寝ぼけ署長
『寝ぼけ署長』(ねぼけしょちょう)は、山本周五郎による日本の連作探偵小説。
『新青年』1946年(昭和21年)12月号から1948年(昭和23年)1月号まで連載。全10話。連載当時は作者が山本であることは伏せられており、「覆面作家」名義で発表された。1970年(昭和45年)、『山本周五郎小説全集 別巻3 寝ぼけ署長』(新潮社)として単行本化。山本周五郎作品としては珍しい、大人向けの現代もの探偵小説である。
あらすじ
[編集]終戦直後に書かれた作品だが、作中の時代設定は戦前となっており、作中に登場する警察機構も内務省時代のものである。
ある地方都市の警察署に、五道三省(ごどう さんしょう)という風変わりな署長が赴任してきた。署でも官舎でも寝てばかりで、口さがない新聞からは「寝ぼけ署長」というあだ名をつけられ、署内でも世間からもお人よしの無能だと思われていた署長だが、5年後に離任することになった際には、署内からも世間からも別れを惜しむ人々が続出し、貧民街では留任運動すら起こされることとなった。
五道署長の在任中、犯罪事件は前後の時期の十分の一、起訴件数も四割以上減少していた。そのため「寝ぼけ署長でも勤まる」などと揶揄されていたが、実は切れ者で辣腕家の署長が、いち早く真相を突き止めており、しかも、人情家の署長が、罪を憎んで人を憎まずの精神から、過ちで罪を犯してしまった人間を可能な限り救済しようと、巧妙に工作していたからだったのである。そんな署長の活躍ぶりを、署長の秘書のような役割をつとめていた「私」が回想する。
作品一覧
[編集]- 中央銀行三十万円紛失事件(『新青年』1946年12月号)
- 海南氏恐喝事件(1947年1月号)
- 一粒の真珠(1947年2月号)
- 新生座事件(1947年3月号)
- 眼の中の砂(1947年4月号)
- 夜毎十二時(1947年5月号)
毛骨屋 ()親分(1947年9月号)- 十目十指(1947年10月号)
- 我が歌終る(1947年12月号)
- 最後の挨拶(1948年1月号)
当初は全3話の予定だったが、読者人気が高かったため連載を延長した[1]。
主な登場人物
[編集]- 五道三省(ごどう さんしょう)
- ある地方都市の警察署長。署でも官舎でも寝てばかりいるため、毎朝新聞から「寝ぼけ署長」というあだ名をつけられた。年齢は40-41歳くらい。太っており、二重あごで腹のせり出た鈍重そうな体つき。独身。
- 一見するとぐうたらな無能者にしか見えないが、じつは極めて有能で、たいていの仕事は1時間もあれば片づけてしまうため、暇をもて余して寝ている、というのが真相である。すさまじい読書量の持ち主で、英・独・仏の三か国語のほか、漢文も読みこなせる。愛読書は詩、詩論、文学史などの評論書。
- 極度の人情家で、罪を憎んで人を憎まずの精神を徹底させている。そのため、事件の摘発よりもソフトランディングの方を優先しており、そのためなら時には違法行為すらも厭わない。
- 赴任してくる前は警視庁で13年間を過ごしたが、その際は警視総監も手を焼く横紙破りで通し、善しと信じたら司法大臣と組み打ちしてもやりぬいてきた。そのため、3度も官房主事に推されながら、3度とも棒に振っている。桃井裁判所長は学校の後輩、渡辺検事正は同期生であり、財部知事と三人で五道を警察署長として呼び寄せた(「毛骨屋親分」)。
- 私
- 本作の語り手。独身。五道署長の秘書のような役割を果たしている。
- 太田(おおた)
- 署の司法主任。
- 青野庄助(あおの しょうすけ)
- 毎朝新聞社会部の記者。「寝ぼけ署長」の名づけ親で、他にも「嗜眠性脳炎おやじ」というあだ名をつけている。口が悪いが、「私」からは「正義感のつよい信頼のできる男」と評されている(「新生座事件」)。五道署長の真の手腕を知ってからは熱狂的なファンとなる。
単行本
[編集]- 『山本周五郎小説全集 別巻3 寝ぼけ署長』(新潮社、1970年)
- 『寝ぼけ署長』〈新潮文庫〉(新潮社、1981年) ISBN 4-10-113435-9
- 『山本周五郎全集 第4巻 寝ぼけ署長 火の杯』(新潮社、1984年) ISBN 4-10-644004-0
- 『山本周五郎長篇小説全集 第23巻 寝ぼけ署長』(新潮社、2014年) ISBN 978-4-10-644063-2
テレビドラマ
[編集]関西テレビ放送制作でテレビドラマ化され、「花王名人劇場」で1984年から1985年まで単発で放送された。主演は若山富三郎。
ぐうたらでいつも居眠りばかりのため『寝ぼけ署長』とあだ名されている警察署長・五道三省(ごみちさんしょう)の人情ドラマ。
主要キャスト
[編集]作品名・ゲスト出演者
[編集]放送日 | 作品名 | 脚本 | 演出 | 出演者 |
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1984年2月5日 | 寝ぼけ署長〜居眠り春一番 | 中井多津夫 | 岡林可典 | 大空真弓、加藤治子、中条静夫、頭師孝雄 |
1984年3月11日 | 寝ぼけ署長〜春に目覚める子供たち | 水谷竜二 | 久米明、丹古母鬼馬二 | |
1984年6月10日 | 寝ぼけ署長〜医学部教授編 | 中井多津夫 | 池波志乃、新克利、高品格 | |
1984年7月15日 | 寝ぼけ署長〜悪徳弁護士編 | 水谷竜二 | 藤吉久美子、水島道太郎、天田俊明 | |
1984年11月25日 | 寝ぼけ署長〜'84秋 結婚詐欺にご用心 | 畑嶺明 | ジュディ・オング、長谷川明男 | |
1985年1月20日 | 寝ぼけ署長〜初春一番船出の朝に | 水谷竜二 | 范文雀、山口央理絵、大坂志郎、織本順吉 |
脚注
[編集]- ^ 細川正義「解説 人間愛を貫いた推理と解決」『山本周五郎長篇小説全集 第二十三巻 寝ぼけ署長』新潮社、2014年11月25日、347頁。ISBN 978-4-10-644063-2。