12日間の任期のために町が多額の経費をかけて住民投票を行うのは心苦しい。町議選で有権者の判断を仰ぎたい。」として2009年12月28日に町議を辞職した[6]。住民投票の告示日は12月28日であったが、同日に田島町議が辞職したことにより田島町議解職に関する住民投票は行われないことになった[6]

出典

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  1. ^ a b 「東洋町議リコール 住民 町選管を提訴 異議棄却取り消しを」『高知新聞高知新聞社、2008年6月3日。
  2. ^ a b c 「高知・東洋町議リコール署名訴訟 最高裁、大法廷に回付判例変更か」『読売新聞読売新聞グループ本社、2009年6月25日。
  3. ^ a b c d e f g 「高知・東洋町議リコール請求:無効取り消し訴訟 公務員も請求可能--最高裁」『毎日新聞毎日新聞社、2009年11月19日。
  4. ^ a b 「最高裁大法廷、地方議員のリコール代表者、公務員にも認める――55年ぶり判例変更。」『日本経済新聞日本経済新聞社、2009年11月19日。
  5. ^ a b 「リコール署名簿を東洋町選管受理 住民投票が確定=高知」『読売新聞』読売新聞グループ本社、2009年11月28日。
  6. ^ a b 「東洋町議リコール 町議辞職で住民投票せず 田島氏は再出馬の意向=高知」『読売新聞』読売新聞グループ本社、2009年12月29日。