小原古邨
小原古邨 (おはら こそん) | |
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烏瓜に黄鶲(からすうりにきびたき) | |
生誕 |
小原又雄 1877年2月9日 (現・金沢市) |
死没 |
1945年1月4日 (67歳没) 東京都 |
墓地 |
仰西寺(金沢市) 北緯36度33分22秒 西経136度40分17秒 / 北緯36.556195度 西経136.6712599度 |
国籍 | 日本 |
運動・動向 | 新版画 |
小原 古邨(おはら[注釈 1] こそん、1877年(明治10年)2月9日-1945年(昭和20年)1月4日[3])は、明治時代から昭和時代にかけての日本画家・木版画の下絵師。祥邨(しょうそん)、豊邨(ほうそん)の号も持つ。
画業
[編集]『浮世絵師伝』での記述とその問題点
[編集]古邨研究の最重要資料とされる『浮世絵師伝』[4][3]での祥邨(後述)項[5]を引用する。なお、旧字体は常用漢字に直した。振り仮名は略した。
祥邨 【生】明治十年二月九日(略) 【画系】鈴木華邨 【作画期】明治-昭和 小原氏、本名、又雄、加賀金沢に生れ上京して鈴木華邨に学ぶ。東京美術学校教授(初め東京帝国大学教師)及び帝室博物館の顧問たりし米国人のフエノロサ博士の指導を受けて、米国へ売る花鳥画を多数描く。古邨と云ふ画名にて、両国の大黒屋(松木平吉)より依頼の角判花鳥の版下を描き、大正元年より祥邨と改め、肉筆のみ揮毫せしも、昭和元年より渡辺版画店の需めに応じ、主として氏の得意とする花鳥版画の創作に努力し、大小取交ぜ数十版作画せり。 古昔の浮世絵版画に、歌麿・政美・広重等の花鳥あれども、専門的の花鳥画家は無く、版画として優秀の作は少ない。氏の描写は、草木、鳥獣等は悉く写生に基き、更に美化したるもの故、室内の装飾品に最も適応せり(以下略)
但し、この記述には2点、問題がある。
- 「上京して鈴木華邨に学ぶ」とあるが、華邨は1889年から93年(明治22-26年)にかけて、石川県立工業高校[注釈 2]教授に着任しており[6]、10代前半の古邨は、金沢で華邨に師事したのではと、森山悦乃は仮定し[7]、エイミー・レイグル・ニューランドも、華邨の離任後、師に従って上京したとしている[8]。小池満紀子は、古邨が工業高校に在籍した記録が見つからない点から、1882年(明治15年)に父為則が亡くなったことにより上京して、その後に華邨に師事した可能性も考慮すべきだろうとする[9]。
- 「氏の描写は、草木、鳥獣等は悉く写生に基き」とあるが、ニューランドは、鳥類の解剖学上の不正確さを指摘している[10][注釈 3][注釈 4]。
『浮世絵師伝』以外の記録
[編集]華邨から古邨の号を戴いたのち、1899年から1903年(明治32-36年)にかけ、公募展に計8回、肉筆画、則ち絵画で応募している[7][12][注釈 5]。その内の4回で「二等褒章」を得ているが、1902年(明治35年)の第12回絵画共進会の場合だと、二等褒章受章者は65名、その上の一等褒章は24名、さらに上の銅牌は10名、銀牌は10名も居り、日野原に言わせれば「数多いる画家のなかに埋もれた存在でしかなかった」[12]。また1903年(明治36年)には、高橋鐵太郎 『海洋審美論』[13]にて表紙・挿絵を担当し、冒頭見開きでの荒海の中の帆船図には、「古邨」落款が記される。高橋は序において「青年画家中に於て前途有望の聞えある小原古村(ママ)君」と記すが、前述した日野原の「埋もれた存在」や、小池も「展覧会での評価が見いだせない」と指摘している[14]。
1899年(明治32年)には、フェノロサと出版社主催による、ニューヨークでの展覧会で、古邨作品が紹介される[15]
1901年(明治34年)より、版画下絵師としての活動が始まる。小林文七の版元より『花鳥画帖』[16][17][18]を版行。 1904-05年(明治37-38年)には、他の絵師同様、日露戦争の戦闘場面3枚続き作品を3点残しているが、版元は不明である[19][20][21][注釈 6]。
1906年(明治39年)から1912年(明治45年)頃にかけて、秋山武右衛門の滑稽堂と、松木平吉 (5代目) の(大黒屋)から花鳥画を版行した。 前者では、シルエットを活かした水辺の光景などを描いた[23]。後者に関しては、永田生慈が「M氏録」と名付けた史料を紹介している。
東京両国松木平吉(大平)明治四十五年迄ニ出版ナシ販売品の主なる品記憶の侭書付置く
(略)
〇古邨角判景色<注文だけなり□を多ク摺ラズ>壱枚十銭
〇古邨角判(二百五十種)壱枚七銭
〇古邨等長判(百五六十種)壱枚二十銭
〇古邨大判(六種)壱枚五十銭
(略)
大平ヘ独乙リユルマンより注文特約品と他家より注文にて非売品
〇古邨長判の内特約品
(以下略[24]。旧漢字は常用漢字に直した。判読不能文字は□とした。小字は<>で括った。)
版行種数の多さや、ドイツからの特注品があったことが分かる。
彼の下絵は、江戸時代の浮世絵のように、版下 (浮世絵)の輪郭線だけを描き、それに色指定をするのではなく、日本画の本画[注釈 7] 同様、絹地に着彩したもので、それを湿板写真で撮影し、現像後、乳剤面をガラス板から剥がし、それを版木に貼って彫り出した[25]。
『浮世絵師伝』では、「大正元年より祥邨と改め」とあるが、大正年間の祥邨肉筆画は、数点しか確認されていない[26]。 1926年(大正15年)頃から 渡辺庄三郎の版元から祥邨名義で版行を始めた[27]。
祥邨名義での肉筆作品に関しては、「廣岡祥邨」なる画家の作品が多く存在することから区別を要する(印譜内部に「廣岡」との記載を確認できる作品に「祥邨」との落款のある肉筆作品、美人画・花鳥画・動物画が多数存在する。小原古邨に廣岡姓との結びつきが特に確認できないことから、現時点では別人物と認識するしかない)。
また昭和初期には、「豊邨」号で、川口商会と酒井好古堂との合同版元からも版行した。祥邨から号を変えたのは、渡辺庄三郎への義理を重んじたからとされる[28]。
明治期の大黒屋・滑稽堂からの版行は、『浮世絵師伝』及び「M氏録」に見られるように、角判若しくは横幅が狭い短冊判が多かったが、昭和期の渡邊版、川口・酒井合同版では専ら大判で版行された[29][30]。明治期に短冊判が多く出たのは、広重及び北斎の花鳥画が、短冊判で多く版行されたことに倣ったのだろうと日野原は見なす[31]。
作品数・所蔵先
[編集]版画の作品数は、およそ550点と、ニューランドは見なしている[32]。 国内でのまとまった所蔵先は、専ら輸出用だった為もあり、遺族所有分[33][34]、藤懸静也旧蔵の東京国立近代美術館 [注釈 8]と、200点強を所蔵する原安三郎コレクション[35]、そして原画や試し摺りを所有する、版元の渡邊木版美術画舗[注釈 9]等に限られる。
国外では1940年に訪日経験のある画商ロバート・ムラー[36][37]が遺贈した アーサー・M・サックラー・ギャラリー、ボストン美術館[注釈 10]、大英博物館[注釈 11]などに所蔵されている。
展覧会
[編集]国内での最初の大々的な展覧会は、1998年の平木浮世絵美術館 [38][39]である。その後、2018年には茅ケ崎市美術館[40]、翌2019年には太田記念美術館[28]、2020年には山口県立萩美術館・浦上記念館[41]で展覧会が開かれ、関連書籍[42][43]に、雑誌特集[44]も発刊された。
国外で最初に開催された古邨展覧会は、1975年のシカゴ美術館[45]である。
作品
[編集]- 古邨
- 「雁」 滑稽堂 (明治後期)アーサー・M・サックラー・ギャラリー所蔵
- 「樹上の鷺」 同上 (明治後期) 同上
- 「雛鳥」松木平吉 (5代目) (明治後期) 同上
- 「蓮」 同上 (大正から昭和初期) 同上
- 「狐」 渡辺版画店 (大正から昭和初期) 同上
- 「雁」 同上 (1926年(大正15・昭和元年))
- 祥邨
- 「鴨九羽」 渡辺版画店 (1926-43年 (大正15-昭和18年)) 東京国立近代美術館所蔵
- 「猫と金魚」 同上
- 「波に千鳥」 同上
- 「鯉」 同上
- 「芦に鴫」 同上
- 豊邨
- 「オカメインコ」 川口版 (昭和初期)
図版
[編集]-
古邨
-
祥邨
-
「オカメインコ」豊邨
-
猫と金魚 (1931年)
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 古邨の孫は「おばら」姓を名乗るが、古邨の絵師としての姓は「おはら」「Ohara」で定着しており[1][2]、本項でも「おはら」とする。
- ^ 「本校は明治20年(1887年)創立で、創立130年を超える日本でも最も歴史のある工業高等学校です。」“石川県立工業高校・沿革”. 2020年8月15日閲覧。
- ^ 例えばシラサギ類の場合、1. 嘴が黄色、2.目先が青緑色を帯び、3. 冠羽を持ち、4.足指が黄色で描かれているが、1.2.はダイサギの特徴なのに対し、3.4.はコサギに特有のものである[11]。つまり2種の特徴が混在しており、写生に基づいて描いたとは考え難い。江戸時代以降のサギの描写は、古邨同様、ダイサギとコサギの特徴が混同されて描かれたものが多い。
- ^ 石川県立歴史博物館の学芸員[[]]によって、華邨資料の中から、表紙に「小原古邨」と朱書された写生帖を発見したが、古邨の筆によるものなのか、結論が出ていない “小原古邨19歳のスケッチ帳か”. 北國新聞 (2021年2月28日). 2021年3月1日閲覧。
- ^ 2020年時点で、作品画像を確認することが出来ない。
- ^ 華邨は「日清戦争絵巻」(1895-96年。全9冊)を描いている[22]。
- ^ 下図ではなく、完成作のこと。
- ^ “所蔵検索結果 小原古邨”. 2020年12月6日閲覧。
- ^ “渡邊木版美術画舗”. 2020年12月6日閲覧。
- ^ “Museum of Fine Arts, Boston Collection Search:Koson”. 20201209閲覧。
- ^ “The British Museum Collection Search:Koson”. 20201209閲覧。
出典
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- ^ 日野原 2019, pp. 1、3.
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- 山口静一『フェノロサ 日本文化の宣揚に捧げた一生 下』三省堂、1982年4月30日。
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- 兵庫県立近代美術館・神奈川県立近代美術館編『描かれた歴史 近代日本美術にみる伝説と神話』1993年9月18日。 NCID BN10658702。
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- 練馬区立美術館、野地耕一郎 編『菊池容斎と明治の美術展』練馬区立美術館、1999年10月24日。
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- ニューランド, エイミー・レイグル『自然界を心に描いて:生きづく小原古邨の芸術』2018年。月本(2018)の別冊。
- 小池満紀子「原安三郎コレクションの小原古邨」『小原古邨展 花と鳥のエデン』2018年9月、114-121頁。
- 小池満紀子『小原古邨の小宇宙』青月社、2018年10月11日。
- 小原古邨『小原古邨木版画集』阿部出版、2018年12月15日。ISBN 978-4-87242-461-4。
- 小池満紀子「小原古邨 その生涯と作品」『小原古邨木版画集』2018年12月15日、216-221頁。
- ケンダール・H, ブラウン 著、Kuniko Brown 訳「アメリカにおける古邨の花鳥版画-教材、飾り物、そして重要品」『小原古邨木版画集』2018年、222-225頁。
- 月本寿彦「小原古邨の花鳥版画の魅力」『小原古邨木版画集』2018年12月15日、226-229頁。
- 版画芸術編集部編「特集 小原古邨 : 魅惑の花鳥版画」『版画芸術』第47巻第2号、阿部出版、2018年、ISSN 1343-7399。
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- 小池満紀子、ケンダール H.ブラウン、中村真菜美『小原古邨-海をこえた花鳥の世界』平凡社、2021年4月21日。ISBN 978-4-582-20721-7。
- 小池満紀子『小原古邨作品集』東京美術、2021年4月21日。ISBN 978-4-8087-1205-1。
関連資料
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- 楢崎宗重監修『秘蔵浮世絵大観 ムラー・コレクション』講談社、1990年12月20日。ISBN 4-06-191392-1。
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