海上交通安全法別表に掲げる航路
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本項では、海上交通安全法別表に掲げる航路について記述する。海上交通安全法は、東京湾・伊勢湾・瀬戸内海の海域で、船舶交通が輻輳(ふくそう)する航路と所在海域を別表に掲げ、具体的な航路については、所在海域の中から政令で定めることとしている(海上交通安全法施行令、昭和四十八年一月二十六日政令第五号)。
この航路では、船舶航行の安全を確保するため、通常の海上衝突予防法とは異なる特別のルール、および航路ごとに定められた特別なルールが定められている。この項では、航路ごとのルールの概略を記述する。
通常の海域における航行のルール
[編集]海上交通の原則は右側通行であるが、通常の海域においては道路交通と異なりレーンが定められているわけではない。正面衝突の危険があるときなどに右に回避するというものであり、対向する船舶と左側通行の形になってもなんら支障なくすれ違いできるときは合法である。
航路における一般的航法
[編集]掲示された全航路に共通する規定として「避航等」(第3条)、「航路航行義務」(第4条)、「速力の制限」(第5条)、「追越しの場合の信号」(第6条)、「行先の表示」(第7条)、「航路の横断の方法」(第8条)、「航路への出入又は航路の横断の制限」(第9条)、「びよう泊の禁止」(第10条)の各規定が定められている。
東京湾
[編集]浦賀水道航路と中ノ瀬航路を合わせて、東京湾口航路と呼ぶことがある。
浦賀水道航路
[編集]東京湾への出入路に当たる航路である。浦賀水道の地形にあわせ、航路も屈曲している。関東大震災で崩壊した第三海堡が近接し、航行の安全に支障を来したため、2007年までに撤去された。現在も第一と第二海堡が残る。
所在海域は、東京湾中ノ瀬の南方から久里浜湾沖に至る海域。航路の幅約1,400m、長さ約14.8km(8.1海里)。「航路の中央より右側を航行する」と規定されている(第11条1項)。概略南北方向の航路なので、東の房総半島側が湾に入る北向き、西の三浦半島側が南向きの航路となる。
中ノ瀬航路
[編集]本線である浦賀水道航路北端の富津岬付近から斜め右(千葉県側)に分かれて東京湾の中央部を北上する航路である。所在海域は東京湾中ノ瀬の東側。航路の幅約700m、長さ約10.5km(5.7海里)。「北向きに通行する」と規定されている(第11条2項)。
伊勢湾
[編集]伊良湖水道航路
[編集]所在海域は伊良湖水道。航路の幅約1,200m、長さ約3.9km(2.1海里)。「できる限り、中央より右側を航行する」と規定されている(第13条)。南北に伸びる航路で、東の愛知県伊良湖岬側が湾に入る北向き、西の三重県志摩半島側が南向きの航路となる。
瀬戸内海
[編集]明石海峡航路
[編集]所在海域は明石海峡。航路の幅約1,500m、長さ約7km。「航路の中央より右側を航行する。」と規定されている(第15条)。東西の航路なので南の淡路島側が播磨灘から大阪湾に向かう東向き、明石側が西向きとなる。
備讃瀬戸東航路
[編集]所在海域は瀬戸内海のうち小豆島地蔵埼沖から豊島と男木島との間を経て小与島と小瀬居島との間に至る海域。航路の幅約1,400m、長さ約37.2km(20.1海里)。 「航路の中央より右側を航行する」と規定されている。(第16条1項)東西の航路なので南の四国側が東向き、北の岡山県、小豆島側が西向きの航路となる。
宇高東航路
[編集]所在海域は瀬戸内海のうち荒神島の南方から中瀬の西方に至る海域。航路の幅約400~700m、長さ約5.2km(2.5海里)。「北向きに通行する」と規定されている(第16条2項)。
宇高西航路
[編集]所在海域は瀬戸内海のうち大槌島の東方から神在鼻沖に至る海域。 航路の幅約700m、長さ約6.3km(3.4海里)。「南向きに通行する」と規定されている(第16条3項)。
宇高東航路・宇高西航路は本州(宇野港など)と四国(高松港など)を結ぶフェリー等が使用する南北の航路である。2つの航路を合わせて右側通行となる。備讃瀬戸東航路とはそれぞれ十字に交叉している。
備讃瀬戸北航路・備讃瀬戸南航路
[編集]所在海域は瀬戸内海のうち小与島と小瀬居島の間から佐柳島、二面島、粟島の間に至る海域で、牛島及び高見島の北側が北航路、南側が南航路である。航路の幅はともに約700m、長さは北航路約21.8km(11.8海里)、南航路約23.3km(12.6海里)。
備讃瀬戸東航路の西にある東西の航路で、同航路と坂出市沖、小与島と小瀬居島を結ぶ線で接続する。北航路は「西向きに通行する」、南航路は「東向きに通行する」と規定されており(第18条1項・2項)、2つの航路を合わせて右側通行となる。
水島航路
[編集]所在海域は瀬戸内海のうち水島港から葛島の西方、濃地諸島の東方及び与島と本島との間を経て沙弥島の北方に至る海域。 航路の幅約600~700m、長さ約10.0km(5.4海里)。「できる限り、中央より右側を航行する。」と規定されている(第18条3項)。
水島港に入出港する船舶が航行する航路である。備讃瀬戸北航路と十字に交叉し、備讃瀬戸南航路とT字に接続している。
来島海峡航路
[編集]所在海域は瀬戸内海のうち大島と今治港との間から来島海峡を経て大下島の南方に至る海域。航路の幅約400~1500m、長さ約15.4km(8.3海里)。「順潮の場合は来島海峡中水道を、逆潮の場合は来島海峡西水道を航行する(順中逆西)」と規定されている(第20条)。
中水道は武志島と馬島の間の来島海峡第二大橋が架かる海峡、西水道は馬島と小島の間の来島海峡第三大橋が架かる海峡である。船が潮流に乗って航行する場合(順潮)の場合は短く屈曲の少ない中水道を、潮流に逆らって航行する場合は西水道を進むというものである。潮流が北向きの場合は通常通り右側通行、南向きの場合は左側を通る形になり、こうした切替方式を採っているのは世界でも唯一のものである。
こうした複雑な航行ルールがあることから、安全な航行を確保するため、海峡には5個所に潮流信号所が設置され、潮流の向き等の情報を航行する船舶に提供している。中でも1909年(明治42年)に来島海峡で最初に設けられた中渡島の信号所は歴史ある施設である。また電光掲示で潮流の状況を知らせる電光板式潮流信号所が2箇所あるほか、来島海峡海上交通センターではレーダーにより航行状況の常時監視を行っている。