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土壌シードバンク

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

土壌シードバンク(どじょうシードバンク、英:Soil seed bank)は、土壌中に含まれる種子(埋土種子)の集団のことである。埋土種子集団(まいどしゅししゅうだん)といわれることもある。通常、発芽能を持った種子の集団を指す。

概要

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多くの植物は種子をつくり、その種子は通常、発芽に適した環境条件が整うまで、土壌中に存在する。その間土壌中には未発芽の種子が多く含まれることとなるので、土壌シードバンクは一種の地下個体群ということもできる[1]

土壌シードバンクに含まれる種子には2種類あり、環境条件が整うとすぐに発芽できる非休眠種子[2]と、休眠を解除されない限り発芽できない休眠種子がある[1]。特に後者は長期間土壌中にあることも多く、長いものでは100年以上土壌中で生きている場合もある。たとえば大賀ハスの種子は、2000年以上前の土壌中から発見されたものだが、正常に発芽、開花した。

環境保護と土壌シードバンク

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ある土地から植物種や集団が絶滅(あるいは減少)してしまった場合でも、土壌中には土壌シードバンクとして個体群が生存している可能性がある[3][4]。その土壌シードバンクを利用して[5][6][7][8]、個体群を復活させる試みも行われている。たとえば霞ヶ浦で行われているアサザプロジェクトでは[9][10]、湖沼の底土を撒きだしてアサザなどの土壌シードバンクを表出させ、個体群の回復を試みている。あるいは在来種を復活させて外来種をコントロールする可能性の探求に着目する研究もある[11][12][13][14][15]

農林水産省ジーンバンク事業

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農林水産省は1985年、農林水産業に関わる生物の遺伝資源[注 1]を保存し一元管理するため、農林水産省ジーンバンク事業 (英名: MAFF Genebank System) を開始する[16]。2001年以降は独立行政法人「農業生物資源研究所」(茨城県つくば市)に事業を委託し[17]品種改良に活かす農林水産に用いる生物の研究と並行して、絶滅に瀕する稀少種の保全 (種子と栄養体の収集・再養殖をふくむ) を進めてきた。さらに遺伝資源の利活用に欠かせない研究要素も事業化される[16]

脚注

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注釈

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  1. ^ 生物種の遺伝資源を組織的に管理するには、その分類と同定、機能や特性の解析と利用の適性を見極めることで基盤を築くことができる。

出典

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  1. ^ a b 鷲谷いづみ (1998)「休眠・発芽特性と土壌シードバンク調査・実験法(連載第6回)」『保全生態学研究』第3巻、79-84頁。
  2. ^ 高橋文ほか 2008, pp. 1–5.
  3. ^ 今橋美千代ほか 1997, pp. 131–147.
  4. ^ 鷲谷いづみ 1996, pp. 89–98.
  5. ^ 西廣淳ほか 2000, pp. 34–39.
  6. ^ 細木大輔ほか 2004, pp. 412–422.
  7. ^ 伊藤浩二ほか 2003, pp. 591–594.
  8. ^ 細木大輔 2005, pp. 509–513.
  9. ^ 西廣淳ほか 2001, pp. 39–48.
  10. ^ 上杉龍士ほか 2009, pp. 13–24.
  11. ^ 宮脇成生ほか 1996, pp. 25–47.
  12. ^ 鷲谷いづみ「外来植物の管理 (<特集>国外外来種の管理法)」『保全生態学研究』第5巻第2号、一般社団法人 日本生態学会、2001年、181-185頁、doi:10.18960/hozen.5.2_181 
  13. ^ 村中孝司、鷲谷 いづみ「侵略的外来牧草シナダレスズメガヤ分布拡大の予測と実際」『保全生態学研究』第8巻第1号、一般社団法人 日本生態学会、2003年、51-62頁、doi:10.18960/hozen.8.1_51 
  14. ^ 宮脇成生、鷲谷いづみ「生物多様性保全のための河川における侵略的外来植物の管理」『応用生態工学 = Ecology and civil engineering』第6巻第2号、応用生態工学会、2004年3月30日、195-209頁、doi:10.3825/ece.6.195ISSN 1344-3755 
  15. ^ 江口佳澄、佐々木晶子、中坪孝之「河川氾濫原における外来草本アレチハナガサの繁殖とその生態学的影響」『保全生態学研究』第10巻第2号、一般社団法人 日本生態学会、2005年、119-128頁、doi:10.18960/hozen.10.2_119ISSN 1342-4327 
  16. ^ a b 農林水産省ジーンバンク事業”. 農業技術辞典 NAROPEDIA. 農文協. 2019年11月20日閲覧。
  17. ^ 河瀨眞琴 2014, pp. 10–14.

参考文献

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発行年順

  • 鷲谷いづみ「休眠・発芽特性と土壌シードバンク調査・実験法 (連載第1回) (保全「発芽生態学」マニュアル)」『保全生態学研究』第1巻第1号、一般社団法人 日本生態学会、1996年、89-98頁。 
  • 宮脇成生、鷲谷いづみ「土壌シードバンクを考慮した個体群動態モデルと侵入植物オオブタクサの駆除効果の予測」『保全生態学研究』第1巻第1号、一般社団法人 日本生態学会、1996年、25-47頁。 
  • 今橋美千代、鷲谷 いづみ「土壌シードバンクを用いた河畔冠水草原復元の可能性の検討」『保全生態学研究』第1巻第2号、一般社団法人 日本生態学会、1997年、131-147頁。 
  • 西廣淳、藤原宣夫「湖沼沿岸の植生帯の衰退と土壌シードバンクによる再生の可能性--霞ヶ浦を例に (河川生態特集)」『土木技術資料』第42巻第12号、土木研究センター、2000年12月、34-39頁。 
  • 西廣淳、川口浩範、飯島博、藤原宣夫、鷲谷いづみ「霞ケ浦におけるアサザ個体群の衰退と種子による繁殖の現状」『応用生態工学 = Ecology and civil engineering』第4巻第1号、応用生態工学会、2001年7月17日、39-48頁。 
  • 伊藤 浩二、加藤 和弘、高橋 俊守、石坂 健彦、藤原 宣夫「河川氾濫原における土壌シードバンクの分布特性と水流の影響」『ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌』第66巻第5号、社団法人日本造園学会、2003年3月31日、591-594頁。 
  • 細木大輔、米村惣太郎、亀山章「関東の森林の土壌シードバンクにおける緑化材料としての利用可能性とその測定方法」『日本緑化工学会誌 = the Japanese Society of Revegetation Technology』第29巻第3号、日本緑化工学会、2004年、412-422頁、ISSN 0916-7439 
  • 細木大輔「緑化材料としての森林表土中の土壌シードバンク」『日本緑化工学会誌 = / the Japanese Society of Revegetation Technology』』第30巻第3号、日本緑化工学会、2005年2月28日、509-513頁。 
  • 高橋文、小山浩正、高橋 教夫「赤川流域におけるニセアカシア (Robinia pseudoacacia L.) の分布拡大と埋土種子の役割」『日本森林学会誌 = Journal of the Japanese Forest Society』第90巻第1号、一般社団法人日本森林学会、2008年2月1日、1-5頁。 
  • 上杉龍士、西廣淳、鷲谷 いづみ「日本における絶滅危惧水生植物アサザの個体群の現状と遺伝的多様性」『保全生態学研究』第14巻第1号、一般社団法人 日本生態学会、2009年、13-24頁。 
  • 河瀨 眞琴 ((独)農業生物資源研究所 農業生物資源ジーンバンク事業 遺伝資源センター長)「特集・農林水産省傘下の機関における取組 農業生物資源ジーンバンク事業」『特産種苗』第14号、(財)日本特産農作物種苗協会、10-14頁、2019年11月20日閲覧 

関連文献

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発行年順

  • 鷲谷いづみ『土壌シードバンク : その動態と固体群/植生維持における役割』出版者不明、1999年3月。科学研究費補助金(基盤研究(B)(2))研究成果報告書 ; 1996-1998年 (平成8-10年) 、研究課題番号: 08454249。NCID BA41617253
  • 藤巻宏 (編)『地域生物資源活用大事典』、農山漁村文化協会、1998年。ISBN 9784540970993
  • 鷲谷いづみ『タネはどこからきたか?』埴沙萠 (写真)、東京 : 山と溪谷社〈Nature discovery books〉、2002年。ISBN 4635063372。(Where did the seeds come from?)
  • 鷲谷いづみ、草刈秀紀 (編)『自然再生事業 : 生物多様性の回復をめざして』、東京 : 築地書館、2003年。ISBN 4806712612NCID BA61389796[1]
  • 鷲谷いづみ『絵でわかる生態系のしくみ』後藤章 (絵)、講談社サイエンティフィク (編集)、東京 : 講談社〈絵でわかるシリーズ〉、2008年。ISBN 9784061547582。(An illustrated guide to ecosystem)。
  • 鷲谷いづみ ほか (編)『保全生態学の技法 : 調査・研究・実践マニュアル』、東京 : 東京大学出版会、2010年、ISBN 9784130622196。(Methods in conservation ecology)。
  • 占部城太郎 (編)『湖沼近過去調査法 : より良い湖沼環境と保全目標設定のために』、東京 : 共立出版、2014年、ISBN 9784320057357。(Manual of paleolimnological analyses for reconstructing recent changes in lake ecosystems)。

関連項目

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  1. ^ 『自然再生事業 : 生物多様性の回復をめざして』執筆者:宇根豐 ; 日鷹一雅 ; 渡辺敦子 ; 飯島博 ; 西廣淳 ; 荒木佐智子 ; 安島美穂 ; 後藤章 ; 波田善夫 ; 羽山伸一 ; 辻淳夫 ; 亀澤玲。