コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

小形アメーバ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
小形アメーバ
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: アメーバ動物門 Amoebozoa
亜門 : コノーサ亜門 Conosa
: アーケアメーバ綱 Archamoebea
: ペロミクサ目 Pelobiontida
: マスチゴアメーバ科 Mastigamoebidae
: (和名なし) Endolimax
: 小形アメーバ E. nana
学名
Endolimax nana
(Wenyon & O'Conner, 1917[1]) Brug, 1918
シノニム
  • Entamoeba nana
  • Endolimax intestinalis
和名
小形アメーバ[2]

小形アメーバ(こがたアメーバ、Endolimax nana)は、ヒトの大腸や盲腸に片利共生するアメーバである。

形態

[編集]

栄養体の大きさは8-10 µmだが、運動中には30 µmに達することもある。核は2-2.5 µmの球形で、不定形の核小体を持つ。

シストは6–9×5–7 µmの卵形で、腸内で見出される他のアメーバと比べて小さい。シスト壁は80 nmと薄く、表面は平滑である。シストの細胞質にはミトコンドリアゴルジ体粗面小胞体中心小体微小管などは存在しない。リボソーム様の顆粒からなる伸びた管状の構造が特徴的である。シストには細胞核が通常4つあるが、稀にさらに分裂をして5-8個になっていることがある。核膜には染色質が凝集しており、核膜孔はない[3]

生活環

[編集]

栄養体は大腸や盲腸に生息し、細菌を捕食して二分裂で増殖する[3]

シストは糞便中に排出され、実験的には室温で2週間、低温では2ヶ月まで生存しているが、自然環境ではより短い。経口摂取されるとシスト壁の孔を通って脱嚢し、続けて細胞分裂を行って単核の栄養体となる[3]

感染は慢性に推移し、クリフォード・ドーベル英語版が自身で実験した際には17年間以上持続していた[3]

疫学

[編集]

食品や水がシストで汚染されることにより、糞口経路で感染する。世界人口の13.9%が感染していると推定されているが、感染者の報告はアフリカ大陸と南アメリカ大陸で多い[3]

小形アメーバは一般的に病原性を持たないと考えられている。下痢に関連して小形アメーバの感染が報告されることはよくあるが、これは単に衛生条件が悪いことの反映だと考えられる。ただし病原性を示す可能性を排除することもできない[3]

分類

[編集]

古典的には肉質虫亜門葉状仮足綱無殻アメーバ亜綱アメーバ目管形亜目エントアメーバ科の所属とされてきた[4][5]。しかし分子系統解析に基づけば、アメーバ動物門アーケアメーバ綱ペロミクサ目マスチゴアメーバ科の所属となる[6]

Endolimax属には様々な宿主から10種以上が記載されているが、宿主特異性についての知見がほとんどないため実態は不明瞭である[3]

歴史

[編集]

イギリスの原生動物学者チャールズ・モーリー・ウェニヨン英語版が1915年に初めてシストを観察し、1916年エジプト駐在中に研究を進めて1917年にEntamoeba nanaと命名した[1]

2004年に分子系統解析に基づきエントアメーバ科からEndolimacidae科に独立し[7]、その後2013年にはマスチゴアメーバ科に移された[8]

参考文献

[編集]
  1. ^ a b Wenyon, C.M. & O'Connor, F.W. (1917). “An inquiry into some problems affecting the spread and incidence of intestinal protozoal infections of British troops and natives in Egypt, with special reference to the carrier question, diagnosis and treatment of amoebic dysentery, and an account of three new human intestinal protozoa” (pdf). J. R. Army Med. Corps 28 (2): 346-367. doi:10.1136/jramc-28-03-03. https://jramc.bmj.com/content/jramc/28/3/346.full.pdf. 
  2. ^ 用語委員会 (2018年3月). “新寄生虫和名表”. 日本寄生虫学会. 2019年11月21日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g Poulsen, C.S. & Stensvold, C.R. (2016). “Systematic review on Endolimax nana: A less well studied intestinal ameba”. Trop. Parasitol. 6 (1): 8-29. doi:10.4103/2229-5070.175077. 
  4. ^ 猪木正三 監修 編『原生動物図鑑』講談社、1981年、357-380頁。ISBN 4-06-139404-5 
  5. ^ Bovee, Eugene C. (1985). “Class Lobosea Carpenter, 1861”. In Lee, J.J., Hutner, S.H., Bovee, E.C. (eds.). An Illustrated Guide to the Protozoa. Lawrence: Society of Protozoologists. pp. 158-211. ISBN 0-935868-13-5 
  6. ^ Pánek, T., et al. (2016). “First multigene analysis of Archamoebae (Amoebozoa: Conosa) robustly reveals its phylogeny and shows that Entamoebidae represents a deep lineage of the group”. Mol. Phylogenet. Evol. 98: 41-51. doi:10.1016/j.ympev.2016.01.011. 
  7. ^ Cavalier-Smith, T., et al. (2004). “Molecular phylogeny of the Amoebozoa and evolutionary significance of the unikont Phalansterium”. Eur. J. Protistol. 40 (1): 21–48. doi:10.1016/j.ejop.2003.10.001. 
  8. ^ Ptáčková, E., et al. (2013). “Evolution of Archamoebae: Morphological and Molecular Evidence for Pelobionts Including Rhizomastix, Entamoeba, Iodamoeba, and Endolimax”. Protist 164 (3): 380-410. doi:10.1016/j.protis.2012.11.005.