地区防災計画
地区防災計画(ちくぼうさいけいかく)とは、災害対策基本法に基づき、市町村内の一定の地区の居住者及び事業者(地区居住者等)が共同して行う当該地区における自発的な防災活動に関する計画である(災害対策基本法第42条第3項・第42条の2)。
類似する計画に、町内会や自治会が作成する「自主防災計画」があるが、自主防災計画が任意加入団体である町内会の防災計画であることに対し、地区防災計画は、町内会未加入者や事業者、地区内の地権者等を含めた地区の全ての住民を対象にした人命と財産を守るための計画で、市町村が作成する地域防災計画に規定されることで確実な実施が期待できるボトムアップ型の計画である。
従来、防災計画としては国レベルの総合的かつ長期的な計画である防災基本計画と、地方レベルの都道府県及び市町村の地域防災計画を定め、それぞれのレベルで防災活動を実施してきた。しかし、東日本大震災において、自助、共助及び公助があわさって初めて大規模広域災害後の災害対策がうまく働くことが強く認識され、その教訓を踏まえて、平成25年の災害対策基本法では、自助及び共助に関する規定がいくつか追加された。その際、地域コミュニティにおける共助による防災活動の推進の観点から、市町村内の一定の地区の居住者及び事業者(地区居住者等)が行う自発的な防災活動に関する地区防災計画制度が新たに創設された(2014年4月1日施行)。
同計画制度は、国際的にも先進的な取組とされており、関連して、中国等のコミュニティ防災との比較研究も行われている。(伍・西澤 2019)
関連法令
[編集]第四十二条第3項市町村地域防災計画は、前項各号に掲げるもののほか、市町村内の一定の地区内の居住者及び当該地区に事業所を有する事業者(以下この項及び次条において「地区居住者等」という。)が共同して行う防災訓練、地区居住者等による防災活動に必要な物資及び資材の備蓄、災害が発生した場合における地区居住者等の相互の支援その他の当該地区における防災活動に関する計画(同条において「地区防災計画」という。)について定めることができる。
第四十二条の二地区居住者等は、共同して、市町村防災会議に対し、市町村地域防災計画に地区防災計画を定めることを提案することができる。この場合においては、当該提案に係る地区防災計画の素案を添えなければならない。
2 前項の規定による提案(以下この条において「計画提案」という。)は、当該計画提案に係る地区防災計画の素案の内容が、市町村地域防災計画に抵触するものでない場合に、内閣府令で定めるところにより行うものとする。
3 市町村防災会議は、計画提案が行われたときは、遅滞なく、当該計画提案を踏まえて市町村地域防災計画に地区防災計画を定める必要があるかどうかを判断し、その必要があると認めるときは、市町村地域防災計画に地区防災計画を定めなければならない。
4 市町村防災会議は、前項の規定により同項の判断をした結果、計画提案を踏まえて市町村地域防災計画に地区防災計画を定める必要がないと決定したときは、遅滞なく、その旨及びその理由を、当該計画提案をした地区居住者等に通知しなければならない。
5 市町村地域防災計画に地区防災計画が定められた場合においては、当該地区防災計画に係る地区居住者等は、当該地区防災計画に従い、防災活動を実施するように努めなければならない。
主な内容
[編集]地区防災計画制度は、東日本大震災の教訓を踏まえて作られたコミュニティの防災計画に関する制度。コミュニティの住民や地元企業が主体となって、自ら防災活動を行うための共助による防災計画の制度であり、その特徴としては、以下の3点があげられている。
①コミュニティ主体のボトムアップ型の計画
②地区の特性に応じた計画
③継続的に地域防災力を向上させる計画
構成
[編集]ガイドライン
[編集]地区防災計画制度の施行に先立って、2014年3月に内閣府から「地区防災計画ガイドライン」が地区居住者等向けに出された。全国の地区防災計画づくりは、この「地区防災計画ガイドライン」に従って進められている。同年6月には、「地区防災計画制度入門: 内閣府「地区防災計画ガイドライン」の解説とQ&A」(NTT出版)が出され、解説書として広く読まれている。
「地区防災計画制度入門: 内閣府「地区防災計画ガイドライン」の解説とQ&A」(NTT出版・2014年)
地方公務員向けに書かれた内閣府「地区防災計画の素案作成支援ガイド」(2020年)は、現場の防災担当職員にとっては大変有用なガイドである。
各種事例
[編集]2018年の西日本豪雨等の大災害において、地区防災計画によって住民の命が守られた事例がいくつも報告されるようになっており、防災関係者にとって、その重要性が広く認識されるようなっている。
報告書
[編集]内閣府が、2014年度~2016年度に全国44地区で実施した地区防災計画モデル事業の報告書である内閣府「地区防災計画モデル事業報告書」(2016年)は、各モデル地区の取組のポイントを整理し、事例集として整理されている。
学術研究
[編集]一方、地区防災計画制度に関する社会実装的な学術研究は、「地区防災計画学」という学問分野へと発展した。
2014年6月には、「地区防災計画ガイドライン」の執筆に携わった産学官民の関係者が協力して、地区防災計画制度の普及啓発・調査研究等のために「地区防災計画学会」(会長 室﨑益輝 神戸大学名誉教授)を創設した。地区防災計画学会は、内閣府、総務省、消防庁、国土交通省、地方公共団体等の防災担当官や東京大学、京都大学をはじめとする全国の大学教員等の研究者によって設立された学術研究団体である。
地区防災計画学会では、2020年度からアカデミックな地区防災計画モデル事業も実施している。
最新動向は、地区防災計画学会の大学教員等の有志によるnote「地区防災計画チャンネル」に詳しい。
関連書籍
[編集]地区防災計画学のテキスト「地区防災計画学の基礎と実践」(弘文堂)が2022年3月に発刊。東京大学や京都大学の教授等が執筆。関係大学の講義のテキストとして利用されている。
地区防災計画学会が、2014年9月から発行している「地区防災計画学会誌」は、8年間で24号(2022年3月時点)が発刊されている。これまでに数百本の査読論文、寄稿、予稿等が掲載されており、その内容は、学術的・社会実装的である。
関連項目
[編集]- Category:日本の防災に関する人物
- 地区防災計画学会
- 災害対策基本法
- 地域防災計画
- 防災基本計画
- 防災業務計画
- 国土強靱化基本計画
- 強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法
- 自主防災組織 - 計画提案の主体
- 避難所 - 自主防災組織が開設や運営に協力
- 個別避難計画 - 避難行動要支援者の支援のため地区防災計画との連携が必要な計画