数学 において強圧的函数 (きょうあつてきかんすう、英 : coercive function )とは、それが定義されている空間の極限において「急速に成長する」函数である。文脈によって異なる定義が存在する。
ベクトル場 f : R n → R n が強圧的 (coercive)であるとは、
f
(
x
)
⋅
x
‖
x
‖
→
+
∞
as
‖
x
‖
→
+
∞
,
{\displaystyle {\frac {f(x)\cdot x}{\|x\|}}\to +\infty {\mbox{ as }}\|x\|\to +\infty ,}
が成り立つことをいう。ここで "
⋅
{\displaystyle \cdot }
" は通常のドット積 で、
‖
x
‖
{\displaystyle \|x\|}
はベクトル x の通常のユークリッドノルム である。
コーシー=シュワルツの不等式 より、
x
∈
R
n
∖
{
0
}
{\displaystyle x\in \mathbb {R} ^{n}\setminus \{0\}}
に対して
‖
f
(
x
)
‖
≥
(
f
(
x
)
⋅
x
)
/
‖
x
‖
{\displaystyle \|f(x)\|\geq (f(x)\cdot x)/\|x\|}
が成り立つことから、強圧的ベクトル場は特にノルム強圧的でもある。しかし、ノルム強圧的な写像 f : R n → R n は必ずしも強圧的ベクトル場ではない。例えば、90° の回転 f : R 2 → R 2 , f(x) = (-x2 , x1 ) はノルム強圧的であるが、すべての
x
∈
R
2
{\displaystyle x\in \mathbb {R} ^{2}}
に対して
f
(
x
)
⋅
x
=
0
{\displaystyle f(x)\cdot x=0}
であるため、強圧的ベクトル場ではない。
H
{\displaystyle H}
を実ヒルベルト空間 とするとき、自己共役作用素
A
:
H
→
H
{\displaystyle A:H\to H}
が強圧的 (coercive)であるとは、ある定数
c
>
0
{\displaystyle c>0}
が存在して
⟨
A
x
,
x
⟩
≥
c
‖
x
‖
2
{\displaystyle \langle Ax,x\rangle \geq c\|x\|^{2}}
が
H
{\displaystyle H}
内のすべての
x
{\displaystyle x}
に対して成り立つことをいう。
双線型形式
a
:
H
×
H
→
R
{\displaystyle a:H\times H\to \mathbb {R} }
が強圧的 であるとは、ある定数
c
>
0
{\displaystyle c>0}
が存在して
a
(
x
,
x
)
≥
c
‖
x
‖
2
{\displaystyle a(x,x)\geq c\|x\|^{2}}
が
H
{\displaystyle H}
内のすべての
x
{\displaystyle x}
に対して成り立つことをいう。
リースの表現定理 より、任意の対称(
H
{\displaystyle H}
内のすべての
x
,
y
{\displaystyle x,y}
に対して
a
(
x
,
y
)
=
a
(
y
,
x
)
{\displaystyle a(x,y)=a(y,x)}
)、連続(
H
{\displaystyle H}
内のすべての
x
,
y
{\displaystyle x,y}
とある定数
k
>
0
{\displaystyle k>0}
に対して
|
a
(
x
,
y
)
|
≤
k
‖
x
‖
‖
y
‖
{\displaystyle |a(x,y)|\leq k\|x\|\,\|y\|}
)かつ強圧的な双線型形式
a
{\displaystyle a}
は、ある自己共役作用素
A
:
H
→
H
{\displaystyle A:H\to H}
に対して次の表現を持つことが従う:
a
(
x
,
y
)
=
⟨
A
x
,
y
⟩
.
{\displaystyle a(x,y)=\langle Ax,y\rangle .}
この作用素
A
{\displaystyle A}
は強圧的作用素であることが分かる。また逆に、強圧的な自己共役作用素
A
{\displaystyle A}
が与えられたとき、上式で定義される双線型形式
a
{\displaystyle a}
は強圧的である。
任意の自己共役作用素
A
:
H
→
H
{\displaystyle A:H\to H}
が強圧的作用素であるための必要十分条件は、それが(ドット積をより一般の内積に置き換える必要があるが、ベクトル場の強圧性の意味において)強圧的な写像であることである。ベクトル場、作用素および双線型形式に対する強圧性の定義は、密接に関連しており、互いに矛盾しないものである。
二つのノルムベクトル空間
(
X
,
‖
⋅
‖
)
{\displaystyle (X,\|\cdot \|)}
と
(
X
′
,
‖
⋅
‖
′
)
{\displaystyle (X',\|\cdot \|')}
の間の写像
f
:
X
→
X
′
{\displaystyle f:X\to X'}
がノルム強圧的 (norm-coercive)であるとは
‖
f
(
x
)
‖
′
→
+
∞
as
‖
x
‖
→
+
∞
{\displaystyle \|f(x)\|'\to +\infty {\mbox{ as }}\|x\|\to +\infty }
が成立することをいう。より一般に、二つの位相空間
X
{\displaystyle X}
と
X
′
{\displaystyle X'}
の間の函数
f
:
X
→
X
′
{\displaystyle f:X\to X'}
が強圧的 であるとは、
X
′
{\displaystyle X'}
のすべてのコンパクト部分集合
K
′
{\displaystyle K'}
に対して、
X
{\displaystyle X}
のあるコンパクト部分集合
K
{\displaystyle K}
が存在して、次が成り立つことをいう。
f
(
X
∖
K
)
⊆
X
′
∖
K
′
.
{\displaystyle f(X\setminus K)\subseteq X'\setminus K'.}
強圧的写像に対応する全単射 固有写像 の合成 は、強圧的である。
(拡大実数値)函数
f
:
R
n
→
R
∪
{
−
∞
,
+
∞
}
{\displaystyle f:\mathbb {R} ^{n}\to \mathbb {R} \cup \{-\infty ,+\infty \}}
が強圧的 であるとは、次が成り立つことをいう。
f
(
x
)
→
+
∞
as
‖
x
‖
→
+
∞
.
{\displaystyle f(x)\to +\infty {\mbox{ as }}\|x\|\to +\infty .}
実数値強圧的函数
f
:
R
n
→
R
{\displaystyle f:\mathbb {R} ^{n}\to \mathbb {R} }
は特にノルム強圧的である。しかし、ノルム強圧的函数
f
:
R
n
→
R
{\displaystyle f:\mathbb {R} ^{n}\to \mathbb {R} }
は必ずしも強圧的ではない。例えば、
R
{\displaystyle \mathbb {R} }
上の恒等函数はノルム強圧的であるが、強圧的ではない。
放射非有界函数 の記事も参照されたい。
Renardy, Michael and Rogers, Robert C. (2004). An introduction to partial differential equations (Second ed.). New York, NY: Springer-Verlag. pp. xiv+434. ISBN 0-387-00444-0
Bashirov, Agamirza E (2003). Partially observable linear systems under dependent noises . Basel; Boston: Birkhäuser Verlag. ISBN 0-8176-6999-X
Gilbarg, D.; Trudinger, N. (2001). Elliptic partial differential equations of second order, 2nd ed . Berlin; New York: Springer. ISBN 3-540-41160-7
この記事は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス 表示-継承 3.0 非移植 のもと提供されているオンライン数学辞典『PlanetMath 』の項目Coercive Function の本文を含む