官報正誤
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官報正誤(かんぽうせいご)とは、官報に登載され、公示された法令の記載に誤りが判明した場合において、これを官報の正誤欄[1]に登載することによって訂正することをいう。
わが国では、法令の公布は、官報に登載してすることを例としている[2][3]。この官報への登載は、各府省庁等から官報原稿を国立印刷局に入稿し、同局においてこれを組版し、官報に掲載することによって行われる。
ところで、この際、官報原稿を組版する過程で誤植を生じたり(印刷誤り)、またそもそもの官報原稿の作成の段階で誤りを生じたり(原稿誤り)することにより、当該法令の実質的な法規範の内容と公示された法文の表記との間に形式的な齟齬を生じることがある。このような場合には、「正誤」の手続により、その表記上の誤りを当該法令の実質的な法規範の内容に即したものに訂正することが行われる[4]。
定義
[編集]この記事で用いる用語の定義は、おおむね次による。
- 「法令」 法律及び政令をいう。
- 「府省令等」 おおむね次の命令[5]をいう。
- 「例規」(「法令審査例規」という場合を除く。) 地方公共団体の条例及び規則をいう。
総論
[編集]共通記載事項
[編集]正誤欄では、最初に正誤の対象となる記事を明らかにし、続いて誤りの区分、正誤内容の順に記載する。
その記載の例は、次のとおりである。
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なお、「ページ|段|行|誤|正」の欄名は、正誤表が最初に出現する箇所にのみ表示する。
したがって、通常は正誤欄の最初に表示することとなる。もっとも、正誤欄の最初が正誤文である場合には、その正誤文の前(正誤欄の最初)には表示せず、正誤文の後(正誤表の前)に表示することになる。
対象記事の特定
[編集]対象記事の特定は、本紙掲載の法令の場合「令和〇年〇月〇日(号外第〇号)公布法律第〇号(〇〇に関する法律)」とする。号外掲載の法令の場合は、「令和〇年〇月〇日(号外第〇号)公布法律第〇号(〇〇に関する法律)」とする。
なお、同日公布の法令を引用する場合には、「同日公布」又は「同日(同号外)公布」とすることがある。
また、「公布」の語を欠く例もある。
このほか特殊の正誤の場合に関しては、当該節に述べる。
正誤部分の特定
[編集]改め文の場合と異なり、正誤部分は、官報のページ、段及び行により特定する。
このとき、段数は、二段組の場合には上段又は下段により、四段組の場合には一段から四段までにより特定する。なお、正誤表には、「上」若しくは「下」又は「一」から「四」までのみを記載する。
行数は、半分から前については最初の行から、半分から後については最後の行から数える。この際、表の罫線は、1行と数えない。なお、最近の新旧対照表方式による府省令等の場合には、「表中改正後欄中〇行目」のように特定する。
なお、同一のページ、段を引用する場合には、正誤表の場合には「〃」の記号を用い、正誤文の場合には「同ページ」、「同ページ同段」の用語を用いる。
また、行数等での特定が難しい例では、「〇ページ〇段別表第一」のように引用する例もある。
行レベルの正誤
[編集]おおむね次のような形式で行われる。
なお、戦後初期には、「削るの誤り」「加えるの誤り」のように、ことごとく「誤り」の語を入れていた。
区分 | 例 | 備考 | ||
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削り | 八ページ終わりから四行目から一行目を削除する。[6] |
「を」は「は」と、「削除する」は「削る」とする例もある。 | ||
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改め | 二ページ下段三行目は次のとおりの誤り。 (見出し) 第一条・・・・。 |
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加え | 二ページ下段終りから三行目の次に次を加える。 (見出し) 第一条・・・・。 |
「三行目の次」は「三行目と二行目の間」と、「次を」は「次のように」とする例もある。 | ||
移動等 | 四ページ二段一三行目から二八行目は三段四行目の次に加えるの誤り。[7] |
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三ページ上段終りから一行目と同ページ下段一行目を入れ替えるの誤り。 | ||||
一六ページ上段終りから二〇行目「イロハ」は改行し、行頭を三字下げる。 |
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二二二ページ上段一一行目は改行せず、一〇行目につづくの誤り。 |
字句レベルの正誤
[編集]おおむね次のような形式で行われる。
区分 | 例 | 備考 | ||||||||||||||||
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改め |
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「終りから」は、小書きとする。 | ||||||||||||||||
三ページ上段一行目から四行目の「イロハ」は「ニホヘ」の誤り。 |
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削り |
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同ページ同段終りから七行目「トチリ」は削る。 | ||||||||||||||||||
加え | 原則 | 同ページ終りから二行目「ワカヨ」の下に「タレソ」を加える。 |
正誤表の場合には、読替規定の場合と同様、前後の字句とともに引用し、改めの方式により正誤することが普通である。 | |||||||||||||||
行頭への加え | 五ページ上段七行目の行頭に「ヌルヲ」を加える。 |
改め文とは異なり、このような方式も見られる。 | ||||||||||||||||
移動 | 九󠄀ページ三段終りから四行目の「イロハ」は終りから三行目と二行目との間に入る。 |
この方式は、少なくとも平成30年3月19日まで用いられている。 | ||||||||||||||||
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この方式は、平成12年8月9日に用いられている。 | |||||||||||||||||
新旧対照表方式 |
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配字の正誤
[編集]おおむね次のような形式で行われる。
区分 | 例 | 備考 | |||||
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字下げ・字上げ |
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四ページ下段七行目から八行目までの行頭を一字上げる。 |
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行空け |
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一三ページ下段四行目と五行目の間、一五行目と一六行目の間を、それぞれ一行空ける。 |
特殊の正誤
[編集]次のようなものがある。
区分 | 例 | 備考 | |||||
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記事の取消し | (原稿誤り) 目次及び本文において、令和三年六月二十一日文化庁告示第五十七号を削除する。 |
法令名は、記載しない。 | |||||
法令番号の正誤 | (原稿誤り) 目次及び本文において、令和五年三月三十日(号外特第二十三号)公正取引委員会規則第二号は公正取引委員会規則第一号の誤り。 | ||||||
令和二年五月一日(号外第五十六号)目次及び本文において、財務省・農林水産省・経済産業省告示第八号は第六号、同月七日第六号は第七号、同月八日(号外第九十四号)第七号は第八号となった。 | |||||||
法令番号の補充等 | 令和四年三月三十一日(号外特第三十七号)公布法律第一号地方税法等の一部を改正する法律は、同年五月二十七日農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律の公布により
となった。 |
法令審査例規参照[8] | |||||
令和二年三月三十一日(号外特第三十七号)公布法律第五号地方税法等の一部を改正する法律中、第一条(地方税法の一部改正)中の附則第十五条第四十八項の追加規定及び附則第一条第七号中「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律(令和二年法律第 号)」は、同年六月十日都市再生特別措置法等の一部を改正する法律の公布により「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律(令和二年法律第四十三号)」となった。 | |||||||
署名大臣の正誤 | 令和六年十月二日掲載の大臣は、それぞれ次のとおりとなった。 総務大臣 村上誠一郎 法務大臣 牧原 秀樹 外務大臣 岩屋 毅 財務大臣 加藤 勝信 厚生労働大臣 福岡 資麿 農林水産大臣 小里 泰弘 防衛大臣 中谷 元 |
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正誤欄の正誤 | 令和〇年〇月〇日正誤欄中 (原稿誤り) ~の誤り。 |
正誤表による場合もあろう。
なお、通常の正誤と異なり、正誤部分の特定に係る記載が「(原稿誤り)」等の前に記載される。 | |||||
罫線等の正誤 | 平成十二年五月三十一日(号外第百五号)公布厚生省令第九十八号(厚生年金基金規則等の一部を改正する省令) (印刷誤り) 二五四ページ上段表中終りから一八行目と終りから一七行目の間に罫入るの誤り。 | ||||||
平成二十七年三月二十六日(号外第六十八号)金融庁告示第二十五号(銀行法施行規則第十九条の二第一項第五号ニ等の規定に基づき、自己資本の充実の状況等について金融庁長官が別に定める事項等の一部を改正する件) (印刷誤り) 六三ページ下段別紙様式中当最終指定親会社四半期末欄のすべての斜線を削除し、経過措置による不算入額欄に入るの誤り。 |
脚注
[編集]- ^ 官報の編集について(昭和48年3月12日事務次官等会議申合せ)の2の(8)において「正誤は、原則として最終頁に掲載すること」とされている。
- ^ この点について、戦前には、公式令(明治40年勅令第6号)第十二条に「前数条ノ公文ヲ公布スルハ官報ヲ以テス」という明文の定めを置いていた。戦後「内閣官制の廃止等に関する政令」(昭和22年政令第4号)により同勅令は廃止されたが、その後も同様の取扱いが取られている。
- ^ 例規の公布については、都道府県や政令指定都市(地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の19第1項に規定する指定都市をいう。)では当該自治体の公報に登載してされているが、それ以外の自治体では、当該自治体の掲示場に掲示してされることが多い。
- ^ なお、法令の正誤に関して、成立した法文自体が誤っている場合にも正誤の手続によりこれを訂正することができるかについては、争いの余地がある。
この点について、参議院議員浅尾慶一郎君提出法律条文の過誤訂正の在り方に関する質問に対する答弁書(内閣参質160第13号)によれば、「官報正誤は、法文の「表記上の誤り」が客観的に認められるものについて、法文の表記を実質的な法規範の内容に即したものに訂正するものであり、実質的な法規範の内容を変更するものではな」く、立法には当たらないことから、このような正誤も認められるとする。
また、同答弁書は、「憲法上、内閣は、法律の公布について責任を負い(第三条及び第七条第一号)、また、法律を誠実に執行することを職務としている(第七十三条第一号)ことから、実質的な法規範の内容と法文の表記との間に形式的な齟齬が生じている場合に、法文の表記を速やかに実質的な法規範の内容に即したものに訂正し、それを広く国民に知らせることは、内閣の当然の責務であるということができ、従来から官報正誤によってこれを行うことが慣例上認められてきているところである」としている。
もっとも、かかる成立した法文の誤りが、実質的な法規範の内容そのものの誤りである場合に官報正誤によることができず、法令そのものの改廃の手続によるべきことは当然である。 - ^ そのほかには、国家行政組織法の一部を改正する法律(平成11年法律第90号)による改正前の国家行政組織法(昭和23年法律第120号)第12条第1項の総理府令などがあろう。
- ^ 令和4年11月28日正誤欄中(令和4年10月5日(号外第213号)公布外務省令第10号)
- ^ 平成5年11月17日正誤欄中(平成5年10月4日外務省告示第471号)
- ^ 規定中に引用した法律が未公布のため、その法律番号を空白にして公布された法律の取扱いについて(昭和37年月20日)
関連文献
[編集]- 法制執務研究会編『ワークブック法制執務』(新訂第2版)ぎょうせい、2018年。ISBN 9784324103883。
関連項目
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