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山根克

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
山根 克
Katsu YAMANE
人物情報
生誕 (1974-08-01) 1974年8月1日(50歳)[1]
居住 日本の旗 日本
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
出身校 東京大学
学問
研究分野 ロボティクス
研究機関 東京大学
カーネギーメロン大学
ディズニーリサーチ
ホンダ・リサーチ・インスティチュート・USA
博士課程指導教員 中村仁彦
指導教員 岡田昌史
博士課程指導学生 高野渉[2]
主な指導学生 村井昭彦[3][4]
学位 博士(工学)(東京大学)[5]
主な業績 順動力学計算法「分解・組立法」(Assembly Disassembly Algorithm、ADA)[6][7]
主要な作品 アニマニウム[8][9]
nMotion musculous[10][11]
影響を与えた人物 大武美保子[12][13]杉原知道[14]
学会 日本ロボット学会日本機械学会IEEEACMSIGGRAPH[15]
主な受賞歴 科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞[15]
公式サイト
Katsu Yamane - Robotics Researcher
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山根 克(やまね かつ、1974年昭和49年〉8月1日[1] - )は、日本のロボット研究者[15]。接触や接続が可変するロボットや筋骨格系の順動力学計算法である分解・組立法(Assembly-Disassembly Algorithm、ADA)[6]を開発[16]。この手法はOpenHRP3の動力学計算エンジンに採用され[6][17][18]、逆運動学手法もアニマニウムに実装された[8][9]。さらに筋骨格モデル動作解析ソフトウェア「nMotion musculous」として製品化されている[10][11]

2002年に東京大学において課程博士博士(工学)学位を取得[5]カーネギーメロン大学客員研究員を経て、東京大学大学院情報理工学系研究科助手講師准教授を歴任[19][20]。この間、2004年にIEEE Robotics and Automation Society Early Academic Carrer Awardを受賞し、2005年には科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞した[15]

2008年10月から渡米してディズニーリサーチシニア・リサーチ・サイエンティストに就任し[21][22]カーネギーメロン大学の連携准教授も兼務[注 1][22][15]。その後、2018年にはホンダ・リサーチ・インスティチュート・USAシニア・サイエンティストに就任し[21][23]ロバート・ボッシュ社主任研究員(2021年時点)を経て[24]、2022年現在はスタートアップ企業Path Roboticsで主任研究員を務める[25]

来歴・人物

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東京大学時代

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東京大学機械情報工学科に進学[26]。1997年に学部を、1999年に大学院修士課程を修了[26]中村仁彦のもとで、パラレルメカニズムの動解析と制御に従事[26]。引き続き中村のもとで博士課程に進学し、2000年からは日本学術振興会特別研究員[27]。ヒューマンフィギュアやヒューマノイドロボットの順動力学計算法の研究に取り組む[19][16]

山根はセガとの共同研究として、SRインバースを適用した運動学計算(キネマティクス計算)のみによるヒューマンフィギュアの計算手法にも取り組む。これはアニマニウムに実装された[8][9]。また、モーションキャプチャーで取得したデータを、ヒューマノイドにとって動力学的に整合性のあるモーションに変換するダイナミクス・フィルタ(Dynamics Filter)にも取り組んだ[28][29][注 2]

2002年3月に博士課程を修了し、博士(工学)の学位を取得。2002年度には1年間カーネギーメロン大学で客員研究員を務め、2003年4月から東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報工学専攻助手に着任する(後、講師、准教授[19][20]21世紀COEプロジェクトにも参画し[32]、力学的情報処理や知能の研究にも関与した[33]。2005年の愛・地球博には中村研究室からアニマトロニックヒューマノイドロボット・プロジェクトを出展しており、山根もモーションキャプチャーや逆運動学計算のプログラミングに携わった[34]

山根はヒューマノイドの動力学計算法を、筋骨格系のシミュレーション技術に拡張し[35][11]、一連の研究は特許も取得[10][36][注 3]。これには大武美保子も一時期参画した[12][13]。山根は面状メッシュマーカーのモーションキャプチャーの開発にも取り組み[37][35]、株式会社ナックイメージテクノロジーから筋骨格モデル動作解析ソフトウェア「nMotion musculous」として製品化された[10][11]

渡米後

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山根は東京大学を辞し、2008年10月からディズニーリサーチのピッツバーグ研究所にシニア・リサーチ・サイエンティスト(上級研究員[38])として着任する[21][22]。ディズニーはディズニーランドに代表されるテーマパーク用のロボットを古くから手掛けており[39]、さらに研究所では研究テーマを自由に選ぶことができ、また学会発表にも制限がなかった[40]。山根はここで、ヒューマノイドロボットやヒューマン・ロボット・インタラクションの研究に従事し、カーネギーメロン大学の連携准教授も兼務した[15][22][注 1]

2010年、山根は人間のキャプチャーデータから、ヒューマノイドロボットの動作を生成する技術を開発。さらに人間の動作データからアニメーションのキャラクターの動作を生成する技術も開発する。さらに2015年には、アニメーションのキャラクターの動作データから、歩行を実現できるロボットの構造を設計する方法、およびゼロモーメントポイントのバランスを取ってロボットを歩行させることにも成功した[41]

また、3Dプリンターで骨格を構成し、圧力センサーを内蔵した風船のような外装のロボットや[42]、脚がはずれても歩き続けることができる六本足ロボットも製作している[43]。ヒューマンロボットインタラクションの分野では、ロボットが人間とキャッチボールをしていてボールを落とした時のしぐさを工夫し、それを人間がどう感じるか検証する研究を実施している[42]

なお、2015年に創刊された日経ロボティクスの執筆協力者にも名を連ね[44]、アメリカのロボット事情などについて執筆(#解説記事も参照)。2018年、山根はホンダ・リサーチ・インスティチュート・USAのシニア・サイエンティストに着任[21][23]。2021年9月時点でロバート・ボッシュ社の主任研究員(Principal Research Scientist)[24]。2022年10月時点では アメリカのコロンバスにある自動溶接ロボットシステムのスタートアップ企業「Path Robotics」[45]のPrincipal Research Scientist[25]

受賞歴

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主な著作

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学位論文

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著書

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解説記事

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脚注

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注釈

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  1. ^ a b Adjust Asociaterd Professor[15]を、ここでは「連携准教授」と訳した。
  2. ^ Dynamics Filterを和訳すると「動力学フィルタ」になるが、これは東京大学情報システム学研究室の長坂が1998年に開発した技術に使用されており、別物である[30]。山根や中村は「力学フィルタ」と訳している[18][31]
  3. ^ 特許第5061344号「リンクの質量パラメータの推定方法」、特開2008-077551[10][36]
  4. ^ 受賞論文 - 中村仁彦、山根克、永嶋史朗「構造変化を伴うリンク系の動力学計算法とヒューマンフィギュアの運動計算」『日本ロボット学会誌』第16巻第8号、1998年、1152-1159頁[46]
  5. ^ 受賞論文 - Y. Nakamura, K. Yamane (2000). “Dynamics computation of structure-varying kinematic chains and its application to human figures”. IEEE Transactions on Robotics and Automation, 16(2): 124-134[47].
  6. ^ 受賞講演論文  - Tomomichi Sugihara, Kou Yamamoto, Wataru Takano, Katsu Yamane, and Yoshihiko Nakamura (2005).“Online Dynamical Retouch of Motion Patterns Towards Animatronic Humanoid Robots”. Proc. of IEEE-RAS International Conference on Humanoid Robots. pp.117-122.[50]
  7. ^ 受賞講演 - P. Agarwal, S. Al Moubayed, A. Alspach, J. Kim, E.J. Carter, J.F. Lehman, and K. Yamane (2016).“Imitating Human Movement with Teleoperated Robotic Head”. Proc. of IEEE International Symposium on Robot and Human Interactive Communication 2016.[51]
  8. ^ 受賞論文 - Sehoon Ha, Stelian Coros, Alexander Alspach, Joohyung Kim and Katsu Yamane. “Joint Optimization of Robot Design and Motion Parameters using the Implicit Function Theorem”. [53]
  9. ^ 日本語題名 - 『構造可変リンク系のインタラクティブな実時間動力学計算とそのヒューマンフィギュアの運動生成への応用』、論文内容要旨審査結果要旨、2018年9月10日閲覧。
  10. ^ 共著者 - 中村仁彦、比留川博久、山根克、梶田秀司、横井一仁、藤江正克高西淳夫、藤原清司、永嶋史朗、村瀬有一、稲葉雅幸、井上博允
  11. ^ 共著者 - 金広文男、藤原清司、梶田秀司、横井一仁、金子健二、比留川博久、中村仁彦、山根克。
  12. ^ 共著者 - 中岡慎一郎、山野辺夏樹、比留川博久、山根克、川角祐一郎。

出典

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  1. ^ a b 中村仁彦、山根克「拘束条件が不連続に変化するリンク系の動力学」『日本ロボット学会誌』第18巻第3号、2000年、435-443頁。
  2. ^ Wataru Takano (2006年9月29日). “Stochastic Segmentation, Proto-Symbol Coding and Clustering of Motion Patterns and Their Application to Signifiant Communication between Man and Humanoid Robot”. 東京大学博士学位論文(甲第21892号、博情第106号)。杉原知道『全身型ヒューマノイドにおける脚動作の実時間生成に関する研究』東京大学大学院工学系研究科修士論文、2001年3月。
  3. ^ 村井昭彦”. Researchmap (2018年5月8日) 2018年9月10日閲覧。
  4. ^ 村井昭彦「神経・筋骨格システムを用いたヒトの運動の理解」『人工知能』第32巻第2号、2017年3月、218-221頁。
  5. ^ a b c 学位論文要旨 No 117019 山根,克. 東京大学学位論文データベース. 東京大学附属図書館・情報基盤センター. 2023年10月20日(UTC)閲覧。
  6. ^ a b c 中村仁彦, 山根克. “OpenHRP3 における動力学計算サーバ”. OpenHRP. 2018年9月10日閲覧。
  7. ^ 中岡ほか 2008.
  8. ^ a b c 桑本美鈴 (2001年6月19日).“セガ、新規事業戦略を発表、アニメーション制作ソフトを提供 (2/2)”. ASCII.jp×デジタル. 2018年9月10日閲覧。
  9. ^ a b c 山根克、中村仁彦「ヒューマンフィギュアの全身運動生成のための協応構造化インタフェース」『日本ロボット学会誌』第20巻第3号、2002年4月、 335-343頁。
  10. ^ a b c d e 筋骨格モデル動作解析ソフトウェア nMotion musculous”. ソフトウェア. ナックイメージテクノロジー. 2017年9月17日閲覧。
  11. ^ a b c d 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 (2008年11月20日).“動きを見るだけで筋肉と神経が分かる ロボティクスから生まれた世界一詳細な人体モデルを開発【産技助成Vol.72】”. PR TIMES. 2018年9月11日閲覧。
  12. ^ a b 大武美保子、山根克、中村仁彦「袈裟斬り動作の体性感覚に基づく主観評価と運動計測に基づく客観評価」『第21回日本ロボット学会学術講演会予稿集』2003年、2J26。
  13. ^ a b 藤田悠介、山根克、大武美保子、中村仁彦「筋骨格モデルに基づく人間の体性感覚情報の高速計算」『日本機械学会ロボティクスメカトロニクス講演会'04講演論文集』、2004年、1P1-H-46。
  14. ^ Tomomichi Sugihara (2004-03-25). Mobility Enhancement Control of Humanoid Robot Based on Reaction Force Manipulation via Whole Body Motion. 博士論文(甲第19541号、博情第22号). 東京大学. NAID 500000305104(日本語題名 - 『全身運動による反力操作に基づいたヒューマノイドロボットの高機動化制御』、論文内容要旨審査結果要旨
  15. ^ a b c d e f g h 山根 2012, p. 948.
  16. ^ a b 日本ロボット学会.
  17. ^ レスポンス編集部 (2008年6月19日).“産総研、次世代ロボット開発の共通基盤技術となるシミュレーションソフトを公開”. レスポンス. 2018年9月11日閲覧。
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  20. ^ a b 中岡ほか 2008, p. 406.
  21. ^ a b c d Katsu Yamane - Robotics Reseacher”. katsuyamane.com 2018年9月10日閲覧。
  22. ^ a b c d 影木 2008.
  23. ^ a b 山根 2018.
  24. ^ a b 山根 2021.
  25. ^ a b GV Lab seminer”. 2023年10月14日(UTC)閲覧。
  26. ^ a b c 中村仁彦、山根克、岡田昌史、小嶺徳晃「加速度感覚提示機用パラレルマニピュレータの並列実時間動力学計算とH∞加速度フィードバック制御」『日本ロボット学会誌』第18巻第3号、2000年、426-434頁。
  27. ^ 2000-2001年度 力学的整合性を考慮したヒューマンフィギュアの運動生成 特別研究員奨励費”. 科学研究費助成事業データベース. 国立情報学研究所. 2018年9月10日閲覧。
  28. ^ 梶田編著 2005, pp. 170–171.
  29. ^ Katsu Yamane, Yoshihiko Nakamura (2003). “Dynamics Filter - concept and implementation of online motion Generator for human figures”. IEEE Transaction on Robotics and Automation. 19(3):421-432.
  30. ^ 梶田編著 2005, pp. 150–152.
  31. ^ 山根克、中村仁彦「力学フィルタによるヒューマンフィギュアのインタラクティブな動作生成」『ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集』、2000年、2P2-74-094。
  32. ^ 21世紀COE「情報科学技術戦略コア」”. 東京大学大学院情報理工学系研究科. 2018年9月10日閲覧。
  33. ^ 高野渉、山根克、杉原知道、山本江、中村仁彦「身体的記号化モデルに基づく人間とヒューマノイドロボットのコミュニケーション理論」『日本ロボット学会誌』第28巻第6号、2010年、735-745頁。
  34. ^ 愛知万博 プロトタイプロボット展 アニマトロニックヒューマノイドロボット・プロジェクト”. 東京大学中村・山本研究室. 2018年9月11日閲覧。
  35. ^ a b 筋骨格モデルの動力学計算による神経筋疾患の診断・リハビリテーション支援手法の開発”. 17200012、基盤研究(A)、2005-2007年度
  36. ^ a b 特許第5061344号『リンクの質量パラメータの推定法』2012/08/17
  37. ^ 山根克、谷江博昭、中村仁彦「再帰反射性メッシュマーカによる三次元形状のリアルタイムキャプチャ」『電子情報通信学会論文誌 D 情報・システム』第90巻第8号、2007年、1938-1947頁、NAID 110007380808
  38. ^ 海外招へい者 山根 克【アメリカ】”. 早稲田大学 ICT・ロボット工学拠点. 早稲田大学. 2023年10月20日(UTC)閲覧。
  39. ^ 山根 2016, p. 122-123.
  40. ^ 山根 2012, p. 947.
  41. ^ 山根 2016, pp. 124–125.
  42. ^ a b 山根 2016, p. 125.
  43. ^ 小寺貴之 (2017年12月19日).“ディズニーも開発する脚がとれても歩き続けるロボット、利用シーンは?”. ニュースイッチ. 日刊工業新聞社. 2018年9月11日閲覧。『日刊工業新聞』2017年12月18日掲載記事。
  44. ^ 未来のロボット産業を技術・ビジネス視点からひも解く、『日経Robotics』7月創刊 ITmedia eBook USER (2015年5月18日) 2018年9月10日閲覧。
  45. ^ Sarah Donaldson (2021年5月27日). “Path Robotics CEO wants Columbus to be 'next big mecca' for robots”. The Columbus Dispatch英語版. 2023年10月14日(UTC)閲覧。
  46. ^ a b 学会誌論文賞”. 表彰. 日本ロボット学会. 2018年9月10日閲覧。
  47. ^ a b IEEE Transactions on Robotics and Automation King-Sun Fu Memorial Best Paper Award”. IEEE Robotics and Automation Society. 2018年9月10日閲覧。
  48. ^ Chuck Boston (2003年5月20日). “3D Awards Update from Copenhagen, Denmark”. CG Channel Inc.. 2015年8月17日閲覧。
  49. ^ IEEE RAS Early Career Award”. IEEE Robotics and Automation Society. 2018年9月10日閲覧。
  50. ^ a b Publication”. WATARU TAKANO Osaka University. 2018年9月11日閲覧。
  51. ^ a b Publications”. katsuyamane.com 2018年月10日閲覧。
  52. ^ Awards”. Robotics Science and Systems 2017. 2018年9月10日閲覧。
  53. ^ Awards”. Robotics Science and Systems Foundation. 2018年9月10日閲覧。

参考文献

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外部リンク

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(講演動画)