末尾のs
末尾のs(ドイツ語:das Schluss-s, Auslaut-s)または曲がったs(das runde s, Ringel-s)は、かつてラテンアルファベットSの小文字としてſ, sの2種類が使い分けられていた時代の後者sの呼び名である。末尾のsはブラックレター(の一部の書体)で音節末を明示する為に用いられ、これに対して長いs(ſ)は音節頭および中で用いられた。
1940年代以降、タイポグラファーのヤン・チホルトによる、フラクトゥーアのßはſs(<ss)の合字に由来しているという説が広まっている[1][2]。これによると、ſz(<sz)の合字(字母ßの名前「エスツェット」の由来)とともに、ブラックレターには/s/を表す文字が2つあったということになる。現在一般的なアンティカ体(ローマン体)では長いsは曲がったsに置き換えられており、合字ſs/ſzの表記もßに一本化されている。長い間ブラックレターで書かれていたドイツ語のßに対応するアンティカ体活字がデザインされたのは19世紀に入ってからであるが、それ以前の文献にはſsの合字が多く見られる。アンティカ体のßと合字ſzおよびſsとの正確な関係については意見が分かれている(ß#起源を参照)。
ドイツ語の標準発音で母音の前のsは有声音/z/になるが(有声化せず/s/と発音する方言もある)、音節末では有声化が起こることはないので、末尾のsは常に無声音/s/を表す。
ギリシャ文字のΣ(シグマ)にもこれに似た規則があり、小文字は語頭および語中でσ、語末でςと書く(ただし語中の音節末ではドイツ語と異なり常に語中形のσを用いる)。例:Κολοσσός Ῥόδιος 「ロドス島の巨像(コロッソス)」。
正書法
[編集]末尾のsを使うべき場合は
- 語末(例:das Haus, des Weges)
- 合成語を構成する自立語由来の各形態素末(例:Eislaufen, Glastür)
- 子音で始まる接尾辞の前(例:Mäuschen, Weisheit)
- 接頭辞des-, dis-の末尾(例:Desinfektion, Distribution)
- 音節末で次の字がk, m, n, w, dのとき(例:Dresden, Oswald)
- 単語が-skで終わるとき(例:grotesk, brüsk)
長いs(ſ)を使うべき場合は
- 音節頭および中(例:ſonſt, Maſuren (<sonst, Masuren))
- 音節末で上記の末尾のsを使う条件に該当しないとき(例:Waſſer, Gaſſe (<Wasser, Gasse))
- 語尾が省略されたとき(例:ich laſſ' (<ich lass' < ich lasse))
- 二重子音ſch, ſt, ſp(例:Knoſpe, löſchen (< Knospe, löschen))[3]
脚注
[編集]- ^ Max Bollwage: Ist das Eszett ein lateinischer Gastarbeiter? Mutmaßungen eines Typografen. In: Gutenberg-Jahrbuch, Mainz 1999, ISBN 3-7755-1999-8, S. 35–41.
- ^ Herbert E. Brekle: Zur handschriftlichen und typographischen Geschichte der Buchstabenligatur ß aus gotisch-deutschen und humanistisch-italienischen Kontexten. In: Gutenberg-Jahrbuch, Mainz 2001, ISBN 3-7755-2001-5, S. 67–76 (online)
- ^ “Deutsche Kurrentschrift”. 2017年10月2日閲覧。