於染久松色読販
於染久松色読販(おそめひさまつ うきなの よみうり)は、四世鶴屋南北作の歌舞伎狂言。文化10年(1813年)3月、江戸・森田座初演。 お染・久松・お光・竹川・小糸・お六・貞昌の七つの役を「早替わり」などの技法を用いて主演の役者が1人で勤める事が原則の演出[1]なので、通称「お染の七役」と云う。 初演時は、歌舞伎の歴史上最も美貌の女方と云われた[2]五世岩井半四郎がお染と久松、久松の許嫁お光、奥女中竹川、後家貞昌、土手のお六、子守お作の計七役を演じ、大当たりを記録した[3]。
明治以降上演が途絶えていたが、『歌舞伎劇団前進座』の創立メンバーである五代目河原崎國太郎が1934年(昭和9年)[3]に渥美清太郎の改訂脚本で復活させ[1]、その際に主演の早替わり七役のうち「子守お作」が「芸者小糸」に書き換えられ、今ではこれが定番となっている[3]。
第二次世界大戦後は、松竹主催の歌舞伎公演でも六代目中村歌右衛門・四代目中村雀右衛門・五代目坂東玉三郎ら[1]立女方の役者が主役の七役を演じている。 昭和に続き平成・令和の現代でも再演を重ねているのは上述・渥美清太郎による改訂脚本・演出版が基礎となっており、(序幕)『柳島妙見』『橋本座敷』『小梅莨屋』〜(二幕目)『瓦町油屋(見世先)』『同二階座敷』『同裏手土蔵』〜(大詰)『向島道行(浄瑠璃「心中翌の噂」)』の三幕七場を通し狂言として上演。
文化文政年間に「早替わり」という手法が流行し、その代表的な作品[2]。大詰の舞踊劇「心中翌の噂(しんじゅう あしたのうわさ)」で女方・お染と、恋人で糸立て(ござ)をかむった立役・久松がすれ違いざまに早替わりするところがハイライトである[2]。
物語は、油屋の娘お染と丁稚久松の悲恋を主軸に御家騒動を綯い交ぜ(ないまぜ)にした構成で、大坂で実際に起こったとされる(諸説あってさだかではない)心中事件を元に創作[2]された数ある「お染久松もの」の一つであり、物語の舞台を大坂から江戸に置き換えている[3]。
七役
[編集]お染・久松・お光(所作事)・竹川・小糸・お六・貞昌の七役の代表的な拵え(扮装)写真を、後述した『参考資料』の2018年11月30日付け特別チラシ完成 のweb記事で閲覧可能となっている。
- 油屋娘お染 : 質屋油屋の娘で丁稚久松と恋仲。豪奢な花簪や総友禅の振袖を身につけている。
- 丁稚久松 : 油屋の丁稚に身をやつしているが、元は武士で主筋の石津家の為に、重宝の短刀「牛王義光(ごおうよしみつ)」を密かに探索中。
- 許嫁お光 : 久松の親代わりとなった「庵崎の久作」の娘で、久松の許嫁。歌舞伎での田舎娘の典型で緑系を着用。
- 奥女中竹川 : 久松の姉で、弟と同じく短刀紛失により切腹した父親の汚名をそそぐべく、重宝の短刀を探索している。
- 芸者小糸 : 柳橋の芸者で、道楽者の多三郎といい仲。黒地でスッキリと粋な姿。
- 土手のお六 : 竹川の昔の召使いで、夫・鬼門の喜兵衛と向島の小梅代地の莨(煙草)屋を営む、その日暮らしの貧乏人。お六の髪型は馬の尻尾と呼ばれる結び方になっている(歌舞伎女方『悪婆(あくば)』の代表的な役柄の一つ[4][5])。
- 後家貞昌(ていしょう) : 浅草瓦町の質屋油屋を営む後家で、義理(先妻)の息子・多三郎と娘お染の三人家族。
最近の公演
[編集]「お染の七役」の公演
[編集]かっこ内は七役を務めた俳優
「お染の七役」以外の公演
[編集]- 歌舞伎座 2018年3月(小梅莨屋~瓦町油屋)
- 歌舞伎座 2024年4月(小梅莨屋~瓦町油屋)
参考資料
[編集]A:書籍・公演パンフレット類
[編集]※注:歌舞伎興行では配役・あらすじ・解説などを掲載した公演パンフレットを通常「筋書」や「番附」と呼ぶので、以下はその名称を使用する。
- 2018年/平成30年12月:東京・歌舞伎座上演、『歌舞伎座百三十年 十二月大歌舞伎 筋書き』|編集:松竹株式会社 演劇営業部筋書編集室|松竹・平成30年12月発行【改訂:渥美清太郎,監修:五代目坂東玉三郎,主演:中村壱太郎(初役)】
- 2012年/平成24年1月:東京隅田公園内・平成中村座上演、『平成中村座 壽初春大歌舞伎 筋書』|編集:松竹株式会社 演劇興行部宣伝室|松竹・平成24年1月2日発行|(付録除き)全126頁の内【「於染久松色読販」p.38-51に掲載。|改訂:渥美清太郎,監修:五代目坂東玉三郎,主演:二代目中村七之助(初役)】
- 『増補版 歌舞伎手帖』著者:渡辺保|角川ソフィア文庫|角川 2012年/平成24年10月25日 初版発行|全668頁|ISBN 978-4-04-408002-0 の内p.162-163に掲載。
B:Web記事・公演データベース
[編集]- 小玉祥子 (2018年2月25日). “『於染久松色読販』坂東玉三郎”. 「歌舞伎美人」もっと楽しむ|ようこそ歌舞伎へ【歌舞伎いろは】 (松竹) 2022年3月16日閲覧。
- “歌舞伎座「十二月大歌舞伎」特別チラシが完成”. ニュースリリース(歌舞伎美人) (松竹). (2018年11月30日) 2022年3月16日閲覧。
- 歌舞伎公演データベース|『於染久松色読販』(演目別の検索結果) - 公益社団法人日本俳優協会
脚注
[編集]出典
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